以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態の張力制御装置と、この張力制御装置を備えたシート材の駆動システムの構成の一例を表すブロック図である。
図1に示すように、本実施形態の張力制御装置10は、微分器12と、乗算器13と、減算器14と、を備える。張力制御装置10は、張力基準信号Fr0を出力する張力基準設定部11を有している。微分器12は、速度制御装置40の速度基準設定部41が出力する速度基準信号ωrと、速度制御装置40によって速度制御されている駆動装置50の速度検出器55によって検出された速度検出信号ωdとの偏差を微分して出力する。つまり、微分器12は、駆動装置50の偏差加速度信号Δαdを出力する。微分器12の出力には、必要に応じてバンドパスフィルタまたはローパスフィルタが接続され、微分動作によって増長されたノイズ成分が除去される。後述する他の微分器についても出力にフィルタを接続することが好ましい。乗算器13は、偏差加速度信号Δαdと、シート材92が巻戻枠2に巻回された巻回体90の径に基づく慣性モーメントJuwとを入力して、速度補償トルク信号T1を出力する。速度補償トルク信号T1は、速度制御装置40の駆動装置50の速度偏差に基づいて算出される補償信号である。減算器14は、張力基準信号Fr0に基づいて生成される基準トルク信号T2'から、速度補償トルク信号T1を減じて制御トルク信号T3を出力する。制御トルク信号T3は、駆動装置30のトルク制御部33に入力されて、トルク制御の対象となる。
基準トルク信号T2,T2'は、以下のように生成される。
張力基準信号Fr0は、シート材92の実際の張力を表す張力検出信号Fdによって補正される。張力検出信号Fdは、この例では、張力検出器8aで検出された実際の張力信号を、増幅部8cでフィルタリングされ増幅された信号である。張力検出信号Fdおよび張力基準信号Fr0は、加減算器16に入力されて、これらの偏差信号が張力補正部17に入力される。張力補正部17は、入力された張力信号の偏差信号をPI制御して出力する。張力補正部17から出力された張力補正信号Fcは、張力基準信号Fr0に加算されて新たな張力基準信号Fr1となる。
補正された張力基準信号Fr1に、巻回体90の半径を乗算器23によって乗じて基準トルク信号T2を生成する。したがって、基準トルク信号T2は、張力基準信号Fr1に基づいて生成されるトルク信号である。
さらに、基準トルク信号T2は、加減速トルク補償信号Tcと加算器22で加算され、加減速トルクで補償された基準トルク信号T2'となる。加減速トルク補償信号Tcは、速度制御装置40の速度基準設定部41が出力する速度基準信号ωrを微分した加速度信号に巻回体90の慣性モーメントJuwを乗ずることによって生成される。微分器19は、速度基準信号ωrを入力し、速度基準信号ωrの微分信号である加速度信号を出力する。乗算器20は加速度信号と慣性モーメントJuwとを入力して、これらを乗算して加減速トルク補償信号Tcを出力する。基準トルク信号T2を加減速トルク信号Tcで補償することにより、速度制御されたロールの加速動作時および減速動作時に応答特性を良好にすることができる(特許文献1等参照)。
巻回体90の慣性モーメントJuwは、以下のようにして求めることができる。巻戻径演算部15には、シート材92の密度および幅があらかじめ設定値として入力されている。巻戻枠2の回転速度および巻取芯3の回転速度をそれぞれ速度検出器35,55で検出して、シート材92の密度、幅および検出された速度差に基づいて巻回体90の直径が求められる。さらに、慣性モーメント演算部21では、シート材92の密度、幅および径に基づいて、慣性モーメントJuwが計算される。
本実施形態の張力制御装置10は、シート材92を介して速度制御装置40と連動して動作する。そこで、張力制御装置10と、速度制御装置40とを備えるシート材92の駆動システム100の構成について、以下説明する。
本実施形態の駆動システム100は、巻戻枠2に巻回されたシート材92を巻き戻してシート材92の張力を制御する張力制御装置10を備える。また、駆動システム100は、シート材92を巻き取りながらシート材92の搬送速度を制御する速度制御装置40を有する。また、駆動システム100は、張力制御装置10によって制御される駆動装置30と、駆動装置30によって駆動される、シート材92の巻回体90が装着された巻戻枠2と、を有する。駆動システム100は、速度制御装置40によって制御される駆動装置50と、駆動装置50によって駆動される、シート材92を巻き取る巻取芯3と、を有する。シート材92は、たとえば紙であるが、紙に限らず、樹脂製フィルムや薄帯状の金属フィルム等であってもよい。
駆動装置30は、電動機31と、駆動部32と、トルク制御部33と、速度検出器35と、を含む。電動機31は、シート材92が巻回された巻戻枠2を出力トルクTuwで駆動する。電動機31は、たとえば誘導電動機等の回転機である。駆動部32は、トルク制御部33からの指令にしたがって電動機31を駆動する。駆動部32は、たとえばインバータ装置であり、設定された交流電圧値、周波数、および電流値を設定された位相で電動機31に印加する。トルク制御部33は、制御トルク信号T3を基準トルク信号として入力する。トルク制御部33は、比例制御によって、出力トルクTuwが制御トルク信号T3に一致するように目標値制御を行う。速度検出器35は、電動機31の回転速度を検出する。速度検出器35は、巻戻径演算部15に接続され、検出された信号は巻回体90の径を計算することに用いられる。速度検出器35は、たとえばパルス発信器やエンコーダを用いた速度センサ等である。駆動装置30は、張力制御装置10が出力する制御トルク信号T3にしたがって巻回体90が装着された巻戻枠2を回転駆動する。
巻戻枠2には、シート材92が巻回された巻回体90が装着されている。巻回体90が装着された巻戻枠2は、張力制御装置10および駆動装置30によってシート材92の張力が制御されつつ回転駆動される。巻戻枠2に装着された巻回体90は、シート材92が巻取芯3によって巻き取られることによって次第に径が小さくなり、重量が軽くなる。したがって、駆動装置30によって駆動される巻回体90の慣性モーメントJuwは、巻き戻し動作が進むにつれて小さくなるので、張力制御装置10および駆動装置30は、慣性モーメントJuwの変化に応じてトルク制御を行う。
速度制御装置40は、速度基準設定部41と、微分器42と、乗算器43と、巻取径検出部44と、慣性モーメント演算部45と、を有している。速度基準設定部41は、あらかじめ設定された速度パターンを有する速度基準信号ωrを出力する。速度基準信号ωrの速度パターンには、たとえば、起動時および停止時の加速および減速の速度プロファイルや、シート材92の紙質等に基づいて定められている定常時の搬送速度が規定されている。速度基準信号ωrの速度パターンは、たとえば速度基準設定部41に接続された記憶部41aにあらかじめ格納されており、必要に応じて速度基準設定部41にロードされる。微分器42は、速度基準設定部41に接続されている。微分器42は、速度基準設定部からの速度基準信号ωrを入力して基準加速度信号α0を出力する。巻取径検出部44では、巻回体94の径Dwが検出される。巻取径検出部44は、たとえばライダーロール5aの基準位置からの高さ距離計測値から巻回体94の径を演算して出力する。慣性モーメント演算部45は、巻取径検出部44に接続されている。慣性モーメント演算部45は、シート材92の紙密度および紙幅が設定されており、これらの値と、巻取径検出部44から入力された巻回体94の径Dwとを用いて、巻回体94の慣性モーメントJwを計算する。乗算器43は、微分器42および慣性モーメント演算部45に接続されている。乗算器43は、微分器42からの基準加速度信号α0と、慣性モーメント演算部45からの巻回体94の慣性モーメントJwの値とを入力して加減速トルク補償信号τwを出力する。乗算器43から出力された加減速トルク補償信号τwは、駆動装置50の速度制御部54が出力するトルク基準信号に加算される。加減速トルク信号τwは、駆動装置50のトルク基準信号に加算されることによって、駆動軸の加減速時のトルクを補償して、トルクのオーバシュートやアンダシュートを低減する。
駆動装置50は、電動機51と、駆動部52と、トルク制御部53と、速度制御部54と、速度検出器55と、加算器56と、減算器57と、を含む。電動機51、駆動部52、およびトルク制御部53は、張力制御装置10のための駆動装置30の電動機31、駆動部52、およびトルク制御部33と駆動電力等を除き、それぞれほぼ同じなので詳細な説明を省略する。
速度制御部54の入力は、減算器57に接続されており、減算器57からの速度偏差信号Δωを入力する。減算器57は、速度基準設定部41と、速度検出器55の出力とに接続されており、速度基準信号ωrと実際の回転速度を示す側検出信号ωdとの差である速度偏差信号Δωを出力する。速度制御部54の出力は、加算器56を介してトルク制御部53に接続されている。加算器56は、速度制御部54の出力と速度制御装置40の乗算器43の出力とに接続され、速度偏差信号Δωに基づいて生成されたトルク基準信号に、加減速トルク補償信号τwを加算して、加減速トルクが補償されたトルク基準信号を出力する。速度制御部54は、速度偏差信号Δωにもとづいてトルク基準信号を生成するためにPI制御を行う。
このように、駆動装置50は、速度制御装置40の速度基準信号ωrにしたがって速度制御されたシート材92の搬送を行う。
駆動システム100は、速度制御装置40が出力する制御信号にしたがって巻取芯3を回転駆動してシート材92を巻き取る。図1に示すように、シート材92は、リアドラム4bおよびフロントドラム4c上でシート材92の巻回体94が回転することによって巻取芯3に巻き取られる。リアドラム4bおよびフロントドラム4cは、ベルトドライブを介してドラム駆動軸4aによって駆動される。図1の駆動システム100では、シート材92は、後述するスリッタ7によって所定の幅に裁断され、複数の巻回体94となり、図1のような表面駆動方式で巻き取られている。なお、シート材92は、直接巻取芯3に巻き取られるようにしてもよい。
駆動システム100は、ライダーロール5aと、ライダー駆動軸5bと、ライダーロール5aを駆動するための駆動装置60とを有している。ライダーロール5aは、巻回体94の上部表面に接するように設けられている。ライダーロール5aは、駆動装置60から駆動されるライダー駆動軸5bとたとえば駆動ベルトにより結合されている。ライダーロール5aは、リアドラム4bおよびフロントドラム4c上に載置されて間接的に回転駆動されているシート材92の巻回体94を上部から抑えて巻回体94の位置を保持しつつ、巻回体94の回転動作を補助する。シート材92は、スリッタ7によって搬送方向に沿って裁断される。巻回体94は、裁断された数だけ複数個形成される。ライダーロール5a、ライダー駆動軸5bおよび駆動装置60は、巻き取られた巻回体94の数にはよらず、1つのライダーロール5aを1台のライダー駆動軸5bで駆動される。駆動装置60は、片軸駆動として1台の場合と、両端駆動として2台の場合とがある。
駆動装置60は、電動機61と、駆動部62と、トルク制御部63、と速度制御部64と、速度検出器65と、減算器67と、を有している。電動機61、駆動部62、トルク制御部63、速度制御部64、速度検出器65、および減算器67は、上述した駆動装置50の電動機51、駆動部52、トルク制御部53、速度制御部54、速度検出器55、および減算器57と、取り扱う電力容量等を除いて同じであり、詳細な説明を省略する。ライダーロール5aのための駆動装置60は、巻回体94の回転動作を補助することが目的であるため、加減速トルク補償を行わない。そのため、駆動装置60は、加減速トルク補償信号を加算するための加算器を含まなくともよい。
駆動システム100は、ペーパーロール6と、ペーパーロール6の駆動のための駆動装置70と、スリッタ7と、スリッタ7のための駆動装置80とを有している。
ペーパーロール6は、スリッタ7や張力検出器8aを設置するために、巻戻枠2から巻き戻されているシート材92の搬送角度を変えて水平に近い状態にするために設けられている。また、ペーパーロール6は、シート材92の巻取速度を制御することを補助する。ペーパーロール6は、駆動装置70で駆動される。駆動装置70は、電動機71と駆動部72とトルク制御部73と速度制御部74と速度検出器75と減算器77とを有している。これらについては、ライダーロール5aを駆動するための駆動装置60と同様であり、詳細な説明を省略する。
駆動システム100は、スリッタ7と、スリッタ7を駆動するための駆動装置80とをさらに有している。スリッタ7は、巻戻枠2から巻き戻され、ペーパーロール6を介して搬送されているシート材92を搬送方向に平行な方向に裁断して、複数の巻回体94を形成することができる。駆動装置80は、電動機81と駆動部82とトルク制御部83と速度制御部84とを有している。これらは、速度検出器および減算器がない点でライダーロール5aおよびペーパーロール6のための駆動装置60および70と相違するが他の点では同じであるので、詳細な説明を省略する。スリッタ7のための駆動装置80は、速度帰還制御を行わないオープンループの速度制御を用いた駆動装置である。
シート材92の巻き取りのためのドラム駆動軸4aを駆動する駆動装置50、ライダーロール5aを駆動する駆動装置60、ペーパーロール6を駆動する駆動装置70、およびスリッタ7を駆動する駆動装置80は、速度制御装置40の速度基準設定部41が出力する速度基準信号ωrにしたがって動作し、すべての駆動装置50〜80が同じ速度でシート材92を搬送するように動作する。
以上説明したように、巻き戻しのための駆動装置30と、巻き取りのための駆動装置50〜80は、シート材92を介して連動して動作する。巻回体90は、矢印a1の向き、すなわち時計まわりにシート材92が巻き戻されるように回転する。巻回体90から巻き戻されたシート材92は、巻回体90とペーパーロール6との間で矢印a2の向き、すなわち巻回体90からペーパーロール6の向きに搬送される。ペーパーロール6は、矢印a3の向き、すなわち反時計まわりに回転する。ペーパーロール6と巻き取り側の巻回体94との間では、シート材92は矢印a4の方向、すなわちペーパーロール6から巻回体94の向きに搬送される。ドラム駆動軸4a、リアドラム4bおよびフロントドラム4cは、反時計まわりの向きa5〜a7に回転し、巻回体94を時計まわりに回転させ、シート材92を巻き取る。なお、ライダーロール5aおよびライダー駆動軸5bは、反時計まわりの向きa8〜a9で回転する。
張力制御された巻き戻しのためのシート材92を駆動する駆動装置は、シート材92の搬送方向とは逆方向の力である張力を加えるように動作する。シート材92は、張力制御装置10の張力基準設定部11が出力する張力基準信号Frに基づいて生成される制御トルク信号T3にしたがって張力制御される。
次に、本実施形態の張力制御装置10の動作の詳細について説明する。
図2は、本実施形態の張力制御装置の動作を説明するための、駆動システムの要部の動作波形を表すタイミング図である。
図2の最上段の波形aは、速度制御装置40の速度基準設定部41から出力される速度基準信号ωrの動作波形例である。図2の2段目の波形bは、速度制御装置40によって制御されているドラムドラム駆動軸4aの実負荷トルクτd0の動作波形の例である。図2の3段目の波形cは、ドラム駆動軸4aに出力されるトルク制御部53の制御トルク信号τdの動作波形例である。図2の4段目の波形dは、ドラム駆動軸4aの実際の回転速度を示す速度検出信号ωdの動作波形の例を示している。図2の5段目の波形eは、ドラム駆動軸4aの速度偏差信号(ωr−ωd)(=Δω、以下、Δωとも表記する。)を示す。図2の6段目の波形fは、張力制御装置10の微分器12から出力される偏差加速度信号d(ωr−ωd)/dt(=Δαd、以下Δαdと表記する。)の動作波形の例である。図2の7段目の波形gは、巻戻枠2の側の出力トルクTuwの動作波形の例である。図2の8段目の波形hは、巻戻枠2の実際の回転速度ωuwの動作波形の例である。図2の最下段の波形kは、シート材92の実際の張力を示す張力検出信号Fdの波形を示している。図2に示すように、各時刻t0〜t15については、すべての波形a〜kについて同じ時間軸として用いられる。
図2最上段の波形aでは、速度基準信号ωrは、あらかじめ設定され、たとえば速度制御装置40内に設けられた記憶部41aに格納されている。時刻t0は、駆動システム100の動作開始時刻を表す。速度基準信号ωrは、時刻t1から上昇を開始し、時刻t4で一定値に到達する。製紙設備で用いられる抄紙機械の場合、典型的には、時刻t1からt4まで30秒程度である。速度基準信号ωrは、一定値を維持した後、たとえば巻き取り動作の完了により、時刻t11で下降を開始し、時刻t14で0になる。時刻t15において、駆動システム100は停止する。時刻t11からt14までの時間は、抄紙機械の場合、典型的には30秒程度である。
図2の2段目の波形bに示すようにτd0=B1は、シート材92の張力により発生する張力分駆動トルクτtenに相当する。張力分駆動トルクτtenは、張力により引っ張られているシート材92に抗する力に基づくトルクであり、正の値を示す。τd0=B2−B1は、駆動装置50等の機械損に相当する駆動トルクτmecである。電動機51や回転機構等の摩擦等によって駆動損失が発生し、駆動損失の抗してトルクを発生させる必要があるため、B2>B1である。τd0=B3−B2は、加減速トルク補償信号τwの大きさに相当する。
時刻t0〜t1において、駆動システム100が起動して、張力制御装置10の側でシート材92を引っ張るように張力Fdを発生させるので、速度制御装置40の側の駆動軸には、その張力Fdに相当する張力分駆動トルクτtenが発生する。波形cに示すように、駆動装置50は、トルク基準信号としてτtenに相当するトルク信号が生成されている。なお、波形gに示すように、張力制御装置10の側の駆動装置30には、張力Fdに相当するトルクの値として−G1が生成されている。
時刻t1〜t2の期間では、波形aに示すように、速度基準信号ωrが立ち上がる。駆動装置50の制御トルク信号は、加減速トルク信号の作用によって、波形bに示すように実負荷のトルクに追従してB2からB3まで上昇する。また、波形hに示すように、張力制御装置10の側の駆動装置30もシート材92に引かれて回転し始めるので、速度差に応じて出力トルクも−G1(<0)からG2(>0)に上昇する。
時刻t2〜t3の期間では、波形aに示すように、速度基準信号ωrは、定加速度となる。したがって、駆動装置50の実負荷トルクおよびこれに追従する出力トルクτdは、一定値B3となる。張力制御装置10の側の駆動装置30の出力トルクTuwも一定値−G3となる。
時刻t3〜t4の期間では、波形aに示すように、速度基準信号ωrの変化率、すなわち加速度は次第に低下する。そのため、速度制御装置40の側の駆動装置50の出力トルクτdも張力制御装置10の側の駆動装置30の出力トルクTuwも低下する。
時刻t4〜t5の期間では、波形aに示すように、速度基準信号ωrが一定となるので、速度制御装置40の側の駆動装置50の出力トルクτdはほぼ一定値となり、張力制御装置10の側の駆動装置30の出力トルクTuwもほぼ一定の値となる(波形g)。
波形e,fに示すように、時刻t0〜t5の期間では、速度の時間変化が小さいので、速度制御装置40の側では、速度検出信号ωdが速度基準信号ωrに追従し、速度偏差信号Δωは実質的に発生しない。張力制御装置10の側の駆動装置30は、速度基準信号ωrの時間変化に基づくトルク変動を、微分器19および乗算器20からなる加減速トルク補償回路によって認識できる。また、張力検出器8aによる張力の変動としても認識することが可能である。そのため、駆動装置30の出力トルクTuwは、駆動装置50の実負荷トルクτd0に追従することができ、一定の張力Fdを維持することができる(波形k)。
時刻t5〜t8の期間では、波形bに示すように、実際の負荷には、パルス状の外乱トルクが印加された例を示している。この例では、外乱トルクは、時刻t5で、振幅B4(>0)の外乱がステップ状に印加され、時刻t8でステップ状に消失するパルス状のトルク変動である。なお、すべての動作波形a〜kにおいて、時刻t5〜t10の期間では、他の期間よりも時間幅が広く示されている。張力検出器8aによる実張力を検出して張力補正を行う場合には、10秒程度の応答時間を要することから、外乱パルスのパルス幅を7秒と設定し、時刻5t〜t10の期間をパルス応答期間として10秒に設定し、波形cの時間軸には、1秒ごとの目盛の時間軸を合わせて表示している。
波形cに示すように、時刻t5〜t10の期間では、パルス状の外乱に応答して、出力トルク応答を生じている。出力トルクτdの応答は、駆動装置50の制御系の応答遅れに起因して、制御誤差トルクを生じている。すなわち、時刻t5〜t6の期間では、波形c1は、ステップ変動に対してゆっくりと立上り、時刻t6〜t7の期間では、波形c2は、オーバシュートし、ステップ変動の振幅を超えている。時刻t8〜t9の期間では、波形c3は、ステップ変動に対してゆっくりと下降を開始し、時刻t9〜t10の期間では、波形c4は、張力トルクに対してアンダシュートを生じた後一定値に整定されている。
波形dに示すように、時刻t5〜t10の期間では、パルス状の外乱に応答して、実速度ωdに変動が生じている。すなわち、時刻t5〜t6の期間の波形d1では、外乱によるトルクの上昇変動に応じて、実速度ωdは低下し、時刻t6〜t7の期間の波形d2では、速度検出信号ωdは一定値まで上昇している。時刻t8〜t9の期間では、外乱トルクの低下に応じて、速度検出信号ωdは上昇し、時刻t9〜t10の期間では、速度検出信号ωdは一定値に向かって下降している。
波形eに示すように、時刻t0〜t5の期間および時刻t10〜t15の期間では、実際の回転速度を示す速度検出信号ωdは、速度基準信号ωrに追従しているので、速度偏差信号(ωr−ωd)=Δω=0である。一方、外乱ステップに対して応答動作をしている時刻t5〜t10の期間では、速度変化が生じているので、速度偏差信号Δω≠0となっている。すなわち、時刻t5〜t6の期間の波形e1では、外乱によるトルクの上昇変動に応じて、速度偏差信号Δωは上昇し、時刻t6〜t7の期間の波形e2では、速度偏差信号Δωは0に戻っている。時刻t8〜t9の期間では、外乱トルクの低下に応じて、速度偏差信号Δωは負の値に下降し、時刻t9〜t10の期間では、速度偏差信号Δωは0に戻っている。
波形fに示すように時刻t5〜t10の期間では、速度偏差信号Δω≠0なので、偏差加速度信号Δαd≠0であり、Δαdは、Δωの上昇または下降に応じて波形が決定されている。すなわち、時刻t5〜t6の期間では、Δωの微係数が正なので、波形f1は、正の値を有する。時刻t6〜t7の期間では、Δωの微係数は負なので、波形f2は負の値を有する。時刻t8〜t9の期間では、Δωの微係数は負なので、波形f3は負の値を有する。時刻t9〜t10の期間では、Δωの微係数は正なので、波形f4は正の値を有する。
波形gに示すように、時刻t5〜t10の期間においては、外乱パルスが印加されていない期間の制御トルク信号T3の大きさとほぼ変わらないほぼ一定の大きさの制御トルク信号T3(=−G3)を出力している。したがって、波形kに示すように、張力検出信号Fdはほぼ一定値に保たれる。波形gと同時に示される破線g1は、張力制御装置10が速度補償トルク信号T1を生成する微分器12および乗算器13を備えていない場合のトルク基準信号の変化を示している。破線g1は、時刻t5〜t7'の期間では、外乱パルスの印加によって速度制御装置40側の負荷の速度が低下しているために、出力トルクの絶対値が低下し、シート材92の張力検出信号Fdが低下していることが示されている(最下段の破線で示される波形k1)。ここで、時刻t7'は時刻t7と時刻t8との間の時刻である。また、時刻t8〜t10'の期間では、外乱パルスが消滅したため、負荷の速度が急に増加し出力トルクTuwの絶対値が増大している。そのため張力検出信号Fdが大きく変動している(最下段の破線で示される波形k1)。ここで、時刻t10'は、時刻t10と時刻t11との間の時刻である。
波形hに示すように巻戻枠2は、シート材92を介して巻取芯3に結合され、波形kに示すように実張力を示す検出信号Fdがほぼ一定値に保たれているので、張力制御装置10側の回転速度は、速度制御を行っている巻取芯3を駆動する駆動装置50によって設定される回転速度とほぼ同じ動作波形を示す。すなわち、時刻t5からt6の期間では、波形h1は、波形d1と同様に外乱に応じて低下し、時刻t6〜t7の期間では、波形h2は、波形d2と同様に一定値に復帰する。外乱消滅時においては、時刻t8〜t9の期間では、波形h3は、波形d3と同様に上昇し、時刻t9〜t10の期間では、波形h4は、波形d4と同様に下降する。図2では、時刻t5における張力検出器8aによって検出される実際の張力検出信号Fdを張力補正部17で補正する場合の系の応答速度を示す傾きを有する直線hc1を合わせて示している。直線hc2は、張力によるトルク差に基づく速度変化の割合を示している。直線hc3,hc4は、それぞれ張力補正部17によって補正する場合の応答速度および張力によるトルク差に基づく速度変化の割合を合わせて示している。これらの直線hc1〜hc4の傾きに基づく変化率は、実際の速度変化を表す波形h1,h3の変化率に比べて非常に小さく、加減速トルク補償や、張力補正によっては、速度変化に追従することができないことを示している。
なお、実際には、巻回体90は、その中心である巻戻枠2を駆動しているので、時間とともに径が減少するため、実速度ωuwは増加し、出力トルクTuwは減少する。図2では、その変化が小さいので一定として示されている。
時刻t11〜t15の期間の動作については、時刻t0〜時刻t4の期間の動作の符号または動作順が相違することを除いて同じなので、詳細な説明を省略する。
本実施形態の張力制御装置10の作用と効果について説明する。
本実施形態の張力制御装置10では、速度制御装置40によって速度制御を行っている巻取芯3のための駆動装置50の出力トルクτdと実負荷トルクτd0との偏差の積分値が、速度基準信号ωrと実際の速度を示す速度検出信号ωdとの偏差に比例することを利用する。駆動装置50は、ドラム駆動軸4aを介して巻取芯3に巻回された巻回体94を回転駆動する。駆動装置50の出力トルクτd、実負荷トルクτd0、速度基準信号ωr、実際の回転速度である速度検出信号ωd、巻回体94の慣性モーメントJ、駆動装置50の速度制御部54の比例ゲインKp、および速度制御部54の積分ゲインKIとすると、以下の関係が成り立つ。
速度制御装置40によって制御される駆動装置50は、PI制御によって負荷の速度制御を行う。図2の波形cに示すように、実負荷トルクτd0が増加すると、トルク偏差(τd−τd0)は負の値となる。速度制御部54は、トルク偏差(τd−τd0)を積分しながら式(1)にしたがって、実際の速度を低下させる。速度検出信号ωdの低下によって、速度偏差信号Δωが増加するため、式(2)に示す速度制御の比例積分制御により駆動装置50の出力トルクτdが増加する。この出力トルクτdが外乱負荷の実負荷トルクτd0に釣り合うまで速度検出信号ωdは低下するが、積分要素を有する速度制御系では、回転速度偏差がゼロになるまで積分を継続するので出力トルクτdは増加を続ける。そして、速度偏差信号Δωの低下とともに出力トルクτdも外乱の実負荷トルクτd0に近づいて行き、一致したところで定常状態となる。
式(1)は一般的に成立し、偏差加速度信号に比例するトルク偏差の信号を、偏差加速度を生成している駆動装置50以外の駆動装置に用いることができる。つまり、本実施形態の張力制御装置10では、速度制御装置40によって制御されている駆動装置50の偏差加速度信号Δαdを用いて、速度制御装置40側の速度変化に追従した速度補償トルク信号T1を生成する。そして、生成された速度補償トルク信号T1は、張力制御装置10のトルク制御のために用いられる。本実施形態の張力制御装置10では、偏差加速度信号Δαdに比例する速度補償トルク信号T1を用いて、張力制御装置10が生成する基準トルク信号T2,T2'を補償する。したがって、張力制御装置10は、速度制御装置50側の速度変化に追従した制御トルク信号T3を生成し、この制御トルク信号T3を用いてトルク制御を行うことによって適切な張力制御を行うことができる。
本実施形態の張力制御装置10では、外乱パルスによって、偏差加速度信号Δαdが正の値を示した場合(波形f1)には、速度補償トルク信号T1がΔαdに比例して大きくなる。速度補償トルク信号T1は、張力基準信号Frに基づいて設定される張力基準トルク信号T2,T2'(<0)から差し引かれるので、制御トルク信号T3の絶対値が小さくなることを妨げるように作用する。そのため、駆動装置30に供給される制御トルク信号T3は、偏差加速度信号Δαdが増大してもほぼ一定の値が維持される。制御トルク信号T3が一定の値を維持するように動作するので、正の外乱パルスが印加された場合には、速度検出信号ωdの低下にともなって張力が低下するのを防止する。図2の時刻t8において外乱パルスが消滅する場合については、偏差加速度信号Δαdが負の値を示すので、速度補償トルク信号T1の絶対値は、偏差加速度信号Δαdの大きさに比例して大きくなる。速度補償トルク信号T1は、基準トルク信号T2,T2'に実質的に加算されることになるので、制御トルク信号T3の絶対値が大きくなることを妨げるように作用する。外乱パルスの消滅によって巻取芯3の速度が増大し、巻戻枠2が負荷の慣性により直前の速度を維持しようとするため張力は急激に増大しようとする。しかし、上述のように、速度補償トルク信号T1によって制御トルク信号T3が増大することを妨げられるので、制御トルク信号T3はほぼ一定となり、張力の急激な増大を抑制することができる。これらを換言すれば、シート材92の搬送速度が急に低下したときには、張力制御装置10は、シート材92を引っ張る力を強めるように動作する。シート材92の搬送速度が急に増大したときには、張力制御装置は、シート材92を引っ張る力を抑えるように動作する。このようにして、印加された外乱に対して張力変動を低減することができる。
本実施形態の張力制御装置10では、速度制御装置40の側の速度偏差信号Δωの信号を入力して偏差加速度信号Δαdを出力する微分器12と、巻回体90の径に基づく慣性モーメントJuwと偏差加速度信号Δαdを乗じる乗算器13と、を備えている。そのため、張力制御装置10は、速度制御装置40の側の偏差加速度信号Δαdに比例した速度補償トルク信号T1を生成することができる。張力制御装置10は、張力に基づいて生成された基準トルク信号T2,T2'と、生成された速度補償トルク信号T3とを入力して減算する減算器14を備えている。そのため、張力に基づいて生成された基準トルク信号T2,T2'を、偏差加速度信号Δαdに比例する速度補償トルク信号T3によって補償して、制御トルク信号T3を出力することができる。この制御トルク信号T3は、速度制御装置40側の実速度ωdの低下の時間変化が大きい場合には、その絶対値が大きくなるので、出力トルクTuwが低下するのを妨げるように作用する。また、速度補償された制御トルク信号T3は、速度制御装置40側の速度検出信号ωdの上昇の時間変化が大きい場合には、絶対値が小さくなり、出力トルクTuwが増大しようとするのを妨げる。したがって、応答遅れの少ない張力制御を行うことができる。
上述したように、本実施形態の張力制御装置10では、外乱に対する応答を速度制御装置40の側の回転速度の偏差を用いており、単一の制御系で張力制御を行うこととなり、乱調、ハンチング等による制御不安定等の問題は生じない。
(第2の実施形態)
第1の実施形態の張力制御装置では、速度制御を行う巻取芯3の速度偏差信号を入力して、巻戻枠2のトルク補償を行うことによって張力制御を行うこととした。しかし、張力制御装置は、速度制御装置とシート材を介して張力制御を行っていればよく、速度制御装置側がシート材の巻き取りを行い、張力制御装置側がシート材の巻き戻しを行う場合に限られない。以下説明するように、速度制御装置側がシート材を巻き戻し、張力制御装置側がシート材の巻き取りを行う場合であってもよい。
図3は、本実施形態に係る張力制御装置と、この張力制御装置を備えたシート材の駆動システムの構成の一例を表すブロック図である。
本実施形態の駆動システムでは、巻戻枠2に巻回された巻回体90からシート材92を、速度制御装置40によって速度制御されたカレンダ装置210を介して、巻取芯3にシート材92を巻き取る。巻戻枠2および巻取芯3ともに、カレンダ装置210を駆動する駆動装置の速度偏差信号Δωを入力して張力制御を行う張力制御装置である。
駆動システム200は、第1張力制御装置10aと、速度制御装置40と、第2張力制御装置10bと、を備える。駆動システム200は、第1張力制御装置10aによって制御される駆動装置30aと、駆動装置30aによって駆動される、シート材92が巻回された巻戻枠2とをさらに備える。駆動システム200は、速度制御装置40によって制御される駆動装置50と、駆動装置50によって駆動されるカレンダ装置210と、をさらに備える。駆動システム200は、第2張力制御装置10bによって制御される駆動装置30bと、駆動装置30bによって駆動される巻取芯3とをさらに備える。
カレンダ装置210は、その中心が鉛直方向に配列された複数のロール212を有している。カレンダ装置210は、上部から投入されたシート材92を、隣接するロール212間に挟んで左右に搬送しつつ下方に搬送する、そして、シート材92は、最下段のロール212から巻取芯3に出力される。シート材92は、隣接するロール212間を通過しながら、シート材92である紙の光沢仕上げ等の表面加工を行う。カレンダ装置210の駆動軸214は、駆動装置50によって回転駆動される。なお、第1張力制御装置10aおよび駆動装置30aの構成、動作は、第1の実施形態の駆動システム100と同一であり、また、駆動装置50および速度制御装置40は、第1の実施形態の駆動装置50および速度制御装置40と同一であり詳細な説明を省略する。
第2張力制御装置10bおよび駆動装置30bの構成は、第1の実施形態の張力制御装置10および駆動装置30とそれぞれ同一である。
本実施形態の張力制御装置10bにおいては、速度制御装置40によって制御される駆動装置の速度偏差を入力して、速度補償トルク信号T1を生成する。シート材92に図2の波形bの場合と同様の正の外乱トルクが印加されたときには、カレンダ装置210の速度が低下する。したがって、偏差加速度信号Δαdは正となり、速度補償トルク信号T1の絶対値は増大して制御トルク信号T3を増大させるように作用する。正の外乱トルクが消滅したときには、カレンダ装置210の速度は増大するので、偏差加速度信号Δαdは負の値となる。したがって、速度補償トルク信号T1は、制御トルク信号T3を減少させるように作用する。これらの結果として、第1の実施形態の駆動システムの場合と同様に、シート材92の実際の張力を示す張力検出信号Fdがほぼ一定に保たれる。このように、張力制御装置および速度制御装置が、いずれが巻き戻しを行い、巻き取りを行う場合でも、第1の実施形態の場合において詳細に説明したことと同様に、張力制御を行うことができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。