本明細書において、(000−1)面等の表記における「−1」は、本来、数字の上に横線を付して表記するところを「−1」と表記したものである。
本発明者は、従来よりも基底面転位密度が小さいp型SiC単結晶を得るために鋭意研究を行い、SiC成長結晶に所定量のAl及びFeを含有させることにより、従来よりも基底面転位密度が小さいp型SiC単結晶を得ることができることを見出した。
本開示は、Al濃度が6×1019/cm3以上及びFe濃度が2×1016/cm3以上であるp型SiC単結晶を対象とする。
SiC成長結晶中のAl濃度は、6×1019/cm3以上、好ましくは2×1020/cm3以上である。成長結晶中のFe濃度は、2×1016/cm3以上、好ましくは1×1017/cm3以上である。このような範囲のAl量及びFe量をSiC成長結晶に含有させることにより、基底面転位密度が小さいp型SiC単結晶を、より安定して成長させることができる。
成長結晶中のAl濃度は、好ましくは2×1021/cm3以下、より好ましくは6×1020/cm3以下である。成長結晶中のFe濃度は、好ましくは1×1020/cm3以下、より好ましくは1×1019/cm3以下である。このような範囲のAl量及びFe量をSiC成長結晶に含有させることにより、p型SiC単結晶を、より安定して成長させることができる。
理論に束縛されるものではないが、基底面転位は、成長結晶中に存在する熱歪みに起因して発生すると考えられる。熱歪みが発生すると、熱歪みを緩和するために、基底面内ですべり運動が発生し、基底面転位が発生し得る。所定量のAl及びFeを添加したp型SiC単結晶においては、従来のp型SiC単結晶よりも、成長結晶の基底面内のすべりの発生が抑制され得ると推測される。
本開示のSiC単結晶はまた、好ましくは基底面転位密度が10個/cm2以下であり、より好ましくは基底面転位を含まない、すなわち基底面転位密度がゼロである。
本開示のp型SiC単結晶は、好ましくは150mΩ・cm以下、より好ましくは120mΩ・cm以下、さらに好ましくは100mΩ・cm以下、さらにより好ましくは70mΩ・cm以下、さらにより好ましくは35mΩ・cm以下の抵抗率を有する。
本開示のp型SiC単結晶の抵抗率の下限は、実質的にSiC成長結晶中へのAl固溶濃度の上限によって決まり、およそ35mΩ・cmである。
SiC単結晶中のAl濃度及びFe濃度は、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定することができる。
SiC成長結晶の貫通転位密度の測定は、成長結晶の(0001)面を露出させるように鏡面研磨して、溶融水酸化カリウム、過酸化ナトリウム等を用いた溶融アルカリエッチングを行って、転位を強調させて、SiC単結晶の表面のエッチピットの個数を計測することによって行うことができる。
本開示のp型SiC単結晶は、溶液法にて種結晶基板を基点として成長させたSiC単結晶であって、種結晶基板を基点としてSiC単結晶を成長させた後に、Si−C溶液及び種結晶基板から成長結晶を切り離すことによって得ることができる。以下に、本開示のp型SiC単結晶の製造方法について説明する。
本開示のp型SiC単結晶は、内部から表面に向けて温度低下する温度勾配を有するSi−C溶液にSiC種結晶基板を接触させてSiC単結晶を成長させる、SiC単結晶の製造方法であって、
前記Si−C溶液として、Si、Cr、Al、及びFeを含み、前記Alが、前記Si、Cr、Al、及びFeの合計量を基準として3at%以上含まれ、並びに前記Feが、前記Si、Cr、Al、及びFeの合計量を基準として0.01at%以上含まれるSi−C溶液を用いること、
を含む、SiC単結晶の製造方法による得ることができる。
上記製造方法において、Si−C溶液は、Si、Cr、Al、及びFeを含む融液を溶媒とするCが溶解した溶液であって、Alが、Si、Cr、Al、及びFeの合計量を基準として3at%以上含まれ、並びにFeが、Si、Cr、Al、及びFeの合計量を基準として0.01at%以上含まれる溶液をいう。
Alは、Si−C溶液中に、Si、Cr、Al、及びFeの合計量を基準として、3at%以上、好ましくは5at%以上、より好ましくは7at%以上、さらに好ましくは10at%以上含まれる。Feは、Si−C溶液中に、Si、Cr、Al、及びFeの合計量を基準として、0.01at%以上、好ましくは0.02at%以上、より好ましくは0.04at%以上含まれる。このような範囲のAl量及びFe量をSi−C溶液に含有させることにより、基底面転位密度が小さいp型SiC単結晶を得ることができる。
Si−C溶液中に含まれるAl量の上限は、Si、Cr、Al、及びFeの合計量を基準として、好ましくは50at%以下、より好ましくは41at%以下、さらに好ましくは33at%以下、さらにより好ましくは20at%以下、さらにより好ましくは15at%以下、さらにより好ましくは10at%以下である。Si−C溶液中に含まれるFe量の上限は、Si、Cr、Al、及びFeの合計量を基準として、好ましくは0.5at%以下、より好ましくは0.4at%以下、さらに好ましくは0.3at%以下、さらにより好ましくは0.2at%以下、さらにより好ましくは0.1at%以下、さらにより好ましくは0.05at%以下である。このような範囲のAl量及びFe量をSi−C溶液に含有させることにより、p型SiC単結晶をより安定して成長させることができる。
Si−C溶液中に含まれるCr量は、好ましくは、Si、Cr、Al、及びFeの合計量を基準として、好ましくは20〜60at%である。
Si−C溶液中に含まれるSi量は、Si、Cr、Al、及びFeの合計量を基準として、好ましくは、30〜76.99at%である。Cr及びSiの量を上記範囲とすることにより、p型SiC単結晶をより安定して成長させることができる。
Si−C溶液は、Si、Cr、Al、及びFeに加えて、他の金属を含むことができる。他の金属としては、SiC(固相)と熱力学的に平衡状態となる液相(溶液)を形成できれば特に制限されず、例えば、Ti、Mn、Cr、Ni、Ce、Co、V等を含んでもよい。
Si−C溶液はSi/Cr/Al/Feの融液を溶媒とするSi−C溶液が好ましい。原子組成百分率でSi/Cr/Al/Fe=30〜76.99/20〜60/3〜50/0.01〜0.5の融液を溶媒とするSi−C溶液が、Cの溶解量の変動が少なくさらに好ましい。
Si−C溶液の表面領域の温度勾配は、好ましくは25〜50℃/cmであり、より好ましくは30〜42℃/cmである。上記のAl含有量及びFe含有量を含むSi−C溶液の溶媒組成とともに、Si−C溶液の表面領域の温度勾配を上記の範囲にすることによって、インクルージョンを含まないp型SiC単結晶をより安定して成長させることができる。また、上記製造方法によれば、好ましくは600μm/h以上、より好ましくは800μm/h以上、さらに好ましくは1000μm/h以上の成長速度で低抵抗のp型SiC単結晶を成長させることができる。成長速度の上限は、好ましくは1000μm/h以下にすることができる。
本明細書において、インクルージョンとは、SiC単結晶成長に使用するSi−C溶液(金属溶媒)の、成長結晶内への巻き込みをいう。
通常、SiCの単結晶成長において、Si−C溶液にドーパントを添加した条件下でSi−C溶液の表面領域の温度勾配を大きくすると、インクルージョンの発生及び多結晶化等により、高品質な単結晶を得ることができない。しかしながら、驚くべきことに、Si、Cr、Al、及びFeを含むSi−C溶液であって、Si、Cr、Al、及びFeの合計量を基準として3at%以上のAl及び0.01at%のFeを含むSi−C溶液を用いる場合、Si−C溶液の表面領域の温度勾配を好ましくは25℃/cm以上という高い範囲にすることによって、インクルージョンを含まないp型SiC単結晶をより安定して成長させることができる。
理論に束縛されるものではないが、Al及びFeの合計含有量が多いSi−C溶液を用いて、低い温度勾配でSiC単結晶を成長させる場合、Al及びFeを含む溶媒金属が結晶化されにくくインクルージョンとして成長結晶に巻き込まれてしまうが、高い温度勾配でSiC単結晶を成長させる場合、Al及びFeを含む溶媒金属が結晶化されやすく、インクルージョンを含まない高品質な単結晶が得られると推測される。
SiC結晶中のインクルージョン有無の判断は、光学顕微鏡を用いた観察によって行うことができる。例えば、成長結晶を成長方向に対して平行に(成長面に垂直に)スライスして0.5〜1mm厚程度の厚みの成長結晶を切り出し、下から光をあてて成長結晶の全面が連続した結晶であるかどうかを透過画像から観察してインクルージョンの有無を検査することができる。
透過画像観察によれば、SiC単結晶部分は半透明または透明に見え、インクルージョンが存在する部分は可視光が透過せず黒く見えるため、この部分をインクルージョンとして検出することができる。
Si−C溶液の表面領域の温度勾配とは、Si−C溶液の液面に対して垂直方向の温度勾配であって、Si−C溶液の内部から溶液の表面に向けて温度低下する温度勾配である。温度勾配は、低温側となるSi−C溶液の表面(液面)における温度Aと、Si−C溶液の表面から溶液側に垂直方向の所定の深さにおける高温側となる温度Bを、種結晶基板をSi−C溶液に接触させる前に熱電対を用いて事前に測定し、その温度差を、温度A及び温度Bを測定した位置間の距離で割ることによって平均値として算出することができる。例えば、Si−C溶液の表面と、Si−C溶液の表面から溶液側に垂直方向の深さDcmの位置との間の温度勾配を測定する場合、Si−C溶液の表面温度Aと、Si−C溶液の表面から溶液側に垂直方向の深さDcmの位置における温度Bとの差をDcmで割った次の式:
温度勾配(℃/cm)=(B−A)/D
によって算出することができる。
温度勾配の制御範囲は、Si−C溶液の表面から好ましくは1cm、より好ましくは3cmの深さまでの範囲である。Si−C溶液の表面から3cmの深さまで範囲の温度勾配を制御する場合、上記式において、Si−C溶液の表面温度Aと、Si−C溶液の表面から溶液側に垂直方向の深さ3cmの位置における温度Bとの差を3cmで割った値が温度勾配(℃/cm)となる。
温度勾配の制御範囲が浅すぎると、Cの過飽和度を制御する範囲も浅くなりSiC単結晶の成長が不安定になることがある。また、温度勾配を制御する範囲が深いと、Cの過飽和度を制御する範囲も深くなりSiC単結晶の安定成長に効果的であるが、実際、単結晶の成長に寄与する深さはSi−C溶液の表面のごく近傍であり、表面から数mmの深さまでの温度勾配を制御すれば十分である。したがって、SiC単結晶の成長と温度勾配の制御とを安定して行うために、上記深さ範囲の温度勾配を制御することが好ましい。
上記製造方法に用いられ得る種結晶基板として、SiC単結晶の製造に一般に用いられる品質のSiC単結晶を種結晶基板として用いることができる。例えば、昇華法で一般的に作成したSiC単結晶を種結晶基板として用いることができ、種結晶基板は。板状、円盤状、円柱状、角柱状、円錐台状、または角錐台状等の任意の形状であることができる。
単結晶製造装置への種結晶基板の設置は、上述のように、種結晶基板の上面を種結晶保持軸に保持させることによって行うことができる。種結晶基板の種結晶保持軸への保持には、カーボン接着剤を用いることができる。
種結晶基板のSi−C溶液への接触は、種結晶基板を保持した種結晶保持軸をSi−C溶液面に向かって降下させ、種結晶基板の下面をSi−C溶液面に対して平行にしてSi−C溶液に接触させることによって行うことができる。そして、Si−C溶液面に対して種結晶基板を所定の位置に保持して、SiC単結晶を成長させることができる。
種結晶基板の保持位置は、種結晶基板の下面の位置が、Si−C溶液面に一致するか、Si−C溶液面に対して下側にあるか、またはSi−C溶液面に対して上側にあってもよいが、図2に示すように、種結晶基板14の下面にのみSi−C溶液24を濡らしてメニスカス34を形成するように、種結晶基板の下面の位置が、Si−C溶液面に対して上方に位置することが好ましい。メニスカスを形成する場合、種結晶基板の下面の位置を、Si−C溶液面に対して1〜3mm上方の位置に保持することが好ましい。種結晶基板の下面をSi−C溶液面に対して上方の位置に保持する場合は、一旦、種結晶基板をSi−C溶液に接触させて種結晶基板の下面にSi−C溶液を接触させてから、所定の位置に引き上げる。
種結晶基板の下面の位置を、Si−C溶液面に一致するか、またはSi−C溶液面よりも下側にしてもよいが、多結晶の発生を防止するために、種結晶保持軸にSi−C溶液が接触しないようにすることが好ましい。これらの方法において、単結晶の成長中に種結晶基板の位置を調節してもよい。
上記製造方法において、Si−C溶液の表面温度の下限は好ましくは1800℃以上であり、上限は好ましくは2200℃であり、この温度範囲でSi−C溶液へのCの溶解量を多くすることができる。
Si−C溶液の温度測定は、熱電対、放射温度計等を用いて行うことができる。熱電対に関しては、高温測定及び不純物混入防止の観点から、ジルコニアやマグネシア硝子を被覆したタングステン−レニウム素線を黒鉛保護管の中に入れた熱電対が好ましい。
図1に、本発明を実施し得るSiC単結晶製造装置の一例を示す。図示したSiC単結晶製造装置100は、Si、Cr、Al、及びFeを含む融液中にCが溶解してなるSi−C溶液24を収容した坩堝10を備え、Si−C溶液の内部から溶液の表面に向けて温度低下する温度勾配を形成し、昇降可能な種結晶保持軸12の先端に保持された種結晶基板14をSi−C溶液24に接触させて、種結晶基板14を基点としてSiC単結晶を成長させることができる。
Si−C溶液24は、原料を坩堝に投入し、加熱融解させて調製したSi、Cr、Al、及びFeを含む融液にCを溶解させることによって調製される。坩堝10を、黒鉛坩堝などの炭素質坩堝またはSiC坩堝とすることによって、坩堝10の溶解によりCが融液中に溶解し、Si−C溶液を形成することができる。こうすると、Si−C溶液24中に未溶解のCが存在せず、未溶解のCへのSiC単結晶の析出によるSiCの浪費が防止できる。Cの供給は、例えば、炭化水素ガスの吹込み、または固体のC供給源を融液原料と一緒に投入するといった方法を利用してもよく、またはこれらの方法と坩堝の溶解とを組み合わせてもよい。
保温のために、坩堝10の外周は、断熱材18で覆われている。これらが一括して、石英管26内に収容されている。石英管26の外周には、加熱用の高周波コイル22が配置されている。高周波コイル22は、上段コイル22A及び下段コイル22Bから構成されてもよく、上段コイル22A及び下段コイル22Bはそれぞれ独立して制御可能である。
坩堝10、断熱材18、石英管26、及び高周波コイル22は、高温になるので、水冷チャンバーの内部に配置される。水冷チャンバーは、装置内の雰囲気調整を可能にするために、ガス導入口とガス排気口とを備える。
Si−C溶液の温度は、通常、輻射等のためSi−C溶液の内部よりも表面の温度が低い温度分布となるが、さらに、高周波コイル22の巻数及び間隔、高周波コイル22と坩堝10との高さ方向の位置関係、並びに高周波コイルの出力を調整することによって、Si−C溶液24に種結晶基板14が接触する溶液上部が低温、溶液下部(内部)が高温となるようにSi−C溶液24の表面に垂直方向の温度勾配を形成することができる。例えば、下段コイル22Bの出力よりも上段コイル22Aの出力を小さくして、Si−C溶液24に溶液上部が低温、溶液下部が高温となる温度勾配を形成することができる。
Si−C溶液24中に溶解したCは、拡散及び対流により分散される。種結晶基板14の下面近傍は、加熱装置の出力制御、Si−C溶液24の表面からの放熱、及び種結晶保持軸12を介した抜熱等によって、Si−C溶液24の内部よりも低温となる温度勾配が形成されている。高温で溶解度の大きい溶液内部に溶け込んだCが、低温で溶解度の低い種結晶基板付近に到達すると過飽和状態となり、この過飽和度を駆動力として種結晶基板14上にSiC単結晶を成長させることができる。
一実施態様において、SiC単結晶の成長前に、種結晶基板の表面層をSi−C溶液中に溶解させて除去するメルトバックを行ってもよい。SiC単結晶を成長させる種結晶基板の表層には、転位等の加工変質層や自然酸化膜などが存在していることがあり、SiC単結晶を成長させる前にこれらを溶解して除去することが、高品質なSiC単結晶を成長させるために効果的である。溶解する厚みは、種結晶基板の表面の加工状態によって変わるが、加工変質層や自然酸化膜を十分に除去するために、およそ5〜50μmが好ましい。
メルトバックは、Si−C溶液の内部から溶液の表面に向けて温度が増加する温度勾配、すなわち、SiC単結晶成長とは逆方向の温度勾配をSi−C溶液に形成することにより行うことができる。高周波コイルの出力を制御することによって上記逆方向の温度勾配を形成することができる。
一実施態様において、あらかじめ種結晶基板を加熱しておいてから種結晶基板をSi−C溶液に接触させてもよい。低温の種結晶基板を高温のSi−C溶液に接触させると、種結晶に熱ショック転位が発生することがある。種結晶基板をSi−C溶液に接触させる前に、種結晶基板を加熱しておくことが、熱ショック転位を防止し、高品質なSiC単結晶を成長させるために効果的である。種結晶基板の加熱は種結晶保持軸ごと加熱して行うことができる。この場合、種結晶基板をSi−C溶液に接触させた後、SiC単結晶を成長させる前に種結晶保持軸の加熱を止める。または、この方法に代えて、比較的低温のSi−C溶液に種結晶を接触させてから、結晶を成長させる温度にSi−C溶液を加熱してもよい。この場合も、熱ショック転位を防止し、高品質なSiC単結晶を成長させるために効果的である。
(実施例1)
直径が15mm、厚みが700μmの円盤状4H−SiC単結晶であって、下面が(000−1)面を有する昇華法により作製したn型SiC単結晶を用意して、種結晶基板として用いた。種結晶基板は20mΩ・cmの抵抗率を有していた。種結晶基板の上面を、円柱形状の黒鉛軸の端面の略中央部に、黒鉛の接着剤を用いて接着した。
図1に示す単結晶製造装置を用い、Si−C溶液を収容する黒鉛坩堝に、Si/Cr/Al/Feを53.95/43/3/0.05(at%)の原子組成比率でSi−C溶液を形成するための融液原料として仕込んだ。すなわち、Si−C溶液の溶媒組成をSi/Cr/Al/Fe=58.2/38.8/3/0.05(at%)とした。
単結晶製造装置の内部を1×10-3Paに真空引きした後、1気圧になるまでアルゴンガスを導入して、単結晶製造装置の内部の空気をアルゴンで置換した。高周波コイルに通電して加熱により黒鉛坩堝内の原料を融解し、Si/Cr/Al/Fe合金の融液を形成した。そして黒鉛坩堝からSi/Cr/Al/Fe合金の融液に、十分な量のCを溶解させて、Si−C溶液を形成した。
上段コイル及び下段コイルの出力を調節して黒鉛坩堝を加熱し、Si−C溶液の表面における温度を2000℃に昇温させ、並びにSi−C溶液の表面から1cmの範囲で溶液内部から溶液表面に向けて温度低下する温度勾配が30℃/cmとなるように制御した。Si−C溶液の表面の温度測定は放射温度計により行い、Si−C溶液の温度勾配の測定は、鉛直方向に移動可能な熱電対を用いて行った。
黒鉛軸に接着した種結晶基板の下面をSi−C溶液面に平行にして、種結晶基板の下面の位置を、Si−C溶液の液面に一致する位置に配置して、Si−C溶液に種結晶基板の下面を接触させるシードタッチを行い、次いで、Si−C溶液が濡れ上がって黒鉛軸に接触しないように、黒鉛軸を1.5mm引き上げ、その位置で10時間保持して、結晶を成長させた。
結晶成長の終了後、黒鉛軸を上昇させて、種結晶基板及び種結晶基板を基点として成長したSiC単結晶を、Si−C溶液及び黒鉛軸から切り離して回収した。得られた成長結晶は直径20mm及び厚み6mmを有しており、成長速度は600μm/hであった。得られた成長結晶の直径は、成長面の直径である。
成長結晶中のAl濃度及びFe濃度を、二次イオン質量分析法(SIMS、Cameca製)により測定した。標準試料として、SiC基板にAl及びFeをイオン注入した試料を用いた。成長結晶のAl濃度は6×1019/cm3であり、Fe濃度は1×1017/cm3であった。
得られた成長結晶を成長面から0.5mmの厚みで切り出し、切り出した成長結晶の(0001)面を鏡面研磨し、510℃の溶融KOHを用いてアルカリエッチングした。エッチング面について顕微鏡観察を行った。エッチング面にみられるエッチピットの個数を計測し、成長結晶の基底面転位密度を測定した。成長結晶に基底面転位の発生はみられず、基底面転位密度はゼロであった。また、成長結晶にはインクルージョンも含まれていなかった。
得られた成長結晶の抵抗率を測定するため、成長面から0.5mmの厚みで切り出した成長結晶の(0001)面を鏡面研磨し、5mm角に加工し、洗浄した後、(0001)面の四隅に、真空蒸着により直径1mmの円形のNiオーミック電極を形成した。この電極を付けた成長結晶を用いて室温(25℃)にてVan der Pauw法(ファン デア パウ法)によるホール(Hall)測定を行い、成長結晶の抵抗率を測定したところ、抵抗率は120mΩ・cmであり、p型SiC単結晶が得られたことが分かった。
(実施例2)
Si−C溶液の溶媒組成(Si/Cr/Al/Fe)を53.99/43/3/0.01(at%)としたこと以外は、実施例1と同様の条件で結晶成長させた。得られた成長結晶は、直径20mm及び厚み6mmを有しており、成長速度は600μm/hであった。
成長結晶は、Al濃度が6×1019/cm3及びFe濃度が2×1016/cm3であり、抵抗率が120mΩ・cmのp型SiC単結晶であり、成長結晶に基底面転位の発生はみられず、基底面転位密度はゼロであった。また、成長結晶にはインクルージョンも含まれていなかった。
(実施例3)
Si−C溶液の溶媒組成(Si/Cr/Al/Fe)を49.99/40/10/0.01(at%)としたこと以外は、実施例1と同様の条件で結晶成長させた。得られた成長結晶は、直径20mm及び厚み6mmを有しており、成長速度は600μm/hであった。
成長結晶は、Al濃度が2×1020/cm3及びFe濃度が2×1016/cm3であり、抵抗率が35mΩ・cmのp型SiC単結晶であり、成長結晶に基底面転位の発生はみられず、基底面転位密度はゼロであった。また、成長結晶にはインクルージョンも含まれていなかった。
図3に、成長結晶の溶融KOHによるエッチング面の顕微鏡写真を示す。図3にみられるように、エッチング面には、大小2種類の六角錐状のエッチピットのみがみられた。六角錐状のエッチピットのうち、大きい方が貫通らせん転位(TSD)に関連するエッチピットであり、小さい方が貫通刃状転位(TED)に関連するエッチピットである。基底面転位(BPD)に関連するエッチピットはみられず、基底面転位密度はゼロであった。また、成長結晶にはインクルージョンも含まれていなかった。
(比較例1)
Si−C溶液の溶媒組成(Si/Cr/Al)を54/43/3(at%)としたこと以外は、実施例1と同様の条件で結晶成長させた。得られた成長結晶は、直径20mm及び厚み6mmを有しており、成長速度は600μm/hであった。
成長結晶は、Al濃度が6×1019/cm3及びFe濃度が1×1015/cm3未満(検出限界以下)であり、抵抗率が120mΩ・cmのp型SiC単結晶であり、成長結晶にインクルージョンは含まれていなかったが、基底面転位の発生がみられた。
図4に、溶融KOHによるエッチング面の顕微鏡写真を示す。図4にみられるように、大小2種類の六角錐状のエッチピット及び三角錐状のエッチピットがみられた。六角錐状のエッチピットのうち、大きい方が貫通らせん転位(TSD)に関連するエッチピットであり、小さい方が貫通刃状転位(TED)に関連するエッチピットであり、三角錐状のエッチピットは基底面転位(BPD)に関連するエッチピットであった。このように、基底面転位の発生がみられ、基底面転位密度は2×102/cm2であった。
(比較例2)
Si−C溶液の溶媒組成(Si/Cr/Fe)を55.95/44/0.05(at%)としたこと以外は、実施例1と同様の条件で結晶成長させた。得られた成長結晶は、直径20mm及び厚み6mmを有しており、成長速度は600μm/hであった。
成長結晶は、Al濃度が4×1017/cm3及びFe濃度が1×1017/cm3のp型SiC単結晶であり、成長結晶にインクルージョンは含まれていなかったが、基底面転位の発生がみられ、基底面転位密度は2×102/cm2であった。
(比較例3)
Si−C溶液の溶媒組成(Si/Cr/Fe)を55.99/44/0.01(at%)としたこと以外は、実施例1と同様の条件で結晶成長させた。得られた成長結晶は、直径20mm及び厚み6mmを有しており、成長速度は600μm/hであった。
成長結晶は、Al濃度が4×1017/cm3及びFe濃度が2×1016/cm3のp型SiC単結晶であり、成長結晶にインクルージョンは含まれていなかったが、基底面転位の発生がみられ、基底面転位密度は2×102/cm2であった。
表1に、実施例1〜3及び比較例1〜3で得られたSiC単結晶のN濃度、Al濃度、Fe濃度、基底面転位密度、及び抵抗率を示す。