鉄道車両の車体構体は、一般に、金属材料で予め個別に製作された1つの屋根構体、2つの側構体、2つの妻構体、及び台枠構体(以降、必要に応じて「構体」と総称する)が互いに接合されて構成される。アルミニウム合金製の車体を構成する構体は、通常、アルミニウム形材(特に、アルミニウム押出形材)同士が溶接により接合されて製作される。アルミニウム押出形材同士の溶接接合には、摩擦溶接、アーク溶接、レーザー溶接、及びレーザーアークハイブリッド溶接等の溶接方法が使われる。これらの溶接方法は、溶接歪みの多寡、溶接速度、溶接部の強度、及び被接合部材の形状や強度に対する制約の多寡等の特性が異なり、用途に応じて使い分けられている。
溶接速度の向上と被接合部材の形状及び強度の自由度確保との両立という観点からは、アーク溶接、レーザー溶接、あるいはレーザーアークハイブリッド溶接が好ましい。アーク溶接、レーザー溶接、あるいはレーザーアークハイブリッド溶接によりアルミニウム押出形材同士の接合を行う場合、接合された形材の溶接部(溶接金属及び母材の熱影響部)の表面に、接合に供せられる材料(以降、「接合材料」)の過剰あるいは不足に起因して凸部や凹部が形成されることがある。溶接部の表面に形成された凸部や凹部は、接合された形材の外観を損なうだけでなく、その部分に応力集中が生じるため接合された形材の強度低下をもたらす恐れがある。
溶接部の表面に形成された凸部や凹部のうち、凸部は研削によって除去することができる。凹部に対しては別材料で埋めることが考えられるが、アルミニウム合金製等の塗装を行わない車体構体を構成する構体の場合は、美観を損なったり強度劣化を招いたりする。この観点から、凸部と同様に、表面に形成される凹部を周囲の母材部分と共に除去することが好ましい。溶接部の表面に形成される凹部としては、アンダーフィルとアンダーカットの2種類がある。アンダーフィルは、ビード表面が、隣接する母材表面より低い状態を指す。アンダーカットは、溶接ビード止端部に沿って母材が掘られて、掘られた部分に接合材料が満たされずに溝となって残っている部分を指す。
図13に、特許文献1に提案されている、接合材料の不足に起因する凹部の一例であるアンダーフィルによる影響の抑制を目的の一つとした被接合部材の接合方法によって得られた溶接接合体の継手部分を示す。特許文献1に記載の接合方法はレーザを使用し、レーザ溶接のメリットである溶接速度の高速化と、溶接部に生じるアンダーフィルによる影響の抑制との両立を図っている。後述するように、特許文献1に記載の接合方法は、溶接部においてアンダーフィルを招く凹部の発生位置を制限すると共に、発生した凹部を周囲の被接合部材(母材)の一部と共に削り取るものである。つまり、後述するように、凹部の最下点が削り取られた後の被接合部材(母材)の上面より上に位置するように考案されている。
図13(a)に示すように、鉄道車両用構体の側構体を構成する外板である被接合部材21及び22は、それぞれ、同図に示す端面形状が同図に対して垂直な方向に連続して板状に成形されている。そして、被接合部材21及び被接合部材22とは垂直な端面同士が平行に突き当てられて所謂I型開先が形成されている。I形開先の重ね合わせによってできた接合線24に沿って照射されたレーザが被接合部材21及び22の延在方向に移動されて溶接が行われる。一般的に、互いに突き合わせされる2つの被接合部材の対向する2つの端面によって構成される溝を開先と言う。被接合部材21及び22の開先の近傍部がレーザによって溶融され、この溶融した被接合部材(以降、「溶融材」)が開先(溝)に充填されることによって、2つの被接合部材21及び22が溶接される。つまり、被接合部材は自身が溶融材の供給源でもある。被接合部材の対向端面を開先端面と呼び、溶接部が開先端面を横切って被接合部材と交わる(置き換わる)部分をルートと呼び、開先断面間の最小距離をルート間距離と呼ぶ。
特許文献1に示されているI形開先構造においては、被接合部材21及び被接合部材22は、開先端面が互いに平行に対向するように突き合わされる。被接合部材21及び22の押し出し成形方向に延在する長尺面である開先端面間に、押し出し成形方向に延在する矩形状の溝が開先として形成される。よって、ルート間距離は対向する平行端面間の距離であり、好ましくはゼロ(零)である。被接合部材21及び22の端部の継手部分の上面には、レーザビームが照射される上方に向けて所定量(肉厚t22×延在長L23)だけ突出した突出部23が形成されている。被接合部材21及び22の接合は、レーザビームの照射によって継手部分(接合線24近傍)の材料(母材)から溶融した部分(溶融材)が開先(矩形状の溝)に充填されることによって行われる。
レーザビームが照射されてできた溶接部26では、図13(b)に示すように、被接合部材21及び突出部23からの溶融材が溶融して流れてしまい、溶接部26に凹部25が生じる。但し、凹部25が被接合部材21及び22の上面より下に位置しないように、開先の大きさ(容積)に対して十分な量(体積)の溶融材を供給できるように突出部23の肉厚t22及び延在長L23が予め決定されている。結果、凹部25は被接合部材21及び22の上面位置には至らないので、凹部25が生じた突出部23が削り取られることにより、図13(c)に示すように被接合部材21及び22の継手部分の表面は凹部25が除去されて平らになる。
突出部23の突出量は、アンダーフィルによって生じる凹部25を取り除くために切削する分(肉厚t22×延在長L23)だけである。よって、凹部25が除去された溶接部26の肉厚は被接合部材21及び22の肉厚t21と同じになる。しかし、溶接部は溶接により強度が低下するために、アンダーフィルが除去された溶接部に要求される構造強度を満たせないことがある。これに対しては、アンダーフィルの除去後の溶接部26の肉厚が厚さt21より大きくなるように、突出部23の肉厚t22を大きく形成することが開示されている。
つまり、特許文献1においては、被接合部材21及び22に設けられる突出部23の領域(肉厚t22)内にアンダーフィルの原因となる凹部25を閉じ込めるに十分な溶融材の量を確保するべく所定の肉厚t22を有する突出部23が設けられている。そのために、I形開先を形成する平行な2つの開先端面のそれぞれがレーザーの移動方向である溶接方向における全長に渡って所定の平面度を有し、ルート間距離が所定値(好ましくはゼロ)であるように形成されることが前提になっている。
しかしながら、被接合部材21及び22の全長(鉄道車両用構体の側構体を構成する外板の場合は、例えば20m〜25m)にわたって、「I形開先を形成する平行な2つの開先端面のそれぞれが全長に渡って所定の平面度を有し、両者が所定の平行度を有し、設計的にルート間距離が所定値(好ましくはゼロ)であるように形成される」という前提通りに構成することは非常に困難である。長尺状の両端面の上下方向及び長さ(レーザーの移動/溶接)方向の任意の位置に生じる出っ張りや変形は相互に干渉して、ルート間距離を増大させ、接合線24をより幅広の溝状にしてしまう。
つまり、垂直な端面(I形開先の開先端面)同士を全面で隙間無く当接させることができず、実際のルート間距離である端面同士の当接状態にばらつきが生じてしまう。I型開先における開先端面間の実際のルート間距離は、対向する開先端面の長さ(押し出し成形)方向と高さとで規定される長尺面の全面における開先端面の平面度によって決まる。つまり、被接合部材がレーザー移動方向/溶接方向に長い程、本来はゼロであるべく設計されたルート間距離が遙かに大きくなる。平行な被接合部材間には大きな隙間(空間)が生じて開先(矩形状の溝)が拡大する。
開先が拡大するとレーザーを照射する範囲を大きくする必要があり、より高出力のレーザーが必要となる。また、ルート間距離が大きくなれば接合線24が溝状になり、開先の容積も大きくなるので溶融した被接合部材(接合材料である溶融材)を受け入れることによりアンダーフィルが突出部23の域内から肉厚t21の領域にはみ出(凹部25が被接合部材21の上面より下に位置)してしまう。これを防ぐためには、突出部23の体積をより大きく構成する必要がある。これは、主に肉厚t22を大きくすることによって行われる。
このような場合、溶接後の切削対象が、肉厚t22を大きくした突出部23となり、溶接速度が高速であると言うレーザー溶接のメリットが、溶接後の切削作業により損なわれてしまう。さらに、I形開先の容積が小さい部分でも、容積が最大の部分に合わせて突出部23を過剰に溶融させるために、レーザ溶接の高速化及びエネルギー効率も大幅に損なわれてしまう。
特許文献1において、被接合部材21及び22の間に隙間(溝)が生じる或いは開先(溝)が拡大すれば、この隙間を介して、アンダーフィルの原因として認識されている溶融した接合材料の流れが増大するので、アンダーフィルがより生じ易くなる。そのため、開先を充填するためにより多くの接合材料(溶融材)を必要とする。つまり、被接合部材に所定の(一定の)高さの突出部23を設けるだけでは被接合部材同士の当接状態のばらつきにより、レーザー移動方向/溶接方向に関して増減する開先容積に応じて、接合材料の必要量を確保することはできず、溶接部にアンダーフィルが生じる可能性が隙間(矩形状溝)の大きさに応じて大きくなり、溶接部の溶接品質にばらつきが生じ得るという問題がある。
開先の拡大による接合材料の不足に対応するには、隙間の最大容量に備えて、突出部23の肉厚t22を大幅に大きく形成しておく必要がある。この場合、開先の容量が最大でない箇所(隙間)では、必要以上に突出部23を溶融させると共に、アンダーフィル除去のための切削量が大きくなるので、資源(溶融化エネルギーと突出部23)の無駄と共に溶接時間及び作業量の増大を招いてしまう。
また、溶接部の構造強度を確保するためには、突出部23の肉厚t22を開先の拡大に備えて増大させる必要がある。このように、構造強度確保のための突出部23の肉厚増大が開先の最大容積部に十分対応できていない場合には、アンダーフィル除去後の溶接部の肉厚は不十分になる。
上述のように、特許文献1の溶接接合体におけるI形開先構造に起因する問題に対して、被接合部材同士の当接状態(ルート間距離)に対する前提条件の少ない開先構造を用いて溶接接合することが考えられる。そのような溶接接合の例として、被接合部材にV形開先を設けて行う突合せ溶接(以降、「V形開先突合せ溶接」)を挙げることができる。V形開先突合せ溶接において、溶接接合される母材である2つの被接合部材同士の接合は、母材間に形成される開先に、外部から供給される溶加材と、母材の溶融した部分とが凝固することにより行われる。母材が溶融された溶融材ではなく、外部から供給される溶加材が用いられるので、接合に対する溶融した母材(特に、特許文献1における突出部23)の寄与率が特許文献1の接合方法に比して低い。そのため、開先容積の最大容量に備えて、溶融材の供給源としての突出部23の肉厚t22を大幅に大きく形成しておく必要がない。
さらに、V形開先を形成する、対向する2つの傾斜した開先端面は、I形開先における開先端面と同程度の平面度を有する。しかし、V形開先におけるルート間距離は、I形開先においては平行な端面の長尺の矩形面の全域における平面度によって決まるのに対して、傾斜した端面の下部端(エッジ)によって決まる。また、V形開先においては、実際のルート間距離(隙間)のばらつきによる開先容積のばらつきは、I形開先に比べて遙かに小さい。よって、開先容積のばらつきに対しては、溶加材の供給量の調整量を小さく、または調整を無くすことができる。
以下に、図14、図15、図16、及び図17を参照して、V形開先突合せ溶接の一例として、従来アルミニウム合金車両の構体の製造に用いられている、アーク溶接(MIG溶接、TIG溶接)を用いたアルミニウム押出形材の突合せ溶接接合作業を3つの段階に分けて説明する。
図14に、V形開先突合せ溶接接合される母材である2つのアルミニウム押出形材(以降、「形材」)Ec1及びEc2の一部を示す。形材Ec1及びEc2はそれぞれ、同図に対して垂直な方向(押出方向De)にアルミニウム合金が押し出し成形されたものであり、同図に示す押出方向Deに対して垂直な方向Dwに延在する端面形状が押出方向Deに連続して形成されている。方向Dwは形材Ec1及びEc2の幅方向であり、以降幅方向Dwと称する。
形材Ec1は、所定の厚さを有する平板状の部材である。形材Ec2は、謂わば2つの平板状の部材Pc2及びPcbが部分的に重ね合わされたような形状を有する。同図において、二点鎖線で分けて示されているが、部材Pc2と部材Pcbとは一体的に成形されている。形材Ec1及びEc2それぞれの上面Sec1及びSec2は、幅方向Dwに延在する。本例においては、形材Ec1及び部材Pc2(形材Ec2)の厚さtcは約3mmである。形材Ec1の、形材Ec2(部材Pc2)と突合せ溶接される端部Ewc1(以降、「溶接端部Ewc1」)には上面Sec1に対して所定の角度を成して傾斜する開先部Gc1が設けられている。部材Pc2(形材Ec2)の、形材Ec1と突合せ溶接される端部Ewc2(以降、「溶接端部Ewc2」)には上面Sec2に対して所定の角度を成して傾斜する開先部Gc2が設けられている。
形材Ec1と形材Ec2とは、形材Ec1が部材Pcb(形材Ec2)の上に載置されて、溶接端部Ewc1及びEwc2がほぼ同一の面内に位置して所定の間隔Lcで対向するように位置決めされる。溶接端部Ewc1の先端部Eewc1と溶接端部Ewc2の先端部Eewc2との間の間隔Lcが、形材Ec1と形材Ec2とのルート間距離(以降、「ルート間隔Lc」)である。
開先部Gc1及びGc2と、部材Pcbの上面とにより開先Gcが押出方向Deに沿って形成される。開先Gcはアーク溶接により供給される溶融した接合材料(溶融材)を受け入れるべく、アーク溶接側(溶接端部Ewc1及びEwc2の上面側)に向かってV字状に開いた所定の開先角度θcを有する溝である。なお、開先角度θcは約70°である。この状態で、形材Ec1と形材Ec2とは、突合せ溶接される継手(以降、「溶接前継手」)Jcを構成している。開先Gcの底面を形成する部材Pcbは、謂わば溶接前継手Jcの裏当て金として機能すると共に、溶接部に対する構造強度要求を満たすために溶接部の肉厚を増加させるべく機能している。この意味において、部材Pcbを裏当て金Pcbと呼ぶ。裏当て金Pcbは、形材Ec1と一体に形成されていてもよい。
なお、裏当て金Pcbは、溶接部に対応する開先Gcの反対側(底部)に設けられているので、後述する溶着金属隆起部の除去によってその厚みは変化しない。つまり開先の状態が溶接部の肉厚に影響を与えないことが、I形開先における場合と異なる。
図15及び図16に分けて、上述の溶接前継手Jcに施されるアーク溶接について述べる。形材Ec1及びEc2は、溶接端部Ewc1及びEwc2の上面側から、溶加材及びシールドガスを供給する溶接トーチ(不図示)によりアーク溶接される。開先Gcには、溶加材から移行した金属(以降、「溶融溶加材Mm」)が供給される。ビード表面でアンダーフィル或いは形材Ec1及びEc2それぞれの上面Sec1及びSec2上でのアンダーカットを生じないように、裏当て金Pcbと開先部Gc1及びGc2によって規定される開先Gcの容積に対して多めに溶融溶加材Mmが供給される。
図15に、溶接前継手Jcに溶融溶加材Mmが供給された状態を示す。上述のように、ビード表面でのアンダーフィル或いは上面Sec1及びSec2上でのアンダーカットを防止するために、溶融溶加材Mmは、開先Gcから上面Sec1及びSec2上にはみ出すように供給される。溶融溶加材Mmは表面張力により上面Sec1及びSec2から開先Gcの上部に向かって凸状に盛り上がる。なお、開先Gcに供給された溶融溶加材Mmは、開先部Gc1及び開先部Gc2の一部を溶かすと共に混ざり合って溶着金属となるが、説明の便宜上、図15では溶融溶加材Mmによる開先部Gc1及びGc2の端面の溶融は開始していない状態が示されている。溶融溶加材Mmの外周端部と上面Sec1及びSec2との境界をそれぞれ、溶接ビード止端Twm1及びTwm2と呼ぶ。溶着金属は時間の経過と共に冷却されて凝固する。
図16に、溶接前継手Jcが凝固した溶着金属(以降、「凝固後溶着金属Mw」)によって接合された一例を示す。同状態の溶接前継手Jcを溶接後継手Jcwと呼んで識別する。同様に接合された形材Ec2(部材Pc2、裏当て金Pcb)及び形材Ec1もそれぞれ溶接後形材Ec2w(溶接後部材Pc2w、溶接後裏当て金Pcbw)及び溶接後形材Ec1wと呼んで識別する。凝固後溶着金属Mwによって、溶接後形材Ec1wと溶接後形材Ec2wとが互いに接合されて、溶接後継手Jcw(突合せ溶接された継手)を構成している。
同図に見て取れるように、凝固後溶着金属Mwの中央及びその周辺部は溶接後形材Ec1wの上面Sec1及び溶接後形材Ec2wの上面Sec2より上方に盛り上がっている。凝固後溶着金属Mwの、上面Sec1及びSec2より上方に位置する部分を溶着金属隆起部Bmcと呼ぶ。一方、凝固後溶着金属Mwの外周縁部は上面Sec1及びSec2より下方に位置し且つ開先部Gc1及びGc2のそれぞれの端面より溶接端部Ewc1及びEwc2の内部に侵入して、凝固後溶着金属Mwの外周縁である溶接ビード止端部Twc1及びTwc2がそれぞれが、溶接ビード止端Twm1及びTwm2を外縁として上面Sec1及びSec2に較べて低い位置に形成されている。つまり、上面Sec1及びSec2よりも下方の位置に凹みDが、溶接後形材Ec1wあるいはEc2w(母材)と凝固後溶着金属Mwとの境界にある溶接ビード止端部Twc1あるいはTwc2に沿って形成される場合がある。
凹みDは、アークによって、母材が溶接ビード止端部Twc1或いはTwc2に沿って浸食(溶か)された部分が、溶着金属(溶融溶加材Mm)の不足によりできた溝で、上述のアンダーカットである。以降、凹みDを必要に応じてアンダーカットDと呼ぶ。そして、アンダーカットDが形成された状態で、溶接後形材Ec1w及びEc2wのそれぞれの上面Sec1及びSec2と溶接部(凝固後溶着金属Mw)が面一になるように、研削により凝固後溶着金属Mwから溶着金属隆起部Bmcが除去される。
図17に、上述の溶接後継手Jcwにおいて、溶着金属隆起部Bmcが除去された状態を示す。以降、溶着金属隆起部Bmcの除去後の溶接後継手Jcwを研削後継手Jcgと呼んで識別する。研削後継手Jcgは、凝固後溶着金属Mwから溶着金属隆起部Bmcが除去された点を除けば、基本的には溶接後継手Jcwと同一のものである。凝固後溶着金属Mwから溶着金属隆起部Bmcが除去された残りの部分を、平坦化溶着金属Mwgと呼ぶ。平坦化溶着金属Mwgの上面は、平坦且つ上面Sec1及びSec2と面一になっている。しかし、上面Sec1及びSec2より下位に形成されたアンダーカットDは除去されない。つまり、凹みDの上面Sec1及びSec2からの深さをtdとすると、研削後継手Jcgの上面には深さtdのアンダーカットDが形成されたままとなる。
本発明の実施の形態に係るアルミニウム押出形材同士の突合せ溶接接合方法について具体的に述べる前に、図1を参照して本発明の技術的特徴について説明する。本発明に係るアルミニウム押出形材同士の突合せ溶接接合は、従来と同様に、形材の端部同士を突合せる突合せ工程と、突合せされた形材同士を溶接により接合(結合)して継手を形成する結合工程と、溶接後の形材(継手)の表面(上面)を除去する除去工程とを含む。
本発明は、溶加材の供給量を調整することによって、接合工程に於ける接合材料の溶加材不足に起因する凹部(アンダーフィル)の形成の防止を図ると共に、溶接速度を大きくすることなどによる凹部(アンダーカット)の形成される位置を所望の範囲に制限する(除去工程で除去される部分に凹部が形成されるようにする)手段を溶接前の形材に設けることに大きな特徴がある。なお、除去工程は、溶接部に生じる凹部と共に形材の一部を除去できる方法であれば何でもよく、本発明においても一例として従来と同様に研削によって行われる。
凹部が形成される位置を所望の範囲に制限するために、被接合部材の開先に供給される接合材料の供給量の調整が容易であることが前提となる。母材自身からではなく外部から接合材料として溶加材を供給する溶接方法が好ましい。そして供給された溶加材(接合材料)の被接合部材に対する比率の変動を抑えるためには、溶接送り方向に関して開先容積の変動が小さいV形開先突合せ溶接が好ましい。この観点から、本発明においては、V形開先突合せアーク溶接が採用される。さらに、溶接速度及び母材に対する熱影響の観点からレーザーアークハイブリッド溶接がより好ましい。
上述の従来のV形開先突合溶接においては、凝固後溶着金属Mwの最上点が上面Sec1及びSec2より所定の距離だけ高い位置に形成されるが、溶融溶加材Mmの外周端部は上面Sec1及びSec2上に位置し、凝固後溶着金属Mwの表面の最下点(アンダーカットD部)は上面Sec1及びSec2より下位に形成される。これに対して、本発明においては、凝固後溶着金属Mwの表面の最下点及び外周端部も以下に述べる除去面Pf(上面Sec1及びSec2に相当)より所定の距離だけ高い位置に形成される。以下に、図1を参照して、本発明における溶接部に形成される凹部の位置(場所)の制限について説明する。
図1は、本発明に係る継手のV形開先に供給された溶融溶加材Mm(不図示)が、母材Mbを部分的に溶融させると共に混ざり合った状態で凝固(固化)して、ビードBが形成された状態を、V形開先の延在方向(溶接送り方向)に見た状態を示す。図1において実線及び二点鎖線で示すEgは、所定の開先角度θを成して突き合わされた、図2に示す被接合部材である形材E1(平板部P1)及び形材E2(平板部P2)のV形開先の端面(以降、「開先端面Eg」)を示す。
実線Pmは母材Mbの下面(以降、「母材下面Pm」)を示す。符号Emrは溶接ビード表面と開先端面Egとの境界(以降、「溶接ビード止端Emr」)を示す。二点鎖線Pfは、母材Mbが溶接によって結合された後に、母材Mb(形材E1及びE2)の上部と共に溶接部上部が、或いは溶接部の上部のみが研削などの手段により除去された後の上面(以降、「除去面Pf」)を示す。
矢印Hm1rは除去面Pfから溶接ビード止端Emrまでの距離(以降、「溶接ビード止端高Hm1r」)を示す。矢印Hegは、除去面Pfから開先端面Egの上端部までの距離(以降、「開先端高Heg」)を示す。
実線Sbは、溶融溶加材Mmが冷却されて凝固した凝固後溶着金属Mwによって形成されるビードBの上面(以降、「ビード上面Sb」)を示し、符号Bbはビード上面Sbと開先端面Egとの境界(以降、「ビード境界Bb」)を示し、矢印Hb1は除去面Pfからビード境界Bb迄の距離(以降、「ビード境界高Hb1」)を示し、矢印Hb2は除去面Pfからビード上面Sbまでの距離(以降、「ビード高Hb2」)を示している。
開先に供給された溶融溶加材Mmは表面張力によって凸状或いは凹状になる。ビード高Hb2は、ビード上面Sbが凸状(図1)の場合は、ビード上面Sbの最上位部までの距離であるビード高Hb2>ビード境界高Hb1となる。一方、ビード上面Sbが凹状の場合はビード上面Sbの最下位部までの距離であるビード高Hb2<ビード境界高Hb1となる。何れの場合においても、溶接ビード止端Emr及びビード境界Bbが除去面Pfより所定の高さに形成されるように、溶加材が供給される。
溶接ビード止端Emrとビード境界Bbとの間から母材Mbの下方に向かって凹部Ucが形成される場合がある。この凹部UcがアンダーカットUcである。矢印Hucは、除去面PfからアンダーカットUcの下端部までの距離(以降、「アンダーカット高Huc」)を示す。溶接ビード止端高Hm1rとアンダーカット高Hucとの差であるDh(以降、「アンダーカット深Dh」)は開先端面EgにおけるアンダーカットUcの高さ方向の大きさを示している。ビードB及び母材Mbにおいて、除去面Pfより上方に位置する部分をビード隆起部Bmと呼ぶ。ビード隆起部Bmが削除されることにより、母材Mb及び溶接部にアンダーフィル及びアンダーカットUcが存在しない継手を得ることができる。
矢印Dminは、アンダーカット高Hucとビード高Hb2との差(Hb2−Huc)を示しており、母材Mb及び溶接部にアンダーフィル及びアンダーカットを存在させないために除去するビード隆起部Bmの最小深さ(以降、「溶接部最少除去深さDmin」)を示している。なお、ビードB(凝固後溶着金属Mw)が凹状に形成される場合には、アンダーカット高Hucとビード高Hb2との差(Huc―Hb2)が溶接部最少除去深さDminである。母材Mb及び溶接部にアンダーフィル及びアンダーカットを存在させないためだけであれば、ビード隆起部Bmのアンダーカット高Hucより上部だけを削除すればよい。この場合、アンダーカット高Hucだけ母材Mbより肉厚を大きくして強度補強をすることも出来る。
本発明においては、上述のように、基本的には、アンダーフィルの原因となる凹部が溶接部に生じない或いは被接合母材の上面である除去面より上位に生じるように、十分な量の溶加材を外部から供給している。そして、溶融溶加材の外周端部で生じるアンダーカットが被接合部材の上面である除去面より上位になるように考案されている。言い換えれば、溶接後に除去不能或いは除去が好ましくない母材Mb上ではなく、除去可能な溶接部の一部(ビード隆起部Bm及びその近傍)に凹部(アンダーフィル、アンダーカットUc)を生じさせるように溶加材(接合材料)の供給量を制御する。
次に、開先端高Hegの設定について述べる。上述のように、V形開先は、断面面積はI形開先よりも大きいため、開先が延在する溶接方向における容積の変動(ばらつき)は、V形開先の方がI形開先に比べて遙かに小さい。また、溶融材として溶加材を外部から供給するアーク溶接は、母材の一部を溶融させて溶融材とするレーザ溶接に比べて、溶融材の供給量(体積)が大きく且つ調整が容易である。
V形開先の容量をVg(以降、「V形開先容量Vg」)とし、外部からV形開先に供給され母材と溶着した溶加材の体積をVm(以降、「溶加材溶着体積Vm」)とすると、V形開先(開先G)に対する溶加材溶着体積Vmの割合である開先溶加材比Rは、次式(1)で表される。
R=Vm/Vg ・・(1)
開先溶加材比Rに応じて、溶接ビード止端高Hm1rの大きさは異なり、開先溶加材比Rが最小値の時に最小の溶接ビード止端高Hm1r(min)となり、開先溶加材比Rが最大値の時に最大の溶接ビード止端高Hm1r(max)となる。よって、開先端高Hegは、溶接ビード止端高Hm1r(max)以上の値に設定される。
本発明に係る溶接前の形材においては、アンダーカットUcのアンダーカット高Hucが除去面Pfより上部になるように構成されている。開先端面Egが従来の溶接前形材Ec1及びEc2(図14)の開先端面(開先部Gc1及びGc2)より上方まで延在する。従って溶接前形材の開先の容積(V形開先容量Vg)は、他の条件が同じであれば、従来の溶接前形材の開先Gcの容積に比して大きい。アンダーカットUcを除去工程で除去される部分に形成させるためには、容積が従来より大きい開先に対して、従来より多い量(溶加材溶着体積Vm)の溶融溶加材Mmを供給する必要がある。
開先に供給される溶融溶加材Mmの必要量(溶加材溶着体積Vm)の増大は、溶接に要する時間及び母材Mbが受ける熱量の増大を招く。溶接時間及び母材Mbが受ける熱量の増大を抑制しながら溶融溶加材境界(溶接ビード止端Emr)を除去面Pfより上部の位置、つまり従来より高い位置に形成するためには、開先角度θを小さくして開先の容積(溶融溶加材Mmの必要量)の増大を抑えることが考えられる。しかしながら、単に開先角度を小さくすると開先の底面(母材下面Pm)近傍の部分の開先端面間の距離が特に小さくなり、アークによる母材Mbの溶け込みが不十分であったり、溶融溶加材Mmが開先の底面近傍の部分に十分に供給されない等の問題が生じる。
上述に鑑みて、本発明に係るアルミニウム押出形材同士の突合せ溶接接合の方法として、レーザーとアークを熱源とするレーザーアークハイブリッド溶接が採用される。レーザービームの照射により、開先角度θを小さくしても母材Mbの溶け込みが十分に得られ、溶融溶加材Mmは開先の底面近傍の部分にも十分に供給される。レーザーをアークと合わせて使用することで、アークのみの時より狭い範囲を深く溶融させることができ、また溶融溶加材Mmを少なくできるため、溶接前継手Jpの溶接に要する時間は従来の溶接前継手Jcの溶接に要する時間より短い。溶接前継手Jpが溶接時に受ける熱量も、従来の溶接前継手Jcが受ける熱量よりも低減される。また、開先角度θを小さくすることにより開先の容積(溶融溶加材Mmの必要量)の増大を抑制しても、所望の溶接品質及び溶接速度を得ることができる。
本発明においては、溶接前の形材(母材)を所定の形状に、具体的には開先端面を構成する部分がアンダーカット高Hucが除去面Pfより上部になる形状及び大きさを有するように成形することにより凹部(アンダーカット)が形成される位置を制限する。なお、図1に示すように、アンダーカット高Hucは、除去面PfからアンダーカットUcの下端部迄の距離である。言い換えると、凹部(アンダーカット)が溶接後の除去工程で形材から除去される部分に形成されるように、溶接前の形材を成形する。
アンダーカット高Hucが除去面Pfより上部になるのであれば、アンダーカットUcは、図1に示す例のように開先端面Egに形成されても、母材の開先端面を構成する部分の上面や側面に形成されてもよい。アンダーカットUcが母材の開先端面を構成する部分の上面や側面に形成される場合については、以下に図2、図3、図4、図5、図6、及び図7を参照して説明する。
次に、図2〜図7を参照して、本発明の実施の形態に係るアルミニウム押出形材同士の突合せ溶接接合方法について説明する。本実施の形態に係る溶接前の形材は、開先を規定する端部の上面から溶接が行われる側に突出するように突起(以降、「開先部突起Pr」)が設けられた形状に予め成形される。開先部突起Prは、形材の全長にわたって設けられて、図4を参照して後述するように、開先の上部に溶融溶加材Mmを受け入れる空間を形成(追加)する。開先部突起Prは、謂わば開先の拡張手段でもある。このように、開先部突起Prによって拡張された開先Gを拡張開先部Geと呼ぶとともに、後程図3及び図4を参照して詳述する。
このように成形された溶接前の形材の、開先部突起Prによって拡張された開先に対して、溶融溶加材Mmを形材の上面より上方の位置まで、具体的には開先部突起Prの表面上まで供給することが可能である。これにより、アンダーカットが形成され得る溶接ビード止端部(図1におけるビード境界Bb近傍に相当)が形材の上面より上方の位置に形成される。溶接後の形材において形材の上面(図1における除去面Pfに相当)より上方に位置する部分は、研削工程において除去される。つまり溶接ビード止端部は、除去工程で除去される部分に形成される。
図2に、本実施の形態に係る、レーザーアークハイブリッド溶接によるV形開先突合せ溶接接合作業が行われている途中の状態の溶接前継手Jpを示す。溶接前継手Jpの奥(右上方向)から手前(左下方向)に向かってレーザーアークハイブリッド溶接が行われて、押出方向De方向に延在する開先Gの途中まで溶融溶加材Mmが供給されている状態が表されている。なお、溶接前継手Jp及び溶融溶加材Mm以外の溶加材供給手段やレーザービームやシールドガス等は表されていない。
まず、図2を参照して、溶接前継手Jpを構成する被接合部材である形材E1及びE2の特徴について簡単に説明する。形材E1及びE2は、アルミニウム合金車両の構体の製造に用いられる部材であって、押出方向Deにアルミニウム合金が押し出し成形されたものであり、同図に示す端面形状が押出方向Deに連続して形成されている。後程、図3を参照して詳述するように、形材E1は、上述の従来の形材Ec1に相当する平板部P1の上面に開先部G1に連続して開先部突起Pr1が設けられた構造を有している。同様に、形材E2は、従来の形材Ec2の部材Pc2に相当する平板部P2の上面に開先部G2に連続して開先部突起Pr2が設けられている。開先部突起Pr1及びPr2は、形材E1及びE2のそれぞれにおいて上述の母材Mb(図1)に於けるアンダーカット高Hucを確保する手段である。
上述の溶接前継手Jpをアーク溶接が施されていない側(図2において左下部)からみた端面を示す図3を参照して、開先部突起Pr1及びPr2に関して説明する。形材E1は平板部P1と開先部突起Pr1とを含み、形材E2は平板部P2と開先部突起Pr2と裏板Pbとを含む。平板部P1及びP2はそれぞれ、所定の厚さTe1及びTe2を有する。厚さTe1及びTe2は2mm〜4mm程度であり、本実施の形態においては約3mmである。平板部P1の、形材E2と突合せ溶接される端部Ew1(以降、「溶接端部Ew1」)には、平板部P1の上面Se1に対して所定の角度を成して傾斜する傾斜面である開先部G1が設けられている。平板部P2の、形材E1と突合せ溶接される端部Ew2(以降、「溶接端部Ew2」)には、平板部P2の上面Se2に対して所定の角度を成して傾斜する傾斜面である開先部G2が設けられている。開先部G1及びG2は、開先G(図4)の開先端面(上述の開先端面Eg(図1)の一部に相当する)を構成している。溶接端部Ew1の先端部Eew1と溶接端部Ew2の先端部Eew2との間の間隔が、形材E1と形材E2とのルート間距離Lである。なお、開先Gは、図14を参照して説明した、従来の溶接前継手Jcにおける開先Gcに相当する。
形材E1と形材E2とは、上述したように、溶接端部Ew1及びEw2がほぼ同一の面内に位置して対向するように位置決めされる。この状態で、形材E1と形材E2とは、溶接前継手Jpを構成している。溶接前継手Jpにおいて、溶接端部Ew1及びEw2は互いに接触する必要は無い。溶接前継手Jpの拡張開先部Geは、開先部G1及びG2と裏板Pbの上面と開先部突起Pr1及びPr2の突起開先部Sr1i及びSr2i(後程詳述)とにより規定される。裏板Pbの上面は、上述の母材下面Pm(図1)に相当し、開先Gの底面を構成する。開先部G1及びG2と、突起開先部Sr1i及びSr2iとが、上述の開先端面Eg(図1)に相当する。なお、開先Gの開先角度θは、0°<θ<70°を満たす範囲内で、好ましくは35°≦θ<70°を満たす範囲内で設定される。本実施の形態においては、開先角度θは約35°である。上述の開先部G1及びG2が、上面Se1及びSe2に対してそれぞれ成す角度は、好ましくは((π−θ)/2)°である。
なお、レーザーMIGハイブリッド溶接の場合は、レーザ照射により深い溶け込みが得られるので、θ≧0°から実施できる。開先角度θが小さいほうが良いが、θ=0°の場合はI形開先となるため、V形開先に較べてルート間距離の変動の影響が大きく、溶け込みを安定させることが難しい。このように、本実施の形態においてはレーザーアークハイブリッド溶接を用いることによって、アーク溶接の場合に比べて開先角度θ及びルート間距離Lをより小さく、つまりV形開先容量Vgを小さくし、必要とする溶加材量(溶加材溶着体積Vm)の低減を可能にしている。溶加材量の低減により、溶接前継手Jpに対する溶接時の熱影響も低減できる。なお、開先角度θ及びルート間距離Lが大きくなることを除けば、本発明はレーザーアークハイブリッド溶接と同様にレーザー照射を伴わないアーク溶接にも適用できる。
開先部突起Pr1は、突起開先部Sr1iと、突起上面部Sr1tと、突起外端部Sr1oとによって規定される台形状の断面形状を有している。なお、突起上面部Sr1tは台形の上底に相当する、上面Se1に概ね平行な上面部であり、その両端部のそれぞれで突起開先部Sr1i及び突起外端部Sr1oに連続している。突起外端部Sr1oは、台形の左側の脚に相当し、上端部で突起上面部Sr1tに連続し、下端部で上面Se1に連続している。突起開先部Sr1iは台形の右側の脚に相当し、その下端と突起外端部Sr1oの下端を結ぶ線が台形の下底であると共に、上面Se1に一致する。突起上面部Sr1tの長さ、つまり突起開先部Sr1i及び突起外端部Sr1oの上端部間の距離を開先部突起幅Ws1とする。突起上面部Sr1tの高さ、つまり上面Se1との距離を突起高H1とする。突起開先部Sr1i及び突起外端部Sr1oの突起上面部Sr1tと平行な方向への長さをそれぞれ突起開先幅Wi1及び突起外端幅Wo1とする。
同様に、開先部突起Pr2は、突起開先部Sr2iと、突起上面部Sr2tと、突起外端部Sr2oとによって規定される台形状の断面形状を有している。突起上面部Sr2tは台形の上底に相当し、上面Se2に概ね平行な上面部であり、その両端部のそれぞれで突起開先部Sr2i及び突起外端部Sr2oに連続している。突起外端部Sr2oは、台形の右脚に相当し、上端部で突起上面部Sr2tに連続し、下端部で上面Se2に連続している。突起開先部Sr2iは台形の左脚に相当し、その下端と突起外端部Sr2oの下端を結ぶ線が台形の下底であると共に、上面Se2に一致する。突起上面部Sr2tの長さ、つまり突起開先部Sr2i及び突起外端部Sr2oの上端部間の距離を開先部突起幅Ws2とする。突起上面部Sr2tの高さ、つまり上面Se2との距離を突起高H2とする。突起開先部Sr2i及び突起外端部Sr2oの突起上面部Sr2tと平行な方向への長さをそれぞれ突起開先幅Wi2及び突起外端幅Wo2とする。
形材E1及びE2のそれぞれに於ける開先端面を開先端面Eg1及びEg2と識別する。開先端面Eg1は、形材Ec1の開先部Gc1(図14)に相当する開先部G1と、開先部突起Pr1の開先端部である突起開先部Sr1iとを含む。同様に、開先端面Eg2は形材Ec2の開先部Gc2(図14)に相当する開先部G2と、開先部突起Pr2の開先端部である突起開先部Sr2iとを含む。つまり、開先端面Eg1及びEg2と裏板Pbとの間に、上述の如く開先Gの容量が拡張された拡張開先部Geが形成される。なお、開先角度θ或いはルート間距離Lはそれぞれ、従来の溶接前継手Jcの開先角度θc或いはルート間隔Lcより小さい。これは、通常のアーク溶接に加えてレーザー照射が用いられることによるものであり、上述の通りである。
次に図4を参照して、拡張開先部Geについて説明する。開先端面Eg1の開先部G1と、開先端面Eg2の開先部G2と、裏板Pbとの間に開先Gが形成されるのは、上述の通りである。開先端面Eg1の突起開先部Sr1iと、開先端面Eg2の突起開先部Sr2iとの間には、空間Gbが開先Gに連続的に付加形成されている。空間Gbの容積を付加容量Vbとすると、開先部突起Pr1及びPr2によって、開先GのV形開先容量Vg以上、つまり容量(Vg+Vb)に相当する体積の溶融溶加材Mmの受け入れを可能としている。この意味において、開先部突起Pr1及びPr2は開先Gを付加容量Vbだけ拡張している。
図2に示される例では、母材Mb(形材E1及びE2)と溶融溶加材Mmとの境界である溶接ビード止端部Twp1は開先部突起Pr1の表面の一部である突起上面部Sr1t上に形成され、溶接ビード止端部Twp2は開先部突起Pr2の表面の一部である突起上面部Sr2t上に形成されている。つまり、溶接ビード止端部Twp1及びTwp2は高さ方向Dvにおいて、平板部P1及びP2それぞれの上面Se1及びSe2より突起高H1(H2)だけ上方に位置する。つまり、溶接ビード止端部Twp1及びTwp2は、アンダーカット高Hucが除去面Pfより上部になる位置に形成される。この意味において開先部突起Pr1及びPr2は、アンダーカットUc(図1)を除去工程で除去される部分に形成されるようにする手段であると言える。溶接ビード止端部Twp1及びTwp2の生成位置については、後程図5、図6、及び図7を参照して詳述する。
溶接前継手Jpにおいて、開先部突起Pr1及びPr2は所定の距離Dprを置いて互いに対向している。なお、開先Gの底面を構成する裏板Pbは、謂わば溶接前継手Jpの裏当て金として機能すると共に、溶接部に対する構造強度要求を満たすために溶接部の肉厚を増加させるべく機能している。裏板Pbは形材E2とでは無く形材E1と一体に形成されていてもよい。
本実施の形態に係る突合せ溶接接合方法においては、開先Gに供給される溶融溶加材Mm(図2)の量を、溶融溶加材Mmが開先Gをはみ出して溶接ビード止端部Twp1及びTwp2(図2)が形材の平板部の上面Se1及びSe2より上方に位置する開先部突起Pr1及びPr2に形成されるように制御する。溶接ビード止端部Twp1及びTwp2が形成される場所は、高さ方向Dvにおいて平板部の上面Se1及びSe2(除去面Pf(図1)に相当)より上方であれば、つまり開先部突起Prの表面上であればよい。具体的には、開先部突起Prの突起開先部Sr1i及びSr2iであっても、突起上面部Sr1t及びSr2tであってもよい。あるいは、突起外端部Sr1o及びSr2oであってもよい。
つまり、開先部突起Pr1及びPr2の断面形状を略台形状に構成することにより、高さH1及びH2を無闇に大きくしなくても、アンダーカットUc(図1)が除去工程で除去される部分である開先部突起Pr1及びPr2に形成されるようにすることができる。上述のように、開先部突起Pr1及び開先部突起Pr2は開先GのV形開先容量Vgに対する溶融溶加材Mmの供給量(溶加材溶着体積Vm)の割合の変動に関わらずアンダーカットUcが開先部突起Pr1及びPr2に形成されるように設定されている。以下に、図5、図6、及び図7を参照して、所定範囲内に在る開先溶加材比Rに関して、開先部突起Pr1及びPr2のそれぞれ異なる設定方法について具体的に説明する。
次に図5を参照して、全溶融溶加材Mmを拡張開先部Geの内部に閉じ込める、換言すると溶融溶加材Mmを開先Gからはみ出して拡張開先部Ge(空間Gb)の内部に収まらせる開先部突起Pr1及びPr2の構成について述べる。つまり、開先部突起Pr1及びPr2は、溶接ビード止端Emrが開先端面Eg1及びEg2の突起開先部Sr1i及びSr2i内に位置するように閉じ込めるように構成されている。同図において、符号Sb(min)は開先溶加材比Rが最小時の溶接ビード上面Sbの下限位置(以降、「溶接ビード上面下限Sb(min)」)を示し、符号Sb(max)は、開先溶加材比Rが最大時の溶接ビード上面Sbの上限位置(以降、「溶融溶加材上面上限Sb(max)」を示している。
溶接ビード上面上限Sb(max)の開先端面Eg(突起開先部Sr1i及びSr2i)上での除去面Pf(上面Se1及びSe2)からの高さを、それぞれHSm(max)とし、以降「溶接ビード上面上限高HSm(max)」と称する。同様に、溶接ビード上面下限Sb(min)の開先端面Eg(突起開先部Sr1i及びSr2i)上での除去面Pf(上面Se1及びSe2)からの高さを、HSm(min)とし、以降「溶接ビード上面下限高HSm(min)」と称する。突起高H1及びH2と、溶接ビード上面上限高HSm(max)及び溶接ビード上面下限高HSm(min)との間には次式(2)に示す関係がある。
H1(H2)≧HSm(max)>HSm(min)≧Huc ・・・(2)
これは、図1に示した、溶融溶加材Mmを拡張開先部Geの内部、つまり溶接ビード止端Emrを開先端面Eg1及びEg2の突起開先部Sr1i及びSr2iに閉じ込める構成である。溶接ビード上面下限Sb(min)及び溶接ビード上面下限高HSm(min)は、図6及び図7を参照して後述する例において同一であるが、溶接ビード上面上限Sb(max)及び溶融溶加材上面上限高HSm(max)はそれぞれ異なる。
よって、後程図6及び図7を参照して詳述する開先部突起Pr1及びPr2と区別するために、本例に示す開先部突起Pr1及びPr2、突起高H1及びH2、開先部突起幅Ws1及びWs2、突起外端幅Wo1及びWo2、突起開先幅Wi1及びWi2並びに溶接ビード上面上限Sb(max)及び溶接ビード上面上限高HSm(max)をそれぞれ、開先部突起Pr1i及びPr2i、突起高H1i及びH2i、開先部突起幅Ws1i及びWs2i、突起外端幅Wo1i及びWo2i、突起開先幅Wi1i及びWi2i、並びに溶接ビード上面上限Sb(max)i及び溶接ビード上面上限高HSm(max)iと呼んで識別する。なお、作図上の都合により、溶接ビード上面下限高HSm(min)及び溶接ビード上面上限高HSm(max)iは図示されていない。
アンダーカットUcは、開先部突起Pr1において突起開先部Sr1i上の上面Se1よりアンダーカット深Dh以上高い位置に生成される。開先部突起Pr2においても同様に、突起開先部Sr2i上の上面Se2よりアンダーカット深Dh以上高い位置にアンダーカットUcが生成される。後程図6及び図7を参照して述べる場合に較べて、突起高H1i及びH2iは大きく設定される一方、開先部突起幅Ws1i及びWs2iは小さく設定される。本例に係る開先部突起Pr1i及び開先部突起Pr2iは高さはあるものの根元の細い針状に近い形状に形成されるので、開先部突起Pr1i及びPr2iの体積つまり溶接後の除去工程における切削量が低減できる。
次に、図6を参照して、溶融溶加材Mmを拡張開先部Ge(開先G)の内部からはみ出すことを許す開先部突起Pr1及びPr2について述べる。つまり、溶接ビード止端Emrが開先部突起Pr1及びPr2の表面の一部である突起上面部Sr1t及びSr2t上に位置することが許されるように、開先部突起Pr1及び開先部突起Pr2が構成されている。図5を参照して上述した開先部突起Pr1i及びPr2i並びに図7を参照して詳述する開先部突起Pr1及びPr2と区別するために、本例に示す開先部突起Pr1及びPr2、溶接ビード上面上限Sb(max)及び溶接ビード上面上限高HSm(max)、突起高H1及びH2、開先部突起幅Ws1及びWs2、突起外端幅Wo1及びWo2、並びに突起開先幅Wi1及びWi2をそれぞれ、開先部突起Pr1t及びPr2t、溶接ビード上面上限Sb(max)t及び溶接ビード上面上限高HSm(max)t、突起高H1t及びH2t、開先部突起幅Ws1t及びWs2t、突起外端幅Wo1t及びWo2t、並びに突起開先幅Wi1t及びWi2tと呼んで識別する。
このように溶接ビード上面上限Sb(max)tの外周端部が突起上面部Sr1t及び突起上面部Sr2tに位置すること、つまりアンダーカットUcが突起上面部Sr1t及び突起上面部Sr2tに生成されることを許すために、突起高H1t及びH2tは突起高H1i及びH2iのそれぞれより低く設定される。それに応じて、開先部突起幅Ws1t及びWs2tは開先部突起幅Ws1i及びWs2iのそれぞれより長く設定される。但し、突起高H1t及び突起高H2tの最小値は共にアンダーカット深Dhである。
このように、溶接ビード止端Emrを開先端面Eg1及びEg2の突起開先部Sr1i及びSr2iから突起上面部Sr1t及び突起上面部Sr2tに逃がすことにより、溶接ビード止端高Hm1rが低くなる。結果、開先部突起Pr1i及びPr2iに較べて、開先端高Heg(突起高H1t及び突起高H2t)は、低く幅広な形状に形成される。開先部突起Pr1t及びPr2tは、このような低く幅広な形状のおかげで、開先部突起Pr1i及びPr2iに較べて押し出し成形性が良く、且つ溶接後の切削時の局所的負荷を低下できる。
次に、図7を参照して、溶融溶加材Mmを拡張開先部Ge(開先G)の内部から、突起上面部Sr1t及びSr2tを超えてさらに開先部突起Pr1及びPr2の表面の一部である突起外端部Sr1o及びSr2oにはみ出すことを許す開先部突起Pr1及びPr2について述べる。つまり、溶接ビード止端Emrが突起外端部Sr1o及びSr2o上に位置することが許されるように、開先部突起Pr1及び開先部突起Pr2が構成されている。図5及び図6を参照して上述した開先部突起Pr1i及びPr2i並びに開先部突起Pr1t及びPr2tと区別するために、本例に示す開先部突起Pr1及びPr2、溶接ビード上面上限Sb(max)及び溶接ビード上面上限高HSm(max)、突起高H1及びH2、開先部突起幅Ws1及びWs2、突起外端幅Wo1及びWo2、並びに突起開先幅Wi1及びWi2をそれぞれ開先部突起Pr1o及びPr2o、溶接ビード上面上限Sb(max)o及び溶接ビード上面上限高HSm(max)o、突起高H1o及びH2o、開先部突起幅Ws1o及びWs2o、突起外端幅Wo1o及びWo2o、並びに突起開先幅Wi1o及びWi2oと呼んで識別する。
突起高H1o及び突起高H2oの最小値が共にアンダーカット深Dhであることを満たしながら、溶接ビード上面上限Sb(max)oの外周端部が、突起外端部Sr1o及び突起外端部Sr2oに位置する。アンダーカットUcが突起外端部Sr1o及び突起外端部Sr2oに生成されることを許すために、突起高H1o及びH2oは突起高H1i及びH2i並びに突起高H1t及びH2tのそれぞれより低く設定できる。さらに、開先部突起幅Ws1o及びWs2oも、開先部突起幅Ws1i及びWs2i並びに開先部突起幅Ws1t及びWs2tより短く設定できる。そして、突起外端幅Wo1o及びWo2oを突起外端幅Wo1i及びWo2i並びに突起外端幅Wo1t及びWo2tに較べて長く設定する、つまり突起外端部Sr1o及びSr2oの傾斜をなだらかに形成することにより、突起高H1o及びH2o並びに開先部突起幅Ws1o及びWs2oを更に小さく設定できる。このように、開先部突起Pr1o及びPr2oは、開先部突起Pr1t及びPr2tに較べて低く幅広に形成することができので、押し出し成形性及び溶接後の切削時の局所的負荷が改善できる。
突起上面部Sr1t及びSr2tは自身にアンダーカットUcが生じることによって、開先部突起Pr1t及びPr2tをより低く形成する手段である。突起外端部Sr1o及びSr2oも自身にアンダーカットUcが生じることによって、開先部突起Pr1o及びPr2oを更に低く形成させる手段である。開先部突起Pr1i及びPr2i、開先部突起Pr1t及びPr2t、並びに開先部突起Pr1o及びPr2oは形材E1及びE2と共に押し出し成型性や、溶接部の除去負荷に関して異なる特徴を有している。溶接条件に応じて、開先部突起Prが選択される。
以上より、開先部突起Pr1は、好ましくは次式(3)、(4)、及び(5)を満足するように構成される。
H1i>H1t>H1o ・・・(3)
Ws1t≧Ws1o≧Ws1i ・・・(4)
Wo1o≧Wo1i>Wo1t ・・・(5)
同様に、開先部突起Pr2も、好ましくは次式(6)、(7)、及び(8)を満足するように構成される。
H2i>H2t>H2o ・・・(6)
Ws2t≧Ws2o≧Ws2i ・・・(7)
Wo2o≧Wo2i>Wo2t ・・・(8)
開先部突起Pr1i及びPr2i、開先部突起Pr1t及びPr2t、並びに開先部突起Pr1o及びPr2oは、開先溶加材比Rの変動を所望の所定範囲内に収めることが前提になっている。しかしながら、実際の作業現場において、溶接前継手Jpを構成する形材E1とE2とのルート間距離Lは必ずしも同一に保つことは非常に困難で有り、押出方向Deに関するV形開先容量Vgも変動する。また、溶融溶加材Mmの溶着量を一定に保つことは非常に困難であり、押出方向Deに関する溶加材溶着体積Vmも変動する。結果、押出方向Deに関する開先溶加材比Rの変動は程度の差はあるものの不可避である。そのために、溶接ビード上面上限高HSm(max)i、HSm(max)t、及びHSm(max)oや溶接ビード上面下限高HSm(min)を、図5、図6、及び図7にそれぞれ例示したように厳密に保つことは非現実的ともいえる。
また、仮に開先溶加材比Rの変動を所望範囲内に収めることが出来る場合であっても、溶接現場では形材E1及びE2と溶接トーチTとは相対的に移動している。その移動に伴う振動により、供給された溶融溶加材Mmの形状が崩れて突起開先部Sr1i(Sr2i)から突起上面部Sr1t(Sr2t)へ、或いは突起上面部Sr1t(Sr2t)から突起外端部Sr1o(Sr2o)へ、或いは突起外端部Sr1o(Sr2o)から上面Se1(Se2)へとあふれ出して、ユーザーの意図に反する位置にアンダーカットUcが形成されることがある。特に、上面Se1及びSe2上にあふれ出した場合には、アンダーカットUcが上面Se1及びSe2に形成されて除去できない。
このような観点から、本実施の形態においては、図2に例示したように、溶接ビード止端部Twp1及びTwp2が突起上面部Sr1t及び突起上面部Sr2t上の好ましくは中心部に形成されるように設定して、開先端高Heg(突起高H1及びH2)を低くする。そして、突起上面部Sr1t及びSr2tの外側部及び突起外端部Sr1o及びSr2oを、開先溶加材比Rや溶加材供給が所望範囲以上に変動したり、溶接時の変動によるはみ出した溶融溶加材Mmを受け止めて、上面Se1及びSe2上でのアンダーカットUcの生成を防止する手段として機能させることが好適である。このような構成は、図6を参照して説明した開先部突起Pr1t及びPr2tによって実現できる。
次に、図3に戻って、開先部突起Pr1及びPr2の寸法について述べる。開先部突起Pr1及びPr2の寸法(高さH1及びH2、並びに幅Ws1及びWs2)は、事前の実験や経験に基づいて把握されたアンダーカットが形成されそうな位置及びアンダーカットUcの大きさやアンダーカット深Dhに基づいて決定される。
以下に述べるのは、事前に実験を行って、幅1mm、深さ0.5mm程度のアンダーカットができる可能性があると判明した場合の開先部突起Pr1及びPr2の寸法の決め方である。なお、図3において開先部突起Pr1及びPr2が設けられている位置は、事前実験において溶接後継手Jcw(図16)においてアンダーカットが形成された位置の近傍である。
開先部突起Pr1及びPr2の寸法(高さH1及びH2、幅Ws1及びWs2)は、事前実験において形成されたアンダーカットの寸法(深さ及び幅)より若干大きく設定することが好ましい。開先部突起Pr1及びPr2の寸法を下記実施例(1)、(2)、及び(3)の3通りに設定して溶接前継手を成形し、それら3つの実施例の溶接前継手をそれぞれレーザーアークハイブリッド溶接して溶接後継手の品質を比較した。
実施例(1)においては、開先部突起Pr1及びPr2の寸法、及び突起間の距離Dprは下記の通りである。
高さH1=高さH2=0.5mm、
幅Ws1=幅Ws2=1.2mm、
距離Dpr=3.2mm。
実施例(2)においては、開先部突起Pr1及びPr2の寸法、及び突起間の距離Dprは下記の通りである。
高さH1=高さH2=0.5mm、
幅Ws1=幅Ws2=2mm、
距離Dpr=3.2mm。
実施例(3)においては、開先部突起Pr1及びPr2の寸法、及び突起間の距離Dprは下記の通りである。
高さH1=高さH2=1mm、
幅Ws1=幅Ws2=2mm、
距離Dpr=3.5mm。
実施例(1)〜(3)の溶接前継手をそれぞれレーザーアークハイブリッド溶接したところ、いずれの実施例の溶接後継手においても、アンダーカットが形成された場合でもアンダーカットの下端部が形材の平板部の上面Se1及びSe2より上方に形成された。
開先部突起Pr1及びPr2の寸法(高さH1及びH2、幅Ws1及びWs2)が小さすぎると、溶接後継手(図5、図6、図7)において平板部の上面Se1及びSe2より上方に位置するビード隆起部Bmの体積が不足してアンダーカットが平板部の上面Se1及びSe2より下方の位置に形成される恐れがある。この傾向は、平板部P1が裏板Pbから浮き上がって隙間が生じた状態で突き合わされた形材E1と形材E2に対して、供給される溶融溶加材Mmが隙間から逃げ出して不足するような場合に顕著である。これに対して、開先部突起Pr1及びPr2を大きめに形成することによって、V形開先容量Vgを大きめにし、過剰な溶加材溶着体積Vmの溶融溶加材Mmを供給されたときにも、隙間の有無に関わらずアンダーカットの発生が防止されているものである。
本実施の形態において開先部突起Pr1及びPr2は、台形状の端面形状を有し、平板部の上面Se1及びSe2における開先Gの開口に隣接する部分に、それぞれの突起開先部Sr1i及びSr2iが平板部の開先部G1及びG2に連続して延在するように設けられる。しかしながら、開先部突起Pr1及びPr2が設けられる位置は、事前実験においてアンダーカットが形成された位置の近傍であればよい。後述するように、必ずしも、開先部突起Pr1及びPr2の突起開先部Sr1i及びSr2iが、開先部G1及びG2に連続して延在しなくてもよい。また、開先部突起の形状は、溶融溶加材Mmを形材E1及びE2の上面Se1及びSe2より上方の位置まで供給することを可能にする形状であれば、任意の形状であってよい。
以下に図8、図9、図10、図11、及び図12を順次参照して、開先部突起Pr(Pr1及びPr2)の変形例について説明する。図8〜図12に示す、第1〜第5の変形例に係る開先部突起は、当該開先部突起が設けられる位置や(開先部突起の)端面形状が図3に示す開先部突起Pr1及びPr2と異なる。
まず、図8を参照して、開先部突起Prの第1の変形例について説明する。本変形例に係る開先部突起Pr1a及びPr2aは、平板部の上面Se1及びSe2において当該開先部突起Pr1a及びPr2aが設けられる位置を除いて、開先部突起Pr1及びPr2(図3)と同様に構成されている。開先部突起Pr1aの突起開先部Sr1iaの(高さ方向Dvにおける)下端は、開先部G1の(高さ方向Dvにおける)上端より幅方向Dwに所定の距離Li1(以降、「離間距離Li1」)だけ離間している。同様に、開先部突起Pr2aの突起開先部Sr2iaの下端は、開先部G2の上端より幅方向Dwに所定の距離Li2(以降、「離間距離Li2」)だけ離間している。
次に、図9を参照して、開先部突起Prの第2の変形例について説明する。本変形例に係る開先部突起Pr1b及びPr2bは、幅方向Dwに延在する端面形状が、開先部突起Pr1及びPr2(図3)と異なる。
開先部突起Pr1b及びPr2bの端面形状は、謂わば台形と台形に隣接する四辺形とが一体に成形された形状である。開先部突起Pr1bの突起開先部において、上述の四辺形の一辺が開先部G1に連続して延在する。四辺形の下辺の幅方向Dwの長さは離間距離Li1である。高さ方向Dvにおける四辺形の下辺と上辺との距離は、アンダーカット深Dhである。同様に、開先部突起Pr2bの突起開先部において、上述の四辺形の一辺が開先部G2に連続して延在する。四辺形の下辺の幅方向Dwの長さは離間距離Li2である。高さ方向Dvにおける四辺形の下辺と上辺との距離は、アンダーカット深Dhである。
図9に見て取れるように、開先部突起Pr1b及びPr2bによって規定される拡張開先部は開先端面にステップ(段)が形成されている。ステップ(特にその上面)は、拡張開先部に溶融溶加材Mmを供給する際の目印として利用できる。
次に、図10を参照して、開先部突起Prの第3の変形例について説明する。本変形例に係る開先部突起Pr1c及びPr2cの幅方向Dwに延在する端面形状は、半円状である。
次に、図11を参照して、開先部突起Prの第4の変形例について説明する。本変形例に係る開先部突起Pr1d及びPr2dは、平板部の上面Se1及びSe2において当該開先部突起Pr1d及びPr2dが設けられる位置を除いて、開先部突起Pr1c及びPr2c(図10)と同様に構成されている。開先部突起Pr1dは、開先部G1の上端より幅方向Dwに離間距離Li1だけ離間している。同様に、開先部突起Pr2dは、開先部G2の上端より幅方向Dwに離間距離Li2だけ離間している。
次に、図12を参照して、開先部突起Prの第5の変形例について説明する。本変形例に係る開先部突起Pr1e及びPr2eの端面形状は、謂わば半円形と半円形に隣接する四辺形とが一体に成形された形状である。開先部突起Pr1eの突起開先部において、上述の四辺形の一辺が開先部G1に連続して延在する。四辺形の下辺の幅方向Dwの長さは離間距離Li1である。高さ方向Dvにおける四辺形の下辺と上辺との距離は、アンダーカット深Dhである。同様に、開先部突起Pr2eの突起開先部において、上述の四辺形の一辺が開先部G2に連続して延在する。四辺形の下辺の幅方向Dwの長さは離間距離Li2である。高さ方向Dvにおける四辺形の下辺と上辺との距離は、アンダーカット深Dhである。
なお、開先部突起Pr(図3)及び開先部突起Prの第1〜第5の変形例(図8〜図12)のいずれかを組み合わせて用いてもよい。
本実施の形態において形材E1及びE2は、押出方向Deにアルミニウム合金が押し出し成形されたものである。しかしながら、形材E1及びE2は、所定の断面形状が所定の方向に連続して形成されたものであればよく、押し出し成形以外の方法によって成形されたものでもよい。また、形材E1及びE2はアルミニウム合金以外の金属であってもよい。