JP6356425B2 - 組成変調されたリン酸コバルトリチウム化合物からなる正極材料、及び、その製造方法、並びに、高電圧リチウムイオン二次電池 - Google Patents
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Description
前記混合された化合物を、400〜800℃の温度範囲で、空気中にて反応させて、化学組成Li1−xCo1−xMxPO4で表される化合物を得る工程と
を含む。
化学量論組成のリン酸コバルトリチウムLiCoPO4を正極材料に用いたリチウム二次電池は、図6の充放電プロファイルに示されるように金属リチウム対比で4.8Vという高電圧で作動することは良く知られている。しかし、化学量論組成である化学組成LiCoPO4を正極材料に用いたのでは、初期の数サイクルのみ高い電圧、十分な容量が得られるが、繰り返し充放電を行うと、容量が急激に減少してしまい、安定した充放電特性を有する二次電池を実現することができない。例えば、図7に示すように、充放電を繰り返すと電池容量が急速に低下してしまう。この点について、従来、動作電圧が高いために電解液の分解も発生することがその主な要因と考えられていた。この電池劣化の原因は未だ明確になっていない。
<正極材料>
実施の形態1に係る正極材料は、化学組成LiCoPO4で表される化合物において、二価のCo2+の一部を三価の金属イオンM3+で置換した化学組成Li1−xCo1−xMxPO4で表される。なお、三価の金属イオンM3+となる金属元素Mは、Fe、Al、Ga、Inから選ばれる少なくとも1つである。また、置換量xは、0.01〜0.20の範囲である。上記化合物中で、金属元素Mは三価の価数を有する。
化学量論組成のリン酸コバルトリチウムは、化学組成LiCoPO4で表され、図5の粉末X線回折パターンに示されるようにオリビン型構造を有する。このリン酸コバルトリチウムLiCoPO4を正極材料に用いた場合、充電反応においては、上記化合物からLi+イオンが電気化学的に引き抜かれると同時にCo2+イオンがCo3+イオンに酸化される。本発明者は、このときに電気化学的なLi+イオンを引き抜く反応が十分に進行しないことが、電解液の酸化分解を誘発しているのではないかと考えている。
本発明に係る正極材料は、正極材料の化合物中のCo2+イオンの一部を三価の金属イオンM3+で置換し、その際の価数バランスによって化合物の結晶中のLi+イオンの一部を欠損させることを特徴としている。このように結晶中のLi+イオンの一部を欠損させることで、充放電サイクルにおけるLi+イオンの引き抜き反応が変化して、充放電特性が安定するのではないかと考えている。
また、三価の金属イオンM3+となる金属元素Mに関しては、空気中で金属イオンの価数が3で安定なものであればよく、さらに、Co2+イオンを置換可能な金属元素であればよい。置換可能なイオン半径から考えて、例えば、イオン半径が0.04nm〜0.08nm(0.4Å〜0.8Å)の範囲であるFe、Al、Ga、Inが適当である。
実施の形態1に係る正極材料の製造方法は、以下の2つの工程を含む。
a)Liを含む化合物、Coを含む化合物、三価の金属イオンM3+となる金属元素Mを含む化合物、リンを含む化合物を化学量論比で、Li:Co:M:P=(1−x):(1−x):x:1(Mは、Fe、Al、Ga、Inからなる群から選ばれた少なくとも1つである;xは、0.01≦x≦0.20を満たす)となるように各化合物を混合する工程(以下、「混合工程」という。)
b)混合された化合物を、400〜800℃の温度範囲で、空気中にて反応させて、化学組成Li1−xCo1−xMxPO4で表される化合物を得る工程(以下、「反応工程」という。)
混合工程では、Liを含む化合物、Coを含む化合物、三価の金属イオンM3+となる金属元素Mを含む化合物、リンを含む化合物を化学量論比でLi:Co:M:P=(1−x):(1−x):x:1となるように各化合物を混合する。なお、三価の金属イオンM3+となる金属元素Mは、Fe、Al、Ga、Inから選ばれる1つ以上の元素である。また、金属元素Mの置換量xは、0.01〜0.20の範囲である。
なお、上記各化合物の比は、上記の比に厳密に限定されるものではなく、通常の測定における誤差等を含んでもよい。また、上記各化合物の比は、実質的に反応工程後の各元素の比に対応するものである。そこで、後の反応工程における反応条件に応じて、反応工程後の各元素の比として化学量論比でLi:Co:M:P=(1−x):(1−x):x:1となるように、原料となる各化合物の量を上記比の量から若干修正してもよい。例えば、反応工程で蒸発しやすいLiの量を混合工程においてあらかじめ若干増やしておいてもよい。
金属元素MとしてFeを選択する場合、例えば、Feを含んだ化合物として、シュウ酸鉄、塩化鉄、硫酸鉄、硝酸鉄、酸化鉄、水酸化鉄、及びこれらの無水物、水和物等を使用できる。なお、Feの化合物には二価及び三価の化合物が存在するが、製造過程の反応工程において空気中で反応させるので、二価のFeも三価のFeとなる。そこで、Feを含んだ化合物として三価のFeを含む化合物だけでなく、二価のFeを含む化合物を原料として用いることができる。
金属元素MとしてAlを選択する場合、例えば、Alを含んだ化合物として、酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、及びこれらの無水物、水和物等を使用できる。
金属元素MとしてGaを選択する場合、例えば、Gaを含んだ化合物として、硫酸ガリウム、硝酸ガリウム、水酸化ガリウム、水酸化酸化ガリウム、塩化ガリウム、及びこれらの無水物、水和物等を使用できる。
金属元素MとしてInを選択する場合、例えば、Inを含んだ化合物として、塩化インジウム、酸化インジウム、水酸化インジウム、硫酸インジウム、硝酸インジウム、及びこれらの無水物、水和物等を使用できる。
次に、反応工程では、混合された化合物を、400〜800℃の温度範囲で、空気中にて反応させて、化学組成Li1−xCo1−xMxPO4で表される化合物を得る。
反応工程における反応温度について検討する。反応させる温度が400℃未満では十分に化学反応が進行しないため、目的の化合物以外の化合物が混入するおそれがある。一方、800℃を超える温度では、Liの蒸発が顕著になるため、過剰量のLi化合物が必要となり効率的でない。また、各原料の粒径が比較的大きい場合や機械的混合法等のように混合性が低いと考えられる場合には、反応温度は、やや高めの500〜800℃の範囲であってもよく、さらに600〜800℃の範囲であってもよい。あるいは、ゾル−ゲル法によって混合した原料を用いた場合、各元素の混合性が高くなって反応性がよくなっていると考えられ、反応温度は、やや低めの400〜700℃の範囲であってもよい。
なお、反応工程における雰囲気は空気中であることが好ましい。窒素あるいはアルゴン気流中では、Coが還元されて金属となって析出してしまう。一方、酸素気流中では、Coが過剰に酸化されCo3+を含む化合物が混入する。
実施の形態1に係る高電圧リチウムイオン二次電池は、上記正極材料からなる正極活物質と、導電助剤と、結着剤とを含む正極を用いている。さらに、この高電圧リチウムイオン二次電池では、上記正極と、負極と、電解質とを備える。なお、ここでは動作電圧が4.5V以上の場合を高電圧と呼んでいる。
この高電圧リチウムイオン二次電池によれば、電池の動作電圧が4.5V以上の高電圧である。また、初期放電容量が120mAh/g以上であって、充放電サイクルを20回繰り返した後の放電容量が初期放電容量の70%以上である。そこで、実施の形態1に係る高電圧リチウムイオン二次電池は、高電圧リチウムイオン二次電池として有用である。
正極は、上記正極材料と、導電助剤と、結着剤とに対して、溶剤を添加して分散させて塗料を調整し、集電体上に塗布して形成される。なお、正極の上記正極材料以外の原料及び製造方法は、通常用いられる材料及び製造方法を用いてもよい。
正極材料としては、上記化学組成Li1−xCo1−xMxPO4(Mは、Fe、Al、Ga、Inから選ばれる少なくとも1つ;xは、0.01≦x≦0.20を満たす)で表される化合物を用いる。
導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、金属繊維、アルミニウム粉、フッ化炭素、酸化亜鉛、チタン酸カリウム、酸化チタン、ポリフェニレン誘導体等を用いることができる。これらの導電助剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、スチレンブタジエンゴム、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体またはそのNa+イオン架橋体、エチレン−メタクリル酸共重合体またはそのNa+イオン架橋体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体またはそのNa+イオン架橋体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体またはそのNa+イオン架橋体等を用いることができる。
溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の有機溶剤を用いることができる。
負極は、例えば、負極活物質自体からなる場合、負極活物質と結着剤とからなる場合等のいずれで構成してもよい。
前者の場合、負極活物質としては、例えば、金属リチウム、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−スズ合金等を用いることができる。
後者の場合、負極活物質としては、リチウムを吸蔵・脱離可能な炭素物質、例えば、黒鉛、炭素繊維、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)等を用いることができる。また、結着剤としては、正極において用いた材料、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を用いることができる。
電解液は、溶媒に電解質を溶解させて構成する。
溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。これらの1種を単独で用いることも、また2種以上を混合させて用いることもできる。混合溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)との混合溶媒を用いることができる。
電解質としては、例えば、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiCF3SO3 、LiAsF6、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2等が挙げられる。これらのリチウム塩は、それぞれ単独で用いてもよく、また、これらのもののうち2種以上のものを併用することもできる。を用いることができる。
なお、高電圧リチウムイオン二次電池の各構成部材の上記各材料は例示であって、これらに限定されるものではない。また、上記構成部材では、集電体やセパレータ等を挙げていないが、これらを含めてもよいことは当然である。この高電圧リチウムイオン二次電池を構成する構成部材として、通常のリチウムイオン二次電池に用いられる構成部材及び各材料を用いることができる。
<正極材料>
実施例1における正極材料となる化合物の試料粉末は以下のようにして作製した。
a)Liを含む化合物として炭酸リチウム、Coを含む化合物として炭酸コバルト、Feを含む化合物としてシュウ酸鉄、リン酸を含む化合物としてリン酸二水素アンモニウムを用いて、これらを化学組成Li0.9Co0.9Fe0.1PO4となるように秤量した。この場合、三価の金属イオンM3+となる金属元素MはFeであって、その置換量xは、x=0.10となる。
b)これらの原料粉末をアセトン溶媒中に投入して、この懸濁液を機械的に十分に撹拌した。得られた懸濁液を乾燥させて溶媒であるアセトンを除去して、混合粉末を得た。
c)この混合粉末を、電気炉に入れて空気中500℃で10時間焼成した後、炉冷して試料粉末を作製した。
d)得られた試料粉末について、粉末X線回折法によって調べたところ、図1のCu−Kα線によるX線回折パターンに示すように、オリビン型化合物単相からなることを確認した。また、この試料粉末のBET比表面積は、およそ7〜8m2/gであった。また、その化学組成は混合時と実質的に同じLi0.9Co0.9Fe0.1PO4であった。さらに、メスバウアー分光法によってメスバウアースペクトルを観測したところ、Fe2+に由来するピークが観測されず、含まれる実質的に全てのFeは3価であることを確認した。
この試料粉末を、常法に従って、導電助剤アセチレンブラック粉末(7wt%)、結着剤PVDF(ポリフッ化ビニリデン)(7wt%)とともに、溶媒であるNMP(N−メチル−2ピロリドン)に分散させて塗料を調製し、これをアルミニウム集電体箔上に塗布して正極を作製した。負極に金属リチウム、1.0MのLiPF6塩をEC(エチレンカーボネート)/DMC(ジメチルカーボネート)=1/2の混合溶媒に溶解した電解液を用いて、リチウムコインセルを作製した。このコインセルを用いて室温で充放電特性を測定した。充電は、上限電圧を5.0Vとし、10時間レート相当の定電流で上限電圧まで充電し、その後、定電圧で、充電電流が定電流時の1/10になるまで行うというCC−CVモードで行った。放電は、下限電圧を3.5Vとし、10時間レート相当の定電流で下限電圧まで放電するCCモードで行った。
<正極材料>
比較例では、原料としてFeを含んだ化合物としてシュウ酸鉄を使用しないこと、化学組成をLiCoPO4の化学量論組成となるように混合した以外は、実施例1と同様にして試料化合物を作製した。
得られた化合物を、粉末X線回折法を用いて調べたところ、図5のX線回折パターンに示すようにオリビン型化合物単相であることを確認した。
この試料粉末を用いて、実施例1と同様の方法で正極を作製し、さらに実施例と同じ方法でリチウムコインセルを作製した。このコインセルをもちいて実施例と同じ条件で充放電特性を測定した。
図6は、比較例の電池による初期充放電のプロファイルである。得られた初期充放電のプロファイルから、電池の動作電圧は4.8Vと高電圧であることが確認できた。また、初期の放電容量は約125mAh/gと高い値を示した。
図7は、比較例で得られた化合物を正極材料に用いた電池の繰り返し充放電に伴う放電容量の変化を示すグラフである。図7に示すように、比較例では充放電サイクルを繰り返すと、充放電プロファイルは大きく変化し、20サイクル後の放電容量は初期の60%まで低下しており、充放電のサイクル安定性に問題があることがわかった。
Claims (3)
- 化学組成LiCoPO4で表される化合物において、二価のCo2+の一部を三価の金属イオンFe 3+で置換した化学組成Li1−xCo1−x Fe xPO4 (xは、0.01≦x≦0.20を満たす)で表される正極材料。
- Liを含む化合物、Coを含む化合物、三価の金属イオンFe 3+となる金属元素Feを含む化合物、リンを含む化合物を化学量論比で、Li:Co:Fe:P=(1−x):(1−x):x:1(xは、0.01≦x≦0.20を満たす)となるように前記各化合物を混合する工程と、
前記混合された化合物を、400〜800℃の温度範囲で、空気中にて反応させて、化学組成Li1−xCo1−x Fe xPO4で表される化合物を得る工程と
を含む、化学組成Li1−xCo1−x Fe xPO4で表される正極材料を製造する方法。 - 請求項1に記載の前記正極材料からなる正極活物質を含む正極を用いた高電圧リチウムイオン二次電池。
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