以下、エンジンのピストン構造の実施形態について、図面を参照しながら説明する。尚、以下の説明は例示である。
(エンジンの全体構成)
図1及び図2は、実施形態に係るピストン構造が適用されたエンジン1の構成を示している。このエンジン1の燃料は、本実施形態ではガソリンであるが、バイオエタノール等を含むガソリンであってもよい。ここに開示するエンジン1の燃料は、少なくともガソリンを含む液体燃料であれば、どのような燃料であってもよい。
エンジン1は、シリンダブロック12と、その上に載置されるシリンダヘッド13とを備えている。シリンダブロック12の内部に複数のシリンダ11が形成されている(図1及び図2では、1つのみ示す)。エンジン1は、多気筒エンジンである。各シリンダ11内には、コネクティングロッド14を介して図外のクランクシャフト(つまり、エンジン出力軸)に連結されたピストン3が、摺動自在に内挿されている。ピストン3は、シリンダ11及びシリンダヘッド13と共に燃焼室17を区画する。尚、「燃焼室」は、ピストン3が圧縮上死点に至ったときに形成される空間の意味に必ずしも限定されず、広義で用いる場合がある。
本実施形態では、燃焼室17の天井部170(シリンダヘッド13の下面)は、吸気ポート18の開口部が設けられた吸気側天井面171と、排気ポート19の開口部が設けられた排気側天井面172とを備えて構成されている。吸気側天井面171は、シリンダ11の中央に向かって登り勾配となっている。排気側天井面172も、シリンダ11の中央に向かって登り勾配となっている。吸気側天井面171及び排気側天井面172は、エンジン出力軸方向に延びる谷部において連結されている。燃焼室17は、ペントルーフ型の燃焼室である。尚、ペントルーフの谷部の位置は、シリンダ11のボア中心に一致する場合、及び、一致しない場合の両方があり得る。
ピストン3の冠面30は、吸気側天井面171及び排気側天井面172に対応するように、吸気側及び排気側のそれぞれにおいて、ピストン3の中央に向かって登り勾配となった傾斜面30a、30bによって、三角屋根状に隆起している。これにより、このエンジン1の幾何学的圧縮比は、15以上の高い圧縮比に設定されている。また、ピストン3の冠面30には、凹状のキャビティ34が形成されている。ピストン3の構成については、後で詳述する。
シリンダブロック12の下部には、ピストン3を冷却するためのオイルジェット装置120が取り付けられている。オイルジェット装置120は、オイルをピストン3の裏面側に向かって噴射する噴射ノズル121を有している。エンジン回転数が所定回転数以上になれば、オイルジェット装置120は、噴射ノズル121からピストン3に向かってオイルを噴射する。
図1には1つのみ示すが、シリンダ11毎に2つの吸気ポート18がシリンダヘッド13に形成されている。2つの吸気ポート18の開口部は、シリンダヘッド13の吸気側天井面171に、エンジン出力軸方向(つまり、図1の紙面に直交する方向)に並んで設けられている。2つの吸気ポート18の開口部は、シリンダ11のボア中心に対して対称に配設されている。吸気ポート18は、各開口部を通じて燃焼室17に連通している。吸気ポート18は、図外の吸気通路に接続されている。吸気通路には吸気流量を調節するスロットル弁が介設されている。
吸気ポート18と同様に、シリンダ11毎に2つの排気ポート19がシリンダヘッド13に形成されている。2つの排気ポート19の開口部は、シリンダヘッド13の排気側天井面172に、エンジン出力軸方向に並んで設けられている。2つの排気ポート19の開口部は、シリンダ11のボア中心に対して対称に配設されている。排気ポート19は、各開口部を通じて燃焼室17に連通している。排気ポート19は、図外の排気通路に接続されている。排気通路には、図示は省略するが、1つ以上の触媒コンバータを有する排気ガス浄化システムが配設されている。触媒コンバータは、三元触媒を含む。
シリンダヘッド13には、吸気弁21が配設されている。吸気弁21は、吸気ポート18を燃焼室17に対して開閉する。吸気弁21は吸気弁駆動機構によって、所定のタイミングで往復動する。吸気弁駆動機構は、この例では、吸気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更可能な、液圧式又は電動式の位相可変機構(Variable Valve Timing:VVT)を、少なくとも含んで構成されている。
シリンダヘッド13には、排気弁22が配設されている。排気弁22は、排気ポート19を燃焼室17に対して開閉する。排気弁22は排気弁駆動機構によって、所定のタイミングで往復動する。排気弁駆動機構は、この例では、液圧式又は電動式のVVTを、少なくとも含んで構成されている。
シリンダヘッド13には、燃焼室17内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁6が取り付けられている。燃料噴射弁6は、吸気側天井面171と排気側天井面172とが交差するペントルーフの谷部であってかつ、図2に示すように、シリンダ11のボア中心に対して、エンジン出力軸方向の一側に、ずれて配設されている。ここで、エンジン出力軸方向の一側は、図2における紙面左側であり、この実施形態では、エンジン1において反トランスミッション側の、いわゆるエンジン前側に相当する。燃料噴射弁6はまた、その噴射軸心が、シリンダ11の軸心に沿うように配設されている。燃料噴射弁6は、ピストン3のキャビティ34内に向かって、燃料を噴射する。
燃料噴射弁6は、図2に概念的に示すように、キャビティ34内、つまり燃焼室17内に、混合気層と、その周囲の断熱ガス層とを形成することが可能に構成されている。燃料噴射弁6は、例えば外開弁式の燃料噴射弁としてもよい。外開弁式の燃料噴射弁は、外開弁のリフト量を調整することにより、噴射する燃料噴霧の粒径を変更することが可能である。本願出願人が先に出願した特願2013−242597号に開示しているように、外開弁式の燃料噴射弁によって、圧縮上死点付近のタイミングで、複数回の噴射を含む所定態様の燃料噴射を行うと、キャビティ34の中央部に混合気層を、その外周囲に断熱ガス層が形成される。
また、外開弁式の燃料噴射弁に限らず、VOC(Valve Covered Orifice)ノズルタイプのインジェクタも、ノズル口に発生するキャビテーションの度合い調整することにより、噴口の有効断面積を変更して、噴射する燃料噴霧の粒径を変更することが可能である。従って、外開弁式の燃料噴射弁と同様に、キャビティ34内の中央部に混合気層を、その外周囲に断熱ガス層を形成することが可能である。
また、ヒータによって所定の温度まで加熱した燃料を、高圧雰囲気の燃焼室17内に噴射することにより、燃料を超臨界状態とすることによっても、キャビティ34内の中央部に混合気層を、その外周囲に断熱ガス層を形成することが可能である。この技術は、燃焼室17内に噴射した燃料を瞬時に気化させることによって燃料噴霧のペネトレーションが短くなり、キャビティ34内における燃料噴射弁の近傍に、混合気層を形成するものである。尚、燃料噴射弁は、例えば複数の噴口を有するマルチホールタイプの燃料噴射弁において、燃料を加熱するヒータを備えて構成される。また、この構成以外の燃料噴射弁であってもよい。
これらの燃料噴射弁の構成は、公知であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
シリンダヘッド13には、放電電極7が取り付けられている。放電電極7は、混合気にエネルギを与えて自着火を促す点火プラグ、又は、シリンダ11内に混合気の自着火を促進する活性種を生成する装置(例えばオゾン生成装置)である。図2に示すように、放電電極7は、ペントルーフの谷部において、シリンダ11のボア中心に対してエンジン出力軸方向の他側(つまり、エンジン後側)にずれて配設されている。燃料噴射弁6と放電電極7とは、シリンダ11のボア中心を挟んだ、互いに反対側に配置されている。放電電極7は、燃料噴射弁6に近づく方向に、シリンダ11の軸線に対し傾いて配設されている。これにより、燃料噴射弁6と放電電極7とは、シリンダ11のボア中心近傍に、互いに近接して配設される。尚、燃料噴射弁6と放電電極7との配置を互いに入れ替えて、燃料噴射弁6をシリンダ11のボア中心に対してエンジン出力軸方向の他側に配置しかつ、放電電極7をシリンダ11のボア中心に対してエンジン出力軸方向の一側に配置してもよい。
このエンジン1は、前述したように、幾何学的圧縮比εが15以上に設定されている。幾何学的圧縮比は、40以下とすればよく、特に20以上35以下が好ましい。圧縮比が高いほど膨張比も高くなるため、エンジン1は、高圧縮比と同時に、比較的高い膨張比を有するエンジンでもある。このエンジン1は、基本的には全運転領域でシリンダ11内に噴射した燃料を圧縮自着火により燃焼させる(以下、CAI(Controlled Auto Ignition)燃焼という)よう構成されている。高い幾何学的圧縮比は、CAI燃焼を安定化する。
ピストン3の構成の詳細は後述するが、このエンジン1は、幾何学的圧縮比を高くするために、ピストン3の冠面30における吸気側裾面30e及び排気側裾面30f(つまり、冠面30におけるフラット面)がそれぞれ、ピストン3が圧縮上死点付近にあるときに、シリンダヘッド13とシリンダブロック12との合わせ面よりも、シリンダヘッド13の側に入り込むように構成されている(図1を参照)。よって、このエンジン1では、燃焼室17は、実質的には、ピストン3の冠面30と、シリンダヘッド13の下面(天井部170)と、吸気弁21及び排気弁22それぞれのバルブヘッドの面と、によって区画形成される。図9に示すように、このエンジン1では、燃焼室17を区画する、これらの区画面に遮熱層173を設けている。遮熱層173は、これらの区画面の全てに設けてもよいし、これらの区画面の一部に設けてもよい。
遮熱層173は、燃焼室17を構成する金属製の母材よりも熱伝導率が低い。ここでいう母材は、例えばピストン3であればアルミニウム又はアルミニウム合金である。遮熱層173は、燃焼室17内の燃焼ガスの熱が、燃焼室17を区画する面を通じて放出されることを抑制する。また、遮熱層173は、母材よりも容積比熱が小さいことが好ましい。つまり、遮熱層173の熱容量を小さくして、燃焼室17の区画面の温度が、燃焼室17内のガス温度の変動に追従して変化するようにすることが好ましい。こうすることで、燃焼ガスの温度と区画面の温度との差が小さくなるから、熱が、区画面を通じて母材に伝わることが抑制される。
遮熱層173は、中空粒子(例えばガラスバルーン)と、バインダとしてのシリコン樹脂と、を含有する遮熱材料を、区画面上に塗布し、加熱処理によって樹脂を硬化させることにより、形成してもよい。遮熱層173はまた、区画面上に、ZrO2等のセラミック材料を、プラズマ溶射によってコーティングすることにより、形成してもよい。
このエンジン1は、燃焼室17の遮熱構造に加えて、前述したように、燃焼室17内にガス層による断熱層を形成することで、冷却損失を大幅に低減している。具体的には、圧縮行程以降において燃料噴射弁6からキャビティ34内に燃料を噴射させる。このことにより、図2に示すように、燃料噴射弁6の近傍の、キャビティ34内の中心部に混合気層を形成しかつ、その周囲に新気を含むガス層を形成するという、成層化が実現する。このガス層は、新気のみであってもよく、新気に加えて、既燃ガス(つまり、EGRガス)を含んでいてもよい。尚、ガス層に少量の燃料が混じっていても問題はない。ガス層は混合気層よりも燃料リーンであればよい。
燃焼室17内にガス層と混合気層とが形成された状態で、混合気が圧縮着火燃焼すれば、混合気層と燃焼室17の区画壁との間のガス層により、火炎がシリンダ11の壁面に接触することが抑制される。また、ガス層が断熱層となるため、燃焼室17の区画壁からの放熱が抑制される。この結果、冷却損失を大幅に低減することができる。
尚、冷却損失を低減させるだけでは、その冷却損失の低減分が排気損失に転換されて熱効率の向上にはあまり寄与しないところ、このエンジン1では、高膨張比化によって、冷却損失の低減分に相当する燃焼ガスのエネルギを、機械仕事に変換している。すなわち、エンジン1は、冷却損失及び排気損失を共に低減させる構成を採用することによって、熱効率を大幅に向上させているということができる。
このような混合気層とガス層とを燃焼室17内に形成するために、燃料を噴射するタイミングにおいては、燃焼室17内のガス流動は弱いことが望ましい。そのため、吸気ポートは、燃焼室17内でスワールが生じない、又は、生じ難いようなストレート形状を有していると共に、タンブル流もできるだけ弱くなるように、構成されている。
(ピストンの詳細構造)
次に、ピストン3の構成について、図を参照しながらさらに詳細に説明をする。ピストン3は、冠面30を有する略円柱状のクラウン部31と、一対のスカート部32と、一対のボス部33とを有している。
クラウン部31は、図6及び図9に拡大して示すように、その外周側面に、上側から順に2つのシールリング溝31a、31bと、1つのオイルリング溝31cと、が形成されている。各シールリング溝31a、31bには燃焼室17の気密性を高めるためのシールリングが嵌め込まれ、オイルリング溝31cには、シリンダライナー111の内周面に付着したオイルを掻き落とすためのオイルリングが嵌め込まれる。以下においては、シールリング及びオイルリングを総称して、ピストンリング38という。
図1に示すように、各スカート部32は、クラウン部31の裏面側から下方に延びるように形成されている。各スカート部32は、吸排気方向に向かい合うように配設されている。各スカート部32の外側面は、略円弧状に形成されていて、ピストン3の往復運動時は、シリンダライナー111の内周面を摺動する。
ボス部33は、一対のスカート部32の側端部同士を連結するサイドウォール部35に設けられる。一対のボス部33は、クラウン部31の裏面側で、エンジン出力軸方向に向かい合って配置される。ボス部33には、ピストンピン36が挿入される。
クラウン部31の外周側面にはまた、図5に示すように、クラウン部31の内外を連通させる貫通孔37が、複数、形成されている。各貫通孔37は、一対のスカート部32と一対のサイドウォール部35とによって囲まれた領域内に連通している。この領域は、オイルジェット装置120からオイルが噴射される領域である。各貫通孔37は、ピストン3の内側から外側にオイルを流して、シリンダライナー111にオイルを供給する、または、ピストン3の外側から内側にオイルを流して、シリンダライナー111上の余分なオイルを除去する。
図3は、ピストン3の冠面30の形状を示す斜視図である。図3における紙面右手前が吸気側、紙面左奥が排気側であり、紙面左手前がエンジン出力軸方向の一側、紙面右奥がエンジン出力軸方向の他側である。
前述したように、ピストン3の冠面30は、吸気側傾斜面30aと排気側傾斜面30bとがそれぞれ、ピストン3の中央に向かって登り勾配となって構成されている。吸気側傾斜面30aと排気側傾斜面30bとは、稜部30cによって滑らかに連結される。稜部30cは、エンジン出力軸方向に延びている。ピストン3の冠面30は、エンジン出力軸方向における一方の側から、エンジン出力軸に沿う方向にピストン3を見たときに、両側それぞれから中央部に向かって次第に隆起した三角屋根状を成している。
吸気側傾斜面30aには、バルブリセスが形成されている。排気側傾斜面30bにも、バルブリセスが形成されている。
ピストン3の冠面30は、テーパ面30dをさらに有する。テーパ面30dは、ピストン3の全周に亘って、クラウン部31の外周側面(つまり、最上位のシールリング溝31aの上側である、いわゆるトップランド)の上側に設けられる。テーパ面30dはまた、エンジン出力軸方向の一側と他側との2箇所においては、稜部30cに向かうにつれてキャビティ34に近づくように傾斜しながらトップランドと稜部30cとを繋ぐ。図2及び図9に示すように、これら2箇所のテーパ面30dは、シリンダヘッド13の天井部170の湾曲形状に対応して設けられている。これは、エンジン1の幾何学的圧縮比を高くする上で有利な構成である。
ピストン3の吸気側傾斜面30aの、稜部30cと反対側の端部には、該吸気側傾斜面30aから谷折り状に屈曲して拡がる吸気側裾面30eが設けられている。吸気側裾面30eは、シリンダ11の軸心に直交する面である。吸気側裾面30eは、いわゆるフラット面である。吸気側裾面30eとピストン3の外側周面(つまり、トップランド)との間は、前述したテーパ面30dが介在している。
一方、ピストン3の排気側傾斜面30bの、稜部30cと反対側の端部には、該排気側傾斜面30bから谷折り状に屈曲して拡がる排気側裾面30fが設けられている。排気側裾面30fは、シリンダ11の軸心に直交する面である。排気側裾面30fは、いわゆるフラット面である。図1に示すように、排気側裾面30fは、吸気側裾面30eよりも、シリンダ11の軸心の方向において稜部30c側に配置されている。すなわち、排気側裾面30fは、吸気側裾面30eよりも隆起している。排気側裾面30fとピストン3の外側周面(つまり、トップランド)との間は、前述したテーパ面30dが介在している。
ピストン3の冠面30における吸気側裾面30eに向かい合うシリンダヘッド13の天井面は、シリンダヘッド13とシリンダブロック12との合わせ面(より正確には、シリンダヘッド13とガスケット122との境界面)よりも没入した位置に設けられている。同様に、排気側裾面30fに向かい合うシリンダヘッド13の天井面は、シリンダヘッド13の合わせ面よりも没入した位置に設けられている。ピストン3が圧縮上死点付近に位置したとき(より正確には、ピストン3が圧縮上死点の前後30°CAにあるとき)には、図1に示すように、吸気側裾面30e及び排気側裾面30fはそれぞれ、シリンダヘッド13の合わせ面よりも、シリンダヘッド13の側に位置する。このように、ピストン3の冠面30をシリンダヘッド13の側に食い込ませることによって、幾何学的圧縮比を、大幅に高くすることが可能になる。
前述したように、ピストン3の冠面30にはキャビティ34が凹陥している。キャビティ34は、図2に示すように、開口縁34aから凹陥するに従い、その大きさが次第に縮小するように設けられている。キャビティ34は、ピストン3の冠面30に連続する側壁と、側壁に連続する底壁とから構成されている。ピストン3の中心を通る縦断面において、キャビティ34は、バスタブのような形状を有している。
キャビティ34は、図4に示すように、平面視で見たときに、略楕円形状の開口縁34aを有する。この楕円は、広義の楕円であり、オーバル形状や長円形状も含む。キャビティ34はまた、図2に示すように、その中心位置(より正確には、キャビティ34の最大幅に相当する箇所において吸気側の端縁と排気側との端縁との中点でかつ、エンジン出力軸方向の一側の端縁と他側の端点との中点である中心位置)が、燃料噴射弁6の噴射軸心に一致するように設けられている。これにより、キャビティ34内の中心部に混合気層を形成する上で有利になる。燃料噴射弁6の噴射軸心は、エンジン出力軸方向の一側にずれているため、キャビティ34もまた、ピストン3の冠面30において、ピストン3の中心(言い換えるとシリンダ11のボア中心)に対し、エンジン出力軸方向の一側にずれて位置することになる。
キャビティ34は、稜部30cを横切って吸気側傾斜面30a及び排気側傾斜面30bに亘って形成されている。これにより、稜部30cは、キャビティ34を挟んで2つに分割される。吸気側傾斜面30a及び排気側傾斜面30bは傾斜しているので、吸気側傾斜面30a及び排気側傾斜面30bの一部はそれぞれ、キャビティ34によって抉られる。吸気側傾斜面30a及び排気側傾斜面30bにおけるキャビティ34の開口縁34aは、両側の稜部30cから次第に下方に窪むように湾曲した形状となる。キャビティ34がシリンダ11のボア中心からずれて設けられることに伴い、吸気側傾斜面30a及び排気側傾斜面30bにおけるキャビティ34の開口縁34aもまた、図2及び図4に示すように、ボア中心に対称となるのではなく、エンジン出力軸方向の一側にずれることになる。それに加え、エンジン出力軸方向の一側の稜部30cが相対的に短くかつ、エンジン出力軸方向の他側の稜部30cが相対的に長くなる。
前述したように、このエンジン1は、燃焼室17内のガス流動が弱くなるように構成されているが、燃焼室17内で、弱いタンブル流は発生し得る。三角屋根状に隆起したピストン3の冠面30に、キャビティ34を、エンジン出力軸方向の一側にずれて配設することに伴い、タンブル流が、シリンダ11のボア中心からずれたキャビティ34の方向に流れやすくなり、図4に白抜きの矢印で示すように、タンブル流は、燃焼室17内において、排気側でかつエンジン出力軸方向の他側から、吸気側でかつエンジン出力軸方向の一側に向かう方向に、偏向するようになる。
タンブル流の両側の領域、具体的には、図4に二点鎖線で囲んだ、排気側でかつエンジン出力軸方向の一側の領域101と、吸気側でかつエンジン出力軸方向の他側の領域102とは、ガスの流動が弱くなる。燃料噴射弁6からキャビティ34内に向かって燃料を噴射したときに、燃料噴霧は、ガスの流動が弱い領域に集まり易い。そのため、キャビティ34内における、これら2箇所の領域101、102は、混合気が、相対的に過濃になり易い。このため、前述したように、このエンジン1では、混合気層の周囲に断熱ガス層を形成するようにしているものの、混合気が過濃となった領域101、102では、燃焼が相対的に激しくなる結果、火炎が断熱ガス層を破って、キャビティ34の壁面に触れやすくなる。こうして、これら2箇所の領域101、102では、燃焼時の熱がキャビティ34から、ピストン3の母材へと伝わりやすくなる。
図5は、図4に示すピストン3を裏面側から見た図である。図5では、キャビティ34の開口縁34aを破線で示している。また、前述した2つの領域101、102を、二点鎖線で示している。前述の通り、キャビティ34の壁面からピストン3の母材へと伝わった熱は、熱容量の大きい方へと伝わり易い。単一材料であれば、熱容量は体積の大きい領域が大きくなる。このピストン3では、ボス部33の付近の熱容量が相対的に大きい。キャビティ34の壁面からピストン3の母材へと伝わった熱は、図4及び図5に矢印で示すように、排気側でかつエンジン出力軸方向の一側の領域101から、エンジン出力軸方向の一側へと伝わり易く、吸気側でかつエンジン出力軸方向の他側の領域102から、エンジン出力軸方向の他側へと伝わり易い。そうして、ピストンリング38及びシリンダライナー111を通じて、シリンダブロック12に放熱されるようになる。
エンジン出力軸方向の一側は、上向きのタンブル流となるため、ピストン3が上昇する際に、強い上昇流が発生する(図4を参照)。このため、排気側でかつエンジン出力軸方向の一側の領域101と、吸気側でかつエンジン出力軸方向の他側の領域102とを比較したときに、排気側でかつエンジン出力軸方向の一側の領域101の方が、熱伝達率が高くなる。よって、排気側でかつエンジン出力軸方向の一側の領域101から、エンジン出力軸方向の一側へと伝わる熱量の方が相対的に多くなる。
このような熱の伝わりは、冷却損失を増大させて、エンジン1の熱効率を低下させる。そのため、ピストン3の冠面30からピストンリング38付近に熱が伝わることを抑制したい。
また、圧縮行程から排気行程にかけての期間において、ピストン3の冠面30からピストンリング38の方に熱が逃げると、圧縮上死点付近における燃焼室17内の温度状態が低くなってしまう。CAI燃焼を行うエンジン1が低温状態のときに、着火ミスが生じる虞がある。
さらに、エンジン1が熱間状態にあるとき(例えば、高速の全負荷運転状態や、高速で加減速を繰り返す運転状態等)には、ピストン3の冠面30からピストンリング38の方に伝わる熱量が増えて、ピストンリング38付近の温度が大幅に高くなる虞がある。信頼性を向上させる点からも、ピストン3の冠面30からピストンリング38の方への熱の伝わりを抑制したい。
そこで、このエンジン1のピストン3には、ピストン3の冠面30からピストンリング38の方へ熱が伝わることを抑制する中空部39を設けている。具体的に、中空部39は、図5、及び、図6〜8に示すように、クラウン部31において、各サイドウォール部35の径方向の外側の領域に形成されている。これにより、中空部39は、ピストンリング38の径方向の内方に位置している。
中空部39は、ここに示す例では、ピストン3の裏面側に開口すると共に、ピストン3の冠面側に向かって広がる溝状である。中空部39の上端部は、図1において破線で示すように、トップランドよりも高い位置に位置している(図9も参照)。従って、ピストン3が圧縮上死点付近にあるときには、中空部39の上端部は、シリンダヘッド13内に位置することになる。また、図2に示すように、中空部39は、上側に向かうにしたがって径方向内側に傾斜している。
中空部39内には、ボス部33から径方向の外方に延びる2つのリブ394、395が形成されている。これにより、中空部39は、吸気側の空間391と、排気側の空間392と、それらの間の中央の空間393との3つの空間に区画されている。これらの3つの空間391〜393の内、中央の空間393が、最も上方の位置まで延びている。
図9に示すように、ピストン3に設けた中空部39は、ピストン3の母材において、キャビティ34とピストンリング38付近との間に介在する。この中空部39によって、前述した領域101、102付近からピストン3の母材に入った熱が、ピストンリング38の方へと伝わることが抑制される。
ここで、図10は、比較例として、中空部39を設けていないピストン3を示している。図10に矢印で示すように、キャビティ34からピストン3の母材に入った熱は、先ず、熱容量の大きいボス部33の付近へと進入し、その後、ピストン3の母材内で、径方向の外方へと放射状に熱が伝わる。そうして、ピストンリング38及びシリンダライナー111を通じて、シリンダブロック12に放熱される。
これに対し、ピストン3に中空部39を設けることによって、図9に示すように、ピストン3の母材に入った熱は、キャビティ34に沿って稜部30c側の上方に向かい、中空部39を迂回するように伝わる。このときに、吸気側斜面30a及び排気側斜面30bを通じて吸気側裾面30e及び排気側裾面30f、並びに、ピストン30の外周面に伝わる熱量が減少し、これらの部位の温度は下がる。結果として、図4に矢印で示す熱の流れが形成されるが、この流れにおいて、図9に示すように、熱の伝達経路が蛇行することにより、ピストンリング38付近に伝わる熱量が減少する。
ここで、図11に示すように、中空部39の高さHは、十分に高く形成することが好ましい。図11に一点鎖線で示すように、中空部39の高さHが低いときには、熱の伝達経路を大きく蛇行させることができない。そのため、ピストンリング38の付近に伝わる熱量が増えてしまう。また、中空部39の高さHが低いと、熱の伝達経路が、シリンダブロック12及びシリンダライナー111に近づくようになる。シリンダブロック12及びシリンダライナー111には、遮熱層173を設けていない。シリンダブロック12及びシリンダライナー111は、相対的に放熱し易い。そのため、ピストン3の母材内の熱の伝達経路は、シリンダブロック12及びシリンダライナー111からできるだけ離すことが望ましい。
よって、中空部39の高さHは、十分に高く形成することが好ましい。ここに示す例では、前述したように、中空部39の高さHを、中空部39の上端部が、トップランドよりも高い位置に位置するようにしている。これにより、中空部39の上端部は、ピストン3が圧縮上死点付近に位置しているときに(前述したように、ピストン3が圧縮上死点前後30°CAにあるときに)、シリンダヘッド13とシリンダブロック12との合わせ面(前述したように、シリンダヘッド13とガスケット122との境界面)よりも上側になる。こうすることで、ピストン3の母材内の熱の伝達経路が、大きく蛇行するようになる。ピストンリング38付近に伝わる熱量が減少する。また、熱の伝達経路が、シリンダブロック12及びシリンダライナー111から離れるようになる。シリンダブロック12及びシリンダライナー111からの放熱が抑制される。さらに、ピストン3の母材内での熱の伝達経路が、ピストン3の冠面30に近い位置、特にキャビティ34の壁面に近い位置になる。これにより、キャビティ34の壁面の温度が高まる。キャビティ34の壁面の温度が高まると、燃焼時に、燃焼室17内のガスの温度とキャビティ34の壁面との温度差が小さくなる。これにより、キャビティ34の壁面を通じて、ピストン3の母材に熱が伝わることが抑制される。
図11に示すように、中空部39を区画する面の内、径方向の外側の壁面の、鉛直方向に対する角度θは、大きい方が好ましい。角度θが小さいと、図11に白抜きの矢印で示すピストン3のクラウン部31の外周側面(例えばトップランド)と、中空部39との距離が短くなる。これにより、熱の伝達経路が、クラウン部31の外周側面の近くになるため、特にトップランド付近の温度が高まり易い。これに対し、角度θを大きくすると、熱の伝達経路がクラウン部31の外周側面から離れるようになる。トップランド付近の温度の低下が図られ、シリンダブロック12への放熱が抑制される。角度θは、例えば14°以上とすることが好ましい。
ピストン3はまた、ピストン3の径方向に対する中空部39の幅Wを十分に大きくすることができるよう、向かい合うボス部33とボス部33との距離を短くしている(図5も参照)。これにより、中空部39の内側の壁部を径方向の内方に位置させることができるため、中空部39の径方向の幅Wが大きくなる。
向かい合うボス部33とボス部33との距離を短くすることに伴い、図5に示すように、スカート部32とボス部33とをつなぐサイドウォール部35の角度α、βは、それぞれ90°以上となる。ここで、ボス部33を挟んだ吸気側のサイドウォール部35の角度αと、排気側のサイドウォール部35の角度βとを比較したときに、排気側のサイドウォール部35の角度βの方が、吸気側のサイドウォール部35の角度αよりも大きい。これにより、排気側の空間392の幅Wは、吸気側の空間391の幅Wよりも大きい。前述したように、2箇所の領域101、102を比較したときに、排気側でかつエンジン出力軸方向の一側の領域101の方が、強い上昇流が発生するため、熱伝達率が高くなる。よって、排気側でかつエンジン出力軸方向の一側の領域101から、エンジン出力軸方向の一側へと伝わる熱量の方が相対的に多くなり得るが、排気側の空間392の幅Wを大きくすることによって、排気側でかつエンジン出力軸方向の一側の領域101から、エンジン出力軸方向の一側へと伝わる熱量を有効に抑制することが可能になる。
尚、向かい合うボス部33とボス部33との距離を短くすることによって、ピストンピン36の長さは短くなる。ピストンピン36の面圧を下げるために、ピストンピン36の径は、長さを短くする分、大きくしている。
中空部39の裏面側の開口は、蓋部310によって塞がれている。蓋部310は、ピストン3の母材とは別体の部材である。蓋部310は、吸気側の空間391、排気側の空間392、及び、中央の空間393のそれぞれに対して、個別に取り付けられている。ピストン3の母材と別体である蓋部310は、ピストン3を鋳造によって製造するときに、予め用意した蓋部310を鋳型に入れた状態で鋳込むことにより、ピストン3の母材と一体的に設けることが可能になる。尚、成形したピストン3の開口に、別体の蓋部310を、後から取り付けるようにしてもよい。
前述したように、エンジン1が熱間状態にあるときには、オイルジェット装置120から、ピストン3の裏面側に、より詳細には、一対のサイドウォール部35と、一対のスカート部32とによって囲まれた領域内の、排気側に向けてオイルが噴射される。これにより、キャビティ34が裏面側から冷却されて、ピストン3の信頼性が向上する。ここで、中空部39の裏面側を蓋部310によって塞ぐことで、オイルミストが中空部39内に進入することが防止される。中空部39は、内部に進入したオイルミストの吸熱によって、ピストンリング38付近を冷却するのではなく、前述したように、ピストン3の母材内でピストンリング38の方に熱が伝達することを抑制する機能を有する。従って、中空部39の内部にオイルミストが進入することは防止することが好ましい。また、中空部39の内部にオイルミストが進入することを防止することによって、中空部39内のガスを介して熱が伝わることが抑制される。その結果、前述したように、ピストン3の母材内で、熱の伝達経路を蛇行させる機能を有効に発揮することが可能になる。
図2に示すように、クラウン部31には、キャビティ34とボス部33との間に、ピストン3の母材よりも熱伝導性の低い部材311が配置されている(尚、図9等では図示を省略している)。当該部材311によって、ボス部33においてピストンピン36が接触する摺動面を形成してもよい。部材311によって、キャビティ34からピストン3の母材に入った熱が、ピストンピン36の方に伝わることが抑制される。また、キャビティ34の裏面側の部分の熱容量が低くなり、キャビティ34からピストン3の母材に熱が伝わることを抑制することが可能になる。この部材311は、多孔質材によって構成してもよい。こうすることで、ボス部33の摺動面に、オイルを保持する空孔が形成されるようになり、潤滑性が向上する。前述したように、ピストンピン36の長さが比較的短いことによって、ピストンピン36の面圧が高くなって潤滑性に不利になるところ、ピストンピン36の径の拡大によって面圧を下げると共に、多孔質材からなる部材311により、ピストンピン36の潤滑状態を良好にすることが可能になる。こうした部材311は、ピストン3を鋳造によって製造するときに、予め用意した部材311を鋳型に入れた状態で鋳込むことにより、ピストン3の母材と一体的に設けることが可能になる。
シリンダライナー111の一部、具体的には、図4に仮想的に示すように、シリンダライナー111を周方向に4等分したときの、エンジン出力軸方向の一側に位置するシリンダライナー111aは、多孔質材によって構成されている。エンジン出力軸方向の一側は、キャビティ34がシリンダ11のボア中心に対してずれている方向であり、前述したように、排気側でかつエンジン出力軸方向の一側の領域101から、エンジン出力軸方向の一側へと伝わる熱量の方が相対的に多くなる。そのため、エンジン出力軸方向の一側のシリンダライナー111aを多孔質材によって構成することにより、シリンダライナー111aからの放熱を抑制することが可能になる。これは、冷却損失の低減に効果的である。また、シリンダライナー111aを多孔質材によって構成することにより、シリンダライナー111aの内周面側の小孔にオイルが保持されるようになり、シリンダ11の内周面の潤滑状態が良好になる、さらに、シリンダライナー111aの外周面側にも小孔が現れるため、シリンダライナー111aを鋳込むときに、シリンダブロック12の母材が噛み込んで、シリンダライナー111aを強固にシリンダブロック12に固定することが可能になる、という利点もある。
尚、シリンダライナー111の内、エンジン出力軸方向の他側のシリンダライナー111bも、一側のシリンダライナー111aと同様に、多孔質材によって構成してもよい。また、シリンダライナー111を、エンジン出力軸方向の一側と他側とに二等分したときの一側のシリンダライナー111を、多孔質材によって構成してもよい。さらに、シリンダライナー111の全部を多孔質材によって構成してもよい。
(まとめ)
以上説明したように、ここに開示するピストン3の構造は、冠面30が、ペントルーフ型の燃焼室17を構成する吸気側天井面171及び排気側天井面172のそれぞれに対応するように、吸気側及び排気側のそれぞれにおいて傾斜した傾斜面30a、30bによって隆起していると共に、傾斜面30a、30bの一部を抉るように冠面30から凹陥するキャビティ34を有する。
そして、ピストン3は、クラウン部31におけるピストンリング38の径方向の内方に設けられかつ、キャビティ34からピストンリング38の側にピストン3の母材を介して熱が伝達することを抑制するよう構成された中空部39を備え、中空部39の裏面側が、塞がれている。
中空部39は、ピストン3の母材よりも熱の伝達が悪い。中空部39をキャビティ34とピストンリング38との間に介在させることによって、ピストン3の母材における熱の伝達経路は、中空部39を迂回するように蛇行する。よって、キャビティ34からピストンリング38の側へと向かう熱の流れが抑制される。
中空部39の裏面側が塞がれていることにより、中空部39内にオイルミストが流入することが防止される。中空部39内にオイルミストが流入することを防止することによって、中空部39内のガスを介して熱が伝わることが抑制されるから、キャビティ34からピストンリング38の方に、ピストン3の母材を介して熱が伝達することを、より一層効果的に抑制することが可能になる。
キャビティ34は、冠面30を平面視で見たときに、エンジン出力軸方向に長い楕円形状を有しており、中空部39は、一対のボス部33のそれぞれに対し、エンジン出力軸方向の外側に設けられている。
こうすることで、キャビティ34からピストンリング38の方に、ピストン3の母材を介して熱が伝達することが、効果的に抑制される。
燃料噴射弁6は、シリンダ11のボア中心に対して、エンジン出力軸方向の一側にずれた位置でかつ、噴射軸心がシリンダ11の軸心に沿う方向となるように配設され、楕円形状のキャビティ23は、その中心位置が、燃料噴射弁6の噴射軸心に対応するように、エンジン出力軸方向の一側にずれた位置に設けられている。
キャビティ34の中心位置がシリンダ11のボア中心に対してずれると、燃焼室17内に発生するタンブル流の方向が偏向するため、排気側でかつエンジン出力軸方向の一側の領域101と、吸気側でかつエンジン出力軸方向の他側の領域102との混合気が過濃になりやすい。これら2つの領域101、102それぞれから、エンジン出力軸方向の一側のピストンリング38の方とエンジン出力軸方向の他側のピストンリング38の方とのそれぞれに、熱が伝達し易くなる。これに対し、前記の構成では、中空部39を、エンジン出力軸方向に向かう合う一対のボス部33それぞれの外側に設けることによって、排気側でかつエンジン出力軸方向の一側の領域101からエンジン出力軸方向の一側のピストンリング38の方へ熱が伝達することが有効に抑制されると共に、吸気側でかつエンジン出力軸方向の他側の領域102からエンジン出力軸方向の他側のピストンリング38の方へ熱が伝達することも有効に抑制される。
ピストン3は、エンジン出力軸方向に直交する吸排気方向に向かい合うように設けられた一対のスカート部32、32をさらに備え、クラウン部31の裏面における、一対のスカート部32、32と、一対のボス部33、33とによって囲まれる領域内には、オイルジェット装置120からのオイルが噴射されるように構成されている。
オイルジェット装置120から噴射したオイルによって、キャビティ34は、裏面側から冷却される。特にエンジン1が熱間状態にあるときに、ピストン3が高温になり過ぎることが防止され、信頼性が向上する。
一方、中空部39の裏面側は塞がれているため、オイルジェット装置120からオイルを噴射しても、中空部39にオイルが進入することが防止される。中空部39は、キャビティ34からピストンリング38の方への熱の伝達を抑制する機能を、確実に発揮することが可能になる。
クラウン部31の外周側面において、中空部39の形成位置を除く部位には、ピストン3の径方向にオイルが流れる貫通孔37が形成されている。
中空部39の形成位置には貫通孔37を形成しないことによって、中空部39内にオイルが流入することが防止される。
冠面30には遮熱層173が形成されている。こうすることで、ピストン3の冠面30からピストン3の母材に熱が伝わることを抑制することが可能になる。
エンジン1は、キャビティ34によって区画される燃焼室17内において、混合気層と、その周囲の断熱ガス層とを形成すると共に、混合気を自着火させるように構成されている。
こうすることで、混合気の燃焼時には、断熱ガス層によって、火炎が燃焼室17の壁面に触れることをできるだけ抑制することが可能になる。その結果、キャビティ34の壁面からピストン3の母材に熱が伝わることを抑制することが可能になる。また、シリンダブロック12への放熱が抑制されるため、圧縮上死点付近での燃焼室17の温度状態を高めにして、エンジン1が低温状態にあるときに着火ミスが発生することが防止される。
キャビティ34とボス部33との間には、ピストン3の母材よりも熱伝導性の低い部材311が配置されている。
こうすることで、キャビティ34からピストン3の母材に伝わった熱が、ピストンピン36の方に伝わることが抑制される。また、キャビティ34とボス部33との間の部分の熱容量が小さくなる結果、キャビティ34からピストン3の母材に伝達される熱量を少なくすることが可能になる。
シリンダライナー111の少なくとも一部は、多孔質状に構成されている。これにより、ピストンリング38からシリンダライナー111への熱の伝達が抑制される。これにより、冷却損失の低減が図られる。
尚、図6〜図8に示す構成では、中空部39の裏面側を塞ぐ蓋部を、ピストン3の母材とは別体の部材としているが、図12〜14に示すように、蓋部を別に設けるのではなく、ピストン3の母材と一体にして、中空部39の裏面側を塞ぐようにしてもよい。
参考例として、ピストン3のキャビティ34とボス部33との間に、ピストン3の母材よりも熱伝導性の低い部材311を配置する構成は、ピストン3の中空部39の裏面側を塞ぐ構成と組み合わせなくても、単独で採用することが可能である。また、シリンダライナー111の一部を多孔質材とする構成も、ピストン3の中空部39の裏面側を塞ぐ構成と組み合わせなくても、単独で採用することが可能である。さらに、ピストン3のキャビティ34とボス部33との間に、ピストン3の母材よりも熱伝導性の低い部材311を配置する構成と、シリンダライナー111の一部を多孔質材とする構成とを組み合わせることも可能である。
また、ここに開示するピストン3の構造は、前述したエンジン1に適用することに限定されない。