JP5459064B2 - 高周波焼入れ用圧延鋼材およびその製造方法 - Google Patents

高周波焼入れ用圧延鋼材およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、高周波焼入れ用圧延鋼材、すなわち、高周波焼入れを行って用いられる圧延鋼材、およびその製造方法に関し、詳しくは、必ずしも高価な元素を含有させずとも、さらに、焼入れ−焼戻しのいわゆる「調質処理」を行わずとも、高い強度および母材靱性を確保でき、高周波焼入れで生成する硬化層の靱性にも優れる高周波焼入れ用圧延鋼材とその製造方法に関する。
自動車部品のうちで、ステアリング装置に用いられるラックバーは、自動車の進行方向を操舵するとともに左右両輪を繋ぐ骨組み的な役割を示す重要部品であり、これが破損した場合にはハンドル操作が不可能となってしまう。このため、ラックバーに用いられる鋼材には、高い信頼性が要求される。
なお、ラックバーは、従来、中炭素鋼材の圧延鋼材を用いて、焼入れ焼戻しの調質処理を行った後に、切削加工によって歯型部を形成し、その歯型部に高周波焼入れ、つまり、高周波電流による誘導加熱作用で急速短時間加熱(以下、「高周波加熱」という。)してその後直ちにあるいはその加熱した温度で短時間の保持を行った後、焼入れをして製造されてきた。
そして、高周波焼入れを行って用いられるラックバーには、上述のとおり破損を防止する必要があるため、曲げ強度と衝撃特性に優れていることが要求される。すなわち、高周波焼入れ層にき裂が発生しにくいことも必要な条件であるものの、たとえ高周波焼入れ層にき裂が発生した場合であっても、き裂が母材を進展して破断に至らないことが要求される。
したがって、上記のような特性が要求されるラックバーの素材として用いられる鋼材に対しては、
・高い強度、
・高い母材靱性、
・高周波焼入れで生成する硬化層の靱性、
の全てに優れることが要求される。
このようなラックバーに用いられる鋼材として、例えば次のような鋼材が提案されている。
すなわち、特許文献1に、質量%で、C:0.40〜0.60%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.05〜1.50%、およびS:0.004〜0.100%を含有し、さらに他の元素として、Cr:1.5%以下(0%を含まず)、Al:0.0005〜0.10%、およびN:0.002〜0.020%よりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有し、さらに必要に応じて、B:0.0005〜0.0020%を、単独でまたはTi:0.005〜0.050%と共に含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる棒鋼であって、焼入れおよび短時間焼戻しによって、棒鋼の表面から深さD/4(Dは棒鋼の直径を示す)の部分の焼入れ・焼戻し組織が、「焼戻しベイナイト組織と焼戻しマルテンサイト組織が合計で20〜100%(面積百分率)」および「再生パーライト組織が0〜50%(面積百分率)」に調整されている曲げ特性に優れたステアリングラック用鋼が提案されている。このステアリングラック用鋼は、上記化学組成を有する鋼材を圧延し、得られる棒鋼を温度820℃以上に加熱し、水冷にて室温まで制御冷却した後、温度680℃以上の雰囲気温度に加熱した炉に入れて20分以下の短時間焼戻し処理を行い室温まで空冷することによって得ることができるものである。
しかしながら、調質処理はコストアップの原因になる。このため、従来から調質処理を省略することにより、消費エネルギーと製造工数の削減を図ろうとする動きがあり、熱間圧延のままで調質処理した鋼材と同等の強度・靱性を備えた鋼材やその製造方法が種々提案されている。
例えば、特許文献2には、質量%で、C:0.30〜0.50%、Si:0.15〜0.50%、Mn:1.0〜1.65%、S:0.04〜0.1%、V:0.08〜0.2%、Al:0.015〜0.05%、残部が実質的に鉄及び不可避的不純物よりなる鋼材を850〜1000℃の温度に加熱し、800〜950℃の仕上温度にて熱間圧延を行なった後、この圧延棒鋼を850〜1000℃の温度に再加熱し、800〜950℃の仕上温度にて熱間鍛造を行ない、次いで、A3変態点から550℃の間を0.3〜10℃/秒の冷却速度にて冷却することを特徴とする高強度非調質棒鋼の製造方法が提案されている。
特許文献3には、質量%で、C:0.35〜0.70%、Si:0.1〜1.5%、Mn:0.5〜2.0%、Cr:1.5%以下、V:0.2〜1.0%、Al:0.005〜0.05%を含み、さらに必要に応じて、Nb:0.002〜0.05%、Ni:0.2〜1.0%、Cu:0.2〜1.0%、Mo:0.1〜0.5%の1種以上を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなり、フェライト−パーライト組織を備え、10nm超の析出物個数をA、10nm以下の析出物個数をBとしたとき、A/Bが1/20以上である高強度・高靱性非調質鋼が提案されている。この高強度・高靱性非調質鋼は、特許文献3の段落〔0019〕に説明されているとおり、鋼片の加熱温度を800〜930℃、粗圧延後、仕上圧延開始温度を780〜930℃とし、圧延後、700〜400℃における平均冷却速度を0.3〜5.0℃/sとして冷却することによって得られるものである。
特許文献4には、セメンタイトを含めた炭化物の体積率が20%以下となる炭素(C)量と、質量%で、Si:0.80%以下、Mn:0.05〜3.0%、Al:0.10%以下を包含する鋼材であり、直径または短辺の長さが5mm以上で、T断面全体において、炭化物とともに平均粒径2μm以下のフェライト粒組織を有することを特徴とする高強度・高靱性棒材が提案されている。この棒材は、さらに、Cu、Ni、Ti、Nb、V、Cr、Mo、W、Ca、REM、Bのうち1種または2種以上を包含することができるものであり、400℃以上Ac3以下の温度域において、鋼材を多パス穴型圧延することによって得られるものである。
特許文献5には、成分組成が、質量%で、0.4<C<2.0%、0.1<Si<1.0%、0.1<Mn<2.0%、P≦0.1%、S≦0.5%、残部がFeおよび不純物元素からなる鋼材を、900℃〜1200℃の温度で30秒以上保持した後、500℃〜700℃に冷却し、この温度で30秒以上保持した後に温間加工を施すことを特徴とする非調質鋼材の製造方法が提案されている。この製造方法によると、フェライトの平均粒径が2.0μm以下、セメンタイトの平均粒径が0.5μm以下、降伏比が0.75以上、シャルピー衝撃値が150J/cm2以上であり、かつ、フェライト・セメンタイトを主とする組織からなる非調質鋼材を得ることができる。
特許文献6には、2%以下のCを含有する鋼をAc1点以上に加熱した後、変形を加える熱間加工において、圧延途中でAr1点以下Ar1−200℃以上の温度域まで冷却し、その後引き続いて圧延で15%以上の塑性変形を加え、それによって発生する変形熱によりAc1点以上Ac3点以下の温度域に到達させる制御圧延パターンを少なくとも2回以上繰り返し球状化組織を得ることを特徴とする棒鋼および線材の製造方法が開示されている。
特許文献7には、2%以下のCを含有する鋼をAc1点以上に加熱した後、変形を加える熱間加工において、圧延途中でAe1点以下であり且つAr1点を超える温度域まで冷却し、その後引き続いて仕上圧延により15%以上の塑性変形を加え、それによってパーライトないしはベイナイト変態を促進せしめることにより、これら組織を生成させると同時に、変形熱により再びAc1点以上、Ac3点あるいはAccm点以下の温度域に到達せしめる制御圧延パターンを少なくとも2回繰り返すことを特徴とする球状化組織を有する棒鋼と線材の製造方法が開示されている。
特開2003−166036号公報 特開昭61−170513号公報 特開2005−281837号公報 特開2000−309850号公報 特開2006−225735号公報 特開昭59−136423号公報 特開昭60−149723号公報
上記の特許文献1で提案された技術は、調質処理を施すものであり、前述のようにエネルギーおよび製造工数よりコスト面で望ましいものではなかった。さらに、昨今の地球温暖化対策上の重要な課題である二酸化炭素削減の点からも、調質処理のような熱処理を行うことは望ましいものではなかった。
特許文献2の非調質棒鋼は0.08%以上のVを、また、特許文献3の非調質鋼は0.2%以上のVを含有させる必要があるため、昨今の原料価格高騰下の状況においては、高価な元素であるVを用いることからコスト面で望ましい鋼材ではなかった。さらに、特許文献2の非調質棒鋼および特許文献3の非調質鋼はいずれも、高周波加熱を行なった場合には、硬化層の結晶粒の粗大化が生じやすく硬化層の靱性が十分といえるものではなかった。
特許文献4の実施例には、質量%で、C:0.42%、Si:0.18%、Mn:0.68%、P:0.013%、S:0.006%等のC、Si、Mn、P、Sからなる鋼材を640℃での加熱を繰り返しながら圧延したものが強度と靱性に優れていることが記載されている。しかしながら、このような化学成分の鋼材では、焼入れのために高周波加熱を行なった場合であっても、鋼材中の炭化物はマトリックスに容易に固溶してしまうので、硬化層の結晶粒には粗大化が生じやすく、したがって、硬化層に十分な靱性が得られるといえるものではなかった。
また、特許文献5の実施例には、質量%で、C:0.40%、Si:0.25%、Mn:0.76%、P:0.02%、S:0.03%等のC、Si、Mn、P、Sからなる鋼材を900〜1200℃の温度に加熱し、組織をオーステナイト化した後、500〜700℃に冷却して「フェライトパーライト組織」にした後、温間加工を行なったものが高い降伏比と靱性を有することが記載されている。しかしながら、上記特許文献4におけると同様、このような化学成分の鋼材では、焼入れのために高周波加熱を行なった場合であっても、鋼材中のセメンタイトはマトリックスに容易に固溶してしまう。このため、硬化層の結晶粒には粗大化が生じやすく、したがって、硬化層に十分な靱性が得られるといえるものではなかった。
特許文献6で提案された技術は、冷間鍛造用鋼材の変形抵抗を下げるために行なっていた球状化焼鈍の処理時間を大幅に短縮すること、すなわち、軟質な棒鋼や線材の製造方法を提供することを目的としたものである。したがって、特許文献6の方法で製造された棒鋼と線材はいずれも、ラックバーのように熱間圧延鋼材の形状をほぼ保ちながら高周波焼入れして使用するものではないし、特許文献6自体がそもそも、高い強度と母材靱性、さらには、高周波焼入れで生成される硬化層の靱性にも優れる圧延鋼材を得ることを目的とするものではない。
特許文献7で提案された技術も特許文献6と同様に、冷間鍛造用鋼材の変形抵抗を下げるために行なっていた球状化焼鈍の処理時間を大幅に短縮すること、すなわち、軟質な棒鋼や線材の製造方法を提供することを目的としたものである。したがって、特許文献7の方法で製造された棒鋼と線材に関しても、ラックバーのように熱間圧延鋼材の形状をほぼ保ちながら高周波焼入れして使用するものではないし、特許文献7自体がそもそも、高い強度と母材靱性、さらには、高周波焼入れで生成される硬化層の靱性にも優れる圧延鋼材を得ることを目的とするものではない。
本発明は、上記現状に鑑みてなされたもので、ラックバーの素材のように高周波焼入れを行って用いられる圧延鋼材とその製造方法を提供すること、より詳しくは、特に高価な元素を必ずしも必要とせず、さらに、調質処理を行わずとも、高い強度および母材靱性が得られ、しかも、高周波焼入れで生成する硬化層の靱性にも優れる高周波焼入れ用圧延鋼材とその製造方法を提供することを目的とする。
なお、本発明の目的とする高い強度および母材靱性とは、それぞれ、圧延鋼材の状態で引張強度が600MPa以上、およびJIS Z 2242(2005)に規定の、ノッチ底半径1mm、ノッチ幅2mmのUノッチ試験片のうちでノッチ深さ2mm(つまり、ノッチ下高さ8mm)の試験片(以下、「2mmUノッチシャルピー衝撃試験片」という。)を用いたシャルピー衝撃試験における試験温度25℃での衝撃値が150J/cm2以上であることを意味し、また、優れた硬化層の靱性とは後述する試験方法による硬化層のき裂発生強度が、3点曲げ試験で荷重10kN以上であることを意味する。
本発明者らは、前記した課題を解決するために、中炭素鋼材において調質処理を行うことなく高い強度と靱性を得るための手段について種々の実験室的な検討を行った結果、下記の知見を得た。
(A)一般に、強度と靱性とはトレードオフの関係を示し、強度を高く設定しすぎると、靱性の低下が顕著となり、所望の特性が得られない。
(B)フェライトとパーライトとの混合組織において、いわゆる「強度−靱性バランス」を良好にする手段としては、フェライトの微細化が有効であることが知られている。そして、微細フェライト組織を得る方法としては、オーステナイトとフェライトの2相温度領域で熱間圧延を行い、圧延による加工歪によりオーステナイトからのフェライトの析出を促進してフェライト分率を高めるとともに、加工歪によりフェライトを動的再結晶させて、フェライトを微細化すればよい。しかし、単にオーステナイトとフェライトの2相温度領域で熱間圧延しただけでは、熱間圧延終了時点で残存したオーステナイトが、冷却中にパーライト組織を形成してしまい、層状セメンタイトを抑制することが困難である。このため、目標とする靱性レベルが得られない。
(C)オーステナイトとフェライトの2相温度領域での熱間圧延終了時点で存在するオーステナイトから生じる層状セメンタイトを抑制するためには、
・圧延前のオーステナイトとフェライトの2相温度領域への加熱の際に、従来のようにセメンタイトを完全に固溶させるのではなく残存させて、オーステナイト、フェライト、セメンタイトの3相が存在するようにする、
・熱間圧延終了時点で、できる限り延伸した加工オーステナイトを存在させるか、あるいは微細なオーステナイトを存在させる、
・上記のオーステナイト中にセメンタイトを残存させる、
という条件を満足させる必要がある。つまり、熱間圧延終了段階で、フェライト、オーステナイトおよびセメンタイトの3相状態を満足できれば、冷却後に、パーライト組織を構成する層状セメンタイトの生成を抑制でき、球状セメンタイトにすることができる。
(D)熱間圧延終了段階でフェライト、オーステナイト、セメンタイトの3相状態を実現するためには、鋼成分中のCr含有量を調整するとともに、セメンタイト中にCrを濃化させることのできる温度で加熱と熱間圧延を行う必要があり、これによって、パーライト組織を構成する層状セメンタイトの抑制と球状セメンタイトの形成を実現できる。
(E)鋼材の組織が、微細なフェライトと球状セメンタイトを主体とする場合には、高い強度と優れた靱性を両立させることができる。
(F)上述した製造方法で得られる組織を有する鋼材には、Crが濃化した球状セメンタイトが多数析出しており、高周波加熱のような短時間の加熱の場合では、このCrが濃化した球状セメンタイトはオーステナイト中に固溶しにくい。このため、上記の球状セメンタイトがAlNとともにピンニング粒子として、高周波加熱時のオーステナイト粒の粒成長を抑制する結果、高周波焼入れ層の靱性が高まり、高周波焼入れ層におけるき裂の発生をも抑制することができる。
(G)上記のような組織を有する鋼材において、固溶強化と析出強化によって適度な強化を図ることにより、引張強度が600MPa以上で、2mmUノッチシャルピー衝撃試験片を用いたシャルピー衝撃試験における試験温度25℃での衝撃値が150J/cm2以上で、後述する試験方法による硬化層のき裂発生強度が、3点曲げ試験で荷重10kN以上という目標特性を達成することができる。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記[1]〜[3]に示す高周波焼入れ用圧延鋼材および[4]に示す高周波焼入れ用圧延鋼材の製造方法にある。
[1]質量%で、C:0.38〜0.55%、Si:1.0%以下、Mn:0.20〜2.0%、P:0.020%以下、S:0.10%以下、Cr:0.10〜2.0%、Al:0.010〜0.10%およびN:0.004〜0.03%を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、下記の(1)式で表されるCeqの値が1.20以下およびSi、MnおよびCrの合計含有量が1.2〜3.5%を満たす化学成分を有し、ミクロ組織がフェライト、ラメラーパーライトおよび球状セメンタイトからなり、該フェライトの平均結晶粒径が10μm以下であり、ラメラーパーライトのミクロ組織に占める面積割合が20%以下(0%を含む)であり、かつ、球状セメンタイトの個数が6×10個/mm以上であることを特徴とする高周波焼入れ用圧延鋼材。
Ceq=C+(1/10)Si+(1/5)Mn+(5/22)Cr+1.65V−(5/7)S・・・(1)
ただし、上記(1)式中の、C、Si、Mn、Cr、VおよびSは、それぞれの元素の質量%での含有量を表す。また、上記球状セメンタイトとは、長径Lと短径Wの比(L/W)が2.0以下であるセメンタイトを指す。
[2]化学成分が、質量%で、さらに、Cu:1.0%以下、Ni:3.0%以下およびMo:0.50%以下のうちの1種以上の元素を含有することを特徴とする上記[1]に記載の高周波焼入れ用圧延鋼材。
[3]化学成分が、質量%で、さらに、Ti:0.10%以下、Nb:0.10%以下およびV:0.30%以下のうちの1種以上の元素を含有することを特徴とする上記[1]または[2]に記載の高周波焼入れ用圧延鋼材。
[4]上記[1]から[3]までのいずれかに記載の化学成分を有する被圧延材を、670〜810℃の温度域に加熱した後、2以上の圧延工程を備える全連続式熱間圧延方法により圧延し、さらに、最終圧延工程における圧延を終了した後、400℃までの温度域を5℃/s以下の冷却速度で冷却して、
フェライト、ラメラーパーライトおよび球状セメンタイトからなり、該フェライトの平均結晶粒径が10μm以下であり、ラメラーパーライトのミクロ組織に占める面積割合が20%以下(0%を含む)であり、かつ、球状セメンタイトの個数が6×10 個/mm 以上であるミクロ組織を有する高周波焼入れ用圧延鋼材製造する方法であって、
該全連続式熱間圧延方法が、下記の〔1〕および〔2〕を満足することを特徴とする高周波焼入れ用圧延鋼材の製造方法。
〔1〕各圧延工程中の被圧延材の表面温度が、650〜810℃の温度範囲内であること、
〔2〕総減面率が30%以上であること。
なお、残部としての「Feおよび不純物」における「不純物」とは、鉄鋼材料を工業的に製造する際に、鉱石あるいはスクラップ等のような原料を始めとして、製造工程の種々の要因によって混入するものを指す。
また、「球状セメンタイト」とは、長径Lと短径Wの比(L/W)が2.0以下であるセメンタイトを指す。
さらに、「全連続式熱間圧延方法」とは、例えば、「粗圧延機列−仕上げ圧延機列」や「粗圧延機列−中間圧延機列−仕上げ圧延機列」のような、2以上の圧延機列からなるタンデムミルを用いた圧延ラインにおいて、圧延機列間で被圧延材を放置することができない方法を指す。なお、上記において各圧延機列は複数台の圧延機から構成される場合だけではなく、1台の圧延機で構成されているものをも含む。
「総減面率」とは、全連続式熱間圧延方法における被圧延材の圧延前の断面積をA0、最終の圧延機を出た後の面積をAfとした場合に、{(A0−Af)/A0}×100で求められる値(%)を指す。
本発明の高周波焼入れ用圧延鋼材は、必ずしも高価なVを含有させる必要がなく、しかも、調質処理を行わずとも、圧延鋼材の状態で引張強度が600MPa以上、および2mmUノッチシャルピー衝撃試験片を用いたシャルピー衝撃試験における試験温度25℃での衝撃値が150J/cm2以上という特性を有し、さらに、高周波焼入れの際に粒成長が起こりにくいため硬化層の靱性にも優れるので、高周波焼入れを行って用いられる曲げ強度および衝撃特性が要求されるラックバー等の部品の素材として用いるのに好適である。この高周波焼入れ用圧延鋼材は、本発明の方法によって製造することができる。
実施例の試験番号のうちで、試験番号1〜12および試験番号22を用いて、引張強度(MPa)とSi、MnおよびCrの合計含有量の関係を整理して示す図である。なお、図1では、Si、MnおよびCrの合計含有量を「Si+Mn+Cr」と表記した。 高周波焼入れで生成した硬化層の靱性調査のために実施例で行った3点曲げ試験について説明する図である。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお。以下の説明における各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
1.化学成分:
C:0.35〜0.55%
Cは、鋼の強度、高周波焼入れ性および高周波焼入れで形成された硬化層の強度を向上させる作用を有する。しかしながら、その含有量が0.38%未満では、前記作用による所望の効果が得られない。一方、Cの含有量が0.55%を超えると、母材靱性が低下するとともに、高周波焼入れで形成された硬化層が脆化する。したがって、Cの含有量を0.38〜0.55%とした。なお、前記の効果を安定して得るために、Cの含有量は0.40%以上とすることが好ましい。また、Cの含有量は0.50%以下とすることが好ましい。
Si:1.0%以下
Siは、脱酸元素であり、さらに、固溶強化によってフェライトの強度を向上させる元素である。一方、Siは、含有量の増加に伴ってA3変態点を上昇させ、高周波焼入れ性および高周波焼入れで形成された硬化層の強度を低下させる元素でもある。そして、含有量の増加に伴ってA3変態点が上昇するため、加熱あるいは熱間圧延後の冷却過程で脱炭が生じやすいオーステナイトとフェライトが主たる構成相となる温度領域が広がるため、Siの含有量が高い鋼材では脱炭が生じやすくなる。特に、Siの含有量が1.0%を超える場合には、脱酸効果および固溶強化は期待できるものの、熱間圧延後の脱炭が生じやすくなって、高周波焼入れで生成する硬化層の靱性が低下する。したがって、Siの含有量を1.0%以下とした。なお、Siの含有量は0.8%以下とすることが好ましい。一方、前記したSiの固溶強化作用を利用して強度確保を確実に行うためには、Siの含有量は0.03%以上とすることが好ましく、0.10%以上とすれば一層好ましい。
Mn:0.20〜2.0%
Mnは、高周波焼入れ性および高周波焼入れで形成された硬化層の靱性を向上させるのに有効な元素であるとともに、固溶強化によってフェライトの強度を向上させる元素である。しかしながら、Mnの含有量が0.20%未満の場合、前記作用による所望の効果が得られない。一方、2.0%を超えてMnを含有させても前記の効果は飽和し、コストが嵩む。さらに、母材靱性の劣化を招く。したがって、Mnの含有量を0.20〜2.0%とした。なお、合金コストを低く抑えたうえで前記の効果を安定して得るために、Mnの含有量は0.40%以上とすることが好ましく、また、1.50%以下とすることが好ましい。
P:0.020%以下
Pは、不純物として含有され、粒界偏析および中心偏析を起こし、母材靱性および高周波焼入れで生成する硬化層の靱性の低下を招き、特に、その含有量が0.020%を超えると、母材靱性および高周波焼入れで生成する硬化層の靱性低下が著しくなる。したがって、Pの含有量を、0.020%以下とした。なお、Pの含有量は、0.010%以下にするのが好ましい。
S:0.10%以下
Sは、不純物として含有される。なお、Sを積極的に含有させるとMnと結合してMnSを形成し、被削性、なかでも切り屑処理性を高める作用を有するが、MnSを多く形成しすぎると、被削性は改善できても、母材靱性および高周波焼入れで生成する硬化層の靱性の低下を招き、特に、Sの含有量が0.10%を超えると、母材靱性および高周波焼入れで生成する硬化層の靱性低下が著しくなる。したがって、Sの含有量を、0.10%以下とした。なお、Sの含有量は0.08%以下とすることが好ましい。一方、被削性を高める観点からは、Sは0.010%以上を含有させることが好ましく、0.015%以上含有させればより好ましい。
Cr:0.10〜2.0%
Crは、熱間圧延鋼材において球状セメンタイトを均一微細化させるために必要不可欠な元素である。さらに、Crは高周波焼入れ性を向上させる作用も有する。これらの効果はCrの含有量が0.10%以上で発揮される。しかしながら、Crの含有量が2.0%を超えると、前記した球状セメンタイトの均一微細化および高周波焼入れ性向上効果が飽和するうえに、母材靱性の低下が生じる。したがって、Crの含有量を0.10〜2.0%とした。なお、Crの含有量は0.20%以上とすることが好ましく、また、1.8%以下とすることが好ましい。
Al:0.010〜0.10%
Alは、鋼中のNと結合してAlNを形成し、高周波焼入れ時の結晶粒の粗大化を抑制して、高周波焼入れで生成する硬化層の靱性を向上させる効果を有する。しかしながら、Alの含有量が0.010%未満の場合、このような効果は得られない。一方、Alは、Siと同様に脱酸作用を有する元素ではあるが、A3変態点を上昇させ、高周波焼入れ性の低下を招く。特に、Alの含有量が0.10%を超える場合には、高周波焼入れ性の低下が著しくなり、さらに、母材靱性の劣化も招く。したがって、Alの含有量を0.010〜0.10%とした。なお、Alの含有量は0.08%以下とすることが好ましい。一方、高周波焼入れ時の結晶粒粗大化防止の観点からは、前記したAlNの確実な形成のためにAlの含有量は0.015%以上とすることが好ましく、0.020%以上とすれば一層好ましい。
N:0.004〜0.03%
Nは、鋼中のAlと結合してAlNを形成し、高周波焼入れ時の結晶粒の粗大化を抑制し、結晶粒の微細化によって高周波焼入れで生成する硬化層の靱性を向上させる効果を有する。しかしながら、Nの含有量が0.004%未満の場合には、その効果が不十分であり、一方、Nの含有量が0.03%を超えると、母材靱性の低下を招いてしまう。したがって、Nの含有量を、0.004〜0.03%とした。なお、Nの含有量は0.0045%以上とすることが好ましく、また、0.02%以下とすることが好ましい。
Ceqの値:1.20以下
本発明においては、Ceqの値、つまり、
Ceq=C+(1/10)Si+(1/5)Mn+(5/22)Cr+1.65V−(5/7)S・・・(1)
の式で表される値が大きくなりすぎると、過度に強化されるため、母材靱性の低下を招くことになる。本発明の高周波焼入れ用圧延鋼材は、後述するように「微細なフェライト、面積割合で20%以下(0%を含む)のラメラーパーライトおよび球状セメンタイト」で構成されるミクロ組織にすることで優れた「強度−靱性バランス」を確保するが、たとえこのようなミクロ組織を得ることができた場合でも、Ceqの値が1.20を超えると目標とする母材靱性(2mmUノッチシャルピー衝撃試験片を用いたシャルピー衝撃試験における試験温度25℃での衝撃値が150J/cm2以上)を得ることができない。したがって、上記(1)式で表されるCeqの値を1.20以下とした。
なお、Ceqの値は1.00以下とすることが好ましい。また、Ceqの値は、強度を確保するうえでは、0.60以上とするのが好ましい。
Si、MnおよびCrの合計含有量:1.2〜3.5%
Ceqの値が上記の範囲を満たしていても、単純な「微細フェライト、面積割合で20%以下(0%を含む)のラメラーパーライトおよび球状セメンタイト」のミクロ組織では、軟質なフェライト相が主体となり、目標とする強度が得られない。
つまり、「微細フェライト、面積割合で20%以下(0%を含む)のラメラーパーライトおよび球状セメンタイト」のミクロ組織形態を対象として強度を上昇させるには、ミクロ組織の主体を構成する軟質な相であるフェライトを強化する必要がある。
本発明の高周波焼入れ用圧延鋼材はフェライト相の結晶粒が微細であるが、結晶粒微細化のみでは、所望の強度レベルには到達できない。
本発明の高周波焼入れ用圧延鋼材は、フェライト相の結晶粒微細化に加えて、SiおよびMnによるフェライト相の固溶強化と、Crが濃化した微細球状セメンタイトによる析出強化で、目標とする強度を得ることができる。
そして、鋼成分中のCrは球状セメンタイトの微細分散に寄与する。
後述する実施例の試験番号のうちで、本発明例の試験番号1〜12と、Si、MnおよびCrの合計含有量が少ない比較例22を用いて整理した図1に示すように、Si、MnおよびCrの合計含有量を1.2%以上とすることにより、引張強度600MPaを得ることができる。なお、図1では、Si、MnおよびCrの合計含有量を「Si+Mn+Cr」と表記した。
Si、MnおよびCrの合計含有量が1.2%未満の場合、目標とする強度を得ることができず、3.5%を超えた場合、強度向上は実現できるが、母材靱性の低下を招く。したがってSi、MnおよびCrの合計含有量を1.2〜3.5%とした。
本発明の高周波焼入れ用圧延鋼材の一つは、上記元素のほか、残部がFeおよび不純物からなる化学成分を有するものである。なお、既に述べたように、「Feおよび不純物」における「不純物」とは、鉄鋼材料を工業的に製造する際に原料としての鉱石もしくはスクラップまたは環境等から混入するものを指す。
本発明の高周波焼入れ用圧延鋼材の化学成分は、必要に応じてさらに、下記第1群および第2群の中から選ばれた1種以上の元素を含有するものとすることができる。
第1群:Cu:1.0%以下、Ni:3.0%以下およびMo:0.50%以下
第2群:Ti:0.10%以下、Nb:0.10%以下およびV:0.30%以下
すなわち、前記第1群および第2群のグループのうちの元素の1種以上を任意元素として含有する化学成分であってもよい。
以下、上記の任意元素に関して説明する。
第1群の元素であるCu、NiおよびMoは、高周波焼入れ性を向上させ、強度を高める作用を有するので、この効果を得るために上記の元素を含有させてもよい。以下、第1群の元素について詳しく説明する。
Cu:1.0%以下
Cuは、CおよびMnと同様に、高周波焼入れ性を向上させ、強度を高める作用を有するので、高強度化のためにCuを含有してもよい。しかしながら、Cuの含有量が1.0%を超えると熱間加工性を劣化させる。したがって、含有させる場合のCuの量を1.0%以下とした。なお、含有させる場合のCuの量は0.80%以下とすることが好ましい。
一方、前記したCuの強度向上効果を確実に得るためには、Cuの含有量は0.05%以上とすることが好ましく、0.10%以上とすれば一層好ましい。
Ni:3.0%以下
Niは、CおよびMnと同様に、高周波焼入れ性を向上させ、強度を高める作用を有するので、高強度化のためにNiを含有してもよい。しかしながら、Niの含有量が3.0%を超えるとその効果が飽和するので、コストが嵩むばかりである。したがって、含有させる場合のNiの量を3.0%以下とした。なお、含有させる場合のNiの量は2.0%以下とすることが好ましい。
一方、前記したNiの強度向上効果を確実に得るためには、Niの含有量は0.05%以上とすることが好ましく、0.10%以上とすれば一層好ましい。
Mo:0.50%以下
Moは、CおよびMnと同様に、高周波焼入れ性を向上させ、強度を高める作用を有するので、高強度化のためにMoを含有してもよい。しかしながら、Moの含有量が0.50%を超えた場合、前記の効果は飽和し、コストが嵩むばかりである。したがって、含有させる場合のMoの量を0.50%以下とした。なお、含有させる場合のMoの量は0.40%以下とすることが好ましい。
一方、前記したMoの強度向上効果を安定して得るためには、Moの含有量は0.05%以上とすることが好ましく、0.10%以上とすれば一層好ましい。
なお、上記のCu、NiおよびMoは、そのうちのいずれか1種のみ、または2種以上の複合で含有させることができる。なお、含有させる場合のこれらの元素の合計量は4.50%以下であってもよいが、3.20%以下とすることが好ましい。
次に、第2群の元素であるTi、NbおよびVは、結晶粒微細化作用を有するので、この効果を得るために上記の元素を含有させてもよい。以下、第2群の元素について詳しく説明する。
Ti:0.10%以下
Tiは、鋼中の炭素あるいは窒素と結合して炭化物、窒化物あるいは炭窒化物を形成し、熱間圧延あるいは高周波焼入れの際に結晶粒を微細化する作用を有するので、結晶粒微細化のためにTiを含有してもよい。しかしながら、0.10%を超える量のTiを含有させた場合、結晶粒の微細化効果は期待できるが、靱性の低下を招く。したがって、含有させる場合のTiの量を0.10%以下とした。なお、靱性低下の抑制という点から、含有させる場合のTiの量は0.08%以下とすることが好ましい。
一方、Tiの結晶粒微細化効果、なかでも高周波焼入れの際の結晶粒微細化効果を確実に発揮させるためには、Tiの含有量は0.010%以上とすることが好ましく、靱性低下の抑制という点から、0.015%以上とすれば一層好ましい。
Nb:0.10%以下
Nbは、鋼中の炭素あるいは窒素と結合して炭化物あるいは炭窒化物を形成し、結晶粒を微細化する作用を有する。また、Nbには、鋼の強度を向上させる作用もある。しかしながら、Nbの含有量が0.10%を超えるとその効果が飽和し、コストが嵩むのみならず、靱性の低下を招く。このため、含有させる場合のNbの量を0.10%以下とした。なお、含有させる場合のNbの量は0.080%以下とすることが好ましい。
一方、Nbの結晶粒微細化効果を安定して得るためには、Nbの含有量は0.01%以上とすることが好ましく、0.015%以上とすれば一層好ましい。
V:0.30%以下
Vは、鋼中の炭素あるいは窒素と結合して炭化物あるいは炭窒化物を形成し、結晶粒を微細化する作用を有する。また、Vには、鋼の強度を向上させる作用もある。しかしながら、Vの含有量が0.30%を超えるとその効果が飽和し、コストが嵩むのみならず、靱性の低下を招く。このため、含有させる場合のVの量を0.30%以下とした。なお、含有させる場合のVの量は0.25%以下とすることが好ましい。
一方、Vの結晶粒微細化効果を安定して得るためには、Vの含有量は0.01%以上とすることが好ましく、0.02%以上とすれば一層好ましい。
なお、上記のTi、NbおよびVは、そのうちのいずれか1種のみ、または2種以上の複合で含有させることができる。なお、含有させる場合のこれらの元素の合計量は0.50%以下であってもよいが、0.41%以下とすることが好ましい。
2.ミクロ組織:
前項で述べた化学成分を有する本発明の高周波焼入れ用圧延鋼材のミクロ組織は、フェライト、ラメラーパーライトおよび球状セメンタイトからなり、該フェライトの平均結晶粒径が10μm以下、ラメラーパーライトのミクロ組織に占める面積割合が20%以下(0%を含む)および球状セメンタイトの個数が6×105個/mm2以上でなければならない。
これは、化学成分に加えて、鋼材のミクロ組織を上記のものとすることによって、調質処理を行わずとも、高い強度と母材靱性を有し、高周波焼入れで生成する硬化層の靱性をも向上することができるからである。
本発明の高周波焼入れ用圧延鋼材においては、ミクロ組織に占めるラメラーパーライトが少なければ少ないほどよいが、ラメラーパーライトが面積割合で20%以下であれば、目標とする性能が得られる。一方、ラメラーパーライトが面積割合で20%を超えた場合には、母材靱性の低下を招く。したがって、ラメラーパーライトのミクロ組織に占める面積割合が20%以下(0%を含む)と規定した。
さらに、フェライトの平均結晶粒径が10μmを超えた場合には、目標とする強度と母材靱性を得ることが困難である。したがって、フェライトの平均結晶粒径を10μm以下とした。なお、フェライトの平均結晶粒径は、極力小さい方が結晶粒微細化による強化を図るうえで好ましいが、サブミクロンオーダーの結晶粒を形成するには、特殊な加工条件あるいは設備が必要となり工業的に実現することが困難である。したがって、工業上実現しうるサイズとして、フェライトの平均結晶粒径は1μm程度である。
一方、ミクロ組織に占めるラメラーパーライトおよびフェライトの平均結晶粒径が上記の条件を満たす場合、単位面積あたりの球状セメンタイトが強度と高周波焼入れ時の硬化層部の靱性に影響を及ぼす。
つまり、本発明の高周波焼入れ用圧延鋼材はCrを含有しており、セメンタイト中には0.5%程度のCrが固溶しており、このようなCrを固溶するセメンタイトは高周波焼入れ時の短時間の加熱ではマトリックスに固溶しにくく、結晶粒成長のピンニング効果を有する。しかしながら、球状セメンタイトの個数が6×105個/mm2より少ない場合には、目標とする強度が得られず、また、高周波焼入れ時の硬化層における結晶粒成長の抑制効果が十分発揮できず、目標とする硬化層の靱性が得られない。したがって、球状セメンタイトの個数を6×105個/mm2以上と規定した。なお、球状セメンタイトの個数は多いほど好ましいが、実質的には1×107個/mm2が上限である。
既に述べたように、「球状セメンタイト」とは、長径Lと短径Wの比(L/W)が2.0以下であるセメンタイトを指し、単位面積あたりの球状セメンタイトの個数については、以下の方法によって算出することができる。
先ず、圧延鋼材の中心軸を通り、圧延方向に平行に切り出した断面(以下、「縦断面」という。)が被検面になるように樹脂に埋め込み、鏡面研磨した後、ピクリン酸アルコール(ピクラル液)で腐食して、倍率を5000倍として走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて10視野についてミクロ組織画像を撮影する。このとき、各視野の面積は25μm×20μmである。
そして次に、上記の撮影画像を用いて、画像処理ソフトによって各セメンタイトの長径Lと短径Wとを個々に測定し、L/Wが2.0を超えるものはラメラーを形成しているため、L/Wが2.0以下であるセメンタイト、つまり、球状セメンタイトの個数をカウントして、最終的に面積1mm2あたりの球状セメンタイトの個数(個/mm2)として算出する。
なお、セメンタイト中に固溶しているCr量は、電解抽出残渣から算出することができる。例えば、10%AA系電解液(10%アセチルアセトン、1%テトラアンモニウムクロライド/メタノール)を用いて電解し、0.2μmのフィルターで残渣を採取し、次に、採取された残渣の質量を測定するとともに、酸分解処理後、ICP−AES(高周波誘導結合プラズマ原子分光分析)を行って、残渣中のFe、Cr、Mnの質量を測定する。そして、残渣がすべてM3C型の炭化物、つまり、セメンタイトであると仮定してセメンタイト中の質量を算出すれば、最終的にセメンタイト中に固溶しているCr量を算出することができる。この方法で本発明の高周波焼入れ用圧延鋼材のセメンタイト中には前述した0.5%程度のCrが固溶していることが判明した。
3.高周波焼入れ用圧延鋼材の製造方法:
前項で述べた本発明の高周波焼入れ用圧延鋼材のミクロ組織は、例えば、既に述べた化学成分を有する被圧延材を、次に述べる圧延方法で熱間圧延し、冷却することによって容易に得ることができる。
なお、熱間圧延方法としては、2以上の圧延工程を備える全連続式熱間圧延方法が、本発明の高周波焼入れ用圧延鋼材を工業的に製造するのに適している。このため、以下の説明は、上述した全連続式熱間圧延方法による圧延(以下、単に「全連続式熱間圧延」という。)をベースにして行うこととする。
3.1.加熱条件:
既に述べた化学成分を有する被圧延材を、オーステナイトとフェライトが主たる構成相となる670〜810℃の温度域に加熱した後、全連続式熱間圧延を開始する。
この加熱により、被圧延材、すなわち、全連続式熱間圧延によって所定の形状に加工する前の鋼材中に存在していたパーライト中のセメンタイトを、鋼成分の調整、特にCr量の適正化で安定化できるとともに、オーステナイトのマトリックス中にセメンタイトを全て固溶させることなく残存させることができる。
上記のオーステナイト中に残存したセメンタイトは、全連続式熱間圧延過程で、加工誘起セメンタイトの析出サイトとなり、全連続式熱間圧延終了段階では、加工されたオーステナイトのマトリックス中に、微細な粒状または球状のセメンタイトとして存在することになる。この全連続式熱間圧延終了段階での微細な粒状または球状のセメンタイトの存在が、冷却過程での層状セメンタイトの形成を抑制し、最終的には靱性の向上に繋がるのである。
したがって、既に述べた化学成分を有する被圧延材を、オーステナイトとフェライトが主たる構成相となる670〜810℃の温度域に加熱した後、全連続式熱間圧延を開始することとした。
なお、熱間圧延前に行う、上記の670〜810℃という温度域での加熱においては、被圧延材(素材)の温度を所定の領域まで上昇させるだけではなく、素材の断面内温度を均一にするために、長時間にわたる加熱処理が行われることがあり、この場合には、素材表面にフェライト脱炭が生じることがある。したがって、上記フェライト脱炭を抑止するために、上記温度域での加熱時間は3時間以下とすることが好ましい。
3.2.加熱後の全連続式熱間圧延条件:
高周波焼入れ用圧延鋼材のミクロ組織を所望のものとするためには、既に述べた化学成分を有する被圧延材を、前記「3.1.」項に記載した条件で加熱した後、2以上の圧延工程を備える全連続式熱間圧延方法により圧延を行うに際して、当該全連続式熱間圧延方法が、下記の条件〔1〕および〔2〕を満たすようにするのがよい。
〔1〕各圧延工程中の被圧延材の表面温度が、650〜810℃の温度範囲内であること、
〔2〕総減面率が30%以上であること。
これは、全連続式熱間圧延前の加熱段階で、圧延素材である被圧延材に存在していたパーライト中のセメンタイトを、マトリックス中に全て固溶させてしまうのではなく、微細な粒状または球状の状態で可能な限り残存させ、全連続式熱間圧延の過程で、上述の残存したセメンタイトを圧延加工中に析出するセメンタイトの析出サイトとして活用し、該熱間圧延時に旧オーステナイト粒界および旧オーステナイト粒内に、セメンタイトを加工誘起析出させ、さらに成長させることで、該熱間圧延の終了段階でオーステナイト中に球状のセメンタイトを存在させることができるからである。
つまり、全連続式熱間圧延における温度を制御し、加えて、該圧延による総減面率を特定の値以上にして、加工誘起析出を促進させることによって、前述した加熱の段階で残存する微細な粒状あるいは球状のセメンタイト、さらには、該熱間圧延の段階で加工誘起析出したセメンタイトをオーステナイト中に固溶させないようにできるからである。
すなわち、全連続式熱間圧延温度は、オーステナイトとフェライトとの2相組織と、非平衡なセメンタイトの3相組織を保つとともに、該熱間圧延中にセメンタイトが固溶せず、むしろ加工誘起析出するように調整するのがよく、そのためには、該熱間圧延前に被圧延材を前述の670〜810℃の温度域に加熱して、オーステナイト、フェライトおよび残存セメンタイトの組織にしたうえ、該熱間圧延の温度をオーステナイトとフェライトが主たる構成相として存在しうる温度域の低温側に管理するのがよい。
ここで、全連続式熱間圧延温度を上記のオーステナイトとフェライトが主たる構成相として存在しうる温度域の低温側にするのは、多くの転位の導入が可能で、しかも、フェライト相に導入された転位は、フェライトの動的再結晶に活用され、フェライト粒の微細化が促進され、オーステナイトに導入された転位は、容易には消失せずに旧オーステナイト粒界および旧オーステナイト粒内に残存するセメンタイトの付近に集積することとなるので転位密度が高くなり、その残存セメンタイトの近傍でオーステナイトからセメンタイトが優先的に析出することになる、つまり、加工誘起析出に活用されることとなるからである。
そして、上述の効果は、オーステナイトとフェライトが主たる構成相として保持された状態で発現でき、このためには、先ず、全連続式熱間圧延における各圧延工程中の被圧延材の表面温度の上限を810℃とするのがよい。
すなわち、各圧延工程中の被圧延材の表面温度が810℃を超える場合には、該熱間圧延で導入された転位は、オーステナイトの回復再結晶に伴い容易に消失してしまうので、セメンタイトが十分に加工誘起析出できず、前記の効果が得難くなる。
一方、各圧延工程中の被圧延材の表面温度が650℃より低い場合には、多くの転位を導入できるものの、その温度で保持されることによって、オーステナイトがパーライト変態を開始してしまう。そして、変態によって生じたパーライトを圧延加工した場合には、パーライト組織を構成する層状セメンタイトの一部はわずかに分断されるものの、セメンタイトのアスペクト比はあまり小さくはならない。しかも、パーライトの変形抵抗は極めて大きいので、ミル負荷が極めて増大してしまう。したがって、各圧延工程中の被圧延材の表面温度の下限は、650℃以上とするのがよい。
なお、全連続式熱間圧延方法の場合には、圧延に伴う加工発熱のために被圧延材の中心部の温度が上昇してしまうが、その場合であっても、最初の圧延工程から最後の圧延工程までの間に1以上の中間冷却工程を設け、連続圧延の途中段階で中間冷却を行うことによって、被圧延材の中心部温度を所望の温度に制御して、主たる構成相をオーステナイトとフェライトとなる状態を維持することができる。
一方、全連続式熱間圧延の途中段階で中間冷却を行う場合に、被圧延材の表面温度が低下しすぎると、当該冷却途中あるいは当該冷却終了後に前記の主たる構成相であるオーステナイトとフェライトにおけるオーステナイトがパーライト変態を開始し、その後の圧延で当該パーライトを加工することになってしまう。この場合には、パーライト組織を構成する層状セメンタイトの一部はわずかに分断されるものの、セメンタイトのアスペクト比はあまり小さくはならないし、パーライトの変形抵抗は極めて大きいので、ミル負荷が極めて増大してしまう。さらに、被圧延材の温度がより低下すると、前記オーステナイトがベイナイト、マルテンサイトといった硬質相に変態することとなる。硬質相への変態が生じると、該硬質相が圧延加工されることになるので、圧延途中で被圧延材の表面に割れが生じてしまう。
しかしながら、水冷などによる中間冷却工程中に、被圧延材の表面温度が650℃を一時的に下回っても、オーステナイトは直ちにパーライト変態を開始するわけではない。中間冷却工程において、冷却開始から冷却終了後被圧延材の表面温度が650℃以上の温度に復熱するまでの時間Δtが実質的に10sを超えなければ、オーステナイトは前記変態を開始しない。そして、全連続式熱間圧延の途中段階での中間冷却によって被圧延材の表面が、「過冷状態」、すなわち温度低下した場合であっても、続く圧延工程開始時の被圧延材の表面温度が650℃以上に復熱しておれば、被圧延材の表面の組織をオーステナイトとフェライトが主たる構成相となる状態のままにすることができる。
したがって、全連続式熱間圧延における各圧延工程中の被圧延材の表面温度は、前記の条件〔1〕、つまり、「650〜810℃の範囲内であること」を満たすこととした。
前記各圧延工程中の被圧延材の表面温度が650〜810℃の温度範囲にあっても、圧延加工による変形が進行した場合には、主たる構成相を安定してオーステナイトとフェライトの状態に維持し難くなる場合がある。このため、2以上の圧延機列において、特に後段側の圧延機列、例えば、「粗圧延機列−仕上げ圧延機列」の場合における「仕上げ圧延機列」、あるいは、「粗圧延機列−中間圧延機列−仕上げ圧延機列」の場合における「中間圧延機列」および「仕上げ圧延機列」においては、安定かつ確実にオーステナイトとフェライトが主たる構成相として維持するために、圧延工程中の被圧延材の表面温度は、650〜790℃であることが好ましい。
フェライトの結晶粒微細化、さらには、球状セメンタイトの分散とラメラーセメンタイトの抑制をより安定して行うためには、上述の2以上の圧延機列における後段側の圧延機列での圧延工程中の被圧延材の表面温度は、650〜770℃であることがさらに好ましい。
前記の条件〔1〕を満足していても、全連続式熱間圧延における総減面率が30%未満の場合には、加工に伴う転位の導入が不十分であるため、旧オーステナイト粒界および旧オーステナイト粒内に微細なセメンタイトを加工誘起析出させることができないことがある。
上記の理由から、総減面率が前記の条件〔2〕、つまり、「30%以上」も満たすこととした。
全連続式熱間圧延における総減面率は、加工誘起析出によりオーステナイトから安定して微細なセメンタイトを析出させる理由から、60%以上であることが好ましい。全連続式熱間圧延における総減面率の上限は、総減面率を極端に大きくすると、仕上げ圧延機に近づくにつれて、圧延速度が増加し、加工発熱が生じ、加工発熱の抑制のため、冷却設備あるいは圧延レイアウトの大幅な延長、増設が必要となる理由から、99.5%程度となる。
3.3.全連続式熱間圧延終了後の最終冷却条件:
高周波焼入れ用圧延鋼材のミクロ組織を所望のものとするためには、既に述べた化学成分を有する被圧延材を、前記「3.1.」項に記載した条件で加熱した後、前記「3.2.」項に記載した条件で全連続式熱間圧延を行って所定の形状にした後、400℃までの温度域を冷却速度が5℃/s以下の条件で最終冷却するのがよい。
全連続式熱間圧延終了後、つまり、最終圧延工程における圧延を終了した後、400℃までの温度域の最終冷却速度が5℃/sを超える場合には、当該冷却時においてパーライト変態を抑制することができなくなって、ミクロ組織に占めるラメラーパーライトの面積割合が20%を超えるようになる場合がある。なお、最終冷却速度が極めて大きくなった場合には、パーライト変態ではなく、ベイナイト変態やマルテンサイト変態が生じるため、層状セメンタイトの析出は抑制できるものの、圧延材の硬さが高くなりすぎるので、靱性の低下を招くことになる。したがって、所定の形状への圧延を終了した後、400℃までの温度域を冷却速度が5℃/s以下の条件で最終冷却するのがよい。
なお、上述の5℃/s以下の冷却速度で最終冷却する温度域は圧延後400℃までとすれば十分であって、400℃を下回る温度域については特に規定するに及ばない。このため、製造設備や生産性を勘案して、例えば、空冷(放冷)、強制風冷やミスト冷却などから適宜決定すればよい。
また、上記の400℃までの温度域の最終冷却速度の下限は、冷却速度を遅くすれば、パーライトの抑制効果が大きくなるが、冷却速度を遅くするための温度制御設備が必要となり、結果として製造コストの増加を招くことから、1℃/minとするのが好ましい。
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明する。
表1に示す化学成分を有する鋼A〜Wからなる角ビレット(160mm角で長さが10m)を準備した。
Figure 0005459064
前記の角ビレットを、下記の各圧延機列の間に冷却設備を備えた全連続式熱間圧延ラインによって、表2に試験番号1〜28として示した条件で「総減面率」が95.1%の熱間圧延を行い、直径40mmの棒鋼に加工した。
・粗圧延機列:6台の圧延機で構成、
・第一中間圧延機列:2台の圧延機で構成、
・第二中間圧延機列:4台の圧延機で構成、
・仕上げ圧延機列:2台の圧延機で構成。
なお、放射温度計を用いて圧延時の被圧延材の表面温度および連続圧延終了後の冷却過程での被圧延材の表面温度を測定した。そして、圧延および冷却の各段階での被圧延材の表面部および中心部の温度履歴について、前記の放射温度計で測定した表面温度測定値、各中間冷却設備における冷却条件、各中間冷却設備を出た後の大気中での冷却条件および圧延条件を考慮して、差分法による数値解析を行った。
連続圧延終了後、つまり、仕上げ圧延機列の2台目の圧延機による圧延を終了した後は、大気中で放冷するか、風冷など冷却媒体を変化させることによって冷却速度を制御し、400℃まで最終冷却した。なお、その後の冷却は大気中で放冷した。
なお、表2において粗圧延機列、第一中間圧延機列、第二中間圧延機列および仕上げ圧延機列をそれぞれ、「粗列」、「第一中間列」、「第二中間列」および「仕上列」と表記し、粗圧延機列と第一中間圧延機列との間の冷却設備を「冷却設備1」、第一中間圧延機列と第二中間圧延機列との間の冷却設備を「冷却設備2」、また、第二中間圧延機列と仕上げ圧延機列の間の冷却設備を「冷却設備3」と表記した。
なお、表2に記載の圧延開始温度、入側温度、出側温度および圧延終了温度は、放射温度計を用いて測定した被圧延材の表面温度であり、連続圧延終了後の400℃までの冷却速度は、放射温度計を用いて測定した被圧延材の表面温度と、400℃までの冷却時間により求めた。中間冷却工程において、冷却開始から冷却終了後被圧延材の表面温度が650℃以上に復熱するまでの時間Δtは、放射温度計で測定した表面温度測定値、各中間冷却設備における冷却条件、各中間冷却設備を出た後の大気中での冷却条件および圧延条件を考慮して、差分法による数値解析によって求めた被圧延材表面の温度履歴から算出して記載したものである。
Figure 0005459064
さらに、上記のようにして得た各棒鋼について、次に示す方法で、ミクロ組織、セメンタイト中に固溶しているCr量、引張特性、衝撃特性および高周波焼入れで生成した硬化層の靱性を調査した。
ミクロ組織調査は次のようにして実施した。
すなわち、先ず、直径40mmの各棒鋼から長さが20mmの試験片を切り出し、これらの試験片の中心軸を通り、縦断面が被検面になるように樹脂に埋め込み、鏡面研磨した後、3%硝酸アルコール(ナイタル液)で腐食してミクロ組織を現出させ、光学顕微鏡あるいはSEM観察を行い、ミクロ組織を構成している相の識別を行った。
ミクロ組織を構成している相が、フェライト、ラメラーパーライトおよびセメンタイトからなる場合には、再度鏡面研磨した後、ピクリン酸アルコール(ピクラル液)で腐食して、倍率を5000倍としてSEMを用いて10視野についてミクロ組織画像を撮影した。なお、各視野の面積は25μm×20μmである。
また、同じ試験片を用いて、試験片表層部の脱炭の生成有無を確認した。すなわち、各試験片をナイタル液で腐食して、光学顕微鏡を用いて、観察倍率を400倍として、試験片表層部を8視野観察し、トータル脱炭深さDM−Tを測定した後、その算術平均値にてトータル脱炭層深さDM−Tを評価した。このDM−Tが0.2mm以上の場合を脱炭が生じたと判定した。
次に、上記の撮影画像を用いて、画像処理ソフトによってミクロ組織に占めるラメラーパーライトの面積割合およびフェライトの平均結晶粒径を求めるとともに、各セメンタイトの長径Lと短径Wとを個々に測定し、L/Wが2.0以下であるセメンタイト、つまり、球状セメンタイトの個数をカウントして、最終的に面積1mm2あたりの球状セメンタイトの個数(個/mm2)を算出した。
セメンタイト中に固溶しているCr量は、10%AA系電解液を用いて電解を行い、その抽出残渣から既に述べた方法によって算出した。
引張特性は、直径40mmの各棒鋼の半径方向1/2の部位が試験片の中心軸となるように、JIS Z 2201(1998)に規定される14A号試験片(ただし、平行部直径:7mm)を採取し、標点距離を35mmとして室温で引張試験を実施し、引張強度(MPa)を求めた。
衝撃特性は、引張試験片と同様に、直径40mmの各棒鋼の半径方向1/2の部位が試験片の中心軸となるように、2mmUノッチシャルピー衝撃試験片を採取し、25℃でシャルピー衝撃試験を実施して衝撃値(J/cm2)を求めた。
高周波焼入れで生成した硬化層の靱性調査は次のようにして実施した。
すなわち、先ず、2mmUノッチシャルピー衝撃試験片を上述したようにして採取し、Uノッチ部における硬化層深さ(ビッカース硬さ450となる表面からの深さ)が1mmとなるように、高周波焼入れの条件を種々調整して高周波焼入れした。その後、実部品の場合と同様に、高周波焼入れ後の割れの防止を目的として、180℃で2時間の焼戻し処理を行った。
次いで、上記の高周波焼入れ後に焼戻しを行った試験片を用いて、図2に示すように、支点間距離50mm、押し込み速度0.5mm/minで3点曲げ試験を行い、「荷重−ストローク(押し込み距離)曲線」を採取し、ポップイン、すなわち、微小なき裂が生じて、荷重が変動した際の荷重を「き裂発生荷重」とし、この荷重によって高周波焼入れで生成した硬化層の靱性を評価した。
なお、既に述べたように、引張特性、衝撃特性および高周波焼入れで生成した硬化層の靱性の目標は、それぞれ、引張強度が600MPa以上、衝撃値が150J/cm2以上およびき裂発生荷重が10kN以上である。
表3および表4に、上記の各調査結果を示す。なお、表3および表4の「評価」欄における「○」印は上述した引張特性、衝撃特性および高周波焼入れで生成した硬化層の靱性の目標を全て満足していることを指し、一方、「×」印は上記の目標のうち一つでも満足できていないことを指す。
また、図1に、実施例の試験番号のうちで、試験番号1〜12および試験番号22を用いて、引張強度(MPa)とSi、MnおよびCrの合計含有量との関係を整理して示す。図1では、Si、MnおよびCrの合計含有量を「Si+Mn+Cr」と表記した。
Figure 0005459064
Figure 0005459064
表3から、本発明で規定する化学成分とミクロ組織の条件を満たす試験番号1〜12の棒鋼の場合、その評価は「○」であって、調質処理を行うことなく、所望の特性、すなわち、引張強度が600MPa以上、2mmUノッチシャルピー衝撃試験片を用いたシャルピー衝撃試験における試験温度25℃での衝撃値が150J/cm2以上という優れた機械的特性、さらには、高周波焼入れで生成した硬化層のき裂発生荷重が10kN以上という硬化層の靱性にも優れた圧延鋼材を安価に安定して得ることができることが明らかである。
これに対して、表4から、本発明で規定する化学成分とミクロ組織の条件の少なくともいずれかから外れた試験番号13〜28の棒鋼の場合、その評価は「×」であって、所望の特性が得られておらず、調質処理の省略化はできないことが明らかである。
すなわち、試験番号13の場合は、用いた鋼MのC含有量が0.35%と低く、本発明で規定する値を下回るものである。このため、高周波焼入れで生成した硬化層の強度が低く、き裂発生荷重が8kNと低い。
試験番号14の場合、用いた鋼NのC含有量が0.58%と高く、本発明で規定する値を上回るものである。このため、母材のシャルピー衝撃値は140.0J/cm2と低く、さらに、高周波焼入れで生成した硬化層の靱性が低下して、き裂発生荷重は6kNと低い。
試験番号15の場合、用いた鋼OのSi含有量が1.20%と高く、本発明で規定する値を上回るものである。このため、A3変態点が上昇し、高周波焼入れで生成した硬化層内にフェライトが残存するため、強度が低下して、き裂発生荷重は5kNと低い。また、Si含有量が高いため、圧延鋼材表面には脱炭が生じていた。
試験番号16の場合、用いた鋼PのMn含有量が0.10%と低く、本発明で規定する値を下回るものである。このため、高周波焼入れ性が低く、高周波焼入れで生成した硬化層内に微細パーライト組織が存在してしまい、硬化層の靭性が低下し、き裂発生荷重が4kNと低い。
試験番号17および試験番号21の場合は、用いた鋼Qおよび鋼UのCeqの値がそれぞれ、1.26および1.34と高く、本発明で規定する値を上回るものである。このため、母材のシャルピー衝撃値はそれぞれ、110.0J/cm2および125.0J/cm2と低い。
試験番号18の場合、用いた鋼RのN含有量が0.002%と低く、本発明で規定する値を下回るものである。このため、AlNの形成量が少なく、高周波焼入れ時の結晶粒粗大化抑制効果が不十分となって、高周波焼入れで生成した硬化層の靱性が低下し、き裂発生荷重は5kNと低い。
試験番号19の場合、用いた鋼SのCr含有量が0.05%と低く、本発明で規定する値を下回るものである。このため、加熱段階や圧延途中段階でセメンタイトが残存することができないため、圧延終了後の冷却過程で、オーステナイトが、容易にパーライト変態してミクロ組織に占めるラメラーパーライトの面積割合が25%と本発明で規定する割合を超えてしまい、母材のシャルピー衝撃値は70.0J/cm2と低い。さらに、Crが濃化した球状セメンタイトの個数が4.5×105個/mm2と少なく、本発明で規定する量を下回るため、高周波焼入れで生成した硬化層の靱性が低下し、き裂発生荷重が6kNと低い。
試験番号20の場合、用いた鋼TのCr含有量が2.20%と高く、本発明で規定する値を上回るものである。このため、球状セメンタイトを微細分散でき、高い母材強度が得られるものの、母材のシャルピー衝撃値は140.0J/cm2と低い。
試験番号22の場合、用いた鋼VのSi、MnおよびCrの合計含有量が1.07%と低く、本発明で規定する値を下回るものである。このため、母材の引張強度は580MPaと低い。
試験番号23および試験番号24の場合は、用いた鋼Aの化学成分は本発明で規定する条件を満たすものの、いずれも、ミクロ組織の条件から外れている。すなわち、これらの試験番号については、いずれも、フェライトの平均結晶粒径とラメラーパーライトのミクロ組織に占める面積割合が本発明で規定する条件を上回り、一方、球状セメンタイトの個数は本発明で規定する条件を下回っている。このため、母材のシャルピー衝撃値はそれぞれ、90.0J/cm2および55.0J/cm2と低く、さらに、高周波焼入れで生成した硬化層の靱性が低下し、き裂発生荷重は、それぞれ8kNおよび5kNと低い。
試験番号25の場合も、用いた鋼Aの化学成分は本発明で規定する条件を満たすものの、ラメラーパーライトのミクロ組織に占める面積割合が本発明で規定する条件を上回り、一方、球状セメンタイトの個数は本発明で規定する条件を下回っている。このため、母材のシャルピー衝撃値は45.0J/cm2と低く、さらに、高周波焼入れで生成した硬化層の靱性が低下し、き裂発生荷重は、6kNと低い。
試験番号26の場合、用いた鋼Bの化学成分は本発明で規定する条件を満たすものの、ラメラーパーライトのミクロ組織に占める面積割合が45%で本発明で規定する条件を上回り、一方、球状セメンタイトの個数は本発明で規定する条件を下回っている。このため、母材のシャルピー衝撃値は55.0J/cm2と低く、さらに、高周波焼入れで生成した硬化層の靱性が低下し、き裂発生荷重は、8kNと低い。
試験番号27の場合、用いた鋼Cの化学成分は本発明で規定する条件を満たすものの、パーライト変態しなかったため硬質相であるベイナイトを生成している。このため、母材のシャルピー衝撃値は105.0J/cm2と低く、さらに、高周波焼入れで生成した硬化層の靱性が低下し、き裂発生荷重は、5kNと低い。
試験番号28の場合は、用いた鋼WのC含有量が0.35%と低く、本発明で規定する値を下回るものである。このため、高周波焼入れで生成した硬化層の強度が低く、き裂発生荷重が5kNと低い。
本発明の高周波焼入れ用圧延鋼材は、必ずしも高価なVを含有させる必要がなく、しかも、調質処理を行わずとも、圧延鋼材の状態で引張強度が600MPa以上、および2mmUノッチシャルピー衝撃試験片を用いたシャルピー衝撃試験における試験温度25℃での衝撃値が150J/cm2以上という特性を有し、さらに、高周波焼入れの際に粒成長が起こりにくいため硬化層の靱性にも優れるので、高周波焼入れを行って用いられる曲げ強度および衝撃特性が要求されるラックバー等の部品の素材として用いるのに好適である。この高周波焼入れ用圧延鋼材は、本発明の方法によって安価に安定して製造することができる。

Claims (4)

  1. 質量%で、C:0.38〜0.55%、Si:1.0%以下、Mn:0.20〜2.0%、P:0.020%以下、S:0.10%以下、Cr:0.10〜2.0%、Al:0.010〜0.10%およびN:0.004〜0.03%を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、下記の(1)式で表されるCeqの値が1.20以下およびSi、MnおよびCrの合計含有量が1.2〜3.5%を満たす化学成分を有し、ミクロ組織がフェライト、ラメラーパーライトおよび球状セメンタイトからなり、該フェライトの平均結晶粒径が10μm以下であり、ラメラーパーライトのミクロ組織に占める面積割合が20%以下(0%を含む)であり、かつ、球状セメンタイトの個数が6×10個/mm以上であることを特徴とする高周波焼入れ用圧延鋼材。
    Ceq=C+(1/10)Si+(1/5)Mn+(5/22)Cr+1.65V−(5/7)S・・・(1)
    ただし、上記(1)式中の、C、Si、Mn、Cr、VおよびSは、それぞれの元素の質量%での含有量を表す。また、上記球状セメンタイトとは、長径Lと短径Wの比(L/W)が2.0以下であるセメンタイトを指す。
  2. 化学成分が、質量%で、さらに、Cu:1.0%以下、Ni:3.0%以下およびMo:0.50%以下のうちの1種以上の元素を含有することを特徴とする請求項1に記載の高周波焼入れ用圧延鋼材。
  3. 化学成分が、質量%で、さらに、Ti:0.10%以下、Nb:0.10%以下およびV:0.30%以下のうちの1種以上の元素を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高周波焼入れ用圧延鋼材。
  4. 請求項1から3までのいずれかに記載の化学成分を有する被圧延材を、670〜810℃の温度域に加熱した後、2以上の圧延工程を備える全連続式熱間圧延方法により圧延し、さらに、最終圧延工程における圧延を終了した後、400℃までの温度域を5℃/s以下の冷却速度で冷却して、
    フェライト、ラメラーパーライトおよび球状セメンタイトからなり、該フェライトの平均結晶粒径が10μm以下であり、ラメラーパーライトのミクロ組織に占める面積割合が20%以下(0%を含む)であり、かつ、球状セメンタイトの個数が6×10 個/mm 以上であるミクロ組織を有する高周波焼入れ用圧延鋼材製造する方法であって、
    該全連続式熱間圧延方法が、下記の〔1〕および〔2〕を満足することを特徴とする高周波焼入れ用圧延鋼材の製造方法。
    〔1〕各圧延工程中の被圧延材の表面温度が、650〜810℃の温度範囲内であること
    〔2〕総減面率が30%以上であること
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