以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
まず、本発明の液滴吐出ヘッドを一実施形態としてのインクジェット記録ヘッドを用いて説明する。なお、以下の説明では、インクジェット記録ヘッドの各個別液室内を昇圧するエネルギーを発生するアクチュエータとして圧電素子を用いている。このアクチュエータは、幅広い物性のインクに対応可能である反面、従来、個別液室の配列の高密度化・ヘッドの小型化が困難とされてきた。しかし、近年、いわゆるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いることにより、高密度化・小型化する方法が確立されてきている。すなわち、個別液室に薄膜形成技術を用いて振動板、電極層、圧電体層などを積層したユニモルフ型のアクチュエータ形成する。これを、フォトリソグラフィ等の半導体デバイス製造プロセスを用いて個別の圧電素子と電極・配線部材等にパターニングすることで高密度化・小型化を図っている。
図1は本実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの要部断面図である。このインクジェット記録ヘッドは、ノズル板1、個別液室基板2、振動板3、圧電素子4、駆動IC5、保持基板6、フレーム部材7、ダンパ層8等を備えている。個別液室基板2は、個別液室10の隔壁部、流体抵抗(不図示)、インク供給口11を形成する基板である。個別液室基板2に、個別液室10の一面を形成する振動板3を積層する。振動板3上には個別液室10内を昇圧するためのアクチュエータとしての圧電素子4と、圧電素子4に駆動信号を出力する駆動IC5と、圧電素子4と駆動IC5との配線(不図示)等が形成されている。また、振動板3には、個別液室10へのインク供給口11に対応して開口部が形成されている。個別液室基板2の振動板3が積層された面と反対側の面にノズル9を有するノズル板1を接合する。また、圧電素子4や駆動IC5が形成された個別液室基板2上に、インク流路となる開口部12を有する保持基板6と、共通液室14を形成するフレーム部材7を積層する。
このような、フレーム部材7、保持基板6、振動板3、個別液室基板2、ノズル板1の積層構造によりインク流路が形成される。詳しくは、フレーム部材7の共通液室14から、保持基板6の開口部12、振動板3の開口部、個別液室基板2のインク供給口11、流体抵抗(不図示)を介して個別液室10内にインクを供給する。個別液室基板2の一壁面を形成する振動板3上に形成された圧電素子4を駆動して振動板3を変位することで、個別液室10内を昇圧させて、ノズル9からインク滴を吐出する。圧電素子4は、圧電体を下部電極と上部電極で挟んだ構成で、上部電極、下部電極からそれぞれ引き出された配線部材に接続された駆動IC5により駆動される。
また、フレーム部材7は内部に共通液室14の上面を形成する可撓性部材からなるダンパ層8を有しており、ダンパ層8の上部には空気貯留室15が形成され、空気貯留室15と外部16とを連通可能とする弁20が形成されている。圧電素子4を駆動して個別液室10内を昇圧させてノズル9からインク滴を吐出する際、個別液室10内で生じた圧力変動が連通する共通液室14にも伝播する。共通液室14に伝播した圧力変動を、共通液室14の上面を形成するダンパ層8が共通液室14と対向する空気貯留室15側に変形することで空気貯留室15に逃す。これにより、共通液室14に伝播した圧力変動によって隣接する個別液室10内のインクにも影響が及ぶ相互干渉を防止する。
以下、本実施形態のインクジェット記録ヘッドの構成部材について詳細に説明する。
ノズル板1は、インク吐出用のノズル9が配列している基板であり、材料は必要な剛性や加工性から任意のものを用いることができる。例えば、SUS,ニッケル等の金属または合金、シリコン、セラミックス等の無機材料、ポリイミド等の樹脂材料などを挙げることができる。ノズル9の加工方法は、基板の材料の特性と要求される精度・加工性から任意のものを選ぶことができ、電鋳めっき法、エッチング法、プレス加工法、レーザー加工法等、フォトリソグラフィ法等が挙げられる。ノズル9の開口径、配列数,配列密度は、インクジェット記録ヘッドに要求される仕様に合わせて最適な組み合わせを設定することができる。
個別液室基板2には、個別液室10の隔壁部、流体抵抗部(不図示)、インク供給口11が形成される。個別液室基板2の材料は加工性・物性から任意のものを用いることができるが、例えば、300dpi(約85[μm]ピッチ)ではフォトリソグラフィ法を用いることができるシリコン基板を用いることが好ましい。個別液室10の加工は任意のものを用いることができるが、前述のフォトリソグラフィ法を用いる場合は、ウェットエッチング法、ドライエッチング法のいずれかを用いることができる。いずれの手法でも、振動板3の個別液室10側を二酸化シリコン膜等とすることで、エッチストップ層とできるため、個別液室10の高さを高精度に制御することができる。
個別液室10はインクに圧力を加え、ノズル9から液滴を吐出させる機能を有する。個別液室基板2には、個別液室10の一壁面を形成する振動板3と、下部電極、圧電体、上部電極が積層された圧電素子4とが一体的に形成される。振動板3は任意のものを用いることができるが、シリコンや窒化物、酸化物、炭化物等の剛性の高い材料とすることが好ましい。また、これらの材料の積層構造としても良い。積層膜とする場合は、それぞれの材料の内部応力を考慮し、残留応力が少ない構成とすることが好ましい。例えば、Si3N4とSiO2の積層の場合は、引張り応力となるSi3N4と圧縮応力となるSiO2を交互に積層し、応力緩和する構成が例として挙げられる。
振動板3の厚さは、所望の特性に応じて選択できるが、概ね、0.5〜10[μm]の範囲が好ましく、さらに好ましくは1.0〜5.0[μm]の範囲である。振動板3が薄すぎる場合はクラック等により振動板3が破損しやすくなり、厚すぎる場合は変位量が小さくなり吐出効率が低下してしまう。また、薄すぎる場合は、振動板3の固有振動数が低下し、駆動周波数が高められない課題がある。
圧電素子4を構成する、下部電極(不図示)、上部電極(不図示)は導電性のある任意の材料を用いることができる。例えば、金属,合金,導電性化合物が上げられる。これらの材料の単層膜でも積層膜でも良い。また、圧電体と反応したり、拡散したりしない材料を選定する必要があるため、安定性の高い材料を選定する必要がある。また、必要に応じて圧電体、振動板3との密着性を考慮し、密着層を形成しても良い。電極材料の例としては、Pt,Ir,Ir酸化物,Pd,Pd酸化物等が安定性の高い材料として挙げられる。また、振動板3との密着層としては、Ti,Ta,W,Cr等が例示できる。
圧電体を形成する構成する圧電体材料は圧電性を示す強誘電体材料を用いることができる。例えば、チタン酸ジルコン酸鉛やチタン酸バリウムが一般的に用いられる。圧電体の成膜方法は任意の手法を用いることができ、例としてはスパッタリング法,ゾルゲル法が挙げられ、成膜温度の低さからゾルゲル法が好ましい。上部電極、圧電体は個別液室10ごとにパターニングする必要がある。パターニングは通常のフォトリソグラフィ法を用いることができる。また、圧電体の成膜をゾルゲル法にて行う場合は、スピンコーティング法や印刷法を用いることもできる。
圧電素子4は個別液室10の上部に形成される必要がある。個別液室10を区画する隔壁部上に形成した場合、振動板3の変形を阻害してしまうため、吐出効率の低下や応力集中による圧電素子の破損等の原因となる。
個別液室基板2には、個別液室10に連通する流体抵抗部(不図示)が形成される。流体抵抗部はインク供給口11から個別液室10にインクを供給する機能を有する。と同時に、圧電素子4を駆動することにより個別液室10に発生する圧力により、インクの逆流を防止しノズル9から吐出させる機能を有する。そのため、個別液室10のインク流動方向の断面積を小さくし、流体抵抗を高くする必要がある。個別液室基板2にシリコンを用い、個別液室10と流体抵抗部をフォトリソグラフィ法によるエッチングを用いて形成した場合、個別液室10と同一の条件で加工できるメリットがある。流体抵抗部の高さを個別液室10より低くすることで、流体抵抗を高めるためには、個別液室10のオーバーエッチング量を時間管理で制御する必要がある。このため、エッチングレートのばらつきにより、流体抵抗を均一にすることができない。その結果、吐出均一性が悪化する。
流体抵抗部はインク供給口11および保持基板6に形成される開口部12を通じて、フレーム部材7に形成される共通液室14に連通する。個別液室10は隔壁部により区画されており、それぞれに対応する圧電素子4が形成される。個別液室10の高さはヘッド特性から任意に設定できるが、20〜100[μm]の範囲とすることが好ましい。また、個別液室10の隔壁部は配列密度に合わせて任意に設定することが可能であるが、隔壁部の幅は10〜30[μm]とすることが好ましい。また、隔壁部の幅が狭い場合は、隣接する個別液室10の圧電素子4を駆動した場合に、隣接する個別液室10間の相互干渉が発生し、吐出ばらつきが大きくなる。隔壁部の幅を狭くする場合は、液室高さを低くすることで対応する。
図示は省略するが、圧電素子4への配線を説明する。個別液室10の上部に配列した圧電素子4に駆動信号を入力するために、圧電素子4を構成する上部電極から個別配線を引き出し、下部電極から共通配線を引き出す。上部電極からは、個別配線を介して個別配線パッドまで引き出され、駆動IC5と接続される。さらに、駆動IC5から配線を介して長手方向の一端側に設けられた接続パッドまで引き出される。下部電極は、共通配線を介して接続パッドまで引き出される。接続パッドは、フレキシブルプリント基板(以下、FPCと略す)によりヘッド外部回路に接続される。ヘッド外部回路からFPCを介して駆動IC5に駆動制御信号が送られる。
上記配線は同一材料・同一工程で形成することが好ましい。配線材料としては、抵抗値の低い金属・合金・導電性材料を用いることができる。また、上部電極、下部電極としてはコンタクト抵抗の低い材料を用いることが必要である。例えば、Al,Au,Ag,Pd,Ir,W,Ti,Ta,Cu,Crなどが例示でき、コンタクト抵抗を低減するために、これらの材料の積層構造としても良い。コンタクト抵抗を下げる材料としては、任意の導電性化合物を用いても良い。例えば、Ta2O5,TiO2,TiN,ZnO,In2O3,SnO等の酸化物、窒化物およびその複合化合物が挙げられる。
配線の膜厚は任意に設定できるが、3[μm]以下とすることが好ましい。また、成膜には真空成膜法等の膜厚均一性が高い成膜方法を採用することが好ましい。これらの配線は、後述の保持基板6との接合面にもなるため、高さ均一性を確保できる膜厚・成膜方法を取る必要がある。
上述の個別液室基板2は20〜100[μm]厚と薄いため、個別液室基板2の剛性を確保するために保持基板6をノズル板1と対向する側に接合する。保持基板6の材料は任意の材料を用いることができるが、個別液室基板2の反りを防止するために熱膨張係数の近い材料を選定する必要がある。そのため、ガラス、シリコンやSiO2、ZrO2、Al2O3等のセラミックス材料とすることが好ましい。
また、保持基板6は個別液室配列方向に連通した開口部12を有しており、共通液室14の一部を形成する。また、圧電素子4を駆動して振動板3が変位できる空間を確保するため、保持基板6の圧電素子4に対向する領域に保持基板凹部13を形成する。なお、図示しないが、保持基板凹部13は個別液室10ごとに区画し、個別液室隔壁上で接合されることが好ましい。これにより、板厚の薄い個別液室基板2の剛性を高めることができ、圧電素子4を駆動した際の隣接個別液室間の相互干渉を低減することが可能となる。そのため、保持基板6は樹脂などの低剛性材料ではなく、シリコンなどの高剛性材料が好ましい。また、保持基板凹部13は個別液室10ごとに区画されるため、高密度化のためには高度な加工精度が要求され、300dpiヘッドにおいては保持基板6の隔壁幅を5〜20[μm]とすることが望ましい。
フレーム部材7は、各個別液室10に供給するインクを収容する個別液室配列方向に長尺な共通液室14と、共通液室14の上面を形成する可撓性部材からなるダンパ層8と、ダンパ層8を介して共通液室14と対向する空気貯留室15とが形成されたものである。また、フレーム部材7は空気貯留室15と外部16とを連通可能とする弁20を備えている。
フレーム部材7は、必要な剛性や加工性から任意のものを用いることができるが、コスト面から樹脂を成形することが好ましく、エポキシ、ポリフェニルサルファイドなどの材料を用いることが好ましい。開口を有するフレーム部材7自体を射出成形で成形した後、ダンパ層8を形成する。ダンパ層8としては、例えば、シリコーンエラストマーを射出成形によって成形したものが挙げられる。コンプライアンスを高くするため、ダンパ層8はできるだけ薄く形成し、且つ、ヤング率の低い材料を用いることが好ましい。ダンパ層8の厚さは50〜500[μm]、ヤング率としては10[MPa]以下が好ましい。
空気貯留室15と外部16とを連通可能とする弁21について、図面に基づき説明する。図2は、空気貯留室15と外部16とを連通可能とする弁の一例の説明図である。図2は、弁21として、2枚の板状部21a、21bを棒状部21cで繋いだ形状の一つの弁21を、フレーム部材7の開口17に設けた構成である。弁21の材料としては、密度が低いことが好ましく、樹脂が適している。この弁21の閉塞部としての板状部21aの幅は開口17の幅よりも広く、棒状部21cの長さは開口17の高さより長い。
空気貯留室15の圧力が外部16の圧力とほぼ同じ状態では、図2(a)に示すように、弁21の自重で板状部21aが開口17を塞ぐため弁21が閉じた状態となっている。インクジェット記録ヘッドの非駆動時(圧電素子4が駆動されず、個別液室10内に圧力が発生されていないとき)は、空気貯留室15の圧力は変化しないため、弁21が閉じた状態が維持され、空気貯留室15は密閉状態となる。よって、共通液室14からダンパ層8を介して空気貯留室15に水蒸気が拡散しても、外部16までは拡散しないので、共通液室14内のインクの粘度増加を抑制できる。
一方、インクジェット記録ヘッドの駆動(圧電素子4が駆動されて個別液室10内に圧力が発生されているとき)に伴いダンパ層8が変形して、空気貯留室15に圧力変動が生じる。この圧力変動により空気貯留室15の圧力が外部16の圧力より高くなると、図2(b)に示すように、板状部21bが押上げられて板状部21aが開口17から浮き上がり弁21が開いた状態となると共に、空気が空気貯留室15内から外部16へ流れる(図中矢印A)。これにより、空気貯留室15の圧力は外部16と同圧になり、その後、弁21は自重で閉じた状態に戻る。つまり、インクジェット記録ヘッドの駆動に伴い弁21が開き、外部16と空気貯留室15とが連通する。これにより、ダンパ層8が変形し難くなることが防止され、良好なダンパ効果を維持できる。
さらに、空気貯留室15と外部16とを連通可能とする弁を設けることで、空気貯留室15を密閉した構成で生じる、使用環境による外部16の圧力(大気圧)変化に起因するインクジェット記録ヘッドの不具合の発生を防止することができる。具体的には、使用環境が高地の場合は外部16の圧力(大気圧)は低くなるが、空気貯留室15を密閉していると空気貯留室15の圧力は変化しないため、空気貯留室15の圧力が外部16の圧力より高くなる。このため、空気貯留室15の圧力によりダンパ層8が共通液室14側に変形して、共通液室14と連通するノズル9からインクが漏れてしまう虞がある。一方、使用環境が低地の場合は、外部16の圧力(大気圧)は高くなるが、空気貯留室15を密閉していると空気貯留室15の圧力は変化しないため、外部16の圧力が空気貯留室15の圧力と比べて高くなる。このため、ダンパ層8が空気貯留室15側に変形して、空気貯留室15が収縮した状態となる。空気貯留室15が収縮した状態が維持されると、ノズル9からヘッド内部に空気を巻き込んでしまい、個別液室10内に空気が入り込み、インク吐出性能に影響を及ぼす虞がある。
本実施形態のインクジェット記録ヘッドでは、使用環境が高地で外部16の圧力が低いと、空気貯留室15内の圧力が、外部16の圧力と比べて高くなり、弁21を押し上げるように板状部21bに作用する。具体的には、外部16と空気貯留室15内との圧力差と、弁21の自重との関係で、弁21を押し上げる力が弁21を押し下げる力よりも大きくなると、図2(b)に示すように、弁21が開いた状態になり、空気が空気貯留室15内から外部16へ流れる(図中矢印A)。これにより、空気貯留室15内の圧力は外部16の圧力(大気圧)と同圧となり、ノズル9からインクが漏れてしまうことを防止できる。
一方、使用環境が低地で外部16の圧力が高いと、ノズル9からインクジェット記録ヘッド内に空気を引き込む力が働き、ダンパ層8には空気貯留室15を収縮させる力が働く。その力により弁21が浮き上がって開いた状態となり、外部16から空気貯留室15内に空気が導入される(図中矢印B)。これにより、空気貯留室15内の圧力は外部16の圧力と同圧となり、空気貯留室15が収縮した状態が解消されるため、ノズル9から空気を巻き込んでしまうことを防止できる。
図3は、空気貯留室15と外部16とを連通可能とする弁の他の例の説明図である。図3は、弁として、外部16から空気貯留室15への吸気をおこなう吸気弁22と、空気貯留室15からから外部16への排気を行う排気弁23との2つの弁を、フレーム部材7の開口18,19にそれぞれ設けた構成である。吸気弁22と排気弁23は、それぞれ板状部22a、23aと板状部22a,23aを付勢するための弾性部材であるバネ22b、23bとを有している。吸気弁22の開口18は、その上部および下部に幅方向内側に延伸する延伸部24a,24bを有しており、開口18の上部および下部は延伸部24a、24bにより板状部22aの幅よりも狭くなっている。吸気弁22のバネ22bは開口18の下部の延伸部24bに固定されており、板状部22aを開口18の上部の延伸部24aに向かって付勢する。また、排気弁23の開口19は、その上部および下部が幅方向内側に延伸する延伸部25a,25bを有しており、開口19の上部および下部は延伸部25a,25bにより板状部23aの幅よりも狭くなっている。排気弁23のバネ23bは開口19の上部の延伸部25aに固定されており、板状部23aを開口19の下部の延伸部25bに向かって付勢する。
空気貯留室15の圧力が外部16の圧力とほぼ同じ場合は、図3(a)に示すように、吸気弁22の板状部22aはバネ22bにより付勢され上部の延伸部24aに突き当たって開口18上部を塞いでおり、吸気弁22は閉じた状態となる。また、排気弁23の板状部23aはバネ23bにより付勢され下部の延伸部25bに突き当たって開口19下部を塞いでおり排気弁23は閉じた状態となる。インクジェット記録ヘッドの非駆動時は、空気貯留室15の圧力は変化しないため、吸気弁22、排気弁23とも閉じた状態となり、空気貯留室15は密閉状態となる。このため、共通液室14からダンパ層8を介して空気貯留室15に水蒸気が拡散しても、外部16までは拡散しないので、共通液室14内のインクの粘度増加を抑制できる。
インクジェット記録ヘッドの駆動に伴い、ダンパ層8が変形して空気貯留室15の圧力が外部16の圧力より高くなると、図3(b)に示すように、排気弁23の板状部23aは空気貯留室15の圧力により押されて下部の延伸部25bより浮き上がって開いた状態となる。一方、吸気弁22の板状部22aも空気貯留室15の圧力により押されるが、上部の延伸部24aに突き当たって開口18上部を塞いでおり、吸気弁22は閉じたままの状態となる。排気弁23が開いた状態になると、開口19を介して空気が空気貯留室15内から外部16へ流れ(図中矢印A)、空気貯留室15内の圧力は外部16の圧力と同圧になる。つまり、インクジェット記録ヘッドの駆動に伴い排気弁23が開き、外部16と空気貯留室15とが連通するため、インクジェット記録ヘッドの駆動に伴いダンパ層8が変形し難くなることが防止され、良好なダンパ効果を維持できる。
また、使用環境による外部16の圧力(大気圧)変化に対するインクジェット記録ヘッドの不具合の発生を防止することができる。
使用環境が高地で外部16の圧力が空気貯留室15内の圧力よりも低い場合、図3(b)に示すように排気弁23が外部16側へ持ち上げられる。つまり、排気弁23の自重と、バネ23bによる排気弁23への付勢力と、外部16の圧力と空気貯留室15内との圧力差との関係で、排気弁23を押し上げる力が排気弁23を押し下げる力よりも大きくなると、排気弁23が開いた状態になる。排気弁23が開いた状態になると、開口19を介して空気が空気貯留室15から外部16へ流れ(図中矢印A)、空気貯留室15内の圧力は外部16の圧力と同圧となる。これにより、高地において、空気貯留室15の膨張によりダンパ層8が共通液室14側に変形し、共通液室14と連通するノズル9からインクが漏れてしまうことを防止できる。
一方、使用環境が低地で外部16の圧力が高くなった場合、図3(c)に示すように、吸気弁22の板状部22aは外部16の圧力により押されて上部の延伸部24aより離れて開いた状態となる。一方、排気弁23の板状部23aも外部16の圧力により押されるが、下部の延伸部25bに突き当たって開口19下部を塞いでおり排気弁23は閉じたままの状態となる。吸気弁22が開いた状態になると、開口18を介して空気が外部16から空気貯留室15内へ流れ(図中矢印B)、空気貯留室15内の圧力は外部16の圧力と同圧になる。これにより、低地において、空気貯留室15が収縮した状態が解消されるため、ノズル9から空気を巻き込むことが防止できる。
図3の構成では、バネ22b、23bなどの弾性部材を用いて吸気弁22と排気弁23との二つの弁がそれぞれ開閉する構成としている。これは、図2に示す、弁21の自重で開閉する構成に比べて、より広範囲な圧力変動に対応可能というメリットがある。
以下、本実施形態の具体的なインクジェット記録ヘッドの製造工程を実施例に基づき詳細に説明する。
<実施例1>
個別液室基板2を直径6インチのシリコンウェハを用いて作成する。厚さ600[μm]のシリコンウェハ上に、SiO2 0.6[μm]、Si 1.5[μm]、SiO2 0.4[μm]を積層することで3層構成の振動板3を形成した。この振動板3上に、下部電極(不図示)としてTi 20[nm]、Pt 200[nm]をスパッタリング法で成膜した。下部電極上に、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を有機金属溶液に用いたゾルゲル法で厚さ2[μm]を成膜した後、700℃で焼成し、PZTの圧電体膜(不図示)を形成した。その後、圧電体膜上にPt 200[nm]をスパッタリング法で成膜して上部電極(不図示)とした。
上部電極の形成後に、上部電極、圧電体膜、下部電極をドライエッチング法でパターニングすることで、個別液室10に対応した圧電素子4と測温抵抗体(不図示)を形成した。圧電素子4の配列ピッチは85[μm]とし、圧電体の幅は40[μm]とした。圧電素子4の長手方向の長さは1000[μm]とし、1列あたりの圧電素子4の配列数は300個の4列配置とした。また、振動板3の可動部は個別液室10の隔壁上の部分にかからないようにした。これより、個別液室10に対応した振動板3の変形を阻害することがない。測温抵抗体は、個別液室基板2上の接続パッド(不図示)に近い位置に形成した。接続パッドに近い位置に形成することで、FPC(付図素)を介してインクジェット記録ヘッドに供給されるエネルギーによる温度状態を示すことが可能になり、精度良く圧電素子4の駆動制御が可能となる。
次に、プラズマCVD法により層間絶縁膜(不図示)を成膜し、上部電極上および下部電極上の層間絶縁膜にコンタクトホールを形成後、Ti 50[nm]とAl 2[μm]を順次積層しドライエッチングすることで、配線層を形成した。
その後、振動板3の個別液室10へのインク供給口11に対応した位置をドライエッチングで除去し、開口部を形成して、アクチュエータとインク流路が形成された個別液室基板2が完成する。
次に、保持基板6を直径6インチのシリコンウェハを用いて作成する。まず、シリコンウェハを厚さ400[μm]に研磨し、個別液室基板2側に酸化膜などを形成する。その後、その酸化膜を保持基板凹部13および開口部12が開口するようにフォトリソグラフィによりパターニングする。さらにその上にレジストを形成し、開口部12だけが開口するようにレジストをフォトリソグラフィによりパターニングする。そして、ICPエッチングで、個別液室基板2側から開口部12を貫通形成する。その後、個別液室基板2側のレジストのみを除去し、はじめにパターニングした酸化膜パターンをマスクとして、ICPエッチングでハーフエッチングする。最後に酸化膜を除去すると、個別液室基板2側の保持基板凹部13と貫通する開口部12とを形成することができる。
このようにして作成した保持基板6の接合面にエポキシ系接着剤をフレキソ印刷機で膜厚2[μm]で塗布し接合、接着剤を硬化することで保持基板6を、上記のように作製した個別液室基板2に接合した。その後、保持基板6と接合された個別液室基板2上に駆動IC5を物理的および電気的に接合して実装した。
その後、600[μm]の個別液室基板2を80[μm]まで研磨した後に、個別液室10、流体抵抗部(不図示)をICPドライエッチング法で形成した。個別液室10の幅は60[μm]とし、流体抵抗部の幅は30[μm]、長さは300[μm]とした。流体抵抗部、個別液室10のエッチングは振動板3に到達するまで行い同一の高さとした。また、インク供給口11に対応する部分の振動板3は事前にエッチングをしており貫通口を形成することができる。
上記ウェハをダイシングによりチップに切り出した後に、保持基板6と同様の手法でノズル板1と個別液室基板2とを接合した。ノズル板1は、厚さ30[μm]のSUS材にプレス加工で直径20[μm]のノズル9を85[μm]ピッチで形成したものを用いた。
次に、フレーム部材7を、ポリフェニルサルファイドを用いて形成した。フレーム部材7は、共通液室14と空気貯留室15とを形成する空間と、図2に示す開口17とを有するようポリフェニルサルファイドを射出成形で成形する。その後、射出成形によってシリコーンエラストマーからなるダンパ層8をフレーム部材7内部の共通液室14と空気貯留室15との間に形成する。空気貯留室15と外部16とを連通可能とする弁20として、図2にしめす弁21を弾性体を射出成形などで形成し、フレーム部材7に形成された開口17部へ押し込んでセットする。このフレーム部材7を保持基板6上に接合する。
さらに、フレーム部材7の共通液室14をインクタンク(不図示)と接続する。また、個別配線パッド部にACF接合やワイヤーボンディングにてヘッド外部回路へ接続されるFPCを接合する。このような製造工程により、共通液室内に伝播した圧力変動の良好なダンパ効果を得ると共に、共通液室からの水分の揮発を抑制して長期に渡って良好な吐出性能を得るインクジェット記録ヘッドが得られた。
<実施例2>
実施例2は、実施例1と空気貯留室15と外部16とを連通可能とする弁20の構成が異なるものであり、それ以外は実施例1と同じである。実施例1において、フレーム部材7を形成する際、共通液室14と空気貯留室15とを形成する空間と、図3に示す形状の開口18、19とを有するように射出成形する。その後、射出成形によってシリコーンエラストマーからなるダンパ層8をフレーム部材7内部の共通液室14と空気貯留室15との間に形成する図3に示す、板状部とバネからなる吸気弁22、排気弁23を形成し、それぞれを開口18、19へセットする。このような製造工程により、共通液室内に伝播した圧力変動の良好なダンパ効果を得ると共に、共通液室からの水分の揮発を抑制して長期に渡って良好な吐出性能を得るインクジェット記録ヘッドが得られた。
次に、実施形態に係る本発明の液滴吐出ヘッドを備える画像形成装置の一例としてのインクジェット記録装置の構成例について説明する。
図4は、本実施形態の一例のインクジェット記録装置201の全体構成を示す側面図である。図5は、図4のインクジェット記録装置201の要部構成を示す平面図である。
このインクジェット記録装置201はシリアル型のインクジェット記録装置であり、左右の側板221A、221Bに横架したガイド部材である主ガイドロッド231、従ガイドロッド232でキャリッジ233を主走査方向に摺動自在に保持する。そして、図示しない主走査モータによってタイミングベルトを介して図5中の矢示方向(キャリッジ主走査方向)に移動走査する。このキャリッジ233には、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色のインク滴を吐出するために、本発明に係る液滴吐出ヘッドからなる記録ヘッド234を装着している。
この記録ヘッド234は、複数のノズルからなるノズル列を主走査方向と直交する副走査方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けている。記録ヘッド234は、それぞれ2つのノズル列を有する液滴吐出ヘッド234a、234bを1つのベース部材に取り付けて構成している。そして、一方のヘッド234aの一方のノズル列はブラック(K)の液滴を、他方のノズル列はシアン(C)の液滴を、他方のヘッド234bの一方のノズル列はマゼンタ(M)の液滴を、他方のノズル列はイエロー(Y)の液滴を、それぞれ吐出する。ここでは2ヘッド構成で4色の液滴を吐出する構成としているが、各色毎の液滴吐出ヘッドを備えることもできる。また、キャリッジ233には、記録ヘッド234のノズル列に対応して各色のインクを供給するためのサブタンク235a、235b(区別しないときは「サブタンク235」という。)を搭載している。このサブタンク235には各色の供給チューブ236を介して、供給ユニット224によって各色のインクカートリッジ210から各色のインクが補充供給される。
一方、給紙トレイ202の用紙積載部(圧板)241上に積載した用紙242を給紙するための給紙部として、用紙積載部241から用紙242を1枚ずつ分離給送する半月コロ(給紙コロ)243及び給紙コロ243に対向している。そして、摩擦係数の大きな材質からなる分離パッド244を備え、この分離パッド244は給紙コロ243側に付勢されている。この給紙部から給紙された用紙242が記録ヘッド234の下方側に送り込まれる。このために、用紙242を案内するガイド部材245と、カウンタローラ246と、搬送ガイド部材247と、先端加圧コロ249を有する押さえ部材248とが備わっている。また、給送された用紙242を静電吸着して記録ヘッド234に対向する位置で搬送するための搬送手段である搬送ベルト251を備えている。この搬送ベルト251は、無端状ベルトであり、搬送ローラ252とテンションローラ253との間に掛け渡されて、ベルト搬送方向(副走査方向)に周回するように構成している。
また、この搬送ベルト251の表面を帯電させるための帯電手段である帯電ローラ256を備えている。この帯電ローラ256は、搬送ベルト251の表層に接触し、搬送ベルト251の回動に従動して回転するように配置されている。この搬送ベルト251は、図示しない副走査モータによってタイミングを介して搬送ローラ252が回転駆動されることによってベルト搬送方向に周回移動する。さらに、記録ヘッド234で記録された用紙242を排紙するための排紙部として、搬送ベルト251から用紙242を分離するための分離爪261と、排紙ローラ262及び排紙コロ263とを備えている。そして、排紙ローラ262の下方には排紙トレイ203が備わっている。
また、装置本体の背面部には両面ユニット271が着脱自在に装着されている。この両面ユニット271は搬送ベルト251の逆方向回転で戻される用紙242を取り込んで反転させて 再度、カウンタローラ246と搬送ベルト251との間に給紙する。また、この両面ユニット271の上面は手差しトレイ272としている。さらに、キャリッジ233の走査方向一方側の非印字領域には、記録ヘッド234のノズルの状態を維持し、回復するための維持回復機構281を配置している。この維持回復機構281には、記録ヘッド234の各ノズル面をキャピングするための各キャップ部材(以下「キャップ」という。)282a、282b(区別しないときは「キャップ282」という。)と、ノズル面をワイピングするためのブレード部材であるワイパーブレード283と、増粘したインクを排出するために記録に寄与しない液滴を吐出させる空吐出を行うときの液滴を受ける空吐出受け284などを備えている。
また、キャリッジ233の走査方向他方側の非印字領域には、記録中などに増粘したインクを排出するために記録に寄与しない液滴を吐出させる空吐出を行うときの液滴を受ける空吐出受け288を配置している。そして、この空吐出受け288には記録ヘッド234のノズル列方向に沿った開口部289などを備えている。
このように構成したこの画像形成装置においては、給紙トレイ202から用紙242が1枚ずつ分離給紙され、略鉛直上方に給紙された用紙242はガイド部材245で案内される。そして、搬送ベルト251とカウンタローラ246との間に挟まれて搬送され、更に先端を搬送ガイド237で案内されて先端加圧コロ249で搬送ベルト251に押し付けられ、略90°搬送方向を転換される。このとき、帯電ローラ256に対してプラス出力とマイナス出力とが交互に繰り返すように、つまり交番する電圧が印加される。この場合、搬送ベルト251が交番する帯電電圧パターン、すなわち、周回方向である副走査方向に、プラスとマイナスが所定の幅で帯状に交互に帯電されたものとなる。このプラス、マイナス交互に帯電した搬送ベルト251上に用紙242が給送されると、用紙242が搬送ベルト251に吸着され、搬送ベルト251の周回移動によって用紙242が副走査方向に搬送される。
そこで、キャリッジ233を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド234を駆動することにより、停止している用紙242にインク滴を吐出して1行分を記録し、用紙242を所定量搬送後、次の行の記録を行う。記録終了信号又は用紙242の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了して、用紙242を排紙トレイ203に排紙する。
このように、インクジェット記録装置201では、本発明に係る液滴吐出ヘッドを記録ヘッドとして備えているので、信頼性の高い安定した滴吐出をおこなうことができて、高速で、印字ムラのない高画質画像を形成することができる。
次に、実施形態に係る本発明の液滴吐出ヘッドを備える画像形成装置の一例としてのインクジェット記録装置の他の構成例について説明する。図6は本実施形態の他の例のインクジェット記録装置401の全体構成を示す側面図である。このインクジェット記録装置401はライン型のインクジェット記録装置であり、装置本体401の内部に画像形成部402等を有し、装置本体401の下方側に多数枚の記録媒体(用紙)403を積載可能な給紙トレイ404を備えている。この給紙トレイ404から給紙される用紙403を取り込み、搬送機構405によって用紙403を搬送しながら画像形成部402によって所要の画像を記録する。その後、装置本体401の側方に装着された排紙トレイ406に用紙403を排紙する。また、装置本体401に対して着脱可能な両面ユニット407を備えている。両面印刷を行うときには、一面(表面)印刷終了後、搬送機構405によって用紙403を逆方向に搬送しながら両面ユニット407内に取り込む。そして、反転させて他面(裏面)を印刷可能面として再度、搬送機構405に送り込み、他面(裏面)印刷終了後、排紙トレイ406に用紙403を排紙する。ここで、画像形成部402は、例えばブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各色の液滴を吐出する、フルライン型の4個の液滴吐出ヘッドで構成した記録ヘッド411k、411c、411m、411yを備えている。なお、記録ヘッド411k、411c、411m、411yの色を区別しないときには、以下、「記録ヘッド411」という。各記録ヘッド411は液滴を吐出するノズルを形成したノズル面を下方に向けてヘッドホルダ413に装着している。
また、各記録ヘッド411に対応して記録ヘッドの性能を維持回復するための維持回復機構412k、412c、412m、412yを備えている。なお、維持回復機構412k、412c、412m、412yの色を区別しないときには、以下、「維持回復機構412」という。パージ処理、ワイピング処理などのヘッドの性能維持動作時には、記録ヘッド411と維持回復機構412とを相対的に移動させて、記録ヘッド411のノズル面に維持回復機構412を構成するキャッピング部材などを対向させる。ここでは、記録ヘッド411は、用紙搬送方向上流側から、ブランク、シアン、マゼンタ、イエローの順に各色の液滴を吐出する配置としているが、配置及び色数はこれに限るものではない。
さらに、ライン型記録ヘッドとしては、各色の液滴を吐出する複数のノズル列を所定間隔で設けた1又は複数の記録ヘッドを用いることもできる。また、記録ヘッドとこの記録ヘッドにインクを供給する記録液カートリッジを一体とすることも別体とすることもできる。給紙トレイ404の用紙403は、給紙コロ(半月コロ)421と図示しない分離パッドによって1枚ずつ分離され装置本体401内に給紙される。そして、搬送ガイド部材423のガイド面423aに沿ってレジストローラ425と搬送ベルト433との間に送り込まれ、所定のタイミングでガイド部材426を介して搬送機構405の搬送ベルト433に送り込まれる。
また、搬送ガイド部材423には両面ユニット407から送り出される用紙403を案内するガイド面423bも形成されている。更に、両面印刷時に搬送機構405から戻される用紙403を両面ユニット407に案内するガイド部材427も配置している。搬送機構405は、搬送ベルト433、帯電ローラ434、プラテン部材435及び押さえコロ436を有している。そして、搬送ベルト433は、駆動ローラである搬送ローラ431と従動ローラ432との間に掛け渡した無端状の搬送ベルトである。帯電ローラ434は、搬送ベルト433を帯電させるための帯電ローラである。プラテン部材435は、画像形成部402に対向する部分で搬送ベルト433の平面性を維持する部材である。押さえコロ436は、搬送ベルト433から送り出す用紙403を搬送ローラ431側に押し付けている。その他図示しないが、搬送ベルト433に付着したインクを除去するためのクリーニング手段である多孔質体などからなるクリーニングローラなども有している。この搬送機構405の下流側には、画像が記録された用紙403を排紙トレイ406に送り出すための排紙ローラ438及び拍車439を備えている。
このように構成した画像形成装置において、搬送ベルト433は矢示方向に周回移動し、高電位の印加電圧が印加される帯電ローラ434と接触することで帯電される。そして、この高電位に帯電した搬送ベルト433上に用紙403が給送されると、用紙403は搬送ベルト433に静電的に吸着される。このようにして、搬送ベルト433に強力に吸着した用紙403は反りや凹凸が校正され、高度に平らな面が形成される。そして、搬送ベルト433を周回させて用紙403を移動させ、記録ヘッド411から液滴を吐出する。これにより、用紙403上に所要の画像が形成され、画像が記録された用紙403は排紙ローラ438によって排紙トレイ406に排紙される。
このように、インクジェット記録装置401では、本実施形態に係る液滴吐出ヘッドを記録ヘッドとして備えているので、信頼性の高い安定した滴吐出を行なうことができて、印字ムラのない高画質画像を形成することができる。
なお、上記実施形態では本発明に係る液滴吐出ヘッドをインクジェット記録装置のインク滴を吐出する記録ヘッドに適用した例を用いて説明した。これに限らず、インク以外の液体の滴、例えばパターニング用の液体レジストを吐出する液滴吐出ヘッド、遺伝子分析試料を吐出する液滴吐出ヘッドなどにも適用することできる。
また、上述では個別液室10に圧力変動を発生させて、ノズル9からインク滴を吐出する圧力発生手段として、圧電素子4を用いた圧電アクチュエータ方式を採用している。しかし、これに限らず、静電アクチュエータ方式、また、ヒータなどを用いて個別液室10内に気泡を発生させて、個別液室を昇圧させてノズルからインク滴を吐出するサーマル方式を用いた液滴吐出ヘッドにも適用することができる。
以上に説明したものは一例であり、本発明は、次の態様ごとに特有の効果を奏する。
(態様A)
インクなどの液滴を吐出するための複数のノズル9と、ノズルに連通する複数の個別液室10と、複数の個別液室に連通する共通液室14と、個別液室内を昇圧するための圧電素子4などのアクチュエータと、共通液室の少なくとも一部を形成するダンパ層8などの可撓性部材と、可撓性部材を介して共通液室に対向するよう設けられた空気貯留室15とを備えたインクジェット記録ヘッドなどの液滴吐出ヘッドである。この液滴吐出ヘッドにおいて、空気貯留室15と外部16とを連通可能とする弁20を備える。
(態様A)においては、共通液室と可撓性部材を介して対向する空気貯留室の圧力が変動したとき、弁を開放して空気貯留室と外部とを連通し、空気貯留室部を外部と同圧に保つ。これにより、空気貯留室の圧力変動により可撓性部材が空気貯留室側に変形し難くなることが抑制され、良好なダンパ効果が維持される。また、これ以外は、弁を閉じて空気貯留室を外部と遮断して密閉状態とする。このため、共通液室から可撓性部材を介して空気貯留室に水蒸気が拡散しても、外部までは拡散しないので、共通液室内のインクの粘度増加を抑制できる。
(態様B)
(態様A)において、弁は空気貯留室内と外部との圧力差に連動して開閉可能である。これによれば、特許文献3の液体吐出ヘッドに記載されたポンプを使用して弁の開閉にする構成に比べて、簡易な構成で弁を開閉できるという効果がある。さらに、弁は空気貯留室内と外部との圧力差に連動して開閉可能なため、上記実施形態について説明したように、使用環境による外部の圧力(大気圧)変化によるインクジェット記録ヘッドの不具合の発生も防止することができる。詳しくは、使用環境が高地で外部の圧力が空気貯留室内の圧力よりも低い場合、弁が開いて空気を空気貯留室から外部へ流すことで空気貯留室内と外部とを同圧として、高地におけるノズルからインクが漏れてしまうという不具合を防止できる。一方、使用環境が低地で外部の圧力が空気貯留室内の圧力よりも高い場合、弁が開いて空気を外部から空気貯留室内へ流すことで空気貯留室と外部とを同圧として、低地におけるノズルから空気を巻き込むという不具合を防止できる。
(態様C)
(態様A)または(態様B)において、弁21は空気貯留室に設けられた外部と連通する開口17を塞ぐ板状部21aなどの閉塞部を有し、弁の自重と、空気貯留室内と外部との圧力差との関係により閉塞部が移動して開口を開閉するよう構成する。これによれば、上記図2について説明したように、良好なダンパ効果が維持と、共通液室内のインクの粘度増加抑制と効果とを得られる弁が具現化できる。
(態様D)
(態様A)または(態様B)において、排気弁23などの弁は、空気貯留室に設けられた外部と連通する開口19を塞ぐ板状部23aなどの閉塞部と、閉塞部を付勢するバネ23bなどの弾性部材とを有し、弁の自重と、弾性部材の付勢力と、空気貯留室内と外部との圧力差との関係により閉塞部を移動させて開口19を開閉するよう構成する。これによれば、上記図3について説明したように、良好なダンパ効果が維持と、共通液室内のインクの粘度増加抑制と効果とを得られる弁が具現化できる。
(態様E)
(態様D)において、弁として、空気貯留室内から外部へ排気する排気弁23と、外部から空気貯留室内への吸気する吸気弁22とを備える。これによれば、弁の自重と、圧力差と、弾性部材の付勢力とを用いて吸気弁と排気弁との二つの弁がそれぞれ開閉する構成とすることで、弁の自重と圧力差とで一つの弁が開閉する(態様C)の構成に比べて、より広範囲な圧力変動に対応可能というメリットがある。
(態様F)
(態様A)乃至(態様E)の何れかの液滴吐出ヘッドを備えたインクジェット記録装置などの画像形成装置である。これによれば、長期に渡って良好な画像が得られる。