以下では、本発明による電流センサの故障診断方法および故障診断装置の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る電流センサの故障診断方法を適用した交流モータの可変速駆動系の構成を示す図である。この駆動系は、たとえばハイブリッド電気自動車や電気自動車等の車両を駆動するために用いられるものであり、高圧バッテリー1、インバータ2、3相交流モータ(以下、単にモータと称する)3、フィルタ回路4、U相電流センサ5、V相電流センサ6、W相電流センサ7、回転位置検出器8、制御回路9、ゲート駆動回路10および電源回路11を備える。
高圧バッテリー1は、インバータ2に所定の直流電力を供給する。この高圧バッテリー1は、たとえば車両に搭載された複数の二次電池を直列に接続して構成される。なお、図1の駆動系は、車両駆動以外の用途、たとえば産業用途や民生用途などにも適用可能である。その場合は、高圧バッテリー1の代わりに商用電源をインバータ2に接続し、この商用電源からの交流電力を整流回路により平滑化して得られる直流電力をインバータ2に供給してもよい。
インバータ2は、高圧バッテリー1から供給される直流電力を交流電力に変換してモータ3に出力することで、モータ3を回転駆動させる。インバータ2は、モータ3のU相巻線に対応して設けられU相アームを構成するスイッチング素子Tu+、Tu−および還流ダイオードDu+、Du−と、モータ3のV相巻線に対応して設けられV相アームを構成するスイッチング素子Tv+、Tv−および還流ダイオードDv+、Dv−と、モータ3のW相に対応して設けられW相アームを構成するスイッチング素子Tw+、Tw−および還流ダイオードDw+、Dw−とを備える。各アームのスイッチング素子の動作は、ゲート駆動回路10から各アームのスイッチング素子のゲート端子に入力されるゲート駆動信号に応じて制御される。インバータ2と高圧バッテリー1の間には、インバータ2のスイッチング動作に伴う電流リプルを吸収するための平滑コンデンサ12と、ノイズを除去するためのフィルタコンデンサ13、14とが接続されている。
モータ3は、インバータ2と接続されており、インバータ2からU相、V相、W相の各巻線に対して交流電力がそれぞれ印加されることによって回転駆動する。このモータ3が回転駆動することで生じた回転力は、たとえば車両の駆動輪などに伝達される。これにより、図1に示した駆動系が動作する。
U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7は、インバータ2がモータ3に交流電力を印加することでインバータ2からモータ3に流れる3相の電流値、すなわちU相、V相、W相の各電流値をそれぞれ検出する。U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7により検出された各電流値は、フィルタ回路4によりノイズを除去した後、制御回路9に出力される。
回転位置検出器8は、モータ3の回転位置(磁極位置)を検出し、その検出結果を制御回路9に出力する。回転位置検出器8は、たとえばレゾルバを用いて構成される。
制御回路9は、マイクロコンピュータ(マイコン)等を用いて構成されており、電源回路11から供給される電源電圧を用いて動作することで所定の演算処理を行う。制御回路9は、たとえば、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7により検出された3相の電流値と、回転位置検出器8により検出されたモータ3の回転位置とに基づいて、インバータ2の各アームにおけるスイッチング動作のタイミングを演算し、その演算結果に応じたゲート駆動指令をゲート駆動回路10に出力するための電流制御処理を行う。ゲート駆動指令には、たとえばPWM信号などが利用される。
また制御回路9は、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7により検出された3相の電流値の少なくとも一つに基づいて、これらの電流センサが故障しているか否かを判断するための電流センサの故障診断処理を行う。この電流センサの故障診断処理については、後で詳しく説明する。
ゲート駆動回路10は、電源回路11から供給される電源電圧を用いて、制御回路9からのゲート駆動指令に基づくゲート駆動信号を出力する。ゲート駆動回路10から出力されたゲート駆動信号は、インバータ2において各スイッチング素子のゲート端子に入力される。
電源回路11は、低圧バッテリーの電圧を所定の電源電圧に変換するための回路であり、たとえばスイッチング電源等を用いて構成される。
次に、制御回路9が行う電流センサの故障診断処理について説明する。図2は、本発明の第1の実施形態における電流センサの故障診断処理のフローチャートである。本実施形態において、制御回路9は、図2に示すフローチャートに従って、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7の故障診断処理を所定の処理周期ごとに行う。
ステップS100において、制御回路9は、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7から、これらの電流センサにより検出された各相の電流値を取得する。ここでは、たとえばADコンバータ等を用いて、各電流センサの出力を制御回路9が所定のサンプリング周期ごとに読み取ることで、各相の電流値(サンプリング値)を取得する。なお、以下の説明では、U相電流センサ5により検出されたU相電流値をiu、V相電流センサ6により検出されたV相電流値をiv、W相電流センサ7により検出されたW相電流値をiwとそれぞれ表す。
ステップS110において、制御回路9は、ステップS100でU相電流センサ5から取得したU相電流値iuがピーク値を示しているか否かを判断する。ここでは、U相電流値iuとしてサンプリングされた3つの連続するサンプリング値のレベルを比較して、一つ目のサンプリング値よりも二つ目のサンプリング値の方が大きく、かつ二つ目のサンプリング値が三つ目のサンプリング値よりも大きければ、二つ目のサンプリング値においてU相電流値iuがピーク値を示しているものと判断する。具体的には、サンプリングタイミングをn−1、n、n+1とし、最初のサンプリングタイミングn−1でのU相電流値をiu(nー1)、次のサンプリングタイミングnでのU相電流値をiu(n)、最後のサンプリングタイミングn+1でのU相電流値をiu(n+1)とする。このとき、iu(nー1)<iu(n)であり、かつiu(n)>iu(n+1)であれば、サンプリングタイミングnにおいてU相電流値iu(n)がピーク値を示すと判定してステップS111に進む。一方、少なくともいずれか一方の条件が満たされなければ、U相電流値iu(n)はピーク値ではないと判定してステップS120に進む。
ステップS111において、制御回路9は、ステップS110でピーク値と判断したU相電流値iuと、このときのV相電流値ivとに基づいて、U相電流センサ5およびV相電流センサ6の少なくとも一方が故障しているか否かを判断する。ここでは、U相電流値iu(n)がピーク値となるサンプリングタイミングnにおいて、V相電流値iv(n)とU相電流値iu(n)の極性が逆であり、かつV相電流値iv(n)がU相電流値iu(n)の略半分の大きさであるという判定条件を満たすか否かを判断する。具体的には、上記の判定条件に対応する判定値として、U相電流のピーク値iu(n)の半分とこのときのV相電流値iv(n)とを合計してその絶対値を求める。こうして求められた判定値|1/2×iu(n)+iv(n)|が所定の閾値D以下であれば、上記の判定条件を満たすと判断してステップS112に進む。一方、判定値|1/2×iu(n)+iv(n)|が閾値Dよりも大きければ、上記の判定条件を満たしておらず、U相電流センサ5およびV相電流センサ6の少なくとも一方が故障しているものと判断する。この場合、ステップS113で故障を示す識別子Kに1を設定した後、ステップS120に進む。なお、上記の閾値Dは、U相電流センサ5およびV相電流センサ6の誤差を考慮して設定することが好ましい。
ステップS112において、制御回路9は、ステップS110でピーク値と判断したU相電流値iuと、このときのW相電流値iwとに基づいて、U相電流センサ5およびW相電流センサ7の少なくとも一方が故障しているか否かを判断する。ここでは、ステップS111と同様の手法により、U相電流値iu(n)がピーク値となるサンプリングタイミングnにおいて、W相電流値iw(n)とU相電流値iu(n)の極性が逆であり、かつW相電流値iw(n)がU相電流値iu(n)の略半分の大きさであるという判定条件を満たすか否かを判断する。具体的には、上記の判定条件に対応する判定値として、U相電流のピーク値iu(n)の半分とこのときのW相電流値iw(n)とを合計してその絶対値を求める。こうして求められた判定値|1/2×iu(n)+iw(n)|が所定の閾値D以下であれば、上記の判定条件を満たすと判断してステップS120に進む。一方、判定値|1/2×iu(n)+iw(n)|が閾値Dよりも大きければ、上記の判定条件を満たしておらず、U相電流センサ5およびW相電流センサ7の少なくとも一方が故障しているものと判断する。この場合、ステップS114で故障を示す識別子Kに1を設定した後、ステップS120に進む。なお、このときの閾値Dは、U相電流センサ5およびW相電流センサ7の誤差を考慮して設定することが好ましく、ステップS111の判定で用いられる閾値Dと同じ値でもよく、異なる値でもよい。
以上説明したステップS110〜S112の処理により、制御回路9は、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7によりそれぞれ検出された3相の電流値のうち、U相の電流値iuがピーク値を示すタイミングとして、サンプリングタイミングnを検出する。そして、前述の判定条件を用いて、検出したサンプリングタイミングnにおいて、U相とは異なるV相、W相の電流値iv(n)、iw(n)が、ピーク値であるU相の電流値iu(n)とはそれぞれ逆極性であり、かつ略半分の大きさで略一致するか否かを判定する。これにより、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7の少なくとも一つが故障しているか否かを判断する。
ステップS120〜S124では、以下のように、ステップS110〜S114と同様の処理をV相について行う。
ステップS120において、制御回路9は、ステップS100でV相電流センサ6から取得したV相電流値ivがピーク値を示しているか否かを判断する。ここでは、ステップS110と同様に、V相電流値ivとしてサンプリングされた3つの連続するサンプリング値のレベルを比較して、一つ目のサンプリング値よりも二つ目のサンプリング値の方が大きく、かつ二つ目のサンプリング値が三つ目のサンプリング値よりも大きければ、二つ目のサンプリング値においてV相電流値ivがピーク値を示しているものと判断する。すなわち、最初のサンプリングタイミングn−1でのV相電流値をiv(nー1)、次のサンプリングタイミングnでのV相電流値をiv(n)、最後のサンプリングタイミングn+1でのV相電流値をiv(n+1)とする。このとき、iv(nー1)<iv(n)であり、かつiv(n)>iv(n+1)であれば、サンプリングタイミングnにおいてV相電流値iv(n)がピーク値を示すと判定してステップS121に進む。一方、少なくともいずれか一方の条件が満たされなければ、V相電流値iv(n)はピーク値ではないと判定してステップS130に進む。
ステップS121において、制御回路9は、ステップS120でピーク値と判断したV相電流値ivと、このときのU相電流値iuとに基づいて、V相電流センサ6およびU相電流センサ5の少なくとも一方が故障しているか否かを判断する。ここでは、V相電流値iv(n)がピーク値となるサンプリングタイミングnにおいて、U相電流値iu(n)とV相電流値iv(n)の極性が逆であり、かつU相電流値iu(n)がV相電流値iv(n)の略半分の大きさであるという判定条件を満たすか否かを判断する。具体的には、上記の判定条件に対応する判定値として、V相電流のピーク値iv(n)の半分とこのときのU相電流値iu(n)とを合計してその絶対値を求める。こうして求められた判定値|1/2×iv(n)+iu(n)|が所定の閾値D以下であれば、上記の判定条件を満たすと判断してステップS122に進む。一方、判定値|1/2×iv(n)+iu(n)|が閾値Dよりも大きければ、上記の判定条件を満たしておらず、V相電流センサ6およびU相電流センサ5の少なくとも一方が故障しているものと判断する。この場合、ステップS123で故障を示す識別子Kに1を設定した後、ステップS130に進む。なお、上記の閾値Dは、ステップS111と同様に、U相電流センサ5およびV相電流センサ6の誤差を考慮して設定することが好ましい。
ステップS122において、制御回路9は、ステップS120でピーク値と判断したV相電流値ivと、このときのW相電流値iwとに基づいて、V相電流センサ6およびW相電流センサ7の少なくとも一方が故障しているか否かを判断する。ここでは、V相電流値iv(n)がピーク値となるサンプリングタイミングnにおいて、W相電流値iw(n)とV相電流値iv(n)の極性が逆であり、かつW相電流値iw(n)がV相電流値iv(n)の略半分の大きさであるという判定条件を満たすか否かを判断する。具体的には、上記の判定条件に対応する判定値として、V相電流のピーク値iv(n)の半分とこのときのW相電流値iw(n)とを合計してその絶対値を求める。こうして求められた判定値|1/2×iv(n)+iw(n)|が所定の閾値D以下であれば、上記の判定条件を満たすと判断してステップS130に進む。一方、判定値|1/2×iv(n)+iw(n)|が閾値Dよりも大きければ、上記の判定条件を満たしておらず、V相電流センサ6およびW相電流センサ7の少なくとも一方が故障しているものと判断する。この場合、ステップS124で故障を示す識別子Kに1を設定した後、ステップS130に進む。なお、このときの閾値Dは、V相電流センサ6およびW相電流センサ7の誤差を考慮して設定することが好ましく、ステップS112やステップS121の判定で用いられる閾値Dと同じ値でもよく、異なる値でもよい。
以上説明したステップS120〜S122の処理により、制御回路9は、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7によりそれぞれ検出された3相の電流値のうち、V相の電流値ivがピーク値を示すタイミングとして、サンプリングタイミングnを検出する。そして、前述の判定条件を用いて、検出したサンプリングタイミングnにおいて、V相とは異なるU相、W相の電流値iu(n)、iw(n)が、ピーク値であるV相の電流値iv(n)とはそれぞれ逆極性であり、かつ略半分の大きさで略一致するか否かを判定する。これにより、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7の少なくとも一つが故障しているか否かを判断する。
ステップS130〜S134では、以下のように、ステップS110〜S114やステップS120〜S124と同様の処理をW相について行う。
ステップS130において、制御回路9は、ステップS100でW相電流センサ7から取得したW相電流値iwがピーク値を示しているか否かを判断する。ここでは、ステップS110やステップS120と同様に、W相電流値iwとしてサンプリングされた3つの連続するサンプリング値のレベルを比較して、一つ目のサンプリング値よりも二つ目のサンプリング値の方が大きく、かつ二つ目のサンプリング値が三つ目のサンプリング値よりも大きければ、二つ目のサンプリング値においてW相電流値iwがピーク値を示しているものと判断する。すなわち、最初のサンプリングタイミングn−1でのW相電流値をiw(nー1)、次のサンプリングタイミングnでのW相電流値をiw(n)、最後のサンプリングタイミングn+1でのW相電流値をiw(n+1)とする。このとき、iw(nー1)<iw(n)であり、かつiw(n)>iw(n+1)であれば、サンプリングタイミングnにおいてW相電流値iw(n)がピーク値を示すと判定してステップS131に進む。一方、少なくともいずれか一方の条件が満たされなければ、W相電流値iw(n)はピーク値ではないと判定してステップS140に進む。
ステップS131において、制御回路9は、ステップS130でピーク値と判断したW相電流値iwと、このときのU相電流値iuとに基づいて、W相電流センサ7およびU相電流センサ5の少なくとも一方が故障しているか否かを判断する。ここでは、W相電流値iw(n)がピーク値となるサンプリングタイミングnにおいて、U相電流値iu(n)とW相電流値iw(n)の極性が逆であり、かつU相電流値iu(n)がW相電流値iw(n)の略半分の大きさであるという判定条件を満たすか否かを判断する。具体的には、上記の判定条件に対応する判定値として、W相電流のピーク値iw(n)の半分とこのときのU相電流値iu(n)とを合計してその絶対値を求める。こうして求められた判定値|1/2×iw(n)+iu(n)|が所定の閾値D以下であれば、上記の判定条件を満たすと判断してステップS132に進む。一方、判定値|1/2×iw(n)+iu(n)|が閾値Dよりも大きければ、上記の判定条件を満たしておらず、W相電流センサ7およびU相電流センサ5の少なくとも一方が故障しているものと判断する。この場合、ステップS133で故障を示す識別子Kに1を設定した後、ステップS140に進む。なお、上記の閾値Dは、ステップS112と同様に、U相電流センサ5およびW相電流センサ7の誤差を考慮して設定することが好ましい。
ステップS132において、制御回路9は、ステップS130でピーク値と判断したW相電流値iwと、このときのV相電流値ivとに基づいて、W相電流センサ7およびV相電流センサ6の少なくとも一方が故障しているか否かを判断する。ここでは、W相電流値iw(n)がピーク値となるサンプリングタイミングnにおいて、V相電流値iv(n)とW相電流値iw(n)の極性が逆であり、かつV相電流値iv(n)がW相電流値iw(n)の略半分の大きさであるという判定条件を満たすか否かを判断する。具体的には、上記の判定条件に対応する判定値として、W相電流のピーク値iw(n)の半分とこのときのV相電流値iv(n)とを合計してその絶対値を求める。こうして求められた判定値|1/2×iw(n)+iv(n)|が所定の閾値D以下であれば、上記の判定条件を満たすと判断してステップS140に進む。一方、判定値|1/2×iw(n)+iv(n)|が閾値Dよりも大きければ、上記の判定条件を満たしておらず、W相電流センサ7およびV相電流センサ6の少なくとも一方が故障しているものと判断する。この場合、ステップS134で故障を示す識別子Kに1を設定した後、ステップS140に進む。なお、このときの閾値Dは、ステップS122と同様に、V相電流センサ6およびW相電流センサ7の誤差を考慮して設定することが好ましい。
以上説明したステップS130〜S132の処理により、制御回路9は、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7によりそれぞれ検出された3相の電流値のうち、W相の電流値iwがピーク値を示すタイミングとして、サンプリングタイミングnを検出する。そして、前述の判定条件を用いて、検出したサンプリングタイミングnにおいて、W相とは異なるU相、V相の電流値iu(n)、iv(n)が、ピーク値であるW相の電流値iw(n)とはそれぞれ逆極性であり、かつ略半分の大きさで略一致するか否かを判定する。これにより、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7の少なくとも一つが故障しているか否かを判断する。
ステップS140において、制御回路9は、識別子Kが0であるか否かを判定する。識別子Kが0であれば、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7のいずれも故障していないものと判断し、ステップS160に進む。一方、前述のステップS113、S114、S123、S124、S133、S134のいずれか少なくとも一つが実行されることにより、識別子Kに1が設定されている場合は、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7のいずれか少なくとも一つが故障しているものと判断する。この場合、制御回路9は、ステップS150において電流センサ故障確定フラグを設定した後、ステップS160に進む。
ステップS160において、制御回路9は、ゲート駆動指令をゲート駆動回路10に出力するための電流制御処理を行う。このとき制御回路9は、電流センサ故障確定フラグの有無に応じて、電流制御処理の内容を変更する。たとえば、電流センサ故障確定フラグが設定されている場合は、U相電流センサ5、V相電流センサ6またはW相電流センサ7の中でどの電流センサが故障しているかを判断し、その電流センサの検出値を用いずに電流制御処理を行うようにする。この場合、当該電流センサに対応する相の電流値は、正常な残り2相の電流値から求めることができる。
ステップS170において、制御回路9は、図2に示した電流センサの故障診断処理を終了し、スタートに戻る。
次に、以上説明した本発明の電流センサの故障診断処理と、従来の電流センサの故障診断処理との違いについて、図3、4、5の各電流波形例を参照して説明する。図3は、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7がいずれも正常であるときに検出される3相電流波形の例を示す図である。図4は、U相電流センサ5にゲイン異常故障が生じたときに検出される3相電流波形の例を示す図である。図5は、U相電流センサ5およびW相電流センサ7に逆極性のオフセット故障が生じたときに検出される3相電流波形の例を示す図である。
図3において、波形301はU相電流Iuを、波形302はV相電流Ivを、波形303はW相電流Iwをそれぞれ表している。図3に示すように、U相電流Iuを基準にすると、V相電流Ivは位相が120°遅れており、W相電流Iwは位相が240°遅れて(120°進んで)いる。したがって、これらの電流値は、位相角θを基準として、以下の式(1)、(2)、(3)でそれぞれ表される。なお、式(1)〜(3)において、Iumax、Ivmax、Iwmaxは、各電流のピーク値を表している。これらの間には、Iumax=Ivmax=Iwmaxの関係が成り立つ。
Iu=Iumax×sin(π×θ/180) (1)
Iv=Ivmax×sin(π×(θ−120)/180) (2)
Iw=Iwmax×sin(π×(θ+120)/180) (3)
上記の式(1)〜(3)およびIumax=Ivmax=Iwmaxの式から、図3の符号304に示す3相電流の和は、以下の式により計算される。
Iu+Iv+Iw=Iumax×{sin(π×θ/180)+sin(π×(θ−120)/180)+sin(π×(θ+120)/180)}=0
従来の電流センサの故障診断処理では、上記の式の関係を利用して、電流センサの故障を検出する。すなわち、3相電流の和の理論値が常に0であることから、3相電流の検出値の合計が0とみなせる値でなければ、いずれかの相の電流センサが故障しているものと判断する。
一方、式(1)〜(3)およびIumax=Ivmax=Iwmaxの式から、θ=90°のときには、各相の電流値の間に、Iu=Iumax、Iv=Iw=-1/2×Iuの関係が成り立つ。同様に、θ=210°のときには、Iv=Ivmax、Iu=Iw=-1/2×Ivの関係が成り立ち、θ=330°(−30°)のときには、Iw=Iwmax、Iu=Iv=-1/2×Iwの関係が成り立つ。
本発明の電流センサの故障診断処理では、上記のような各相の電流値の関係を利用して、電流センサの故障を検出する。すなわち、図3に示すように、3相電流のうち1相の電流値がピークとなるときに、他の2相の電流値は、ピーク値を示す電流値とは逆極性で、その大きさがピーク値を示す相の電流値の1/2で互いに等しくなる。具体的には、U相電流Iuがピーク値である100%を示すときには、V相電流IvとW相電流Iwの値は、共に符号305に示すように、U相電流Iuに対して極性が逆であり、その大きさが半分の−50%となる。同様に、V相電流Ivがピーク値である100%を示すときには、U相電流IuとW相電流Iwの値は、共に符号306に示すように、V相電流Ivに対して極性が逆であり、その大きさが半分の−50%となる。また、W相電流Iwがピーク値である100%を示すときにも、U相電流IuとV相電流Ivの値は、共に符号307に示すように、W相電流Iwに対して極性が逆であり、その大きさが半分の−50%となる。本発明の一実施形態における電流センサの故障診断処理では、こうした点に着目して、3相の電流センサが故障しているか否かを判断する。
電流センサの故障モードには、断線、固着、ゲイン変動、オフセット変動などがあるが、これらはいずれも、ゲイン変動率とオフセット変動量で表すことができる。ここで、U相、V相、W相のゲイン変動率をそれぞれa、b、cとし、オフセット変動量をそれぞれd、e、fとする。
たとえば、U相電流センサ5のゲインが半分となるような異常(a=−50%)が生じた場合、図4に示すように、U相電流Iuの波形401は、図3の波形301よりも波高が低くなり、そのピーク値が50%となる。一方、V相電流Ivの波形402およびW相電流Iwの波形403は、図3の波形302、303とそれぞれ同一である。その結果、図4の符号404に示すように、3相電流の和は常に0とはならず、U相電流Iuに応じて変化する。
またこの場合、U相電流Iuがピーク値である50%を示すときには、V相電流IvとW相電流Iwの値は、共に符号405に示すように、U相電流Iuに対して極性が逆で同じ大きさの−50%となる。一方、V相電流Ivがピーク値である100%を示すときには、U相電流IuとW相電流Iwは、それぞれ符号406、407に示す値となり、U相電流Iuについては、V相電流Ivに対して極性が逆でその大きさが半分の−50%とはならない。また、W相電流Iwがピーク値である100%を示すときにも同様に、U相電流IuとV相電流Ivは、それぞれ符号408、409に示す値となり、U相電流Iuについては、W相電流Iwに対して極性が逆でその大きさが半分の−50%とはならない。
また、たとえばU相電流センサ5のオフセット変動量dが+20%、W相電流センサ7のオフセット変動量fが−20%となるような異常が生じた場合、図5に示すように、U相電流Iuの波形501は、図3の波形301に対して20%だけ上側に移動し、W相電流Iuの波形503は、図3の波形303に対して20%だけ下側に移動する。一方、V相電流Ivの波形502は、図3の波形302と同一である。その結果、図5の符号504に示すように、3相電流の和は、図3の場合と同様に常に0となる。
またこの場合、U相電流Iuがピーク値である120%を示すときには、V相電流IvとW相電流Iwは、それぞれ符号505、506に示す値となり、いずれもU相電流Iuに対して極性が逆でその大きさが半分の−60%とはならない。同様に、V相電流Ivがピーク値である100%を示すときには、U相電流IuとW相電流Iwは、それぞれ符号507、508に示す値となり、いずれもV相電流Ivに対して極性が逆でその大きさが半分の−50%とはならない。また、W相電流Iwがピーク値である80%を示すときにも同様に、U相電流IuとV相電流Ivは、それぞれ符号509、510に示す値となり、いずれもW相電流Iwに対して極性が逆でその大きさが半分の−40%とはならない。
ここで、誤差や変動を含んだU相電流センサ5、V相電流センサ6、W相電流センサ7の各出力電流値Iu’、Iv’、Iw’は、以下の式(4)、(5)、(6)でそれぞれ表される。
Iu'=Iu×a+d (4)
Iv'=Iv×b+e (5)
Iw'=Iw×c+f (6)
式(4)〜(6)から、3相の電流値の合計は以下の式により算出できる。
Iu'+Iv'+Iw'=Iu×a+d+Iv×b+e+Iw×c+f
上記の式に前述の式(1)、(2)、(3)を代入して展開すると共に、Iumax=Ivmax=Iwmaxの関係式を用いることで、以下の式(7)が得られる。
Iu'+Iv'+Iw'=(a−b/2−c/2)×Iumax×sin(π×θ/180)+(c−b)×√3/2×Iumax×cos(π×θ/180)+d+e+f (7)
従来の電流センサの故障診断処理では、上記の式(7)で表される3相電流の和が常に0であることを利用して、電流センサの故障診断を行う。ここで、上記の式(7)が常に0となる条件は、a=b=cかつd+e+f=0である。したがって、従来の電流センサの故障診断処理では、各相のゲイン変動率a、b、cが同じである故障や、各相のオフセット変動量d、e、fの合計が0である故障が生じた場合に、電流センサが故障しているにも関わらず、式(7)の値が0となってしまい、これを故障として検出することができない。たとえば図5の場合は、前述のように3相電流の和が常に0であるため、電流センサが故障したことを判別できない。
一方、本発明の電流センサの故障診断処理では、各相の電流値の間に成り立つ前述のような関係を利用して、電流センサの故障を検出する。これにより、図4のような故障や図5のような故障が生じた場合に、電流センサが故障したことを判別できるようにする。
各相の電流値の間に前述の関係が成立する場合、たとえば、U相電流センサ5で検出されたU相の電流値Iu’がピーク値を示すときに、V相電流センサ6、W相電流センサ7でそれぞれ検出されたV相の電流値Iv’およびW相の電流値Iw’は、それぞれ次の式で表されることになる。
Iv'=-1/2×Iu'
Iw'=-1/2×Iu'
上記の式に前述の式(4)、(5)、(6)を代入すると、以下の式(8)、(9)が得られる。
Iv×b+e=-1/2×(Iu×a+d) (8)
Iw×c+f=-1/2×(Iu×a+d) (9)
上記の式(8)、(9)に前述の式(1)、(2)、(3)をそれぞれ代入して展開すると共に、Iumax=Ivmax=Iwmaxの関係を用いることで、以下の式が得られる。
{-1/2×sin(π×θ/180)−√3/2×cos(π×θ/180)}×Iumax×b+e=-1/2×{sin(π×θ/180)×Iumax×a+d}
{-1/2×sin(π×θ/180)+√3/2×cos(π×θ/180)}×Iumax×c+f=-1/2×{sin(π×θ/180)×Iumax×a+d}
Iu=Iumaxとなるのは、θ=90°のときである。したがって、上記の式は、以下の式のように表すことができる。
-1/2×Iumax×b+e=-1/2×(Iumax×a+d)
-1/2×Iumax×c+f=-1/2×(Iumax×a+d)
上記の式において右辺が0になるように項を移動すると、以下の式(10)、(11)が得られる。
1/2×(a−b)×Iumax+e+1/2×d=0 (10)
1/2×(a−c)×Iumax+f+1/2×d=0 (11)
上記の式(10)、(11)を満足する条件は、a=b=c、かつe=−1/2×d、かつf=−1/2×dである。
同様に、V相の電流値Iv’がピークのときには、以下の式(12)、(13)の関係が成り立つ。
1/2×(b−c)×Ivmax+f+1/2×e=0 (12)
1/2×(b−a)×Ivmax+d+1/2×e=0 (13)
また、W相の電流値Iw’がピークのときには、以下の式(14)、(15)の関係が成り立つ。
1/2×(c−a)×Iwmax+d+1/2×f=0 (14)
1/2×(c−b)×Iwmax+e+1/2×f=0 (15)
本発明の電流センサの故障診断処理では、前述のように、U相、V相、W相のそれぞれについて、いずれか1相の電流値がピークであるときに、他の2相の電流値が、ピーク値を示す相の電流値と極性が逆であり、かつその大きさがピーク値の1/2となるという関係を利用して、電流センサの故障診断を行う。この関係が各相の電流値の間に成立するためには、式(10)〜(15)を全て満足する必要がある。上記の式(10)〜(15)を全て満足する条件は、a=b=cかつd=e=f=0である。したがって、本発明の電流センサの故障診断処理によれば、従来の方法では検出できなかった各相のオフセット変動量d、e、fの合計が0である故障についても、検出できることが分かる。すなわち、本発明の電流センサの故障診断処理を適用することで、従来に比べて故障検出率を向上させることができる。
ここで、従来の電流センサの故障診断処理では、前述のように、3相電流の和の理論値が常に0であることを利用して、電流センサの故障を判断する。実際の処理では、誤判定を避けるために、各電流センサの誤差を考慮して判定を行う必要がある。具体的には、式(4)〜(6)でそれぞれ表されるU相電流センサ5、V相電流センサ6、W相電流センサ7の各出力電流値Iu’、Iv’、Iw’を合計した値の絶対値を判定値とし、この判定値が所定の閾値以下であるか否かを判定することで、従来の電流センサの故障診断処理を行うことができる。すなわち、従来の電流センサの故障診断処理では、判定の閾値をDとすると、以下の判定式が成り立つ。
|Iu'+Iv'+Iw'|≦D
上記の式に前述の式(7)を代入すると、以下の判定式(16)が得られる。
|(a−b/2−c/2)×Iumax×sin(π×θ/180)+(c−b)×√3/2×Iumax×cos(π×θ/180)+d+e+f|≦D (16)
Iu=Iumaxとなるのは、θ=90°のときである。したがって、式(16)は、以下の式(17)のように表すことができる。
|(a−b/2−c/2)×Iumax+d+e+f|≦D (17)
ここで、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7には、通常は同じ仕様のものが用いられる。そのため、これらの誤差の最大値は同じであり、各相のゲイン変動率a、b、cとオフセット変動量d、e、fの間には、それぞれ以下の関係が成り立つ。
±a=±b=±c、±d=±e=±f
上記の関係において、式(17)の左辺に示した判定値が最大となるのは、a=−b=−c、かつd=e=fの場合である。このとき式(17)は、以下の式(18)のように表される。
|2×a×Iumax+3×d|≦D (18)
図6は、従来の電流センサの故障診断処理における判定値の誤差範囲の一例を示した図である。図6の誤差範囲R1の幅は、式(18)の左辺に示した最大時の判定値に対応する。この誤差範囲R1以上となるように閾値Dを設定することで、従来の電流センサの故障診断処理を行うことができる。
一方、本発明の電流センサの故障診断処理では、前述のように、U相、V相、W相のそれぞれについて、当該相の電流がピークであるときに他の2相の電流は極性が逆であり、かつ大きさが1/2であることを利用して、電流センサの故障を検出する。たとえば、U相の電流がピークであるとき、すなわちIu=Iumaxであるときに、U相の電流値Iu’とV相の電流値Iv’の間には、判定の閾値をEとすると、以下の判定式が成り立つ。
|1/2×Iu'+Iv'|≦E
上記の式から、前述の式(10)を算出したのと同様の手順により、以下の判定式(19)が得られる。
|1/2×(a−b)×Iumax+e+1/2×d|≦E (19)
式(19)の左辺が最大となるのは、a=−b、かつd=eの場合である。このとき式(19)は、以下の式(20)のように表される。
|a×Iumax+3/2×d|≦E (20)
図7は、本発明の電流センサの故障診断処理における判定値の誤差範囲の一例を示した図である。図7の誤差範囲R2の幅は、式(20)の左辺に示した最大時の判定値に対応しており、図6の誤差範囲R1の半分である。この誤差範囲R2以上となるように閾値Eを設定することで、本発明の電流センサの故障診断処理を行うことができる。すなわち、本発明の電流センサの故障診断処理では、従来の電流センサの故障診断処理と比べて、判定時の閾値の大きさを1/2とすることができる。
このように、本発明の電流センサの故障診断処理では、従来の電流センサの故障診断処理と比べて、判定時の閾値を小さくすることができる。そのため、電流センサの異常値を検出する精度が向上する。一方、閾値を小さくすることで、ノイズ耐性が低下し、外来ノイズの影響による誤検出の懸念が生じる。しかし、これについては、図1に示したように、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7と制御回路9の間にフィルタ回路4を設け、このフィルタ回路4のフィルタ値を適切に設定することで解消可能であるため、特に問題とはならない。
以上説明したように、本発明の電流センサの故障診断処理を採用することで、従来に比べて故障検出精度を向上させることができる。
以上説明した本発明の第1の実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
(1)U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7は、3相交流モータであるモータ3と接続されたインバータ2からモータ3に流れる3相の電流値iu、iv、iwをそれぞれ検出する。これら3個の電流センサの故障を診断するときに、制御回路9は、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7によりそれぞれ検出された3相の電流値iu、iv、iwのうちいずれか1相の電流値がピーク値を示すタイミングを検出する(ステップS110、S120、S130)。そして、検出したタイミングにおける3相の電流値iu、iv、iwの少なくとも一つに基づいて、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7の少なくとも一つが故障しているか否かを判断する(ステップS111、S112、S121、S122、S131、S132)。このようにしたので、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7について、これらの電流センサの故障診断を高精度で確実に行うことができる。
(2)ステップS111、S112において、制御回路9は、ステップS110で検出したタイミングにおいて電流値iuがピーク値を示すU相とは異なる2相、すなわちV相、W相の電流値iv、iwが略一致するか否かを判定する。具体的には、ステップS110で検出したタイミングにおいて、V相、W相の電流値iv、iwの各々が、電流値iuのピーク値と極性が逆であり、かつ電流値iuのピーク値の略半分の大きさであるか否かを判定する。同様に、ステップS121、S122において、制御回路9は、ステップS120で検出したタイミングにおいて電流値ivがピーク値を示すV相とは異なる2相、すなわちU相、W相の電流値iu、iwが略一致するか否かを判定する。具体的には、ステップS120で検出したタイミングにおいて、U相、W相の電流値iu、iwの各々が、電流値ivのピーク値と極性が逆であり、かつ電流値ivのピーク値の略半分の大きさであるか否かを判定する。また、ステップS131、S132において、制御回路9は、ステップS130で検出したタイミングにおいて電流値iwがピーク値を示すW相とは異なる2相、すなわちU相、V相の電流値iu、ivが略一致するか否かを判定する。具体的には、ステップS130で検出したタイミングにおいて、U相、V相の電流値iu、ivの各々が、電流値iwのピーク値と極性が逆であり、かつ電流値iwのピーク値の略半分の大きさであるか否かを判定する。これにより、制御回路9は、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7の少なくとも一つが故障しているか否かを判断する。このようにしたので、従来に比べて、これらの電流センサの故障診断を高精度に行うことができる。
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態では、2相の電流値が同じになるタイミングを検出し、そのタイミングのときに残る1相の電流値が、他の2相の電流値と比べて大きさが2倍でかつ極性が逆であるかどうか判定することで、電流センサの故障診断を行う例を説明する。なお、本実施形態に係る電流センサの故障診断方法を適用した交流モータの可変速駆動系の構成は、第1の実施形態で説明した図1の構成と同じである。以下では、この図1の構成を用いて、本発明の第2の実施形態に係る電流センサの故障診断方法を説明する。
図8は、本発明の第2の実施形態における電流センサの故障診断処理のフローチャートである。本実施形態において、制御回路9は、図8に示すフローチャートに従って、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7の故障診断処理を所定の処理周期ごとに行う。
ステップS200において、制御回路9は、図2のステップS100と同様に、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7から、これらの電流センサにより検出された各相の電流値を取得する。すなわち、U相電流センサ5により検出されたU相電流値をiu、V相電流センサ6により検出されたV相電流値をiv、W相電流センサ7により検出されたW相電流値をiwとして、これらの電流値(サンプリング値)をADコンバータ等を用いて取得する。
ステップS210において、制御回路9は、ステップS200でU相電流センサ5から取得したU相電流値iuとV相電流センサ6から取得したV相電流値ivが略一致しているか否かを判断する。具体的には、U相電流値iuとV相電流値ivの差の絶対値|iu−iv|を算出し、これが所定の閾値E以下であれば、ステップS200で各電流値を取得したサンプリングタイミングにおいて、U相電流値iuとV相電流値ivが略一致していると判断してステップS211に進む。一方、|iu−iv|が閾値Eよりも大きければ、U相電流値iuとV相電流値ivは略一致していないと判断してステップS220に進む。なお、上記の閾値Eは、U相電流センサ5およびV相電流センサ6の誤差を考慮して設定することが好ましい。
ステップS211において、制御回路9は、ステップS210で電流値が略一致すると判断したU相およびV相とは異なるW相の電流値iwと、U相の電流値iuとに基づいて、U相電流センサ5およびW相電流センサ7の少なくとも一方が故障しているか否かを判断する。ここでは、U相電流値iuとV相電流値ivが略一致するサンプリングタイミングにおいて、W相電流値iwが、U相電流値iuと極性が逆であり、かつU相電流値iuの略2倍の大きさであるという判定条件を満たすか否かを判断する。具体的には、上記の判定条件に対応する判定値として、W相電流値iwの半分とU相電流値iuとを合計してその絶対値を求める。こうして求められた判定値|1/2×iw+iu|が所定の閾値F以下であれば、上記の判定条件を満たすと判断してステップS212に進む。一方、判定値|1/2×iw+iu|が閾値Fよりも大きければ、上記の判定条件を満たしておらず、U相電流センサ5およびW相電流センサ7の少なくとも一方が故障しているものと判断する。この場合、ステップS213で故障を示す識別子Kに1を設定した後、ステップS220に進む。なお、上記の閾値Fは、U相電流センサ5およびW相電流センサ7の誤差を考慮して設定することが好ましい。
ステップS212において、制御回路9は、ステップS210で電流値が略一致すると判断したU相およびV相とは異なるW相の電流値iwと、V相の電流値ivとに基づいて、V相電流センサ6およびW相電流センサ7の少なくとも一方が故障しているか否かを判断する。ここでは、ステップS211と同様の手法により、U相電流値iuとV相電流値ivが略一致するサンプリングタイミングにおいて、W相電流値iwが、V相電流値ivと極性が逆であり、かつV相電流値ivの略2倍の大きさであるという判定条件を満たすか否かを判断する。具体的には、上記の判定条件に対応する判定値として、W相電流値iwの半分とV相電流値ivとを合計してその絶対値を求める。こうして求められた判定値|1/2×iw+iv|が所定の閾値F以下であれば、上記の判定条件を満たすと判断してステップS220に進む。一方、判定値|1/2×iw+iv|が閾値Fよりも大きければ、上記の判定条件を満たしておらず、V相電流センサ6およびW相電流センサ7の少なくとも一方が故障しているものと判断する。この場合、ステップS214で故障を示す識別子Kに1を設定した後、ステップS220に進む。なお、このときの閾値Fは、V相電流センサ6およびW相電流センサ7の誤差を考慮して設定することが好ましく、ステップS211の判定で用いられる閾値Fと同じ値でもよく、異なる値でもよい。
以上説明したステップS210〜S212の処理により、制御回路9は、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7によりそれぞれ検出された3相の電流値のうち、U相の電流値iuとV相の電流値ivが略一致するサンプリングタイミングを検出する。そして、前述の判定条件を用いて、検出したサンプリングタイミングにおいて、U相およびV相とは異なるW相の電流値iwが、U相の電流値iuやV相の電流値ivに対して、これらと逆極性であり、かつこれらの略2倍の大きさであるという関係を満たすか否かを判定する。これにより、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7の少なくとも一つが故障しているか否かを判断する。
ステップS220〜S224では、以下のように、ステップS210〜S214と同様の処理をV相およびW相について行う。
ステップS220において、制御回路9は、ステップS200でV相電流センサ6から取得したV相電流値ivとW相電流センサ7から取得したW相電流値iwが略一致しているか否かを判断する。具体的には、V相電流値ivとW相電流値iwの差の絶対値|iv−iw|を算出し、これが所定の閾値E以下であれば、ステップS200で各電流値を取得したサンプリングタイミングにおいて、V相電流値ivとW相電流値iwが略一致していると判断してステップS221に進む。一方、|iv−iw|が閾値Eよりも大きければ、V相電流値ivとW相電流値iwは略一致していないと判断してステップS230に進む。なお、上記の閾値Eは、V相電流センサ6およびW相電流センサ7の誤差を考慮して設定することが好ましく、ステップS210の判定で用いられる閾値Eと同じ値でもよく、異なる値でもよい。
ステップS221において、制御回路9は、ステップS220で電流値が略一致すると判断したV相およびW相とは異なるU相の電流値iuと、V相の電流値ivとに基づいて、V相電流センサ6およびU相電流センサ5の少なくとも一方が故障しているか否かを判断する。ここでは、V相電流値ivとW相電流値iwが略一致するサンプリングタイミングにおいて、U相電流値iuが、V相電流値ivと極性が逆であり、かつV相電流値ivの略2倍の大きさであるという判定条件を満たすか否かを判断する。具体的には、上記の判定条件に対応する判定値として、U相電流値iuの半分とV相電流値ivとを合計してその絶対値を求める。こうして求められた判定値|1/2×iu+iv|が所定の閾値F以下であれば、上記の判定条件を満たすと判断してステップS222に進む。一方、判定値|1/2×iu+iv|が閾値Fよりも大きければ、上記の判定条件を満たしておらず、V相電流センサ6およびU相電流センサ5の少なくとも一方が故障しているものと判断する。この場合、ステップS223で故障を示す識別子Kに1を設定した後、ステップS230に進む。なお、上記の閾値Fは、V相電流センサ6およびU相電流センサ5の誤差を考慮して設定することが好ましく、ステップS211やステップS212の判定で用いられる閾値Fと同じ値でもよく、異なる値でもよい。
ステップS222において、制御回路9は、ステップS220で電流値が略一致すると判断したV相およびW相とは異なるU相の電流値iuと、W相の電流値iwとに基づいて、W相電流センサ7およびU相電流センサ5の少なくとも一方が故障しているか否かを判断する。ここでは、V相電流値ivとW相電流値iwが略一致するサンプリングタイミングにおいて、U相電流値iuが、W相電流値iwと極性が逆であり、かつW相電流値iwの略2倍の大きさであるという判定条件を満たすか否かを判断する。具体的には、上記の判定条件に対応する判定値として、U相電流値iuの半分とW相電流値iwとを合計してその絶対値を求める。こうして求められた判定値|1/2×iu+iw|が所定の閾値F以下であれば、上記の判定条件を満たすと判断してステップS230に進む。一方、判定値|1/2×iu+iw|が閾値Fよりも大きければ、上記の判定条件を満たしておらず、W相電流センサ7およびU相電流センサ5の少なくとも一方が故障しているものと判断する。この場合、ステップS224で故障を示す識別子Kに1を設定した後、ステップS230に進む。なお、このときの閾値Fは、ステップS211と同様に、W相電流センサ7およびU相電流センサ5の誤差を考慮して設定することが好ましい。
以上説明したステップS220〜S222の処理により、制御回路9は、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7によりそれぞれ検出された3相の電流値のうち、V相の電流値ivとW相の電流値iwが略一致するサンプリングタイミングを検出する。そして、前述の判定条件を用いて、検出したサンプリングタイミングにおいて、V相およびW相とは異なるU相の電流値iuが、V相の電流値ivやW相の電流値iwに対して、これらと逆極性であり、かつこれらの略2倍の大きさであるという関係を満たすか否かを判定する。これにより、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7の少なくとも一つが故障しているか否かを判断する。
ステップS230〜S234では、以下のように、ステップS210〜S214やステップS220〜S224と同様の処理をW相およびU相について行う。
ステップS230において、制御回路9は、ステップS200でW相電流センサ7から取得したW相電流値iwとU相電流センサ5から取得したU相電流値iuが略一致しているか否かを判断する。具体的には、W相電流値iwとU相電流値iuの差の絶対値|iw−iu|を算出し、これが所定の閾値E以下であれば、ステップS200で各電流値を取得したサンプリングタイミングにおいて、W相電流値iwとU相電流値iuが略一致していると判断してステップS231に進む。一方、|iw−iu|が閾値Eよりも大きければ、W相電流値iwとU相電流値iuは略一致していないと判断してステップS240に進む。なお、上記の閾値Eは、W相電流センサ7およびU相電流センサ5の誤差を考慮して設定することが好ましく、ステップS210やステップS220の判定で用いられる閾値Eと同じ値でもよく、異なる値でもよい。
ステップS231において、制御回路9は、ステップS230で電流値が略一致すると判断したW相およびU相とは異なるV相の電流値ivと、W相の電流値iwとに基づいて、W相電流センサ7およびV相電流センサ6の少なくとも一方が故障しているか否かを判断する。ここでは、W相電流値iwとU相電流値iuが略一致するサンプリングタイミングにおいて、V相電流値ivが、W相電流値iwと極性が逆であり、かつW相電流値iwの略2倍の大きさであるという判定条件を満たすか否かを判断する。具体的には、上記の判定条件に対応する判定値として、V相電流値ivの半分とW相電流値iwとを合計してその絶対値を求める。こうして求められた判定値|1/2×iv+iw|が所定の閾値F以下であれば、上記の判定条件を満たすと判断してステップS232に進む。一方、判定値|1/2×iv+iw|が閾値Fよりも大きければ、上記の判定条件を満たしておらず、W相電流センサ7およびV相電流センサ6の少なくとも一方が故障しているものと判断する。この場合、ステップS233で故障を示す識別子Kに1を設定した後、ステップS240に進む。なお、上記の閾値Fは、ステップS212と同様に、W相電流センサ7およびV相電流センサ6の誤差を考慮して設定することが好ましい。
ステップS232において、制御回路9は、ステップS230で電流値が略一致すると判断したW相およびU相とは異なるV相の電流値ivと、U相の電流値iuとに基づいて、U相電流センサ5およびV相電流センサ6の少なくとも一方が故障しているか否かを判断する。ここでは、W相電流値iwとU相電流値iuが略一致するサンプリングタイミングにおいて、V相電流値ivが、U相電流値iuと極性が逆であり、かつU相電流値iuの略2倍の大きさであるという判定条件を満たすか否かを判断する。具体的には、上記の判定条件に対応する判定値として、V相電流ivの半分とU相電流値iuとを合計してその絶対値を求める。こうして求められた判定値|1/2×iv+iu|が所定の閾値F以下であれば、上記の判定条件を満たすと判断してステップS240に進む。一方、判定値|1/2×iv+iu|が閾値Fよりも大きければ、上記の判定条件を満たしておらず、U相電流センサ5およびV相電流センサ6の少なくとも一方が故障しているものと判断する。この場合、ステップS234で故障を示す識別子Kに1を設定した後、ステップS240に進む。なお、このときの閾値Fは、ステップS221と同様に、U相電流センサ5およびV相電流センサ6の誤差を考慮して設定することが好ましい。
以上説明したステップS230〜S232の処理により、制御回路9は、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7によりそれぞれ検出された3相の電流値のうち、W相の電流値iwとU相の電流値iuが略一致するサンプリングタイミングを検出する。そして、前述の判定条件を用いて、検出したサンプリングタイミングにおいて、W相およびU相とは異なるV相の電流値ivが、W相の電流値iwやU相の電流値iuに対して、これらと逆極性であり、かつこれらの略2倍の大きさであるという関係を満たすか否かを判定する。これにより、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7の少なくとも一つが故障しているか否かを判断する。
ステップS240以降では、図2のステップS140以降と同様の処理を行う。すなわち、ステップS240において、制御回路9は、識別子Kが0であるか否かを判定する。その結果、識別子Kが0であれば故障なしと判断してステップS260に進み、識別子Kが1であれば、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7のいずれか少なくとも一つが故障しているものと判断して、ステップS250において電流センサ故障確定フラグを設定した後、ステップS260に進む。その後は、ステップS260において、電流センサ故障確定フラグの有無に応じて、ゲート駆動指令をゲート駆動回路10に出力するための電流制御処理を行い、続くステップS270において、図8に示した電流センサの故障診断処理を終了し、スタートに戻る。
以上説明した本発明の第2の実施形態による電流センサの故障診断処理について、図3に示した3相電流波形の例を用いて説明する。本実施形態では、3相電流のうちの2相の電流値が同じになるとき、残りの1相の電流値が、極性が逆で大きさが2倍であるという点に注目する。
たとえば図3において、符号308に示す位相角θが90°のタイミングでは、波形302に示すV相電流Ivと、波形303に示すW相電流Iwとが、同じ−50%となり一致する。このとき、残りの波形301に示すU相電流Iuは、V相電流IvおよびW相電流Iwと比べて、極性が逆であり、かつ2倍の大きさの100%となっている。同様に、符号309に示す位相角θが270°のタイミングにおいても、V相電流IvとW相電流Iwとが同じ50%で一致し、このときU相電流Iuは、V相電流IvおよびW相電流Iwと比べて、極性が逆であり、かつ2倍の大きさの−100%となっている。
上記のタイミングにおいて、U相電流センサ5から出力される電流値Iu’は、V相電流センサ6から出力される電流値Iv’と極性が逆であり、かつ2倍であることから、以下の式が成り立つ。
Iu'=-2×Iv'
上記の式に前述の式(4)、(5)を代入すると、以下の式が得られる。
Iu×a+d=-2×(Iv×b+e)
上記の式に前述の式(1)、(2)を代入して展開すると共に、Iumax=Ivmaxの関係を用いることで、以下の式が得られる。
sin(π×θ/180)×Iumax×a+d={sin(π×θ/180)+√3×cos(π×θ/180)}×Iumax×b−2e
Iu=Iumaxとなるのは、θ=90°のときである。したがって、上記の式は、以下の式のように表すことができる。
Iumax×a+d=Iumax×b−2e
上記の式において右辺が0になるように項を移動すると、以下の式(21)が得られる。
(a−b)×Iumax+2e+d=0 (21)
U相およびW相についても同様に、以下の式(22)が得られる。
(a−c)×Iumax+2f+d=0 (22)
上記の式(21)、(22)を満足する条件は、a=b=c、かつe=−1/2×d、かつf=−1/2×dである。
同様に、W相の電流値Iw’とU相の電流値Iu’とが一致するときには、以下の式(23)、(24)の関係が成り立つ。
(b−c)×Ivmax+2f+e=0 (23)
(b−a)×Ivmax+2d+e=0 (24)
また、U相の電流値Iu’とV相の電流値Iv’とが一致するときには、以下の式(25)、(26)の関係が成り立つ。
(c−a)×Iwmax+2d+f=0 (25)
(c−b)×Iwmax+2e+f=0 (26)
上記の式(21)〜(26)を全て満足する条件は、a=b=cかつd=e=f=0である。したがって、本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、従来の方法では検出できなかった各相のオフセット変動量d、e、fの合計が0である故障を検出できることが分かる。これにより、従来に比べて故障検出率を向上させることができる。
また、第1の実施形態で説明した電流センサの故障診断処理では、各相の電流がピークになるタイミングを検出している。そのため、たとえば所定のサンプリング周期ごとに取得した電流の各サンプリング値を比較し、ピークから下がったときの1つ前のサンプリング値がピーク値であるという判断を行う必要がある。したがって、処理が複雑になると共に、ピークになるタイミングを即時に検出できない。これに対して、本実施形態で説明した電流センサの故障診断処理では、2つの相の電流が略一致するタイミングを検出している。そのため、ピーク検出と比べて処理が簡素化され、即時の検出を実現することができるという利点がある。
以上説明した本発明の第2の実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
(1)U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7は、3相交流モータであるモータ3と接続されたインバータ2からモータ3に流れる3相の電流値iu、iv、iwをそれぞれ検出する。これら3個の電流センサの故障を診断するときに、制御回路9は、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7によりそれぞれ検出された3相の電流値iu、iv、iwのうちいずれか2相の電流値が略一致するタイミングを検出する(ステップS210、S220、S230)。そして、検出したタイミングにおける3相の電流値iu、iv、iwの少なくとも一つに基づいて、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7の少なくとも一つが故障しているか否かを判断する(ステップS211、S212、S221、S222、S231、S232)。このようにしたので、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7について、これらの電流センサの故障診断を高精度で確実に行うことができる。
(2)ステップS211、S212において、制御回路9は、ステップS210で検出したタイミングにおいて電流値iuと電流値ivが略一致するU相およびV相とは異なるW相の電流値iwが、略一致するU相およびW相の電流値iu、ivに対して所定の関係を満たすか否かを判定する。具体的には、ステップS210で検出したタイミングにおいて、W相の電流値iwが、電流値iu、ivと極性が逆であり、かつ電流値iu、ivの略2倍の大きさであるか否かを判定する。同様に、ステップS221、S222において、制御回路9は、ステップS220で検出したタイミングにおいて電流値ivと電流値iwが略一致するV相およびW相とは異なるU相の電流値iuが、略一致するV相およびW相の電流値iv、iwに対して所定の関係を満たすか否かを判定する。具体的には、ステップS220で検出したタイミングにおいて、U相の電流値iuが、電流値iv、iwと極性が逆であり、かつ電流値iv、iwの略2倍の大きさであるか否かを判定する。また、ステップS231、S232において、制御回路9は、ステップS230で検出したタイミングにおいて電流値iwと電流値iuが略一致するW相およびU相とは異なるV相の電流値ivが、略一致するW相およびU相の電流値iw、iuに対して所定の関係を満たすか否かを判定する。具体的には、ステップS230で検出したタイミングにおいて、V相の電流値ivが、電流値iw、iuと極性が逆であり、かつ電流値iw、iuの略2倍の大きさであるか否かを判定する。これにより、制御回路9は、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7の少なくとも一つが故障しているか否かを判断する。このようにしたので、従来に比べて、これらの電流センサの故障診断を高精度に行うことができる。
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。本実施形態では、第1、第2の実施形態でそれぞれ説明した電流センサの故障診断処理を、制御回路9とは別の装置で行う例を説明する。
図9は、本発明の第3の実施形態に係る電流センサの故障診断方法を適用した交流モータの可変速駆動系の構成を示す図である。これは、図1に示した第1および第2の実施形態によるものと比較して、故障診断装置20をさらに備える点が異なっている。それ以外の部分については、図1と同様である。故障診断装置20は、電流値取得部21、タイミング検出部22および故障診断部23を備える。
故障診断装置20は、電流値取得部21、タイミング検出部22および故障診断部23を備えており、第1の実施形態で説明した電流センサの故障診断処理、または第2の実施形態で説明した電流センサの故障診断処理のいずれかを実行する。そして、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7のいずれか少なくとも一つが故障と判断したら、その判断結果を制御回路9に出力する。
電流値取得部21は、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7からフィルタ回路4を介してそれぞれ出力されたU相、V相、W相の各電流値iu、iv、iwを取得し、これらをタイミング検出部22および故障診断部23に出力する。この電流値取得部21は、図2のステップS100または図8のステップS200に相当する処理を行う。
タイミング検出部22は、電流値取得部21により取得された3相の電流値iu、iv、iwに基づいて、いずれかの電流センサが故障しているか否かを判断するためのタイミングを検出する。具体的には、故障診断装置20が第1の実施形態で説明した電流センサの故障診断処理を行う場合は、3相の電流値iu、iv、iwのうちいずれか1相の電流値がピーク値を示すタイミングを検出する。一方、故障診断装置20が第2の実施形態で説明した電流センサの故障診断処理を行う場合は、3相の電流値iu、iv、iwのうちいずれか2相の電流値が略一致するタイミングを検出する。こうしていずれかのタイミングを検出したら、タイミング検出部22は、その検出結果を故障診断部23に出力する。この電流値取得部21は、図2のステップS110、S120およびS130、または図8のステップS210、S220およびS230に相当する処理を行う。
故障診断部23は、タイミング検出部22により検出されたタイミングにおける3相の電流値iu、iv、iwの少なくとも一つに基づいて、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7のいずれか少なくとも一つが故障しているか否かを判断する。具体的には、故障診断装置20が第1の実施形態で説明した電流センサの故障診断処理を行う場合は、タイミング検出部22により検出されたいずれか1相の電流値がピーク値を示すタイミングにおいて、残りの2相の電流値の各々が、ピーク値である電流値と逆極性でかつ略半分の大きさであるか否かを判定する。一方、故障診断装置20が第2の実施形態で説明した電流センサの故障診断処理を行う場合は、タイミング検出部22により検出されたいずれか2相の電流値が略一致するタイミングにおいて、残りの1相の電流値が、略一致する2相の電流値と逆極性でかつ略2倍の大きさであるか否かを判定する。これらの判定結果から、U相電流センサ5、V相電流センサ6およびW相電流センサ7のいずれか少なくとも一つが故障しているか否かを判断する。その結果、いずれかの電流センサが故障していると判断したら、故障診断部23は、故障を検知したことを制御回路9に通知する。この故障診断部23は、図2のステップS111〜S114、S121〜S124、S131〜S134、S140およびS150、または図8のステップS211〜S214、S221〜S224、S231〜S234、S240およびS250に相当する処理を行う。
故障診断部23によりいずれかの電流センサが故障していることを通知されると、制御回路9は、図2のステップS160または図8のステップS260で説明したように、通常時とは電流制御処理の内容を変更する。たとえば、U相電流センサ5、V相電流センサ6またはW相電流センサ7の中でどの電流センサが故障しているかを判断し、その電流センサの検出値を用いずに、正常な残り2相の電流値から求めた電流値を用いて、電流制御処理を行うようにする。
以上説明した本発明の第3の実施形態によれば、第1、第2の実施形態でそれぞれ説明したのと同様の作用効果を奏する。
なお、以上説明した第3の実施形態では、制御回路9とは別の構成として故障診断装置20を設け、この故障診断装置20により電流センサの故障診断処理を行う例を説明したが、故障診断装置20の一部または全部の機能を制御回路9により実現してもよい。すなわち、故障診断装置20が有する電流値取得部21、タイミング検出部22および故障診断部23のいずれか少なくとも一つは、制御回路9の機能として実現してもよい。
また、以上説明した各実施形態や各種の変化例はあくまで一例であり、発明の特徴が損なわれない限り、本発明はこれらの内容に限定されない。本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。