本発明の第1の発明に係るピッキング装置は、吸着対象物を吸着する吸着面を有する吸着具と、吸着具と接続され、吸着面と連通する内部空間を有する昇降部材と、昇降部材を挿入して連結し、昇降部材の内部空間を介して、吸着面に吸引空気を付与する吸引管路と、吸引空気の付与を制御する吸引空気制御部と、昇降部材の下降を、吸引空気以外に基づいて制御する、予備下降制御部と、を備え、予備下降制御部は、昇降部材を、第1位置から第2位置まで下降させ、吸引空気制御部は、昇降部材を、第2位置から第3位置まで下降させる。
この構成により、ピッキング装置は、吸着対象物を優しくスムーズに下降させることができる。
本発明の第2の発明に係るピッキング装置では、第1の発明に加えて、吸着具吸引空気を発生させる吸引空気発生器を更に備え、吸着具吸着面は、外部と連通する開口部を有し、吸着具吸引管路は、吸着具昇降部材を挿入可能であると共に吸着具吸引空気を通す連通空間を有し、吸着具吸引空気発生器から、吸着具連通空間および吸着具内部空間を介して、吸着具開口部まで連通している。
この構成により、吸引空気のみで、吸着対象物の吸着と上昇を行える。
本発明の第3の発明に係るピッキング装置では、第1又は第2の発明に加えて、吸着具吸着面に吸着具吸着対象物が接触し、吸着具吸引空気発生器から吸着具開口部までの連通空間において、吸着具吸引空気が吸着具開口部に付与されることで、吸着具吸着面は吸着具吸着対象物を吸着し、吸着具吸引空気発生器から吸着具開口部までの連通空間において、吸着具吸引空気の付与が消失することで、吸着具吸着面は吸着具吸着対象物を開放する。
この構成により、ピッキング装置は、吸引空気の制御によって、吸着対象物の吸着と開放を行える。
本発明の第4の発明に係るピッキング装置では、第3の発明に加えて、吸着具吸着面に吸着具吸着対象物が吸着している状態で、吸着具吸引空気発生器から吸着具開口部に吸引空気が付与されることで、吸着具吸引空気発生器から吸着具吸着面までが密閉状態となって、吸着具昇降部材が、吸着具吸引管路内部を上昇および上昇位置の位置維持の少なくとも一方が可能である。
この構成により、吸引空気の付与によって、吸着及び上昇が可能である。
本発明の第5の発明に係るピッキング装置では、第1から第4のいずれかの発明に加えて、吸着具は、吸着具吸着面に外周に沿って吸着対象物側に突出する接触部を、更に備え、接触部は、吸着面との間に空隙を有し、吸着具空隙は、吸着対象物の変形部分の少なくとも一部を、その内部に収容する。
この構成により、吸着具は、より確実に袋物のような吸着対象物を吸着できる。
本発明の第6の発明に係るピッキング装置では、第1から第5のいずれかの発明に加えて、吸着具第1位置は、吸着具昇降部材が、吸着具予備下降制御部によって下降を開始する高さに相当し、吸着具第3位置は、吸着具吸着対象物の設置面の高さに相当する。
この構成により、ピッキング装置は、従来は吸引空気で下降可能な位置から設置面までを、2段階の下降によって、吸着対象物を下降させることができる。
本発明の第7の発明に係るピッキング装置では、第1から第6のいずれかの発明に加えて、吸着具昇降部材が、吸着具第1位置から吸着具第3位置まで下降する下降期間において、吸着具予備下降制御部は、吸着具第1位置から吸着具第2位置までにおいて、吸着具吸引空気の付与を残した状態で、吸着具昇降部材を下降させ、吸着具吸引空気発生器は、吸着具第2位置から吸着具第3位置までにおいて、吸着具吸引空気を消失させて、吸着具昇降部材を下降させる。
この構成により、第1段階として吸引空気の制御以外で第1位置から第2位置まで下降させ、第2段階として吸引空気の制御で、第2位置から第3位置まで下降させる。
本発明の第8の発明に係るピッキング装置では、第7の発明に加えて、吸着具第2位置から吸着具第3位置までの下降においては、吸着具予備下降制御部は動作しない。
この構成により、第2位置から第3位置までの下降においては、吸引空気の制御のみで下降する。この結果、下降のスムーズ性と下降完了時の吸着開放が実現される。
本発明の第9の発明に係るピッキング装置では、第1から第8のいずれかの発明に加えて、吸着具予備下降制御部は、吸着具吸着具の上部に接触可能な先端部を有するピストンと、吸着具ピストンを収容可能であって吸着具ピストンと対になるシリンダと、を有し、吸着具ピストンは、吸着具シリンダの内部空間の横断面を仕切る仕切り板を有し、吸着具シリンダは、吸着具仕切り板より上方に位置する上部開口部と、吸着具仕切り板より下方に位置する下部開口部と、を有する。
この構成により、予備下降制御部は、上部開口部からの圧力で、吸着具を下降させることができる。
本発明の第10の発明に係るピッキング装置では、第9の発明に加えて、吸着具ピストンは、吸着具シリンダから下向きに突出可能であり、吸着具上部開口部に気体および液体の少なくとも一方が注入されることで、吸着具ピストンが吸着具シリンダから突出して下降して、吸着具先端部が吸着具を押し下げる。
この構成により、ピストンによる押し下げで、第1位置から第2位置までの下降が実現できる。
本発明の第11の発明に係るピッキング装置では、第10の発明に加えて、吸着具ピストンが、吸着具シリンダから突出する突出量は、吸着具第1位置から吸着具第2位置までの距離に対応する。
この構成により、ピストンは、第1位置から第2位置まで確実に下降させることができる。
本発明の第12の発明に係るピッキング装置では、第1から第8のいずれかの発明に加えて、吸着具下降制御部は、吸着具の上部に接触可能な先端部を有するシャフトと、吸着具シャフトを上下移動させるモーターと、を有し、吸着具モーターは、吸着具シャフトを下降させることで、吸着具を押し下げる。
この構成により、予備下降制御部は、シャフトモーターやソレノイドなどの電動部材を用いて、第1位置から第2位置までの下降を実現できる。
本発明の第13の発明に係るピッキング装置では、第1から第12のいずれかの発明に加えて、吸着具吸引空気発生器は、吸着具昇降部材の基準位置が、吸着具第2位置となるところで、吸着具吸引空気を消失させる。
この構成により、吸引空気発生器は、予備下降制御部での下降が完了してから、次の下降を開始できる。
本発明の第14の発明に係るピッキング装置では、第1から第12のいずれかの発明に加えて、吸引空気発生器は、昇降部材の基準位置が、吸着具第2位置に到達する前に、吸着具吸引空気を消失させる。
この構成により、吸引空気発生器は、予備下降制御部での下降の完了前に、次の下降の準備を整えることができる。結果として、全体に渡ってスムーズな下降を実現できる。
本発明の第15の発明に係るピッキング装置では、第1から第14のいずれかの発明に加えて、吸引空気発生器は、昇降部材の基準位置が、第3位置に到達したところで、吸引管路に押圧空気を付与する。
この構成により、下降完了時に、袋物の袋の表面に、凸部を生じさせることを低減できる。
本発明の第16の発明に係るピッキング装置では、第5から第15のいずれかの発明に加えて、吸着具の接触部の外周に、押さえ部材を更に備える。
この構成により、下降完了時に、袋物の袋の表面に、凸部を生じさせることを低減できる。
本発明の第17の発明に係るピッキング装置では、第1から第16のいずれかの発明に加えて、吸着対象物は、内容物を袋に収容する袋物である。
この構成により、ピッキング装置は、袋物でもピッキングできる。
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
(実施の形態1)
(空気吸引式のピッキング装置の説明)
まず、実施の形態1におけるピッキング装置の全体概要を説明する。図1は、本発明の搬送装置の全体斜視図である。図1は、実施の形態1におけるピッキング装置1を含んで実際の製造ラインや箱詰めラインに設置される搬送装置全体を示している。
ピッキング装置1は、搬送装置300の一部に用いられる。搬送装置300は、製造ラインや箱詰めラインにおいて、吸着対象物をある場所から別の場所に移動させる。図1では、製造ライン100における第1ライン101に設置された箱102に詰められている吸着対象物50が、第2ライン104に設置された箱103に搬送される。ピッキング装置1には、制御ロボット200が備わっている。制御ロボット200は、筐体210と、ピッキング装置1の姿勢を制御する姿勢制御部材201、202を備えている。また、図1には図示していないが、ピッキング装置1は、吸引空気発生器に接続されている。
このように、搬送装置300は、ピッキング装置1とこれを制御する制御ロボット200を備え、製造ライン100に備わる吸着対象物50を掴んで所定の位置に搬送する。ピッキング装置1が搬送装置300の一部として取り付けられて、ピッキング装置1の動作によって、箱102に入れられている吸着対象物50が、別の箱103に搬送される。ピッキング装置1は、搬送装置300の一部として製造ラインや箱詰めラインに設置されて使用される。
ここで、図1では、ピッキング装置1は、吸着対象物50を実際に掴んで搬送する部分を示しており、ピッキング装置1を含んだ全体を搬送装置300として示している。しかしながら、ピッキング装置1と搬送装置300とを、特段に区別する必要があるものではない。例えば、図1で搬送装置300として示されている制御ロボット200(筐体210なども)までを含めた構成を、ピッキング装置として把握しても良い。あるいは、ピッキング装置1は、図1に示されるように、吸着対象物50と直接的に対峙する部分だけで把握されても良い。
制御ロボット200は、姿勢制御部材201、202を用いてピッキング装置1の姿勢を制御したりすることで、ピッキング装置1の実動作を制御する。制御ロボット200による制御によって、ピッキング装置1が、吸着対象物50を掴んで搬送でき、製造ライン100に設置された搬送装置300は、その機能を発揮する。
姿勢制御部201、202は、ピッキング装置1の平面方向および垂直方向の少なくとも一方を移動させる。すなわち、ピッキング装置1が実際に吸着対象物50を吸着させる吸着具1の位置を、平面方向および垂直方向の少なくとも一方を移動させる。
(ピッキング装置の概要)
ピッキング装置1の概要について説明する。図2は、本発明の実施の形態1におけるピッキング装置の斜視図である。図2に示されるピッキング装置1は、図1で説明された搬送装置300の一部として用いられる。ピッキング装置1は、吸着具3、昇降部材9、吸引管路2、第1支持部材4、第2支持部材5を備える。ここで、第1支持部材4および第2支持部材5は、必須の要素ではなく、作業性や作業能率を向上させるために設けられる。
更に、ピッキング装置1は、吸引空気の付与を制御する吸引空気制御部25と、昇降部材9の下降を、吸引空気以外に基づいて制御する、予備下降制御部8と、を備える。昇降部材9は、この予備下降制御部8と吸引空気制御部25とのそれぞれの動作によって、下降する。また、吸引管路2に吸引空気を付与する吸引空気発生器26を備える。
ピッキング装置1の先端であって実際に吸着対象物50を吸着する吸着具3は、制御ロボット200による垂直方向の移動によって、所定の上位位置まで下降したり、この上位位置より上の位置に上昇したりする。この制御ロボット200による吸着具3の上昇と下降は、吸着具3が吸着している吸着対象物50を、移動元から移動先に移動させる際に必要な高さへの上昇と下降を実現する。
制御ロボット200は、この移動元から移動先に必要な高さへの上昇を行った後で、ピッキング装置1を(すなわち吸着具3を)平面方向に移動する。ここで、平面方向の移動に必要な高さは、移動元や移動先の環境によって様々である。ピッキング装置1は、吸引空気による昇降部材9の負圧によって上昇(あるいは気圧上昇によって下降)するが、この上昇で不足する上昇を、制御ロボット200が補う。
このように、ピッキング装置1は、制御ロボット200によって受ける垂直方向の移動と、自身の備える構成要素による吸引空気による垂直方向の移動との2つの垂直方向の移動を行う。また、ピッキング装置1は、制御ロボット200によって、平面方向の移動を受ける。この垂直方向と平面方向の組み合わせによって、搬送装置300は、ピッキング装置1を利用して、吸着対象物50を移動元から移動先に搬送できる。
制御ロボット200による制御も含めて、ピッキング装置1による吸着対象物50の移動の手順概要は次の通りである。
(手順1)制御ロボット200が、ピッキング装置1(吸着具3)を平面方向の移動に用いられる移動用高さ(例えば、移動元や移動先のコンベアや箱に、吸着具3が接触しない高さ)にセットする。
(手順2)制御ロボット200は、吸着具3が、移動元の吸着対象物50に対向する位置に、ピッキング装置1を平面方向に移動させる。このとき、制御ロボット200は、移動用高さを維持している。
(手順3)制御ロボット200は、吸着具3が吸着対象物50に接触可能な高さとなるように、ピッキング装置1を下降させる。
(手順4)ピッキング装置1は、吸引空気発生器26からの吸引空気によって、吸着具3により吸着対象物50を吸着する。
(手順5)ピッキング装置1は、吸引空気により昇降部材9を上昇させることで、吸着対象物50を上昇させる。この上昇においては、吸引空気で上昇可能な上位位置までの上昇である。
(手順6)上位位置が、移動用高さに不足する高さである場合には、制御ロボット200は、ピッキング装置1を上昇させる。この上昇は、吸引空気による上昇ではなく、機械的な上昇である。
(手順7)制御ロボット200は、吸着具3が吸着対象物50を吸着したままの状態で、ピッキング装置1を、平面方向に移動する。平面方向の移動においては、移動元から移動先に移動される。
(手順8)平面方向において移動先の位置まで移動が終わると、制御ロボット200は、ピッキング装置1を上位位置まで下降させる。この上位位置は、吸引空気を基礎とするピッキング装置1が下降を開始させることのできる開始高さである。この上位位置は、後述する第1位置である。
(手順9)制御ロボット200によるピッキング装置1の下降によって第1位置まで到達したピッキング装置1は、予備下降制御部と吸引空気の開放(低減と消失)により、吸着具3を下降させる(昇降部材9を下降させる)。この下降においては、第1位置から第2位置の第1段階の下降と第2位置から第3位置までの第2段階の下降とがある。第3位置は、吸着対象物50が設置される設置面の高さに対応する。
(手順10)吸着対象物50が、移動先の設置面に到達すると、ピッキング装置1は、吸引空気を消失させており、吸着を終了している。この状態になることで、ピッキング装置1を用いた搬送装置300による物品の移動が完了する。
(手順11)制御ロボット200は、ピッキング装置1を上昇させて、次の吸着対象物50の移動に備える。
以上のような手順によって、制御ロボット200と吸引空気発生器26による吸引空気との組み合わせで、搬送装置300は、ピッキング装置1を用いて、吸着対象物50を吸着、上昇、平面移動、下降、設置、を行って搬送できる。
本発明は、この手順において、特に吸着対象物50の下降に関している。
(従来技術での下降における問題点)
従来技術のピッキング装置は、吸引空気のみで下降させることで、特に袋物である吸着対象物50を、下降の際に損傷させていた。自由落下や落下速度の変化などによって、袋物である吸着対象物50が、設置面でバウンドしたり、設置面と強く衝突したりする。
例えば、従来技術のピッキング装置は、制御ロボットによる下降が終わって設置面から一定の高さである位置に到達したところで(吸着対象物と設置面は一定の離隔距離を有している。後述の第1位置である)、吸引空気を消失させる。吸引空気が消失すれば、吸着具の吸着能力が無くなり、昇降部材の下降と共に吸着面から吸着対象物が外れて、吸着対象物は自由落下に近い落下で下降する。もちろん、昇降部材と共に自由落下するので、吸着対象物がそれだけで自由落下するわけではないが、自由落下の期間も生じるので、吸着対象物が設置面に到達すると強い衝撃が吸着対象物に付与される。
あるいは、従来技術のピッキング装置は、制御ロボットによる下降が終わって設置面から一定の高さである位置に到達したところで(吸着対象物と設置面は一定の離隔距離を有している。後述の第1位置である)、吸引空気の付与を消失させるのに合わせて、付与空気を与える。すなわち、積極的に吸着対象物の吸着を外す。この場合には、ピッキング装置は、吸着対象物を高速に設置面に設置することができる。しかしながら、当然に長い距離を自由落下することになり、強い衝撃を、吸着対象物は受ける。この衝撃によって、当然に、吸着対象物に損傷が生じる可能性もある。
(本発明の下降での対応の概要)
実施の形態1におけるピッキング装置1は、ピッキング装置1における下降を優しく下降させることを目的としている。特に、下降においては、吸引空気の消失を必要とするが(最終的には、吸着対象物50の吸着具3での吸着の開放も必要であるので)、この吸引空気の消失のみでは、従来技術のような問題が生じてしまう。
そこで、実施の形態1におけるピッキング装置1は、予備下降制御部8を備えることで、それなりの高さから設置面までの吸着対象物50の下降において、吸引空気の消失のみだけでない下降を実現する。特に、2段階での下降を実現することで、下降全体に渡っての下降加速度を一定範囲に収めるような優しい下降を実現できる。
予備下降制御部8は、昇降部材9を第1位置から第2位置まで下降させる。この予備下降制御部8による下降に続いて、吸引空気制御部25は、吸引空気の制御によって(付与量の変化や付与の消失などによって)、第2位置から第3位置まで、昇降部材9を下降させる。
このように、昇降部材9の下降は、予備下降制御部8と吸引空気制御部25との2段階で完了される。なお、第1位置は、制御ロボット200がピッキング装置1を下降させた位置であり(吸着対象物50と移動先の設置面とはまだ離隔している)、第2位置は、予備下降制御部8が下降可能な距離だけ、第1位置から設置面に近づいた位置であり、第3位置は、吸着対象物50が、設置面に設置される位置である。
このような2段階での下降によって、ピッキング装置1が下降を開始する第1位置から下降が完了する第3位置までの下降が、一定加速度に収束されやすくなる。この結果、ピッキング装置1は、丁寧に吸着対象物50を下降させることができる。丁寧な下降であることで、吸着対象物50が設置面でバウンドしたり強い衝突を受けたりしない。すなわち、実施の形態1のピッキング装置1は、吸着対象物50の下降において、従来技術のような問題を解消している。
但し、第1位置をロボット200の下降ストローク端と考え、第2位置を予備下降制御部の下降ストローク端と考えた場合には、ロボット200の下降ストローク動作と、予備下降制御部の下降動作は、同時に行う事も出来るため、第1位置と第2位置は同じ高さ位置となる場合もあり得る。
(動作手順の詳細説明)
実施の形態1のピッキング装置1が行う手順1〜手順11で説明した動作手順を、それぞれに係る構成要素と合わせて説明する。
図3〜図9は、本発明の実施の形態1におけるピッキング装置の動作手順の説明図である。これら図のそれぞれは、ピッキング装置1の動作手順を、段階的かつ離散的に示したものである。すなわち、ピッキング装置1の動作が進む順序に対応して、図3〜図9は、それぞれのタイミングでのピッキング装置1の正面を示している。なお、図3〜図9では、吸着具3の両側面のそれぞれに設けられる第1支持部材4および第2支持部材5が示されている。
また、ピッキング装置1は、吸着具3、第1支持部材4および第2支持部材の位置、姿勢などを動作させて制御する駆動部6を有している。駆動部6は、図3に示される構造部分に設けられてもよいし、図1における制御部200に設けられてもよい。駆動部6は、第1支持部材4、第2支持部材を駆動したり、昇降部材9を吸引空気とは別に昇降させたりする。
(手順1)
制御ロボット200は、ピッキング装置1を、平面方向に移動できる高さにセットする。この高さにセットされることで、ピッキング装置1は、平面方向に移動できるようになる。平面方向に移動できる高さとは、移動元や移動先に設置されている吸着対象物50を収容している箱よりも高い高さであったり、平面方向の移動において障害物が無い高さであったりする。
(手順2)
制御ロボット200は、吸着具3が移動元の吸着対象物50に対向する位置に、ピッキング装置1を移動する。このときの移動は、平面方向の移動である。移動においては、画像処理や座標処理を用いて、制御ロボット200は、吸着対象物50に対向する位置に、ピッキング装置1を移動させる。
図3は、このピッキング装置1が、吸着対象物50に対向する位置に到達した状態を示している。
(手順3)
制御ロボット200は、吸着具3と吸着対象物50が対向する平面方向の位置にセットした後で、吸着具3が吸着対象物50に接触可能な高さとなるように下降させる。図4は、この下降によって、吸着具3が吸着対象物50に接触可能な高さとなった状態を示している。
ここでは、制御ロボット200が、この接触可能な位置までピッキング装置1を下降させてもよいし、駆動部6が、ピッキング装置1を下降させてもよい。ピッキング装置1は、制御ロボット200や駆動部6が備える画像処理によって、吸着対象物50が吸着具3の下に位置していることを把握できる。あるいは、予めプログラミングされた座標指示に合わせて、ピッキング装置1は、吸着対象物50の位置を判別して、吸着具3を吸着対象物50に向けて下降させる。
なお、吸着具3は、昇降部材9と共に(あるいは吸引管路2と共に)下降すればよい。駆動部が吸着具3を下降させる。
なお、一般的に吸着対象物50は、箱102などに入れられているので、吸着具3が下降することを手順3として説明した。しかしながら、吸着対象物50を収容している箱102が上昇可能であれば、吸着具3が下降するのではなく、吸着対象物50が吸着具3に上昇してくることでもよい。
吸着具3が下降することで、吸着具3は、第1支持部材4および第2支持部材5の先端よりも、下側(吸着対象物50側)に、その先端(吸着具3において吸着対象物50と接触する接触部)を位置させるようになる。
(手順4)
次に、吸引空気発生器26は、吸引空気を吸引管路2に付与する。吸引空気の付与とはいわゆるバキュームを行うことである。
吸着具3は、吸着対象物50を吸着する吸着面31を有する。吸着面31は、外部と連通する状態であり、例えばメッシュ状の開口部を有している。この開口部によって、吸引管路2から付与される吸引空気が、外部へ到達して、吸着具3は、吸着面31に接触する吸着対象物50を吸着できる。吸引空気が開口部を介して吸着面31に接触している吸着対象物50に付与されることで、吸着面31は、吸着対象物50をしっかりと吸着できる。
(手順5)
吸引空気発生器26は、吸引空気を吸引管路2に付与し続ける。
吸引管路2は、昇降部材9を内部で昇降させるために、連通空間を有している。この連通空間を介して、吸引管路2は、吸引空気を吸着具3(同様に昇降部材9に)に付与する。吸引管路2には、吸引空気発生器26が接続されており、吸引空気発生器26からの吸引空気(吸引空気)は、吸引管路2の連通空間に到達する。すなわち、吸引管路2の連通空間、昇降部材9の内部空間、吸着具3の内部が全て連通して、最終的には、吸引空気発生器26から吸着面31までが連通する構造となる。この連通する経路を、吸引空気が移動して、吸着面31に接触する吸着対象物50を吸着する。
ここで、吸着対象物50は、内容物を袋に収容する袋物を想定している。たとえば、菓子、パン、惣菜製品、加工食品など、変形性がある内容物を収容している袋物である。このような袋物は、内容物も袋そのものも変形性を有しているので、吸着具3によって吸着されると、外形(特に袋)が、変形する。もちろん、本発明のピッキング装置1は、ピッキングがより困難である袋物をピッキングすることを想定しているが、もちろん袋物以外の吸着対象物50をピッキングすることを除外しているものではない。
吸着面31に吸着対象物50が吸着すると、吸引管路2、昇降部材9および吸着具3を連通する経路の先端がこの吸着対象物50によってふさがれることになる。こうなると、吸引管路2が付与する吸引空気は、吸着面31の外部に出ることができなくなる。この結果、吸引管路2から吸着具3に至る内部空間で吸引空気が留まる。すなわち、吸引管路2から吸着面31に至る内部の圧力が低下する。この圧力低下により、吸引管路2に挿入されている昇降部材9が上昇できる。
図5は、吸引空気によって、昇降部材9が吸引管路2内部に挿入されつつ上昇して、結果的に吸着具3が吸着対象物50を上昇させている状態を示している。
吸引管路2は、昇降部材9を挿入して連結する。このとき、昇降部材9が吸引管路2内部に挿入されて連結されることで、昇降部材9は、吸引管路2内部で上下移動が自由にできる。なお、昇降部材9が、吸引管路2から外れて落下することのないように、吸引管路2の下端には、昇降部材9を止める部材が備わっていることもよい。
このように、ピッキング装置1は、吸引管路2からの吸引空気のみで、(1)吸着面31に吸着対象物50を吸着させる、(2)吸着面が塞がれたことで、内部圧力が低下し、吸引管路2内部で昇降部材9を上昇させる、(3)昇降部材9に接続される吸着具3も同時に上昇する、(4)当然ながら吸着対象物50も上昇する、とのステップで、吸着対象物50を上昇させる。
逆に言えば、吸引空気を消滅させると、昇降部材9が下降すると共に、吸着面31から吸着対象物50が外れる。この結果、ピッキング装置1は、吸着対象物50を、ある場所に置くことができる。
また、手順5における上昇途中において、第1支持部材4と第2支持部材5によって、吸着対象物50が、側面から挟まれる。図6は、この第1支持部材4と第2支持部材5による吸着対象物50を挟んで固定した状態を示している。駆動部6が、第1支持部材4と第2支持部材5を駆動して、吸着対象物50に近づける。この近づける駆動によって、第1支持部材4と第2支持部材5とは、吸着対象物50を挟むことができる。
第1支持部材4および第2支持部材5のそれぞれは、吸着具3の側面に設けられる。好ましくは、第1支持部材4と第2支持部材5とは、相互に対向する。更に、第1支持部材4および第2支持部材5のそれぞれは、相互の距離(対向距離)を変動可能であり、吸着面31が吸着対象物50を吸着する前後のいずれかにおいて、対向距離を縮めて、吸着対象物50の側面に接触して把持する。
吸着面31での吸着対象物50の吸着の後で、駆動部6が、第1支持部材4および第2支持部材5の対向距離を縮める。こうして、第1支持部材4は吸着された吸着対象物50の一方の側面を押さえ、第2支持部材5は吸着された吸着対象物50の他方の側面を押さえる。この両側面からの押さえによって、吸着具3による吸着だけでなく、第1支持部材4および第2支持部材5のそれぞれによる把持によって、吸着対象物50の上昇時あるいは水平方向での移動時の落下や、袋内部での内容物の移動や振動が低減できる。
ここで、第1支持部材4および第2支持部材5のそれぞれは、吸着対象物50の搬送方向に沿って、接触面41、51を接触させる。言い換えれば、接触面41、51のそれぞれは、搬送方向に略垂直である。接触面41、51が、このように吸着対象物50に接触させられることで、平面方向での移動時に、搬送方向に加わる圧力に対応できる。
なお、接触面41、51のそれぞれは、吸着対象物50の姿勢を維持できるように接触させられれば良く、非常に強い圧力で接触する必要は無い。吸着対象物50である袋物の袋や内容物を破壊しないためである。
第1支持部材4および第2支持部材5のそれぞれは、両サイドから、吸着対象物50に近づくようにスライド動作することで、接触面41、51を、吸着対象物50に接触させる。このとき、第1支持部材4および第2支持部材5は、相互に連動してスライド動作しても良いし、それぞれが独立してスライド動作しても良い。例えば、第1支持部材4がより大きくスライド動作して、接触面41を吸着対象物50に接触させてもよいし、逆でも良い。
なお、このときには、第1支持部材4および第2支持部材5の先端は、吸着具3の先端よりも上方に位置することが適当である。こうすることで、吸着具3がステップ1によって接触可能な位置まで下降した場合に、第1支持部材4および第2支持部材5が、邪魔になることは無いからである。
このようにピッキング装置1は、吸引空気による昇降部材9の上昇に合わせて、第1支持部材4および第2支持部材5の把持をもって、第1位置から第2位置(昇降部材9の上限位置)にまで、昇降部材9を上昇させる。
なお、手順5で説明した第1支持部材4と第2支持部材5による把持と、昇降部材9の上昇とは、完全に切り分けられるものではなく、前後したりミックスで動作したりすることでもよい。
この手順4、5によって、ピッキング装置1は、吸引空気のみで、吸着対象物50を吸着および上昇させることができる。すなわち、余分な機構を設けずに、容易に吸着と上昇を行える。
(手順6)
ピッキング装置1は、手順4,5で説明した通り、吸引空気発生器26の吸引空気によって吸着対象物50を吸着して上昇させることができる。
しかし、移動元、移動先および移動経路の構造によっては、この吸引空気による上昇だけでは、その高さが不足することもある。例えば、吸引空気で上昇した高さで、移動元から移動先に平面方向で移動する場合に、障害物があるなどの場合である。このような状況に対応するために、平面方向の移動前に、ピッキング装置1はその高さを(吸着している吸着対象物50の高さを)、上げることが適当である。
このように上昇が不足している場合には、制御ロボット200が、ピッキング装置1を上昇させる。これは機械的な上昇であり、吸引空気による上昇ではない。
(手順7)
制御ロボット200は、吸着具3が吸着し、第1支持部材4および第2支持部材5が側面を支持している吸着対象物50を、ピッキング装置1と合わせて平面方向に移動する。移動先は、吸着対象物50を搬送する先であり、例えば図1に示されるような箱が置いてある。制御ロボット200は、ピッキング装置1を平面方向に移動することで、吸着対象物50を、目的の位置まで平面移動させる。
なお、このとき、第1支持部材4と第2支持部材5とによって吸着対象物50が挟まれていることで、平面方向の移動時に加わる加速度に対しても、ピッキング装置1は、吸着対象物50を落下させることを防止できる。
(手順8)
制御ロボット200が、所定位置まで平面方向移動を終えると、制御ロボット200は、ピッキング装置1を所定の上位位置まで下降させる。この上位位置は、ピッキング装置1が、予備下降制御部8や吸引空気制御部25を用いて下降を開始させる第1位置である。すなわち、制御ロボット200で下降させることのできる位置である。
この第1位置が、吸引空気を中心としてピッキング装置1が吸着対象物50を下降開始する位置である。この第1位置から、ピッキング装置1は、予備下降制御部8と吸引空気制御部25を用いて、吸着対象物50を下降させる。
図7は、この手順8の下降開始の状態を示している。図7においては、下降開始の位置を第1位置、途中を第2位置、下降が完了する位置を第3位置として示している。
ここで、第1位置、第2位置、第3位置は、設置面51を基準にしているが、下降の対象となる吸着対象物50、吸着具3、昇降部材9のいずれかを基準にしてもよい。
このため、第1位置は、予備下降制御部8および吸引空気制御部25の少なくとも一方による下降を開始する高さに相当する位置である。実際の位置は、吸着対象物50がこの下降開始高さに相当する位置としてもよいし、吸着具3(あるいは吸着面31)がこの下降開始高さに相当する位置としてもよいし、昇降部材9がこの下降開始高さに相当する位置としてもよい。図7では、第1位置の概念が分かる一例として示している。
手順8では、制御ロボット200が、この第1位置に相当する位置まで、ピッキング装置1を下降させる。
(手順9)
ピッキング装置1は、第1位置から第2位置まで、予備下降制御部8を用いて、昇降部材9を下降させる。図8は、この第1位置から第2位置までの下降を示している。予備下降制御部8は、吸引管路2に付与される吸引空気の制御を行わずに昇降部材9を下降させる。例えば、予備下降制御部8は、吸引管路2とは別に設けられた動作部材によって、昇降部材9を強制的に第1位置から第2位置まで下降させる。例えば、昇降部材9を直接下降させる機械的、物理的、電気的な部材によって、下降させる。
ピッキング装置1は、吸着している吸着対象物50を吸着したままの状態で、第1位置から第2位置まで下降させることが重要である。吸着状態を消失してしまうと、設置面に相当する第3位置からかなりの離隔距離がある時点で、吸着対象物50が、吸着面31から落下してしまうからである。この落下は、自由落下に近く、設置面での衝突衝撃が大きくなるからである。このため、下降中に吸引空気を消失させることは好ましくない。
一方、吸引空気を消失させないままであると、吸着対象物50が設置面に到達しても、吸着が解消されない。吸着されたままであると、ピッキング装置1は、次の吸着対象物50の搬送に戻れないからである。あるいは、ピッキング装置1が上昇に戻る際に、搬送と設置面への設置が終わった吸着対象物50を、上方にバウンドさせてしまうこともありえる。
加えて、下降完了後に吸引空気を消失させたとしても、吸引空気の完全な消失には時間差がある。吸引空気は、吸引空気発生器26から吸引管路2などを経て、吸着面31までの体積分、溜まっているからである。この体積分の吸引空気が消失するまでの時間差によって、下降完了時に吸引空気を消失させても、この時間差に対応する時間において、吸着対象物50には、吸着圧力が残ってしまう。
この場合には、ピッキング装置1が次の吸着対象物50のピッキングのために上昇する際に、やはり設置面に設置した吸着対象物50をバウンドさせてしまう。吸着対象物50には悪影響が生じる。
このため、下降開始位置である第1位置から下降完了位置である第3位置までにおいては、前半において吸引空気と関連しない下降期間と、吸引空気に関連する下降期間の2段階であることが好ましい。
手順9では、この前半の下降期間が実行される。手順9で、ピッキング装置1は、第1位置から第2位置まで、予備下降制御部8によって下降させられる。この第1位置から第2位置までの期間では、吸引空気の付与が残った状態で、予備下降制御部8が、昇降部材9を(結局は吸着具3を)下降させる。予備下降制御部8は、機械的動作や電気的動作などによって、昇降部材9(吸着具3)を、第1位置から第2位置まで下降させる。
(手順10)
手順10では、第2位置から第3位置まで、吸引空気制御部25の動作によって、吸着対象物50を、下降させる。吸引空気制御部25は、吸引空気発生器26から付与される吸引空気を低下および消失させる。この低下および消失によって、吸引管路2から吸着面31に至る連通する空間で低下していた気圧が元に戻る。もちろん、この連通する空間全体から吸引空気が消失するまでには時間差があるので、その時間差に相当する時間をかけて、連通する空間の気圧が元に戻る。
気圧が元に戻れば、吸着面31は、吸着対象物50の吸着能力を消失する。すなわち、吸引空気制御部25が、吸引空気発生器26を制御して、吸引空気を消失させると、吸着面31は、上述の時間差に相当する時間をかけて、吸着力を弱めていく。同じ時間において、吸引管路2は、昇降部材9の上昇位置を維持する力を消失させていく。
この吸引空気の消失に合わせて、昇降部材9は下降し、加えて吸着面31は吸着力を失う。こうして、吸着対象物50は、第2位置から第3位置まで下降する。この期間は、自由落下に近い。但し、吸引空気が消失するまでの時間差によって、自由落下よりも緩やかな速度で下降する。第3位置は、設置面に相当する位置であるので、第3位置まで下降すると、吸着対象物50は、設置面に設置される。これにより、ピッキング装置1は、吸着対象物50の移動先への搬送を終える。
図9は、この第3位置への下降した状態を示している。この第2位置から第3位置までの下降においては、予備下降制御部8は、動作しない。
(手順11)
手順10の終了時には、吸着面31は、搬送した吸着対象物50の吸着を終えている。その後、手順11において、制御ロボット200は、ピッキング装置1を上昇させて、次の吸着対象物の搬送である手順1に戻る。
以上の手順1〜11により、ピッキング装置1は、吸着対象物50を移動元から移動先まで搬送できる。加えて、移動先において優しくかつなるべく一定加速度の範囲内に収まるように、吸着対象物50を下降させることができる。この結果、下降時に生じていた吸着対象物50のバウンドや強い衝撃を低減でき、吸着対象物50への悪影響を低減できる。特に、吸着対象物50が袋物である場合には、袋内部での内容物のバウンドも防止できるので、内容物の保護(当然に袋の保護)が可能である。
(下降時の速度状態の説明)
実施の形態1におけるピッキング装置1による下降が、吸着対象物50の保護を実現していることを、下降時の速度の面から説明する。図10は、従来技術による下降状態を、速度から示した模式グラフである。図10のグラフは、横軸が下降に関る時間を示しており、縦軸が下降する吸着対象物50の速度を示している。図10のグラフに示される下降動作では、制御ロボット200による垂直方向の降下を初期段階として、実施の形態1で説明したピッキング装置1による動作で、第1段階と第2段階の動作により、吸着対象物50の下降を完了する。
初期段階は、制御ロボット200による下降動作であるので、機械的な下降である。機械的な動作によって、吸引管路2や吸着具3は、吸引力を維持したまま、全体として一体に下降する。第1段階は、予備下降制御部8による強制的な下降であり、第2段階は、吸引空気の低減による物理的下降である。初期段階と第1段階は、吸引空気による吸引圧力は維持されている。第2段階では、吸引圧力は低減しながら消失していく。
従来技術では、制御ロボット200による降下高さの第1位置から第3位置まで、吸引空気の消失によって下降させるか、付与空気の付与によって下降させるかしていた。このため、吸着対象物50には、ほぼ自由落下に近い下降であったので、吸着対象物が、設置面に衝突して速度がゼロになった後で、上下にバウンドする。このため、速度が上下に大きくふれている。
このような速度変化では、当然に設置面に到達したときに、吸着対象物50には、強い衝撃が加わり、柔軟物においては、変形や分裂などの原因になっていた。
図11、図12は、本発明の実施の形態1における下降状態を、速度から示した模式グラフである。横軸および縦軸ならびに動作開始点は、図10と同じである。図11、図12は、手順10で説明したように、吸着対象物50は、第1位置から第2位置までは、予備下降制御部8により下降する。第2位置から第3位置までは、吸引空気の消失によって下降する。なお、いずれの場合も、第1位置から第2位置までの第1段階の下降の前に、制御ロボット200による初期段階での下降が行われている。
図11では、吸引空気の消失段階の下降の切り替わりが、第2位置に到達したところで行なわれるかもしくは第2位置に到達した後で、行なわれる場合の吸着対象物50の速度変化を示している。
ロボットの降下開始点から第2位置までは、ロボットの降下と予備下降制御部8のクロスオーバー動作により、吸着対象物50は下降する。この間の速度変化は、図11に示されるとおりである。第1位置と第2位置は同じ高さ位置となる。第2位置に到達すると、瞬間的に速度がゼロに近似した状態となるため、大きな減速加速度が働く。その瞬間もしくはその後で、吸引空気制御部25が、吸引空気の消失を開始する。そうなると、一定の時間後に、吸引管路2から昇降部材9の下降が始まる。図11では、このために、第2位置に到達して速度がゼロ近似した後で、速度変化が始まっている。第2段階の下降は、吸引空気の低減と消失に合わせてゆっくりとした速度変化を有する。
第3位置到達直前のようなゆっくりとした速度変化により、図10にしめされるようなバウンドは、ほとんど生じない。生じたとしても非常に小さい。しかしながら、第2位置に到達した時点で受ける急激な減速加速度によって、吸着されている外袋部は、内容物の慣性質量を受け止めるため、ハンド部吸着面との間に多くのシワを強く刻むことになる。このシワやシワによって発生した凸凹は、第3位置に置かれた後も、簡単な処置では、修復できず搬送作業中の品質悪化と判定される場合が多い。
図12では、予備降下制御部8の下降の終わりが、第1位置に到達後となる場合である。すなわち、第1位置到達後第2位置に到達する様に、予備降下制御部の降下動作がロボットの降下動作とクロスオーバする部分を減らしている。この下降途中(第1位置に到達した時)に、吸引空気制御部25が、吸引空気を止める指示を出す。
この結果、図12のグラフのように、ロボット200の降下速度が減速域に入ってから第3位置まで、急激な加減速を避けて速度を落としていって、降下を終了させることが出来ている。図11との第2位置での違いは、急激な減速が起こっていない事が上げられる。これは、第1位置に達した時点で吸引空気OFFの指令を出しているので、タイムラグはあるが吸引空気の供給を停止する動作が第1段階と第2段階をオーバーラップする状態となる。予備降下制御部の動作を受け持っているピストンは、そのストロークエンドにぶつかって動作を止めるが、吸着具3は吸引空気の供給が無くなるとシリンダーロッドからの減速方向の力は受け取れないので、慣性を維持したまま落下を続ける事となる。
図12のような速度変化であれば、第1位置から第3位置までの下降が、スムーズに行われている。極端な速度変化が、降下開始時においても降下中においても生じにくい。すなわち、ピッキング装置1が、優しく吸着対象物50を設置面まで下降させている。こうして、ピッキング装置1は、吸着対象物50の下降において、設置面でのバウンドや強い衝撃を防止できる。
なお、図10〜12では、第1位置ないしは第1位置と第2位置の間で、吸引空気発生器26による吸引空気の低減もしくは停止を開始する場合を中心に説明している。このタイミングで吸引空気の低減もしくは停止が開始されることで、実際の吸引空気が吸引管路2などの内部空間から消失するまでの時間差を活用して、吸着対象物50の下降が柔らかくスムーズになるからである。
もちろん、第1位置、第2位置、第3位置は、特段に限定される位置ではなく、動作の切り替えを示す位置であるので、予備下降制御部8による下降が第1位置から第2位置までであり(この区間が、予備下降制御部8による下降を主とすると考えても良い)吸引空気の消失による下降が第2位置から第3位置までであると、概念的に把握されればよい。
実際の予備下降制御部8による下降の前には、初期段階として制御ロボット200による下降が行われるが、これが、第1位置を越えるところまで行われることも、制御の種類によってはありえる。同様に、第1位置から第2位置までの間に、吸引空気の消失指示が開始されることがあってもよい。要は、実施の形態1におけるピッキング装置1は、制御ロボット200による初期段階と、予備下降制御部8による機械的な下降が行われる第1段階と、吸引空気の消失による物理的な下降が行われる第2段階とを、含む。このときのそれぞれの基準位置が第1位置、第2位置、第3位置であり、実際の外見上の動作を基準とした場合のこれらの物理的な位置と、初期段階、第1段階、第2段階のそれぞれの動作指示が生じる位置とが、完全同一であることが求められるものではない。
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。実施の形態2では、予備下降制御部8の一例として、ピストンとシリンダによる構造を有する部材を用いる場合を説明する。
図13は、本発明の実施の形態2におけるピッキング装置の斜視図である。ピッキング装置1は、吸引管路2の側面に、予備下降制御部81を有する。予備下降制御部81は、実施の形態1で説明した予備下降制御部8の一具現例である。
予備下降制御部81は、吸着具3の上部に接触可能な先端部89を有するピストン84と、このピストン84と対になるシリンダ85と、を備える。シリンダ85は、ピストン84を収容可能であると同時に、ピストン84を突出可能である。すなわち、シリンダ85は、ピストン84を挿入および突出可能な(すなわち、収容可能な)内部空間88を備えている。ピストン84は、この内部空間88に収容されている場合には当然ながらシリンダ85から突出しておらず、内部空間88から出ている場合には、ピストン84は、シリンダ85から突出している。すなわち、ピストン84は、シリンダ85から出ることも、シリンダ85に収まることも可能である。
シリンダ85は、上方に、この内部空間88と外部とを連通可能とする上部開口部87と、下方に、内部空間88と外部とを連通可能とする下部開口部86とを有する。ピストン84は、上方であってシリンダ85の内部空間88に収まる部分に、内部空間88の横断面を仕切る仕切り板(図13では図示せず。シリンダ85内部に隠れている)を有している。ピストン84の昇降(挿入と突出)に合わせて、仕切り板は内部空間88における位置を変化させる。仕切り板は、内部空間88の横断面を仕切る(横断面に適合した形状と大きさを有している)ので、内部空間88は、仕切り板の位置変化によって、下方の体積が大きくなったり上方の体積が大きくなったりする。
上部開口部87は、この仕切り板の上方に位置しており(仕切り板が移動した場合でも)、下部開口部86は、この仕切り板の下方に位置している(仕切り板が移動した場合でも)。
予備下降制御部81は、このような構成を有しているので、上部開口部87から空気が注入されることで(空気に限定されず、気体や液体)が注入されることで、仕切り板を下方に押し下げる。仕切り板は、ピストン84と一体であるので、仕切り板が下方に下がると、ピストン84も下方に下がる。
ピストン84が下がると、その先端である先端部89も下がる。先端部89は、吸着具3の上部に接触可能であるので、先端部89は、自身の下降に合わせて、吸着具3を押し下げる(すなわち、吸着具3と接続している昇降部材9も押し下げられる)。このような押し下げによって、予備下降制御部81は、第1位置から第2位置まで、吸引空気の制御と関係なく、昇降部材9を下降させることができる。
図14は、本発明の実施の形態2におけるピッキング装置の側面図である。図14は、ピッキング装置1が、予備下降制御部81を用いて、第1位置から第2位置に向けて、昇降部材9を下降させ始めている状態を示している。上部開口部87に気体や液体が注入されて、ピストン84が下方に向けてシリンダ85から突出する。この突出により、ピストン84の先端部89が吸着具3の上部に接触する。この接触によって、吸着具3が下降を開始して、併せて昇降部材9も下降を開始する。
このような、予備下降制御部81のピストン84による押し下げは、第1位置から第2位置まで行なわれる。この結果、予備下降制御部81は、第1位置から第2位置まで、吸引空気の制御と無関係に、吸着対象物50を下降させることができる。ロボットの動作と予備降下制御部の動作は同時に行う事や、単独で行うことや、任意の位置で同期を取ることも出来る。
このため、ピストン84がシリンダ85から突出する突出量は、第1位置から第2位置までの距離に対応することが好ましい。こうして、上部開口部87への圧力付与で、ピストン84がシリンダ85から突出して、吸着具3(昇降部材9)を、第1位置から第2位置まで下降させることができる。
この予備下降制御部81が、第1位置から第2位置まで、吸着対象物50を下降させて、実施の形態1で説明したように、吸引空気制御部25が、吸引空気の低減・消失を行い、ピッキング装置1は、第2位置から第3位置まで、吸着対象物50を下降させる。
この第2段階の吸引空気制御部25による下降によって、第2位置から第3位置まで吸着対象物50が下降すると、図9に示されるような状態となる。すなわち、設置面に吸着対象物50が設置される。
このように、ピストン84とシリンダ85を備える予備下降制御部81が用いられる場合には、吸引管路2に吸引空気が付与されたままで、ピストン84が強制的に吸着具3(昇降部材9)を下降させる。第2段階として、吸引空気の制御によって下降させられる。これらの2段階の下降によって、近似的な自由落下や強制落下などによる落下期間が短縮されると共に、吸着を行う吸引空気による吸引圧力も、設置面への設置時に開放される。このため、乱雑な下降による吸着対象物50への衝撃やバウンドが生じない。加えて、下降が完了したときには、吸引空気による吸引圧力が消失しているので(吸引空気の低減・消失による第2段階の下降による)、吸引圧力に引きずられて(吸着力に引きずられて)吸着対象物50が設置後に僅かに上昇してバウンドしたりすることもない。
また、下降制御部8は、吸着具3の上部に接触可能な先端部を有するシャフトと、このシャフトを上下移動させるモーターと、を有する構成でも良い。このモーターは、シャフトを下降させることで、吸着具3を押し下げる。このように、予備下降制御部81のように、ピストン84を圧力で押し下げるのではなく、電気的なモーターの力によって、シャフトを押し下げることでも、第1段階である第1位置から第2位置までの下降を実現できる。このようなシャフトとモーターの組み合わせには、シャフトモーターが用いられればよい。あるいはソレノイドが用いられてもよい。
このように、予備下降制御部8には、圧力によるピストン、シャフトモーター、ソレノイドなど、直線方向に上下移動できる機構を備える要素が用いられてもよい。
また、吸引空気制御部25による吸引空気の消失は、第1位置から第2位置までの下降の途中(例えば、昇降部材9の基準位置を基準として第1位置と第2位置を設定する場合に、この基準位置が第1位置から第2位置の間となる場合)で、吸引空気制御部25は、吸引空気の消失を開始してもよい。
あるいは、吸引空気制御部25による吸引空気の消失は、第2位置まで下降したところで(例えば、昇降部材9の基準位置を基準として第1位置と第2位置を設定する場合に、この基準位置が第2位置となる場合)で、吸引空気制御部25は、吸引空気の消失を開始してもよい。これらは、図11、図12で説明したのと同様である。
いずれにしても、第1段階の下降から第2段階の下降への移行をスムーズにしつつ、下降全体をスムーズにすることで、ピッキング装置1は、吸着対象物50を優しく下降させることができる。
以上のように、実施の形態1、2におけるピッキング装置1は、吸引空気による吸引圧力を、吸着対象物50が設置面に到達する際に消失するための吸引空気の制御による第2段階の下降(第2位置から第3位置)と、その前段階であり、擬似的な自由落下とならないように予備下降制御部8による第1段階の下降(第1位置から第2位置まで)と、を組み合わせる。この組み合わせにより、強制的な下降(第1段階の下降に相当する)のみによる吸引圧力が残ることの影響、吸引空気制御による下降(第2段階の下降に相当する)のみによる自由落下での乱雑な落下による影響、のいずれも解消できる。
(実施の形態3)
次に、実施の形態3について説明する。実施の形態3では、吸着対象物の吸着や設置面への設置における更なる工夫について説明する。
(吸着具の工夫1)
吸着具3が、吸着対象物50の変形に合わせて吸着する態様を説明する。図15は、本発明の実施の形態3における吸着具の吸着面から見た斜視図である。実施の形態3の吸着具3は、吸着面31の外周に沿って吸着対象物50側に突出する接触部32を更に備える。接触部32は、吸着面31との間に空隙33を有する。空隙33は、袋物などの柔軟性を有する吸着対象物50の、吸着によって変形する変形部分の少なくとも一部を、その内部に収容する。
吸着具3が、このように吸着面31との間に空隙33を有する接触部32を有することで、袋物などの柔軟性と変形性を有する吸着対象物50を吸着する場合でも、変形部分を空隙33に収容できる。このため、変形によってできるしわなどが吸着面31と連通して、吸引空気が外部に抜けてしまうことが防止できる。この防止によって、吸着具3が、吸着対象物50を落下させてしまうなどの問題が減少する。
図16は、本発明の実施の形態3における吸着具3の断面斜視図である。断面斜視図からわかる通り、吸着具3の吸着面31と接触部32との間の空隙33が、吸着対象物50の変形部分51を収容していることが分かる。加えて、空隙33は、吸着面31の外周に向けて形成されるので、変形部分51は、吸着面31の中央部から外周に向けて広がりつつ空隙33に収容される。
このように、袋物などの柔軟性を有する吸着対象物50は、吸着面31での吸着において、空隙33も活用されて確実に吸着される。
図17は、本発明の実施の形態3における吸着具の側面図である。図17は、吸着具3が、吸着対象物50を空隙33に一部を収容しながら吸着している状態を示している。吸着具3は、吸着対象物50を確実に吸着できる。
以上のように、実施の形態3におけるピッキング装置1は、吸着具3によって、確実に吸着対象物50を吸着できる。
(下降完了時の袋の整え)
ピッキング装置1は、第1位置から第2位置までの第1段階の下降において、予備下降制御部8を用い、第2位置から第3位置までの第2段階の下降において、吸引空気制御部25を用いる。すなわち、下降が完了した際には、吸引空気が消失している。しかしながら、第2段階の下降においては、吸引空気による吸引圧力が残った状態である。このため、設置面にまで下降された吸着対象物50が袋物である場合には、その袋の表面に凸部が生じることがある。
図18は、実施の形態3における下降完了時の袋物の外形を示す模式図である。図18は、下降完了後の吸着対象物50の状態を示している。ここでは、吸着対象物50は、袋物である。袋物の袋51は、吸着具3の吸着面31に吸着されていたために、下降完了時に、吸着面31に対応して凸部52が生じてしまうことがある。
このような凸部52が生じても、袋物の内容物には影響はない。また袋51が破れるなどの問題も生じない(破れるのであれば、吸着時もしくは平面方向の移動時に破れるので)。しかしながら、ピッキング装置1による移動後に、箱に詰められた袋物の見た目が気にされることもある。
このような凸部52をなるべく生じさせないような対応がピッキング装置1に求められることもある。
(対応1)
対応の一つとして、吸引空気制御部25は、吸引空気発生器26を制御して、吸着対象物50が第3位置に到達したところで、押圧空気を吸引管路2に付与させる。もちろん、吸着対象物50ではなく昇降部材9を下降位置の基準とする場合には、昇降部材9の基準位置が、第3位置に到達したところで、同様の押圧空気の付与が行われる。
吸引空気制御部25は、第2位置から第3位置までの下降において、吸引空気を消失させていく。この消失によって、昇降部材9が下降すると共に吸着対象物50を開放する。この下降の完了のタイミングに合わせて、押圧空気が付与されることで、凸部52が生じにくくなる。凸部52は、袋51の表面の変形に過ぎないので、押圧空気による圧力で、この凸部52が生じるのを防止できる。
(対応2)
対応の2つ目として、吸着具3は、接触部32の外周に押さえ部材が設けられる。吸着具3は、図16などに示されるとおり、袋物を確実に吸着できるように、接触部32を有している。この接触部32の周囲に押さえ部材が設けられることで、袋物の袋51の表面を広く押さえることができるので、凸部52を生じさせにくくなる。
例えば、図19のように、リング形状の押さえ部材36が設けられることでもよい。図19は、本発明の実施の形態3における吸着具の底面図である。図19は、吸着具3を底面側から見た状態を示している。押さえ部材36は、接触部32の外周に設けられる。ここでは、図16のような吸着具3であるので、接触部3もリング状である。このため、接触部3の外周に設けられる押さえ部材36もリング形状となる。
このような押さえ部材36により、広い面積で、袋51の表面を押さえることができるので、凸部52を生じにくくさせる。
なお、実施の形態1〜3で説明されたピッキング装置は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含む。