JP6303366B2 - 磁性粒子の製造方法、及び磁性粒子 - Google Patents

磁性粒子の製造方法、及び磁性粒子 Download PDF

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Description

本発明は、磁性粒子の製造方法に関する。
異方性の希土類−鉄−窒素系磁性粉末は優れた磁気特性を有し、ネオジム−鉄−ボロン系の磁性粉末にかわる希土類ボンド磁石用の磁性粉末として注目されている。例えば、希土類−鉄−窒素系磁性粉末と熱可塑性樹脂等とを混合してなるコンパウンド(磁性材料)を、射出成形機にて溶融・固化することにより、所望とする形状のボンド磁石を容易に形成することができる。このように、希土類−鉄−窒素系磁性材料を用いた射出成形体は、形状自由度に富んでいる上に他部材との一体成形なども可能であることから、その適応分野を徐々に増やしている。
現在、150℃以上の高温でのアプリケーションで使用される磁石として実用化されているものは、ネオジム−鉄−ボロン系とサマリウム−コバルト系の磁性材料に大きく分けることができる。しかしながら、前者はディスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)、後者はコバルトといった、希少性の極めて高い元素が必須であるため、磁石製品の調達や市況価格の安定性に関して多くのリスクがある。この点において、サマリウム−鉄−窒素系磁性材料は、前述した元素ほど希少性の高い元素は使われておらず、耐熱用途向け磁石の代替材料として有望視されている。しかしながら、現在の150℃以上の環境で使用可能なサマリウム−鉄−窒素系異方性磁石は未だ実用化されていない。150℃以上の環境下で磁気特性の低下が少なく安定的に使用可能なサマリウム−鉄−窒素系磁性材料としては、固有保磁力が少なくとも16kOe以上、好ましくは20kOe以上必要であるが、現在のところ、この材料の固有保磁力は最大でも15kOe程度に留まっているためである。
上記に関連して、希土類−鉄−窒素系磁性材料に金属成分Mを含ませて磁性材料の特性を改善する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、サマリウムと鉄の共沈反応において高融点の遷移金属元素Mを添加することで、Mを含有した微結晶の複合酸化物原料を製造し、このMが引き続きの還元拡散反応中の希土類元素の拡散を制御することにより、微細化されたサマリウム−鉄−M−窒素系磁性粉末を製造する手法についての記載がある。具体的には、所定比率のSmとFeとMを酸溶解液から共沈させた後に大気焼成を行い製造した微結晶複合酸化物を、引き続いて(I)水素雰囲気下、(II)不活性雰囲気+カルシウム存在下で2段階の還元反応を行うことで、RFe(100−v−w−x)で表される希土類−鉄−窒素系磁性粉末を製造している。MがTiである場合のTi添加量Xを原子百分率で0<X≦1.5とした場合に、優れた磁気特性を有する磁性粉末が得られるとされている。
特許第4737161号公報
しかしながら、特許文献1に具体的に開示された磁性紛体の固有保磁力は、最大14kOe程度であり、耐熱磁石材料の指標とされる16kOeの固有保磁力に対して充分なものとは言い難かった。
本発明はこのような事情からなされたものであり、高い固有保磁力を有する希土類−鉄―窒素系磁性粒子の製造方法及び磁性粒子を提供することを目的とする。
本発明者は、上述した状況を鑑みて鋭意研究を行い、第四元素Tiを添加して還元拡散法によりR−Fe−Ti−N系磁性粒子(式中、RはYを含む希土類元素の少なくとも1種)を製造する方法において、効果的に固有保磁力を増強でき、高い固有保磁力を実現できる製造方法を見出し、本発明を完成させた。すなわち、上記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
本発明の磁性粒子の製造方法は、Rα(Fe1−βTiβ17γ(式中、RはYを含む希土類元素の少なくとも1種を示し、α、β、γは原子比でそれぞれ、1.9≦α≦2.2、0.005≦β<0.04、2.8≦γ≦3.2である)で示される磁性粒子の製造方法であって、Rイオン及びFeイオンを含む溶液から、Rイオン及びFeイオンを含む沈殿物を得る工程と、前記沈殿物からR元素及びFe元素を含む、一次粒子平均粒径が1μm以下の酸化物粒子を得る工程と、前記酸化物粒子と、平均粒径が500nm以下のTiを含む粉末とを混合して混合物を得る工程と、前記混合物を還元する工程と、を含む磁性粒子の製造方法である。
また、本発明の磁性粒子は、Rα(Fe1−βTiβ17γ(式中、RはYを含む希土類元素の少なくとも1種を示し、α、β、γは原子比でそれぞれ、1.9≦α≦2.2、0.005≦β<0.04、2.8≦γ≦3.2である)で示され、かつ、ThZn17型結晶構造を有することを特徴とする磁性粒子である。
本発明によれば、高い固有保磁力を持つ希土類−鉄−窒素系磁性粒子を製造可能な磁性粒子の製造方法、及び磁性粒子を提供することができる。
本発明の実施例及び比較例におけるSm−Fe−Ti−N系磁性粉末のTi添加量と固有保磁力Hcjの関係を示す図である。 本発明の実施例及び比較例におけるSm−Fe−Ti−N系磁性粉末のTi添加量と角形性Hkの関係を示す図である。 本発明の実施例及び比較例におけるSm−Fe−Ti−N系磁性粒子のTi添加量と残留磁束密度Brの関係を示す図である。 本発明の実施例1におけるSm−Fe−Ti−N系磁性粒子のSEM像を示す図である。 本発明の比較例1のSEM像を示す図である。 本発明の比較例9のSEM像を示す図である。 本発明の実施例及び比較例におけるSm−Fe−Ti−N系磁性粉末の粒度分布(頻度分布、体積基準)を示す図である。 本発明の実施例及び比較例におけるSm−Fe−Ti−N系磁性粉末の粒度分布(積算分布、体積基準)を示す図である。
以下、本発明にかかる実施の形態について詳述するが、本発明の技術思想を具体化するための一例であり、本発明は、以下の実施の形態及び実施例に限定されるものではない。なお、本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。さらに組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
<磁性粒子の製造方法>
本発明の磁性粒子の製造方法は、Rα(Fe1−βTiβ17γ(式中、RはYを含む希土類元素の少なくとも1種を示し、α、β、γは原子比でそれぞれ、1.9≦α≦2.2、0.005≦β<0.04、2.8≦γ≦3.2である)で示される磁性粒子の製造方法であって、Rイオン及びFeイオンを含む溶液から、Rイオン及びFeイオンを含む沈殿物を得る工程(以下、「第一の工程」ともいう)と、沈殿物からR元素及びFe元素を含む、一次粒子平均粒径が1μm以下の酸化物粒子を得る工程(以下、「第二の工程」ともいう)と、酸化物粒子と、平均粒径が500nm以下のTiを含む粉末とを混合して混合物を得る工程(以下、「第三の工程」ともいう)と、混合物を還元する工程(以下、「第四の工程」ともいう)と、を含む磁性粒子の製造方法である。
(磁性粒子)
磁性粒子は、下記式(I)で示される組成を有している。
α(Fe1−βTiβ17γ (I)
式中、RはYを含む希土類元素の少なくとも1種を示し、α、β、γは原子比でそれぞれ、1.9≦α≦2.2、0.005≦β<0.04、2.8≦γ≦3.2を満たす。
式(I)におけるRは、Yを含む希土類元素の少なくとも1種であれば特に制限されない。中でもRは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、Sm、Eu、Tb及びDyからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。なお、上述した調達や市況価格の安定性の観点から、Smを用いることが特に好ましい。また、式(I)におけるRは、1種単独であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
α、β及びγは原子比でそれぞれ、1.9≦α≦2.2、0.005≦β<0.04、2.8≦γ≦3.2を満たす限り特に制限されない。
(第一の工程)
磁性粒子の製造方法は、Rイオン及びFeイオンを含む溶液から、Rイオン及びFeイオンを含む沈殿物を得る第一の工程を含む。第一の工程においては、Rイオン及びFeイオンを含有する溶液から、磁性粒子の主相を構成する金属成分を含む沈殿物を沈殿させる。具体的には例えば、R(好ましくは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等)及びFeがイオン化してなる金属イオンを含む反応タンク溶液中に、これらの金属イオンを共沈させることが可能な沈殿剤を添加して金属イオンの溶解度を低下させることにより、Rイオン及びFeイオンを含む沈殿物(R−Fe沈殿物)を析出させる。
本発明の製造方法において、磁性粒子の主相を構成する希土類元素RとFeとはそれぞれRイオン及びFeイオンとして、溶媒中で均一に溶解混合している。したがって、これら磁性粒子の主相を構成する金属成分である希土類元素R及びFeを溶解した液を調製することが必要となる。これら金属成分の単体又は化合物を共通にイオン化して溶解しうる溶媒として、例えば、酸水溶液を使用することができる。好ましい酸としては、塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸が挙げられ、上述の金属イオンを高濃度に溶解することができる。また、金属イオンの溶解液の調製の別の方法として、これら金属成分の塩化物、硫酸塩、硝酸塩等を水に溶解することを挙げることもできる。
また、Rイオン及びFeイオンを含む溶液は水溶液だけに限らず、金属アルコキシド等の形の有機金属化合物を有機溶剤、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール、アセトン等のケトン、シクロヘキサン等の炭化水素、テトラヒドロフラン等のエーテルなどに溶解した溶液であってもよい。
Rイオン及びFeイオンを含む溶液におけるRイオン及びFeイオンの含有比は、磁性粒子の主相における含有比に応じて設定することが好ましい。Rイオン及びFeイオンの含有比(Rイオン:Feイオン)はモル比で、1.5:17〜3.0:17であることが好ましく、2.0:17〜2.5:17であることがより好ましい。
上記した金属イオンを溶解した溶液から、これら金属イオンと不溶性の塩として沈殿物を生成する物質としては、水酸化物イオン、炭酸イオン、シュウ酸イオン等の陰イオン(非金属イオン)を好ましく使用することができる。すなわち、これらの陰イオンを供給することができる物質の溶液であれば、第一の工程に好適に使用することができる。例えば、水酸化物イオンを供給する物質としてアンモニア水、苛性ソーダ等が挙げられる。炭酸イオンを供給する物質として、重炭酸アンモニウム、重炭酸ソーダ等が挙げられる。シュウ酸イオンを供給するものとしては、シュウ酸が挙げられる。
金属アルコキシドを有機溶剤に溶解した溶液の場合、例えば、水を添加することで、金属水酸化物の形で沈殿物を析出可能である。水以外にも、金属イオンと反応して不溶性の塩を生成する物質であれば本発明に適用可能である。また、沈殿物としての水酸化物の不溶性の塩を生成する方法として、いわゆるゾルゲル法を好ましく使用することもできる。
第一の工程においては、金属イオンと非金属イオンとの沈殿反応を制御することにより、沈殿物を構成する沈殿物粒子内の構成成分の分布が均質で、粒度分布のシャープな、粒子形状の整った合金粒子原料を得ることができる。このような合金粒子原料を使用することが最終的な製造物である磁性粒子の磁気特性をより向上させる。この沈殿反応の制御は、金属イオン及び非金属イオンの供給速度、反応温度、反応液濃度、反応液の攪拌状態、反応時のpH等の反応条件を適当に設定することで行うことができる。これらの条件の設定には例えば、まず、沈殿物の収率を最良にするように種々の反応条件を選択し、沈殿物粒子の独立性(粒子形状)、沈殿物粒子の粒度分布がシャープであること等を顕微鏡観察等により確認しながら各条件を決定すればよい。また、原料として、どのような化学種を選択し、どのような沈殿反応を適用するかによって、沈殿物の形態は大きく変化することはいうまでもない。この沈殿反応(第一の工程)により、最終の磁性材料としての磁性粒子の粒子径、粒子形状、粒度分布等がおよそ決定される。このように合金粒子原料の性状が磁性材料に密接に反映される点で、この沈殿反応の制御は非常に重要となる。
第一の工程で得られる沈殿物粒子の二次粒子径は0.05μm〜20μm、より好ましくは0.1μm〜10μmの範囲にほぼ全粒子が入るような大きさと分布であることが好ましい。また、二次粒子の平均粒径は0.1μm〜4μmの範囲内にあることが好ましい。このようにして得られる沈殿物粒子中には希土類元素RとFeとが充分に混合された状態で存在する。
なお、第一の工程で得られる沈殿物粒子の粒度分布は、レーザー回折式湿式粒度分布計を用いて測定され、平均粒径は、粒度分布における小粒径側からの体積累積50%に相当する粒子径として測定される。
第一の工程は、得られる磁性粒子の磁気特性の観点から、Rイオン及びFeイオンを含む酸水溶液と、水酸化物イオンを含む水溶液とを混合して沈殿物を得る工程であることが好ましく、Rイオン及びFeイオンを含み、塩酸、硫酸及び硝酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む酸水溶液と、水酸化物イオンを含む水溶液とを混合して沈殿物を得る工程であることがより好ましい。
第一の工程として具体的には、Rイオン及びFeイオンを含む溶液に非金属イオンを含む溶液を添加する方法、Rイオン及びFeイオンを含む溶液を、非金属イオンを含む溶液に添加する方法、Rイオン及びFeイオンを含む溶液と非金属イオンを含む溶液とをそれぞれ溶媒(好ましくは水)に添加する方法等を挙げることができる。中でも第一の工程は、沈殿物粒子の性状を容易に調整できる点から、Rイオン及びFeイオンを含む溶液と非金属イオンを含む溶液とをそれぞれ溶媒(好ましくは水)に滴下する方法であることが好ましい。
沈殿反応における反応温度は、使用する材料等に応じて適宜選択することができる。沈殿反応における反応温度は例えば、30〜50℃とすることができ、35〜45℃であることが好ましい。
沈殿反応における反応液濃度は、使用する材料等に応じて適宜選択することができる。沈殿反応における反応液濃度は例えば、金属イオンの総濃度として0.65mol/l〜0.85mol/lとすることが好ましく、0.7mol/l〜0.85mol/lとすることがより好ましい。
沈殿反応におけるpHは、使用する材料等に応じて適宜選択することができる。沈殿反応におけるpHは例えば、5〜9とすることが好ましく、6.5〜8とすることがより好ましい。
第一の工程は、得られる沈殿物粒子を分離洗浄する工程等のその他の工程を更に含んでいてもよい。沈殿物粒子を分離洗浄する工程としては、例えば、得られた沈殿物粒子に溶媒(好ましくは水)を加えて混合した後、溶媒の少なくとも一部を除去する方法等を挙げることができる。溶媒を除去する方法は、濾過法、デカンテーション法等の通常用いられる方法から適宜選択することができる。
(第二の工程)
磁性粒子の製造方法は、第一の工程で得られる沈殿物からR元素及びFe元素を含む一次粒子平均粒径が1μm以下の酸化物粒子(以下、単に「酸化物粒子」ともいう)を得る第二の工程を含む。第二の工程は、第一の工程で得られる沈殿物を酸化物粒子に変換可能であれば特に制限されず、沈殿物の性状等に応じて適宜変換条件等を選択することができる。
例えば、沈殿反応から得られる沈殿物を構成する沈殿物粒子を熱処理して酸化物粒子を得ることができる。沈殿物粒子を熱処理して酸化物粒子に変換する場合、沈殿物を熱処理前に脱溶媒しておくことが好ましい。熱処理前に脱溶媒することで、熱処理による酸化物粒子への変換がより容易になる傾向がある。また、沈殿物粒子が高温度において溶媒への溶解度が大きくなるような場合、特に充分に脱溶媒しておくことが好ましい。充分に脱溶媒しておくことで、沈殿物粒子が残存する溶媒に再溶解して、粒子が凝集したり、粒度分布、粒子径等が変化したりすることを効果的に抑制することができる。
脱溶媒する方法は特に制限されず使用する溶媒等に応じて適宜選択することができる。脱溶媒する方法として具体的には、例えば溶媒として水を使用する場合、70〜200℃のオーブン中で5時間〜12時間乾燥する方法等を挙げることができる。
沈殿物粒子の熱処理による酸化物粒子への変換は、金属イオンと非金属イオンからなる不溶性の塩が加熱された結果、非金属イオンが分解することによると考えられる。したがって、熱処理は酸素の存在下に行うことが好ましく、例えば、大気雰囲気下で行うことができる。また、同様の理由により、沈殿物粒子を構成する非金属イオンは、構成元素に酸素原子を含むことが好ましい。酸素原子を含む非金属イオンとしては、水酸化物イオン、炭酸イオン、シュウ酸イオン等の無機イオン、クエン酸イオン等の有機酸イオンが挙げられる。非金属イオンを供給可能な化合物としては、アンモニア、苛性ソーダ等の水酸化物イオンを供給する化合物、重炭酸アンモニウム、重炭酸ソーダ等の炭酸イオンを供給する化合物、シュウ酸等のシュウ酸イオンを供給する化合物などを挙げることができる。
ただし、不溶性の有機酸塩がアルコキシドのように加水分解により水酸化物を生成するような場合は、一旦、水酸化物とした後、それを熱処理して酸化物粒子に変換することが好ましい。
熱処理の温度及び時間は、沈殿物粒子を酸化物粒子に変換可能であれば特に制限されず、沈殿物粒子を構成する金属イオン及び非金属イオンの種類等に応じて適宜選択することができる。例えば、800〜1300℃の温度で数時間とすることができ、900〜1100℃の温度で数時間(例えば、1〜3時間)とすることが好ましい。また熱処理装置は特に制限されず、通常用いられる熱処理装置から適宜選択することができる。例えば、熱処理に加熱炉を用いる場合、加熱炉の雰囲気は送風機等を用いて空気を十分に送入するか、酸素を炉内に導入して熱処理を行うことが好ましい。
上記のようにして得られる酸化物粒子は、上記した沈殿物粒子の形状、粒度分布等をそのまま反映された粒子性能が極めて良好な酸化物粒子である。
ここで、本実施形態の製造方法においては、酸化物粒子はその一次粒子の平均粒径が1μm以下とされている。優れた固有保磁力をもつR−鉄−窒素系異方性磁性粉末としては、一次粒子平均粒径が1〜4μmであることが好ましい。従って、1μmよりも大きい平均粒径の酸化物原料を用いた場合は、還元拡散反応中の粒成長や粒子間焼結によって1〜4μmよりもずっと大きいR−鉄粒子が形成されるため、高い固有保磁力の磁性粉末を得ることができない。また、本実施形態においては、平均粒径が1μm以下の酸化物粒子を還元反応の出発原料とし、鉄よりも高融点金属のチタンを添加することで、還元拡散反応中の粒成長や粒子間焼結を効果的に制御することが可能となる。このため、微粉砕プロセスを排除し、かつ、極めて高い固有保磁力を持つ、高分散した微粒子のR−鉄−チタン−窒素系異方性磁性粉末を製造することができる。
(第三の工程)
磁性粒子の製造方法は、第二の工程で得られる酸化物粒子と、平均粒径が500nm以下のTiを含む粉末とを混合して混合物を得る第三の工程を含む。本実施形態においては、Tiを添加する工程を従来のような共沈反応工程時ではなく、大気焼成後のSmとFeの複合酸化物との混合工程時とすることにより、高い固有保磁力を有するR−鉄−チタン−窒素系磁性粉末を製造することができる。以下、その理由を詳述する。
まず、特許文献1に示されるような従来技術ではSmとFeの酸溶解液にTi化合物を添加し溶解させ、溶解液からSm、FeそしてTi成分を水酸化物や炭酸塩等の形で共沈させ、引き続きの還元反応の出発原料を得ている。このような処理方法を用いた場合、添加したTiをSmやFeとナノレベルで混合することが可能となり、均一反応性の観点から、理に適った処方であるとも考えられる。しかしながら、この処理方法には重大な問題点が存在する。本発明者らは数多くの検証実験を行い、上記したTi添加方法では、原料中にナノ分散したTiがその後の水素ガスによる還元反応(後述する第四工程)を阻害し、結果として高い固有保磁力をもつ磁性粉末を得ることは難しくなることを確認した。
本製造方法における水素還元反応は、RとFeの複合酸化物から、主としてFe原子に結合した酸素原子を取り除くことを目的としている。複合酸化物中には通常20〜30重量%の酸素が含まれているが、水素還元反応によって酸素濃度は5〜7重量%程度にまで減少する。もしも、水素還元反応後の粉(これを便宜上、水素還元粉と呼ぶ)に7重量%以上の酸素が含まれていた場合、引き続きの還元拡散法によるカルシウム還元反応において異常な還元発熱を生じ、粒子の粗大化、凝集を引き起こすため、結果として、磁気特性の低いR−Fe−N系磁性粉末しか得られない。例えば、RがSmの場合を例に挙げる。以下の式(II)〜(IV)には酸化サマリウムSm、酸化鉄Fe、酸化チタンTiOそれぞれのCa還元における熱化学方程式を示すが、Feの還元発熱量はSmやTiOに比べて突出している。Feを還元拡散反応前に充分還元しておくことは、良質なSm−Fe−N系磁性粉末を得るために必須である。
・Sm+3Ca→2Sm+3CaO+82kJ/mol (II)
・Fe+3Ca→2Fe+3CaO+1081kJ/mol (III)
・TiO+2Ca→Ti+2CaO+320kJ/mol (IV)
しかしながら、TiをSmとFeの酸溶解液からの共沈反応を利用して添加した場合、作製した複合酸化物中にはTiがFeと二元合金系の酸化物を形成する。結果として、Fe酸化物よりも水素拡散が阻害され、還元工程後の粉末中の酸素濃度が高くなることは避けられないため、結果として良好な磁気特性の磁性粉末を得ることは難しくなる。特に、高い固有保磁力が期待される小径のSm−Fe−Ti−N系磁性粉末を製造するためには、粒成長抑制効果の高いTi原子濃度を高める必要があるが、酸化物中のTiが水素拡散を阻害してしまうため水素還元後の粉末の酸素濃度がさらに上昇する。小径の微粉末の作製を狙ったにも関わらず、結果として、還元発熱により粒成長してしまう、という問題を抱えていた。
一方、本実施形態の製造方法の優れた点としては、RとFeとの複合酸化物に二酸化チタン等のTiを含む粉末を添加するため、Tiを含む粉末の粒径や混合条件を調整することでFeとTiの混合形態(原子間距離)を任意に調整でき、これにより、原料の水素還元性を調整できることが挙げられる。結果として、Tiの添加量を増やしても複合酸化物の水素還元性をほとんど悪化させない条件設定が可能となり、Ti添加量の増大に従って磁粉粒径を効果的に減少できるとともに16kOe以上の固有保磁力をもつR−Fe−N系磁性粉末の製造が可能となる。
なお、ここで添加されるTiを含む粉末は、平均粒径10〜500nm、好ましくは10〜250nm、さらに好ましくは10〜150nmの微粉末、また、特に酸化チタンの粉末が好適に使用できるが、ナノメートルレベルでチタンが分散したものであれば他のチタン化合物も使用できる。例えば、金属チタン、フェロチタン、窒化チタン、炭化チタンといった化合物や、塩化チタン等のイオン性化合物、チタン酸カリウム、チタン酸カルシウムなどのチタン酸化合物、アルキルチタネート類やペルオキソチタン錯体などの有機チタン化合物が挙げられる。これらは単体で用いても良いし、2種類以上を組み合わせて用いてもよく、更に水等の溶媒に分散させた状態で用いても良い。
チタンの添加量としては、[チタンのモル量]÷([サマリウムのモル量]+[鉄のモル量])×100で表されるチタンの原子濃度(%)が0.1%以上4.0%未満が好ましく、0.5%以上3%未満がより好ましい。添加量が0.1%を下回ると添加効果が期待できず、4%を超えると、チタンの原子半径が鉄よりも大きいため、ThZn17型の結晶構造を維持できなくなり、磁気特性が低下する。
また、チタンの混合方法としては、攪拌翼付きのミキサーや流動層型混合機、リボンミキサーなどの混合機やボールミル、ロッドミル、そしてアトマイザーといった粉砕機などが使用でき特に限定されないが、チタン化合物と複合酸化物が均一に混ざるよう、せん断力や混合時間、チタン化合物の添加方法や混合機の構造などを適宜調整する。
なお、混合状態を確認する手法として、本発明者はEPMAマイクロアナライザを利用し、混合粉末について、ビーム径1ミクロン程度での点分析をランダムに選んだ10箇所について行い、R、鉄、チタンの各ピーク強度から導出した原子濃度%より、以下の式で示す[規格化したチタン原子濃度(%)]を求めた。
[規格化したチタン原子濃度(%)]=
[チタンの原子濃度(%)]÷
([Rの原子濃度(%)]+[鉄の原子濃度(%)])×100 (V)
この[規格化したチタン原子濃度(%)]は実測値であるが、実測値÷理論値×100(%)で求めた理論値とのズレが50〜150%、好ましくは80〜120%の範囲であり、実測値のCV値(変動係数)が30%未満、好ましくは20%未満であることを、本実施形態の混合酸化物におけるR−鉄−チタンの混合状態の目安とした。
(第四の工程:還元工程)
磁性粒子の製造方法は、第三の工程で得られる混合物を還元して合金粒子を得る還元工程を更に含む。酸化物粒子を含む混合物を還元して合金粒子を得る方法は、磁性粒子の製造方法に通常用いられる還元方法から適宜選択して適用することができる。還元方法としては例えば、特許4590920号公報に記載の方法を本発明においても好適に適用することができる。具体的に還元工程は、遷移金属元素由来の酸化物粒子の一部を還元する工程(一段階目の還元反応)と、希土類酸化物を還元拡散する還元拡散工程(二段階目の還元反応)とを含む還元方法であることが好ましい。
(一段階目の還元反応)
磁性粒子の製造方法は、還元工程の一部として、第三の工程で得られる混合物に含まれる金属酸化物の一部を還元して部分還元物を得る一段階目の還元反応(水素還元工程)を含むことが好ましい。一段階目の還元反応では、上記混合物に含まれる金属酸化物の一部を、還元性ガスによる還元雰囲気下で加熱処理することで、Feと化合している酸素を水(HO)、一酸化炭素(CO)等の形態で徐々に除去することができる。還元性ガスは通常用いられる還元性ガスから適宜選択することができ、例えば、水素(H)、一酸化炭素(CO)、メタン(CH)等の炭化水素ガスなどを挙げることができる。この場合の加熱処理の温度は、例えば、600〜900℃の範囲に設定することが好ましい。加熱処理の温度が300℃以上であるとFe酸化物の還元が効率的に進行する。また900℃以下であると酸化物粒子が粒子成長、偏析することが抑制され、所望の粒子径を維持することができる。一段階目の還元反応での還元雰囲気の圧力は特に制限されない。
(二段階目の還元反応 還元拡散工程)
磁性粒子の製造方法は、還元工程として、第三の工程で得られる混合物である酸化物粒子に含まれる希土類酸化物を還元拡散させて合金粒子を得る還元拡散工程を更に含むことが好ましい。
この希土類元素の還元の方法を限定することはないが、対象の希土類元素(−2.3〜−2.5v)よりも還元電位の低い元素の金属を混合して加熱することで可能となる。例えば、アルカリ金属としてLiは−3.04v、Naは−2.71v、Kは−2.93v、Rbは2.98v、Csは−2.92v、アルカリ土類金属の中でもMgは−2.372v、Caは−2.87v、Srは−2.89v、Baは−2.912v、の還元電位をもち、これらを該金属酸化物に混合して不活性ガス中で加熱することで、粒子中の希土類元素を金属に還元することができる。取り扱いの安全性及びコストの点から金属カルシウムの使用が最も好適である。
還元剤としてカルシウムの応用は、希土類コバルト磁石について、還元拡散法と称される合金粉末の製法が適用され実用化されている。この還元拡散法を適用することが本実施形態において好ましい。すなわち、還元性ガスによる還元で得られた遷移金属元素を金属状態にまで還元した微細金属と希土類元素酸化物との混合状態にある粉末に金属カルシウム、或いは水素化カルシウムを添加し、不活性ガス雰囲気もしくは真空中で加熱することにより、希土類酸化物をカルシウム融体もしくはその蒸気と接触し、希土類酸化物を金属に還元する。この還元反応により、希土類元素と遷移金属元素の合金ブロックを得ることができる。還元剤は、粒状または粉末状の形で使用されるが、特にコストの点から粒度4メッシュ以下の粒状金属カルシウムが好適である。これにより還元拡散反応時における凝集をより効果的に抑制することができる。これらの還元剤は、反応当量(希土類酸化物を還元するのに必要な化学量論量であり、遷移金属を酸化物の形で使用した場合には、これを還元するに必要な分を含む)の 1.1〜3.0倍量、好ましくは 1.5〜2.0倍量の割合で使用される。
この還元剤による還元は、当然遷移金属元素を還元することも可能である。例えば、チタンTiはFeよりも卑な遷移金属であるため、一段階目の還元ガスでは充分還元できない恐れがある。この場合、添加する遷移金属の酸素濃度に応じて還元剤使用量を適宜調整する必要がある。
本発明においては、上述した原料粉末と還元剤とを混合し、該混合物を窒素以外の不活性雰囲気、例えばアルゴンガス中で加熱を行うことにより還元を行う。また還元のために行われる加熱処理温度は700〜1200℃、特に800〜1100℃の範囲とすることが好適であり、加熱処理時間は特に制約されないが、還元反応を均一に行うためには、10分〜10時間の範囲の時間で行うことができ、10分〜2時間の範囲で行うのがより好ましい。このような短時間で還元拡散反応が行えるのは本発明の方法によると原料の混合レベルが高いことに起因している。この還元反応により、希土類−遷移金属系合金を含む多孔質塊状の生成物が得られる。
なお、還元拡散工程では、還元剤である金属カルシウムとともに、必要に応じて崩壊促進剤を使用することができる。この崩壊促進剤は、後述する水洗工程に際して、生成物の崩壊、粒状化を促進させるために適宜使用されるものであり、例えば特開昭63−105909号公報に開示されている塩化カルシウム等のアルカリ土類金属塩、酸化カルシウム等のアルカリ土類酸化物などが挙げられる。これらの崩壊促進剤は、希土類源として使用される希土類酸化物当り1〜30質量%、好ましくは5〜30質量%の割合で使用される。
(窒化工程)
磁性粒子の製造方法は、還元工程で得られる合金粒子を窒化処理して磁性粒子を得る窒化工程を更に含むことが好ましい。ここで合金粒子は酸化物粒子を還元処理して得られる希土類R−Feを主相とする合金粒子である。希土類−遷移金属−窒素系合金粉末を得るには、基本的に還元拡散による還元反応が終了した後、崩壊工程に移行する前に同じ炉内で引き続き窒素ガス、或いは、加熱により分解して窒素を供給しうる化合物ガスを導入することで窒化することができる。特に還元工程として還元拡散工程を行う場合、合金粒子が多孔質塊状で得られるため、粉砕処理を行うことなく直ちに窒素雰囲気中で熱処理して窒化工程を行うことができ、これにより窒化が均一に行われる。
この窒化処理は、上記還元のための加熱温度領域から降温させて、300〜600℃、特に400〜550℃の温度とし、この温度範囲で雰囲気を窒素雰囲気に置換することにより行われる。例えば、この窒化処理温度が、300℃未満であると、前記工程で得られた反応生成物である希土類−遷移金属系合金中への窒素の拡散が不十分となり、窒化を均一且つ有効に行うことが困難となる。さらに窒化温度が、600℃を超えると、希土類−遷移金属系合金が希土類−窒素系化合物と、α−鉄等の遷移金属とに分解するため、得られる合金粉末の磁気特性が著しく低下するという不都合を生じる。上記熱処理期間は、窒化が十分に均一に行われる程度に設定されるが、一般にこの時間は、2〜20時間程度である。
(水洗工程)
還元工程において還元拡散工程を行った場合、窒化工程後に得られる反応生成物には磁性粒子に加えて、副生するCaO、未反応の金属カルシウム等が含まれ、これらが複合した焼結塊状態となっている場合がある。その場合、次にこの反応生成物を冷却水中に投入して、CaO及び金属カルシウムを水酸化カルシウム(Ca(OH))懸濁物として磁性粒子から分離することが好ましい。
さらに残留する水酸化カルシウムは、磁性粒子を酢酸あるいは塩酸等で洗浄して除去することが好ましい。崩壊によって生成したスラリーを撹拌後、デカンテーションによって、上部のアルカリ金属等の水酸化物を除去し、注水−撹拌−デカンテーションの操作を繰り返すことにより、該水酸化物を得られた合金粉末から除去することができる。また、一部残留した水酸化物は、酢酸あるいは塩酸等の酸を用いて、pH3〜6、好ましくはpH4〜5の範囲で酸洗浄することによって除去される。このような湿式処理終了後は、例えば水洗後、アルコールあるいはアセトン等の有機溶剤で洗浄、脱水した後、真空乾燥することで、希土類−遷移金属−窒素の磁性粒子が製造される。このようにして平均粒径が0.5μm〜10μmであり、ほぼ球状の磁性粒子を得ることができる。
<複合材料>
本発明の複合材料は、既述の磁性粒子の製造方法で得られる磁性粒子と、樹脂とを含む。複合材料は必要に応じてその他の成分を更に含んでいてもよい。前記磁性粒子を含むことで、高い保磁力を有する複合材料を構成することができる。
複合材料における磁性粒子の詳細については既述の通りである。
また複合材料に含まれる樹脂は特に制限されず、目的等に応じて通常用いられる樹脂から適宜選択することができる。樹脂は、熱硬化性樹脂であっても、熱可塑性樹脂であってもよく、熱可塑性樹脂であることが好ましい。熱可塑性樹脂として、具体的には、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリアミド(PA)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等を挙げることができる。
複合材料における磁性粒子と樹脂の混合比は目的等に応じて適宜選択することができる。磁性粒子に対する樹脂の混合比(樹脂/磁性粒子)は、0.10〜0.15であることが好ましく、0.11〜0.14であることがより好ましい。
複合材料の製造方法は、磁性粒子と樹脂とを混合可能であれば特に制限されず、通常用いられる混合方法から適宜選択して適用することができる。具体的には例えば、混練機を用いて、280〜330℃で混合する方法を挙げることができる。
<ボンド磁石>
本発明のボンド磁石は、既述の磁性粒子の製造方法で得られる磁性粒子と、樹脂とを含む。ボンド磁石は必要に応じてその他の成分を更に含んでいてもよい。前記磁性粒子を含むことで、高い保磁力を有するボンド磁石を構成することができる。
ボンド磁石は、例えば、前記複合材料を用いて製造することができる。具体的には例えば、複合材料を加熱しながら配向磁場で磁化容易磁区を揃える配向工程と、次いで着磁磁場でパルス着磁する着磁工程とを含む製造方法で製造することができる。
配向工程における加熱温度は、樹脂に応じて適宜選択することができる。加熱温度は例えば90〜200℃であることが好ましく、100〜150℃であることがより好ましい。配向工程における配向磁場の大きさは、例えば720kA/mとすることができる。
また、着磁工程における着磁磁場の大きさは、例えば1500〜2500kA/mとすることができる。
本発明の複合材料及びボンド磁石は、耐熱性に優れ、高い保磁力を有することから、例えば、高温下での使用が求められる自動車用モーター(特にウォーターポンプ)等の用途に好適に適用することができる。
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
<実施例1>
(1.沈殿工程)
反応タンクに純水30リットル投入し、その中に97%HSOを520g加え、Smを484.8g仕込み溶解し、25%アンモニア水を加えてpHを中性付近に調整する。この水溶液にFeSO・7HO:5200gを加えて完全に溶解しメタル液とした。別のタンクに純水を12リットルに重炭酸アンモニウム2524gと25%アンモニア水1738gを混合した炭酸イオン溶解液を調製した。反応タンクを撹拌しながら、炭酸イオン溶液を徐々に添加し、全量添加した最終のpHが8.0±0.5になるように、アンモニア水を添加した。撹拌を止め静置すると、生成物は容器底部に沈殿してくる。
(2.ろ過洗浄)
沈澱生成物を濾紙上にとり、上部よりイオン交換水を供給しながら吸引する。ろ液の電気導電率が50μS/mを下回るまでこのデカンテーションを続ける。洗浄され、吸引濾過して得られる沈殿物ケーキを80℃の乾燥機中で乾燥する。
(3.大気焼成)
乾燥されたケーキをアルミナのるつぼに入れ、1100℃の大気中で3時間焼成する。得られた複合酸化物粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察すると、一次粒子径1μm以下の微結晶微粒子の集合体であることがわかる。
(4.チタン混合)
3.で得られたサマリウム−鉄系複合酸化物粉末に、酸化チタンナノ粒子(昭和電工(株)製 スーパータイタニアF−10;粒径:約150nm)をサマリウムと鉄のトータルモル量に対して、1.5モル%となるよう秤量し、ヘンシェルミキサーを用いて800rpmの攪拌速度で1時間混合した。混合状態の分析にはEPMAマイクロアナライザを利用し、各混合粉末について、ビーム径1μm程度での点分析をランダムに選んだ10箇所について行い、サマリウム、鉄、チタンの各ピーク強度と式(V)よりチタン原子濃度(%)の実測値を求め、そこからチタンの混合状態を数値化したところ、以下のようになった。
[実測値÷理論値×100(%)] = 120%
[CV値(変動係数)] = 21%
(5.水素還元)
粉砕粉末を鋼製のトレーに充填し、それを管状炉に入れ、純度100%の水素を20リットル/分で流通させながら750℃で8時間の熱処理を施した。得られた黒色粉末の酸素濃度は6.1wt%であった。
(6.還元拡散反応)
前工程で得られた黒色粉末約1000gと粒状カルシウム約300gを混合し、鋼製のトレーに入れてアルゴンガス雰囲気炉にセットする。炉内を真空排気した後、アルゴンガスを通じながら1050℃で1時間加熱する。次いで、加熱を止め、冷却した後にアルゴン雰囲気のまま窒化炉に移し、引き続いて450℃まで加熱し、以後この温度で一定に保持する。その後、炉内を再び真空排気した後、窒素ガスを導入する。大気圧以上の圧力で窒素ガスを通じながら5時間加熱した後、加熱を停止し放冷する。
(7.水洗)
得られた反応生成物をイオン交換水5リットルに投入し、これにより、反応生成物が直ちに崩壊し、合金粉末とCa成分との分離が始まる。水中での撹拌、静置、上澄み液の除去を5回繰り返し、最後に2wt%酢酸水溶液5リットル中で洗浄し、Ca成分の分離が完了する。これを真空乾燥することでサマリウム−鉄−チタン−窒素合金粉末を得た。XRD測定により、得られた粉末は異相のないThZn17型の結晶構造をもつことが明らかとなった。また、VSMを用いて測定した磁気特性は、残留磁束密度Br.10.8kG(1.08T)、固有保磁力Hcj.20.5kOe(1.64MA/m)、角型性Hk.8.7kOe(0.69MA/m)であった。(それぞれ図1(a)〜(c)に示す)また、走査型電子顕微鏡により粉末形状を観察し、レーザー回折式粒子径分布測定装置HELOS((株)日本レーザー製)を用いて乾式条件での粒度分布(体積基準)を評価した。
<実施例2〜9>
工程(4.チタン混合)においてTiO粉末タイプ、Ti添加量を変更し、他は<実施例1>の製造方法と同様に作製したSm−Fe−Ti−N系磁性粉末(実施例2〜9)の化学組成ならびに磁気特性を表1、図1(a)〜(c)に示す。なお、実施例7〜9については、図1(a)〜(c)には示していない。
<比較例1>
工程(4.チタン混合)以外は<実施例1>の製造方法と同様に作製したSm−Fe−N系磁性粉末<比較例1>の化学組成ならびに磁気特性を表1、図1(a)〜(c)に示す。なお、図1(a)〜(c)において、比較例1は便宜上実施例のグラフとして示しているが、本発明の実施例として比較例1を含まないことは言うまでもない。
<比較例2>
(1.沈殿工程)
まず、高純度電解鉄1000gにイオン交換水約11000gを入れ、さらに、純度が97%の硫酸2300gを投入する。投入後、総量が15000gとなるようにイオン交換水を加え、鉄を完全に溶解させる。この溶液1600gに、酸化サマリウム(Sm)粉末51.1gを投入し溶解させる。次に、硫酸チタニル溶液を投入し溶解させる。この時の硫酸チタニル溶液の添加量は、サマリウムと鉄のトータルモル量に対して、0.01モル%となるように調整する。この溶液を攪拌しながら、アンモニア水を滴下し、pHを2に調整し、第1溶液を得る。第1溶液とは別に、重炭酸アンモニウム232gと17%アンモニア水280gとを混合し、イオン交換水を加えて全量が1000gとなるように第2溶液を調整する。攪拌している第1溶液に第2溶液を滴下する。攪拌を止め静止すると、生成物は容器底部に沈殿する。
以上のようにして得られた乾燥品を、<実施例1>の(2.ろ過洗浄)から(7.水洗)までと同様に作製したSm−Fe−Ti−N系磁性粉末<比較例2>の化学組成ならびに磁気特性を表1、図1(a)〜(c)に示す。
<比較例3〜10>
チタンをサマリウムと鉄のトータルモル量に対して、0.1〜2.0モル%にした以外は <比較例2>の製造方法と同様に作製したSm−Fe−Ti−N系磁性粉末<比較例3〜10>の化学組成ならびに磁気特性を表1、図1(a)〜(c)に示す。
表1、図1(a)〜(c)より、本発明の実施例に従って作製されたSm−Fe−Ti−N磁性粉末は、従来の方法に従って作製された比較例のSm−Fe−Ti−N磁性粉末と比べて、残留磁束密度Brを維持しつつ、固有保磁力Hcjならびに角型性Hkが大幅に増大することが確認された。比較例に従って作製した粉の磁気特性が総じて低い理由は、水素還元工程までを経た粉(H2R粉)の酸素濃度が高くなり、次工程の金属カルシウムによる還元拡散(RD)反応時の還元発熱が顕著になることから、結果として好ましくない粒成長や粒子間焼結を引き起こすためである。一方、実施例に従って作製した場合は、H2R粉の酸素濃度は低く抑えられるため、RD反応時の余計な発熱が起こらず、結果として固有保磁力(Hcj)や角型性(Hk)に優れた、小径かつ高分散した粉末を得ることができる。加えて、磁気特性の観点から、水素還元粉の酸素濃度は6.8%未満に抑えることが重要であり、チタンの最適添加量は0.5at%以上、4at%未満である。
また、図2(a)、(b)、(c)にはそれぞれ、実施例1、比較例1、比較例9のSEM像を示す。図2(a)より、実施例1の磁性粉末は、図2(b)と比較して小径かつ粒子間焼結の少ない高分散した粉末であることが確認された。一方、比較例により得られた粉末は、図2(c)、より、粒子間焼結された粒子数が多く、粒径のばらつきが大きいことが確認された。これは、上述したとおり、水素還元後の粉末の酸素濃度が高いため、RD反応中の異常な発熱によって、粒子間の焼結が進行したことが原因と考えられる。
また、実施例1、比較例1、そして比較例9の粒度分布を図3(a)、(b)に示し、D10、D50、D90、スパン(SPAN)の値を表2に示す。ここで、スパンとは、粒度分布の積算値が90%、10%、50%に相当する粒径D90、D10、D50から次式で計算して求められる値をいう。
スパン=(D90−D10)/D50
一般的に、D50が小さい値であるほど、粒子径が小さいことを表し、固有保磁力(Hcj)は高くなる。そして、スパンが小さい値を示すほど、より分散した粉末であることを表し、角型性(Hk)や残留磁束密度(Br)は高くなる。表2のうち、実施例1と比較例9は同じTi添加量でありながら、D50やスパンの値は大きく異なっている。比較例の製造方法では、H2R粉の酸素濃度が大きくなることを回避できず、RD反応中に好ましくない粒成長や粒子間焼結を引き起こすため、大粒子や焼結粒子、そして凝集物が多く生成する。結果として、D50やスパンが大きくなり、良好な磁気特性を有する粉末は得られない。これに対し、実施例では、H2R粉の酸素濃度を低い値に保つことができ、かつ添加されたTi原子によりRD反応中の粒成長や粒子間焼結が効果的に制御され、小径で分散した粉末を生成できる。結果として、D50やスパンが小さく、良好な磁気特性を有する粉末を製造することができる。実施例によって得られた粒子は、平均粒径が3.0μm±0.5μm以下であり、下記で定義されるスパンが1.2以下であるシャープな粒度分布をもつことが特徴である。
以上のように、高い固有保磁力を発現するに足る、良好な粒子形状をもつSm−Fe−Ti−N系磁性粉末を得る為には、Ti化合物を添加する工程の選定や形態が極めて重要である。
本発明の製造方法によれば、ThZn17型結晶構造をもち、小径かつ粒子間焼結の少ない高分散した粉末であり、かつ優れた磁気特性を有する希土類−鉄−チタン−窒素系磁性粉末を合成することができる。これによって磁気特性と耐熱性を併せ持った工業上有用な希土類磁石を製造することが可能となる。
本発明の製造方法より得られた磁性材料は、ABSモーター、EPSモーター、舵角センサーなど、150℃以上の耐熱性が求められるモーター用やセンサー用磁石の素材として好適に使用可能である。

Claims (9)

  1. α(Fe1−βTiβ17γ(式中、RはYを含む希土類元素の少なくとも1種を示し、α、β、γは原子比でそれぞれ、1.9≦α≦2.2、0.005≦β<0.04、2.8≦γ≦3.2である)で示される磁性粒子の製造方法であって、
    Rイオン及びFeイオンを含む溶液から、Rイオン及びFeイオンを含む沈殿物を得る工程と、
    前記沈殿物からR元素及びFe元素を含む、一次粒子平均粒径が1μm以下の酸化物粒子を得る工程と、
    前記酸化物粒子と、平均粒径が500nm以下のTiを含む粉末とを混合して混合物を得る工程と、
    前記混合物を還元する工程と、
    を含む磁性粒子の製造方法。
  2. 前記還元は水素還元である請求項1に記載の磁性粒子の製造方法。
  3. 前記Tiを含む粉末は、金属チタン、フェロチタン、窒化チタン、炭化チタン、塩化チタン、酸化チタン、有機チタンからなる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の磁性粒子の製造方法。
  4. 前記還元は、600〜900℃で行われる請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁性粒子の製造方法。
  5. R元素を含む酸化物を還元拡散する工程を更に含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁性粒子の製造方法。
  6. α(Fe1−βTiβ17γ(式中、RはYを含む希土類元素の少なくとも1種を示し、α、β、γは原子比でそれぞれ、1.9≦α≦2.2、0.005≦β<0.04、2.8≦γ≦3.2である)で示され、かつ、ThZn17型結晶構造を有し、
    レーザー回折式粒子径分布測定装置を用いて乾式条件で測定した平均粒径が3.0μm±0.5μm以下であり、下記で定義されるスパンが1.2以下であって、
    固有保磁力が16kOe以上であることを特徴とする磁性粒子。
    ここで、スパンとは、粒度分布の積算値が90%、10%、50%に相当する粒径D90、D10、D50から次式で計算して求められる値である。
    スパン=(D90−D10)/D50
  7. 固有保磁力が19.4kOe以上であることを特徴とする請求項6に記載の磁性粒子。
  8. 請求項6または7に記載の磁性粒子と、樹脂とを含む複合材料。
  9. 請求項6または7に記載の磁性粒子と、樹脂とを含むボンド磁石。
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