以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。各図面を通じて同一もしくは同等の部位や構成要素には、同一もしくは同等の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、現実のものとは異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
また、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置等を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
図1は、本発明の実施の形態に係る給紙装置を備える印刷装置の構成を示すブロック図である。図2は、図1に示す印刷装置の給紙部および印刷部の概略構成図である。以下の説明において、図2の紙面に直交する方向を前後方向とする。また、図2における紙面の上下左右を上下左右方向とする。図2において、左から右へ向かう方向が用紙PAの搬送方向である。以下の説明における上流、下流は、用紙PAの搬送方向における上流、下流を意味する。
図1に示すように、本実施の形態に係る印刷装置1は、給紙部2と、印刷部3と、画像読取部4と、操作パネル部5と、制御部6とを備える。なお、給紙装置は、給紙部2と、制御部6とを備える。
給紙部2は、印刷媒体である用紙PAを印刷部3に給紙する。図1、図2に示すように、給紙部2は、給紙台11と、一対の給紙ローラ12と、給紙モータ13と、一対のレジストローラ14と、レジストモータ15とを備える。
給紙台11は、印刷に用いられる用紙PAが積載されるものである。
給紙ローラ12は、給紙台11に積載された用紙PAを1枚ずつピックアップしてレジストローラ14へ搬送する。また、給紙ローラ12は、レジストローラ14による用紙PAの搬送をアシストするアシスト動作を行う。給紙ローラ12は、給紙台11の下流側端部の上側に配置されている。
給紙モータ13は、給紙ローラ12を回転駆動させる。
レジストローラ14は、給紙ローラ12により搬送されてきた用紙PAを一旦止め、用紙PAにたるみが形成された後、用紙PAをニップしつつ印刷部3に向けて搬送する。レジストローラ14は、給紙ローラ12の下流側に配置されている。レジストローラ14は、レジストローラ14に突き当てられた用紙PAに所定量のたるみが形成された時点で、その用紙PAの後端が上流側(左側)の給紙ローラ12に到達していない(上流側の給紙ローラ12を抜けていない)状態となるような位置に配置されている。
レジストモータ15は、レジストローラ14を回転駆動させる。
印刷部3は、給紙された用紙PAを搬送しつつ、用紙PAに印刷を行う。図1、図2に示すように、印刷部3は、ベルト搬送部21と、インクジェットヘッド部22とを備える。
ベルト搬送部21は、給紙部2により給紙された用紙PAを搬送する。ベルト搬送部21は、レジストローラ14の下流側に配置されている。ベルト搬送部21は、搬送ベルト31と、駆動ローラ32と、従動ローラ33,34,35と、ベルトモータ36とを備える。
搬送ベルト31は、用紙PAを吸着保持して搬送する。搬送ベルト31は、駆動ローラ32および従動ローラ33〜35に掛け渡される環状のベルトである。搬送ベルト31には、貫通孔が多数形成されている。搬送ベルト31は、ファン(図示せず)の駆動により貫通孔に発生する吸着力により、上面(搬送面)に用紙PAを吸着保持する。搬送ベルト31は、図2における時計回り方向に回転することで、吸着保持した用紙PAを左から右へ搬送する。
駆動ローラ32は、従動ローラ33〜35とともに搬送ベルト31を支持するとともに、搬送ベルト31を回転させる。
従動ローラ33〜35は、駆動ローラ32とともに搬送ベルト31を支持する。従動ローラ33〜35は、搬送ベルト31を介して駆動ローラ32に従動する。従動ローラ33は、駆動ローラ32と同じ高さで、駆動ローラ32の左側に配置されている。従動ローラ34,35は、駆動ローラ32および従動ローラ33の下方において、互いに左右方向に離間して、同じ高さに配置されている。
ベルトモータ36は、駆動ローラ32を回転駆動させる。
インクジェットヘッド部22は、それぞれ前後方向に沿って複数のノズルが配列された複数のインクジェットヘッドを有する。インクジェットヘッド部22は、ベルト搬送部21の上方に配置されている。インクジェットヘッド部22は、ベルト搬送部21により搬送される用紙PAにインクジェットヘッドからインクを吐出して画像を印刷する。
画像読取部4は、原稿の画像を光学的に読み取り、画像データを生成する。
操作パネル部5は、ユーザによる入力操作を受け付けるとともに、各種の情報等を表示するものである。操作パネル部5は、操作ボタンおよびタッチパネル等を有する入力部と、液晶表示パネル等からなる表示部(いずれも図示せず)とを備える。
制御部6は、印刷装置1の各部の動作を制御する。制御部6は、CPU、RAM、ROM、ハードディスク等を備えて構成される。
具体的には、制御部6は、給紙部2により用紙PAを印刷部3に給紙し、ベルト搬送部21により用紙PAを搬送しつつ、インクジェットヘッド部22によりインクを吐出して用紙PAに印刷を行うよう制御する。
制御部6は、給紙部2による給紙動作において、給紙ローラ12を駆動させ、給紙ローラ12により搬送される用紙PAがレジストローラ14に突き当たって用紙PAに所定量のたるみが形成されると、給紙ローラ12を停止させる。給紙ローラ12を停止させた後、制御部6は、レジストローラ14を起動させる。制御部6は、レジストローラ14の駆動時において、給紙ローラ12がレジストローラ14をアシストするアシスト動作を実行させる。アシスト動作において、制御部6は、レジストローラ14の起動後に給紙ローラ12を起動させ、用紙PAのたるみが解消されるまでレジストローラ14による搬送速度と給紙ローラ12による搬送速度との速度差が一定となるよう制御する。
制御部6は、給紙動作を行う際の給紙モードとして、標準モードまたは高静音モードを選択可能である。標準モードは、印刷装置1における標準の生産性で印刷するモードである。高静音モードは、用紙PAのたるみ解消時点のレジストローラ14による搬送速度と給紙ローラ12による搬送速度との速度差が標準モードよりも小さくなるようにして、用紙PAのバックテンションによる騒音を標準モードより軽減するモードである。高静音モードでは、標準モードよりも印刷物の生産性は低くなる。制御部6は、給紙動作において、選択した給紙モードに応じて給紙ローラ12およびレジストローラ14を制御する。
次に、印刷装置1の印刷時の動作について説明する。
印刷開始が指示されると、制御部6は、ベルトモータ36によりベルト搬送部21の駆動を開始させる。ここで、画像読取部4で読み取った原稿を印刷する場合、制御部6は、操作パネル部5に対して印刷開始の操作が行われると、印刷開始が指示されたと判断する。この場合、制御部6は、画像読取部4により原稿の画像を読み取らせる。一方、外部端末から受信した印刷データに基づき印刷を行う場合、制御部6は、印刷データを受信すると、印刷開始が指示されたと判断する。
また、印刷開始が指示されると、制御部6は、給紙モードとして標準モードまたは高静音モードを選択する。画像読取部4で読み取った原稿を印刷する場合、制御部6は、操作パネル部5に対するユーザの操作に基づき、標準モードまたは高静音モードを選択する。一方、外部端末から受信した印刷データに基づき印刷を行う場合、制御部6は、印刷データに含まれる設定情報に基づき、標準モードまたは高静音モードを選択する。
ベルト搬送部21の駆動を開始した後、制御部6は、選択した給紙モードに応じて給紙部2を制御して、用紙PAを印刷部3へ給紙させる。複数枚の印刷を行う場合、制御部6は、給紙部2から順次用紙PAを給紙させる。
給紙された用紙PAは、印刷部3において、ベルト搬送部21により搬送される。ベルト搬送部21は、印字搬送速度Vgで用紙PAを搬送する。制御部6は、画像読取部4で読み取られた原稿の画像データまたは外部端末から受信した印刷データに基づき、インクジェットヘッド部22を制御して、搬送される用紙PAに画像を印刷させる。印刷された用紙PAは、図示しない排紙部により排紙される。
次に、給紙部2における標準モードの給紙動作について説明する。
図3は、標準モードにおける給紙ローラ12およびレジストローラ14の搬送速度の推移を示すタイミングチャートである。図3において、上段はレジストローラ14の搬送速度の推移を示し、下段は給紙ローラ12の搬送速度の推移を示す。
通常搬送のための給紙ローラ12の起動タイミングである図3の時刻t1において、制御部6は、給紙モータ13により給紙ローラ12を起動させる。これにより、給紙台11上の最上位の用紙PAが給紙ローラ12によりピックアップされ、レジストローラ14に向けて搬送され始める。
給紙ローラ12の搬送速度が最高速度Vsに達すると、制御部6は、給紙ローラ12を最高速度Vsで所定時間だけ維持させた後、停止させる。給紙ローラ12を起動した時刻t1から、停止する時刻t2までの間に、用紙PAの先端がレジストローラ14に突き当たり、所定のたるみ量Ltのたるみが用紙PAに形成される。この時刻t1〜t2の動作が、給紙ローラ12における通常搬送の動作である。
通常搬送した給紙ローラ12の停止後、レジストローラ14の起動タイミングである時刻t3において、制御部6は、レジストモータ15によりレジストローラ14を起動させる。レジストローラ14の起動タイミングは、通常搬送における給紙ローラ12の停止から所定時間後に設定されている。レジストローラ14の起動後、制御部6は、所定の加速度α1で加速させる。
レジストローラ14の起動後、アシスト動作の開始タイミングである時刻t4において、制御部6は、アシスト動作のため、給紙モータ13により給紙ローラ12を起動させる。制御部6は、給紙ローラ12の起動後、給紙ローラ12をレジストローラ14と同じ加速度α1で加速させる。レジストローラ14および給紙ローラ12の加速中において、レジストローラ14と給紙ローラ12との間の速度差により、用紙PAのたるみが徐々に減少して解消される。
給紙ローラ12が最高速度Vsに達すると、制御部6は、その時刻t5から、給紙ローラ12を最高速度Vsで所定時間だけ定速駆動させる。そして、制御部6は、時刻t6において、給紙ローラ12の減速を開始させ、時刻t7において給紙ローラ12を停止させる。これにより、給紙ローラ12のアシスト動作が終了する。アシスト動作は、用紙PAの後端が上流側(左側)の給紙ローラ12に到達する前に(上流側の給紙ローラ12を抜ける前に)、終了するようになっている。これは、給紙ローラ12が誤って次の用紙PAを搬送することを防止するためである。
レジストローラ14は、時刻t3に起動後、最高速度Vtに達するまで加速度α1で加速される。レジストローラ14が最高速度Vtに達すると、制御部6は、その時刻t8から、レジストローラ14を最高速度Vtで所定時間だけ定速駆動させる。そして、制御部6は、時刻t9において、レジストローラ14の所定の減速加速度α2で減速させ始める。
レジストローラ14による搬送速度が印字搬送速度Vgにまで減速されると、制御部6は、その時刻t10から、レジストローラ14を印字搬送速度Vgで所定時間だけ定速駆動させる。印字搬送速度Vgは、ベルト搬送部21による用紙PAの搬送速度である。用紙PAの先端が搬送ベルト31の上面(搬送面)の上流端(左端)に到達する時点では、レジストローラ14による搬送速度が印字搬送速度Vgにまで減速されているようになっている。
そして、制御部6は、時刻t11において、レジストローラ14を印字搬送速度Vgから減速加速度α2で減速させ始め、時刻t12においてレジストローラ14を停止させる。これにより、レジストローラ14の搬送動作が終了する。用紙PAの後端がレジストローラ14を抜けるとレジストローラ14を停止するための減速が開始するように、そのタイミング(時刻t11)が設定されている。
複数枚の用紙PAを連続して給紙する場合は、制御部6は、所定の紙間時間Tsで給紙する時間間隔で、用紙PAごとに上述した給紙動作を行う。紙間時間Tsは、印字搬送速度Vgにおける先行の用紙PAの後端と後続の用紙PAの先端との間の距離分の搬送時間に相当する時間である。
次に、上述した標準モードの給紙動作におけるレジストローラ14と給紙ローラ12との間の速度差について説明する。
図4に示すように、レジストローラ14の起動タイミング(時刻t3)からアシスト動作における給紙ローラ12の起動タイミング(時刻t4)までの時間をT1とすると、給紙ローラ12の起動時点におけるレジストローラ14の搬送速度は、α1×T1となる。したがって、アシスト動作における給紙ローラ12の起動時点において、レジストローラ14と給紙ローラ12との間の速度差ΔVは、α1×T1となる。
レジストローラ14および給紙ローラ12はともに加速度α1で加速されるため、給紙ローラ12が最高速度Vsに達するまで、速度差ΔV=α1×T1が維持される。この速度差ΔVにより、用紙PAのたるみが徐々に減少する。
ここで、たるみ解消時点における用紙PAのバックテンションが小さいほど、バックテンションによる騒音が小さく抑えられる。たるみ解消時点における用紙PAのバックテンションは、その時点でのレジストローラ14と給紙ローラ12との間の速度差が小さいほど、小さくなる。
上述の速度差ΔVは、加速度α1が固定値であるため、時間T1が短いほど、小さくなる。このため、たるみ解消時点における用紙PAのバックテンションを小さくするには、時間T1が短いほうがよい。
しかし、速度差ΔVが小さいほど、用紙PAのたるみの減少のペースが遅くなる。このため、時間T1が短すぎると、給紙ローラ12が最高速度Vsに達するまでにたるみが解消できない。給紙ローラ12が最高速度Vsに達した後は、レジストローラ14と給紙ローラ12との間の速度差が広がり、たるみ解消時点における用紙PAのバックテンションの増大を招く。
このため、時間T1は、給紙ローラ12が最高速度Vsに達する時点までにたるみ量Ltの用紙PAのたるみを解消できる範囲で、速度差ΔVが最も小さくなるように設定される。これにより、たるみ解消時点でのレジストローラ14と給紙ローラ12との間の速度差は、給紙ローラ12の起動時点での速度差ΔVと等しくなる。
ここで、図4に示すように、時刻t3から時刻t5までの時間をT2とし、時刻t5において用紙PAのたるみが解消するものとする。この場合、時刻t3〜t5におけるレジストローラ14による搬送量と、時刻t4〜t5における給紙ローラ12による搬送量との差ΔLが、たるみ量Ltと等しくなる。ΔLは、図4に斜線で示す領域の面積に相当する。したがって、以下の式(1)が成り立つ。
Lt=(α1×T22)/2−(α1×(T2−T1)2)/2 …(1)
また、上記式(1)から、たるみが解消する時間T2を表す以下の式(2)が導かれる。
T2=T1/2+Lt/(α1×T1) …(2)
ここで、たるみ量Ltは、図5に示すように、レジストローラ14に用紙PAを突き当てた際に、用紙PAの斜行を補正するために適切なだけ用紙PAをたるませたときの、用紙PAの本来の長さLpに対する縮小分である。たるみ量Ltは、用紙PAの紙種等に応じて設定される。
次に、高静音モードの給紙動作について説明する。
図6は、高静音モードにおける給紙ローラ12およびレジストローラ14の搬送速度の推移を示すタイミングチャートである。図6において、上段はレジストローラ14の搬送速度の推移を示し、下段は給紙ローラ12の搬送速度の推移を示す。なお、給紙ローラ12の通常搬送の動作は、図3に示した標準モードの場合と同様であるため、図6では図示を省略している。また、比較のため、前述した標準モードにおける給紙ローラ12およびレジストローラ14の搬送速度の推移も図6中に示している。
レジストローラ14の起動タイミングである図6の時刻t3において、制御部6は、レジストモータ15によりレジストローラ14を起動させる。レジストローラ14の起動後、制御部6は、加速度α3で加速させる。加速度α3は、前述した標準モードにおける加速度α1より小さい。
レジストローラ14の起動後、アシスト動作の開始タイミングである時刻t21において、制御部6は、アシスト動作のため、給紙モータ13により給紙ローラ12を起動させる。制御部6は、給紙ローラ12の起動後、給紙ローラ12をレジストローラ14と同じ加速度α3で加速させる。レジストローラ14および給紙ローラ12の加速中において、レジストローラ14と給紙ローラ12との間の速度差により、用紙PAのたるみが徐々に減少して解消される。
給紙ローラ12が最高速度Vsに達すると、制御部6は、その時刻t22から、給紙ローラ12を最高速度Vsで所定時間だけ定速駆動させる。そして、制御部6は、時刻t23において、給紙ローラ12の減速を開始させ、時刻t24において給紙ローラ12を停止させる。これにより、給紙ローラ12のアシスト動作が終了する。
レジストローラ14は、時刻t3に起動後、最高速度Vuに達するまで加速度α3で加速される。レジストローラ14が最高速度Vuに達すると、制御部6は、その時刻t25から、レジストローラ14を最高速度Vuで所定時間だけ定速駆動させる。そして、制御部6は、時刻t26において、レジストローラ14の所定の減速加速度α2で減速させ始める。高静音モードにおけるレジストローラ14の最高速度Vuは、前述した標準モードにおけるレジストローラ14の最高速度Vtより小さい。
レジストローラ14による搬送速度が印字搬送速度Vgにまで減速されると、制御部6は、その時刻t27から、レジストローラ14を印字搬送速度Vgで所定時間だけ定速駆動させる。そして、制御部6は、時刻t28において、レジストローラ14を印字搬送速度Vgから減速加速度α2で減速させ始め、時刻t29においてレジストローラ14を停止させる。これにより、レジストローラ14の搬送動作が終了する。
高静音モードにおけるレジストローラ14の起動タイミング(時刻t3)からアシスト動作における給紙ローラ12の起動タイミング(時刻t21)までの時間をT3とすると、給紙ローラ12の起動時点におけるレジストローラ14の搬送速度は、α3×T3となる。したがって、アシスト動作における給紙ローラ12の起動時点において、レジストローラ14と給紙ローラ12との間の速度差ΔVは、α3×T3となる。
加速度α3としては、標準モードにおける加速度α1より小さい任意の値が設定される。そして、加速度α3において、給紙ローラ12が最高速度Vsに達する時点までにたるみ量Ltの用紙PAのたるみを解消できる範囲で、速度差ΔVが最も小さくなるように、時間T3が設定される。
加速度α3が標準モードにおける加速度α1より小さいため、高静音モードでは標準モードの場合より、アシスト動作における給紙ローラ12の起動時点の速度差ΔVが維持される時間が長くなる。このため、高静音モードでは、標準モードの場合よりも小さい速度差ΔVで、速度差ΔVを維持している期間中にたるみを解消することが可能になっている。したがって、時間T3として、標準モードの場合よりも速度差ΔVが小さくなるような値が設定される。
これにより、高静音モードでは、たるみ解消時点でのレジストローラ14と給紙ローラ12との間の速度差が、標準モードの場合よりも小さくなる。このため、高静音モードでは、標準モードよりも、たるみ解消時の用紙PAのバックテンションによる騒音を低減できる。
加速度α3が小さいほど、速度差ΔVを小さくすることが可能になり、たるみ解消時の用紙PAのバックテンションによる騒音をより小さくすることが可能になる。
また、高静音モードでは、標準モードの場合より、給紙ローラ12およびレジストローラ14の加速度が小さいので、給紙モータ13およびレジストモータ15の最大消費電力が低減する。
加速度α3が標準モードにおける加速度α1より小さいため、高静音モードにおけるレジストローラ14の最高速度Vuは、標準モードにおける最高速度Vtより遅い速度に設定される。最高速度Vuを決定する方法について説明する。
レジストローラ14による搬送速度は、用紙PAの先端が搬送ベルト31の上面(搬送面)の上流端(左端)に到達する時点では、印字搬送速度Vgになっている必要がある。最高速度Vuは、この条件を満たすように決定される。
具体的には、最高速度Vuは、図7に示す4角形の面積に相当する搬送距離が、図2に示す距離Lsから所定のマージンLmを差し引いた距離と等しくなるように決定される。距離Lsは、レジストローラ14のニップ点から搬送ベルト31の上面(搬送面)の上流端(左端)までの距離である。
図7の4角形の面積は、レジストローラ14が最高速度Vuに到達した時点で減速を開始するとした場合における、印字搬送速度Vgにまで減速される時点までのレジストローラ14による搬送距離を示すものである。この搬送距離が、距離LsからマージンLmを差し引いた距離と等しいとすると、以下の式(3)が成り立つ。
Ls−Lm=Vu2/(2×α3)
+(Vu+Vg)×(Vu−Vg)/(2×|α2|) …(3)
上記式(3)より、以下の式(4)が導かれる。
上記式(4)により、高静音モードにおけるレジストローラ14の最高速度Vuが決定される。
このように最高速度Vuを決定し、マージンLm分の距離は、レジストローラ14の最高速度Vuでの定速駆動期間(図6の時刻t25〜t26)で搬送するような制御とする。これにより、レジストローラの14の動作のばらつきを、最高速度Vuでの定速駆動期間の長さを調整することで吸収可能としている。
次に、高静音モードの給紙動作における紙間について説明する。
図6から分かるように、高静音モードでは、レジストローラ14の起動から停止までの時間である動作時間が標準モードより長くなる。このため、高静音モードでは、レジストローラ14の動作時間の長くなる分だけ、標準モードよりも、連続給紙の際の紙間(紙間時間)を長くする。
したがって、標準モードにおけるレジストローラ14の動作時間をTra、高静音モードにおけるレジストローラ14の動作時間をTrb、標準モードにおける紙間時間Tsとすると、高静音モードにおける紙間時間Tuは、以下の式(5)で表される。
Tu=Ts+(Trb−Tra) …(5)
ここで、高静音モードにおけるレジストローラ14の動作時間Trbは、図6に示す時間Ta,Tb,Tc,Td,Teの合計となる。時間Taは時刻t3〜t25、時間Tbは時刻t25〜t26、時間Tcは時刻t26〜t27、時間Tdは時刻t27〜t28、時間Teは時刻t28〜t29の時間である。
時間Ta〜Teは、以下の式(6)〜(10)で表される。
Ta=Vu/α3 …(6)
Tb=Lm/Vu …(7)
Tc=(Vu−Vg)/|α2| …(8)
Td=(Lp−Ls)/Vg …(9)
Te=Vg/|α2| …(10)
したがって、高静音モードにおけるレジストローラ14の動作時間Trbは、以下の式(11)で表される。
Trb=Vu/α3+Lm/Vu+(Vu−Vg)/|α2|
+(Lp−Ls)/Vg+Vg/|α2| …(11)
標準モードにおけるレジストローラ14の動作時間Traは、上記式(11)におけるTrbをTra、α3をα1、VuをVtにそれぞれ置き換えた式により算出できる。
次に、アシスト動作時における給紙ローラ12およびレジストローラ14の搬送速度の推移、および用紙PAのたるみ量の推移の具体例について、比較例も含めて説明する。
図8は、比較例における給紙ローラ12およびレジストローラ14の搬送速度の推移、および用紙PAのたるみ量の推移を示すタイミングチャートである。この比較例のアシスト動作は、本実施の形態とは異なる従来のアシスト動作の例である。この比較例は、レジストローラ14と同時に給紙ローラ12を起動させるものである。そして、給紙ローラ12は、その起動後、レジストローラ14より小さい加速度で加速される。これにより、レジストローラ14と給紙ローラ12との速度差が徐々に拡大し、それに伴って用紙PAのたるみが徐々に減少して解消される。
図8の例では、レジストローラ14の加速度α4=25000mm/s2に対し、給紙ローラ12の加速度α5=12500mm/s2である。また、レジストローラ14の起動時における用紙PAのたるみ量Lt=6mmである。
図8において、給紙ローラ12およびレジストローラ14の起動から、用紙PAのたるみが解消されるまでの時間をT11とすると、以下の式(12)が成り立つ。
Lt=(α4×T112)/2−(α5×T112)/2 …(12)
また、用紙PAのたるみの解消時点におけるレジストローラ14と給紙ローラ12との間の速度差ΔVaは、以下の式(13)により求められる。
ΔVa=α4×T11−α5×T11 …(13)
式(12)、式(13)から、上述のようにα4=25000mm/s2、α5=12500mm/s2、Lt=6mmの場合、T11=0.031s、ΔVa=387mm/sとなる。
図9は、本実施の形態による標準モードのアシスト動作における給紙ローラ12およびレジストローラ14の搬送速度の推移、および用紙PAのたるみ量の推移の具体例を示すタイミングチャートである。
図9の例において、レジストローラ14および給紙ローラ12の加速度α1=25000mm/s2である。これは、上述の図8の例におけるレジストローラ14の加速度α4と同じ値である。また、図9の例でも、図8の例と同様に、レジストローラ14の起動時における用紙PAのたるみ量Lt=6mmである。また、図9の例では、レジストローラ14の起動タイミングからアシスト動作における給紙ローラ12の起動タイミングまでの時間T1=0.009sである。
また、図9の例では、レジストローラ14の最高速度Vt=1289mm/s、レジストローラ14の減速加速度α2=−40000mm/s2、印字搬送速度Vg=632mm/sである。さらに、図9の例では、用紙PAの搬送方向における長さLp=210mm、レジストローラ14のニップ点から搬送ベルト31の上面(搬送面)の上流端(左端)までの距離Ls=55mm、距離Lsに対するマージンLm=6mm、紙間時間Ts=0.0592sである。
前述の式(2)から、図9の例のようにα1=25000mm/s2、Lt=6mm、T1=0.009sの場合、レジストローラ14の起動から用紙PAのたるみが解消される時点までの時間T2=0.0315sとなる。
また、前述のように、本実施の形態では、給紙ローラ12の起動時点におけるレジストローラ14と給紙ローラ12との間の速度差ΔVが、用紙PAのたるみの解消時点まで維持される。したがって、図9の例では、用紙PAのたるみの解消時点におけるレジストローラ14と給紙ローラ12との間の速度差ΔVb=α1×T1となる。図9の例のようにα1=25000mm/s2、T1=0.009sの場合、ΔVb=225mm/sとなる。
このように、図9の例における速度差ΔVbは、図8の例における速度差ΔVaより小さい。したがって、図9の例では、図8の例よりも、用紙PAのバックテンションによる騒音が小さくなる。
ここで、後述する図10の例との比較のため、図9の例における印刷物の生産性を算出する。印刷物の生産性は、1分間(60s)における印刷枚数である。
図9の例における生産性P1[ppm]は、以下の式(14)により算出される。
P1=60/(Lp/Vg+Ts) …(14)
したがって、図9の例のようにLp=210mm、Vg=632mm/s、Ts=0.0592sの場合、P1=153ppmとなる。
図10は、本実施の形態による高静音モードのアシスト動作における給紙ローラ12およびレジストローラ14の搬送速度の推移、および用紙PAのたるみ量の推移の具体例を示すタイミングチャートである。
図10の例において、レジストローラ14および給紙ローラ12の加速度α3=12500mm/s2である。また、レジストローラ14の起動タイミングからアシスト動作における給紙ローラ12の起動タイミングまでの時間T3=0.011sである。減速加速度α2,印字搬送速度Vg、たるみ量Lt、用紙長さLp、距離Ls、マージンLmの値は、図9の例と同じである。
前述の式(4)から、図10の例のようにα2=−40000mm/s2、α3=12500mm/s2、Vg=632mm/s、Ls=55mm、Lm=6mmの場合、レジストローラ14の最高速度Vu=1014mm/sとなる。
高静音モードにおけるレジストローラ14の起動から用紙PAのたるみが解消される時点までの時間T4は、前述の式(2)におけるT2をT4、T1をT3、α1をα3にそれぞれ置き換えた式により算出される。したがって、図10の例のようにα3=12500mm/s2、Lt=6mm、T3=0.011sの場合、T4=0.049sとなる。
図10の例では、給紙ローラ12の起動時点におけるレジストローラ14と給紙ローラ12との間の速度差ΔVは、α3×T3である。したがって、用紙PAのたるみの解消時点におけるレジストローラ14と給紙ローラ12との間の速度差ΔVc=α3×T3となる。図10の例のようにα3=12500mm/s2、T3=0.011sの場合、ΔVc=137.5mm/sとなる。
このように、図10の例におけるたるみ解消時点の速度差ΔVcは、図9の例における速度差ΔVbより小さい。したがって、図10の高静音モードの例では、図9の標準モードの例よりも、用紙PAのたるみ解消時のバックテンションによる騒音が小さくなる。
前述の式(11)から、図10の例のようにα2=−40000mm/s2、α3=12500mm/s2、Vu=1014mm/s、Vg=632mm/s、Lp=210mm、Ls=55mm、Lm=6mmの場合、レジストローラ14の動作時間Trb=0.358sとなる。
これに対し、前述のように、標準モードにおけるレジストローラ14の動作時間Traは、式(11)におけるTrbをTra、α3をα1、VuをVtにそれぞれ置き換えた式により算出できる。したがって、前述の図9の例では、レジストローラ14の動作時間Tra=0.334sとなる。
また、前述のように、図9の標準モードの例における紙間時間Ts=0.0592sである。したがって、前述の式(5)から、図10の例における紙間時間Tu=0.083sとなる。
図10の例における生産性P2[ppm]は、式(15)におけるP1をP2、TsをTuにそれぞれ置き換えた式により算出できる。図10の例のようにLp=210mm、Vg=632mm/s、Tu=0.083sの場合、P2=144ppmとなる。これは、前述の図9の例における生産性P1=153ppmより小さくなっている。
このように、高静音モードでは、標準モードより生産性が低下するが、用紙PAのたるみ解消時のバックテンションによる騒音は小さく抑えられる。生産性より静音性を重視したい場合に高静音モードが適している。
以上説明したように、本実施の形態の印刷装置1では、制御部6は、給紙ローラ12によるアシスト動作において、レジストローラ14の起動後に給紙ローラ12を起動させることで、両ローラ間に速度差を設ける。そして、制御部6は、用紙PAのたるみが解消されるまで、両ローラ間の速度差が一定となるよう制御する。これにより、用紙PAのたるみ解消時点における両ローラ間の速度差を小さく抑え、用紙PAのバックテンションによる騒音を低減できる。また、印刷装置1では、給紙モードとして、標準モードまたは高静音モードを選択可能である。高静音モードを選択することで、レジストローラ14と給紙ローラ12との間の速度差をより小さく抑え、用紙PAのバックテンションによる騒音をより低減することが可能になる。このように、印刷装置1によれば、給紙部2による給紙動作における騒音を低減できる。
ここで、図8の比較例として示したような従来のアシスト動作における給紙ローラ12の加速度、および本実施の形態のアシスト動作における給紙ローラ12の起動タイミングは、たるみ量Lt等の諸条件によって変わる。標準的なたるみ量Lt等の条件において、本実施の形態のアシスト動作によれば、従来のアシスト動作と比較して、用紙PAのたるみ解消時点におけるレジストローラ14と給紙ローラ12との間の速度差を低減できる。
また、印刷装置1では、用紙PAのたるみの解消時点以降に、図3の時刻t5〜t6、図6の時刻t22〜t23のように、給紙ローラ12による搬送速度を一時的に定速とした後、減速を開始させる。このように定速区間を設けることで、減速開始時における、給紙モータ13から給紙ローラ12へと駆動力を伝達する駆動力伝達系におけるギアのバックラッシュ解消音を低減できる。
なお、上記実施の形態では、アシスト動作における給紙ローラ12の起動後、用紙PAのたるみが解消されるまで、レジストローラ14と給紙ローラ12との間の速度差が一定となるよう制御したが、この速度差を一定とする制御には限らない。用紙PAのたるみが解消されるまでレジストローラ14による搬送速度が給紙ローラ12による搬送速度より速いような制御であればよい。レジストローラ14の起動後に給紙ローラ12を起動することで両ローラ間に速度差を設け、その後、用紙PAのたるみが解消されるまでレジストローラ14による搬送速度が給紙ローラ12による搬送速度より速いよう制御することで、用紙PAのたるみ解消時点における両ローラ間の速度差を小さく抑え、用紙PAのバックテンションによる騒音を低減することができる。
また、高静音モードでは標準モードよりも、レジストローラ14に用紙PAを突き当てて形成するたるみ量を小さくするようにしてもよい。たるみ量を小さくすれば、給紙ローラ12の通常搬送の時間を短くできる。これにより、高静音モードにおける生産性の低下を軽減できる。
また、上記実施の形態では、給紙モードとして標準モードおよび高静音モードの2つのモードを設けたが、給紙モードは2つに限らない。用紙PAのたるみ解消時点のレジストローラ14と給紙ローラ12との間の速度差が相互に異なる3つ以上の給紙モードからいずれかを選択可能としてもよい。また、この場合において、用紙PAのたるみ解消時点のレジストローラ14と給紙ローラ12との間の速度差が小さい給紙モードほど、用紙PAに形成するたるみ量を小さくするようにしてもよい。
本発明は上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。