JP6302834B2 - 油中水型油脂組成物の製造方法 - Google Patents

油中水型油脂組成物の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、従来にはない組織、食感、風味の油中水型油脂組成物の製造方法に関する。
油中水型油脂組成物(マーガリンやファットスプレッド等)では一般的に、油相と水相に原料を分散や溶解させて、油相と水相を別々に調合してから混合し、(予備)乳化工程、加熱(殺菌)工程、冷却工程、混練工程等を経て製造される。このとき、油中水型油脂化合物の組織、食感、風味を改良することを目的として、幾つかの技術が検討されている。
例えば、特開平07−031373号公報(特許文献1)には、油脂が60重量%以上であって、かつ油脂中液状油を30〜70重量%で含有し、油脂の固体脂含有量が5℃で23〜26%、10℃で18〜21%、20℃で9〜12%であり、乳化剤として、レシチン、モノグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルを含有し、さらに窒素ガスを30〜70容量%で含有する油中水型乳化油脂組成物とその製造方法が開示されている。そして、この油脂組成物を用いて、菓子やパン等を焼き上げると、その組織、食感、風味が良好になることが記載されている。
また、特開2003−079314号公報(特許文献2)には、米由来の食用油脂を30〜60重量%とα−リノレン酸を45重量%以上で含有する油脂を5〜10重量%で含有する混合油を、加熱溶解した後に、急冷捏和し、さらに捏和時に窒素ガスを分散する油脂組成物の製造法が開示されている。そして、この油脂組成物では、風味が良く、米油のコク味やマイルドな香りを維持していることが記載されている。
特開平07−031373号公報 特開2003−079314号公報
本発明では、従来にはない良好な組織、食感、風味の油中水型油脂組成物の製造方法を提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明者らは、従来にはない良好な組織、食感、風味の油中水型油脂組成物を製造するにあたり、その油相と水相の原料と物性や、その製造方法の全体などを見直して検討した。そして、所定の原料と配合で油相と水相を調製してから混合したところに、所定の容量の気体を混合し、さらに風味素材を混合することにより、従来にはない良好な掬いやすさや塗りやすさ、口溶けや舌触り、香味の油中水型油脂組成物を製造できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明の請求項に記載の発明は、乳化剤を含む油相と水相を乳化及び/又は分散させて調製した混合物を加熱した後、当該混合物の容量の10容量%以上の窒素ガス及び風味素材を混合し、前記混合物と前記風味素材の重量比が50:50〜90:10であることを特徴とする、油中水型油脂組成物の製造方法、である。
請求項に記載の発明は、乳化剤を含む油相、水相、副原料を乳化及び/又は分散させて調製した混合物を加熱した後、当該混合物の容量の10容量%以上の窒素ガス及び風味素材を混合し、前記混合物と前記風味素材の重量比が50:50〜90:10であることを特徴とする、油中水型油脂組成物の製造方法、である。
請求項に記載の発明は、前記窒素ガス及び前記風味素材をインラインで混合することを特徴とする、請求項1又は2に記載の油中水型油脂組成物の製造方法、である。
請求項に記載の発明は、前記風味素材が乳製品である、請求項1からのいずれか一項に記載の油中水型油脂組成物の製造方法、である。
請求項に記載の発明は、前記乳製品がクリームである、請求項に記載の油中水型油脂組成物の製造方法、である。
本発明によれば、掬いやすさ(サジ通りの良さ、スクープ性)や塗りやすさ(延ばし広げやすさ、スプレッダブル性)が改良され、適度な軟らかさの物性の油中水型油脂組成物を提供できる。また、冷蔵庫などから取り出して直ぐに、低温のままの状態であっても、容器から掬いやすく、トーストしていないパンなどにも塗りやすい油中水型油脂組成物を提供できる。
また、本発明によれば、喫食時には油相が口の中で広がって溶融しやすくなり、水相と口の中との接触面積を大きくして、口溶けが鋭くなり、舌触りが滑らかになって、風味を感じやすい油中水型油脂組成物を提供できる。また、混合する風味素材にクリームを用いることで、さらに風味を感じやすくし、香味を強調した油中水型油脂組成物を提供できる。
従来の油中水型油脂組成物の製造工程の一例を示す図。 本発明の油中水型油脂組成物の製造工程の一例を示す図。 本発明と対照品の細菌保存試験の結果を示す図。 本発明と対照品の酵母保存試験の結果を示す図。 本発明と対照品の保存中の硬度変化についての試験結果を示す図。
従来の油中水型油脂組成物(マーガリンやファットスプレッド等)では、油相と水相に原料を分散や溶解させて、油相と水相を別々に調合してから混合し、予備乳化工程、加熱(殺菌)工程、冷却工程、混練工程等を経て製造されていた。
このとき、油相と水相を混合して乳化が進行するに従い、水相の粒径が微細になり、喫食時には水相に配合した原料に由来する風味を感じにくくなった。
また、原料の全部を混合した後に、加熱(殺菌)工程を経ているため、その加熱により風味が散逸や劣化した。
そこで、本発明者らは、上記の問題を解決するべく、油中水型油脂組成物の組織、食感、風味を改良する方策を種々検討したところ、所定の原料と配合で油相と水相を調製してから混合したところに、所定の容量の気体を混合し、さらに風味素材を混合することにより、組織(掬いやすさや塗りやすさ)、物性(口溶けや舌触り)、風味(香味)を改良できることを見出した。
本発明の油中水型油脂組成物の製造方法では、最初にマーガリンやクリームの通常の製造方法や従来の製造方法に従い、油相と水相を乳化及び/又は分散(予備乳化)させて、油中水型混合物(ベースマーガリン)や水中油型混合物(ベースクリーム)を調製する。
このとき、水中油型混合物の場合には、油中水型油脂組成物を製造する途中において転相工程が必要となるが、油中水型混合物の場合には、その転相工程が不要となるため、油中水型混合物であることが望ましい。
なお、前記の混合物(油中水型混合物、水中油型混合物)を調製する際には、必要に応じて、副原料として、風味素材や物性改良剤等を油相や水相と同時に混合しても良いし、油相や水相に配合しても良い。
ただし、後述するように、本発明では、前記の混合物を調製してから気体を混合し、更に、風味素材を配合することにより、良好な風味を効果的に付与や強化できることになる。
本発明の製造方法においては、前述したように、油相と水相とを、乳化、または分散、または乳化及び分散させることにより調製した混合物(上述した油中水型混合物あるいは、水中油型混合物)に気体及び、風味素材を混合させることで良好な風味を効果的に付与、強化している。そこで、油相、水相を調製する際に風味素材などの添加、混合が不要になる、等、所定の原料と配合で、油相、水相を調製することができる。
前記において、必要に応じて混合できる副原料としては、乳製品(クリーム、クリームチーズ、フレッシュチーズ(マスカルポーネ、フロマージュブラン、リコッタ等)、バター、牛乳等)、果汁、果汁ソース、野菜汁、野菜汁ソース、魚介系ソース、肉系ソース、出汁、調味料、チョコレート、カスタードクリーム、ナッツペースト等の風味素材等が挙げられる。
本発明の油中水型油脂組成物の製造方法では、前記のように調製した混合物(上述した油中水型混合物あるいは、水中油型混合物)(以下、単に「混合物」という)を、例えば、加熱(殺菌)してから冷却する。この際、必要に応じて、前記の混合物を濾過し、加熱(殺菌)してから冷却して、さらに必要に応じて、濾過することができる。
この加熱工程や冷却工程は、食品工業上で用いられる装置や機器で処理されれば、特に限定されないが、プレート式熱交換機、チューブ式熱交換機、通電(ジュール)式加熱機、タンク等を適用できる。
そして、この加熱条件や冷却条件は、特に限定されないが、例えば、前記の混合物を95℃にて20秒間以上で保持する加熱条件と、前記の混合物を30〜60℃に低下させて保持する冷却条件を挙げられる。
なお、冷却工程の後工程において、前記の混合物に気体や風味素材を混合しやすくなる観点から、混合物を30〜50℃に低下させて保持する冷却条件が好ましく、30〜40℃に低下させて保持する冷却条件がより好ましい。
また、前述した濾過工程は、特に限定されないが、セラミック製フィルター等を適用できる。
本発明の油中水型油脂組成物の製造方法では、前記のように調製した混合物に気体と風味素材を混合する。この場合、前記の混合物に気体と風味素材を同時に混合しても良いし、風味素材を混合した後に気体を混合しても良いし、気体を混合した後に風味素材を混合しても良い。
このとき、前記の混合物に気体と風味素材を同時に混合する場合や、風味素材を混合した後に気体を混合する場合には、風味素材の香味(風味)が散逸しやすいが、気体を混合した後に風味素材を混合する場合には、その風味が保持されやすい。そこで、前記の混合物に気体を混合した後に風味素材を混合することが望ましい。
前記のように調製した混合物に気体と風味素材を混合するにあたり、前述した加熱(殺菌)工程と引き続く冷却工程を終えてから、気体と風味素材を同時に混合する、あるいは、風味素材を混合した後に気体を混合する、若しくは、気体を混合した後に風味素材を混合するようにできる。
あるいは、前記のように調製した混合物に気体と風味素材を混合するにあたり、前述した加熱(殺菌)工程を終えてから、気体と風味素材を同時に混合する、あるいは、風味素材を混合した後に気体を混合する、若しくは、気体を混合した後に風味素材を混合し、その後、冷却するようにすることもできる。
更に、前記のように調製した混合物に気体と風味素材を混合するにあたり、前述した加熱(殺菌)工程を終えてから、気体を混合し、その後、冷却してから、風味素材を混合するようにすることもできる。
前記の混合物に気体と風味素材を混合する際には、この混合物と気体と風味素材を衛生的に(無菌的に)取り扱えると共に、風味素材の香味(風味)が散逸しにくいため、インラインで混合することが望ましい。
このとき、気体と風味素材の両方をインラインで混合しても良いし、気体のみをインラインで混合しても良いし、風味素材のみをインラインで混合しても良い。
より衛生的に(無菌的に)取り扱えると共に、より風味が散逸しにくいため、気体と風味素材の両方をインラインで混合することが特に望ましい。
前記の混合物に気体を混合する際には、例えば、気体に圧力を掛けながら、ノズル等により、気体を吹き込んで分散させる。この際、気体に圧力を掛けながら濾過した後に、ノズル等により、気体を吹き込んで分散させることが望ましい。
このとき、前記の混合物に気体を分散させられる能力を持った装置や機器であれば、特に限定されないが、気体をインラインで連続的に混合して分散させられる能力を持った装置や機器が好ましい。例えば、イズミフードマシナリ社の「ミクロブレンダー」(商品名:登録商標)等を用いることができる。
なお、前記の濾過工程は、特に限定されないが、除菌用フィルター等を適用できる。
そして、この気体として、安全性、購入費(コスト)、入手の容易性等の観点から、空気や不活性ガスが好ましく、不活性ガスとして、窒素がより望ましい。
このとき、この気体として、空気と不活性ガスを併用しても良いし、空気のみを用いても良いし、不活性ガスのみを用いても良いが、前記の混合物の酸化を防止や抑制できるため、不活性ガスのみを用いることが望ましい。
前記の混合物に気体を混合する際には、例えば、前記の混合物の容量の10容量%以上の気体を混合して、オーバーラン値を10%以上に調整すると良い。
本発明の方法により製造する油中水型油脂組成物の組織(掬いやすさや塗りやすさ)、物性(口溶けや舌触り)、風味(香味)の改良効果等の観点から、前記の混合物の容量の10〜100容量%の気体を混合して、オーバーラン値を10〜100%に調整する場合が好ましい。
かかる観点から、前記の混合物に混合する気体の容量は、前記の混合物の容量の25〜80%の場合がより好ましく、40〜60%の場合がさらに好ましい。
このとき、前記の混合物に気体を混合、すなわち、分散させた後に、5〜25℃に急冷することが好ましく、6〜20℃に急冷することがより好ましく、7〜18℃に急冷することがさらに好ましい。
そして、前記の混合物に気体を混合、すなわち、分散させてから急冷した後に、通常の油中水型油脂組成物の製造で用いられる混練機を適用して混練することが望ましい。
前記の混合物に風味素材を混合する際には、例えば、風味素材に圧力を掛けながら、ポンプと配管等により、風味素材を流し込んで分散させる。
風味素材に圧力を掛けながら加熱(殺菌)した後に、ポンプと配管等により、風味素材を流し込んで分散させることが望ましい。
このとき、前記の混合物に風味素材を分散させられる能力を持った装置や機器であれば、特に限定されないが、風味素材をインラインで連続的に混合して分散させられる能力を持った装置や機器が好ましく、例えば、各社の定量ポンプと配管の組合せ等を用いることができる。
なお、この加熱(殺菌)工程は、特に限定されないが、プレート式熱交換機、チューブ式熱交換機、通電(ジュール)式加熱機、タンク等を適用できる。
そして、この風味素材として、特に限定されないが、乳製品(クリーム、クリームチーズ、フレッシュチーズ(マスカルポーネ、フロマージュブラン、リコッタ等)、バター、牛乳等)、果汁、果汁ソース、野菜汁、野菜汁ソース、魚介系ソース、肉系ソース、出汁、調味料、チョコレート、カスタードクリーム、ナッツペースト等が挙げられる。これらを単独で用いても良いし、これらを組合せて用いても良い。
このとき、この風味素材として、本発明の方法により製造する油中水型油脂組成物との物性や風味の相性等の観点から、乳製品が好ましく、乳製品として、クリームがより好ましい。
なお、この風味素材をインラインで(連続的に)混合する場合には、揮発性の成分の散逸が防止や抑制されるため、この風味素材として、揮発性の物質であっても良い。
前記の混合物に風味素材を混合する際には、例えば、前記の混合物と風味素材の重量比が50:50〜90:10であると良い。
本発明の方法により製造する油中水型油脂組成物の組織(掬いやすさや塗りやすさ)、物性(口溶けや舌触り)、風味(香味)の改良効果等の観点から、前記の混合物と風味素材の重量比が50:50〜85:15である場合が好ましく、50:50〜80:20の場合がより好ましく、50:50〜75:25の場合がさらに好ましい。
前述したように、前記の混合物に気体を混合(分散)させた後に、5〜25℃に急冷することが好ましく、6〜20℃に急冷することがより好ましく、7〜18℃に急冷することがさらに好ましい。
そして、前記の混合物に気体を混合(分散)させてから急冷した後に、通常の油中水型油脂組成物の製造で用いられる混練機を適用して、前記風味素材と混練することが望ましい。
本発明の油中水型油脂組成物(マーガリンやスプレッド等)では、油相と水相とを、乳化、または分散、または乳化及び分散させることにより調製した混合物に気体を混合(分散)させている。あるいは、前記混合物に加熱(殺菌)工程を加えた後、若しくは、加熱(殺菌)工程と引き続く冷却工程とを加えた後、気体を混合(分散)させている。
これにより、気体が分散していることで、従来の油中水型油脂組成物に比べると、その掬いやすさや塗りやすさが良好であり、その口溶けや舌触りも良好である。
更に、気体を混合(分散)させる際に、あるいは、気体を混合(分散)させた後に、風味素材を混合(分散)させている。そこで、風味素材が分散していることで、風味素材の香味(香気成分)を喫食時に強く良好に感じることとなる。
ここで、従来の油中水型油脂組成物の製造工程の一例を図1に示した。
従来では、油相と水相の原料を混合し、加熱(殺菌)、冷却、混練を繰り返すことで、油脂を結晶化させ、油中水型油脂組成物に特有の物性に調製していた。
従来の回分式(バッチ式)で原料を混合する段階において、生クリーム等の繊細な風味を持つ風味素材を混合(添加)すると、その原料と風味素材をタンク等で撹拌している最中に、その風味素材の持つ良好な香気成分等が揮発して良好な風味が失われることが多かった。
また、あらかじめ油相に生クリーム等の風味素材を分散させると、その後の気体を分散させる段階において、気体の分散時の機械的な剪断力により、クリーム等の風味素材の液滴径が小さくなり、その風味素材の持つ良好な風味を感じにくくなる傾向があった。
さらに、回分式(バッチ式)で原料を混合する段階において、風味素材を混合すると、微生物による汚染の危険性があった。そこで、水相の浸透圧を高めて、微生物学的な保存性を向上させる目的で、水相に糖類を添加することがあった。
この対応を行った場合、油中水型油脂組成物(最終製品)の風味は甘いものに限定される等の課題があった。
一方、本発明の油中水型油脂組成物の製造工程の一例を図2に示した。
本発明でも従来の油中水型油脂組成物の製造方法と同様に、油相と水相とを調製する。
そして、調製した油相と水相とを、乳化または分散または乳化及び分散させることにより混合物を調製する。
本発明では、前記の混合物を調製してから、気体を混合し、更に、風味素材を配合することにより、良好な風味を効果的に付与や強化しているので、油相を調製する工程、水相を調製する工程、あるいは、前記混合物を調製する工程で副原料を混合しないようにすることもできる。
ただし、必要に応じて、油相や水相を調製する際に、風味素材や物性改良剤等の副原料を混合しても良いし、前記の混合物を調製する際に、油相や水相と同時に前記副原料を混合してもよい。
油相と水相とを上述したように乳化及び/分散させて調製した混合物、あるいは油相と水相と前述した副原料とを上述したように乳化及び/分散させて調製した混合物を加熱(殺菌)した後、気体を混合(分散)させる。その後、冷却する。あるいは、混合物を加熱(殺菌)した後、冷却し、これに気体を混合(分散)させる。
そして、その後、風味素材(例えば、クリーム等の繊細な風味素材)を、インラインで混合し、油中水型油脂組成物に特有の物性に調製する。
本発明の製造方法では、連続式(インライン)で前述した混合物に気体を分散させてから、風味素材を混合することができる。そこで、従来の回分式と異なり、機械的な剪断力を極めて少なく制御できる。そこで、風味素材の液滴径を適度な寸法に調整して、風味素材の風味を強調できた。
また、本発明の製造方法では、連続式(インライン)で原料を混合する段階において、風味素材を混合すると、微生物による汚染の危険性が低減される。
そこで、グリシン等の日持ち向上剤を添加すれば、水相に糖類を添加しなくても、冷蔵保存性と微生物耐性が従来の油中水型油脂組成物と同等になった。
従来の油中水型油脂組成物の製造方法では、クリームの配合量を増やすと、クリームの乳化が壊れて、クリームに由来する乳脂肪が油相へ移行していた。
この場合、油中水型油脂組成物(最終製品)の物性は硬くなり、掬いやすさ(スクープ性)や塗りやすさ(スプレッダブル性)が低下していた。
一方、本発明の油中水型油脂組成物の製造方法では、油相と水相とを上述したように乳化及び/分散させて調製した混合物に気体を混合(分散)することで、固体脂の配合量を少なく調整できる。あるいは、前記混合物を加熱(殺菌)した後、又は、加熱(殺菌)及び冷却した後に、気体を混合(分散)することで、固体脂の配合量を少なく調整できる。
この結果、本発明の製造方法によれば、クリームの乳化を安定的に維持しながら、掬いやすさや、塗りやすさを向上できた。
また、従来の油中水型油脂組成物の製造方法では、加熱(殺菌)の段階において、油中水型油脂組成物を配管等に何回も循環させるなどして、それに加熱を繰り返すことで、クリーム等の繊細な風味素材の香気成分が特に多く失われていた。
また、油中水型油脂組成物に加熱を繰り返すことで、クリームに由来するタンパク質や塩類等が加熱殺菌機で焦げ付く等の問題も生じていた。
一方、本発明では、油相と水相とを上述したように乳化及び/分散させて調製した混合物を加熱(殺菌)した後、クリーム等の繊細な風味素材を混合することができる。そこで、余分な加熱の負荷がなく、クリーム等の繊細な風味素材の香気成分を良好に保持できた。特に、クリーム等の繊細な風味素材をインラインで混合すると、一層、クリーム等の繊細な風味素材の香気成分を良好に保持できた。
そして、本発明の製造方法では、油中水型油脂組成物に加熱を繰り返さないため、タンパク質や塩類等の加熱殺菌機で焦げ付く等の問題も生じなかった。
以下、実施例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。なお、以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
調合用のタンクにおいて、食用植物油脂(昭和産業社製)を1217.7kg、食用精製加工油脂(植田製油社製、太陽油脂社製の両品を混合)を402.0kg、レシチン(日清オイリオ社製)を2.0kg、乳化剤(理研ビタミン社製)を4.0kgで配合して混合(撹拌)し、60℃に加温したところに、着色料(β−カロチン溶液、DSMニュートリションジャパン社製)を0.010kgで添加して混合(撹拌)し、油相を調製(調合)した。
一方、別の調合用のタンクにおいて、水を323.4kg、食塩(ソルト関西社製)を25.6kg、脱脂粉乳(明治社製)を20.0kg、クリームパウダー(ユニテックフーズ社製)を1.4kgで配合して混合し、60℃に加温して、水相を調製(調合)した。
そして、調合用のタンクにおいて、油相の入ったところに、水相を添加して混合し、さらに香料(塩野香料社製)を0.6kgで添加して混合した。
その後に、この混合物を50〜60℃程度に加温・保持しながら、10分間で撹拌を続けて、乳化(予備乳化)させた。
次に、この混合物をプレート式熱交換機(殺菌機)に送って、95℃にて20秒間で加熱(殺菌)した後に、30〜40℃程度に冷却した。
そして、この混合物をミクロブレンダー(イズミフードマシナリ社製)に送って、この混合物に窒素ガスを吹き込んで(配合して)分散させた。
このとき、この窒素ガスの配合量(添加量)が混合物の容量に対して43〜53容量%程度になるよう、窒素ガスの配合量を設定(調整)した。
さらに、この混合物をチューブ式熱交換機(冷却機)に送って、7〜18℃程度に急冷した後に、混練機に送って混練した。
その後に、この混合物を混練機から充填機まで配管を通して連続的に送る途中において、殺菌済みの乳クリームの857.1kgを1〜10℃程度に保持しながら、インラインで(比例的に)混合(添加)した。
このとき、この混合物と乳クリームの重量比が70:30程度になるよう、殺菌済みの乳クリームの配合量(添加量)を設定(調整)した。
最終的に、この混合物を充填機に送って、容器へ充填し、油中水型油脂組成物を製造した。
なお、この殺菌済みの乳クリームは、生クリーム(明治社製)を848.6kgと、日持ち向上剤(グリシン、三栄源エフ・エフ・アイ社製)を8.5kgで混合し、プレート式熱交換機(殺菌機)に送って、95℃にて20秒間で加熱(殺菌)して調製した。
以上の本発明の製造方法で得られた油中水型油脂組成物では、容器から掬いやすくて、トーストしていないパンにも塗りやすく、喫食時には口溶けも舌触りも非常に良好であり、クリームの優れた風味(香味)を強く感じられた。
調合用のタンクにおいて、食用植物油脂(昭和産業社製)を1339.8kg、食用精製加工油脂(植田製油社製、太陽油脂社製の両品を混合)を442.2kg、レシチン(日清オイリオ社製)を2.2kg、乳化剤(理研ビタミン社製)を4.4kgで配合して混合(撹拌)し、60℃に加温したところに、着色料(β−カロチン溶液、DSMニュートリションジャパン社製)を0.011kgで添加して混合(撹拌)し、油相を調製(調合)した。
一方、別の調合用のタンクにおいて、水を355.7kg、食塩(ソルト関西社製)を31.5kg、脱脂粉乳(明治社製)を22.0kg、クリームパウダー(ユニテックフーズ社製)を1.5kgで配合して混合し、60℃に加温して、水相を調製(調合)した。
そして、調合用のタンクにおいて、油相の入ったところに、水相を添加して混合し、さらに香料(塩野香料社製)を0.7kgで添加して混合した。
その後に、この混合物を50〜60℃程度に加温・保持しながら、10分間で撹拌を続けて、乳化(予備乳化)させた。
次に、この混合物をプレート式熱交換機(殺菌機)に送って、95℃にて20秒間で加熱(殺菌)した後に、30〜40℃程度に冷却した。
そして、この混合物をミクロブレンダー(イズミフードマシナリ社製)に送って、この混合物に窒素ガスを吹き込んで(配合して)分散させた。
このとき、この窒素ガスの配合量(添加量)が混合物の容量に対して43〜53容量%程度になるよう、窒素ガスの配合量を設定(調整)した。
さらに、この混合物をチューブ式熱交換機(冷却機)に送って、7〜18℃程度に急冷した後に、混練機に送って混練した。
その後に、この混合物を混練機から充填機まで配管を通して連続的に送る途中において、殺菌済みの乳クリームの1800.0kgを1〜10℃程度に保持しながら、インラインで(比例的に)混合(添加)した。
このとき、この混合物と乳クリームの重量比が55:45程度になるよう、殺菌済みの乳クリームの配合量(添加量)を設定(調整)した。
最終的に、この混合物を充填機に送って、容器へ充填し、油中水型油脂組成物を製造した。
なお、この殺菌済みの乳クリームは、生クリーム(明治社製)を1782.0kgと、日持ち向上剤(グリシン、三栄源エフ・エフ・アイ社製)を18.0kgで混合し、プレート式熱交換機(殺菌機)に送って、95℃にて20秒間で加熱(殺菌)して調製した。
以上の本発明の製造方法で得られた油中水型油脂組成物では、容器から掬いやすくて、トーストしていないパンにも塗りやすく、喫食時には口溶けも舌触りも非常に良好であり、クリームの優れた風味(香味)を強く感じられた。
調合用のタンクにおいて、食用植物油脂(昭和産業社製)を1398.4kg、食用精製加工油脂(植田製油社製、太陽油脂社製の両品を混合)を374.4kg、レシチン(日清オイリオ社製)を19.2kg、乳化剤(理研ビタミン社製)を9.6kgで配合して混合(撹拌)し、60℃に加温したところに、ココアパウダー(明治社製)を160kgで配合して混合(撹拌)した。さらに、チョコレート(明治社製)を160kgで配合して混合(撹拌)し、油相を調製(調合)した。
一方、別の調合用のタンクに水を309.76kg入れ、60℃に加温した。
そして、調合用のタンクにおいて、油相の入ったところに、加温した水を添加して混合(撹拌)した。
高果糖液糖(三和澱粉工業社製)を640kgで配合して混合(撹拌)し、加温して柔らかくした調製練乳(明治社製)を128kgで配合して混合(撹拌)した。さらに香料(高砂香料工業社製)を0.64kgで添加して混合した。
その後に、この混合物を50〜60℃程度に加温・保持しながら、10分間で撹拌を続けて、乳化(予備乳化)させた。
次に、この混合物をプレート式熱交換機(殺菌機)に送って、95℃にて20秒間で加熱(殺菌)した後に、45℃に冷却した。
そして、この混合物をミクロブレンダー(イズミフードマシナリ社製)に送って、この混合物に窒素ガスを吹き込んで(配合して)分散させた。
このとき、この窒素ガスの配合量(添加量)が混合物の容量に対して33〜43容量%程度になるように、窒素ガスの配合量を設定(調整)した。
さらに、この混合物をチューブ式熱交換機(冷却機)に送って、7〜18℃程度に急冷した後に、混練機に送って混練した。
その後に、この混合物を混練機から充填機まで配管を通して連続的に送る途中において、殺菌済みの乳クリームの800kgを1〜10℃程度に保持しながら、インラインで(比例的に)混合(添加)した。
このとき、この混合物と乳クリームの重量比が80:20程度になるよう、殺菌済みの乳クリームの配合量(添加量)を設定(調整)した。
最終的に、この混合物を充填機に送って、容器へ充填し、油中水型油脂組成物を製造した。
なお、この殺菌済みの乳クリームは、生クリーム(明治社製)を792kgと、日持ち向上剤(グリシン、三栄源エフ・エフ・アイ社製)を8.0kgで混合し、プレート式熱交換機(殺菌機)に送って、95℃にて20秒間で加熱(殺菌)して調製した。
以上の本発明の製造方法で得られた油中水型油脂組成物では、容器から掬いやすくて、トーストしていないパンにも塗りやすく、喫食時には口溶けも舌触りも非常に良好であり、チョコレート及びクリームの優れた風味(香味)を強く感じられた。
[比較例1]
実施例1と同一の配合で、実施例1と同様にして、調合用のタンクにおいて、油相を調製(調合)した。
一方、別の調合用のタンクにおいて、水を323.4kg、食塩(ソルト関西社製)を28.6kg、脱脂粉乳(明治社製)を20.0kg、クリームパウダー(ユニテックフーズ社製)を1.4kgで配合して混合し、60℃に加温したところに、生クリーム(明治社製)を848.6kg、日持ち向上剤(グリシン、三栄源エフ・エフ・アイ社製)を8.5kgで添加して混合(撹拌)し、水相を調製(調合)した。
そして、調合用のタンクにおいて、油相の入ったところに、水相を添加して混合し、さらに香料(塩野香料社製)を0.6kgで添加して混合した。
その後に、この混合物を50〜60℃程度に加温・保持しながら、10分間で撹拌を続けて、乳化(予備乳化)させた。
次に、この混合物をプレート式熱交換機(殺菌機)に送って、95℃にて20秒間で加熱(殺菌)した後に、30〜40℃程度に冷却した。
そして、この混合物をミクロブレンダー(イズミフードマシナリ社製)に送って、この混合物に窒素ガスを吹き込んで(配合して)分散させた。
このとき、この窒素ガスの配合量(添加量)が混合物の容量に対して43〜53容量%程度になるよう、窒素ガスの配合量を設定(調整)した。
さらに、この混合物をチューブ式熱交換機(冷却機)に送って、7〜18℃程度に急冷した後に、混練機に送って混練した。
最終的に、この混合物を充填機に送って、容器へ充填し、油中水型油脂組成物を製造した。
このように、比較例1の油中水型油脂組成物は、窒素ガス混合後に風味素材(殺菌済乳クリーム)を混合せず、一方で、実施例1において、窒素ガス混合後にインラインで混合した殺菌済乳クリームと同一配合の生クリーム、日持ち向上剤を、水相を調製する際に添加、混合したものである。
以上の製造方法で得られた比較例1の油中水型油脂組成物では、実施例1、実施例2で製造した本発明の油中水型油脂組成物に比べると、物性が経時的に固くなり、容器から掬いにくく、パンにも塗りにくく、喫食時には口溶けを感じられず、クリームの風味は乏しかった。
[比較例2]
従来の製造方法で油中水型油脂組成物(マーガリン)を以下のように製造した。
調合用のタンクにおいて、食用植物油脂(昭和産業社製)を994.0kg、食用精製加工油脂(植田製油社製、太陽油脂社製の両品を混合)を406.0kg、レシチン(日清オイリオ社製)を2.0kg、乳化剤(理研ビタミン社製)を4.0kgで配合して混合(撹拌)し、60℃に加温したところに、着色料(β−カロチン溶液、DSMニュートリションジャパン社製)を0.02kgで添加して混合(撹拌)し、油相を調製(調合)した。
一方、別の調合用のタンクにおいて、水を303.08kg、食塩(ソルト関西社製)を22.0kg、脱脂粉乳(明治社製)を64.0kgで配合して混合し、60℃に加温したところに、生クリーム(明治社製)を200kgで添加して混合(撹拌)し、水相を調製(調合)した。
そして、調合用のタンクにおいて、油相の入ったところに、水相を添加して混合し、さらに香料(ケミ・コム・ジャパン社製)を4.9kgで添加して混合した。
その後に、この混合物を50〜60℃程度に加温・保持しながら、10分間で撹拌を続けて、乳化(予備乳化)させた。
次に、この混合物をプレート式熱交換機(殺菌機)に送って、95℃にて20秒間で加熱(殺菌)した後に、30〜40℃程度に冷却した。
さらに、この混合物をチューブ式熱交換機(冷却機)に送って、7〜18℃程度に急冷した後に、混練機に送って混練した。
最終的に、この混合物を充填機に送って、容器へ充填し、油中水型油脂組成物を製造した。
[試験例1]
実施例1で得られた本発明の油中水型油脂組成物について、そこに細菌を練り込み保存試験を実施した。
対照品として「明治一番搾りキャノーラソフトカロリーハーフ」(明治社製)を用いた。
試験用の細菌として、耐熱性グラム陽性桿菌の Bacillus cereus、低温菌グラム陰性桿菌の Pseudomonas sp.、大腸菌群グラム陰性桿菌の Enterobacter cloace、グラム陽性球菌の Staphylococcus epidermidis(4種類)の混合菌を用いた。
試験用の酵母として、Candida kruseiを用いた。本発明の油中水型油脂組成物の1gに対して、それぞれ細菌と酵母の菌数が1000個になるように接種して、試料を調製した。
この試料を滅菌シャーレに入れて、ビニールテープで密封し、それぞれ10℃、15℃、20℃、25℃で保存した。
10℃の保存では、7日後、14日後、30日後、90日後、180日後、270日後に菌数を測定した。
15℃の保存では、7日後、14日後、30日後、90日後に菌数を測定した。
20℃の保存では、3日後、7日後、14日後に菌数を測定した。
25℃の保存では、3日後、7日後に菌数を測定した。
これらの菌数は常法に従い、標準寒天培地(SMA)を用いて測定した。
図3に、各保存温度における細菌数の増減を示し、図4に、各保存温度における酵母数の増減を示した。なお、図3と図4では共に、本発明の製造方法で得られた油中水型油脂組成物の試験結果を「本発明品」と表記した。
本試験の結果より、本発明品(本発明の製造方法で得られた油中水型油脂組成物)では、対照品と比べて、保存期間中における細菌と酵母が特段増加することはなかった。つまり、本発明品の微生物学的な保存性は、対照品(従来品)と同等であることを確認できた。
[試験例2]
実施例1と比較例2について、保存中の硬度変化を検討した。
実施例1、及び比較例2で得られた油中水型油脂組成物の適量を5℃で270日間、保存し、保存7日後、14日後、21日後、30日後、60日後、90日後、135日後、180日後、270日後に、それぞれ硬度を測定した。硬度は、レオメータを用いた侵入試験により測定した。
測定条件の詳細は以下の通りである。
測定機器;不動工業社製 Jシリーズ
試料温度;5℃
プランジャー形状;直径5mmの円柱形
プランジャー移動速度;1mm/秒
応力計算法;プランジャーが侵入して10秒後に受けている荷重(gf)を、プランジャー円柱の面積値で割って応力を算出した。
測定結果は図5図示の通りであった。
この試験例2の結果より、実施例1の本発明の油中水型油脂組成物は、従来の製造方法による従来の油中水型油脂組成物(マーガリン)(比較例2)と比べても、同等の硬度保持性を有しており、保存中に著しい硬度上昇がないことが確認された。
また、実施例1の油中水型油脂組成物の硬度は、比較例2の従来の油中水型油脂組成物(マーガリン)半分程度の硬度であり、実施例1の本発明の油中水型油脂組成物が、容器から掬いやすくて、トーストしていないパンにも塗りやすいことが、試験例2からも裏付けられた。
本発明によれば、喫食時に従来の油中水型油脂組成物(マーガリンやスプレッドなど)にはない良好な口溶けで、クリーム等の風味素材の風味が十分に感じられる油中水型油脂組成物(マーガリンやスプレッドなど)の製造方法が提供され、新規な食品、食素材を提供することができる。

Claims (5)

  1. 乳化剤を含む油相と水相を乳化及び/又は分散させて調製した混合物を加熱した後、当該混合物の容量の10容量%以上の窒素ガス及び風味素材を混合し、
    前記混合物と前記風味素材の重量比が50:50〜90:10である
    ことを特徴とする、油中水型油脂組成物の製造方法。
  2. 乳化剤を含む油相、水相、副原料を乳化及び/又は分散させて調製した混合物を加熱した後、当該混合物の容量の10容量%以上の窒素ガス及び風味素材を混合し、
    前記混合物と前記風味素材の重量比が50:50〜90:10である
    ことを特徴とする、油中水型油脂組成物の製造方法。
  3. 前記窒素ガス及び前記風味素材をインラインで混合することを特徴とする、請求項1又は2に記載の油中水型油脂組成物の製造方法。
  4. 前記風味素材が乳製品である、請求項1からのいずれか一項に記載の油中水型油脂組成物の製造方法。
  5. 前記乳製品がクリームである、請求項に記載の油中水型油脂組成物の製造方法。
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