一方、マスタシリンダの出力する液圧を直接ホイールシリンダに供給して制動力を発生させるブレーキ装置の場合には、ホイールシリンダとマスタシリンダと連結する作動液流路に設けた開閉弁を停車中に閉弁保持するようにすれば、停車保持制御を実施することができる。しかし、こうした装置では、ストロークシミュレータのような液圧吸収装置を備えていないため、停車保持制御が開始された後にブレーキペダルが踏み込まれてもブレーキペダルをストロークさせることができない。このため、良好なペダルフィーリングが得られない。
この問題を解消するためには、停車保持制御中に、ドライバーのペダル踏み増し操作が検出されたときに開閉弁を開弁し、その後、ペダル戻し操作が検出されたときに再び開閉弁を閉弁させるようにすればよい。具体的には、マスタシリンダの出力する液圧を検出する圧力センサを設け、圧力センサの検出値が閾値を超えたときに開閉弁を開弁してマスタシリンダからホイールシリンダへ作動液を供給するようにし、圧力センサの検出値が閾値以下にまで低下したときに、再び開閉弁を閉弁させるようにすればよい。
一般に、液圧を検出する場合には、圧力センサの検出値に対してローパスフィルタ処理を施して高周波ノイズ成分を除去する。このローパスフィルタ処理のカットオフ周波数が低すぎると検出値の位相遅れにより、ブレーキペダル操作に対して開閉弁の開弁が遅れてしまいペダルフィーリングが低下する。このため、カットオフ周波数を高くせざるを得ない。しかし、カットオフ周波数を高く設定すると、開閉弁の作動に伴って発生する液圧の脈動の影響を受け易くなり、検出値が閾値を短い周期でクロスして開閉弁の開閉ハンチング(開閉弁が開閉動作を繰り返す現象)を招いてしまう。その場合には、異音が発生したり、ブレーキペダルに振動が伝わったりすることがある。特に、停車中にブレーキペダルを踏んでいる時には、車室内が静かであり、かつ、路面から外乱を受けないため、ドライバーに異音あるいはペダル振動を感じさせやすい状況となる。
従って、マスタシリンダと開閉弁との間の作動液流路にストロークシミュレータのような液圧吸収装置を備えていないブレーキ装置では、停車保持制御を実施する場合にドライバーに違和感を与えてしまうおそれがある。
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、停車保持制御中にドライバーに与える違和感を低減することを目的とする。
上記課題を解決する本発明の特徴は、
車輪に設けられ作動液の液圧を受けて前記車輪に制動力を与えるホイールシリンダ(92)と、
ブレーキペダル(10)に入力された踏み込み操作力により作動液を加圧する踏力作動液加圧装置(20)と、
前記踏力作動液加圧装置と前記ホイールシリンダとを連結する作動液流路に設けられ、前記作動液流路を開閉制御可能な制御弁(66,67)と、
停車中に前記踏力作動液加圧装置から前記ホイールシリンダへ液圧が供給されている状態で前記制御弁を閉弁させることにより、前記ブレーキペダルへの踏み込み操作入力が無くなっても、前記ホイールシリンダへの液圧供給状態を保持する停車保持制御を実施する停車保持制御手段(100,S12)と
を備えた車両のブレーキ制御装置において、
前記停車保持制御手段は、
前記踏力作動液加圧装置によって加圧された作動液の液圧を検出する圧力センサ(102)を備え、前記圧力センサの出力するセンサ信号にローパスフィルタ処理を施して液圧検出値を取得する液圧検出手段(S17)と、
前記停車保持制御中に、前記液圧検出手段の取得した液圧検出値が第1閾値よりも大きくなった場合に前記制御弁を開弁させ、その後、前記液圧検出値が第2閾値以下にまで低下した場合に前記制御弁を閉弁させる開閉制御手段(S18,S21,S23)と、
前記開閉制御手段により前記制御弁が開弁された場合、前記制御弁の開弁から予め設定された設定時間が経過するまでの間は、前記液圧検出値の大きさに関係なく、前記開閉制御手段による前記制御弁の閉弁を禁止する閉弁禁止手段(S19)と、
前記ブレーキペダルが所定速度よりも速く戻されるペダル急戻し操作を検出する急戻し操作検出手段(S27)と、
前記開閉制御手段により前記制御弁が開弁された後から前記設定時間が経過するまでの間であっても、前記急戻し操作検出手段によりペダル急戻し操作が検出された場合には、前記閉弁禁止手段の動作を無効にして前記制御弁を閉弁させる急戻し時閉弁手段(S28)とを備えたことにある。
本発明においては、踏力作動液加圧装置がブレーキペダルに入力された踏み込み操作力により作動液を加圧する。踏力作動液加圧装置は、例えば、マスタシリンダを用いることができる。ホイールシリンダは、踏力作動液加圧装置によって加圧された作動液の液圧を受けて作動し、車輪に制動力を与える。踏力作動液加圧装置とホイールシリンダとを連結する作動液流路には、制御弁が設けられている。制御弁が開弁しているときには、踏力作動液加圧装置とホイールシリンダとが連通し、制御弁が閉弁しているときには、踏力作動液加圧装置とホイールシリンダとの連通が遮断される。
停車保持制御手段は、停車中に踏力作動液加圧装置からホイールシリンダへ液圧が供給されている状態で制御弁を閉弁させることにより、ブレーキペダルの踏み込み操作入力が無くなっても、ホイールシリンダへの液圧供給状態を保持する停車保持制御を実施する。従って、ドライバーがブレーキペダルの踏み込み力を緩めても、停車状態(車体速度がゼロとなっている状態)に維持することができる。
踏力作動液加圧装置と制御弁との間の作動液流路にストロークシミュレータのような液圧吸収装置を備えていないブレーキ制御装置では、停車保持制御により制御弁が閉弁状態に維持されている間は、踏み込み操作により加圧された作動液を逃がすことができない。このため、ドライバーがブレーキペダルを踏み込んでもブレーキペダルをストロークさせることができず、ブレーキペダル操作フィーリングが低下する。
そこで、開閉制御手段が、停車保持制御中に、液圧検出手段の取得した作動液の液圧検出値が第1閾値よりも大きくなった場合に制御弁を開弁させ、その後、液圧検出値が第2閾値以下にまで低下した場合に制御弁を閉弁させる。これにより、停車保持制御中にブレーキペダルの踏み込み操作が行われた場合でも、ブレーキペダルをストロークさせることができる。この場合、液圧検出手段は、踏力作動液加圧装置によって加圧された作動液の液圧を検出する圧力センサを備え、圧力センサの出力するセンサ信号にローパスフィルタ処理を施して液圧検出値を取得する。これにより、高周波ノイズが除去された液圧検出値を取得することができる。尚、ローパスフィルタ処理を施す対象となるセンサ信号は、圧力センサの出力するセンサ信号そのものだけを意味しているわけではなく、圧力センサの出力するセンサ信号を検出値(デジタル信号)に変換した後のセンサ信号であってもよい。また、第2閾値は、第1閾値と同じ値であっても良いし、不感帯を設けて第1閾値よりも小さな値であってもよい。
ローパスフィルタのカットオフ周波数を低く設定すると液圧検出値の位相遅れによってペダル操作に対して制御弁の開弁動作が遅れてしまう。このため、ローパスフィルタのカットオフ周波数を、ドライバーが制御弁の開弁遅れを感じない程度に高く設定する必要がある。ところが、カットオフ周波数を上記のように高く設定した場合には、制御弁の開弁動作に伴って生じる作動液の液圧の脈動に反応して、制御弁の開閉ハンチングが生じてしまう。そこで、本発明においては、閉弁禁止手段が、開閉制御手段により制御弁が開弁された場合、制御弁の開弁から予め設定された設定時間が経過するまでの間は、液圧検出値の大きさに関係なく、開閉制御手段による制御弁の閉弁を禁止する。このため、作動液の液圧の脈動によって液圧検出値が脈動しても、制御弁の開閉ハンチングが防止される。例えば、設定時間は、制御弁の開弁動作に伴って生じる作動液の液圧の脈動が収束するために必要な時間に設定するとよい。この結果、本発明によれば、停車保持制御中にドライバーに与える違和感を低減することができる。
開閉制御手段によって制御弁が開弁され、閉弁禁止手段によって制御弁の閉弁が禁止されている状況において、設定時間が経過する前にドライバーがブレーキペダルを素早く戻した場合には、ホイールシリンダの液圧が早く低下する。例えば、停車保持制御が開始された後に、ドライバーが高速で踏み戻し(踏み増し、および、戻し)を行った場合には、こうした状況が発生する。このため、設定時間の経過を待ってから制御弁を閉じた場合には、ホイールシリンダの液圧が停車保持に必要な液圧よりも下回ってしまう可能性がある。そこで、本発明の一側面においては、停車保持制御手段が、急戻し操作検出手段と急戻し時閉弁手段とを備えている。
急戻し操作検出手段は、ブレーキペダルが所定速度よりも速く戻されるペダル急戻し操作を検出する。急戻し時閉弁手段は、開閉制御手段により制御弁が開弁された後から設定時間が経過するまでの間であっても、急戻し操作検出によりペダル急戻し操作が検出された場合には、閉弁禁止手段の動作を無効にして制御弁を閉弁させる。従って、停車保持制御中でのホイールシリンダの液圧低下を抑えることができる。この結果、車両を安定的に停止状態に保持することができる。
本発明の一側面は、
前記急戻し操作検出手段は、前記液圧検出値の変化する減少勾配の大きさが予め設定された閾値よりも大きい場合に、前記ペダル急戻し操作が行われたと判定することにある。
本発明の一側面においては、急戻し操作検出手段が、液圧検出値の変化する減少勾配の大きさが予め設定された閾値よりも大きい場合に、ペダル急戻し操作が行われたと判定する。従って、液圧検出値を使ってペダル急戻し操作を検出するため、ホイールシリンダの液圧低下の抑制を適正に行うことができる。また、液圧検出手段を利用してペダル急戻し操作が行われたことを判定できるため、低コストにて実施することができる。
尚、上記説明においては、発明の理解を助けるために、実施形態に対応する発明の構成に対して、実施形態で用いた符号を括弧書きで添えているが、発明の各構成要件は前記符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。
以下、本発明の一実施形態に係る車両ブレーキ制御装置について図面を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る車両のブレーキ制御装置の概略システム構成図である。
本実施形態のブレーキ制御装置は、ブレーキペダル10、ブースタ付マスタシリンダユニット20、動力液圧発生装置50、ブレーキアクチュエータ60、リザーバ80、各車輪にそれぞれ設けられるディスクブレーキユニット90FR,90FL,90RR,90RL、および、電子制御ユニット100(ECU100と呼ぶ)を備えている。
ディスクブレーキユニット90FR,90FL,90RR,90RLは、ブレーキディスク91FR,91FL,91RR,91RLとブレーキキャリパに内蔵されたホイールシリンダ92FR,92FL,92RR,92RLとを備えている。尚、車輪毎に対応して設けられる構成については、その符号の末尾に、右前輪については「FR」、左前輪については「FL」、右後輪については「RR」、左後輪については「RL」を付しているが、以下、車輪位置を特定する必要がない場合には、末尾の符号を省略する。また、前輪側と後輪側とに区分して説明する場合には、その符号の末尾に、前輪側に設けられる構成については「F」、後輪側に設けられる構成については「R」を付す。
各ホイールシリンダ92は、ブレーキアクチュエータ60に接続され、ブレーキアクチュエータ60から供給される作動液(ブレーキフルード)の液圧により、車輪と共に回転するブレーキディスク91にブレーキパッドを押し付けて車輪に制動力を付与する。
動力液圧発生装置50は、吸入配管81を介してリザーバ80から作動液を汲み上げるポンプ51と、アキュムレータ52とを備えている。アキュムレータ52は、ポンプ51により加圧された作動液の圧力エネルギーを窒素等の封入ガスの圧力エネルギーに変換して蓄える。動力液圧発生装置50は、アキュムレータ配管82を介して加圧された作動液をブースタ付マスタシリンダユニット20とブレーキアクチュエータ60とに供給する。また、動力液圧発生装置50は、アキュムレータ圧センサ101を備えている。アキュムレータ圧センサ101は、動力液圧発生装置50の供給する作動液の液圧であるアキュムレータ圧Paを検出する。
ブースタ付マスタシリンダユニット20は、アキュムレータ圧を利用してブレーキペダル10の踏み込み操作力を助勢するハイドロブースタと呼ばれるブレーキブースタをマスタシリンダと一体化したものである。
ブースタ付マスタシリンダユニット20(以下、マスタシリンダユニット20と呼ぶ)は、ブレーキペダル10の踏み込み操作に応答して増圧されたマスタシリンダ室33(後述する)内の作動液をマスタ配管83を介してブレーキアクチュエータ60に供給する。また、マスタシリンダユニット20は、増圧用に用いたブースタ室32(後述する)内の作動液をレギュレータ配管84を介してブレーキアクチュエータ60に供給する。
ブレーキアクチュエータ60は、マスタ配管83を介して作動液が供給されるマスタ通路61と、レギュレータ配管84を介して作動液が供給されるレギュレータ通路62と、アキュムレータ配管82を介して作動液が供給されるアキュムレータ通路63とを備えている。マスタ通路61とレギュレータ通路62とは、連通路64によって連通されている。アキュムレータ通路63は、レギュレータ通路62に連通している。従って、マスタ通路61は、連通路64を介してアキュムレータ通路63に連通している。
また、ブレーキアクチュエータ60は、各ホイールシリンダ92と個別配管88を介して連通する個別通路65を備えている。以下、ブレーキアクチュエータ60内における各通路において、作動液を供給する側(マスタシリンダユニット20側あるいは動力液圧発生装置50側)を上流側、作動液が供給される側(ホイールシリンダ92側)を下流側と定義する。尚、「作動液を供給する」とは、「作動液の液圧を供給する」と同じ意味を表す。
マスタ通路61には、連通路64との接続位置よりも上流側にマスタカット弁66が設けられる。レギュレータ通路62には、連通路64およびアキュムレータ通路63との接続位置よりも上流側にレギュレータカット弁67が設けられる。アキュムレータ通路63には、増圧弁68が設けられる。連通路64には、連通切替弁69が設けられる。マスタカット弁66およびレギュレータカット弁67は、非通電時に開弁状態を維持し、通電中においてのみ閉弁状態が維持される常開式の開閉弁である。増圧弁68および連通切替弁69は、非通電時に閉弁状態を維持し、通電中においてのみ開弁状態が維持される常閉式の開閉弁である。レギュレータ通路62には、レギュレータカット弁67をバイパスするチェック弁70が設けられる。チェック弁70は、レギュレータカット弁67の上流から下流への作動液の流れを許容し、上記下流から上流への作動液の流れを阻止する逆止弁である。
前輪のホイールシリンダ92Fに連通する個別通路65Fは、マスタ通路61に接続される。また、後輪のホイールシリンダ92Rに連通する個別通路65Rは、レギュレータ通路62に接続される。それぞれの個別通路65には、個別常開弁71が設けられる。個別常開弁71は、非通電時に開弁状態を維持し、通電中においてのみ閉弁状態が維持される常開式の開閉弁である。また、それぞれの個別通路65には、個別常開弁71をバイパスするチェック弁72が設けられる。チェック弁72は、個別常開弁71の上流から下流への作動液の流れを阻止し、上記下流から上流への作動液の流れを許容する逆止弁である。
各個別通路65には、個別常開弁71の下流側から個別減圧通路73が分岐して設けられる。各個別減圧通路73は、リターン通路74に接続される。リターン通路74は、リターン配管85を介してリザーバ80に連通している。各個別減圧通路73には、個別常閉弁75が設けられる。個別常閉弁75は、非通電時に閉弁状態を維持し、通電中においてのみ開弁状態が維持される常閉式の開閉弁である。
また、ブレーキアクチュエータ60は、マスタシリンダ圧センサ102、および、制御圧センサ103を備えている。マスタシリンダ圧センサ102は、レギュレータ通路62のレギュレータカット弁67よりも上流側における作動液の液圧、つまり、マスタシリンダユニット20からブレーキアクチュエータ60に供給される作動液の液圧(マスタシリンダ圧Pmと呼ぶ)を検出する。制御圧センサ103は、アキュムレータ通路63の増圧弁68よりも下流側における作動液の液圧(制御圧Pcと呼ぶ)を検出する。
マスタシリンダユニット20は、ハウジング21、オペレーティングロッド22、パワーピストン23、マスタシリンダピストン24、レギュレータピストン25、スプールバルブ26、リアクションロッド27、ゴムリアクションディスク28、第1リターンスプリング29、および、第2リターンスプリング30を備えている。オペレーティングロッド22は、ブレーキペダル10に連結されており、ブレーキペダル10の踏み込み操作に伴い軸方向に移動する。ブレーキペダル10の踏み込み操作によりオペレーティングロッド22の進む方向(図1における左方向)を圧縮方向と呼び、その反対方向、つまり、ブレーキペダル10の踏み込み操作が解除されたときにオペレーティングロッド22が戻る方向(図1における右方向)を伸長方向と呼ぶ。
ハウジング21の内部にはシリンダ31が形成されている。パワーピストン23は、オペレーティングロッド22に連結され、シリンダ31内における伸長方向側に配設されている。パワーピストン23の伸長方向側の面とシリンダ31の伸長方向側端面との間には、作動液室となるブースタ室32が形成されている。
マスタシリンダピストン24は、パワーピストン23の圧縮方向側に当接して設けられる。マスタシリンダピストン24より圧縮方向側には、レギュレータピストン25が配設されている。マスタシリンダピストン24とレギュレータピストン25との間には、両者を離間させる方向に付勢する第1リターンスプリング29(コイルスプリング)が設けられている。マスタシリンダピストン24とレギュレータピストン25との間には、マスタシリンダ室33が形成される。
レギュレータピストン25の圧縮方向側には、レギュレータピストン25を伸長方向に付勢する第2リターンスプリング30(コイルスプリング)が設けられている。第2リターンスプリング30は、第1リターンスプリング29に比べてバネ定数が小さく設定されている。レギュレータピストン25の圧縮方向側には、スプールバルブ26が取り付けられている。
ハウジング21には、マスタシリンダピストン24の外周面とシリンダ31との間に形成される液室に連通するリザーバ通路34が形成されている。リザーバ通路34は、リザーバ配管86を介してリザーバ80に接続されている。また、ハウジング21には、レギュレータピストン25より圧縮方向側の液室に連通するアキュムレータ通路35と、上記液室にアキュムレータ通路35よりも圧縮方向側で連通するリザーバ通路36とが形成されている。アキュムレータ通路35は、アキュムレータ配管82に接続されている。リザーバ通路36は、リザーバ配管86に接続されている。レギュレータピストン25の圧縮方向側の面に臨む液室をレギュレータ室37と呼ぶ。尚、図中において、符号87は、アキュムレータ配管82内が過剰圧となった場合に、アキュムレータ配管82内の作動液をリザーバ配管86に逃がして減圧するリリーフバルブを表している。
また、ハウジング21には、レギュレータ室37とブースタ室32とを連通するブースタ入力通路38、および、ブースタ室32とレギュレータ配管84とを接続するブースタ出力通路39が形成されている。
マスタシリンダユニット20は、ブレーキペダル10が踏み込まれていないときは、第2リターンスプリング30の付勢力によってマスタシリンダピストン24、レギュレータピストン25、および、スプールバルブ26が伸長方向に移動した状態に維持される。この状態を初期状態と呼ぶ。初期状態においては、レギュレータ室37は、スプールバルブ26によってアキュムレータ通路35との連通が阻止され、リザーバ通路36と連通した状態となる。
ブレーキペダル10が踏み込まれると、第1リターンスプリング29のバネ定数が第2リターンスプリング30のバネ定数よりも大きく設定されているため、マスタシリンダ室33が圧縮されるよりも先にレギュレータピストン25が圧縮方向に押され、スプールバルブ26が圧縮方向に移動する。これによって、図2に示すように、レギュレータ室37は、アキュムレータ通路35と連通され、かつ、リザーバ通路36との連通が阻止された状態となる。
レギュレータ室37とアキュムレータ通路35とが連通すると、アキュムレータ52とブースタ室32とがブースタ入力通路38を介して連通して、ブースタ室32の液圧が増圧される。これによってパワーピストン23の背面に働く圧力が増加し、ブレーキペダル10の踏み込み操作力が助勢される。第2リターンスプリング30は、初期状態から所定距離だけ圧縮方向に移動すると、シリンダ31に設けられた係止部(図示略)によって圧縮方向への移動が規制される。このため、マスタシリンダピストン24が圧縮方向へ移動することでレギュレータピストン25とマスタシリンダピストン24との距離が縮まり、マスタシリンダ室33が圧縮される。これにより、ブレーキペダル10の踏み込み操作力に応じた液圧の作動液がマスタシリンダ室33からマスタ配管83に供給される。また、同時に、ブースタ室32からレギュレータ配管84に作動液が供給される。このレギュレータ配管84に供給される作動液の液圧もブレーキペダル10の踏み込み操作力に応じた液圧になる。
従って、このマスタシリンダユニット20は、ブレーキペダル10に入力された踏み込み操作力により作動液を加圧する本発明の踏力作動液加圧装置に相当する。
ECU100は、各種の演算処理を行うマイコン、動力液圧発生装置50を駆動するポンプ駆動回路、ブレーキアクチュエータ60に設けられた各種の開閉弁(電磁弁)を駆動する電磁弁駆動回路、各種のセンサ信号を入力するインターフェース等を備えている。ECU100は、アキュムレータ圧センサ101、マスタシリンダ圧センサ102、制御圧センサ103、車輪速センサ104、アクセルペダルセンサ105、加速度センサ106、および、ミリ波レーダーセンサ107を接続し、これらのセンサ101〜107から出力された検出信号を入力する。
車輪速センサ104は、各車輪の回転速度である車輪速を表す検出信号を出力する。アクセルペダルセンサ105は、アクセルペダル(図示略)の踏み込み操作量を表す検出信号を出力する。加速度センサ106は、車体に働く加速度を表す検出信号を出力する。本実施形態においては、加速度センサ106は、車体に働く重力加速度の方向に基づいて、車両の停車している路面の前後方向の傾斜角度(=車体の前後方向の傾斜角度)を推定するために用いられるが、車両の挙動を検出するための加速度センサを兼用することができる。ミリ波レーダーセンサ107は、レーダークルーズコントロールの実行時に使用されるもので、先行車と自車との車間距離を表す検出信号を出力する。
ECU100は、これらのセンサ101〜107から出力される検出信号(例えば、電圧信号)をデジタル値である検出値に変換し、その検出値にローパスフィルタ処理を施すことにより、検出値から高周波ノイズを除去する。あるいは、検出信号にローパスフィルタ処理を施した後にデジタル信号である検出値に変換する。
ECU100は、通常時においては、ブレーキペダル操作の有無に関係なく、ブレーキアクチュエータ60の各弁を非通電状態に維持するとともに、アキュムレータ圧センサ101により検出されるアキュムレータ圧Paが基準圧力範囲に維持されるようにポンプ51を駆動制御する。ドライバーがブレーキペダル10の踏み込み操作を行ったときには、マスタシリンダユニット20から前輪と後輪との2系統に分けてホイールシリンダ92に作動液が供給される。これにより、ドライバーのブレーキペダル10の踏み込み操作に応じた制動力が車輪に発生する。
また、ECU100は、車輪速センサ104により車速(車体速度)を演算するとともに、車輪速と車速とから演算されるスリップ率に基づいて、制動時の車輪のロック傾向の有無を判定し、ロック傾向を検出した場合にはアンチロック制御を実施する。この場合、ECU100は、個別常開弁71、および、個別常閉弁75の開閉を制御してホイールシリンダ圧を一時的に低下させる。
また、ECU100は、ブレーキペダル10の踏み込み操作が行われていないときに制動力を発生させる必要が生じた場合には、自動ブレーキ制御を実施する。例えば、レーダークルーズコントロールの実施中に、ミリ波レーダーセンサ107により先行車両の接近を検出して車両を減速させる必要が生じた場合には、マスタカット弁66、および、レギュレータカット弁67を閉弁し連通切替弁69を開弁状態する。ECU100は、この状態で、制御圧センサ103により検出される制御圧Pcと目標ホイールシリンダ圧とを比較し、制御圧Pcが目標ホイールシリンダ圧に達するように増圧弁68を開弁させる。自動ブレーキ制御中にホイールシリンダ92の液圧を下げる場合には、ECU100は、レギュレータカット弁67を開弁してホイールシリンダ92とリザーバ80とを連通させる。
また、ECU100は、停車中にブレーキペダル10への踏み込み操作入力が無くなっても、ホイールシリンダ92への液圧供給状態を保持する停車保持制御を実施する。以下、ECU100の実施する停車保持制御について説明する。図3は、ECU100の実施する停車保持制御ルーチンを表す。尚、本発明の実施形態に係るECU100の実施する停車保持制御ルーチンは、後述する変形例(図6に示す)として示した停車保持制御ルーチンであって、この図3に示す停車保持制御ルーチンは、その変形例の処理を説明する参考例である。
ECU100は、ステップS11において、停車保持制御の開始条件が成立したか否かを判断する。停車保持制御の開始条件は、ブレーキペダル10の踏み込み操作によって車速がゼロにまで低下したときに成立する。ECU100は、所定の短い演算周期で、マスタシリンダ圧センサ102により検出されるマスタシリンダ圧Pm、および、車輪速センサ104により検出される車輪速から演算される車速を読み込んで、上記の開始条件の成立判断を繰り返す。
ECU100は、開始条件が成立したと判断すると、ステップS12において、停車保持制御を開始する。停車保持制御は、マスタカット弁66とレギュレータカット弁67とを閉弁させることにより開始される。この場合、車速がゼロになったタイミングで両カット弁66,67を閉弁させると、そのときにホイールシリンダ92に供給されている作動液の液圧が高すぎる場合がある。そこで、ECU100は、開始条件が成立した場合、マスタシリンダ圧Pmが設定圧P*に低下するまで待機し、マスタシリンダ圧Pmが設定圧P*以下になったこと検出したタイミングでマスタカット弁66とレギュレータカット弁67とを閉弁させる。これにより、図4に太線により示すように、4輪のホイールシリンダ92の液圧が一定圧に保持されて、ドライバーがブレーキペダル10の踏み込み操作力を緩めても停車状態を維持することができる。
尚、設定圧P*は、車体を停止保持するために必要な液圧に設定されている。車体を停止保持するために必要なホイールシリンダ圧は、路面の前後方向の傾斜角度によって異なる。そこで、ECU100は、加速度センサ106により検出される重力加速度方向に基づいて路面の前後方向の傾斜角度を推定し、この傾斜角度に応じた設定圧P*を演算する。
続いて、ECU100は、ステップS13において、開閉フラグFを「0」にセットする。この開閉フラグは、停車保持制御中における、マスタカット弁66とレギュレータカット弁67との開閉状態を表すもので、「0」により両カット弁66,67の閉弁状態を表し、「1」により両カット弁66,67の開弁状態を表す。続いて、ECU100は、ステップS14において、開弁タイマの計時するタイマ値tをリセット(ゼロクリア)する。この開弁タイマは、停車保持制御中においてマスタカット弁66とレギュレータカット弁67とが開弁している継続時間を表す。
ここで、開弁タイマを設けた意義について説明する。停車保持制御によってマスタカット弁66とレギュレータカット弁67とを閉弁した状態では、ドライバーがブレーキペダル10を踏み込んでもマスタシリンダ室33を圧縮させることができない。従って、ブレーキペダル10をストロークさせることができず、ドライバーに硬いペダルフィーリング(いわゆる、板踏み感)を与えてしまう。マスタカット弁66よりも上流側のマスタ通路61に、作動液の液圧を吸収する液圧吸収装置(例えば、ストロークシミュレータ等)を備えている場合には、そうした問題は解消できるが、本実施形態のように液圧吸収装置を備えていないブレーキアクチュエータ60では対応できない。
そこで、本実施形態においては、後述するように、停車保持制御中にブレーキペダル10の踏み増し操作を検出した場合に、マスタカット弁66とレギュレータカット弁67とを開弁させてブレーキペダル10を押し込むことができるようにする。また、その後、ブレーキペダル10の戻し操作を検出した場合に、マスタカット弁66とレギュレータカット弁67とを再閉弁させて4輪のホイールシリンダ92の液圧を一定圧に保持する。そのようにするために、ECU100は、マスタシリンダ圧Pmに基づいてブレーキペダル10の踏み増し操作、および、戻し操作を検出する。
この場合、ブレーキペダル10の踏み増し操作に対して、マスタカット弁66とレギュレータカット弁67の開弁動作が遅れるとドライバーに違和感を与えてしまう。そこで、開弁遅れによる違和感をドライバーに与えないように、マスタシリンダ圧Pmのローパスフィルタ処理のカットオフ周波数が高めに設定されている。ところが、上記のようにカットオフ周波数が高く設定されている場合には、レギュレータカット弁67の開弁に伴って生じる作動液の液圧の脈動によって、マスタシリンダ圧Pmも脈動してしまい、マスタカット弁66とレギュレータカット弁67とが開閉ハンチングするおそれがある。そこで、本実施形態においては、マスタカット弁66とレギュレータカット弁67とを開弁した後は、液圧の脈動がおさまるのに必要な設定時間(例えば、数十ミリ秒)だけは、マスタシリンダ圧Pmの大きさに関係なく、マスタカット弁66とレギュレータカット弁67との開弁状態を維持させる。開弁タイマは、この開弁状態の時間を計測するものである。
ECU100は、ステップS15において、開閉フラグFが「1」であるか否かを判断する。この処理が最初に実行される場合は、開閉フラグFが「0」に設定されている。このため、ECU100は、「No」と判定し、後述するステップS16の処理をスキップしてステップS17の処理を実行する。ECU100は、ステップS17において、マスタシリンダ圧Pmを読み込む。つまり、マスタシリンダ圧センサ102の出力する検出信号(電圧)を入力して検出値(デジタル値)に変換し、その検出値に対してローパスフィルタ処理を施して、最終的なマスタシリンダ圧Pmを取得する。ローパスフィルタのカットオフ周波数は、停車保持制御中にドライバーがブレーキペダル10を踏み込んだときに、その踏み込み操作の検出が遅れない程度に高めの値に設定されている。
ローパスフィルタ処理は、例えば、次式の伝達関数H(s)を用いて、検出値から高周波ノイズ成分を除去する。
H(s)=K・(1/(1+sτ))
ここで、sはラプラス演算子であり、τはフィルタの時定数、Kは通過域のゲインである。カットオフ周波数は、(1/2πτ)として表され、時定数τの逆数に比例する。
続いて、ECU100は、ステップS18において、マスタシリンダ圧Pmが設定圧P*よりも大きいか否かを判断する。停車保持制御が開始された後にドライバーがブレーキペダル10の踏み増しを行わない間は、マスタシリンダ圧Pmが設定圧P*よりも大きくならない。従って、ドライバーがブレーキペダル10の踏み込み操作力を保持あるいは緩めている場合には、「No」と判定される。この場合、ECU100は、ステップS19において、タイマ値tが設定時間trefを超えたか否かを判断する。停車保持制御が開始された直後においては、タイマ値tは、ゼロに設定されているため「No」と判定される。
この場合、ECU100は、ステップS20において、停車保持制御の終了条件が成立したか否かを判断する。停車保持制御の終了条件は、アクセル操作が検出されたときに成立する。ECU100は、アクセルペダルセンサ105により検出されるアクセル操作量を読み込んで終了条件の成立を判断する。尚、図示しないシフトレーバーがパーキング位置にセットされることを停車保持制御の終了条件に加えても良い。
ECU100は、停車保持制御の終了条件が成立しない場合(S20:No)には、その処理をステップS15に戻して、上述した処理を所定の演算周期で繰り返す。こうした処理が繰り返されているときに、ドライバーがブレーキペダル10を踏み込んでマスタシリンダ圧Pmが設定圧P*よりも大きくなると(S18:Yes)、ECU100は、ステップS21において、マスタカット弁66とレギュレータカット弁67とを開弁させる。これにより、図5に太線により示すように、マスタシリンダユニット20の作動液がホイールシリンダ92に供給されて、ブレーキペダル10がスムーズにストロークする。続いて、ECU100は、ステップS22において、開閉フラグFを「1」にセットし、その処理をステップS20に進めて上述した処理を繰り返す。
マスタカット弁66とレギュレータカット弁67とが開弁された後、つまり、開閉フラグFが「1」にセットされた後は、ステップS16において開弁タイマによる計時が開始され、タイマ値tが値「1」だけインクリメントされる。マスタシリンダ圧Pmが設定圧P*より大きい期間においては(S18:Yes)、マスタカット弁66とレギュレータカット弁67とが開弁状態に維持される。そして、ドライバーがブレーキペダル10の踏み込み操作力を緩めて、マスタシリンダ圧Pmが設定圧P*以下になると(S18:No)、ECU100は、その処理をステップS19に進める。この場合、タイマ値tが設定時間trefを超えないあいだは、ステップS19からステップS20へと処理が直接進められ、停車保持制御の終了条件の成立の判断が行われる。
そして、タイマ値tが設定時間trefを超えると(S19:Yes)、ECU100は、ステップS23において、マスタカット弁66とレギュレータカット弁67とを閉弁させる。これにより、ホイールシリンダ92の液圧を保持することができる。続いて、ECU100は、ステップS24において、開閉フラグFを「0」にセットし、続く、ステップS25において、開閉タイマのタイマ値tをリセットした後、その処理をステップS20に進める。
ECU100は、停車保持制御の終了条件が成立するまで上述した処理を繰り返す。そして、停車保持制御の終了条件が成立すると、ステップS26において、マスタカット弁66とレギュレータカット弁67とを開弁させて、停車保持制御を終了する。
以上説明した本実施形態の車両のブレーキ制御装置によれば、以下の作用・効果を奏する。
1.停車保持制御が開始された後、マスタシリンダ圧Pmが設定圧P*より大きくなった場合には、マスタカット弁66とレギュレータカット弁67とが開弁され、その後、マスタシリンダ圧Pmが設定圧P*以下になった場合には、マスタカット弁66とレギュレータカット弁67とが閉弁される。このため、ブレーキアクチュエータ60がストロークシミュレータのような液圧吸収装置を備えていない構成であっても、ブレーキペダル10をストロークさせながらホイールシリンダ92の液圧を適正に保持することができる。
2.上記カット弁66,67が開弁した後は、少なくとも設定時間trefの間は(カット弁66,67の開弁時から設定時間trefに対応する時間が経過するまでは)、開弁状態が維持される。つまり、上記カット弁66,67の閉弁が禁止される。このため、ドライバーのブレーキペダル10の踏み増し操作に対して、上記のカット弁66,67の開弁が遅れないようにマスタシリンダ圧Pmのローパスフィルタのカットオフ周波数が高く設定されていても、カット弁66,67の開閉ハンチングを低減することができる。従って、異音の発生やペダル振動の発生を低減することができる。
3.これらの結果、停車保持制御中にドライバーに与える違和感を低減することができる。
<停車保持制御の変形例>
次に、停車保持制御の変形例について説明する。図6は、ECU100の実施する変形例に係る停車保持制御ルーチンを表す。この変形例に係る停車保持制御ルーチンは、上述した停車保持制御ルーチン(図3)に、ステップS27、および、ステップS28の処理を加えたものである。
上記実施形態においては、停車保持制御中に、ブレーキペダル10が踏み込まれてマスタカット弁66とレギュレータカット弁67とが開弁された場合、上記カット弁66,67は、少なくとも設定時間trefの間は、開弁状態が維持される。ところが、設定時間trefが経過する前に、ドライバーがブレーキペダル10を素早く戻した場合には、ホイールシリンダの液圧が早く低下する。例えば、停車保持制御が開始された後に、ドライバーが高速で踏み戻し(踏み増し、および、戻し)を行った場合には、こうした状況が発生する。このため、設定時間trefの経過を待ってからカット弁66,67を閉じた場合には、ホイールシリンダ92の液圧が停車保持に必要な液圧よりも下回ってしまう可能性がある。そこで、この変形例においては、そうした問題をも解決する。
ECU100は、ステップS18において、マスタシリンダ圧Pmが設定圧P*以下であると判定された場合(S18:No)、ステップS27において、マスタシリンダ圧Pmの変化勾配A(単位時間当たりのマスタシリンダ圧Pmの変化量)を演算する。例えば、ECU100は、現時点のマスタシリンダ圧Pm(n)と、現時点よりもm回前の演算時(m×演算周期だけ前)に検出したマスタシリンダ圧Pm(n-m)を抽出し、マスタシリンダ圧Pm(n)のマスタシリンダ圧Pm(n-m)に対する変化量を算出する。また、1つの変化量だけで変化勾配Aを求めると誤差を含みやすいため、1演算周期ずつずらしたs個分の変化量を求め、このs個分の変化量の平均値からマスタシリンダ圧Pmの変化勾配Aを算出する。例えば、3個分の変化量を用いて演算する場合(s=3)には、第1変化量ΔA1=Pm(n)−Pm(n-m)、第2変化量ΔA2=Pm(n-1)−Pm(n-m-1)、第3変化量ΔA3=Pm(n-2)−Pm(n-m-2)を算出して、その3つの変化量の平均値((ΔA1+ΔA2+ΔA3)/3)を(m×演算周期)で除算した演算結果を変化勾配Aとすればよい。
続いて、ECU100は、ステップS28において、変化勾配Aが基準勾配(−Aref)よりも小さいか否かについて判断する。この基準勾配(−Aref)は、負の値に設定された変化勾配である。従って、ステップS28は、マスタシリンダ圧Pmの減少勾配の大きさ(絶対値)が基準勾配の大きさ(Aref)よりも大きいか否かについて判断するものである。例えば、ドライバーが、踏み込んでいるブレーキペダル10から急に足を離した場合には、マスタシリンダ圧Pmが急激に減少して、ステップS28の判断は「Yes」となるが、それ以外の場合には、ステップS28の判断は「No」となる。
ECU100は、変化勾配Aが基準勾配(−Aref)以上となる場合、つまり、マスタシリンダ圧Pmの減少勾配の大きさ(|A|)が基準勾配の大きさ(|−Aref|)以下となる場合(S28:No)には、その処理をステップS19に進める。従って、開閉タイマのタイマ値tが設定時間trefを超えない間は、カット弁66,67の開閉状態が維持される。
一方、変化勾配Aが基準勾配(−Aref)より小さい場合(S28:Yes)には、ステップS19の処理をスキップして、ステップS23の処理を実行する。これにより、ドライバーがブレーキペダル10を素早く戻した場合には、タイマ値tが設定時間trefに到達しない時期であっても、マスタカット弁66とレギュレータカット弁67とが閉弁される。
従って、停車保持制御の変形例によれば、停車保持制御中でのホイールシリンダ92の液圧低下を抑えることができる。この結果、車両を安定的に停止状態に保持することができる。また、マスタシリンダ圧Pmの減少勾配の大きさに基づいて、ドライバーのペダル急戻し操作を検出しているため、ホイールシリンダ92の液圧低下の抑制を良好に行うことができる。また、マスタシリンダ圧センサ102を利用して判定できるため、ブレーキペダル10の踏み込み量を検出するペダルストロークセンサを必要とせず、低コストにて実施することができる。もちろん、ペダル急戻し操作は、ペダルストロークセンサからの信号に基づいて得られるブレーキペダル操作量の減少勾配に基づいて検出されてもよい。
以上、本実施形態および変形例の車両のブレーキ制御装置について説明したが、本発明は上記実施形態および変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、本実施形態においては、アキュムレータ圧を利用してブレーキペダル10の踏み込み操作力を助勢するハイドロブースタ方式のマスタシリンダユニット20を備えているが、本発明は、必ずしも、操作力を助勢するブースタ機能を備えている必要はない。また、本実施形態においては、マスタシリンダユニット20の供給する作動液の液圧をレギュレータ通路62に設けたマスタシリンダ圧センサ102により検出しているが、液圧センサをマスタ通路61に設け、マスタ通路61の液圧を検出する構成であってもよい。
また、本実施形態においては、停車保持制御を行う場合、前輪と後輪との両方のホイールシリンダ92への液圧供給状態を保持するようにしているが、前輪または後輪のホイールシリンダ92への液圧供給状態を保持するようにしてもよい。
また、ローパスフィルタ処理については、種々の手法を採用することができる。
また、本実施形態においては、マスタカット弁66とレギュレータカット弁67とを開閉させるための閾値である設定圧P*を、開弁用と閉弁用とで同一の値としているが、不感帯を設けて、開弁用の設定圧P*1(本発明の第1閾値)と閉弁用の設定圧P*2(本発明の第2閾値)とを異なるようにしてもよい(P*1>P*2)。