JP6288649B2 - L−システイン生産能が高められた腸内細菌科に属する細菌 - Google Patents

L−システイン生産能が高められた腸内細菌科に属する細菌 Download PDF

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Description

本発明は、硫酸塩存在下におけるL-システイン生産能が高められた腸内細菌科に属する細菌、及び該細菌を用いたL-システインの製造方法に関する。
システイン・シスチン類は、医薬品、化粧品、食品等の多岐にわたる分野で利用されている。システインは、主に、人・動物の毛に多く含まれるアミノ酸であることから、古典的にはこれらの毛を加水分解することにより製造されてきた。しかし、製品の安全性をより高めるという観点、及び環境への影響をより少なくするという観点から、多くの他のアミノ酸と同様に発酵法によって製造することが望まれている。
従来から、腸内細菌科に属する細菌を用いた発酵法によりシステインを製造する方法が各種報告されている(特許文献1及び2)。腸内細菌科に属する細菌、例えば大腸菌には、システインを生合成する経路として、硫黄源として硫酸塩を利用する経路(硫酸経路)と、硫黄源としてチオ硫酸塩を利用する経路(チオ硫酸経路)の2つの経路が存在する(非特許文献1)。
腸内細菌科に属する細菌を用いてシステインを製造する場合、一般に、硫黄源として硫酸塩のみを含む培地を用いても、効率的にシステインを製造することができないが、硫黄源として硫酸塩に加えてチオ硫酸塩も含む培地を用いると、より効率的なシステインを製造できることが知られている。
しかしながら、硫黄源として用いるチオ硫酸塩は、硫酸塩に比べて非常に高価である。そこで、硫黄源として、安価な硫酸塩を用い、且つ効率的にシステインを製造する方法の開発が求められている。
WO2009/104731 特開2010-193788号公報
Nakatani et al., ‘Enhancement of thioredoxin/glutaredoxin-mediated L-cysteine synthesis from S-sulfocysteine increases L-cysteine production in Escherichia colo’, Microbial Cell Factories, 2012, 11:62
本発明は、硫酸塩存在下におけるL-システイン生産能が高められた腸内細菌科に属する細菌、及び該細菌を用いてL-システインを安価に且つ効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
本発明者等は鋭意研究を進めた結果、O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBが欠損しており、且つチオ硫酸結合タンパク質のC末端領域が欠失した大腸菌変異株が、硫黄源として硫酸塩のみを含む培地中でも、高いL-システイン生産能を発揮することを見出した。さらに、この変異株のL-システイン生産能は、硫黄源として、硫酸塩に加えてチオ硫酸塩も含む培地中で培養することによって向上することを見出した。これらの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明が完成した。
即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
項1.O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBの活性が低下するように改変された腸内細菌科に属する細菌であって、
チオ硫酸結合タンパク質のC末端領域が欠失するように改変され、且つ
硫酸塩存在下におけるL-システイン生産能が高められたことを特徴とする、
腸内細菌科に属する細菌。
項2.前記チオ硫酸結合タンパク質が下記(a)又は(b)に記載のタンパク質である、項1に記載の細菌:
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、又は
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つチオ硫酸結合活性を有するタンパク質。
項3.前記C末端領域が下記(c)又は(d)に記載の領域である、項2に記載の細菌:
(c)配列番号1に示されるアミノ酸配列の274〜300番目のアミノ酸からなる領域を含む領域、又は
(d)配列番号1に示されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号1に示されるアミノ酸配列の274〜300番目のアミノ酸からなる領域を含む領域に対応する領域。
項4.前記O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBが下記(e)又は(f)に記載のタンパク質である、項1〜3のいずれかに記載の細菌:
(e)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、又は
(f)配列番号3に示されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つO-アセチルセリンスルフヒドリラーゼB活性を有するタンパク質。
項5.前記O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBをコードする遺伝子が破壊されている、項1〜4のいずれかに記載の細菌。
項6.前記腸内細菌科に属する細菌がエシェリヒア属細菌である、項1〜5のいずれかに記載の細菌。
項7.項1〜6のいずれかに記載の細菌を培地中で培養して得られた培養物からL-システインを採取することを特徴とする、L-システインの製造方法。
項8.前記培地が硫黄源として硫酸塩を含む、項7に記載の製造方法。
項9.前記培地が硫黄源としてさらにチオ硫酸塩を含む、項8に記載の製造方法。
本発明によれば、硫酸塩存在下におけるL-システイン生産能が高められた腸内細菌科に属する細菌を提供することができる。該細菌を用いることにより、硫黄源として硫酸塩のみを含む培地中であっても、L-システインを非常に効率的に製造することができる。硫酸塩はチオ硫酸塩に比べて非常に安価であるため、該製造方法はコスト面で優れたものである。また、硫黄源として硫酸塩に加えてチオ硫酸塩も含む培地中で培養することにより、より効率的にL-システインを製造することができる。本発明の製造方法は、微生物発酵を利用しているため、得られる製品の安全性や環境負荷の観点からも優れた方法である。
システイン生合成経路の模式図を示す。 硫酸経路によるシステイン生合成が、チオ硫酸塩によって阻害(チオ硫酸リプレッション)されることを示す。 チオ硫酸リプレッションが起こらない変異株(サプレッサー変異株)の増殖曲線を示す。 硫黄源として硫酸塩のみを含む培地中における、サプレッサー変異株のシステイン生産能を示す。 硫黄源として、硫酸塩に加えてチオ硫酸塩も含む培地中における、サプレッサー変異株のシステイン生産能を示す。
1.細菌
本発明は、O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBの活性が低下するように改変された腸内細菌科に属する細菌であって、チオ硫酸結合タンパク質のC末端領域が欠失するように改変され、且つ硫酸塩存在下におけるL-システイン生産能が高められたことを特徴とする、腸内細菌科に属する細菌に関する。
腸内細菌科に属する細菌は、L-システイン生産能を有するものであれば特に限定されず、野生株であっても改変株であってもよい。ここで、本発明において、L-システイン生産能とは、硫黄源を含む培地中で培養した場合に、培地にL-システインを蓄積させる能力を意味する。具体的には、例えばエシェリヒア属細菌、エンテロバクター属細菌、パントエア属細菌、クレブシエラ属細菌、セラチア属細菌、エルビニア属細菌、サルモネラ属細菌、モルガネラ属細菌などの、NCBI(National Center for Biotechnology Information)データベースに記載されている分類により腸内細菌科に属するもの、及びこれらの細菌の改変株(若しくは変異株)が挙げられ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Taxonomy/Browser/wwwtax.cgi?id=91347)、好ましくはエシェリヒア属細菌及びその改変株(若しくは変異株)が挙げられる。
エシェリヒア属細菌としては、特に限定されないが、具体的にはNeidhardtらの著書(Backmann, B. J. 1996. Derivations and Genotypes of some mutant derivatives of Escherichia coli K-12, p. 2460-2488. Table 1. In F. D. Neidhardt (ed.), Escherichia coli and Salmonella Cellular and Molecular Biology/Second Edition, American Society for Microbiology Press, Washington, D.C.)に挙げられるものが利用できる。その中では、例えばエシェリヒア・コリが挙げられる。エシェリヒア・コリとしては具体的には、プロトタイプの野生株K12株由来のエシェリヒア・コリ W3110 (ATCC 27325)、エシェリヒア・コリ MG1655 (ATCC 47076)等が挙げられる。
腸内細菌科に属する細菌の改変株においては、L-システイン生産能を増強するような改変が行われていることが好ましい。このような改変は公知の方法に従って行うことができる。
例えば、細菌にL−システイン生産能を増強するには、栄養要求性変異株、アナログ耐性株又は代謝制御変異株の取得や、L-システインの生合成系酵素の発現が増強された組換え株の創製等、従来、コリネ型細菌又はエシェリヒア属細菌等の育種に採用されてきた方法を適用することができる(アミノ酸発酵、(株)学会出版センター、1986年5月30日初版発行、第77-100頁参照)。ここで、L−システイン生産菌の育種において、付与される栄養要求性、アナログ耐性、代謝制御変異等の性質は、単独でもよく、2種又は3種以上であってもよい。また、発現が増強されるL−システイン生合成系酵素も、単独であっても、2種又は3種以上であってもよい。さらに、栄養要求性、アナログ耐性、代謝制御変異等の性質の付与と、生合成系酵素の増強が組み合わされてもよい。
L-システイン生産能を有する栄養要求性変異株、L-システインのアナログ耐性株、又は代謝制御変異株を取得するには、親株又は野生株を通常の変異処理、すなわちX線や紫外線の照射、またはN-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)もしくはエチルメタンスルフォネート(EMS)等の変異剤処理などによって処理し、得られた変異株の中から、栄養要求性、アナログ耐性、又は代謝制御変異を示し、かつL−アミノ酸生産能を有するものを選択することによって得ることができる。
L-システイン生産能を増強するような改変が行われた具体的な例としては、フィードバック阻害耐性のセリンアセチルトランスフェラーゼ(SAT)をコードする複数種のcysEアレルで形質転換されたE. coli JM15(米国特許第6,218,168号)、細胞に毒性の物質を排出するのに適したタンパク質をコードする過剰発現遺伝子を有するE. coli W3110 (米国特許第5,972,663号)、システインデスルフヒドラーゼ活性が低下したE. coli株 (特開平11-155571号公報)、cysB遺伝子によりコードされるシステインレギュロンの正の転写制御因子の活性が上昇したE. coli W3110 (WO01/27307)などのエシェリヒア属に属する株が挙げられるが、これらに限定されない。
O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBは、腸内細菌科に属する細菌において、システイン生合成経路の1つであるチオ硫酸経路中で働く酵素であり、O-アセチルセリンとチオ硫酸塩を基質としてS-スルホシステイン(システイン前駆体)を合成する活性を有する酵素である。この限りにおいて、O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBは特に限定されない。具体的には、例えば、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(大腸菌(エシェリヒア・コリ)のcysM遺伝子によってコードされるタンパク質)が挙げられる。
O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼとして、好ましくは、下記(e)又は(f)に記載のタンパク質が挙げられる。
(e)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、又は
(f)配列番号3に示されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つO-アセチルセリンスルフヒドリラーゼB活性を有するタンパク質。
上記(f)において、同一性は、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上であり、さらに好ましくは97%以上であり、よりさらに好ましくは98%以上であり、特に好ましくは99%以上である。
また、上記(f)に記載のタンパク質の一例としては、例えば、
(f’)配列番号3に示されるアミノ酸配列に対して1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、又は挿入されたアミノ酸配列からなり、且つO-アセチルセリンスルフヒドリラーゼB活性を有するタンパク質が挙げられる。
上記(f’)において、複数個とは、例えば2〜30個、好ましくは2〜15個、より好ましくは2〜8個、よりさらに好ましくは2〜5個、特に好ましくは2〜3個である。
上記(f)又は(f’)に記載されるタンパク質において、配列番号3に示されるアミノ酸配列に対して変異している部位は、該タンパク質がO-アセチルセリンスルフヒドリラーゼB活性を有する限りにおいて特に限定されない。変異している部位は、O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼB活性に影響を与えない部位であることが好ましい。このような部位は、例えば、腸内細菌科に属する細菌間でO-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBのアミノ酸配列を比較し、細菌間での同一性や類似性を指標として決定することができる。すなわち、同一性や類似性が低い部位は、O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼB活性に影響が低い(或いは影響が無い)部位であると推測できる。
O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼB活性は、公知の方法に従って、例えば次のように測定することができる。腸内細菌科に属する細菌中で発現する目的のタンパク質を、該細菌から精製する、或いは目的のタンパク質をコードする遺伝子を導入した細菌から精製する等の方法によって得て、得られた目的のタンパク質の存在下で、O-アセチルセリンとチオ硫酸塩が反応してS-スルホシステインが生成するか、及び生成の程度を調べることにより測定することができる。
「O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBの活性が低下」とは、O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBの活性が、非改変株、例えば野生株の腸内細菌科に属する細菌の比活性よりも低くなった状態を意味する。このような状態として、具体的には、例えば細胞あたりのO-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBの分子数が低下した場合や、分子あたりのO-アセチルセリンスルフヒドリラーゼB活性が低下した場合などが挙げられる。O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBの活性は、非改変株と比較して、菌体当たり50%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは10%以下に低下されていることが望ましい。なお、「低下」には、O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼB活性が完全に消失した場合も含まれる。
「O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBの活性が低下するように改変された」とは、「O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBの活性が低下」するように改変された状態である限り特に限定されず、例えば染色体上のO-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBをコードする遺伝子を改変することにより、該遺伝子から発現するタンパク質がO-アセチルセリンスルフヒドリラーゼB活性を発揮しないよう(或いは活性が低下するように)に変異した状態、又は染色体上のO-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBをコードする遺伝子の転写制御領域を改変することにより、該遺伝子が発現しないように(或いは該遺伝子の発現量が低下するように)した状態等を意味する。このような改変は、公知の方法に従って、例えば、O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBをコードする遺伝子を破壊したり、プロモーター配列やシャインダルガルノ(SD)配列等の転写制御領域を改変することにより行われる。より具体的には、例えば、O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBをコードする遺伝子を破壊する場合は、O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBをコードする遺伝子に基づいて、公知の遺伝子工学的手法を用いて、例えば部分配列を欠失させることにより欠失型O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBをコードする遺伝子を作製し、該欠失型遺伝子を含むDNAで腸内細菌科に属する細菌を形質転換し、該欠失型遺伝子と染色体上のO-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBをコードする遺伝子で相同組換えを起こさせることにより、遺伝子を破壊することができる。このような相同組換えを利用した遺伝子置換による遺伝子破壊は既に確立しており、直鎖上DNAを用いる方法や温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法などがある(米国特許第6303383号明細書、又は特開平05-007491号公報)。また、上述のような相同組換えを利用した遺伝子置換により遺伝子破壊は、宿主上で複製能力を持たないプラスミドを用いても行うことが出来る。
O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBをコードする遺伝子としては、上記したO-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBをコードする遺伝子である限り特に限定されず、例えば配列番号4に示される塩基配列を含むDNA(大腸菌(エシェリヒア・コリ)のcysM遺伝子)が挙げられる。また、配列番号4に示される塩基配列又は同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであってもよい。「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味する。このような条件としては、例えば60℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度で、1回より好ましくは2〜3回洗浄する条件が挙げられる。
「O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBの活性が低下するように改変された腸内細菌科に属する細菌」としては、上記「腸内細菌科に属する細菌」に基づいて、上記したように「O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBの活性が低下するように改変」することにより得られたものを用いてもよいし、既にこのような改変がされた腸内細菌科に属する細菌を用いてもよい。このような細菌としては、例えばナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP:http://www.shigen.nig.ac.jp/ecoli/strain/top/top.jsp)の大腸菌K-12株の非必須一遺伝子欠損株ライブラリのJW2414株が挙げられる。
チオ硫酸結合タンパク質は、腸内細菌科に属する細菌において、システイン合成経路の1つであるチオ硫酸経路中で働く酵素であり、細胞膜外においてチオ硫酸塩と結合する活性を有する酵素である。この限りにおいて、チオ硫酸結合タンパク質は特に限定されない。具体的には、例えば、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(大腸菌(エシェリヒア・コリ)のcysP遺伝子によってコードされるタンパク質)、配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(Salmonella typhimuriumのcysP遺伝子によってコードされるタンパク質)、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(Klebsiella pneumoniae のcysP遺伝子によってコードされるタンパク質)等が挙げられる。
O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼとしては、好ましくは、下記(a)又は(b)に記載のタンパク質が挙げられる。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、又は
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つチオ硫酸結合活性を有するタンパク質。
上記(b)において、同一性は、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上であり、さらに好ましくは97%以上であり、よりさらに好ましくは98%以上であり、特に好ましくは99%以上である。なお、配列番号5又は6に示されるアミン酸配列からなるタンパク質は、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質と約95%の同一性を有する。
また、上記(b)に記載のタンパク質の一例としては、例えば、
(b’)配列番号1に示されるアミノ酸配列に対して1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、又は挿入されたアミノ酸配列からなり、且つチオ硫酸結合化性を有するタンパク質が挙げられる。
上記(b’)において、複数個とは、例えば2〜30個、好ましくは2〜15個、より好ましくは2〜8個、よりさらに好ましくは2〜5個、特に好ましくは2〜3個である。
上記(b)又は(b’)に記載されるタンパク質において、配列番号1に示されるアミノ酸配列に対して変異している部位は、該タンパク質がチオ硫酸結合活性を有する限りにおいて特に限定されない。変異している部位は、チオ硫酸結合活性に影響を与えない部位であることが好ましい。このような部位は、例えば、腸内細菌科に属する細菌間でチオ硫酸結合タンパク質のアミノ酸配列を比較し、細菌間での同一性や類似性を指標として決定することできる。すなわち、同一性や類似性が低い部位は、チオ硫酸結合活性に影響を低い(或いは影響が無い)部位であると推測できる。
チオ硫酸結合活性は、公知の方法に従って、測定することができる。
チオ硫酸結合タンパク質のC末端領域とは、チオ硫酸結合タンパク質のC末端側の領域である限り特に限定されない。具体的には、例えば、下記(c)又は(d)に記載の領域が挙げられる。
(c)配列番号1に示されるアミノ酸配列の274〜300番目のアミノ酸からなる領域を含む領域、又は
(d)配列番号1に示されるアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号1に示されるアミノ酸配列の274〜300番目のアミノ酸からなる領域を含む領域に対応する領域。
上記(c)及び(d)において、「配列番号1に示されるアミノ酸配列の274〜300番目のアミノ酸からなる領域を含む領域」としては、配列番号1に示されるアミノ酸配列の274〜300番目のアミノ酸からなる領域を含む限り特に限定されず、例えば配列番号1に示されるアミノ酸配列の274〜300番目のアミノ酸からなる領域を含み、且つ配列番号1に示されるアミノ酸配列の200〜338番目、好ましくは220〜330番目、より好ましくは240〜320番目、さらに好ましくは260〜310番目、特に好ましくは270〜310番目のアミノ酸からなる領域内の任意の領域が挙げられる。なお、「対応する領域」とは、2つの配列をBLASTで比較した場合に対応する領域を示す。
「チオ硫酸結合タンパク質のC末端領域が欠失するように改変され」とは、菌体内で発現しているチオ硫酸結合タンパク質のC末端領域が欠失しているように改変された状態を意味する。このような状態としては、具体的には、例えば染色体上のチオ硫酸結合タンパク質をコードする遺伝子を改変することにより、該遺伝子から、C末端領域が欠失したチオ硫酸結合タンパク質が発現する状態が挙げられる。このような改変は、上記O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBをコードする遺伝子の改変と同様に、例えば相同組換えを利用した公知の遺伝子破壊方法に従って行うことができる。
チオ硫酸結合タンパク質をコードする遺伝子としては、上記したチオ硫酸結合タンパク質をコードする遺伝子である限り特に限定されず、例えば配列番号2に示される塩基配列を含むDNA(大腸菌(エシェリヒア・コリ)のcysP遺伝子)が挙げられる。また、配列番号2に示される塩基配列又は同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであってもよい。「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味する。このような条件としては、例えば60℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度で、1回より好ましくは2〜3回洗浄する条件が挙げられる。
硫酸塩存在下におけるL-システイン生産能とは、硫黄源として硫酸塩を含む培地で培養した場合のL-システイン生産能を意味する。好ましくは、硫黄源として硫酸塩のみを含む培地で培養した場合のL-システイン生産能を意味する。硫酸塩の濃度としては、例えば0.1〜100mM、好ましくは1〜80mM、より好ましくは5〜80mM、さらに好ましくは10〜50mMが挙げられる。
硫酸塩存在下におけるL-システイン生産能が高められたとは、チオ硫酸結合タンパク質のC末端領域が欠失するように改変されていない「O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBの活性が低下するように改変された腸内細菌科に属する細菌」に比べて、硫酸塩存在下におけるL-システイン生産能が高められていることを意味する。
斯かる本発明の細菌は、硫酸塩存在下におけるL-システイン生産能が高められているため、例えば硫黄源として安価な硫酸塩のみを含む培地中であっても、非常に効率良くL-システインを生産することができる。
2.L-システインの製造方法
本発明は、上記本発明の細菌を培地中で培養して得られた培養物からL-システインを採取することを特徴とする、L-システインの製造方法に関する。また、本発明は、上記本発明の細菌を培地中で培養して培養液を得ること、及び得られた培養液からL-システインを採取することを含む、L-システインの製造方法にも関する。
培地は、炭素源、窒素源、イオウ源、無機イオン及び必要に応じその他の有機成分を含有する培地、例えば腸内細菌科に属する細菌を培養する培地として公知の培地を用いることができる。
炭素源としては、グルコース、フラクトース、シュクロース、糖蜜やでんぷんの加水分解物などの糖類、フマール酸、クエン酸、コハク酸等の有機酸類を用いることができる。炭素源は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等を用いることができる。窒素源は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
硫黄源としては、硫酸塩、亜硫酸塩、硫化物塩、次亜硫酸塩、チオ硫酸塩等の無機硫黄化合物が挙げられる。これらの中でも、安価であるという観点から、硫酸塩が挙げられ、硫酸塩の中でも好ましくは、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウムが挙げられる。また、硫黄源として、硫酸塩に加えてチオ硫酸塩を含む培地を採用することにより、より効率的にL-システインを生産することができる。硫黄源は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
腸内細菌科に属する細菌は、L-システイン生産のための硫黄源として、硫酸塩を効率的に利用することができないところ、本発明の製造方法によれば、硫酸塩を含む培地を用いていながらも、効率的にL-システインを製造することができる。
有機微量栄養源としては、ビタミンB1などの要求物質または酵母エキス等を適量含有させることが望ましい。これらの他に、必要に応じてリン酸カリウム、硫酸マグネシウム、鉄イオン、マンガンイオン等が少量添加される。
培養は好気的条件下で30〜90時間実施するのがよく、培養温度は25℃〜37℃に、培養中pHは5〜8に制御することが好ましい。尚、pH調整には無機あるいは有機の酸性あるいはアルカリ性物質、更にアンモニアガス等を使用することができる。
培養物からのL−システインの採取は通常のイオン交換樹脂法、沈澱法その他の公知の方法を組み合わせることにより実施できる。
斯かる本発明の製造方法によれば、安価且つ効率的にL-システインを製造することができる。また、上記のようにして得られるL−システインは、L−システイン誘導体の製造に用いることができる。システイン誘導体としては、メチルシステイン、エチルシステイン、カルボシステイン、S-スルホシステイン、アセチルシステイン等が含まれる。
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
参考例1.大腸菌が利用する硫黄源の選択的利用機構の解析
大腸菌がL-システインを生合成する経路には、硫黄源として硫酸塩を利用する経路(硫酸経路)と、硫黄源としてチオ硫酸塩を利用する経路の(チオ硫酸経路)2つの経路が存在する(図1)。この2つの経路の選択的利用機構の一端を明らかにする目的で、チオ硫酸経路においてシステインの前駆体であるS-スルホシステインの合成に関与する酵素(O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼB:図1)をコードする遺伝子(cysM)の欠損株の硫黄源選択性を調べた。具体的には、下記のように、cysM欠損株を、硫黄源として硫酸塩のみを含む培地、又は硫黄源として硫酸塩及びチオ硫酸塩の両方を含む培地における生育性を調べた。
大腸菌の野生株(BW25113株)又は大腸菌のcys M欠損株(JW2414株(ナショナルバイオリソースプロジェクト・国立遺伝学研究所:http://www.shigen.nig.ac.jp/ecoli/strain/top/top.jsp ))を、M9最少培地(6g/L Na2HPO4、3g/L KH2PO4、0.5g/L NaCl、6g/L Glucose、1mM MgCl2、0.04 % Thiamine-HCl、pH 7.0)5mLに植菌し、37℃で一晩培養した。得られた培養液を生理食塩水又は水で10倍ずつ希釈した希釈系列(10−2〜10−6)を作成した。希釈菌液を、硫黄源としてMgSO4(終濃度0.12g/L)のみを加えたM9最少寒天培地(1.5% 寒天)、硫黄源としてMgSO4(終濃度0.12g/L)及びNa2S2O3(終濃度0.16g/L)を加えたM9最少寒天培地、又はこれら2種の硫黄源に加えてさらにシスチン(終濃度0.24g/L)を加えたM9最少寒天培地に5μLずつスポットし、37℃で一晩培養した。結果を図1に示す。
図2より、cysM欠損株(ΔcysM)は、硫黄源として硫酸塩のみを含む培地中では、野生株(WT)と同様の生育性を示した(図2の上段)。ところが、cysM欠損株は、硫黄源として硫酸塩及びチオ硫酸塩を含む培地中では、野生株に比べて著しく低い生育成を示した(図2の中段)。この生育性の低下は、硫酸塩及びチオ硫酸塩に加えて、シスチンを加えることにより回復することから(図2の下段)、システインの欠乏が原因であることが分かった。
cysMがコードするO-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBは、菌体内に入ったチオ硫酸塩とO-アセチルセリンからS-スルホシステイン(システイン前駆体)を合成する酵素であることから、この酵素が存在しないcysM欠損株をチオ硫酸塩存在下で培養すると、チオ硫酸経路によるシステイン合成が起こらず、このためチオ硫酸塩が菌体内に蓄積されると考えられる。一方、cysM欠損株は硫酸経路には何らの変異も起きていないため、硫酸経路によるシステイン合成は正常に起こるはずである。ところが、図2に示されるように、cysM欠損株は、硫黄源として硫酸塩のみを含む培地中では正常に生育するものの、硫酸塩に加えてチオ硫酸塩を含む培地中では、システイン欠乏によって生育性が著しく低下する。このことは、cysM欠損株において菌体内に蓄積されたチオ硫酸塩が、硫酸経路によるシステイン合成を阻害することを意味する。
以上より、野生株を、硫黄源として硫酸塩及びチオ硫酸塩の両方が存在する培地で培養しても、菌体内に入るチオ硫酸塩によって硫酸経路によるシステイン合成が阻害されるため(以下、この機構を「チオ硫酸リプレッション(TSR)」と示すこともある)、主にチオ硫酸経路によってシステイン合成が起こることが強く示唆された。
実施例1.チオ硫酸リプレッションが起こらない変異株の取得
硫黄源として硫酸塩とチオ硫酸塩の両方が存在していても、システイン合成には、実際にはチオ硫酸塩しか使われないことが示唆されている(参考例1)。硫酸塩及びチオ硫酸塩の両方が存在している状態でも、硫酸経路及びチオ硫酸経路の両方によるシステイン合成を起こす変異株(チオ硫酸リプレッションが起こらない変異株)を取得できれば、この変異株によって効率良くシステインを合成することができると考えられる。そこで、このような変異株の取得を試みた。具体的には、下記のように行った。
大腸菌のcysM欠損株を、硫黄源としてMgSO4(終濃度0.12g/L)及びNa2S2O3(終濃度0.16g/L)を加えたM9最少培地(以下、「M9最少培地(SO4+、S2O3+)」)5mLに植菌し、37℃で40時間培養した。この培養におけるcysM欠損株の増殖曲線を図3に示す(図3のcysM)。図3より、cysM欠損株を硫酸塩及びチオ硫酸塩の存在下で培養しても、培養開始から22時間位まではほとんど増殖しなかったが、その後徐々に増殖し、最終的に野生型と同程度の濁度になるまで増殖した。このことから、培養中に、cysM欠損株から、チオ硫酸リプレッションが起こらない変異株が生じたと考えられた。そこで、培養液を、M9最少培地(SO4+、S2O3+)の寒天培地上にプレーティングし、一晩培養後の寒天培地から、変異株のシングルコロニーを分離した。分離された変異株をM9最少培地(SO4+、S2O3+)5mLに植菌し、37℃で40時間培養した。この培養における変異株の増殖曲線を図3に示す(図3のSup 1)。図3より、変異株の培養液は、培養開始後4時間程度で濁度上昇した。これは野生株(図3のWT)と同様の生育性であった。このように、得られた変異株は、硫酸塩及びチオ硫酸塩の存在下で培養しても野生株と同様の生育性を示すことから、チオ硫酸リプレッションが起こらなくなった変異株(以下、この変異株を「サプレッサー変異株(Sup 1)」と示すこともある)である。
実施例2.サプレッサー変異株の変異点解析
実施例1で得られたサプレッサー変異株において、cysM欠損株から変異している部分を同定するために、これらの株のゲノムを次世代シーケンサーを用いて解析した。具体的には以下のように行った。
サプレッサー変異株及びcysM欠損株のゲノムを抽出・精製し、得られたゲノムを454 GS junior (Roche社製)を用いて、リシーケンスした。その結果、両株共に平均約480 bpの長鎖リードが約20万本近く得られ、cysM欠損株では約84 Mbp、サプレッサー変異株では約98 Mbpの配列情報を取得できた(Table 9)。大腸菌ゲノムが約5 Mbpであることを考えると、cysM欠損株では大腸菌ゲノム約16周分、サプレッサー変異株では約20周分と、変異点解析には十分な量のゲノム情報と考えられた。また、リードの平均長が480 bpとSolidなど他の次世代シーケンサー用いた場合よりも長いリードでの解析が行えた。
cysM欠損株の親株である野生株(BW25113株)はゲノムが決定されていない。そのため、BW25113株の近縁と考えられているMG1655株のゲノム情報に、454 GS juniorにより取得したゲノム情報をマッピングし、両ゲノム間のSNPs及び、20 bp以上の変異を比較した。
SNPs解析の結果、MG1655に対してcysM欠損株及びサプレッサー変異株間に生じているSNPsには差がなかった。次に、20 bp以上の変異を比較した結果、興味深いことに、サプレッサー変異株においてのみCys合成関連遺伝子であるcysP遺伝子内に81 bpの欠失が生じていることが判明した。具体的には、cysP遺伝子のORFを表す配列番号2中、820〜900番目(81 bp)が欠失していた。この欠失領域は、cysP遺伝子がコードするチオ硫酸結合タンパク質のアミノ酸配列を表す配列番号1において、274〜300番目のアミノ酸領域に相当する。
実施例3.サプレッサー変異株のシステイン生産能
サプレッサー変異株のシステイン生産能を調べた。具体的には下記のように行った。
Cys M欠損株及びサプレッサー変異株に対して、システイン生産能を向上させるプラスミド(pDES)を導入した。pDESは、pACYC184プラスミドに、410番目のアミノ酸(トレオニン)が終始コドンに変換されるように変異したserA遺伝子、ydeD遺伝子、及び167番目のアミノ酸(トレオニン)がアラニンに変換されるように変異したcysE遺伝子が、OmpAプロモーターの制御下に挿入された構造を有する。変異型serA遺伝子及び変異型cysEにより、フィードバック阻害が軽減され、ydeD遺伝子によりシステインの細胞外への排出が促進される。得られた菌株(cysM欠損株(pDES+)、サプレッサー変異株(pDES+))をLB(+Tet)培地(1% Bacto trypton、0.5% Yeast extract、1% NaCl、10μg/ml tetracycline)20mLに植菌し、30℃で18〜22時間、定常期まで前培養を行った。定常期の培養液のOD660を測定し、OD660=0.4→1%seedとしてSM1(+10%LB+Tet)培地(0.1 M KH2PO4-K2HPO4 buffer (pH 7.0), 30 g/L glucose, 10g/L (NH4)2SO4, 0.1 g/L NaCl, 7.2 μM FeSO4・7H2O, 0.6 μM Na2MoO4, 40.4 μM H3BO3, 2.9 μM CoCl2, 1 μM CuSO4, 8.1 μM MnCl2, 1 mM MgSO4, 0.1 mM CaCl2, 10%LB培地, 12.5μg/ml tetracycline)30mLに植菌した。植菌後、Cysと同時に合成される酢酸によるpH低下を防ぐために、0.6 gのCaCO3を添加した。硫黄源にはMgSO4単独、又はNa2S2O3とMgSO4両方とし、培養後6時間目にNa2S2O3を終濃度が20 mMになるように添加した。培養開始後12時間おきに、600 μLずつサンプリングした。各サンプル40μLを、0.1N 塩酸1 mLに懸濁してから(培地中に含まれるCaCO3を溶解させるため)、OD562を測定し生育を確認した。残りのサンプルを12,000 rpm で遠心分離し、培地上清を回収し、Cys蓄積量を測定した。Cys蓄積量の測定は、酸性ニンヒドリン法(Gaitonde et al.,1967)によって行った。培地上清50μLを10 mM DTT(pH8.6) 50μLと10分反応させ、酢酸100μL、12 N 塩酸100μLを加え攪拌し、105℃で20分加熱した。加熱後冷却し1.5 mLエタノールを加え、OD560を測定し、あらかじめ作成したCysの検量線よりCys蓄積量を確認した。硫黄源として、MgSO4を単独で加えた場合の結果を図4に示し、Na2S2O3とMgSO4両方を加えた場合の結果を図5に示す。
図4より、サプレッサー変異株(図4のsup 1_pDES(+SO4))は、硫黄源として硫酸塩のみを含む培地中で、親株であるcysM欠損株(図4のΔcysM_pDES(+SO4))に比べて、遥かに高いシステイン生産能を示した。チオ硫酸リプレッションが起こらないという指標で選別されたサプレッサー変異株が、チオ硫酸塩非存在下(チオ硫酸リプレッションがそもそも起こらない)においてもcysM欠損株より高いシステイン生産能を示したことは、全くの予想外であった。また、cysM欠損株はシステイン合成の硫酸経路は無傷であることから、硫黄源として硫酸塩のみを含む培地におけるシステイン生産能は、野生株と同程度である。したがって、図4の結果より、サプレッサー変異株は、野生株よりも、硫酸塩を硫黄源としたシステイン生産が効率良く行えることが示された。
図5より、サプレッサー変異株(図5のsup 1_pDES(+S2O3+SO4))は、硫黄源として硫酸塩及びチオ硫酸塩の両方を含む培地中で、親株であるcysM欠損株(図5のΔcysM_pDES(+S2O3+SO4))に比べて、遥かに高いシステイン生産能を示した。そして、サプレッサー変異株の、硫黄源として硫酸塩及びチオ硫酸塩の両方を含む場合のシステイン生産能は、硫黄源として硫酸塩のみを含む場合よりも高かった(図4と図5の縦軸の比較)。すなわち、サプレッサー変異株のシステイン生産能は、硫酸塩に加えて、さらにチオ硫酸塩を添加することにより、向上した。サプレッサー変異株は、チオ硫酸経路で働く2遺伝子が変異(1遺伝子は欠損)したものであるところ、チオ硫酸塩によってシステイン生産能が向上することは、全くの予想外であった。

Claims (6)

  1. O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBをコードする遺伝子が破壊された腸内細菌科に属する細菌であって、
    チオ硫酸結合タンパク質のC末端領域が欠失するように改変され、
    前記チオ硫酸結合タンパク質が下記(a)又は(b)に記載のタンパク質:
    (a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、又は
    (b)配列番号1に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つチオ硫酸結合活性を有するタンパク質であり、
    前記C末端領域が下記(c)又は(d)に記載の領域:
    (c)配列番号1に示されるアミノ酸配列の274〜300番目のアミノ酸からなる領域を含む領域、又は
    (d)配列番号1に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号1に示されるアミノ酸配列の274〜300番目のアミノ酸からなる領域を含む領域に対応する領域であり、
    且つ
    硫酸塩存在下におけるL-システイン生産能が高められたことを特徴とする、
    腸内細菌科に属する細菌。
  2. 前記O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBが下記(e)又は(f)に記載のタンパク質である、請求項1に記載の細菌:
    (e)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、又は
    (f)配列番号3に示されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つO-アセチルセリンスルフヒドリラーゼB活性を有するタンパク質。
  3. 前記腸内細菌科に属する細菌がエシェリヒア属細菌である、請求項1又は2に記載の細菌。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の細菌を培地中で培養して得られた培養物からL-システインを採取することを特徴とする、L-システインの製造方法。
  5. 前記培地が硫黄源として硫酸塩を含む、請求項4に記載の製造方法。
  6. 前記培地が硫黄源としてさらにチオ硫酸塩を含む、請求項5に記載の製造方法。
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