JP6400587B2 - L―システインの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、新規チオ硫酸経路を利用したL-システインの効率的な製造方法、及び該方法に適した細菌に関する。
システイン・シスチン類は、医薬品、化粧品、食品等の多岐にわたる分野で利用されている。システインは、主に、人・動物の毛に多く含まれるアミノ酸であることから、古典的にはこれらの毛を加水分解することにより製造されてきた。しかし、製品の安全性をより高めるという観点、及び環境への影響をより少なくするという観点から、多くの他のアミノ酸と同様に発酵法によって製造することが望まれている。
従来から、腸内細菌科に属する細菌を用いた発酵法によりシステインを製造する方法が各種報告されている(特許文献1及び2)。腸内細菌科に属する細菌、例えば大腸菌には、システインを生合成する経路として、硫黄源として硫酸塩を利用する経路(硫酸経路)と、硫黄源としてチオ硫酸塩を利用する経路(チオ硫酸経路)の2つの経路が存在することが知られている(非特許文献1)。
しかしながら、システイン生合成経路にはいまだ未知の部分が多く、他の経路が存在すること、ましてやチオ硫酸経路として新たな経路が存在することは全く知られていなかった。
WO2009/104731 特開2010-193788号公報
Nakatani et al., ‘Enhancement of thioredoxin/glutaredoxin-mediated L-cysteine synthesis from S-sulfocysteine increases L-cysteine production in Escherichia colo’, Microbial Cell Factories, 2012, 11:62
本発明は、L-システインの効率的な製造方法、及び該方法に適した細菌を提供することを目的とする。
従来、チオ硫酸経路におけるシステイン合成には、cys M遺伝子が必須であると考えられていた(図1)。しかし、意外にも、cys M遺伝子を欠損した大腸菌でも、硫黄源としてチオ硫酸のみを含む培地中で生育可能なこと、すなわちシステインを合成できることが、本発明者等によって見出された。このことから、従来知られていたチオ硫酸経路(cys M依存)以外にも、cys Mに依存しない別のチオ硫酸経路(cys M非依存チオ硫酸経路)が存在することが示唆された。
そして、本発明者等は、硫黄転移ドメインを有する特定のタンパク質が、cys M非依存チオ硫酸経路を担っていること、及びこれらのタンパク質を過剰発現させることによりcys M非依存チオ硫酸経路を活性化すれば、より効率的にL-システインを製造できることを見出した。
さらに、本発明者等は、上記タンパク質を過剰発現させたL-システインを製造する場合、炭素源としてグリセロールを用いると、より効率的にL-システインを製造できることをも見出した。
上記知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明が完成した。
即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
項1.
腸内細菌科に属する細菌を培地中で培養して得られた培養物からL-システインを採取する、L-システインの製造方法であって、
前記腸内細菌科に属する細菌が、glp Eタンパク質、yee Dタンパク質、psp Eタンパク質、sse Aタンパク質、yce Aタンパク質、及びsir Aタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種の硫黄転移ドメイン含有タンパク質が過剰発現するように改変されていることを特徴とする、製造方法。
項2.
前記硫黄転移ドメイン含有タンパク質が、glp Eタンパク質、yee Dタンパク質、及びpsp Eタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種である、項1に記載の製造方法。
項3.
前記硫黄転移ドメイン含有タンパク質が、yee Dタンパク質、及びsir Aタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種である、項1に記載の製造方法。
項4.
前記培地が炭素源としてグリセロールを含む、項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
項5.
前記培地が硫黄源としてチオ硫酸塩を含む、項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
項6.
前記培地が硫黄源として硫酸塩を含む、項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
項7.
前記腸内細菌科に属する細菌がエシェリヒア属細菌である、項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
項8.
glp Eタンパク質、yee Dタンパク質、psp Eタンパク質、sse Aタンパク質、yce Aタンパク質、及びsir Aタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種の硫黄転移ドメイン含有タンパク質が過剰発現するように改変されている腸内細菌科に属する細菌。
項9.
さらに、O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBの活性が低下するように改変されている、項8に記載の細菌。
項10.
前記硫黄転移ドメイン含有タンパク質が、glp Eタンパク質、yee Dタンパク質、及びpsp Eタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種である、項8又は9に記載の細菌。
項11.
前記硫黄転移ドメイン含有タンパク質が、yee Dタンパク質、及びsir Aタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種である、項8又は9に記載の細菌。
本発明によれば、L-システインの効率的な製造方法、及び該方法に適した細菌を提供することができる。本発明の製造方法によれば、特定タンパク質を過剰発現するという簡便な手法により、L-システインを効率的に製造できる。この効率は、炭素源としてグリセロールを用いることによりさらに向上させることができる。なお、グリセロールは、再生可能エネルギーとして注目を集めているバイオディーゼルの製造の副産物として生成することが知られており、その有効利用が課題となっている。したがって、本発明の製造方法によれば、このようなグリセロールの有効利用にも資することが可能である。さらに、本発明の製造方法は、微生物発酵を利用しているため、得られる製品の安全性や環境負荷の観点からも優れた方法である。
システイン生合成経路の模式図を示す。 cys M欠損株でも、硫黄源としてチオ硫酸のみを含む培地中で生育可能なことを示す(参考例1)。 チオ硫酸経路活性化因子を過剰発現させることにより、cys M欠損による生育阻害が回復することを示す(実施例1)。 チオ硫酸経路活性化因子をcys M欠損株に過剰発現させることにより、システイン生産能が向上することを示す(実施例2)。 チオ硫酸経路活性化因子の過剰発現株のシステイン生産能が、炭素源としてグリセロールを用いることにより向上することを示す(実施例3)。 チオ硫酸経路活性化因子を野生株に過剰発現させても、システイン生産能が向上することを示す(実施例4)。 種々のチオ硫酸経路活性化因子のcys M欠損株における過剰発現により、システイン生産能が向上することを示す(実施例5)。 種々のチオ硫酸経路活性化因子の野生株における過剰発現により、システイン生産能が向上することを示す(実施例6)。
本発明の製造方法、すなわち、腸内細菌科に属する細菌を培地中で培養して得られた培養物からL-システインを採取する、L-システインの製造方法について説明する。
本発明の製造方法は、腸内細菌科に属する細菌が、glp Eタンパク質、yee Dタンパク質、psp Eタンパク質、sse Aタンパク質、yce Aタンパク質、及びsir Aタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種のタンパク質(以下、「チオ硫酸経路活性化タンパク質」と示すこともある)が過剰発現するように改変されていることを特徴とする。これらのタンパク質は、いずれも、硫黄転移に関与するドメイン(Rhodanese-like domain(Rhd)又はSulfurtransferase Tus A domain(Tus A))を含有するという構造的共通点を有している。
Glp Eタンパク質は、腸内細菌科に属する細菌において、glp E遺伝子から発現するタンパク質である限り特に限定されない。具体的には、大腸菌のglp E遺伝子から発現するタンパク質(配列番号1)、赤痢菌のglp E遺伝子から発現するタンパク質(配列番号2)、サルモネラ菌のglp E遺伝子から発現するタンパク質(配列番号3)等が挙げられる。過剰発現させるGlp Eタンパク質は、過剰発現させる細菌の種類に応じて適宜選択することが好ましい。例えば、細菌が大腸菌である場合は、大腸菌のglp E遺伝子から発現するタンパク質を過剰発現させることが望ましい。Glp Eタンパク質は1種単独で過剰発現させてもよいが、2種以上を組み合わせて過剰発現させてもよい。
Yee Dタンパク質は、腸内細菌科に属する細菌において、yee D遺伝子から発現するタンパク質である限り特に限定されない。具体的には、大腸菌のyee D遺伝子から発現するタンパク質(配列番号4)、赤痢菌のyee D遺伝子から発現するタンパク質(配列番号5)等が挙げられる。過剰発現させるYee Dタンパク質は、過剰発現させる細菌の種類に応じて適宜選択することが好ましい。例えば、細菌が大腸菌である場合は、大腸菌のyee D遺伝子から発現するタンパク質を過剰発現させることが望ましい。Yee Dタンパク質は1種単独で過剰発現させてもよいが、2種以上を組み合わせて過剰発現させてもよい。
Psp Eタンパク質は、腸内細菌科に属する細菌において、psp E遺伝子から発現するタンパク質である限り特に限定されない。具体的には、大腸菌のpsp E遺伝子から発現するタンパク質(配列番号6)、赤痢菌のpsp E遺伝子から発現するタンパク質(配列番号7)等が挙げられる。過剰発現させるPsp Eタンパク質は、過剰発現させる細菌の種類に応じて適宜選択することが好ましい。例えば、細菌が大腸菌である場合は、大腸菌のpsp E遺伝子から発現するタンパク質を過剰発現させることが望ましい。Psp Eタンパク質は1種単独で過剰発現させてもよいが、2種以上を組み合わせて過剰発現させてもよい。
Sse Aタンパク質は、腸内細菌科に属する細菌において、sse A遺伝子から発現するタンパク質である限り特に限定されない。具体的には、大腸菌のsse A遺伝子から発現するタンパク質(配列番号8)、赤痢菌のsse A遺伝子から発現するタンパク質(配列番号9)等が挙げられる。過剰発現させるSse Aタンパク質は、過剰発現させる細菌の種類に応じて適宜選択することが好ましい。例えば、細菌が大腸菌である場合は、大腸菌のsse A遺伝子から発現するタンパク質を過剰発現させることが望ましい。Sse Aタンパク質は1種単独で過剰発現させてもよいが、2種以上を組み合わせて過剰発現させてもよい。
Yce Aタンパク質は、腸内細菌科に属する細菌において、yce A遺伝子から発現するタンパク質である限り特に限定されない。具体的には、大腸菌のyce A遺伝子から発現するタンパク質(配列番号10)、赤痢菌のyce A遺伝子から発現するタンパク質(配列番号11)、サルモネラ菌のyce A遺伝子から発現するタンパク質(配列番号12)等が挙げられる。過剰発現させるYce Aタンパク質は、過剰発現させる細菌の種類に応じて適宜選択することが好ましい。例えば、細菌が大腸菌である場合は、大腸菌のyce A遺伝子から発現するタンパク質を過剰発現させることが望ましい。Yce Aタンパク質は1種単独で過剰発現させてもよいが、2種以上を組み合わせて過剰発現させてもよい。
Sir Aタンパク質は、腸内細菌科に属する細菌において、sir A遺伝子から発現するタンパク質である限り特に限定されない。具体的には、大腸菌のsir A遺伝子から発現するタンパク質(配列番号13)、赤痢菌のsir A遺伝子から発現するタンパク質(配列番号14)等が挙げられる。過剰発現させるSir Aタンパク質は、過剰発現させる細菌の種類に応じて適宜選択することが好ましい。例えば、細菌が大腸菌である場合は、大腸菌のsir A遺伝子から発現するタンパク質を過剰発現させることが望ましい。Sir Aタンパク質は1種単独で過剰発現させてもよいが、2種以上を組み合わせて過剰発現させてもよい。
上記チオ硫酸経路活性化タンパク質としては、より効率的にL-システインを製造できるという観点から、glp Eタンパク質、yee Dタンパク質、及びpsp Eタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく挙げられ、glp Eタンパク質及びyee Dタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく挙げられ、yee Dタンパク質がよりさらに好ましく挙げられる。
また、別の好ましい一態様として、チオ硫酸経路活性化タンパク質がyee Dタンパク質及びSir Aタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種である態様が挙げられる。
上記チオ硫酸経路活性化タンパク質は、野生型遺伝子から発現するタンパク質以外に、該タンパク質のアミノ酸配列における数個(例えば1〜10個、好ましくは1〜6個、更に好ましくは1〜4個、より好ましくは1〜3個、特に好ましくは1又は2個)のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は挿入されており、且つ、該タンパク質と同等の機能を有する変異タンパク質であってもよい。
上記チオ硫酸経路活性化タンパク質が過剰発現するように改変されているとは、常に、或いはある条件下でチオ硫酸経路活性化タンパク質が過剰発現するように改変されていることを意味する。この限りにおいて、改変方法としては特に限定されず、例えばタンパク質を過剰発現させる為の公知の改変方法を採用することができる。公知の改変方法としては、例えば、チオ硫酸経路活性化タンパク質をコードする遺伝子を挿入した適当な発現ベクターを、細菌に導入するという方法等が挙げられる。
チオ硫酸経路活性化タンパク質をコードする遺伝子(glp E遺伝子、yee D遺伝子、psp E遺伝子、sse A遺伝子、yce A遺伝子、及びsir A遺伝子)は、公知の配列情報に基づいて、常法に従って取得することができる。例えば、腸内細菌科に属する細菌からゲノムDNAを抽出し、常法に従ってPCRクローニングすることにより、目的とする遺伝子を取得することができる。
発現ベクターは特に限定されず、細菌用発現ベクターとして公知のベクターを採用することができる。発現ベクターとしては、チオ硫酸活性化タンパク質がある特定の条件下でのみ発現するように設計されたものを用いてもよい。例えば、発現ベクター中の遺伝子の上流にlacオペレーターを配置することにより、IPTG誘導下で発現するように設計したものを発現ベクターとして用いることもできる。
細菌に導入する方法も特に限定されず、公知の導入方法を採用することができる。
上記改変の対照となる腸内細菌科に属する細菌は、L-システイン生産能を有するものであれば特に限定されず、野生株であっても改変株であってもよい。ここで、本発明において、L-システイン生産能とは、硫黄源を含む培地中で培養した場合に、培地にL-システインを蓄積させる能力を意味する。具体的には、例えばエシェリヒア属細菌、エンテロバクター属細菌、パントエア属細菌、クレブシエラ属細菌、セラチア属細菌、エルビニア属細菌、サルモネラ属細菌、モルガネラ属細菌などの、NCBI(National Center for Biotechnology Information)データベースに記載されている分類により腸内細菌科に属するもの、及びこれらの細菌の改変株(若しくは変異株)が挙げられ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Taxonomy/Browser/wwwtax.cgi?id=91347)、好ましくはエシェリヒア属細菌及びその改変株(若しくは変異株)が挙げられる。
エシェリヒア属細菌としては、特に限定されないが、具体的にはNeidhardtらの著書(Backmann, B. J. 1996. Derivations and Genotypes of some mutant derivatives of Escherichia coli K-12, p. 2460-2488. Table 1. In F. D. Neidhardt (ed.), Escherichia coli and Salmonella Cellular and Molecular Biology/Second Edition, American Society for Microbiology Press, Washington, D.C.)に挙げられるものが利用できる。その中では、例えばエシェリヒア・コリが挙げられる。エシェリヒア・コリとしては具体的には、プロトタイプの野生株K12株由来のエシェリヒア・コリ W3110 (ATCC 27325)、エシェリヒア・コリ MG1655 (ATCC 47076)等が挙げられる。
腸内細菌科に属する細菌の改変株においては、L-システイン生産能を増強するような改変が行われていることが好ましい。このような改変は公知の方法に従って行うことができる。
例えば、細菌にL−システイン生産能を増強するには、栄養要求性変異株、アナログ耐性株又は代謝制御変異株の取得や、L-システインの生合成系酵素の発現が増強された組換え株の創製等、従来、コリネ型細菌又はエシェリヒア属細菌等の育種に採用されてきた方法を適用することができる(アミノ酸発酵、(株)学会出版センター、1986年5月30日初版発行、第77-100頁参照)。ここで、L−システイン生産菌の育種において、付与される栄養要求性、アナログ耐性、代謝制御変異等の性質は、単独でもよく、2種又は3種以上であってもよい。また、発現が増強されるL−システイン生合成系酵素も、単独であっても、2種又は3種以上であってもよい。さらに、栄養要求性、アナログ耐性、代謝制御変異等の性質の付与と、生合成系酵素の増強が組み合わされてもよい。
L-システイン生産能を有する栄養要求性変異株、L-システインのアナログ耐性株、又は代謝制御変異株を取得するには、親株又は野生株を通常の変異処理、すなわちX線や紫外線の照射、またはN-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)もしくはエチルメタンスルフォネート(EMS)等の変異剤処理などによって処理し、得られた変異株の中から、栄養要求性、アナログ耐性、又は代謝制御変異を示し、かつL-アミノ酸生産能を有するものを選択することによって得ることができる。
L-システイン生産能を増強するような改変が行われた具体的な例としては、フィードバック阻害耐性のセリンアセチルトランスフェラーゼ(SAT)をコードする複数種のcys Eアレルで形質転換されたE. coli JM15(米国特許第6,218,168号)、細胞に毒性の物質を排出するのに適したタンパク質をコードする過剰発現遺伝子を有するE. coli W3110 (米国特許第5,972,663号)、システインデスルフヒドラーゼ活性が低下したE. coli株 (特開平11-155571号公報)、cys B遺伝子によりコードされるシステインレギュロンの正の転写制御因子の活性が上昇したE. coli W3110 (WO01/27307)などのエシェリヒア属に属する株が挙げられるが、これらに限定されない。
本発明の製造方法に使用する腸内細菌科に属する細菌は、O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBの活性が低下するように改変されていてもよい。このような改変株は、培地の炭素源がグルコースである場合と、グリセロールである場合で、システイン生産能が大きく異なる。したがって、培地の炭素源を変えることにより、簡便にシステイン生産能を調節することができる。
O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBは、腸内細菌科に属する細菌において、システイン生合成経路の1つであるチオ硫酸経路中で働く酵素であり、O-アセチルセリンとチオ硫酸塩を基質としてS-スルホシステイン(システイン前駆体)を合成する活性を有する酵素である。この限りにおいて、O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBは特に限定されない。具体的には、例えば、大腸菌の場合は、大腸菌cys M遺伝子から発現するタンパク質が挙げられる。
O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼB活性は、公知の方法に従って、例えば次のように測定することができる。腸内細菌科に属する細菌中で発現する目的のタンパク質を、該細菌から精製する、或いは目的のタンパク質をコードする遺伝子を導入した細菌から精製する等の方法によって得て、得られた目的のタンパク質の存在下で、O-アセチルセリンとチオ硫酸塩が反応してS-スルホシステインが生成するか、及び生成の程度を調べることにより測定することができる。
「O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBの活性が低下」とは、O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBの活性が、非改変株、例えば野生株の腸内細菌科に属する細菌の比活性よりも低くなった状態を意味する。このような状態として、具体的には、例えば細胞あたりのO-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBの分子数が低下した場合や、分子あたりのO-アセチルセリンスルフヒドリラーゼB活性が低下した場合などが挙げられる。O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBの活性は、非改変株と比較して、菌体当たり50%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは10%以下に低下されていることが望ましい。なお、「低下」には、O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼB活性が完全に消失した場合も含まれる。
「O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBの活性が低下するように改変された」とは、「O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBの活性が低下」するように改変された状態である限り特に限定されず、例えば染色体上のO-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBをコードする遺伝子を改変することにより、該遺伝子から発現するタンパク質がO-アセチルセリンスルフヒドリラーゼB活性を発揮しないよう(或いは活性が低下するように)に変異した状態、又は染色体上のO-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBをコードする遺伝子の転写制御領域を改変することにより、該遺伝子が発現しないように(或いは該遺伝子の発現量が低下するように)した状態等を意味する。このような改変は、公知の方法に従って、例えば、O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBをコードする遺伝子を破壊したり、プロモーター配列やシャインダルガルノ(SD)配列等の転写制御領域を改変することにより行われる。より具体的には、例えば、O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBをコードする遺伝子を破壊する場合は、O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBをコードする遺伝子に基づいて、公知の遺伝子工学的手法を用いて、例えば部分配列を欠失させることにより欠失型O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBをコードする遺伝子を作製し、該欠失型遺伝子を含むDNAで腸内細菌科に属する細菌を形質転換し、該欠失型遺伝子と染色体上のO-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBをコードする遺伝子で相同組換えを起こさせることにより、遺伝子を破壊することができる。このような相同組換えを利用した遺伝子置換による遺伝子破壊は既に確立しており、直鎖上DNAを用いる方法や温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法などがある(米国特許第6303383号明細書、又は特開平05-007491号公報)。また、上述のような相同組換えを利用した遺伝子置換により遺伝子破壊は、宿主上で複製能力を持たないプラスミドを用いても行うことが出来る。
培地は、炭素源、窒素源、硫黄源、無機イオン及び必要に応じその他の有機成分を含有する培地、例えば腸内細菌科に属する細菌を培養する培地として公知の培地を用いることができる。
炭素源は、腸内細菌科に属する細菌が利用し得る炭素源である限り特に限定されない。炭素源としては、例えば、グリセロール、グルコース、フラクトース、シュクロース、糖蜜やでんぷんの加水分解物などの糖類、フマール酸、クエン酸、コハク酸等の有機酸類等が挙げられる。これらの中でも、より効率的にL-システインを製造できるという観点から、好ましくはグリセロール、及びグルコースが挙げられ、より好ましくはグリセロールが挙げられる。炭素源は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
窒素源は、腸内細菌科に属する細菌が利用し得る窒素源である限り特に限定されない。窒素源としては、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等が挙げられる。窒素源は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
硫黄源は、腸内細菌科に属する細菌が利用し得る硫黄源である限り特に限定されない。硫黄源としては、例えば、硫酸塩、亜硫酸塩、硫化物塩、次亜硫酸塩、チオ硫酸塩等の無機硫黄化合物が挙げられる。これらの中でも、より効率的にL-システインを製造できるという観点から、硫黄源として、好ましくはチオ硫酸塩が挙げられ、チオ硫酸塩の中でも好ましくは、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸アンモニウム等が挙げられる。硫黄源としてチオ硫酸を用いる場合、より効率的にL-システインを製造できるという観点から、硫黄源として硫酸塩を含まない態様が好ましく、硫黄源としてチオ硫酸塩のみを含む態様がより好ましい。一方、より安価であるという観点から、硫黄源として、好ましくは硫酸塩が挙げられ、硫酸塩の中でも好ましくは、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム等が挙げられる。硫黄源として硫酸塩を用いる場合、より安価にL-システインを製造できるという観点から、硫黄源としてチオ硫酸を含まない態様が好ましく、硫黄源として硫酸塩のみを含む態様がより好ましい。本発明の製造方法は、新規チオ硫酸経路を見出し、該チオ硫酸経路を活性化する因子を過剰発現させることを特徴としているにもかかわらず、予想外にも、硫黄源としてチオ硫酸塩を含まない培地を用いてもより効率的にL-システインを製造することができる。硫黄源は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
有機微量栄養源としては、ビタミンB1などの要求物質または酵母エキス等を適量含有させることが望ましい。これらの他に、必要に応じてリン酸カリウム、硫酸マグネシウム、鉄イオン、マンガンイオン等が少量添加される。
培養は好気的条件下で30〜90時間実施するのがよく、培養温度は25℃〜37℃に、培養中pHは5〜8に制御することが好ましい。尚、pH調整には無機あるいは有機の酸性あるいはアルカリ性物質、更にアンモニアガス等を使用することができる。
培養物からのL-システインの採取は通常のイオン交換樹脂法、沈澱法その他の公知の方法を組み合わせることにより実施できる。
斯かる本発明の製造方法によれば、簡便且つ効率的にL-システインを製造することができる。また、上記のようにして得られるL−システインは、L−システイン誘導体の製造に用いることができる。システイン誘導体としては、メチルシステイン、エチルシステイン、カルボシステイン、S-スルホシステイン、アセチルシステイン等が含まれる。
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
参考例1.システイン生産における硫黄源の利用機構の解析
大腸菌がL-システインを生合成する経路には、硫黄源として硫酸塩を利用する経路(硫酸経路)と、硫黄源としてチオ硫酸塩を利用する経路の(チオ硫酸経路)2つの経路が存在する(図1)。図1に示されるように、チオ硫酸経路においてはCys Mタンパク質がシステイン合成を担っているのに対して、硫酸経路においてはCys Kタンパク質がシステイン合成を担っている。そこで、システイン生産における硫黄源の利用機構の一端を明らかにする目的で、cys K遺伝子又はcys M遺伝子の欠損株を、硫黄源として硫酸のみを含む培地又はチオ硫酸のみを含む培地中での生育能を調べた。具体的には次のように行った。
大腸菌の野生株(BW25113株)、大腸菌のcys M欠損株(JW2414株(ナショナルバイオリソースプロジェクト・国立遺伝学研究所:http://www.shigen.nig.ac.jp/ecoli/strain/top/top.jsp ))、又は大腸菌のcys K欠損株(JW2407株(ナショナルバイオリソースプロジェクト・国立遺伝学研究所)を、M9最少培地(6g/L Na2HPO4、3g/L KH2PO4、0.5g/L NaCl、6g/L Glucose、1mM MgCl2、0.04 % Thiamine-HCl、pH 7.0)5mLに植菌し、37℃で一晩培養した。得られた培養液を生理食塩水又は水で10倍ずつ希釈した希釈系列(10−2〜10−6)を作成した。希釈菌液を、硫黄源としてMgSO4(終濃度0.12g/L)のみを加えたM9最少寒天培地(1.5% 寒天)、又は硫黄源としてNa2S2O3(終濃度0.16g/L)のみを加えたM9最少寒天培地に5μLずつスポットし、37℃で36時間培養した。結果を図2に示す。
図2に示されるように、cys M欠損株(△cys M)は、チオ硫酸のみを含む培地中で、cys M欠損によって生育が阻害されてはいるものの、生育可能であった。このことから、大腸菌がL-システインを生合成する経路には、硫黄源としてチオ硫酸塩を利用しながらもCys Mタンパク質を必要としない第3の経路(以下、「cys M非依存チオ硫酸経路」と示すこともある)が存在することが示唆された。
実施例1.システイン生産におけるチオ硫酸利用経路の欠損を回復させる因子の探索
参考例1で示唆されたcys M非依存チオ硫酸経路を担う因子を探索する目的で、cys M欠損による生育阻害を回復させる因子を探索した。具体的には次のように行った。
大腸菌の種々の遺伝子の発現ベクターを含むASKAクローン株から、定法に従って発現ベクターを抽出した。各発現ベクターを定法に従って、cys M欠損株に形質転換することにより、大腸菌の種々の遺伝子の過剰発現株を得た。野生株、cys M欠損株、又は各遺伝子の過剰発現株を、IPTG(終濃度0.1 mM)含有M9最少培地(6g/L Na2HPO4、3g/L KH2PO4、0.5g/L NaCl、6g/L Glucose、1mM MgCl2、0.04 % Thiamine-HCl、pH 7.0)5mLに植菌し、37℃で一晩培養した。得られた培養液を生理食塩水又は水で10倍ずつ希釈した希釈系列(10−2〜10−6)を作成した。希釈菌液を、硫黄源としてNa2S2O3(終濃度0.16g/L)のみを加えたIPTG(終濃度0.1 mM)含有M9最少寒天培地(1.5% 寒天)に5μLずつスポットし、37℃で36時間培養した。結果を図3に示す。
図3に示されるように、yce A遺伝子、glp E遺伝子、sse A遺伝子、sir A遺伝子、psp E遺伝子、又はyee D遺伝子を過剰発現しているcys M欠損株は、これらの遺伝子を過剰発現していないcys M欠損株に比べて、生育速度が高かった。なかでも、glp E遺伝子の過剰発現株の生育速度は、野生株の生育速度と同程度であった。このことから、Yce Aタンパク質、Glp Eタンパク質、Sse Aタンパク質、Sir Aタンパク質、Psp Eタンパク質、及びYee Dタンパク質は、cys M欠損による生育阻害を回復させる因子、すなわちcys M非依存チオ硫酸経路を担う因子であることが示唆された。
また、硫黄源としてチオ硫酸を利用してシステインを生合成する経路であるcys M非依存チオ硫酸経路を活性化させることにより、より効率的にチオ硫酸を利用したシステイン生産が可能になると予測される。したがって、cys M非依存チオ硫酸経路を担う上記因子(以下、「チオ硫酸経路活性化因子」、又は単に「活性化因子」と示すこともある)を過剰発現させることにより、チオ硫酸を利用したシステイン生産能が向上することが示唆された。
さらに、チオ硫酸経路活性化因子について、Pfamドメイン検索で予測されるドメインを調べたところ、Yce Aタンパク質、Glp Eタンパク質、Sse Aタンパク質、及びPsp Eタンパク質には、Rhodanese-like domain(Rhd)が存在し、Yee Dタンパク質、及びSir Aタンパク質にはSulfurtransferase Tus A domain(Tus A)が存在することが明らかとなった。これらのドメインは、いずれも硫黄転移を担うドメインである。このように、チオ硫酸経路活性化因子はいずれも硫黄転移ドメインを有するという点で共通することが明らかとなった。
実施例2.チオ硫酸経路活性化因子の過剰発現がシステイン生産能与える影響の解析1
チオ硫酸経路活性化因子を過剰発現がシステイン生産能に与える影響を調べる目的で、cys M欠損株と、実施例1で用いたglp E遺伝子を過剰発現しているcys M欠損株のシステイン生産能を比較した。具体的には次のように行った。
cys M欠損株、及びglp E遺伝子を過剰発現しているcys M欠損株に対して、システイン生産能を向上させるプラスミド(pDES)を導入した。pDESは、pACYC184プラスミドに、410番目のアミノ酸(トレオニン)が終始コドンに変換されるように変異したserA遺伝子、ydeD遺伝子、及び167番目のアミノ酸(トレオニン)がアラニンに変換されるように変異したcysE遺伝子が、OmpAプロモーターの制御下に挿入された構造を有する。変異型serA遺伝子及び変異型cysEにより、フィードバック阻害が軽減され、ydeD遺伝子によりシステインの細胞外への排出が促進される。得られた菌株をLB(+Tet)培地(1% Bacto trypton、0.5% Yeast extract、1% NaCl、10μg/ml tetracycline)20mLに植菌し、30℃で18〜22時間、定常期まで前培養を行った。定常期の培養液のOD660を測定し、OD660=0.4→1%seedとしてSM1(+10%LB+Tet)培地(0.1 M KH2PO4-K2HPO4 buffer (pH 7.0), 30 g/L glucose, 10g/L (NH4)2SO4, 0.1 g/L NaCl, 7.2 μM FeSO4・7H2O, 0.6 μM Na2MoO4, 40.4 μM H3BO3, 2.9 μM CoCl2, 1 μM CuSO4, 8.1 μM MnCl2, 1 mM MgSO4, 0.1 mM CaCl2, 10%LB培地, 12.5μg/ml tetracycline)30mLに植菌した。植菌後、Cysと同時に合成される酢酸によるpH低下を防ぐために、0.6 gのCaCO3を添加した。培養開始後6時間目に、硫黄源として、チオ硫酸単独(Na2S2O3終濃度20 mM)、硫酸単独(MgSO4終濃度20 mM)、又はチオ硫酸(Na2S2O3終濃度20 mM)及び硫酸(MgSO4終濃度20 mM)の両方を添加した。硫黄源と同時に、IPTG(終濃度0.1 mM)も添加した。培養開始後48時間後に、600 μLサンプリングした。各サンプル40μLを、0.1N 塩酸1 mLに懸濁してから(培地中に含まれるCaCO3を溶解させるため)、OD562を測定し生育を確認した。残りのサンプルを12,000 rpm で遠心分離し、培地上清を回収し、Cys蓄積量を測定した。Cys蓄積量の測定は、酸性ニンヒドリン法(Gaitonde et al.,1967)によって行った。培地上清50μLを10 mM DTT(pH8.6) 50μLと10分反応させ、酢酸100μL、12 N 塩酸100μLを加え攪拌し、105℃で20分加熱した。加熱後冷却し1.5 mLエタノールを加え、OD560を測定し、あらかじめ作成したCysの検量線よりCys蓄積量を確認した。結果を図4に示す。
図4より、硫黄源として、チオ硫酸、硫酸、並びに硫酸及びチオ硫酸の両方のいずれを用いた場合でも、チオ硫酸経路活性化因子(glp E遺伝子)の過剰発現(図4中の「+」)により、システイン生産能が向上することが確認できた。さらに、glp E遺伝子はチオ硫酸経路活性化因子としてスクリーニングされたものであるが、予想外にも硫黄源として硫酸のみを含む培地でも、glp E遺伝子過剰発現によりシステイン生産能が向上した。
実施例3.チオ硫酸経路活性化因子過剰発現株のシステイン生産能に炭素源が与える影響の解析
チオ硫酸経路活性化因子過剰発現株のシステイン生産能に炭素源が与える影響を調べる目的で、炭素源としてグルコース又はグリセロールを含む培地を用いた場合とで、システイン生産能を比較した。具体的には、グルコースを含む培地として実施例2のSM1(+10%LB+Tet)培地を用いて、グリセロールを含む培地として実施例2のSM1(+10%LB+Tet)培地の組成において、「30 g/L glucose」を「60 g/L glycerol」に変えた培地を用いて、実施例2と同様にシステイン生産能を測定し、比較した。結果を図5に示す。
図5より、チオ硫酸経路活性化因子過剰発現株においては、炭素源としてグリセロールを用いることにより、システイン生産能が飛躍的に向上することが示された。
実施例4.野生株のシステイン生産能にチオ硫酸経路活性化因子の過剰発現が与える影響の解析1
野生株のシステイン生産能にチオ硫酸経路活性化因子の過剰発現が与える影響を調べた。具体的には、cys M欠損株に替えて野生株を用い、glp E遺伝子を過剰発現しているcys M欠損株に代えて、glp E遺伝子を過剰発現している野生株を用い、且つ炭素源としてグリセロールを用いる以外は、実施例2と同様に行った。結果を図6に示す。
図6より、野生株にチオ硫酸経路活性化因子を過剰発現させても、システイン生産能が向上することが示された。
実施例5.チオ硫酸経路活性化因子の過剰発現がシステイン生産能に与える影響の解析2
glp E以外のチオ硫酸経路活性化因子の過剰発現がシステイン生産能に与える影響についても調べた。具体的には、cys M欠損株、及びglp E遺伝子を過剰発現しているcys M欠損株に加えて、さらにyee D又はpsp Eを過剰発現しているcys M欠損株を用い、硫黄源としてチオ硫酸及び硫酸の両方を用い、且つ炭素源としてグリセロールを用いる以外は、実施例2と同様にシステイン生産能を測定した。結果を図7に示す。
図7より、glp E以外のチオ硫酸経路活性化因子を過剰発現させても、システイン生産能が向上することが確認できた。
実施例6.野生株のシステイン生産能にチオ硫酸経路活性化因子の過剰発現が与える影響の解析2
glp E以外のチオ硫酸経路活性化因子の過剰発現が野生株のシステイン生産能に与える影響についても調べた。具体的には、野生株、又はglp E、yee D若しくはpsp Eを過剰発現している野生株を用い、硫黄源としてチオ硫酸及び硫酸の両方を用い、且つ培養開始後72時間後にサンプリングする以外は、炭素源がグルコースの場合は実施例2と同様に、炭素源がグリセロールの場合は実施例3と同様に、システイン生産能を測定した。結果の一部を図8に示す。
図8より、野生株にglp E以外のチオ硫酸経路活性化因子を過剰発現させても、システイン生産能が向上することが示された。特に、yee Dを過剰発現させた場合は、最も効率的にシステインを生産できた。

Claims (6)

  1. エシェリヒア属細菌を培地中で培養して得られた培養物からL-システインを採取する、L-システインの製造方法であって、
    前記エシェリヒア属細菌が、yee Dタンパク質、及びsir Aタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種の硫黄転移ドメイン含有タンパク質が過剰発現するように改変されており、且つ
    前記エシェリヒア属細菌がyee Dタンパク質が過剰発現するように改変されている場合は、前記培地が炭素源としてグリセロールを含むことを特徴とする、製造方法。
  2. 前記エシェリヒア属細菌が、さらにglp Eタンパク質、psp Eタンパク質、sse Aタンパク質、及びyce Aタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種の硫黄転移ドメイン含有タンパク質が過剰発現するように改変されている、請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記培地が硫黄源としてチオ硫酸塩を含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
  4. 前記培地が硫黄源として硫酸塩を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
  5. sir Aタンパク質が過剰発現するように改変され、且つ
    O-アセチルセリンスルフヒドリラーゼBの活性が低下するように改変されているエシェリヒア属細菌。
  6. さらにglp Eタンパク質、yee Dタンパク質、psp Eタンパク質、sse Aタンパク質、及びyce Aタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種の硫黄転移ドメイン含有タンパク質が過剰発現するように改変されている、請求項5に記載の細菌。
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