以下、この発明を実施するための形態(単に「実施の形態」という)について添付の図面を参照しながら説明する。
[実施の形態1]
図1は、実施の形態1に係る搬送装置を用いた画像形成装置の構成を示すものである。図中の符号X,Y,Zで示す矢印は、各図面において想定した3次元空間の幅、高さ及び奥行の各方向を示す直交座標軸(の方向)である。
<画像形成装置の構成>
実施の形態1に係る画像形成装置1は、文字、図形、模様、写真等で構成されるカラー画像又は白黒画像を形成する装置である。この画像形成装置1は、水平方向(図1の座標軸の矢印Xに沿う方向)の一方側の部分を構成する第1筐体80Aと、第1筐体80Aに分割可能に接続されて水平方向の他方側の部分を構成する第2筐体80Bとを備えている。第1筐体80Aと第2筐体80Bは、所要の支持フレーム、外装カバー等の各種部材で構成されている。
まず、第1筐体80Aには、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)及びブラック(K)の4色のトナー像と特別色S1,S2の2種類のトナー像とをそれぞれ専用に形成する6つの作像装置10Y,10M,10C,10K,10S1,10S2と、各作像装置10で形成されたトナー像をそれぞれ転写(一次転写)により保持して最終的にシート状の記録媒体の一例である記録用紙9に転写(二次転写)する二次転写位置まで搬送する中間転写装置20と、中間転写装置20の二次転写位置に供給すべき所要の記録用紙9を収容して送出する用紙供給装置30等が配置されている。図1の一点鎖線は、記録用紙9の主な搬送経路を示している。
6つの作像装置10(S1,S2,Y,M,C,K)は、第1筐体80Aの内部空間においてほぼ水平方向に沿って1列に並べた状態で配置されている。上記特別色(S1,S2)の現像剤(S1,S2)としては、例えば、上記4色では表現が困難又は不可能であった色材等で構成されるものが使用され、具体的には、上記4色以外の色のトナー、上記4色のトナーと同一の色であって彩度が異なるトナー、光沢を向上させる透明トナー、点字用の発泡性トナー、蛍光色トナー等である。また、各作像装置10(S1,S2,Y,M,C,K)は、扱う現像剤の種類が異なる点を除けば、以下に示すようにほぼ共通した構成のものである。
各作像装置10(S1,S2,Y,M,C,K)は、図1や図2に示されるように、回転する感光ドラム11を備えており、この感光ドラム11の周囲に、感光ドラム11の像形成が可能な周面(像保持面)を所要の電位に帯電させる帯電装置12と、感光ドラム11の帯電された周面に画像の情報(信号)に基づく露光光LB(点線)を照射して所要の電位からなる(各色用の)静電潜像を形成する露光装置13と、その静電潜像を各対応する色(S1,S2,Y,M,C,K)の現像剤4のトナーでそれぞれ現像してトナー像にする現像装置14(S1,S2,Y,M,C,K)と、その各トナー像を中間転写装置20に転写する一次転写装置15と、一次転写後における感光ドラム11の像保持面に残留して付着するトナー等の付着物を取り除いて清掃するドラム清掃装置16、感光ドラム11の清掃後における像保持面を除電する除電器17等がこの順番で配置されている。
感光ドラム11は、接地処理される円筒状の導電性基材の周面に感光材料からなる光導電性層(感光層)を有する像保持面を形成したものであり、図示しない回転駆動装置から動力を受けて矢印で示す方向に回転する。帯電装置12は、例えば、感光ドラム11の像保持面に所要の間隔をあけた状態で配置される放電ワイヤに帯電バイアスを印加してコロナ放電により帯電させる非接触型の帯電装置(スコトロトン型のコロナ放電器)である。帯電バイアスとしては、現像装置14が反転現像を行うものである場合、その現像装置から供給されるトナーの帯電極性と同じ極性の電圧又は電流が図示しない電源装置から供給される。
露光装置13(S1,S2,Y,M,C,K)は、図示しない外部機器等から画像形成装置1に入力される画像の情報に応じて構成される露光光LBを感光ドラム11の帯電後の像保持面に照射して静電潜像を形成するものであり、例えば、半導体レーザとポリゴンミラー等の光学部品を用いて構成される走査型の露光装置や、発光ダイオードと光学部品等を用いて構成される非走査型の露光装置である。現像装置14(S1,S2,Y,M,C,K)は、例えばトナーとキャリアを含む二成分現像剤を使用するものである。この現像装置14(S1,S2,Y,M,C,K)は、図2に示すように、前記各色のいずれか1色の二成分現像剤を収容する容器状の筐体14aと、その収容している現像剤4を感光ドラム11と対向する現像域まで保持して供給する現像ロール14b等で構成されている。現像装置14(S1,S2,Y,M,C,K)には、第1筐体80Aの上部に着脱自在に装着される現像剤容器19(S1,S2,Y,M,C,K)から図示しない補給装置を通して所要の色のトナー等が補給されるようになっている。
一次転写装置15は、例えば、感光ドラム11の周面に接触して回転するとともに一次転写用電圧が供給される一次転写ロールを備えた接触型の転写装置である。一次転写用電圧としては、トナーの帯電極性と逆の極性を示す直流の電圧が図示しない電源装置から供給される。ドラム清掃装置16は、容器状の筐体16aと、感光ドラム11の外周面に所要の圧力で接触するように配置されて残留して付着するトナー等の付着物を掻き取る清掃板16b等で構成されている。
中間転写装置20は、図1に示すように、各作像装置10(S1,S2,Y,M,C,K)の下方の位置に存在するように配置されている。この中間転写装置20は、感光ドラム11における一次転写位置(一次転写装置15と対向する部分)となる部位を通過しながら矢印で示す方向に回転(循環移動)する環状の中間転写ベルト21と、中間転写ベルト21をその内面から所望の状態に保持して回転自在に支持する複数の支持ロール22a〜22dと、支持ロール22eに支持されている中間転写ベルト21の外表面(像保持面)に所定の圧力で接触して回転する二次転写装置25と、二次転写装置25を通過した後に中間転写ベルト21の外表面に残留して付着するトナー、紙粉等の付着物を取り除いて清掃する図示しないベルト清掃装置等で構成されている。
複数の支持ロール22a〜22fのうち支持ロール22aは駆動ロールとして、支持ロール22cは張力付与ロールとして、支持ロール22eは二次転写補助ロールとして構成されている。二次転写装置25は、例えば、中間転写ベルト21の外表面に接触して回転するとともに二次転写バイアスが供給される二次転写ロールを備えた接触型の転写装置である。二次転写バイアスとしては、現像剤の帯電極性と逆の極性を示す直流の電圧等が図示しない電源装置から供給される。
用紙供給装置30は、中間転写装置20の下方側の位置に存在するように2台配置されている。この用紙供給装置30は、所望のサイズ、種類等の記録用紙9を積載した状態で収容する用紙収容体31と、用紙収容体31から記録用紙9を1枚ずつ送り出す送出装置32とで主に構成されている。用紙収容体31は、第1筐体80Aの内部から外部へ引き出し自在に取り付けられており、その引き出した状態において記録用紙9の収容(補給)作業を行うようになっている。
この他、第1筐体80Aには、用紙供給装置30と中間転写装置20の二次転写位置(中間転写ベルト21と二次転写装置25とが接触する部分)との間に、供給搬送路50が設けられている。また、二次転写装置25と後述する定着装置40との間には、二次転写後の記録用紙9を定着装置40まで移送する移送装置53が配置されている。供給搬送路50は、複数の搬送ロール対や搬送ガイド材で構成されている。移送装置53は、環状の移送ベルトを複数のロールに巻き掛けて回転させ、移送ベルトの上部に位置する外周面部分に二次転写後の記録用紙9を吸引して載せた状態で移送する複数のベルト移送装置を連ねて配置することにより構成されている。
次に、第2筐体80Bには、図1に示すように、中間転写装置20で二次転写された記録用紙9上のトナー像を過熱して定着させる定着装置40と、定着装置40で定着された後の記録用紙9を搬送するとともに記録用紙9を搬送中に冷却する搬送装置(冷却装置)100と、搬送装置100から搬出される画像形成後の記録用紙9を筐体80Bの外部で収容する排出収容部60等が配置されている。
定着装置40は、循環移動する環状の定着ベルト41と、定着ベルト41に対して下方側から接触して回転するように配置される加圧ロール42等で構成されている。定着ベルト41は、駆動ロール43と従動ロール44と他のロール45とに張力を付与された状態で巻き掛けられており、一定の方向に回転するようになっている。駆動ロール43は、加圧ロール42に対して上方側から対向して配置されており、また、従動ロール44は駆動ロール43よりも上方側に配置されている。駆動ロール43及び従動ロール44は、その内部空間等にハロゲンヒータ等の加熱手段を配置した構造になっており、これにより定着ベルト41を所要の温度に加熱するようになっている。なお、搬送装置100の詳細については後述する。
この他、第2筐体80Bには、前記移送装置53と定着装置40との間に、移送装置53で移動される定着後の記録用紙9を最終的に定着装置40に移送して導入する第1移送導入装置55が配置されている。また、定着装置40と搬送装置100との間に、定着後の記録用紙9を搬送装置100に移送して導入する第2移送導入装置56が配置されている。また、搬送装置100と排出収容部60との間には、搬送装置100から排出される(冷却後の)記録用紙9を排出収容部60にむけて搬送して排出させる排出搬送路57が設けられている。さらに、排出搬送路57の途中地点と第1筐体80A側の供給搬送路50との一部との間に、両面画像形成時に、片面に画像が形成された後の記録用紙9を引き込んでその表裏面を反転した状態にした後に供給搬送路50にむけて送出する反転搬送路70が設けられている。さらにまた、第2筐体80Bの上部外部には、画像形成装置1の各動作等のための条件設定、指示、確認等の操作作業を行うため操作パネル部85が設置されている。
第1移送導入装置55は、環状の移送ベルトを複数のロールに巻き掛けて回転させ、移送ベルトの上部に位置する外周面部分に二次転写後の記録用紙9を載せた状態で移送するベルト移送装置を配置することにより構成されている。第2移送導入装置56は、複数の搬送ロール対と搬送ガイド材や、搬送ベルト等を用いて構成されている。排出搬送路57は、複数の搬送ロール対や搬送ガイド材で構成されている。反転搬送路70は、排出搬送路57の途中地点に用紙の搬送先変更部材を備えた引き込み経路71と、引き込み経路71に引き込まれた記録用紙9を一時的に引き込んで停止させた後にその搬送時後端部から送り出すスイッチバック経路72と、スイッチバック経路72に引き込まれた記録用紙9を第1筐体80A側の供給搬送路50に送り出す送出経路73等を備えている。これらの各経路71〜73は、複数の搬送ロール対や搬送ガイド材で構成されている。
<画像形成装置の動作>
以下、画像形成装置1の画像形成動作について説明する。
はじめに、画像形成装置1において記録用紙9の片面に上記4色(Y,M,C,K)のトナーを組み合わせて構成されるフルカラー画像を形成するときの基本的な画像形成動作を例に挙げて説明する。
この場合は、フルカラー画像の画像形成動作(プリント)の開始要求の指示があると、4つの作像装置10(Y,M,C,K)において、まず各感光ドラム11が矢印の方向に回転し、各帯電装置12がその各感光ドラム11の像保持面を所要の極性及び電位にそれぞれ帯電させる。続いて、露光装置13が、帯電後の感光ドラム11の像保持面に対し、図示しない画像処理装置から送信された各色成分(Y,M,C,K)に分解された画像データに基づいて発光される露光光LBを照射し、所要の電位差で構成される各色成分の静電潜像をそれぞれ形成する。続いて、各現像装置14(Y,M,C,K)が、各感光ドラム11に形成された各色成分の静電潜像に対し、所要の極性に帯電された各色(Y,M,C,K)の二成分現像剤をそれぞれ供給してトナーを静電的に付着させる。これにより、各作像装置11における感光ドラム11の像保持面には、4色(Y,M,C,K)のトナー像のいずれかが形成される。
次いで、各作像装置10(Y,M,C,K)の各感光ドラム11に形成された各色のトナー像が、各一次転写装置25により、中間転写装置20の矢印で示す方向に回転する中間転写ベルト21の外表面に対して順番に重ね合わるようにして一次転写される。この一次転写が終了した後の感光ドラム11は、ドラム清掃装置16により清掃された後に除電器17により像保持面が除電され、これにより次の画像形成工程に備える。
続いて、中間転写ユニット20では、中間転写ベルト21に一次転写されたトナー像を保持して二次転写位置まで搬送した後、その二次転写位置に給紙装置30から供給搬送路50を通して搬送される記録用紙9に対し、その中間転写ベルト21上のトナー像を二次転写装置25により一括して二次転写させる。この二次転写が終了した後の中間転写ベルト21は、その外表面が図示しないベルト清掃装置により清掃されて次の中間転写工程に備える。
続いて、トナー像が二次転写された記録用紙9は、中間転写ベルト21から剥離された後に移送装置53及び第1移送導入装置55により移送されて定着装置40に導入され、その定着装置40において必要な定着処理(加熱及び加圧)を受けてトナー像の定着がなされる。定着が終了した後の記録用紙9は、第2移送導入装置56により移送されて搬送装置100に導入され、その搬送装置100において冷却されながら搬送されて排出される。搬送装置100から排出された後(冷却後)の記録用紙9は、その片面への画像の形成を行うだけの画像形成動作であるため、排出搬送路57を通して第2筐体100の外部に排出されて排出収容部60に収容される。
以上の動作により、画像形成装置1では、上記4色のトナー像を組み合わせて構成されるフルカラーの画像が片面に形成された記録用紙9が出力される。複数枚の画像形成動作の指示がある場合には、上記した一連の動作がその枚数分だけ同様に繰り返されることになる。なお、ブラック色(K)のトナーで構成される白黒画像を形成する場合は、上記した一連の動作において複数の作像装置10のうちブラック色(K)の作像装置10Kが作動して画像形成動作が実行されることで、白黒画像が片面に形成された記録用紙9が出力される。
次に、画像形成装置1において記録用紙9の表裏両面に画像を形成する場合について説明する。
この場合は、上記片面への画像形成動作が終了した後(実際には定着終了後)の記録用紙9が、排出搬送路57の途中地点で搬送先変更部材により反転搬送路70の引き込み経路71に引き込まれるように搬送されてスイッチバック経路72まで搬送されて停止する。しかる後、そのスイッチバック経路72で停止していた記録用紙9は、その搬送時後端部から送出経路73に送り出されて第1筐体80A側の供給搬送路50に送り込まれる。この後は、その記録用紙9の画像が形成されていない面(裏面)に対して、上述した画像形成動作が同様に実行され、所望の画像が形成される。
以上の動作により、表裏両面に画像が形成された記録用紙9が出力される。
次に、画像形成装置1において、例えば上記した通常色(上記4色など)の画像形成を行う際に、前記特別色S1,S2の現像剤で構成される特別色トナー像を併せて形成するときの動作について説明する。
この場合は、まず、作像装置10S1,10S2において前述した作像装置10(Y,M,C,K)の場合と同様の作像動作が行われ、これにより作像装置10S1,10S2における各感光ドラム11に特別色トナー像(S1,S2)がそれぞれ形成される。続いて、作像装置10S1,10S2で形成された各特別色トナー像は、前述した4色のトナー像に関する画像形成動作の場合と同様に、中間転写装置20の中間転写ベルト21に一次転写された後に、二次転写装置30により中間転写ベルト21から記録用紙9に(他の色のトナー像と併せて)二次転写される。最後に、特別色トナー像と他の色のトナー像が二次転写された記録用紙5は、定着装置40において定着処理がなされた後、搬送装置100を経由して冷却され、しかる後に第2筐体80Bの外部に排出される。
以上の動作により、上述したフルカラー画像(又は白黒画像)の全面又は一部分に対して2つの特別色トナー像が重なり合って存在するような複合画像が形成された記録用紙9が出力される。
<搬送装置の構成>
搬送装置100は、図1や図3に示すように、上下方向(座標軸の矢印Yで示す方向)において上方側に配置されて循環移動する環状の第1ベルトとしての上ベルト110と、上ベルト110の外周面(具体的には下方側に存在する外周面部分)に接触した状態で上ベルト110の下方側に配置され、上ベルト110との間にシート状の被搬送材である記録用紙9を挟んだ状態で搬送するよう循環移動する環状の第2ベルトとしての下ベルト120と、上ベルト110のの内周側に固定して配置され、上ベルト110の内周面に接触する接触面132を有する固定部材としての放熱部材130とを備えている。特にこの搬送装置100については、放熱部材130により搬送中の記録媒体9が有する熱を吸熱して冷却する冷却機能を備えたものになるため、冷却装置と称することもできる。
上ベルト110及び下ベルト120は、例えば、ポリイミド等の合成樹脂にカーボン等の添加剤を混合させた樹脂組成物を用いて環状のベルト形状に成形して得られる。また、この上ベルト110及び下ベルト120としては、継ぎ目(シーム)が存在する形態のベルトや、その継ぎ目の無い形態のベルト等が用いられる。
上ベルト110は、複数のロールに巻き掛けらて回転自在に支持される。実施の形態1における上ベルト110は、5つのロールに巻き掛けられて支持されている。その5つのロールとしては、上ベルト110に回転動力を付与して回転させる駆動ロール112と、上ベルト110をその外周側に押して上ベルト110に張力を付与する張力付与ロール113と、上ベルト110を所要の位置で支持する支持ロール114、115、116が用いられている。また、この5つのロールは、上ベルト110の移動方向上流側から上ベルト110の循環移動する経路に沿って、支持ロール115、支持ロール116、駆動ロール112、支持ロール114、張力付与ロール113の順で配置されているとともに、上ベルト110の内周側に放熱部材130を配置する空間を確保する位置関係で配置されている。
駆動ロール112は、搬送する記録用紙9を排出させる出口側(図1や図3の右端側)に位置するよう配置されている。張力付与ロール113は、駆動ロール112から最も離れた位置に配置されているとともに、圧縮バネ等の弾性部材117の弾性力を利用して上ベルト11を内周面から外周面側にむけて押し付ける状態で配置されている。支持ロール116は、駆動ロール112と協同して、上ベルト110の内周面が放熱部材130の接触面132との接触を行うためのほぼ平滑な領域を形成する位置に配置されている。実施の形態1では、上ベルト110の上記放熱部材130の接触面132と接触させる平滑な領域を、その出口側の端部が入口側の端部よりも上方側に位置するよう図3等において右肩上がりに傾斜した状態の領域として構成している。また、支持ロール115は、導入される記録用紙9の入口空間(上方側の空間)を形成するため支持ロール116よりも上方側の位置に配置されている。
一方、下ベルト120は、複数のロールに巻き掛けらて回転自在に支持される。実施の形態1における下ベルト120は、5つのロールに巻き掛けられて支持されている。その5つのロールとしては、下ベルト120に回転動力を付与して回転させる駆動ロール122と、下ベルト120をその外周側に押して下ベルト120に張力を付与する張力付与ロール123と、下ベルト120を所要の位置で支持する支持ロール124、125、126が用いられている。また、この5つのロールは、下ベルト120の移動方向上流側から下ベルト120の循環移動する経路に沿って、支持ロール125、支持ロール126、駆動ロール122、支持ロール124、張力付与ロール123の順で配置されている。
駆動ロール122は、搬送する記録用紙9を排出させる出口側に位置するとともに上記駆動ロール112と(上ベルト110及び下ベルト120を介在させて)対向した位置になるよう配置されている。張力付与ロール123は、駆動ロール122から最も離れた位置に配置されているとともに、圧縮バネ等の弾性部材127の弾性力を利用して下ベルト12を内周面から外周面側にむけて押し付ける状態で配置されている。また、支持ロール126は、駆動ロール122と協同して、上ベルト110の外周面との接触を行うための領域を形成する位置に配置されている。支持ロール125は、導入される記録用紙9の入口空間(下方側の空間)を形成するため支持ロール126よりも下方側の位置に配置されている。
支持ロール126については、下ベルト120を上ベルト120の外周面に接触させることと上ベルト110を放熱部材130の接触面132に接触させることのために、圧縮バネ等の弾性部材128の弾性力を利用して下ベルト120を内周面から押し付ける状態で配置されている。この支持ロール126は、例えば、下ベルト120の幅方向(循環移動方向と直交する方向)においてベルト幅BWよりも短い幅(長さ)でもって下ベルト120の内周面に接触するロールとして構成されている(図7参照)。
ここで、上ベルト110は、駆動ロール112から付与される回転動力により、上記5つのロールに巻き掛けられた状態において矢印で示す方向に循環移動するよう回転する。一方、下ベルト120は、駆動ロール122から付与される回転動力により、上記5つのロールに巻き掛けられた状態において矢印で示す方向に循環移動するよう回転する。また、下ベルト120は、支持ロール125から駆動ロール122に至るまでの区間において上ベルト110の外周面に接触した状態で移動する。駆動ロール112及び駆動ロール122には、図示しない回転駆動装置から回転動力が伝達されるようになっている。
また、搬送対象となる記録用紙9は、支持ロール116に支持される上ベルト110と支持ロール126に支持される下ベルト120とが互いに接触し始める位置(入口部)に導入された後、上ベルト110と下ベルト120に挟まれた状態で各ベルトの循環移動方向に沿って搬送され、駆動ロール112に支持される上ベルト110と駆動ロール122に支持される下ベルト120とが互いに離れ始める位置(出口部)から排出される。この搬送装置100においては、図3に示すように、その入口部に向けて記録用紙9を円滑に誘導する導入ガイド材141を、支持ロール125に支持される下ベルト120部分に接近させるように傾斜させた状態で設けている。また、この搬送装置100においては、図3に示すように、その出口部から排出される記録用紙9を所要の方向にむけて排出させるよう誘導する一対の排出ガイド材142A,142Bを、駆動ロール112に支持される上ベルト110部分と駆動ロール122に支持される下ベルト120部分に接近させた状態で設けている。
放熱部材130は、上ベルト110の内周面に接触する接触面132を有し、記録用紙9が有する熱を上ベルト110を介して伝導させて吸収(吸熱)する板状の接触部131と、接触部131の上部において接触部131で吸熱した熱を放出する放熱部133とで構成されている。
接触部131は、上ベルト110の内周面にむけて突出した状態になる所定の曲率の湾曲面で構成される接触面132を有している。放熱部133は、接触部131の上部において間隔をおいて林立する複数枚の放熱板又は複数本の放熱棒で構成されている。この接触部131と放熱部133は、熱伝導性が上ベルト110よりも良い材料で形成されており、例えば、アルミニウム等の金属材料で形成されている。
また、この搬送装置100は、その一方の側面側に、放熱部材130の放熱部133等に存在する空気を吸って排出するための図示しない排気装置が配置されている。排気装置は、放熱部材130の放熱部133等に存在する空気を吸い取ることにより、放熱部133等から熱を奪い、その熱気を搬送装置100の外部さらには第2筐体80Bの外部に排出させるようになっている。排気装置としては、例えば排気(吸気)ファンが用いられる。上記排気装置と放熱部材130の放熱部133との間などには、必要に応じて空気を通過させる図示しない通気ダクトが設けられる。
さらに、この搬送装置100は、上ベルト110における張力付与ロール113と下ベルト120における張力付与ロール123が、上ベルト110及び下ベルト120の各蛇行(片寄り走行を含む)の挙動を自らの姿勢を変更して補正する蛇行補正ロール(この種のロールは「ステアリングロール」とも称す)としても構成されている。
具体的には、張力付与ロール113及び張力付与ロール123は、その各軸方向の一端部が蛇行状態に応じて補正方向(例えば張力付与のために押す方向と直交する方向)に所定量だけ移動し、これによりロール全体が所定の角度だけ傾いた状態になるよう支持されている。また、張力付与ロール113及び張力付与ロール123は、その各軸の一端部(軸受など)を補正方向に所要量だけ移動させる図示しない移動駆動装置(変位装置)にそれぞれ連結されている。また、搬送装置100には、図3に示すように、上ベルト110及び下ベルト120の各蛇行状態(端部位置)を検出する第1検出センサ119及び第2検出センサ129が設けられている。第1検出センサ119及び第2検出センサ129としては、例えば、上ベルト110及び下ベルト120の各端部に常時接触して各ベルト110,120の蛇行する動きに追従する検出棒を有し、その検出棒を有し、その弾性検出棒の変位する状態からベルト端部の位置を検出する形式のものが使用されている。さらに、この張力付与ロール113及び張力付与ロール123は、第1検出センサ119の検出情報と第2検出センサ129の検出情報とにそれぞれ応じて移動駆動装置が作動することにより、各軸の一端部が補正方向に所要量だけ移動させられるよう構成されている。
蛇行補正ロールとしても機能する張力付与ロール113は、図4(a)に示すように、その一端部(図4における左端部)が上方側の補正方向へ移動して傾いた状態になることにより、上ベルト110を白抜き矢印で示すようにベルト幅の方向の一方側(図4における右側)に移動させることができる。また、張力付与ロール113は、図4(b)に示すように、その一端部が下方側の補正方向へ移動して傾いた状態になることにより、上ベルト110を白抜き矢印で示すようにベルト幅の方向の他方側(図4における左側)に移動させることができる。図4(a),(b)において傾く前の張力付与ロール113の軸心の基準位置が一点鎖線J0で示され、傾いた後の張力付与ロール113の軸心の位置が一点鎖線J1又はJ2で示されている。また、図4(a),(b)において黒塗り矢印は、張力付与ロール113が傾いたときに上ベルト110がベルト長さ(周)方向に対してベルト幅の方向の一方側又は他方側に少し変位するように循環移動している状態(挙動)を模式的に示すものである。
一方、蛇行補正ロールとしても機能する張力付与ロール123は、図5(a)に示すように、その一端部(図5における左端部)が上方側の補正方向へ移動して傾いた状態になることにより、下ベルト120をベルト幅の方向の一方側(図5における右側)に移動させることができる。また、張力付与ロール123は、図5(b)に示すように、その一端部が下方側の補正方向へ移動して傾いた状態になることにより、下ベルト120をベルト幅方向の他方側(図5における左側)に移動させることができる。図5(a),(b)において傾く前の張力付与ロール123の軸心の基準位置が一点鎖線K0で示され、傾いた後の張力付与ロール113の軸心の位置が一点鎖線K1又はK2で示されている。また、図5(a),(b)において黒塗り矢印は、張力付与ロール123が傾いたときに下ベルト120がベルト長さ方向に対してベルト幅の方向の一方側又は他方側に少し変位するように循環移動している状態を模式的に示すものである。
さらに、この搬送装置100は、図3に示すように、上ベルト110、5つのロール112〜116、放熱部材130等を共通の支持部材に取り付けて上ユニット102として構成する一方で、下ベルト120、5つのロール122〜126等を共通の支持部材に取り付けて下ユニット103として構成し、これにより、全体においてほぼ上下方向で2分割される構造を採用している。
上ユニット102における支持部材143は、例えば、ロール112〜116の各軸112a等の両端部を軸受するように配置される一対の側面フレーム143(図3)や、その一対の側面フレームを連結する支持アーム等で構成されている。ちなみに、支持部材143の一対の側面フレームには、放熱部材130の放熱部133と向き合うように接続され、前述した排気装置による吸気時に発生する空気(の流れ)を通過させる図しない通気ダクトがそれぞれ配置されている。一方、下ユニット103における支持部材144は、例えば、ロール121〜126の各軸122a等の両端部を軸受するように配置される一対の側面フレーム144(図3)や、その一対の側面フレームを連結する支持アーム等で構成されている。
なお、この搬送装置100は、この分割構造に加えて、上ユニット102を下ユニット103から切り離して開けた状態にして、上ベルト110の外周面と下ベルト120の外周面とを離隔させた状態にするための開閉機構を採用している。この開閉機構は、例えば、上ベルト110と下ベルト120の間に詰まった記録用紙9を取り除く作業、点検作業、交換作業などを行う際に使用される。
そして、この搬送装置100においては、図6や図7に示すように、固定部材である放熱部材130の接触面132のうち上ベルト110が接触し始める入口領域132d又は上ベルト110が通過し終わる出口領域132eに、放熱部材130の接触面132における上ベルト110の内周面に対する動摩擦係数μ(h)よりも小さい動摩擦係数μ(s)を示すシート材160を固定している。実施の形態1では、シート材160を入口領域132dに固定した場合を例示している。
図6及び図7における符号SPは接触面132のうち上ベルト110が接触し始める位置(接触開始位置)を、符号EPは接触面132のうち上ベルト110が接触をし終わる位置(接触終了位置)をそれぞれ示す。図7における符号110a,110bは上ベルト110の装置前方側の端部及び装置後方側の端部をそれぞれ示している。また、図6等における符号BWは上ベルト110の幅、符号HWは放熱部材130における接触面132のベルト移動方向Cと直交する方向の幅をそれぞれ示す。さらに、図7(後記の図9を含む)に示す接触面132の長さHLを示す部分は、厳密には上ベルト110と実際に接触し得る部分になる。図6においては、各構成部品を識別しやすくする便宜上、放熱部材13の接触面132が上ベルト110の内周面と少し離れた状態で描いているが、実際には接触している。
上記接触面132の入口領域132dは、図7に点線等で示すように、上ベルト110との接触開始位置SPから最大で、その接触面132の上ベルト110の移動方向Cにおける長さHLの1/3の値になる寸法だけ、好ましくは長さHLの1/5の値になる寸法だけ上ベルト110の移動方向Cの下流側に入り込んだ位置までの領域になる。一方、上記接触面132の出口領域132eは、図7に点線等で示すように、上ベルト110との接触終了位置EPから最大で、その接触面132の上ベルト110の長さHLの1/3の値になる距離だけ、好ましくは長さHLの1/5の値になる寸法だけ上ベルトの移動方向Cの上流側に入り込んだ位置までの領域になる。図7における符号132fは、接触面132の上ベルト110と接触する領域のうち上記入口領域132d及び出口領域132eを除く残りの領域(中央領域)を示す。
実施の形態1では、シート材160を、接触面132の上ベルト110との接触開始位置SPから接触面132の長さHLの1/3の値になる距離だけ上ベルト110の移動方向Cの下流側に入り込んだ位置までの入口領域132dに固定している。このシート材160としては、放熱部材130の接触面132における上ベルト110の内周面に対する動摩擦係数μ(h)の0.2倍〜0.58倍の値からなる動摩擦係数μ(s)を有するシートが使用される。また、このようなシート材160としては、例えばフッ素樹脂等の材質(例えばテフロン(登録商標))からなる厚さが0.1〜0.3mmのシート(フィルム)を用いることができる。さらに、このシート材160は、感圧性粘着テープ等の固着手段により放熱部材の接触面132における該当する領域(本例では入口領域132d)に固定される。
ちなみに、シート材160の上記動摩擦係数μ(s)は、日本工業規格(JIS)K 7125の測定方法に準じて測定される。また、放熱部材130の接触面132の上記動摩擦係数μ(h)についても、JIS K 7125の測定方法に準じて測定される。
<搬送装置の動作>
以下、この搬送装置100の動作について説明する。
まず、搬送装置100は、その動作時期が到来すると、図3等に示すように、上ユニット102における上ベルト110が駆動ロール112の駆動により矢印で示す方向に回転する一方で、下ユニット103における下ベルト120が駆動ロール122の駆動により矢印で示す方向に回転する。
この際、上ベルト110は、支持ロール116と駆動ロール112の間を通過するときに、そのベルト内周面が放熱部材130における接触部131の接触面132に接触しながら移動する。また、下ベルト120は、支持ロール126と駆動ロール122の間を通過するときに、その外周面が上ベルト110の外周面と接触しながら移動する。ちなみに、この際は、放熱部材130の放熱を補助する図示しない前記吸気装置も、その吸気動作を開始する。
続いて、このように始動した搬送装置100に対し、各種の画像形成動作のなかで定着装置40による(熱)定着が終了した後の記録用紙9が導入される。
この際、搬送装置100では、その定着後の記録用紙9を、導入ガイド材141で案内して上ベルト110と下ベルト120が接触し始める入口部から導入し、その循環移動する上ベルト110と下ベルト120の間に挟んだ状態で搬送する。また、この搬送装置100では、搬送される記録用紙9が有する熱を放熱部材130が上ベルト110を介して吸熱しながら放熱し、記録用紙9を搬送しながら冷却する。
最後に、搬送装置100は、記録用紙9を、上ベルト110と下ベルト120が互いに離れ始める出口部から排出して一対の排出ガイド材142A,142Bで案内し、その外部(排出搬送路57)に排出する。この結果、定着後の記録用紙9は、搬送装置100の搬送により冷却された状態で排出される。
また、この搬送装置100においては、第1検出センサ119により上ベルト110の端部位置が基準の位置から変位してずれたことが検出されると、図4に例示するように、その第1検出センサ119の検出情報に応じて張力付与ロール113の一端部が補正すべき方向に所要量だけ移動し、これにより上ベルト110の蛇行(片寄り)を補正する。一方、第2検出センサ129により下ベルト120の端部位置が基準の位置から変位してずれたことが検出されると、図5に例示するように、その第2検出センサ129の検出情報に応じて張力付与ロール123の一端部が補正すべき方向に所要量だけ移動し、これにより下ベルト120の蛇行(片寄り)を補正する。
そして、この搬送装置100においては、その動作中に、上ベルト110の内周面が固定して配置される排熱部材130における接触部131の接触面132に接触しながら移動するため摩耗して摩耗粉が発生しやすい状態にある。しかし、この搬送装置100では、前述したように排熱部材130における接触部131の接触面132のうち入口領域132dに接触面132の動摩擦係数μ(h)よりも小さい動摩擦係数μ(s)を示すシート材160を固定しているため、上ベルト110の内周面が接触部131の接触面132に接触して通過しているにもかかわらず、その接触による摩耗に起因した摩耗粉が発生しにくい。本発明者らの研究によれば、摩耗粉は、上ベルト110を構成するポリイミド樹脂、カーボン等が主成分の物質であり、その殆どが上ベルト110の内周面の一部が摩耗により欠落したものであることが確認されている。
この結果、搬送装置100では、上記摩耗粉が上ベルト110により運ばれて特に蛇行補正ロールとしても機能する蛇行補正兼張力付与ロール113の表面に付着してしまうことが防止又は抑制され、これにより張力付与ロール113の動摩耗係数が時間経過によっても低下しにくく、張力付与ロール113の表面と上ベルト110の内周面との摩擦関係が長期にわたり良好に保持され、張力付与ロール113による蛇行補正(制御)が安定して行われるようになる。
<搬送装置に関する試験>
はじめに、この搬送装置100を用いて摩耗粉の発生状況を確認した。
搬送装置100としては、以下の構成のものを使用した。
上ベルト110及び下ベルト120としてはいずれも、ポリイミド樹脂にカーボンブラック等を添加した樹脂組成物から成形した、厚さが約80μm、ベルト周長が約528mm、ベルト幅BWが約370mmからなる継ぎ目の無い(シームレス)形態のベルトを使用した。
上ベルト110の蛇行補正ロール(張力付与ロール)113と下ベルト120の蛇行補正ロール(張力付与ロール)123としては、そのいずれも円柱状の金属製ロール基材に、ウレタン樹脂からなる表面層を形成したロールを使用した。また、蛇行補正ロール113と蛇行補正ロール123の各ベルト110、120に付与する張力は、約16.2Nに設定した。
さらに、この未使用時の蛇行補正ロール113と蛇行補正ロール123の各ベルト110、120の内周面に対する静摩擦係数は、いずれも約1.6であった。
一方、放熱部材130の接触部131としては、その接触面132の上ベルト110の移動方向Cにおける長さHLが約75mm、その接触面132の上ベルト110の移動方向Cと直交する方向(駆動ロール112の回転軸方向)における全体の幅HWが約386mmという寸法の長方形の接触面からなる、アルミニウム製の部材を使用した。なお、上ベルト110は、接触部132の接触面132のうち両端部132a,132b(幅:各20mm)を除く中央部132c(幅:約346mm)において放熱部材130による放熱作用を実質的に受けるようになっている。また、接触部131の接触面132は、上ベルト110の移動方向Cにおいて中央部が下方(下ベルト120側)にむけて凸となる緩やかな曲面(所定の曲率半径からなる面)で形成されている。
そして、上記構成からなる搬送装置100を画像形成枚数が800,000枚(=800kPV)になる時間だけ連続して稼働(各ベルト110、120の回転速度:約483mm/秒)させた後、その蛇行補正ロール113と蛇行補正ロール123の表面状態を観察した。
この結果、上ベルト110の蛇行補正ロール113の表面が汚れた状態であったのに対し、下ベルト120の蛇行補正ベルト123の表面が殆ど汚れておらず初期状態に近い状態であったことが確認された。また、蛇行補正ロール113の汚れの原因である付着物を採取して成分を分析したところ、その主成分がポリイミドの樹脂成分とその添加剤であるカーボンブラックであることが判明した。これにより、蛇行補正ロール113の汚れの原因である付着物は、上ベルト110の内周面(の構成材料)が放熱部材130における接触部131の接触面132と接触したことにより摩耗して欠落した摩耗粉であることが推測できる。
また、この試験後の蛇行補正ロール113及び蛇行補正ロール123の上記静摩擦係数についてそれぞれ測定したところ、約0.6と約1.2という値であった。
図8は、未使用段階(New)及び試験後(Age)における上側(Upper)の蛇行補正ロール113の上ベルト110に対する各静摩擦係数と、未使用段階及び試験後における下側(Lower)の蛇行補正ロール123の下ベルト120に対する各静摩擦係数との測定結果を示すものである。この測定結果から、蛇行補正ロール113と蛇行補正ロール123の各静摩擦係数は、未使用の段階では互いにほぼ同じ値であったものが、試験後には下側の蛇行補正123の方が25%程度の低下であったのに対して上側の蛇行補正ロール113の方が63%程度も大幅に低下したことがわかる。ちなみに、この上側の蛇行補正ロール113の静摩擦係数が大幅に低下したのは、そのロール表面に摩耗粉が付着したことが主な要因であるといえる。
次に、上記構成からなる(未使用段階の)搬送装置100として、図9に示すように、その放熱部材130における接触部131の各所に上記シート材160と同じ種類(幅及び長さの寸法が異なるのみ)の試験用シート165をそれぞれ貼り付けたものを用意し、その搬送装置100を先の試験と同様に画像形成枚数が1500枚(=1.5kPV)になる時間だけ連続して稼働させた後、その放熱部材130の接触面132と上側の蛇行補正ロール113との摩耗粉の付着による汚れ具合をそれぞれ調べた。
ここで、試験用シート165としては、上ベルト110の内周面に対する動摩擦係数μ(s)が約0.04のものを使用した。また、上記放熱部材130の接触部131における接触面132の動摩擦係数μ(h)は、約0.5〜0.1であった。
また、放熱部材130の接触面132は、その中央領域132cをその幅HSの方向にほぼ6等分した6つの試験区域A〜F(幅:いずれも約80mm、長さ:いずれも約75mm)に区分し、試験区域Cを除いて、その各試験区域A〜C,E〜Fの所定位置に各試験用シート165A〜C,E〜Fをそれぞれ固定した(貼り付けた)。
具体的には、試験用シート165Aは、幅が約70mm、長さ(ベルト移動方向Cにおける寸法)が約15mmの大きさのシートであり、試験区域Aの出口側(ベルト移動方向Cの下流側)の端部域に固定した。
試験用シート165Bは、幅が約80mm、長さが約20mmの大きさのシートであり、試験区域Bの入口側(ベルト移動方向Cの上流側)の端部から出口側に約15mmずれた位置に固定した。
試験用シート165Cは、幅が約80mm、長さが約10mmの大きさのシートであり、試験区域Cの入口側の端部域に固定した。
試験用シート165D1,165D2はいずれも、幅が約80mm、長さが約10mmの大きさのシートであり、試験区域Eの入口側の端部域及び出口側の端部域にそれぞれ固定した。
試験用シート165Eは、幅が約80mm、長さが約20mmの大きさのシートであり、試験区域Fの長さ方向のほぼ中央の位置に固定した。
試験区域Dは、押付け用の支持ロール126がほぼ重複した位置関係で配置される区域であり、試験用シート165を全く貼り付けない区域とした。
放熱部材130の接触面132と上側の蛇行補正ロール113との摩耗粉の付着による汚れ具合はいずれも、その接触面132と蛇行補正ロール113の上記各試験区域A〜Fに相当する部位の表面状態を観察し、その結果を以下の基準で評価した。
○:摩耗粉が全く付着していないか(摩耗粉の発生が認められない)。
△:摩耗粉の発生は認められるが、摩耗粉の付着はごく僅かである。
×:摩耗粉が容易に視認できる程度に付着している。
この汚れ具合に関する試験結果を図10に示す。図10において「△〜×」と表示している部分は、評価結果が蛇行補正ロール113の場所により「△」となる場所と「×」となる場所とが混在している場合を示している。
この試験結果から、上側の蛇行補正ロール113の表面における汚れは、試験用シート165(最終的にはシート材160)を試験区域Cのように放熱部材130の接触面132のうちの前記入口領域132dに含まれる領域に固定した場合に、殆ど発生しないことがわかる。
また、蛇行補正ロール113の表面における汚れについては、試験用シート165(最終的にはシート材160)を試験区域Aのように放熱部材130の接触面132のうちの前記出口領域132eに含まれる領域に固定した場合と、さらに試験区域Bのように放熱部材130の接触面132のうちの前記入口領域132dの下流側に含まれる領域に固定した場合も、実用上許容できる評価結果「△」のレベルにできることがわかる。
ただし、試験区域Bのように放熱部材130の前記入口領域132dの下流側に含まれる領域に固定した場合は、放熱部材130の接触面132における汚れが実用上許容できない評価結果「×」になるときが含まれるため、この点を考慮すると試験区域Aのように固定した場合に比べて効果が劣ると言える。この点を重要視すると、試験用シート165(最終的にはシート材160)は、試験区域Aのように放熱部材130の接触面132のうちの前記出口領域132eに含まれる領域に固定した場合には、試験区域Cのように前記入口領域132dに含まれる領域に固定した場合に比べると少し劣るものの、良好な結果が得られることがわかる。
この他、搬送装置100は、試験用シート165(最終的にはシート材160)を、試験区域Cのように前記入口領域132dに含まれる領域に固定した場合には、試験区域Aのように放熱部材130の接触面132のうちの前記出口領域132eに含まれる領域に固定する場合に比べて、放熱部材130による放熱性能が良好に得られる。
これは、以下の理由によるものと推測される。
まず、定着装置40から排出(又は搬送)された記録用紙9が有する熱は、一般に接触する物どうしの温度差により発生する熱伝導によって、上ベルト110に伝わり、その後、上ベルト110と接触している固定部材の放熱部材130へ伝わる。
一方、搬送装置100においては、上ベルト110が記録用紙9の搬送方向における出口側に向かって移動しているため、仮にどこにも記録用紙9が存在しなかった場合、上ベルト110が放熱部材130の接触面132における入口領域に存在する時点では、記録用紙9の熱が最初に上ベルト110の外側表面へ伝わるが、その上ベルト110の放熱部材130と接触する内側表面についてはその熱の伝導により温度が上昇していない状態にあるといえる。
その後、上ベルト110は、そのベルト外側表面に伝わった熱がベルト内側表面に伝わり、その上ベルト110の部分が上記搬送方向における出口領域に移動した時点では、熱の伝導(移動)によりベルト内側表面がベルト外側表面よりも温度が高くなっていると考えられる。
そして、上ベルト110の温度が高い部分が放熱部材130(の接触面132)と直接接触している方が、例えば接触面132にシート材160等が介在している場合に比べて、その上ベルト110の熱が放熱部材130に良好に伝わって放熱性能も高くなると考えられる。
以上のことから、この搬送装置100では、シート部材160を放熱部材130の接触面132における入口領域132dに固定した場合の方が、その接触面132における出口領域132eに固定する場合に比べて、放熱部材130による放熱性能が高くなって有利になると推測される。
また、搬送装置100は、試験用シート165(最終的にはシート材160)を放熱部材130の接触面132の入口領域に固定した場合には、その接触面132の出口領域に固定する場合に比べて、シート材160が搬送される記録用紙9の熱の伝導により高温になりにくくなるので、その熱によるシート材160の劣化を抑えることができ、摩耗粉の発生を長期にわたり抑制することが可能になる。
[他の実施の形態]
実施の形態1に係る搬送装置100においては、その放熱部材130に代えて、例えば、上ベルト110の内周面に接触する接触面を有する加熱部材からなる固定部材を配置してもよい。加熱部材としては、例えば、加熱源とその加熱源を装備する構造体で構成されるものを適用できる。このように構成した場合、その搬送装置100により搬送される記録用紙9は、その搬送中に加熱部材からの熱が上ベルト110を介して伝えられて加熱されるようになる。
また、実施の形態1に係る搬送装置100においては、その下ベルト120及びその複数の支持ロール(122〜126)で構成される押付け部材に代えて、例えば、上ベルト110の外周面のうち放熱部材(固定部材)の接触面を通過するときの部分に接触した状態で回転するよう配置され、上ベルト110との間にシート状の記録用紙9を挟んだ状態で搬送するよう単数又は複数の押付けロールで構成される押付け部材を採用してもよい。ちなみに、上ベルト110を支持する複数の支持ロールや下ベルト120を支持する複数の支持ロールの配置や種類等については、実施の形態1で例示した構成以外の他の構成であっても構わない。また、張力付与ロール113,123については、蛇行補正の機能を有しないで張力付与の機能のみを有する張力付与ロールとして構成してもよい。この場合、その張力付与の機能のみを有する張力付与トールとは別に、蛇行補正の機能を有する蛇行補正ロールを併設した構成にしてもよい。
さらに、実施の形態1に係る画像形成装置1においては、搬送装置100を定着装置40による定着後(換言すれば画像が形成された後)の記録用紙9を搬送する装置として使用する場合を示したが、その他にも、例えば、搬送装置100を、画像が形成される前の記録用紙9を搬送する装置として単独で使用又は併用するように構成することも可能である。
この他、画像形成装置1は、搬送装置100を適用することが可能なものであれば、その画像形成方式やその構造等の構成については特に限定されるものでない。必要であれば、現像剤以外の材料で構成される画像を形成する画像形成装置であっても構わない。また、搬送装置100は、画像形成装置100に組み込んで使用する場合に限らず、例えば、シート状の被搬送材を搬送するための搬送装置100として単独で使用したり、あるいは、シート状の被搬送材を扱う他の種類の装置と組み合わせて使用するように構成してもよい。