以下、本発明を具体化したブレーキ制御システムの一実施形態を説明する。
図1は本実施形態のブレーキ制御システムを示す全体構成図である。
本実施形態のブレーキ制御システム1は、例えば走行用動力源としてエンジンを搭載したエンジン車両、電動モータを搭載した電気自動車、エンジン及び電動モータを搭載したハイブリッド車両等の各種車両に備えられ、当該車両の各車輪にそれぞれ設けられたディスクブレーキ2のホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RL(車輪ブレーキ)に接続されている。
ブレーキ制御システム1は、ブレーキ操作と連動したマスタシリンダ7からの液圧伝達により各ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLに制動力を付与する旧来の液圧式ブレーキシステム(システムがオフのときに機能し、このときの制御モードをバックアップモードという)に加えて、ブレーキ操作に基づき電動モータ8(電動アクチュエータ)で駆動されるスレーブシリンダ9からの液圧伝達により各ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLに制動力を付与する所謂ブレーキバイワイヤシステム(通常のブレーキ操作時に機能し、このときの制御モードをバイワイヤモードという)を備えている。
このようなシステム構成のために、ブレーキ制御システム1は大きく分けてマスタシリンダ装置4、スレーブシリンダ装置5及び液圧制御ユニット6から構成されている。
マスタシリンダ装置4は、運転者のブレーキ操作に応じてマスタシリンダ7内でブレーキ液を加圧し、その液圧を利用して、バックアップモードでは各ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLに制動力を発生させ、バイワイヤモードではストロークシミュレータ35により擬似的なペダル反力を生成する機能を奏する。
スレーブシリンダ装置5は、バイワイヤモードにおいてブレーキ操作に応じて電動モータ8の駆動によりスレーブシリンダ9内でブレーキ液を加圧し、その液圧により各ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLに制動力を付与する機能を奏する。
液圧制御ユニット6は、マスタシリンダ装置4やスレーブシリンダ装置5から供給されるブレーキ液を各種切換弁により適宜切り換えたり、必要に応じて電動モータ84で駆動される液圧ポンプ81によりブレーキ液を加圧したりする。そして、それらのブレーキ液を各ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLに供給することにより、運転者のブレーキ操作や車両の走行状況等に応じて各ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLの制動力を個別制御する機能を奏する。
このような機能分担のために、マスタシリンダ装置4、スレーブシリンダ装置5及び液圧制御ユニット6は液圧管路を介して互いに接続されている。
具体的には、マスタシリンダ装置4の第1及び第2出力ポート11a,11bには第1及び第2マスタ管路12a,12bの一端が接続され、スレーブシリンダ装置5の第1及び第2出力ポート13a,13bには第1及び第2スレーブ管路14a,14bの一端が接続されている。これらの第1マスタ管路12aと第1スレーブ管路14aの他端は合流して第1共通管路15aの一端に接続され、第1共通管路15aの他端は液圧制御ユニット6の第1入力ポート16aに接続されている。同様に、第2マスタ管路12bと第2スレーブ管路14bの他端は合流して第2共通管路15bの一端に接続され、第2共通管路15bの他端は液圧制御ユニット6の第2入力ポート16bに接続されている。
また、液圧制御ユニット6の一対の第1出力ポート17aは第1ホイール管路18aを介してホイールシリンダ33RR,3FLにそれぞれ接続され、液圧制御ユニット6の一対の第2出力ポート17bは第2ホイール管路18bを介してホイールシリンダ3FR,3RLにそれぞれ接続されている。
以上の各構成要素の接続により、バイワイヤモードでは、スレーブシリンダ装置5からのブレーキ液が第1及び第2スレーブ管路14a,14bから第1及び第2共通管路15a,15bを経て液圧制御ユニット6に供給され、バックアップモードでは、マスタシリンダ装置4からのブレーキ液が第1及び第2マスタ管路12a,12bから第1及び第2共通管路15a,15bを経て液圧制御ユニット6に供給される。そして、それらのブレーキ液は、液圧制御ユニット6から第1及び第2ホイール管路18a,18bを経て各ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLに供給されて制動力の付与に供される。
また、液圧制御ユニット6の作動時(後述する姿勢制御やABS制御)には、各ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLに供給されるブレーキ液の個別制御により、それぞれのホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLに最適な制動力が付与される。
以下、マスタシリンダ装置4、スレーブシリンダ装置5、液圧制御ユニット6の詳細な構成を順次説明する。
まず、マスタシリンダ装置4について述べると、マスタシリンダ装置4のマスタシリンダ7は、内部に第1及び第2ピストン20a,20bが直列に配置されたタンデム型として構成され、各ピストン20a,20bはそれぞれ外周に一対のカップシール21を嵌着されてマスタシリンダ7内で進退動作し得る。以下、説明の便宜上、これらのピストン20a,20b及び後述するスレーブシリンダ9のピストン42a,42bの図中の左方への摺動を「前進」、図中の右方への摺動を「後退」と称し、それに伴い図中の左方を「前方」、図中の右方を「後方」と称する。
結果としてマスタシリンダ7内において、第1及び第2ピストン20a,20bの間に第1圧力室22aが画成され、第2ピストン20bの前側に第2圧力室22bが画成され、さらに各ピストン20a,20bの外周(カップシール21間)には第1及び第2背室23a,23bがそれぞれ画成されている。
マスタシリンダ7上にはブレーキ液を貯留したリザーブタンク24が配設され、このリザーブタンク24内は、マスタシリンダ7に形成されたリリーフポート25を介して第1及び第2圧力室22a,22bとそれぞれ連通すると共に、同じくマスタシリンダ7に形成されたサプライポート26を介して第1及び第2背室23a,23bとそれぞれ連通している。
第1及び第2圧力室22a,22b内にはそれぞれ圧縮バネ27が配設され、これらの圧縮バネ27により第2ピストン20bが後方に付勢されると共に、第1及び第2ピストン20a,20bが離間方向に付勢されている。第1ピストン20aの後端にはプッシュロッド28の一端が当接し、プッシュロッド28の他端はブレーキペダル29(ブレーキ操作子)に接続されている。
ブレーキペダル29の踏込みに連動して圧縮バネ27の付勢力に抗して第1及び第2ピストン20a,20bが前進すると、第1及び第2圧力室22a,22b内のブレーキ液が加圧される。また、ペダル踏込みが解除されると、圧縮バネ27の付勢力により第1及び第2ピストン20a,20bが後退して第1及び第2圧力室22a,22b内でのブレーキ液の加圧が中止される。
マスタシリンダ7の第1圧力室22aには第1圧力路31a(流路)の一端が接続され、第1圧力路31aの他端は上記した第1出力ポート11aに接続されている。同様に、マスタシリンダ7の第2圧力室22bには第2圧力路31b(流路)の一端が接続され、第2圧力路31bの他端は上記した第2出力ポート11bに接続されている。第1圧力路31aには常開型の第1マスタカット弁32aが介装され、その上流側(マスタシリンダ7側)には液圧を検出する第1液圧センサ33aが接続されている。第2圧力路31bには常開型の第2マスタカット弁32bが介装され、その下流側(反マスタシリンダ7側)には液圧を検出する第2液圧センサ33b(液圧検出手段)が接続されている。
第1マスタカット弁32aの閉弁時において第1液圧センサ33aによりマスタシリンダ圧Pmが検出され、第2マスタカット弁32bの閉弁時において第2液圧センサ33bによりスレーブシリンダ圧Ppが検出される。
第1圧力路の第1液圧センサ33aよりも上流側にはシミュレータ路34の一端が接続され、シミュレータ路34の他端にはストロークシミュレータ35が接続され、シミュレータ路34上には常閉型のシミュレータ弁36が介装されている。ストロークシミュレータ35内にはピストン37と共に強弱2種の圧縮バネ38,39が配設され、ピストン37は、シミュレータ路34側からブレーキ液の液圧を受ける一方、反対側から各圧縮バネ38,39の付勢力を受けている。
バックアップモードではマスタシリンダ装置4の全ての弁32a,32b,36が消磁され、第1及び第2マスタカット弁32a,32bが開弁状態に、シミュレータ弁36が閉弁状態に保持される。このため、ブレーキ操作に応じた第1及び第2ピストン20a,20bの前進により第1圧力室22a内で加圧されたブレーキ液は、ストロークシミュレータ35側への流通をシミュレータ弁36により阻止されながら、第1圧力路31aを経て第1出力ポート11aに案内される。
同時に、第2圧力室22b内で加圧されたブレーキ液は、第2圧力路31bを経て第2出力ポート11bに案内される。そして、それぞれのブレーキ液は、第1及び第2出力ポート11a,11bから第1及び第2マスタ管路12a,12b、第1及び第2共通管路15a,15b、液圧制御ユニット6を経て各ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLに供給される。
また、ペダル踏込みが解除されると、第1及び第2ピストン20a,20bの後退に伴って各ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RL側から戻されたブレーキ液が、上記とは逆の経路を経て第1及び第2圧力室22a,22b内に回収される。また、第1及び第2ピストン20a,20bの後退に伴い、リザーブタンク24内のブレーキ液がリリーフポート25を経て第1及び第2圧力室22a,22b内に適宜補充される。
一方、バイワイヤモードでは、運転者によるブレーキ操作時に全ての弁32a,32b,36が励磁され、第1及び第2マスタカット弁32a,32bが閉弁状態に、シミュレータ弁36が開弁状態に保持される。このため、マスタシリンダ7の第1及び第2圧力室22a,22b内で加圧されたブレーキ液の第1及び第2出力ポート11a,11bへの流通が第1及び第2マスタカット弁32a,32bにより阻止される。
そして、第1圧力室22aからのブレーキ液が第1圧力路31aからシミュレータ路34を経てストロークシミュレータ35に案内され、その液圧を受けてピストン37が圧縮バネ38,39を撓ませながら摺動する。この摺動抵抗によりブレーキペダル29にはストロークに応じた反力が生成され、あたかも自己の踏力で制動力を発生させている操作感を運転者に与える。
次いで、スレーブシリンダ装置5の構成を述べる。
上記したマスタシリンダ装置4と同じく、スレーブシリンダ装置5のスレーブシリンダ9はタンデム型として構成され、その内部には第1及び第2ピストン42a,42bが直列に配置されて、それぞれ外周に一対のカップシール43を嵌着されてスレーブシリンダ9内で進退動作し得る。
これによりスレーブシリンダ9内において、第1及び第2ピストン42a,42bの間に第1圧力室44aが画成され、第2ピストン42bの前側に第2圧力室44bが画成され、さらに各ピストン42a,42bの外周(カップシール43間)には第1及び第2背室45a,45bがそれぞれ画成されている。そして、これらの第1及び第2圧力室44a,44b内と連通するように、上記した第1及び第2出力ポート13a,13bがスレーブシリンダ9に形成されている。
スレーブシリンダ9上にはブレーキ液を貯留したリザーブタンク47が配設され、リザーブタンク47内は図示しない配管を介してマスタシリンダ7側のリザーブタンク24内と連通している。リザーブタンク47内は、スレーブシリンダ9に形成されたリザーバポート48を介して第1及び第2背室45a,45bとそれぞれ連通し、各背室45a,45b内までブレーキ液が導かれている。
第1及び第2圧力室44a,44b内にはそれぞれ圧縮バネ49が配設され、これらの圧縮バネ49により第2ピストン42bが後方に付勢されると共に、第1及び第2ピストン42a,42bが離間方向に付勢されている。第2ピストン42bには前後方向に延びる長孔50が貫設され、この長孔50内にはストッパピン51が挿入されて両端をスレーブシリンダ9に固定されている。また、第2ピストン42bの後端にはストッパピン52の一端が固着され、ストッパピン52の他端は、第1ピストン42aの前端に形成されたストッパ孔53内に前後動可能且つ離脱不能に挿入されている。これらのストッパピン51,52により、スレーブシリンダ9内での第1及び第2ピストン42a,42bの進退動作が所定ストロークで規制されるようになっている。
スレーブシリンダ9の右端には、第1及び第2ピストン42a,42bを駆動するための電動モータ機構55が配設されている。電動モータ機構55のハウジング56はスレーブシリンダ9の後端に結合され、ハウジング56内には第1ピストン42aと同一軸線となるようにプッシュロッド57が配設されている。プッシュロッド57は、その前端を第1ピストン42aの後端に当接させると共に、図示しない規制部材により軸線を中心とした回転を規制されている。プッシュロッド57には送りナット58が外嵌され、前後一対のボールベアリング59により回転可能に支持されている。プッシュロッド57の外周面には螺旋状のネジ溝が形成され、このネジ溝内には多数のボール60が配設されてそれぞれ送りナット58の内周面に螺合している。
送りナット58の外周には被動ギヤ61が形成され、ハウジング56内において被動ギヤ61は中間ギヤ62を介して駆動ギヤ63と噛合している。駆動ギヤ63はハウジング56外に取り付けられた電動モータ8の出力軸に固定され、電動モータ8の回転が駆動ギヤ63から中間ギヤ62を介して被動ギヤ61に伝達される。被動ギヤ61と一体で送りナット58が回転すると、その回転運動はボール60を介して前後方向の直線運動に変換され、送りナット58の回転方向に応じてプッシュロッド57が前進または後退する。
そして、前進したプッシュロッド57に押圧されて第1及び第2ピストン42a,42bが前進すると、第1及び第2圧力室44a,44b内のブレーキ液が加圧される。加圧されたブレーキ液は、第1及び第2圧力室44a,44bから第1及び第2出力ポート13a,13b、第1及び第2スレーブ管路14a,14b、第1及び第2共通管路15a,15b、液圧制御ユニット6を経て各ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLに供給される。
逆にプッシュロッド57が後退すると、圧縮バネ49の付勢力により第1及び第2ピストン42a,42bが後退する。このため、第1及び第2圧力室44a,44b内でのブレーキ液の加圧が中止されると共に、各ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RL側から戻されたブレーキ液が上記とは逆の経路を経て第1及び第2圧力室44a,44b内に回収される。また、第1及び第2ピストン42a,42bの後退により第1及び第2圧力室44a,44b内に負圧が発生して背室45a,45bとの間に圧力差が生じると、カップシール43を弾性変形させながら背室45a,45b内のブレーキ液が第1及び第2圧力室44a,44b内に適宜補充される。
次いで、液圧制御ユニット6の構成を述べる。
液圧制御ユニット6は、車両の右後輪及び左前輪のディスクブレーキ2のホイールシリンダ3RR,3FLに供給される液圧を制御する第1ブレーキ系66aと、右前輪及び左後輪のディスクブレーキ2のホイールシリンダ3FR,3RLに供給される液圧を制御する第2ブレーキ系66bとを有する。これらの第1及び第2ブレーキ系66a,66bは同一構成であるため、互いに対応する部材に同一番号を付すと共に、代表して第1ブレーキ系66aの構成を説明する。
第1ブレーキ系66aは、上記のように第1入力ポート16aを介してマスタシリンダ装置4及びスレーブシリンダ装置5側と接続される一方、一対の第1出力ポート17aを介してホイールシリンダ3RR,3FL側とそれぞれ接続されている。
第1入力ポート16aには入力路67の一端が接続され、入力路67の途中には常開型のホイールカット弁68(制御弁手段)を介して上流共通路69が接続されると共に、ホイールカット弁68に対して並列に、入力路67から上流共通路69へのブレーキ液の流通を許容(逆方向は阻止)する逆止弁70が接続されている。
ホイールカット弁68は開閉動作のみならず、励磁電流の制御に応じた開度調整によりブレーキ液の流量(ひいてはホイールシリンダ3RR,3FLに生じる液圧)を調整するレギュレータ機能を有している。上流共通路69は、常開型の入口弁71を介して一方の第1出力ポート17aに接続されると共に、常開型の入口弁72を介して他方の第1出力ポート17aに接続されている。これらの入口弁71,72には、それぞれ第1出力ポート17aから上流共通路69へのブレーキ液の流通を許容(逆方向は阻止)する逆止弁73,74が並列に接続されている。
また、各第1出力ポート17aはそれぞれ常閉型の出口弁75,76を介して下流共通路77の一端と接続され、下流共通路77の他端は常閉型のサクション弁78を介して上記した入力路67の他端に接続されている。下流共通路77上にはブレーキ液を一時的に貯留するためのリザーバ79、及び下流共通路77から入力路67へのブレーキ液の流通を許容(逆方向は阻止)する逆止弁80が介装されている。
さらに、入力路67の他端は液圧ポンプ81を介して上流共通路69に接続され、液圧ポンプ81の前後には、入力路67から上流共通路69へのブレーキ液の流通を許容(逆方向は阻止)する逆止弁82,83がそれぞれ介装されている。液圧ポンプ81は第2ブレーキ系66b側の液圧ポンプ81と共通の電動モータ84により回転駆動され、これによりブレーキ液を加圧して上流共通路69側に吐出する。
以上のように第1ブレーキ系66aが構成され、説明は省略するが第2ブレーキ系66bも同一構成である。但し、第1ブレーキ系66aにのみ、入力路67の第1入力ポート16a近傍の箇所に第3液圧センサ33cが接続されており、この第3液圧センサ33cによりスレーブシリンダ圧Ppが検出される。
通常の車両の走行中には液圧制御ユニット6は作動しておらず、第1及び第2ブレーキ系66a,66bの全ての弁68,71,72,75,76,78(逆止弁は除く)が消磁され、ホイールカット弁68及び入口弁71,72が開弁状態に、出口弁75,76及びサクション弁78が閉弁状態に保持される。このため運転者のブレーキ操作に応じてマスタシリンダ装置4或いはスレーブシリンダ装置5から供給されるブレーキ液は、ホイールカット弁68から各入口弁71,72を経てそれぞれのホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLに供給され、ブレーキ操作に応じた制動力が全ての車輪に付与される。
また、例えば旋回中の車両のステア特性を最適化するための姿勢制御、或いは制動中の車輪のロック抑制のためのABS(アンチロック・ブレーキ・システム)制御等では、液圧制御ユニット6が作動してそれぞれの制御が実行される。
例えば姿勢制御では、サクション弁78が励磁により開弁されると共に、電動モータ84により液圧ポンプ81が駆動される。スレーブシリンダ9側からサクション弁78を経て液圧ポンプ81にブレーキ液が吸入され、液圧ポンプ81による加圧後のブレーキ液がホイールカット弁68を経て各入口弁71,72に供給される。従って、旋回中の車両の姿勢に基づき制動力を加えるべき車輪を選択し、その車輪に対応する入口弁71,72を選択的に励磁して開弁しながら、ホイールカット弁68を励磁して開度調整することにより、選択した車輪に適切な制動力を付与して車両のステア特性を最適制御可能となる。
また、例えばABS制御では、各車輪に付設した車輪速センサ89(図2に示す)からの検出情報に基づきロック傾向の車輪を特定し、その車輪に対応する入口弁71,72の閉弁及び出口弁75,76の開弁によるブレーキ液圧の低下、出口弁75,76の閉弁によるブレーキ液圧の保持、入口弁71,72の開弁及び出口弁75,76の閉弁によるブレーキ液圧の増加の一連の処理を繰り返すことにより、ロック抑制を図りながら制動距離を短縮可能となる。
次に、本実施形態のブレーキ制御システム1の制御系について説明する。
図2は本実施形態のブレーキ制御システム1の制御系を示すブロック図である。
ブレーキ制御システム1の制御系は、マスタシリンダ装置4及びスレーブシリンダ装置5の制御を司るシリンダECU86と、液圧制御ユニット6の制御を司る液圧制御ECU87とに大別され、運転者によるブレーキ操作状況や車両の走行状態等に応じて、双方のECU86,87が連携しながらそれぞれの制御を実行する。
シリンダECU86及び液圧制御ECU87は、それぞれ図示しない入出力装置、制御プログラムや制御マップ等の記憶に供される記憶装置(ROM,RAM等)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタ等から構成されている。シリンダECU86には、マスタシリンダ装置4に付設された第1及び第2液圧センサ33a,33bと第1及び第2マスタカット弁32a,32b、スレーブシリンダ装置5に付設された電動モータ8が接続されると共に、車両のブレーキペダル29のストローク(操作量)を検出するブレーキストロークセンサ88が接続されている。
また、液圧制御ECU87には、液圧制御ユニット6の第1及び第2ブレーキ系66a,66bに付設された第3液圧センサ33c、ホイールカット弁68、入口弁71,72、出口弁75,76、サクション弁78及び電動モータ84が接続されると共に、ブレーキストロークセンサ88、車両の各車輪に設けられた車輪速センサ89、車両の前後方向の加速度を検出する加速度センサ90、車両のトランスミッションのポジション(D,N,Rレンジ等)を選択するためのセレクトレバー91、アクセルペダルのON,OFFを検出するアクセルセンサ92が接続されている。
なお、本実施形態では、ECU86はマスタシリンダ装置4に、ECU87は液圧制御ユニット6に設けられているが、その設置場所はこれに限るものではなく、例えばマスタシリンダ装置4に一体的に設けてもよい。
そしてシリンダECU86は、上記したようにバイワイヤモードではマスタシリンダ装置4の全ての弁32a,32b,36を励磁し、ストロークシミュレータ35を機能させると共に、運転者のブレーキ操作に応じてスレーブシリンダ装置5の電動モータ8を駆動制御し、これによりブレーキ液を加圧して各ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLに制動力を付与する。
また、このバイワイヤモードにおいて、登坂路等での車両停車等の所定のヒルホールド介入条件が成立すると、液圧制御ECU87は、液圧制御ユニット6のホイールカット弁68の閉弁により各ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLの液圧を保持して車両の後退りを防止するヒルホールド制御(保持制御)を実行する。
このようなヒルホールド制御は運転者のアクセル操作に基づき終了し、車両の発進を可能とすべく液圧制御ECU87によりホイールカット弁68が開弁されるが、[発明が解決しようとする課題]で述べたように、ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RL側から解放された液圧によりマスタカット弁32a,32bの開弁が妨げられるという問題がある。
以上の問題を鑑みて本発明者は、本来はバイワイヤモードに用いられるスレーブシリンダ装置5を利用してホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RL側からの液圧を吸収可能なことを見出した。
詳細については後述するが、そのために、通常はヒルホールド制御中にブレーキペダル戻しに応じて初期位置(最も後退した位置)まで戻されるスレーブシリンダ9のピストン42a,42bを途中の所定位置で停止保持し、その後のヒルホールド制御の終了によるホイールカット弁68の開弁時に、液圧吸収のためにピストン42a,42bを初期位置に向けて後退させている。以下、当該スレーブシリンダ装置5の制御を液圧吸収制御と称すると共に、説明の便宜上、このように停止保持したときのピストン42a,42bの初期位置からのストロークを予備ストロークと定義する。
そして、ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RL側からの液圧は、その直前のヒルホールド制御によるホールド圧(路面勾配θに応じて設定)と相関し、ホールド圧が高いほどホイールカット弁68の開弁によりマスタカット弁32a,32bに作用する液圧も高くなり、その液圧を吸収するために必要なスレーブシリンダ9のピストン42a,42bの後退ストロークも長くなることから、事前に長い予備ストロークを確保しておく必要がある。
予備ストロークの過不足は何れも不具合を生じ、予備ストロークの不足は、液圧の吸収作用が不足する要因になり、逆に予備ストロークの過大は、スレーブシリンダ9の圧力室44a,44b内(以下の説明では、単にスレーブシリンダ9内と表現する)に発生した負圧によってリザーブタンク47から新たなブレーキ液がスレーブシリンダ9内に導入されるため、更なる液圧の上昇の要因になり得る。
そこで、確実な液圧吸収のためには、ホールド圧に応じた最適な予備ストロークでスレーブシリンダ9のピストン42a,42bを停止保持することが望ましく、そのための2種の手法を第1及び第2実施形態として順次説明する。
[第1実施形態]
端的に表現すると、第1実施形態の手法は、ヒルホールド制御を開始する際のホールド圧の高低に応じて、ピストン42a,42bの後退によりスレーブシリンダ圧Ppが所定値(後述する与圧目標圧として設定される所定値Psc)まで低下するときのタイミングが相違する現象を利用したものである。所定値Pscに達するそれぞれのタイミングで後退中のピストン42a,42bを停止させることにより、ホールド圧に対応する予備ストロークを得ている。
図3は液圧制御ECU87が実行するヒルホールド制御ルーチンを示すフローチャートである。当該ルーチンは、登坂路等での車両の一時停止時にブレーキ液圧を保持して車両の後退りを防止するための処理であり、液圧制御ECU87により所定の制御インターバルで実行される。
まず、液圧制御ECU87は、ステップS1でヒルホールド介入条件が成立したか否かを判定し、No(否定)の場合には一旦ルーチンを終了する。ヒルホールド介入条件とは、ヒルホールド制御を実行すべきか否かの判別条件である。例えば、車輪速センサ89により検出された車輪速に基づく車両の停車、加速度センサ90により検出された車両の前後加速度に基づく路面勾配θがプラス側(登坂路)、セレクトレバー91がDレンジ、ブレーキペダル29が操作中等の全ての要件が満たされたときに、ヒルホールド介入条件が成立したと判定する。
ステップS1の判定がYes(肯定)になると、ステップS2で現在車両が停車中の路面勾配θからホールド圧を算出する。路面勾配θが急勾配であるほど車両の後退り防止のために高い制動力が必要となることから、路面勾配θとホールド圧との関係を定めたマップが予め液圧制御ECU87の記憶装置に格納されており、そのマップに基づきステップS1の処理が実行される。
続くステップS3では第3液圧センサ33cにより検出されたホイールシリンダ圧Phを読み込み、ステップS4でホイールシリンダ圧Phがホールド圧以下であるか否かを判定する。ステップS4の判定がNoのときには、ステップS5に移行してホイールカット弁68を開弁し、ステップS6でヒルホールド制御情報として、ヒルホールド制御の非実行中を表すホールドOFF信号をシリンダECU86に出力した後にルーチンを終了する。
また、ステップS4の判定がYesになると、ステップS7に移行してアクセル操作が行われたか否かを判定し、判定がNoのときにはステップS8でホイールカット弁68を閉弁し、ステップS9でヒルホールド制御情報として、ヒルホールド制御の実行中を表すホールドON信号をシリンダECU86に出力する。また、ステップS7の判定がYesのときには、上記と同じくステップS5でホイールカット弁68を開弁し、ステップS6でホールドOFF信号を出力した後にルーチンを終了する。
一方、図4はシリンダECU86が実行するスレーブ制御・液圧吸収ルーチンを示すフローチャートである。当該ルーチンは、バイワイヤモードにおいてペダルストロークに対応してスレーブシリンダ装置5を駆動制御すると共に、ホイールカット弁68の開弁により発生したホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLからの液圧を吸収するための液圧吸収制御を実行する処理であり、シリンダECU86により所定の制御インターバルで実行される。
まず、シリンダECU86はステップS11で、ブレーキペダル29のストロークからドライバ要求圧を算出する。運転者のブレーキ踏力に応じてペダルストロークが増減することから、ペダルストロークに基づき運転者が要求しているブレーキ液圧としてドライバ要求圧を推測できる。このためペダルストロークとドライバ要求圧との関係を定めたマップが予めシリンダECU86の記憶装置に格納されており、そのマップに基づきステップS11の処理が実行される。
続くステップS12では、ヒルホールド制御中であるか否かを判定する。当該処理は、液圧制御ECU87からヒルホールド制御情報として入力されるホールドON・OFF信号に基づき実行され、ホールドON信号が継続する期間にヒルホールド制御中であると判定される。ステップS12の判定がNoのときにはステップS13で与圧目標圧として0を設定し、ステップS12の判定がYesのときにはステップS14で与圧目標圧として予め定められている所定値Psc(本発明の目標液圧に相当)を設定する。
予圧目標圧とは、後退中のスレーブシリンダ9のピストン42a,42bを停止保持するときのスレーブシリンダ圧Ppである。所定値Pscは、設定され得る種々のホールド圧の何れに対しても最適なピストン位置(ホールド圧に応じたホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLからの液圧を過不足なく吸収可能なピストン位置)に制御可能な値として、予め試験により求められたものである。一例として所定値Pscは、大気圧(ピストン42a,42bの初期位置に相当)よりも若干高い液圧が設定されている。従って、与圧目標圧として所定値Pscが設定されているときにはピストン42a,42bがホールド圧に対応する位置(後述するようにホールド圧が高いほど初期位置より前進側の位置)に停止保持される。
その後、ステップS15でスレーブシリンダ圧Ppの目標値であるS/C目標圧として、ドライバ要求圧と予圧目標圧との高い側を選択・設定する。続くステップS16ではS/C目標圧が0より大であるか否かを判定し、判定がYesのときにはステップS17に移行してマスタカット弁32a,32bを閉弁し、続くステップS18では、第2液圧センサ33bにより検出されたスレーブシリンダ圧PpをS/C目標圧に保つためのS/C圧制御(スレーブシリンダ装置5の電動モータ8のF/B制御)を実行し、その後に一旦ルーチンを終了する。
また、ステップS16の判定がNoのときにはステップS19でピストン42a,42bが初期位置にあるか否かを判定し、判定がNoのときにはステップS20でマスタカット弁32a,32bを閉弁し、続くステップS21でピストン42a,42bを後退させる。また、ステップS19の判定がYesのときにはステップS22でマスタカット弁32a,32bを開弁し、続くステップS23でピストン42a,42bを停止させた後にルーチンを終了する。
本実施形態のブレーキ制御システム1は以上のように構成されており、次いで、ヒルホールド制御の際の液圧吸収制御の実行状況について説明する。
図5はヒルホールド制御及び液圧吸収制御の実行状況を示すタイムチャートであり、このときのブレーキ制御システム1は通常時の制御としてバイワイヤモードで機能している。
まず、ヒルホールド制御を実行する以前の通常走行中の制御状況を述べる。運転者がアクセル操作してないときには、図4のステップS11で設定されるドライバ要求圧=0、及びステップS13で設定される与圧目標圧=0に基づき、ステップS15でS/C目標圧として0が設定されることにより、スレーブシリンダ9のピストン42a,42bが初期位置に保持される。そして、ステップS22,23の処理により、マスタカット弁32a,32bが開弁されると共にピストン42a,42bが停止されるため、各ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLには制動力が付与されずに車両の走行が継続される。
この状態から運転者によりブレーキ操作が行われると、ペダルストロークの増加に応じてステップS11で設定されるドライバ要求圧が増加し、ステップS15でS/C目標圧としてドライバ要求圧(>0)が設定される。このため、ステップS17,18の処理により、マスタカット弁32a,32bの閉弁及びS/C目標圧に基づくS/C圧制御が実行される。結果として、ペダルストローク(=ドライバ要求圧)の増加に対応してピストン42a,42bが初期位置から前進方向に摺動し、それに伴うスレーブシリンダ装置5からのブレーキ液の供給により、各ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLには運転者のブレーキペダル29の踏力に応じた制動力が付与されて、車両は減速或いは停車に至る。
図5では、走行中の車両がブレーキ操作により登坂路で停車してヒルホールド制御が実行された場合を示しているが、ブレーキ操作によるペダルストロークの増加に応じてピストン42a,42bが初期位置から前進方向に摺動し(図5のポイントa〜b)、それに伴ってスレーブシリンダ圧Ppと共にホイールシリンダ圧Phが増加している。そして、ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLの制動力により車両は停止し、その後も暫くは運転者によるブレーキ踏力が維持されている(図5のポイントb〜c)。
以下、図5を主体として車両停車後の制御状況を更に述べると、液圧制御ECU87側では、登坂路での車両の停車に基づき図3のステップS1でヒルホールド介入条件の成立と判定され、ホイールシリンダ圧Phが路面勾配θに応じたホールド圧まで低下する以前には、ステップS5,6の処理により、ホイールカット弁68が開弁(常開型のため既に開弁)されると共に、シリンダECU86側にホールドOFF信号が出力される。
ホールドOFF信号を入力したシリンダECU86側では、ヒルホールド制御中でないとの判定に基づき図4のステップS13で与圧目標圧として0が設定され、ステップS15でS/C目標圧としてドライバ要求圧が設定され続ける。その後、車両を発進させるべく運転者がブレーキペダル29からアクセルペダルに足を踏み換えると、図5に示すように、ペダルストロークの減少に応じてピストン42a,42bが後退し、スレーブシリンダ圧Ppと共にホイールシリンダ圧Phが次第に低下する。例えば図5に示すようにホールド圧HPLoが設定された場合には、ホイールシリンダ圧Phの低下により、ホイールブレーキ液圧Phは何れかの時点でホールド圧HPLoまで低下する(図5のポイントd’)。
ホイールブレーキ液圧Phがホールド圧HPLoまで低下し、且つ未だアクセル操作されていない場合、液圧制御ECU87側では、図3のステップS8,9の処理により、ホイールカット弁68が閉弁されると共にシリンダECU86側にホールドON信号が出力される。従って、図5に示すように、ホイールカット弁68の閉弁と共にホイールシリンダ圧Phはホールド圧HPLoに保持され続ける。
ホールドON信号を入力したシリンダECU86側では、ヒルホールド制御中との判定に基づき図4のステップS13で与圧目標圧として所定値Pscが設定される。このとき、ペダルストロークの減少に伴ってドライバ要求圧は低下し続けており、ステップS15では、ドライバ要求圧が所定値Pscまで低下する以前にはS/C目標圧としてドライバ要求圧が設定され、ドライバ要求圧が所定値Pscまで低下するとS/C目標圧として所定値Pscが設定される(図5のポイントe’)。
結果としてS/C目標圧は、ドライバ要求圧と共に低下した後に所定値Pscに保持されるように設定され、図5に示すように、このS/C目標圧に倣うようにスレーブシリンダ圧Ppが制御される。なお、ホイールカット弁68の閉弁後にはスレーブシリンダ9がホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RL側から遮断されて、スレーブシリンダ9内と連通する管路容積が大幅に縮小することから、スレーブシリンダ圧Ppの低下はより急激なものとなる。
そして、このときのスレーブシリンダ9のピストン42a,42bは、S/C目標圧の低下中には後退を継続し、S/C目標圧が所定値Pscに保持されると、その時点で後退を中止されて停止保持され、その停止位置から初期位置までが予備ストロークとなる。このため、ブレーキペダルストロークに対応してスレーブシリンダのピストンを初期位置まで戻した本発明を実施しない形態(図中に破線で示す)とは異なり、本実施形態では、以降のピストン42a,42bはヒルホールド制御の終了まで初期位置から前進した所定位置に停止保持されることになる。
本実施形態では、このステップS16,18の処理により予備ストロークを確保した位置でピストン42a,42bを停止保持するときのシリンダECU86が、本発明のスレーブ制御手段として機能する。
ここで、ホールド圧の高低とピストン42a,42bの停止位置との関係について述べる。図5では、ホールド圧HPLoに比較してより高圧側のホールド圧HPHiが設定された場合も併記しており、ホールド圧HPHiの場合には、ホイールカット弁68の閉弁タイミング(図5のポイントd)についても、その後の後退中のピストン42a,42bの停止タイミング(図5のポイントe)についても、ホールド圧HPLoの場合(図5のポイントd’,e’)に比較してより早期のものとなる。必然的にホールド圧が高い場合ほど、ピストン42a,42bがより前進側の位置(図5中にSTHi,STLoで示す)で停止保持され、より大きな予備ストロークが確保される。
このようにしてヒルホールド制御が継続されている状況で、運転者による足の踏み換えが完了してアクセル操作が行われると、液圧制御ECU87側では、図3のステップS7からステップS5,6に移行して、ホイールカット弁68が開弁されると共に、シリンダECU86側にホールドOFF信号が出力される(図5のポイントf)。従って、シリンダECU86側では、ヒルホールド制御中でないとして図4のステップS13で与圧目標圧として0が設定される。
この時点では、ブレーキ操作の中止によりドライバ要求圧が0に設定されているため、ステップS15でS/C目標圧として0が設定される。一方で、スレーブシリンダ9のピストン42a,42bの停止位置は初期位置よりも前進側であるため、ステップS16からステップS19を経てステップS20,21の処理により、マスタカット弁32a,32bの閉弁が維持されると共に、ピストン42a,42bが後退される。
本実施形態では、このステップS16,19,21の処理によりピストン42a,42bを後退させるときのシリンダECU86が、本発明のスレーブ制御手段として機能する。
そして、ピストン42a,42bの後退により初期位置に到達すると、ステップS22,23の処理により、マスタカット弁32a,32bが開弁され、ピストン42a,42bが停止される(図5のポイントg’またはg)。以上でヒルホールド制御に関する一連の処理が終了し、車両の発進が可能となる。
なお、スレーブシリンダ9のピストン42a,42bの後退は、予め設定された所定速度で実行してもよいし、スレーブシリンダ圧Ppをモニタしながらスレーブシリンダ圧Ppを所定値Pscに保つように、ピストン42a,42bの後退速度を制御するようにしてもよい。
ヒルホールド制御中において、ホイールカット弁68から各ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLまでの管路にはホールド圧相当に加圧されたブレーキ液が充満しており、ホイールカット弁68が開弁されると、各ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLのブレーキ液がスレーブシリンダ装置5側に向けて解放される。スレーブシリンダ9内のブレーキ液はカップシール43により流出を阻止されて液圧の逃げ場がないため、図5中に破線で示す本発明を実施しない形態では、このとき解放されたブレーキ液の液圧がマスタカット弁に作用する。
マスタカット弁32a,32bはスレーブシリンダ9のピストン42a,42bが初期位置に戻された時点で開弁され、その後のヒルホールド制御の終了と共にホイールカット弁68が開弁される。しかし、運転者のブレーキペダル29からアクセルペダルへの踏み替えが短時間で終了した場合には、マスタカット弁32a,32bの開弁が完了する以前にホイールカット弁68の開弁に伴う液圧を受ける場合もあり、この現象がマスタカット弁32a,32bの開弁を妨げる要因になる。
また、ブレーキペダル29が完全に戻されない状況でヒルホールド制御が終了することもあり、この場合には、マスタカット弁32a,32bとホイールカット弁68の開弁タイミングが逆転して、マスタカット弁32a,32bの開弁よりも先行してホイールカット弁68が開弁される。よって、ホイールカット弁68の開弁に伴いホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RL側から解放された液圧を直接的に受けながらマスタカット弁32a,32bが開弁されることから、やはりその開弁を妨げる要因になる。
加えて、ヒルホールド制御中にはマスタカット弁32a,32b及びホイールカット弁68の閉弁によりスレーブシリンダ9内が大気から遮断され、本発明を実施しない形態では、ピストン42a,42bが初期位置まで後退することによりスレーブシリンダ9内に負圧が発生する場合がある。ピストン42a,42bのカップシール43は、スレーブシリンダ9内からリザーブタンク47へのブレーキ液の流出を阻止する一方、リザーブタンク47からスレーブシリンダ9内へのブレーキ液の流入は自己の弾性変形により許容する。このため、負圧によってスレーブシリンダ9内に新たなブレーキ液が補充され、この現象はマスタカット弁32a,32bに作用する液圧を高める要因になり得る。
このような本発明を実施しない形態とは異なり、本実施形態ではピストン42a,42bを初期位置より前進側の位置で停止保持するためスレーブシリンダ9内に負圧が発生せず、上記のようなスレーブシリンダ9内に新たなブレーキ液が補充される事態が未然に防止される。そして、ホイールカット弁68の開弁と共に、停止保持していたスレーブシリンダ9のピストン42a,42bを初期位置まで後退させ始めると、その後退動作はスレーブシリンダ圧Ppを低下させる方向に働き、ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLから解放されたブレーキ液の液圧が吸収される。結果としてマスタカット弁32a,32bは、ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLからの液圧の影響を受けることなく確実に開弁される。
例えば図5では、スレーブシリンダ圧Ppをモニタしながらスレーブシリンダ9の後退速度を制御した場合を示しており、ヒルホールド制御中のS/C目標圧(=所定値Psc)をスレーブシリンダ圧Ppの目標値として設定し、このS/C目標圧を保つようにピストン42a,42bの後退速度を制御している。このため、マスタカット弁32a,32bに作用する液圧もS/C目標圧に抑制され、マスタカット弁32a,32bが確実に開弁される。よって、マスタカット弁32a,32bのスプリングのセット荷重を増大する必要がなくなり、セット加重の増大に起因するコイルの大型化や消費電力の増加等の種々の不具合を未然に防止した上で、電動モータ8によりスレーブシリンダ9を駆動する構成において、液圧制御ユニット6にて好適にヒルホールド制御を行うことができる。
さらに、上記したようにヒルホールド制御によるホールド圧が高いほど、ホイールカット弁68の開弁によりホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RL側から解放されるブレーキ液の液量が増加し、それに伴ってマスタカット弁32a,32bに作用する液圧も高くなり、その液圧を吸収するためにより大きな予備ストロークが必要となる。本実施形態では、スレーブシリンダ圧PpがS/C目標圧(=所定値Psc)まで低下するタイミングで後退中のピストン42a,42bを停止させることにより、自ずとヒルホールド制御中のホールド圧(換言すれば、ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RL側から解放されるブレーキ液の液量)と対応する予備ストロークを得ている。
特に本実施形態では、第2液圧センサ33bにより検出されたスレーブシリンダ圧PpがS/C目標圧となるようにS/C圧制御を実行しているため、ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RL側から解放されるブレーキ液の液量に対応する最適な予備ストロークとなるようにスレーブシリンダ9を制御できる。よって、ホールド圧の高低に関わらず、ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RL側から解放されるブレーキ液の液圧を常に過不足なく吸収でき、ひいては一層確実なマスタカット弁32a,32bの開弁を実現することができる。
また、結果としてヒルホールド制御中のスレーブシリンダ圧Ppがホールド圧よりも低圧側のS/C目標圧に制御されるため、ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RL側に必要以上に液圧がかかることを防止できるという利点もある。
加えて、本実施形態によれば、予め最適値として特定した所定値PscをS/C目標圧として設定した上で、その単一のS/C目標圧に基づきスレーブシリンダ9のピストン42a,42bを停止させるだけで、自ずとホールド圧に対応する最適な予備ストロークを確保できる。よって、所定値Pscを特定するための事前の試験を簡略化できると共に、実際のヒルホールド制御の際にも、単一のS/C目標圧に基づく非常に簡単な制御内容によりピストン42a,42bを適切に停止保持できるため、安価なコストにより実施することができる。
[第2実施形態]
次に、最適な予備ストロークを確保するための他の手法に基づく第2実施形態を説明する。
端的に表現すると、第2実施形態の手法は、ホイールカット弁68の開弁によりホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RL側から解放されるブレーキ液の液量が、ホイールカット弁68から各ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLまでの管路容積、及びそのときのホールド圧(換言すると、ホールド圧により変位するブレーキピンストンのストローク分の容積)に基づき導出可能な点に着目したものである。ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLまでの管路容積は予め判明しており、各ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLのブレーキピストンのストローク容積はホールド圧から特定できるため、それらの加算値に相当する容積がスレーブシリンダ9に予備ストロークとして確保されるように、ピストン42a,42bの停止位置が制御される。
本実施形態の液圧制御ECU87が実行するヒルホールド制御ルーチンは、図3に示す第1実施形態のものと同一であり、相違点は、ヒルホールド制御情報としてヒルホールドのON信号及びOFF信号に加えて、ヒルホールド制御の開始時にホールド圧をシリンダECU86側に出力する点(図3のステップS2参照)だけのため、重複する説明は省略する。
図6は本実施形態のシリンダECU86が実行するスレーブ制御・液圧吸収ルーチンを示すフローチャートである。
まず、シリンダECU86はステップS31で、液圧制御ECU87からのON信号に基づきヒルホールド制御中であるか否かを判定する。判定がNoのときにはステップS32に移行し、ヒルホールド制御の実行中を示すフラグFがセット(=1)されているか否かを判定する。当該ルーチンの開始時にフラグFはリセット(=0)されているため、当初はステップS32でNoの判定を下してステップS33に移行し、ブレーキペダル29のストロークからS/C目標圧を算出する。
このS/C目標圧は第1実施形態のドライバ要求圧に相当するものであり、本実施形態では、第1実施形態のように与圧目標圧に応じてS/C目標圧を設定する必要がないことから、ペダルストロークから直接的にS/C目標圧を算出しているのである。続くステップS34ではS/C目標圧が0より大であるか否かを判定し、判定がYesのときにはステップS35でマスタカット弁32a,32bを閉弁し、続くステップS36でスレーブシリンダ圧PpをS/C目標圧に保つためのS/C圧制御を実行した後にルーチンを終了する。
また、ステップS34の判定がNoのときにはステップS37でピストン42a,42bが初期位置にあるか否かを判定し、判定がNoのときにはステップS35に移行し、判定がYesのときにはステップS38でマスタカット弁32a,32bを開弁し、ステップS39でピストン42a,42bを停止させる。
一方、ステップS31でNoの判定を下したときにはステップS40でフラグFをセットし、続くステップS41で目標予備ストローク(本発明の目標ストローク量に相当)を算出する。上記したように目標予備ストロークは、ホイールカット弁68の開弁によりホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RL側から解放されるブレーキ液の液量に相当する容積を、スレーブシリンダに予備ストロークとして確保するための目標値である。このとき解放されるブレーキ液の液量は、ホイールカット弁68から各ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLまでの管路容積、及び各ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLのブレーキピストンのストローク容積の加算値である。前者の管路容積は予め判明しており、後者のブレーキピストンのストローク容積は、液圧制御ECU87からヒルホールド制御情報として入力されるホールド圧から特定する。
そのためにシリンダECU86の記憶装置には、ホイールカット弁68から各ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLまでの管路容積の情報と共に、ホールド圧とブレーキピストンのストローク容積との関係を定めたマップが予め格納されており、そのマップに基づきステップS41ではストローク容積が算出されて、目標予備ストロークの算出処理に供される。なお簡易的に、ホールド圧から目標予備ストロークを直接的に算出するようにしてもよい。
本実施形態では、このステップS41の処理により目標予備ストロークを算出するときのシリンダECU86が、本発明の液量推定手段として機能する。
その後ステップS42に移行して、実予備ストロークが目標予備ストローク以下か否かを判定する。実予備ストロークは、実際のピストン42a,42bの初期位置からのストロークであり、ピストン42a,42bを駆動している電動モータ8の回転角に基づき算出される。ステップS42の判定がNoのときにはステップS33に移行して、S/C目標圧に応じたスレーブシリンダ9の制御を継続し、ステップS42の判定がYesになるとステップS43に移行する。ステップS43では、液圧制御ECU87からのOFF信号に基づきヒルホールド制御が終了されたか否かを判定し、判定がNoのときにはステップS44でマスタカット弁32a,32bを閉弁し、続くステップS45でスレーブシリンダ9のピストン42a,42bを停止させる。
そして、ステップS43の判定がYesになるとステップS46に移行し、ピストン42a,42bが初期位置にあるか否かを判定する。判定がNoのときにはステップS47でマスタカット弁32a,32bを閉弁し、続くステップS21でピストン42a,42bを後退させる。また、ステップS46の判定がYesになるとステップS49でフラグFをリセットした後、ステップS38でマスタカット弁32a,32bを開弁し、ステップS39でピストン42a,42bを停止させてルーチンを終了する。
本実施形態のブレーキ制御システム1は以上のように構成されており、次いで、ヒルホールド制御の際の液圧吸収制御の実行状況について説明する。
本実施形態のブレーキ制御システム1による液圧吸収制御の制御状況は、第1実施形態で説明した図5のタイムチャートと同様であるため、同図を用いて説明する。
ヒルホールド制御を実行する以前の通常走行中で運転者がアクセル操作してないときには、図6のステップS33でブレーキペダル29のストロークに対応するS/C目標圧として0が設定される。そして、ステップS38,39の処理により、マスタカット弁32a,32bが開弁されると共にスレーブシリンダのピストン42a,42bが初期位置で停止されるため、各ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLには制動力が付与されずに車両の走行が継続される。
この状態から運転者によりアクセル操作が行われると、ペダルストロークの増加に応じてステップS33でS/C目標圧が増加側に設定され、ステップS35,36の処理により、マスタカット弁32a,32bの閉弁及びS/C圧制御が実行される。結果として、ピストン42a,42bが初期位置から前進方向に摺動してブレーキ液を加圧・供給し、各ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLに付与された制動力により車両が減速或いは停車に至る。
図5に示すように登坂路で車両が停車した場合、液圧制御ECU87側では、ヒルホールド介入条件は成立しているものの、当初はスレーブシリンダ圧Pbがホールド圧まで低下していないため、ステップS5,6の処理により、ホイールカット弁68の開弁と共にホールドOFF信号が出力される。
ホールドOFF信号を入力したシリンダECU86側では、ヒルホールド制御中でないとの判定に基づき、図6のステップS31〜34を経てステップS36でドライバ要求圧相当のS/C目標圧が設定され続ける。その後、車両を発進させるべく運転者がブレーキペダル29からアクセルペダルに足を踏み換えると、図5に示すように、ピストン42a,42bの後退によりスレーブシリンダ圧Ppと共にホイールシリンダ圧Phが次第に低下する。ホイールブレーキ液圧Phがホールド圧まで低下すると、液圧制御ECU87側では、図3のステップS8,9の処理により、ホイールカット弁68が閉弁されると共にシリンダECU86側にホールドON信号が出力され、図5に示すように、ホイールシリンダ圧Phがホールド圧に保持され続ける(図5のポイントdまたはd’)。
ホールドON信号を入力したシリンダECU86側では、ヒルホールド制御中との判定に基づき図6のステップS40でフラグFがセットされ、ステップS41、42の処理により、目標予備ストロークの算出及び実予備ストロークとの比較が行われる。ペダルストロークの減少に伴うピストン42a,42bの後退により実予備ストロークは次第に減少するが、未だ目標予備ストロークまで減少してないときには、ステップS36でのS/C圧制御によりピストン42a,42bの後退が継続される。
そして、実予備ストロークが目標予備ストロークまで減少し、未だヒルホールド制御が終了していないときには、ステップS44,45の処理により、マスタカット弁32a,32bの閉弁と共にピストン42a,42bが停止される。即ち、ピストン42a,42bは初期位置から目標予備ストロークだけ前進した位置で停止保持され、結果として、その後のホイールカット弁68の開弁によりホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RL側から解放されるブレーキ液の液量に相当する容積を確保した状態となる。そして、以降のピストン42a,42bは、ヒルホールド制御の終了まで目標予備ストロークに相当する位置に停止保持されることになる。
このようなヒルホールド制御の継続中において運転者によりアクセル操作が行われると、液圧制御ECU87側では、図3のステップS5,6の処理により、ホイールカット弁68の開弁と共にホールドOFF信号が出力される。シリンダECU86側では、ステップS31,32からステップS42,43,46を経てステップS47,48の処理により、マスタカット弁32a,32bの閉弁と共にピストン42a,42bが後退される。そして、後退したピストン42a,42bが初期位置に到達すると、ステップS49でフラグFがリセットされた上で、ステップS38,39の処理により、マスタカット弁32a,32bの開弁と共にピストン42a,42bが停止され(図5のポイントg’またはg)、車両の発進が可能となる。
以上の説明から明らかなように本実施形態では、スレーブシリンダ9の最適な予備ストロークを確保する手法が第1実施形態とは異なるものの、同様のスレーブシリンダ9の制御状況が得られる。従って、ホイールカット弁68の開弁によりホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLから解放されたブレーキ液の液圧をピストン42a,42bの後退によって吸収でき、マスタカット弁32a,32bを確実に開弁できる。よって、マスタカット弁32a,32b弁のスプリングのセット荷重を増大する必要がなくなり、セット加重の増大に起因する種々の不具合を未然に防止した上で、電動モータ8によりスレーブシリンダ9を駆動する構成において、液圧制御ユニット6にて好適に保持制御を行うことができる。
また、ホイールカット弁68から各ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLまでの管路容積のみならず、その時々のヒルホールド制御のホールド圧から特定されるブレーキピストンのストローク容積をも考慮しているため、ホールド圧の高低に関わらず、ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RL側から解放されるブレーキ液の液量に対応する目標予備ストローク量を好適に算出できる。そして、ヒルホールド制御中において後退中のピストン42a,42bを目標予備ストローク量に対応する位置で停止保持するため、ホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RL側から解放されるブレーキ液の液圧を常に過不足なく吸収でき、ひいては一層確実なマスタカット弁32a,32bの開弁を実現することができる。
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、ヒルホールド制御の際に全ての車輪のホイールシリンダ3RR,3FL,3FR,3RLに制動力を付与したが、これに限るものではなく、例えば前2輪のみ、或いは後2輪のみのホイールシリンダに制動力を付与するようにしてもよい。
また上記実施形態では、ブレーキペダル戻しに伴って後退中のスレーブシリンダ9のピストン42a,42bを初期位置に到達する以前に停止保持したが、一旦ピストン42a,42bを初期位置に到達させた後に、再び目標ストローク相当の位置まで前進させてもよい。
また上記実施形態では、ヒルホールド制御の終了(図5のポイントf)と同時にスレーブシリンダ9のピストン42a,42bの後退を開始したが、これに限るものではなく、例えば双方のタイミングを相前後させてもよい。