本発明の光偏向器では、電気光学材料内の光進行方向および偏向方向の両方に垂直な方向において、偏向素子の電気光学材料の入射窓における光ビームの直径を、窓の幅wとほぼ同一となるように設定する。上述の光進行方向、偏向方向、および、窓の幅と光ビーム径を定義する方向は、直方体の形状の材料の場合の3辺に対応する。入射窓とビーム径のサイズを、電気光学材料のサイズの最小条件を実現できる。設定した入射光ビームの径サイズに適合させて、電気光学材料のサイズを最小化できることになる。さらに、本発明の光偏向器を使って、従来技術とくらべて小型化および低価格化を実現した波長掃引光源を構成することもできる。以下、本発明の光偏向器の動作原理および様々な実施例について図面を使って説明する。
図1は、本発明の実施例1の光偏向器の構成を示す図である。偏向器5001は、ビーム径変更器503および偏向素子505から構成される。ビーム径変更器503は、図1に示した偏向方向および光ビーム510の進行方向の両方に垂直な方向のビーム径を変更するよう動作する。図1に示した例では、ビーム径変更器503から偏向素子505側のビーム511のビーム径は、その反対側のビーム510のビーム径と比べて、図面上で上下方向に相対的に小さくなっている。すなわち、偏向素子505に入射する光の、偏向方向および光の進行方向の両方に垂直な方向について、ビーム径を狭くしている。本発明の光偏向器における偏向素子505の動作について、以下さらに詳細に説明する。
図2は、本発明の実施例1の光偏向器における偏向素子の構成を示す図である。偏向素子505は、概ね直方体の電気光学材料101から構成されている。入射光12は、電気光学材料101の図面上の奥下方の入出窓103aから入射し、電気光学材料101の内部で複数回の反射を繰り返して、手前上方の入出窓103bから出射光13として材料の外部へ出射する。電気光学材料101に対する座標軸を図2のように定義する。座標軸のxy面に平行な電気光学材料101の対向する2面上には、電極102a、102bが形成されている。後述するようにこの2つの電極間に電圧を印加することによってz軸方向に偏向が生じる。
電気光学材料101の上述の電極構成面(xy面)に垂直であって、電気光学材料101のyz面に平行な対向する2面上には、それぞれ、入出窓103aおよび鏡104a、入出窓103bおよび鏡104bが形成される。それぞれの窓は、電気光学材料の面上の一部に鏡104a、104bを形成し、その鏡が無い部分によって形成される。図2に示したように、光ビーム12は入出窓103aに入射し、電気光学材料101の内部において2つの鏡104a、104bにおいて次々に反射する。電気光学材料101の中をx軸に沿って、ジグザグ状に破線の光路を往復しながら進み、入出窓103bから出射する。光は、電気光学材料101を進むうちにy軸方向にも進み、当然であるが、入出窓103a上の入射点と入出窓103b上の出射点とは、y軸上で異なる位置にある。したがって、一連のジグザグ光路を形成する、2つの鏡104a、104b上の反射点の位置は、y軸上を後に定義する一定の間隔cで順次移動して行く。
図2においては、図面が複雑になるのを避け説明を簡単にするために、ビームの径(太さ)は描かれておらず、光路はビームの中心を示している。また図2では、z軸方向についての偏向角が0°の場合の光路を示している。したがって、2つの電極102a、102b間に電圧が印加されれば、入射光は、x軸に沿って前後にジグザグに進みながらy軸上の位置を変えてゆくと同時に、印加電圧値に応じてz軸方向のいずれかの方向(角度)に光路を曲げながら電気光学材料内を進むことになる。
以下の説明においては、電気光学材料の一方の入出窓または鏡から、もう一方の鏡または入出窓までの光路を1パスと数えることにする。したがって、1つの往復光路は2パス構成の光路となり、図2の一点鎖線で示した光路の場合は5パスの光路の構成となる。また、図13に示した従来技術の偏向機構の構成例では1パスの光路の構成となる。光ビームの偏向は、図2に示すように、電極形成面(xy面)の法線方向となり、z方向となる。
図3は、本発明の実施例1の光偏向器における偏向素子の偏向方向を含む面を見た光路を示す図である。図2に示した上方の視点から方向10にy軸方向に沿って見た場合の、偏向素子505中のxz面内における光ビームの光路を示したものである。実線の光路21は、電極102a、102b間に電圧が印加されており偏向角が0°ではない場合を示している。x軸に沿って進む光ビームが鏡104a、104bにおいて次々に反射され、電気光学材料101の中を往復しながら徐々にz軸方向に偏向している様子が示されている。一点鎖線の光路22は、偏向角0°の場合を示しており、図3に示した視点からでは、往復している光軸がすべて1つに重なって見えている。
図4は、本発明の実施例1の光偏向器における偏向素子の偏向方向に垂直な面を見た光路を示す図である。図2に示した手前の視点から方向11をz軸方向に沿って見た場合の、偏向素子505中のxy面内における光ビームの光路を示したものである。すなわち電極形成面(xy面)の法線方向に沿って見た図であって、鏡104a、104bで光ビームが反射され、材料101の中でx軸方向に沿って光が往復している様子が示されている。光はx軸方向に沿った往復するのと同時に、y軸方向について徐々に光路を移動させることで、入出窓103aから入出窓103bに向かうジグザグの光路が形成される。以下、図4に定義された各パラメータおよび光路に基づいて、電気光学材料のサイズおよび入出窓のサイズの関係について検討し、必要な偏向機能を実現する場合に電気光学材料のサイズを最小とすることができる条件を明らかにする。
図4を再び参照すると、電気光学材料101の幅をl(y軸方向)、電気光学材料の進行方向に沿った長さである奥行をd(x軸方向)、電気光学材料の入出窓103a、103bの幅をw(y軸方向)、電気光学材料の端面部における入射窓および出射窓のマージンをそれぞれe(y軸方向)、パス数をmとする。図4に示したように概ね直方体の電気光学材料の各辺が座標軸に対応し、電気光学材料の奥行dの方向をx軸、幅lの方向をy軸、偏向方向をz軸としている。図4に示した電気光学材料の結晶内の光路の例においては、入射光は、材料101中で反射を繰り返してx軸に沿って2.5往復を進み、すなわち5パスの光路を経た後で材料から出射する。電気光学材料内で1つのパスを経る毎に、光はy軸上で図の上方に向かって一定距離cだけ進む。入射窓103aにおける入射点と、出射窓103bにおける出射点との間のy軸上の距離、すなわちy軸上における2つの窓の距離wdは、mcとなる。図4の場合は、パス数m=5なのでwd=5cとなる。したがって、窓のマージンe、電気光学材料の幅l、パス数m、1パスのy軸方向の光路移動距離c等の間には、次の関係が成り立つ。
電気光学材料101内部の入射角(すなわち、鏡104a、鏡104bへの出入射角)θ、入出窓の幅w、電気光学材料の幅l、電気光学材料の奥行d、窓のマージンeの間には、以下の関係も成り立つ。
また、式(1)で定義した1パスの光路に対応するy軸上の光路移動距離cを用いると、式(3)、式(4)は次のようにも表される。
外部から電気光学材料への入射角θ’と、電気光学材料内における入射角θとの間は、スネルの法則によって以下のような関係がある。ここで、電光学材料の屈折率をn、電気光学材料外の屈折率をn’とする。
以上の各関係を踏まえて、電気光学材料のサイズ、すなわち、幅l(y軸方向)、奥行きd(x軸方向)および厚さ(z軸方向)の各大きさについて、ビーム径および入出窓の大きさとの関係からさらに検討する。
図5は、本発明の光偏向器における偏向素子の窓に入射する光ビームの様子を説明する図である。図4における入射側の窓103aの近傍を拡大して示した図であって、座標軸の定義は図4と同一である。ここで、電気光学材料101の入出窓103a上における光ビーム半径(y軸上)をa、電気光学材料101の外における光ビーム半径をbとすると、aおよびbの間には次式の関係がある。
光偏向器で通常使用される横モードが単一モードとなるレーザ光の場合、ビーム形状は楕円型のガウシアンビームに近いものとなる。ビーム径とは、楕円形のガウシアンビームを扱う場合は、パワー強度がピーク値に対して1/e2 となる短径、長径を表す。
入射側の窓103aの幅wの範囲内にまたは範囲いっぱいで光ビームを窓に入射する場合は、y軸上のビーム半径a、マージンe、入射窓の幅wとの間に次式の関係が成り立つ。
式(9)で等号が成立する場合が、入射窓の幅wまたはビーム半径aが限界値にある状態となる。
この限界値にある時、電気光学材料中の1パスの光路長Lは次式のようになる。
式(3)、式(4)、式(7)〜(9)を使って、θ、θ’、窓の幅wを消去すると、以下の関係が導き出される。
ここで、式(4)を使って式(10)から、窓の幅wを消去すると、電気光学材料の奥行き長さdは、以下のようになる。
式(11)に式(12)で求めた奥行きdを代入すると、さらに次式の関係が得られる。
パスの数m、マージンe、材料および外部の屈折率n、n’、1パスの光路長Lをそれぞれ定数として、式(13)を使ってビーム半径bと電気光学材料の幅lとの間の関係を調べる。
式(13)で詳細に検討する前に、まず簡易的に式(4)、式(8)、式(9)から、ビーム半径bおよび材料幅lの間の関係を概算してみると、以下の関係がある。
式(14−1)において、sinθ’≒θ’となる領域ではcosθ’≒1となり、左辺のb/cosθ’≒bとなる。したがって、式(14−1)において等号が成り立つ場合、左辺のビーム半径bと右辺の電気光学材料の幅lとの間には、次式のように一次関数の関係がある。
式(14−2)が成り立つのは、窓103aの幅wの範囲いっぱいに光ビームを入射する場合に相当する。式(14−2)を参照すれば、電気光学材料の幅lは、光ビーム半径bを小さくするにしたがって、ほぼ一次関数的に小さくできる傾向にあることが予測できる。そこで次は、光偏向器で使用されている実用的な材料や構成を想定しながら、より詳細な式(13)を使って電気光学材料の所要サイズについてさらに詳細に調べる。
一例として、電気光学材料としてタンタル酸ニオブ酸カリウム(KTN)結晶を使う場合について検討する。KTNの屈折率はn=2.2となり、電気光学材料の外側は空気として屈折率はn´=1となる。鏡で反射を繰り返しながら電光学材料中をx軸に沿って往復して得られる光路のパス数mを5とする。また、計算を簡単化するために材料の幅方向(y軸方向)の端面におけるマージンeを0とする。電気光学材料中の光路長Lを20mmとした。光路長Lは光に偏向作用を与える距離を示しており、Lが一定であれば電気光学材料内の光に与える作用の量も一定となることを意味する。
図6は、本発明の光偏向器において、限界条件における電気光学材料のサイズおよびビーム半径の関係の計算例をグラフで示した図である。すなわち、入射側の窓103aの幅wの範囲いっぱいで光ビームを窓に入射する場合が限界条件に対応し、式(13)において両辺が等しいとして、各値を計算した結果をグラフに表したものである。式(13)を等式において、ビーム半径bから電気光学材料の幅l(y軸方向)は解析的に計算できないので、ここでは、最適化法(2分法)を使ってビーム半径bおよび幅lを算出した。また、電気光学材料の奥行き長さd(x軸方向)は式(10)から算出した。図6のグラフの右側縦軸に示している面積sはlmind(mm2)であり、図2に示した電極103a、103bの面積に対応している。なお、この電気光学材料の幅の最小値lminは、式(13)を等式とおいた場合に求められる電気光学材料の幅lである。
図6のグラフの横軸には光ビーム半径b(mm)を示しており、左側の縦軸はビーム半径bの値に応じて電気光学材料の実現できる幅の最小値下限lmin(mm)および電気光学材料の奥行き長さd(mm)の長さを示している。前述のように右側の縦軸にはビーム半径bの値に応じた電極面積s=lmindを示している。
図6のグラフが示すように、ビーム半径bが小さくなるに従って電気光学材料の幅の最小値lminが小さくなる一方で、材料の奥行きの長さdは大きくなる。しかしながら、図6のグラフの曲線傾きからも明らかなように、電気光学材料の幅の最小値lminが小さくなる比率に比べて、奥行き長さdの大きくなる比率は遥かに小さい。このため、ビーム半径bを小さくすることによる電気光学材料の幅の最小値lminの減少の寄与が大きく、ビーム半径bが小さくなるに従って、電気光学材料のxy面に平行な面の大きさ、すなわち電極102a、102bの必要な面積sは小さくなる。
電気光学材料の厚さ(z軸方向)は、偏向動作を行う際に電極102a、102bに光ビームが端部にぶつかって、ビームの「けられ」が生じるかどうかによって決まる。偏向角は、光に偏向を起こす作用長である光路長Lで決まるため、Lが一定値であることを想定する場合は、電気光学材料必要な厚さも一定となる。つまり、図6に示した、材料内の光路長Lが一定値である前提で計算を行っている場合は、電極面積sと電気光学材料の体積とは比例関係にある。図6に示したように、光ビーム半径bが小さいほど電気光学材料の電極の面積sを小さくできるため、電気光学材料の体積も同様に小さくできる。
図6に示したビーム半径bと、電気光学材料の幅lおよび奥行き長さdとの関係から、ビーム径を窓の幅wの大きさいっぱいとなるように設定することで、偏向角の大きさを維持したまま、その電気光学材料の大きさを最小化することができる。光偏向器のサイズも小さくすることができる。また、偏向角の大きさを維持したままで、電気光学材料の面上に形成する電極面積(lmind)を小さくできる。これによって電極間の静電容量を小さくすることができるため、電気光学材料に電圧を印加する際の変位電流を小さく抑えられる。結果として、光偏向器を含む装置の電源の電流容量を小さく抑えられることになり、装置価格を抑えることができる。
図6に示した、式(13)に基づいて計算を行う検討では入射角θに関する近似をしていないが、実際に使用する条件によっては、sinθ’≒θ’となることがある。その場合には、式(11)や式(13)の近似式を求めて、その近似式からビーム半径bをパラメータとしてlminの近似解を求めることもできる。ここでは計算をより簡単にするため、マージンeがほとんどない使用条件を想定して、e=0として計算する。
まず、窓の幅wを消去した後の式(11)に関して、以下のように変形する。
入射角θに関して、sinθ’≒θ’、tanθ’≒θ’、cosθ’≒1−θ’2/2、1/(1−θ’2/2)≒1+θ’2/2が成り立つ領域であるとして、式(15)を整理すると以下のようになる。
式(12)に示したように、電気光学材料の奥行き長さdは、電気光学材料の幅lの関数となるため、式(16)は幅lについての単純な2次式ではない。しかし、奥行き長さdが幅lと同程度の長さであってパス数mが大きい場合は、{l−(w+e)}2<<(md)2とみなせるので、式(10)からL≒mdとなり、奥行き長さdをほぼ一定値とみなせる。奥行き長さdを一定値みなして、式(16)を幅lの2次方程式として扱うことにより、2次方程式の解の公式を用いて、電気光学材料の幅lをビーム半径bの関数として近似計算することが可能である。
具体的には式(16)から、電気光学材料の幅lの最小値lminは以下に示すようなビーム半径bの関数となる。lminは式(16)において等式が成り立つときの幅lの値であって、電気光学材料内の光進行方向(x軸方向)および偏向方向(z軸方向)の両方に垂直な方向(y軸方向)の電気光学材料の幅lの最小値である。
電気光学材料の奥行き長さdを一定値とみなせない場合は、式(15)の奥行き長さdに、式(12)で得られたdを代入して整理すると、以下の式が得られる。
式(18)は電気光学材料の幅lについての3次方程式であるので、カルダノの公式を適用することにより、ビーム半径bの関数として電気光学材料の幅lを近似計算することができる。
図1および図2を再び参照すれば、本発明の光偏向器5001では、電気光学材料内の光進行方向(x軸方向)および偏向方向(z軸方向)の両方に垂直な方向(y軸方向)において、偏向素子505の電気光学材料の入射窓103aにおける光ビームの直径(2aに相当)を、窓の幅wとほぼ同一となるように設定することで、電気光学材料のサイズの最小条件を実現できる。言い換えると、設定した入射光ビームの半径サイズに適合させて、電気光学材料のサイズを最小化できることになる。他の実施例として後述するが、光偏向器内の同一の光路を往復して光ビームが通過するレーザ発振器等の構成にも利用するため、光偏向器の一方の窓におけるビーム半径の条件は、もう一方の窓におけるビーム半径の条件となる。したがって、電気光学材料の最小化条件を満たすときの電気光学材料および窓の構成は、図2において電気光学材料の中央付近を貫くz軸に平行な軸を中心にして回転対象な構成となる。
従って本発明の光偏向器は、電気光学効果を持つ材料101の中に形成された電界によって前記材料中に屈折率分布を生じさせ、前記屈折率分布によって前記材料中を透過する光ビームを偏向させる光偏向器において、電気光学効果を持ち、3組の対向面を有する材料からなる偏向素子505であって、前記材料101を挟み、平行な第1の対向面上にそれぞれ形成された2つの電極102a、102bであって、該電極間に形成された電界によって前記材料中を伝搬する光に、前記第1の対向面の第1の法線方向(z軸:第1の方向)に偏向を生じさせる2つの電極102a、102bと、前記材料101を挟み、前記2つの電極に直交する、平行な第2の対向面上の一部にそれぞれ形成された第1の鏡104aおよび第2の鏡104bと、前記第2の対向面の前記鏡が無い部分にそれぞれ形成され、前記第1の鏡と同一面上にある第1の窓103aおよび前記第2の鏡と同一面上にある第2の窓103bとを含む偏向素子を備え、前記第1の窓103aから光ビーム12が入射して、前記第2の対向面の第2の法線方向(x軸:第2の方向)に沿って進みながら、前記第2の鏡104bおよび前記第1の鏡104aにおいて交互に(m−1)回の反射を繰り返し、前記第2の窓103bから前記材料の外へ光ビーム13が出射するまでに、前記第1の法線方向(z軸)および前記第2の法線方向(x軸)の両方に垂直であって、前記第2の対向面に平行な第3の方向(y方向)に前記反射点を順次移動させながらジグザグ状にm個の一連の光路(m個のパスに相当)を形成し、該m個の光路上を進む光ビームが前記2つの電極102a、102bによって形成された前記電界によって偏向を受けるよう構成されている。
上述の図5において式(8)〜式(18)では、y軸上におけるビーム半径aと電気光学材料の窓103aの幅wに関して、ビーム径(2a)が窓の幅wと一致する限界状態のときに、そのビーム径(2a)を持つ光ビームを透過できる電気光学材料のサイズを最小化できるものとして、電気光学材料の幅l、奥行き長さdなどを求めた。これとは別に、式(1)で定義した1パスのy軸方向の光路移動距離cを用いても、電気光学材料のサイズとy軸上におけるビーム半径aとの関係を記述することができる。
図4を再び参照すれば、電気光学材料内の光の進行方向すなわち窓103aの法線方向(x軸)および偏向方向(z軸)の両方に垂直な方向(y軸)についての、1パスの光路の間の移動距離をcとする。パス数がmのとき、y軸上における2つの窓103a、103bの中心間の距離wd(窓の幅からマージンeを除く)は、mcとなる。この時同時に、y軸上のビーム半径aが光路の移動距離cに等しければ、窓の幅w(マージンeが0でなければw−e)と入射ビームの直径(2a)とが一致し、そのビーム径に対応した最小の電気光学材料のサイズが決定される。この最小サイズの状態の時、電気光学材料の中で1パスの光路を経るごとに、鏡104a、104b上の反射点の位置は、y軸上でcだけ移動して行く。ここで、材料内のビームの入射角度θ、電気光学材料の奥行き長さd、1パスの光路のy軸上の移動距離cが式(5)の関係を満たしていれば、電気光学材料の中で最も稠密に光路が形成され、窓の幅wに応じて設定されたビーム半径aに対応した最小の電気光学材料のサイズの状態となっている。光偏向器としては、y軸上のビーム半径を光路の移動距離cより小さくしても何ら問題ない。したがって、窓103aの上におけるビームの直径は2c以下であれば良い。
したがって、本発明の光偏向器は、前述の第1の法線方向(z軸)および第2の法線方向(x軸)の両方に垂直であって、第2の対向面に平行な第3の方向(y方向)における、第1の窓103aの中心位置および第2の窓103bの中心位置の間の距離(Wd)が、m個の一連の光路の内の1つが前記第3の方向に進む移動距離をcとするとき、mcとなる。
好ましくは、前記第3の方向における前記第1の窓の幅および前記第2の窓の幅は、それぞれ2c以上であって、前記第3の方向における前記第1の窓にあたった前記光ビームの径が、2c以下であれば、ビーム径のサイズに対応した最小の電気光学材料で光偏向器を実現できることになる。
本発明の光偏向器の構成では、ビーム径変更器503を用いて光ビームを扁平な形状として短径のビーム径を短くしている。本発明の構成では、光ビームが通過する窓および鏡がそれぞれ同一のサイズの偏向素子505でも、偏向素子の傾き(入射角θ´)および第1の窓への入射位置を変えるだけで、1パス、3パス、5パス・・のように異なるパス数のジグザグ光路を実現ができるようになる。入射角θを、式(1)および式(5)を満たすように設定して、最大のmパスを持つ、ジグザグ状のm個の一連の光路を形成することが可能であって、偏向角を最大にできる点に留意されたい。以下、同一のサイズの偏向素子505において最大のmパスの光路を実現するための、ビーム半径a、第1の窓103aへの入射位置(y軸上)、および、第1の窓103aへの(電気光学材料101内における)入射角θの条件について説明する。
第1の窓103aへのy軸上の入射位置をy0とすると(図4の座標軸を参照)、第1の窓103aでビームに「けられ」が生じないy0の範囲は次式によって表される。
第1の窓103aに入射した後、第1の鏡104a、第2の鏡104bを交互に合計m回反射して第2の窓103bに到達したとき、第2の窓103b上のビーム中心のy軸上の位置ymは、y0+md・tanθである。このとき、第2の鏡104bにおいて「けられ」が生じないためには、ym−a≧l−wであることが必要である。また、このとき、第2の窓103bの鏡とは反対側の端部で「けられ」が生じないためには、ym+a≦lであることが必要である。これらの条件から、第2の窓103bから出射するビームに第2の窓103bにおいて「けられ」が生じないようにするための、窓103aにおける電光学材料101内のビーム入射角θ(または、第1の鏡104a、第2の鏡104bへのビーム入出射角θ)の範囲は、ymを消去しy0を使って次式のように表される。
一方、第1の窓103aに入射した後、第2の鏡104bで1度反射したビームが第1の鏡104aに最初に到達したビームの中心のy軸上の位置y2は、y0+2d・tanθである。このとき、第1の鏡104aから外れて第1の窓103aからビームが一部でも抜けて電気光学材料の外に出てしまわないためには、y2−a≧wであることが必要である。
同様に、第1の窓103aに入射した後、第1の鏡104a、第2の鏡104bを合計(m−2)回反射して第2の鏡104bに到達したとき、第2の鏡104b上のビーム中心のy軸上の位置ym−2は、y0+(m−2)d・tanθである。このとき、第2の窓103bからビームが一部でも抜けて電気光学材料の外に出てしまわないためには、ym−2+a≦l−wであることが必要である。これらの条件から、第1の鏡104a、第2の鏡104bへ達したビームが、それぞれ第1の窓103a、第2の窓103bから一部でも抜けていかないための、第1の窓103aにおける電光学材料101内のビーム入射角θ(または、第1の鏡104a、第2の鏡104bへのビーム入出射角θ)の範囲は、ymを消去しy0を使って次式のように表される。
以上詳細に説明したように、ビーム半径a、第1の窓103aへの入射位置y0、第1の窓103aへの(電気光学材料101内における)入射角θが式(19)〜式(21)を満たせば、同じサイズの偏向素子505において最大のmパスを持つ一連のジグザグ光路を実現することができる。
電気光学材料101の傾き角度は第1の入射窓103aへの外部からの入射角θ´によるが、電光学材料の屈折率をn、電気光学材料外の屈折率をn´とすると、θ´は式(7)でも示したスネルの法則に従って、以下のように算出できる。
ここで、sin-1(・)はsin(・)の逆関数である。上述のように、本発明の光偏向器では、偏向素子の傾き(入射角θ´)および第1の窓への入射位置を変えるだけで、1パス、3パス、5パス・・のように異なるパス数を持つ一連のジグザグ光路を実現ができるようになる。電気光学材料内における入射角θ´を、式(22)を満たすように設定して、最大数のmパスを持つ、ジグザグ状のm個の一連の光路を形成し、偏向角を最大にできる。
ここで、ビーム半径aの大きさについては、以下のような効果にも留意されたい。式(19)によれば、ビーム半径aが短ければ入射位置y0の範囲を広くできることから、ビーム半径aを短く設定することで、入出窓103a、103bの位置マージンを大きくできる。これによって、電気光学材料101の位置決め精度を緩くすることが可能となり、その位置決め機構を安価に作製することが可能である。また、入出窓103a、103bの作成精度を緩くすることも可能となり、それにより、安価に電気光学材料101を作成することが可能となる。光偏向器の作製・組み立て時においても緩い精度で済む。
また、式(20)、式(21)によれば、ビーム半径aを短くすることによって、ビームの入射窓への入射角θやθ’の範囲を広くできるので、光偏向器の角度マージンを大きくすることもできる。これによって、電気光学材料101の角度決め精度を緩くすることが可能となって、その角度決め機構を安価に作製することが可能となる。光偏向器の作製・組み立て時においても緩い精度で済む。
ビーム半径aを短くすることは、光偏向器内に備えられたビーム径変更器503によって簡単に実現することできる。図1に示したようにビーム径を扁平にするビーム径変更器510を備えることによって、上述の光偏向器の各部および組み立てに必要な精度を緩和できる効果が生じる。
なお、光偏向素子505へ入射するビーム半径は式(8)から、次式のように計算される
電気光学材料としては、上記KTNの他、KLTN(K1−yLiyTa1−xNbxO3(0<x<1、0<y<1))、LiNbO3(以下、LNという)、LiTaO3、LiIO3、KNbO3、KTiOPO4、BaTiO3、SrTiO3、Ba1−xSrxTiO3(0<x<1)、Ba1−xSrxNb2O6(0<x<1)、Sr0.75Ba0.25Nb2O6、Pb1−yLayTi1−xZrxO3(0<x<1、0<y<1)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3-PbTiO3、KH2PO4、KD2PO4(Dは重水素)、(NH4)H2PO4、BaB2O4、LiB3O5、CsLiB6O10、GaAs、CdTe、GaP、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、およびZnOの電気光学材料が挙げられる。
図2では、電気光学材料101を直方体形状のものとして表しているが、2つの電極102a、102bが平行で、2つの入出窓103a、103bが平行で、2つの鏡104a、104bが平行であれば、電気光学材料101の形状は直方体に限らない。
図7は、本発明の光偏向器における電気光学材料の別の形状例を示した図である。図7に示したように、出入窓側の一辺の為す角度をπ/2−θとし、その辺に平行な隣り合う辺の為す角度をπ/2+θとして、図2に示した手前の視点から方向11をz軸方向に沿って見た場合の形が、平行四辺形となっても良い。すなわち、電気光学材料は底辺が平行四辺形の直角柱となっても良い。このような形状とした場合は、電気光学材料内を通過するビームを何ら遮ることなく、電極102a、102bの面積を小さくできる。この構成によって得られる効果は、上述の図2〜図5に示した直方体形状の電気光学材料の場合と全く同様である。
したがって、本発明における電気光学材料は、電気光学効果を持ち、3組の対向面を有する材料101からなる光偏向素子であって、前記材料を挟み、平行な第1の対向面上にそれぞれ形成された2つの電極102a、102bであって、これらの電極間に形成された電界によって材料中を伝搬する光に、前記第1の対向面の第1の法線方向(z軸)に偏向を生じさせる2つの電極と、前記材料を挟み、前記2つの電極に直交する、平行な第2の対向面上の一部にそれぞれ形成された第1の鏡104aおよび第2の鏡104bと、前記第2の対向面の前記鏡が無い部分にそれぞれ形成され、前記第1の鏡と同一面上にある第1の窓103aおよび前記第2の鏡と同一面上にある第2の窓103bとを含む光偏向素子を構成する。
そして、偏向素子における光ビームの偏向は、前記第1の窓から光ビームが入射して、前記第2の対向面の第2の法線方向(x方向)に沿って進みながら、前記第2の鏡および前記第1の鏡において交互に(m−1)回の反射を繰り返し、前記第2の窓から前記材料の外へ光ビームが出射するまでに、前記第1の法線方向および前記第2の法線方向の両方に垂直であって、前記第2の対向面に平行な第3の方向(y軸)に前記反射点を順次移動させながらジグザグ状にm個の一連の光路(m個のパスに対応)を形成し、このm個の一連の光路上を進む光ビームが前記2つの電極によって形成された前記電界によって偏向を受けるよう動作する。
以下では、実施例1の構成を持つ光偏向素子505を使用した様々な形態の光偏向器または光偏向器を含む光源、光発振器などの実施例を示す。いずれの実施例においても、電気光学材料のサイズを最小化し、電極面積を最小化した光偏向素子を利用することで、装置の小型化および低価格化を実現するものである。