JP4920075B2 - カカオプリンの製造方法およびカカオプリン - Google Patents

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Description

本発明は、カカオプリンの工業的な製造方法とこの製造方法により得られたカカオプリンに関する。
カカオプリンを工業的に製造する場合には、まず、チョコレートおよびココアからなるカカオ成分、乳化剤、ゲル化剤などを水に加え、加温し、均一に混合して原料液とする。ついで、この原料液を殺菌機で殺菌した後、容器に充填して冷却し、ゲル化剤の作用によりゲル化、固化させる方法により、カカオプリンが製造される。カカオ成分のうち、チョコレートとは、通常、カカオ豆を焙炒し磨砕してカカオマスとしたものに、牛乳、ココアバター、砂糖などを混合して得られる油中水滴型乳化物である。具体的には、チョコレートは、カカオマスに、牛乳、ココアバター、砂糖などを混合した後、これをロール機で微粒化し、さらにコンチェにて精錬後、テンパリングマシンにてココアバターの結晶を安定化し、冷却固化して得られる。カカオ成分のうち、ココアとは、カカオマスを脱脂してカカオバターを分離して得られた粉状のものであり、ココアパウダーとも言う。ココアには、通常、脂肪分がある程度残っている。本明細書においてカカオ成分とは、チョコレートの含有量が50〜99%の範囲のものを言う。チョコレートの含有量は、この範囲において、嗜好に合わせて調整される。
このようなカカオ成分を原料として使用するカカオプリンは、他のアイテムのプリンに比較して、ロングライフ製品の条件(例えば、UHT殺菌機では140℃、2秒相当、レトルト殺菌機では121.1℃、4分相当程度)で殺菌しても、保存中に細菌増殖による風味不良が発生する確率が高いことが経験的に知られている。
例えば非特許文献1には、大豆油中のB.subtilisの芽胞は、著しく耐熱性が高いことが述べられている。よって、油相部が連続相を形成しているチョコレートにおいても、油脂に包まれた芽胞が存在する確率が高く、その芽胞は耐熱性が高くなっている可能性があると考えられる。このような芽胞を形成する芽胞菌の殺菌は困難であり、芽胞菌が存在するチョコレートをカカオプリンの原料液に用いた場合、この原料液は通常の殺菌工程では殺菌されにくい、すなわち、殺菌性が低いという問題があった。また、ココアにおいても、カカオマスからカカオバターが脱脂される工程において、残った脂肪分の中に芽胞が包まれて残ると考えられ、チョコレートと同様に、殺菌工程で殺菌されにくいという問題があった。
そこで、他のアイテムのプリンに比較してこのように殺菌性が低く、一般的な殺菌工程で十分には殺菌されにくいカカオプリンに対しては、賞味期限を長くするために、特許文献1や特許文献2に記載されているように、ポリリジンなどの保存料や、リゾチームなどの日持ち向上剤を併用する方法が採られていた。
N.MOLINら,「Effect of Lipid Materials on Heat Resistance of Bacterial Spores」,APPLIED MICROBIOLOGY,Nov.1967,p1422−1426,Vol.15,No.6
特開平05−68521号公報 特開2005−27563号公報
しかしながら、昨今の添加物を忌避する消費者の嗜好などに鑑みて、添加物の低減が課題となっている。また、リゾチームやポリリジン等の保存料、日持ち向上剤は、風味が良くない上に、殺菌性または静菌性を向上させ細菌的保存性を高める、という効果が十分には得られるものではないため、カカオプリン中に残留した菌の種類と量によっては、その増殖の抑制が不十分となる場合があった。
そのため、カカオプリンの製造方法においては、チョコレートおよびココア中の芽胞菌の殺菌性または静菌性を高め、細菌的保存性を向上させる手段が望まれている。
本発明の目的は、細菌的保存性の優れたカカオプリンを製造する方法と、この方法により製造されたプリンとを提供することである。
本発明者は、特定のHLBの第1の乳化剤をカカオ成分に作用させてから、特定のHLBの第2の乳化剤を作用させ、その後、ゲル化剤などの他の成分を加えて殺菌することによって、チョコレートおよびココア中の芽胞菌の殺菌性を向上させ、芽胞菌を殺菌工程で殺菌されやすい状態とすることに想到して、本発明を完成するに至った。
本発明のカカオプリンの製造方法は、HLBが9〜16である第1の乳化剤を含有する液と、チョコレートおよびココアからなり、前記チョコレートの含有量が50〜99質量%であるカカオ成分とを混合して、カカオ液を調製するカカオ液調製工程と、
前記カカオ液とHLBが4〜7である第2の乳化剤とを混合して、カカオ乳化液を調製するカカオ乳化液調製工程と、
前記カカオ乳化液とゲル化剤含有成分とを混合して原料液を調製する原料液調製工程と、
前記原料液を殺菌する殺菌工程と、を含み、
前記カカオ成分100質量部に対して、前記第1の乳化剤と前記第2の乳化剤の合計量が3〜10質量部であることを特徴とする。
前記第1の乳化剤と前記第2の乳化剤の質量比は、2:8〜9:1の範囲であることが好ましい。
本発明のカカオプリンは、HLBが9〜16である第1の乳化剤を含有する液と、チョコレートおよびココアからなり、前記チョコレートの含有量が50〜99質量%であるカカオ成分とを混合して、カカオ液を調製するカカオ液調製工程と、前記カカオ液とHLBが4〜7である第2の乳化剤とを混合して、カカオ乳化液を調製するカカオ乳化液調製工程と、前記カカオ乳化液とゲル化剤含有成分とを混合して原料液を調製する原料液調製工程と、前記原料液を殺菌する殺菌工程と、を含み、前記カカオ成分100質量部に対して、前記第1の乳化剤と前記第2の乳化剤の合計量が3〜10質量部である方法により製造されたことを特徴とする。
本発明によれば、細菌的保存性の優れたカカオプリンを提供することができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のカカオプリンの製造方法は、HLBが9〜16である第1の乳化剤を含有する液とカカオ成分とを混合して、カカオ液を調製するカカオ液調製工程、このカカオ液とHLBが4〜7である第2の乳化剤とを混合して、カカオ乳化液を調製するカカオ乳化液調製工程、このカカオ乳化液とゲル化剤含有成分とを混合して原料液を調製する原料液調製工程、この原料液を殺菌する殺菌工程を有する。以下に各工程を説明する。
[カカオ液調製工程]
カカオ液調製工程は、HLBが9〜16である第1の乳化剤を含有する液とカカオ成分とを混合して、カカオ液を調製する工程である。
ここで使用されるカカオ成分とは、チョコレートとココアとを混合したものであって、カカオ成分100質量%中、チョコレートの含有量は50〜99質量%の範囲内で、任意に調整される。このうちチョコレートは、通常、カカオ豆を焙炒し摩砕してカカオマスとしたものに、牛乳、ココアバター、砂糖などを混合した後、ロール機で微粒化し、コンチェにて精錬後、テンパリングマシンにてカカオバターの結晶を安定化した後、冷却固化して作られる油中水滴型乳化物である。また、ココアは、カカオマスを脱脂してカカオバターを分離して得られた粉状のいわゆるココアパウダーである。ただし、ココアには、通常、脂肪分(カカオバター)がある程度残っている。
第1の乳化剤には、HLBが9〜16である親水性の乳化剤が使用される。このような第1の乳化剤としては、HLBが9〜16であって食品用乳化剤として入手可能なものであれば特に制限はなく、具体的には、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート等の1種以上を使用できる。第1の乳化剤は、カカオ成分の親水性を高めるものと考えられる。
なお、HLBとはHydrophile−Lipophile Balanceの頭文字を取ったものであり、親水親油バランスとも呼ばれる。
カカオ液調製工程の具体的方法としては、60〜80℃に加温した水に第1の乳化剤を溶解して乳化剤液を調製し、ついで、この乳化剤液にカカオ成分を混合して均一に分散させ、好ましくは3分間以上撹拌しながら第1の乳化剤とカカオ成分とを十分に馴染ませる方法が好適に例示できる。
カカオ液調製工程で使用される第1の乳化剤の量は、後述するように、第2の乳化剤の量との合計量として、好適な範囲に調整される。
[カカオ乳化液調製工程]
カカオ乳化液調製工程は、上述のカカオ液調製工程で調製されたカカオ液と、HLBが4〜7である第2の乳化剤とを混合して、カカオ乳化液を調製する工程である。
第2の乳化剤としては、HLBが4〜7の乳化剤が使用される。第2の乳化剤は、上述のカカオ液調製工程において、第1の乳化剤の作用により親水性が高められたカカオ液に作用するものである。このように作用させることにより、カカオ成分中では油脂に包まれた状態で存在する、すなわち、油相中に存在する芽胞菌をより水和しやすい状態にするものと推測される。このように芽胞菌を水和しやすい状態とすることにより、芽胞菌の殺菌性が向上して、より殺菌されやすい状態となり、後の殺菌工程において従来のロングライフ製品の条件で殺菌した場合でも十分に殺菌でき、細菌的保存性の優れたカカオプリンを製造できると考えられる。すなわち、第1の乳化剤を添加してから第2の乳化剤を添加することによって、後の殺菌工程において十分に殺菌できる。
ここで第2の乳化剤のHLBが4未満であると、該乳化剤の親油性が強すぎ、油相中の芽胞菌を水和しやすい状態とすることが困難となり、HLBが7を超えると、親水性が強すぎ、油相中に存在する芽胞菌に作用すること自体が難くなる。
このような第2の乳化剤としては、HLBが4〜7であって食品用乳化剤として入手可能なものであれば特に制限はなく、具体的には、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の1種以上を使用できる。
カカオ乳化液調製工程の具体的方法としては、上述のカカオ液調製工程で得られたカカオ液に第2の乳化剤を添加し、均一混合し、好ましくは3分間以上撹拌しながら第2の乳化剤とカカオ液を十分に馴染ませる方法が好適に例示できる。
上述したカカオ液調製工程で使用される第1の乳化剤と、カカオ乳化液調製工程で使用される第2の乳化剤の量は、第1の乳化剤と第2の乳化剤の合計量がカカオ成分100質量部に対して、3〜10質量部である。第1の乳化剤と第2の乳化剤の合計量が下限値以上であると、チョコレートおよびココア中の芽胞菌の殺菌性を高めることができ、後の殺菌工程において十分に殺菌できる。また、上限値以下であると、風味の良いカカオプリンを得ることができる。
第1の乳化剤と第2の乳化剤の質量比は、2:8〜9:1の範囲であることが好ましい。第1の乳化剤と第2の乳化剤の質量比が上記の範囲であれば、チョコレートおよびココア中の芽胞菌の殺菌性を高めることができ、後の殺菌工程において十分に殺菌できる。
こうして調製されるカカオ乳化液は、カカオ乳化液中のカカオ成分の濃度が10〜50質量%の範囲とされることが好ましい。カカオ乳化液中のカカオ成分の濃度が上限値以下であると、適度な水が存在するため、第1の乳化剤および第2の乳化剤とカカオ成分とが十分に混合される。下限値以上であると、カカオ乳化液中の水の量が過剰になりすぎないため、後述する原料液調製工程で混合されるゲル化剤含有成分に水が含まれる場合、その水の量が少量に制限されることがない。ゲル化剤含有成分中の水の量が少量に制限されると、ゲル化剤含有成分中のゲル化剤やその他の成分の分散性や溶解性が不十分となる。
[原料液調製工程]
原料液調製工程は、上述のカカオ乳化液調製工程で調製されたカカオ乳化液とゲル化剤含有成分とを混合して、原料液を調製する工程である。
ここでゲル化剤含有成分は、少なくともゲル化剤を含有するものであって、さらに、カカオプリンに必要に応じて使用されるその他の成分、例えば、各種乳製品、糖類、卵類、甘味料、香料、調味料、乳化剤、増粘剤、安定剤、着色料などの1種以上をさらに含有する。
ゲル化剤含有成分は、ゲル化剤とその他の成分の他にさらに水を含有し、水中にゲル化剤とその他の成分とが溶解または分散した状態で、カカオ乳化液と混合されることが好ましい。
ここで使用されるゲル化剤としては、液へ加熱溶解した後、冷却するとゲル化、固化するタイプのゲル化剤であれば特に制限なく使用できる。具体的には、例えば、市販の寒天、カラギーナン、ファーセルラン、ゼラチン、ローメトキシルペクチン、アルギン酸ナトリウム、ジェランガム、キサンタンガムとローカストビーンガムの混合ゲル化剤などが挙げられ、これらのうち1種以上を使用できる。使用されるゲル化剤の種類と添加量は、製造されるカカオプリンの食感と各ゲル化剤の特徴とを考慮して、決定する。
なお、一般的なプリンの製造においては、固化のために上述のようなゲル化剤を用いる方法の他、卵を用いる方法もあるが、本発明ではゲル化剤を用いる。ゲル化剤は、ゲル化温度以上に加熱されると溶融して液状になり、冷却されてゲル化温度以下になるとゲル化、固化する性質を持ち、これが熱可逆的に起こる。よって、ゲル化剤を使用した場合には、後述する殺菌工程において、カカオ成分中の耐熱性菌である芽胞菌を殺菌するために原料液を高温で加熱しても、その後の固化の工程に何ら支障はない。一方、ここで仮に卵を用いた場合には、卵のゲル強度(固化の程度)を食感に適したものとするためには、加熱温度と時間とを適切な加熱条件に設定する必要がある。また、卵の液状化−ゲル化は熱可逆的には起らない。よって、このような加熱条件と、後の殺菌工程で芽胞菌を殺菌する条件とを両立させることは困難である。
[殺菌工程]
殺菌工程は、上述のようにして調製された原料液を殺菌機で殺菌する工程であり、通常、加熱殺菌により行う。
殺菌機としては、供給される原料液を連続的に殺菌するUHT殺菌機などの連続殺菌機、原料液をプリンの容器に充填後、殺菌するレトルト殺菌機等が使用できるが、原料液を連続殺菌機で殺菌した後に容器に充填し、その後、静置冷却して固化させる方法がゲル化剤のゲル化状態をコントロールしやすく、食感の良いカカオプリンが得られやすい。よって、連続殺菌機により殺菌することが好ましい。
連続殺菌機であるUHT殺菌機としては、プレート式UHT殺菌機(例えば商品名:MAU;森永エンジニアリング社製)、チューブラー式UHT殺菌機、直接加熱式UHT殺菌機などが例示でき、これらをいずれも使用できるが、チューブラー式UHT殺菌機は伝熱効率でプレート式UHT殺菌機に劣り、直接加熱式UHT殺菌機はフラッシュベッセル(加熱時に加えた蒸気を減圧して抜くチャンバー)で香気成分が抜けてしまうことから、間接加熱であるプレート式UHT殺菌機を使用することが好ましい。
UHT殺菌機を用いて殺菌工程を行う場合、140℃で2秒保持相当以上の条件が好ましい。この条件は、C.botulinumを対象として、12D以上の殺菌条件が確保できる条件として、ロングライフ製品としての安全性を見込んで設定されたものである。
UHT殺菌機において「140℃で2秒保持」との条件は、レトルト殺菌機であれば「121.1℃で4分保持」に相当する条件である。
なお、「12D」とは、D値の12倍を意味する。また、D値とは、菌に固有の耐熱性の指標であって、ある加熱温度において、菌数を1/10にする保持時間を意味する。
殺菌工程における殺菌温度や、この殺菌温度に保持する保持時間は、殺菌温度と保持時間との兼ね合いで適宜変更することができる。
変更する際には、具体的には対象菌のZ値(℃)を考慮して、下記式(1)を満足するように、変更後の殺菌温度(X(℃))と変更後の保持時間(t(秒))とを決定することが好ましい。
X=140−Z(log(t/2))・・・(1)
なお、Z値とは、菌に固有の耐熱性の指標であって、D値を1/10または10倍にする温度変化幅を意味する。
例えば、カカオプリンにおいて、殺菌不良になる原因菌は、Z値が10℃前後のB.subtilisである場合が多いので、Z値=10℃と仮定すると、保持時間(t)が20秒であれば、殺菌温度(X)は130℃となる。
なお、殺菌温度とは、通常、殺菌機の最高加熱部における温度のことであり、保持時間は、最高加熱部に原料液が保持される時間である。
また、殺菌機としては、最高加熱部の後段の冷却部の途中に均質機を有する殺菌機を使用し、原料液の均質化を行うことが好ましい。
ここで最高加熱部よりも前段に均質機を有する殺菌機を使用して均質化を行った場合には、その後の最高加熱部において140℃で2秒保持相当以上の条件で加熱されることにより、原料液の乳化状態が壊れてしまう場合がある。そのため、最高加熱部の後段である冷却部の途中で均質化することが原料液の乳化状態を維持する点で効果的である。
均質機としては、プランジャーポンプとホモバルブで構成される一般的な高圧均質機が使用でき、例えば商品名:HOMOGENIZER(三丸機械工業社製)が挙げられる。
均質化における高圧均質機の均質圧は、均質機の構造によって均質化効率が異なるものの、5MPa以上を目安とし、好ましくは5〜10MPaの範囲で行う。均質圧がこの範囲未満であると、均質化効果が低過ぎて、その後の工程で原料液の乳化状態が壊れ易くなる傾向にある。一方、均質圧がこの範囲を超えても乳化状態は向上しないため、省エネルギーの点から好適ではない。
均質化の温度は、80℃以上が好ましく、より好ましくは80〜90℃である。温度がこの範囲未満であると、十分な乳化状態が得られにくくなる。一方、この範囲を超えると、均質機の出口で原料液が沸騰して乳化状態が壊れる場合があるため、この沸騰を抑えるために、出口において一気に常圧に開放されないような装置的な工夫が必要になる。
殺菌機の冷却部における冷却温度は、原料液に含まれるゲル化剤のゲル化温度を超えた温度にする。各ゲル化剤のゲル化温度は、寒天が40℃、カラギーナンが45℃、ファーセルランが40℃、ゼラチン15℃、ローメトキシルペクチン55℃、アルギン酸ナトリウムが55℃、ジェランガム55℃、キサンタンガムとローカストビーンガムの混合ゲル化剤が50℃を目安にする。
このようにして殺菌機内で冷却された原料液を容器に充填し、密封した後、冷蔵庫にて静置冷却して、ゲル化剤のゲル化温度以下にしてゲル化、固化することにより、カカオプリンを製造できる。
以上説明したように、このような製造方法によれば、カカオ液調製工程において第1の乳化剤の作用により水にぬれ易い状態となったカカオ成分に対して、カカオ乳化液調製工程において第2の乳化剤が作用し、チョコレートおよびココア中の芽胞菌をより水和しやすい状態とすることができると推測される。そして、芽胞菌をこのように水和しやすい状態にすることによって、芽胞菌の殺菌性が向上して、より殺菌されやすい状態となり、殺菌工程において従来のロングライフ製品の条件で殺菌した場合でも、十分に殺菌でき、細菌的保存性の優れたカカオプリンを製造することができると考えられる。
なお、このような製造方法によれば、殺菌工程後の冷却された原料液を容器に充填、密封した後、冷蔵庫内で固化して、カカオプリンを製造する連続的な製造方法に代えて、殺菌工程の後に一旦貯蔵工程を設けてから、その後、容器へ充填し、固化する方法も採用できる。
具体的には、殺菌工程で殺菌した原料液をゲル化剤のゲル化温度以下まで冷却した後、一旦貯蔵し、その後、再び加温してゲル化剤を液状にし(再加温)、ゲル化温度を超えた温度まで冷却してから(再冷却)、容器に充填、固化する方法、すなわち、製造の全工程を殺菌工程までの工程と、それ以降の工程との2つに分割することができる。
これは、上述のとおり、第1の乳化剤を用いたカカオ液調製工程と、第2の乳化剤を用いたカカオ乳化液調製工程とにより、原料液の殺菌性が向上し、殺菌工程後に貯蔵工程を一旦設けたとしても、細菌増殖しないカカオプリンが製造できるようになったためである。
このように製造の全工程を2つに分割することができると、製造計画における要員配置やタイムスケジュールに自由度を与えることができ、工業的に非常に有益である。
以下本発明について、試験例、実施例を挙げて具体的に説明する。
なお、表1、2、4、6、9、11、13、15、17中の数値の単位は、特に記載がない限り、いずれも「質量%」である(ただし、表9中の「第1の乳化剤:第2の乳化剤」は除く。)。
[試験例]
<試験1>
(目的)
この試験は、第1の乳化剤のHLBを検索する目的で実施された。
(試料の調製)
表1の配合割合に従い、第1の乳化剤を水に分散させ70℃に加温して溶解し、これに菌体入りカカオ成分を混合してホモミキサー(特殊機化工業社製)で撹拌し、均一に分散し、3分間撹拌を続けた(カカオ液調製工程)。
ついで、さらに第2の乳化剤を添加し、撹拌溶解し、3分間撹拌を続けた(カカオ乳化液調製工程)。
こうして得られたカカオ乳化液に、あらかじめ均一に混合されたゲル化剤含有成分(その他成分)を混合し、均一に溶解して原料液を調製した(原料液調製工程)。
ついで、これをパウチ(東洋製罐社製)に100gずつ詰め、ヒートシールして密封した後、レトルト殺菌機(日阪製作所社製)で熱水温度を115℃に設定し、F値(Z=10として、基準温度121.1℃に相当する保持時間(分))が4.0±0.2になるように保持時間をコントロールして殺菌し(殺菌工程)、冷却して60℃にし、冷蔵庫に静置して10℃に冷却して試料(カカオプリン)を調製した。
尚、菌体入りカカオ成分は、菌体入りチョコレートと菌体入りココアパウダーとを表1に記載の配合割合で混合したものであって、菌体入りチョコレートAおよびBは、表2の配合割合で、60℃に加熱溶解したチョコレートに乾燥菌体を均一に混合したものである。また、菌体入りココアパウダーAおよびBは、表2の配合割合で、60℃に加熱溶解したカカオバターに乾燥菌体を均一に混合し、冷蔵庫で5℃に冷却して固化させた後、砕いて粉状にし、さらに脱脂ココアパウダーを均一に混合したものである。
このように本試験例においては、菌体入りココアパウダーとして、カカオバターに乾燥菌体を混合し、これに脱脂ココアパウダーを混合したものをモデル的に使用している。これは、実際のココア中では、芽胞菌はカカオバターに包まれて存在していると考えられ、このような実際のココア中での芽胞菌の存在状態をより反映させるためである。
また、表2の乾燥菌体は、B.subtilis(寄託機関:NITE(独立行政法人製品評価技術基盤機構)特許微生物寄託センター、NBRC番号:NBRC13719)を培養して、芽胞を形成させ、凍結乾燥したものである。
(評価方法)
[インキュベーションテスト]
各試料10個を、35℃のインキュベーションルームに入れ5日間保持した後、官能検査により各試料の腐敗の有無を確認し、不良率(不良数/検体数)を算出した。
この結果を表3に示す。
(結果)
表3より、テストNo.1〜4は腐敗が認められ、テストNo.5〜7は腐敗が認められなかった。
(考察)
この結果より、第1の乳化剤のHLBは9〜16が好ましいことが分った。
Figure 0004920075
Figure 0004920075
Figure 0004920075
<試験2>
(目的)
この試験は、第2の乳化剤のHLBを検索する目的で実施された。
(試料の調製)
表4の配合割合に従い、試験1と同じ方法で調製した。
(評価方法)
[インキュベーションテスト]
試験1と同じ方法で行った。この結果を表5に示す。
(結果)
表5より、テストNo.8及び12〜14は腐敗が認められ、テストNo.9〜11は腐敗が認められなかった。
(考察)
この結果より、第2の乳化剤のHLBは4〜7が好ましいことが分った。
Figure 0004920075
Figure 0004920075
<試験3>
(目的)
この試験は、第1の乳化剤と第2の乳化剤の総添加量を検索する目的で実施された。
(試料の調製)
表6の配合割合に従い、試験1と同じ方法で調製した。
(評価方法)
[インキュベーションテスト]
試験1と同一の方法で行った。この結果を表7に示す。
[風味評価]
10人のパネルにて、各試料の風味評価をし、風味が良好な順に順位をつけ、各試料の順位の合計を求めた。この結果から、順位法の検定表を用いる方法(「おいしさを測る−食品官能検査の実際」、p28、古川秀子著、幸書房、1994年)で有意差を検定した。この結果を表8に示す。
(結果)
表7より、テストNo.15は腐敗が認められ、テストNo.16〜21は腐敗が認められなかった。
表8より、15≧16=17≧18≧19>20≧21(>:左が右より上位で統計的に有意差がある。≧:左が右より上位であるが、統計的な有意差は無い。)であった。
(考察)
この結果より、第1の乳化剤と第2の乳化剤は、添加量が少なすぎると、殺菌性が低くなり、添加しすぎると風味的に好ましくないことが分かった。
カカオ成分100質量部に対して、第1の乳化剤と第2の乳化剤の合計量は3〜10質量部が望ましいことが分かった。
Figure 0004920075
Figure 0004920075
Figure 0004920075
<試験4>
(目的)
この試験は、第1の乳化剤と第2の乳化剤の質量比を検索する目的で実施された。
(試料の調製)
表9の配合割合に従い、試験1と同じ方法で調製した。
(評価方法)
[インキュベーションテスト]
試験1と同一の方法で行った。この結果を表10に示す。
(結果)
表10より、テストNo.22、28は腐敗が認められ、テストNo.23〜27は腐敗が認められなかった。
(考察)
この結果より、第1の乳化剤と第2の乳化剤の質量比は、2:8〜9:1の範囲が望ましいことが分かった。
Figure 0004920075
Figure 0004920075
<試験5>
(目的)
この試験は、カカオ成分中のチョコレートとココアの質量比率を検索する目的で実施された。
(試料の調製)
表11の配合割合に従い、試験1と同じ方法で調製した。
(評価方法)
[インキュベーションテスト]
試験1と同一の方法で行った。この結果を表12に示す。
(結果)
表12より、テストNo.29〜31はいずれも腐敗が認められなかった。
(考察)
この結果より、カカオ成分中のチョコレートの含有量が50〜99質量%であれば、十分な殺菌効果が得られることが分かった。
Figure 0004920075
Figure 0004920075
<試験6>
(目的)
この試験は、2種の乳化剤の調製順序を検索する目的で実施された。
(試料の調製)
表13の配合割合に従い、以下の通り、3種類の溶解順序でカカオ成分を調製した。
即ち、
(1)第1の乳化剤を水に分散させ70℃に加温して溶解し、菌体入りカカオ成分を混合してホモミキサー(特殊機化工業社製)で攪拌し均一に分散し、3分間攪拌を続けた後、第2の乳化剤を添加し攪拌溶解し、3分間攪拌を続けた。
ついで、あらかじめ均一に混合されたゲル化剤含有成分を混合し、均一に溶解し、原料液を得た。
(2)第1の乳化剤と第2の乳化剤を同時に水に分散させ70℃に加温して溶解し、菌体入りカカオ成分を混合してホモミキサー(特殊機化工業社製)で攪拌し均一に分散し、3分間攪拌を続けた後、あらかじめ均一に混合されたゲル化剤含有成分を混合し、均一に溶解し、原料液を得た。
(3)第2の乳化剤を水に分散させ70℃に加温して溶解し、菌体入りカカオ成分を混合してホモミキサー(特殊機化工業社製)で攪拌し均一に分散し、3分間攪拌を続けた後、第1の乳化剤を添加し攪拌溶解し、3分間攪拌を続けた。
ついで、あらかじめ均一に混合されたゲル化剤含有成分を混合し、均一に溶解し、原料液を得た。
カカオ乳化液の調製までの工程以外の部分は、試験1と同じ方法で行なった。
(評価方法)
[インキュベーションテスト]
試験1と同じ方法で行った。この結果を表14に示す。
(結果)
表14より、テストNo.32は腐敗が認められなかったが、テストNo.33、34は腐敗が認められた。
(考察)
この結果より、2種の乳化剤の調製順序は、第1の乳化剤→カカオ成分→第2の乳化剤の順序であれば、十分な殺菌効果が得られることが分かった。
Figure 0004920075
Figure 0004920075
<試験7>
(目的)
この試験は、殺菌効果の向上が乳化剤の静菌効果によるものではないことを確認する目的で実施された。
(試料の調製)
表15の配合割合に従い、試験1の原料液調製工程まで行い、殺菌工程を行わずに、原料液を得た。
(評価方法)
[培養テスト]
標準寒天培地9gに、原料液を1g添加し、35℃48時間培養した。この結果を表16に示す。
(結果)
表16より、テストNo.35、36の菌数に有意な差は認められなかった。
(考察)
この結果より、単に第1の乳化剤と第2の乳化剤を添加しただけでは殺菌効果は向上せず、その後の殺菌工程が必須であることが確認された。
Figure 0004920075
Figure 0004920075
[実施例]
表17の配合割合に従い、まず、第1の乳化剤をミキサー(商品名:スーパーミキサー;ヤスダファインテ社製)で水に分散させ、撹拌しながら加温して70℃にし、そこにカカオ成分、すなわちチョコレートおよびココアパウダーを添加し、均一に分散させた後、70℃で3分間撹拌を継続して、第1の乳化剤とカカオ成分を馴染ませた(カカオ液調製工程)。
ついで、これに第2の乳化剤を添加し、均一に分散させた後、70℃で3分間撹拌を継続してカカオ乳化液を調製し、仕込みタンクに送液した(カカオ乳化液調製工程)。
一方、ゲル化剤含有成分を構成する各成分をミキサーで撹拌させ溶解してゲル化剤含有成分を調製し、これを仕込みタンクに送液し、カカオ乳化液と混合して、原料液を調製した(原料液調製工程)。
このようにして調製した原料液をプレート式UHT殺菌機(MOプレート式殺菌機:森永エンジニアリング社製)で140℃、2秒の殺菌を行い(殺菌工程)、85℃に冷却して均質機(HOMOGENIZER:三丸機械工業社製)で15MPaの条件で均質化し、20℃に冷却し、アセプティックタンク(ヤスダファインテ社製)で24時間貯蔵した。
その後、再加温・再冷却装置(商品名:スピフレックス;新光産業社製)で85℃に再加温し60℃に再冷却して、充填機(DOGAseptic:GASTI社製)のメインフィラーで、過酸化水素水で滅菌し乾燥したプラスチックカップ(吉野工業所社製)に120gを充填し、シール部で、過酸化水素水で滅菌し乾燥したアルミニウムリッド(東洋アルミニウム社製)を被せ、ヒートシーラーで熱圧シールして密封した後、冷蔵庫に静置して10℃に冷却してカカオプリンを製造した。
このカカオプリンの3000個を35℃のインキュベーションルームで5日間保持した後、官能検査で腐敗の有無を確認した結果、腐敗率は0個/3000個であった。
また、このカカオプリンの100個を10℃の冷蔵庫3ヶ月間保存した後、官能検査で風味を確認した結果、腐敗は全く無く、外観・風味共に良好であった。
尚、この工程で、UHT殺菌後アセプティックタンクで24時間貯蔵して、再加温再冷却して充填工程以降へ進める工程を取った理由は、仕込みから殺菌までの工程と充填以降の工程を切り離して、製造計画と人員配置に自由度を与えるためであり、滅菌レベルの殺菌ができているために採り得る工程である。
Figure 0004920075
本発明によれば、カカオ成分を原料に使用するカカオプリンの製造において、チョコレートおよびココア中の芽胞菌の殺菌性を向上させ、ロングライフ製品の殺菌条件での殺菌を可能にすることができる。この方法によれば、仕込みから殺菌までの工程とそれ以降の充填に至る工程とを分割することができ、製造計画に自由度を与えることができ、工業的に非常に有用である。

Claims (3)

  1. HLBが9〜16である第1の乳化剤を含有する液と、チョコレートおよびココアからなり、前記チョコレートの含有量が50〜99質量%であるカカオ成分とを混合して、カカオ液を調製するカカオ液調製工程と、
    前記カカオ液とHLBが4〜7である第2の乳化剤とを混合して、カカオ乳化液を調製するカカオ乳化液調製工程と、
    前記カカオ乳化液とゲル化剤含有成分とを混合して原料液を調製する原料液調製工程と、
    前記原料液を殺菌する殺菌工程と、を含み、
    前記カカオ成分100質量部に対して、前記第1の乳化剤と前記第2の乳化剤の合計量が3〜10質量部であることを特徴とするカカオプリンの製造方法。
  2. 前記第1の乳化剤と前記第2の乳化剤の質量比が、2:8〜9:1の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のカカオプリンの製造方法。
  3. HLBが9〜16である第1の乳化剤を含有する液と、チョコレートおよびココアからなり、前記チョコレートの含有量が50〜99質量%であるカカオ成分とを混合して、カカオ液を調製するカカオ液調製工程と、
    前記カカオ液とHLBが4〜7である第2の乳化剤とを混合して、カカオ乳化液を調製するカカオ乳化液調製工程と、
    前記カカオ乳化液とゲル化剤含有成分とを混合して原料液を調製する原料液調製工程と、
    前記原料液を殺菌する殺菌工程と、を含み、
    前記カカオ成分100質量部に対して、前記第1の乳化剤と前記第2の乳化剤の合計量が3〜10質量部である方法により製造されたことを特徴とするカカオプリン。
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