図1に示すように、ヒートポンプシステムは、循環経路10、低温側熱交換器11、高温側熱交換器12、循環ポンプ13を備えている。ヒートポンプシステムは、低温環境および高温環境のような温度勾配が存在する環境下で用いられる。
図1では、左側が低温側であり、右側が高温側となっている。循環経路10は、低温側と高温側に跨って配置されている。低温側熱交換器11は循環経路10における低温側に配置され、高温側熱交換器12は循環経路10における高温側に配置されている。
本実施形態のヒートポンプシステムは、冬季に用いられる室内暖房装置として構成されている。つまり、外気温が低くなる冬季において、低温側熱交換器11を室外(例えば0℃)に配置し、高温熱交換器12を室内(例えば25℃)に配置することで、室内暖房に用いることができる。
循環経路10には、内部に熱媒体が封入されており、熱媒体が低温側熱交換器11と高温側熱交換器12との間を循環可能となっている。本実施形態では、熱媒体としてアゾベンゼン化合物を用いている。アゾベンゼン化合物は、例えばクロロホルム等の有機溶媒に溶解させたものをマイクロカプセルに封入して用いることができる。
循環経路10には、アゾベンゼン化合物が封入されたマイクロカプセルを輸送するための輸送用流体も封入されている。輸送用流体としては、エチレングリコール等の不凍液を用いることができる。熱媒体は輸送用流体とともに循環ポンプ13によって送出され、循環経路10を循環する。
低温側熱交換器11は、少なくとも紫外光を透過可能な紫外光透過部が設けられており、内部を通過するアゾベンゼン化合物に外部から紫外光を照射可能となっている。また、高温側熱交換器12は、少なくとも可視光を透過可能な可視光透過部が設けられており、内部を通過するアゾベンゼン化合物に外部から可視光を照射可能となっている。
図2に示すように、アゾベンゼン化合物には、トランス体およびシス体の異性体が存在していることが知られている。そして、トランス体の方がシス体よりも50kJ/mol程度安定である。本実施形態のアゾベンゼン化合物は、第1の光照射トリガーとして紫外光(例えば波長365nm)を照射することでトランス体からシス体に異性化し、第2の光照射トリガーとして可視光(例えば波長500nm)を照射することでシス体からトランス体に異性化する。また、アゾベンゼン化合物は、光刺激に対する応答速度が速いという特性を有している。
次に、本実施形態のアゾベンゼン化合物の相変化を図3に基づいて説明する。図3の縦軸はギブスの自由エネルギーを示し、横軸は温度を示している。図3に示すように、本実施形態のアゾベンゼン化合物は、シス体の融点Tmcisがトランス体の融点Tmtransよりも低くなっている。つまり、シス体の融点Tmcisより高くトランス体の融点Tmtransより低い温度範囲では、シス体のアゾベンゼン化合物は液相となっており、トランス体のアゾベンゼン化合物は固相となっている。このため、本実施形態のアゾベンゼン化合物は、シス体の融点Tmcisとトランス体の融点Tmtransとの間の温度範囲でトランス体とシス体の異性化を行うことで、固相から液相あるいは液相から固相への相変化を誘発することができる。
本実施形態のアゾベンゼン化合物は、固相のトランス体に紫外光を照射することで、液相のシス体に相変化させることができ、液相のシス体に可視光を照射することで、固相(結晶)のトランス体に相変化させることができる。液相のシス体に可視光を照射することで固相(結晶)のトランス体に異性化するアゾベンゼン化合物は、これまで報告されておらず、本実施形態のアゾベンゼン化合物に特徴的な性質である。
アゾベンゼン化合物は、固相のトランス体から液相のシス体に相変化する際に、融解潜熱による吸熱が起こり、液相のシス体から固相のトランス体に相変化する際に、相変化に伴う発熱が起こる。このため、低温環境下で固相のトランス体に紫外光を照射することで、液相のシス体に相変化させて吸熱させることができ、高温環境下で液相のシス体に可視光を照射することで、固相のトランス体に相変化させて発熱させることができる。
このような条件下において、ヒートポンプシステムは次のように作動する。まず、低温側熱交換器11の紫外光透過部(図示せず)を介して内部のアゾベンゼン化合物に紫外光を照射することで、アゾベンゼン化合物がトランス体からシス体に変化する。このトランス体(固体)からシス体(液体)への相変化に伴う融解潜熱によって、アゾベンゼン化合物は低温環境下で吸熱する。
シス体のアゾベンゼン化合物は、循環ポンプ13によって低温側熱交換器11から高温側熱交換器12に移動する。そして、高温側熱交換器12の可視光透過部(図示せず)を介して内部のアゾベンゼン化合物に可視光を照射することで、アゾベンゼン化合物がシス体からトランス体に変化する。このシス体(液体)からトランス体(固体)への相変化に伴って、アゾベンゼン化合物は高温環境下で放熱する。このように、光照射によるアゾベンゼン化合物の相変化に伴う潜熱を利用することで、低温環境から高温環境への熱の移動を行うことができる。
以上説明した本実施形態では、低温環境下で紫外光照射を行うことで吸熱し、高温環境下で可視光照射を行うことで発熱する特性を備えた上記一般式(1)で表されるアゾベンゼン化合物をヒートポンプシステムの熱媒体として用いることで、圧縮機のような機器を用いて外部からエネルギーを投入することなく、吸熱及び発熱を行うことができる。これにより、より少ないエネルギーで熱の移動が可能となる。
また、アゾベンゼン化合物は光刺激に対する応答速度が速いので、相変化に伴う吸熱と発熱が短時間で行われ、ヒートポンプシステムの熱媒体として好適に用いることができる。
ここで、「融点」とは、示差走査熱量測定(Differential Scanning Calorimetry : DSC)において試料が固体状態から液体状態に変化する際に観測される吸熱ピークについて、ベースラインと、ピークの立ち上がり側の変曲点に引いた接線の交点の温度のことをいう。
(第1実施例)
次に、本発明の第1実施例について説明する。第1実施例では、上記一般式(1)のR1〜R3をそれぞれC2H4OC2H4OCH3とし、R4をOC4H8とし、R5〜R8をそれぞれHとし、R9をOC6H13とし、X-をBr-とした下記一般式(2)で示されるN,N,N−トリス[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]−[4−(4’−ヘキシルオキシフェニルジアゼニル)フェノキシブチル]アンモニウム ブロマイド(以下、「C6AzoC4N(mee)3 +Br-」という。)について説明する。
ここで、一般式(2)で示されるアゾベンゼン化合物C6AzoC4N(mee)3 +Br-の製造方法について説明する。
上記合成スキームで示されるように、「9」で示されるC6AzoC4N(mee)3 +Br-は、「6」で示される4−(ヘキロキシ)アニリン、「7」で示される4−((4−ヘキロキシフェニル)ジアゼニル)フェノール、「8」で示される1−(4−(2−ブロモブトキシフェニル)−2−(4−ヘキロキシフェニル)ジアゼンといった中間生成物を経て合成される。
まず、「6」で示される4−(ヘキロキシ)アニリンの合成について説明する。
アセトン60mlに炭酸カリウム(M.W.138.20)9.14グラム(65mmol)を溶解させ5分間撹拌を行った。これに原料4−アセトアミドフェノール(M.W.151.16)5グラムを加え10分間室温で撹拌を行った。その後1−ブロモヘキサン(M.W.165.07)7ml(42.52mmol)を滴下し、加熱還流を行った。11時間後反応を終了し、水100ml中に反応溶液を加えクエンチを行った。析出した白色沈殿を減圧濾過にて回収し、真空乾燥を一晩行った。その後乾燥した無色固体にヘキサン150mlを加え30分間撹拌し、ヘキサンに溶解する余剰の1−ブロモヘキサンを除去し、減圧濾過を行い沈殿を回収した。
得られた固体にメタノール:12N塩酸=6:4の混合溶液50mlを加え、7時間加熱還流を行った。7時間後、薄層クロマトグラフィー(以下、「TLC」という。)にて原料のスポット(Rf=0.0)が消失したので、150mlの水でクエンチし、酢酸エチルで抽出を行った。TLCでは、展開溶媒としてクロロホルム:メタノール=9:1の混合溶媒を用いてUV検出を行った。抽出で得られた有機相を硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を留去し、薄茶色固体4.67グラムを得た。得られた薄茶色固体のTLC(展開溶媒 クロロホルム:メタノール=9:1の混合溶媒、UV検出)による分析結果はRf=0.7であった。
得られた薄茶色固体の1H−NMRスペクトル測定結果からすべてのプロトンが帰属され、薄茶色固体のFT−IRスペクトル測定結果から前駆体のC=O伸縮振動の消失が確認された。これにより、4−(ヘキロキシ)アニリンの合成を確認した。
次に、「7」で示される4−((4−ヘキロキシフェニル)ジアゼニル)フェノールの合成について説明する。
原料4−(ヘキロキシ)アニリン4.50グラム(23.28mmol)を12N塩酸(M.W.36.46)2.35グラム(64.4mmol)、水20mlに溶解しチャンバーにて一晩保管した。これとは別に水酸化ナトリウム(M.W.39.9)1.86グラム(46.56mmol)を水15mlに溶解させ、これにフェノール(M.W.94.11)2.41グラムを加え5℃にて一晩保管した。亜硝酸ナトリウム(M.W.69.01)1.93グラム(27.9mmol)を水5mlに溶かした溶液を作製し同様に一晩5℃にて保管した。これらの溶液を氷浴中で15分程度冷却し、4−(ヘキロキシ)アニリン溶液に亜硝酸ナトリウム水溶液を徐々に加え、その後すぐにフェノール溶液を加え3時間半氷冷下で反応を行った。その後、12N塩酸を加え、pHを1にした後、1時間室温で静置した。得られた沈殿を濾過し、水でよく洗った後一晩真空乾燥し、水:メタノール=1:1溶液で再結晶を行った。この結果、暗赤色結晶5.76グラムを得た。得られた暗赤色結晶のTLC(展開溶媒 クロロホルム、UV検出)による分析結果はRf=0.11であった。
得られた暗赤色結晶の1H−NMRスペクトル測定結果からすべてのプロトンが帰属され、暗赤色結晶のFT−IRスペクトル測定結果からOH結合、−N=N−結合の生成が示唆された。これにより、4−((4−ヘキロキシフェニル)ジアゼニル)フェノールの合成を確認した。
次に、「8」で示される1−(4−(2−ブロモブトキシフェニル)−2−(4−ヘキロキシフェニル)ジアゼンの合成について説明する。
アセトン60mlに炭酸カリウム(M.W.138.21)1.24グラム(9.00mmol)を加え10分間撹拌を行った。原料4−((4−ヘキロキシフェニル)ジアゼニル)フェノール(M.W.298.38)0.9グラム(3.02mmol)を加え窒素バブリングを10分間行った後、1,4−ジブロモブタン(M.W.215.91)3.25グラム(15.08mmol)を滴下し、加熱還流を行った。4時間後TLC(展開溶媒 クロロホルム、UV検出)にて原料のスポット(Rf=0.11)の消失を確認し、反応溶液を水150mlに加えクエンチし、析出した固体を濾過により回収し、得られた固体をアセトンで再結晶した。析出した結晶を減圧濾過により回収し、淡黄色結晶0.82グラムを得た。得られた淡黄色結晶のTLC(展開溶媒 クロロホルム、UV検出)による分析結果はRf=0.88であった。
得られた淡黄色結晶の1H−NMRスペクトル測定結果からすべてのプロトンが帰属され、淡黄色結晶のFT−IRスペクトル測定結果からOH結合の消失が確認された。これにより、1−(4−(2−ブロモブトキシフェニル)−2−(4−ヘキロキシフェニル)ジアゼンの合成を確認した。
次に、「9」で示されるC6AzoC4N(mee)3 +Br-の合成について説明する。
原料1−(4−(2−ブロモブトキシフェニル)−2−(4−ヘキロキシフェニル)ジアゼン1.5グラム(3.7mmol)をアセトニトリル(3A モレキュラーシーブにて脱水済み)15mlに溶解させてアルゴン置換を行った。これに、トリス[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]アミン(MEEA)(M.W.323.43)1.20グラム(3.7mmol)を滴下し、アルゴン雰囲気下で加熱還流を行った。10時間後、TLC(展開溶媒 クロロホルム、UV検出)にてRf=0.0に新規スポットの出現が確認され反応の進行が示唆された。反応はTLC(展開溶媒 クロロホルム、UV検出)にて原料のスポット(Rf=0.88)が消失しなかったため、17時間後にMEEA0.1等量を加え50時間行った。
反応溶液から溶媒を留去し、水に溶解させ、濾過を行い水に不溶である原料1−(4−(2−ブロモブトキシフェニル)−2−(4−ヘキロキシフェニル)ジアゼンを除去した。得られた水相にクロロホルムを加え抽出を行い、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させ溶媒を留去した。得られた残渣は液体であったが24時間程度静置しておくと結晶が析出した。この結晶をヘキサン:トルエン=1:1混合溶媒100mlを用いて再結晶し、得られた結晶を減圧濾過にて回収し、真空乾燥した。結果、黄色固体0.56グラムを得た。得られた黄色固体のTLC(展開溶媒 クロロホルム、UV検出)による分析結果はRf=0.0であった。
得られた黄色固体の1H−NMRスペクトル測定結果からすべてのプロトンが帰属された。また、黄色固体のMALDI−TOF−MSにより分子イオンピークが確認された。そして黄色固体の元素分析の結果は、C6AzoC4N(mee)3 +Br-の組成と一致した。これにより、C6AzoC4N(mee)3 +Br-が合成されたと判断した。
(第2実施例)
次に、本発明の第2実施例について説明する。本第2実施例では、上記一般式(2)のBr−をCl−とした下記一般式(3)で示されるN,N,N−トリス[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]−[4−(4’−ヘキシルオキシフェニルジアゼニル)フェノキ
シブチル]アンモニウム クロライド(以下、「C6AzoC4N(mee)3 +Cl-」という。)について説明する。
ここで、一般式(3)で示されるアゾベンゼン化合物C6AzoC4N(mee)3 +Cl-の製造方法について説明する。
「8」で示される1−(4−(2−ブロモブトキシフェニル)−2−(4−ヘキロキシフェニル)ジアゼン(M.W.405.33)0.78グラム(1.92mmol)をアセトニトリル(モレキュラーシーブにて脱水済み)10mlに溶解させ、アルゴン置換を行った。これに、トリス[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]アミン(MEEA)(M.W.323.43)0.93グラム(2.28mmol)を滴下し、アルゴン雰囲気下で加熱還流を行った。TLC(展開溶媒 クロロホルム、UV検出)にてRf=0.0に新規スポットの出現が確認され反応の進行が示唆された。24時間後、反応溶液から溶媒を留去し、水に溶解させ、濾過を行い原料を除去した。得られた水相にジクロロメタンを加え抽出を行い、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させ溶媒を留去した。そして、得られた残留物に2M塩酸水溶液100mlを加え一晩室温で撹拌した。このとき、残留物は2M塩酸に溶解し、赤色の溶液となった。一晩経過後、ジクロロメタンを用いて抽出し、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させ溶媒を留去した。さらにこれに1M塩酸を加え1時間撹拌後、同様にジクロロメタンを用い有機相へ抽出を行い、有機相を5%NaOHと水の順番で洗った。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を留去した。得られた固体をヘキサン:トルエン=1:1混合溶媒50mlを用いて再結晶し、得られた結晶を減圧濾過にて回収し、真空乾燥した。結果、黄色固体0.24グラムを得た。得られた黄色固体のTLC(展開溶媒 クロロホルム、UV検出)による分析結果はRf=0.0であった。
得られた黄色固体の1H−NMRスペクトル測定結果からすべてのプロトンが帰属された。また、黄色固体のMALDI−TOF−MSにより分子イオンピークが確認された。そして黄色固体の元素分析の結果は、C6AzoC4N(mee)3 +Cl-+H2Oの組成と一致した。これにより、「10」で示されるC6AzoC4N(mee)3 +Cl-が合成されたと判断した。
次に、本第2実施例のC6AzoC4N(mee)3 +Cl-(以下、本第2実施例において「アゾベンゼン化合物」と略す)のトランス体に紫外光を照射する前後の吸光スペクトルと、本実施例のアゾベンゼン化合物のシス体に可視光を照射する前後の吸光スペクトルを測定した結果を、図4、図5に基づいて説明する。吸光スペクトルは、光路長1cmのセルを用いて25μMメタノール溶液中25℃で測定した。
図4の実線はアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射する前の吸光スペクトルを示し、図4の破線はアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射してから10分経過後の吸光スペクトルを示している。本第2実施例では、紫外光の波長を365nmとしている。図4の実線に示すように、紫外光を照射する前の吸光スペクトルでは、アゾベンゼン化合物のトランス体に由来する356nm付近で吸光度の大きなピークが出現している。そして、図4の破線に示すように、紫外光を照射してから10分経過後の吸光スペクトルでは、356nm付近の吸光度が減少し、アゾベンゼン化合物のシス体に由来する316nm付近及び448nm付近の吸光度が増大している。この吸光スペクトルの変化から、本実施例のアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射することで、シス体に変化することが明らかである。
図5の実線はアゾベンゼン化合物のシス体に可視光を照射する前の吸光スペクトルを示し、図5の破線はアゾベンゼン化合物のシス体に可視光を照射してから10分経過後の吸光スペクトルを示している。本第2実施例では、可視光の波長を500nmとしている。図5の実線に示すように、可視光を照射する前の吸光スペクトルでは、アゾベンゼン化合物のシス体に由来する316nm付近及び448nm付近で吸光度の小さなピークが出現している。そして、図5の破線に示すように、可視光を照射してから10分経過後の吸光スペクトルでは、316nm付近及び448nm付近で吸光度が減少し、アゾベンゼン化合物のトランス体に由来する356nm付近の吸光度が増大している。この吸光スペクトルの変化から、本第2実施例のアゾベンゼン化合物のシス体に可視光を照射することで、トランス体に変化することが明らかである。
次に、本第2実施例のアゾベンゼン化合物をX線回折で測定した結果を図6に基づいて説明する。図6(a)は本第2実施例のアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射する前のX線回折パターンを示している。図6(a)に示すX線回折パターンでは、複数の明確なピークが観測され、アゾベンゼン化合物が結晶状態となっていることが示されている。また、図6(b)は本第2実施例のアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射した後のX線回折パターンを示している。図6(b)に示すX線回折パターンでは、明確なピークが観測されず、結晶状態のアゾベンゼン化合物が液体状態となったことが示されている。また、図6(c)は本第2実施例のアゾベンゼン化合物のシス体に可視光を照射した後のX線回折パターンを示している。図6(c)に示すX線回折パターンでは、図6(a)と同様、複数の明確なピークが観測され、液体状態のアゾベンゼン化合物が結晶状態となったことが示されている。
次に、本第2実施例のアゾベンゼン化合物を偏光顕微鏡(POM)のクロスニコル条件で観察した結果を図7〜図9に基づいて説明する。図7に示すアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射する前のPOM画像では、アゾベンゼン化合物が結晶状態となっていることが示されている。また、図8に示すアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射した後のPOM画像では、中央部分に暗視野が観測され、結晶状態のアゾベンゼン化合物において紫外光が照射された部位が液体状態となったことが示されている。また、図9に示すアゾベンゼン化合物のシス体に可視光を照射した後のPOM画像では、図8で暗視野として観測された部位が、可視光を照射することによって再度結晶化したことが確認できる。この観察像の変化から、固体状態のアゾベンゼン化合物に紫外光を照射することで液体状態に変化し、液体状態のアゾベンゼン化合物に可視光を照射することで固体状態のアゾベンゼン化合物に変化することは明らかである。
(第3実施例)
次に、本発明の第3実施例について説明する。本第3実施例では、上記一般式(2)のBr-をTFSA-とした下記一般式(4)で示されるN,N,N−トリス[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]−[4−(4’−ヘキシルオキシフェニルジアゼニル)フェ
ノキシブチル]アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(以下、「C6AzoC4N(mee)3 +TFSA-」という。)について説明する。
ここで、一般式(4)で示されるアゾベンゼン化合物C6AzoC4N(mee)3 +TFSA-の製造方法について説明する。
「9」で示されるC6AzoC4N(mee)3 +Br-(M.W.756.81)0.1グラム(0.13mmol)を水5mlに溶解し、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(M.W.287.08)0.04グラム(0.14mmol)を加え2時間室温で撹拌し、黄色の懸濁液が得られた。反応終了後撹拌を止め、1時間程度静置したが2層に分離することはなかったので、酢酸エチルを用いて抽出し、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥後溶媒を留去した。その結果、橙色液体0.12グラムを得た。
得られた黄色固体のFT−IRスペクトル測定結果からTFSAアニオン由来の振動が確認され、加えて黄色固体のMALDI−TOF−MSにより分子イオンピークが確認された。そして黄色固体の元素分析の結果は、C6AzoC4N(mee)3 +TFSA-+0.5H2Oの組成と一致した。これにより、「11」で示されるC6AzoC4N(mee)3 +TFSA-が合成されたと判断した。
(第4実施例)
次に、本発明の第4実施例について説明する。本第4実施例では、上記一般式(2)の「C6」を「C4」とし、「C4」を「C6」とした下記一般式(5)で示されるN,N,N−トリス[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]−[4−(4’−ブチルオキシフ
ェニルジアゼニル)フェノキシヘキシル]アンモニウム ブロマイド(以下、「C4AzoC6N(mee)3 +Br-」という。)について説明する。
ここで、一般式(5)で示されるC4AzoC6N(mee)3 +Br-の製造方法について説明する。
上記合成スキームで示されるように、C4AzoC6N(mee)3 +Br-は、4−(ブトキシ)アニリン、4−((4−ブトキシフェニル)ジアゼニル)フェノール(C4AzoOH)、C4AzoC6Brといった中間生成物を経て合成される。
まず、4−(ブトキシ)アニリンの合成について説明する。
300mlナスフラスコに炭酸カリウム(M.W.138.20)18.00グラム(130mmol)に4−アセトアミドフェノール(M.W.151.16)10.00グラム(66.2mmol)と1−ブロモブタン(M.W.137.02)11.81グラム(86.2mmol)を加えた。そこに、アセトン100mlを加え、18時間還流した。反応懸濁液を室温に戻した後、水200mlに滴下した。析出した無色沈殿を濾別し、真空乾燥した。その後、ヘキサン300mlに懸濁させ、60分間撹拌し、ヘキサンに溶解する余剰の1−ブロモブタンを除去し、減圧濾過にて回収した。
得られた固体を300mlナスフラスコに入れ、メタノール:12N塩酸=6:4(v/v)の混合溶媒100mlを加え、還流を行った。18時間後、反応溶液を200mlの水に滴下し、NaOH水溶液を用いてpHを6〜7に調節した。現れた茶色オイルを酢酸エチルで抽出した(100ml×4回)。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥後、酢酸エチルを減圧留去し、茶色オイル9.46グラムを得た。
得られた茶色オイルの1H−NMRスペクトル測定結果からすべてのプロトンが帰属され、茶色オイルのFT−IRスペクトル測定結果から前駆体のC=O伸縮振動の消失が確認された。これにより、4−(ブトキシ)アニリンの合成を確認した。
次に、4−((4−ブトキシフェニル)ジアゼニル)フェノール(C4AzoOH)の合成について説明する。
1000mlビーカーに4−(ブトキシ)アニリン(M.W.165.24)8.80グラム(53.3mmol)と12N塩酸(M.W.36.46)13.5ml(161mmol)を加えた。そこに、水200ml及びアセトン200mlを加えた。この溶液をチャンバーにて5℃以下に冷却した。これに、亜硝酸ナトリウム(M.W.69.01)4.90グラム(71.1mmol)を水20mlに溶かした溶液(5℃以下)を、氷浴中で撹拌しながら滴下した。また、水酸化ナトリウム(M.W.39.9)6.57グラム(164mmol)とフェノール(M.W.94.11)6.76グラム(71.8mmol)を水50mlに溶かした溶液(5℃以下)を先の溶液に加え(滴下後のpH9〜10)、氷浴下で4時間撹拌した。室温で一晩撹拌した後、4N塩酸を加え、pHを4〜5に調節した。アセトンを減圧留去した後、析出した暗赤色沈殿をエタノール:水=1:4(v/v)混合溶媒150mlで再結晶した。析出した固体を減圧濾過によって回収し、結晶12.30グラムを得た。
得られた結晶の1H−NMRスペクトル測定結果からすべてのプロトンが帰属され、暗赤色結晶のFT−IRスペクトル測定結果からOH結合、−N=N−結合の生成が示唆された。これにより、4−((4−ブトキシフェニル)ジアゼニル)フェノール(C4AzoOH)の合成を確認した。
次に、C4AzoC6Brの合成について説明する。
200mlナスフラスコに炭酸カリウム(M.W.138.21)4.14グラム(30.0mmol)、C4AzoOH(M.W.270.33)2.70グラム(9.99mmol)、1,6−ジブロモヘキサン(M.W.243.97)を加えた。そこにアセトン200mlを加え、10時間還流を行った。反応懸濁液を室温に戻した後、水450mlに滴下し、析出した固体をろ過により回収した。得られた固体をアセトンで再結晶した。析出した固体を減圧濾過により回収し、結晶1.83グラムを得た。
得られた結晶の1H−NMRスペクトル測定結果からすべてのプロトンが帰属され、淡黄色結晶のFT−IRスペクトル測定結果からOH結合の消失が確認された。これにより、C4AzoC6Brの合成を確認した。
次に、C4AzoC6N(mee)3 +Br-の合成について説明する。
50mlナスフラスコにC4AzoC6Br(M.W.433.39)1.5グラム(3.46mmol,1eq)とトリス[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]アミン(N(mee)3)(M.W.323.43)3.36グラム(10.4mmol,3eq)を加えた。そこに、アセトニトリル20mlとアセトン10mlを加え、アルゴン雰囲気下で72時間還流した(加熱時の系は均一)。TLCより、反応溶液を室温に戻した後、溶媒を留去し、水を加え、水に不溶である原料C4AzoC6Brを濾別した。得られた濾液から水を減圧留去すると、暗赤色オイルが得られた。これを少量のトルエンに溶解させヘキサン200mlに滴下した後、生じた粘性固体を減圧乾燥した。次いで、得られた粘性固体を臭化ナトリウム水溶液に溶解させ、クロロホルムで抽出し、有機相を1M臭化ナトリウム水溶液で洗浄した(50ml×5回)。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥した後、クロロホルムを減圧留去した。最後に、得られた固体をトルエン:ヘキサン=2:1(v/v)150mlで再結晶した。析出した結晶を減圧濾過により回収し、淡黄色結晶0.581グラムを得た。
得られた淡黄色結晶の1H−NMRスペクトル測定結果からすべてのプロトンが帰属された。また、淡黄色結晶のMALDI−TOF−MSにより分子イオンピークが確認された。そして淡黄色結晶の元素分析の結果は、C4AzoC6N(mee)3 +Br-の組成と一致した。これにより、C4AzoC6N(mee)3 +Br-が合成されたと判断した。
次に、本第4実施例のC4AzoC6N(mee)3 +Br-(以下、本第4実施例では「アゾベンゼン化合物」と略す)のトランス体に紫外光を照射する前後の吸光スペクトルと、本第4実施例のアゾベンゼン化合物のシス体に可視光を照射する前後の吸光スペクトルを測定した結果を、図10、図11に基づいて説明する。吸光スペクトルは、光路長1cmのセルを用いて25μMメタノール溶液中25℃で測定した。
図10は、アゾベンゼン化合物のトランス体に365nmの紫外光を40秒間照射した場合の吸光度の変化を5秒毎に記録した結果を示している。図10の上段はアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射した場合の吸光スペクトルの変化を示し、図10の下段は357nmでの吸光度の変化を示している。
図10の上段に示すように、紫外光を照射する前の吸光スペクトルでは、アゾベンゼン化合物のトランス体に由来する357nm付近で吸光度の大きなピークが出現している。そして、紫外光を照射してから40秒経過後の吸光スペクトルでは、357nm付近の吸光度が減少し、アゾベンゼン化合物のシス体に由来する448nm付近の吸光度が増大している。この吸光スペクトルの変化から、本第4実施例のアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射することで、シス体に変化することが明らかである。
また、図10の下段に示すように、アゾベンゼン化合物のトランス体に由来する357nmの吸光度は、紫外光(365nm)の照射を開始してから20秒程度が経過するまで急激に低下し、その後は緩やかに低下している。
図11は、アゾベンゼン化合物のシス体に480nmの可視光を120秒間照射した場合の吸光度の変化を、30秒経過までは5秒毎、30秒から60秒経過までは10秒毎、60秒経過後は20秒毎に記録した結果を示している。図11の上段はアゾベンゼン化合物のシス体に可視光を照射した場合の吸光スペクトルの変化を示し、図11の下段は357nmでの吸光度の変化を示している。
図11の上段に示すように、可視光を照射する前の吸光スペクトルでは、アゾベンゼン化合物のシス体に由来する448nm付近で吸光度の大きなピークが出現している。そして、可視光を照射してから120秒経過後の吸光スペクトルでは、448nm付近の吸光度が減少し、アゾベンゼン化合物のトランス体に由来する357nm付近の吸光度が増大している。この吸光スペクトルの変化から、本第4実施例のアゾベンゼン化合物のシス体に可視光を照射することで、トランス体に変化することが明らかである。
また、図11の下段に示すように、アゾベンゼン化合物のトランス体に由来する357nmの吸光度は、可視光(480nm)の照射を開始してから60秒程度が経過するまで急激に増大し、その後は緩やかに増大している。
次に、本第4実施例のアゾベンゼン化合物をX線回折で測定した結果について説明する。本第4実施例のアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射する前後とシス体に可視光を照射した後にX線回折で測定した結果、上記第2実施例で説明した図6のX線回折パターンと同様の結果が得られた。
つまり、本第4実施例のアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射する前のX線回折パターンは図6(a)に示すX線回折パターンと同様であり、複数の明確なピークが観測され、アゾベンゼン化合物が結晶状態となっていることが示された。また、本第4実施例のアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射した後のX線回折パターンは図6(b)に示すX線回折パターンと同様であり、明確なピークが観測されず、結晶状態のアゾベンゼン化合物が液体状態となったことが示された。また、本第4実施例のアゾベンゼン化合物のシス体に可視光を照射した後のX線回折パターンは図6(c)と同様であり、複数の明確なピークが観測され、液体状態のアゾベンゼン化合物が結晶状態となったことが示された。
次に、本第4実施例のアゾベンゼン化合物を偏光顕微鏡(POM)のクロスニコル条件で観察した結果を図12〜図14に基づいて説明する。
図12は、本第4実施例のアゾベンゼン化合物を100℃で加熱してトランス体(液体)を生成し、一晩冷却したトランス体(固体)のPOM画像である。図12のPOM画像では、紫外光を照射する前のアゾベンゼン化合物のトランス体は、結晶状態となっていることが示されている。
図13は、図12に示すアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光(365±10nm)を10分間照射した後のPOM画像である。図13のPOM画像では、アゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射した後は中央部分に暗視野が観測され、結晶状態のアゾベンゼン化合物において紫外光が照射された部位が液体状態となったことが示されている。
図14は、図13に示すアゾベンゼン化合物のシス体に可視光(450〜490nm)を20分間照射した後のPOM画像である。図14のPOM画像では、図13で暗視野として観測された部位が、可視光を照射することによって再度結晶化したことが確認できる。
この観察像の変化から、固体状態のアゾベンゼン化合物に紫外光を照射することで液体状態に変化し、液体状態のアゾベンゼン化合物に可視光を照射することで固体状態のアゾベンゼン化合物に変化することは明らかである。
次に、本第4実施例のアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射する前後の吸光スペクトルと、本第4実施例のアゾベンゼン化合物のシス体に可視光を照射する前後の吸光スペクトルを顕微分光法で測定した結果を、図15、図16に基づいて説明する。
上述の図10、図11では、メタノール溶液中で測定したアゾベンゼン化合物の吸光スペクトルの変化を示したが、図15、図16は、アゾベンゼン化合物単体の吸光スペクトルの変化を示している。図15は、本第4実施例のアゾベンゼン化合物が図12に示すトランス体から図13に示すシス体に変化する場合の吸光スペクトルの変化を示しており、図16は、本第4実施例のアゾベンゼン化合物が図13に示すシス体から図14に示すトランス体に変化する場合の吸光スペクトルの変化を示している。
図15は、アゾベンゼン化合物のトランス体に365±10nmの紫外光を500秒間照射した場合の吸光度の変化を、300秒経過するまで30秒毎、300秒経過後は60秒毎に記録した結果を示している。図15の上段はアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射した場合の吸光スペクトルの変化を示し、図15の下段は450nmでの吸光度の変化を示している。
図15の上段に示すように、紫外光を照射してから600秒経過後の吸光スペクトルでは、アゾベンゼン化合物のシス体に由来する450nm付近の吸光度が増大している。この吸光スペクトルの変化から、本第4実施例のアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射することで、シス体に変化することが明らかである。
また、図15の下段に示すように、アゾベンゼン化合物のシス体に由来する450nmの吸光度は、紫外光(365±10nm)の照射を開始してから200秒程度が経過するまで急激に増大し、その後は緩やかに増大している。
図16は、アゾベンゼン化合物のシス体に450〜490nmの可視光を60秒間照射した場合の吸光度の変化を、30秒経過するまで5秒毎、30秒経過後は20秒毎に記録した結果を示している。図16の上段はアゾベンゼン化合物のシス体に可視光を照射した場合の吸光スペクトルの変化を示し、図16の下段は450nmでの吸光度の変化を示している。
図16の上段に示すように、可視光を照射してから60秒経過後の吸光スペクトルでは、アゾベンゼン化合物のシス体に由来する450nm付近の吸光度が減少している。この吸光スペクトルの変化から、本第4実施例のアゾベンゼン化合物のシス体に可視光を照射することで、トランス体に変化することが明らかである。
また、図16の下段に示すように、アゾベンゼン化合物のシス体に由来する450nmの吸光度は、可視光(450〜490nm)の照射を開始してから30秒程度が経過するまで急激に減少し、その後は緩やかに減少している。
(第5実施例)
次に、本発明の第5実施例について説明する。本第5実施例では、上記一般式(2)の「C6」を「C8」とし、「C4」を「C2」とした下記一般式(6)で示されるN,N,N−トリス[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]−[4−(4’−オクチルオキシ
フェニルジアゼニル)フェノキシエチル]アンモニウム ブロマイド(以下、「C8AzoC2N(mee)3 +Br-」という。)について説明する。
ここで、一般式(6)で示されるC8AzoC2N(mee)3 +Br-の製造方法について説明する。
上記合成スキームで示されるように、C8AzoC2N(mee)3 +Br-は、4−(オクチロキシ)アニリン塩酸塩、4−((4−オクチロキシ)ジアゼニル)フェノール(C8AzoOH)、C8AzoC2Brといった中間生成物を経て合成される。
まず、4−(オクチロキシ)アニリン塩酸塩の合成について説明する。
300mlナスフラスコに炭酸カリウム(M.W.138.20)24.0グラム(173mmol)に、4−アセトアミドフェノール(M.W.151.16)20.15グラム(133mmol)、1−ブロモオクタン(M.W.193.12)33.5グラム(173mmol)を加えた。そこに、アセトン200mlを加え、20時間還流した。反応懸濁液を室温に戻した後、水400mlに滴下した。析出した無色沈殿を濾別し、真空乾燥した。その後、ヘキサン300mlに懸濁させ、60分間撹拌し、ヘキサンに溶解する余剰の1−ブロモオクタンを除去し、減圧濾過にて回収した。
得られた固体を300mlナスフラスコに入れ、メタノール:12N塩酸=9:4(v/v)の混合溶媒200mlを加え、還流を行った。18時間後加熱を止め、反応溶液を室温に戻すと無色結晶が析出した。得られた結晶を減圧濾過により回収し、水で洗浄した後に乾燥し、結晶29.1グラムを得た。
得られた結晶の1H−NMRスペクトル測定結果からすべてのプロトンが帰属された。これにより、4−(オクチロキシ)アニリン塩酸塩の合成を確認した。
次に、4−((4−オクチロキシ)ジアゼニル)フェノール(C8AzoOH)の合成について説明する。
1000mlビーカーに4−(オクチロキシ)アニリン(M.W.257.80)7.77グラム(30.1 mmol)と12N塩酸(M.W.36.46)2.5ml(30mmol)を加えた。そこに、水100ml及びアセトン300mlを加えた。この溶液をチャンバーにて5℃以下に冷却した(系は均一)。これに、亜硝酸ナトリウム(M.W.69.01)2.08グラム(30.1mmol)を水10mlに溶かした溶液(5℃以下)を、氷浴中で撹拌しながら滴下した(系は均一)。また、水酸化ナトリウム(M.W.39.9)3.69グラム(92.5mmol)とフェノール(M.W.94.11)3.68グラム(39.2mmol)を水30mlに溶かした溶液(5℃以下)を先の溶液に加え(滴下後のpH9〜10)、氷浴下で4時間撹拌した。室温で一晩撹拌した後、4N塩酸を加え、pHを4〜5に調節した。アセトンを減圧留去した後、析出した暗赤色沈殿をエタノール:水=2:1(v/v)混合溶媒150mlで再結晶した。析出した固体を減圧濾過によって回収し、結晶5.00グラムを得た。
得られた結晶の1H−NMRスペクトル測定結果からすべてのプロトンが帰属され、暗赤色結晶のFT−IRスペクトル測定結果からOH結合、−N=N−結合の生成が示唆された。これにより、4−((4−オクチロキシ)ジアゼニル)フェノール(C8AzoOH)の合成を確認した。
次に、C8AzoC2Brの合成について説明する。
100mlナスフラスコに炭酸カリウム(M.W.138.21)2.54グラム(18.4mmol)とC8AzoOH(M.W.326.44)2.00グラム(6.13mmol)、1,2−ジブロモエタン(M.W.187.86)を加えた。そこにアセトン80mlを加え、24時間還流を行った。反応懸濁液を室温に戻した後、溶媒及び過剰の1,2−ジブロモエタンを減圧留去した。そこに水を加え、水に不溶な成分を減圧濾過により回収し、酢酸エチル:クロロホルム=2:1(v/v)混合溶媒150mlで再結晶した。析出した固体を減圧濾過により回収し、結晶1.73グラムを得た。
得られた結晶の1H−NMRスペクトル測定結果からすべてのプロトンが帰属され、淡黄色結晶のFT−IRスペクトル測定結果からOH結合の消失が確認された。これにより、C8AzoC2Brの合成を確認した。
次に、C8AzoC2N(mee)3 +Br-の合成について説明する。
100mlナスフラスコにC8AzoC2Br(M.W.433.39)1.49グラム(3.44mmol,1 eq)とトリス[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]アミン(N(mee)3)(M.W.323.43)11.1グラム(34.4mmol,3eq)を加えた。そこに、アセトニトリル50mlを加え、アルゴン雰囲気下で72時間還流した。反応溶液を室温に戻した後、溶媒を留去し、水を加え、水に不溶である原料C4AzoC6Brを濾別した。得られた濾液から水を減圧留去すると、暗赤色オイルが得られた。これを少量のトルエンに溶かし、ヘキサン200mlに滴下した後、生じた粘性固体を減圧乾燥した。次いで、得られた粘性固体を臭化ナトリウム水溶液に溶解させ、クロロホルムで抽出し、有機相を1M臭化ナトリウム水溶液で洗浄した(50ml×5回)。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥した後、クロロホルムを減圧留去した。最後に、得られた固体をトルエン:ヘキサン=2:1(v/v)混合溶媒150mlで再結晶した。析出した黄色粉末を濾別し、減圧乾燥し、黄色結晶0.644グラムを得た。
得られた黄色結晶の1H−NMRスペクトル測定結果からすべてのプロトンが帰属された。また、黄色結晶のMALDI−TOF−MSにより分子イオンピークが確認された。そして黄色結晶の元素分析の結果は、C8AzoC2N(mee)3 +Br-の組成と一致した。これにより、C8AzoC2N(mee)3 +Br-が合成されたと判断した。
次に、本第5実施例のC8AzoC2N(mee)3 +Br-(以下、本第5実施例では「アゾベンゼン化合物」と略す)のトランス体に紫外光を照射する前後の吸光スペクトルと、本第5実施例のアゾベンゼン化合物のシス体に可視光を照射する前後の吸光スペクトルを測定した結果を、図17、図18に基づいて説明する。吸光スペクトルは、光路長1cmのセルを用いて25μMメタノール溶液中25℃で測定した。
図17は、アゾベンゼン化合物のトランス体に365nmの紫外光を40秒間照射した場合の吸光度の変化を5秒毎に記録した結果を示している。図17の上段はアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射した場合の吸光スペクトルの変化を示し、図17の下段は357nmでの吸光度の変化を示している。
図17の上段に示すように、紫外光を照射する前の吸光スペクトルでは、アゾベンゼン化合物のトランス体に由来する357nm付近で吸光度の大きなピークが出現している。そして、紫外光を照射してから40秒経過後の吸光スペクトルでは、357nm付近の吸光度が減少し、アゾベンゼン化合物のシス体に由来する448nm付近の吸光度が増大している。この吸光スペクトルの変化から、本第5実施例のアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射することで、シス体に変化することが明らかである。
また、図17の下段に示すように、アゾベンゼン化合物のトランス体に由来する357nmの吸光度は、紫外光(365nm)の照射を開始してから20秒程度が経過するまで急激に低下し、その後は緩やかに低下している。
図18は、アゾベンゼン化合物のトランス体に480nmの可視光を120秒間照射した場合の吸光度の変化を、30秒経過までは5秒毎、30秒から60秒経過までは10秒毎、60秒経過後は20秒毎に記録した結果を示している。図18の上段はアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射した場合の吸光スペクトルの変化を示し、図18の下段は357nmでの吸光度の変化を示している。
図18の上段に示すように、可視光を照射する前の吸光スペクトルでは、アゾベンゼン化合物のシス体に由来する448nm付近で吸光度の大きなピークが出現している。そして、可視光を照射してから120秒経過後の吸光スペクトルでは、448nm付近の吸光度が減少し、アゾベンゼン化合物のトランス体に由来する357nm付近の吸光度が増大している。この吸光スペクトルの変化から、本第5実施例のアゾベンゼン化合物のシス体に可視光を照射することで、トランス体に変化することが明らかである。
また、図18の下段に示すように、アゾベンゼン化合物のトランス体に由来する357nmの吸光度は、可視光(480nm)の照射を開始してから60秒程度が経過するまで急激に増大し、その後は緩やかに増大している。
次に、本第5実施例のアゾベンゼン化合物をX線回折で測定した結果について説明する。本第5実施例のアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射する前後とシス体に可視光を照射した後にX線回折で測定した結果、上記第2実施例で説明した図6のX線回折パターンと同様の結果が得られた。
つまり、本第5実施例のアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射する前のX線回折パターンは図6(a)に示すX線回折パターンと同様であり、複数の明確なピークが観測され、アゾベンゼン化合物が結晶状態となっていることが示された。また、本第5実施例のアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射した後のX線回折パターンは図6(b)に示すX線回折パターンと同様であり、明確なピークが観測されず、結晶状態のアゾベンゼン化合物が液体状態となったことが示された。また、本第5実施例のアゾベンゼン化合物のシス体に可視光を照射した後のX線回折パターンは図6(c)と同様であり、複数の明確なピークが観測され、液体状態のアゾベンゼン化合物が結晶状態となったことが示された。
次に、本第5実施例のアゾベンゼン化合物を偏光顕微鏡(POM)のクロスニコル条件で観察した結果を図19〜図21に基づいて説明する。
図19は、本第5実施例のアゾベンゼン化合物を100℃で加熱してトランス体(液体)を生成し、一晩冷却したトランス体(固体)のPOM画像である。図19のPOM画像では、紫外光を照射する前のアゾベンゼン化合物のトランス体は、結晶状態となっていることが示されている。
図20は、図19に示すアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光(365±10nm)を10分間照射した後のPOM画像である。図20のPOM画像では、アゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射した後は中央部分に暗視野が観測され、結晶状態のアゾベンゼン化合物において紫外光が照射された部位が液体状態となったことが示されている。
図21は、図20に示すアゾベンゼン化合物のシス体に可視光(450〜490)を20分間照射した後のPOM画像である。図21のPOM画像では、図20で暗視野として観測された部位が、可視光を照射することによって再度結晶化したことが確認できる。
次に、本第5実施例のアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射する前後の吸光スペクトルと、本第5実施例のアゾベンゼン化合物のシス体に可視光を照射する前後の吸光スペクトルを顕微分光法で測定した結果を、図22、図23に基づいて説明する。
上述の図17、図18では、メタノール溶液中で測定したアゾベンゼン化合物の吸光スペクトルの変化を示したが、図22、図23は、アゾベンゼン化合物単体の吸光スペクトルの変化を示している。図22は、本第5実施例のアゾベンゼン化合物が図19に示すトランス体から図20に示すシス体に変化する場合の吸光スペクトルの変化を示しており、図23は、本第5実施例のアゾベンゼン化合物が図20に示すシス体から図21に示すトランス体に変化する場合の吸光スペクトルの変化を示している。
図22は、アゾベンゼン化合物のトランス体に365±10nmの紫外光を500秒間照射した場合の吸光度の変化を、300秒経過するまで30秒毎、300秒経過後は60秒毎に記録した結果を示している。図22の上段はアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射した場合の吸光スペクトルの変化を示し、図22の下段は450nmでの吸光度の変化を示している。
図22の上段に示すように、紫外光を照射してから500秒経過後の吸光スペクトルでは、アゾベンゼン化合物のシス体に由来する450nm付近の吸光度が増大している。この吸光スペクトルの変化から、本第5実施例のアゾベンゼン化合物のトランス体に紫外光を照射することで、シス体に変化することが明らかである。
また、図22の下段に示すように、アゾベンゼン化合物のシス体に由来する450nmの吸光度は、紫外光(365±10nm)の照射を開始してから200秒程度が経過するまで急激に増大し、その後は緩やかに増大している。
図23は、アゾベンゼン化合物のシス体に450〜490nmの可視光を60秒間照射した場合の吸光度の変化を、30秒経過するまで5秒毎、30秒経過後は10秒毎に記録した結果を示している。図23の上段はアゾベンゼン化合物のシス体に可視光を照射した場合の吸光スペクトルの変化を示し、図23の下段は450nmでの吸光度の変化を示している。
図23の上段に示すように、可視光を照射してから60分経過後の吸光スペクトルでは、アゾベンゼン化合物のシス体に由来する450nm付近の吸光度が減少している。この吸光スペクトルの変化から、本第5実施例のアゾベンゼン化合物のシス体に可視光を照射することで、トランス体に変化することが明らかである。
また、図23の下段に示すように、アゾベンゼン化合物のシス体に由来する450nmの吸光度は、可視光(450〜490nm)の照射を開始してから10秒程度が経過するまで急激に減少し、その後は緩やかに減少している。
次に、CnAzoCmN(mee)3 +Br-で示されるアゾベンゼン化合物において、「n」と「m」の組み合わせが異なるアゾベンゼン化合物を比較した結果について説明する。ここでは、(n,m)=(6,4)のC6AzoC4N(mee)3 +Br-(第1実施例)、(n,m)=(4,6)のC4AzoC6N(mee)3 +Br-(第4実施例)、(n,m)=(8,2)のC8AzoC2N(mee)3 +Br-(第5実施例)を比較した。
まず、CnAzoCmN(mee)3 +Br-の融解・凝固の際の潜熱は、(n,m)=(6,4)のC6AzoC4N(mee)3 +Br-(第1実施例)が最も大きかった。このため、ヒートポンプシステムの熱媒体としてC6AzoC4N(mee)3 +Br-を最も好適に用いることができると思われる。
次に、CnAzoCmN(mee)3 +Br-で示されるアゾベンゼン化合物の光異性化特性を図24〜図27に基づいて説明する。
図24に示すように、固体状態の各アゾベンゼン化合物に紫外光を照射する前の吸光スペクトルは、(n,m)=(6,4)のC6AzoC4N(mee)3 +Br-(第1実施例)、(n,m)=(4,6)のC4AzoC6N(mee)3 +Br-(第4実施例)、(n,m)=(8,2)のC8AzoC2N(mee)3 +Br-(第5実施例)でそれぞれ異なっている。具体的には、C6AzoC4N(mee)3 +Br-(第1実施例)の吸光スペクトルは、248nm付近および354nm付近にピーク出現し、C4AzoC6N(mee)3 +Br-(第4実施例)の吸光スペクトルは、251nm付近および324nm付近にピーク出現し、C8AzoC2N(mee)3 +Br-(第5実施例)の吸光スペクトルは、250nm付近および338nm付近にピーク出現している。
図25〜図27は、固体状態の各アゾベンゼン化合物に紫外光(365nm)を3時間照射する前後の吸光スペクトルを示している。図25〜図27に示すように、各アゾベンゼン化合物では、紫外光を照射した後の吸光スペクトルもそれぞれ異なっている。具体的には、図25に示すように、C6AzoC4N(mee)3 +Br-(第1実施例)に紫外光を照射した後の吸光スペクトルは、シス体に由来する449nm付近の吸光度が増大している。また、図26に示すように、C4AzoC6N(mee)3 +Br-(第4実施例)に紫外光を照射した後の吸光スペクトルは、シス体に由来する447nm付近の吸光度が増大している。また、図27に示すように、C8AzoC2N(mee)3 +Br-(第5実施例)に紫外光を照射した後の吸光スペクトルは、シス体に由来する451nm付近の吸光度が増大している。
以上のように、アゾベンゼン化合物CnAzoCmN(mee)3 +Br-は、「n」と「m」の組み合わせによって、紫外光を照射する前後の吸光スペクトルが異なっている。これは、各アゾベンゼン化合物の配向の違いを示している。
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各請求項に記載した範囲を逸脱しない限り、各請求項の記載文言に限定されず、当業者がそれらから容易に置き換えられる範囲にも及び、かつ、当業者が通常有する知識に基づく改良を適宜付加することができる。
例えば、上記実施形態では、本発明のアゾベンゼン化合物をヒートポンプシステムの熱媒体として用いた例について説明したが、アゾベンゼン化合物をヒートポンプシステムの熱媒体以外の用途に用いてもよい。
また、上記実施形態では、アゾベンゼン化合物を熱媒体として用いたヒートポンプシステムを室内暖房に用いた例について説明したが、これに限定されることなく、低温側と高温側とが存在する環境下において、低温側で吸熱して高温側で放熱する構成であれば、アゾベンゼン化合物を熱媒体として用いたヒートポンプシステムを他の用途にも用いることができる。
また、上記実施形態では、アゾベンゼン化合物をマイクロカプセルに封入して使用した例について説明したが、これに限らず、異なる態様でアゾベンゼン化合物を使用してもよい。