JP5605310B2 - 鋼材および衝撃吸収部材 - Google Patents
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Description
このような高強度鋼材として、静動差(静的強度と動的強度との差)が高い低合金TRIP鋼や、マルテンサイトを主体とする第2相を有する複相組織鋼といった高強度複相組織鋼材が知られている。
また、マルテンサイトを主体とする第2相を有する複相組織鋼板に関しては、下記のような発明が開示されている。
特許文献4には、平均粒径が3.5μm以下のフェライト相を75%以上含有し、残部が焼き戻しマルテンサイトからなる衝撃吸収特性に優れる冷延鋼板が開示されている。
Fave∝(σY・t2)/4
σY:有効流動応力
t:板厚
として与えられることが開示されているように、衝撃吸収エネルギーは鋼材の板厚に大きく依存する。したがって、単に鋼材を高強度化することだけでは、衝撃吸収部材について薄肉化と高衝撃吸収性能とを両立させることには限界がある。
(C)衝撃荷重負荷時における割れの抑制に関するロバスト性を向上させるには、局部延性を向上させることが有効である。
(E)降伏強度と低ひずみ域における加工硬化係数と向上させるには、鋼材の鋼組織を、ベイナイトを主相とし、ベイナイトより硬質であるマルテンサイトを第2相に含有する複相組織することが必要である。
(I)主相であるベイナイトと第2相に含有されるマルテンサイトとの硬度比が過大であると、塑性変形によって可動転位が発生しやすくなるため降伏強度が低下する。したがって、主相であるベイナイトとマルテンサイトとの硬度比の上限を限定する必要がある。
1.2≦HM0/HB0≦1.6 ・・・・・(1)
0.90≦{(HM10/HM0)/(HB10/HB0)}≦1.3・・・・・(2)
ここで、式中の記号は以下の値を表す。
HM0:前記マルテンサイトの初期平均ナノ硬さ
HB0:前記ベイナイトの初期平均ナノ硬さ
HM10:10%引張変形後の前記マルテンサイトの平均ナノ硬さ
HB10:10%引張変形後の前記ベイナイトの平均ナノ硬さ
1.鋼組織
(1)複相組織
本発明に係る鋼材の鋼組織は、高い降伏強度と低ひずみ域の加工硬化係数とを得て有効流動応力を高めるために、ベイナイトを主相とし、マルテンサイトを第2相に含有する複相組織とする。
ベイナイトを主相とする複相組織鋼材において、ベイナイト面積率とベイナイトの平均ラス間隔とは、降伏強度と局部延性とに影響を及ぼす。すなわち、ベイナイトの面積率を高めてベイナイトのラスを微細化することにより降伏強度が向上し、穴拡げ性や曲げ性に代表される局部延性が向上する。平均間隔1μm以下のラス組織から構成されるベイナイトの面積率が70%未満では、降伏強度および局部延性の不足により良好な衝撃吸収能を有する衝撃吸収部材を得ることが困難となる。したがって、平均間隔1μm以下のラス組織から構成されるベイナイトの面積率を70%未満以上とする。なお、ベイナイトのラス間隔はより微細であることが好ましいので平均ラス間隔の下限は特に規定する必要はないが、C含有量が0.18%以下である化学組成ではラスの微細化には限界があり、通常0.2μm以上となる。
ベイナイトを主相とする複相組織鋼材において、マルテンサイトは、降伏強度と低ひずみ域における加工硬化率とを向上させ、5%流動応力を高める作用を有する。また、一様伸びを高める作用をも有する。マルテンサイト面積率が5%未満では、5%流動応力や一様伸びの不足により良好な衝撃吸収能を有する衝撃吸収部材を得ることが困難となる。したがって、マルテンサイト面積率は5%以上とする。一方、マルテンサイト面積率が30%超では局部延性が低下し、不安定座屈による割れが発生しやすくなる。したがって、マルテンサイトの面積率は30%以下とする。
主相であるベイナイトの初期平均ナノ硬さ(HB0)と第2相に含有されるマルテンサイトの初期平均ナノ硬さ(HM0)との硬度比(HM0/HB0)が1.2未満では、マルテンサイトを含有させることによって低ひずみ域における加工硬化係数の向上と一様伸びの向上とを図ることが困難となり、割れが発生しやすくなる。したがって、上記硬度比(HM0/HB0)は1.2以上とする。
ベイナイトを主相とする複相組織鋼材において、塑性変形によりベイナイトにのみひずみが集中して加工硬化すると、ベイナイト中のせん断帯や粒界に沿って割れが発生し易くなって局部延性が低下する。一方、塑性変形により第2相が過度に硬化しても、主相と第2相との硬度差が大きくなるために両者の界面から割れが発生し易くなって局部延性が低下する。したがって、ベイナイトを主相とする複相組織鋼材において高い局部延性を得るには、主相であるベイナイトと第2相との間でひずみを適度に分配させる必要がある。すなわち、塑性変形の際に主相であるベイナイトと第2相とを同程度に加工硬化させることが必要である。このための指標としては、10%引張変形後の加工硬化率の比率を用いることが好適であり、ベイナイトを主相とし第2相にマルテンサイトを含有する複相組織鋼材においては、10%引張変形後のベイナイトの加工硬化率と最も硬質な相であるマルテンサイトの10%引張変形後の加工硬化率との比について上限および下限を限定する必要がある。
(1)C:0.05%以上0.18%以下
Cは、主相であるベイナイトおよび第2相に含有されるマルテンサイトの生成を促進する作用を有する。また、マルテンサイトの強度を高めることにより引張強度を向上させる作用を有する。また、固溶強化により鋼を強化し、降伏強度および引張強度を向上させる作用を有する。しかしながら、C含有量が0.05%未満では、上記作用による効果を得ることが困難な場合がある。したがって、C含有量は0.05%以上とする。一方、C含有量が0.18%を超えると、マルテンサイトやオーステナイトが過剰に生成して、局部延性の著しい低下を招く場合がある。したがって、C含有量は0.18%以下とする。
Mnは、主相であるベイナイトおよび第2相に含有されるマルテンサイトの生成を促進する作用を有する。また、固溶強化により鋼を強化し、降伏強度および引張強度を向上させる作用を有する。また、固溶強化によりベイナイトの強度を高めるので、高歪負荷条件下におけるベイナイトの硬度を高めることにより局部延性を向上させる作用を有する。Mn含有量が1%未満では、上記作用による効果を得ることが困難な場合がある。したがって、Mn含有量は1%以上とする。好ましくは1.5%以上である。一方、Mn含有量が3%超では、マルテンサイトが過剰に生成して、局部延性の著しい低下を招く場合がある。したがって、Mn含有量は3%以下とする。好ましくは2.5%以下である。
SiおよびAlは、ベイナイト中の炭化物の生成を抑制することにより均一延性や局部延性を向上させる作用を有する。また、固溶強化により鋼を強化し、降伏強度および引張強度を向上させる作用を有する。また、固溶強化によりベイナイトの強度を高めるので、高歪負荷条件下におけるベイナイトの硬度を高めることにより局部延性を向上させる作用を有する。SiおよびAlの合計含有量(本明細書では「(Si+Al)量」ともいう。)が0.5%未満では上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、(Si+Al)量は0.5%以上とする。一方、(Si+Al)量を2.5%以上としても、上記作用による効果は飽和してしまいコスト的に不利となる。したがって、(Si+Al)量は2.5%未満とする。
Nは、固溶強化により鋼を強化し、降伏強度および引張強度を向上させる作用を有する。また、固溶強化によりベイナイトの強度を高めるので、高歪負荷条件下におけるベイナイトの硬度を高めることにより局部延性を向上させる作用を有する。また、TiやNbを含有させる場合には、鋼中に窒化物を形成してオーステナイトの粒成長を抑制し、ベイナイトのパケットを微細化することにより、降伏強度および引張強度を向上させる作用を有する。Nの含有量が0.001%未満では、上記作用による効果を得ることが困難となる。したがって、N含有量は0.001%以上とする。一方、N含有量が0.015%超では、鋼中に粗大な窒化物を形成して、均一延性および局部延性の著しい低下を招く場合がある。したがって、N含有量は0.015%以下とする。
CrおよびMoは、焼き入れ性を高め、ベイナイトの生成を促進する作用を有する。また、マルテンサイトに代表される硬質第2相の生成を促進する作用を有する。さらにまた、固溶強化により鋼を強化し、降伏強度および引張強度を向上させる作用を有する。したがって、CrおよびMoからなる群から選択される1種または2種を含有させてもよい。
Ti、NbおよびVは、鋼中に炭窒化物を形成するなどしてオーステナイトの粒成長を抑制し、割れ感受性を低下させる作用がある。また、ベイナイト中に析出して析出強化の作用により降伏強度を向上させる作用を有する。したがって、Ti、NbおよびVの1種または2種以上を含有させてもよい。しかしながら、Ti含有量が0.05%を超えたり、Nb含有量が0.05%を超えたり、V含有量が0.2%を超えたりすると局部延性の低下が著しくなる場合がある。また、Tiについては、鋼中に形成する窒化物が粗大となってしまい、均一延性および局部延性の著しい低下を招く場合がある。したがって、TiおよびNbの含有量はそれぞれ0.05%以下、Vの含有量は0.2%以下とする。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、Ti、NbおよびVのいずれかの含有量を0.002%以上とすることが好ましい。
Bは、焼入性を向上させ、ベイナイト組織の生成を促進する作用を有する。したがって、Bを含有させてもよい。しかしながら、B含有量が0.002%を超えると、マルテンサイトの硬さが過度に上昇し、局部延性に悪影響を及ぼす場合がある。したがって、B含有量は0.002%以下とする。なお、上記作用による効果をより確実に得るにはBの含有量を0.001%以上とすることが好ましい。
上述した鋼材は、軸圧壊して蛇腹状に塑性変形することにより衝撃エネルギーを吸収する衝撃吸収部を有する衝撃吸収部材における該衝撃吸収部に適用することが好ましい。
また、上記衝撃吸収部の形状としては、閉断面の筒状体が好適であり、例えば図2に示すような四角形の閉断面を有する筒状体や、図3に示すような八角形の閉断面を有する筒状体を例示することができる。
4.めっき層
上述した鋼板の表面には、耐食性の向上等を目的としてめっき層を設けて表面処理鋼板としてもよい。めっき層は電気めっき層であってもよく溶融めっき層であってもよい。
5.製造方法
上述した鋼材は、以下の製造方法により製造することが好ましい。
上記化学組成を有するスラブに、800℃以上950℃以下の温度域における総圧下率を50%以上とする熱間圧延を施し、熱間圧延完了後0.4秒間以内に冷却を開始して600℃/秒以上の平均冷却速度で400℃以上500℃以下の温度域まで冷却し、20℃/秒以上100℃/秒未満の平均冷却速度で350℃以下の温度域まで冷却して巻取ることが好ましい。
上記の熱延鋼板に冷間圧延および連続焼鈍を施して冷延鋼板とする場合には、冷間圧延における圧下率を40%以上90%以下とし、750℃以上900℃以下の温度域に10秒間以上150秒間以下保持し、次いで、8℃/秒以上の平均冷却速度で500℃以下の温度域まで冷却する連続焼鈍を施すことが好ましい。15℃/秒以上の平均冷却速度で450℃以下の温度域まで冷却する連続焼鈍を施すことがさらに好ましい。
JIS5号引張試験片を採取して引張試験を行うことにより、降伏強度(YS:0.2%耐力)、引張強度(TS)、一様伸び(u−El)を求めた。
また、安定座屈率は、軸圧潰試験により割れが生じなかった試験体の割合であり、全試験体数に対する割れが発生しなかった試験体数の割合である。
本発明に係る鋼材は、断面形状因子Wp/t=20における軸圧潰による平均荷重が0.34kN/mm2以上と高い。さらに、断面形状因子Wp/t=20における安定座屈率が80%以上、断面形状因子Wp/t=16における安定座屈率が30%以上である。さらには、軸圧潰だけではなく、曲げ圧潰時にも良好な衝撃吸収性能を発揮することからロバスト性に優れているといえる。
2 フロントクラッシュボックス
3 リアクラッシュボックス
4 フロントサイドメンバー(フロントフレーム)
5 リアサイドメンバー(リアフレーム)
6 フロントアッパーレール
7 サイドシル(ロッカー)
8 クロスメンバー
9、10 衝撃吸収部
11 バンパーリインフォースメント
12 センターピラー(Bポスト)
Claims (6)
- 質量%で、C:0.05%以上0.18%以下、Mn:1%以上3%以下、Si+Al:0.5%以上2.5%未満およびN:0.001%以上0.015%以下を含有し、残部Feおよび不純物からなる化学組成を有し、平均間隔1μm以下のラス組織から構成されるベイナイトの面積率が70%以上、マルテンサイトの面積率が5%以上30%以下であるともに、下記式(1)および(2)を満足する鋼組織を有することを特徴とする鋼材。
1.2≦HM0/HB0≦1.6 ・・・・・(1)
0.90≦{(HM10/HM0)/(HB10/HB0)}≦1.3・・・・・(2)
ここで、式中の記号は以下の値を表す。
HM0:前記マルテンサイトの初期平均ナノ硬さ
HB0:前記ベイナイトの初期平均ナノ硬さ
HM10:10%引張変形後の前記マルテンサイトの平均ナノ硬さ
HB10:10%引張変形後の前記ベイナイトの平均ナノ硬さ - 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Cr:0.5%以下およびMo:0.2%以下からなる群から選択される1種または2種を含有することを特徴とする請求項1に記載の鋼材。
- 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Ti:0.05%以下、Nb:0.05%以下およびV:0.2%以下からなる群から選択される1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の鋼材。
- 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、B:0.002%以下を含有することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載の鋼材。
- 軸圧壊して蛇腹状に塑性変形することにより衝撃エネルギーを吸収する衝撃吸収部を有する衝撃吸収部材であって、前記衝撃吸収部が請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載された鋼材からなることを特徴とする衝撃吸収部材。
- 曲げ圧壊して塑性変形することにより衝撃エネルギーを吸収する衝撃吸収部を有する衝撃吸収部材であって、前記衝撃吸収部が請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載された鋼材からなることを特徴とする衝撃吸収部材。
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