本願出願人は、特許文献1に記載した技術とは別の、冷却損失を低減する技術として、圧縮行程の後半に燃焼室内に燃料を噴射すると共に、そのときの燃料の噴射形態を工夫することによって、燃焼室内の中心部に混合気層を設けると共に、その混合気層の周囲に断熱ガス層を形成し、その状態で、混合気を燃焼させることを提案している(例えば、特願2013−242597号)。尚、ここでいう混合気層は、可燃混合気によって構成及び形成される層であり、可燃混合気は、例えば当量比φ=0.1以上の混合気としてもよい。燃焼室内に混合気層と、それを囲む断熱ガス層とを形成することによって、断熱ガス層が燃焼ガスと壁面との接触を抑制するから、特許文献1に記載している技術と同様に、冷却損失を大幅に低減することが可能になる。
この先行出願において提案している技術も、特許文献1に記載している技術と同様に、エンジンの幾何学的圧縮比を15以上に設定している。ここで、幾何学的圧縮比を高くするために、ピストンの頂面に設けるキャビティは、できるだけ小さい容積とすることが有利である。
一方で、先行出願において提案している技術では、燃料噴射弁が噴射した燃料噴霧が、燃焼室の壁面、つまり、キャビティの壁面に接触することを防止しなければならない。そうすると、噴射先端から所定の噴霧角で均等に燃料が噴射されるという前提において、燃料噴射弁の弁軸心をシリンダの軸心に沿うように配設すると共に、キャビティを、その燃料噴射弁の噴射先端に対して向かい合うように、燃料噴射弁の噴射軸心に対して対称な形状にすることが、キャビティをできるだけ小容量にしつつ、燃料噴霧とキャビティの壁面との接触を防止する上で有効である。
ここで、前記特許文献2や特許文献3には記載されていないが、シリンダヘッドの天井部に、燃料噴射弁と、点火プラグ又は活性種生成装置のような放電電極とを隣り合って配設しようとしたときには、シリンダヘッドの天井面から凹陥する凹部内に、放電電極の先端部を収容することが望ましい。こうすることで、燃料噴射弁から、所定の噴霧角で、例えばコーン状に噴射される燃料が、放電電極の先端部に直接的に付着してしまうことが回避され、放電電極の信頼性が確保される。
ところが、本願発明者等の検討によると、燃料噴射弁の噴射先端に隣接して、天井面から凹陥する凹部を設けた場合、その噴射先端から所定の噴霧角で噴射される燃料噴霧において、凹部が形成された箇所では、燃料噴霧の飛翔距離が長くなって、キャビティの壁面に燃料噴霧が接触し易くなることが判明した。
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、キャビティによって構成される燃焼室内に混合気層と断熱ガス層とを形成するよう構成された直噴エンジンにおいて、所定の噴霧角で噴射した燃料噴霧につき、特定方向に、燃料噴霧の飛翔距離が長くなって、キャビティの壁面に燃料噴霧が接触してしまうことを抑制することにある。
先ず、図7を参照しながら、燃料噴射弁から所定の噴霧角で噴射された燃料噴霧につき、特定方向に、燃料噴霧の飛翔距離が長くなるメカニズムについて、さらに詳細に説明をする。図7は、燃焼室17を区画するシリンダヘッド13の天井部を示している。天井部には、シリンダのボア中心付近に、例えば外開弁式の燃料噴射弁6と、放電電極7とが並んで配置されている。燃料噴射弁6は外開弁式に限らず、所定の噴霧角で燃料を噴射する燃料噴射弁であればよい。放電電極7は、図例では、その先端部に中心電極と接地電極とを有し、中心電極と接地電極との間で放電を行うことにより、混合気に点火する点火プラグである。但し、放電電極7は、点火プラグに限らない。放電電極7は、図示は省略するが、その先端部に、シリンダヘッド13やシリンダブロックから電気的に絶縁された状態で燃焼室17内に突出する電極を有し、制御されたパルス状の高電圧をその電極に印加することによって、燃焼室17内で極短パルス放電(ストリーマ放電)を生じさせる放電プラグとしてもよい。点火プラグに代えて、放電プラグをエンジンに取り付けることによって、燃焼室17内にオゾンを生成することが可能になる。
燃料噴射弁6と放電電極7との並び方向は特に制限されず、エンジン出力軸方向であっても、エンジン出力軸方向とは異なる方向(エンジン出力軸に直交する吸排気方向を含む)であってもよい。図例は、エンジン出力軸方向に燃料噴射弁6と放電電極7とが並んでいるものとする。つまり、図7は、燃料噴射弁6の噴射先端と放電電極7の先端部とを通る平面で切った、燃焼室17の縦断面であるが、この縦断面は、エンジン出力軸に沿う方向の平面で切った縦断面に相当する。燃料噴射弁6は、その弁軸心が、シリンダの軸線(図7の紙面上下方向)に沿うように配設されているのに対し、放電電極7は、その先端部が燃料噴射弁6に近づく方向に、シリンダの軸線に対して傾いて配設されている。
ここで、放電電極7の信頼性を確保する観点から、放電電極7の先端部(特に、先端の碍子部分)は、天井面から凹陥して設けられた凹部131内に収容されている。また、図例では、燃料噴射弁6の噴射先端の温度が高くなりすぎないように、燃料噴射弁6の噴射先端もまた、天井面から凹陥して設けられた凹部132内に収容され、噴射先端が燃焼室17内に突出しないように構成されている。燃料噴射弁6の噴射先端と放電電極7の先端部とは隣接しているため、2つの凹部131、132は、その一部が互いに重なり合っていて、2つの凹部131、132は連続している(図7の二点鎖線参照)。
燃料噴射弁6は、その噴射先端から所定の噴霧角で燃料を噴射する。外開弁式の燃料噴射弁6は、その噴射先端からホローコーン状に燃料を噴射する。噴射した燃料噴霧の外周囲には、その噴霧の流れに起因して渦流が発生する。渦流は、燃料噴霧が外側に巻き上がるような向きであって、図7に矢印で示すように、燃料噴霧の噴射方向における先側から根元側に戻った後、燃料噴霧内に流入して、燃料噴霧を根元側から先側へと押し出すように流れる。
前述の通り、燃料噴射弁6の噴射先端の近傍に、放電電極7の先端部を収容する凹部131が設けられていることにより、噴射先端を中心として見たときに、当該凹部131が形成されている箇所は、燃料噴霧の外周囲の空間が相対的に広く(図7では、噴射先端に対して紙面右側の箇所に相当)、凹部131が形成されていない箇所は、燃料噴霧の外周囲の空間が相対的に狭くなる(図7では、噴射先端に対して紙面左側の箇所に相当)。燃料噴霧の外周囲の空間が相対的に狭い箇所では、渦流によって燃料噴霧内に流入するガス(つまり、燃焼室17内の空気)が少ないため、ガス流動による燃料噴霧の押し出しは、それほど強くならない。しかしながら、燃料噴霧の外周囲の空間が相対的に広い箇所では、渦流によって燃料噴霧内に流入するガスが多くなり、燃料噴霧の押し出しが強くなる。その結果、燃料噴霧の外周囲の空間が相対的に広い箇所では、燃料噴霧の外周囲の空間が相対的に狭い箇所よりも、燃料噴霧の貫徹力が強くなり、図7に白抜きの矢印で示すように、燃料噴霧の飛翔距離が、より長くなると考えられる。尚、図7とは異なり、燃料噴射弁6の噴射先端が凹部132内に収容されていない構成においても、放電電極7の先端部が凹部131内に収容されていれば、燃料噴霧の外周囲において、空間が相対的に広い箇所と狭い箇所とが形成されることになる。
また、燃焼室17内では、燃料噴射に伴うガス流動だけではなく、ピストンが圧縮上死点に近づくことに伴い、燃焼室17の外周部から中心部へと向かうスキッシュが生じるが、燃料噴霧の外周囲の空間が相対的に広い箇所には、このスキッシュよるガスの流入量が相対的に多くなるため、前述した燃料噴霧の押し出しが、さらに助長される。
こうして、燃料噴霧の外周囲の空間が相対的に広い箇所では、燃料噴射に伴うガス流動(及び、スキッシュ)に起因して、圧縮行程の後半において噴射した燃料噴霧の一部が、ピストンの頂面に形成したキャビティの壁面に接触してしまう。その結果、当該箇所では、混合気層の周囲に断熱ガス層が形成されなくなるのである。
特に、幾何学的圧縮比を高くするために、小容積のキャビティを設けているときには、燃料噴射弁6の噴射先端とキャビティの壁面との距離が比較的近くなるため、燃料噴霧が、キャビティの壁面に接触し易くなる。その上、キャビティを小さくすることに伴いスキッシュエリアが大きくなるため、スキッシュが比較的強くなり、前述した燃料噴霧の押し出しが、さらに助長される。その結果、燃料噴霧の一部が、キャビティの壁面に接触し易くなる。
ここに開示する技術は、本願発明者等が前述した課題を見出したことにより完成に至ったものである。燃料噴霧の飛翔距離が長くなることは、噴射された燃料噴霧の外周囲の空間が相対的に広くなることに起因することから、ここに開示する技術は、放電電極の先端部を収容する凹部が形成された箇所において、その外周囲の空間が狭くなるように、燃料噴霧の中心軸を傾けることにした。
具体的に、ここに開示する技術は、直噴エンジンの燃焼室構造に係り、この燃焼室構造は、シリンダに内挿されかつ、その頂面から凹陥するキャビティを有するピストンと、前記シリンダの内周面及び前記ピストンの前記頂面と共に、燃焼室を区画する天井面を有して構成されたシリンダヘッドの天井部と、噴射する燃料噴霧の粒径が変更するよう噴口の有効断面積が変更されると共に、噴射先端が前記燃焼室内に臨むように前記シリンダヘッドの前記天井部に配設されかつ、前記噴射先端から前記キャビティに向かって燃料を噴射するよう構成された燃料噴射弁と、前記シリンダヘッドの前記天井部において前記燃焼室内に臨む先端部が、前記燃料噴射弁の前記噴射先端に隣接して配設された放電電極と、備える。
前記シリンダヘッドの前記天井部は、吸気ポートの開口部が設けられた吸気側斜面と、排気ポートの開口部が設けられた排気側斜面とを有していて、ペントルーフ型の前記燃焼室を区画するよう構成されており、前記ピストンの前記頂面は、前記天井部の前記吸気側斜面及び前記排気側斜面のそれぞれに対応するように、吸気側及び排気側のそれぞれにおいて傾斜した傾斜面によって隆起しており、前記キャビティは、平面視において、ペントルーフの稜線方向に長い楕円形状を成しており、前記燃料噴射弁の前記噴射先端は、前記シリンダヘッドの前記天井部において、前記吸気側斜面と前記排気側斜面とが交差する前記ペントルーフの稜線上に配設されている。
前記燃料噴射弁と前記放電電極とは、前記ペントルーフの稜線方向に隣り合って並んでいると共に、前記燃料噴射弁と前記放電電極とは、楕円形状の前記キャビティの長軸上において、前記シリンダの軸心に対して、それぞれ相反する方向に傾いており、前記シリンダヘッドの前記天井部の前記ペントルーフの稜線上において前記燃料噴射弁の前記噴射先端に隣接した位置には、前記放電電極の前記先端部を収容する凹部が、その天井面から凹陥して設けられており、前記キャビティの中心は、前記シリンダのボア中心に対してずれており、前記燃料噴射弁は、その噴射先端が前記キャビティの中心軸線上に配設されていると共に、所定の噴霧角で噴射した燃料噴霧の中心軸が、前記ピストンが上死点にあるときの前記キャビティの中心と、前記噴射先端とを結ぶ線に対して、前記放電電極の前記先端部に近づく方向に傾くよう構成されている。
そして、前記シリンダヘッドの前記天井部には、前記燃料噴射弁の前記噴射先端を収容する第2凹部が、前記天井面から凹陥して設けられており、前記放電電極の前記先端部を収容する前記凹部と、前記燃料噴射弁の前記噴射先端を収容する前記第2凹部とは、前記ペントルーフの稜線方向に隣り合って並んでいると共に、それぞれが、平面視において、前記ペントルーフの稜線方向に長い楕円形状を成しかつ、前記ペントルーフの稜線方向において、その一部が互いに重なるように連続し、前記燃料噴射弁は、燃料噴霧の進行方向への飛翔距離及び燃料噴霧の中心軸に対する広がりが調整されるように、前記噴口の有効断面積を調整する。
この構成によると、燃料噴射弁と放電電極とは共に、シリンダヘッドの天井部に取り付けられており、燃料噴射弁の噴射先端と、放電電極の先端部とは隣接して配設されている。放電電極は、点火プラグ又は放電プラグであり、その先端部を凹部内に収容することによって、燃料噴射弁から噴射された燃料噴霧が放電電極の先端部に直接的に付着することが回避される。このため、放電電極の信頼性を確保することが可能になる。凹部は、燃料噴射弁の噴射先端に隣接した位置に設けられるため、噴射先端を中心としたときに、この凹部が設けられた箇所においては、噴射先端から、所定の噴霧角で噴射された燃料噴霧の外周囲の空間が相対的に広くなり、凹部が設けられてない箇所においては、燃料噴霧の外周囲の空間が相対的に狭くなる。
前記の構成では、ピストンの頂面に、シリンダのボア中心に対して中心がずれるようにキャビティが設けられており、キャビティが設けられたピストンの頂面と、シリンダの内周面と、シリンダヘッドの天井面とによって燃焼室が区画される。
そして、燃料噴射弁は、ピストンが上死点にあるときのキャビティの中心と噴射先端とを結ぶ線に対して、所定の噴霧角で噴射した燃料噴霧の中心軸が、放電電極の先端部に近づく方向に傾くよう構成されている。燃料噴霧が傾くことによって、凹部が設けられた箇所において、燃料噴霧の外周囲の空間が狭くなる。これにより、燃料噴射に伴うガス流動によって、燃料噴霧の貫徹力が増大することが抑制される。その結果、凹部が設けられた箇所においても、燃料噴霧の飛翔距離が長くなることが防止されるから、燃料噴霧がキャビティの壁面に接触することが防止される。
この構成では、キャビティの容積を大きくしなくても、燃料噴霧の接触が回避可能である。キャビティの容積を小さくすることは、エンジンの幾何学的圧縮比を高くする上で有利である。
また、前記の構成では、シリンダヘッドの天井部は、吸気側斜面と排気側斜面とによって、ペントルーフ型の燃焼室となるように構成されている。ピストンの頂面は、この天井部に対応するように、吸気側及び排気側のそれぞれにおいて傾斜した傾斜面によって、いわば三角屋根状に隆起している。これにより、この直噴エンジンは、幾何学的圧縮比が比較的高く設定される。幾何学的圧縮比は、例えば15以上としてもよい。幾何学的圧縮比を高くすることによって、エンジンの熱効率が高まると共に、燃焼室内の混合気を圧縮着火燃焼させる場合は、その安定化が図られる。尚、ペントルーフの稜線と、シリンダのボア中心とは一致する場合、及び、一致しない場合の両方が含まれる。
前記の構成ではまた、ピストンが圧縮上死点に近づくに従い、吸気側斜面及び排気側斜面を有する天井部と隆起したピストンの頂面との間のガスが圧縮されて、ペントルーフの稜線に沿って流れるスキッシュが発生する。その一方で、燃料噴射弁の噴射先端と放電電極の先端部とが、ペントルーフの稜線上において隣接して配設されているため、そのスキッシュによって、燃料噴霧の外周囲の空間が相対的に広い箇所、つまり、放電電極の先端部を収容する凹部へのガスの流入量が増え、それに伴い、燃料噴霧の貫徹力も、より一層増大し得る。
しかしながら、前述の通り、燃料噴射弁の噴射先端から噴射される燃料噴霧の中心軸を傾けることによって、燃料噴霧の外周囲の空間が狭くなることで、スキッシュが強くなったとしても、そこに流入するガス量は制限される。そのため、燃料噴霧の貫徹力が増大することは抑制される。その結果、燃料噴霧の飛翔距離が長くなって燃料噴霧がキャビティの壁面に接触してしまうことも抑制される。
前記の構成では、燃料噴射弁を、その噴射先端がキャビティの中心軸線上となるように配設しているが、前述の通り、燃料噴射弁の噴射先端から噴射される燃料噴霧の中心軸を傾けることによって、凹部が設けられた箇所において燃料噴霧の飛翔距離が長くなることが抑制されるため、燃料噴射弁を、その噴射先端がキャビティの中心軸線上となるように配設しても、燃料噴霧が、キャビティの壁面に接触することを防止することが可能になる。その一方で、キャビティの容積をできるだけ小さくすることが可能になるから、直噴エンジンの幾何学的圧縮比を高くする上で、有利になる。
前記燃料噴射弁は、弁軸心が前記シリンダの軸線に対して傾いて配設されているから、燃料噴射弁の噴射先端から、その弁軸心に沿って燃料が噴射されることによって、所定の噴霧角で噴射した燃料噴霧の中心軸が、放電電極の先端部に近づく方向に傾くことになる。
また、前記燃料噴射弁は、噴射した燃料噴霧の中心軸が、前記燃料噴射弁の弁軸心に対して傾くように構成されている、としてもよい。
こうすることで、燃料噴射弁から噴射した燃料噴霧の中心軸を、放電電極の先端部に近づく方向に傾けることが可能になる。
尚、燃料噴射弁の弁軸心をシリンダの軸線に対して傾けることと、噴射した燃料噴霧の中心軸が、燃料噴射弁の弁軸心に対して傾くようにすることとを組み合わせてもよい。
前記の直噴エンジンの燃焼室構造によると、燃料噴射弁を、所定の噴射角で噴射した燃料噴霧の中心軸が、ピストンが上死点にあるときのキャビティの中心と、噴射先端とを結ぶ線に対して、放電電極の先端部に近づく方向に傾くよう構成することによって、放電電極の先端部を収容する凹部が設けられた箇所において燃料噴霧の飛翔距離が長くなることが抑制され、燃料噴霧がキャビティの壁面に接触することを防止して、冷却損失を抑制することができる。
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。以下の説明は例示である。
(エンジンの全体構成)
図1は、実施形態に係るエンジン1の構成を示している。エンジン1のクランクシャフト15は、図示しないが、変速機を介して駆動輪に連結されている。エンジン1の出力が駆動輪に伝達されることによって、車両が推進する。ここで、エンジン1の燃料は、本実施形態ではガソリンであるが、バイオエタノール等を含むガソリンであってもよく、少なくともガソリンを含む液体燃料であれば、どのような燃料であってもよい。
エンジン1は、シリンダブロック12と、その上に載置されるシリンダヘッド13とを備えており、シリンダブロック12の内部に複数のシリンダ11が形成されている(図1では、1つのみ示す)。エンジン1は、多気筒エンジンである。シリンダブロック12及びシリンダヘッド13の内部には、図示は省略するが冷却水が流れるウォータージャケットが形成されている。各シリンダ11内には、コネクティングロッド14を介してクランクシャフト15に連結されたピストン16が摺動自在に嵌挿されている。ピストン16は、シリンダ11及びシリンダヘッド13と共に燃焼室17を区画している。
本実施形態では、燃焼室17の天井部170(シリンダヘッド13の下面)は、吸気ポート18の開口部180が設けられかつ、シリンダ11の中央に向かって登り勾配となった吸気側斜面171と、排気ポート19の開口部190が設けられかつ、シリンダ11の中央に向かって登り勾配となった排気側斜面172とを備えて構成されている。燃焼室17は、ペントルーフ型の燃焼室である。尚、ペントルーフの稜線は、シリンダ11のボア中心に一致する場合、及び一致しない場合の両方があり得るが、ここでは、ペントルーフの稜線は、シリンダ11のボア中心に一致しているとする。従って、ピストン16の頂面160を平面視で見た図4において、紙面左右方向に延びる一点鎖線は、ペントルーフの稜線に相当する。また、ピストン16の頂面160は、天井部170の吸気側斜面171及び排気側斜面172に対応するように、吸気側及び排気側のそれぞれにおいて、ピストン16の中央に向かって登り勾配となった傾斜面161、162によって、三角屋根状に隆起している。これにより、このエンジン1の幾何学的圧縮比は、15以上の高い圧縮比に設定されている。また、ピストン16の頂面160には、凹状のキャビティ163が形成されている。ピストン16の頂面160の形状については、後で詳述する。
図1には1つのみ示すが、シリンダ11毎に2つの吸気ポート18がシリンダヘッド13に形成されている。吸気ポート18の開口部180は、シリンダヘッド13の吸気側斜面171に、エンジン出力軸(つまり、クランクシャフト15)の方向に並んで設けられ、吸気ポート18は、この開口部180を通じて燃焼室17に連通している。2つの吸気ポート18の開口部180は、シリンダ11のボア中心に対して対称に配設されていると共に、吸気ポート18のスロート部の軸線は、シリンダ11のボア中心に対して対称となるように設けられている。同様に、シリンダ11毎に2つの排気ポート19がシリンダヘッド13に形成されている。排気ポート19の開口部190は、シリンダヘッド13の排気側斜面172に、エンジン出力軸の方向に並んで設けられ、排気ポート19は、この開口部190を通じて燃焼室17に連通している。2つの排気ポート19の開口部190は、シリンダ11のボア中心に対して対称に配設されている。
吸気ポート18は、吸気通路181に接続されている。吸気通路181には、図示は省略するが、吸気流量を調節するスロットル弁が介設されている。排気ポート19は、排気通路191に接続されている。排気通路191には、図示は省略するが、1つ以上の触媒コンバータを有する排気ガス浄化システムが配設されている。触媒コンバータは、三元触媒を含む。
シリンダヘッド13には、吸気弁21及び排気弁22が、それぞれ吸気ポート18及び排気ポート19を燃焼室17から遮断(閉)することができるように配設されている。吸気弁21は吸気弁駆動機構により、排気弁22は排気弁駆動機構により、それぞれ駆動される。吸気弁21及び排気弁22は所定のタイミングで往復動して、それぞれ吸気ポート18及び排気ポート19を開閉し、シリンダ11内のガス交換を行う。吸気弁駆動機構及び排気弁駆動機構は、図示は省略するが、それぞれ、クランクシャフト15に駆動連結された吸気カムシャフト及び排気カムシャフトを有し、これらのカムシャフトはクランクシャフト15の回転と同期して回転する。吸気弁駆動機構及び排気弁駆動機構は、この例では、吸気カムシャフトの位相を所定の角度範囲内で連続的に変更可能な、液圧式又は電動式の位相可変機構(Variable Valve Timing:VVT)23、24を、少なくとも含んで構成されている。尚、吸気弁駆動機構及び/又は排気弁駆動機構は、VVT23、24と共に、弁リフト量を変更可能なリフト可変機構を備えるようにしてもよい。リフト可変機構は、リフト量を連続的に変更可能なCVVL(Continuous Variable Valve Lift)としてもよい。尚、吸気弁21及び排気弁22を駆動する動弁機構は、どのようなものであってもよく、例えば油圧式や電磁式の駆動機構を採用してもよい。
シリンダヘッド13には、燃焼室17内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁6が取り付けられている。燃料噴射弁6は、吸気側斜面171と排気側斜面172とが交差するペントルーフの稜線上であってかつ、図2に示すように、シリンダ11のボア中心に対して、エンジン出力軸方向の一側(図2における紙面左側であり、これは、この実施形態ではエンジン1において反トランスミッション側の、いわゆるエンジン前側に相当する)に、ずれて配設されている。燃料噴射弁6はまた、その弁軸心が、シリンダ11の軸線に対して傾いて配設され、噴射先端が、燃焼室17内に臨んでいる。ピストン16のキャビティ163は、この燃料噴射弁6に向かい合うように設けられている。燃料噴射弁6は、このキャビティ163内に向かって、燃料を噴射する。燃料噴射弁6の配置に関しては、後で詳述する。
燃料噴射弁6は、図2に概念的に示すように、燃焼室17内(つまり、キャビティ163内)に、(可燃)混合気層と、その周囲の断熱ガス層とが形成可能に構成されている。燃料噴射弁6は、所定の噴霧角で燃料を噴射する、例えば外開弁式の燃料噴射弁としてもよい。外開弁式の燃料噴射弁は、弁のリフト量を調整することにより、噴射する燃料噴霧の粒径を変更することが可能である。本願出願人が先に出願した特願2013−242597号に記載しているように、この外開弁式の燃料噴射弁6の特性を利用して、多段噴射を基本とした燃料噴射態様を、適宜制御することにより、燃料噴霧の進行方向への飛散距離、及び、燃料噴霧の中心軸に対する広がりを調整することができる。このため、圧縮上死点付近のタイミングで燃料を噴射することにより、キャビティ163の中央部に混合気層を、その外周囲に断熱ガス層を形成することが可能である。また、外開弁式の燃料噴射弁に限らず、VOC(Valve Covered Orifice)ノズルタイプの燃料噴射弁も、ノズル口に発生するキャビテーションの度合いを調整することにより、噴口の有効断面積を変更して、噴射する燃料噴霧の粒径を変更することが可能である。従って、外開弁式の燃料噴射弁と同様に、圧縮上死点付近のタイミングで噴射する燃料噴霧の進行方向への飛散距離及び燃料噴霧の中心軸に対する広がりを調整することにより、キャビティ163内の中央部に混合気層を、その外周囲に断熱ガス層を形成することが可能である。
さらに、燃料噴射弁6は、その噴射先端に複数の噴孔が設けられかつ、所定の噴霧角で燃料を噴射するマルチホールタイプの燃料噴射弁としてもよいし、ホローコーン状に燃料を噴射するスワールインジェクタとしてもよい。
燃料噴射弁6の噴射先端は、シリンダヘッド13の天井面から凹陥して設けられた凹部132内に収容されている。これにより、噴射先端が、燃焼室17内に突出しなくなり、噴射先端の温度が高くなってしまうことが防止される。凹部132は、断面円形状の噴射先端に対応して円形状を有している。図4における破線及び二点鎖線は、シリンダヘッド13の天井部170における凹部132の開口縁を示している。燃料噴射弁6の噴射先端を収容する凹部132は、燃料噴射弁6がシリンダ11の軸線に対して傾いて配設されていることに対応して、シリンダ11の軸線に対して傾いている。そのため、シリンダヘッド13の天井部170における凹部132の開口縁は、平面視では楕円になる。また、後述の通り、当該開口縁において、二点鎖線で示す部分は、実際には存在しない。凹部132はまた、燃料噴射弁6の噴射先端から、シリンダヘッド13の天井面に向かって、径が次第に拡大するように構成されている。これにより、噴射先端から、燃料噴射弁6の弁軸心に沿って下向きに、径が次第に拡大するようなホローコーン状に噴射される燃料噴霧が、凹部132の周面に接触することが防止される。
シリンダヘッド13には、放電電極としての点火プラグ7が取り付けられている。点火プラグ7は、図2に示すように、ペントルーフの稜線上でかつ、シリンダ11のボア中心に対してエンジン出力軸方向の他側(つまり、エンジン後側)にずれて配設されている。点火プラグ7は、その先端部が燃料噴射弁6に近づく方向に、シリンダ11の軸線に対し傾いて配設されている。点火プラグ7は、ペントルーフの稜線上において傾いている。燃料噴射弁6の噴射先端と、点火プラグ7の先端部とは、シリンダ11のボア中心付近において、ペントルーフの稜線に沿って互いに近接して配設される。尚、点火プラグ7の代わりに、放電電極として、燃焼室17内でオゾンを生成する放電プラグを、シリンダヘッド13に取り付けてもよい。
点火プラグ7の先端部もまた、シリンダヘッド13の天井面から凹陥して設けられた凹部131内に収容されている。点火プラグ7の先端部、特にその碍子部分を収容する凹部131は、図2及び図4に示すように、断面円形状の先端部に対応して円形状であると共に、点火プラグ7の先端部から、シリンダヘッド13の天井面に向かうに従って、径が拡大するように構成されている。尚、点火プラグ7の先端部を収容する凹部131は、点火プラグ7がシリンダ11の軸線に対して傾いて配設されていることに対応して、シリンダ11の軸線に対して傾いている。そのため、図4に示す破線及び二点鎖線は、シリンダヘッド13の天井部170における凹部131の開口縁を示しているが、その開口縁は、平面視では楕円になる。
燃料噴射弁6の噴射先端と、点火プラグ7の先端部とが互いに近接していることにより、これらを収容する凹部131、132同士は、その一部が重なるようになり、2つの凹部131、132は連続している。従って、図4において、凹部131の、二点鎖線で示す開口縁の部分は、実際には存在しないと共に、前述の通り、凹部132の、二点鎖線で示す開口縁の部分も、実際には存在しない。
このエンジン1は、前述したように、幾何学的圧縮比が15以上に設定されている。幾何学的圧縮比は、40以下とすればよく、特に20以上35以下が好ましい。エンジン1は圧縮比が高いほど膨張比も高くなる構成から、高圧縮比と同時に、比較的高い膨張比を有するエンジン1でもある。このエンジン1は、基本的には全運転領域でシリンダ11内に噴射した燃料を圧縮着火により燃焼させるよう構成されている。高い幾何学的圧縮比は、圧縮着火燃焼を安定化する。
燃焼室17は、シリンダ11の内周面と、ピストン16の頂面160と、シリンダヘッド13の下面(天井部170)と、吸気弁21及び排気弁22それぞれのバルブヘッドの面と、によって区画形成されている。冷却損失を低減すべく、これらの区画面に、遮熱層を設けることによって、燃焼室17が遮熱化されている。遮熱層は、これらの区画面の全てに設けてもよいし、これらの区画面の一部に設けてもよい。また、燃焼室17を直接区画する壁面ではないが、吸気ポート18や排気ポート19における、燃焼室17の天井部170側の開口近傍のポート壁面に遮熱層を設けてもよい。
これらの遮熱層は、燃焼室17内の燃焼ガスの熱が、区画面を通じて放出されることを抑制するため、燃焼室17を構成する金属製の母材よりも熱伝導率が低く設定される。
また、遮熱層は、冷却損失を低減する上で、母材よりも容積比熱が小さいことが好ましい。つまり、遮熱層の熱容量を小さくして、燃焼室17の区画面の温度が、燃焼室17内のガス温度の変動に追従して変化するようにすることが好ましい。
前記遮熱層は、例えば、母材上にZrO2等のセラミック材料をプラズマ溶射によってコーティングして形成すればよい。このセラミック材料の中には、多数の気孔を含んでいてもよい。このようにすれば、遮熱層の熱伝導率及び容積比熱をより低くすることができる。
本実施形態では、前記の燃焼室17の遮熱構造に加えて、燃焼室17内においてガス層による断熱層を形成することで、冷却損失を大幅に低減するようにしている。
具体的には、燃焼室17内の外周部に新気を含むガス層が形成されかつ中心部に混合気層が形成されるように、圧縮行程以降において燃料噴射弁6の噴射先端からキャビティ163内に燃料を噴射させることにより、図2に示すように、燃料噴射弁6の近傍の、キャビティ163内の中心部に混合気層が形成されかつ、その周囲に新気を含むガス層が形成されるという、成層化が実現する。このガス層は、新気のみであってもよく、新気に加えて、既燃ガス(EGRガス)を含んでいてもよい。尚、ガス層に少量の燃料が混じっても問題はなく、ガス層が断熱層の役割を果たせるように混合気層よりも燃料リーンであればよい。
前記のようにガス層と混合気層とが形成された状態で燃料が圧縮着火燃焼すれば、混合気層と燃焼室17の壁面との間のガス層により、混合気層の火炎が燃焼室17の壁面に接触することがなく、そのガス層が断熱層となって、燃焼室17の壁面からの熱の放出を抑えることができるようになる。この結果、冷却損失を大幅に低減することができる。
尚、冷却損失を低減させるだけでは、その冷却損失の低減分が排気損失に転換されて図示熱効率の向上にはあまり寄与しないところ、このエンジン1では、高圧縮比化に伴う高膨張比化によって、冷却損失の低減分に相当する燃焼ガスのエネルギを、機械仕事に効率よく変換している。すなわち、エンジン1は、冷却損失及び排気損失を共に低減させる構成を採用することによって、図示熱効率を大幅に向上させているということができる。
このような混合気層とガス層とを燃焼室17内に形成するために、燃料を噴射するタイミングにおいては、燃焼室17内のガス流動は弱いことが望ましい。そのため、吸気ポートは、燃焼室17内でスワールが生じない、又は、生じ難いようなストレート形状を有していると共に、タンブル流もできるだけ弱くなるように、構成されている。
次に、燃焼室17の構成について、図を参照しながらさらに詳細に説明をする。図3は、ピストン16の頂面160の形状を示す斜視図である。図3における紙面右手前が吸気側、紙面左奥が排気側であり、紙面左手前がエンジン出力軸方向の一側(つまり、エンジン前側)、紙面右奥がエンジン出力軸方向の他側(つまり、エンジン後側)である。
前述したように、ピストン16の頂面160は、吸気側の傾斜面161と、排気側の傾斜面162とがそれぞれ、ピストン16の中央に向かって登り勾配となって構成されており、これにより、ピストン16の頂面は、エンジン出力軸における一方の側から、エンジン出力軸に沿う方向にピストン16を見たときに、両側それぞれから中央部に向かって次第に隆起した三角屋根状を成している。吸気側の傾斜面161及び排気側の傾斜面162には、それぞれバルブリセスが形成されている。この内、吸気側の傾斜面162では、エンジン出力軸の方向に並んだ2つの吸気弁21のバルブヘッドの間に相当する部分も、バルブリセスと共に、傾斜面161が削られており、吸気側の傾斜面161は、バルブリセスが設けられているものの、実質的に平坦な面を構成する。一方、排気側の傾斜面162では、エンジン出力軸の方向に並んだ2つの排気弁22のバルブヘッドの間に相当する部分は、削られずに残されている。この部分は、ピストン16が上死点付近に至ったときに、排気側から燃焼室17の中央に向かうスキッシュを発生させるスキッシュエリア162bとなる。従って、排気側の傾斜面162は、バルブリセス162aとスキッシュエリア162bとによって構成される。
ピストン16の頂面160はまた、吸気側の傾斜面161と排気側の傾斜面162とを連結する稜部164を有している。稜部164は、シリンダヘッド13の天井部170において、ペントルーフの稜線部分と対向する。この稜部164付近における、エンジン出力軸方向の両側端部は、図2にも示すように、頂面160に向かってピストン径が縮小するように湾曲している。この湾曲は、シリンダヘッド13の天井部170の湾曲形状に対応して設けられている。これは、エンジン1の幾何学的圧縮比を高くする上で有利な構成である。
ピストン16の稜部164は、ピストン16が上死点付近に至ったときには、図2に矢印で示すように、ペントルーフの稜線に沿うように、エンジン出力軸の方向の、一側から燃焼室17の中央に向かうスキッシュと、他側から燃焼室17の中央に向かうスキッシュとのそれぞれを発生させるスキッシュエリアとなる。
前述したように、ピストン16の頂面160にはキャビティ163が凹陥している。キャビティ163は、図2に示すように、開口縁163aから凹陥するに従い、その大きさが次第に縮小するように設けられており、キャビティ163は、ピストン16の頂面160に連続する側壁1631と、側壁1631に連続する底壁1632とから構成されている。図2に示すように、ピストン16の中心を通る縦断面において、キャビティ163は、バスタブのような形状を有している。側壁1631は、ピストン16の頂面160及び底壁1632とは異なる角度を有しており、ピストン16の頂面160と側壁1631との間、及び、側壁1631と底壁1632との間には、それぞれアールが設けられている。
以下においては、ピストン16の頂面160と側壁1631との間のアールは、キャビティの側壁1631に含まれるとして、頂面160とアールとが接する位置を、頂面160と側壁1631との境界とする。この境界は、キャビティ163の開口縁163aを構成する。また、側壁1631と底壁1632との間のアールは、側壁1631に含まれるとして、アールと底壁1632とが接する位置を、側壁1631と底壁1632との境界とする。尚、頂面160と側壁1631との境界、及び、側壁1631と底壁1632との境界はそれぞれ、前述した定義とは異なるように設定することも可能である。例えば、頂面160と側壁1631との間のアールは、頂面160に含まれるとして、アールと側壁1631とが接する位置を、頂面160と側壁1631との境界としてもよい。また、そのアールの中央を、頂面160と側壁1631との境界とすることも可能である。同様に、側壁1631と底壁1632との間のアールは、底壁1632に含まれるとして、アールと側壁1631とが接する位置を、側壁1631と底壁1632との境界としてもよい。また、そのアールの中央を、側壁1631と底壁1632との境界とすることも可能である。
キャビティ163は、図3及び図4に示すように、略楕円形状の開口縁163aを有する。この楕円状は、広義の楕円状である。つまり、一平面上で2定点からの距離の和が一定であるような点の軌跡である楕円の他に、滑らかにつながる曲線、又は、曲線及び直線によって無端に構成される長円状の形状も、ここでいう楕円状に含まれる。
キャビティ163は、図4に示すように、エンジン出力軸の方向に直交する吸排気方向(つまり、図4における紙面上下方向)については、シリンダ11のボア中心を通る線に対して対称となるように設けられている。これにより、楕円形状のキャビティ163における長軸は、シリンダヘッド13のペントルーフの稜線と一致することになり、燃料噴射弁6の弁軸心、及び、点火プラグ7の中心はそれぞれ、楕円形状のキャビティ163における長軸上に位置することになる。
また、エンジン出力軸の方向については、図2に示すように、キャビティ163の中心が、燃料噴射弁6の噴射先端の真下になるように構成されている。従って、ピストン16が上死点にあるときのキャビティ163の中心と、燃料噴射弁6の噴射先端とを結ぶ線は、キャビティ163の中心線となる。つまり、燃料噴射弁6の噴射先端は、キャビティ163の中心軸線上に位置している。燃料噴射弁6は、シリンダ11のボア中心に対してエンジン出力軸方向の一側にずれているため、キャビティ163の中心もまた、シリンダ11のボア中心に対し、ずれて設けられている。
ここで、図7を参照しながら説明したように、燃料噴射弁6の噴射先端に近接して、点火プラグ7の先端部を収容する凹部131が形成されていることに起因して、噴射先端から噴射されるホローコーン状の燃料噴霧は、均等に飛翔せず、前記凹部131の形成箇所に対応する燃料噴霧は、その飛翔距離が相対的に長くなる。つまり、燃料噴射に伴うガス流動や、稜部164におけるスキッシュに起因して、燃料噴霧の外周囲の空間が広い箇所においては、燃料噴霧内に流入するガス量が増えて、燃料噴霧を、噴射方向の先側に強く押し出すようになり、燃料噴霧の貫徹力が強まって飛翔距離が長くなるのである。
そこで、このエンジン1では、所定の噴霧角で噴射した燃料噴霧の中心軸が、点火プラグ7の先端部に近づく方向に傾くようにしている。具体的に、図2に示す構成例では、燃料噴射弁6の弁軸心を、ピストン16が上死点にあるときのキャビティ163の中心と噴射先端とを結ぶ線に対して、点火プラグ7の先端部に近づく方向に傾けている。燃料噴射弁6の弁軸心は、ペントルーフの稜線上において傾いている。この燃料噴射弁6は、噴射した燃料噴霧の中心軸と、燃料噴射弁6の弁軸心とが一致するため、弁軸心を傾けることによって、噴射した燃料噴霧の中心軸が、シリンダ11の軸線に対して傾くようになる。
こうして、燃料噴霧の中心軸を傾けることで、凹部131が設けられた箇所(図2では、噴射先端に対して紙面右側の箇所に相当)では、燃料噴霧の外周囲の空間が狭くなるから、燃料噴射に伴うガス流動やスキッシュによって、外周囲の空間から燃料噴霧内に流入するガス量が減り、燃料噴霧の貫徹力が増大することが抑制される。その結果、凹部131が設けられた箇所においても、燃料噴霧の飛翔距離が長くなることが防止されるから、燃料噴霧がキャビティ163の壁面に接触することが防止される。燃料噴射弁6の、シリンダ11の軸線に対する傾斜角度は、5〜10°程度の範囲で適宜設定すればよい。
ここで、燃料噴霧がキャビティ163の壁面に接触することを抑制する上では、キャビティ163の容積を大きくして、噴射先端とキャビティ163の壁面との距離を大きくすることも考えられる。しかしながら、キャビティ163の容積を大きくすると、幾何学的圧縮比を高くする本エンジンにおいては、不利になる。図4に示すように、ピストン16の頂面を平面視で見たときに、ピストン16全体の面積(つまり、ピストン16の外周縁によって構成される円の面積)に対する、キャビティ163の開口縁163aによって構成される楕円の面積の比率(楕円の面積/ピストン全体の面積)は、50%以下とすればよい。こうすることで幾何学的圧縮比を15以上にすることが可能になる。面積比は、好ましくは40%以下であり、より好ましくは35%以下である。
図5は、図2とは異なる構成例を示している。図5に示す構成例においては、図2に示す構成例に対し、点火プラグ7の傾斜を変更している。具体的には、点火プラグ7は、図2に示す配設角度よりも小さい配設角度で、シリンダヘッド13に取り付けられている(図5の破線の矢印参照)。ここで言う配設角度は、シリンダ11の軸線に対する角度である。図2の構成例での点火プラグ7の配設角度は、図5において破線で示され、図5の構成例での点火プラグ7の配設角度は、一点鎖線で示される。尚、燃料噴射弁6の配設角度は、図2及び図5の構成例において同じである。
点火プラグ7の配設角度を小さくすることによって、点火プラグ7が燃料噴射弁6に近づくようになるから、凹部131が設けられた箇所において、燃料噴霧の外周囲の空間をさらに狭くすることが可能になる。その結果、燃料噴射に伴うガス流動やスキッシュによって、外周囲の空間から燃料噴霧内に流入するガス量が減り、燃料噴霧の貫徹力が増大することが抑制される。そのため、燃料噴霧の飛翔距離が長くなることが防止されて、燃料噴霧がキャビティ163の壁面に接触することを、より一層確実に防止することが可能になる。
図6は、燃料噴射弁6についての参考例として、別の構成例を示している。図6に示す燃料噴射弁6は、燃料噴射弁6の弁軸心に対し、噴射した燃料噴霧の中心軸が傾くように構成されている。例えばマルチホールタイプの燃料噴射弁において、その噴孔を傾けて形成することによって、燃料噴射弁の弁軸心に対して、燃料噴霧の中心軸を傾けることが可能である。また、スワールインジェクタにおいても、燃料噴射孔を傾けることによって、燃料噴射弁の弁軸心に対し、燃料噴霧の中心軸を傾けることが可能である。
燃料噴射弁6はまた、図2及び図5の構成例とは異なり、弁軸心がシリンダ11の軸線に沿うように、シリンダヘッド13に取り付けられている。この構成例では、燃料噴射弁6の弁軸心と、キャビティ163の中心とが一致することになる。ピストン16が上死点にあるときのキャビティ163の中心と、燃料噴射弁6の噴射先端とを結ぶ線は、キャビティ163の中心線であると共に、燃料噴射弁6の弁軸心線でもある。燃料噴射弁6の弁軸心をシリンダ11の軸線に沿って配設することは、燃料噴射弁6のレイアウトの観点で有利になる場合がある。
この構成例でも、所定の噴霧角で噴射した燃料噴霧の中心軸が、ピストン16が上死点にあるときのキャビティ163の中心と、噴射先端とを結ぶ線に対して、点火プラグ7の先端部に近づく方向に傾くようになる。従って、前述した構成例と同様に、凹部131が設けられた箇所において、燃料噴霧の外周囲の空間を狭くすることが可能になるから、燃料噴射に伴うガス流動やスキッシュによって、外周囲の空間から燃料噴霧内に流入するガス量が減り、燃料噴霧の貫徹力が増大することが抑制される。燃料噴霧の飛翔距離が長くなることが防止して、燃料噴霧がキャビティ163の壁面に接触することを防止することが可能になる。
尚、図6に示す燃料噴射弁6の弁軸心に対し、噴射した燃料噴霧の中心軸が傾くように構成されている燃料噴射弁6を、その弁軸心がシリンダ11の軸線に対して傾くように、シリンダヘッド13に取り付けてもよい。つまり、図2の構成例又は図5の構成例と、図6の構成例とを組み合わせてもよい。
また、図2及び図5に示す構成例において、燃料噴射弁6の噴射先端と、キャビティ163の中心とを、エンジン出力軸の方向にずらすようにしてもよい。同様に、図6に示す構成例においても、燃料噴射弁6の噴射先端と、キャビティ163の中心とを、エンジン出力軸の方向にずらすようにしてもよい。
さらに、点火プラグ7を含む放電電極は、ペントルーフの稜線上からずれて配設される場合がある。その場合は、燃料噴射弁6から噴射される燃料噴霧の中心軸の傾き方向が、前述した構成例とは異なるようになる。