(第1実施形態)
以下、図1〜図13に従って、系統連系用電力変換装置の第1実施形態について説明する。
図1は、本実施形態における太陽光発電システム10を示す。太陽光発電システム10は、太陽光発電パネルPVで発電した直流電力を、パワーコンディショナ(パワコン)11にて系統周波数(50Hz又は60Hz)の三相交流電力に変換し、変換した交流電力を商用電力系統Lsに出力するものである。パワコン11は、例えば電圧型電流制御方式を採用している。
パワコン11は、配線用遮断器(MCCB:Molded Case Circuit Breaker)12と、直流−交流電力変換器であるインバータ13と、平滑用フィルタ14と、スイッチ15と、MCCB16とを有している。また、パワコン11は、電流検出器17と、電圧検出器19と、これら電流検出器17及び電圧検出器19の検出結果に基づいて、インバータ13を制御する制御装置20とを有している。
MCCB12は、太陽光発電パネルPVとインバータ13との間の電路に介在して設けられている。MCCB12は、パワコン11を太陽光発電パネルPVに接続、又はパワコン11を太陽光発電パネルPVから切断するための遮断器である。MCCB12は、例えば、太陽光発電パネルPVの故障や制限を超えた劣化等を検出したときに、太陽光発電パネルPVとインバータ13との間の電路を遮断する。
インバータ13は、半導体スイッチング素子(図示略)を複数用いた三相ブリッジ回路にて構成されている。インバータ13には、MCCB12の電路が導通状態のときに、発電にて得られた太陽光発電パネルPVからの直流電力がコンデンサC1を経て入力される。コンデンサC1は、例えば電解コンデンサである。インバータ13は、制御装置20から出力される制御パルスPWMによるスイッチング制御(PWM制御)に基づいて、入力された直流電力をその時々の電力系統Lsの状況に応じた三相交流電力に変換し、その三相交流電力を平滑用フィルタ14に出力する。
平滑用フィルタ14は、インバータ13とスイッチ15との間に直列に接続されたリアクトルL1,L2と、それらリアクトルL1,L2間の接続点に接続されたコンデンサC2とを有するT型フィルタ(L−C−Lフィルタ)である。平滑用フィルタ14は、インバータ13から入力する三相交流電力の高周波成分を除去し、正弦波電圧波形を生成する。そして、平滑用フィルタ14は、高周波成分を除去した三相交流電力を、スイッチ15及びMCCB16を介して電力系統Lsに出力する。
スイッチ15及びMCCB16は、平滑用フィルタ14と電力系統Lsとの間の電路に介在して設けられている。また、スイッチ15とMCCB16とは直列に接続されている。スイッチ15は、パワコン11を電力系統Lsに接続、又はパワコン11を電力系統Lsから切断するためのスイッチである。スイッチ15は、例えば、電力系統Lsの電圧が設定値よりも高い場合や停電などで電力系統Lsの電圧が設定値よりも低い場合に、パワコン11と電力系統Lsとの間の電路を遮断する。なお、スイッチ15は、例えばマグネットスイッチである。
MCCB16は、パワコン11の制御電源を含めて電力系統Lsから完全に切り離すための遮断器である。
電流検出器17は、インバータ13から出力される三相の出力電流Iiを所定のサンプリング周期で検出し、検出した出力電流Iiを制御装置20に出力する。電流検出器17としては、例えば変流器(CT:Current Transformer)を用いることができる。なお、電流検出器17におけるサンプリング周波数は、例えば6kHz程度とすることができる。
電流検出器18は、平滑用フィルタ14の後段、つまり電力系統Lsとの連系点における三相の系統電流Is(例えば、系統電流Isの線電流Iu,Iv,Iw)を所定のサンプリング周期で検出し、検出した系統電流Isを制御装置20に出力する。電流検出器18としては、例えば変流器を用いることができる。なお、電流検出器18におけるサンプリング周期は、例えば6kHz程度とすることができる。
電圧検出器19は、平滑用フィルタ14(スイッチ15)の後段、つまり電力系統Lsとの連系点における系統電圧Vs(例えば、系統電圧Vsの線間電圧Vuv,Vvw,Vwu)を所定のサンプリング周期で検出し、検出した系統電圧Vsを制御装置20に出力する。電圧検出器19としては、例えば計器用変圧器(VT:Voltage Transformer)を用いることができる。なお、電圧検出器19におけるサンプリング周波数は、例えば6kHz程度とすることができる。
制御装置20には、太陽光発電パネルPVとインバータ13との間に設けられたコンデンサC1の充電電圧Vdcが入力される。制御装置20は、直流電圧である充電電圧Vdcと、電流検出器17からの出力電流Iiと、電流検出器18からの系統電流Isと、電圧検出器19からの系統電圧Vsとに基づいて、インバータ13をPWM制御する制御パルスPWMを生成する。
図2に示すように、制御装置20では、上記電圧検出器19で検出された系統電圧VsがΔ−Y変換部21にサンプリング周期毎に入力される。Δ−Y変換部21は、系統電圧VsをΔ−Y変換して相電圧Vu,Vv,Vwを生成し、相電圧Vu,Vv,Vwを三相/二相(3Φ/2Φ)変換部22に出力する。
三相/二相変換部22は、相電圧Vu,Vv,Vwを、αβ軸の固定座標系の二相電圧値Vsα,Vsβに変換する(αβ変換)。三相/二相変換部22は、上記二相電圧値Vsα,Vsβを、バンドパスフィルタ(BPF)23と演算器38とに出力する。
BPF23は、二相電圧値Vsα,Vsβから特定の周波数帯域を通過させるフィルタ回路である。例えば、BPF23は、二相電圧値Vsα,Vsβからひずみ(ここでは、高周波成分)を除去し、その信号を瞬時正相変換部24に出力する。BPF23では、例えば、系統周波数が50Hzである場合には中心周波数が50Hzに設定され、系統周波数が60Hzである場合には中心周波数が60Hzに設定される。また、BPF23では、Q値を例えば1.0程度に設定することができる。
瞬時正相変換部24は、BPF23を通過した二相電圧値Vsα,Vsβを瞬時正相電圧Vpα,Vpβに変換する(瞬時正相変換)。瞬時正相変換部24は、瞬時正相電圧Vpα,Vpβを極座標変換部25に出力する。以下に、瞬時正相変換部24による瞬時正相変換について簡単に説明する。ここでは、説明の便宜上、BPF23から入力する二相電圧値をVsα,Vsβとして説明する。
瞬時正相変換部24は、BPF23から入力する二相電圧値Vsα,Vsβと、二相電圧値Vsα,Vsβの位相を1/4サイクル(つまり、系統周波数(例えば、50Hz)で90度)遅らせた電圧値Vsα’,Vsβ’とから、以下の変換式を用いて瞬時正相電圧Vpα,Vpβを算出する。
極座標変換部25は、極座標変換により瞬時正相電圧Vpα,Vpβから位相情報θ1と振幅情報V1とを算出する。例えば、極座標変換部25は、以下の式(2)を用いて振幅情報V1を算出するとともに、以下の式(3)を用いて位相情報θ1を算出する。
そして、極座標変換部25は、振幅情報V1を電圧低下検出部26に出力する一方、位相情報θ1を位相変動検出部27及び位相置換部28に出力する。
このように、本例の制御装置20では、Δ−Y変換、αβ変換、瞬時正相変換及び極座標変換を用いて、系統電圧Vsから位相情報θ1(位相瞬時値)及び振幅情報V1が算出される。
電圧低下検出部26は、サンプリング周期毎に入力される振幅情報V1に基づいて、電力系統Lsにて瞬時電圧低下(瞬低)を含む所定レベル以上の電圧低下異常が生じているか否かを検出する。例えば、電圧低下検出部26は、位相検出が可能な程度の電圧レベルまで系統電圧Vsが低下する電圧低下異常を検出したときにHレベルの検出信号S1を生成する。また、電圧低下検出部26は、位相検出が困難な電圧レベルまで系統電圧Vsが低下する電圧低下異常を検出したときにHレベルの検出信号S2を生成する。この電圧低下検出部26の内部構成例について以下に説明する。
図3に示すように、電圧低下検出部26は、判定器51と判定器52とを有している。電圧低下検出部26では、上記振幅情報V1が判定器51,52に入力される。ここで、振幅情報V1は、極座標変換部25(図2参照)において瞬時正相電圧Vpα,Vpβに基づいて算出された、その時々の電圧振幅値を示す情報である。
判定器51には、系統電圧Vsの定格電圧に応じた電圧値Vr1,Vr2が入力される。判定器51は、振幅情報V1と電圧値Vr1,Vr2との比較を行い、比較結果に応じた検出信号S1を生成する。例えば、電圧値Vr1は、系統電圧Vsの定格電圧の70%の電圧値に設定することができ、電圧値Vr2は、系統電圧Vsの定格電圧の10%の電圧値に設定することができる。判定器51は、振幅情報V1が電圧値Vr1以上であるとき、及び振幅情報V1が電圧値Vr2未満であるときに、Lレベルの検出信号S1を生成する。また、判定器51は、振幅情報V1が電圧値Vr2以上であって電圧値Vr1未満のときに、Hレベルの検出信号S1を生成する。すなわち、本例の判定器51は、系統電圧Vsの残電圧が10%以上70%未満となる電圧低下異常(つまり、第1基準値以上第2基準値未満の電圧低下異常)が生じたことを検出し、それを検出したときにHレベルの検出信号S1を生成する。この検出信号S1は、図2に示した位相置換部28に供給される。
一方、判定器52は、振幅情報V1と電圧値Vr2との比較を行い、比較結果に応じた検出信号S2を生成する。判定器52は、振幅情報V1が電圧値Vr2以上であるときにLレベルの検出信号S2を生成し、振幅情報V1が電圧値Vr2未満であるときにはHレベルの検出信号S2を生成する。すなわち、本例の判定器52は、系統電圧Vsの残電圧が10%未満となる電圧低下異常(第2基準値以上の電圧低下異常)が生じたことを検出したときにHレベルの検出信号S2を生成する。この検出信号S2は、図2に示した位相置換部28,29に供給される。
図2に示すように、位相変動検出部27は、サンプリング周期毎に入力される上記位相情報θ1に基づいて、電力系統Lsにて所定レベル以上の位相変動異常が生じているか否かを検出する。例えば、位相変動検出部27は、系統電圧Vsにおける位相変動量が判定値以上であるか否かを検出し、その検出結果に応じた信号レベルを持つ検出信号S3を位相置換部28に出力する。
位相置換部28は、上記検出信号S1〜S3に基づいて、位相情報の切り替え(位相置換の実行)を指令する切替信号S4(図4参照)を生成する。また、位相置換部28は、Hレベルの切替信号S4が生成される前の正常時の位相情報(つまり、電力系統Lsにおける位相が安定している時に算出された位相情報)を一定期間分だけ保持する。そして、位相置換部28は、切替信号S4に基づいて、サンプリング周期毎に入力される位相情報θ1、又は上記保持している位相情報から位相情報θ2を生成し、その位相情報θ2を位相置換部29に出力する。
例えば、位相置換部28は、位相変動異常が検出されておらず上記切替信号S4がLレベルである場合には、入力値である位相情報θ1をそのまま位相情報θ2として位相置換部29に出力する。例えば、位相置換部28は、瞬低発生後や瞬低復帰直後等に位相変動異常が検出されて上記切替信号S4がHレベルになると、位相情報θ1(ここでは、位相変動が生じている位相情報)を、上記保持した正常時の位相情報に置換して、その置換後の位相情報を位相情報θ2として出力する。
位相置換部29は、電圧低下検出部26から入力する検出信号S2を所定時間遅延させた検出信号S2d(図5参照)を生成する。また、位相置換部29は、第2基準値以上の電圧低下異常が検出される時までの正常時の位相情報(つまり、第2基準値以上の電圧低下異常が検出されていない正常時(系統健全時)に算出された位相情報)を一定期間分だけ保持する。そして、位相置換部29は、位相置換部28からの位相情報θ2と、上記保持した系統健全時の位相情報と、検出信号S2dとに基づいて、その時々の電流指令値位相θcを設定し、設定した電流指令値位相θcを座標変換部30に出力する。ここで、電流指令値位相θcは、出力電流Iiの目標電流値を指令する電流指令値の位相情報である。
例えば、位相置換部29は、検出信号S2dがLレベルである場合に、入力値である位相情報θ2に基づいて電流指令値位相θcを設定する。例えば、位相置換部29は、検出信号S2dがHレベルである場合に、上記保持した系統健全時の位相情報に基づいて電流指令値位相θcを設定する。
直流電圧制御部31は、上記コンデンサC1(図1参照)の充電電圧Vdcを太陽光発電パネルPVの発電電圧として入力し、充電電圧Vdcが定常電圧となるようにその時々の電流指令値振幅Icを設定し、設定した電流指令値振幅Icを座標変換部30に出力する。ここで、電流指令値振幅Icは、出力電流Iiの目標電流値を指令する電流指令値の振幅情報である。
座標変換部30は、位相置換部29からの電流指令値位相θcと、直流電圧制御部31からの電流指令値振幅Icとに基づいて、その時々で適切な振幅及び位相の出力電流値(電流指令値)の算出を行う。座標変換部30は、例えば、上記電流指令値位相θcと上記電流指令値振幅Icとからなる極座標を直交座標に変換し、αβ軸の固定座標系の二相電流値Icα,Icβを生成する。そして、座標変換部30は、生成した二相電流値Icα,Icβ(電流指令値)を演算器32,33に出力する。
座標変換部30から出力された二相電流値Icα,Icβは、演算器32及び電圧変換器34でjωLが乗算され、下記式で示す二相電圧値Vicα,Vicβ(電流指令値)に変換される。
ここで、上記式4において、Lは系統上に設けられたリアクトル(ここでは、リアクトルL1,L2)のインダクタンス値、ωは上記リアクトルの角周波数、jは虚数である。すなわち、演算器32では二相電流値Icα,Icβの位相がπ/2[rad]だけ進められ、その結果に対して電圧変換器34でωLが乗算される。このように生成された二相電圧値Vicα,Vicβは、演算器35に供給される。
一方、上記演算器33には、三相/二相変換部36から二相電流値Isα,Isβが供給される。三相/二相変換部36には、上記電流検出器17(図1参照)で検出された三相の出力電流Iiがサンプリング周期毎に入力される。三相/二相変換部36は、三相の出力電流Iiを、αβ軸の固定座標系の二相電流値Isα,Isβに変換し、それら二相電流値Isα,Isβを演算器33に出力する。
演算器33は、電流指令値位相θc及び電流指令値振幅Icに基づく電流値Icαと、実値(出力電流Ii)に基づく電流値Isαとを用いて偏差を演算し、その演算結果をα軸側の偏差電流値として電圧変換器37に出力する。また、演算器33は、電流指令値位相θc及び電流指令値振幅Icに基づく二相電流値Icβと、実値に基づく二相電流値Isβとを用いて偏差を演算し、その演算結果をβ軸側の偏差電流値として電圧変換器37に出力する。
電圧変換器37は、演算器33の演算結果である偏差電流値を偏差電圧値に変換し、その偏差電圧値を演算器35に出力する。具体的には、電圧変換器37は、α軸側の偏差電流値を電圧値に変換し、α軸側の偏差電圧値として演算器35に出力する。また、電圧変換器37は、β軸側の偏差電流値を電圧値に変換し、β軸側の偏差電圧値として演算器35に出力する。
演算器35は、電圧変換器37からの偏差電圧値を、電圧変換器34からの二相電圧値Vicα,Vicβに反映し、二相電圧値Vα,Vβとして演算器38に出力する。具体的には、演算器35は、電圧値Vicαにα軸側の偏差電圧値を加算して電圧値Vαを生成するとともに、電圧値Vicβにβ軸側の偏差電圧値を加算して電圧値Vβを生成する。
演算器38は、電圧値Vsαに電圧値Vαを加算して出力電圧値Vcαを生成するとともに、電圧値Vsβに電圧値Vβを加算して出力電圧値Vcβを生成する。演算器38は、二相出力電圧値Vcα,Vcβを二相/三相(2Φ/3Φ)変換部39に出力する。
二相/三相変換部39は、αβ軸の固定座標系の二相出力電圧値Vcα,Vcβを三相出力電圧値Vca,Vcb,Vccに変換し、それら三相出力電圧値Vca,Vcb,VccをPWM制御部40に出力する。
PWM制御部40は、インバータ13(図1参照)のPWM制御を実施する際に用いる制御パルスPWMを設定するものであり、入力された三相出力電圧値Vca,Vcb,Vccに基づいて制御パルスPWMのオンパルス幅(デューティ)を適切値に決定する。そして、PWM制御部40は、その時々で決定される制御パルスPWMに基づいて、インバータ13の適切なスイッチング動作を行っている。
次に、位相変動検出部27及び位相置換部28の内部構成例について説明する。
図4に示すように、位相変動検出部27は、演算器61と、比較位相生成部62と、補正部63と、位相変動判定部64とを有している。また、位相置換部28は、オンディレイタイマ70と、オフディレイタイマ71と、アンド回路72と、アンド回路73と、オンディレイタイマ74と、オフディレイタイマ75と、位相情報切替部76と、位相保持部77と、位相抽出部78と、位相選択部79と、位相情報保持部80とを有している。
位相変動検出部27では、極座標変換部25(図2参照)で算出された位相情報θ1がサンプリング周期毎に演算器61に入力される。すなわち、演算器61には、今回のサンプリングで算出された位相情報θ1が入力される。また、演算器61には、比較位相生成部62から比較位相θ3が入力される。
比較位相生成部62は、位相置換部28から出力される位相情報θ2を入力し、一定期間分、具体的には電力系統Lsの基本波(系統基本波)の整数倍サイクル分(ここでは、系統基本波の3サイクル分)の位相情報の更新及び保持を行っている。比較位相生成部62は、保持した位相情報の中から最古の位相情報、つまり3サイクル前(3周期前)のサンプリング時に位相置換部28から出力された位相情報を上記比較位相θ3として出力する。例えば、系統周波数が50Hz、サンプリング周波数が6kHzである場合には、1サイクルで120個のサンプリング点が存在することになるため、比較位相生成部62は、360個前のサンプリング時に保持した位相情報を上記比較位相θ3として出力する。
そして、演算器61は、今回のサンプリングで算出された現時点の位相情報θ1と、現時点よりも3サイクル前の位相情報である比較位相θ3とを入力し、両値の差分から位相変動量Δθ(=θ1−θ3)の算出を行う。演算器61は、算出した位相変動量Δθを補正部63に出力する。
補正部63は、位相変動量Δθと予め設定された判定値θd1,θd2とを比較し、その比較結果に応じて位相変動量Δθに補正値を重畳して位相変動量Δθaを生成する。ここで、判定値θd1,θd2は、電力系統Lsにて所定レベル以上の位相変動異常が生じた場合における位相変動量(例えば、±10〜20[deg]程度)よりも絶対値で大きな値に設定されている。例えば、判定値θd1は0[deg]よりも小さい値であり、判定値θd2は0[deg]よりも大きい値に設定されている。本例の判定値θd1は−180[deg]、つまり−π[rad]に設定され、本例の判定値θd2は+180[deg]、つまり+π[rad]に設定されている。
例えば、補正部63は、位相変動量Δθが判定値θd1未満である場合に、位相変動量Δθに補正値(ここでは、2π[rad])を加算して位相変動量Δθaを生成する。また、補正部63は、位相変動量Δθが判定値θd2以上である場合に、位相変動量Δθから補正値(ここでは、2π[rad])を減算して位相変動量Δθaを生成する。一方、補正部63は、位相変動量Δθが判定値θd1以上であって判定値θd2未満である場合には、位相変動量Δθをそのまま位相変動量Δθaとする。そして、補正部63は、算出した位相変動量Δθaを位相変動判定部64に出力する。
位相変動判定部64は、位相変動量Δθaの絶対値である位相変動量|Δθa|と予め設定された判定値θeとを比較し、その比較結果に応じた信号レベルを持つ検出信号S3を生成する。例えば、位相変動判定部64は、位相変動量|Δθa|が判定値θe未満であるときはLレベルの検出信号S3を生成し、位相変動量|Δθa|が判定値θe以上となったときにはHレベルの検出信号S3を生成する。すなわち、位相変動判定部64は、位相情報θ1と比較位相θ3との差分に基づく位相変動量Δθaを用いて、系統電圧Vsにおいて判定値θe以上の位相変動異常が生じているか否かの判定を行っている。そして、位相変動判定部64は、生成した検出信号S3を位相置換部28内のオンディレイタイマ70に出力する。なお、判定値θeは、上記判定値θd1,θd2の絶対値よりも小さな値に設定されている。本例の判定値θeは、例えば5[deg]程度に設定することができる。
オンディレイタイマ70は、検出信号S3がLレベルからHレベルに遷移してから所定時間経過したときに、Hレベルの出力信号をオフディレイタイマ71に出力する。この所定時間は、例えば1ms程度に設定することができる。その一方で、オンディレイタイマ70は、検出信号S3がHレベルからLレベルになると、直ちにLレベルの出力信号をオフディレイタイマ71に出力する。
オフディレイタイマ71は、オンディレイタイマ70の出力信号がLレベルからHレベルになると、直ちにそのHレベルの出力信号を検出信号S3dとしてアンド回路72に出力する。その一方で、オフディレイタイマ71は、オンディレイタイマ70の出力信号がHレベルからLレベルに遷移したから所定時間経過したときに、検出信号S3dをHレベルからLレベルに遷移する。この所定時間は、例えば、系統基本波の1サイクル分(1周期分)の時間に設定することができる。このときの所定時間は、系統周波数が50Hzの場合には20ms程度に設定することができる。
このように、オンディレイタイマ70は、検出信号S3のオンするタイミング(ここでは、検出信号S3dがLレベルからHレベルに遷移するタイミング)を所定時間遅延させるタイマである。また、上記オフディレイタイマ71は、検出信号S3のオフするタイミング(ここでは、検出信号S3dがHレベルからLレベルに遷移するタイミング)を所定時間遅延させるタイマである。
位相置換部28では、オンディレイタイマ70を設けたことにより、系統電圧Vsにおいて判定値θe以上の位相変動異常が所定時間(ここでは、1ms)継続して発生した場合に初めてHレベルの検出信号S3dが生成される。また、オフディレイタイマ71を設けたことにより、位相変動量Δθaが判定値θe未満となって検出信号S3がHレベルからLレベルになり、そのLレベルの状態が所定時間(ここでは、20ms)継続した場合に初めて、検出信号S3dがHレベルからLレベルに遷移される。これらにより、例えばノイズなどに起因して位相変動異常が瞬間的に発生した場合に、検出信号S3dの信号レベルが不要に遷移されることが抑制される。
アンド回路72は、2入力型であり、一方の入力端子に検出信号S3dが入力され、他方の入力端子に上記検出信号S1がアンド回路73とオンディレイタイマ74とオフディレイタイマ75とを介して入力される。
アンド回路73は、2入力型であり、一方の入力端子に検出信号S1が入力され、他方の入力端子(反転入力端子)に検出信号S2が入力される。アンド回路73は、Lレベルの検出信号S2が入力されると、検出信号S1の信号レベルと等しい信号レベルを持つ信号を出力する。一方、アンド回路73は、Hレベルの検出信号S2が入力されると、検出信号S1の信号レベルに関わらず、Lレベル固定の信号を出力する。すなわち、この場合のアンド回路73は、検出信号S1を無効にする無効回路として機能する。
アンド回路73の出力信号は、オンディレイタイマ74とオフディレイタイマ75を介して検出信号S1dとしてアンド回路72に供給される。オンディレイタイマ74は、アンド回路72の出力信号、具体的には検出信号S1がオンするタイミング(ここでは、検出信号S1dがLレベルからHレベルに遷移するタイミング)を所定時間遅延させるタイマである。また、オフディレイタイマ75は、検出信号S1がオフするタイミング(ここでは、検出信号S1dがHレベルからLレベルに遷移するタイミング)を所定時間遅延させるタイマである。なお、オンディレイタイマ74における遅延時間は、例えば上記オンディレイタイマ70における遅延時間と同じ時間(ここでは、1ms)に設定することができる。また、オフディレイタイマ75における遅延時間は、例えば、上記オフディレイタイマ71における遅延時間と同じ時間(ここでは、20ms)に設定することができる。
位相置換部28では、オンディレイタイマ74を設けたことにより、系統電圧Vsの残電圧が10%以上70%未満となる電圧低下異常が所定時間(ここでは、1ms)継続して発生した場合に初めてHレベルの検出信号S1dが出力される。また、オフディレイタイマ75を設けたことにより、電圧低下異常が発生した後に系統電圧Vsが正常電圧レベルに復帰して検出信号S1がHレベルからLレベルに遷移した後も所定時間(ここでは、20ms)だけ検出信号S1dがHレベルに維持される。これらにより、例えばノイズなどに起因して電圧変動異常が瞬間的に発生した場合に、検出信号S1dの信号レベルが不要に遷移されることが抑制される。
そして、アンド回路72は、検出信号S1dと検出信号S3dとを論理積演算した結果を持つ切替信号S4を生成する。すなわち、アンド回路72は、検出信号S1d及び検出信号S3dが共にHレベルである場合に、位相置換の実行を指令するHレベルの切替信号S4を生成する。換言すると、検出信号S1dがHレベルとなる期間(例えば、瞬低期間中及び瞬低復帰直後)において、系統電圧Vsにて判定値θe以上の位相変動異常が発生した場合に、Hレベルの切替信号S4が生成される。なお、それ以外の場合には、アンド回路72は、Lレベルの切替信号S4を生成する。すなわち、検出信号S2がHレベルとなって検出信号S1dがLレベルに固定されている場合、又は検出信号S1,S2がLレベルで検出信号S1dがLレベルである場合には、位相変動異常の発生の有無に関わらず、Lレベルの切替信号S4が生成される。また、検出信号S1がHレベルとなって検出信号S1dがHレベルに遷移した場合であっても、位相変動異常の発生に伴って検出信号S3dがHレベルに遷移するまでは、Lレベルの切替信号S4が生成される。そして、切替信号S4は、位相情報切替部76及び位相選択部79に供給される。
位相情報切替部76は、制御端子a0と、第1及び第2入力端子a1,a2とを有している。制御端子a0には、切替信号S4が入力される。第1入力端子a1には、極座標変換部25から今回のサンプリングで算出された位相情報θ1が入力される。第2入力端子a2には、位相情報保持部80から出力される位相情報θ4が位相選択部79を介して入力される。例えば、位相情報切替部76は、Lレベルの切替信号S4に基づいて第1入力端子a1が選択される場合には、今回のサンプリングで算出された現時点の位相情報θ1をそのまま位相情報θ2として後段の位相置換部29(図2参照)に出力する。その一方で、位相情報切替部76は、Hレベルの切替信号S4に基づいて第2入力端子a2が選択される場合には、位相情報保持部80から出力される位相情報θ4を位相情報θ2として出力する。
位相保持部77は、位相情報切替部76から出力される位相情報θ2(位相瞬時値)を入力し、一定期間分の位相情報の更新及び保持を行っている。なお、上記一定期間、つまり位相情報θ2の保存間隔は、例えば系統基本波の整数倍サイクル分(例えば、2サイクル以上分)とすることが好ましい。本例の位相保持部77における保存間隔は3サイクル分に設定されている。
位相抽出部78は、位相保持部77に保存された位相情報の中から時間的に最も古い最古の位相情報(ここでは、3サイクル前の位相情報)を抽出し、抽出した位相情報を位相選択部79に出力する。この位相抽出部78にて位相情報を抽出する間隔(つまり、位相抽出部78で抽出する位相情報量)は、例えば、上記最古の位相情報を基準として上記保存間隔よりも短く、且つ系統基本波の整数倍サイクル分とすることが好ましい。本例では、位相抽出部78は、上記最古の位相情報から1サイクル分の位相情報を位相保持部77から抽出し、抽出した位相情報を位相選択部79に出力する。
位相選択部79は、制御端子b0と、第1及び第2入力端子b1,b2とを有している。制御端子b0には、上記アンド回路72から切替信号S4が入力される。第1入力端子b1には、位相抽出部78から出力される位相情報が入力される。第2入力端子b2には、位相情報保持部80から位相情報θ4が入力される。位相選択部79は、Lレベルの切替信号S4に応答して、位相抽出部78から入力される位相情報を位相情報切替部76及び位相情報保持部80に出力する。また、位相選択部79は、Hレベルの切替信号S4に応答して、位相情報保持部80から入力される位相情報θ4を位相情報切替部76及び位相情報保持部80に出力する。
位相情報保持部80は、位相選択部79から出力される位相情報を入力し、系統基本波の整数倍サイクル分(ここでは、1サイクル分)の位相情報の更新及び保持を行っている。例えば、切替信号S4がLレベルである場合、位相情報保持部80には、位相抽出部78で抽出された1サイクル分の位相情報が保持される。すなわち、切替信号S4がLレベルである場合の位相情報保持部80には、現時点の周期よりも3周期前の1サイクル分の位相情報が保持される。なお、切替信号S4がLレベルである場合には、位相情報保持部80に保持された位相情報θ4が、位相抽出部78における抽出間隔(ここでは、系統基本波の1周期)毎に更新される。
一方、Hレベルの切替信号S4に応答して位相選択部79で第2入力端子b2が選択される場合、位相情報保持部80には、第2入力端子b2に切り替わる前までに当該位相情報保持部80に保持されていた1サイクル分の位相情報θ4が繰り返し更新されつつ保持される。すなわち、切替信号S4がHレベルである場合、位相情報保持部80では、その位相情報保持部80と位相選択部79との接続態様から同一情報(つまり、位相情報保持部80から出力される位相情報θ4)にて繰り返し更新される。このように、切替信号S4がHレベルである場合には、第2入力端子b2に切り替わった周期よりも3周期前の位相正常時における1サイクル分の位相情報が位相情報保持部80に継続して保持される。すなわち、切替信号S4がHレベルである場合の位相情報保持部80には、位相変動異常が検出されていない正常時(位相正常時)の位相情報が継続して保持される。
そして、切替信号S4がHレベルである場合には、位相情報保持部80に保持されている位相情報θ4が位相選択部79を介して位相情報切替部76に出力され、さらに位相情報切替部76から上記位相情報θ4が位相情報θ2として出力される。このように、位相置換部28では、切替信号S4がHレベルになると、位相変動の生じている位相情報θ1が、位相正常時における位相情報θ4に置換され、その置換後の位相情報が位相情報θ2として出力される。
次に、図5に従って、位相置換部29の内部構成例について説明する。
位相置換部29は、位相情報切替部82と、オンディレイタイマ83と、オフディレイタイマ84と、位相保持部85と、位相抽出部86と、位相選択部87と、位相情報保持部88とを有している。ここで、オンディレイタイマ83は、上記電圧低下検出部26からの検出信号S2のオンするタイミングを所定時間(例えば、1ms程度)遅延させるタイマであり、オフディレイタイマ84は、検出信号S2のオフするタイミングを所定時間(例えば、20ms程度)遅延させるタイマである。なお、位相保持部85、位相抽出部86、位相選択部87及び位相情報保持部88は、位相保持部77、位相抽出部78、位相選択部79及び位相情報保持部80と同様の構成・機能を有するため、ここでは詳細な説明を省略する。
位相情報切替部82は、制御端子c0と、第1及び第2入力端子c1,c2とを有している。制御端子c0には、検出信号S2がオンディレイタイマ83及びオフディレイタイマ84により所定時間遅延されて検出信号S2dとして入力される。第1入力端子c1には、位相情報θ2が入力される。第2入力端子c2には、位相情報保持部88から出力される位相情報θ5が位相選択部87を介して入力される。例えば、位相情報切替部82は、Lレベルの検出信号S2dに基づいて第1入力端子c1が選択される場合には、位相置換部28からの位相情報θ2をそのまま電流指令値位相θcとして出力する。その一方で、位相情報切替部82は、Hレベルの検出信号S2dに基づいて第2入力端子c2が選択される場合には、位相情報保持部88から出力される位相情報θ5(例えば、3周期前の系統健全時の位相情報)を電流指令値位相θcとして出力する。
このように、位相置換部29では、振幅情報V1が電圧値Vr2未満となる電圧低下異常が発生して検出信号S2dがHレベルに切り替わると、位相情報θ2が、位相情報保持部88に保持されている系統健全時の位相情報θ5に置換され、その置換後の位相情報が電流指令値位相θcとして出力される。これにより、例えば、瞬低発生により系統電圧Vsの残電圧が10%未満となって系統電圧Vsから位相情報を検出することが困難になった場合であっても、電力系統Lsが安定した正常時の位相情報θ5に基づいて電流指令値位相θcを設定することができる。
次に、図6に従って、電圧低下検出部26、位相変動検出部27及び位相置換部28,29の動作について説明する。なお、図6において、縦軸及び横軸は、説明を簡潔にするため、適宜拡大、縮小して示している。
今、時刻t2では、電力系統Lsに瞬低(ここでは、系統電圧Vsの残電圧が20%)が発生している(瞬低期間)。この瞬低期間では、上記瞬低による電圧低下異常が電圧低下検出部26内の判定器51で検出されているため、その判定器51からHレベルの検出信号S1が出力されている。また、判定器52からはLレベルの検出信号S2が出力されている。このように、系統電圧Vsの残電圧が10%〜70%の瞬低に対する運転継続機能、つまりLVRT(Low Voltage Ride Through)動作時には、Hレベルの検出信号S1及びLレベルの検出信号S2が出力される。
その一方で、系統電圧Vsの残電圧が20%となる瞬低期間では、系統電圧Vsの位相が安定しているため、位相変動検出部27からはLレベルの検出信号S3が出力され、オフディレイタイマ71からはLレベルの検出信号S3dが出力されている。このため、アンド回路72からLレベルの切替信号S4が出力される。このときの位相変動検出部27の動作を以下に説明する。
まず、時刻t2の比較位相生成部62には、時刻t2の3サイクル前(3周期前)の時刻t0で取得した位相情報から3サイクル分の位相情報が保持されている。時刻t2において、比較位相生成部62は、保持した位相情報の中から最古の位相情報、ここでは時刻t0で取得した位相情報(位相瞬時値)を比較位相θ3として演算器61に出力する。演算器61は、時刻t2のサンプリングで算出された現時点の位相情報θ1と、時刻t2よりも3サイクル前の時刻t0における比較位相θ3とを比較する。このとき、系統電圧Vsの位相が安定しており、位相情報θ1と比較位相θ3との差分、つまり位相変動量Δθが0(ゼロ)に近い。このため、位相変動量Δθが判定値θd1以上判定値θd2未満となり、位相変動量Δθがそのまま位相変動量Δθaとなる。この位相変動量Δθaが0に近い値であり判定値θeよりも小さいため、位相変動検出部27からはLレベルの検出信号S3が出力される。このため、アンド回路72からはLレベルの切替信号S4が出力される。
そして、Lレベルの切替信号S4に応答して、時刻t2のサンプリングで算出された位相情報θ1がそのまま位相情報θ2として出力される。ここで、上述したように、検出信号S2がLレベルであるため、位相情報θ2(ここでは、時刻t2のサンプリングで算出された位相情報θ1)がそのまま電流指令値位相θcとして出力される。
なお、時刻t2を含む周期T4の開始時(時刻t1参照)には、位相保持部77に、位相置換部28から出力される位相情報θ2の過去3サイクル分(過去3周期分)の位相情報が保持されている。すなわち、時刻t1における位相保持部77には、時刻t1よりも前の3周期T1〜T3で出力された3サイクル分の位相情報θ2が保存されている。また、時刻t1では、位相保持部77に保持された位相情報の中の最古の位相情報から1サイクル分の位相情報(ここでは、周期T1における位相情報)が位相抽出部78により抽出され、その1サイクル分の位相情報が位相情報保持部80に保持される。
その後、時刻t3において、周期T4の次の周期T5が開始される。この時刻t3における位相保持部77には、時刻t3よりも前の3周期T2〜T4で出力された3サイクル分の位相情報θ2が保持されている。また、時刻t3では、位相保持部77の位相情報の中から周期T2における位相情報が位相抽出部78により抽出され、その1サイクル分の位相情報が位相情報保持部80に保持される。すなわち、時刻t3では、位相情報保持部80に保持された位相情報が、周期T1における位相情報から周期T2における位相情報に更新される。このため、周期T5では、位相情報保持部80から、その位相情報保持部80に保持された位相情報、つまり周期T2における位相情報が位相情報θ5として位相選択部79に順次出力される。
そして、時刻t3直後に、系統電圧Vsが瞬低状態から正常電圧(定格電圧)レベルまで復帰すると、振幅情報V1が電圧値Vr1以上となるため、検出信号S1がHレベルからLレベルに切り替わる。
このLレベルに切り替わった検出信号S1は、オフディレイタイマ75に入力される。そして、オフディレイタイマ75による遅延時間Td(ここでは、20ms)が経過した後に、検出信号S1dがHレベルからLレベルに切り替わる。すなわち、アンド回路72に入力される検出信号S1dは、検出信号S1がHレベルからLレベルに切り替わってから遅延時間Td(ここでは、20ms)経過後に、HレベルからLレベルに切り替わる。換言すると、瞬低復帰してから20ms間は、検出信号S1dがHレベルに維持される。
一方、時刻t3において系統電圧Vsに急峻な電圧変動が発生すると、その電圧変動に伴って系統電圧Vsの位相が大きく変動し、位相変動量Δθが大きくなる。但し、この場合の位相変動量Δθは判定値θd1以上判定値θd2未満の変動量であるため、位相変動量Δθがそのまま位相変動量Δθaとなる。その後、位相変動量|Δθa|が判定値θe以上となると(時刻t4参照)、位相変動判定部64から出力される検出信号S3がLレベルからHレベルに切り替わる。そして、オンディレイタイマ70による遅延時間(ここでは、1ms)経過後に、検出信号S3dがLレベルからHレベルに切り替わる(時刻t5参照)。このとき、アンド回路72に入力される検出信号S1dがHレベルとなっていることから、検出信号S3dがHレベルになることで、アンド回路72から出力される切替信号S4がLレベルからHレベルに切り替わる。
このHレベルの切替信号S4に応答して、位相選択部79では第2入力端子b2が選択され、位相情報切替部76では第2入力端子a2が選択される。このため、位相情報保持部80から出力される位相情報θ4が位相選択部79を介して位相情報切替部76に順次入力され、その位相情報θ4が位相情報θ2として位相情報切替部76から出力される。すなわち、切替信号S4がHレベルである期間では、その時の系統電圧Vsに基づいて算出された位相情報θ1の代わりに、位相情報保持部80に保持されている位相情報θ4が位相情報θ2として出力される。ここで、上述したように、周期T5における位相情報保持部80には、位相変動異常が検出されていない位相正常時(ここでは、周期T2)における位相情報が保持されている。このため、切替信号S4がHレベルとなった後の周期T5では、位相情報θ1が周期T2における位相情報(位相正常時の位相情報)に置換され、その置換後の位相情報が位相情報θ2として出力される。そして、この位相情報θ2は電流指令値位相θcとして座標変換部30に入力され、その座標変換部30での出力電流値(電流指令値)の設定に用いられる。したがって、瞬低復帰などのように急峻な電圧変動(電圧上昇)が発生した場合であっても、その直後に位相正常時の位相情報を用いて電流指令値の設定を行うことができる。ここでは、説明を省略したが、瞬低発生時のような急峻な電圧変動(電圧低下)が発生した場合にも、上記瞬低復帰時と同様に、瞬低発生直後に位相正常時の位相情報を用いて電流指令値の設定を行うことができる。
なお、時刻t6において、検出信号S1dがHレベルからLレベルに切り替わると、アンド回路72から出力される切替信号S4もHレベルからLレベルに切り替わる。すると、位相情報切替部76で第1入力端子a1が選択され、極座標変換部25から入力される位相情報θ1がそのまま位相情報θ2として出力されるようになる。
次に、LVRT動作中に、位相変動量Δθが判定値θd1未満となる場合、及び位相変動量Δθが判定値θd2以上となる場合における補正部63の動作について説明する。
図7の時刻t10に示すように、本例では、相電圧Vuの立ち上がりゼロクロス(相電圧Vuが負電圧から上昇して0Vを示す電圧波形と交差(クロス)するタイミング)と、位相情報θ1が2π[rad]から0[rad]に一気に戻るタイミング(折り返しタイミング)とが一致している。
ところで、電力系統Lsにおいては、電圧波形に高調波歪みや励磁突入電流歪み等の歪みが発生する場合がある。このような歪みが発生すると、電圧検出器19で測定された系統電圧Vsや相電圧Vu,Vv,Vwにノイズが発生する(破線枠参照)。このノイズが相電圧Vuの立ち上がりゼロクロス付近で発生すると、相電圧Vuの立ち上がりゼロクロスの発生タイミングが変動し、位相情報θ1の折り返しタイミングが変動する。
例えば、相電圧Vuの立ち上がりゼロクロスの発生が本来のタイミング(時刻t12参照)よりも所定時間D1だけ遅延すると(時刻t13)、その所定時間D1(時刻t12〜t13)における位相変動量Δθは+2π[rad]に近い値になる。詳述すると、相電圧Vuの立ち上がりゼロクロスが本来のタイミング(時刻t12)から遅延すると、その時刻t12〜時刻t13の期間では、位相情報θ1が2π[rad]に近い値になる。このとき、時刻t12では、現時点の位相情報θ1(ここでは、2π[rad])と、時刻t12の3サイクル前の時刻t10における位相情報である比較位相θ3(ここでは、0[rad])とが比較される。このため、時刻t12における位相変動量Δθ(=θ1−θ3)は+2π[rad]になる。その後も時刻t13までは位相情報θ1が2π[rad]に近い値になるため、時刻t12から時刻t13までの期間における位相変動量Δθは、+2π[rad]に近い値になる。
一方、相電圧Vuの立ち上がりゼロクロスが本来のタイミング(時刻t15参照)よりも所定時間D2だけ早いタイミングで発生すると(時刻t14)、その所定時間D2(時刻t14〜t15)における位相変動量Δθは−2π[rad]に近い値になる。詳述すると、時刻t14において相電圧Vuの立ち上がりゼロクロスが発生すると、その時点で位相情報θ1が0[rad]に戻る。そして、時刻t14では、現時点の位相情報θ1(ここでは、0[rad])と、時刻t14よりも3サイクル前の時刻t11における位相情報である比較位相θ3(ここでは、2π[rad]に近い値)とが比較される。このため、時刻t14における位相変動量Δθ(=θ1−θ3)は−2π[rad]に近い値になる。その後も同様に、時刻t15までは位相変動量Δθが−2π[rad]に近い値になる。
ここで、例えば図4に示した補正部63を設けない場合には、位相変動量Δθの絶対値である位相変動量|Δθ|が判定値θe(例えば、5[deg])と比較されることになる。このため、時刻t12〜t13の期間、及び時刻t14〜t15の期間において、位相変動量|Δθ|が判定値θe以上となってHレベルの検出信号S3が出力されることになる。すると、Hレベルの切替信号S4が生成され、位相置換部28による位相置換動作が実行される。すなわち、補正部63を設けない場合には、電力系統Lsにて所定レベル以上の位相変動異常が生じていない場合であっても、高調波歪み等の歪みの発生に伴って、位相置換部28による位相置換動作が実行されてしまう。換言すると、補正部63を設けない場合には、高調波歪み等の歪みの発生に起因して位相置換部28が誤動作する。
これに対し、本例では、上述した歪みに伴って発生するノイズに起因した位相変動量Δθの増加分を除去するために、演算器61と位相変動判定部64との間に補正部63を設けるようにした。この補正部63では、まず、位相変動量Δθと判定値θd1,θd2とが比較される。このとき、判定値θd1,θd2は、電力系統Lsにて所定レベル以上の位相変動異常が実際に発生した場合の位相変動量(例えば、±10〜20[deg])よりも絶対値で大きな値に設定されている。このため、例えば時刻t12〜t13のように、位相変動量Δθが+2π[rad]に近い値となって判定値θd2以上となると、上記ノイズに起因して位相情報θ1の折り返しタイミングが変動したと判断することができる。そこで、補正部63は、位相変動量Δθが判定値θd2以上となった場合に、上記折り返しタイミングの変動によって生じた位相変動量(ここでは、+2π[rad])を打ち消すために、位相変動量Δθから補正値(ここでは、2π[rad])を減算して位相変動量Δθaを生成する。これにより、位相変動量Δθaは0に近い値になる。
また、例えば時刻t14〜t15のように、位相変動量Δθが−2π[rad]に近い値となって判定値θd1よりも小さくなると、上記ノイズに起因して位相情報θ1の折り返しタイミングが変動したと判断することができる。そこで、補正部63は、位相変動量Δθが判定値θd1未満となった場合には、上記折り返しタイミングの変動によって生じた位相変動量(ここでは、−2π[rad])を打ち消すために、位相変動量Δθに補正値(ここでは、2π[rad])を加算して位相変動量Δθaを生成する。これにより、位相変動量Δθaは0に近い値になる。
これらにより、上記ノイズに起因して位相情報θ1の折り返しタイミングが変動した場合であっても、判定値θeと比較される位相変動量Δθaを略0とすることができるため、検出信号S3がHレベルに遷移することを抑制できる。この結果、位相置換部28の誤動作を好適に抑制することができる。
次に、図8に従って、系統電圧Vsの残電圧が10%未満となる瞬低が電力系統Lsに発生した場合における、電圧低下検出部26、位相変動検出部27及び位相置換部28,29の動作について説明する。なお、図8において、縦軸及び横軸は、説明を簡潔にするため、適宜拡大、縮小して示している。
今、時刻t20〜t21の期間では、系統電圧Vsが正常電圧レベルで推移している。この期間では、電圧低下異常が発生していないため、電圧低下検出部26からLレベルの検出信号S1,S2が出力されている。また、この期間では、系統電圧Vsの位相が安定しているため、位相変動検出部27からはLレベルの検出信号S3が出力されている。このときの位相変動検出部27の動作は、先の図6に示した時刻t0〜t2における動作と同様であるため、ここでは説明を省略する。
続いて、時刻t21において、周期T14が開始される。この時刻t21における位相保持部77,85には、時刻t21よりも前の3周期T11〜T13で出力された3サイクル分の位相情報が保持されている。このため、時刻t21から開始される周期T14では、位相保持部77,85に保持された最古の周期T11における1サイクル分の位相情報が位相選択部79,87に順次出力される。
そして、上記時刻t21直後に、系統電圧Vsの残電圧が10%未満(ここでは、残電圧が0%)となる瞬低が電力系統Lsに発生すると、振幅情報V1(電圧値)が低下する。このとき、図8に示すように、振幅情報V1の低下が瞬低(つまり、系統電圧Vsの振幅低下)から遅れる場合がある。このような振幅情報V1の振幅変化の遅延は、例えば、BPF23の時定数、及び瞬時正相変換部24や極座標変換部25における演算構成の影響を受けて発生する。また、図1及び図2では図示を省略しているが、電圧検出器19で検出された系統電圧Vsは、例えば、アナログローパスフィルタ、A/D変換器やデジタルローパスフィルタなどの回路を介してΔ−Y変換部21に供給される。このため、これらローパスフィルタの時定数によっても、振幅情報V1の振幅変化に遅延が生じるおそれがある。そして、振幅情報V1の振幅変化に遅延が生じると、残電圧が10%未満となる瞬低の検出が遅れる、つまりHレベルの検出信号S2が生成されるタイミングが遅れる。例えば、図示の例では、残電圧が0%となる瞬低の発生(時刻t21)から所定の期間P1経過後に(時刻t23参照)、Hレベルの検出信号S2が生成される。
このとき、仮に、位相置換部28を有さず、位相置換部29のみを有する制御装置であった場合には、期間P1において、Hレベルの検出信号S2が生成されないため、位相置換部29による位相置換が実施されない。但し、期間P1では、系統電圧Vsの過渡変動に伴って位相情報θ1が大きく変動している。このため、位相置換部29による位相置換が実施されないと、大きく変動した位相情報に基づいて電流指令値が設定されることになり、その電流指令値により制御されるインバータ13の出力電流Iiにも振動及び変動が発生するという問題が起こる。さらに、出力電流Iiの振動及び変動に伴って、系統電流Isにも振動及び変動が発生する。すなわち、位相置換部28を有さない場合には、残電圧が0%の瞬低に対する運転継続機能、つまりZVRT(Zero Voltage Ride Through)動作時における系統電流Isが不安定になるという問題がある。
これに対し、本実施形態の制御装置20では、位相置換部29と併せて、系統電圧Vsの残電圧が10%以上70%未満となる電圧低下異常が発生したときに動作する位相置換部28が設けられている。これにより、振幅情報V1の振幅変化の遅延に起因して、ZVRT動作時に系統電流Isが不安定になることを好適に抑制することができる。この点について以下に詳述する。
上記時刻t21において電力系統Lsに瞬低が発生すると、振幅情報V1が徐々に低下する。その後、時刻t22において、振幅情報V1が電圧値Vr1よりも低くなると、検出信号S1がLレベルからHレベルに切り替わる。なお、このとき、振幅情報V1が電圧値Vr2以上であるため、検出信号S2はLレベルに維持されている。
一方、時刻t21において系統電圧Vsに急峻な電圧変動が発生すると、その電圧変動に伴って系統電圧Vsの位相が大きく変動し、位相変動量Δθが大きくなる。そして、位相変動量|Δθa|が判定値θe以上となると(時刻t22参照)、検出信号S3がLレベルからHレベルに切り替わる。このHレベルの検出信号S3とHレベルの検出信号S1に応答して、切替信号S4がLレベルからHレベルに切り替わる。
このHレベルの切替信号S4に応答して、位相置換部28による位相置換動作が開始される。すなわち、切替信号S4がHレベルである期間では、その時の系統電圧Vsに基づいて算出された位相情報θ1の代わりに、位相情報保持部80に保持されている位相情報θ4が位相情報θ2として出力される。これにより、切替信号S4がHレベルとなった後の周期T14及び周期T15では、位相情報θ1が周期T11における位相情報(位相正常時の位相情報)に置換され、その置換後の位相情報が位相情報θ2として出力される。したがって、振幅情報V1の振幅変化の遅延に伴って位相置換部29による位相置換が行われない期間P1が生じ、さらにその期間P1で位相変動異常が発生した場合であっても、瞬低発生直後に位相正常時の位相情報を用いて電流指令値の設定を行うことができる。
その後、振幅情報V1が電圧値Vr2よりも低くなると(時刻t23)、検出信号S1がHレベルからLレベルに切り替わると共に、検出信号S2がLレベルからHレベルに切り替わる。このLレベルの検出信号S1に応答して、切替信号S4がHレベルからLレベルに切り替わり、そのLレベルの切替信号S4に応答して位相置換部28による位相置換動作が停止する。すなわち、Lレベルの切替信号S4に応答して、位相情報切替部76は、極座標変換部25からの位相情報θ1をそのまま位相情報θ2として出力する。
一方、上述したように検出信号S2がHレベルに切り替わった後に、オンディレイタイマ83における遅延時間が経過すると、位相情報切替部82に入力される検出信号S2dがLレベルからHレベルに切り替わる。そして、このHレベルの検出信号S2dに応答して、位相置換部29による位相置換動作が開始される。詳述すると、位相置換部29では、Hレベルの検出信号S2dに応答して、位相情報保持部88から出力される位相情報θ5が位相選択部87を介して位相情報切替部82に順次入力され、その位相情報θ5が電流指令値位相θcとして位相情報切替部82から出力される。すなわち、検出信号S2dがHレベルである期間では、位相置換部28から入力される位相情報θ2(ここでは、その時の系統電圧Vsに基づいて算出された位相情報θ1)の代わりに、位相情報保持部88に保持されている位相情報θ5が位相情報θ2として出力される。これにより、検出信号S2dがHレベルとなった後の瞬低期間では、位相情報θ2(位相情報θ1)が系統健全時の位相情報θ5に置換され、その置換後の位相情報が電流指令値位相θcとして出力される。したがって、位相検出が困難な電圧低下異常が発生した場合であっても、その直後に系統健全時の位相情報を用いて電流指令値の設定を行うことができる。
以上説明したように、系統電圧Vsの残電圧が10%未満となる瞬低が発生した場合には、まず、瞬低発生直後の位相変動に伴って位相置換部28による位相置換が行われ、その後、振幅情報V1が電圧値Vr2未満に低下したことに伴って位相置換部29による位相置換が行われる。これにより、振幅情報V1の振幅変化に遅延が生じた場合であっても、瞬低発生後の位相情報(電流指令値位相θc)の変動を抑制することができるため、ZVRT動作時に系統電流Isが不安定になることを好適に抑制することができる。
次に、上記制御装置20の制御によるパワコン11の動作(作用)を説明する。
まず、系統電圧Vsが正常電圧レベルで推移している場合の動作について説明する。この場合、インバータ13の動作を決定する電流指令値(出力電流値)は、その時々の充電電圧Vdcに基づいて算出される電流指令値振幅Icと、その時々の系統電圧Vsに基づいて算出される電流指令値位相θcとを用いて設定される。さらに、上記電流指令値に出力電流Iiをフィードバックして、その電流指令値を適切な値に調整している。こうして設定された電流指令値に基づいて動作するインバータ13により、太陽光発電パネルPVで発電された直流電力が、電力系統Lsに合った交流電力に適切に変換され、その電力系統Lsに出力される。
次に、図25に示した比較例の制御装置20Bの動作と比較しつつ、系統電圧Vsに瞬低等の急峻な電圧変動が発生した場合の動作について説明する。
まず、比較例として、電圧低下検出部26、位相変動検出部27及び位相置換部28,29を有さない制御装置20Bの制御によるパワコン11の動作について説明する。
ここでは、図11〜図13を参照して瞬低復帰時における比較例の制御装置20Bの動作について説明する。図11は、瞬低発生時及び瞬低復帰時における比較例の系統電圧Vs及び系統電流Isの波形を示している。図12は、図11に一点鎖線で示した枠部分を拡大した系統電圧Vs(線間電圧Vuv,Vvw,Vwu)及び系統電流Is(線電流Iu,Iv,Iw)の波形を示している。図13は、瞬低復帰時における比較例の電流指令値位相(極座標変換部25の出力信号)、電圧変換器37の出力信号、及び電圧変換器34の出力信号の波形を示している。
図11に示すように、電力系統Lsに瞬低が発生すると、系統電圧Vsの電圧レベルが急激に低下する(この例では、系統電圧Vsの残電圧が20%)。やがて、系統電圧Vsが瞬低状態から正常電圧レベルに復帰すると、系統電圧Vsの電圧レベルが急激に上昇する。すると、インバータ13の出力電流Iiが急激に増加するため、平滑用フィルタ14(T型フィルタ)及び出力電流Iiのフィードバックループの過渡特性により、図13に示すように、電圧変換器37の出力信号に振動が発生する。この電圧変換器37の出力信号は電流指令値(電圧変換器34の出力信号)にフィードバックされるため、インバータ13の動作を決定する上記電流指令値にも振動が発生する。この電流指令値の振動により、インバータ13の出力電流Iiに振動が発生する。このとき、系統のインピーダンスが高いと、出力電流Iiの振動が系統電圧Vsにも発生する。なお、出力電流Iiの振動に伴って系統電流Isにも振動が発生する。
ここで、電流指令値の位相は上記系統電圧Vsから算出される。すなわち、振動が発生した状態の系統電圧Vsが電圧検出器19で計測され、図25に示すように、Δ−Y変換部21、三相/二相変換部22、BPF23、瞬時正相変換部24及び極座標変換部25により、上記計測された系統電圧Vsから電流指令値の位相が算出される。このため、上述のように系統電圧Vsに振動が発生すると、その振動に起因して電流指令値位相に歪みが発生する。この歪んだ電流指令値位相に基づいて電流指令値が生成されることになるため、その電流指令値(例えば、電圧変換器34の出力信号)が変動する。さらに、その電流指令値に基づいてインバータ13の出力電流Iiが制御されるため、出力電流Iiの変動及び振動が増長するとともに、出力電流Iiの振動が継続してしまう。このため、図12に示すように、瞬低復帰後に、長時間継続して系統電圧Vs及び系統電流Isに振動が発生するという問題がある。なお、ここでは説明を省略するが、瞬低発生時にも同様の問題が発生する。
次に、図9及び図10を参照して瞬低復帰時における本実施形態の制御装置20の動作について説明する。図9は、瞬低復帰時における本実施形態の系統電圧Vs(線間電圧Vuv,Vvw,Vwu)及び系統電流Is(線電流Iu,Iv,Iw)の波形を示している。図10は、瞬低復帰時における本実施形態の電流指令値位相θc、電圧変換器37の出力信号、及び電圧変換器34の出力信号の波形を示している。
上記比較例に対し、本実施形態の制御装置20では、極座標変換部25の後段に、電圧低下検出部26、位相変動検出部27及び位相置換部28を設けるようにした。これにより、制御装置20では、瞬低復帰時における系統電圧Vsの位相変動異常を検出したときに、その時の系統電圧Vsから算出した位相情報θ1の代わりに、上記位相変動異常が検出されていない位相正常時の位相情報(つまり、位相情報保持部80に保持されている位相情報θ4)が電流指令値位相θcとして座標変換部30に出力される。また、上記位相正常時の位相情報θ4が位相情報保持部80に1サイクル分保持されていることから、切替信号S4がHレベルとなる期間において継続して、上記位相情報θ4が電流指令値位相θcとして座標変換部30に出力される。このため、図10に示すように、瞬低復帰直後であっても、電流指令値位相θcが安定した位相情報に維持されている、つまり電流指令値位相θcに歪みが発生することが好適に抑制されている。これにより、座標変換部30及び電圧変換器34等では、安定した位相情報θ4(電流指令値位相θc)を用いて電流指令値が設定される。このため、電圧変換器34の出力信号(電流指令値)が変動することを好適に抑制することができる。さらに、この電圧変換器34の出力信号に基づいてインバータ13が制御されるため、インバータ13の動作を位相正常時と同様に安定したものとすることができる。これにより、本実施形態のパワコン11では、瞬低復帰後、インバータ13の出力電流Iiに変動及び振動が発生することが迅速に抑制される。したがって、本実施形態のパワコン11では、図9に示すように、瞬低復帰後、系統電圧Vs及び系統電流Isに変動及び振動が発生することを迅速に抑制することができる。なお、瞬低復帰した後に出力電流Iiに変動及び振動が発生することが迅速に抑制されるため、図10に示すように、電圧変換器37の出力信号に変動及び振動が発生することも瞬低復帰した後迅速に抑制することができる。
ここでは説明を省略するが、瞬低発生時も上記瞬低復帰時と同様に、インバータ13の出力電流Iiに変動及び振動が発生することが迅速に抑制され、系統電圧Vs及び系統電流Isに変動及び振動が発生することが迅速に抑制される。
次に、本実施形態の特徴的な効果を記載する。
(1)位相置換部28に位相情報保持部80が備えられ、Hレベルの切替信号S4が生成される前の正常時の位相情報が系統基本波の整数倍サイクル分(本例では、1サイクル分)だけ上記位相情報保持部80に更新されつつ保持される。また、位相変動異常が検出されておらず切替信号S4がLレベルである場合には、極座標変換部25で都度抽出される位相情報θ1に基づいて出力電流値(電流指令値)の設定が行われる。その一方で、瞬低期間中や瞬低復帰直後に位相変動異常が検出されて上記切替信号S4がHレベルになると、上記位相情報保持部80に保持された位相情報θ4に基づいて電流指令値の設定が行われる。すなわち、位相変動異常が生じてHレベルの切替信号S4が生成された場合、位相情報保持部80に保持された正常時の安定した位相情報を用いて電流指令値が設定されるため、インバータ13の動作は正常時と同様に安定したものとなる。結果、インバータ13から出力される出力電流Iiに変動及び振動が発生することを低減でき、一層の電力系統Lsの安定化に寄与することができる。
(2)高調波歪み等に起因した位相変動量を打ち消すように、位相情報θ1と比較位相θ3との差分である位相変動量Δθを補正する補正部63を設けるようにした。これにより、高調波歪み等に起因して位相情報θ1の折り返しタイミングが変動した場合であっても、判定値θeと比較される位相変動量Δθaを略0とすることができるため、検出信号S3がHレベルに遷移することを抑制できる。したがって、LVRT動作時における出力電流Iiの振動発生の抑制に有効な、位相置換部28による位相置換動作が誤動作することを好適に抑制できる。この結果、LVRT動作時における出力電流Iiの安定化、及び一層の電力系統Lsの安定化に寄与することができる。
(3)位相置換部29に位相情報保持部88が備えられ、振幅情報V1が電圧値Vr2未満となる電圧低下異常(第2基準値以上の電圧低下異常)が検出される前の正常時の位相情報が系統基本波の整数倍サイクル分(本例では、1サイクル分)だけ上記位相情報保持部88に更新されつつ保持される。また、第2基準値以上の電圧低下異常が検出されていない場合には、位相置換部28から都度入力される位相情報θ2に基づいて電流指令値の設定が行われる。その一方で、第2基準値以上の電圧低下異常が検出された場合には、上記位相情報保持部88に保持された正常時の安定した位相情報θ5に基づいて電流指令値の設定が行われる。これにより、例えば系統電圧Vsの残電圧が10%未満となる電圧低下異常が発生して系統電圧Vsからの位相情報の抽出が困難となる場合であっても、位相情報保持部88に保持された正常時の安定した位相情報θ5を用いて電流指令値が設定されるため、インバータ13の動作は正常時と同様に安定したものとなる。換言すると、上記手法を用いれば、系統電圧Vsの残電圧が0%になった場合であっても、電流指令値の設定に安定した位相情報θ5を用いることができるため、位相を喪失しない点で優れている。
(4)第1基準値以上の電圧低下異常の検出と位相変動異常の検出とに基づいて位相置換を実施する位相置換部28と、第1基準値よりも高い第2基準値以上の電圧低下異常の検出のみに基づいて位相置換を実施する位相置換部29との2つの位相置換部を設けるようにした。さらに、それら位相置換部28と位相置換部29を縦続接続するようにした。これにより、系統電圧Vsの残電圧が10%未満となる瞬低が発生したときに、振幅情報V1の振幅変化に遅延が生じた場合であっても、瞬低発生後の期間P1における位相情報(電流指令値位相θc)の変動を抑制することができる。このため、ZVRT動作時に系統電流Isが不安定になることを好適に抑制することができる。
なお、上記第1実施形態は、これを適宜変更した以下の態様にて実施することもできる。
・上記第1実施形態の補正部63における補正方法は、高調波歪み等の歪みに起因して発生する位相変動量を打ち消すことが可能であれば特に限定されない。補正部63における別の補正方法を以下に説明する。
図14に示すように、補正部63は、まず、位相変動量Δθに対して所定値(ここでは、+2π[rad])を加算して変動量Δθpを算出し、位相変動量Δθに対して所定値(ここでは、−2π[rad])を加算して変動量Δθnを算出する。続いて、補正部63は、変動量Δθp,Δθnの絶対値である変動量|Δθp|,|Δθn|と判定値θd(ここでは、π[rad])を比較する。そして、補正部63は、変動量|Δθp|,|Δθn|と判定値θdとの比較結果に応じて、位相変動量Δθを補正して位相変動量Δθaを生成する。
例えば、時刻t31に示すように、位相情報θ1の折り返しタイミングの変動に伴って位相変動量Δθが−2π[rad]に近い値になると、変動量|Δθp|が0[rad]に近い値になり、変動量|Δθn|が4π[rad]に近い値になる。このように、変動量|Δθp|が判定値θd(ここでは、π[rad])未満になった場合には、補正部63は、位相変動量Δθに対して補正値(ここでは、2π[rad])を加算して位相変動量Δθaを生成する。これにより、高調波歪み等の歪みに起因して発生する位相変動量を打ち消すことができ、位相変動量Δθaを略0にすることができる。
また、時刻t32に示すように、位相情報θ1の折り返しタイミングの変動に伴って位相変動量Δθが+2π[rad]に近い値になると、変動量|Δθp|が4π[rad]に近い値になり、変動量|Δθn|が0[rad]に近い値になる。このように、変動量|Δθn|が判定値θd(ここでは、π[rad])未満になった場合には、補正部63は、位相変動量Δθから補正値(ここでは、2π[rad])を減算して位相変動量Δθaを生成する。これにより、高調波歪み等の歪みに起因して発生する位相変動量を打ち消すことができ、位相変動量Δθaを略0にすることができる。
以上説明した補正方法に変更した場合であっても、上記第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
・上記第1実施形態における位相置換部29を省略してもよい。この場合には、例えば、第1基準値以上第2基準値未満の電圧低下異常ではなく、第1基準値以上の電圧低下異常を検出したときにHレベルの検出信号S1を生成し、その検出信号S1と検出信号S3とに基づいて切替信号S4を生成するようにしてもよい。例えば、系統電圧Vsの残電圧が70%となる電圧低下異常を検出したときにHレベルの検出信号S1を生成し、その検出信号S1と検出信号S3とに基づいて切替信号S4を生成するようにしてもよい。このような構成としても、上記実施形態の(1),(2)と同様の効果を奏することができる。
・上記第1実施形態では、電圧低下異常を検出したときに生成される検出信号S1と、位相変動異常を検出したときに生成される検出信号S3とに基づいて切替信号S4を生成するようにした。これに限らず、例えば、検出信号S1の生成を省略し、検出信号S3のみに基づいて切替信号S4を生成するようにしてもよい。例えば、オフディレイタイマ71から出力される検出信号S3dを切替信号S4として利用するようにしてもよい。この場合であっても、オンディレイタイマ70及びオフディレイタイマ71を設けたことにより、ノイズなどに起因した位相置換部28の誤動作の発生を抑制することができる。また、位相変動判定部64における判定値θeに上限値及び下限値を設定するようにしてもよい。これにより、位相置換部28の誤動作の発生をより好適に抑制することができる。
(第2実施形態)
以下、図15〜図22に従って第2実施形態を説明する。先の図1〜図14に示した部材と同一の部材にはそれぞれ同一の符号を付して示し、それら各要素についての詳細な説明は省略する。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明する。なお、図15に示す制御装置20Aは、図2に示した制御装置20と共通する回路の一部(座標変換部30、直流電圧制御部31、演算器32,33,35,38、電圧変換器34,37、三相/二相変換器36,39及びPWM制御部40)の図示を省略している。
図2に示した制御装置20では、系統電圧Vsから振幅情報V1の抽出を行うために、Δ−Y変換部21、三相/二相変換部22、BPF23、瞬時正相変換部24及び極座標変換部25を設けるようにした。
これに対し、図15に示すように、本実施形態の制御装置20Aでは、系統電圧Vsを入力し、その系統電圧Vsから振幅情報を抽出する振幅算出部41を設けるようにした。振幅算出部41は、系統電圧Vsの各線間電圧Vuv,Vvw,Vwuの振幅を個別に算出し、算出した振幅情報V2を電圧低下検出部26Aに出力する。本例の振幅算出部41は、振幅二乗法を用いて各線間電圧Vuv,Vvw,Vwuの振幅を算出する。この振幅算出部41と、振幅情報V2に基づいて電圧低下異常を検出する電圧低下検出部26Aとの内部構成例について以下に説明する。
図16に示すように、振幅算出部41は、演算器91と、1/4サイクル遅延(つまり、系統周波数で90度遅延)を行う遅延部92a〜92cと、入力値uに対して演算u2を行う演算器93a〜93c,94a〜94cと、演算器95a〜95cと、入力値の平方根を算出する演算器96a〜96cとを有している。演算器91は、線間電圧Vuvと線間電圧Vvwを入力し、それら線間電圧Vuv,Vvwから線間電圧Vwuを算出する。
線間電圧Vuvは、遅延部92aと演算器93aとに入力される。遅延部92aから出力される1/4サイクル前の線間電圧Vuv1は演算器94aに入力される。演算器95aは、演算器93aから出力される演算結果(=Vuv2)に、演算器94aから出力される演算結果(=Vuv12)を加算して、線間電圧Vuvの振幅V2aの二乗値V2a2を算出する。演算器96aは、二乗値V2a2の平方根を算出して、線間電圧Vuvの振幅V2aを算出する。このように、遅延部92a及び演算器93a〜96aによって下記式で示す演算が実行され、線間電圧Vuvからその線間電圧Vuvの振幅V2aが算出される。
同様に、遅延部92b及び演算器93b〜96bによって下記式6で示す演算が実行され、線間電圧Vvwからその線間電圧Vvwの振幅V2bが算出される。また、遅延部92c及び演算器93c〜96cによって下記式7で示す演算が実行され、線間電圧Vwuからその線間電圧Vwuの振幅V2cが算出される。
そして、各線間電圧Vuv,Vvw,Vwuの振幅V2a,V2b,V2c(図15に示した振幅情報V2)は、電圧低下検出部26Aに供給される。
電圧低下検出部26Aは、判定器51a〜51c及びオア回路51dを有する判定器51と、判定器52a〜52c及びオア回路52dを有する判定器52とを有している。電圧低下検出部26Aでは、判定器51a,52aに振幅V2aが入力され、判定器51b,52bに振幅V2bが入力され、判定器51c,52cに振幅V2cが入力される。
判定器51a〜51cには、系統電圧Vsの定格電圧に応じた電圧値Vr1,Vr2が入力される。判定器51aは、振幅V2aと電圧値Vr1,Vr2との比較結果に応じた信号をオア回路51dに出力する。判定器51bは、振幅V2bと電圧値Vr1,Vr2との比較結果に応じた信号をオア回路51dに出力する。判定器51cは、振幅V2cと電圧値Vr1,Vr2との比較結果に応じた信号をオア回路51dに出力する。本例の判定器51a〜51cは、入力した振幅V2a〜V2cが電圧値Vr2以上電圧値Vr1未満であるとき(例えば、振幅V2a〜V2cが定格電圧の10%以上70%未満となる電圧低下異常が生じたとき)に、Hレベルの信号をオア回路51dに出力する。
オア回路51dは、判定器51a〜51cの出力信号を論理和演算した結果を検出信号S1として出力する。このため、判定器51a〜51cの出力信号のいずれか1つの出力信号がHレベルとなると、系統電圧Vsの残電圧が10%以上70%未満となる電圧低下異常が生じたことを示すHレベルの検出信号S1がオア回路51dから出力される。
一方、判定器52a〜52cには、電圧値Vr2が入力される。判定器52aは、振幅V2aと電圧値Vr2との比較結果に応じた信号をオア回路52dに出力する。判定器52bは、振幅V2bと電圧値Vr2との比較結果に応じた信号をオア回路52dに出力する。判定器52cは、振幅V2cと電圧値Vr2との比較結果に応じた信号をオア回路52dに出力する。本例の判定器52a〜52cは、入力した振幅V2a〜V2cが電圧値Vr2未満であるとき(例えば、振幅V2a〜V2cが定格電圧の10%未満となる電圧低下異常が生じたとき)に、Hレベルの信号をオア回路52dに出力する。
オア回路52dは、判定器52a〜52cの出力信号を論理和演算した結果を検出信号S2として出力する。このため、判定器52a〜52cの出力信号のいずれか1つの出力信号がHレベルとなると、系統電圧Vsの残電圧が10%未満となる電圧低下異常が生じたことを示すHレベルの検出信号S2がオア回路52dから出力される。
以上説明したように、振幅算出部41及び電圧低下検出部26Aを採用したことにより、振幅V2a,V2b,V2cが個別に線間電圧Vuv,Vvw,Vwuから直接算出され、それら振幅V2a,V2b,V2c毎に電圧低下異常の発生の有無が検出され、それら検出結果から検出信号S1,S2が生成される。これにより、瞬時正相変換等のような3相の平均値を算出する演算構成が必要無くなるため、瞬低等の電圧低下異常を検出する速度を速めることができる。
しかしながら、振幅算出部41及び電圧低下検出部26Aを採用した場合(特に、振幅算出部41を採用した場合)には以下のような問題が発生するおそれがある。
例えば、瞬低復帰時に、電力系統Lsに接続された上位側の変圧器(図示略)からの励磁突入電流によって電力系統Lsの電圧波形に歪みが生じる場合がある。このような歪みが発生すると、図20に示すように、電圧検出器19で検出された系統電圧Vsの線間電圧Vuv,Vvw,Vwuにノイズが発生する。このため、図21(a)に示すように、振幅算出部41で算出される線間電圧Vuv,Vvw,Vwuの振幅V2a,V2b,V2cが変動する。この変動に伴って、瞬低復帰後であるにも関わらず(つまり、電圧低下異常が発生しない期間であるにも関わらず)、振幅V2a,V2b,V2cが電圧値Vr1(ここでは、定格電圧の70%の電圧)よりも低くなる期間が発生する。さらに、このとき、系統電圧Vsにもノイズが発生しているため、そのノイズに起因して位相情報θ1が変動し、位相変動量|Δθa|が判定値θe以上となる場合がある。すると、電力系統Lsの電圧波形で電圧低下異常及び位相変動異常が生じていないにも関わらず、位相置換部28による位相置換動作が実行されてしまう。このような振幅V2a,V2b,V2c及び位相情報θ1の変動が継続すると、位相置換部28による位相置換が実施される期間と位相置換が実施されない期間とが繰り返されるハンチングが発生するおそれがある。さらに、瞬低復帰前後で系統電圧Vsの周波数及び位相の変動を伴うときに上記ハンチングが発生すると、変動前(瞬低復帰前)の周波数及び位相に基づく位相置換によって、置換後の位相情報θ2(電流指令値位相θc)が不連続になる。この電流指令値位相θcに基づいて電流指令値(例えば、二相電流値Icα,Icβ)が生成され、その電流指令値に基づいてインバータ13の出力電流Iiが制御されるため、出力電流Iiが不連続に歪む。このため、図21(b)に示すように、線電流Iu,Iv,Iw(系統電流Is)にも不連続な歪みが発生する(破線枠参照)。
そこで、図15に示すように、制御装置20Aでは、励磁突入電流の発生を検出したときに、位相置換部28による位相置換動作を停止させる検出信号S5を生成する励磁突入電流検出部(直交変換部42、二次調波検出部43及び励磁突入電流判定部44)を設けるようにした。ここで、変圧器による励磁突入電流は、偶数次高調波、特に二次調波を多く含有する。また、励磁突入電流のレベルは瞬低復帰時の電圧位相に依存するため、三相不平衡となる。このため、例えば系統電流Isの逆相電流成分を算出して二次調波成分を検出し、その逆相電流成分(二次調波成分)が大きいか否かを判定することにより、励磁突入電流の発生を検出することができる。
直交変換部42は、系統電流Is(線電流Iu,Iv,Iw)を直交変換し、αβ軸の固定座標系の二相電流値Iα,Iβを生成する。二次調波検出部43は、直交変換部42からの二相電流値Iα,Iβを瞬時逆相電流Inα,Inβに変換し、瞬時逆相電流Inα,Inβの振幅|In|を算出する。励磁突入電流判定部44は、二次調波検出部43からの振幅|In|と、予め設定された判定値Ithとを比較し、その比較結果に応じた信号レベルを持つ検出信号S5を生成する。そして、励磁突入電流判定部44は、生成した検出信号S5を位相置換部28Aに出力する。
次に、二次調波検出部43の内部構成例について以下に説明する。
図17に示すように、二次調波検出部43は、演算器101a,101bと、遅延部102a,102bと、演算器103a,103bと、演算器104と、ローパスフィルタ(LPF)105とを有している。
直交変換部42からの二相電流値Iαは、演算器101aと遅延部102aに入力される。遅延部102aは、入力した二相電流値Iαを1/4サイクル遅延(つまり、系統周波数で90度遅延)させ、遅延後の電流値Iα’を演算器101bに出力する。また、直交変換部42からの二相電流値Iβは、演算器101bと遅延部102bに入力される。遅延部102bは、入力した二相電流値Iβを1/4サイクル遅延させ、遅延後の電流値Iβ’を演算器101aに出力する。
演算器101aは、電流値Iαと電流値Iβ’とを合算し、演算器103aは、演算器101aによる演算結果に1/2を乗算してα軸側の瞬時逆相電流Inαを算出する。演算器101bは、電流値Iβから電流値Iα’を減算し、演算器103bは、演算器101bによる演算結果に1/2を乗算してβ軸側の瞬時逆相電流Inβを算出する。このように、瞬時逆相電流Inα,Inβは、以下の式により算出される。
演算器104は、瞬時逆相電流Inα,Inβを入力し、以下の式で示す演算を実行して瞬時逆相電流の振幅|In|を算出する。
LPF105は、振幅|In|を平滑化する。LPF105は、平滑後の振幅|In|を励磁突入電流判定部44に出力する。ここで、説明の便宜上、LPF105から出力される平滑後の振幅を|In|として説明する。なお、LPF105の時定数は、例えば20ms程度とすることができる。
次に、励磁突入電流判定部44の内部構成例について以下に説明する。
図18に示すように、励磁突入電流判定部44は、判定器111と、オンディレイタイマ112と、オフディレイタイマ113とを有している。判定器111は、振幅|In|と判定値Ithとの比較を行い、比較結果に応じた検出信号Snを生成する。例えば、判定器111は、振幅|In|が判定値Ith未満であるときに、Lレベルの検出信号Snを生成する。また、判定器111は、振幅|In|が判定値Ith以上であるときに、励磁突入電流が発生していることを示すHレベルの検出信号Snを生成する。なお、判定値Ithは、例えば系統電流Isの定格電流の10〜15%程度の電流値に設定することができる。
検出信号Snは、オンディレイタイマ112及びオフディレイタイマ113を介して、オフディレイタイマ113から検出信号S5として出力される。オンディレイタイマ112は、検出信号Snがオンするタイミング(ここでは、検出信号S5がLレベルからHレベルに遷移するタイミング)を所定時間遅延させるタイマである。また、オフディレイタイマ113は、検出信号Snがオフするタイミング(ここでは、検出信号S5がHレベルからLレベルに遷移するタイミング)を所定時間遅延させるタイマである。なお、オンディレイタイマ112における遅延時間は、例えば20ms程度に設定することができ、オフディレイタイマ113における遅延時間は、例えば50ms程度に設定することができる。
励磁突入電流判定部44では、オンディレイタイマ112を設けたことにより、振幅|In|が判定値Ith以上となる期間が所定時間(ここでは、20ms)継続して発生した場合に初めて、励磁突入電流が発生していることを示すHレベルの検出信号S5が出力される。これにより、例えばノイズや瞬低発生などに起因して二次調波成分が瞬間的に大きくなった場合に、Hレベルの検出信号S5が生成されることが抑制される。
次に、図19に従って、位相置換部28Aの内部構成例について説明する。位相置換部28Aでは、アンド回路72が2入力型から3入力型に変更されている。
アンド回路72の入力端子には検出信号S1d,S3dが入力され、アンド回路72の他方の入力端子(反転入力端子)には検出信号S5が入力される。アンド回路72は、検出信号S1dと検出信号S3dと検出信号S5の反転レベルとを論理積演算した結果を持つ切替信号S4を生成する。例えば、アンド回路72は、検出信号S5がLレベルのときに、検出信号S1d及び検出信号S3dが共にHレベルとなると、位相置換の実行を指令するHレベルの切替信号S4を生成する。一方、アンド回路72は、Hレベルの検出信号S5が入力されると、検出信号S1d,S3dの信号レベルに関わらず、Lレベル固定の切替信号S4を生成する。すなわち、位相置換部28Aでは、励磁突入電流の検出に伴って生成される、Hレベルの検出信号S5に応答して、Hレベルの切替信号S4の生成が停止され、当該位相置換部28Aによる位相置換動作が停止される。
次に、図22に従って、制御装置20Aの動作について説明する。ここでは、系統電圧Vsの残電圧が10%未満となる瞬低から正常電圧に復帰する際の動作について説明する。
上述したように、瞬低復帰時に励磁突入電流が発生すると、線間電圧Vuv,Vvw,Vwuにノイズが発生する。このため、図22(a)に示すように、線間電圧Vuv,Vvw,Vwuの振幅V2a,V2b,V2cが変動する。このとき、励磁突入電流の発生に伴って、二相電流値Iα,Iβの逆相電流成分が増大する。このため、図22(b)に示すように、瞬時逆相電流Inα,Inβの振幅|In|が瞬低復帰後に急激に増大する。そして、振幅|In|が判定値Ith以上となると(時刻t41参照)、Hレベルの検出信号S5が生成される。このHレベルの検出信号S5によって、位相置換部28による位相置換動作が停止される。これにより、励磁突入電流に起因した位相置換部28の誤動作の発生が好適に抑制される。したがって、位相置換部28による位相置換が実施される期間と実施されない期間が繰り返されるハンチングの発生も抑制されるため、インバータ13の出力電流Iiに不連続な歪みが発生することを抑制できる。この結果、系統電流Is(線電流Iu,Iv,Iw)に不連続な歪みが発生することを抑制できる。
以上説明した実施形態によれば、第1実施形態の(1)〜(4)の効果に加えて以下の効果を奏することができる。
(5)系統電圧Vsの線間電圧Vuv,Vvw,Vwuの振幅V2a,V2b,V2cを個別に算出する振幅算出部41を設けるようにした。また、振幅V2a,V2b,V2c毎に電圧低下異常の発生の有無を検出し、その検出結果から検出信号S1,S2を生成する電圧低下検出部26Aを設けるようにした。これにより、系統電圧Vsから振幅情報V2を抽出する際に瞬時正相変換等のような3相の平均値を算出する演算構成が必要無くなるため、瞬低等の電圧低下異常を検出する速度を速めることができる。したがって、瞬低発生時の過電流を抑制することができ、インバータ13の出力電流Iiの更なる安定化に寄与することができる。
(6)励磁突入電流の発生を検出したときに、位相置換部28による位相置換動作を停止させるようにした。これにより、励磁突入電流に起因して電力系統Lsの電圧波形に歪みが生じた場合であっても、インバータ13の出力電流Iiに不連続な歪みが発生することを抑制できる。この結果、瞬低復帰後における出力電流Iiの安定化、及び一層の電力系統Lsの安定化に寄与することができる。
(7)系統電流Isを直交変換して二相電流値Iα,Iβを生成し、それら二相電流値Iα,Iβを瞬時逆相変換し、さらに変換後の瞬時逆相電流Inα,Inβの振幅|In|を算出するようにした。そして、振幅|In|と一つの判定値Ithとの比較結果に基づいて、励磁突入電流の発生を判定するようにした。これにより、比較的簡素な演算によって、励磁突入電流の発生を判定することができる。
なお、上記第2実施形態は、これを適宜変更した以下の態様にて実施することもできる。
・上記第2実施形態の二次調波検出部43及び励磁突入電流判定部44の内部構成は、図17及び図18に示した構成に限定されない。換言すると、二次調波検出部43及び励磁突入電流判定部44における励磁突入電流の検出方法は特に限定されない。以下に、二次調波検出部43及び励磁突入電流判定部44の別の構成例について説明する。
例えば図23に示す二次調波検出部43は、系統電流Isの線電流Iu,Iv,Iwがそれぞれ入力される演算器106,107,108を有している。すなわち、本変形例では、図15に示した直交変換部42を省略することができる。
演算器106は、線電流Iuと系統基本波を入力として離散フーリエ変換(DFT:Discrete Fourier Transform)を行って、線電流Iuの系統基本波の2倍の周波数成分(つまり、二次調波成分)の振幅Iumを算出する。同様に、演算器107は、線電流Ivと系統基本波を入力として離散フーリエ変換を行って、線電流Ivの二次調波成分の振幅Ivmを算出する。また、演算器108は、線電流Iwと系統基本波を入力として離散フーリエ変換を行って、線電流Iwの二次調波成分の振幅Iwmを算出する。
これら振幅Ium,Ivm,Iwmは、図24に示す励磁突入電流判定部44に供給される。励磁突入電流判定部44は、判定器114a〜114cと、オア回路115と、オンディレイタイマ112と、オフディレイタイマ113とを有している。
判定器114aは、振幅Iumと判定値Ith1との比較結果に応じた検出信号Suをオア回路115に出力する。判定器114aは、振幅Ivmが判定値Ith1以上であるときに、励磁突入電流の発生を示すHレベルの検出信号Suをオア回路115に出力する。同様に、判定器114bは、振幅Ivmが判定値Ith2以上であるときに、Hレベルの検出信号Svをオア回路115に出力する。判定器114cは、振幅Iwmが判定値Ith3以上であるときに、Hレベルの検出信号Swをオア回路115に出力する。ここで、判定値Ith1〜Ith3は、同じ値であってもよいし、互いに異なる値であってもよい。例えば、判定値Ith1〜Ith3は、系統電流Isの定格電流の10〜15%程度の電流値に設定することができる。
オア回路115は、検出信号Su,Sv,Swを論理和演算した結果を検出信号Snとしてオンディレイタイマ112に出力する。このため、判定器114a〜114cから出力される検出信号Su,Sv,Swのいずれか1つの検出信号がHレベルとなると、励磁突入電流の検出を示すHレベルの検出信号Snがオア回路115から出力される。
以上説明したように二次調波検出部43及び励磁突入電流判定部44の構成を変更した場合であっても、上記第2実施形態と同様に励磁突入電流の発生を検出することができ、上記第2実施形態の(5),(6)の効果と同様の効果を奏することができる。
・上記第2実施形態の位相変動検出部27から補正部63を省略してもよい。この場合には、位相変動量Δθが位相変動判定部64に直接入力され、位相変動判定部64において位相変動量|Δθ|と判定値θeとが比較される。このように変更した場合であっても、上記第1実施形態の(1),(3),(4)の効果、及び上記第2実施形態の(5)〜(7)の効果と同様の効果を奏することができる。
なお、上記実施形態は、以下のように変更してもよい。
・上記各実施形態の判定器51において、振幅情報V1と、電圧値Vr1との比較結果に応じて検出信号S1を生成するようにしてもよい。この場合、判定器51は、振幅情報V1が電圧値Vr1以上であるときにLレベルの検出信号S1を生成し、振幅情報V1が電圧値Vr1未満であるときにHレベルの検出信号S1を生成する。この構成では、系統電圧Vsの残電圧が10%未満となった場合に、検出信号S1及び検出信号S2の双方がHレベルになる。但し、検出信号S2がHレベルになると、図4に示したアンド回路73の出力信号がLレベルに固定されるため、検出信号S1dがLレベルに固定される。このため、切替信号S4がLレベルに固定され、位相置換部28,29による位相置換動作が同時に実行されることはない。
・上記各実施形態では、位相置換部28の後段に位相置換部29を設けるようにした。これに限らず、例えば位相置換部29の後段に位相置換部28を設けるようにしてもよい。この場合には、極座標変換部25から出力される位相情報θ1が位相置換部29に入力され、その位相置換部29において、検出信号S2に基づいて上記位相情報θ1と位相情報保持部88に保持された位相情報θ5との切り替えが行われる。そして、位相置換部29から出力される位相情報が位相置換部28に入力され、その位相置換部28において、切替信号S4に基づいて上記位相置換部29からの位相情報と位相情報保持部80に保持された位相情報θ4との切り替えが行われる。このような構成としても、上記各実施形態と同様の効果を奏することができる。
・上記各実施形態では、系統電圧Vsから振幅情報V1や位相情報θ1の抽出を行うための系統電圧情報抽出部として、Δ−Y変換部21、三相/二相変換部22、BPF23、瞬時正相変換部24、極座標変換部25を設けるようにした。これに限らず、例えば、Δ−Y変換部21を省略してもよい。この場合には、電圧検出器19で検出された三相の系統電圧Vsが三相/二相変換部22に入力され、その三相/二相変換部22で三相の系統電圧Vsがαβ軸の固定座標系の二相電圧値Vsα,Vsβに変換される。また、三相/二相変換部22では、αβ変換を用いるようにしたが、例えばdq変換を用いるようにしてもよい。
あるいは、BPF23を省略してもよい。この場合には、三相/二相変換部22から出力される二相電圧値Vsα,Vsβが瞬時正相変換部24に直接入力される。さらに、瞬時正相変換部24を省略してもよい。この場合には、三相/二相変換部22から出力される二相電圧値Vsα,Vsβが極座標変換部25に入力され、その極座標変換部25にて二相電圧値Vsα,Vsβから振幅情報V1や位相情報θ1が算出される。
あるいは、三相/二相変換部22を省略してもよい。この場合には、例えば、電圧検出器19で検出された三相の系統電圧Vsが瞬時正相変換部24に入力され、その瞬時正相変換部24にて三相の系統電圧Vsが瞬時正相電圧に変換される。
・上記各実施形態の位相情報の保持する個数や保持のタイミング等、位相情報の保持態様を適宜変更してもよい。
・上記各実施形態におけるオンディレイタイマ70,74,83,112及びオフディレイタイマ71,75,84,113における遅延時間を適宜変更してもよい。
・上記各実施形態におけるオンディレイタイマ70,74,83,112及びオフディレイタイマ71,75,84,113を省略してもよい。
・上記各実施形態では、平滑用フィルタ14をT型フィルタとしたが、その他のフィルタと置換してもよい。例えば、平滑用フィルタ14からリアクトルL2を省略したフィルタを平滑用フィルタとして用いるようにしてもよい。
・上記各実施形態では、電力変換器としてインバータ13を備えていたが、その他の電力変換器と置換してもよく、その他の電力変換器と組み合わせてもよい。
・上記各実施形態では、太陽光発電システム10のパワコン11に適用したが、その他の分散電源システムのパワコン11、例えば風力発電システム、コージェネレーションシステム等のパワコンに適用してもよい。