以下、図面を参照しつつ本発明に係る薬剤除去フィルターの好適な実施形態について詳細に説明する。
(薬剤除去フィルター)
まず、図1を参照して、実施形態に係る薬剤除去フィルター1について説明する。薬剤除去フィルター1は、血液製剤中の不活化対象物を不活化するための薬剤を吸着除去する薬剤吸着カラムである。血液製剤とは、全血製剤、濃厚赤血球製剤、血小板製剤、血漿製剤等の輸血に用いられる各種血液製剤である。また、血液製剤中の不活化対象物とは、例えば病原体や白血球などであり、薬剤とは、例えば、病原体不活化薬剤である。
ここで、「病原体不活化」とは、ウイルス、細菌、原虫、寄生虫などの病原体に対し、それらが複製または増殖する能力を奪うことである。また、「病原体不活化薬剤」とは、血液製剤中に混入している、ウイルス、細菌、原虫、寄生虫などの病原体を不活化する機能を持つ薬剤である。また、病原体不活化薬剤を用いて行う不活化のための処理(病原体不活化処理)とは、病原体不活化薬剤を血液製剤中に添加し、必要に応じて一定時間光を照射する処理方法である。病原体不活化薬剤は、光増感作用により一重項酸素、ヒドロキシラジカル、過酸化水素等の反応性の高い化合物を発生させ、病原体DNAやRNAに障害を与えたり、病原体DNAやRNAの塩基間に共有結合を生成させ、病原体DNAの開裂、RNAによるウイルスタンパク発現や自己複製に関する挙動を妨げたりすることで病原体を不活化する。病原体不活化薬剤としては、アクリジン誘導体、チアジン誘導体、フェノチアジン誘導体、ピリジン誘導体、ポルフィリン誘導体、クマリン誘導体、ピリミジン誘導体、リボフラビン、ソラレン誘導体、エチレンイミン多量体等が挙げられる。
薬剤除去フィルター1は、入口2aと出口2bとを有する円筒形カラム(筒状容器)2と、円筒形カラム2内に収容された繊維状活性炭3とを備えている。円筒形カラム2の入口2aには、入口栓7aが設けられている。入口栓7aは、円筒形カラム2の内径と同じ径に打ち抜かれた円板形状をなし、その外周端面にねじが形成されている。入口栓7aは、当該ねじを円筒形カラム2の入口2aの内面側に形成されたねじに螺合させて入口2aを密栓している。また、入口栓7aの中央には、血液製剤を導入するための血液回路が接続される入口接続部4aが円筒形カラム2の内部と連通可能に設けられている。同様に出口2bには、出口栓7bが設けられている。出口栓7bは、円筒形カラム2の内径と同じ径に打ち抜かれた円板形状をなし、その外周端面にねじが形成されている。出口栓7bは、当該ねじを円筒形カラム2の出口2bの内面側に形成されたねじに螺合させて出口2bを密栓している。出口栓7bの中央には、血液製剤を排出するための血液回路が接続される出口接続部4bが円筒形カラム2の内部と連通可能に設けられている。
入口栓7a及び出口栓7bの繊維状活性炭3側には、繊維状活性炭3を円筒形カラム2内に固定するためのメッシュ5、及びメッシュ5を押圧するシリコン製のOリング6がそれぞれ設けられている。メッシュ5は、ポリエチレン製であり、赤血球が通る孔径を有する。
(円筒形カラム)
円筒形カラム2の材料は、生体適合性の良いポリ塩化ビニル、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、シリコンゴム、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリアセタール、ポリアミド、ポリグリコレート、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリカーボネート等の材料から選択されることが好ましい。
なお、本実施形態では円筒形であるが、これに限られない。内部にて繊維状活性炭3を保持でき、本発明が意図する通気圧損の値が得られる筒状の容器であれば、断面が楕円形状や多角形状のものであってもよい。
(繊維状活性炭)
繊維状活性炭3は、円筒形カラム2内に柱状に収納されている。繊維状活性炭3は、薬剤を吸着除去可能であり、特に、赤血球の溶血を低減可能な材料であれば足りる。繊維状活性炭3は、例えば、石油ピッチ、石炭ピッチ、石炭コークス、タール泥炭、亜炭などの鉱物系原料及びフェノール樹脂、セルロース樹脂、レーヨン、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維などの樹脂素材である活性炭原料を溶融紡糸、成形加工したのち、不融化処理を施し、炭化後、高温で水蒸気を含むガスと反応させて賦活することで形成する。前駆体繊維または不融化、炭化した前駆体繊維を、賦活した後成形加工し、繊維状活性炭を形成することもできる。活性炭材料の細孔表面の深さはミクロ孔が開孔している深さが数μmにしか及ばないため、粒子状よりも繊維状の方が細孔表面積は大きく、薬剤除去に有利である。
繊維状活性炭3は、通気圧損を0.010kPa以上、0.100kPa以下に制御する場合において、比表面積が1200m2/g以上、3000m2/g以下であることが望ましい。比表面積が1200m2/g未満の場合には、薬剤除去率が低下するおそれがある。
ここで、比表面積とは、多孔質体の多孔度の指標であり、多孔質体の細孔表面積を含めた表面積を多孔質体の単位重量当たりに換算した量である。比表面積は、窒素分子の吸着量によるBET法や水銀圧入法などにより、細孔分布を測定して求めることができる。繊維状活性炭3は、特にミクロ孔(8Å〜20Å)、またはメソ孔(20Å〜500Å)に分布のピークがみられるものである。このような分布を有する細孔は、特に低分子不活化薬剤の吸着に優れた性能を発揮する。
繊維状活性炭3は、円筒形カラム2内に、直径D、高さLで収容されており、L/D比が0.5以上、4.4以下であることが好ましい。なお、本実施形態では、円筒形カラム2の内部に繊維状活性炭3が満たされるように充填されているため、繊維状活性炭3の収容状態を規定する直径D、及び高さLは、実質的に円筒形カラム2の内径、及び内部空間における長手方向の寸法と一致している。しかしながら、円筒形カラム2の内部が、より広い場合、例えば、長手方向の寸法が長い場合において、繊維状活性炭3の収容領域を調整することにより、L/D比を0.5以上、4.4以下の範囲にすることも可能である。
ここで、L/D比は、収容された状態の繊維状活性炭3の細長さの指標である。L/D比が0.5以上、4.4以下の範囲では、85%以上の薬剤除去率を得ることができるとともに、溶血を抑えることができる。L/D比のより好ましい範囲は、1.6以上、3.5以下である。L/D比が1.6以上の範囲では、99.5%の薬剤除去率が得られる。また、L/D比が3.5以下の範囲では、血液製剤を導入した際、目詰まりが起こりにくく、ろ過時間が短く処理が済むため好ましい。L/D比が小さすぎると、円筒形カラム2内に導入された血液製剤の流れに偏りが生じる。これによって、繊維状活性炭3の血液濡れ部分が偏り、濡れない部分の繊維は薬剤除去に寄与できず、十分な薬剤除去率が得られなくなるおそれがある。逆にL/D比が大きすぎると、赤血球と繊維状活性炭3との接触頻度が高くなるため、赤血球表面が障害されやすく溶血しやすくなる傾向がある。
繊維状活性炭3は、円筒形カラム2内に、通気圧損が0.010kPa以上、0.100kPa以下となるように充填されることが好ましい。通気圧損が0.010kPaより小さい範囲では、繊維状活性炭3の比表面積が十分高い場合でも、円筒形カラム2内に繊維状活性炭3が充填された際、カラム中の繊維間空隙が大きく、繊維状活性炭3表面の細孔と薬剤との接触頻度が不十分となるため、薬剤除去率は85%より小さくなる。また、通気圧損が0.100kPaより大きい範囲では、円筒形カラム2内に繊維状活性炭3が充填された際、カラム中の繊維間空隙が小さく、繊維状活性炭3と血球との接触頻度が増加し、摩擦により、血液製剤の溶血を引き起こす。
ここでいう通気圧損とは、円筒形カラム2の入口2aから、通気線速70cm/分以上80cm/分で乾燥空気を流入し、入口2aと出口2bの間の圧力損失を測定した数値である。圧力損失の測定方法は、以下のとおりである。空気を排出する圧気を0.05MPaに調節する。次に圧気流量をマスフローラ―(ESTEC SEC−400)と膜流量計(ESTEC PAC−S5)を用いて上記通気線速の範囲に入るよう調節し、圧気流量を十分安定させた状態で、圧力トランスデューサ(COSMO PT−103B−A)を接続したDPゲージ(COSMO DP−330BA)に表示される圧力の数値を読み取る(バックグラウンド)。その後、圧気流量を十分安定させた圧気を円筒形カラム2の入口2aに差し込み、出口2bから圧気を自由に排出させ、圧気の流れが安定したのちにDPゲージに表示される圧力の数値を再び読み取る。最後に、円筒形カラム2の入口2aに圧気を差し込んだ後の通気圧損からバックグラウンドを差し引いた値をフィルターの通気圧損値として測定する。
本実施形態の繊維状活性炭3の形態はチョップ状、フェルト状、撚糸状、織布状、紙状等が挙げられる。いずれも円筒形カラム2に充填することができ、適正な比表面積を持った繊維状活性炭3を、適正なL/D比、通気圧損となるように充填することによれば、それ以外の形態の材料であっても使用できる。充填された繊維状活性炭3の空隙の均一性や、血液製剤と接触した際に長手方向の寸法を維持する機械的強度等の観点から、特にチョップ状、フェルト状、織布状であると好ましい。
チョップ状、すなわち綿状の活性炭は、鉱物系原料、あるいは樹脂素材原料より溶融紡糸法、メルトブロー法等を用いて紡糸し、不融化処理後、賦活処理することでトウを形成し、これを0.1mm〜数十mmの短繊維状、つまりチョップ状に成形することで得られる(例えば、綿状活性炭に関して特許第2717232号公報)。チョップ状活性炭は短繊維状で嵩高く、クッション性に富み、衝撃、摩耗、折り曲げに強い特長を有する。
フェルト状活性炭の製造法としては、鉱物系原料、あるいは樹脂素材原料より紡糸を行い線維化した後、不融化、炭素化、賦活処理を施す過程において、繊維にクリンプを生成した段階で、不融化の前、あるいは後にフェルト加工する方法が知られている(例えば、特開平3−130447号公報)。また、繊維形成能を有する天然樹脂、あるいは合成樹脂由来の繊維を不融化、炭化、賦活処理し、活性炭繊維を製造した後にフェルト加工する方法も知られている(例えば、特許第4153529号公報)。一般的なフェルト加工工程は、繊維の調合工程、紡毛機で薄いラップ状とする工程、ラップを数層重ねて熱、蒸気を当てながら圧縮し、水、酸、あるいは弱アルカリ性溶液を含ませ、熱、圧力、振動などを加えて縮絨を行う工程、毛剪、熱プレスすることにより繊維を互いに交絡密着させ、厚みや硬さを均一に加工する工程等を含む。フェルト状活性炭はほつれにくく、成形しやすく、形状維持しやすい特長を有する。
織布状活性炭の製造法としては、鉱物系原料、あるいは樹脂素材原料より紡糸し線維化した後、織布状に加工し、これを炭化、賦活する方法が知られている(例えば、ポリアクリロニトリル系に関しては特開昭62−133124号公報、フェノール樹脂系に関しては特開昭60−35509号公報、特許第4153529号公報、ポリビニルアルコール系に関しては特開昭53−114925号公報、特開昭59−187624号公報、特開昭61−47827号公報、特開2003−64535号公報)。一般的な織布加工工程は、天然繊維あるいは化学繊維を精紡して単糸を製造する工程、合糸、撚糸、糸蒸し等の紡績工程、経糸と緯糸を組み合わせる織布工程等を含む。織布状活性炭は、平織り形状であることから厚みや硬さが均一であり、形状維持しやすい特長を有する。
繊維状活性炭3は、繊維径の平均値が10μm以上、100μm以下であることが好ましい。繊維径の平均値が10μmより小さいと、円筒形カラム2に充填した際に機械的強度が十分でないため、形状変形を起こし易く、好ましくない。形状変形を起こすと、適切なL/D比と通気圧損が保持されず、十分な除去性能を維持できない。繊維径の平均値が100μmより大きいと、円筒形カラム2に充填した際の活性炭表面積が小さくなるため、十分な薬剤除去率が得られないおそれがある。
繊維状活性炭3は、ヒドロキシエチルメタクリレート系重合体をはじめとした生体親和性の高い親水化材で被覆されていることが好ましい。このような親水化材は、血液に対して影響がないものであれば、特に限定なくいかなるものでも使用できる。例えば、poly(2−hydroxyethyl methacrylate)(PHEMA)、poly(N−isopropyl acrylamide)(PNIPAAm)、poly(N,N−dimethyl acrylamide)(PDMAAm)、poly(vinyl alcohol)(PVA)、poly(N−vinyl−2−pyrrolidone)(PVP)等が挙げられる。この中でも特に汎用性が高く、生産コストが抑えらえるpoly(2−hydroxyethyl methacrylate)(PHEMA)、poly(N−vinyl−2−pyrrolidone)(PVP)等の合成高分子を素材とする親水化ポリマーが好ましい。
親水化ポリマー被覆により、赤血球と繊維状活性炭3との間の疎水的な付着力が抑制されるため、赤血球表面膜がろ過時に受ける物理的摩擦を減らし、溶血を抑えることができる。繊維状活性炭3は、親水化処理を行った後、更に湿熱滅菌または放射線滅菌を行うことが好ましい。これによって、繊維状活性炭3の表面に架橋が起こり、薬剤除去フィルター1の生産工程で、繊維状活性炭3の表面から粉塵が発生することが抑制される。これに伴い、薬剤除去フィルター1の使用時に、血液製剤に微粒子が混入することも抑制される。
(メッシュ)
メッシュ5は、円筒形カラム2の入口2a及び出口2bに設けられ、繊維状活性炭3を円筒形カラム2内に固定する固定部材として機能している。メッシュ5は、円筒形カラム2の内径と同じ径に打ち抜かれた円形形状をなしている。メッシュ5は、合成高分子材料からなり、血液に対して影響がなければ特に限定なくいかなるものでも使用できる。例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリウレタン、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリトリフルオロクロルエチレン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース、セルロースアセテート等が挙げられる。この中でも特に汎用性が高く、安価なポリエチレン、ポリプロピレン等のポリエステルが好ましい。メッシュ5の孔径は、20μm以上、300μm以下が望ましい。孔径が20μm未満の場合、赤血球などの細胞成分が目詰まりを起こし通り抜けられないため、血液製剤の回収自体が困難となる。逆に、孔径が300μmを超える場合は、繊維状活性炭3がメッシュ5を通って漏出し、血液製剤中に混入するリスクがある。より好ましいメッシュ5の孔径は、150μm以上、250μm以下である。
薬剤除去フィルター1のように血液製剤を流入させ、フロー式で繊維状活性炭3のようなフィルター材に接触させるデバイスは、インラインカラムという。インラインカラムを用いる方法は、長時間に渡り血液製剤とフィルター材とを接触させるバッチ式のような振とう装置が必要ない。また、落差により短時間で不活化薬剤除去が完了するため、経済的、かつ作業が効率的であるため好ましい。バッチ式では、活性炭と赤血球との接触時間増加による赤血球表面の損傷により、溶血が引き起こされる傾向があるため、赤血球を含む血液製剤には適さない。
薬剤除去フィルター1の容量は、血液製剤500mlに対し、5〜20mlが望ましい。容量が5ml未満である場合には、薬剤除去に使用できる繊維状活性炭3の表面積が不足し、薬剤の除去効率が低下するおそれがある。容量が20mlを超える場合には、血液製剤が円筒形カラム2や血液回路内に残留することにより、血液製剤の回収率が90%を下回ってしまう。なお、薬剤除去フィルター1の容量とは、例えば、入口接続部4a、出口接続部4b及びOリング6の内側といった繊維状活性炭3が収容されていない部分も含めた容量である。
薬剤除去フィルター1に含まれる繊維状活性炭3は、使用の直前まで乾燥状態である。これにより、常温で滅菌状態を維持することができ、製造後に長期間保管されるような場合でも品質管理が容易である。また、血液製剤が繊維状活性炭3の表面に接触すると、被覆された親水化ポリマーが膨潤し、赤血球との接触による摩擦が減少するため、赤血球を含む血液製剤の溶血を抑制できる。また、親水化ポリマーにより活性炭表面の濡れ性が向上するため、片流れによる薬剤除去効率の低下をきたすことなく、良好な流量を維持しながら血液製剤をろ過することが可能である。
以上のような構成を有する実施形態の薬剤除去フィルター1によれば、比較的高濃度の不活化用の薬剤を有する血液製剤であっても、薬剤を高い除去率で除去できる。更に、この薬剤除去フィルター1によれば、回収される血液製剤の溶血を効果的に防ぐことができる。
また、薬剤除去フィルター1は、使用時において実質的に問題となるような形状変形を起こし得ない材料から成っている。これにより、適切なL/D比と通気圧損を保持し、十分な除去性能を維持することができる。
上述の特許文献1〜3に記載されるような従来の技術の場合、赤血球を含む血液製剤に対する薬剤除去手段としては遠心分離による除去しか実施見込みがないが、実施形態の薬剤除去フィルター1は、落差で血液製剤を処理するのみで良いため処理時間が大幅に減少できる利点がある。
(薬剤除去システム)
次に、実施形態に係る薬剤除去フィルター1を備えて構成される実施形態の薬剤除去システム10について図2を参照して説明する。図2は、薬剤除去システム10の構成図である。
薬剤除去システム10は、薬剤除去フィルター1と、血液製剤を貯留する血液製剤バック(血液製剤貯留手段)11と、薬剤を供給する薬剤供給部12と、不活化用バック13と、薬剤除去後の血液製剤を回収する処理液回収バック(血液製剤回収手段)14と、配管L1〜L5と、クランプC1〜C4と、を備える。
血液製剤は、例えば、全血、濃厚赤血球製剤、血小板製剤、血漿製剤等である。薬剤供給部12は、不活化用バック13に血液チューブなどの配管L1によって接続され、配管L1を通じて不活化用バック13に薬剤を供給する。血液製剤バック11は配管L2に接続され、配管L2は処理開始時に配管L1にSCD接続される。不活化用バック13は、血液製剤バック11及び薬剤供給部12から配管L1、L2を介して全血及び薬剤を受け入れ、不活化処理を行う。
不活化用バック13と薬剤除去フィルター1の入口接続部4a(図1参照)とは、配管L3によって互いに接続され、処理液回収バック14と薬剤除去フィルター1の出口接続部4b(図1参照)は、配管L4によって互いに接続されている。薬剤除去フィルター1には、配管L3を通じ、不活化薬剤を含む血液製剤が供給される。繊維状活性炭3を備えた薬剤除去フィルター1では、血液製剤中に含まれる薬剤を吸着除去する。薬剤を吸着除去された血液製剤は、配管L4を通じて処理液回収バック14に回収される。
また、配管L3、L4は分岐して薬剤除去フィルター1をバイパスする配管L5からなるバイパス経路を形成している。配管L5は、処理液回収バック14の空気抜きに用いられる。クランプC1は、配管L1の不活化用バック13がSCD接続される場所よりも不活化用バック13側に備えられている。また、クランプC2、C3、C4は、それぞれ配管L3、L5、L4に備えられている。
(薬剤除去方法)
続いて、薬剤除去システム10を用いた薬剤除去方法について説明する。
(1)まず、クランプC1、C2、C3、C4がすべて閉じていることを確認する。
(2)血液製剤バック11に接続する配管L2を配管L1にSCD接続する。
(3)クランプC1を開けて配管L1を開通させ、薬剤供給部12から配管L1を通じて薬剤を不活化用バック13に供給するとともに、血液製剤バック11から配管L2,L1を通じて血液製剤を落差によって不活化用バック13に導入する。
(4)配管L1をクランプC1より不活化用バック13側でシールして切り、血液製剤バック11及び薬剤供給部12側の配管L1を捨てる。
(5)不活化用バック13中で薬剤及び血液製剤を混和し、必要に応じて所定時間UV照射してからインキュベート(静置)する。インキュベート中に不活化が起こる。
(6)インキュベート完了後、不活化用バック13中で再度血液製剤を混和し、クランプC2、C4を開けて、不活化用バック13から、血液製剤を、配管L3を通じて薬剤除去フィルター1に送り出し、薬剤除去フィルター1をろ過する。薬剤除去フィルター1でろ過された血液製剤は、配管L4を通じて処理液回収バック14に回収される(薬剤除去工程)。
(7)クランプC3を開けて、配管L5を開通させる。
(8)処理液回収バック14の空気を、空になった不活化用バック13に配管L5を通して逃がす。
(9)クランプC2、C3、C4を閉じる。
(10)シールして、処理液回収バック14を取り出す。
以上、実施形態を参照しつつ本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、つまり、このシステムは、システムの構築例にすぎず、バッグや回路の構築方法、配置、およびシステムの使用条件、方法、手順を限定するものではない。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
(実施例1)
(薬剤除去フィルターの作成)
内径が13mm、容量5mLの円筒形カラムであるMoBiTec社ラボラトリーポリエチレンカラムの内部に、PHEMAによって親水化コートしたフェルト状活性炭を直径D=13mmの円形に打ち抜き、除電ブラシ、除電シートにより静電気を除去しながら、軽く押圧して充填した。活性炭の反発により充填位置が上部へ変化し、平衡になったときの高さが、L=6.5mmになるまで充填した。なお、直径13mmの円形に打ち抜いた、孔径200μmのPEメッシュと外径13mm、内径9mmのシリコン製Oリングを薬剤除去フィルターの入口側、および出口側に挿入することにより、充填されたフェルト状活性炭の位置を固定し、L/D=0.5の薬剤除去フィルターを作成した。
(比表面積の測定)
(株)島津製作所の自動比表面積測定装置Tristar3000の測定セルに、PHEMAによって親水化コートされた繊維状活性炭を0.50g入れて密栓し、(株)島津製作所のサンプル脱ガス装置VacPrep061を用いて100ミリTorr以下で60分間脱ガスを行い、吸着ガス:窒素ガス、吸着温度:液体窒素温度にて、定容式ガス吸着法によるBET比表面積を測定した結果、1200m2/gであった。
(平均繊維径の測定)
繊維状活性炭を、無作為に5mm×10mmの面積となるようサンプリングし、SEM台に固定した後、HITACHI社製イオンスパッターE−1030により、真空下、15mAで300秒間金蒸着を実施した。このサンプルをHITACHI社製走査型電子顕微鏡S−3000Nにセットし、加圧電圧10kV、倍率を200倍として、1サンプルあたり5視野を、重複しないよう無作為に撮影した。次に、各視野の中で20本の繊維を無作為に選択し、画像上のスケールを用いて繊維径に換算することで繊維径を測定した。これを5視野分繰り返すことでn=100のデータを取得し、相加平均による平均繊維径を計算したところ、20.0μmであった。
(通気圧損値の評価)
ESTEC社製マスフローラ―SEC−400と、ESTEC社製膜流量計PAC−S5を用いて通気線速75cm/分に調節した乾燥空気の圧気流量を十分安定させた状態で、COSMO社製圧力トランスデューサPT−103B−Aを接続したCOSMO社製DPゲージDP−330BAに表示される圧力の数値を読み取った(バックグラウンド)。その後、上記流量の圧気を円筒形カラム2の入口2aに差し込み、出口2bから圧気を自由に排出させ、圧気流量が安定した後にDPゲージに表示された圧力の数値を再び読み取った。最後に、円筒形カラム2の入口2aに圧気を差し込んだ後の圧力値から、バックグラウンドを差し引いたところ、0.010kPaであった。
(ろ過による薬剤除去方法)
生理食塩水にメチレンブルーを0.2mM溶解させたろ過前液を、上記薬剤フィルターの入口から流入させ、出口より排出させた。ろ過流速は、市販の白血球除去フィルターの全血ろ過に用いられる際の代表的な線速0.56(ml/分/cm2)に合わせ44.7(ml/hr)に設定したシリンジポンプを用いてろ過を実施した。また、ろ過液の回収量は、市販の白血球除去フィルターを全血ろ過に用いる際の代表的な単位ろ材重量当たりの回収容量20.2(ml/g)に合わせた容量(ml)を回収した。
(薬剤除去率の評価)
得られたろ過前後液は、JASCO社製紫外可視分光光度計V−570により644nmの吸光度測定を行った。さらに濃度既知のメチレンブルー溶液により得た検量線を用いて濃度換算を行い、薬剤除去率を以下の式により計算した。
薬剤除去率(%)=(ろ過後のメチレンブルー濃度mM)/(ろ過前のメチレンブルー濃度mM)×100
(ヒト全血採取および保存条件)
健常人ヒト全血は、ヒト全血100mlに対し、抗凝固剤としてCPD14mlを添加する割合での採血を実施した結果得られた。ヒト全血は、室温22℃で保管し、採取から4時間以内に使用した。
(健常人ヒト全血ろ過条件)
上記方法で採血したろ過前液を、上記薬剤フィルターの入口から流入させ、出口より排出させた。ろ過流速は、市販の白血球除去フィルターの全血ろ過に用いられる際の代表的な線速0.56(ml/分/cm2)に合わせ、44.7(ml/hr)に設定したシリンジポンプを用いてろ過を実施した。また、ろ過液の回収量は、市販の白血球除去フィルターを全血ろ過に用いる際の代表的な単位ろ材重量当たりの回収容量20.2(ml/g)に合わせた容量(ml)を回収した。
(上清ヘモグロビン値の測定方法)
溶血の評価は、以下のように行った。ろ過前後の血液を3000rpm、15分間遠心分離することにより、上清を回収した。その後、HemoCue社のPlasma/Low Hb System装置と、専用のキュベットStorage for HemoCue(登録商標)Plasma/Low Hb Microcuvettesを用いて上清Hb(遊離Hb)を測定したところ、0.00g/dLとなった。ここで「溶血が生じない」とは、上清Hb値が0.02g/dLを超えないことを意味する。
以上のように、実施例1の血液処理フィルターでは、L/Dを0.5、比表面積を1200m2/g、通気圧損を0.010kPaとすることにより、薬剤除去率は85%、上清Hb値は0.00g/dLとなった。
このようにL/D比を下限値、通気圧損を下限値、及び比表面積を下限値とすることで、薬剤除去率は低下したものの許容される値であった。また、溶血が生じなかった。
(実施例2)
実施例1と同様の繊維状活性炭を、円筒形カラムに充填する際、充填高さLを21mmに調整してL/D比を1.6とした。実施例1と同様の方法により測定した比表面積が1800m2/g、平均繊維径が13.9μm、通気圧損が0.027kPaであったこと以外は、実施例1と同じ薬剤除去フィルター、及びろ過方法を用いたところ、薬剤除去率は99.5%以上、上清Hb濃度は0.00g/dLとなった。
このようにL/D比、通気圧損、及び比表面積をそれぞれ適正な値とすることで十分な薬剤除去率が得られた。また、溶血が生じなかった。
(実施例3)
実施例1と同様の繊維状活性炭を、円筒形カラムに充填する際、充填高さLを46mmに調整してL/D比を3.5とした。実施例1と同様の方法により測定した比表面積が1800m2/g、平均繊維径が19.8μm、通気圧損が0.059kPaであったこと以外は、実施例1と同じ薬剤除去フィルター、及びろ過方法を用いたところ、薬剤除去率は99.5%以上、上清Hb濃度は0.01g/dLとなった。
このようにL/D比、通気圧損、及び比表面積をそれぞれ適正な値とすることで十分な薬剤除去率が得られた。また、溶血が生じなかった。
(実施例4)
実施例1と同様の繊維状活性炭を、円筒形カラムに充填する際、充填高さLを57mmに調整してL/D比を4.4とした。実施例1と同様の方法により測定した比表面積が3000m2/g、平均繊維径が14.5μm、通気圧損が0.100kPaであったこと以外は、実施例1と同じ薬剤除去フィルター、及びろ過方法を用いたところ、薬剤除去率は99.5%以上、上清Hb濃度は0.02g/dLとなった。
このようにL/D比を上限値、通気圧損を上限値、及び比表面積を上限値とすることで、十分な薬剤除去率が得られた。通気圧損を上限値としたため、上清Hb値は「溶血が生じない」範囲の上限値となった。
(比較例1)
実施例1と同様の繊維状活性炭を、円筒形カラムに充填する際、充填高さLを2.6mmに調整してL/D比を0.2とした。実施例1と同様の方法により測定した比表面積が1200m2/g、平均繊維径が20.0μm、通気圧損が0.005kPaであったこと以外は、実施例1と同じ薬剤除去フィルター、及びろ過方法を用いたところ、薬剤除去率は52%、上清Hb濃度は0.00g/dLとなった。
このようにL/D比を過小、通気圧損を過小、及び比表面積を下限値としたため、十分な薬剤除去率が得られなかった。通気圧損が低いため、溶血が生じなかった。
(比較例2)
実施例1と同様の繊維状活性炭を、円筒形カラムに充填する際、充填高さLを60mmに調整してL/D比を4.6とした。実施例1と同様の方法により測定した比表面積が3000m2/g、平均繊維径が14.5μm、通気圧損が0.114kPaであったこと以外は、実施例1と同じ薬剤除去フィルター、及びろ過方法を用いたところ、薬剤除去率は99.5%以上、上清Hb濃度は0.10g/dLとなった。
このようにL/D比を過大、通気圧損を過大、及び比表面積を上限値としたため、十分な薬剤除去率が得られた。しかし、通気圧損が高いため、溶血が生じた。