以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明に係る膜・触媒層接合体の製造装置1の全体構成を示す側面図である。この膜・触媒層接合体の製造装置1は、帯状の薄膜である電解質膜2に触媒インク(電極ペースト)を塗工し、その触媒インクを乾燥させて電解質膜2上に触媒層を形成して固体高分子形燃料電池用の膜・触媒層接合体を製造する装置である。なお、図1および以降の各図には、それらの方向関係を明確にするためZ軸方向を鉛直方向とし、XY平面を水平面とするXYZ直交座標系を適宜付している。また、図1および以降の各図においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数を誇張または簡略化して描いている。
製造装置1は、主たる要素として、電解質膜2からバックシート6を剥離する剥離部10と、バックシート6が剥離された電解質膜2に一定の張力を付与する張力付与部80と、電解質膜2を吸着支持して搬送する吸着ローラ20と、電解質膜2の表面に触媒インクを塗工する塗工ノズル30と、塗工された触媒インクを加熱して乾燥させる乾燥炉40と、乾燥工程を経た電解質膜2に支持フィルムを貼り合わせる貼付部50と、を備える。また、製造装置1は、装置全体を管理する制御部90を備える。
剥離部10は、剥離ローラ11およびニップローラ16を備える。図1に示すように、剥離ローラ11は吸着ローラ20から隔離した位置に設けられる。剥離ローラ11は、図示省略のモータによってY軸方向に沿った中心軸を回転中心として回転される。剥離ローラ11の回転速度は制御部90によって制御される。ニップローラ16は回転自在に設けられており、剥離ローラ11の回転に連動して回転する。
また、製造装置1は、電解質膜巻出ローラ12、バックシート巻取ローラ14およびテンション検知ローラ13,15を備える。電解質膜巻出ローラ12は図示省略のモータによって連続的に回転される。電解質膜巻出ローラ12にはバックシート6付きの帯状の電解質膜2が巻回されており、電解質膜巻出ローラ12はそのバックシート6付きの電解質膜2を連続的に送り出す。
電解質膜巻出ローラ12から送り出されたバックシート6付きの電解質膜2は、テンション検知ローラ13に懸架され、剥離ローラ11とニップローラ16とによって挟み込まれる。剥離ローラ11とニップローラ16との間隔は、バックシート6付き電解質膜2の厚さよりも小さい。従って、剥離ローラ11とニップローラ16とは圧力をかけつつバックシート6付きの電解質膜2を挟み込む。
電解質膜巻出ローラ12から送り出されて剥離ローラ11に至るまでのバックシート付き電解質膜2の張力はテンション検知ローラ13によって検知される。テンション検知ローラ13は、軸に作用する荷重をロードセルによって測定することにより電解質膜2に作用する張力を検知する。制御部90は、テンション検知ローラ13によって検知されるバックシート付き電解質膜2の張力が予め設定された値となるように電解質膜巻出ローラ12の回転を制御する。
また、剥離ローラ11ではバックシート6が電解質膜2から剥離され、そのバックシート6がテンション検知ローラ15に懸架されてバックシート巻取ローラ14に巻き取られる。バックシート巻取ローラ14は、図示省略のモータによって連続的に回転されることにより、バックシート6を連続的に巻き取るとともに、剥離ローラ11にて電解質膜2から剥離されたバックシート6に一定の張力を付与する。バックシート巻取ローラ14がバックシート6に与える張力はテンション検知ローラ15によって検知される。テンション検知ローラ15は、テンション検知ローラ13と同じく、軸に作用する荷重をロードセルによって測定することによりバックシート6に作用する張力を検知する。制御部90は、テンション検知ローラ15によって検知されるバックシート6の張力が予め設定された値となるようにバックシート巻取ローラ14の回転を制御する。
剥離部10にてバックシート6が剥離された電解質膜2は後述する貼付ローラ19によって吸着ローラ20に吸着されるまで補強のための支持部材無しで搬送されることとなる。燃料電池用の電解質膜2は極めて変形しやすいため、バックシート6のような補強部材無しで電解質膜2を搬送するときには皺防止のための弱い張力を与える必要がある。張力付与部80は、剥離部10にてバックシート6が剥離されてから吸着ローラ20によって吸着されるまでの電解質膜2に一定の張力を与える。
図2は、張力付与部80の概略構成を示す図である。張力付与部80は、剥離部10から吸着ローラ20に至る電解質膜2の搬送経路中に設けられている。張力付与部80は、主たる要素としてテンションローラ81、前ローラ82、後ローラ83およびシリンダー87を備える。テンションローラ81は、シリンダー87によって図2中矢印AR2にて示す方向に移動可能とされているローラである。一方、前ローラ82および後ローラ83は軸の位置が固定されているローラである。シリンダー87は、例えばエアシリンダーであり、空気圧によってテンションローラ81を矢印AR2に示す方向に移動させる。シリンダー87の空気圧は電空レギュレーター86によって規定されている。なお、シリンダー87に代えてエアースライダーやリニアモータガイドを用いるようにしても良い。
テンションローラ81の軸はコロガイド88に連結されている。コロガイド88は、矢印AR2にて示す方向に移動可能なテンションローラ81の位置を測定する。コロガイド88によって測定されたテンションローラ81の位置情報は制御部90に伝達される。
図2に示すように、軸位置が固定された前ローラ82と後ローラ83とに懸架された電解質膜2は、それら両ローラの間で移動可能なテンションローラ81に巻きかけられており、この構成によって電解質膜2に張力が与えられる。シリンダー87がテンションローラ81を矢印AR2に示す方向に移動させると、電解質膜2に与える張力を調整することができる。シリンダー87がテンションローラ81を図2中左向きに移動させると電解質膜2に作用する張力が大きくなる。逆に、シリンダー87がテンションローラ81を図2中右向きに移動させると電解質膜2に作用する張力が小さくなる。
前ローラ82および後ローラ83の少なくともいずれか一方には、軸に作用する荷重を測定するロードセルなどのテンションセンサー84が付設されている(図2の例では後ローラ83に付設されている)。テンションセンサー84は、後ローラ83の軸に作用する荷重を測定することによって後ローラ83に懸架されている電解質膜2に作用する張力を検知する。
また、張力付与部80には、テンションコントローラ85および電空レギュレーター86が設けられている。テンションセンサー84によって検知された電解質膜2に作用する張力はテンションコントローラ85に伝達される。テンションコントローラ85は、テンションセンサー84による検知結果に基づいて、電解質膜2に作用する張力が一定となるように電空レギュレーター86がシリンダー87に与える空気圧を制御する。すなわち、テンションコントローラ85は、テンションセンサー84の検知結果に基づいて、シリンダー87をフィードバック制御する。このような構成により、張力付与部80は剥離部10にてバックシート6が剥離されてから吸着ローラ20によって吸着されるまでの電解質膜2に一定の張力を付与するのである。
剥離ローラ11とニップローラ16とは圧力をかけつつバックシート6付きの電解質膜2を挟み込むため、張力付与部80が電解質膜2に与える張力は剥離ローラ11よりも上流側(電解質膜巻出ローラ12側)の電解質膜2に対しては作用しない。すなわち、張力付与部80が電解質膜2に与える張力は、電解質膜2の搬送方向上流側に向けては剥離ローラ11およびニップローラ16によって遮断される。同様に、貼付ローラ19と吸着ローラ20とは圧力をかけつつ電解質膜2を挟み込むため、張力付与部80が電解質膜2に与える張力は貼付ローラ19よりも下流側の電解質膜2に対しては作用しない。すなわち、張力付与部80が電解質膜2に与える張力は、電解質膜2の搬送方向下流側に向けては貼付ローラ19および吸着ローラ20によって遮断される。従って、張力付与部80は剥離ローラ11から貼付ローラ19に至るまでの電解質膜2に一定の張力を与えることとなる。なお、剥離ローラ11から貼付ローラ19に至るまでの搬送区間内においては、その位置によらず電解質膜2に作用する張力は一定である。
図1に戻り、吸着ローラ20の外周面に接するように、または、当該外周面から微小間隔を隔てて貼付ローラ19が設けられている。貼付ローラ19は、多孔質状のローラであり、図示を省略するシリンダーによって支持されている。貼付ローラ19が吸着ローラ20の外周面から微小間隔を隔てて近接支持されている場合であっても、貼付ローラ19と吸着ローラ20の外周面との間隔は、電解質膜2の膜厚よりも小さい。従って、バックシート6が剥離された電解質膜2が貼付ローラ19と吸着ローラ20との間を通過するときには、電解質膜2が貼付ローラ19によって吸着ローラ20の外周面に押圧される。すなわち、貼付ローラ19は、吸着ローラ20との間に電解質膜2を挟み込み、電解質膜2に圧力をかけつつ吸着ローラ20の外周面に電解質膜2を吸着させる。貼付ローラ19が電解質膜2を吸着ローラ20に押し付ける力は、上記のシリンダーによって貼付ローラ19と吸着ローラ20との間隔を調整することによって制御される。
また、貼付ローラ19には、多孔質状のローラの外周面から空気を噴出するためのエアーパージ機構18が設けられている。エアーパージ機構18は、例えば貼付ローラ19の中心軸に設けられたエアー供給管であり、加圧された空気を貼付ローラ19の中心近傍から外周に向けて供給することにより、多孔質状のローラ外周面から空気を噴出させる。これにより、密着力の強い電解質膜2が貼付ローラ19自体に貼り付くのを防止することができる。
図3は、吸着ローラ20近傍の斜視図である。吸着ローラ20は、中心軸がY軸方向に沿うように設置された円柱形状の部材である。吸着ローラ20の大きさは、例えば、高さ(Y軸方向の長さ)が400mmであり、直径が400mm〜1600mmである。吸着ローラ20は、図示省略のモータによってY軸方向に沿った中心軸を回転中心として図3中矢印AR3に示す向きに回転される。
吸着ローラ20は、多孔質カーボンまたは多孔質セラミックスにて形成された多孔質ローラである。多孔質セラミックスとしては、例えばアルミナ(Al2O3)または炭化ケイ素(SiC)の焼結体を用いることができる。多孔質の吸着ローラ20における気孔径は5μm以下であり、気孔率は15%〜50%の範囲内である。また、吸着ローラ20の外周面(円柱の周面)の表面粗さは、Rz(最大高さ)が5μm以下であり、この値は小さいほど好ましい。さらに、回転時の吸着ローラ20の全振れ(回転軸から外周面までの距離の変動)は10μm以下とされている。
図4は、吸着ローラ20および乾燥炉40の構成を示す図である。吸着ローラ20の上面および/または底面には吸引口21が設けられている。吸引口21は、図外の吸引機構(例えば、排気ポンプ)によって吸引されて負圧が与えられる。吸着ローラ20は、気孔率が15%〜50%の多孔質であるため、吸引口21に負圧が付与されると、内部の気孔を介して吸着ローラ20の外周面にも所定値の負圧(周辺雰囲気から外周面に吸引する圧力)が均一に作用することとなる。例えば、本実施形態では、吸引口21に90kPa以上の負圧が付与されることによって、吸着ローラ20の外周面には10kPa以上の負圧が均一に作用することとなる。これにより、吸着ローラ20は、帯状の電解質膜2を幅方向(Y軸方向)の全域にわたって均等に吸着することができる。
また、吸着ローラ20には、複数の水冷管22が設けられている。水冷管22は、吸着ローラ20の内部を巡るように均一な配設密度にて設けられている。水冷管22には図外の給水機構から所定温度に温調された恒温水が供給される。水冷管22の内部を流れた恒温水は図外の排液機構へと排出される。水冷管22に恒温水を流すことによって、吸着ローラ20は冷却されることとなる。
図1,3に戻り、吸着ローラ20の外周面に対向して塗工ノズル30が設けられている。塗工ノズル30は、吸着ローラ20による電解質膜2の搬送方向において、貼付ローラ19よりも下流側に設けられている。塗工ノズル30は、先端((+X)側の端部)にスリット状の吐出口を備えたスリットノズルである。そのスリット状の吐出口の長手方向はY軸方向である。塗工ノズル30は、スリット状の吐出口が吸着ローラ20の外周面から所定間隔を隔てる位置に設けられている。また、塗工ノズル30は、図示しない駆動機構によって吸着ローラ20に対する位置および姿勢が調整可能に設けられている。
塗工ノズル30には、塗工液供給機構35から塗工液として触媒インクが供給される。塗工液供給機構35は、触媒インクを貯留するタンク、当該タンクと塗工ノズル30とを連通接続する供給配管、および、当該供給配管に設けられた開閉バルブなどを有する。塗工液供給機構35は、開閉バルブを開放し続けることによって塗工ノズル30に連続して触媒インクを供給することも可能であるし、開閉バルブを繰り返し開閉することによって塗工ノズル30に断続的に触媒インクを供給することも可能である。
塗工液供給機構35から供給された触媒インクは、吸着ローラ20に吸着支持されて搬送される電解質膜2に塗工ノズル30から塗工される。塗工液供給機構35が連続して触媒インクを供給する場合には電解質膜2に触媒インクが連続的に塗工され、断続的に触媒インクを供給する場合には電解質膜2に触媒インクが間欠塗工される。
乾燥炉40は、吸着ローラ20の外周面の一部を覆うように設けられている。図4に示すように、乾燥炉40は、3つの乾燥ゾーン41,42,43、および、2つの熱遮断ゾーン44,45の合計5つのゾーンに分割されている。3つの乾燥ゾーン41,42,43のそれぞれは、図外の熱風送風部からの熱風送風により、吸着ローラ20の外周面に向けて熱風を吹き付ける。乾燥炉40からの熱風の吹き付けによって、電解質膜2に塗工された触媒インクが乾燥される。
3つの乾燥ゾーン41,42,43は、吹き付ける熱風の温度が異なる。3つの乾燥ゾーン41,42,43が吹き付ける熱風の温度は、吸着ローラ20による電解質膜2の搬送方向の上流側から下流側に向けて(図4の紙面上にて時計回りに)順次高くなる。例えば、最も上流側の乾燥ゾーン41の熱風温度は室温〜40℃であり、中間の乾燥ゾーン42の熱風温度は40℃〜80℃であり、最も下流側の乾燥ゾーン43の熱風温度は50℃〜100℃である。
2つの熱遮断ゾーン44,45は、電解質膜2の搬送方向に沿って乾燥ゾーン41,42,43の両端に設けられている。熱遮断ゾーン44は乾燥ゾーン41の上流側に設けられ、熱遮断ゾーン45は乾燥ゾーン43の下流側に設けられている。2つの熱遮断ゾーン44,45は、図外の排気部からの排気により、吸着ローラ20の外周面近傍の雰囲気を吸引する。これによって、乾燥ゾーン41,42,43から吹き出された熱風が乾燥炉40を超えて吸着ローラ20の上流側および下流側に流れ出るのを防止するとともに、乾燥時に触媒インクから生じた溶媒蒸気などが乾燥炉40の外部に漏出するのを防止することができる。なお、少なくとも上流側の熱遮断ゾーン44が設けられていれば、乾燥ゾーン41,42,43から吹き出された熱風が塗工ノズル30に流れ込んで吐出口近傍を乾燥させることに起因した塗工不良の発生を防止することができる。
図5は、吸着ローラ20および乾燥炉40の正面図である。乾燥炉40には、吸着ローラ20の幅方向(Y軸方向)に沿った両端にも吸引部46,47が設けられている。吸引部46,47は、熱遮断ゾーン44,45と同様に、周辺の雰囲気を吸引する。これによって、乾燥炉40の幅方向両端から漏出しようとする熱風および溶媒蒸気などをも吸引回収することができる。
図1,3に戻り、吸着ローラ20による電解質膜2の搬送方向に沿って乾燥炉40よりも下流側に貼付部50が設けられている。貼付部50はラミネートローラ51を備える。ラミネートローラ51は、図示を省略するシリンダーによって吸着ローラ20の外周面から所定の間隔を隔てた位置に近接支持されている。ラミネートローラ51と吸着ローラ20の外周面との間隔は、乾燥処理後の電解質膜2の厚さ(電解質膜2と触媒層との合計厚さ)よりも小さい。従って、乾燥処理後の電解質膜2がラミネートローラ51と吸着ローラ20との間を通過するときに、ラミネートローラ51によって電解質膜2が吸着ローラ20の外周面に押し付けられる。ラミネートローラ51が押圧する力は、上記のシリンダーによってラミネートローラ51と吸着ローラ20との間隔を調整することによって制御される。
ラミネートローラ51は、例えば吸着ローラ20と同程度の幅を有する金属ローラとすることができる。ラミネートローラ51の内部にはヒータ95が設けられている(図13参照)。ヒータ95としては、例えばシーズヒータが用いられる。ヒータ95は、ラミネートローラ51を所定の温度に温調する。ラミネートローラ51のローラ表面の温度は図示省略の放射温度計によって計測されており、その放射温度計の計測結果に基づいてローラ表面が所定温度となるように制御部90がヒータ95を制御する。なお、ラミネートローラ51の径は適宜のものとすることができる。
製造装置1には、さらに支持フィルム巻出ローラ55、接合体巻取ローラ56およびテンション検知ローラ52,53が設けられている。支持フィルム巻出ローラ55は図示省略のモータによって連続的に回転される。支持フィルム巻出ローラ55には帯状の支持フィルム7が巻回されており、支持フィルム巻出ローラ55はその支持フィルム7を吸着ローラ20に向けて連続的に供給する。支持フィルム巻出ローラ55から送り出された支持フィルム7は、テンション検知ローラ52に懸架され、ラミネートローラ51および吸着ローラ20によるラミネート処理によって電解質膜2に貼り合わされるが、このラミネート処理についてはさらに後述する。
支持フィルム巻出ローラ55から送り出されて吸着ローラ20に供給される支持フィルム7の張力はテンション検知ローラ52によって検知される。テンション検知ローラ52は、テンション検知ローラ13と同じく、軸に作用する荷重をロードセルによって測定することにより支持フィルム7に作用する張力を検知する。制御部90は、テンション検知ローラ52によって検知される支持フィルム7の張力が予め設定された値となるように支持フィルム巻出ローラ55の回転を制御する。
ラミネートローラ51および吸着ローラ20によるラミネート処理によって支持フィルム7が貼り合わされた膜・触媒層接合体5は、吸着ローラ20の外周面から離れてテンション検知ローラ53に懸架され、接合体巻取ローラ56によって巻き取られる。接合体巻取ローラ56は、図示省略のモータによって連続的に回転されることにより、膜・触媒層接合体5を巻き取るとともに、吸着ローラ20から離れた膜・触媒層接合体5に一定の張力を付与する。接合体巻取ローラ56が膜・触媒層接合体5に与える張力はテンション検知ローラ53によって検知される。テンション検知ローラ53は、テンション検知ローラ13と同じく、軸に作用する荷重をロードセルによって測定することにより膜・触媒層接合体5に作用する張力を検知する。制御部90は、テンション検知ローラ53によって検知される膜・触媒層接合体5の張力が予め設定された値となるように接合体巻取ローラ56の回転を制御する。
また、製造装置1は、表面冷却部60を備える。表面冷却部60は、吸着ローラ20の外周面に対向する位置であって、貼付ローラ19とラミネートローラ51との間に設けられている。表面冷却部60は、エアーノズルを備えており、吸着ローラ20の外周面に向けて冷却エアー(例えば5℃程度に冷却されている)を吹き付ける。表面冷却部60が冷却エアーを吹き付けることによって吸着ローラ20の外周面が冷却される。なお、表面冷却部60は、貼付ローラ19とラミネートローラ51との間に設けられているため、電解質膜2が吸着されていない吸着ローラ20の外周面にエアーを吹き付けることとなる。
また、製造装置1は、塗工状態を検査するためのセンサーとして、検査カメラ71,75、ファイバーセンサー72,74、レーザ変位計73を備える。検査カメラ71,75は、例えばCCDカメラにて構成される。検査カメラ71は、張力付与部80の後ローラ83のローラ表面に対向する位置に設けられており、後ローラ83に懸架されている電解質膜2に形成されている触媒層の幅方向位置(Y軸方向の位置)を検出する。検査カメラ75は、吸着ローラ20の外周面に対向する位置であって、電解質膜2の搬送方向に沿って塗工ノズル30よりも下流側に設けられている。検査カメラ75は、塗工ノズル30によって塗工された直後の塗膜の幅方向位置(Y軸方向の位置)を検出する。
ファイバーセンサー72,74は、光ファイバー内を伝送された光を照射し、その反射光によって対象物の存在を検出するセンサーである。ファイバーセンサー72は、吸着ローラ20の外周面に対向する位置であって、電解質膜2の搬送方向に沿って塗工ノズル30よりも上流側に設けられている。ファイバーセンサー72は、塗工処理前の電解質膜2に形成されている触媒層の搬送方向に沿った位置(吸着ローラ20の周方向に沿った位置)を検出する。一方のファイバーセンサー74は、吸着ローラ20の外周面に対向する位置であって、電解質膜2の搬送方向に沿って塗工ノズル30よりも下流側に設けられている。ファイバーセンサー74は、塗工ノズル30によって塗工された直後の塗膜の搬送方向に沿った位置(吸着ローラ20の周方向に沿った位置)を検出する。
レーザ変位計73は、照射したレーザ光の反射光から対象物までの変位量を検出する。レーザ変位計73は、吸着ローラ20の外周面に対向する位置であって、電解質膜2の搬送方向に沿って塗工ノズル30よりも下流側に設けられている。レーザ変位計73は、塗工ノズル30によって塗工された直後の塗膜の厚さを検出する。なお、図1では、電解質膜2の搬送方向に沿って上流側からレーザ変位計73、ファイバーセンサー74、検査カメラ75の順に配置されているが、これら3つのセンサーの配置順序はこれに限定されるものではなく任意である。
さらに、製造装置1は、装置に設けられた各機構を制御する制御部90を備える。制御部90のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部90は、各種演算処理を行うCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクを備えて構成される。制御部90のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって、製造装置1に設けられた各動作機構が制御されて膜・触媒層接合体5の製造処理が進行する。
次に、上記の構成を有する膜・触媒層接合体の製造装置1における処理手順について説明する。図6は、製造装置1において膜・触媒層接合体5が製造される手順を示すフローチャートである。以下に説明する膜・触媒層接合体5の製造手順は、制御部90が製造装置1の各動作機構を制御することにより進行する。
まず、電解質膜巻出ローラ12がバックシート6付きの電解質膜2を巻き出す(ステップS1)。電解質膜2としては、従来より固体高分子形燃料電池の膜・触媒層接合体用途に用いられているフッ素系や炭化水素系などの高分子電解質膜を使用することができる。例えば、電解質膜2として、パーフルオロカーボンスルホン酸を含む高分子電解質膜(例えば、米国DuPont社製のNafion(登録商標)、旭硝子(株)製のFlemion(登録商標)、旭化成(株)製のAciplex(登録商標)、ゴア(Gore)社製のGoreselect(登録商標)など)を使用することができる。
上記の電解質膜2は、非常に薄くて機械的強度が弱く、大気中の少量の湿気によっても容易に膨潤する一方で湿度が低くなると収縮する特性を有しており、極めて変形しやすい。このため、電解質膜巻出ローラ12には、電解質膜2の変形を防止するために初期状態としてバックシート6付きの電解質膜2が巻回されている。電解質膜2は大気中に含まれる少量の湿気によっても極めて容易に変形するため、電解質膜2の製造時に巻き取られる段階で形状保持のための帯状の樹脂フィルムであるバックシート6が貼り付けられた状態となっている。
バックシート6としては、機械的な強度に富んで形状保持機能に優れた樹脂材料、例えばPEN(ポリエチレンナフタレート)やPET(ポリエチレンテレフタレート)のフィルムを用いることができる。本実施形態では、電解質膜2の裏面にバックシート6が貼り合わされている。なお、電解質膜2の表面と裏面とでは電解質膜としての性質に相違があるものではなく、単に区別のための便宜上、バックシート6が貼り合わされている側の面を裏面としているに過ぎない。
電解質膜巻出ローラ12に巻回された初期状態のバックシート6付き電解質膜2において、電解質膜2の膜厚は5μm〜30μmであり、幅は最大で300mm程度である。また、バックシート6の膜厚は25μm〜100μmであり、その幅は電解質膜2の幅と同等かそれより若干大きい。
また、本実施形態においては、電解質膜2の表面側には既に触媒層が形成されている。表面側の触媒層は、本発明に係る製造装置1とは別途の塗工装置にて、バックシート6が貼り合わされた状態の電解質膜2をそのままロール・ツー・ロール(Roll to Roll)方式で搬送しつつ、電解質膜2の表面に触媒インクを間欠塗工し、その塗膜を乾燥させることによって形成される。表面側の触媒層形成は、電解質膜2の裏面にバックシート6が貼り合わされたまま行われるため、電解質膜2の変形は生じない。
図7は、電解質膜巻出ローラ12から巻き出される時点での電解質膜2の断面図である。図8は、電解質膜2の表面に形成された触媒層9を示す図である。図7,8に示すように、電解質膜2の表面には一定サイズの触媒層9が一定間隔で断続的に形成されている。また、電解質膜2の裏面にはバックシート6が貼り合わされている。
図7に示すようなバックシート6付きの電解質膜2が電解質膜巻出ローラ12から巻き出され、テンション検知ローラ13に懸架されて剥離部10へと送り出される。電解質膜巻出ローラ12から送り出されて剥離ローラ11に至るまでのバックシート付き電解質膜2の張力はテンション検知ローラ13によって検知され、その測定値が予め設定された値となるように電解質膜巻出ローラ12の回転が制御される。なお、テンション検知ローラ13は、バックシート6と接触するため、つまり電解質膜2とは直接には接触しないため、テンション検知ローラ13との接触によって電解質膜2が変形することは防止される。
剥離部10では、剥離ローラ11とニップローラ16とに挟み込まれた電解質膜2の裏面からバックシート6が剥離される(ステップS2)。電解質膜2から剥離されたバックシート6は、テンション検知ローラ15に懸架されてバックシート巻取ローラ14によって巻き取られる。剥離ローラ11にて電解質膜2から剥離されてバックシート巻取ローラ14に至るまでのバックシート6の張力はテンション検知ローラ15によって検知され、その測定値が予め設定された値となるようにバックシート巻取ローラ14の回転が制御される。
バックシート6が剥離された電解質膜2は、剥離ローラ11から前ローラ82、テンションローラ81、後ローラ83を経て貼付ローラ19へと搬送される。前ローラ82、テンションローラ81、後ローラ83を備える張力付与部80は、剥離ローラ11にてバックシート6が剥離されてから吸着ローラ20によって吸着されるまでの電解質膜2に一定の張力を付与する(ステップS3)。具体的には、剥離ローラ11にてバックシート6が剥離されてから吸着ローラ20によって吸着されるまでの電解質膜2に作用する張力はテンションセンサー84によって検知される。そのテンションセンサー84の検知結果が予め定められている設定値となるように、テンションコントローラ85が電空レギュレーター86を介してシリンダー87に与える空気圧を制御し、テンションローラ81の位置を調整する。テンションセンサー84の検知結果が当該設定値よりも大きくなっている場合には、テンションコントローラ85がシリンダー87を制御してテンションローラ81を図2中右向きに移動させて電解質膜2に作用する張力を低下させる。逆に、テンションセンサー84の検知結果が当該設定値よりも小さくなっている場合には、テンションコントローラ85がシリンダー87を制御してテンションローラ81を図2中左向きに移動させて電解質膜2に作用する張力を増大させる。このようにして、張力付与部80は、バックシート6が剥離されてから吸着ローラ20によって吸着されるまでの電解質膜2に一定の張力を付与する。
上述したように、燃料電池用の電解質膜2は、非常に薄くて機械的強度が弱く、極めて変形しやすい。このような脆弱な電解質膜2を補強するために裏面にバックシート6が貼り合わされているのであるが、燃料電池の膜・触媒層接合体を製造するためには電解質膜2の両面に異なる極性の触媒層を形成する必要があり、そのためには電解質膜2の裏面からバックシート6を剥離せざるを得ない。すなわち、電解質膜2の表面側のみであればバックシート6を貼付したまま触媒インクを塗工して触媒層9を形成することができるのであるが、裏面側にも触媒インクを塗工するためには電解質膜2の裏面からバックシート6を剥離することが必須となる。
また、電解質膜2の変形防止の観点からは、特許文献3に開示されるように、バックシート6が貼り合わされた電解質膜2を吸着ローラ20に吸着支持させてからバックシート6を剥離するのが好ましいのであるが、電解質膜2とバックシート6との密着力が強い場合には剥離時にバックシート6に引っ張られて電解質膜2に皺が発生するおそれがある。従って、電解質膜2の密着力が強い場合には、本実施形態のように吸着ローラ20から隔離した位置に設けられた剥離部10にてバックシート6を剥離した電解質膜2を吸着ローラ20に吸着させるのが好ましい。
但し、吸着ローラ20から隔離した位置にてバックシート6を剥離した場合には、補強のためのバックシート6が存在しない状態で電解質膜2を搬送する区間が生じる。具体的には、剥離ローラ11から吸着ローラ20に至るまでの電解質膜2はバックシート6が存在していない不安定な状態である。
バックシート6が剥離された不安定な状態の電解質膜2に全く張力を与えることなく、その電解質膜2を吸着ローラ20に吸着させると皺が生じやすい。これを防止するためには、電解質膜2にある程度の張力を与えつつ吸着ローラ20に吸着させると効果的であるが、逆にあまりに強い張力を電解質膜2に与えた場合には、搬送方向に電解質膜2が伸びて搬送方向に沿った皺(縦皺と称される)が発生する。すなわち、電解質膜2に皺を発生させることなく電解質膜2を吸着ローラ20に吸着させるためには、剥離ローラ11にてバックシート6が剥離されてから吸着ローラ20によって吸着されるまでの電解質膜2に適度な張力を与える必要がある。
本願発明者は、バックシート6が剥離されてから吸着ローラ20によって吸着されるまでの電解質膜2に与える張力について鋭意調査を行った。下記の表1にはバックシート6が剥離された電解質膜2に与える張力と吸着時の皺発生の有無との関係を示す。
ここでは、膜厚が5μm、15μm、27.5μmの3種類の電解質膜2を用いた。電解質膜2の幅はいずれも200mmである。表1に示す測定力とは、剥離ローラ11から吸着ローラ20に至るまでの電解質膜2にその搬送方向に沿って加える力である。その測定力を電解質膜2の断面積で除した値が張力となる。また、「シワ」の欄に、〇で示したのは吸着ローラ20への吸着時に電解質膜2に皺が発生しなかったものであり、×で示したのは電解質膜2に皺が生じたものである。
表1に示すように、電解質膜2の膜厚にかかわらず、バックシート6が剥離されてから吸着ローラ20によって吸着されるまでの電解質膜2に付与する張力が0.3N/mm2以上7.0N/mm2以下であれば、吸着ローラ20への吸着時に電解質膜2に皺が発生していない。このことより、バックシート6が剥離されてから吸着ローラ20によって吸着されるまでの電解質膜2に張力付与部80が0.3N/mm2以上7.0N/mm2以下の張力を付与すれば、吸着ローラ20への吸着時に電解質膜2に皺が生じるのを防止することができる。なお、電解質膜2に与える張力の下限値はバックシート6と電解質膜2との密着力以上であり、張力の上限値は電解質膜2の降伏応力以下であることは勿論である。
張力付与部80は、テンションローラ81の位置を調整することによって、バックシート6が剥離されてから吸着ローラ20によって吸着されるまでの電解質膜2に0.3N/mm2以上7.0N/mm2以下の一定の張力を付与する。このため、張力付与部80が電解質膜2に作用する張力を一定に維持すべく、テンションローラ81を図2中左向きに移動させた場合には、剥離部10から吸着ローラ20に至る電解質膜2の搬送経路における電解質膜2の長さが長くなる。逆に、張力付与部80が電解質膜2に作用する張力を一定に維持すべく、テンションローラ81を図2中右向きに移動させた場合には、剥離部10から吸着ローラ20に至る電解質膜2の搬送経路における電解質膜2の長さが短くなる。皺防止の観点からは、剥離部10から吸着ローラ20に至る搬送経路の電解質膜2の長さが大きく変動することは好ましくない。特に、剥離部10から吸着ローラ20に至る搬送経路の電解質膜2の長さが長くなった場合には、電解質膜2に皺が生じやすくなる。
このため、本実施形態では、剥離部10から吸着ローラ20に至る搬送経路の電解質膜2の長さに応じて剥離ローラ11の回転速度(回転数)を調整し、当該搬送経路における電解質膜2の長さが一定となるようにしている(ステップS4)。具体的には、テンションローラ81の位置はコロガイド88によって測定されており、コロガイド88によって取得されたテンションローラ81の位置情報は制御部90に伝達される。制御部90は、コロガイド88の測定結果に基づいて、テンションローラ81が所定の位置にとどまるように剥離ローラ11の回転数を制御する。すなわち、テンションローラ81が図2中左向きに移動して剥離部10から吸着ローラ20に至る搬送経路の電解質膜2の長さが長くなっている場合には、制御部90は剥離ローラ11の回転数を低下させて剥離ローラ11よりも下流側への電解質膜2の送給速度を低下させる。逆に、テンションローラ81が図2中右向きに移動して剥離部10から吸着ローラ20に至る搬送経路の電解質膜2の長さが短くなった場合には、制御部90は剥離ローラ11の回転数を増加させて剥離ローラ11よりも下流側への電解質膜2の送給速度を増加させる。このようにして、剥離部10から吸着ローラ20に至る搬送経路の電解質膜2の長さが一定となるようにし、電解質膜2の長さの変動を抑制してより確実に皺の発生を防止している。なお、剥離部10から吸着ローラ20に至る搬送経路の電解質膜2の長さは吸着ローラ20の回転速度によっても調整可能ではあるが、吸着ローラ20の回転速度は塗工処理時間および乾燥時間に影響を与えるため安易に変更することは好ましくない。
また、電解質膜2が後ローラ83を通過するときに、電解質膜2の表面に形成されている触媒層9の幅方向位置(Y軸方向の位置)が検査カメラ71によって検出される。電解質膜2が後ローラ83を通過するときには、電解質膜2の裏面側が後ローラ83に接している。よって、検査カメラ71は、触媒層9が形成されている表面側から電解質膜2を撮像して触媒層9の幅方向位置を検出することができる。検査カメラ71によって検出された触媒層9の幅方向位置は制御部90に伝達される。
バックシート6が剥離された後に一定の張力を付与されつつ吸着ローラ20に到達した電解質膜2は、貼付ローラ19によって吸着ローラ20の外周面に吸着される(ステップS5)。図9は、貼付ローラ19によって電解質膜2を吸着ローラ20に吸着させる様子を示す図である。バックシート6が剥離された電解質膜2は貼付ローラ19と吸着ローラ20との間に挟み込まれる。貼付ローラ19は、バックシート6が剥離された電解質膜2の表面を吸着ローラ20に押し付けることにより、電解質膜2を吸着ローラ20に吸着支持させる。電解質膜2の表面には触媒層9が形成されているのであるが、図9に示すように、その触媒層9とともに電解質膜2の表面が吸着ローラ20の外周面に吸着される。張力付与部80によって一定の張力を付与されている電解質膜2が貼付ローラ19によって吸着ローラ20の外周面に押し付けられて吸着されるため、電解質膜2は皺が発生することなく吸着ローラ20の外周面に吸着支持されることとなる。
また、貼付ローラ19によって電解質膜2を吸着ローラ20に吸着させるときには、エアーパージ機構18によって加圧空気を供給して貼付ローラ19の外周面から空気を噴出させる。密着力の強い電解質膜2を用いる場合、吸着ローラ20への吸着時に電解質膜2の裏面が貼付ローラ19に貼り付くおそれがある。このような貼付ローラ19への貼り付きが生じると電解質膜2に皺が発生する新たな原因となる。このため、エアーパージ機構18によって貼付ローラ19の外周面から空気を噴出し、電解質膜2自体が貼付ローラ19に貼り付くのを防止してより確実に電解質膜2を皺無く吸着ローラ20に吸着させることができる。
吸着ローラ20は、電解質膜2の表面を吸着する。気孔率が15%〜50%の多孔質セラミックスにて形成された吸着ローラ20の吸引口21に90kPa以上の負圧を付与することによって、電解質膜2を吸着しているか否かに関わらず、吸着ローラ20の外周面には10kPa以上の負圧が均一に作用する。従って、電解質膜2の幅の大小に関わらず、吸着ローラ20は電解質膜2を一定の吸引圧にて安定して吸着支持することができる。また、吸着ローラ20の吸着による電解質膜2の変形も抑制することができる。
また、吸着ローラ20の外周面の表面粗さは、Rzが5μm以下であるとともに、吸着ローラ20の気孔径は5μm以下であるため、電解質膜2には吸着支持にともなう吸着痕は生じにくい。すなわち、本実施形態の吸着ローラ20は、脆弱な機械的性質を有する電解質膜2を変形させたり吸着痕を生じさせることなく安定して吸着支持することができるのである。
図9に示すように、電解質膜2を吸着支持した吸着ローラ20がY軸方向に沿った中心軸を回転中心として回転することにより、電解質膜2が吸着ローラ20の外周面に支持されて搬送される。吸着ローラ20に吸着支持されて搬送される電解質膜2が塗工ノズル30に到達する前に、電解質膜2の表面に形成されている触媒層9の搬送方向に沿った位置(吸着ローラ20の周方向に沿った位置)がファイバーセンサー72によって検出される。このとき、触媒層9が形成されている電解質膜2の表面側は吸着ローラ20によって吸着されているため、ファイバーセンサー72は電解質膜2の裏面側から検出することになるのであるが、電解質膜2は半透明であるため、ファイバーセンサー72は電解質膜2の裏面側からであっても表面の電解質膜2を検出することができる。ファイバーセンサー72によって検出された触媒層9の搬送方向に沿った位置は制御部90に伝達される。
次に、吸着ローラ20に吸着支持されて搬送される電解質膜2の裏面には、塗工ノズル30から触媒インクが塗工される(ステップS6)。本実施形態で使用される触媒インクは、例えば、触媒粒子、イオン伝導性電解質および分散媒を含有する。触媒粒子としては、公知または市販のものを使用することができ、高分子形燃料電池のアノードまたはカソードにおける燃料電池反応を起こさせるものであれば特に限定されず、例えば白金(Pt)、白金合金、白金化合物等を用いることができる。このうち白金合金としては、例えば、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、イリジウム(Ir)、鉄(Fe)等からなる群から選択された少なくとも1種の金属と白金との合金を挙げることができる。一般的には、カソード用の触媒インクの触媒粒子には白金、アノード用の触媒インクの触媒粒子には上述の白金合金が用いられる。
また、触媒粒子は、触媒微粒子が炭素粉に担持された、いわゆる触媒担持炭素粉であっても良い。触媒担持炭素の平均粒子径は、通常10nm〜100nm程度、好ましくは20nm〜80nm程度、最も好ましくは40nm〜50nm程度である。触媒微粒子を担持する炭素粉は特に制限されるものではなく、例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック等のカーボンブラック、黒鉛、活性炭、カーボン繊維、カーボンナノチューブ等が挙げられる。これらは、1種単独で使用しても良いし、2種以上併用しても良い。
上記のような触媒粒子に溶媒を加えてスリットノズルから塗布可能なペーストとする。溶媒としては、水、エタノール、n−プロパノールおよびn−ブタノールなどのアルコール系、並びに、エーテル系、エステル系およびフッ素系などの有機溶剤を用いることができる。
さらに、触媒粒子に溶媒を加えた溶液にイオン交換基を有するアイオノマーを上記溶媒中に分散させた高分子電解質溶液を加える。一例として、白金を50wt%担持したカーボンブラック(田中貴金属工業(株)製の「TEC10E50E」)を水、エタノールおよび高分子電解質溶液(米国DuPont社製のNafion液「D2020」)に分散させて触媒インクを得ることができる。
このようにして混合されたペーストを触媒インクとして塗工液供給機構35から塗工ノズル30に供給する。塗工液供給機構35から供給された触媒インクは、塗工ノズル30から電解質膜2の裏面に塗工される。なお、電解質膜2に塗工する触媒インクは、カソード用であってもアノード用であっても良いが、表面に形成されている触媒層9とは逆極性の触媒インクが裏面に塗工される。
また、本実施形態では、塗工液供給機構35が触媒インクを断続的に塗工ノズル30に供給することによって、吸着ローラ20に吸着支持されて搬送される電解質膜2の裏面に塗工ノズル30から間欠塗工を行っている。図10は、電解質膜2に触媒インクが間欠塗工された状態を示す図である。また、図11は、触媒インクが間欠塗工された電解質膜2の断面図である。吸着ローラ20に吸着支持されて一定速度で搬送される電解質膜2に塗工ノズル30から触媒インクを断続的に吐出することによって、図10,11に示すように、電解質膜2の裏面には一定サイズの触媒インク層8が一定間隔で不連続に形成される。
回転時の吸着ローラ20の全振れは10μm以下であり、吸着ローラ20の外周面の表面粗さは、Rzが5μm以下であるため、回転する吸着ローラ20の外周面と塗工ノズル30のスリット状吐出口との間隔はほぼ一定値に安定している。このため、塗工ノズル30からの間欠塗工によって高い精度にて均一な触媒インク層8を形成することができる。
電解質膜2の裏面に形成される各触媒インク層8の幅は、塗工ノズル30のスリット状吐出口の幅によって規定される。各触媒インク層8の長さは、塗工ノズル30の触媒インク吐出時間と電解質膜2の搬送速度(つまり、吸着ローラ20の回転速度)とによって規定される。また、触媒インク層8の厚さ(高さ)は、塗工ノズル30の吐出口と電解質膜2の裏面との距離および触媒インクの吐出流量と電解質膜2の搬送速度とによって規定され、例えば10μm〜300μmである。触媒インクは塗工ノズル30から塗工可能なペーストであり、電解質膜2上にて触媒インク層8の形状を維持できる程度の粘性を有している。
塗工ノズル30は、電解質膜2の裏面において、既に形成されている表面側の触媒層9と同じ領域に触媒インクを塗工する。すなわち、塗工ノズル30は、表面側の触媒層9と同じ領域の反対面(裏面)に触媒インクを塗工する。具体的には、検査カメラ71によって検出された表面側の触媒層9の幅方向位置情報に基づいて、裏面側の同じ幅方向位置に触媒インクを塗工するように制御部90が塗工ノズル30のY軸方向の位置を微調整する。また、ファイバーセンサー72によって検出された触媒層9の搬送方向に沿った位置情報に基づいて、裏面側の同じ位置に触媒インクを塗工するように制御部90が塗工ノズル30の吐出タイミングを制御する。このようにして、図11に示すように、電解質膜2の表面側の触媒層9と同じ領域の裏面側に触媒インク層8が形成される。
続いて、塗工ノズル30からの塗工によって形成された塗膜である触媒インク層8の検査が行われる(ステップS7)。この検査は触媒インク層8の塗工状態について行われるものであり、具体的には触媒インク層8の幅方向位置、搬送方向に沿った位置および膜厚の検査が行われる。これらの検査は、電解質膜2の搬送方向に沿って塗工ノズル30よりも下流側に設けられているレーザ変位計73、ファイバーセンサー74および検査カメラ75によって実施される。
レーザ変位計73は、塗工ノズル30からの塗工によって形成された直後の触媒インク層8の厚さを検出する。ファイバーセンサー74は、その触媒インク層8の搬送方向に沿った位置を検出する。検査カメラ75は、その触媒インク層8の幅方向位置を検出する。これらの検出結果は制御部90に伝達される。制御部90は、レーザ変位計73、ファイバーセンサー74および検査カメラ75の検出結果に基づいて、触媒インク層8が表面側の触媒層9と同じ領域に予め設定されている膜厚にて形成されているか否かを判定する。
図10の最も下側には、仮に触媒インク層8の塗工領域が表面側の触媒層9の形成領域からずれていた場合を例示している。この例では、触媒インク層8の幅方向位置および搬送方向に沿った位置がともに表面側の触媒層9の形成領域からずれている。このような触媒インク層8の位置ずれはファイバーセンサー74および検査カメラ75の検出結果に基づいて制御部90が判定することとなる。
次いで、吸着ローラ20の回転によって、電解質膜2の裏面側の触媒インク層8が乾燥炉40に対向する位置にまで搬送され、触媒インク層8の乾燥処理が行われる(ステップS8)。触媒インク層8の乾燥処理は、乾燥炉40から触媒インク層8に熱風を吹き付けることによって行われる。熱風が吹き付けられることによって触媒インク層8が加熱されて溶媒成分が揮発し、触媒インク層8が乾燥される。溶媒成分が揮発することによって触媒インク層8が乾燥されて触媒層9となる。
図12は、表裏両面に触媒層9が形成された電解質膜2の断面図である。触媒層9は、白金などの触媒粒子が担持された電極層である。触媒層9は、触媒インク層8から溶媒成分が揮発して固化したものであるため、その厚さは触媒インク層8よりも薄い。乾燥後の触媒層9の厚さは、例えば3μm〜50μmである。図12に示すような、電解質膜2の表裏両面に触媒層9が形成されたものが膜・触媒層接合体5である。
また、乾燥炉40は、3つの乾燥ゾーン41,42,43を備えており、それらからは異なる温度の熱風が吹き付けられる。具体的には、吸着ローラ20による電解質膜2の搬送方向の最も上流側に位置する乾燥ゾーン41から中間の乾燥ゾーン42を経て最も下流側の乾燥ゾーン43の順に熱風温度が高くなる。乾燥ゾーンを分割することなく、塗工直後の触媒インク層8に直ちに高温の熱風を吹き付けると、触媒インク層8が急激に乾燥されて表面にクラックが生じることがある。或いは、吸着ローラ20にヒータを内蔵して塗工直後の触媒インク層8を急激に乾燥した場合も同様である。
本実施形態では、乾燥炉40を3つの乾燥ゾーン41,42,43に分割し、電解質膜2の搬送方向の上流側から下流側に向けて乾燥温度を順次に高くしている。すなわち、最も上流側の乾燥ゾーン41は、塗工直後の触媒インク層8に比較的低温の熱風を吹き付けることによって、触媒インク層8を僅かに昇温させる。次に、中間の乾燥ゾーン42がやや高温の熱風を吹き付けることによって、触媒インク層8を緩やかに乾燥させる。そして、最も下流側の乾燥ゾーン43が高温の熱風を吹き付けることによって、触媒インク層8を強く乾燥させる。このように、乾燥温度を徐々に高くして触媒インク層8を段階的に乾燥させることにより、乾燥処理時のクラックの発生を防止することができる。
クラックの発生を防止しつつ触媒インク層8を適切に乾燥させるためには、乾燥処理時間も適切に管理する必要があり、例えば約60秒とするのが好ましい。乾燥処理時間は、1つの触媒インク層8が3つの乾燥ゾーン41,42,43を通過する合計時間である。例えば、吸着ローラ20の直径が400mmで3つの乾燥ゾーン41,42,43が吸着ローラ20の外周面の半周を覆っていたとすると、その長さは約628mmとなる。この条件で乾燥処理時間として60秒を確保するためには、電解質膜2の搬送速度を10.4mm/秒とすれば良い。電解質膜2の搬送速度は吸着ローラ20の回転速度によって規定される。
また、乾燥炉40は、電解質膜2の搬送方向に沿って最も上流側に熱遮断ゾーン44を備え、最も下流側に熱遮断ゾーン45を備えている。これにより、乾燥ゾーン41,42,43から吹き出された熱風が乾燥炉40を超えて吸着ローラ20の上流側および下流側に流れ出るのを防止することができる。その結果、乾燥炉40の上流側に位置する塗工ノズル30や下流側に位置する貼付部50が不必要に加熱されるのを防止することができる。
さらに、乾燥炉40には、熱遮断ゾーン44,45に加えて吸引部46,47も設けられており、これらによって乾燥炉40の周囲に熱風が流れ出るのを防止するとともに、乾燥時に触媒インク層8から揮発した溶媒の蒸気等が漏出するのを防止することができる。
次に、吸着ローラ20のさらなる回転によって、乾燥後の裏面側の触媒層9が貼付部50に到達する。貼付部50は、電解質膜2の裏面に支持フィルム7を貼り合わせるラミネート処理を行う(ステップS9)。すなわち、貼付部50は、製造装置1にて塗工処理を行った電解質膜2の塗工面に対して支持フィルム7を貼り合わせる。
図13は、電解質膜2の塗工面に支持フィルム7を貼り合わせるラミネート処理の様子を示す図である。貼付部50が設けられている位置近傍の吸着ローラ20の外周面に向けて、支持フィルム巻出ローラ55から帯状の支持フィルム7が連続的に供給される。支持フィルム7としては、機械的な強度に富んで形状保持機能に優れた樹脂フィルム、例えばPEN(ポリエチレンナフタレート)やPET(ポリエチレンテレフタレート)のフィルムを用いることができる。すなわち、支持フィルム7はバックシート6と同じものであっても良く、剥離部10が剥離してバックシート巻取ローラ14によって巻き取ったバックシート6を支持フィルム7として支持フィルム巻出ローラ55から送り出すようにしても良い。
支持フィルム巻出ローラ55から送り出された支持フィルム7は、テンション検知ローラ52に懸架されて吸着ローラ20へと供給される。支持フィルム巻出ローラ55から送り出されてラミネート処理に供されるまでの支持フィルム7の張力はテンション検知ローラ52によって検知され、その測定値が予め設定された値となるように支持フィルム巻出ローラ55の回転が制御される。
支持フィルム7は、電解質膜2の搬送方向において、貼付部50のラミネートローラ51よりも少し上流側に供給される。すなわち、支持フィルム7は、ラミネートローラ51と乾燥炉40との間に供給される。そして、供給された支持フィルム7は、図13に示すように、ラミネートローラ51の回転に巻き込まれるようにして電解質膜2の裏面に重ね合わされる。電解質膜2の裏面には塗工ノズル30から塗工されて乾燥炉40にて乾燥された触媒層9が形成されている。電解質膜2の裏面に支持フィルム7が重ね合わされると、裏面側の触媒層9は電解質膜2と支持フィルム7との間に挟み込まれることとなる。
触媒層9が形成された電解質膜2の裏面に支持フィルム7を重ね合わせた積層体が吸着ローラ20およびラミネートローラ51の回転にともなってそれら両ローラの間に挟み込まれる。これにより、電解質膜2の裏面に支持フィルム7を重ね合わせた積層体が吸着ローラ20およびラミネートローラ51から押圧されることとなる。吸着ローラ20およびラミネートローラ51が当該積層体を押圧する力は、吸着ローラ20の外周面とラミネートローラ51との間隔によって規定される。吸着ローラ20とラミネートローラ51との間隔はラミネートローラ51を支持するシリンダーによって調整される。
電解質膜2の裏面に支持フィルム7を重ね合わせた積層体が吸着ローラ20およびラミネートローラ51から押圧されることによって、支持フィルム7が電解質膜2の裏面に貼り合わされるラミネート処理が進行する。図14は、支持フィルム7が貼り合わされた電解質膜2の断面図である。支持フィルム7は、電解質膜2の裏面のうち触媒層9が形成されていない領域(非塗工領域)にて電解質膜2に貼り付く。その一方、支持フィルム7は触媒層9には貼り付かない。
また、ラミネートローラ51はヒータ95によって所定の温度に温調されている。ヒータ95によって温調されたラミネートローラ51が電解質膜2を加熱することによって、電解質膜2の粘着力を高めて支持フィルム7が電解質膜2に確実に貼り付くこととなる。ヒータ95による温調温度は電解質膜2の粘着力に依存している。具体的には、電解質膜2自体の粘着力が弱いほどヒータ95はラミネートローラ51を高温に温調する。電解質膜2自体の粘着力が十分に強く、特段に加熱しなくても支持フィルム7が電解質膜2に貼り付く場合には、ヒータ95がラミネートローラ51を常温に温調すれば足りる。逆に、電解質膜2自体の粘着力が弱く、加熱しなければ支持フィルム7が電解質膜2に貼り付かないような場合には、ヒータ95がラミネートローラ51を高温に温調する。
但し、ヒータ95がラミネートローラ51を温調する温度の上限は、触媒層9に含有されている上記アイオノマーのガラス転移点Tgである。これは、ラミネートローラ51の温調温度が触媒層9に含有されているアイオノマーのガラス転移点Tgを超えると、ラミネートローラ51によって加熱された触媒層9が溶融して支持フィルム7に貼り付くおそれがあるためである。すなわち、ヒータ95は、ラミネートローラ51を常温以上触媒層9に含有されているアイオノマーのガラス転移点Tg以下に温調するのである。
ラミネートローラ51は、支持フィルム7を電解質膜2の裏面に貼り合わせるとともに、支持フィルム7を貼り合わせた当該電解質膜2の表面を吸着ローラ20の外周面から剥離する。そして、吸着ローラ20およびラミネートローラ51によるラミネート処理により支持フィルム7が貼り合わされた膜・触媒層接合体5は、テンション検知ローラ53に懸架されて接合体巻取ローラ56によって巻き取られる(ステップS10)。支持フィルム7が貼り合わされて吸着ローラ20から剥離されてから接合体巻取ローラ56に至るまでの支持フィルム7付き膜・触媒層接合体5の張力はテンション検知ローラ53によって検知され、その測定値が予め設定された値となるように接合体巻取ローラ56の回転が制御される。支持フィルム7付きの膜・触媒層接合体5が接合体巻取ローラ56によって巻き取られることにより、一連の膜・触媒層接合体5の製造プロセスが完了する。なお、テンション検知ローラ53は、支持フィルム7と接触するため、つまり電解質膜2とは直接には接触しないため、テンション検知ローラ53との接触によって電解質膜2が変形することは防止される。
ところで、上記の製造装置1においては、吸着ローラ20の外周面の一部を覆うように乾燥炉40を設け、触媒インク層8の乾燥のために吸着ローラ20の外周面に熱風を吹き付けている。このため、多孔質セラミックスにて形成された吸着ローラ20が徐々に蓄熱して昇温する。吸着ローラ20が所定値を超えて高温になると、塗工ノズル30から電解質膜2に塗工された触媒インクが直ちに加熱されて急激に乾燥し、触媒インク層8の表面にクラックが生じるおそれがある。
このため、吸着ローラ20に複数の水冷管22を設け(図4)、その水冷管22に恒温水を流すことによって吸着ローラ20を冷却して所定値以上に昇温するのを防いでいる。但し、多孔質セラミックスにて形成された吸着ローラ20は熱伝導度が低い場合もあり、しかも乾燥炉40は吸着ローラ20の外周面に熱風を吹き付けるため、当該外周面の温度上昇を十分に抑制できない場合もあり得る。
このような場合であっても、表面冷却部60(図1)から吸着ローラ20の外周面に向けて冷却エアーを吹き付けることにより、乾燥炉40からの熱風により蓄熱された吸着ローラ20の外周面を冷却して除熱することができる。これにより、塗工ノズル30から電解質膜2に塗工された触媒インクが直ちに加熱されるのを防ぐことができる。
本実施形態においては、剥離ローラ11にてバックシート6が剥離されてから吸着ローラ20によって吸着されるまでの電解質膜2に対して張力付与部80が0.3N/mm2以上7.0N/mm2以下の一定の張力を付与している。そして、バックシート6が剥離されて一定の張力が与えられている電解質膜2が貼付ローラ19によって吸着ローラ20の外周面に押し付けられて吸着されるため、塗工処理前に電解質膜2を皺無く吸着ローラ20に吸着させることができる。
特に、密着力が強い電解質膜2を用いる場合には、吸着ローラ20から隔離した位置に設けられた剥離部10にてバックシート6を剥離してから電解質膜2を吸着ローラ20に吸着させる必要があり、そのような場合にバックシート6が剥離された電解質膜2に一定の張力を付与して吸着時の皺発生を防止する本発明に係る技術が好適である。すなわち、本発明に係る技術によれば、電解質膜2の種類にかかわらず、塗工処理前に電解質膜2を皺無く吸着ローラ20に吸着させることができる。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態においては、電解質膜2の裏面からバックシート6を剥離してその裏面に触媒インクを塗工するようにしていたが、電解質膜2の表面に触媒インクを塗工して触媒層9を形成するようにしても良い。既述したように、電解質膜2の表面と裏面とは単なる便宜上の区別にすぎず、既に一方面に触媒層9が形成されている電解質膜2の他方面に触媒インクを塗工して触媒層9を形成する形態であれば良い。
また、張力付与部80は、シリンダー87によってテンションローラ81の位置を調整する構成に限定されるものではなく、電解質膜2に一定の張力を付与できる構成であれば良く、例えば所定質量のおもりをテンションローラ81に連結してテンションローラ81に一定の荷重を与えるようにしても良い。或いは、テンションローラ81にサーボモータを連結し、サーボモータのトルク制御によってテンションローラ81に一定の荷重を与えるようにしても良い。但し、張力付与部80が電解質膜2に与える張力は0.3N/mm2以上7.0N/mm2以下と非常に小さいため、駆動部の摩擦抵抗を極力少なくしておくことが要求される。
また、上記実施形態においては、電解質膜2が貼り付くのを防止するために、貼付ローラ19を外周面から空気を噴出するローラとしていたが、電解質膜2と直接接触する他のローラ(テンションローラ81、前ローラ82および後ローラ83)についても貼付ローラ19と同様の外周面から空気を噴出するローラとしておくのが好ましい。これにより、密着力が強い電解質膜2がテンションローラ81、前ローラ82および後ローラ83に貼り付くのを防止することができる。
また、上記実施形態においては、乾燥炉40に3つの乾燥ゾーン41,42,43を設けていたが、乾燥ゾーンの分割数は3つに限定されるものではなく、2つであっても良いし、4つ以上であっても良い。いずれであっても、乾燥炉40が吹き付ける熱風の温度は、吸着ローラ20による電解質膜2の搬送方向の上流側から下流側に向けて順次に高くなる。
また、隣り合う乾燥ゾーンの間に上記実施形態と同様の熱遮断ゾーンを設けるようにしても良い。このようにすれば、隣り合う乾燥ゾーンから吹き出された熱風の相互干渉を防止することができる。
また、乾燥炉40は、熱風を吹き付けて触媒インク層8の乾燥を行うようにしていたが、これに代えて、遠赤外線ヒータなどによって触媒インク層8の乾燥を行うようにしても良い。