本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰り返さない。本発明の実施形態として、超音波を発生する発生部と、当該発生部からの超音波を受信する受信部とが併せてパッケージ化されたいくつかの半導体装置について例示する。
以下の説明においては、一例として、IGBTをスイッチング動作を行なう半導体チップとして用いる構成について例示するが、半導体チップの種類については、これに限定されることはない。例えば、半導体チップとして、MOS−FET、バイポーラトランジスタ、または、GTO(Gate Turn-Off Thyristor)およびGCT(Gate Commutated Turn-off)などのサイリスタを用いてもよい。
[A.第1の実施形態]
まず、第1の実施形態に従う半導体装置であるパワーモジュールについて説明する。
<a1:半導体装置の構造>
図1は、第1の実施形態に従うパワーモジュール1のレイアウトを示す模式図である。図2は、図1に示すパワーモジュール1のII−II断面を示す模式図である。図1および図2を参照して、IGBTモジュールの一例であるパワーモジュール1は、ケース型のモジュールであり、方形状のベースプレート104と、ベースプレート104の外周に沿って配置されたケース部材106とを含む。ベースプレート104とケース部材106とに囲まれた空間に主要な部材が配置される(すなわち、パッケージ化される)。主要な部材として、システム基板130と、システム基板130上に配置された半導体チップとを含む。
説明の便宜上、ベースプレート104が延在する平面をX軸方向およびY軸方向で定義されるX−Y平面とし、ベースプレート104の厚み方向をZ軸方向と定義する。他の実施形態においても同様である。
ベースプレート104は、放熱および部材保持するためのものであり、典型的には、Cuで構成される。ベースプレート104の外面側(図2において紙面下側)には、ヒートシンク100が接続される。ベースプレート104とヒートシンク100との間には、両者の間の熱伝導率を向上(すなわち、熱抵抗を低下)させるためにサーマルグリース102が設けられる。サーマルグリース102は、ベースプレート104にヒートシンク100を固定する機能も果たす。
ベースプレート104上には、システム基板130が配置される。ベースプレート104とシステム基板130とは、ベースプレートはんだ116により接合される。
第1の実施形態では、システム基板130として、3層のセラミック複合基板が採用される。より具体的には、システム基板130は、Al2O3で構成される絶縁層134と、いずれもCuで構成される下側電極層132および上側電極層136,138,139とを含む。すなわち、システム基板130は、絶縁層134の上側および下側に電極を有する。
上側電極層138上には、半導体チップとして、Si−IGBT140(以下、「IGBT140」とも略称する。)、および、アノード電極150Aおよびカソード電極150Kを有するSi−PN接合ダイオード150(以下、「ダイオード150」とも略称する。)が配置されている。IGBT140は、ゲート電極140G、エミッタ電極140E(裏面側)、コレクタ電極140Cを有する。ダイオード150は、アノード電極150Aおよびカソード電極150K(裏面側)を有する。
IGBT140は、スイッチング用の半導体チップであり、ダイオード150は、IGBT140をスイッチオフしたときの逆方向電流経路を形成するフリーホイールダイオードである。IGBT140は、チップはんだ142により上側電極層138に接合され、ダイオード150は、チップはんだ152により上側電極層138に接合される。
パワーモジュール1の両端には、一対の主端子112,114が設けられており、主端子112,114は、それぞれケース部材106の一部を貫通して、パワーモジュール1から突出している。主端子112は、ボンディングワイヤ120、上側電極層136、ボンディングワイヤ122により、IGBT140のコレクタ電極140Cおよびダイオード150のカソード電極150Kと電気的に接続される。主端子114は、ボンディングワイヤ128、上側電極層139、上側電極層136により、IGBT140のエミッタ電極140Eおよびダイオード150のアノード電極150Aと電気的に接続される。
ボンディングワイヤ120,122,124,126,128は、典型的には、Alワイヤ配線が用いられる。
パワーモジュール1には、IGBT140のゲート電極140Gと電気的に接続され、パワーモジュール1の外部に露出するゲート端子146が設けられる。IGBT140のコレクタ電極140Cと電気的に接続され、パワーモジュール1の外部に露出するエミッタセンス端子154、および、主端子114と電気的に接続され、パワーモジュール1の外部に露出するエミッタセンス端子156が設けられる。
第1の実施形態に従うパワーモジュール1には、さらに、超音波を発生する超音波発生部160と、超音波発生部160からの超音波を受信する超音波受信部170とが設けられている。超音波発生部160は、チップはんだ162により上側電極層138に接合される。超音波受信部170は、チップはんだ172により上側電極層136に接合される。
説明の便宜上、超音波発生部160と超音波受信部170とを区別して記載するが、超音波発生部160および超音波受信部170を同一の素子で構成することもでき、この場合には、機能も互いに双対とすることもできる。すなわち、超音波発生部160を超音波受信部として機能させるとともに、超音波受信部170を超音波発生部として機能させることもできる。このような、超音波と電気信号との間を相互に変換する素子を、以下では「超音波素子」とも称す。
第1の実施形態およびその他の実施形態においては、超音波発生部160および超音波受信部170を、超音波と電気信号とを相互に変換可能な同一種類の超音波素子で構成してもよい。
超音波素子からなる超音波発生部160および超音波受信部170の各々は、典型的には、Si基板上に圧電材料の一例であるZnOのc軸配向膜を製膜することで形成された基材と、基材上に対向して形成された一対のくし型電極とからなる構造を有する。くし型電極は、典型的には、Alで構成される。すなわち、超音波発生部160および超音波受信部170の各々は、変位量と電気信号とを相互に変換可能な圧電材料を含む。なお、超音波素子を構成する圧電材料については、特に制約されるものではなく、製造コストおよび製造プロセスなどを考慮して、適切な材料が選択される。
超音波発生部160では、くし型電極により時間的に変化する電圧が印加されることで、時間的な変位を生じる。電圧を時間的に変化させる周期を適切に設定することで、パワーモジュール1内部に超音波を発生させることができる。一方、超音波受信部170では、超音波発生部160が発生した超音波を受けて、時間的な変位が生じ、この時間的な変位に応じた電気信号がくし型電極間に現れる。このくし型電極間の電気信号を検出することで、パワーモジュール1内部の変化を検知する。
超音波発生部160および超音波受信部170は、超音波発生部160と超音波受信部170とを結ぶ超音波伝搬経路が半導体チップまたはシステム基板130の少なくとも一部を通過するように、配置されることが好ましい。すなわち、超音波発生部160および超音波受信部170は、パワーモジュール1内の評価対象の部位が両者を結ぶ経路上に位置するように、配置される。
超音波発生部160のくし型電極と電気的に接続され、パワーモジュール1の外部に露出するリード端子164,166が設けられる。同様に、超音波受信部170のくし型電極と電気的に接続され、パワーモジュール1の外部に露出するリード端子174,176が設けられる。
超音波発生部160および超音波受信部170の詳細については、後述する。
上述した各部材は、ベースプレート104とケース部材106とに囲まれた空間に配置された上で、エポキシ樹脂109およびシリコンゲル110により封止される。シリコンゲル110は、ベースプレート104とケース部材106とに囲まれた空間に充填され、各部材を固定するとともに、外気との接触などを防止する。さらに、シリコンゲル110の上面にエポキシ樹脂109が充填された上で、キャップ部108により封止されている。すなわち、主として、ケース部材106、シリコンゲル110、エポキシ樹脂109、キャップ部108が、パワーモジュール1のパッケージ部材に相当する。このパッケージ部材により、半導体チップ(IGBT140およびダイオード150)、超音波発生部160、および超音波受信部170が覆われる。そして、超音波発生部160と電気的に接続されるリード端子164,166(第1の端子)と、超音波受信部170と電気的に接続されるリード端子174,176(第2の端子)とが、このパッケージ部材から露出して設けられる。
説明の便宜上、図1および図2には、1アーム分(1つのスイッチング用の半導体チップと、フリーホイールダイオードとの組み合わせ)を例示するが、単一のパワーモジュール1内に複数のスイッチング用の半導体チップを配置した構成であってもよい。さらに、後述するような、ゲート制御機能および回路保護機能を組み込んで高機能化したパワーモジュール1を採用してもよい。
図1には、半導体チップとして、IGBT140およびダイオード150がシステム基板130上に接合された構造の一例を示すが、MOS−FET、バイポーラトランジスタ、サイリスタが用いられる構造を採用してもよい。電極、ワイヤといった配線材料が半導体チップの表面に接合されている構造であれば、どのような構造のパワーモジュールにも適用可能である。
図1には、チップはんだにより、半導体チップがシステム基板130に接続される例を示すが、これに限られず、例えば、銀による拡散接合を用いる方法、銀の微粒子を焼成して接合する方法などを採用してもよい。
図1には、Alワイヤ配線によるワイヤボンディングにより、半導体チップの表面電極と接合する構造の一例を示すが、他の配線材料を用いてもよい。ボンディングワイヤのような細いワイヤ配線に代えて、板状の電極(例えば、リードフレーム)を用いて接合するような方法を採用してもよい。
図1には、システム基板130として、Cu/Al2O3/Cuの構造例を示すが、他の種類の金属と絶縁体セラミックスとの組み合わせを採用してもよい。
図1には、システム基板130、ベースプレート104、ヒートシンク100が積層された構造例を示すが、すべての層が必要ではなく、一部の層を省略した構造、または、2つの層を融合して1つの層とした構造を採用してもよい。
図1には、ケース型のパワーモジュールの構造例を示すが、ケース部材を省略した、トランスファーモールド型の構造を採用してもよい。
<a2:アプリケーションシステムの構成>
次に、第1の実施形態に従うパワーモジュール1が組み込まれたアプリケーションシステムの一例について説明する。
図3は、第1の実施形態に従うパワーモジュール1が組み込まれたアプリケーションシステムの一例を示す模式図である。図3には、アプリケーションシステムの一例として、モータ駆動システム2を例示する。モータ駆動システム2は、三相交流モータを駆動するシステムであり、商用電源12から供給される三相交流電力を、運転状態に応じた周波数および電圧をもつ三相交流電力に変換し、モータ4へ供給する。
モータ駆動システム2は、直流母線6と直流母線8との間に電気的に接続された、コンバータ部20と、平滑コンデンサ30と、インバータ部40とを含む。
コンバータ部20は、6つのダイオード22−1〜22−6から構成され、商用電源12から供給される三相交流電力を直流電力に変換する。直流母線6と直流母線8との間に、1相あたり直列接続された2つのダイオードが3相分並列に接続される。各相ダイオード間の接続ノード24,26,28と商用電源12のそれぞれの相とが電気的に接続される。
平滑コンデンサ30は、コンバータ部20による交直変換後の電力に含まれる電圧リップルを低減する。
インバータ部40は、6つのパワーモジュール1−1〜1−6から構成され、直流母線6,8を介して供給される直流電力を三相交流電力に変換する。直流母線6と直流母線8との間に、1相あたり直列接続された2つのパワーモジュール1が3相分並列に接続される。パワーモジュール1間の接続ノード44,46,48とモータ4のそれぞれの相とが電気的に接続される。
P側アームのパワーモジュール1−1,1−3,1−5の各々では、IGBT140の主端子112(コレクタ電極)が正側の直流母線6と電気的に接続され、N側アームのパワーモジュール1−2,1−4,1−6の各々では、IGBT140の主端子114(エミッタ電極)が負側の直流母線8と電気的に接続される。
インバータ部40において、スイッチング素子であるパワーモジュール1−1〜1−6の各々がオン/オフするタイミング(周期および位相など)を制御することで、運転状態に応じた周波数および電圧を有する三相交流電力をモータ4へ供給することができる。パワーモジュール1−1〜1−6のオン/オフ制御は、パワーモジュール1−1〜1−6のゲート端子146と電気的に接続されたゲート駆動回路42−1〜42−6と、制御回路10とによって実現される。
ゲート駆動回路42−1〜42−6(以下、「ゲート駆動回路42」とも総称する。)は、パワーモジュール1−1〜1−6のスイッチング動作をそれぞれ制御する。具体的には、ゲート駆動回路42は、一種の電圧源であり、制御回路10からの指令に応答して、スイッチング素子として機能するパワーモジュール1のゲート端子146に対して、正のゲート制御電圧を印加する。この正のゲート制御電圧の印加により、IGBT140は活性化されて、オン状態になる。オン状態において、IGBT140のエミッタ−コレクタ間は導通状態(低抵抗状態)となり電流が流れる。一方、ゲート駆動回路42は、制御回路10からの指令に応答して、パワーモジュール1のゲート端子146に対して、印加するゲート制御電圧の大きさを予め定められたしきい電圧以下にすることもでき、あるいは、負のゲート制御電圧を印加することもできる。ゲート制御電圧の制御により、IGBT140は非活性化されて、オフ状態になる。オフ状態において、IGBT140のエミッタ−コレクタ間は非導通状態(高抵抗状態)となり電流は遮断される。
制御回路10は、正側の直流母線6に配置された電流センサ32によって検出される電流値などに基づいて、ゲート駆動回路42を制御する。
第1の実施形態に従うパワーモジュール1が組み込まれたモータ駆動システム2では、制御回路10は、さらにリード端子164,166によって、超音波発生部160(図1および図2参照)と電気的に接続されるとともに、リード端子174,176によって、超音波受信部170(図1および図2参照)と電気的に接続される。すなわち、制御回路10は、実使用状態において、パワーモジュール1の内部の劣化を評価することができる。制御回路10の構成については、後述する。
<a3:熱的振る舞いおよび劣化モード>
次に、パワーモジュール1における熱的振る舞いおよび劣化モードについて説明する。図4は、パワーモジュール1における熱的振る舞いおよび劣化モードについて説明するための図である。
第1の実施形態に従うパワーモジュール1は、スイッチング素子として用いられる。スイッチング動作に起因して、半導体チップであるIGBT140に電流が流れることによりエネルギー損失が発生する。エネルギー損失としては、内部抵抗によるオン損失、および、スイッチング時の電流と電圧との積に比例するスイッチング損失が存在する。
図4に示すように、IGBT140の内部で発生した熱は、主として、IGBT140からシステム基板130、ベースプレート104の順に伝わって、パッケージ外部のヒートシンク100へ移動する。なお、図4において、システム基板130の構成については簡略化して描いている。
以下の説明においては、半導体チップの内部温度を接合温度と称し、パッケージ外側の温度をケース温度とも称す。スイッチング動作の状況(典型的には、オン状態とオフ状態との繰り返し回数)に応じて、接合温度およびケース温度は、上昇と下降とを繰り返すことになる。このようなヒートサイクルが生じることで、パワーモジュール1の内部には、以下のような劣化が生じる。
すなわち、半導体チップ内部が高温になることにより半導体チップ自体(例えば、ゲート酸化膜)が劣化し、リーク電流の増大などが生じる。また、部材毎に熱膨脹係数が異なるため、ヒートサイクルによって部材間に応力による変形が繰り返され、この結果、機械的な疲労が生じる。機械的な疲労によって、(1)半導体チップとボンディングワイヤ122,124との接合部の剥がれ、(2)ボンディングワイヤ122,124の付け根部の亀裂または断裂、(3)半導体チップとシステム基板130との接合部の剥がれ、(4)半導体チップとシステム基板130との接合部内での空隙(ボイド)の形成、といった各種の劣化が生じ得る。さらに、半導体チップとシリコンゲル110(図2参照)との接合部の剥がれ、および、キャップ部108とエポキシ樹脂109(いずれも図2参照)との接合部の剥がれ、といった劣化も生じ得る。
このような劣化によって、熱伝導および電気伝導の部分的な不良を招き、その結果、それぞれの部位での局所的な温度上昇を生じ得る。このような局所的な温度上昇によって、劣化がさらに進行することになる。このような劣化進行の結果、最終的には、電流集中による局所的な高温化、それに伴う溶融による断線あるいはショートなどの形で半導体チップの破壊に至る。
<a4:超音波を用いた劣化評価>
上述したように、第1の実施形態に従うパワーモジュール1では、半導体チップの近傍に、超音波発生部160および超音波受信部170が配置されており、超音波発生部160が発生する超音波を超音波受信部170で受信することにより、パワーモジュール1内部の劣化を評価することが可能になっている。この劣化の評価は、パワーモジュール1の運転中であっても可能である。
図5は、第1の実施形態に従うパワーモジュール1の内部で発生される超音波の状態を示す模式図である。図5を参照して、外部からリード端子164,166を通じて、信号強度が時間的に変化する電気信号(典型的には、パルス信号)を与えることで、超音波発生部160は、電気信号に応じた超音波を発生する。超音波発生部160は、システム基板130上の半導体チップが配置された位置とは異なる位置に配置されるとともに、システム基板130の表面に沿って伝搬する表面波を発生するように構成される。超音波発生部160から照射される超音波は、表面波あるいは界面波として、システム基板130の表面を伝搬する。このシステム基板130の表面を伝搬した後の超音波を超音波受信部170で受信し、受信した超音波の情報は、リード端子174,176を通じて外部へ取り出される。
超音波発生部160が発生した超音波は、表面波としてシステム基板130の表面を伝搬する。第1の実施形態に従うパワーモジュール1においては、超音波受信部170は、システム基板130の超音波発生部160が配置される面と同じ面側に配置される。そのため、超音波受信部170で受信される超音波は、半導体チップとボンディングワイヤとの接合状態、ボンディングワイヤ自体の状態、半導体チップとシステム基板130との接合状態(上側電極層の状態)などを反映した情報を含むことになる。
第1の実施形態に従うパワーモジュール1においては、超音波発生部160と超音波受信部170とを結ぶ超音波伝搬経路上に存在する部位の情報を取得できる。そのため、超音波発生部160および超音波受信部170をいずれの位置に配置するのかが重要である。典型的には、図4に示される各種劣化モードを考慮して、超音波発生部160および超音波受信部170の位置を決定することが好ましい。
また、パワーモジュール1の構造的な特徴を考慮して、超音波発生部160および超音波受信部170の位置を決定してもよい。例えば、より長い配線(例えば、ボンディングワイヤなど)が配置されている部分、放熱量が相対的に少なく温度上昇し易い半導体チップの中央部分、接合部間の剥がれが生じ易い端部分といった、より劣化が生じ易い部分を監視できる位置が好ましい。
以下、パワーモジュールの劣化と超音波を用いた測定により得られる情報との関係について説明する。
(i:周波数スペクトルの変化)
図6は、パワーモジュールの劣化と周波数スペクトルとの関係の一例を示す図である。図6には、パワーモジュールに対して、ストレスサイクルを与える加速寿命試験(パワーサイクル試験)中に測定された超音波信号の周波数スペクトルの変化を示す。加速寿命試験においては、一定の電流をオン/オフする動作を繰り返し行なうことで、パワーモジュールでの発熱により温度を上昇させ、その後、冷却により温度を下降するというサイクルを繰り返した。
図6には、平均寿命サイクル数に対する加速寿命試験により与えたストレスサイクル数の比率の別に、測定された超音波信号の周波数スペクトルを示す。図6に示すように、加速寿命試験によって与えられたストレスサイクル数が平均寿命サイクル数に近付くにつれて、特定周波数の成分(図6中の「変化成分」)が増大していることが分かる。図6に示す測定例では、ストレスサイクル数が平均寿命サイクル数に近付くにつれて、3.0MHz付近に新たなピークが現れてくるのが分かる。
この新たなピークは、ボンディングワイヤと半導体チップの表面電極との間にクラックが発生して徐々に剥がれが生じて、接合部の固有振動数が変化することにより、あるいは超音波の反射特性が変化することにより、現れるものと考えられる。この測定結果を見れば、パワーモジュール1内の評価対象の部位に対して、超音波を照射し、その超音波の透過波または反射波の周波数スペクトルを測定することで、パワーモジュール1内の劣化を評価することができることが分かる。
(ii:信号強度の変化)
図7は、パワーモジュールの劣化と信号強度との関係の一例を示す図である。図7には、加速寿命試験中に測定された、評価対象のボンディングワイヤに関連する、超音波信号、エミッタ−コレクタ間電圧Vce(オン状態)の大きさ、および熱抵抗の大きさをプロットした結果を示す。いずれの値も、加速寿命試験の開始前に測定されたそれぞれの初期値で規格化している。
図7に示すように、ストレスサイクル数がある値に到達すると、熱抵抗(すなわち、熱伝導率)の大きさに変化が現れ、その後、エミッタ−コレクタ間電圧Vceの大きさにも変化が現れる。但し、熱抵抗およびエミッタ−コレクタ間電圧Vceの大きさは、それぞれ電気的特性または熱抵抗特性が変化するほどのダメージが蓄積されたことに起因して変化するものであり、ダメージが小さい場合には、有意な変化が現れる可能性は低い。
これに対して、熱抵抗およびエミッタ−コレクタ間電圧Vceのいずれの大きさにも有意な変化が現れていない、ストレスサイクル数が少ない段階においても、超音波信号については有意な変化が現れていることが分かる。
図7に示す測定結果によれば、超音波信号を用いることで、電気的特性および熱抵抗特性に何らかの変化が現れる前(すなわち、劣化の初期段階)から、劣化が段階的に進行している状態を評価することができると言える。
図6および図7を参照して説明したように、測定される信号と元の信号とを比較すると、与えるストレスサイクルの数の増加に伴って、周波数特性(周波数スペクトル)の特定周波数領域の信号強度が変化していることが分かる。すなわち、測定される超音波信号の周波数領域に注目することで、パワーモジュール1内の劣化度合いを評価またはモニタリングすることができると言える。さらに、後述するような手法を用いることで、評価対象のパワーモジュールの残り寿命などを推定することもできる。
<a5:劣化評価を実現する構造/制御回路>
次に、第1の実施形態に従うパワーモジュール1における劣化評価を実現するための制御構造について説明する。
図8は、図3に示す制御回路10の制御構造の一例を示す模式図である。制御回路10は、パワーモジュール1を駆動させるために必要な信号発生系および制御系の構成に加えて、超音波測定を行なうための信号発生系、信号受信系、信号処理系、制御系などの構成を含む。
図8を参照して、制御回路10は、その制御構造として、パワーモジュール1を駆動するためのコンポーネントとして、ゲート制御部196および回路保護部198を含む。さらに、制御回路10は、劣化を評価するためのコンポーネントとして、評価制御部180、信号発生制御部182、信号発生部184、信号受信部186、信号処理部188、記録部190、入力部192、および、出力表示部194を含む。制御回路10を構成する各部は、その全部または一部を集積回路で作成してもよいし、一部をソフトウエアで実現してもよい。説明の便宜上、図8には、機能別に部材を描いているが、これらの部材の一部を一体化し、あるいは、一部の部材をさらに細分化して実装してもよい。
ゲート制御部196および回路保護部198は、複数のパワーモジュール1の駆動を制御する。より具体的には、ゲート制御部196は、予め定められた制御指令、または、図示しない制御装置から与えられる制御指令に従って、ゲート駆動回路42−1〜42−6を制御する。すなわち、ゲート制御部196は、パワーモジュール1−1〜1−6の各々がオン/オフするタイミングを制御する。
ゲート制御部196は、PID(Proportional Integral Derivative Controller)制御などの制御ロジックを実装しており、電流センサ32(図3参照)によって検出される電流値などの状態値に基づいて、ゲート駆動回路42を制御する。
回路保護部198は、パワーモジュール1およびパワーモジュール1が組み込まれたシステムを保護する。例えば、パワーモジュール1内の短絡、過電流、制御電源電圧低下、過熱などを監視する。一例として、回路保護部198は、電流センサ32(図3参照)によって検出される電流値などの状態値が予め定められた制限値を超過していると判断すると、ゲート駆動回路42に対して遮断指令を与えて、パワーモジュール1のスイッチング動作を停止する。
評価制御部180は、後述するようなパワーモジュール1における劣化評価方法の実行を制御する。
信号発生制御部182は、評価制御部180からの指令に従って、信号発生部184での信号発生を制御する。より具体的には、信号発生制御部182は、複数の信号波形(信号パターン)を予め記憶しており、あるいは、複数の信号波形を動的に生成できるようになっている。信号発生制御部182は、評価制御部180からの指令に従って、複数の信号波形のうち、指定された信号波形の発生を信号発生部184へ指示する。
信号発生部184は、発振器を有するとともに、リード端子164,166を通じて超音波発生部160(図1および図2参照)と電気的に接続されている。信号発生部184は、信号発生制御部182からの指令に従って、指定された信号波形を発振器で発生させることで、超音波発生部160を駆動する。
信号受信部186は、増幅器を有するとともに、リード端子174,176を通じて超音波受信部170(図1および図2参照)と電気的に接続されている。信号受信部186は、超音波受信部170が超音波を受信することで生じる電気信号を増幅して、信号処理部188へ出力する。
信号処理部188は、A/D(Analog to Digital)変換回路、ノイズ除去回路、フーリエ変換回路などを含む。具体的には、信号受信部186から出力される電気信号に含まれるノイズ成分を除去するとともに、電気信号を量子化して評価制御部180へ出力する。このとき、信号受信部186で受信された電気信号の時間波形に加えて、時間波形を周波数変換して得られる結果(周波数スペクトル)を評価制御部180へ出力してもよい。
記録部190は、劣化を評価するための各種データ(初期データおよび基準データなど)を保持する。記録部190に格納される各種データは、評価制御部180にて動的に生成されることもあるし、外部装置などから与えられることもある。
入力部192は、ユーザ操作または外部装置からの指令を受付け、その受付けた指令を評価制御部180へ出力する。典型的には、入力部192は、各種の操作ボタン、キーボード、マウスなどの入力インターフェイス装置であってもよいし、USB(Universal Serial Bus)、LAN(Local Area Network)などの通信インターフェイスであってもよい。
出力表示部194は、評価制御部180にて出力される評価結果などを外部装置へ出力し、あるいは、ユーザへ通知する。典型的には、出力表示部194は、USB(Universal Serial Bus)、LAN(Local Area Network)などの通信インターフェイスであってもよいし、各種のインジケータ、ディスプレイ、音声デバイスなどの出力インターフェイス装置であってもよい。
<a6:劣化評価の方法(概要)>
次に、第1の実施形態に従うパワーモジュール1における劣化評価方法の手順について説明する。本実施の形態に従う劣化評価方法は、基板上に配置された半導体チップをパッケージ化したパワーモジュール1(半導体装置)の劣化を評価する。図9は、第1の実施形態に従うパワーモジュール1における劣化評価方法の手順を示すフローチャートである。図9に示す各ステップは、図8に示される関連する部位によって実行される。
図9を参照して、評価制御部180は、超音波測定の開始が指示されたか否かを判断する(ステップS100)。例えば、評価制御部180は、超音波測定の開始についてのユーザから明示的な指示(入力部192への入力)を受けたか、超音波測定を開始する所定条件(予め定められた周期の到来など)が満たされたかなどを判断する。超音波測定の開始が指示されていなければ(ステップS100においてNO)、処理を終了する。
超音波測定の開始が指示されると(ステップS100においてYES)、パワーモジュール1の内部で超音波を発生するステップが実行される。より具体的には、評価制御部180は、信号発生制御部182に対して超音波の発生を指示する(ステップS102)。信号発生制御部182は、評価制御部180からの指示に応答して、信号発生部184を駆動し、超音波発生部160から超音波を発生させる(ステップS104)。
続いて、パワーモジュール1の内部を伝搬した後の超音波を受信するステップが実行される。すなわち、超音波発生部160から照射された超音波がパワーモジュール1内を伝搬した後、超音波受信部170が当該超音波を受信する(ステップS106)。超音波受信部170からは受信された超音波に応じた電気信号が出力され、信号受信部186は、超音波受信部170からの電気信号を受信する(ステップS108)。信号受信部186は、受信した電気信号を増幅して、信号受信部186へ出力する。信号受信部186は、信号受信部186から出力される電気信号に含まれるノイズ成分を除去するとともに、デジタル信号化として評価制御部180へ出力する(ステップS110)。
続いて、受信した超音波信号の周波数スペクトルおよび特定の周波数成分の少なくとも一方を用いて、予め定められた設定値を参照して、パワーモジュール1の劣化を評価するステップが実行される。より具体的には、評価制御部180は、信号受信部186からのデジタル信号(超音波の時間波形)の周波数スペクトルおよび/または特定の周波数成分を用いて、記録部190に格納されている劣化を評価するための設定値(初期データおよび基準データなど)を参照して、パワーモジュール1の劣化を評価する(ステップS112)。評価制御部180は、出力表示部194から評価結果を出力する(ステップS114)。そして、処理を終了する。
<a7:超音波測定の方法(超音波発生部の駆動方法)>
次に、超音波発生部160(図1および図2参照)から超音波を発生させ、超音波受信部170でパワーモジュール1内を伝搬した後の超音波を受信する方法について説明する。典型的には、以下に示す3つの形態のいずれかに従って、信号発生部184(図8参照)を制御することで、超音波発生部160から超音波を発生する。
(i:超音波発生部160をパルス状に駆動する方法)
超音波発生部160から超音波を発生する処理として、パルス状の超音波を発生するようにしてもよい。
図10は、第1の実施形態に従うパワーモジュール1内の超音波発生部160を駆動する信号の一例を示す図である。図10(A)に示すように、パルス状の信号で超音波発生部160を駆動することで、パルス状の超音波、すなわちパルス幅に応じた周波数帯域の成分を含む超音波を発生させることができる。このようなパルス信号を超音波発生部160へ与えることで、比較的短い時間で、評価対象の部位の情報を反映した周波数スペクトルを測定できる。図10(A)のパルス幅ΔTを調整することで、注目する周波数の範囲を含む周波数スペクトルを測定できる。
図10(B)に示すようなインパルス状の信号で超音波発生部160を駆動するようにしてもよい。この場合には、超音波受信部170で受信される超音波の信号強度は低下するが、より広い周波数範囲にわたる周波数スペクトルを測定できる。
(ii:超音波発生部160を駆動する周波数を段階的に変化させる方法)
図11は、第1の実施形態に従うパワーモジュール1内の超音波発生部160を駆動する信号の別の例を示す図である。図11を参照して、各タイミングにおいて、単一の周波数からなる信号で超音波発生部160を駆動するとともに、超音波発生部160を駆動する周波数を時間的に順次変化させることで、評価対象の部位の情報を反映した周波数スペクトルを測定できる。すなわち、超音波発生部160から超音波を発生する処理として、単一の周波数の超音波を発生するようにしてもよい。
図11に示す例では、最低周波数fminから周波数変化量Δfずつ変化させた各駆動周波数の成分を含む測定結果を得ることができる。なお、超音波発生部160に与えられる電気信号の時間波形は、対応する駆動周波数の正弦波となる。図11に示すような方法で超音波発生部160を駆動することで、超音波受信部170で受信される超音波信号に含まれる各周波数成分をより正確に測定することができる。周波数変化量Δfは、評価方法および要求される評価精度に応じて決定すればよい。
図11には、駆動周波数を段階的に変化させる例を示すが、一定速度で周波数を変化(すなわち、スイープ)させてもよい。
(iii:超音波発生部160を単一の周波数で駆動する方法)
図12は、第1の実施形態に従うパワーモジュール1内の超音波発生部160を駆動する信号のさらに別の例を示す図である。図6を参照して説明したように、パワーモジュール1の構造に応じて、特有の周波数に劣化度合いに応じた特徴量が現れることがあり、このような特有の周波数が既知である場合には、超音波発生部160を駆動する周波数を固定してもよい。図12に示す例では、特徴量が現れる基準周波数fref(例えば、3.0MHz)で超音波発生部160を駆動する例を示す。すなわち、超音波発生部160から超音波を発生する処理として、単一の周波数の超音波を発生するようにしてもよい。
図12に示すような方法で超音波発生部160を駆動することで、より短時間で、かつ、より簡単な信号処理で、対象部位の劣化度合いを評価することができる。
図12には、単一の基準周波数で超音波発生部160を駆動する例を示すが複数の基準周波数で超音波発生部160を駆動するようにしてもよい。
<a8:評価結果の算出処理>
次に、超音波を用いてパワーモジュール1の劣化を評価する方法のいくつかの例について説明する。なお、以下に説明するすべての評価方法を単一の装置に実装する必要はなく、その一部の評価方法のみを実装するようにしてもよい。
(i:周波数スペクトルで解析する方法)
第一の方法として、超音波受信部170により測定された超音波の時間波形を周波数スペクトルの形で解析する方法について説明する。
図13は、測定された超音波の周波数スペクトルに基づいてパワーモジュール1の劣化を評価するための制御構造を示す模式図である。図14は、図13に示す制御構造によって実行される評価方法を説明するための図である。図13および図14には、超音波受信部170により受信された超音波信号の周波数スペクトルを用いて、パワーモジュール1の劣化を評価する方法を示す。
図13を参照して、制御回路10の評価制御部180は、その制御構造として、スペクトル生成部1802と、差分スペクトル算出部1804と、積算部1806と、劣化状態判定部1808とを含む。
制御回路10の記録部190は、基準スペクトル1902および劣化特性1904を格納している。パワーモジュール1内では、超音波発生部160で発生した超音波のうち、超音波受信部170まで直接伝搬する成分に加えて、各部で吸収または散乱する成分が存在する。超音波受信部170で受信される超音波は、これらの複数の成分が混在する複雑な信号になり得る。そのため、後述するような方法を用いて、基準スペクトル1902を予め取得および格納しておく。劣化特性1904についても、パワーモジュール1の製品種別に特有であり、加速寿命試験などによって、予め取得および格納しておく。
スペクトル生成部1802は、超音波受信部170により受信された超音波の時間波形(以下、「測定信号」とも称す。)を周波数変換して、周波数スペクトル(以下、「測定スペクトル」とも称す。)を生成する。差分スペクトル算出部1804は、スペクトル生成部1802から出力される測定スペクトルと、記録部190に格納されている基準スペクトル1902との差分から、差分スペクトルを算出する。積算部1806は、差分スペクトル算出部1804により算出された差分スペクトルの信号強度を周波数について積算し、差分スペクトルの特徴量を算出する。
劣化状態判定部1808は、算出された差分スペクトルの特徴量を劣化特性1904と比較することで、劣化度合いおよび残り寿命を算出する。劣化度合いおよび残り寿命の少なくとも一方を含む評価結果を出力する。
図14には、図13に示す制御構造での処理を示す。図14を参照して、測定スペクトルと基準スペクトル1902との差分から差分スペクトルが算出され、差分スペクトルの信号強度を周波数について積算することで、特徴量S(この例では、差分スペクトルの面積に相当する)が算出される。なお、特徴量Sの算出に当たっては、周波数に応じた重み付けをしてもよい。
劣化特性1904は、経過寿命と特徴量との関係を示すものである。図14に示す劣化特性1904では、平均寿命に到達したときの特徴量が基準特徴量Srefとされている。劣化状態判定部1808は、積算部1806により算出された特徴量Sを劣化特性1904に当てはめることで、対応する経過寿命Lを算出する。なお、平均寿命から算出された経過寿命Lを差し引いた値が残り寿命に相当する。
さらに、残り寿命が平均寿命の所定の割合(例えば、30%)まで低下すると、「注意(caution)レベル」と判定し、残り寿命がさらに低い割合(例えば、15%)まで低下すると、「損傷(damage)レベル」と判定するようにしてもよい。
なお、差分スペクトルではなく、基準スペクトル1902に対する測定スペクトルの各周波数における比率を示す比率スペクトルを用いてもよい。
上述のように、パワーモジュール1の劣化を評価する処理は、予め定められた、初期値(基準スペクトル1902)および劣化状態に対応するしきい値(劣化特性1904)に基づいて、パワーモジュール1の劣化の度合い、および/または、パワーモジュール1の残り寿命を決定する処理を含む。
(ii:特定周波数の信号強度を用いて解析する方法)
第二の方法として、超音波受信部170により測定された超音波の時間波形に含まれる特定周波数の信号強度を用いて解析する方法について説明する。図15は、測定された超音波の特定周波数の信号強度に基づいてパワーモジュール1の劣化を評価するための制御構造を示す模式図である。
図15を参照して、制御回路10の評価制御部180は、その制御構造として、周波数成分抽出部1810と、絶対値算出部1812−1,1812−2,…,1812−nと、差分値算出部1814−1,1814−2,…,1814−nと、劣化状態判定部1816とを含む。
制御回路10の記録部190は、周波数別に予め設定された基準信号強度設定1912と、注意レベルおよび損傷レベルを判定するためのしきい値を含む判定レベル設定1914と、劣化特性1916とを含む。
周波数成分抽出部1810は、一種の周波数フィルタであり、超音波受信部170により受信された超音波の時間波形(測定信号)から、劣化度合いに応じた特徴量が現れる周波数f1,f2,…,fnの成分を抽出する。周波数f1,f2,…,fnは、事前の加速寿命試験において取得されたデータなどから決定される。説明の便宜上、複数の周波数成分を用いる構成例を示すが、単一の周波数成分を用いて劣化を評価するようにしてもよい。
なお、上述の図11または図12に示すような信号波形を用いて超音波を発生し、この超音波を受信することで得られる測定信号を用いる場合には、周波数成分抽出部1810を省略してもよい。
絶対値算出部1812−1,1812−2,…,1812−nは、それぞれ周波数f1,f2,…,fnの周波数成分の絶対値(すなわち、各周波数成分の信号強度)を算出する。なお、各周波数成分の絶対値ではなく、ピーク値を算出するようにしてもよい。
差分値算出部1814−1,1814−2,…,1814−nは、絶対値算出部1812−1,1812−2,…,1812−nからそれぞれ出力される周波数成分の信号強度と、基準信号強度設定1912に含まれる対応する基準信号強度R1,R2,…,Rnとの差分を算出する。差分値算出部1814−1,1814−2,…,1814−nからそれぞれ出力される差分は、基準信号強度からの変化成分(ずれ量)に相当する。
劣化状態判定部1816は、差分値算出部1814−1,1814−2,…,1814−nからそれぞれ出力される差分が、判定レベル設定1914に含まれる対応する判定レベル値Th1,Th2,…,Thnを超過しているか否かを判断する。劣化状態判定部1816は、判定レベル値を超過している周波数成分の有無もしくは数、または、判定レベル値に対する超過度合いなどに基づいて、劣化度合いを含む評価結果を出力する。
また、劣化状態判定部1816は、差分値算出部1814−1,1814−2,…,1814−nからそれぞれ出力される差分を、劣化特性1916に適用することで、残り寿命を算出する。劣化特性1916については、図14を参照して劣化特性1904と同様であるので、詳細な説明は繰り返さない。但し、周波数別に劣化特性を定めてもよい。
なお、各周波数成分の信号強度についての差分ではなく、基準信号強度に対する信号強度の比率を用いてもよい。
上述のように、パワーモジュール1の劣化を評価する処理は、予め定められた、初期値(基準信号強度設定1912)および劣化状態に対応するしきい値(判定レベル設定1914/劣化特性1916)に基づいて、パワーモジュール1の劣化の度合い、および/または、パワーモジュール1の残り寿命を決定する処理を含む。
(iii:特定周波数の信号強度から推定する方法)
第三の方法として、特定周波数の信号強度から寿命などを推定する方法について説明する。図16は、特定周波数の信号強度から寿命などを推定する方法を説明するための図である。図16には、超音波受信部170により受信された超音波信号の特定の周波数成分を用いて、パワーモジュール1の劣化を評価する方法を示す。
図16(A)を参照して、制御回路10の評価制御部180(図8参照)は、超音波受信部170(図8参照)により受信された超音波の時間波形(測定信号)から、特定の周波数成分の信号強度を算出し、超音波測定が実施されたタイミングの情報と関連付けて格納する。なお、初期状態での測定値を初期値として、信号強度の初期値からの変化分を評価することが好ましい。
ここで、超音波測定が実施されたタイミングは、例えば、評価対象のパワーモジュールが設置されてからの経過時間、評価対象のパワーモジュール(または、そのパワーモジュールが組み込まれたシステム)の運転時間、パワーモジュールが組み込まれた電車もしくは車両の走行距離などである。
このような超音波測定を定期的に複数回実施することで、図16(B)に示すような測定結果が得られる。それぞれの測定点をフィッティングすることで、劣化特性を推定する。すなわち、既知の測定情報を外挿することで、将来の特性変化を推定する。このような手順で取得された推定特性が予め設定された判定しきい値に到達するタイミングを、寿命と判断することができる。
図16には、ある特定の信号強度に注目した場合の処理例を示すが、複数の周波数別に同様の手法で寿命を推定してもよいし、超音波信号の周波数スペクトルを用いて、同様の手法を適用してもよい。
(iv:その他)
上述の説明では、超音波受信部170により測定された超音波の時間波形を周波数スペクトルの形で解析する評価方法の例、および、超音波の時間波形をその信号強度の形で解析する評価方法の例について説明したが、時間波形そのものを用いてもよい。具体的には、測定信号の時間波形の初期値と測定された超音波の時間波形との差分(あるいは、比率)を特徴量として、上述と同様の手法を適用してもよい。この場合には、上述の図11または図12に示すような信号波形を用いて超音波を発生し、この超音波を受信することで得られる測定信号を用いることが好ましい。この場合に得られる測定信号には、単一の周波数成分のみが含まれることになり、より高精度な評価を実現できる。
以上のように、第1の実施形態に従うパワーモジュール1の劣化を評価する方法としては、超音波受信部170で受信された測定信号を周波数スペクトルの形で解析するモードと、測定信号(信号強度)の時間変化を解析するモードとのいずれを採用してもよい。
(v:用途に応じた適合)
パワーモジュール1(および、パワーモジュール1が組み込まれたシステム)の用途に応じて、劣化の評価方法を適宜変更してもよい。例えば、寿命の算出単位としては、パワーモジュール1の設置からの経過時間に加えて、評価対象のパワーモジュール(または、そのパワーモジュールが組み込まれたシステム)の運転時間、および、パワーモジュールが組み込まれた電車もしくは車両の走行距離などを用いることができる。
また、基準周波数、基準信号強度、判定レベルなどについても、用途に応じて、適宜最適化することが好ましい。
<a9:ユーザインターフェイス>
次に、算出される評価結果をユーザへ通知するユーザインターフェイスの一例について説明する。
図17は、第1の実施形態に従うパワーモジュール1に対する劣化の評価結果を示すユーザインターフェイスの一例を示す図である。典型的には、図17に示すユーザインターフェイス画面は、出力表示部194(図8)によって提供される。
図17(A)に示すように、ユーザインターフェイス画面200Aは、対象のパワーモジュール1の劣化度合いを示す測定結果202と、測定の結果算出された残り寿命204と、アドバイス項目206とを含む。
一例として、測定結果202としては、算出された残り寿命の大きさに応じて、「正常」、「注意」、「損傷」といった3段階で表示するようにしてもよい。残り寿命204としては、算出された残り寿命の大きさ(数値)が表示される。アドバイス項目206としては、対象のパワーモジュール1を保守するためのアドバイスが表示される。図17(A)に示す例では、算出された残り寿命が十分に大きいので、「1年後に再測定して下さい。」といった、定期的な測定を促すメッセージが表示される。
一方、図17(B)には、対象のパワーモジュール1の劣化が進行している場合に表示されるユーザインターフェイス画面200Bに例を示す。ユーザインターフェイス画面200Bにおいては、測定結果202として「注意」が表示されるとともに、算出された残り寿命の大きさ(数値)が表示される(残り寿命204)。この場合のアドバイス項目206としては、対象のパワーモジュール1をより頻繁に測定することを促すための、「3ヶ月後に再測定して下さい。」といったメッセージに加えて、対象のパワーモジュール1の交換を促すための、「2年以内の交換をおすすめします。」といったメッセージが表示される。
上述したように、パワーモジュール1(および、パワーモジュール1が組み込まれたシステム)の用途に応じて、運転時間あるいは走行距離の単位で寿命を表示するようにしてもよい。
<a10:利点>
第1の実施形態に従うパワーモジュール1は、システム基板130上に半導体チップに加えて、超音波発生部160および超音波受信部170を配置した上で、パッケージ化されている。超音波発生部160と超音波受信部170との間に存在する半導体チップに関して、半導体チップとボンディングワイヤ122,124との接合部の剥がれ、ボンディングワイヤ122,124の付け根部の亀裂または断裂、といった劣化の状態を反映した信号を高感度で検出することができる。
同一種類のパワーモジュール1についての加速寿命試験などによって、予め、判定しきい値となる基準レベルを取得しておき、測定された超音波信号の特徴量が当該判定しきい値を超えるか否かを判断することで、測定対象のパワーモジュール1内の劣化度合い(例えば、損傷レベルに到達しているかなど)、および/または、残り寿命などを算出することができる。第1の実施形態においては、このような劣化評価をパワーモジュール1の運転中に実行することができるので、実使用中に劣化度合いおよび/または残り寿命を判定できる。そのため、パワーモジュール1の運用中に、不意の故障によるシステムトラブルを未然に防止できる。さらに、パワーモジュール1を組み込まれたシステム全体の信頼性を向上させるとともに、運用コストを低減できる。
さらに、実使用中の測定値および実際の劣化状態との対応関係のデータを蓄積することで、測定された超音波信号の周波数スペクトルおよび/または特定の周波数成分と、初期段階での測定値とを比較することで、その初期値に対する差分または比率に基づいて、劣化の度合いを定量的に算出することもできる。
[B.第2の実施形態]
上述の第1の実施形態に従う半導体装置においては、図5に示すように、システム基板130(正確には、半導体チップが接合されるのと同じ上側電極層138)上に、超音波発生部160および超音波受信部170の対が接合されている。これに対して、第2の実施形態に従う半導体装置においては、超音波発生部160または超音波受信部170として機能する超音波素子を複数配置してもよい。
図18は、第2の実施形態に従うパワーモジュール1Aの要部のレイアウトを示す模式図である。図18を参照して、パワーモジュール1Aは、半導体チップとして、IGBTとダイオードとのセットを2つ含む。すなわち、パワーモジュール1Aにおいて、システム基板130上に、IGBT140−1,140−2およびダイオード150−1,150−2が接合されている。
システム基板130上の半導体チップが配置されている領域の外周側に、さらに、超音波素子160A,160B,160C,160Dが配置されている。超音波素子160A,160B,160C,160Dは、典型的には、チップはんだによりシステム基板130に接合される。超音波素子160A,160B,160C,160Dの各々は、図示しないリード端子を通じて、制御回路10(図3,図8など参照)と電気的に接続されている。
超音波素子160A,160B,160C,160Dと制御回路10内の信号発生部184および信号受信部186との電気的な接続を適宜変更することで、図18(A)〜図18(C)に示すような、多彩な測定を実現する。
図18(A)には、超音波素子160Bを超音波発生部160として機能させるとともに、超音波素子160Dを超音波受信部170として機能させる動作例を示す。制御回路10の信号発生部184(図8)からリード端子を通じて、超音波素子160Bに対して、信号強度が時間的に変化する電気信号(典型的には、パルス信号)を与えることで、超音波素子160Bは超音波を発生する。一方、リード端子を通じて超音波素子160Dと制御回路10の信号受信部186(図8)とを接続することで、超音波素子160Dで受信された超音波に応じた電気信号を取得できる。
図18(A)に示す動作例においては、ダイオード150−1およびダイオード150−2の両方が評価対象となり、超音波素子160Dで受信される超音波には、これらの部位の情報が含まれることになる。
図18(B)には、超音波素子160Cを超音波発生部160として機能させるとともに、超音波素子160Aを超音波受信部170として機能させる例を示す。図18(A)に示す動作例においては、IGBT140−1およびIGBT140−2の両方が評価対象となり、超音波素子160Aで受信される超音波には、これらの部位の情報が含まれることになる。
図18(C)には、超音波素子160B,160Dをいずれも超音波発生部160として機能させるとともに、超音波素子160A,160Cをいずれも超音波受信部170として機能させる例を示す。図18(C)に示す動作例においては、システム基板130上の半導体チップが配置されている領域の外周側が評価対象となり、超音波素子160Aおよび超音波素子160Cで受信されるそれぞれの超音波には、これらの部位の情報が含まれることになる。
図18(A)〜図18(C)に例示したように、超音波素子を用いることで、超音波発生部160として機能する素子と、超音波受信部170として機能する素子とを任意に設定することができる。つまり、超音波発生部160を超音波受信部170として用いることもでき、超音波受信部170を超音波発生部160として用いることもできる。
このように、それぞれの超音波素子を超音波発生部160または超音波受信部170のいずれとして機能させるのかといった組み合わせを異ならせることによって、複数の超音波伝搬経路を実現することができ、パワーモジュール1内の劣化を評価する対象部位を複数に設定できる。図18に示すように、4つの超音波素子が配置されたレイアウトにおいては、2つの超音波素子の組み合わせが12通り存在するので、この組み合わせの種類だけ、劣化評価の対象部位の選択性を向上できる。
第2の実施形態に従うパワーモジュール1Aにおいては、超音波受信部170は、システム基板130の超音波発生部160が配置される面と同じ面側に配置される。このとき、システム基板130の一方面には、各々が独立して超音波を発生する超音波発生部160が複数配置されるとともに、各々が独立して超音波を受信する超音波受信部170が複数配置される。
図18に示すように、システム基板130の四隅に半導体チップを配置することで、超音波素子の各組み合わせにおいて、超音波素子同士が対角位置になる。また、各組み合わせにおいて、超音波が伝搬する経路上に半導体チップが存在するように、超音波素子をレイアウトすることが好ましい。すなわち、超音波発生部160と超音波受信部170とを結ぶ超音波伝搬経路が、測定対象の半導体チップまたはシステム基板130を通過するように、超音波発生部160と超音波受信部170との組み合わせが適宜設定される。
上述の説明では、超音波発生部160および超音波受信部170のいずれとしても機能できる超音波素子を用いる構成について例示したが、超音波発生部160および超音波受信部170をそれぞれ固有の素子を用いて実現してもよい。この場合であっても、電気信号を与える超音波発生部160を選択することで、超音波伝搬経路を複数種類に変更できるので、上述したのと同様の作用効果を得ることができる。
第2の実施形態におけるその他の構成および処理などについては、上述の第1の実施形態と同様であるので、詳細な説明は繰り返さない。
第2の実施形態に従うパワーモジュール1Aにおいては、超音波をモジュール内部で2次元的に伝搬させることができるとともに、複数の超音波伝搬経路を選択することができる。このような超音波伝搬経路の選択機能によって、部材間が重なっている部位、および、別の部材により隠されている部位などについても、より正確に観測することができ、評価精度を高めることができる。
また、第2の実施形態に従うパワーモジュール1Aにおいては、同一の超音波素子を、超音波発生部160または超音波受信部170として選択的に機能させることで、超音波の複数の超音波伝搬経路を形成できる。そのため、評価精度を高める一方で、付加的な超音波素子を設けることなく、よりコンパクトかつ安価な構成を実現できる。
[C.第3の実施形態]
上述の第1の実施形態に従う半導体装置においては、図5に示すように、システム基板130(正確には、半導体チップが接合されるのと同じ上側電極層138)上に、超音波発生部160および超音波受信部170が接合されている。すなわち、システム基板130の表面を伝搬する表面波である超音波を発生させる構成について例示した。これに対して、第3の実施形態に従う半導体装置においては、半導体チップおよびシステム基板を貫通するような超音波を発生させてもよい。
図19は、第3の実施形態に従うパワーモジュール1Bの要部のレイアウトを示す模式図である。図19を参照して、パワーモジュール1Bは、システム基板130上に接合されたIGBT140およびダイオード150を含む。IGBT140およびダイオード150の表面にそれぞれ超音波発生部160−1および超音波発生部160−2が接合されている。さらに、システム基板130の反対側の表面上において、超音波発生部160−1および超音波発生部160−2と対向する位置に、超音波受信部170−1および超音波受信部170−2が接合される。超音波発生部160−1,160−2および超音波受信部170−1,170−2は、典型的には、チップはんだによりシステム基板130に接合される。
超音波発生部160−1,160−2および超音波受信部170−1,170−2の各々は、図示しないリード端子を通じて、制御回路10(図3,図8など参照)と電気的に接続されている。
第3の実施形態に従うパワーモジュール1Bにおいては、超音波受信部170−1,170−2は、システム基板130の超音波発生部160−1,160−2が配置される面と対向する面側に配置される。このとき、システム基板130の一方面には、各々が独立して超音波を発生する複数の超音波発生部160−1,160−2が配置されるとともに、各々が独立して超音波を受信する複数の超音波受信部170−1,170−2が配置される。
制御回路10の信号発生部184(図8)からリード端子を通じて、超音波発生部160−1に対して、信号強度が時間的に変化する電気信号(典型的には、パルス信号)を与えることで、超音波発生部160−1は超音波を発生する。この発生した超音波は、Z軸に沿って、半導体チップおよびシステム基板130内を伝搬する。一方、超音波受信部170−1は、リード端子を通じて制御回路10の信号受信部186(図8)と接続されている。信号受信部186は、超音波受信部170−1で受信された超音波に応じた電気信号を出力する。
同様に、制御回路10の信号発生部184(図8)からリード端子を通じて、超音波発生部160−2に対して、信号強度が時間的に変化する電気信号(典型的には、パルス信号)を与えることで、超音波発生部160−2は超音波を発生する。この発生した超音波についても、Z軸に沿って、半導体チップおよびシステム基板130内を伝搬する。一方、超音波受信部170−2は、リード端子を通じて制御回路10の信号受信部186(図8)と接続されている。信号受信部186は、超音波受信部170−2で受信された超音波に応じた時間信号を出力する。
第3の実施形態に従うパワーモジュール1Bにおいては、超音波発生部160と超音波受信部170とを結ぶ超音波伝搬経路が、測定対象のシステム基板130を貫通するように、超音波発生部160および超音波受信部170が配置される。このような構成を採用することで、半導体チップの内部に生じている劣化、および、半導体チップとシステム基板130との接合面に生じている劣化などをより容易に評価できる。
図19に示すパワーモジュール1Bにおいて、超音波発生部160−1および超音波発生部160−2から同時に超音波を発生してもよいが、各半導体チップの劣化を個別に評価する場合には、超音波の発生期間が重ならないようにすることが好ましい。
超音波発生部160−1,160−2および超音波受信部170−1,170−2を半導体チップまたはシステム基板130上に接合する構成に代えて、半導体チップまたはシステム基板130の一部として形成してもよい。
さらに、第2の実施形態において説明したように、超音波素子を用いて、超音波発生部160としての機能と、超音波受信部170としての機能とを適宜入れ替えてもよい。
第3の実施形態におけるその他の構成および処理などについては、上述の第1の実施形態と同様であるので、詳細な説明は繰り返さない。
第3の実施形態に従うパワーモジュール1Bにおいては、システム基板を貫通するように超音波を伝搬させることができる。そのため、システム基板130の表面に沿って伝搬する表面波とは異なる劣化に関する情報を取得でき、評価精度を高めることができる。
[D.第4の実施形態]
上述の第3の実施形態に従う半導体装置においては、図19に示すように、システム基板130の対向するそれぞれの表面上に、超音波発生部160および超音波受信部170の対が接合されている構成について例示した。これに対して、第4の実施形態に従う半導体装置においては、システム基板130の一方面に複数の超音波発生部160を配置するとともに、システム基板130の他方面に複数の超音波受信部170が配置されている構成について説明する。
図20は、第4の実施形態に従うパワーモジュール1Cの要部のレイアウトを示す模式図である。図20を参照して、パワーモジュール1Cは、システム基板130上に接合されたIGBT140およびダイオード150を含む。半導体チップ(IGBT140およびダイオード150)の表面上に複数の超音波発生部160−1,160−2,160−3,160−4が接合されている。システム基板130の反対側の表面上には、複数の超音波受信部170−1,170−2,170−3,170−4が接続されている。これらの部材は、典型的には、チップはんだによりシステム基板130に接合される。
超音波発生部160−1〜160−4は、システム基板130の対応する対角線に沿って超音波を発生するように構成されることが好ましい。超音波受信部170−1〜170−4の各々は、対角位置にある超音波発生部160−1〜160−4からの超音波を受信するように配置される。評価対象の範囲を拡大できるように、超音波発生部160−1〜160−4および超音波受信部170−1〜170−4は、システム基板130のより外周側に配置することが好ましい。
超音波発生部160−1〜160−4および超音波受信部170−1〜170−4の各々は、図示しないリード端子を通じて、制御回路10(図3,図8など参照)と電気的に接続されている。
第4の実施形態に従うパワーモジュール1Cにおいては、超音波受信部170−1〜170−4は、システム基板130の超音波発生部160−1〜160−4が配置される面と対向する面側に配置される。このとき、システム基板130の一方面には、各々が独立して超音波を発生する複数の超音波発生部160−1〜160−4が配置されるとともに、各々が独立して超音波を受信する複数の超音波受信部170−1〜170−4が配置される。
超音波発生部160−1〜160−4と超音波受信部170−1〜170−4とを結ぶ超音波伝搬経路が、測定対象の半導体チップまたはシステム基板130を通過するように、有効化する超音波発生部160と超音波受信部170との組み合わせが適宜設定される。
制御回路10の信号発生部184(図8)からリード端子を通じて超音波発生部160−1〜160−4に対して、所定の順序に従って、信号強度が時間的に変化する電気信号(典型的には、パルス信号)を与えることで、超音波が順次発生する。発生した超音波の各々は、システム基板130の対角線に沿って、半導体チップおよびシステム基板130内を伝搬する。超音波受信部170−1〜170−4が対応する超音波発生部160からの超音波を受信すると、信号受信部186は、受信した超音波に応じた電気信号を出力する。
図20に示すように、第4の実施形態に従うパワーモジュール1Cにおいては、超音波を半導体チップおよびシステム基板130内に立体的に照射することができるので、より少ない超音波の照射回数で、半導体チップおよびシステム基板130の内部に生じている劣化を容易に評価できる。
図20には、説明の便宜上、対角位置にある超音波発生部160と超音波受信部170との組み合わせの間で超音波を照射する場合について例示するが、上述の図18(A)〜図18(C)を参照して説明したように、超音波発生部160と超音波受信部170との任意の組み合わせを用いて、超音波を照射するようにしてもよい。さらに、第2の実施形態において説明したように、超音波素子を用いて、超音波発生部160としての機能と、超音波受信部170としての機能とを適宜入れ替えるようにしてもよい。このような超音波素子を採用することで、より多くの種類の超音波伝搬経路を実現できる。
また、超音波発生部160−1〜160−4および超音波受信部170−1〜170−4を半導体チップまたはシステム基板130上に接合する構成に代えて、半導体チップまたはシステム基板130の一部として形成してもよい。
第4の実施形態におけるその他の構成および処理などについては、上述の第1の実施形態と同様であるので、詳細な説明は繰り返さない。
第4の実施形態に従うパワーモジュール1Cにおいては、超音波をモジュール内部で3次元的に伝搬させることができるとともに、複数の超音波伝搬経路を選択することができる。このような超音波伝搬経路の選択機能によって、部材間が重なっている部位、および、別の部材により隠されている部位などについても、より正確に観測することができ、評価精度を高めることができる。
また、第4の実施形態に従うパワーモジュール1Cにおいては、同一の超音波素子を、超音波発生部160または超音波受信部170として選択的に機能させることで、超音波の複数の超音波伝搬経路を形成できる。そのため、評価精度を高める一方で、付加的な超音波素子を設けることなく、よりコンパクトかつ安価な構成を実現できる。
[E.第5の実施形態]
次に、超音波発生部160および超音波受信部170として機能する超音波素子のいくつかの変形例について説明する。
図21は、超音波発生部160および超音波受信部170として機能する超音波素子の構造を示す模式図である。図21(A)を参照して、超音波素子は、圧電材料からなる基材1602と、基材1602上に対向して形成された一対のくし型電極1608,1610とからなる。図21(B)を参照して、基材1602は、Si基板1604上に圧電材料の一例であるZnOのc軸配向膜1606が製膜されたものである。基材1602上に、一対のくし型電極1608,1610が形成される。一対のくし型電極1608,1610は、リード端子164,166およびリード端子174,176(いずれも図2参照)と電気的に接続される。
図21に示す超音波素子において、外部からリード端子164,166を通じて、信号強度が時間的に変化する電気信号(典型的には、パルス信号)をくし型電極1608,1610に与えることで、基材1602はX方向に時間的に変位する。基材1602の時間的な変位(すなわち、基材1602の振動)によって、空気が励振されて超音波が発生する。この超音波は、X−Y平面に平行な平面に沿って伝搬することになる。すなわち、発生した超音波は、基板の表面上を伝搬する表面波となる。例えば、第1の実施形態に従うパワーモジュール1(図1および図2など参照)においては、図21に示す超音波素子を用いることが好適である。
図21に示すような超音波素子については、システム基板130上に接合に独立した部材として接合するのではなく、半導体チップまたはシステム基板130の一部として形成してもよい。
図22は、第5の実施形態に従うパワーモジュール1Dの要部のレイアウトを示す模式図である。図22を参照して、パワーモジュール1Dは、システム基板130上に接合されたIGBT140およびダイオード150を含む。
IGBT140は、その露出面に、エミッタ電極140Eおよびコレクタ電極140Cが形成されている。IGBT140の一部として、超音波発生部160が形成されている。ダイオード150は、その露出面に、アノード電極150Aが形成されている。ダイオード150の一部として、超音波受信部170が形成されている。
超音波発生部160は、IGBT140の電極が形成されていないSi基板上に、ZnOのc軸配向膜を製膜し、その上で一対のくし型電極を形成したものである。すなわち、超音波発生部160の基材は、IGBT140(半導体チップ)の基板の所定領域に形成される。図22に示す超音波発生部160の構造は、図21に示す構造同様であるので、詳細な説明は繰り返さない。
同様に、超音波受信部170は、ダイオード150の電極が形成されていないSi基板上に、ZnOのc軸配向膜を製膜し、その上で一対のくし型電極を形成したものである。すなわち、超音波受信部170の基材は、ダイオード150(半導体チップ)の基板の所定領域に形成される。図22に示す超音波発生部160および超音波受信部170は、表面波型の超音波発生部および超音波受信部となる。
第5の実施形態におけるその他の構成および処理などについては、上述の第1の実施形態と同様であるので、詳細な説明は繰り返さない。
第5の実施形態に従うパワーモジュール1Dにおいては、半導体チップ自体が超音波発生部を有しているため、システム基板130の表面を伝搬する超音波を効率的に入力できる。
また、第5の実施形態に従うパワーモジュール1Dにおいては、超音波発生部160および超音波受信部170を独立して配置する必要がないので、パワーモジュール1Dの構成をよりコンパクトにできる。
[F.第6の実施形態]
次に、表面波型の超音波素子以外の構成例について説明する。より具体的には、振動膜を用いて超音波を発生する超音波素子を採用する構成について説明する。
図23は、第6の実施形態に従うパワーモジュールに配置される超音波素子160Eの構造を示す模式図である。超音波素子160Eは、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)チップを用いて振動を発生させる。図23を参照して、超音波素子160Eは、システム基板130上に接合された基材1612,1614と、基材1612,1614上に形成されたMEMSチップ1622,1624と、MEMSチップ1622,1624と電気的に接続された電極層1616,1618とを含む。電極層1616,1618には、パワーモジュール1の外部に露出するリード端子164,166が電気的に接続されている。MEMSチップ1622,1624には、振動膜1620が機械的に接続されている。MEMSチップ1622,1624は、リード端子164,166と電気的に接続され、電気信号によって機械的な変位を生じる電気機械変換素子に相当する。
外部からリード端子164,166を通じて、信号強度が時間的に変化する電気信号(典型的には、パルス信号)を与えることで、MEMSチップ1622とMEMSチップ1624との間の相対関係が時間的に変化する。この相対関係の時間的変化に伴って、振動膜1620がZ軸方向に振動することになる。この振動膜1620のZ軸方向に沿った振動によって、空気が励振されて超音波が発生する。発生した超音波は、Z軸方向に沿って伝搬する。すなわち、電気機械変換素子であるMEMSチップ1622,1624と機械的に接続された振動膜1620が振動することで、超音波が発生する。
システム基板130上の振動膜1620に対応する位置には、音響プリズム1626が設けられている。音響プリズム1626は、Z軸方向に伝搬する超音波が入射すると、その伝搬方向をX−Y平面方向に変化させる。音響プリズム1626の位置に対応付けて、基材1614の一部に切欠部1628が設けられており、振動膜1620で発生した超音波は、基材1614の内部を通過して紙面右側へ出射することになる。この結果、超音波素子160Eが発生する超音波は、表面波としてシステム基板130の表面を伝搬することになる。このような表面波として伝搬する超音波を用いることで、上述のような超音波測定を実現できる。
超音波素子160Eは、超音波と電気信号との間を相互に変換する素子である。そのため、超音波素子160Eは、超音波が入射すると、その入射した超音波に応じた電気信号を発生することになる。すなわち、超音波素子160Eについては、超音波発生部160および超音波受信部170のいずれとしても用いることができる。
なお、図19に示す第3の実施形態に従うパワーモジュール1B、または、図20に示す第4の実施形態に従うパワーモジュール1Cに実装される、超音波発生部160および超音波受信部170では、パワーモジュール内部を伝搬する超音波を発生させる必要がある。このような構成においては、超音波素子160Eを構成する音響プリズム1626を除してもよい。この場合には、振動膜1620で発生した超音波は、Z軸方向に沿って伝搬することになる。
第6の実施形態におけるその他の構成および処理などについては、上述の第1の実施形態と同様であるので、詳細な説明は繰り返さない。
第6の実施形態に従うパワーモジュールにおいては、電気機械変換素子の一例であるMEMSチップを適切に設計することで、発生する超音波の特性(例えば、周波数帯域、強度、時間波形など)を比較的高い自由度で設計できるので、超音波測定および劣化評価をより効率的に行なうことができる。
[G.第7の実施形態]
次に、MEMSチップ自体が超音波を発生する構成について説明する。図24は、第7の実施形態に従うパワーモジュールに配置される超音波素子160Fの構造を示す模式図である。
図24を参照して、超音波素子160Fは、システム基板130上に接合されたMEMSチップ1632,1634と、MEMSチップ1632,1634と電気的に接続された電極層1636,1638とを含む。電極層1636,1638には、パワーモジュール1の外部に露出するリード端子164,166が電気的に接続されている。
外部からリード端子164,166を通じて、信号強度が時間的に変化する電気信号(典型的には、パルス信号)を与えることで、MEMSチップ1632とMEMSチップ1634との間の距離がX−Y平面に沿って時間的に変化する。MEMSチップ1632,1634は、リード端子164,166と電気的に接続され、電気信号によって機械的な変位を生じる電気機械変換素子に相当する。
なお、MEMSチップ1632については、MEMSチップ1634に比較してより強固にシステム基板130へ接合することで、MEMSチップ1634の変位量がより大きくなるように構成する。
この相対関係の時間的変化に伴って、MEMSチップ1634がX−Y平面に沿って振動することになる。このMEMSチップ1634の振動によって、空気が励振されて超音波が発生する。すなわち、電気機械変換素子であるMEMSチップ1632,1634そのものが振動することで、超音波が発生する。発生した超音波は、X−Y平面に沿って伝搬することになる。この結果、超音波素子160Fが発生する超音波は、表面波としてシステム基板130の表面を伝搬することになる。このような表面波として伝搬する超音波を用いることで、上述のような超音波測定を実現できる。
超音波素子160Fは、超音波と電気信号との間を相互に変換する素子である。そのため、超音波素子160Fは、超音波が入射すると、その入射した超音波に応じた電気信号を発生することになる。すなわち、超音波素子160Fについては、超音波発生部160および超音波受信部170のいずれとしても用いることができる。
第7の実施形態におけるその他の構成および処理などについては、上述の第1の実施形態と同様であるので、詳細な説明は繰り返さない。
第7の実施形態に従うパワーモジュールにおいては、電気機械変換素子の一例であるMEMSチップを適切に設計することで、発生する超音波の特性(例えば、周波数帯域、強度、時間波形など)を比較的高い自由度で設計できるので、超音波測定および劣化評価をより効率的に行なうことができる。
また、第7の実施形態に従うパワーモジュールにおいては、MEMSチップ自体の振動によって超音波を発生するので、上述の第6の実施形態において説明した振動膜を用いる構成に比較して、パワーモジュールの構成をよりコンパクトにできる。
[H.第8の実施形態]
上述の実施形態においては、超音波素子を用いて超音波を発生する構成について例示した。これに代えて、半導体チップ自体で超音波を発生するようにしてもよい。
例えば、スイッチング素子であるIGBT140での発熱による膨張収縮を用いて、半導体チップ内に振動を生じさせてもよい。より具体的には、外部からIGBT140のゲート電極140Gに対して、パルス状のオン/オフ信号を与えることで、IGBT140の主回路には、電流がパルス状に流れることになる。この主回路に流れるパルス状の電流によって、IGBT140内ではパルス的に発熱が生じる。このような温度の上下によって、IGBT140の発熱部は、加熱による膨張と冷却による収縮とを起こすことになる。IGBT140の時間的な変位によって、半導体チップ自体が励振されて超音波が発生する。このようなIGBT140で発生する超音波を用いて、上述したような超音波測定を行なうことができる。このように、IGBT140を超音波の発生源とすることができる。すなわち、第8の実施形態に従うパワーモジュールにおいては、超音波発生部として、半導体チップでのパルス的な発熱による膨張収縮を用いて超音波を発生する機構を有する。
なお、IGBT140に加えて、ダイオード150での発熱を利用して、超音波を発生するようにしてもよい。
第8の実施形態におけるその他の構成および処理などについては、上述の第1の実施形態と同様であるので、詳細な説明は繰り返さない。
第8の実施形態に従うパワーモジュールによれば、半導体チップとは別に超音波素子を設ける構成に比較して、実装に必要な面積を減少させることができ、かつ、独立した超音波素子の製造コストを低減できる。そのため、実使用中での劣化評価を行なうことはできないが、よりコンパクトかつ安価な構成を実現できる。
[I.第9の実施形態]
上述の第1の実施形態においては、システムを制御する制御回路10内に、パワーモジュール1の内部の劣化を評価する機能を実装した構成について例示した。これに対して、第9の実施形態においては、超音波発生部160および超音波受信部170が内蔵されたパワーモジュールに対して情報処理装置を外部接続し、当該情報処理装置で劣化を評価する構成について例示する。
図25は、第9の実施形態に従う劣化評価システム250の構成を示す模式図である。図26は、第9の実施形態に従う情報処理装置の使用例を示す模式図である。
図25を参照して、第9の実施形態に従う劣化評価システム250は、パワーモジュール1(半導体装置)を含むシステムユニット50と、測定補助回路60と、情報処理装置70とを含む。
システムユニット50は、例えば、第1の実施形態に従うパワーモジュール1を6つ配置したインバータとして機能する。システムユニット50の入力端子51,52を通じて、所定の電圧値を有する直流電力が供給され、直流母線6と直流母線8との間に電気的に接続されたパワーモジュール1−1〜1−6によって、三相交流電力に変換される。この変換後の三相交流電力は、出力端子群54を通じて、駆動対象の外部装置(例えば、モータ)へ供給される。
パワーモジュール1−1〜1−6の各々には、上述したような超音波測定を実現するための超音波発生部160および超音波受信部170が設けられている。システムユニット50は、超音波発生部160および超音波受信部170と外部装置とを電気的に接続されるための測定用インターフェイス56を含む。測定用インターフェイス56は、超音波発生部160および超音波受信部170とリード端子を通じて電気的に接続された測定用端子群58を含む。
測定補助回路60は、超音波の発生および受信に係る回路を含む。測定補助回路60は、その先端に接続プラグ64が設けられた測定用コードを有している。パワーモジュール1−1〜1−6のいずれかについて劣化を評価する際には、測定用インターフェイス56に含まれる測定用端子群58のうち対応する測定用端子に接続プラグ64を接続する。すると、測定補助回路60から接続プラグ64を通じて、超音波発生部160に対して電気信号が与えられるとともに、超音波受信部170からの電気信号が受信される。
測定補助回路60は、信号発生部184と、信号発生制御部182と、インターフェイス回路62と、信号受信部186と、信号処理部188とを含む。信号発生部184、信号発生制御部182、信号受信部186、および、信号処理部188の機能については、図8に示す対応する部材と同様であるので、詳細な説明は繰り返さない。インターフェイス回路62は、信号発生制御部182および信号処理部188と情報処理装置70との間で信号を遣り取りするための回路である。
情報処理装置70は、上述したような超音波を用いたパワーモジュール1の劣化評価処理を実行する処理主体である。情報処理装置70は、典型的には、汎用のパーソナルコンピュータに処理プログラム78をインストールすることで実現される。
より具体的には、情報処理装置70は、プロセッサ72と、メモリ74と、処理プログラム78およびOS(Operating System)などを格納するハードディスク76と、表示部80と、入力部82と、通信インターフェイス84と、光学ドライブ86とを含む。
プロセッサ72は、CPU(Central Processing Unit)などからなる。メモリ74は、プロセッサ72でのプログラムの実行に必要なワークデータなどを一時的に格納する。表示部80は、典型的には、ディスプレイなどからなり、劣化評価の結果などをユーザなどへ出力する。入力部82は、典型的には、キーボード、マウス、タッチパネルなどからなり、ユーザなどからの指示を受付ける。通信インターフェイス84は、測定補助回路60との間で信号を遣り取りするための回路を含む。光学ドライブ86は、光学ディスク88などの記録媒体に格納された各種プログラム(処理プログラム78を含み得る)などのデータを読み取って、ハードディスク76に格納する。
但し、劣化評価処理を実行する専用装置として実現してもよい。さらに、情報処理装置70が有する機能の一部または全部をハードウェア(典型的には、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)など)により実現してもよい。
典型的な使用態様を想定すると、例えば、測定補助回路60および情報処理装置70をパワーモジュールが組み込まれたシステム(図25のシステムユニット50に対応)の近傍に配置するとともに、評価対象のパワーモジュール1内の超音波発生部160および超音波受信部170と電気的に接続する。この状態で劣化診断を開始する。
例えば、図26に示すように、電車の床下機器300の保守ハッチを開けて、測定補助回路60および情報処理装置70を接続し、劣化診断をすることが可能である。
図25および図26には、測定補助回路60および情報処理装置70を別体の構成として説明したが、測定補助回路60および情報処理装置70を一体的に構成してもよい。
図25には、説明の便宜上、複数のパワーモジュール1で構成されたシステムユニット50について例示したが、システムユニット50に含まれる半導体チップ(IGBT140およびダイオード150など)のすべてを単一のシステム基板上に実装し、全体を単一のパワーモジュールとして構成してもよい。この場合には、一部の半導体チップのみを交換等することができないので、すべての半導体チップの劣化を診断するのではなく、特定の半導体チップ(例えば、レイアウト的に最も熱負荷の高い半導体チップなど)についてのみ、超音波を用いた劣化評価を行なうようにしてもよい。
第9の実施形態におけるその他の構成および処理などについては、上述の第1の実施形態と同様であるので、詳細な説明は繰り返さない。
第9の実施形態に従う劣化評価システム250によれば、パワーモジュール1を取り外すことができないようなシステムユニット50に対しても、内部の劣化を容易に評価することができる。可搬式の測定補助回路60および情報処理装置70を採用することで、1つの測定システムを用いて、複数のシステムユニット50に対して、劣化の評価を行なうことができ、保守費用を低減することができる。
[J.第10の実施形態]
上述の第1の実施形態においては、システムを制御する制御回路10内に、パワーモジュール1の内部の劣化を評価する機能を実装した構成について例示した。これに対して、スイッチング動作を実現するための半導体チップに加えて、各種の制御機能を単一のモジュールに組み込んで高機能化したパワーモジュールとして実装してもよい。第10の実施形態においては、このような高機能化したパワーモジュール(以下、「IPM(Intelligent Power Module)」とも称す。)として実装した構成について例示する。
図27は、第10の実施形態に従うIPM400の機能構成を示す模式図である。図27を参照して、IPM400は、半導体装置を含むシステムの一例であり、主回路部402と、主制御部404と、劣化評価回路部406とを含む。主回路部402については、上述の図1および図2に示すのと同様の構造でパッケージ化される。主制御部404および劣化評価回路部406については、1つまたは複数のIC(Integrated Circuit)を用いて実装される。
図27には、説明の便宜上、機能別のブロックで模式的に表現しているが、IPM400を構成する1または複数のICの内部では、これらの機能が必ずしも明示的に区別されているわけではない。このような実装形態であっても、本願発明の技術的範囲に含まれ得る。
主回路部402は、直流電力を三相交流電力に変換するインバータ動作を行なう。より具体的には、主回路部402は、3相の正側および負側のそれぞれに対応付けられた6つのIGBT140−1〜140−6、およびそれぞれのIGBT140に対応するダイオード150−1〜150−6を含む。これらの半導体チップは、典型的には、システム基板(図1および図2など参照)上に配置される。主回路部402は、さらに、IGBT140−1〜140−6のゲートにゲート制御電圧を印加するためのゲート駆動回路42−1〜42−6を含む。
主回路部402に含まれる複数の半導体チップのうち、一部の半導体チップについてのみ、超音波測定が可能になっている。すなわち、IGBT140−1およびダイオード150−1に近接して、超音波発生部160と超音波受信部170とのセットが配置されている。このとき、超音波発生部160と超音波受信部170とを結ぶ超音波伝搬経路上に、IGBT140−1およびダイオード150−1の少なくとも一部が存在するように、超音波発生部160および超音波受信部170が配置される。
IPM400においては、3相分の半導体チップが単一のパワーモジュールとして構成されており、一部の半導体チップのみを交換等することができないので、すべての半導体チップの劣化を診断するのではなく、特定の半導体チップ(例えば、レイアウト的に最も熱負荷の高い半導体チップなど)についてのみ、超音波を用いた劣化評価を行なうようになっている。但し、信頼性を高めるために、すべてのパワーモジュールについて、劣化評価を行なえるようにしてもよい。
主制御部404は、ゲート制御部196および回路保護部198を含む。ゲート制御部196および回路保護部198の機能については、図8に示すゲート制御部196および回路保護部198の機能とそれぞれ同様であるので、詳細な説明は繰り返さない。
劣化評価回路部406は、評価制御部180と、信号発生制御部182と、信号発生部184と、信号受信部186と、信号処理部188と、記録部190と、入力部192と、出力表示部194とを含む。信号発生部184は、超音波発生部160と電気的に接続され、信号受信部186は、超音波受信部170と電気的に接続されている。これらの各部の機能については、図8に示す対応する部材の機能とそれぞれ同様であるので、詳細な説明は繰り返さない。
パワーモジュール1には、外部機器または外部装置が、主回路部402、主制御部404、劣化評価回路部406のいずれかと、電力または電気信号などを遣り取りできるように、端子が設けられている。例えば、劣化評価回路部406は、汎用のパーソナルコンピュータなどと接続され、ユーザ(保守担当者など)は、汎用のパーソナルコンピュータを用いて劣化評価回路部406で算出される評価結果を確認することができる。
例えば、劣化評価回路部406の内部または外部に通信モジュールを配置することで、保守担当者などが保持する携帯端末に評価結果を適宜送信するようにしてもよい。また、第10の実施形態に従うIPM400では、作動中であっても超音波測定が可能であるので、例えば、作動中の予め定められた条件が満たされたときに、劣化を評価し、その結果を携帯端末などへ送信するようにしてもよい。
図27に示すIPM400では、典型的には、主回路部402と、主制御部404と、劣化評価回路部406がパッケージ部材によりパッケージ化されている。その上で、劣化評価回路部406との間で情報を遣り取りするための端子がパッケージ部材から露出するように設けられている。但し、主回路部402と劣化評価回路部406とをパッケージ化して、主制御部404に相当する機能を集中管理するようにしてもよい。この場合には、主回路部402のゲート駆動回路42−1〜42−6についても、外部に配置してもよい。
いずれの部位を単一のパワーモジュールとしてパッケージ化するかについては、用途や設置環境などに応じて、適宜設計される事項である。すなわち、図27に示すIPM400の構成例はあくまでも一例であり、図27に示す制御機能の一部をIPM400の外部に設けるような変形も可能である。逆に、より高機能化するための制御ロジックなどをIPM400に組み込むような変形を行なってもよい。
第10の実施形態におけるその他の構成および処理などについては、上述の第1の実施形態と同様であるので、詳細な説明は繰り返さない。
第10の実施形態に従うIPM400によれば、上述した劣化評価方法を実現するための機能を含む単一のパワーモジュールが提供される。そのため、測定対象についての劣化評価を定期的または何らかのイベント発生時に自動的に実行させることができる。その上で、その評価結果を自動的に出力することも可能である。この出力としては、推定された残り寿命などが短くなった場合などに、警告メッセージを出力し、故障が発生する前に交換時期などを通知することができる。
第10の実施形態に従うIPM400によれば、劣化評価方法をソフトウエア化して、予めインストールしておくこともできる。そのため、IPM400の使用先(用途)に応じて、診断ロジックおよび各種設定値を最適化することができる。このような高機能化されたIPM400を用いることで、信頼性を向上させることができるとともに、保守費用などの運用コストを低減できる。
[K.第11の実施形態]
第1の実施形態において、図13〜図16などを参照して説明したように、超音波を用いてパワーモジュール1の劣化を評価する場合には、基準信号強度(基準レベル)および判定しきい値(警告レベル)を、パワーモジュールの種別および製品用途などに応じて、最適化することが好ましい。第11の実施形態においては、超音波を用いた劣化評価に係る、パワーモジュールのメーカおよびユーザの処理手順について説明する。
図28は、第11の実施形態に従うパワーモジュールのメーカおよびユーザの間のスキームを示すフローチャートである。図28を参照して、超音波を用いた劣化評価を実現するために、メーカ側では、製品の出荷前にステップS10,S20,S30の処理を実行するとともに、ユーザ側では、取得した製品の使用時にステップS40の処理を実行する。さらに、メーカ側では、ユーザ側から回収できた製品については、ステップS50の処理を実行してもよい。このような一連の処理を繰り返すことで、超音波を用いた劣化評価の信頼性を向上させることができる。図28を参照して、より具体的な手順について説明する。
ステップS10において、メーカ側では、パワーモジュール1の劣化特性(実験室系)を取得する。測定対象のパワーモジュール1と同種のパワーモジュール1に対して加速寿命試験を行なうことで、設定値を取得する処理が実施される。この加速寿命試験については、専用の試験装置を用いて実施されてもよい。具体的には、加速寿命試験(パワーサイクル試験)を行なって、初期状態および劣化後のそれぞれについて、電気的特性および超音波の測定結果を取得する。上述の図6および図7に示すように、ストレスサイクル数の別に、電気的特性および超音波の測定結果を取得する必要がある。そのため、加速寿命試験において、所定数のストレスサイクル数を与える毎に、試験対象のパワーモジュール1の電気的特性(エミッタ−コレクタ間電圧Vce(オン状態)および熱抵抗の大きさなど)を測定するともに、内部で超音波を発生したときの測定結果を取得する。言い換えれば、電気的特性の測定および超音波測定が繰り返される。
ステップS10の加速寿命試験においては、試験対象のパワーモジュール1の用途毎に代表的な試験条件が設定される。例えば、空調管理下で運転されることが想定されている用途と、屋外で使用されることが想定されている用途とでは、加速寿命試験における温度条件などが変更される。
このような加速寿命試験の試験結果に基づいて、電気的特性劣化に応じた、超音波特性(典型的には、周波数スペクトルまたは特定周波数成分)の変化が把握される。そして、電気的特性劣化と超音波特性の変化との関係に基づいて、ステップS20において、データベースが作成される。すなわち、ステップS20では、ステップS10の加速寿命試験において測定された電気的特性の測定および超音波測定の結果に基づいて、基準信号強度(基準レベル)、判定しきい値(警告レベル)、平均寿命などを含むデータベースが作成される。このデータベースについても、用途毎に作成される。すなわち、劣化モードと超音波特性の変化との関係を示すデータが用途毎に蓄積される。
ステップS30において、パワーモジュール1の劣化を評価するための各種設定値の決定を含む、製品設計が行なわれる。メーカの設計者は、ステップS10およびS20の手順によって蓄積されたデータベースを参照して、用途毎に、製品設計を行なう。この製品設計には、パワーモジュール1の劣化をモニタリングする方法(モニタリング方法)、劣化評価に用いる基準信号強度(基準レベル)の決定、判定しきい値(警告レベル)の設定、インターフェイスの設定などを含む。インターフェイスの設定は、例えば、図17に示すようなユーザインターフェイス画面に表示する項目およびメッセージの内容などを決定する処理を含む。ステップS30での製品設計が完了すると、その設計値に従って、製品が製造および組み立てられて、ユーザへ出荷される。
ユーザ側で出荷された製品の運転中(実使用中)には、周期的または所定イベント毎に、パワーモジュール1での超音波測定が実施される(ステップS40)。超音波測定の測定結果が警告レベルと比較され、当該測定結果が警告レベルを超過すると、すなわち残り寿命が短くなると、ユーザには警告が通知される。説明の便宜上、ステップS40には、警告を通知する処理のみを開示するが、上述したように、ステップS40においては、図9に示すステップS100〜S114の処理が実行される。必要に応じて、残り寿命をユーザへ通知するような処理が実行されてもよい。
製品の使用に伴う何らかの劣化によって、製品の交換または修理などが実施されると、メーカ側では、そのユーザ側から回収した劣化後の製品の状態を分析する。そして、ステップS20において作成されているデータベースの内容と比較して、かい離がある場合には、データベースの内容を更新する(ステップS50)。このようなフィードバック改善を実行することで、より精度の高いデータベースを構築できる。
図28に示すスキームを実施した場合には、ユーザ側が更新後のデータベースに対して容易にアクセスできるようなネットワークシステムを実現することが好ましい。以下、このようなネットワークシステムの一例について説明する。
図29は、図28に示すスキームを実現するためのネットワークシステムの一例を示す模式図である。図29を参照して、第11の実施形態に従うネットワークシステム500は、メーカ側に設置されたデータベース510、および、データベース510にネットワーク520を介して接続されたクライエント装置530−1,530−2,…,530−Nを含む。
メーカ側の設計部門の担当者は、上述したような加速寿命試験によって取得された試験データ(図28のステップS10)、および、製品設計によって取得された製品設計データ(図28のステップS30)を用いて、データベース510が構築される。各ユーザが使用している製品に応じて、データベース510からユーザ側に配置されたクライエント装置530−1,530−2,…,530−Nに対して、必要なデータが送信または配信される。このデータの送信または配信の手法はいずれでもよいが、例えば、メーカと保守契約を結んでいるユーザのみがアクセスできるサイトがメーカ側に用意されており、各ユーザが当該サイトにアクセスすることで、保守契約の対象となっている製品に対応するデータが自動的にダウンロードされるようにしてもよい。
さらに、メーカ側の保守部門の担当者は、ユーザ側から回収した製品の状態を分析し、それによって得られた故障解析データでデータベース510を更新してもよい。
第11の実施形態に従うネットワークシステム500によれば、実験室系の加速寿命試験で取得されたデータに加えて、実際に使用されて劣化した装置から取得されたデータを反映して、必要なデータを常に最新に維持することができる。また、各ユーザは、常に最新のデータを利用することができる。これによって、劣化評価の信頼性を高めることができるとともに、保守費用などの運用コストを一層低減できる。
[L.まとめ]
上述した実施形態によれば、半導体チップを含むパワーモジュール内部で生じる劣化、特に、温度上昇と下降(加熱と冷却)の繰り返しによる熱的疲労によって生じる、半導体チップとボンディングワイヤとの接合部における剥離などの劣化を、初期状態であっても精度よくモニタリングできる。
上述した実施形態によれば、実使用状態(すなわち、オンライン)で、劣化状況をモニタリングでき、かつ、必要に応じて残り寿命の推定値(定量値)を得ることもできるので、より信頼性を高めた半導体装置を実現できる。これにより、パワーモジュールの運用中に、不意の故障によるシステムトラブルを未然に防止できる。さらに、パワーモジュールを組み込まれたシステム全体の信頼性を向上させるとともに、運用コストを低減できる。
本発明は、特許請求の範囲に記載された範囲内において、複数の実施形態の任意の組み合わせ、いずれかの実施形態に含まれる任意の構成要素の変形、あるいは、いずれかの実施形態に含まれる任意の構成要素の省略が可能である。
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。