本発明のインダクタ用軟磁性材料(以下、単に「本発明の軟磁性材料」または「軟磁性材料」とも称する)は、Fe2O3が15〜50モル%、ZnOが2〜10モル%、CuOが2〜10モル%、NiOが1〜30モル%、およびMnOが35〜65モル%(Fe2O3、ZnO、CuO、NiO及びMnOの合計量=100モル%)を有する軟磁性材料(以下、「本発明に係るMnNiZnCu系フェライト」または「MnNiZnCu系フェライト」とも称する)と、前記軟磁性材料100重量部に対して、0.05〜15重量部の酸化カルシウム(CaO)および二酸化ケイ素(SiO2)(以下、一括して「本発明に係る添加成分」とも称する)の少なくとも一方と、を含む。
上述したように、特許文献1に記載の軟磁性材料は、抵抗率及び比透磁率は高いものの、飽和磁化が低い。このため、特許文献1に記載の軟磁性材料を電源回路等に用いるインダクタを用いて1A以上の電流を通電すると、磁気飽和し急激なインダクタンス値の低下が生じてしまう。これを回避するためには、高い飽和磁化を有する磁性材料が必要である。しかしながら、例えば、Fe−Si合金は、高い飽和磁化を有するものの、抵抗率が低く、比透磁率の分散周波数が低いため、10MHz以上の動作周波数が要求されるデジタル回路においては、損失が大きくなってしまう。すなわち、一般的に高飽和磁化材料では飽和磁化を上昇することはできるが、他の電磁的特性を低下させてしまう。
これに対して、上記組成を有する本発明のインダクタ用軟磁性材料は、高い飽和磁化(磁気モーメント)、比透磁率及び抵抗率を示す。上記効果のうち、飽和磁化(磁気モーメント)および抵抗率の向上効果は、主に上記した本発明に係るMnNiZnCu系フェライトの組成によって達成されうる。また、比透磁率の向上効果は、主に本発明に係るMnNiZnCu系フェライトに特定量添加される本発明に係る添加成分によって達成できる。なお、本発明は、上記メカニズムに限定されるものではない。加えて、本発明のインダクタ用軟磁性材料は、低温焼成が可能であり、特に920℃以下の温度での焼成による緻密化が可能である。従来の軟磁性材料の製造方法では、焼成工程は、約1000〜1400℃で1〜5時間程度行われる。一方、チップインダクタやチップビーズフィルター等の電子部品の内部電極にAg電極が通常使用される。銀の融点は962℃と焼成温度より低いため、非常に高い温度条件で製造された部品では、一般的な周波数帯域の500kHz〜20MHzにおいて損失が非常に大きく、要求される電磁的特性(例えば、インダクタンス)を実現するのに非常に難しいという問題点があった。しかしながら、上述したように、本発明のインダクタ用軟磁性材料は920℃以下での低温焼成が可能であるため、上記したような焼成工程による上記高周波帯域での損失が少なく、電磁的特性(例えば、インダクタンス)の低下を抑制・防止できる。
したがって、本発明のインダクタ用軟磁性材料は、チップインダクタ、チップビーズ等のチップ部品、巻線型インダクタ等の電磁波の遮蔽部品などに好適に使用できる。
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味し、「重量」と「質量」、「重量%」と「質量%」及び「重量部」と「質量部」は同義語として扱う。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定する。
[インダクタ用軟磁性材料]
本発明のインダクタ用軟磁性材料は、(a)特定組成のMnNiZnCu系フェライト、ならびに(b)当該MnNiZnCu系フェライトに対して、0.05〜15重量部の酸化カルシウム(CaO)および/または二酸化ケイ素(SiO2)を含む。
上記組成のインダクタ用軟磁性材料は、高い飽和磁化(磁気モーメント)を有し、比透磁率および抵抗率が高い。特に、本発明のインダクタ用軟磁性材料は、高い飽和磁化(磁気モーメント)、比透磁率及び抵抗率をバランスよく示す。具体的には、本発明のインダクタ用軟磁性材料の飽和磁化(磁気モーメント;Ms)は、好ましくは60(A・m2/kg(emu/g))以上であり、より好ましくは70(A・m2/kg(emu/g))以上である。なお、本発明のインダクタ用軟磁性材料の飽和磁化(磁気モーメント;Ms)の上限は、特に制限されないが、90(A・m2/kg(emu/g))以下であり、好ましくは80(A・m2/kg(emu/g))以下である。本明細書において、「飽和磁化」は、振動試料型磁力計(理研電子株式会社製、BHV−7.5TRSCMT)を用いて、外部磁場796kA/m(10キロエルステッド(kOe))を印加して得られたヒステリシス曲線から求められる。
本発明のインダクタ用軟磁性材料の比透磁率は、好ましくは20以上であり、より好ましくは50以上である。なお、本発明のインダクタ用軟磁性材料の比透磁率の上限は、特に制限されないが、500以下であり、好ましくは300以下である。本明細書において、「透磁率」および「比透磁率」は、以下の方法に従って、測定した値とする。具体的には、透磁率(μ)(H/m)は、16454A磁性材料測定電極(アジレントテクノロジー社製)を用いた測定システムにより、透磁インピーダンスアナライザ(アジレントテクノロジー社製、E4991A)を用いて1MHzにおいて測定される。比透磁率(μs)は、真空の透磁率(μ0=4π×10−7H/m)に対する透磁率(μ)の比(μs=μ/μ0)として測定される。
本発明のインダクタ用軟磁性材料の抵抗率(体積抵抗率)(ρ)は、好ましくは103(Ω・cm)以上であり、より好ましくは106(Ω・cm)である。なお、本明細書において、「抵抗率」は、ハイレジスタンスメータ(アジレントテクノロジー社製、4339B)を用いて、円板状焼結体の両面に電極ペーストを塗布し、焼付けた状態を二端子方式で測定することによって、求められる。
また、本発明のインダクタ用軟磁性材料は、銀の融点である962℃以下、好ましくは920℃以下(特に、900℃以下)での低温焼成が可能である。具体的には、920℃以下(特に、900℃以下)の温度での焼成過程で粒子の整列化および緻密化を進行できる。このため、内部電極にAg電極を使用して積層インダクタを作製しても、一般的な周波数帯域の500kHz〜20MHzにおける損失を低減して、高い電磁的特性(例えば、インダクタンス)を実現できる。
(MnNiZnCu系フェライト)
本発明に係るMnNiZnCu系フェライトは、Fe2O3が15〜50モル%、ZnOが2〜10モル%、CuOが2〜10モル%、NiOが1〜30モル%、およびMnOが35〜65モル%の組成を有する。ここで、Fe2O3、ZnO、CuO、NiO及びMnOの合計量は、100モル%である。本発明に係るMnNiZnCu系フェライトは、結晶構造によって、スピネル型、ガーネット型またはフェロクスプレーナ型のいずれであってもよいが、好ましくはスピネル型である。スピネル型フェライトは、広い周波数範囲にわたって透磁率特性に優れる。
上記構成のうち、MnOの含有量は、MnNiZnCu系フェライトの構成金属酸化物(Fe2O3+ZnO+CuO+NiO+MnO=100モル%;以下、同様)に対して、35〜65モル%である。このような量のMnO(即ち、2価のMn)が存在することによって、本発明の軟磁性材料の飽和磁化(磁気モーメント)及び抵抗率を所望のレベルにまで上昇させることができる。なお、上記範囲であれば、MnOの含有量は飽和磁化及び抵抗率に比例する(即ち、MnOの含有量を増やすと、飽和磁化及び抵抗率が上がる)。ここで、MnOの含有量がMnNiZnCu系フェライトの構成金属酸化物に対して35モル%未満であると、得られる軟磁性材料の飽和磁化(磁気モーメント)や及び抵抗率を過度に低下させてしまう。逆に、MnOの含有量が65モル%を超えると、添加に見合う飽和磁化や抵抗率の上昇効果が得られず、また、他の金属酸化物成分の含有量が減り、当該他の金属酸化物成分による効果が十分達成できない。飽和磁化(磁気モーメント)及び抵抗率のより有効な上昇効果を考慮すると、MnOの含有量は、MnNiZnCu系フェライトの構成金属酸化物に対して、好ましくは36〜63モル%であり、特に好ましくは37〜61モル%である。
NiOの含有量は、MnNiZnCu系フェライトの構成金属酸化物に対して、1〜30モル%である。このような量のNiOが存在することによって、本発明の軟磁性材料の抵抗率を向上できる。また、NiOは本発明の軟磁性材料の温度安定性を向上できる。ここで、NiOの含有量が1モル%未満であると、NiOの添加効果が十分発揮できず、得られる軟磁性材料の抵抗率や温度安定性を過度に低下させてしまう。逆に、NiOの含有量が30モル%を超えると、添加に見合う抵抗率や温度安定性の上昇効果が得られず、また、電磁的特性(例えば、インダクタンス)が過度に低下してしまう。抵抗率や温度安定性のより有効な上昇効果を考慮すると、NiOの含有量は、MnNiZnCu系フェライトの構成金属酸化物に対して、好ましくは5〜27モル%であり、特に好ましくは10〜25モル%である。
ZnOの含有量は、MnNiZnCu系フェライトの構成金属酸化物に対して、2〜10モル%である。本発明のMnNiZnCu系フェライト(特にスピネル型MnNiZnCu系フェライト)では、A−siteをZnで置換することによって、飽和磁化を上昇させ、A−O−B超交換磁気結合によるフェリ磁性磁気モーメントを上昇することが可能である。その一方、非磁性原子による置換は磁気モーメントの熱安定性の低下を誘発し、この傾向はMnZn系フェライトで特に顕著にあらわれる。このため、ZnO量を上記したような量とすることによって、熱安定性は維持しつつ、室温における飽和磁化を向上できる。すなわち、ZnOの含有量を上記したような量にまで低減することによって、本発明の軟磁性材料のキュリー温度(Tc)を十分上昇させ、常用周波数帯域(50kHz〜20MHz)での損失を低減して、飽和磁化を上昇させつつ、十分高い電磁的特性(例えば、インダクタンス)を実現できる。また、ZnOは、本発明の軟磁性材料の比透磁率を上昇できる。ここで、ZnOの含有量が2モル%未満であると、得られる軟磁性材料の飽和磁化および比透磁率が低下してしまう。逆に、ZnOの含有量が10モル%を超えると、室温における飽和磁化が低下し、得られる軟磁性材料は十分高い飽和磁化を発揮できない。また、キュリー温度(Tc)が低下し、十分高い電磁的特性(例えば、インダクタンス)を発揮できない。キュリー温度(Tc)のより有効な上昇効果を考慮すると、ZnOの含有量は、MnNiZnCu系フェライトの構成金属酸化物に対して、好ましくは3〜9モル%であり、特に好ましくは5〜8モル%である。
CuOの含有量は、MnNiZnCu系フェライトの構成金属酸化物に対して、2〜10モル%である。このような量のCuOが存在することによって、本発明の軟磁性材料は、銀の融点より低い920℃以下(特に、900℃以下)での焼成による緻密化(低温焼成)を可能にする。このため、Ag電極(内部電極)と同時焼成して積層インダクタを作製しても、一般的な周波数帯域の500kHz〜20MHzにおける損失を十分低減して、電磁的特性(例えば、インダクタンス)を低下させない。また、CuOは、本発明の軟磁性材料の融点を下げるため、低温(例えば、920℃以下)焼成での緻密化をより有効に促進できる。ここで、CuOの含有量が2モル%未満であると、CuOの添加効果が十分発揮できず、低温での緻密化が困難になる。逆に、CuOの含有量が10モル%を超えると、得られる軟磁性材料の飽和磁化および比透磁率が低下してしまう。低温(920℃以下)での焼成による緻密化(低温焼成能)のさらなる向上効果を考慮すると、CuOの含有量は、MnNiZnCu系フェライトの構成金属酸化物に対して、好ましくは2〜7モル%であり、特に好ましくは2〜5モル%である。
Fe2O3の含有量は、MnNiZnCu系フェライトの構成金属酸化物に対して、15〜50モル%である。このような量のFe2O3(特に、3価のFe)が存在することによって、本発明の軟磁性材料は高い抵抗率を発揮できる。ここで、Fe2O3の含有量が15モル%未満であると、Mn3O4やNiOが生成して、得られる軟磁性材料の飽和磁化および比透磁率が低下してしまう。逆に、Fe2O3の含有量が50モル%を超えると、抵抗率が過度に低下してしまう。抵抗率のより高い上昇効果を考慮すると、Fe2O3の含有量は、MnNiZnCu系フェライトの構成金属酸化物に対して、好ましくは17〜40モル%であり、特に好ましくは18〜35モル%である。なお、鉄は、3価のFeに加えて、2価の形態もとりうるが、可能な限り3価のFeの状態(即ち、Fe2O3)であることが好ましい。本発明に係るMnNiZnCu系フェライトの製造工程中、特に仮焼成及び焼成工程では、還元雰囲気中で行うことが好ましい。これにより、2価のFe(Fe2+)の生成を抑制・防止して、3価のFe(Fe3+)を優先的に生成できる。
すなわち、上述したように、本発明に係るMnNiZnCu系フェライトは、(特に高いMn含有量により)高い飽和磁化、(特に低いFe含有量により)高い抵抗率、(特に低Zn含有量により)高いキュリー温度を発揮できる。
(本発明に係る添加成分)
本発明の軟磁性材料は、上記本発明に係るMnNiZnCu系フェライト100重量部に対して、0.05〜15重量部の酸化カルシウム(CaO)および二酸化ケイ素(SiO2)を含む。ここで、本発明に係る添加成分量(酸化カルシウム及び二酸化ケイ素の合計重量)が0.05重量部未満であると、得られる軟磁性材料の比透磁率が過度に低下してしまう。逆に、本発明に係る添加成分量が15重量%を超えると、磁性材料部分が減り、その結果、得られる軟磁性材料の飽和磁化および比透磁率が低下してしまう。比透磁率のより高い上昇効果を考慮すると、本発明に係る添加成分量は、本発明に係るMnNiZnCu系フェライト100重量部に対して、好ましくは0.5〜10重量部、より好ましくは1〜5重量である。なお、本発明の軟磁性材料が酸化カルシウム(CaO)および二酸化ケイ素(SiO2)双方を含む場合には、上記添加成分量はこれらの合計量を意味する。
上述したように、添加成分(酸化カルシウムおよび/または二酸化ケイ素)は、軟磁性材料の比透磁率を向上できる。ここで、上記添加成分が軟磁性材料の比透磁率を上昇するメカニズムは不明であるが、以下のように推測される。なお、本発明は、下記推測によって限定されない。すなわち、酸化カルシウム(CaO)および二酸化ケイ素(SiO2)は、低温(例えば、600℃程度)で軟化する特性を有する。このため、本発明に係るMnNiZnCu系フェライトと一緒に混合した後、低温(例えば、900℃)で焼成すると、添加成分は液相形態をとる、液相焼成が起こる。このため、添加成分は本発明に係るMnNiZnCu系フェライト粒子を被覆した状態で粒界に存在する。すなわち、本発明のインダクタ用軟磁性材料は、920℃以下の低温での焼成により緻密な構造をとる(低温焼成能を向上する)ことが可能である。上記に加えて、本発明のインダクタ用軟磁性材料では、焼成工程時に、過度な粒成長を抑制・防止できる。ゆえに、本発明の軟磁性材料は、高い比透磁率を発揮できる。
また、添加成分(酸化カルシウムおよび/または二酸化ケイ素)は、本発明に係るMnNiZnCu系フェライト粒子との反応性が低い。このため、以下に詳述するが、本発明の軟磁性材料の製造で焼成操作を行うが、その際にも添加成分(酸化カルシウムおよび/または二酸化ケイ素)は本発明に係るMnNiZnCu系フェライト粒子との望ましくない反応を起こしにくいまたは起こさない。さらに、添加成分は、本発明の軟磁性材料の抵抗率を上げるように作用する。加えて、添加成分は、本発明に係るMnNiZnCu系フェライト粒子中に入りにくい。このため、添加成分は本発明に係るMnNiZnCu系フェライト粒子を被覆した状態で粒界に容易に存在することができる。
本発明において、本発明の軟磁性材料は、酸化カルシウム(CaO)および二酸化ケイ素(SiO2)は、少なくとも一方を含めばよい。すなわち、本発明の軟磁性材料は、(i)MnNiZnCu系フェライト100重量部に対して、0.05〜15重量部の酸化カルシウム(CaO)を単独で含む;(ii)MnNiZnCu系フェライト100重量部に対して、0.05〜15重量部の二酸化ケイ素(SiO2)を単独で含む;(iii)MnNiZnCu系フェライト100重量部に対して、合計0.05〜15重量部の酸化カルシウム(CaO)及び二酸化ケイ素(SiO2)を混合形態で含む;(iv)上記(i)〜(iii)の形態に加えて、他の成分をさらに含む;形態すべてを包含する。上記(iv)の形態において、他の成分は、特に制限されないが、比透磁率のより有効な上昇効果を考慮すると、ホウ素(例えば、B2O3)、ビスマス(例えば、Bi2O3)、コバルト(例えば、Co2O3、Co3O4)、チタン(例えば、TiO2)、スズ(例えば、SnO、SnO2、SnO3)、亜鉛(例えば、ZnO)、リン(例えば、P2O5)などが挙げられる。これらのうち、比透磁率のより有効な上昇効果を考慮すると、ビスマス(例えば、Bi2O3)、リン(例えば、P2O5)が好ましい。また、上記(iv)の形態において、他の成分の添加量は、特に制限されないが、比透磁率のより有効な上昇効果を考慮すると、本発明に係る添加成分量(酸化カルシウム及び二酸化ケイ素の合計重量)100重量部に対して、50〜200重量部であることが好ましい。
本発明の軟磁性材料の組成は、特に制限されないが、例えば、誘導結合プラズマ−原子発光分光分析(ICP−AES)によって測定することができる。
(本発明の軟磁性材料の製造方法)
本発明の軟磁性材料は、上記組成を有する限り、いずれの方法によって製造されてもよいが、好ましくは下記製造方法によって製造される。以下、本発明の軟磁性材料の好ましい製造方法を説明するが、本発明は下記好ましい形態に限定されない。
すなわち、本発明の軟磁性材料は、
(a)本発明に係るMnNiZnCu系フェライトの所望の組成となるように、各金属酸化物(Fe2O3、ZnO、CuO、NiO及びMnO)を秤量し混合機で混合して、混合物(a)を調製し;
(b)上記(a)で得られた混合物(a)を不活性雰囲気中で熱処理(仮焼成)して、スピネル型金属酸化物粉末を調製し;
(c)上記(b)で得られた金属酸化物粉末を粉砕して、粉砕物を得;
(d)上記(c)で得られた粉砕物に、添加成分(酸化カルシウムおよび/または二酸化ケイ素)を所定量添加して、混合物(d)を調製し;
(e)上記(d)で得られた混合物を成形して、成形体を得;
(f)上記(e)で得られた成形体を焼成して、焼結物を得る
ことによって、製造できる。
(工程(a))
本工程では、本発明に係るMnNiZnCu系フェライトの所望の組成となるように、各金属酸化物(Fe2O3、ZnO、CuO、NiO及びMnO)を秤量し混合機で混合して、混合物(a)を調製する。
ここで、混合機は特に制限されず、公知の混合機が使用できるが、原料が均一にかつ迅速に混合できるという点から、ニーダー、ブレンダーが好ましく使用できる。また、比較的少量での混合が可能である、粉砕を同時にできるなどの観点からは、ボールミルが好ましく使用できる。
(工程(b))
本工程では、上記(a)で得られた混合物(a)を不活性雰囲気中で熱処理(仮焼成)して、スピネル型金属酸化物粉末を調製する。
ここで、不活性雰囲気は、いずれの不活性ガスによって形成されてもよいが、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムまたはこれらの混合ガスによって形成されうる。また、熱処理(仮焼成)条件は、スピネル型金属酸化物が形成できる条件であれば特に制限されない。例えば、熱処理(仮焼成)温度は、600〜900℃でありうる。また、熱処理(仮焼成)時間は、2〜4時間である。このような条件であれば、フェライト化を進行でき、以下の焼成(工程(f))での成形を容易にでき、焼きちぢみを低減できる。または、100〜400℃で1〜4時間、熱処理したもの(低温処理物)と、650〜880℃(より好ましくは、700〜850℃)で2〜4時間、熱処理したもの(高温処理物)を、適宜(例えば、低温処理物:高温処理物の混合比(重量比)=1:5〜8)混合して、この混合物を次工程(c)で使用してもよい。
(工程(c))
本工程では、上記(b)で得られた金属酸化物粉末を粉砕して、粉砕物を得る。
ここで、粉砕は、いずれの方法を用いてもよいが、粗粉砕、微粉砕およびこれらの組み合わせが好ましく使用される。ここで、粗粉砕方法は、特に制限されないが、例えば、ジョークラッシャー、アトマイザ、スタンプミルなどの粗粉砕機を使用して、粗砕きすることができる。また、微粉砕方法もまた、特に制限されないが、例えば、ボールミル、振動ミル、塔式粉砕機などの微粉砕機を使用して、微粉砕することができる。
また、当該工程によって得られる粉砕物の大きさは、特に制限されないが、成形工程(工程(e))での成形密度の高い粒度分布の得やすさ、焼成工程(工程(f))での焼成反応の起こりやすさなどを考慮すると、粉砕物の大きさ(最大長さ)が、好ましくは1μm以下、より好ましくは10〜500nm、特に好ましくは50〜200nmのナノ粒子形状である。
(工程(d))
本工程では、上記(c)で得られた粉砕物に、添加成分(酸化カルシウムおよび/または二酸化ケイ素)を所定量添加して、混合物(d)を調製する。
ここで、添加成分(酸化カルシウムおよび/または二酸化ケイ素)の添加量は、上記(c)で得られた粉砕物100重量部に対して、0.05〜15重量部であり、好ましい添加量は、上記したのと同様である。
上記(c)で得られた粉砕物と添加成分との混合方法は、特に制限されず、上記工程(a)で例示されたのと同様の混合機が使用できる。
また、添加成分は、いずれの形態で上記(c)で得られた粉砕物と混合されてもよいが、低温(例えば、600℃程度)での軟化しやすさ(液相焼成の起こりやすさ)、上記(c)で得られた粉砕物(本発明に係るMnNiZnCu系フェライト粒子)の被覆しやすさ、焼成工程(工程(f))による緻密化しやすさ(緻密な構造のとりやすさ)などを考慮すると、粒子状であることが好ましく、微粒子状であることがより好ましい。また、添加成分の大きさは、特に制限されないが、低温(例えば、600℃程度)での軟化しやすさ(液相焼成の起こりやすさ)、上記(c)で得られた粉砕物(本発明に係るMnNiZnCu系フェライト粒子)の被覆しやすさ、焼成工程(工程(f))による緻密化しやすさ(緻密な構造のとりやすさ)などを考慮すると、添加成分の大きさ(最大長さ)が、好ましくは1〜100nm、より好ましくは20〜50nmである。
(工程(e))
本工程では、上記(d)で得られた混合物を(最終製品の形に)成形して、成形体を得る。ここで、成形方法は、特に制限されず、公知の成形方法が同様にしてあるいは適宜修飾して適用できる。例えば、金型を使用する;自動成形機を使用する(大量に同一形状の成形体を得る時に特に好適である)などがある。
なお、混合物(粒子)間の摩擦を低減したり、粒子の流れを向上して均一な成形体を得ることを目的として、粘着剤(例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール水溶液、メチルセルロース)、潤滑剤(例えば、ワックス、ステアリン酸)を使用してもよい。ここで、上記粘着剤や潤滑剤を使用する場合の、これらの添加量は、特に制限されず、混合物(粒子)間の摩擦の低減効果、粒子の流れを向上効果(成形体の均一性)などを考慮して、混合物の組成(構成)によって適宜選択できる。上記粘着剤や潤滑剤に代えてまたは上記粘着剤や潤滑剤に加えて、MnNiZnCu系フェライト粒子の凝集を抑制・防止することを目的として、分散/反応抑制剤(例えば、マニトル、プロピレングリコール)を使用してもよい。ここで、上記反応抑制剤を使用する場合の添加量は、特に制限されず、MnNiZnCu系フェライト粒子の凝集の低減効果などを考慮して、混合物の組成(構成)によって適宜選択できる。
成形条件は、所望の成形体が得られる条件であれば特に制限されない。例えば、混合物への均一な圧力がかかり、成形密度が均一な成形体が得られるように、混合物の大きさや形状、金型設計、成形圧力などを適宜選択することが好ましい。なお、成形操作を圧力下で行ってもよく、例えば、1t/cm2前後の圧力下で行ってもよい。
上記工程(e)で得られる成形体の大きさ(最大長さ)は、制限されないが、好ましくは0.1〜10mm程度、より好ましくは4〜7mm程度である。または、成形体は、外径(直径)が17〜20mmでかつ内径(直径)が8〜10mmのリングコアの形状であってもよい。
(工程(f))
本工程では、上記(e)で得られた成形体を焼成して、焼結物を得る。当該工程で、成形体を高温で加熱して、フェライト化を完全に進行させ、得られる焼結物の密度及び機械的強度を高める。
ここで、焼成条件は、特に制限されず、公知の焼成条件が同様にして、あるいは適宜修飾して適用できる。例えば、フェライト中の酸素量を最適化するために、焼成を、酸素を含む雰囲気中で行うことが好ましい。また、焼成温度は特に制限されないが、焼結物の密度、結晶組織、結晶粒の大きさを考慮すると、好ましくは750〜910℃、より好ましくは860〜900℃である。また、焼成時間も特に制限されないが、焼結物の密度、結晶組織、結晶粒の大きさを考慮すると、好ましくは1〜10時間、より好ましくは2〜4時間である。このような条件であれば、粒子の整列化および緻密化が有効に進行できる。また、所定の焼成温度への昇温速度は、特に制限されず、昇温工程時に空孔が形成されるのが抑制・防止され、比透磁率や品質係数値の低下を有効に抑制・防止できる観点から、適切に選択しうる。また、焼成には、温度、焼成雰囲気の制御の容易さなどの観点から、抵抗電気炉が好ましく使用される。または、大量生産性の観点からは、トンネル炉(長い炉の一方の口から台車に乗せた成形体を送り込み、他方の口から焼結物が連続的に押し出される大型電気炉)を使用してもよい。
上記焼成工程後、25〜200℃まで冷却する。ここで、冷却速度は、特に制限されず、MnNiZnCu系フェライトを構成する金属酸化物成分(例えば、CuO成分)の析出(当該析出による電磁気的特性の低下)を抑制する観点から、適切に選択しうる。
また、上記工程(f)の後、必要であれば、焼結物を研磨および/または加工してもよい。具体的には、焼結物の磁心の表面を精密な平面となる(隙間を生じない)ような加工をしてもよい。または、カーボランダム(SiC)等の研磨剤を用い、表面ラップ盤、表面研磨盤(surface grinder)などを用いて、研磨加工して精密な平面としてもよい。
また、上記工程(e)でリングコアを成形体として得た場合には、リングコアに同線を巻いて(被覆して)、トロイダルコアを製造してもよい。
上記形態では、予めMnNiZnCu系フェライト(スピネル型金属酸化物粉末)を作製した後、得られたMnNiZnCu系フェライト(スピネル型金属酸化物粉末の粉砕物)に添加成分を添加して、本発明の軟磁性材料を作製した。しかし、上述したように、本発明は、上記形態に限定されることなく、本発明の軟磁性材料を他の方法によって製造してもよい。具体的には、(a’)本発明に係るMnNiZnCu系フェライトの所望の組成となるような、各金属酸化物(Fe2O3、ZnO、CuO、NiO及びMnO)、ならびに所定量の添加成分(酸化カルシウムおよび/または二酸化ケイ素)を秤量し、混合機で混合して、混合物(a’)を調製し;(b’)上記(a’)で得られた混合物(a’)を不活性雰囲気中で熱処理(仮焼成)して、スピネル型金属酸化物粉末含有混合物(b’)を調製し;(c’)上記(b’)で得られた金属酸化物粉末含有混合物(b’)を粉砕して、粉砕物を得;(e’)上記(c’)で得られた粉砕物を成形して、成形体を得;(f’)上記(e’)で得られた成形体を焼成して、焼結物を得る方法も使用できる。すなわち、上記方法は、予め、所定量の金属酸化物(Fe2O3、ZnO、CuO、NiO及びMnO)、ならびに所定量の添加成分(酸化カルシウムおよび/または二酸化ケイ素)を混合して、本発明の軟磁性材料を作製する方法である。なお、本形態の各工程(a’)〜(c’)、(e’)および(f’)は、(a’)において、本発明の軟磁性材料を構成する各成分を混合する以外は、上記(a)〜(c)、(e)および(f)と同様の方法が適用されうる。
本発明の軟磁性材料および上記したようにして製造された本発明の軟磁性材料は、高い飽和磁化(磁気モーメント)を有し、低温焼成が可能であり、高い比透磁率を有し、高い抵抗率を有する。このため、本発明の軟磁性材料は、インダクタ、特に積層インダクタに好適に使用できる。ここで、本発明の軟磁性材料を用いたインダクタの製造方法は、特に制限されず、本発明の軟磁性材料を用いる以外は、公知の方法を同様にしてあるいは適宜修飾して適用できる。以下、本発明の軟磁性材料を用いたチッブ型インダクタの好ましい製造方法を説明する。なお、本発明は、下記形態に限定されない。すなわち、本発明の軟磁性材料に、バインダー(例えば、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)、メチルセルロース、オレイン酸、プロピレングリコール、トルエンまたはマニトル等の有機高分子)を約1:1〜1:4の混合比(重量比)で添加した後、ドクターブレード法でグリーンシートを作製する。このようにして作製されたグリーンシート複数枚を積層した後、積層したシート上に内部電極(例えば、Ag内部電極)を印刷する。この内部電極上に、さらに上記と同様にして作製されたグリーンシートを複数枚積層して、積層体を作製する。この積層体を、低温(例えば、750〜910℃、より好ましくは860〜900℃)で焼成して、焼結体を作製する。このようにして得られた焼結体に外部電極を形成することによって、チッブ型インダクタを製造できる。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「重量%」および「重量部」を意味する。
実施例1〜4
下記表1のような組成となるように原料(MnO、NiO、ZnO、CuO、Fe2O3)を秤量し、その原料をポリウレタンのジャーに投入し、YTZボールで、原料総重量の2倍の蒸留水を添加しながら平均粒径が0.1μmになるように約20時間粉砕し、混合、乾燥した。混合した粉末を、窒素雰囲気(4N 窒素ガス使用、酸素濃度:0.01体積%、0.4L/minの流速)下で、約800℃で4時間仮焼成して、スピネル型MnNiZnCu系フェライト粉末を調製した。得られたMnNiZnCu系フェライト粉末を、上記ジャーにおいて、平均粒径が0.1μmになるように再粉砕して、粉砕物を得た。
次に、この粉砕物100重量部に対して、酸化ケイ素(SiO2) 0.75重量部および炭酸カルシウム(CaCO3) 1.25重量部を添加して、約12時間、再粉砕した。粉末の粒度が0.1〜0.5μmとなったら、乾燥機で乾燥して、乾燥粉末を得た。
さらに、この乾燥粉末 100重量部に、2.5重量部のポリビニルアルコールおよび1重量部のマニトルをバインダーとして添加した後、60メッシュのふるいで分級して、均一な粒子を得た。この粒子を、外径25mm、内径18mm、高さ4.5mmトロイダルコアとしてプレス成型し、上記成型体を焼結した。この際、大気中で、約400℃までは約1℃/分の速度で昇温し、400℃で約1時間維持して脱バインダーし、次いで窒素雰囲気(4N 窒素ガス使用、酸素濃度:0.01体積%、0.4L/minの流速)下で、900℃までは約5℃/分の速度で昇温し、900℃で2時間焼結を行った後、常温(約25℃)までは2℃/分の速度で冷却して、軟磁性材料(1)〜(4)を得た。
このように得られた軟磁性材料(1)〜(4)について、下記方法に従って、密度(g・cm3)、抵抗率(Ω・cm)、比誘電率、誘電損失、比透磁率、磁気損失および飽和磁化(emu/g)を測定し、結果を下記表1に示す。また、上記で得られた軟磁性材料(1)〜(4)について、X線回析パターンを得て、結晶構造を同定し、結果を下記表1に示す。
(抵抗率の測定)
ハイレジスタンスメータ(アジレントテクノロジー社製、4339B)を用いて焼結体に対向電極を塗布した状態で、二端子方式で、抵抗率(体積抵抗率)(ρ)(Ω・cm)を測定する。
(比誘電率および誘電損失の測定)
比誘電率(εr’)は、164543A誘電体測定電極(アジレントテクノロジー社製)を用いた測定システムにより、インピーダンスアナライザ(アジレントテクノロジー社製、E4991A)を用いて、1MHzにおいて測定する。直径10mm、厚み2mmの円板状35 試料を作製し、比誘電率を容量法を用いて測定した。また、複素誘電率εrは、真空の誘電率(ε0)に対する材料誘電率εの比ε/ε0で定義される。複素誘電率をεr=εr’−j・εr”とすると、比誘電率は実数項εr’で定義される。誘電損失(tanδ)は、εr’/εr”で定義される。誘電損失(tanδ)は、誘電体材料によるエネルギー損失の発生に関係する値である。
(透磁率および比透磁率の測定)
透磁率(μ)は、16454A磁性材料測定電極(アジレントテクノロジー社製)を用いた測定システムにより、インピーダンスアナライザ(アジレントテクノロジー社製、E4991A)を用いて1MHzにおいて測定する。また、比透磁率(μs)は、真空の透磁率(μ0=4π×10−7H/m)に対する透磁率(μ)の比(μs=μ/μ0)として測定される。
(磁気損失の測定)
各名磁性材料(焼結体)から、外径20mm、内径14mm、厚さ3mmのトロイダルコアを切り出し、1MHz・100mTにおける磁気損失を、20〜120℃の間で20℃きざみで測定する。磁気損失の測定方法は、線径0.12mmφの絶縁導線を巻いた試料を準備し、交流B−Hカーブ・トレーサーを用いて測定する。
(飽和磁化)
飽和磁化(emu/g)は、振動試料型磁力計(理研電子株式会社製、BHV−7.5TRSCMT)を用いて、外部磁場796kA/m(10キロエルステッド(kOe))を印加して得られたヒステリシス曲線から求められる。
比較例1〜10
下記表1のような組成となるように原料(MnO、NiO、ZnO、CuO、Fe2O3)を秤量し、その原料をポリウレタンのジャーに投入し、YTZボールで、原料総重量の2倍の蒸留水を添加しながら平均粒径が0.1μmになるように約20時間粉砕し、混合、乾燥した。混合した粉末を、窒素雰囲気(4N 窒素ガス使用、酸素濃度:0.01体積%、0.4L/minの流速)下で、約800℃で4時間仮焼成して、Mn(Ni)ZnCu系フェライト粉末を調製した。得られたMnNiZnCu系フェライト粉末を、上記ジャーにおいて、平均粒径が0.1μmになるように再粉砕して、粉砕物を得た。
次に、この粉砕物 100重量部に、2.5重量部のポリビニルアルコールおよび1重量部のマニトルをバインダーとして添加した後、60メッシュのふるいで分級して、均一な粒子を得た。この粒子を、外径25mm、内径18mm、高さ4.5mmトロイダルコアとしてプレス成型し、上記成型体を焼結した。この際、大気中で、約400℃までは約1℃/分の速度で昇温し、400℃で約1時間維持して脱バインダーし、次いで窒素雰囲気(4N 窒素ガス使用、酸素濃度:0.01体積%、0.4L/minの流速)下で、900℃までは約5℃/分の速度で昇温し、900℃で2時間焼結を行った後、常温(約25℃)までは2℃/分の速度で冷却して、比較軟磁性材料(1)〜(10)を得た。
このように得られた比較軟磁性材料(1)〜(10)について、実施例1〜4に記載の方法と同様にして、密度(g・cm3)、抵抗率(Ω・cm)、比誘電率、誘電損失、比透磁率、磁気損失および飽和磁化(emu/g)を測定し、結果を下記表1に示す。また、実施例1〜4に記載の方法と同様にして、上記で得られた比較軟磁性材料(1)〜(10)について、X線回析パターンを得て、結晶構造を同定し、結果を下記表1に示す。
上記表1に示されるように、本発明の軟磁性材料は、比較例の軟磁性材料に比して、高い抵抗率、比透磁率および飽和磁化を有することが分かる。
参考例1〜5
下記表1のような組成となるように原料(MnO、ZnO、CuO、Fe2O3)を秤量し、その原料をポリウレタンのジャーに投入し、YTZボールで、原料総重量の2倍の蒸留水を添加しながら平均粒径が0.1μmになるように約20時間粉砕し、混合、乾燥した。混合した粉末を、窒素雰囲気(4N 窒素ガス使用、酸素濃度:0.01体積%、0.4L/minの流速)下で、約800℃で4時間仮焼成して、スピネル型MnZnCu系フェライト粉末を調製した。得られたMnZnCu系フェライト粉末を、上記ジャーにおいて、平均粒径が0.1μmになるように再粉砕して、粉砕物を得た。
次に、この粉砕物100重量部に対して、酸化ケイ素(SiO2) 0.75重量部および炭酸カルシウム(CaCO3) 1.25重量部を添加して、約12時間、再粉砕した。粉末の粒度が0.1〜0.5μmとなったら、乾燥機で乾燥して、乾燥粉末を得た。
さらに、この乾燥粉末 100重量部に、2.5重量部のポリビニルアルコールおよび1重量部のマニトルをバインダーとして添加した後、60メッシュのふるいで分級して、均一な粒子を得た。この粒子を、外径25mm、内径18mm、高さ4.5mmトロイダルコアとしてプレス成型し、上記成型体を焼結した。この際、大気中で、約400℃までは約1℃/分の速度で昇温し、400℃で約1時間維持して脱バインダーし、次いで窒素雰囲気(4N 窒素ガス使用、酸素濃度:0.01体積%、0.4L/minの流速)下で、900℃までは約5℃/分の速度で昇温し、参考軟磁性材料(1)〜(5)を得た。
このように得られた参考軟磁性材料(1)〜(5)について、実施例1〜4に記載の方法と同様にして、密度(g・cm3)、抵抗率(Ω・cm)、比誘電率、誘電損失、比透磁率、磁気損失および飽和磁化(emu/g)を測定し、結果を下記表2に示す。また、実施例1〜4に記載の方法と同様にして、上記で得られた参考軟磁性材料(1)〜(5)について、X線回析パターンを得て、結晶構造を同定し、結果を下記表2に示す。
上記表2中の参考例1〜3の比較から、CuOの濃度が低い方が飽和磁化の点で有利であるが、抵抗率はCuOの濃度にあまり依存しないことが分かる。また、上記表2中の参考例2、4及び5の比較から、ZnO濃度が高い方が抵抗率の点で有利であることが分かる。上記結果は、Znイオン及びCuイオンが結晶構造において専有するサイトに起因するものであるため、結晶構造がスピネル構造を維持する範囲であれば、NiO、MnO及びFe2O3の組成変化によっては、上記傾向は変わらないものと、推測される。