以下に、本発明を実施するための最良の形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x〜y」は、下限xおよび上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
本発明の活物質は、一般式:Lia1Nib1Coc1Mnd1De1Of1(0.2≦a1≦1.5、b1+c1+d1+e1=1、0≦e1<1、DはFe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、Zr、S、Si、Na、K、Al、Ti、P、Ga、Ge、V、Mo、Nb、W、La、Hf、Rfから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f1≦2.1)で表される第1組成部と、一般式:Lia2Nib2Coc2Mnd2De2Of2(0.2≦a2≦1.5、b2+c2+d2+e2=1、0≦e2<1、DはFe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、Zr、S、Si、Na、K、Al、Ti、P、Ga、Ge、V、Mo、Nb、W、La、Hf、Rfから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f2≦2.1、ただし少なくともc2<c1又はd2>d1のいずれかを満足する)で表される第2組成部とで構成される活物質であって、前記第1組成部と前記第2組成部が非局在化していることを特徴とする。
また、本発明の活物質は、一般式:Lia1Nib1Coc1Mnd1De1Of1(0.2≦a1≦1.5、b1+c1+d1+e1=1、0≦e1<1、DはFe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、Zr、S、Si、Na、K、Al、Ti、P、Ga、Ge、V、Mo、Nb、W、La、Hf、Rfから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f1≦2.1)で表される第1組成部と、一般式:Lia2Nib2Coc2Mnd2De2Of2(0.2≦a2≦1.5、b2+c2+d2+e2=1、0≦e2<1、DはFe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、Zr、S、Si、Na、K、Al、Ti、P、Ga、Ge、V、Mo、Nb、W、La、Hf、Rfから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f2≦2.1、ただし少なくともc2<c1又はd2>d1のいずれかを満足する)で表される第2組成部を有する活物質であって、前記第1組成部及び前記第2組成部が単一の結晶構造体としての活物質1次粒子を形成していることを特徴とする。
ここで、単一の結晶構造体とは、第1組成部及び第2組成部が示す結晶構造が実質的に同じであって、さらに双方の結晶方位が実質的に同じ方向をとって連続して隣接し、組成が部分的に異なるものの、あたかも単結晶のような状態を示すもののことをいう。
本発明の活物質は、活物質1次粒子並びにそれ以外の第1組成部及び/又は第2組成部からなる粒子が多数結合した結合体である。活物質1次粒子の形状は特に限定されないが、扁平形状のものが多く観察される。本発明の活物質を顕微鏡で観察した際の活物質1次粒子の長径長さは概ね100〜1200nmの範囲内であり、活物質1次粒子の短径長さは概ね100〜500nmの範囲内である。なお、「活物質一次粒子の長径長さ」とは、活物質一次粒子観察時における、活物質一次粒子の最も長い箇所の長さを意味する。「活物質一次粒子の短径長さ」とは、活物質一次粒子観察時における活物質一次粒子において、長径の直交方向のうち最も長い箇所の長さを意味する。
本発明の活物質の形状は特に限定されない。一般的なレーザー散乱回折式粒度分布計で測定した場合の、活物質の好ましい平均粒子径(D50)を挙げると、100μm以下が好ましく、1μm以上50μm以下がより好ましく、1μm以上30μm以下がさらに好ましく、2μm以上20μm以下が特に好ましい。平均粒子径が1μm未満では、活物質を用いて電極を製造する際に集電体との密着性が損なわれやすいなどの不具合を生じることがある。平均粒子径が100μmを超えると電極の大きさに影響を与えたり、二次電池を構成するセパレータを損傷するなどの不具合を生じることがある。
さらに、本発明の好適な活物質は、前記第1組成部と前記第2組成部が非局在化しており、かつ、前記第1組成部及び前記第2組成部が単一の結晶構造体としての活物質1次粒子を形成しているものである。
第1組成部にかかる一般式:Lia1Nib1Coc1Mnd1De1Of1(0.2≦a1≦1.5、b1+c1+d1+e1=1、0≦e1<1、DはFe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、Zr、S、Si、Na、K、Al、Ti、P、Ga、Ge、V、Mo、Nb、W、La、Hf、Rfから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f1≦2.1)において、b1、c1及びd1の値は、上記条件を満足するものであれば特に制限はないが、0<b1<1、0<c1<1、0<d1<1であるものが良く、また、b1、c1、d1の少なくともいずれか一つが10/100<b1<90/100、10/100<c1<90/100、5/100<d1<70/100の範囲であることが好ましく、12/100<b1<80/100、12/100<c1<80/100、10/100<d1<60/100の範囲であることがより好ましく、15/100<b1<70/100、15/100<c1<70/100、12/100<d1<50/100の範囲であることがさらに好ましい。
a1、e1、f1については一般式で規定する範囲内の数値であればよく、好ましくは0.5≦a1≦1.3、0<e1<0.2、1.8≦f1≦2.1、より好ましくは0.8≦a1≦1.2、0<e1<0.1、1.9≦f1≦2.05を例示することができる。
第2組成部にかかる一般式:Lia2Nib2Coc2Mnd2De2Of2(0.2≦a2≦1.5、b2+c2+d2+e2=1、0≦e2<1、DはFe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、Zr、S、Si、Na、K、Al、Ti、P、Ga、Ge、V、Mo、Nb、W、La、Hf、Rfから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f2≦2.1、ただし少なくともc2<c1又はd2>d1のいずれかを満足する)において、b2、c2及びd2の値は、上記条件を満足するものであれば特に制限はないが、0<b2<1、0<c2<c1、d1<d2<1であるものが良く、c2<c1及びd2>d1の両者を満足するものでも良い。また、b2、c2、d2の少なくともいずれか一つが0<b2<b1、0<c2<c1、d1<d2<1の範囲であることが好ましく、10/100<b2<b1、10/100<c2<c1、d1<d2<90/100の範囲であることがより好ましく、10/100<b2<90/100、10/100<c2<c1−(5/100)、d1+(5/100)<d2<90/100の範囲であることがさらに好ましく、12/100<b2<80/100、10/100<c2<c1−(10/100)、d1+(10/100)<d2<90/100の範囲が特に好ましい。
a2、e2、f2については一般式で規定する範囲内の数値であればよく、好ましくは0.5≦a2≦1.3、0<e2<0.2、1.8≦f2≦2.1、より好ましくは0.8≦a2≦1.2、0<e2<0.1、1.9≦f2≦2.05を例示することができる。
なお、本発明の活物質は、全体として、層状岩塩構造の一般式:LiaNibCocMndDeOf(0.2≦a≦1.5、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはFe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、Zr、S、Si、Na、K、Al、Ti、P、Ga、Ge、V、Mo、Nb、W、La、Hf、Rfから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1)で表すことができる。a、b、c、d、e、fの値は、第1組成部のa1、b1、c1、d1、e1、f1の値に本発明の活物質の全質量に対する第1組成部の質量の比を乗じた値と、前記第2組成部a2、b2、c2、d2、e2、f2の値に本発明の活物質の全質量に対する第2組成部の質量の比を乗じた値との和により算出される。好ましいb、c及びdとしては、0<b<1、0<c<1、0<d<1を挙げることができ、より好ましくは0<b<80/100、0<c<70/100、10/100<d<1の範囲内であり、10/100<b<70/100、12/100<c<60/100、20/100<d<70/100の範囲であることがさらに好ましく、25/100<b<60/100、15/100<c<50/100、25/100<d<60/100の範囲であることが特に好ましい。
また、後述する評価例2で明らかなように、本発明の活物質は、上記一般式のDで表されるドープ元素の存在に因り、さらに好適となる。よって、eの好ましい範囲として、0<e<0.2、0<e<0.1を例示することができる。
本発明の活物質における第1組成部と第2組成部の質量比は、1:10〜10:1の範囲内が良く、好ましい範囲として1:5〜5:1、1:3〜3:1、2:5〜5:2、1:2〜2:1、3:5〜5:3、7:10〜10:7、4:5〜5:4を例示することができ、9:10〜10:9の範囲内が特に好ましい。
ここで、本発明者は、層状岩塩構造のLiNibCocMndO2で表わされる活物質について、該活物質からLiが67%脱離した時のc軸の格子定数の変化量Δc(Å)を、第1原理計算を用いて以下の条件で算出した。その結果を表1に示す。また、Co含有比c及びΔcの関係を示した散布図、並びに、Mn含有比d及びΔcの関係を示した散布図を、それぞれ図2及び図3に示す。
ソフトウエア:quantum espresso(PWscf)
交換相関相互作用:GGAPBE汎関数
計算手法:PAW(Project Augmented Wave)法
波動関数のカットオフ:50Ry
図2から、活物質のCo含有比cが小さいほど、より小さいΔcを示す傾向であることがわかる。図3から、活物質のMn含有比dが大きいほど、より小さいΔcを示す傾向であることがわかる。
本発明の活物質の第2組成部は、第1組成部よりもCo含有比が小さい又は第1組成部よりもMn含有比が大きい。第1組成部と第2組成部との組成関係及び上記第1原理計算結果から、第2組成部は第1組成部よりもΔcが小さいといえる。そして、Δcが小さい活物質ほど、充放電における活物質の結晶変形量が少なくなるため、充放電時の劣化が抑制される。したがって、第2組成部は第1組成部よりも充放電時に安定であることが、理論的に確認されたといえる。
本発明の活物質においては、第1組成部と前記第2組成部が非局在化していることにより、第1組成部で生じるc軸膨張が局在化して過大なものとなることが抑制され、しかも該c軸膨張が第2組成部で緩衝されるため、活物質全体の劣化が緩和されると考えられる。
また、第1組成部及び第2組成部からなる活物質1次粒子は単一の結晶構造体であるため、第1組成部で生じる膨張が直接に第2組成部で緩衝され、活物質1次粒子の劣化が抑制される。その結果として、活物質全体の劣化が好適に緩和されると考えられる。
本発明の活物質の製造方法について説明する。本発明の活物質の製造方法には2通りの方法がある。
第1の製造方法は、以下のa)〜f)工程を含む。
a)ニッケル塩、コバルト塩及びマンガン塩を水に溶解し、ニッケル、コバルト及びマンガンのモル比がb3:c3:d3(b3+c3+d3=10)である第1水溶液を調製する工程
b)ニッケル塩、コバルト塩及びマンガン塩を水に溶解し、ニッケル、コバルト及びマンガンのモル比がb4:c4:d4(b4+c4+d4=10、ただし少なくともc4<c3又はd4>d3のいずれかを満足する)である第2水溶液を調製する工程
c)塩基性水溶液を調製する工程
d)前記塩基性水溶液に前記第1水溶液及び前記第2水溶液を同時に供給し、ニッケル、コバルト及びマンガンをモル比b3:c3:d3で含む第1の1次粒子、並びに、ニッケル、コバルト及びマンガンをモル比b4:c4:d4で含む第2の1次粒子を形成させる工程
e)前記第1の1次粒子及び前記第2の1次粒子が互いに結合した結合粒子を形成させる工程
f)前記結合粒子及びリチウム塩を混合し、焼成する焼成工程
第2の製造方法は、以下のa)〜c)及びg)〜l)工程を含む。
a)ニッケル塩、コバルト塩及びマンガン塩を水に溶解し、ニッケル、コバルト及びマンガンのモル比がb3:c3:d3(b3+c3+d3=10)である第1水溶液を調製する工程
b)ニッケル塩、コバルト塩及びマンガン塩を水に溶解し、ニッケル、コバルト及びマンガンのモル比がb4:c4:d4(b4+c4+d4=10、ただし少なくともc4<c3又はd4>d3のいずれかを満足する)である第2水溶液を調製する工程
c)塩基性水溶液を調製する工程
g)前記塩基性水溶液に前記第1水溶液を供給し、ニッケル、コバルト及びマンガンをモル比b3:c3:d3で含む第1の1次粒子を形成させる工程
h)前記第1の1次粒子を加熱し、第1脱水物とする工程
i)前記塩基性水溶液に前記第2水溶液を供給し、ニッケル、コバルト及びマンガンをモル比b4:c4:d4で含む第2の1次粒子を形成させる工程
j)前記第2の1次粒子を加熱し、第2脱水物とする工程
k)粒子複合化装置にて、前記第1脱水物及び前記第2脱水物を混合し、前記第1脱水物及び前記第2脱水物が互いに結合した脱水結合粒子を製造する工程
l)前記脱水結合粒子及びリチウム塩を混合し、焼成する焼成工程
ここで、a)工程の第1水溶液、d)工程の第1の1次粒子、g)工程の第1の1次粒子、h)工程の第1脱水物が、本発明の活物質における第1組成部のニッケル、コバルト及びマンガン組成の基礎となる。そして、b)工程の第2水溶液、d)工程の第2の1次粒子、i)工程の第2の1次粒子、j)工程の第2脱水物が、本発明の活物質における第2組成部のニッケル、コバルト及びマンガン組成の基礎となる。よって、a)工程又はb)工程のニッケル、コバルト及びマンガンのモル比は、第1組成部又は第2組成部のニッケル、コバルト及びマンガンのモル比に合わせて設定すればよい。
また、e)工程の結合粒子、及び、k)工程の脱水結合粒子が、本発明の活物質1次粒子の基礎となる。
a)工程及びb)工程で用いるニッケル塩としては、例えば、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル、塩化ニッケルを挙げることができる。同工程で用いるコバルト塩としては、例えば、硫酸コバルト、炭酸コバルト、硝酸コバルト、酢酸コバルト、塩化コバルトを挙げることができる。同工程で用いるマンガン塩としては、例えば、硫酸マンガン、炭酸マンガン、硝酸マンガン、酢酸マンガン、塩化マンガンを挙げることができる。
第1水溶液又は第2水溶液の好ましい金属濃度範囲は0.01〜4mol/Lであり、より好ましくは0.05〜3mol/Lであり、さらに好ましくは0.1〜2mol/Lであり、特に好ましくは0.5〜1.5mol/Lである。第1の製造方法においては、第1水溶液及び第2水溶液の金属濃度を同程度とすれば、d)工程での両1次粒子形成速度が同程度となるので、好ましい。また、第1水溶液又は第2水溶液は、後の工程でこれらの水溶液に含まれる金属が析出されることを鑑みると、高濃度の方が好ましい。
c)工程の塩基性水溶液のpHは9〜14の範囲が好ましく、10〜13.5の範囲がより好ましく、11〜13の範囲がさらに好ましい。なお、本明細書で規定するpHは25℃で測定した場合の値をいう。使用し得る塩基性化合物としては水に溶解して塩基性を示すものであれば良く、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウムなどのアルカリ金属炭酸塩、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸三リチウムなどのアルカリ金属リン酸塩、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウムなどのアルカリ金属酢酸塩を挙げることができる。塩基性化合物は単独で用いても良いし、複数を併用しても良い。d)工程、e)工程、g)工程、i)工程の水溶液においては、それぞれ好適なpHの範囲に保たれることが好ましいため、c)工程の塩基性水溶液には、少なくとも緩衝能を有する塩基性化合物が含まれるのが好ましい。緩衝能を有する塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ金属酢酸塩を挙げることができる。
c)工程は、撹拌装置を備えた反応槽で行われるのが好ましく、さらに窒素やアルゴンなどの不活性ガスを導入できる装置を備えた反応槽で行われるのが好ましい。また、恒温条件となる装置を備えた反応槽がより好ましい。c)工程の具体例を以下に挙げる。撹拌装置、窒素ガス導入装置及び加熱装置を備えた反応槽に、水を投入し、40℃に加熱する。反応槽に窒素ガスを導入し、窒素ガス雰囲気下とする。水酸化ナトリウム水溶液とアンモニア水を反応槽に投入し、塩基性水溶液を調製する。
以下、第1の製造方法のd)〜f)工程について説明する。
d)工程は、前記塩基性水溶液に前記第1水溶液及び第2水溶液を同時に別箇所から供給し、第1の1次粒子及び第2の1次粒子を、それぞれ同時に形成させる工程である。第1の1次粒子及び第2の1次粒子は、それぞれ第1水溶液及び第2水溶液に含まれる金属の水酸化物からなる。d)工程においては、第1水溶液又は第2水溶液に含まれる金属イオンの水酸化物が生じ、これらの水酸化物がそれぞれ粒子核を形成し、そして、それぞれ一定の大きさの1次粒子を形成する。各1次粒子は単結晶の状態にあると推定される。第1の1次粒子及び第2の1次粒子は、顕微鏡で観察した際の粒子長が概ね1000nm以下であり、その範囲は概ね80〜1000nmである。なお、本明細書にて「粒子長」とは、観察時における各粒子の最も長い箇所の長さを意味する。
d)工程の模式図を図4に示す。図4に示すように、第1水溶液1及び第2水溶液2が塩基性水溶液3に対しそれぞれ同時に供給される。そして、第1水溶液1に含まれる金属イオンが塩基性水溶液3中で水酸化物となり、第1粒子核11が形成され、そして、一定の大きさの第1の1次粒子12が形成される。同様に、第2水溶液2に含まれる金属イオンが塩基性水溶液3中で水酸化物となり、第2粒子核21が形成され、そして、一定の大きさの第2の1次粒子22が形成される。
d)工程は、c)工程で述べたのと同様の条件下で行われるのが好ましい。撹拌速度や温度条件は、核発生及び1次粒子形成に好適な範囲に適宜設定すればよい。好ましい撹拌速度として50〜10000rpmを挙げることができ、より好ましくは100〜3000rpm、さらに好ましくは200〜1500rpmを挙げることができる。第1水溶液及び第2水溶液の供給に伴い塩基性水溶液のpHが変動する場合や気化によりアンモニアなどの塩基性化合物が反応槽から失われる場合には、c)工程で採用した塩基性化合物を含む水溶液を適宜供給して、核発生及び1次粒子形成に好適なpHやアンモニア濃度を維持すればよい。工程の安定性の観点から、第1水溶液の供給速度及び第2水溶液の供給速度は一定であることが好ましい。好ましい供給速度として1〜30mL/min.を挙げることができ、より好ましくは1.5〜15mL/min.、さらに好ましくは2〜8mL/min.を挙げることができる。
e)工程は、第1の1次粒子及び第2の1次粒子が互いに結合した結合粒子を形成させる工程である。具体的には、d)工程の液を必要により減じつつ、継続して保持及び/又は撹拌する工程である。e)工程はd)工程と連続して行われるのが好ましい。さらには、e)工程において、d)工程と同様に、第1水溶液、第2水溶液、塩基性化合物を含む水溶液を適宜供給してもよい。e)工程とd)工程とを厳密に区別するのは困難な場合もある。各粒子の溶解度の関係から、e)工程はd)工程よりも液の量を減じて実施することが好ましい。また、e)工程においては所望の結合粒子の大きさになるまで液を保持及び/又は撹拌するのが好ましい。結合粒子は顕微鏡で観察した際の粒子長が概ね20μm以下であり、粒子長の範囲は概ね2〜20μmである。得られた結合粒子は濾過で分離できる。分離後の結合粒子は必要に応じて再度e)工程に供してもよい。分離後の結合粒子は加熱条件下にて脱水されるのが良い。加熱条件としては100〜400℃、1〜50時間を挙げることができる。なお、e)工程では、第1の1次粒子及び第2の1次粒子が互いに結合した結合粒子に加え、第1の1次粒子同士又は第2の1次粒子同士が結合した結合粒子も得られる場合がある。また、複数の結合粒子が結合した結合粒子が得られる場合がある。
e)工程の模式図を図5に示す。図5に示すように、第1の1次粒子12及び第2の1次粒子22が撹拌により衝突することによって、第1の1次粒子12及び第2の1次粒子22が互いに結合した結合粒子4が形成される。
f)工程は、e)工程で得られた結合粒子及びリチウム塩を混合し、焼成して、本発明の活物質を得る工程である。リチウム塩としては、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム、ハロゲン化リチウムを例示することができる。リチウム塩の配合量は、所望のリチウム組成の活物質となるように適宜決定すればよい。一例を挙げると、f)工程で用いられる原料全体において、リチウムとニッケル、コバルト及びマンガンの合計とのモル比が0.2:1〜1.2:1の範囲内になるように、リチウム塩の配合量を決定すればよい。
混合装置としては、乳鉢及び乳棒、攪拌混合機、V型混合機、W型混合機、リボン型混合機、ドラムミキサー、ボールミルを例示できる。
焼成条件は、例えば、500〜1000℃、1〜20時間の範囲内で適宜設定すればよい。焼成途中に焼成温度を変化させ、複数の温度で焼成しても良い。好適な焼成条件として、600〜800℃、8〜12時間の条件下で第1次焼成を行い、次いで、800〜1000℃、3〜7時間の条件下で第2次焼成を行うことを例示できる。焼成後に得られた活物質は、粉砕工程、分級工程を経て、一定の粒度分布のものとするのが好ましい。粒度分布の範囲としては、一般的なレーザー散乱回折式粒度分布計での測定において、平均粒子径(D50)が100μm以下が好ましく、1μm以上50μm以下がより好ましく、1μm以上30μm以下がさらに好ましく、2μm以上20μm以下が特に好ましい。平均粒子径が1μm未満では、活物質を用いて電極を製造する際に集電体との密着性が損なわれやすいなどの不具合を生じることがある。平均粒子径が100μmを超えると電極の大きさに影響を与えたり、二次電池を構成するセパレータを損傷するなどの不具合を生じることがある。
以下、第2の製造方法のg)〜l)工程について説明する。
g)工程は、塩基性水溶液に第1水溶液を供給し、第1の1次粒子を形成させる工程である。g)工程の各条件は、上記d)工程の説明から第2水溶液及び第2の1次粒子に関する箇所を除いた条件でよい。
h)工程は、g)工程で得られた金属の水酸化物からなる第1の1次粒子を加熱し、第1脱水物とする工程である。加熱条件としては、例えば、100〜400℃、1〜50時間を挙げることができる。
i)工程はc)工程で調製した塩基性水溶液に第2水溶液を供給し、第2の1次粒子を形成させる工程である。i)工程の各条件は、上記d)工程の説明から第1水溶液及び第1の1次粒子に関する箇所を除いた条件でよい。
j)工程は、i)工程で得られた金属の水酸化物からなる第2の1次粒子を加熱し、第2脱水物とする工程である。加熱条件としては、例えば、100〜400℃、1〜50時間を挙げることができる。
k)工程は、粒子複合化装置にて、第1脱水物及び第2脱水物を混合し、第1脱水物及び第2脱水物が互いに結合した脱水結合粒子を製造する工程である。粒子複合化装置としては、株式会社奈良機械製作所のハイブリダイゼーションシステム(NHS)及びミラーロ(MIRALO)、ホソカワミクロン株式会社のメカノフュージョン及びノビルタ、株式会社徳寿工作所のシータ・コンポーザを例示することができる。
l)工程は、脱水結合粒子及びリチウム塩を混合し、焼成する工程であって、具体的な条件は、f)工程と同様である。
なお、本発明の活物質に一般式のDで表されるドープ元素を添加したい場合には、a)〜e)工程及びg)〜k)工程のうちいずれかの工程、又はf)工程の焼成以前の時点で、ドープ元素含有化合物を添加すればよい。ドープ元素含有化合物の配合量は、所望のドープ量となるように適宜決定すればよい。
本発明の活物質は第1組成部及び第2組成部で構成され、かつ、第1組成部と第2組成部が非局在化していることを特徴とする。そして、本発明の活物質は、従来の活物質と異なる物として認識できる。
上述の特許文献3に開示の活物質について、その製造方法に従い詳細に説明する。まず、第一硫酸塩水溶液を炭酸イオン含有水溶液に滴下して炭酸塩粒子を形成させる。次いで、第二硫酸塩水溶液を滴下して前記炭酸塩粒子の周りに第二硫酸塩水溶液に含有する金属炭酸塩を付着させ、2層状態の炭酸塩粒子を得る。そして、該2層状態の炭酸塩粒子と炭酸リチウムを混合し、混合物を焼成して、コアと被覆部を有するリチウム複合金属酸化物を得る。すなわち、特許文献3に開示される活物質においては、本発明でいうところの第1組成部及び第2組成部がそれぞれ粒子内部及び粒子周縁部に局在化している。
上述の特許文献4に開示の活物質について、その製造方法に従い詳細に説明する。まず、コア粒子を作成し、次にコア粒子の表面にコバルト水酸化物を被覆させ、2層状態の被覆粒子を得る。次に、2層状態の被覆粒子と炭酸リチウムを混合し、混合物を焼成して、コアと被覆部を有する活物質を得る。すなわち、特許文献4に開示される活物質においても、特許文献3の活物質と同様に、本発明でいうところの第1組成部及び第2組成部がそれぞれ粒子内部及び粒子周縁部に局在化している。
本明細書の「非局在化」とは、本発明の活物質が、上述の特許文献3及び特許文献4に開示の活物質のように、第1組成部及び第2組成部がそれぞれ1か所に局在化した活物質で無いことを意味する。
また、リチウム複合金属酸化物と他のリチウム複合金属酸化物を単に混合した混合物は、当然に本発明の活物質ではない。
これらのことを鑑みると、本発明の活物質は、一般式:Lia1Nib1Coc1Mnd1De1Of1(0.2≦a1≦1.5、b1+c1+d1+e1=1、0≦e1<1、DはFe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、Zr、S、Si、Na、K、Al、Ti、P、Ga、Ge、V、Mo、Nb、W、La、Hf、Rfから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f1≦2.1)で表される第1組成部と、一般式:Lia2Nib2Coc2Mnd2De2Of2(0.2≦a2≦1.5、b2+c2+d2+e2=1、0≦e2<1、DはFe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、Zr、S、Si、Na、K、Al、Ti、P、Ga、Ge、V、Mo、Nb、W、La、Hf、Rfから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f2≦2.1、ただし少なくともc2<c1又はd2>d1のいずれかを満足する)で表される第2組成部を有する活物質であって、特許文献3及び4に開示の活物質ではないものと表現することもできる。
本発明の活物質を用いて、リチウムイオン二次電池を製造できる。本発明のリチウムイオン二次電池は、電池構成要素として、本発明の活物質を有する正極に加えて、負極、セパレータ及び電解液を含む。
正極は、集電体と、本発明の活物質を含む活物質層で構成される。なお、活物質層には、本発明の活物質以外の活物質を含んでいても良い。
集電体は、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体をいう。集電体としては、銀、銅、金、アルミニウム、マグネシウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状などの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが10μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
集電体の表面に活物質層を形成することで正極とすることができる。
活物質層は導電助剤を含んでもよい。導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。導電助剤としては、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)が例示される。これらの導電助剤を単独または二種以上組み合わせて活物質層に添加することができる。導電助剤の使用量については特に制限はないが、例えば、活物質100質量部に対して1〜50質量部又は1〜30質量部とすることができる。
活物質層は結着剤を含んでもよい。結着剤は活物質及び導電助剤を集電体の表面に繋ぎ止める役割を果たすものである。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂を例示することができる。結着剤の使用量については特に制限はないが、例えば、活物質100質量部に対して5〜50質量部とすることができる。
集電体の表面に活物質層を形成させるには、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に活物質を塗布すればよい。具体的には、活物質、並びに必要に応じて結着剤及び導電助剤を含む活物質層形成用組成物を調製し、この組成物に適当な溶剤を加えてペースト状にしてから、集電体の表面に塗布後、乾燥する。必要に応じて電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。
溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、メタノール、メチルイソブチルケトン(MIBK)を例示できる。
負極は、集電体と、集電体の表面に結着させた負極活物質層を有する。
負極活物質層は負極活物質、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を含む。
集電体、結着剤及び導電助剤は正極で説明したものと同様である。
負極活物質としては、リチウムを吸蔵及び放出可能な炭素系材料、リチウムと合金化可能な元素、リチウムと合金化可能な元素を有する化合物、あるいは高分子材料などを例示することができる。
炭素系材料としては、難黒鉛化性炭素、人造黒鉛、コークス類、グラファイト類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維、活性炭あるいはカーボンブラック類が例示できる。ここで、有機高分子化合物焼成体とは、フェノール類やフラン類などの高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。
リチウムと合金化可能な元素としては、具体的にNa、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Ti、Ag、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Biが例示でき、特に、Si又はSnが好ましい。
リチウムと合金化可能な元素を有する化合物としては、具体的にZnLiAl、AlSb、SiB4、SiB6、Mg2Si、Mg2Sn、Ni2Si、TiSi2、MoSi2、 CoSi2、NiSi2、CaSi2、CrSi2、Cu5Si、FeSi2、MnSi2、NbSi2、TaSi2、VSi2、WSi2、ZnSi2、SiC、Si3N4、Si2N2O、SiOv(0<v≦2)、SnOw(0<w≦2)、SnSiO3、LiSiO あるいはLiSnOを例示でき、特に、SiOx(0.3≦x≦1.6、又は0.5≦x≦1.5)が好ましい。
中でも、負極活物質は、Siを有するSi系材料を含むものがよい。Si系材料は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な珪素又は/及び珪素化合物からなるとよく、例えば、SiOx(0.5≦x≦1.5)がよい。珪素は理論充放電容量が大きいものの、珪素は充放電時の体積変化が大きい。そこで、負極活物質を珪素を含むSiOxとすることで珪素の体積変化を緩和することができる。
また、Si系材料は、Si相と、SiO2相とをもつことが好ましい。Si相は、珪素単体からなり、Liイオンを吸蔵・放出し得る相であり、Liイオンの吸蔵及び放出に伴って膨張及び収縮する。SiO2相は、SiO2からなり、Si相の膨張及び収縮を吸収する緩衝相となる。Si相がSiO2相により被覆されるSi系材料が好ましい。さらには、微細化された複数のSi相がSiO2相により被覆されて一体となって粒子を形成しているものがよい。この場合には、Si系材料全体の体積変化を効果的に抑えることができる。
Si系材料でのSi相に対するSiO2相の質量比は、1〜3であることが好ましい。前記質量比が1未満の場合には、Si系材料の膨張及び収縮が大きくなり、Si系材料を含む負極活物質層にクラックが生じるおそれがある。一方、前記質量比が3を超える場合には、負極活物質のLiイオンの吸蔵及び放出量が少なくなり、電池の負極単位質量あたりの電気容量が低くなる。
また、リチウムと合金化反応可能な元素を有する化合物として、スズ合金(Cu−Sn合金、Co−Sn合金等)などの錫化合物を例示できる。
高分子材料としては、具体的にポリアセチレン、ポリピロールを例示できる。
セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータとしては、例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン若しくはポリエチレンなどの合成樹脂を1種又は複数用いた多孔質膜、またはセラミックス製の多孔質膜を例示できる。
電解液は、非水溶媒と非水溶媒に溶解された電解質とを含んでいる。
非水溶媒としては、環状エステル類、鎖状エステル類、エーテル類等が使用できる。環状エステル類としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、ビニレンカーボネート、2−メチル−ガンマブチロラクトン、アセチル−ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトンを例示できる。鎖状エステル類としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル等を例示できる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンを例示できる。
電解質としては、LiClO4、LiAsF6、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2等のリチウム塩を例示できる。
電解液としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネートなどの非水溶媒に、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3などのリチウム塩を0.5mol/lから1.7mol/l程度の濃度で溶解させた溶液を例示できる。
リチウムイオン二次電池の製造方法としては、本発明の正極を配置する工程を有していればよい。以下、リチウムイオン二次電池の具体的な製造方法を例示する。正極および負極にセパレータを挟装させ電極体とする。電極体は、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。正極の集電体および負極の集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に電解液を加えてリチウムイオン二次電池とするとよい。
本発明の活物質はリチウムイオンの吸着及び脱離に伴う伸縮及び膨張が全体として緩和されるため、本発明の活物質を用いたリチウムイオン二次電池は充放電を繰り返しても劣化しにくく好適な容量維持率を示す。その結果として、本発明のリチウムイオン二次電池は、高電位駆動条件下でも良好な容量維持率を示すことができる。ここで、高電位駆動条件とは、リチウム金属に対するリチウムイオンの作動電位が4.3V以上、さらには4.4V〜4.6V又は4.5V〜5.5Vのことをいう。本発明のリチウムイオン二次電池は、正極の充電電位をリチウム基準で4.3V以上、さらには4.4V〜4.6V又は4.5V〜5.5Vとすることができる。なお、一般的なリチウムイオン二次電池の駆動条件においては、リチウム金属に対するリチウムイオンの作動電位は4.3V未満である。
本発明のリチウムイオン二次電池の型は特に限定されるものでなく、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の型を採用することができる。
本発明のリチウムイオン二次電池は車両に搭載することができる。本発明のリチウムイオン二次電池は、大きな充放電容量を維持し、かつ優れたサイクル性能を有するため、これを搭載した車両は、高性能の車両となる。
車両としては、電池による電気エネルギーを動力源の全部または一部に使用する車両であればよく、例えば、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド鉄道車両、電動フォークリフト、電気車椅子、電動アシスト自転車、電動二輪車が挙げられる。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
以下に、実施例および比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。以下において、特に断らない限り、「部」とは質量部を意味し、「%」とは質量%を意味する。
(実施例1)
硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸マンガンを水に溶解し、ニッケル、コバルト及びマンガンのモル比が6:2:2である第1水溶液を調製した。第1水溶液におけるニッケル、コバルト及びマンガンの合計濃度は、0.9mol/Lであった。
硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸マンガンを水に溶解し、ニッケル、コバルト及びマンガンのモル比が4:2:4である第2水溶液を調製した。第2水溶液におけるニッケル、コバルト及びマンガンの合計濃度は、0.9mol/Lであった。
撹拌装置及び窒素導入管を備えた反応槽に水を入れ、撹拌しながら40℃に加熱した。窒素導入管から窒素を供給し続けて、該反応槽を窒素雰囲気下に維持した。水酸化ナトリウム16質量%水溶液及びアンモニア28質量%水溶液を反応槽に供給し、アンモニア濃度9g/Lであって、pHが11.6の塩基性水溶液を調製した。なお、上述したように、本明細書で規定するpHは25℃で測定した場合の値である。
速度1000rpmでの撹拌条件下とした塩基性水溶液に対し、前記第1水溶液及び前記第2水溶液を同時に供給した。第1水溶液及び第2水溶液の供給速度は0.4mL/min.であった。また、塩基性水溶液のアンモニア濃度を9g/L程度、塩基性水溶液のpHを11.6〜11.8程度に維持するために、水酸化ナトリウム16質量%水溶液及びアンモニア3質量%水溶液を反応槽に適宜供給した。そして、ニッケル、コバルト及びマンガンをモル比6:2:2で含む第1の1次粒子並びにニッケル、コバルト及びマンガンをモル比4:2:4で含む第2の1次粒子を形成させた。
反応槽の水溶液の量を減じ、水溶液のアンモニア濃度を9g/L程度、水溶液のpHを11.2〜11.3程度に維持しつつ撹拌を続けて、第1の1次粒子及び第2の1次粒子が互いに結合した結合粒子を形成させた。結合粒子を濾過した後、再び反応槽の水溶液の量を減じ、該結合粒子を水溶液に投入して結合粒子を成長させた。成長後の結合粒子を濾過で分離し、水で洗浄した。洗浄後の結合粒子を300℃で20時間加熱し、脱水した。
リチウムとニッケル、コバルト及びマンガンの合計とのモル比が1.1:1となるように、脱水後の結合粒子と炭酸リチウムを混合し混合物を得た。該混合物に対し、0.5質量%のリン酸ジルコニウムを加え、混合した。得られた混合物に対し、650℃、10時間の条件下で、第1次焼成を行った。次いで、850℃、5時間の条件下で、第2次焼成を行い、焼成物を得た。焼成物を冷却し、粉砕及び分級を行って、平均粒子径6μmのリチウム複合金属酸化物を得た。これを実施例1の活物質とした。実施例1の活物質は、平均組成がLi1.13Ni4.97/10Co1.99/10Mn2.98/10Zr0.05/10O2で表される。
(実施例2)
リン酸ジルコニウムを用いなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の活物質を製造した。
(実施例3)
硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸マンガンを水に溶解し、ニッケル、コバルト及びマンガンのモル比が6:2:2である第1水溶液を調製した。第1水溶液におけるニッケル、コバルト及びマンガンの合計濃度は、0.9mol/Lであった。
撹拌装置及び窒素導入管を備えた反応槽に水を入れ、撹拌しながら40℃に加熱した。窒素導入管から窒素を供給し続けて、該反応槽を窒素雰囲気下に維持した。水酸化ナトリウム16質量%水溶液及びアンモニア28質量%水溶液を反応槽に供給し、アンモニア濃度9g/Lであって、pHが12.4の塩基性水溶液を調製した。
速度1000rpmでの撹拌条件下とした塩基性水溶液に対し、前記第1水溶液を供給した。第1水溶液の供給速度は0.4mL/min.であった。また、塩基性水溶液のアンモニア濃度を9g/L程度、塩基性水溶液のpHを12.0〜12.2程度に維持するために、水酸化ナトリウム16質量%水溶液及びアンモニア3質量%水溶液を反応槽に適宜供給した。そして、ニッケル、コバルト及びマンガンをモル比6:2:2で含む第1の1次粒子を形成させた。
第1の1次粒子を濾過で分離し、水で洗浄した。洗浄後の第1の1次粒子を300℃で20時間加熱し、脱水して、第1脱水物とした。
硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸マンガンを水に溶解し、ニッケル、コバルト及びマンガンのモル比が4:2:4である第2水溶液を調製した。第2水溶液におけるニッケル、コバルト及びマンガンの合計濃度は、0.9mol/Lであった。
撹拌装置及び窒素導入管を備えた反応槽に水を入れ、撹拌しながら40℃に加熱した。窒素導入管から窒素を供給し続けて、該反応槽を窒素雰囲気下に維持した。水酸化ナトリウム16質量%水溶液及びアンモニア28質量%水溶液を反応槽に供給し、アンモニア濃度9g/Lであって、pHが12.4の塩基性水溶液を調製した。
速度1000rpmでの撹拌条件下とした塩基性水溶液に対し、前記第2水溶液を供給した。第2水溶液の供給速度は0.4mL/min.であった。また、塩基性水溶液のアンモニア濃度を9g/L程度、塩基性水溶液のpHを12.0〜12.2程度に維持するために、水酸化ナトリウム16質量%水溶液及びアンモニア3質量%水溶液を反応槽に適宜供給した。そして、ニッケル、コバルト及びマンガンをモル比4:2:4で含む第2の1次粒子を形成させた。
第2の1次粒子を濾過で分離し、水で洗浄した。洗浄後の第2の1次粒子を300℃で20時間加熱し、脱水して、第2脱水物とした。
第1脱水物25gと第2脱水物25gを株式会社奈良機械製作所のハイブリダイゼーションシステム(NHS)に投入し、15000rpm、5分間混合し、第1脱水物及び第2脱水物が互いに結合した脱水結合粒子を製造した。
リチウムとニッケル、コバルト及びマンガンの合計とのモル比が1.1:1となるように、上記脱水結合粒子と炭酸リチウムを混合し混合物を得た。該混合物に対し、0.5質量%のリン酸ジルコニウムを加え、混合した。得られた混合物に対し、650℃、10時間の条件下で、第1次焼成を行った。次いで、850℃、5時間の条件下で、第2次焼成を行い、焼成物を得た。焼成物を冷却し、粉砕及び分級を行って、平均粒子径6μmのリチウム複合金属酸化物を得た。これを実施例3の活物質とした。実施例3の活物質は、平均組成がLi1.13Ni4.97/10Co1.99/10Mn2.98/10Zr0.05/10O2で表される。
(実施例4)
実施例4のリチウムイオン二次電池を以下のとおり作製した。
正極は以下のように作成した。
正極用集電体として厚み20μmのアルミニウム箔を準備した。実施例1の活物質を94質量部、導電助剤として3質量部のアセチレンブラック、および結着剤として3質量部のポリフッ化ビニリデン(PVDF)を混合した。この混合物を適量のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に分散させて、スラリーを作製した。上記アルミニウム箔の表面に上記スラリーをのせ、ドクターブレードを用いてスラリーが膜状になるように塗布した。スラリーを塗布したアルミニウム箔を80℃で20分間乾燥することで、NMPを揮発により除去し、アルミニウム箔表面に活物質層を形成させた。表面に活物質層を形成させたアルミニウム箔を、ロ−ルプレス機を用いて圧縮し、アルミニウム箔と活物質層とを強固に密着接合させた。接合物を120℃で6時間、真空乾燥機で加熱し、所定の形状(25mm×30mmの矩形状)に切り取り、厚さ60μm程度の正極を得た。
負極は以下のように作製した。
黒鉛粉末97質量部と、導電助剤としてアセチレンブラック1質量部と、結着剤としてスチレン−ブタジエンゴム(SBR)1質量部及びカルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部とを混合し、この混合物を適量のイオン交換水に分散させてスラリーを作製した。このスラリーを負極用集電体である厚み20μmの銅箔にドクターブレードを用いて膜状になるように塗布し、スラリーを塗布した集電体を乾燥後プレスし、接合物を200℃で2時間、真空乾燥機で加熱し、所定の形状(25mm×30mmの矩形状)に切り取り、厚さ45μm程度の負極とした。
上記の正極および負極を用いて、ラミネート型リチウムイオン二次電池を製作した。詳しくは、正極および負極の間に、セパレータとしてポリプロピレン樹脂からなる矩形状シート(27×32mm、厚さ25μm)を挟装して極板群とした。この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに電解液を注入した。電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)をEC:DEC=3:7(体積比)で混合した溶媒にLiPF6を1モル/Lとなるよう溶解した溶液を用いた。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群および電解液が密閉されたラミネート型リチウムイオン二次電池を得た。なお、正極および負極は外部と電気的に接続可能なタブを備え、このタブの一部はラミネート型リチウムイオン二次電池の外側に延出している。
以上の工程で、実施例4のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
(実施例5)
実施例1の活物質に替えて、実施例2の活物質を採用した以外は、実施例4と同様の方法で、実施例5のラミネート型リチウムイオン二次電池を製造した。
(比較例1)
活物質として、市販のLiNi5/10Co2/10Mn3/10O2を用いた以外は、実施例4と同様の方法で、比較例1のラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
<評価例1>活物質の分析
実施例1の活物質の活物質1次粒子につき、イオンスライサー(EM−09100IS、日本電子株式会社製)を用いたArイオンミリング法にて断面を形成させ、該断面を、高角度散乱環状暗視野走査透過電子顕微鏡(HAADF−STEM):JEM−ARM200F(JEOL:日本電子株式会社製)を用い、球面収差補正を行いつつ、加速電圧200kVにて測定した。得られたHAADF−STEM像を図6に示す。図6のHAADF−STEM像では、結晶方位が異なることを示す結晶粒界が観察されなかった。
上記と同じ活物質1次粒子の断面に対し、走査透過型電子顕微鏡とエネルギー分散型X線分光分析装置を組み合わせたSTEM−EDXを用い、Co、Mnを測定対象として分析を行った。図7に、STEM−EDXで得られたCo、Mnの元素マップと、上記HAADF−STEM像とを重ね合わせた図を示す。さらに、各組成部を実線で区分した図を図8に示す。図8にて実線で区分した組成部は、上から順に、第2組成部、第1組成部、第2組成部、第1組成部、第2組成部である。
上記と同じ活物質1次粒子の断面を、低角度散乱環状暗視野走査透過電子顕微鏡(LAADF−STEM)で測定した。LAADF−STEM像はHAADF−STEM像と比較して、回折コントラストを鮮明に表示し、結晶に内在する歪みを可視化できる。得られたLAADF−STEM像を図9に示す。図9には、図6では観察されなかった白線が観察された。この粒子中央を横切る白線箇所は、第2組成部と第1組成部の界面箇所に該当する。
上記と同じ活物質1次粒子の断面を、明視野走査透過電子顕微鏡(BF−STEM)で測定した。得られたBF−STEM像を図10に示す。図10のBF−STEM像において、縦方向が方位<0001>であり、横方向が方位<11−20>である。なお、<11−20>において、「−2」は上線を付した2を表したものである。図10の像と図9の像は、像のコントラストが反転関係にあり、図9で初めて確認された白線は図10では黒線で観察されている。
続いて、図10のBF−STEM像において、中央を横切る黒線箇所を、環状明視野走査透過電子顕微鏡(ABF−STEM)で測定した。この黒線箇所は、第2組成部と第1組成部の界面箇所に該当する。得られたABF−STEM像を図11に示す。比較対照として、第1組成部の中央付近を環状明視野走査透過電子顕微鏡で測定したABF−STEM像を図12に示す。
図11及び図12において、各斑点は元素を示し、横方向の斑点層が元素層を示す。そして、最も濃い黒斑点層は遷移金属層を示す。図11及び図12の各像は、最も濃い黒斑点層である遷移金属層、以下、縦方向に、酸素層、リチウム層、酸素層、遷移金属層の順に規則的に繰り返されていることがわかる。図11と図12を詳細に観察し比較すると、図12では各元素で構成される層が一直線状に乱れなく配列しているのに対し、図11の各層はごく僅かな配列の乱れを有するのがわかる。しかしながら、図7及び図8で確認されたように組成が切り替わる部分であるにも関わらず、図11の周期的な元素配列に特段の境界が観察されなかった。これは、図11の像が、単一の結晶構造であることを意味する。つまり、活物質1次粒子の第2組成部と第1組成部の界面箇所は、結晶格子の観点からは他の箇所と実質的に差異を生じず、遷移金属の組成のみが切り替わる箇所であることを意味する。図11に結晶の境界を示す像が観察されなかったことから、図9及び図10で新たに観察された回折コントラストによる線は、結晶粒を示すものではなく、活物質1次粒子のごく僅かな配列の乱れが像となって観察されたものと考えられ、その原因は、組成の切り替わりに因り発生する歪みにあると推察される。
図6〜図12で示した結果から、第1組成部及び第2組成部からなる活物質1次粒子は、組成が部分的に異なる箇所があるものの、あたかも単結晶のような状態を示す単一の結晶構造体であることが裏付けられた。
また、活物質1次粒子の断面に対し、STEM−EDXを用い、Zrを測定対象として分析を行った。その結果、粒子の内部側と比較して表層側に高濃度でZrが存在することが確認できた。
<評価例2>リチウムイオン二次電池の評価
実施例4、5、比較例1のラミネート型リチウムイオン二次電池につき、以下の試験を行った。測定する電池に対し、25℃、0.33Cレート、電圧4.5VでCCCV充電(定電流定電圧充電)し、そして、電圧3.0V、0.33CレートでCC放電(定電流放電)を行ったときの放電容量を測定した。この放電容量を初期容量とした。
さらに、60℃、1Cレート、電圧4.5VでCCCV充電(定電流定電圧充電)を行い、2.5時間保持後、電圧3.0V、1CレートでCC放電(定電流放電)を行う4.5V−3.0Vの充放電サイクルを、測定する電池に対して100サイクル及び200サイクル行い、その後、0.33Cレートでの放電容量を測定して、容量維持率を算出した。
容量維持率(%)は以下の式で求めた。
容量維持率(%)=100又は200サイクル後の放電容量/初期容量×100
なお、例えば1時間で放電する電流レートを1Cという。
結果を表2に示す。なお、試験結果はn=2の平均値である。
実施例4、5のリチウムイオン二次電池は、比較例1のリチウムイオン二次電池と比較して、優れた容量維持率を示すことがわかる。これらの電池の容量維持率の差は、活物質の違いに基づくものである。本発明の活物質は劣化が抑制されることが実験で裏付けられた。また、本発明の活物質は、一般式においてDで表されるドープ元素の存在に因り、より好適なものとなることが実験で裏付けられた。