JP2012007649A - 衝撃吸収部材 - Google Patents

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Masahira Tasaka
誠均 田坂
Yoshiori Kono
佳織 河野
Yoshiaki Nakazawa
嘉明 中澤
Masayuki Wakita
昌幸 脇田
Toshiro Tomita
俊郎 富田
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Abstract

【課題】多角形の横断面の頂点(稜線部)での割れを生じることなく軸方向へ蛇腹状に塑性変形して衝撃エネルギーを効果的に吸収することができる自動車用の衝撃吸収部材を提供する。
【解決手段】辺3a〜3hと頂点R部4a〜4hとを有する多角形の横断面を有する中空角筒体からなる本体2を備え、本体2が軸方向へ負荷される衝撃荷重によって軸圧壊して蛇腹状に塑性変形することによって衝撃エネルギーを吸収する衝撃吸収部材1である。鋼板5の引張強度は780MPa以上であること、および、辺3a〜3hの長さの平均値Wp(mm)と、鋼板5の板厚t(mm)とが、10<Wp/t<40の関係にある
【選択図】図1

Description

本発明は、衝撃吸収部材に関し、例えば780MPa級以上の超高強度鋼板を素材として用いても、多角形の横断面の頂点(稜線部)での割れを生じることなく軸方向へ蛇腹状に塑性変形して衝撃エネルギーを効果的に吸収することができる自動車用の衝撃吸収部材に関する。
自動車や各種産業機器には、外部から入力される衝撃エネルギーを効果的に吸収するための衝撃吸収部材が用いられる。例えば自動車に用いられる衝撃吸収部材としては、モノコックボディの必要な各部を補強するサイドメンバー、クロスメンバー、サイドシル等や、バンパーリインフォースを支持しながらボディシェルに脱着自在に装着され、バンパーリインフォースから負荷される衝撃荷重によって軸圧壊し、最終的に蛇腹状に塑性変形するクラッシュボックス等が知られている。
自動車用のこれら衝撃吸収部材は、閉じた断面を有する筒状の本体を有しており、本体の軸方向へ向けて負荷される衝撃荷重によって軸圧壊することによって、衝撃エネルギーを吸収する。例えば、サイドメンバーは、800〜1500mm程度の全長を有し、衝撃荷重の入力端側から軸方向へ100〜300mm程度の領域おいて蛇腹状に塑性変形することが求められる。また、クラッシュボックスは、軸方向の全領域において、蛇腹状に塑性変形することが求められる。
衝突時の衝撃吸収部材の各部位は、数10(s−1)以上の高いひずみ速度で変形を受けるため、上述した各種の自動車用の衝撃吸収部材の素材である鋼板として、動的強度特性に優れた440MPa級、高くても590MPa級の高強度鋼板が用いられている。
このような高強度鋼板として、静動差(静的強度と動的強度との差)が高い低合金TRIP鋼や、マルテンサイトを主体とする第2相を有する複相組織鋼といった高強度複相組織鋼板が知られている。
低合金TRIP鋼に関しては、例えば、特許文献1に、動的変形特性に優れた自動車衝突エネルギー吸収用加工誘起変態型高強度鋼板(TRIP鋼板)が開示されている。
また、マルテンサイトを主体とする第2相を有する複相組織鋼板に関しては、下記のような発明が開示されている。
特許文献2には、微細なフェライト粒からなり、結晶粒径が1.2μm以下のナノ結晶粒の平均粒径dsと、結晶粒径が1.2μmを超えるミクロ結晶粒の平均結晶粒径dLとがdL/ds≧3の関係を満足する、強度と延性バランスとが優れ、かつ、静動差が170MPa以上である高強度鋼板が開示されている。
特許文献3には、平均粒径が3μm以下のマルテンサイトと平均粒径が5μm以下のマルテンサイトの2相組織からなり、静動比が高い鋼板が開示されている。
特許文献4には、平均粒径が3.5μm以下のフェライト相を75%以上含有し、残部が焼き戻しマルテンサイトからなる衝撃吸収特性に優れる冷延鋼板が開示されている。
特許文献5には、予歪を加えてフェライトとマルテンサイトから構成される2相組織とし、5×10〜5×10/sの歪速度における静動差が60MPa以上を満足する冷延鋼板が開示されている。
さらに、特許文献6には、85%以上のベイナイトとマルテンサイトなどの硬質相のみからなる耐衝撃特性に優れた高強度熱延鋼板が開示されている。
近年、地球環境保護の観点から、自動車からのCO排出量の低減の一環として、自動車車体の軽量化が求められており、自動車用鋼材の高強度化が指向されている。これは、鋼板の強度を向上させることにより、自動車用部材の薄肉化が可能となるためである。一方、自動車の衝突安全性向上に対する社会的要求もいっそう高くなっており、単に鋼板の高強度化のみだけでなく、走行中に衝突した場合の耐衝撃性に優れた鋼板の開発も望まれている。このため、上述した各種の自動車用の衝撃吸収部材の素材である鋼板に対しても、これまでの440MPa級、高くても590MPa級の高強度鋼板ではなく、780MPa以上、望ましくは980MPa以上の超高強度鋼板を用いることが要請される。
しかし、多角形の横断面を有する筒体を本体として備える衝撃吸収部材の素材である鋼板に780MPa以上の超高強度鋼板を用いようとすると、サイドメンバーやクラッシュボックスが衝撃荷重によって軸圧壊に蛇腹状に塑性変形する際に、厳しい変形を受ける蛇腹状の塑性変形部(特に、稜線上の山部分および谷部分)に割れが塑性変形の早期の時点で発生し、衝撃エネルギーの吸収量が大幅に低下する。このため、これまで、当業者には、各種の自動車用の衝撃吸収部材の素材として780MPa以上の鋼板を用いることはできないという技術常識があった。
一方、「塑性と加工」第46巻 第534号 641〜645頁に、衝撃吸収エネルギーを決定づける平均荷重FaveがFave∝(σY・t)/4(ただし、σY:有効流動応力、t:板厚)として与えられることが開示されているように、衝撃吸収エネルギーは鋼材の板厚にも大きく依存する。したがって、自動車用の衝撃吸収部材の素材である鋼板を高強度化することだけでは、衝撃吸収部材の薄肉化および高衝撃吸収性能を両立することには限界がある。
ところで、例えば、特許文献7〜9にも開示されるように、衝撃吸収部材の衝撃吸収エネルギーはその形状にも大きく依存する。すなわち、塑性変形仕事量を増大させるように衝撃吸収部材の形状を最適化することによって、単に素材である鋼板を高強度化することだけでは達成し得ないレベルまで、衝撃吸収部材の衝撃吸収エネルギーを飛躍的に高めることができる可能性がある。
しかしながら、塑性変形仕事量を増大させるように衝撃吸収部材の形状を最適化したとしても、鋼板がその塑性変形仕事量に耐え得る変形能を有していなければ、想定していた塑性変形が完了する前に、衝撃吸収部材に早期に割れが生じてしまい、結果的に塑性変形仕事量を増大させることができず、衝撃吸収エネルギーを飛躍的に高めることができない。また、割れが早期に衝撃吸収部材に生じると、この衝撃吸収部材に隣接して配置された他の部材を損傷する等の予期せぬ事態を招きかねない。
従来は、衝撃吸収部材の衝撃吸収エネルギーが鋼板の動的強度に依存するとの技術思想に基づいて、鋼板の動的強度を高めることが指向されてきたが、鋼板の動的強度を単に高めることを指向するのでは顕著な変形能の低下を招く場合がある。このため、塑性変形仕事量を増大させるように衝撃吸収部材の形状を最適化したとしても、衝撃吸収部材の衝撃吸収エネルギーを飛躍的に高めることができるとは限らなかった。
また、そもそも上記技術思想に基づいて製造された鋼板の使用を前提として衝撃吸収部材の形状が検討されてきたため、衝撃吸収部材の形状の最適化は、当初から既存の鋼板の変形能を前提として検討されており、塑性変形仕事量を増大させるように、鋼板の変形能を高め、かつ衝撃吸収部材の形状を最適化するという検討自体が、これまで十分になされていなかった。
特開平11−80879号公報 特開2006−161077号公報 特開2004−84074号公報 特開2004−277858号公報 特開2000−17385号公報 特開平11−269606号公報 国際公開第2005/010396号パンフレット 国際公開第2005/010397号パンフレット 国際公開第2005/010398号パンフレット
本発明の目的は、780MPa以上の超高強度鋼板を素材として用いても、多角形の横断面の頂点(稜線部)での割れを生じることなく軸方向へ蛇腹状に塑性変形して衝撃エネルギーを効果的に吸収することができる、例えば自動車用の衝撃吸収部材を提供することである。
上述したように、衝撃吸収部材の衝撃吸収エネルギーを高めるには、衝撃吸収部材の形状を最適化するとともに、最適化された形状を有する衝撃吸収部材の塑性変形仕事量を増大させるように、衝撃吸収部材の素材である鋼板の特性(強度、均一伸び、局部伸び、割れ感受性)を最適化することが、有効である。このような前提に基づいて、鋭意検討を重ねた結果、以下に列記する知見を得て、本発明を完成した。
(A)引張強度が780MPa以上である鋼板により構成される本体を備える衝撃吸収部材の衝撃吸収エネルギーを高めることを可能にするために、衝撃吸収部材の形状について、衝撃エネルギー吸収部材の衝撃エネルギー吸収性能を、衝突速度が5〜100km/h(1.4〜27.8m/s)の速度域で高めるための方法について種々検討を重ね、以下の知見を得た。
すなわち、辺とこの辺に続く頂点R部とを有する多角形断面を有する中空の角筒体であって、かつ引張強度が780MPa以上である鋼板により構成される本体を有する衝撃吸収部材では、複数の辺の長さの平均値Wp(mm)と、鋼板の板厚t(mm)とが特定の関係を満足することによって、圧壊時の平均座屈荷重Faveと初期座屈荷重FとがFave/F>0.13が得られ、これにより、780MPa以上の超高強度を有する鋼板を素材として用いても、割れを生じることなく蛇腹状に塑性変形して衝撃エネルギーを効果的に吸収することができる自動車用の衝撃吸収部材を提供できる。
一方、鋼板に関しては、塑性変形仕事量を増大させることができる、衝撃吸収部材の形状の最適化を可能にするように、衝撃荷重負荷時における割れの発生を抑制しつつ、塑性変形仕事量を増大させるように有効流動応力を高めることが重要である。
(B)鋼板の有効流動応力を高めるには、降伏強度と加工硬化係数とを向上させることが有効である。
(C)衝撃荷重負荷時における割れの発生を抑制するには、均一延性(加工硬化係数)と局部延性とを向上させることが有効である。
(D)高い降伏強度と高い加工硬化係数(均一延性)とを得るには、鋼板の鋼組織を、フェライトと、フェライトより硬質である第2相とからなる複相組織とすることが必要である。すなわち、ベイナイト、マルテンサイトおよびオーステナイトからなる群から選択された1種または2種以上を第2相として含有することが必要である。
(E)複相組織を有する鋼板(以下、「複相組織鋼板」ともいう。)の降伏強度は、フェライト面積率とフェライト平均粒径とに依存する。したがって、複相組織鋼板において高い降伏強度を得るには、フェライト面積率の上限、およびフェライト平均粒径の上限を限定することが必要である。
(F)しかしながら、フェライト平均粒径の過度の抑制は均一延性(加工硬化係数)の低下を招く。したがって、複相組織鋼板において高い均一延性(加工硬化係数)を得るには、フェライト平均粒径の下限を限定することが必要である。
(G)フェライトは、複相組織鋼板において局部延性を向上させる作用を有する。したがって、複相組織鋼板において高い局部延性を得るには、フェライト面積率の下限を限定することが必要である。
(H)複相組織鋼板において、第2相の平均最近接粒子間間隔が狭すぎると均一延性(加工硬化係数)の低下を招き、広過ぎると局部延性の低下を招く。したがって、複相組織鋼板において高い均一延性(加工硬化係数)と局部延性とを得るには、第2相の平均最近接粒子間間隔の上限および下限を限定することが必要である。
(I)複相組織鋼板において、座屈部のように局部的に歪が集中した領域でフェライトと第2相との硬度差が著しくなると、両者の界面で剥離が生じてしまい、局部延性が低下する。したがって、複相組織鋼板において高い局部延性を得るには、高歪負荷条件下におけるフェライトと第2相との硬度差を所定の範囲内とするように、高歪負荷条件下におけるフェライトの硬度の下限と、第2相の硬度の上限とを限定することが必要である。
本発明は上記の新たな知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
(1)複数の辺と該辺に続く複数の頂点R部とを有する多角形の横断面を有する中空角筒体からなる本体を備え、該本体がその軸方向へ負荷される衝撃荷重によって軸圧壊して蛇腹状に塑性変形することによって衝撃エネルギーを吸収する衝撃吸収部材であって、
前記本体を構成する鋼板の引張強度は780MPa以上であること、および
前記複数の辺の長さの平均値Wp(mm)と、前記鋼板の板厚t(mm)とが下記(1)式の関係を満足すること
を特徴とする衝撃吸収部材。
10<Wp/t<40 ・・・・・・・(1)
上記(1)式に代えて下記(1’)式を満足することが望ましい。
10<Wp/t<30 ・・・・・・・(1’)
鋼板の板厚tは2.0mm以下であることが望ましく、1.8mm以下であることがさらに望ましい。また、鋼板の板厚tは、1.0mm以上であることが望ましく、1.4mm以上であることがさらに望ましい。
さらに、上記(1)式に代えて下記(1’’)式を満足することが望ましい。
15<Wp/t<25 ・・・・・・・(1’’)
この場合、鋼板の板厚tは1.6mm以下であることが望ましく、1.4mm以下であることがさらに望ましい。また、鋼板の板厚tは、0.9mm以上であることが望ましく、1.0mm以上であることがさらに望ましい。
(2)複数の頂点R部それぞれの外周長さLc(mm)と、この頂点R部を挟む二つの辺それぞれの長さWp(mm)、Wp(mm)とが下記(2)式および(3)式の関係を満足することを特徴とする上記(1)項に記載された衝撃吸収部材。
Lc/Wp<1/2 ・・・・・・(2)
Lc/Wp<1/2 ・・・・・・(3)
上記(2)式および(3)式の関係に加えて、下記(2’)式および(3’)式の関係を満足することが望ましい。
1/25<Lc/Wp ・・・・・・(2’)
1/25<Lc/Wp ・・・・・・(3’)
(3)複数の頂点R部それぞれの曲率半径Rc(mm)と、この頂点R部を挟む二辺がなす角度である内角θ(rad)とが下記(4)式の関係を満足することを特徴とする請求項1または請求項2に記載された衝撃吸収部材。
5/π<Rc/θ<150/π ・・・・・・(4)
上記(4)式に代えて下記(4’)式を満足することが望ましい。
5/π<Rc/θ<100/π ・・・・・・(4’)
さらに、上記(4)式に代えて下記(4’’)式を満足することが望ましい。
6/π<Rc/θ<60/π ・・・・・・(4’’)
(4)前記鋼板は、下記化学組成および下記鋼組織を有することを特徴とする上記(1)項から(3)項までのいずれか1項に記載された衝撃吸収部材;
化学組成:質量%で、C:0.1〜0.2%、Mn:1〜3%、Si+Al:0.5%以上2.5%未満、N:0.001〜0.015%を含有し、残部Feおよび不純物からなること、
鋼組織:40〜80面積%のフェライトを含有し、残部がベイナイト、マルテンサイトおよびオーステナイトの1種または2種以上からなる第2相からなるとともに、前記フェライトの平均粒径が0.5〜3μm、前記第2相の平均最近接粒子間間隔が1〜5μm、引張変形によって相当塑性ひずみε=0.5を負荷した際の前記フェライトの平均ナノ硬さが4.5GPa以上かつ前記第2相の平均ナノ硬さが11GPa以下であること。
(5)前記化学組成が、質量%で、Cr:0.5%以下およびMo:0.2%以下からなる群から選択される1種または2種を含有することを特徴とする上記(4)項に記載された衝撃吸収部材。
(6)前記化学組成が、質量%で、Ti:0.05%以下およびNb:0.05%以下からなる群から選択される1種または2種を含有することを特徴とする上記(4)項または(5)項に記載された衝撃吸収部材。
(7)前記衝撃吸収部材は自動車用衝撃吸収部材である上記(1)項から上記(6)項までのいずれか1項に記載された衝撃吸収部材。
(8)前記自動車用衝撃吸収部材は、サイドメンバー、クロスメンバー、サイドシル、ピラーまたはクラッシュボックスである上記(7)項に記載された衝撃吸収部材。
本発明によれば、例えば780MPa級以上の超高強度鋼板を素材としても、多角形の横断面の頂点(稜線部)での割れの発生を抑制または解消でき、さらに有効流動応力の高い衝撃吸収部材を得ることが可能となるので、軸方向へ蛇腹状に塑性変形して衝撃エネルギーを効果的に吸収し、衝撃吸収エネルギーを飛躍的に高めることができる例えば自動車用の衝撃吸収部材を提供することができ、これにより、例えば自動車の軽量化および衝突安全性を一層の向上を図ることができるようになる。
図1は、本発明に係る衝撃吸収部材の本体の一例を模式的に示す説明図である。
以下、本発明に係る衝撃吸収部材を説明する。なお、以降の説明では、衝撃吸収部材が、自動車用の衝撃吸収部材であるクラッシュボックスである場合を例にとるが、本発明は、自動車用以外の衝撃吸収部材や、例えばサイドメンバー、クロスメンバー、サイドシルまたはピラー等のクラッシュボックス以外の自動車用衝撃吸収部材に対しても、同様に適用される。
1.本体
図1は、本発明に係る衝撃吸収部材であるクラッシュボックス1の本体2の一例を模式的に示す説明図である。図1においては、本体2の多角形断面を抽出して一部省略して示す。
本発明に係るクラッシュボックス1は、本体2を備える。本体2は、鋼板に例えばプレス成形を行って得られる、多角形断面の中空角筒体からなる。多角形断面は、複数の辺3a〜3hと、この辺に続く複数の頂点R部4a〜4hとを有する。
多角形断面としては、図1には八角形断面を示すが、これに限定されるものではなく、例えば、三角形、四角形、六角形、八角形、十角形、十二角形等が例示される。ただし、製造性の観点から、十六角形以下の多角形であることが望ましい。また、この多角形は、正多角形である必要はない。
この本体2は、その軸方向へ負荷される衝撃荷重によって軸圧壊して蛇腹状に塑性変形することによって衝撃エネルギーを吸収する。
2.鋼板5の引張強度TS
本体2を構成する鋼板5の引張強度TSは、780MPa以上である。本発明は、上述したように、クラッシュボックス1の、多角形断面の中空角筒体からなる本体2が、多角形の頂点(稜線部)で軸圧壊の途中に早期に割れるという課題を解決するものであるが、この課題は、本体2を構成する鋼板5の強度が780MPa以上である場合に顕著に発生するからである。鋼板5の強度は、980MPa以上であることが望ましい。
また、鋼板5の引張強度TSが780PMa級であることにより、本体2の強度を低下することなく、本体2の板厚を低減することができ、これにより、本体の質量を、例えば本体を590MPa級の鋼板により構成した場合に比較して、約20%程度低減することができる。
鋼板5の板厚tは、2.0mm超であると780MPa以上の超高強度鋼板を用いることによる軽量化の効果が希薄になるので、2.0mm以下であることが望ましく、1.8mm以下であることがさらに望ましい。一方、鋼板の板厚tは、1.0mm未満になると、クラッシュボックス1を、サイドメンバーに脱着自在に固定するための接合部材に溶接する際に、溶け落ちが発生して作業性が低下するため、1.0mm以上であることが望ましく、1.4mm以上であることがさらに望ましい。
3.断面形状因子Wp/t、Lc/Wp、Lc/Wp2、Rc/θ
本発明者らは、上述した鋼組織および化学組成を有する鋼板5を用いて種々の角筒部材2を作製し、軸方向の衝突速度64km/hで軸圧潰試験を実施し、衝突吸収性能を評価した。角筒部材2の軸方向に垂直な断面の形状は多角形(四角形、六角形、八角形)として、角筒部材2の軸方向長さは200mmとした。
上記角筒部材2について、複数の辺3a〜3hの長さの平均値をWp(mm)とし、鋼板5の板厚をt(mm)とし、複数の頂点R部4a〜4hそれぞれの外周長さをLc(mm)とし、この頂点R部を挟む二つの辺それぞれの長さをWp(mm)、Wp(mm)とし、複数の頂点R部4a〜4hそれぞれの曲率半径をRc(mm)とし、さらに、頂点R部4a〜4hを挟む二辺(3a,3b),(3b,3c)(3c,3d)、(3d,3e)、(3e,3f)、(3f,3g)、(3g,3h)または(3h,3a)がなす角度である内角をθ(rad)とした場合に、断面形状因子Wp/t、Lc/Wp、Lc/Wp2、Rc/θと、衝突吸収エネルギー指数(Epa)および割れ発生率との関係を調査した。
ここで、衝突吸収エネルギー指数(Epa)は、座屈時に上記角筒部材2にかかる平均応力を求め、鋼板5の引張強度TSで規格化したパラメータであり、下記式(5)で規定されるものである。
Figure 2012007649
ここで、Load Faveは角筒部材2にかかる平均荷重であり、Lは上記正多角形の周長であり、tは鋼板5の板厚である。
また、割れ発生率は、軸圧潰試験により割れが生じた割合であり、全試験体数に対する割れが発生した試験体数の割合である。
この軸圧潰試験により、以下の事項が判明した。
すなわち、断面形状因子Wp/tが小さくなるほど衝突吸収エネルギー指数(Epa)が大きくなるが、断面形状因子Wp/tに対する衝突吸収エネルギー指数(Epa)が大きいほど、鋼材の衝突吸収エネルギー性能が高い。具体的には、下記式(6)を満足する鋼材の衝突吸収エネルギー性能は高い。
Epa>0.155×exp(−0.0266×(Rθmin・θ・Wp/TS・t)) (6)
また、断面形状因子Wp/tが小さくなるほど衝突吸収エネルギー指数(Epa)が大きくなるが、断面形状因子Wp/tが小さくなるほど単位圧潰量当りの塑性変形仕事量が大きくなる。このため、圧潰途中で割れが生じる可能性が高まり、結果的に塑性変形仕事量を増大させることはできず、衝撃吸収エネルギーを高めることができない。
したがって、断面形状因子Wp/tに対する割れ発生率が低いほど、断面形状因子Wp/tを小さくして衝突吸収エネルギー指数(Epa)が大きくすることが可能となるので、衝突吸収エネルギー性能が高い鋼材である。具体的には、本試験において、断面形状因子Wp/t>14における割れ発生率が50%以下である場合には圧壊時の平均座屈荷重Faveが初期座屈荷重Fに対し、Fave/F>0.13を満たすので、衝突吸収エネルギー性能が高い鋼材といえる。
このような知見に基づいてさらに検討した結果、断面形状因子Wp/t、Lc/Wp、Lc/Wp2、Rc/θには、割れを生じない好適な条件が存在することが判明した。
(1)Wp/t
複数の辺3a〜3hの長さの平均値Wp(mm)と、鋼板5の板厚t(mm)とが、10<Wp/t<40の関係を満足することによって、割れの早期の発生を抑制しながら、軸圧壊を継続し、最終的に蛇腹状に塑性変形することが可能になる。10≧Wp/tであると、筒体2の各面の面剛性が高過ぎ、軸圧壊時に早期に割れてしまう。一方、Wp/t≧40であると、鋼板5の引張強度が780MPa以上であっても、筒体2の面剛性が不足し、吸収エネルギーが低下する。
同様の観点から、10<Wp/t<30であることが望ましい。
(2)Lc/Wp、Lc/Wp
複数の頂点R部4a〜4hそれぞれの外周長さLc(mm)と、この頂点R部4a〜4hを挟む二つの辺(3a,3b),(3b,3c)(3c,3d)、(3d,3e)、(3e,3f)、(3f,3g)、(3g,3h)または(3h,3a)それぞれの長さWp(mm)、Wp(mm)とが、Lc/Wp<1/2、Lc/Wp<1/2の関係を満足することが望ましい。
Lc/Wp≧1/2、またはLc/Wp≧1/2となると、頂点R部同士が隣接し過ぎて荷重を受け持つ二つの頂点R部があたかも一つの頂点R部として機能することとなり軸方向の荷重を十分に負担することが出来なくなるからである。一方、1/25≧Lc/Wp、または1/25≧Lc/Wpとなると、頂点R部を連結する平面部幅が長くなり過ぎて平面部が本体2の外部側に膨出変形する面外変形が著しくなり、頂点R部が十分な軸方向荷重を負担する前に座屈してしまうため、1/25<Lc/Wpおよび1/25<Lc/Wpであることが望ましい。
(3)Rc/θ
複数の頂点R部4a〜4hそれぞれの曲率半径Rc(mm)と、この頂点R部4a〜4hを挟む二辺(3a,3b),(3b,3c)(3c,3d)、(3d,3e)、(3e,3f)、(3f,3g)、(3g,3h)または(3h,3a)がなす角度である内角θ(rad)とが、5/π<Rc/θ<150/πの関係を満足することが望ましい。5/π≧Rc/θであると、頂点R部に生じる応力が過大となり筒体2に早期に割れが発生し、一方、Rc/θ≧150/πであると稜線部の剛性が低くなり過ぎ荷重を負担する頂点R部として機能しなくなり、筒体2の吸収エネルギーが低下するからである。
以上の理由により、本発明では、10<Wp/t<40を満足し、望ましくは、Lc/Wp<1/2およびLc/Wp<1/2を満足し、さらに望ましくは5/π<Rc/θ<150/πを満足する。
4.鋼板の金属組織
(1)複相組織
鋼組織は、高い降伏強度と高い加工硬化係数(均一延性)とを得て有効流動応力を高めるために、フェライトを含有し、残部がベイナイト、マルテンサイトおよびオーステナイトの1種または2種以上からなる第2相からなる複相組織とする。
第2相にはセメンタイトやパーライトが不可避的に含有される場合があるが、5面積%以下であれば許容される。
(2)フェライト面積率:40%以上80%以下
複相組織鋼材において、フェライトは局部延性を向上させる作用を有する。フェライト面積率が40%未満では、局部延性の不足により良好な衝撃吸収能を有する衝撃吸収部材を得ることが困難となる。したがって、フェライト面積率は40%以上とする。一方、フェライト面積率が80%超では、降伏強度、引張強度および加工硬化係数の不足により良好な衝撃吸収能を有する衝撃吸収部材を得ることが困難となる。したがって、フェライト面積率は80%以下とする。
(3)フェライト平均粒径:0.5μm以上3μm以下
複相組織鋼材において、フェライト平均粒径は降伏強度と均一延性(加工硬化係数)とに影響を及ぼす。すなわち、フェライト平均粒径を微細化することにより降伏強度および引張強度が向上する。フェライト平均粒径が3μm超では、降伏強度、引張強度および加工硬化係数の不足により良好な衝撃吸収能を有する衝撃吸収部材を得ることが困難となる。したがって、フェライト平均粒径は3μm以下とする。一方、フェライト平均粒径の過度の微細化は均一延性(加工硬化係数)の低下招く。フェライト平均粒径が0.5μm未満では、均一延性(加工硬化係数)の不足により良好な衝撃吸収能を有する衝撃吸収部材を得ることが困難となる。したがって、フェライト平均粒径は0.5μm以上とする。
(4)第2相の平均最近接粒子間隔:1μm以上5μm以下
複相組織鋼材において、第2相の平均最近接粒子間隔は均一延性(加工硬化係数)と局部延性とに影響を及ぼす。すなわち、第2相の平均最近接粒子間間隔が狭すぎると均一延性(加工硬化係数)の低下を招く。第2相の平均最近接粒子間間隔が1μm未満では、均一延性(加工硬化係数)の不足により良好な衝撃吸収能を有する衝撃吸収部材を得ることが困難となる。したがって、第2相の平均最近接粒子間間隔は1μm以上とする。一方、第2相の平均最近接粒子間間隔が広過ぎると局部延性の低下を招く。第2相の平均最近接粒子間間隔が5μm超では、局部延性の不足により良好な衝撃吸収能を有する衝撃吸収部材を得ることが困難となる。したがって、第2相の平均最近接粒子間間隔は5μm以下とする。
第2相の平均最近接粒子間隔は、鋼板の圧延方向に平行な断面の板厚1/4t部をエメリー紙およびアルミナ粉で研磨後、さらに電解研磨処理を行った断面を、FE−SEM(電界放射型走査電子顕微鏡)に付帯したEBSD(電子線後方散乱回折)を用いて構築したIQ(イメージクオリティー)値マップから求める。
(5)引張変形によって相当塑性ひずみε=0.5を負荷した際のフェライトの平均ナノ硬さ:4.5GPa以上、かつ第2相の平均ナノ硬さ:11GPa以下
複相組織鋼材において、高歪負荷条件下におけるフェライトと第2相との硬度差は局部延性に影響を及ぼす。すなわち、座屈部のように局部的に歪が集中した領域でフェライトと第2相との硬度差が著しくなると、両者の界面で剥離が生じてしまい、局部延性が低下する。
したがって、複相組織鋼材において高い局部延性を得るには、高歪負荷条件下におけるフェライトと第2相との硬度差を所定の範囲内とするように、高歪負荷条件下におけるフェライトの硬度の下限と第2相の硬度の上限とを限定することが必要である。
そこで、衝撃吸収部材の軸圧潰時において、座屈部に加わる相当塑性ひずみが0.5を超える値に達する可能性があることから、引張変形によって相当塑性ひずみε=0.5を負荷した際のフェライトおよび第2相の平均ナノ硬さと、衝突時における部材の割れとの関係を調査した。
その結果、引張変形によって相当塑性ひずみε=0.5を負荷した際のフェライトの平均ナノ硬さが4.5GPa未満であったり、引張変形によって相当塑性ひずみε=0.5を負荷した際の第2相の平均ナノ硬さが11GPa超であったりすると、フェライトと第2相との界面において剥離が生じて衝突時における衝撃吸収部材の割れを誘発することが判明した。したがって、引張変形によって相当塑性ひずみε=0.5を負荷した際のフェライトの平均ナノ硬さを4.5GPa以上とし、かつ第2相の平均ナノ硬さを11GPa以下とする。
6.鋼板の化学組成
(1)C:0.1%以上0.2%以下
Cは、ベイナイト、マルテンサイト、オーステナイトの1種または2種以上を含む第2相の生成を促進する作用を有する。また、第2相の強度を高めることにより降伏強度および引張強度を向上させる作用を有する。また、固溶強化により鋼を強化し、降伏強度および引張強度を向上させる作用を有する。また、固溶強化によりフェライト相の強度を高めるので、高歪負荷条件下におけるフェライトの硬度を高めることにより局部延性を向上させる作用を有する。C含有量が0.1%未満では、上記作用による効果を得ることが困難な場合がある。したがって、C含有量は0.1%以上とする。一方、C含有量が0.2%を超えると、マルテンサイトやオーステナイトが過剰に生成して、局部延性の著しい低下を招く場合がある。したがって、C含有量は0.2%以下とする。
(2)Mn:1%以上3%以下
Mnは、ベイナイト、マルテンサイト、オーステナイトの1種または2種以上を含む第2相の生成を促進する作用を有する。また、固溶強化により鋼を強化し、降伏強度および引張強度を向上させる作用を有する。また、固溶強化によりフェライト相の強度を高めるので、高歪負荷条件下におけるフェライトの硬度を高めることにより局部延性を向上させる作用を有する。Mn含有量が1%未満では、上記作用による効果を得ることが困難な場合がある。したがって、Mn含有量は1%以上とする。好ましくは1.5%以上である。一方、Mn含有量が3%超では、マルテンサイトやオーステナイトが過剰に生成して、局部延性の著しい低下を招く場合がある。したがって、Mn含有量は3%以下とする。好ましくは2.5%以下である。
(3)Si+Al:0.5%以上2.5%未満
SiおよびAlは、ベイナイト中の炭化物の生成を抑制することにより均一延性や局部延性を向上させる作用を有する。また、固溶強化により鋼を強化し、降伏強度および引張強度を向上させる作用を有する。また、固溶強化によりフェライト相の強度を高めるので、高歪負荷条件下におけるフェライトの硬度を高めることにより局部延性を向上させる作用を有する。SiおよびAlの合計含有量(以下、「(Si+Al)量」ともいう。)が0.5%未満では上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、(Si+Al)量は0.5%以上とする。一方、(Si+Al)量を2.5%以上としても、上記作用による効果は飽和してしまいコスト的に不利となる。したがって、(Si+Al)量は2.5%未満とする。
(4)N:0.001%以上0.015%以下
Nは、固溶強化により鋼を強化し、降伏強度および引張強度を向上させる作用を有する。また、固溶強化によりフェライト相の強度を高めるので、高歪負荷条件下におけるフェライトの硬度を高めることにより局部延性を向上させる作用を有する。また、TiやNbを含有させる場合には、鋼中に窒化物を形成してオーステナイトの粒成長を抑制し、フェライト平均粒径を微細化することにより、降伏強度および引張強度を向上させる作用を有する。Nの含有量が0.001%未満では、上記作用による効果を得ることが困難となる。したがって、N含有量は0.001%以上とする。一方、N含有量が0.015%超では、鋼中に粗大な窒化物を形成して、均一延性および局部延性の著しい低下を招く場合がある。したがって、N含有量は0.015%以下とする。
(5)Cr:0.5%以下およびMo:0.2%以下からなる群から選択される1種または2種
CrおよびMoは、ベイナイト、マルテンサイト、オーステナイトの1種または2種以上を含む第2相の生成を促進する作用を有する。また、固溶強化により鋼を強化し、降伏強度および引張強度を向上させる作用を有する。また、固溶強化によりフェライト相の強度を高めるので、高歪負荷条件下におけるフェライトの硬度を高めることにより局部延性を向上させる作用を有する。したがって、CrおよびMoの1種または2種を含有させてもよい。
しかしながら、Cr含有量が0.5%を超えたり、Mo含有量が0.2%を超えたりすると、フェライト変態が著しく抑制されてしまい、目的とするフェライト面積率を確保することできずに、局部延性の著しい低下を招く場合がある。したがって、Cr含有量は0.5%以下、Mo含有量は0.2%以下とする。なお、上記作用による効果をより確実に得るにはCr:0.1%以上およびMo:0.1%以上のいずれかを満足させることが好ましい。
(6)Ti:0.05%以下およびNb:0.05%以下からなる群から選択される1種または2種
TiおよびNbは、鋼中に窒化物を形成するなどしてオーステナイトの粒成長を抑制し、フェライト平均粒径を微細化することにより、降伏強度および引張強度を向上させる作用を有する。したがって、TiおよびNbの1種または2種を含有させてもよい。しかしながら、Ti含有量が0.05%を超えたり、Nb含有量が0.05%を超えたりすると、フェライト変態が著しく抑制されてしまい、目的とするフェライト面積率を確保することできずに、局部延性の著しい低下を招く場合がある。また、Tiについては、鋼中に形成する窒化物が粗大となってしまい、均一延性および局部延性の著しい低下を招く場合がある。したがって、TiおよびNbの含有量は0.05%以下とする。なお、上記作用による効果をより確実に得るにはTiおよびNbのいずれかの含有量を0.002%以上とすることが好ましい。
上記以外の残部はFeおよび不純物である。
7.鋼板のめっき
上述した鋼板の表面には、耐食性の向上等を目的としてめっき層を設けて表面処理鋼板としてもよい。めっき層は電気めっき層であってもよく溶融めっき層であってもよい。電気めっき層としては、電気亜鉛めっき、電気Zn−Ni合金めっき等が例示される。溶融めっき層としては、溶融亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっき、溶融アルミニウムめっき、溶融Zn−Al合金めっき、溶融Zn−Al−Mg合金めっき、溶融Zn−Al−Mg−Si合金めっき等が例示される。めっき付着量は特に制限されず、従来と同様でよい。また、めっき後に適当な化成処理(例えば、シリケート系のクロムフリー化成処理液の塗布と乾燥)を施して、耐食性をさらに高めることも可能である。
8.鋼板の製造方法
鋼板は、以下の製造方法により製造することが好ましい。
(1)熱間圧延条件
上記化学組成を有するスラブに、800℃以上950℃以下の温度域における総圧下率を50%以上とする熱間圧延を施し、熱間圧延完了後0.4秒間以内に600℃/秒以上の平均冷却速度で700℃まで冷却し、600℃以上700℃以下の温度域で0.4秒間以上保持し、20℃/秒以上100℃/秒未満の平均冷却速度で500℃以下の温度域まで冷却して巻取ることが好ましい。
まず、800℃以上950℃以下の温度域における総圧下率を50%以上とする熱間圧延を施すことにより、オーステナイト中に大量の加工歪を蓄積し、熱間圧延完了後0.4秒間以内に600℃/秒以上の平均冷却速度で700℃まで冷却することにより、上記加工歪の解放を抑制しつつフェライト変態が活発に進行する温度域まで冷却し、600℃以上700℃以下の温度域で0.4秒間以上保持することにより、上記加工歪を駆動力として一気にフェライト変態を進行させることにより、フェライトの核生成密度を飛躍的に高めることができ、これによりフェライト平均粒径が3μm以下の微細な鋼組織を得ることができる。
そして、20℃/秒以上100℃/秒未満の平均冷却速度で500℃以下の温度域まで冷却して巻取ることにより、フェライト変態しなかった残りのオーステナイトをベイナイト、マルテンサイトに変態させたり、オーステナイトのまま残留させたりして、第2相をベイナイト、マルテンサイトおよびオーステナイトの1種または2種以上からなるものとすることができる。
また、上記鋼組織の微細化により、上記第2相の平均最近接粒子間間隔を5μm以下とすることができ、引張変形によって相当塑性ひずみε=0.5を負荷した際の前記フェライトの平均ナノ硬さが4.5GPa以上かつ前記第2相の平均ナノ硬さが11GPa以下である鋼組織とすることができる。
(2)冷間圧延、連続焼鈍、溶融亜鉛めっき等
上記の熱延鋼板に冷間圧延および連続焼鈍を施して冷延鋼板とする場合には、冷間圧延における圧下率を50%以上90%以下とし、750℃以上900℃以下の温度域に10秒間以上150秒間以下保持し、次いで、8℃/秒以上の平均冷却速度で500℃以下の温度域まで冷却する連続焼鈍を施すことが好ましい。10℃/秒以上の平均冷却速度で450℃以下の温度域まで冷却する連続焼鈍を施すことがさらに好ましい。
冷間圧延における圧下率を50%以上とすることにより加工歪を蓄積し、750℃以上900℃以下の温度域に10秒間以上150秒間以下保持して再結晶させることにより、フェライト平均粒径が3μm以下の微細な鋼組織を得ることができる。そして、次いで、8℃/秒以上の平均冷却速度で500℃以下の温度域まで冷却することにより、フェライト変態しなかった残りのオーステナイトをベイナイトやマルテンサイトに変態させたり、オーステナイトのまま残留させたりして、第2相をベイナイト、マルテンサイトおよびオーステナイトの1種または2種以上からなるものとすることができる。
また、上記第2相の平均最近接粒子間間隔を5μm以下とすることができ、引張変形によって相当塑性ひずみε=0.5を負荷した際の前記フェライトの平均ナノ硬さが4.5GPa以上かつ前記第2相の平均ナノ硬さが11GPa以下である鋼組織とすることができる。
このようにして得られた鋼板は、さらに溶融亜鉛めっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっきを施すことにより溶融亜鉛めっき鋼板としてもよい。溶融亜鉛めっきを施したのちにさらに合金化処理を施して合金化溶融亜鉛めっき鋼板としてもよい。合金化処理を施す場合には550℃を超えないようにすることが好ましい。溶融亜鉛めっきや合金化処理を施す場合には連続溶融亜鉛めっき設備を用いて、連続焼鈍と溶融亜鉛めっき等とを一工程で行うことが生産性の観点から好ましい。

Claims (8)

  1. 複数の辺と該辺に続く複数の頂点R部とを有する多角形の横断面を有する中空角筒体からなる本体を備え、該本体がその軸方向へ負荷される衝撃荷重によって軸圧壊して蛇腹状に塑性変形することによって衝撃エネルギーを吸収する衝撃吸収部材であって、
    前記本体を構成する鋼板の引張強度は780MPa以上であること、および
    前記複数の辺の長さの平均値Wp(mm)と、前記鋼板の板厚t(mm)とが下記(1)式の関係を満足すること
    を特徴とする衝撃吸収部材。
    10<Wp/t<40 ・・・・・・・(1)
  2. 前記複数の頂点R部それぞれの外周長さLc(mm)と、当該頂点R部を挟む二つの辺それぞれの長さWp(mm)、Wp(mm)とが下記(2)式および(3)式の関係を満足すること
    を特徴とする請求項1に記載された衝撃吸収部材。
    Lc/Wp<1/2 ・・・・・・(2)
    Lc/Wp<1/2 ・・・・・・(3)
  3. 前記複数の頂点R部それぞれの曲率半径Rc(mm)と、当該頂点R部を挟む二辺がなす角度である内角θ(rad)とが下記(4)式の関係を満足すること
    を特徴とする請求項1または請求項2に記載された衝撃吸収部材。
    5/π<Rc/θ<150/π ・・・・・・(4)
  4. 前記鋼板は、下記化学組成および下記鋼組織を有することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された衝撃吸収部材;
    化学組成:質量%で、C:0.1〜0.2%、Mn:1〜3%、Si+Al:0.5%以上2.5%未満、N:0.001〜0.015%を含有し、残部Feおよび不純物からなること、
    鋼組織:40〜80面積%のフェライトを含有し、残部がベイナイト、マルテンサイトおよびオーステナイトの1種または2種以上からなる第2相からなるとともに、前記フェライトの平均粒径が0.5〜3μm、前記第2相の平均最近接粒子間間隔が1〜5μm、引張変形によって相当塑性ひずみε=0.5を負荷した際の前記フェライトの平均ナノ硬さが4.5GPa以上かつ前記第2相の平均ナノ硬さが11GPa以下であること。
  5. 前記化学組成が、質量%で、Cr:0.5%以下およびMo:0.2%以下からなる群から選択される1種または2種を含有することを特徴とする請求項5に記載された衝撃吸収部材。
  6. 前記化学組成が、質量%で、Ti:0.05%以下およびNb:0.05%以下からなる群から選択される1種または2種を含有することを特徴とする請求項4または請求項5に記載された衝撃吸収部材。
  7. 前記衝撃吸収部材は自動車用衝撃吸収部材である請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載された衝撃吸収部材。
  8. 前記自動車用衝撃吸収部材は、サイドメンバー、クロスメンバー、サイドシル、ピラーまたはクラッシュボックスである請求項7に記載された衝撃吸収部材。
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