[貼付層]
本発明の貼付台シートは、貼り絵の彩色材(画像形成部材又は装飾部材)を貼り付けるための貼付層を含む。この貼付層は、捲縮繊維を含む不織布で形成されている。
(捲縮繊維)
捲縮繊維は、彩色材を貼着可能な捲縮を有していればよいが、通常、熱収縮率(又は熱膨張率)の異なる複数の樹脂が相分離構造を形成した複合繊維を加熱して得られる捲縮繊維である。加熱方法は、後述するように、熱風、加熱板、熱ローラーなどを用いた方法であってもよいが、厚み方向で均一な捲縮を発現でき、捲縮繊維の絡み合いにより薄肉でも不織布の形態安定性を向上できる点から、高温水蒸気を用いた方法が好ましい。
前記複合繊維は、複数の樹脂の熱収縮率(又は熱膨張率)の違いに起因して、加熱により捲縮を生じるような非対称又は層状(いわゆるバイメタル)構造を有する繊維(潜在捲縮繊維)である。複数の樹脂は、通常、軟化点又は融点が異なる。複数の樹脂は、例えば、ポリオレフィン系樹脂(低密度、中密度又は高密度ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリC2−4オレフィン系樹脂など)、アクリル系樹脂(アクリロニトリル−塩化ビニル共重合体などのアクリロニトリル単位を有するアクリロニトリル系樹脂など)、ポリビニルアセタール系樹脂(ポリビニルアセタール樹脂など)、ポリ塩化ビニル系樹脂(ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体など)、ポリ塩化ビニリデン系樹脂(塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン−酢酸ビニル共重合体など)、スチレン系樹脂(耐熱ポリスチレンなど)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂などのポリC2−4アルキレンアリレート系樹脂など)、ポリアミド系樹脂(ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド612などの脂肪族ポリアミド系樹脂、半芳香族ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンイソフタルアミド、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリp−フェニレンテレフタルアミドなどの芳香族ポリアミド系樹脂など)、ポリカーボネート系樹脂(ビスフェノールA型ポリカーボネートなど)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリウレタン系樹脂、セルロース系樹脂(セルロースエステルなど)などの熱可塑性樹脂から選択してもよい。さらに、これらの各熱可塑性樹脂には、共重合可能な他の単位が含まれていてもよい。
これらの樹脂のうち、高温水蒸気で加熱処理しても溶融又は軟化して繊維が融着しない点から、軟化点又は融点が100℃以上の非湿熱接着性樹脂(又は耐熱性疎水性樹脂又は非水性樹脂)、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂が好ましく、特に、耐熱性や繊維形成性などのバランスに優れる点から、芳香族ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂が好ましい。本発明では、不織布を構成する各繊維を高温水蒸気で処理しても融着させないために、複合繊維の表面に露出する樹脂は非湿熱接着性繊維であるのが好ましい。
複合繊維を構成する複数の樹脂は、熱収縮率が異なっていればよく、同系統の樹脂の組み合わせであっても、異種の樹脂の組み合わせであってもよい。
本発明では、相間の密着性の点から、同系統の樹脂の組み合わせで構成されているのが好ましい。同系統の樹脂の組み合わせの場合、通常、単独重合体(必須成分)を形成する成分(A)と、変性重合体(共重合体)を形成する成分(B)との組み合わせが用いられる。すなわち、必須成分である単独重合体に対して、例えば、結晶化度や融点又は軟化点などを低下させる共重合性単量体を共重合させて変性することにより、単独重合体よりも結晶化度を低下させるか、非晶性とし、単独重合体よりも融点又は軟化点などを低下させてもよい。このように、結晶性、融点又は軟化点を変化させることにより、熱収縮率に差異を設けてもよい。融点又は軟化点の差は、例えば、5〜150℃、好ましくは50〜130℃、さらに好ましくは70〜120℃程度であってもよい。変性に用いられる共重合性単量体の割合は、全単量体に対して、例えば、1〜50モル%、好ましくは2〜40モル%、さらに好ましくは3〜30モル%(特に5〜20モル%)程度である。単独重合体を形成する成分と、変性重合体を形成する成分との複合比率(質量比)は、繊維の構造に応じて選択できるが、例えば、単独重合体成分(A)/変性重合体成分(B)=90/10〜10/90、好ましくは70/30〜30/70、さらに好ましくは60/40〜40/60程度である。
本発明では、潜在捲縮性の複合繊維を製造し易い点から、複合繊維は芳香族ポリエステル系樹脂の組み合わせ、特に、ポリアルキレンアリレート系樹脂(a)と、変性ポリアルキレンアリレート系樹脂(b)との組み合わせであってもよい。ポリアルキレンアリレート系樹脂(a)は、芳香族ジカルボン酸(テレフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸などの対称型芳香族ジカルボン酸など)とアルカンジオール成分(エチレングリコールやブチレングリコールなどC3−6アルカンジオールなど)との単独重合体であってもよい。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリC2−4アルキレンテレフタレート系樹脂などが使用され、通常、固有粘度0.6〜0.7程度の一般的なPET繊維に用いられるPETが使用される。
一方、変性ポリアルキレンアリレート系樹脂(b)では、必須成分である前記ポリアルキレンアリレート系樹脂(A)の融点又は軟化点、結晶化度を低下させる共重合成分、例えば、非対称型芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸などのジカルボン酸成分や、ポリアルキレンアリレート系樹脂(a)のアルカンジオールよりも鎖長の長いアルカンジオール成分及び/又はエーテル結合含有ジオール成分が使用できる。これらの共重合成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの成分のうち、ジカルボン酸成分として、非対称型芳香族カルボン酸(イソフタル酸、フタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸など)、脂肪族ジカルボン酸(アジピン酸などのC6−12脂肪族ジカルボン酸)などが汎用され、ジオール成分として、アルカンジオール(1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどC3−6アルカンジオールなど)、ポリオキシアルキレングリコール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリオキシC2−4アルキレングリコールなど)などが汎用される。これらのうち、イソフタル酸などの非対称型芳香族ジカルボン酸、ジエチレングリコールなどのポリオキシC2−4アルキレングリコールなどが好ましい。さらに、変性ポリアルキレンアリレート系樹脂(b)は、C2−4アルキレンアリレート(エチレンテレフタレート、ブチレンテレフタレートなど)をハードセグメントとし、(ポリ)オキシアルキレングリコールなどをソフトセグメントとするエラストマーであってもよい。
変性ポリアルキレンアリレート系樹脂(b)において、ジカルボン酸成分として、融点又は軟化点を低下させるためのジカルボン酸成分(例えば、イソフタル酸など)の割合は、ジカルボン酸成分の全量に対して、例えば、1〜50モル%、好ましくは5〜50モル%、さらに好ましくは15〜40モル%程度である。ジオール成分として、融点又は軟化点を低下させるためのジオール成分(例えば、ジエチレングリコールなど)の割合は、ジオール成分の全量に対して、例えば、30モル%以下、好ましくは10モル%以下(例えば、0.1〜10モル%程度)である。共重合成分の割合が低すぎると、充分な捲縮が発現せず、捲縮発現後の不織布の形態安定性と伸縮性とが低下する。一方、共重合成分の割合が高すぎると、捲縮発現性能は高くなるが、安定に紡糸することが困難となる。
変性ポリアルキレンアリレート系樹脂(b)は、必要に応じて、トリメリット酸、ピロメリット酸などの多価カルボン酸成分、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトールなどのポリオール成分などを併用して分岐させてもよい。
捲縮繊維(複合繊維)の横断面形状(繊維の長さ方向に垂直な断面形状)は、一般的な中実断面形状である丸型断面や異型断面[偏平状、楕円状、多角形状、3〜14葉状、T字状、H字状、V字状、ドッグボーン(I字状)など]に限定されず、中空断面状などであってもよいが、通常、丸型断面である。
捲縮繊維(複合繊維)の横断面構造としては、複数の樹脂で形成された相分離構造、例えば、芯鞘型、海島型、ブレンド型、並列型(サイドバイサイド型又は多層貼合型)、放射型(放射状貼合型)、中空放射型、ブロック型、ランダム複合型などの構造が挙げられる。これらの横断面構造のうち、加熱により自発捲縮を発現させ易い点から、異なる相部分が隣り合う構造(いわゆるバイメタル構造)や、相分離構造が非対称である構造、例えば、偏芯芯鞘型、並列型構造が好ましい。
なお、複合繊維が偏芯芯鞘型などの芯鞘型構造である場合、表面に位置する鞘部の非湿熱性接着性樹脂と熱収縮差を有し捲縮可能であれば、芯部は湿熱接着性樹脂(例えば、エチレン−ビニルアルコール共重合体やポリビニルアルコールなどのビニルアルコール系重合体など)や、低い融点又は軟化点を有する熱可塑性樹脂(例えば、ポリスチレンや低密度ポリエチレンなど)で構成されていてもよい。
この複合繊維は、熱処理を施すことにより、捲縮が発現(顕在化)し、略コイル状(螺旋状又はつるまきバネ状)の立体捲縮を有する繊維となる。
加熱前の捲縮数(機械捲縮数)は、例えば、0〜30個/25mm、好ましくは1〜25個/25mm、さらに好ましくは5〜20個/25mm程度である。加熱後の捲縮数は、例えば、30個/25mm以上(例えば、30〜150個/25mm)であり、好ましくは35〜100個/25mm、さらに好ましくは40〜80個/25mm程度であり、40〜60個/25mm(特に50〜100個/25mm)程度であってもよい。
捲縮繊維は、略コイル状の捲縮を有しており、捲縮繊維のコイルで形成される円の平均曲率半径は、例えば、10〜150μm程度の範囲から選択でき、例えば、20〜130μm、好ましくは30〜120μm、さらに好ましくは40〜110μm程度である。ここで、平均曲率半径は、捲縮繊維のコイルにより形成される円の平均的大きさを表す指標であり、この値が大きい場合は、形成されたコイルがルーズな形状を有し、言い換えれば捲縮数の少ない形状を有していることを意味する。また、捲縮数が少ないと、貼付層表面において、彩色材を貼着するための貼着機能が低下するとともに、繊維同士の交絡も少なくなるため、貼付層の形態安定性が低下する。逆に、平均曲率半径が小さすぎるコイル状捲縮を発現させた場合は、繊維同士の交絡が十分行われず、ウェブ強度を確保することが困難となるばかりか、このような捲縮を発現する潜在捲縮繊維の製造も非常に難しくなる。
また、表面に露出している湾曲した繊維数は、例えば、10〜200個/mm2、好ましくは、20〜130個/mm2、さらに好ましくは、30〜110個/mm2程度である。表面に露出している湾曲した繊維数は、前述のコイル状繊維の単位面積当たりの個数である。表面に露出している湾曲した繊維数は適度な範囲にあることが必要であり、少なすぎると、彩色材との係絡密度が少なく、貼着しないか、あるいは貼着しても貼着性が弱くなる。また、多すぎると、湾曲した繊維間の間隔が狭すぎて、彩色材の繊維などが貼付層表面の湾曲した繊維間に入り込み難くなり、やはり貼着しないか、あるいは貼着しても貼着性が弱くなる。
コイル状に捲縮した捲縮繊維において、コイルの平均ピッチは、例えば、0.03〜0.5mm、好ましくは0.03〜0.3mm、さらに好ましくは0.05〜0.2mm程度である。
捲縮繊維(複合繊維)の平均繊度は0.1〜10dtex程度の範囲から選択でき、例えば、0.8〜5dtex、好ましくは0.9〜3dtex、さらに好ましくは1〜2.5dtex(特に1〜2.2dtex)程度である。繊度が細すぎると、繊維そのものが製造し難くなることに加え、繊維強度を確保し難い。また、捲縮を発現させる工程において、綺麗なコイル状捲縮を発現させ難くなる。一方、繊度が太すぎると、繊維が剛直となり、十分な捲縮を発現し難くなる。捲縮が充分に発現しない場合、貼付層の形態安定性が低下するとともに、彩色材を貼着するための貼着機能も低下する。
捲縮繊維(複合繊維)の平均繊維長は、例えば、20〜100mm、好ましくは30〜80mm、さらに好ましくは30〜60mm(特に30〜55mm)程度である。繊維長が短すぎると、繊維ウェブの形成が難しくなることに加え、捲縮を発現させる工程において、繊維同士の交絡が不十分となり、強度の確保が困難となる。また、繊維長が長すぎると、均一な目付の繊維ウェブを形成するのが困難となる。さらに、本発明では、繊維長が前記範囲にあると、不織布表面で捲縮した繊維の一部が不織布表面に適度に露出するため、彩色材の貼着性を向上できる。
(他の繊維)
不織布(繊維ウェブ)には、前記複合繊維に加えて、他の繊維(非複合繊維)が含まれていてもよい。非複合繊維としては、例えば、前述の非湿熱接着性樹脂又は湿熱接着性樹脂で構成された繊維の他、セルロース系繊維[例えば、天然繊維(木綿、羊毛、絹、麻など)、半合成繊維(トリアセテート繊維などのアセテート繊維など)、再生繊維(レーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセル(例えば、登録商標名:「テンセル」など)など)など]などが挙げられる。非複合繊維の平均繊度及び平均繊維長は、複合繊維と同様である。これらの非複合繊維は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これら非複合繊維のうち、レーヨンなどの再生繊維、アセテートなどの半合成繊維、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維などが好ましい。特に、混紡性などの点から、複合繊維と同種の繊維であってもよく、例えば、複合繊維がポリエステル系繊維である場合、非複合繊維もポリエステル系繊維であってもよい。
複合繊維と非複合繊維との割合(質量比)は、例えば、複合繊維/非複合繊維=80/20〜100/0(例えば、80/20〜99/1)、好ましくは90/10〜100/0、さらに好ましくは95/5〜100/0程度である。複合繊維(潜在捲縮繊維)の割合が少なすぎると、彩色材の貼着性、貼付層の形態安定性が低下する。
不織布(繊維ウェブ)は、さらに、慣用の添加剤、例えば、安定剤(銅化合物などの熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤など)、抗菌剤、消臭剤、香料、着色剤(染顔料など)、充填剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤などを含有していてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの添加剤は、繊維表面に担持されていてもよく、繊維中に含まれていてもよい。
(不織布)
貼付層を構成する不織布は、各繊維が実質的に融着することなく、主として複合繊維の捲縮が発現してコイル状に形状変化することにより、各繊維がお互いに絡み合って拘束又は掛止された構造を有している。面形状は適宜選択できるが、通常、四角形状である。
不織布は、不織布を構成する殆ど(大部分)の繊維(コイル状捲縮繊維の軸芯方向)が、不織布面(シート面)に対して略平行に配向されているのが望ましい。なお、本願明細書では、「面方向に対し略平行に配向している」とは、例えば、ニードルパンチによる交絡のように、局部的に多数の繊維(コイル状捲縮繊維の軸芯方向)が厚み方向に沿って配向している部分が繰り返し存在しない状態を意味する。
前記不織布は、不織布の面方向(長さ方向)に配向し、かつコイル状に捲縮した複合繊維で構成されており、隣接又は交差する複合繊維は、捲縮コイル部で互いに交絡している。また、不織布の厚み方向(又は斜め方向)でも、軽度に複合繊維が交絡している。特に、本発明では、複合繊維ウェブにおいて、コイル状に収縮する過程で複合繊維が交絡し、交絡したコイル部により繊維が拘束されている。そのために、不織布は、捲縮コイル部が圧着により容易に交絡するため自着性を有している。
特に、高温水蒸気で捲縮された不織布は、面方向に略平行に配向した複合繊維の捲縮が、厚み方向において略均一に発現している。具体的には、厚み方向の断面において、厚み方向に三等分した各々の領域のうち、中央部(内層)において、1周以上のコイルクリンプを形成している繊維の数が、例えば、5〜50本/5mm(面方向長)・0.2mm(厚み)であり、好ましくは10〜50本/5mm(面方向長)・0.2mm(厚み)、さらに好ましくは20〜50本/5mm(面方向長)・0.2mm(厚み)である。このような不織布は、大部分の捲縮繊維の軸が面方向に配向し、厚み方向において捲縮数が均一であるため、高い伸縮性を有するとともに、粘着剤を含んでいなくても、実用的な強度を有している。なお、本願明細書において、「厚み方向に三等分した領域」とは、不織布の厚み方向に対して直交する方向にスライスして三等分した各領域のことを意味する。
不織布は、貼付層を介して下絵が視認可能な程度に透明性を有するのが好ましく、透光率(全光線透過率)は、例えば、30%以上であり、好ましくは30〜80%、さらに好ましくは35〜70%(特に35〜60%)程度である。前述のように、貼付層を構成する不織布は、形態安定性に優れ、薄肉に形成できるため、不織布であるにも拘わらず、透明性を付与できる。このような透光率は、目付、見掛密度、厚みを調整することにより、実現できる。なお、透光率は後述する実施例に記載の方法で測定できる。
不織布の目付は、例えば、20〜150g/m2、好ましくは40〜120g/m2、さらに好ましくは60〜100g/m2(特に80〜95g/m2)程度である。目付が大きすぎると、透明性が低下し、目付が小さすぎると、彩色材の貼着性及び不織布の形態安定性が低下する。
不織布の見掛密度(嵩密度)は、例えば、0.06〜0.125g/cm3、好ましくは00.65〜0.115g/cm3、さらに好ましくは0.07〜0.1g/cm3程度である。密度が大きすぎると、透明性が低下し、密度が小さすぎると、彩色材の貼着性及び不織布の形態安定性が低下する。
不織布の平均厚みは、例えば、0.35〜1.5mm、好ましくは0.45〜1.2mm、さらに好ましくは0.65〜1.15mm程度である。厚すぎると、透明性が低下し、薄すぎると、不織布の形態安定性が低下する。
不織布は、少なくとも一方向(例えば、製造工程の流れ方向(MD方向))において、破断強度が、例えば、5〜30N/50mm、好ましくは6〜25N/50mm、さらに好ましくは7〜20N/50mm程度である。
不織布の柄は、例えば、スケア柄(収縮後に1mm角サイズ程度の穴、ウエッブ濃淡などが格子状に不織布上になる柄)、スタガー柄(0.5mmサイズ角程度の穴、ウエッブ濃淡などが千鳥状に不織布上になる柄)などであってもよく、透明性、貼着性の点で、スケア柄の方が好ましい。穴サイズは前述の透明性、貼着性に影響を及ぼすが、大きすぎると不織布強度の低下につながるため、1.5mm角サイズ未満(例えば、0.3〜1.2mm角サイズ程度)が好ましい。
不織布は、使用により、表面の捲縮繊維の毛羽立ちの低下などにより、彩色材との貼着性が低下するが、ブラシや手などを用いて表面を擦ると、彩色材との貼着性を復元できる。さらに、ドライヤーなどの加熱機を用いて加熱すると、捲縮の追発現(再発現)も可能である。
(不織布の製造方法)
前記不織布は、前記複合繊維を含む繊維をウェブ化するウェブ化工程と、複合繊維ウェブを加熱して捲縮する捲縮工程とを経て得られる。
ウェブ化工程では、前記複合繊維を含む繊維をウェブ化する。ウェブの形成方法としては、慣用の方法、例えば、スパンボンド法、メルトブロー法などの直接法、メルトブロー繊維やステープル繊維などを用いたカード法、エアレイ法などの乾式法などを利用できる。これらの方法のうち、メルトブロー繊維やステープル繊維を用いたカード法、特にステープル繊維を用いたカード法が汎用される。ステープル繊維を用いて得られたウェブとしては、例えば、ランダムウェブ、セミランダムウェブ、パラレルウェブ、クロスラップウェブなどが挙げられる。
次に、得られた繊維ウェブは、捲縮工程に供することにより、複合繊維が、捲縮され、かつ面方向に対して略平行に配向された不織布が得られるが、捲縮工程において、繊維が飛散するのを抑制する点などから、得られた繊維ウェブの一部の繊維を軽度に絡合する工程を経るのが好ましい。このような絡合工程において、絡合方法は、機械的に交絡させる方法であってもがよいが、低圧力水の噴霧又は噴射(吹き付け)により交絡させる方法が好ましい。低圧力水を噴霧する方法は、通常の水流絡合不織布のように、水流により繊維を強固に交絡してウェブ強度を確保するための方法ではなく、繊維ウェブを濡れた状態にすることにより、繊維を緩やかに固定し、動き難くする方法である。
繊維ウェブへの水の噴霧は、連続的に噴霧してもよいが、間欠的又は周期的に噴霧するのが好ましい。低圧力の水を間欠的又は周期的に繊維ウエッブに噴霧することにより、複数の微孔や低密度部と複数の高密度部とを周期的に交互に形成することができる。微孔部や繊維密度の低い部分では繊維量が少ないために繊維交絡がほとんどなく、また繊維同士の接触による抵抗も非常に低いため、各繊維が自由度の高い状態になり、貼付層としての透視性を確保し易くなる。
水の噴出圧力は、繊維交絡が軽度となるように、できるだけ低い圧力が望ましく、例えば、0.1〜1.5MPa(例えば0.1〜1.3MPa)、好ましくは0.2〜1.0MPa、さらに好ましくは0.2〜0.8MPa程度である。なお、水の温度は、例えば、5〜50℃、好ましくは10〜40℃、さらに好ましくは15〜35℃程度であり、通常、15〜35℃程度の常温である。
水を間欠的又は周期的に噴霧する方法としては、繊維ウェブに密度勾配を周期的に形成できる方法であれば特に限定されないが、簡便性などの点から、複数の孔で形成された規則的な噴霧域又は噴霧パターンを有する板状物(多孔板など)を介して、スプレーなどにより水を噴射する方法が好ましい。
具体的には、繊維ウェブ形成工程で得られた繊維ウェブは、ベルトコンベアで次工程へ送られ、次いでコンベアベルト上に載置された状態で、多孔板で構成されたドラム(多孔板ドラム)とベルトとの間を通過させてもよい。コンベアベルトは通水性であってもよく、前記多孔板ドラムとベルト間を繊維ウェブが通過する際に、前記ドラムの内側からウェブを通して、コンベアベルトを通過するように、スプレー状に水を前記圧力で噴出させることができる。
多孔板の孔の配列又は配置構造は、特に限定されないが、例えば、網目状又は格子状(スケア柄)、千鳥状(スタガー柄)で交互に孔を配列した構造であってもよい。各孔の孔径は、通常、同じ大きさで形成され、例えば、1〜10mm、好ましくは1.5〜5mm程度である。隣接する孔のピッチも、通常、同じ長さであり、例えば、1〜5mm、好ましくは1.5〜3mm程度である。
孔径が小さすぎると、水量が少なく繊維ウェブの繊維を移動できない場合がある。一方、孔径が大きすぎると、ドラムの形態を確保するために、ピッチを広くする必要が生じ、結果としてウェブに水が接しない部分ができ、品質ムラが生じたり、均一な処理が困難になる。また、孔のピッチが小さすぎると、必然的に孔径を小さくする必要が生じ、水量が確保できなくなる。逆に、ピッチが広すぎるとやはりウェブに水が接しない部分ができ、品質ムラが生ずる。
捲縮工程では、軽度に絡合された繊維ウェブは、ベルトコンベアにより次工程へ送られ、加熱して捲縮される。加熱方法としては、熱風、加熱板、熱ローラーなどを用いた乾熱処理であってもよいが、複合繊維を特定の曲率半径で厚み方向において略均一に捲縮できる点から、高温水蒸気で処理する方法が好ましい。高温水蒸気で処理する方法では、ベルトコンベアにより送られてきた繊維ウェブは、高温又は加熱水蒸気(高圧スチーム)流に晒され、複合繊維(潜在捲縮繊維)に捲縮を発現させて、貼付層を構成する不織布が得られる。すなわち、本発明では、この捲縮発現により複合繊維がコイル状に形を変えながら移動し、繊維同士の3次元的交絡が発現する。
また、低圧の水で処理された繊維ウェブは、ベルトコンベアで高温水蒸気処理に供せられるが、繊維ウェブは高温水蒸気処理と同時に収縮する。従って、供給する繊維ウェブは、高温水蒸気に晒される直前では、目的とする不織布の大きさに応じてオーバーフィードされているのが望ましい。オーバーフィードの割合は、目的の不織布の長さに対して、110〜300%、好ましくは120〜250%程度である。
使用するベルトコンベアは、基本的には加工に用いる繊維ウェブの形態を乱すことなく運搬できれば特に限定はないが、エンドレスコンベアが好適に用いられる。尚、一般的な単独のベルトコンベアであってもよく、必要に応じてもう1台のベルトコンベアを組み合わせて、両ベルト間に繊維ウェブを挟むようにして運搬してもよい。このように運搬することにより、繊維ウェブを処理する際に、高温水蒸気、コンベアの振動などの外力により、運搬してきたウェブの形態が変形するのを抑制できる。
繊維ウェブに水蒸気を供給するためには、慣用の水蒸気噴射装置が用いられる。この水蒸気噴射装置としては、所望の圧力と量で、ウェブ全幅に亘り概ね均一に水蒸気を吹き付け可能な装置が好ましい。2台のベルトコンベアを組み合わせた場合、一方のコンベア内に水蒸気噴射装置が装着され、通水性のコンベアベルト、又はコンベアの上に載置されたコンベアネットを通してウェブに水蒸気を供給する。他方のコンベアには、サクションボックスを装着してもよい。サクションボックスによって、ウェブを通過した過剰の蒸気を吸引排出してもよいが、水蒸気を繊維ウェブに対して充分に接着させるとともに、この熱により発現する繊維捲縮をより効率的に発現させるためには、ウェブをできる限りフリーな状態に保つことが必要であるため、サクションボックスによって吸引排出せずに水蒸気を供給するのが好ましい。また、繊維ウェブの表と裏を一度に水蒸気処理するために、さらに前記水蒸気噴射装置が装着されているコンベアとは反対側のコンベアにおいて、前記水蒸気噴射装置が装着されている部位よりも下流部のコンベア内に別の水蒸気噴射装置を設置してもよい。下流部の水蒸気噴射装置がない場合において、不織布の表と裏を水蒸気処理したい場合は、一度処理した繊維ウェブの表裏を反転させて再度処理装置内を通過させることで代用してもよい。
コンベアに用いるエンドレスベルトは、ウェブの運搬や高温水蒸気処理の妨げにならなければ、特に限定されないが、ネットであれば、概ね90メッシュより粗いネット(例えば、10〜50メッシュ程度のネット)が好ましい。これ以上のメッシュの細かなネットは、通気性が低く、水蒸気が通過し難くなる。ベルトの材質は、水蒸気処理に対する耐熱性などの観点より、金属、耐熱処理したポリエステル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、、ポリアリレート系樹脂(全芳香族系ポリエステル系樹脂)、芳香族ポリアミド系樹脂などの耐熱性樹脂などが好ましい。
水蒸気噴射装置から噴射される高温水蒸気は、気流であるため、水流絡合処理やニードルパンチ処理とは異なり、被処理体であるウェブ中の繊維を大きく移動させることなくウェブ内部へ進入する。このウェブ中への水蒸気流の進入作用によって、水蒸気流がウェブ内に存在する各繊維の表面を効率的に覆い、均一な熱捲縮を可能にすると考えられる。また、乾熱処理に比べても、繊維内部に対して充分に熱を伝動できるため、表面及び厚み方向における捲縮の程度が概ね均一になる。
高温水蒸気を噴射するためのノズルは、所定のオリフィスが幅方向に連続的に並んだプレートやダイスを用い、これを供給される繊維ウェブの幅方向にオリフィスが並ぶように配置すればよい。オリフィス列は一列以上あればよく、複数列が並行した配列であってもよい。また、一列のオリフィス列を有するノズルダイを複数台並列に設置してもよい。
プレートにオリフィスを開けたタイプのノズルを使用する場合、プレートの厚みは、0.5〜1.0mm程度であってもよい。オリフィスの径やピッチに関しては、目的とする捲縮発現と、この発現に伴う繊維交絡が効率よく実現できる条件であれば特に制限はないが、オリフィスの直径は、通常、0.05〜2mm、好ましくは0.1〜1mm、さらに好ましくは0.2〜0.5mm程度である。オリフィスのピッチは、通常0.5〜3mm、好ましくは1〜2.5mm、さらに好ましくは1〜1.5mm程度である。オリフィスの径が小さすぎると、ノズルの加工精度が低くなり、加工が困難になるという設備的な問題点と、目詰まりを起こし易くなるという運転上の問題点が生じ易い。逆に、大きすぎると、十分な水蒸気噴射力を得ることが困難となる。一方、ピッチが小さすぎると、ノズル孔が密になりすぎるため、ノズル自体の強度が低下する。一方、ピッチが大きすぎると、高温水蒸気が繊維ウェブに充分に当たらないケースが生じるため、強度の確保が困難となる。
使用する高温水蒸気についても、目的とする繊維の捲縮発現とこれに伴う適度な繊維交絡が実現できれば特に限定はなく、使用する繊維の材質や形態により設定すればよいが、圧力は、例えば、0.1〜2MPa、好ましくは0.2〜1.5MPa、さらに好ましくは0.3〜1MPa程度である。水蒸気の圧力が高すぎたり、強すぎる場合には、ウェブを形成する繊維が必要以上に動いて地合の乱れを生じたり、繊維が必要以上に交絡する場合がある。また、極端な場合には繊維同士が融着してしまい、目的とする伸縮性の確保が困難となる。また、圧力が弱すぎる場合は、繊維の捲縮発現に必要な熱量を被処理物であるウェブに付与できなくなったり、水蒸気が繊維ウェブを貫通できず、厚み方向における繊維の捲縮の発現が不均一になり易い。また、ノズルからの水蒸気の均一噴出の制御も困難である。
高温水蒸気の温度は、例えば、70〜150℃、好ましくは80〜120℃、さらに好ましくは90〜110℃程度である。高温水蒸気の処理速度は、例えば、200m/分以下、好ましくは0.1〜100m/分、さらに好ましくは1〜50m/分程度である。
このようにして繊維ウェブ内の複合繊維の捲縮を発現させた後、不織布に水分が残留する場合があるので、必要に応じて不織布を乾燥してもよい。乾燥に関しては、乾燥用加熱体に接触した不織布表面の繊維が、乾燥の熱により接着して伸縮性を低下させないことが必要であり、伸縮性を維持できる限り、慣用の方法を利用できる。例えば、不織布の乾燥に使用されるシリンダー乾燥機やテンターのような大型の乾燥設備を使用してもよいが、残留している水分は微量であり、比較的軽度な乾燥手段により乾燥可能なレベルである場合が多いため、遠赤外線照射、マイクロ波照射、電子線照射などの非接触法や熱風を吹き付けたり、通過させる方法などが好ましい。
このようにして得られた不織布は、その製造工程において水に濡らされ、高温水蒸気雰囲気下に曝露される。すなわち、不織布は、不織布自体がいわば洗濯と同様の処理を受けることになるため、紡糸油剤などの繊維への付着物が洗浄される。従って、不織布は、衛生的で、かつ高い撥水性を示す。
[補強層]
本発明の貼付台シートは、貼付層の一方の面に、貼付層の剛性を高め、貼り絵の作業性を向上させるために、貼付層を補強するための補強層が積層されていてもよい。補強層は、貼付層を補強可能であればよく、例えば、貼付層を構成する不織布よりも高い破断強度(30N/50mmを超える強度)を有していればよい。補強層の破断強度は、例えば、100N/50mm以上、好ましくは300N/50mm以上、さらに好ましくは400N/50mm以上(特に400〜1000N/50mm程度)であってもよい。破断強度が小さすぎると、貼付層を補強する効果が低く、貼付台シートが容易に破損したり、また貼付台シートが皺になり易く、貼り絵の作業性が低下する。
補強層の材質は、前記強度を有していれば、特に限定されず、各種の有機材料、無機材料を使用できるが、貼付層との接着性に優れ、軽量で形態安定性が高い点から、有機材料が好ましい。また、金属の板や箔も強度や形状の安定性の点では好ましい。
有機材料としては、例えば、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などの合成樹脂、天然樹脂、天然又は合成ゴム、エラストマー、木質材料などが挙げられる。具体的に、有機材料で形成された補強層としては、例えば、合成樹脂で形成されたシート、合成樹脂で形成されたネット(又はネット状シート)、合成樹脂又は天然樹脂で形成された布帛(不織布、織布、編布、割り布など)、紙類、木質ボード(無垢材、合板、集成材、中密度繊維板MDF、パーティクルボードなど)などが挙げられる。
これらのうち、補強層と貼付層との積層体を介して下絵が視認可能な程度に透明性を有する材料、例えば、合成樹脂で形成されたシート、合成樹脂で形成されたネット(又はネット状シート)、紙類、布帛が好ましく、透明性に優れる点から、合成樹脂で形成されたシート、合成樹脂で形成されたネット(特に合成樹脂シート)が特に好ましい。
合成樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂(ポリエチレンやポリプロピレンなど)、スチレン系樹脂(ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体など)、アクリル系樹脂(ポリメタクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂など)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリアルキレンアリレート系樹脂など)、ポリカーボネート系樹脂(ビスフェノールA型ポリカーボネートなど)、ポリアミド系樹脂(ポリアミド6などの脂肪族ポリアミドなど)、ウレタン系樹脂(ポリエステル系ウレタン樹脂など)、セルロース系樹脂(酢酸セルロースなど)などが挙げられる。これらのうち、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂などが汎用される。
合成樹脂で形成されたネットを構成する繊維の繊維径は、例えば、0.05〜1.0mm、好ましくは0.1〜0.5mm、さらに好ましくは0.15〜0.45mm程度である。ネットの網目径は、例えば、0.6〜3mm、好ましくは0.8〜2.5mm、さらに好ましくは1〜2mm程度である。合成樹脂で形成されたネットは、寒冷紗であってもよい。また、細かな割れ目を入れて短冊状に割繊維にした樹脂フィルムを連続的に積層熱融着した割り布などであってもよい。
補強層は、補強層と貼付層との積層体を介して下絵が視認可能な程度に透明性を有するのが好ましく、補強層の透光率(全光線透過率)は、例えば、40%以上であり、例えば、40〜95%、好ましくは50〜95%、さらに好ましくは60〜95%(特に65〜95%)程度である。
補強層の平均厚みは、例えば、0.05〜0.5mm、好ましくは0.07〜0.4mm、さらに好ましくは0.09〜0.3mm程度である。厚すぎると、透明性が低下し、薄すぎると、貼付層を補強する機能が低下する。
貼付層と補強層とは、作業中に貼付層がずれたり、破損するのを抑制できる点から、一体化されているのが好ましく、慣用の接着剤又は粘着剤を用いて接着してもよい。接着剤としては、デンプンやカゼインなどの天然高分子系接着剤、ポリ酢酸ビニルなどのビニル系接着剤、アクリル系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリアミド系接着剤、シリコン系接着剤などの熱可塑性樹脂系接着剤、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂系接着剤などが挙げられる。粘着剤としては、例えば、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤などの熱可塑性樹脂系粘着剤などが挙げられる。接着剤及び粘着剤は、貼付層及び補強層の種類に応じて、選択でき、例えば、アクリル系樹脂、シリコン系樹脂、アクリル変性シリコン系樹脂などで形成された接着剤又は粘着剤が好ましい。
貼付層と補強層とは、接着剤又は粘着剤を用いることなく、一体化してもよく、例えば、補強層として、ネットや布帛を用いることにより、貼付層の捲縮繊維と絡合又は係合させて一体化してもよい。ネットとしては、例えば、寒冷紗などが例示できる。布帛としては、例えば、表面に細かな毛羽が露出した糸(紡績糸など)やシート状の細片で形成された編地や織物などが例示できる。両層を絡合又は係合により一体化させる方法は、圧接(両層を積層させた後、加圧する方法)であってもよい。また、熱融着であってもよく、特にフィルム同士であれば熱融着は効果的である。
[基材層]
本発明の貼付台シートは、貼り絵の作業性を向上させるために、貼付層の一方の面に積層された基材層をさらに含んでいてもよい。貼付台シートが補強層を含む場合、基材層は、補強層に積層される。
貼付層(又は補強層)と基材層とは、作業性の点から、貼付層(又は補強層)と基材層とが、少なくとも1つの端部を開放して端部のみで接合されているのが好ましい。このような態様で接合されることにより、貼付層と基材層との間に下絵を挿入したり、基材層に下絵となる図柄を描画できる。そのため、透明性の高い貼付層を用いると、下絵が透けて視認でき、下絵をガイドとして貼付層に描画できる。さらに、端部が接合されているため、貼付層と基材層との間に下絵を挿入した場合でも、挿入した下絵を貼付層と基材層との間で固定できるため、貼り絵の作業性を向上できる。貼付層(又は補強層)と基材層との間に下絵を挿入し易い点から、1つの端部のみで貼付層(又は補強層)と基材層とが接合されているのが特に好ましい。
端部の接合方法としては、特に限定されず、基材層と補強層との一体化で用いられる接着剤又は粘着剤を用いる方法の他、熱融着して一体化する方法、固定具を用いる方法であってもよい。熱融着して一体化する方法としては、基材層及び補強層ともに熱融着を有する素材で形成し、加熱又は加熱圧着することにより一体化する方法などが挙げられる。
固定具を用いる方法としては、ホッチキス針などのステープルなどを用いて部分的に固定化する方法、貼付層と基材層の端部を粘着テープで固定化する方法、面ファスナーを用いる方法、糸で縫製する(縫い付ける)方法などが挙げられる。
これらの接合方法のうち、生産性などの点から、接着剤又は粘着剤を用いた接合方法、ステープルを用いる方法が好ましく、端部の幅1〜20mm(特に5〜10mm)程度を接着剤やステープルで接合してもよい。
基材層の材質は特に限定されず、補強層と同様に、貼付層を構成する不織布よりも高い破断強度を有していればよく、各種の有機材料や無機材料を利用でき、例えば、補強層の項で例示された合成樹脂シート、布帛、紙類、木質ボードの他、非透明性の合成樹脂シート、金属板、セラミックス板、ガラス板などを利用できる。これらのうち、貼付層(又は補強層)との接合が容易で、汎用性に優れる点から、透明又は非透明の合成樹脂シート、紙類、木質ボードが好ましい。
また、基材層は、透明性及び剛性を兼ね備える合成樹脂シートを半分に折って形成した形態であってもよく、折ったシート間に下絵を挟んでもよい。この場合、前記合成樹脂シートが補強層としての透明性を有し、かつ基材層としての剛性も有するため、折ったシートを補強層及び基材層として利用できる。
基材層の平均厚みは、例えば、0.2〜10mm、好ましくは0.2〜7mm、さらに好ましくは0.5〜3mm程度である。
[彩色材]
貼付台シートの貼付層には、彩色材が貼着される。彩色材としては、貼付台シートの貼付層に固定(付着)できればよく、例えば、繊維材料(繊維を含む材料)、非繊維材料を利用でき、繊維材料と非繊維材料とを組み合わせて利用してもよい。
繊維材料としては、例えば、糸(毛糸、刺繍糸)、天然繊維(人毛、動物の毛、植物の葉脈など)、紙類(和紙など)、布帛(不織布、織布、編布など)などが挙げられる。これらの繊維材料は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
非繊維材料にはフィルム材や粒状材などが含まれる。フィルム材としては、例えば、表面に係合し易い突起状部を有するフィルムなどが挙げられる。粒状材としては、例えば、粘土、木の実や種(たんぽぽ種子などの綿毛や表面に係合し易い突起状部を有する実や種など)、胡椒、グラニュー状の砂糖、星の砂などが挙げられる。これらの非繊維材料は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
これらのうち、所望の形状に変形し易く、表面に捲縮繊維を有する貼付層に容易に着脱自在に貼着できる点から、繊維を含む材料(繊維材料)が好ましい。さらに、繊維材料のうち、着脱性に優れるとともに、グラデーションなどの色彩のバリエーションを出し易い点から、布帛が好ましく、着脱性に優れ、手切れ性を容易に付与でき、貼り絵の作業性を向上できる点から、不織布が特に好ましい。不織布を用いると、粘着剤などを用いることなく、不織布同士の接触により接合又は交絡して彩色材を貼付層に拘束又は掛止可能となる。
また、表面にスプレーなどを用いて着色した白色の不織布なども利用できる。スプレーでの着色時に故意に色むらをつけて多彩な色合いにしたり、また表裏の色が異なる為、また、ちぎったときに内層の白い部分が露出することにより、色彩表現の多様化ができる。
不織布としては、貼付層に貼着できれば、特に限定されないが、貼付層の捲縮繊維と係合し易い点から、捲縮繊維を含む不織布が好ましい。捲縮繊維を含む不織布を用いると、貼付層と彩色材との界面において、捲縮繊維同士が交絡することにより、彩色材を貼付層に確実に貼着でき、かつ彩色材を剥がしたときには、手で比較的容易に剥離できる。
捲縮繊維を含む不織布としては、貼付層の項で例示された捲縮繊維を含む不織布を利用でき、貼付層との密着性などの点から、貼付層と同種又は同一の材質で形成された捲縮繊維を含む不織布が好ましい。捲縮繊維を含む不織布は、彩色材の上に彩色材を重ねて貼ることができ、ボリューム感や色の重なりによる独特の色彩を発現させることもできる。一方で、彩色材には、貼付層には要求されない機能として、貼り絵の作業において、所望の大きさに千切るための手切れ性が要求される。そのため、彩色材を構成する不織布は、捲縮繊維の捲縮の程度やサイズ、不織布の目付、密度、厚み、非捲縮繊維との割合が以下の範囲に調整されているのが好ましい。彩色材の手切れ性を向上させると、貼り絵の作業性を向上でき、容易に微細な描画を作成できる。
加熱後の捲縮数は、例えば、30個/25mm以上(例えば、30〜150個/25mm)であり、好ましくは35〜100個/25mm、さらに好ましくは40〜80個/25m(特に40〜60個/25mm)程度であってもよい。捲縮数が少なすぎると、貼付層に対する貼着機能が低下する。
捲縮繊維のコイルで形成される円の平均曲率半径は、例えば、30〜120μm、好ましくは35〜100μm、さらに好ましくは40〜80μm(特に40〜70μm)程度である。
コイル状に捲縮した複合繊維において、コイルの平均ピッチは、例えば、0.03〜0.5mm、好ましくは0.03〜0.3mm、さらに好ましくは0.05〜0.2mm程度である。
捲縮繊維の平均繊度は0.1〜10dtex程度の範囲から選択でき、例えば、0.8〜5dtex、好ましくは0.9〜3dtex、さらに好ましくは1〜2.5dtex(特に1〜2.2dtex)程度である。
捲縮繊維の平均繊維長は100mm以下であり、例えば、10〜80mm、好ましくは20〜80mm、さらに好ましくは30〜60mm(特に30〜50mm)程度である。繊維長が長すぎると、繊維の分離が困難となり、繊維の絡合も密になるため、手切れ性が低下する。
不織布の目付は、例えば、20〜110g/m2、好ましくは30〜90g/m2、さらに好ましくは50〜80g/m2(特に60〜75g/m2)程度である。目付が大きすぎると、手切れ性が低下し、目付が小さすぎると、染色が困難になるなど、彩色材としての自由度が低下する。
不織布の見掛密度は、例えば、0.06〜0.125g/cm3、好ましくは0.065〜0.115g/cm3、さらに好ましくは0.07〜0.1g/cm3程度である。
不織布の平均厚みは、例えば、0.3〜1.35mm、好ましくは0.45〜1.15mm、さらに好ましくは0.60〜1mm程度である。厚すぎると、手切れ性が低下し、薄すぎると、彩色材としての自由度が低下する。彩色材の不織布の厚みは、貼付層の不織布の厚みよりも薄くてもよく、彩色材では薄肉化することにより、手切れ性を向上できる。
不織布において、複合繊維(潜在捲縮繊維)と非複合繊維(非潜在捲縮繊維)との割合(質量比)は、例えば、複合繊維/非複合繊維=80/20〜100/0(例えば、80/20〜99/1)、好ましくは90/10〜100/0、さらに好ましくは95/5〜100/0程度である。非複合繊維を混綿することにより、不織布の強度と手切れ性とのバランスを調整することができる。貼付層との貼着性を損なわない範囲で、非複合繊維を混綿することにより、手切れ性を向上できる。
不織布は、少なくとも一方向(例えば、製造工程の流れ方向(MD方向))において、破断強度が50N/50mm以下であり、例えば、5〜50N/50mm、好ましくは6〜25N/50mm、さらに好ましくは7〜20N/50mm程度である。破断強度が大きすぎると、手切れ性が低下する。
このような不織布の捲縮コイル部は、面方向及び長手方向に配向しているため、長手方向に張力を付与すると、交絡したコイル部が伸長し、ついには解けるため、切断が容易となる。このように、彩色材を構成する不織布は、手切れ性、貼着性をバランスよく備えている。
彩色材(特に捲縮繊維を含む不織布で形成された彩色材)は、貼付層に接着剤又は粘着剤を用いることなく、貼付層に貼着できるが、係絡性を向上させるために、必要に応じて、ドライヤーなどで追加熱処理を加え、さらに繊維の捲縮を発現させて、貼付層と彩色材間の絡合を向上させることも可能である。このような処理を施した後、長期の保存目的などのために、接着剤又は粘着剤を用いて彩色材を貼付層に固定してもよい。また、熱プレスなどにより、彩色材の貼着を強固にしてもよい。さらに、慣用の固定具を用いて、アクリル板などの透明板で挟んで固定してもよい。
彩色材を構成する不織布も、手切れ性の点から、貼付層と同様に、高温水蒸気を用いて得られた不織布が好ましい。その理由は以下の通りである。すなわち、通常、複合繊維を用いた不織布の製造工程においては、繊維を固定する工程(絡合工程)と潜在捲縮を発現するための加熱工程が別工程であるため、複合繊維を主体とする繊維ウェブは、最初のニードルパンチ又は水流絡合による繊維交絡工程で、次工程への工程通過性や安定的な形態を確保した後、乾熱処理工程で捲縮を発現することが必要になる。このため、従来の製造方法では、熱処理後の繊維間の結節強度が大きくなり過ぎ、長さ方向における伸長応力も高くなり、手で容易に切断することが困難となる。本発明では、最低限の繊維交絡を行った繊維ウェブに対し熱を与える(特に、高温水蒸気処理を施す)ことで、繊維の捲縮と交絡を同時に発現させ、易切断性を実現した。さらに、彩色材では、透視性を向上させた貼付層とは異なり、繊維ウェブへの水の噴霧(繊維ウェブの一部の繊維を軽度に絡合する工程)において、水の噴霧条件(水量や水圧などに加えて、間欠的又は周期的に水を噴霧することなど)を調整して行うことにより、彩色材の易切断性をより向上できる。
また、不織布に施す柄によっても彩色材の切断性を調整できる。不織布の柄としては、例えば、スケア柄(穴、ウエッブ濃淡などが格子状に不織布上になる柄)やスタガー柄(穴、ウエッブ濃淡などが千鳥状に不織布上になる柄)などが挙げられる。柄の大きさは、柄付けロールのデザイン、前述の吹き付ける水量、水圧などによって調整できる。シートの切断性を向上させるためには、穴や濃淡ウェブの淡部のサイズを大きめに設定するのが好ましく、例えば、略1.0mm角程度以上、好ましくは1.0〜1.3mm角程度に設定してもよい。前記サイズが小さすぎると、切断性が悪くなり、彩色材として使用するとき、小片に調製し難く、微細な表現が困難となる。また、前記サイズが大きすぎると、ウェブの強度が弱くなりすぎて、着色加工やその他の加工上の取り扱い性が低下する。また、彩色材としては、切断したとき、穴部分の比率が大きくなり、繊細な表現が困難となる。
彩色材は、慣用の方法で着色して利用される。着色の方法としては、慣用の方法、例えば、衣類など一般の布帛を染色する方法や、予め着色された繊維を用いて不織布を作製する方法などが挙げられる。これらの彩色材を用いると、不織布中の繊維全体がしっかりと色付いているため、鮮明な色使いができたり、数色を手で混ぜ合わせ、新たな混合色を調整できるため、取り扱い性に優れている。また、着色用のスプレーを用いて彩色材に用いられる白色不織布の表面(片面又は表裏両面)を着色する方法なども利用できる。スプレーで着色した彩色材は、容易に色付けできる上に作業者が自由に好みの色に着色でき、個性的な彩色材を準備できる。例えば、表裏別色で着色し色差を設けたり、着色面全体を均一に着色せずに濃淡をつけたり、数種の色のスプレーで着色することにより混色を表現できたり、また、極表(裏)層のみを着色できるため、ちぎったときに内層より未着色部分を露出させることによる微妙な色彩表現などもできる。着色に用いる不織布は、予め染色などで色付けされている不織布であってもよい。また、他の彩色材との混綿によっても色彩のグラデーション(濃淡)を容易に調整もできる。
彩色材の形状は、特に限定されないが、取り扱い性などの点から、帯状体をロール状に巻き取ったロール状体であってもよい。
[貼り絵セット]
本発明の貼り絵セットは、前記貼付台シートと彩色材とを含む。図1は、本発明の貼り絵セットの一例についての使用状態を示す概略図である。図1(a)は、基材層の上に下絵を積層した貼付台シートの概略斜視図であり、図1(b)は、図1(a)における貼付層と補強層との積層体部分の詳細を示す概略斜視図であり、図1(c)は、一部の彩色材を貼付層に貼着した貼付台シートの概略平面図である。
この図では、貼付台シート1は、貼付層1aと、この貼付層の一方の面に積層された補強層1bと、この補強層1bに積層された基材層1cとで形成されている。貼付層1aと補強層1bとは、両層の接触面の略全面に積層された接着剤を介して一体化している。一方、補強層1bと基材層1cとは、端部1dにおいて部分的に接着剤を介して接合され、補強層1bと基材層1cとの間に下絵を挿入可能な構造を形成している。基材層1cの上には、基材層1cと略同一サイズの下絵3が積層されている。貼付層1a及び補強層1bは、半透明の材質で形成されているため、下絵3の図柄を透かして視認できるため、下絵3をガイドとして、彩色材2を貼付層1aの上に貼着することにより、容易に下絵3の図柄を彩色材2で描画できる。
なお、この例では、貼付層と補強層とは接着剤を介して一体化されているが、このような態様に限定されず、前述のように、接着剤を用いることなく、繊維の係合により一体化してもよい。
また、この例では、補強層と基材層とは、部分的に接着剤を介して接合されているが、このような態様に限定されず、前述のように、他の固定具や融着などを利用して接合されていてもよい。
さらに、この例では、基材層とは別途独立した下絵を準備しているが、基材層の上に下絵となる図柄を直接描画してもよい。また、本発明の貼り絵セットは、下絵を備えていなくてもよく、下絵なしで貼付層に直接彩色材を貼着して描画してもよい。
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。実施例における各物性値は、以下に示す方法により測定した。なお、実施例中の「部」及び「%」はことわりのない限り、質量基準である。
(1)捲縮数
JIS L1015「化学繊維ステープル試験方法」(8.12.1)に準じて評価した。
(2)平均曲率半径
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、不織布断面を100倍に拡大した写真を撮影した。撮影した不織布断面写真に写っている繊維の中で、3/4周以上の螺旋(コイル)を形成している繊維について、その螺旋に沿って円を描いたときの円の半径(コイル軸方向から捲縮繊維を観察したときの円の半径)を求め、これを曲率半径とした。なお、繊維が楕円状に螺旋を描いている場合は、楕円の長径と短径との和の1/2を曲率半径とした。ただし、捲縮繊維が充分なコイル捲縮を発現していない場合や、繊維の螺旋形状が斜めから観察されることにより楕円として写っている場合を排除するために、楕円の長径と短径との比が0.8〜1.2の範囲に入る楕円だけを測定対象とした。なお、測定は、任意の断面について撮影したSEM画像について測定し、n数=100の平均値として示した。
(3)表面クリンプ数
クリンプ数の測定は、走査型顕微鏡((株)日立ハイテクノロジー社製「型式S3400N」)を用い、測定倍率200倍にてSEM写真を撮り、その写真を使用して、1枚の写真当たり、観察範囲629.5μm×432μmの面積について行った。計測対象とする繊維は、写真の最表面に一部でも現れている繊維とし、かつ曲率を有する繊維のみを計測した。その本数をベースにして、面積1mm2当たりの表面クリンプ数を換算して求めた。n数を10として、任意の10箇所より、10枚の写真を撮った。各写真より観察範囲(629.5μm×432μm)毎の繊維数を計測し、平均した。
(4)目付
JIS L1913「一般短繊維不織布試験方法」に準じて測定した。
(5)厚み及び密度
JIS L1913「一般短繊維不織布試験方法」に準じて厚みを測定し(ただし、1cm2あたりの荷重は12kgfとした)、この値と(4)の方法で測定した目付とから密度を算出した。
(6)破断強度
JIS L1913「一般短繊維不織布試験方法」に準じて測定した。なお、破断強度は不織布の流れ(MD)方向及び幅(CD)方向について測定した。
(7)耐変形性
貼付層、又は貼付層と補強層との積層体の耐変形性について、A4版サイズに切り出した積層体の2辺ある長辺のそれぞれの中央部をつまみ、軽く手で張力をかけた時の変形度合いを触感で評価した。また、短辺でも同様な作業をして、以下の基準で評価した。
◎:変形しない
○:ほとんど変形しない
△:どちらか一方の辺で変形する
×:双方の辺で大きな変形が見られる。
(8)下絵視認性
貼付層、又は貼付層と補強層との積層体の下絵の視認性について、黒色、赤色の先端が、φ0.7mmのボールペンを用いて、白色の一般的なコピー紙上に(A)1mm間隔、(B)3mm間隔、(C)5mm間隔でそれぞれ5本の平行線を引いた視認性評価シートを作成し、このシートの視認性について目視観察し、以下の基準で評価した。
◎:明瞭に区別がつく
○:区別がつく
△:ぼんやりと区別がつく
×:区別がつかない。
(9)透光性
貼付層、又は貼付層と補強層との積層体について、次のようにして透光性(全光線透過率)を測定した。すなわち、内部より光の漏れない構造のボックス中の上方にランプを配置し、ランプより25cm下方に照度計(日置電機(株)製「HIOKI 3423 LUX HiTESTER」)を配置した。さらに、このランプと照度計との中間位置に14cm角の窓の開いた試料固定板(窓以外は光を通さない材質で作成)を設置した。このような評価装置を用いて、試料(貼付層、又は貼付層と補強層との積層体)の透光性を評価した。詳細には、ランプを点灯し、ブランクとして固定板の窓を通した状態(試料の無い状態)での照度計の読み取り値を2000ルクスになる様にランプの光の強さを調整した。試料を固定板に設置し、数分間放置後、照度計の値(L)を読み取った。この操作を各試料ごとに各3回ずつ行ない、平均値を透光率(全光線透過率)とした。透光率T(%)は、以下の式により算出した。
透光率T(%)=L/2000×100。
(10)貼り絵作業性
表1に示す各種の彩色材を用いて、貼り絵の作業性について評価した。手で約1cm角程度にちぎった彩色材を貼付層上に貼り付けた。このとき、彩色材全体を貼付層に押し付け、上から軽くこすり付け、両者が係絡するようにした。これを用いて貼り絵作業性を評価した。作業性の評価は、彩色材の接着性、耐摩擦性を以下の基準で評価した。なお、接着性は、貼付け後のシートを軽く数回振ることにより貼り付きの状態を評価した。また、耐摩擦性は、貼り付けた彩色材を彩色材の上や周辺を、爪をたてて指で軽く擦ったときの状態を観察した。
(彩色材の接着性)
◎:脱落(剥離)しなかった
○:端が少し剥離しかけた
△:彩色材の半分位が剥離した
×:脱落(剥離)した。
(対摩擦性)
◎:ほとんど変化しなかった
○:端部が少し浮き上がった
△:彩色材が半分以上剥がれた
×:剥がれ落ちた。
(11)保存性
前記貼り絵作業性で彩色材を貼付した貼付台シートの保存性について、貼り絵が飾られる空間を想定して一般家屋の居室(リビングルーム)において、前記貼付台シートの同一辺にある角をクリップで挟み、貼付層が垂直になるように10日間空中にぶら下げて放置したときの状態を観察し、以下の基準で評価した。なお、評価は、彩色材を貼付した貼付層の上に、透明アクリル板(2mm厚みのアクリル透明押し出し板、アクリルアイ(株)製)の端部をダブルクリップで固定した状態にして積層した場合と、積層しない場合の2種類について評価した。
◎:変化しなかった
○:彩色材の一部が少し浮いた状態が観察された
△:彩色材の一部(1/3程度以上)が剥がれかけていた
×:彩色材の一部が脱落した。
(12)再利用性
貼付台シートの再利用性について、剥離性、再貼着性を評価した。詳しくは、剥離性は、貼着している彩色材を指又は爪で擦ったり、つまんだりして剥がす作業をしたときの剥離性を以下の基準で評価した。再貼着性は、剥離性試験の剥離後の貼付台シートについて、新たな彩色材を用いて、手で約1cm角程度にちぎった彩色材を貼付層上に貼り付け、再貼着性を以下の基準で評価した。なお、貼り付けにおいては、彩色材全体を貼付層に押し付け、上から軽くこすり付け両者が係絡するようにした。
(剥離性)
◎:容易に剥がれた
○:彩色材の形状が大きく崩れたが剥がれた
△:彩色材が一部ちぎれた
×:彩色材が剥がれなかった。
(再貼着性)
◎:初回の作業と同じように貼り付けられた
○:貼付層の表面を少しこすって毛羽立たせると初回の利用時と同様にできた
△:貼付層の表面をこすっても彩色材が一部しか貼り付かなかった
×:貼着しなかった。
(13)使用した材料
(繊維材料)
潜在捲縮性繊維A(1.7dtex):固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレート樹脂(A成分)と、イソフタル酸20モル%及びジエチレングリコール5モル%を共重合した変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(B成分)とで構成されたサイドバイサイド型複合ステープル繊維、(株)クラレ製「PN−780」、1.7dtex×51mm長、機械捲縮数12個/25mm、130℃×1分熱処理後における捲縮数62個/25mm。
潜在捲縮性繊維B(2.2dtex):固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレート樹脂(A成分)と、イソフタル酸20モル%及びジエチレングリコール5モル%を共重合した変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(B成分)とで構成されたサイドバイサイド型複合ステープル繊維、(株)クラレ製「PN780」、2.2dtex×51mm長、機械捲縮数14個/25mm、130℃×1分熱処理後における捲縮数55個/25mm。
潜在捲縮性繊維C(3.3dtex):固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレート樹脂(A成分)と、イソフタル酸20モル%及びジエチレングリコール5モル%を共重合した変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(B成分)とで構成されたサイドバイサイド型複合ステープル繊維、(株)クラレ製「PN780」、3.3dtex×51mm長、機械捲縮数16個/25mm、130℃×1分熱処理後における捲縮数48個/25mm。
潜在捲縮性繊維D(1.7dtex×38mm):固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレート樹脂(A成分)と、イソフタル酸20モル%及びジエチレングリコール5モル%を共重合した変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(B成分)とで構成されたサイドバイサイド型複合ステープル繊維、(株)クラレ製「PN−780」、1.7dtex×38mm長、機械捲縮数12個/25mm、130℃×1分熱処理後における捲縮数62個/25mm。
レーヨン繊維:オーミケンシ(株)製「ホープ」、1.7dtex×40mm長。
(貼付層)
面ファスナー凸面シート:モリト(株)製「ニューエコマジック(登録商標)(P)アクリル系粘着剤付、標準フック(P)粘着付/100mm」。
(補強層)
透明樹脂シート:ポリプロピレン樹脂製シート、厚み0.15mm
寒冷紗:(株)クラレ製「クレモナ#350」。
(接着剤)
スプレー糊:(株)ジョイフル本田製「スプレーのりWORLD77」。
(基材層)
画用紙:A4版、ラシャ紙(黒)
樹脂下敷き;A4版、色透明下敷き、210×300mm、厚み0.7mm、ポリ塩化ビニル製、カラーグリーン。
(彩色材)
不織布(白色及び染色不織布):以下の方法により潜在捲縮繊維で形成した白色及び染色された不織布(伸縮シート)
後述する実施例1に記載の方法に準じ、高速水蒸気を用いて白色の不織布を製造した。詳しくは、実施例1で得られる不織布(貼付層)よりもちぎり性を向上させるために、原料繊維として潜在捲縮性繊維Aよりも繊維長の短い潜在捲縮性繊維Dを使用し、シートの目付を75g/m2として白色の不織布を作製した。得られた不織布の破断強度は15N/50mmであった。また、不織布にはスケア柄付けを行い、大き目の約1.3mm角の穴状部又は繊維密度の低い部分を格子状に配置し、巻き取った。巻き取った不織布をチーズ染色法により分散染料を用いて各種の色(赤、青、黄、緑、黒)に染色した。なお、この方法では、不織布中の全繊維が同一色に染色される。また、染色時に熱をかけることにより、複合繊維にさらに捲縮を追加発現させ、貼着性を向上させるように調整して作成した。得られた染色不織布は、目付約80g/m2、厚み0.9mm、見掛け密度0.08g/cm3であり、不織布中の捲縮は、捲縮数65個/25mm程度であった。この不織布を適当なA4サイズ切断し、彩色材を得た。
スプレー着色不織布:以下の方法によりスプレーで着色した不織布(伸縮シート)
前記白色の不織布と同様の方法で、目付約70g/m2、厚み1.0mm、見掛密度0.07g/cm3であり、不織布中の繊維の捲縮数59個/25mm程度の白色不織布を得た。この白色不織布原反をカットした後、布スプレー((株)マービー製)でシートの片面を各種の色(赤、青、黄、緑、黒)に着色した不織布を準備した。着色の際には、異なる色を重ねてスプレーしたり、スプレー量を調整することで、色の濃淡を付けた不織布も作製した。さらに、未スプレーの白色不織布とスプレーとを準備しておき、作業中に必要に応じ彩色材を作成できるように準備しておいた。
毛糸:つばめや(株)製「ダイヤ毛糸(青、赤、黄、緑、茶色、橙、紫、黒など)
着色糸:つばめや(株)製「25番ししゅう糸(青、赤、黄、緑、茶色、橙、紫、黒など)」
和紙:はがはる(株)製「手漉民芸紙(青、赤、黄、緑、茶色、橙、紫、黒など)」
セロファン:(株)トーヨー製「教育セロファン15」。
実施例1
潜在捲縮性繊維A(1.7dtex)を100質量%用いて、カード法により目付32.1g/m2のカードウェブとした。このカードウェブをコンベアネット上で移動させ、次いでコンベアベルト上に載置された状態で、多孔板で構成されたドラム(多孔板ドラム)とベルトとの間を通過させた。多孔板ドラムとベルト間を繊維ウェブが通過する際に、ドラムの内側からウェブを通して、コンベアベルトを通過するように、スプレー状に水を間欠的に噴出圧力を調整し、繊維交絡が軽度となるように、0.1〜1.3MPaとした。水温は30℃であった。複数の低密度部と微孔部とを周期的に交互に形成した。多孔板の配列は格子状のスタガー柄を用いた。この様な条件でスプレー状に水流を噴出して、繊維同士が実質的な交絡を生じず、繊維がわずかに動く程度に濡らした。
このカードウェブを、30メッシュ、幅500mmの樹脂製エンドレスベルトを装備したベルトコンベアに移送した。このとき、次の水蒸気処理工程での収縮を阻害しないように、ウェブを200%程度にオーバーフィードさせた。尚、このベルトコンベアのベルトの上部には同じベルトが装備されており、それぞれが同じ速度で同方向に回転し、これら両ベルトの間隔を任意に調整可能なベルトコンベアを使用した。
次いで、ベルトコンベアに備えられた水蒸気噴射装置へカードウェブを導入し、この水蒸気噴射装置から0.4MPaの水蒸気をカードウェブに対し垂直に噴出して水蒸気処理を施して、潜在捲縮繊維のコイル状捲縮を発現させるとともに、繊維を交絡させ不織布を得た。この水蒸気噴射装置は、一方のコンベア内に、コンベアベルトを介して水蒸気をウェブに向かって吹き付けるようにノズルが設置され、もう一方のコンベアにサクション装置が設置されていた。しかし、このサクションは稼働させなかった。なお、水蒸気噴射ノズルの孔径は0.3mmであり、このノズルがコンベア幅方向に沿って2mmピッチで1列に並べられた装置を使用した。加工速度は10m/分であり、ノズルとサクション側のコンベアベルトとの距離は10mmとした。
得られた不織布は、スケア柄であり、目付が90g/m2、厚み1.15mm、見掛密度0.078g/cm3であり、半透明であった。不織布には、およそ1mm角の穴の部分と、繊維密度の低くなった部分が格子状についていた。
この不織布を貼付層として、スプレー糊を用いて、貼付層の片面全面に糊を塗布して補強層としての透明樹脂シートと積層した。得られた積層体は、貼り絵作業で問題のない剛性を有していた。
この積層体を用いて、下絵視認性を評価した。結果、コピー紙上に黒色ボールペンで作成した1mm間隔ラインは、ややぼやけた状態に見えたが、3mm、5mm間隔のラインは、明確に見えた。この積層体と基材層として画用紙(黒のA4版ラシャ紙)を用いて、これらの1つの端部同士を粘着テープを用いて接合し、貼付台シートを作製した。
彩色材として、主に白色及び染色不織布を使用し、その他、毛糸を使用して貼り絵作成作業を行った。
得られた貼付台シートの貼り絵作業性を評価した結果、貼り付け作業性は良好であり、作業中に手が触れたり、表面を軽くこすっても彩色材は剥離しなかった。さらに、貼付台シートを軽く振っても彩色材は脱落しなかった。
保存性を評価した結果、彩色材の一部が少し浮いた状態が観察されたが、作成した図柄はきちんと残っていた。表面に透明アクリル板を積層させた場合は、彩色材は、まったく変化しなかった。
再利用性を評価した結果、剥離性は、彩色材の形状が崩れたが剥がすことができた。また、再貼着性は、彩色材が初回の作業と同じように貼り付けられた。
実施例2
積層体と基材層の1つの端部同士を接合せずに、貼り絵作業した結果、下絵がずれて円滑に作業ができなかった。しかし、貼着後は、作業中に手が触れたり、表面を軽くこすっても彩色材は剥離しなかった。さらに、貼付台シートを軽く振っても彩色材は脱落しなかった。保存性については、放置後に彩色材の一部が少し浮いた状態が観察された程度であった。再利用性については、再利用時にも下絵がずれ易い以外は、彩色材の剥離性も再貼着性もそれぞれ実用上の問題はなく、積層体と基材層の1つの端部同士を接合した実施例1と同等であった。
実施例3
補強層として透明樹脂シートの代わりに寒冷紗を用いてスプレー糊で貼付層に積層し、基材層にポリ塩化ビニル製樹脂下敷きを用いること以外は実施例1と同様にして貼付台シートを作製した。貼付層と補強層との積層体は、実施例1よりもやや柔軟であったが、基材層の上で貼り絵作業するには問題のない剛性を有していた。他の評価結果は実施例1と同様であった。
実施例4
不織布の柄をスタガー柄に変更し、貼付層を、スプレー糊を用いることなく、補強層としての寒冷紗を積層し、その上から全面を手で軽く押さえつけて貼付層と圧接する以外は実施例1と同様にして貼付台シートを作製した。貼付層と補強層との積層体の耐変形性は、貼り絵作業で問題のない剛性を有していたものの、シートを曲げると、剥離する場合があった。貼り絵作業性を評価した結果、貼り付け作業性は良好であり、作業中に手が触れたり、表面を軽くこすっても彩色材は剥離しなかった。さらに、貼付台シートを軽く振っても彩色材は脱落しなかった。しかし、端の部分を手で擦ると剥離する場合があった。他の評価結果は実施例1と同様であった。
実施例5
柄をスタガー柄、目付を30g/m2、厚みを0.45mm、見掛密度を0.067g/cm3に変更した透明性の高い不織布を用い、基材層にポリ塩化ビニル製樹脂下敷きを用いること以外は実施例1と同様にして貼付台シートを作製した。
下絵視認性は、黒色の1mm間隔のラインでも非常に明瞭に区別がついた。
貼付層と補強層との積層体の耐変形性は、貼付層は薄いものの、補強層の効果で変形しなかった。
貼り絵作業性については、問題なく作業できたが、不織布が薄く、繊維数が少なく、また地合斑が若干目立つため、部分的に若干の貼り付き性に差があった。また、中〜小片は問題なく、貼着できたが、大きい彩色材や、硬い彩色材は脱落し易かった。なお、表面を擦るとやや毛羽立ち易かった。彩色材として、主に白色の不織布を用い、細かな表現部に着色糸を用いて作業した。
保存性については、放置後に彩色材の一部が少し浮いた状態が観察されたが使用上はほとんど問題ないものであった。
再利用性について、剥離性は、彩色材が一部ちぎれた。再貼着性は、貼付層の表面を少しこすって毛羽立たせると、初回の利用時と同様にできる箇所と、こすっても彩色材が一部貼付きにくい箇所が観察された。
実施例6
目付を70g/m2、厚みを0.95mm、見掛密度を0.074g/cm3に変更した半透明の不織布を用いる以外は実施例1と同様にして貼付台シートを作製した。下絵視認性は、1mm間隔のラインでも個々の線の区別がついた。他の評価結果は実施例1と同様であった。
実施例7
目付を110g/m2、厚みを1.35mm、見掛密度を0.081g/cm3に変更した半透明の不織布を用いる以外は実施例1と同様にして貼付台シートを作製した。下絵視認性は、黒色の1mm間隔、3mm間隔のラインはぼやけるが、5mm間隔のラインはなんとなく区別の付くものであった。また、貼り絵作業において、彩色材として、主に白色の不織布を用い、細かな表現部に着色糸を用いて作業したが、下絵の細かい部分は見えにくかった。貼り絵作業性を評価した結果、小片の貼着性が実施例1及び6に比べて低下したが、若干強めに押し付けたり、こすりつけたりすれば問題なく、問題なく貼り付けることができた。なお、貼付台シートを軽く振ると脱落する彩色材があった。他の評価結果は実施例1と同様であった。
実施例8
柄をスタガー柄、目付を150g/m2、厚みを1.6mm、見掛密度を0.094g/cm3に変更した殆ど透明性のない不織布を用いる以外は実施例3と同様にして貼付台シートを作製した。下絵視認性は、黒色の5mm間隔ラインも確認できなかった。
貼付層と補強層との積層体の耐変形性は、ほとんど変形しない状態で問題なかった。
貼り絵作業性については、下絵の確認ができなかった。また、貼付台シート表面が硬く、貼着が困難であり、小片の彩色材は貼着が困難であった。貼付台シートを振ると脱落し易く、特に小片の彩色材や貼着性の低い彩色材でその傾向が顕著であった。
保存性については、放置中に彩色材の一部が脱落した。
再利用性について、彩色材は容易に剥がすことが可能であったが、再度貼着性は、貼付層の表面をこすっても彩色材が一部しか貼り付かなかった。
実施例9
補強層を用いない以外は実施例5と同様にして貼付台シートを作製した。下絵視認性は、赤色の1mm間隔ラインも明瞭に区別がついた。貼付層の耐変形性は低く、大きな変形が見られた。貼り絵作業性については、貼付層が変形したり、彩色材がずれて円滑に作業できなかった。
実施例10
目付を50g/m2、厚みを0.65mm、見掛密度を0.077g/cm3に変更した透明性の高い不織布を用いる以外は実施例9と同様にして貼付台シートを作製した。
下絵視認性は、赤色の1mm間隔のラインでも明瞭にり区別がついた。
貼り絵作業性については、貼り付け作業性は概ね良好であり、作業中に手が触れたり、表面を軽くこすっても彩色材は剥離しなかった。特に、下絵の視認性が高いため、細工は容易であった。しかし、剛性がないため、やや剥がれ易く、補強層なしで作業できる限界に近い剛性であった。
保存性については、放置後には彩色材の一部が剥がれかけていたり、極部分的ではあるが彩色材の一部が脱落していた。表面に透明アクリル板を積層させた場合も、補強層がないために貼付シートが透明アクリル板から離れてしまい、彩色材は一部がはがれかけた状態になった。
再利用性について、剥離性は、貼着力が強く、剥離時に彩色材が一部ちぎれた。再貼着性に関しては、初回の作業と変わらず良好に貼り付けられた。
実施例11
補強層を用いない以外は実施例6と同様にして貼付台シートを作製した。
貼付層と補強層との積層体の耐変形性は、横方向に若干大きな変形が観察された。
貼り絵作業性については、補強層がないため、やや変形するが、貼り付け作業性は概ね良好であり、作業中に手が触れたり、表面を軽くこすっても彩色材は剥離しなかった。しかし、補強材がないため、擦るとやや変形し易かった。また、剛性がなく、やや剥がれ易かった。
保存性については、放置後に彩色材の一部(1/3程度以上)が剥がれかけていた。表面に透明アクリル板を積層させた場合も、補強層がないために貼付シートが透明アクリル板から離れてしまい、彩色材は一部がはがれかけた状態になった。
再利用性については、剥離性は、指で剥離しようとしたときに彩色材が一部ちぎれてた。また、再貼着性は、初回の作業時と同じように貼り付けられた。
他の評価結果は実施例6と同様であった。
実施例12
不織布の柄をスタガー柄に変更し、かつ補強層を用いない以外は実施例7と同様にして貼付台シートを作製した。貼付層と補強層との積層体の耐変形性は、縦方向は若干変形したが、横方向は変形度合いが大きかった。
貼り絵作業性については、彩色材として、白色不織布と、染色不織布と、スプレー着色不織布とを用いて作業を行ったが、下絵の細かい部分は見えにくかった。スプレー着色不織布を用いることにより、引きちぎった端部より着色していない不織布内部の部分の白い繊維を露出させての色調整なども可能であった。また、染色不織布と組み合わせることで、さらに多彩な色表現が可能になった。また、手軽に貼り絵作業を進める傍らで、白色の不織布をスプレー染色することにより、必要になった色をその場で作成することもできた。すなわち、これらの不織布を組み合わせることにより、異なる色の彩色材同士を混ぜあわせ単色では表現しがたい色の表現ができ、色の再現性が向上した。
小片の貼着性は実施例1及び6に比べて低下したが、若干強めに押し付けたり、こすりつけたりすれば問題なく、貼り付けることができた。なお、貼付台シートを軽く振ると脱落する彩色材があった。また、強く擦ると貼付台シートが歪み易かった。
保存性については、彩色材の一部が少し浮いた状態あるいは極局所的に彩色材の一部(1/3程度以上)が剥がれかけていた。表面に透明アクリル板を積層させた場合も、補強層がないために貼付シートが透明アクリル板から離れてしまい、彩色材は一部が剥がれかけた状態になった。
再利用性については、彩色材の剥離性は、形状が大きく崩れて剥離したり、彩色材が一部ちぎれかけた。再貼着性は、貼付層材の表面を少しこすって毛羽立たせると初回の利用時と同様に貼付できた。
他の評価結果は実施例7と同様であった。
実施例13
潜在捲縮性繊維として潜在捲縮性繊維B(2.2dtex)を用いる以外は実施例1と同様にして貼付台シートを作製した。貼り絵作業性については、ほぼ問題なく作業できたが、繊維が若干太く、毛羽が粗いため、貼着性が若干弱く、彩色材の接着性は、端が少し剥離した。対摩擦性も端部が少し浮き上がった彩色材もあった。再利用性について、再貼着性は貼付層の表面を少しこすって毛羽立たせると初回の利用時と同様に作業ができた。他の評価結果は実施例1と同様であった。
実施例14
潜在捲縮性繊維として潜在捲縮性繊維C(3.3dtex)を用いる以外は実施例1と同様にして貼付台シートを作製した。
得られた不織布は、実施例1よりも若干透明性が高かった。
下絵視認性は、黒色の1mm間隔ラインはが明瞭に区別がついた。
貼付層と補強層との積層体の耐変形性は、張力を与えてもほとんど変形しなかった。
貼り絵作業性については、殆ど問題なく作業できたが、表面ががさがさしていた。また、やや小さな彩色材の貼着が困難であり、小片がやや脱落しやすい傾向があった。
保存性については、表面に透明アクリル板を積層させない場合、放置後に彩色材の一部が少し浮いた状態が観察され、彩色材の一部(1/3程度以上)が剥がれかけていた部分も見られた。
再利用性については、彩色材の剥離性は容易に剥がすことができ、再貼着性は、貼付層の表面をこすっても彩色材が一部しか貼り付かなかった。
実施例15
潜在捲縮性繊維A(1.7dtex)70質量%及び潜在捲縮性繊維C(3.3dtex)30質量%を混綿したカードウェブを用いる以外は実施例1と同様にして貼付台シートを作製した。貼り絵作業性については、問題なく作業できたが、貼着性は若干弱かった。再利用性について、剥離性は、彩色材を剥がそうとすると、彩色材の形状が大きく崩れたが剥離した。再貼着性は、貼付層の表面を少しこすって毛羽立たせると、初回の利用時とほとんど同様に作業ができた。他の評価結果は実施例1と同様であった。
実施例16
潜在捲縮性繊維A(1.7dtex)70質量%及びレーヨン繊維30質量%を混綿したカードウェブを用いる以外は実施例1と同様にして貼付台シートを作製した。貼り絵作業性については、やや表面が毛羽立ち易かった。また、細かい彩色材の貼着がやや困難であり、強く擦ると彩色材が脱落し易かった。さらに、貼付台シートを軽く振っても彩色材は殆ど脱落しなかった。再利用性について、剥離性は、彩色材の形状が大きく崩れたが、剥離した。再貼着性は、貼付層の表面を少しこすって毛羽立たせると、初回の利用時と同様にできた。他の評価結果は実施例1と同様であった。
比較例1
レーヨン繊維を用いて70g/m2のカードウエッブを作成し、搬送ベルト上で、両面にそれぞれ3.0MPa、5.0MPaの水圧で水流絡合して、目付が70g/m2、厚み0.76mm、見掛密度0.092g/cm3であり、半透明の不織布を得た。この不織布を用いる以外は実施例1と同様にして貼付台シートを作製した。下絵視認性は、黒色の1mm間隔ラインの区別がついた。貼付層と補強層との積層体の耐変形性は、張力をかけてもほとんど変形しなかった。貼り絵作業性については、糊を使用しなければ、彩色材を貼付層に貼着できなかった。
比較例2
透明樹脂シートのみを用いて貼り絵作業したが、彩色材を貼着できなかった。保存性、再利用性共にまったく利用できなかった。
比較例3
貼付層及び補強層の積層体の代わりに面ファスナー凸面シートを用いる以外は実施例1と同様にして貼付台シートを作製した。
下絵視認性は、まったく無かった。
面ファスナー凸面シートの耐変形性は、ほとんど変形せずしっかりしたものであった。
貼り絵作業性については、彩色材の形状によって不安定であり、例えば、小さな彩色材やフィルム状の彩色材は貼着できなかった。また、ファスナー凸面サイズに形状が沿うような彩色材や貼着性の良いものは作業時に修正が困難であり、表現性に乏しいものであった。
保存性については、彩色材の形状により異なり、貼着しているものは脱落しないが、限られていた。
再利用性については、貼着している彩色材を剥離させる事は非常に困難であった。再貼着性は初期と同様で彩色材の様態により限定された。
実施例及び比較例についての各種特性を評価した結果をまとめて表1及び表2に示す。