JP6347734B2 - 茶由来シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤 - Google Patents

茶由来シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤 Download PDF

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Description

本発明は、茶由来シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤、シクロオキシゲナーゼ−2阻害活性が亢進した茶飲料、及びそれらの製造方法に関する。
茶葉を熱水抽出して得られる茶飲料は、種々の効用に優れる嗜好飲料である。例えば、緑茶から得られる緑茶飲料には抗菌・抗ウィルス作用、血圧降下作用、血中コレステロール低下作用、抗アレルギー作用、及び癌予防作用等があり、恒常的に緑茶飲料を摂取することで感染症、高血圧、動脈硬化、アレルギー、癌等に対する予防効果が得られることが期待されている(非特許文献1参照)。
茶飲料が奏する効用は、主として該飲料中に含まれる茶ポリフェノールに由来すると考えられている。茶ポリフェノールの代表は、カテキン及びその誘導体である。生茶葉に元来含まれるカテキン類としては、(-)-エピガロカテキンガレート、(-)-エピカテキンガレート、(-)-エピガロカテキン、(-)-エピカテキン、(-)-ガロカテキンガレート、(-)-カテキンガレート、(±)-ガロカテキン、(±)-カテキン等が知られている。また、生茶葉を加工する工程(例えば、紅茶やウーロン茶等を製造する発酵工程)で前記カテキン類が酸化重合して生じるテアシネンシン類、テアフラビン類、テアフラガリン類も、代表的な茶ポリフェノールである(非特許文献1参照)。
緑茶飲料摂取によって予防効果が期待される前記疾患では、近年、シクロオキシゲナーゼ-2(cyclooxygenase-2、以降COX-2と略記する場合がある)の関与が非常に注目されている。COX-2は、アラキドン酸からプロスタグランジンG2(Prostaglandin G2、以降PGG2と略記)及びプロスタグランジンH2(Prostaglandin H2、以降PGH2と略記)を産生するシクロオキシゲナーゼ(Cyclooxygenase;EC1.14.99.1)のアイソザイムの一つで、サイトカイン、増殖因子、発ガンプロモーター、エンドトキシン等によって発現誘導されるという特徴を有する。例えば、COX-2の活性阻害剤であるセレコキシブ(商品名:セレコックス)及びロフェコキシブ(商品名:ビオックス)は、大腸癌の臨床試験において腫瘍抑制効果(セレコキシブ)及び腺腫再発抑制効果(セレコキシブ、ロフェコキシブ)が認められており、COX-2阻害剤の癌予防・治療への応用が期待されている。
しかしながら、セレコキシブ、ロフェコキシブはいずれも心血管イベントを増大させることが報告されたため、適応拡大を目指した大規模トライアルは中断され、ロフェコキシブは米国では発売中止となった。そこで、副作用の少ないCOX-2阻害剤を得るために、天然物、好ましくは既に常用されている飲食材を用いて新たなCOX-2阻害活性成分の探索が行われている。
茶飲料については、これまで、(-)-エピガロカテキンガレート(非特許文献2)、(+)-カテキン及び(+)-ガロカテキン(非特許文献3)がCOX-2阻害活性を有することが明らかにされた。また、茶葉より単離したプロデルフィニジンB-2,3’-O-ガレート(エピカテキン重合体)とテアシネンシンEに、LPS刺激後のマウスマクロファージ様細胞におけるPGE2産生を抑制する効果があることも報告されている(特許文献1)。そして、特許文献2では、テアフラビン又はその誘導体から生じるエピテアフラガリン3-O-ガレート或いはプルプロガリンを有効成分とするCOX-2阻害剤が示されている。
しかしながら、前記茶カテキン類のCOX-2阻害活性は決して高いとはいえず、通常の方法で製造された茶飲料を摂取することで十分なCOX-2阻害効果を得ることは困難と思われる。そこで、特許文献3では、緑茶葉の温水抽出物からカテキン類の生理活性を増強する組成物を分離し、カテキンとともに摂取することで該生理活性を亢進する方法を示しているが、COX-2阻害活性については検討されていない。
このような事情から、茶に由来する新たなCOX-2阻害剤と、茶飲料のCOX-2阻害活性を亢進させる方法が求められていた。
特開2007−330190号公報 特許第5424424号公報 特開2002−220340号公報 特開2007−330190号公報
伊奈和夫、坂田完三編、緑茶・中国茶・紅茶の化学と機能、株式会社アイケイ・コーポレーション出版、2007年 Hussain T., et al, Int. J. Cancer, 113:660-669, 2005 Noreen Y., et al, Planta Med., 64:520-524, 1998 阿南豊正、中川致之、茶期・熟度による脂質含量および脂肪酸組成の変化、茶業技術研究、第53号、第82−87頁、1977年 Sato I., et al, J., Vet. Med. Sci., 69(7):709-712, 2007
本発明は前記従来技術が抱える問題を鑑みてなされたものであり、茶に由来する新たなCOX-2阻害剤とCOX-2阻害活性が亢進した茶飲料、並びにそれらの製造方法を提供することを目的とする。
前記目的を達成するために本発明者が鋭意検討を行った結果、茶葉を、pH12.5以上の水性溶媒を用いて40℃以上100℃以下で抽出することにより、COX-2阻害活性が飛躍的に亢進した茶飲料が得られることを見出した。さらに、当該抽出工程において産生されるヒドロキシオクタデカジエン酸及びヒドロキシオクタデカトリエン酸に優れたCOX-2阻害活性があることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] ヒドロキシオクタデカジエン酸及び/又はヒドロキシオクタデカトリエン酸を有効成分として含むシクロオキシゲナーゼ−2阻害剤。
[2] 前記ヒドロキシオクタデカジエン酸が、(10E,12E)-9-ヒドロキシ-10,12-オクタデカジエン酸、(9E,11E)-13-ヒドロキシ-9,11-オクタデカジエン酸、(10E,12Z)-9-ヒドロキシ-10,12-オクタデカジエン酸、又は(9Z,11E)-13-ヒドロキシ-9,11-オクタデカジエン酸、或いはこれらの1以上の混合物である、[1]に記載のシクロオキシゲナーゼ−2阻害剤。
[3] 前記ヒドロキシオクタデカトリエン酸が、(10E,12Z,15Z)-9-ヒドロキシ-10,12,15-オクタデカトリエン酸である、[1]に記載のシクロオキシゲナーゼ−2阻害剤。
[4] 前記[1]−[3]のいずれかに記載のシクロオキシゲナーゼ−2阻害剤を含有する食品。
[5]前記[1]−[3]のいずれかに記載のシクロオキシゲナーゼ−2阻害剤を含有する茶飲料。
[6]前記[1]−[3]のいずれかに記載のシクロオキシゲナーゼ−2阻害剤を含有する医薬部外品。
[7] 茶葉を、40−100℃に保温したpH12.5以上の水性溶媒中で抽出する工程を含む、茶葉からシクロオキシゲナーゼ−2阻害剤を製造する方法。
[8] 茶葉を、40−100℃に保温したpH12.5以上の水性溶媒中で抽出する工程を含む、茶葉からシクロオキシゲナーゼ−2阻害活性が亢進した茶飲料を製造する方法。
[9] 前記茶葉が、pH12.0以下の水性溶媒で加熱抽出された茶葉である、前記[7]又は[8]に記載の方法。
本発明により、新規COX-2阻害剤とCOX-2阻害活性が亢進した茶飲料、並びにそれらを茶葉から簡便に製造する方法が提供される。さらに、当該COX-2阻害剤を配合した食品及び医薬部外品が提供される。
緑茶用茶葉のアルカリ性抽出物(実施例14)に対し各種クロマトグラフィーを行って得た分画5について、逆相クロマトグラフィーで展開したHPLCチャートを示す(試験例5)。 緑茶用茶葉のアルカリ性抽出物(実施例14)に対し各種クロマトグラフィーを行って得た分画6について、逆相クロマトグラフィーで展開したHPLCチャートを示す(試験例5)。
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本書では、ハイフンを用いて数値範囲を表す場合、該ハイフンの前後の数値を含むものとする。例えば、“40−100℃”という記載は、“40℃以上100℃以下”の意である。
<シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)阻害剤>
本発明におけるCOX-2阻害剤は、COX-2が有する酵素活性、すなわち、脂肪酸シクロオキシダーゼ活性及びヒドロペルオキシダーセ活性の少なくとも1以上の活性を阻害し得る化合物を指す。広義のCOX-2阻害剤としてCOX-2の転写誘導を阻害し得る化合物を含める場合が知られるが、本書におけるCOX-2阻害剤は当該酵素活性の阻害剤を意味する。なお、当該COX-2阻害活性は、市販のキット(例として、COX Inhibitor Screening Assay Kit(Cayman Chemical社製))を用いて簡便且つ高感度に評価することが可能である。
本発明のCOX-2阻害剤は、ヒドロキシオクタデカジエン酸及び/又はヒドロキシオクタデカトリエン酸を有効成分として含むことを特徴とする。これらの水酸化不飽和脂肪酸は、生体内では各々リノール酸又はα−リノレン酸の酸化により生じ得ることが知られているが、茶葉の成分として報告されたことはない。また、ヒドロキシオクタデカジエン酸及びヒドロキシオクタデカトリエン酸が顕著なCOX-2阻害活性を有することも、本発明者によって初めて明らかにされた事実である。以下に、これらの成分について詳述する。
・ヒドロキシオクタデカジエン酸
ヒドロキシオクタデカジエン酸には複数の立体異性体が存在し得るが、生体内でリノール酸がフリーラジカル又は酵素によって酸化された場合には、9位又は13位に水酸基を有する4種類の異性体(化合物1:(10E,12Z)-9-ヒドロキシ-10,12-オクタデカジエン酸)、化合物2:(9Z,11E)-13-ヒドロキシ-9,11-オクタデカジエン酸)、化合物3:(10E,12E)-9-ヒドロキシ-10,12-オクタデカジエン酸)、化合物4:(9E,11E)-13-ヒドロキシ-9,11-オクタデカジエン酸)が生じる。各々の異性体の化学式を以下に示す(化1−4)。
これらの異性体は、さらに当該二重結合の立体配置によって、2つの二重結合がcis位とtrans位である異性体(化合物1及び2)と、2つともcis位である異性体(化合物3及び4)に分けられる。化合物1と2は酸性溶液中で互変異性を示し、ほぼ1:1のモル比で存在することが知られている。同様に、化合物3と4も互変異性により、酸性溶液中ではほぼ1:1のモル比で存在する。
本発明に係るCOX-2阻害剤に有効成分として含まれるヒドロキシオクタデカジエン酸は、上記4種類の立体異性体のいずれでもよく、また、これらの立体異性体の混合物であってもよいが、化合物3及び/又は化合物4を含むと一層好ましい。前記二重結合が2つともcis位である異性体(化合物3及び4)の方が、前記二重結合がcis位とtrans位である異性体(化合物1及び2)よりも、COX-2阻害活性が一段と高いからである。
なお、上記すべての化合物には(R)体と(S)体の光学異性体が存在し得るが、本発明のCOX-2阻害剤に含まれるヒドロキシオクタデカジエン酸は(R)体と(S)体のいずれでもよく、また、両者の混合物でもよい。
・ヒドロキシオクタデカトリエン酸
α−リノレン酸から生じ得るヒドロキシオクタデカトリエン酸としては、(10E,12Z,15Z)-9-ヒドロキシ-10,12,15-オクタデカトリエン酸、(10Z,12Z,15Z)-9-ヒドロキシ-10,12,15-オクタデカトリエン酸、(9Z,12Z,14E)-16-ヒドロキシ-9,12,14-オクタデカトリエン酸、(9Z,12Z,14Z)-16-ヒドロキシ-9,12,14-オクタデカトリエン酸、(9Z,11E,15Z)-13-ヒドロキシ-9,11,15-オクタデカトリエン酸、(9Z,11Z,15Z)-13-ヒドロキシ-9,11,15-オクタデカトリエン酸の6種類の立体異性体が挙げられ、本発明のCOX-2阻害剤の有効成分としては、これらの立体異性体を区別する必要はなく、いずれの異性体及びそれらの混合物を用いることができる。このうち、下記化学式(化5)で示される(10E,12Z,15Z)-9-ヒドロキシ-10,12,15-オクタデカトリエン酸を含むことが特に好ましい。
なお、ヒドロキシオクタデカトリエン酸には(R)体と(S)体の光学異性体が存在するが、本発明のCOX-2阻害剤に含まれるヒドロキシオクタデカトリエン酸は(R)体と(S)体のいずれでもよく、また、両者の混合物でもよい。
<COX-2阻害活性が亢進した茶飲料の製造方法>
本発明によれば、茶葉を、40−100℃に保温したpH12.5以上の水性溶媒を用いて抽出することにより、COX-2阻害活性が顕著に亢進した茶飲料を簡便に製造することができる。
茶の効用を担う主成分であるカテキン類はアルカリ性溶液中で変質・分解するため、通常、茶飲料の製造にアルカリ性の溶媒が用いられることはない。例外的な製法として、茶飲料の保存中に発生する二次オリの軽減を目的として、原因物質であるストリクチニンを分解させるために、茶葉をpH8.0-9.0のアルカリ性水性溶媒を用いて抽出する方法が示されている(特許文献4)。しかしながら、当該方法においても、カテキンの過剰な変質を抑えるために、pHを8.9以下にすべき旨が記載されている(特許文献4の[0023]、[0025]参照)。
本発明では、抽出溶媒としてpH12.5以上のアルカリ性の水性溶媒を用いる点以外は、茶飲料を製造するための汎用の方法を用いることができる。以下に、特に留意すべき要件について詳しく説明する。
なお、本書では、本発明に係るpH12.5以上のアルカリ性の水性溶媒を用いる抽出方法を“アルカリ性抽出法”と呼ぶ場合があり、これと対比して、中性付近のpH(通常、pH4.5-8.0)の水性溶媒を用いる通常の抽出方法を“中性抽出法”と呼ぶ場合がある。
・茶葉
本発明に用いることができる茶葉としては、チャノキ(Cemellia sinensis)を原料としたものであれば良く、例えば、不発酵茶である緑茶及び焙じ茶用茶葉(例として、からべに茶、やぶきた茶等)、半発酵茶であるウーロン茶用茶葉(例として、武夷水仙、鳳凰水仙、水仙等)、発酵茶である紅茶用茶葉(例として、キーモン等)、及び後発酵茶であるプーアル茶用茶葉(例として、雲南大葉種等)等を好適に用いることができる。このうち、特に好ましくは不発酵茶用又は半発酵茶用茶葉であり、最も好ましくは不発酵茶用茶葉である。
茶飲料の抽出には、乾燥茶葉を好適に用いることができ、荒茶や仕上茶等が例示される。なお、本書における“乾燥茶葉”とは、“水分含有量が1−10重量%の茶葉”の意である。
・抽出溶媒
茶葉を抽出する溶媒としては、pH12.5以上の水性溶媒が好ましく、さらに好ましくはpH13.0以上、最も好ましくはpH13.5以上の水性溶媒である。COX-2阻害活性の亢進という観点からは当該抽出溶媒のpHの上限を定める必要はないが、飲料として供すること(後に、中和を行うこと)を考慮すると、pH14.0程度までが適切である。当該pHの水性溶媒は、水に、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、水酸化カルシウム、炭酸水素カルシウム、及び炭酸カルシウムから選ばれる1以上の化合物を溶解することで好適に調整することができる。このうち、好ましくは、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、或いは、炭酸ナトリウムと炭酸カリウムの混合物である。また、当該水性溶媒の調整に用いる水としては、天然水、精製水(例として、イオン交換水)等を用いることができる。
・抽出条件
前記抽出溶媒を40℃以上100℃以下、好ましくは50℃以上100℃以下、より好ましくは60℃以上100℃以下、最も好ましくは70℃以上100℃以下に加熱し、乾燥茶葉を添加して抽出を行う。抽出工程では、前記抽出溶媒と茶葉の混合物を攪拌することが好ましく、また、加圧して抽出を行ってもよい。茶葉に添加する前記抽出溶媒の量は特に限定されないが、乾燥茶葉の重量に対し、5−50倍程度の重量の抽出溶媒が適切である。前記抽出溶媒中ではCOX-2阻害活性を有する成分は茶葉から速やかに抽出されるため、特に抽出時間を定める必要はないが、好ましくは1分以上、より好ましくは3分以上、さらに好ましくは5分以上、最も好ましくは10分以上である。なお、1時間以上の抽出によるCOX-2阻害活性の増加分は非常に少ないことから、抽出時間の上限は1時間程度が好ましい。
・中和処理
前記抽出工程の後、定法(例として、濾過又は遠心操作)に従って茶葉を除去し、得られた抽出液のpHを中性付近(好ましくは、PH5−7程度)に調整して茶飲料を得ることができる。pHの調整は、例えば、アスコルビン酸、塩酸、又は食用酸(例として、酢酸、クエン酸等)等を添加することで好適に行うことができる。前記抽出液は必要に応じて希釈することができ、また、糖類(デキストリンを含む)、(人工)甘味料、増粘剤、乳化剤、塩類、アミノ酸、香料、着色料、酸味料、抗酸化剤、保存料等を添加してもよい。さらに、加熱殺菌を行い、容器詰飲料としてもよい。
・茶飲料のCOX-2阻害活性
上記アルカリ性抽出法を用いることにより、中性抽出法で得られる茶飲料と比較して、COX-2阻害活性が約1.5−7.0倍増加した茶飲料を得ることができる。特に、不発酵茶用又は半発酵茶用茶葉を用いた場合には、約4.5−7.0倍も増加した茶飲料を得ることも可能である。
本発明に係る方法で得られる茶飲料のCOX-2阻害活性は、カテキン類ではなく、主にα−リノレン酸、リノール酸、没食子酸、ヒドロキシオクタデカジエン酸、及びヒドロキシオクタデカトリエン酸によるものである。本発明のアルカリ性抽出溶媒を用いた抽出工程において、カテキン類は分解し(一部が没食子酸となり)、α−リノレン酸及びリノール酸が新たに生成し、さらにこれらの脂肪酸からヒドロキシオクタデカジエン酸及びヒドロキシオクタデカトリエン酸が生じたと考えられる。前記脂肪酸のアルカリ処理によってヒドロキシオクタデカジエン酸及びヒドロキシオクタデカトリエン酸が生じることは知られていなく、本発明によって初めて明らかにされた機構である。
<COX-2阻害剤の製造方法>
ヒドロキシオクタデカジエン酸及びヒドロキシオクタデカトリエン酸は、茶葉をpH12.5以上の水溶液中で40−100℃に加熱処理することにより簡便に製造することができる。よって、本発明に係るCOX-2阻害剤は、前述の“COX-2阻害活性が亢進した茶飲料の製造方法”に従って、茶葉から簡便に製造することが可能である。さらに、風味が求められる茶飲料と異なり、COX-2阻害剤の製造を目的とする場合には、より広い条件で抽出を行ってもよい。以下に、茶飲料の製造方法から拡大可能な要件について説明する。
・茶葉
茶飲料の製造方法と同様に、使用する茶葉の種類を特定する必要はなく、不発酵茶用又は半発酵茶用茶葉が特に好ましく、不発酵茶用茶葉が最も好ましい点も同じである。しかしながら、COX-2阻害剤の製造を目的とする場合には、乾燥茶葉だけでなく、生茶や、通常の茶飲料の抽出(すなわち、中性抽出法)によって生じる抽出残渣(茶殻)を用いることができる。乾燥茶葉や生茶を用いる場合には、細かく細断されていることが好ましい。また、未利用資源の有効活用という観点からは、抽出残渣を原料とすることが好ましい。
・抽出溶媒
抽出に用いる溶媒は、前述した茶飲料の製造方法と同様に、pH12.5以上、さらに好ましくはpH13.0以上、最も好ましくはpH13.5以上の水性溶媒である。当該抽出溶媒のpHの上限は特に定める必要はないが、pH15.0程度が適切である。なお、当該抽出溶媒は、前記茶飲料の製造方法で例示したpH調整用化合物及び水を用いて好適に作製することができる。
・抽出条件
前記茶飲料の製造方法と同じ抽出温度及び抽出時間が好適である。また、攪拌しながらの抽出が好ましい点、加圧して抽出してよい点も同じである。茶葉に添加する前記抽出溶媒の量は、乾燥茶葉に対しては同様(乾燥茶葉の重量に対し、約5−50倍(重量/重量))で、生茶葉に対しては約10−100倍(重量/重量)、抽出残渣に対しては約5−50倍(重量/重量)が好ましい。
・ヒドロキシオクタデカジエン酸及び/又はヒドロキシオクタデカトリエン酸の精製
本発明では、前記抽出工程で得られた抽出液から定法(例として、濾過又は遠心処理)に従って茶葉又は茶殻を除去したものを、茶葉由来COX-2阻害剤として用いることができる。なお、当該抽出液は、必要に応じて前述の中和処理、乾燥処理、濃縮処理等を行ってもよく、さらに、当業者に周知の方法を用いて、ヒドロキシオクタデカジエン酸及び/又はヒドロキシオクタデカトリエン酸を(粗)精製してもよい。
前記抽出液からのヒドロキシオクタデカジエン酸又はヒドロキシオクタデカトリエン酸の(粗)精製は、例えば、前記抽出液を濾過して得られる濾液を高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)を用いて分画し、得られた分画からCOX-2阻害活性を有する分画を選択し、さらに該分画から既知のCOX-2阻害活性成分(例として、カテキン類、没食子酸、リノール酸、リノレン酸等)を含む分画を除外して得ることが可能である。
茶葉の種類によっても異なるが、例えば緑茶用茶葉から上記方法を用いて抽出液を製造し、HPLC法による分画・精製を行った場合には、茶葉1gから約0.1-0.4mgのヒドロキシオクタデカジエン酸、及び約0.1-0.3mgのヒドロキシオクタデカトリエン酸を得ることが可能である。
本発明に係るCOX-2阻害剤は、賦形剤(ラクトース、マンニトール、グルコース、微結晶セルロース、デンプン等)、結合剤(ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等)、崩壊剤(繊維素グリコール酸カルシウム等)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム等)、安定剤、溶解補助剤(グルタミン酸、アスパラギン酸等)等と混合し、常法に従って製剤化して摂取してもよい。
本発明に係るCOX-2阻害剤を含む製剤としては、経口用の固形又は半固形剤(錠剤、散在、顆粒剤、ゲル剤等)及び経口用の液剤(水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤等)が好ましく、トローチ、口腔用ゲル、歯磨き剤、マウスウォッシュ(洗口液)、うがい液、口中清涼剤等の医薬部外品が例示される。これらの医薬部外品を日常的に使用することにより、抗炎症作用の亢進や口腔環境の改善が期待される。
また、本発明に係るCOX-2阻害剤を添加することにより、COX-2阻害活性が増強された食品が提供される。この目的に好適な食品は特に限定されることはなく、例えば、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料、キャンディー、ガム、チョコレート、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子等の菓子類、アイスクリーム、シャーベット、かき氷等の冷菓等を挙げることができる。
以下に、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、これらの実施例により本発明の範囲が限定されるものではない。なお、本願実施例では、下記手法に従って被験物質のCOX-2活性阻害率を測定し、被験物質の単位重量当たりのCOX-2阻害活性として評価した。
<COX-2活性阻害率の測定>
COX-2は、シクロオキシダーゼ活性によってアラキドン酸からPGG2を産生し、ヒドロペルオキシダーセ活性によって前記PGG2からPGH2を産生する酵素である。本願実施例では、COX Inhibitor Screening Assay Kit(Cayman Chemical社製)を用いて、COX-2、アラキドン酸、及び被験物質の存在下で生じるPGH2量(厳密には当該還元産物量)を測定した。被験物質としては、茶葉抽出物又はその(粗)精製物を凍結乾燥し、500マイクログラム/mlとなるようにジメチルスルホキシドに溶解したものを用いた。そして、陰性コントロール(ジメチルスルホキシドのみ)を添加した場合に生じる前記PGH2量を100%(=COX-2活性が100%の状態)として、各被験物質を添加した場合に生じる前記PGH2量との差分をCOX-2活性阻害率(%)とした。
[試験例1:抽出溶媒のpHの検討]
茶葉からCOX-2阻害活性が亢進した茶飲料及びCOX-2阻害剤を抽出する工程で用いる水性溶媒のpHについて、検討を行った。
市販の緑茶(仕上茶)を粉末化したものを、該茶葉の10倍量(重量/重量)のイオン交換水(pH7.0)又は水酸化ナトリウム水溶液(pH10.0-pH14.5)に懸濁し、80℃で30分間抽出を行った。その後、当該茶葉と抽出溶媒の混合物を濾過し、得られた濾液を塩酸で中和して抽出液を得た。各抽出液を凍結乾燥し、得られた乾燥抽出物に対し、前述の方法に従ってCOX-2活性阻害率を測定した。各試験例で得られたCOX-2活性阻害率を、イオン交換水で抽出した場合に得られたCOX-2活性阻害率(比較例1)に対する相対値で表した。
表1より、茶葉を中性のイオン交換水で抽出した抽出物には、COX-2活性を44.7%阻害する活性があることがわかる(比較例1)。そして、抽出溶媒のpHがpH10.0-pH12.0に上がると、得られる抽出物のCOX-2阻害活性は中性溶媒を用いた場合よりも低下するが(比較例2−4)、これはカテキン類のアルカリ分解によるものと考えられる。しかしながら、驚くべきことに、pH13.0の抽出溶媒を用いた場合には、得られる抽出物のCOX-2活性阻害率は73.1%と急激に上昇し(実施例1)、さらにpHが上がるにつれて一層上昇し(実施例2、3)、pH14.5の抽出溶媒を用いた場合には、COX-2活性を98.8%も抑制し得る抽出物が得られた(実施例4)。
この結果より、pH12.5以上の水性溶媒を用いて茶葉の抽出を行うと、COX-2活性を阻害し得る成分が茶葉から抽出できることが明らかとなった。
[試験例2:抽出温度の検討]
次に、抽出温度について検討した。
前記市販の緑茶を粉末化したものを、該茶葉の10倍量(重量/重量)の150mM水酸化ナトリウム水溶液(pH13.5)に懸濁し、室温(25℃)、40℃、60℃、又は80℃で30分間抽出を行った。その後濾過を行い、得られた濾液を塩酸で中和して抽出液を得た。各抽出液を凍結乾燥し、前述の方法に従ってCOX-2活性阻害率を測定した。結果を表2に示す。
表2より、室温では当該アルカリ性の抽出溶媒を用いた効果が得られず、抽出液のCOX-2活性阻害率は中性溶媒を用いた場合(比較例1)と同程度であることがわかる。これに対し、40℃以上で抽出を行うと、得られる抽出液のCOX-2阻害活性は大幅に上昇することが示された。
よって、pH12.5以上のアルカリ性水性溶媒を用いて茶葉からCOX-2活性を阻害し得る成分を溶出させるには、40℃以上の温度が必要であることが明らかとなった。
[試験例3:抽出時間の検討]
続いて、抽出時間の検討を行った。
前記市販の緑茶を粉末化したものを、該茶葉の10倍量(重量/重量)の150mM水酸化ナトリウム水溶液(pH13.5)に懸濁し、80℃で5分−2時間抽出を行った。その後濾過を行い、得られた濾液を塩酸で中和して抽出液を得た。各抽出液を凍結乾燥し、前述の方法に従ってCOX-2活性阻害率を測定した結果を表3に示す。
表3より、当該アルカリ性の水性溶媒中で抽出を行うと、5分後には既にCOX-2活性を阻害し得る成分の大部分が茶葉から溶出していることがわかる。
よって、pH12.5以上で高温のアルカリ性水性溶媒中では、茶葉からCOX-2活性を阻害し得る成分が速やかに抽出されるため、1分間、好ましくは3分間以上の抽出により、十分量の当該成分が抽出できることが明らかとなった。
[試験例4:茶葉の種類の検討]
次に、茶葉の種類について検討を行った。
不発酵茶、半発酵茶、発酵茶、後発酵茶の代表として、各々、緑茶、ウーロン茶、紅茶、プーアル茶用茶葉(いずれも市販の仕上茶、粉末化せずに使用)を用いて下記3通りの抽出方法を行い、乾燥抽出物を得た。
<抽出方法>
(i)中性抽出
茶葉5gに、80℃に保温したイオン交換水(pH7.0)100ミリリットルを加え、80℃で30分間抽出を行った。その後、濾過、濃縮、凍結乾燥を行い、乾燥抽出物を得た。
(ii)中性抽出残渣のアルカリ性抽出
前記(i)で濾過後に生じる残渣(抽出残渣)に対し、80℃に保温した150mM水酸化ナトリウム水溶液(pH13.5)100ミリリットルを加え、80℃で30分間抽出を行った。その後、濾過、中和(塩酸使用)、濃縮、凍結乾燥を行い、乾燥抽出物を得た。
(iii)アルカリ性抽出
茶葉3gに、80℃に保温した150mM水酸化ナトリウム水溶液(pH13.5)100ミリリットルを加え、80℃で30分間抽出を行った。その後、濾過、濃縮、凍結乾燥を行い、乾燥抽出物を得た。
上記方法で得られた各乾燥抽出物の重量を測定し、茶葉1gから得られる乾燥抽出物の重量を計算し、さらに、方法(i)で得られる該値に対する相対値(表4中の(a)値)として表した。また、前述の方法に従って各乾燥抽出物の単位重量あたりのCOX-2活性阻害率を測定し、方法(i)で得られる該値に対する相対値(表4中の(b)値)を表した。よって、当該(a)値と(b)値の乗算値(=(a)×(b))は、各々の抽出方法によって茶葉1gから得られるCOX-2阻害活性の相対値を表す。これらの測定値及び計算値を表4に示す。なお、陽性対照として用いたアセチルサリチル酸は、代表的なCOX-2阻害薬(製品名:アスピリン)である。
表4より、いずれの茶葉においても、中性抽出を行った場合に得られる抽出物量が最も少なく、当該抽出残渣をアルカリ性抽出することで中性抽出よりも多くの抽出物が得られること(1.5−1.9倍)、さらに、最初から茶葉をアルカリ抽出すると、中性抽出と該残渣のアルカリ性抽出によって得られる抽出物と同等又はより多くの成分が抽出できることが明らかとなった(比較例6と実施例13・14、比較例7と実施例15・16、比較例8と実施例17・18、比較例9と実施例19・20の比較)。
次に、各々の抽出物中に含まれるCOX-2阻害活性に注目すると、緑茶及びウーロン茶では、中性抽出物よりも該抽出残渣のアルカリ性抽出物及びアルカリ性抽出物の方が、単位重量当たりのCOX-2阻害活性が高い(1.3−1.9倍)ことがわかる(比較例6と実施例13・14、比較例7と実施例15・16の比較)。また、プーアル茶についても、中性抽出物よりも該抽出残渣のアルカリ性抽出物の方が、単位重量あたりのCOX-2阻害活性に優れる結果となった(比較例9と実施例19の比較)。
さらに、茶葉1gから得られるCOX-2阻害活性の相対値(=(a)×(b)値)を比較すると、いずれの茶葉においても、中性抽出で得られる該値よりも、アルカリ性抽出で得られる該値の方が1.7−6.5倍も高く、アルカリ性抽出を行うことで多量のCOX-2活性阻害物質が茶葉から抽出できることが示された。特に、緑茶及びウーロン茶においてはアルカリ性抽出の効果が非常に大きく、中性抽出残渣をアルカリ性抽出するだけでも(中性抽出で得られるCOX-2阻害活性の)2.7倍ものCOX-2阻害活性が回収できること、さらに最初からアルカリ性抽出を行った場合には(中性抽出で得られるCOX-2阻害活性の)4.6−6.5倍ものCOX-2阻害活性が得られることが示された。また、紅茶及びプーアル茶についても、中性抽出残渣のアルカリ性抽出は非常に有益で、中性抽出で得られるCOX-2阻害活性の0.6倍(紅茶)、1.7倍(プーアル茶)のCOX-2阻害活性がさらに回収できることが示された。
上記結果より、不発酵茶、半発酵茶、発酵茶、後発酵茶のいずれに対しても、pH12.5以上のアルカリ性水性溶媒を用いることにより、該茶葉から抽出される成分が大幅に増加し(中性抽出の2.4−3.6倍)、得られる総COX-2阻害活性も大幅に増加すること(中性抽出の1.6−6.5倍)が明らかとなった。また、いずれの茶葉においても、中性抽出残渣をアルカリ性抽出することで、COX-2阻害活性を有する成分をさらに抽出できることが確認された。
[試験例5:COX-2阻害活性を有する成分の同定]
前述したように、pH12.5以上のアルカリ性条件下ではカテキン類はほぼ完全に分解するため、上記アルカリ性抽出方法で得られる抽出物のCOX-2阻害活性は、カテキン類以外の成分によるものと考えられる。そこで、当該COX-2阻害活性を担う成分の同定を試みた。
緑茶用乾燥茶葉(仕上げ茶)250gに5リットルの150mM水酸化ナトリウム水溶液(pH13.5)を加えて80℃で30分間抽出を行い、その後濾過して得られた濾液に対して中和(1N塩酸を使用)、濃縮、凍結乾燥を行い、乾燥抽出物125gを得た。該乾燥抽出物80gを合成吸着樹脂によるカラムクロマトグラフィー(カラムは、ダイアイオンHP-20(三菱化成製)、溶出溶媒は、水:メタノール=100:0、80:20、50:50、0:100でのステップワイズ溶出)に供し、得られた分画を濃縮・乾燥し、該各乾燥分画物に対してCOX-2活性阻害率を測定した。このうち、強いCOX-2阻害活性を示した100%メタノール溶出画分について、さらにシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒は、クロロホルム:メタノール:水=95:5:0、90:10:0、78:20:2、53:40:7)を行い、15のフラクション(フラクション1−15)に分画した。該分画についてCOX-2活性阻害率を測定したところ、分画2−6に強いCOX-2阻害活性が認められた。
当該フラクション5及び6について、逆相クロマトグラフィー(カラム:COSMOSIL Cholester(ナカライテスク株式会社製)、溶出溶媒:50%アセトニトリル in 0.1%トリフルオロ酢酸水溶液)による精製を複数回行い、化合物I-IIIを単離した(図1、2)。該化合物I-IIIについてNMRスペクトル及びHR-MSスペクトルを測定し、当該化学構造を同定した。その結果、化合物Iは、(10E,12Z,15Z)-9-ヒドロキシ-10,12,15-オクタデカトリエン酸(化合物5)、化合物IIは、(10E,12Z)-9-ヒドロキシ-10,12-オクタデカジエン酸(化合物1)及び(9Z,11E)-13-ヒドロキシ-9,11-オクタデカジエン酸(化合物2)、化合物IIIは、(10E,12E)-9-ヒドロキシ-10,12-オクタデカジエン酸(化合物3)及び(9E,11E)-13-ヒドロキシ-9,11-オクタデカジエン酸(化合物4)であることがわかった(表5)。
なお、化合物1及び2はNMRで測定される物性値が等しく、且つ、互変異性を有するため、化合物I(実施例21)は化合物1と2の等モル混合物と考えられる。同じ理由により、化合物II(実施例22)も化合物3と4の等モル混合物と考えられる。
以下に、前記逆相クロマトグラフィーによる分析条件と、前記NMR及びHR-MS(High resolution-mass spectrometry)の解析結果を示す。
<HPLC分析条件>
装置:Prominence UFLCシステム(株式会社島津製作所製)、ソフトウエア:LabSolutions v.5.57、カラム:COSMOSIL 2.5Cholester(2.5μm)径3.0×100mm(ナカライテスク株式会社製)、移動相:0.1%トリフルオロ酢酸水溶液:アセトニトリル=50:50、流速:0.75ml/min、カラム温度40℃、検出:UV230nm
<化合物IのNMR及びHR-MS物性データ>
ヒドロキシオクタデカトリエン酸(二重結合がtrans位、cis位、cis位):化合物5
H−NMR(CDOD)δ:0.91(3H、t、J=7.5Hz)、1.32(8H、s)、1.51(2H、m)、1.60(2H、m)、2.08(2H、q、J=6.5Hz)、2.29(2H、t、J=7.5Hz)、2.93(2H、t、J=7.5Hz)、4.01(1H、m)、5.3−5.4(3H、m)、5.64(1H、dd、J=15、6.5Hz)、5.98(1H、t、J=11Hz)、6.53(1H、dd、J=15、11Hz).HR−ESI−TOF−MS:m/z293.2116[M−H](calcd.forC18H29O3、293.2122)、329.1884[M+Cl](calcd.for C18H30O3Cl、329.1889).
<化合物IIのNMR及びHR-MS物性データ>
ヒドロキシオクタデカジエン酸(二重結合がcis位とtrans位):化合物1及び/又は化合物2
H−NMR(CDOD)δ:0.88(3H、t、J=6.5Hz)、1.30−1.53(16H、m)、1.59(2H、t、J=7.5Hz)、2.19(2H、dt、J=7.5、7.5Hz)、2.26(2H、t、J=7.5Hz)、4.07(1H、dt、J=6.5、6.5Hz)、5.41(1H、dt、J=11.3、7.5Hz)、5.61(1H、dd、J=15.3、7Hz)、5.97(1H、dd、J=11、11Hz)、6.49(1H、dd、J=15.5、11Hz).HR−ESI−TOF−MS:m/z295.2273[M−H](calcd.forC18H31O3、295.2279)、331.2041[M+Cl](calcd.for C18H32O3Cl、331.2045).
<化合物IIIのNMR及びHR-MS物性データ>
ヒドロキシオクタデカジエン酸(二重結合がすべてcis位):化合物3及び/又は化合物4
H−NMR(CDOD)δ:0.90(3H、t、J=7Hz)、1.28−1.52(16H、m)、1.59(2H、t、J=7Hz)、2.08(2H、dt、J=7、7Hz)、2.26(2H、t、J=7.5Hz)、4.01(1H、dt、J=6.5、6.5Hz)、5.51(1H、dd、J=15、7Hz)、5.68(1H、dt、J=14.5、7Hz)、6.02(1H、dd、J=15.5、10.5Hz)、6.14(1H、dd、J=15、10.5Hz).HR−ESI−TOF−MS:m/z295.2272[M−H](calcd.forC18H31O3、295.2279)、331.2039[M+Cl](calcd.for C18H32O3Cl、331.2045).
前記フラクション2−3にはリノール酸、αリノレン酸、カフェインが含まれ、当該フラクションのCOX-2阻害活性はリノール酸及び/又はαリノレン酸によることが確認された。
また、比較例として、前記緑茶用乾燥茶葉に対し、イオン交換水(pH7.0)を抽出溶媒とする中性抽出を行い、該中性抽出物に対し、前記アルカリ性抽出物と同じ手法で分画・精製を行い、該中性抽出物に含まれるCOX-2活性阻害成分を同定した(表5)。
表5に示されるように、緑茶用茶葉の中性抽出物に含まれるCOX-2活性阻害成分は、(-)-エピガロカテキンガレートが最も多く(約5.08%)、続いて(-)-エピガロカテキン(約1.30%)、没食子酸(約0.26%)、リノール酸(約0.04%)であった。
これに対し、緑茶用茶葉のアルカリ性抽出物中には、(-)-エピガロカテキンガレートと(-)-エピガロカテキンは検出されず、COX-2阻害活性を有する成分として、没食子酸(約0.64%)、α−リノレン酸(約0.48%)、リノール酸(約0.26%)、ヒドロキシオクタデカジエン酸(約0.022%)、及びヒドロキシオクタデカトリエン酸(約0.018%)が同定された。没食子酸とリノール酸は前記中性抽出物中にも含まれるが、アルカリ性抽出物では当該含有量が約2.5倍(没食子酸)、約6.5倍(リノール酸)と増加していた。没食子酸は、(-)-エピガロカテキンガレートといったガロイル基を有する茶ポリフェノールの分解によって生じることが知られているが、(-)-エピガロカテキンガレート、没食子酸の精製標品はいずれも前記アルカリ性抽出条件(pH13.5の水溶液中で、80℃で30分間加熱処理)に晒されると完全に分解してしまう(データ非開示)。よって、本発明のアルカリ性抽出工程では、前記茶ポリフェノール等から生じた没食子酸が他の成分と複合体を形成するなどして分解を免れている可能性が考えられる。
表5の結果において最も注目すべきは、当該アルカリ性抽出物に含まれるα−リノレン酸、ヒドロキシオクタデカジエン酸、及びヒドロキシオクタデカトリエン酸の存在である。茶葉中の不飽和脂肪酸量は茶期・熟度に関わらず極微量(12.3-20.0mg/100g茶葉辺り)であることから(非特許文献4)、これらの遊離脂肪酸は、茶葉をアルカリ性抽出する工程で生成したと考えられる。α−リノレン酸及びリノール酸がCOX-2阻害活性を有することは知られていたが(非特許文献5)、ヒドロキシオクタデカジエン酸及びヒドロキシオクタデカトリエン酸がCOX-2阻害活性を有することは、本願において初めて明らかにされたことである。
前記アルカリ性抽出物中には、二重結合がcis位とtrans位であるヒドロキシオクタデカジエン酸(実施例21)が約0.018%、二重結合がすべてcis位であるヒドロキシオクタデカジエン酸(実施例22)が約0.004%、9位に水酸基・二重結合がtrans位、cis位、cis位であるヒドロキシオクタデカトリエン酸(実施例23)が約0.018%含まれ、これらの水酸化不飽和脂肪酸はいずれも有意なCOX-2阻害活性を有していた。特に、二重結合がすべてcis位であるヒドロキシオクタデカジエン酸(実施例22)と、9位に水酸基を有し且つ二重結合がtrans位、cis位、cis位であるヒドロキシオクタデカトリエン酸(実施例23)のCOX-2阻害活性は非常に高く、各々、COX-2の活性を74.6%(実施例22)、94.5%(実施例23)も抑制できることが示された。これは、アセチルサリチル酸(陽性コントロール)よりも遥かに強く、さらに、(-)-エピガロカテキンガレート及び(-)-エピガロカテキンよりも強いCOX-2阻害活性である。
以上の結果より、茶葉をpH12.5以上の水性溶媒中で40−100℃処理すると、COX-2阻害活性成分である没食子酸及びリノール酸が増加し、さらに、COX-2阻害活性を有するα−リノレン酸、ヒドロキシオクタデカジエン酸、及びヒドロキシオクタデカトリエン酸が生じることが明らかとなった。なお、データは割愛したが、緑茶用茶葉の中性抽出残渣を前記アルカリ加熱処理した場合にも、前記ヒドロキシオクタデカジエン酸(化合物1−4)及びヒドロキシオクタデカトリエン酸(化合物5)が生じることも確認された。
以下に、本発明に係るCOX-2阻害剤を配合した飲食品、医薬部外品の実施例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の配合量はいずれも重量%を表し、定法に従ってこれらの飲食品及び医薬部外品を製造した。
[実施例24:クッキー]
成分 配合量
薄力粉 40.0
チョコレート 20.0
バター 13.0
グラニュー糖 13.0
ココアパウダー 8.0
緑茶用茶葉抽出物(実施例14の乾燥抽出物) 5.0
牛乳 残余
合計 100.0
[実施例25:紅茶風味飲料]
成分 配合量
ほうじ茶エキス 0.1
ビタミンC 0.02
紅茶用茶葉抽出物(実施例18の乾燥抽出物) 0.2
香料 適量
精製水 残余
合計 100.0
[実施例26:マウスウォッシュ(洗口液)]
成分 配合量
エタノール 8.0
グリセリン 5.0
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 0.7
安息香酸ナトリウム 0.1
ヒドロキシオクタデカジエン酸(実施例22) 0.01
ラウリル硫酸ナトリウム 0.3
香料 適量
精製水 残余
合計 100.0
[実施例27:口中清涼剤]
成分 配合量
エタノール 15.0
グリセリン 3.0
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 0.5
サッカリンナトリウム 0.1
緑茶用茶葉抽出物(実施例14の乾燥抽出物) 1.0
香料 適量
精製水 残余
合計 100.0
[実施例28:口腔用ゲル]
成分 配合量
カルボキシメチルセルロース 0.2
グリセリン 40.0
ウーロン茶用茶葉抽出物(実施例16の乾燥抽出物) 1.0
ラウリル硫酸ナトリウム 0.3
香料 適量
精製水 残余
合計 100.0
[実施例29:練り歯磨き]
成分 配合量
第2リン酸カルシウム 30.0
グリセリン 10.0
ソルビトール 20.0
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1.0
ラウリル硫酸ナトリウム 1.5
カラギーナン 0.5
サッカリンナトリウム 0.1
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 0.5
サッカリンナトリウム 0.1
緑茶用茶葉の中性抽出残渣のアルカリ性抽出物(実施例13の乾燥抽出物) 4.0
香料 適量
安息香酸ナトリウム 適量
精製水 残余
合計 100.0
[実施例30:うがい液]
成分 配合量
エタノール 20.0
グリセリン 5.0
サッカリンナトリウム 0.2
クロルヘキシジン 0.005
ヒドロキシオクタデカトリエン酸(実施例23) 0.02
香料 適量
精製水 残余
合計 100.0
本発明に係るCOX-2阻害剤は、茶葉をアルカリ加熱処理(pH12.5以上で40−100℃処理)するだけで簡便且つ迅速に製造されるものである。当該原料としては、市場価値の低い安価な茶葉や、茶飲料の製造後に生じる茶殻(すなわち、中性溶媒で加熱抽出された後の抽出残渣)を用いることができ、非常に安価且つ安全に製造することができる。これまで産業廃棄物として扱われていた茶殻に対し、有効活用法を提供するものでもある。

Claims (3)

  1. (10E,12Z,15Z)-9-ヒドロキシ-10,12,15-オクタデカトリエン酸を有効成分として含むシクロオキシゲナーゼ−2阻害剤。
  2. 茶葉を、40−100℃に保温したpH12.5以上の水性溶媒中で抽出する工程を含む、茶葉からシクロオキシゲナーゼ−2阻害剤を製造する方法。
  3. 前記茶葉が、pH12.0以下の水性溶媒で加熱抽出された茶葉である、請求項に記載の方法。
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