JP6237922B2 - 鉛蓄電池 - Google Patents

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Description

本発明は、鉛蓄電池に関する。
鉛蓄電池は、産業用に広く用いられており、例えば自動車のバッテリー、バックアップ用電源、電動車の主電源に用いられる。近年の自動車では、炭酸ガス排出規制対策や低燃費化を目的として、発電制御や信号待ち時にエンジンを停止させるアイドリングストップアンドスタートシステム(以下、「ISS」と称する)が採用されるようになった。
アイドリングストップ中はオルタネータによる発電が行われないため、電動装備への電力は全て鉛畜電池から供給され、鉛蓄電池は従来よりも深い放電が行われる。また、走行中もオルタネータの発電が制御されるため、充電不足状態となる。このため、鉛蓄電池では、深い放電と充電不足が繰り返され、成層化(充放電の繰り返しにより、電槽の上下で電解液の比重に差が生じる現象)が鉛蓄電池の短寿命化の要因として顕在化してきた。鉛蓄電池の正極では、放電時に発生した水が電解液を撹拌するため、成層化の影響は小さいが、負極ではそうした作用がないために、成層化が起こりやすい。
また、ISS用鉛蓄電池では、電解液の成層化の抑制による長寿命化のほかに、エンジン始動性である高率放電性能、内部抵抗及び充電受入れ性等の電池性能の向上も課題である。特に、過酷な環境下で使用されるISS用鉛蓄電池の高性能化には、長寿命化と電池性能の向上が必要不可欠である。
特許文献1(特開平6‐325745号公報)には、ガラス繊維、ポリエステル繊維、シリカ粉末及びアクリル樹脂バインダーを含むウエブ層と、含アルカリガラス繊維及びアクリル樹脂を含むガラス繊維層を反応性ホットメルト接着剤で接着してなる液式鉛蓄電池用セパレータが開示されている。特許文献1によれば、製造が容易で、容易かつ効率的に、安価に製造可能な液式鉛蓄電池用セパレータが提供されるとされている。
特許文献2(特開平3‐122966号公報)には、耐酸性の無機粉体とガラス繊維を主体とする多孔質の電解液保持体を備えた密閉形鉛蓄電池であって、電解液保持体は、最大孔径が30μm未満であることを特徴とする密閉形鉛蓄電池が開示されている。特許文献2によれば、電解液の成層化現象を防止することができ、電池のサイクル特性や寿命が向上し、また高さ方向に長い大形の密閉型の鉛蓄電池において成層化による電池性能の低下を抑制することができるとされている。
特許文献3(特開2003‐077445号公報)には、ガラス繊維より成るガラスマットをセパレータとして備える鉛蓄電池に於いて、正負極両極板と前記ガラスマットの間に、気泡透過阻止機能を有する多孔性シートを配置したことを特徴とする鉛蓄電池が開示されている。特許文献3によれば、セパレータとしてガラスマットを備えた鉛蓄電池において、ガラスマット内への気泡の蓄積を防止することができ、作動の経過に伴う内部インピーダンスの増大と電解液の成層化及びそれに起因するサルフェーションによる特性劣化が生じる虞の少ない鉛蓄電池を提供することができるとされている。
特許文献4(特開2007‐250360号公報)には、正極板と負極板との間に空孔率が25%以下の繊維マットセパレータが配置され、電解液面の高さが少なくとも前記正極板および前記負極板の極板面の高さ以上にあり、前記正極板および負極板にそれぞれ充填された正極活物質および負極活物質に含まれる電解液体積(A)に対する前記繊維マットセパレータ中に充填された電解液体積(B)の比率(B/A)を1.30以下とし、電池外装に電池内圧に応じて開閉する弁機構を備えた鉛蓄電池が開示されている。特許文献4によれば、充放電を繰り返した時に発生する電解液の成層化が抑制され、さらには、特に負極板のサルフェーションが抑制され、電池容量の低下が抑制されるとされている。
特許文献5(特開2013‐206571号公報)には、水銀圧入法による平均細孔径が1μm以下で、水銀圧入法による空隙率が50〜90%である耐酸性微多孔性樹脂フィルムシートの少なくとも1層と、平均繊維径が2〜4.5μmのウール状ガラス繊維が50質量%以上で構成され、バブルポイント法による平均孔径が20〜100μmで、吸液速度が20mm/分以上である湿式抄造された耐酸性不織布シートの少なくとも1層とを、積層状態に構成したことを特徴とする液式鉛蓄電池用セパレータが開示されている。特許文献5によれば、微多孔性樹脂フィルムシートとガラス繊維マット状不織布シート(ガラス繊維マット材)を積層状態に組み合わせてなる液式鉛蓄電池用セパレータにおいて、ガラス繊維マット状不織布シートが、良好な極板活物質保護機能と良好なガス排出機能と良好な電解液成層化防止機能をもたらすことができ更に電池反応による極板の伸びに追従し得る良好な伸びを有するようにしたセパレータとそれを用いた液式鉛蓄電池を提供することが可能となるとされている。
特開平6‐325745号公報 特開平3‐122966号公報 特開2003‐077445号公報 特開2007‐250360号公報 特開2013‐206571号公報
一般に、電解液の成層化抑制を目的として電解液中に物理的障壁を設けると、電解液中での硫酸イオンの移動が妨げられ、電池の内部抵抗が上昇し、高率放電性能が低下する。すなわち、成層化の抑制及び高率放電性能低下の抑制は、いわばトレードオフの関係にあり、両者を高いレベルで両立する点について、更なる改善が望まれていた。
本発明は、上記事情に鑑み、電解液の成層化の抑制と高率放電性能の低下の抑制を高いレベルで両立させることが可能な鉛蓄電池を提供することを目的とする。
本発明に係る鉛蓄電池は、上記目的を達成するため、基本的には次のように構成される。すなわち、第1の態様は、二酸化鉛を含む正極板と、金属鉛を含む負極板と、前記正極板と前記負極板との間に配置されたセパレータと、希硫酸を含み、前記正極板と前記負極板と前記セパレータとを有する極板群が浸される電解液と、前記極板群と前記電解液とを収納する電槽と、を備え、前記負極板の周囲には、前記電解液が透過可能な多孔質膜が設けられ、前記多孔質膜は、疎水性官能基を有する基材と、前記基材の表面に形成された親水被膜とを含み、前記親水被膜は、親水材料とバインダとを含み、前記バインダは、疎水性官能基と親水性官能基とを有し、前記バインダの疎水性官能基と前記基材の疎水性官能基とが結合する構成を有し、前記バインダは、前記親水被膜の表面側の端部に前記親水性官能基を有することを特徴とする。
また、第2の態様は、二酸化鉛を含む正極板と、金属鉛を含む負極板と、前記正極板と前記負極板との間に配置されたセパレータと、希硫酸を含み、前記正極板と前記負極板と前記セパレータとを有する極板群が浸される電解液と、前記極板群と前記電解液とを収納する電槽と、を備え、前記負極板の周囲には、前記電解液が透過可能な多孔質膜が設けられ、前記多孔質膜は、親水性官能基を有する基材と、前記基材の表面に形成された親水被膜とを含み、前記親水被膜は、親水材料とバインダとを含み、前記バインダは、第1の親水性官能基と第2の親水性官能基とを有し、前記バインダの第1の親水性官能基と前記基材の親水性官能基とが結合する構成を有し、前記バインダは、前記親水被膜の表面側の端部に前記第2の親水性官能基を有することを特徴とする。
本発明に係る鉛蓄電池によれば、電解液の成層化の抑制と高率放電性能の低下抑制を高いレベルで両立させることができる。
本発明に係る鉛蓄電池の一実施形態を模式的に示す斜視図である。 図1Aの極板群の一部を模式的に示す断面図である。 図1Aの極板群の一部を模式的に示す斜視図である。 図1Aの極板群4の一部(特に負極板の周囲)の構造を模式的に示す図である。 本発明に係る基材(表面処理無し)の構造の一例を模式的に示す図である。 本発明に係る基材と親水被膜の構造の一例を模式的に示す図である。 本発明に係る基材(表面処理有り)の構造の他の例を模式的に示す図である。 本発明に係る基材と親水被膜の構造の他の例を模式的に示す図である。
以下、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。ただし、本発明はここで取り上げた実施の形態に限定されることはなく、要旨を変更しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。
上述したとおり、本発明に係る鉛蓄電池は、負極板の周囲に、電解液が透過可能な多孔質膜を備える。また、多孔質膜は基材と基材の表面に形成された親水被膜とを含み、親水被膜は親水材料とバインダとを含む。以下、多孔質膜の構成と作用効果について、詳述する。
(1)電解液の成層化抑制
電解液の成層化は、電解液中の硫酸イオンと硫酸水素イオンが沈降して、電槽の上下で電解液の比重に差が生じる現象である。以下では、硫酸イオン(SO 2−)と硫酸水素イオン(HSO )とを「硫酸イオン」と総称する。本発明では、多孔質膜を負極の周囲に設置して、硫酸イオンの沈降を阻害する物理的障壁を設けることにより、電槽内での硫酸イオンの沈降を防ぐことができる。また、多孔質膜の表面に設けられた親水被膜は、親水被膜を構成する親水性材料及びバインダ(詳細は後述する)に含まれる親水性官能基の作用によって、電槽の下部に滞留する硫酸イオンを上部に上昇させることができる。したがって、電槽内部の硫酸イオンの濃度を均一に保持することが可能である。
(2)高率放電性能低下抑制
本発明者らの検討の結果、高率放電性能は、多孔質膜の基材に親水被膜を設けた場合には、親水被膜を設けない場合よりも優れていることがわかった。これは、硫酸イオンと親水被膜との間に化学的な相互作用が働いているためと考えられる。具体的には、親水被膜(親水材料)に用いられるSiO、Al、BaSO又はTiOの表面には、‐OH基が生成される。親水被膜表面の‐OH基は、電解液である硫酸水溶液中でプロトンが付与された結果、‐OH の形で存在する。硫酸イオン(SO 2−とHSO )は、この‐OH へ引き寄せられて化学的な相互作用を生じていると考えられる。すなわち、多孔質膜に設けられた親水被膜は、硫酸イオンと相互作用を生じ、硫酸イオンを吸着して集め、電極(負極)へ供給すると考えられる。このため、親水被膜から電極への硫酸イオンの供給効率が、高率放電性能を左右すると考えられる。そこで、親水被膜から電極への硫酸イオンの供給効率を向上させるため、以下の点に基づき、親水被膜の材質を検討した。
親水被膜表面に存在する‐OH基等の親水性官能基量が多い場合、すなわち親水性が高い場合は、硫酸イオンが重力方向と反対方向に引き上げられて電槽内における硫酸の濃度分布が解消されるため、電極への硫酸イオンの供給速度が向上すると考えられる。このような親水被膜表面を構築するには、親水被膜表面の官能基の配向性を制御することが必要である。すなわち、親水被膜の表面に親水性の官能基が配向するよう制御することが必要である。親水被膜表面の官能基の配向性を制御しない場合は、親水被膜内部において、親水材料の表面がバインダ由来の疎水性官能基で被覆されてしまう可能性があるため、好ましくない。一般的に親水性の指標として接触角が用いられるが、親水被膜の水又は硫酸に対する接触角が10°以下である場合に親水性は特に優れており、好ましい。親水被膜表面の官能基を制御するには、親水被膜の基材(有機織布、有機不織布)表面の官能基組成に合わせて、バインダを選定することが必要となる。
以下に多孔質膜を構成する基材、親水材料及びバインダについてさらに詳細に説明する。
[1]多孔質膜の基材
電解液が透過可能な多孔質膜の基材として、繊維状の織布、不織布又は空孔を有する多孔質体を用いることができる。多孔質膜は、有機、無機を問わない。多孔質膜材料の例として、ポリプロピレン、セルロース、ポリエチレン、ナイロン、アラミド、及びポリエステル、ガラスウール等が挙げられる。有機織布と有機不織布は、無機織布と無機不織布に比べると製造が容易という利点を持つため、特に好ましい。
基材の厚さは、硫酸イオンの沈降の防止能力、電池反応への影響、及び強度等を考慮すると0.03mm〜0.1mmが好ましい。0.03mm未満では強度が不十分で、0.1mmより大きいと内部抵抗が大きくなり過ぎる。この範囲の中で、織布、不織布の材料や空孔(空隙)のサイズに応じて定めることが好ましい。なお、本明細書において「0.03mm〜0.1mm」とは、「0.03mm以上0.1以下」を意味するものとする。なお、基材の厚さは光学顕微鏡又はマイクロメータで測定可能である。
基材の有する空孔のサイズは、硫酸イオンを保持できるサイズが好ましい。より具体的には、孔径100nm〜100μmが好ましく、1μm〜50μmがより好ましい。基材の有する空孔が上述したサイズである場合、電解液中の硫酸イオンを保持して負極板に効率よく供給することが可能となり、内部抵抗低下の抑制に寄与することができる。孔径が100nmより小さいと硫酸イオンが挿入できず、100μmより大きいと硫酸イオンを保持することができない。通常、セパレータ(例えば、ポリオレフィン樹脂等の高分子材料)の空孔径は30〜40nm程度であり、このサイズの空孔では、硫酸イオンを保持することが困難である。基材の空孔の構造は、有機織布のような規則的な構造でも有機不織布のような不規則構造でも構わない。
上述した基材に以下に述べる親水塗料を塗布し、加熱して熱硬化させることで、基材の表面に親水被膜を形成できる。このとき、基材の空孔は維持したまま、基材の繊維(骨格)の上に親水被膜が形成される。なお、基材は、無処理でも親水化処理をしてあっても構わない。親水化処理は、ポリグリセリンやシリコーン系等の界面活性剤の塗布、プラズマ処理のような乾式の表面処理のどちらでも構わない。ただし、親水塗料に含まれるバインダは基材表面に存在する官能基の種類に合わせて選択するものとし、[2](b)バインダにて詳細に説明する。
[2]親水塗料
親水被膜を形成するための親水塗料は、(a)親水材料、(b)バインダ及び(c)溶媒から構成される。親水材料とバインダは、ともに、固形成分が一定の濃度で分散媒中に存在し、分散液を構成しているものとする。親水材料の固形成分とバインダの固形成分の添加量の質量比は、90:10〜70:30であることが好ましい。固形成分の質量比がこの範囲であると、親水材料とバインダとを混合させて親水塗料を作製するのに好適である(作業性が良い)。親水材料が含まれる分散液とバインダが含まれる分散液を混合した後、親水材料とバインダ各々の固形成分の合計濃度が、混合分散液に対して0.5〜5wt%となるようにこの混合液を水溶性溶媒(例えばアルコール系溶媒や水)で希釈する。固形成分の濃度が0.5wt%より小さいと親水膜の厚さが不均一になり、5wt%より大きいと親水被膜が形成しづらくなり、どちらも好ましくない。
(a)親水材料
親水材料には、硫酸イオンと親水被膜との間に働く化学的相互作用を考慮すると、SiO、Al、BaSO及びTiOからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。特に、SiOとAlを混合したものが好ましい。SiOは電解液に対する接触角が小さい点と、Alは硫酸イオンの吸着点(OH基)が多い点で成層化の抑制及び放電効率の向上の観点で有利であると考えられる。Alを用いる場合には、親水材料として親水性アルミナゾルを利用することができ、AlとSiOとの混合物を用いる場合には、親水材料としてアルミナゾルとシリカゾル(コロイダルシリカ)との混合物を利用することができる。
酸性水溶液に浸漬しても溶けださない無機材料は、親水性を長期間保てることから、親水材料として好ましい。このような無機材料として、親水性シリカ粒子や親水性アルミナゾルが挙げられる。具体的には、日産化学工業(株)製シリカゾル(製品名:IPA‐ST‐UP、IPA‐ST、ST‐OXS、ST‐K2及びLSS‐35)、日産化学工業(株)製アルミナゾル(製品名:AS‐200)等が挙げられる。シリカゾルはアルコールを分散媒とし、アルミナゾルは水を分散媒としているため、これらは容易に混ぜ合わせることができる。
シリカゾルは比表面積が130m/g〜1000m/g程度である粒子を用いるのが好ましい。シリカゾルの形状が球形であると仮定すると、粒子径は2nm〜20nmである。アルミナゾルは、含まれているアルミナ粒子の比表面積が200m/g〜400m/g程度であるものを用いるのが好ましい。アルミナ粒子の形状が板状であると仮定すると、例えば寸法(縦、横、及び高さ)が10nm×10nm×100nmであるアルミナ粒子を含むアルミナゾルを用いることができる。シリカゾル及びアルミナゾルの比表面積は、硫酸イオンの吸着点(‐OH基)に影響を与える因子であり、粒子径は比表面積に影響を与える因子である。また、粒子径は親水被膜の基材への塗工性に影響を与える因子でもある。
(b)バインダ
バインダには、有機高分子材料又は無機材料を用いることができる。バインダに用いる有機高分子材料の例としては、ポリエチレングリコールやポリビニルアルコール等を加熱して得られる重合体を挙げることができる。バインダに用いる無機材料の例としては、シリカゾルやシランカップリング剤のように加熱により保持体となる材料が挙げられる。この中でも酸性水溶液中の長期安定性が優れているのは、アクリルアミド、アルコキシシラン、シリカゾル、シランカップリング剤である。特にシランカップリング剤は、シランカップリング剤を構成する官能基の種類によってバインダの配向性を以下のように制御できるため、好ましい。
図3Aは本発明に係る基材(表面処理無し)の構造の一例を模式的に示す図であり、図3Bは本発明に係る基材と親水被膜の構造の一例を模式的に示す図である。また、図4Aは本発明に係る基材の構造の他の例を模式的に示す図であり、図4Bは本発明に係る基材と親水被膜の構造の他の例を模式的に示す図である。図3A及び3Bに示すように、基材12は、表面に化学的な処理を施していない場合は、疎水性官能基(親油性官能基)が多い表面になっていると考えられる。基材12表面に存在する疎水性官能基として、メチル基(‐CH基)、メチレン基(‐CH基)等が挙げられる。その場合には、疎水性官能基であるビニル基(‐CH=CH2)、メタクリル基(COC(CH)=CH)、アクリル基(‐COCH=CH)又はスチリル基(‐CH=CHC)等の官能基を有するバインダを選択すると、バインダの疎水性官能基と基材の疎水性官能基とが結合し、一方でバインダの親水性官能基は、基材と逆側(親水被膜の表面側)の端部に配置される。
例えば、ビニル基、メタクリル基、アクリル基又はスチリルを有するシランカップリング剤をバインダとして選択すると、ビニル基、メタクリル基、アクリル基又はスチリル基が基材側に配向し、また、加水分解反応で生じた親水性のシラノール基は逆側(親水被膜の表面側)に向かって配向すると考えられる。
一方、図4A及び4Bに示すように、基材12の表面が親水化処理されている場合は、親水性官能基が多い表面になっていると考えられる。親水性官能基として、水酸基(‐OH基)、カルボキシル基(‐COOH基)、アミノ基(‐NH)等が挙げられる。その場合には、親水性のイソシアネート基(‐N=C=O)、アミノ基(‐NH)又はエポキシ基(第1の親水性官能基)を有するバインダを選択すると、バインダの第1の親水性官能基と基材の親水性官能基とが結合し、一方でバインダが有する第1の親水性官能基とは別の第2の親水性官能基は、基材と逆側(親水被膜の表面側)の端部に配置される。
例えば、イソシアネート基、アミノ基又はエポキシ基を持つシランカップリング剤をバインダとして選択すると、イソシアネート基、アミノ基又はエポキシ基が基材表面の官能基と反応するため、基材側に配向し、加水分解で生じた親水性のシラノール基は逆側(親水被膜の表面側)に向かって配向すると考えられる。
このように、基材表面の官能基の種類に合わせてバインダを選択することで、官能基の配向性を制御でき、親水膜の最表面側に親水性官能基(シラノール基等)を配向させることができ、親水被膜の表面に‐OH基を多数生成させることが可能となる。この結果、電槽の下部に滞留する硫酸イオンを吸着し、上昇させて電解液の成層化を抑制できる。また、親水被膜の表面で、硫酸イオンを吸着して集め、極板へ供給するため、親水膜から極板への硫酸イオンの供給効率が向上し、高率放電性能低下を抑制できる。
特に、表面処理無しの基材(表面に疎水性官能基を持つもの)と、ビニル基、メタクリル基、アクリル基又はスチリル基等の官能基を持つものをバインダとして選択するのは、親水性官能基の配向性の制御、基材の親水化処理が不要であるために、工程を短縮できることから好ましい。なお、基材及びバインダの官能基は、FT‐IR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)で分析可能である。
(c)溶媒
親水材料とバインダの混合液を希釈するために用いられる溶媒は、親水材料とバインダとの分散性と相溶性が良く、熱硬化の際に溶媒が揮発しやすいものが望ましい。これらの条件を満たす溶媒としては、アルコール系の溶媒や水が好ましい。さらに、基材の耐熱性を考慮すると沸点は100℃以下であることがさらに好ましい。溶媒の具体例として、水、メタノール、エタノール、及びイソプロピルアルコールが挙げられる。
親水被膜は、10nm〜100nmの厚さで形成することが好ましい。10nmより薄いと硫酸イオンを吸着して保持する効果が小さくなり、100nmより厚いと電池の内部抵抗が大きくなり、どちらも好ましくない。なお、親水被膜の厚さは、断面をSEM(Scanning Electron Microscope)観察で測定可能である。
親水被膜が形成された多孔質膜を負極板の周囲に設けることにより、鉛蓄電池において、電解液の成層化抑制と高率放電性能の低下抑制が可能である。
特に、本発明に係る鉛蓄電池では、親水被膜が形成された多孔質膜をセパレータとは別に負極板の周囲に設けると、多孔質膜が負極板とより密着した状態で配置されるので、セパレータに成層化の抑制効果を持たせた場合よりも、成層化の抑制効果が高い。
[3]鉛蓄電池
図1Aは、本発明に係る鉛蓄電池の一実施形態を模式的に示す斜視図であり、図1Bは図1Aの極板群の一部を模式的に示す断面図であり、図1Cは図1Aの極板群の一部を模式的に示す斜視図である。図1A〜1Cに示すように、本実施形態に係る鉛蓄電池100は、外装部分として電槽1と端子2を備える。電槽1の内部には、極柱3と極板群4を備える。極柱3は、極板群4と端子2とを接続する。極板群4は、金属鉛(Pb)を活物質として備える負極板5と、二酸化鉛(PbO)を含む正極板7と、負極板5と正極板7との間に配置されたセパレータ6とを備える。
負極板5と正極板7は板状であり、セパレータ6を介して負極板5と正極板7が交互に積層されて、極板群4が構成される。図1A〜図1Cに示す態様では、セパレータ6は袋状を呈しており、板状の負極板5を収納することで、負極板5及び正極板7の間に配置される構成としているが、セパレータ6が板状であってもよい。極板群4は、希硫酸を含む電解液(図示せず)に浸されて電槽1内に収納され、鉛蓄電池を構成する。
図2は、図1Aの極板群4の一部(特に負極板の周囲)の構造を模式的に示す図である。負極板5の周囲には、電解液が透過可能な多孔質膜8が設けられる。セパレータ6は負極板5の周囲に設けられた多孔質膜8と正極板7との間に配置される。セパレータ6が袋状の場合は、負極板5と多孔質膜8とを収納する。多孔質膜8は、基材12と、基材12の表面に形成された親水被膜9を有する。親水被膜9は、親水材料10と親水性官能基を有するバインダ(保持体材料)11とを含む。多孔質膜8は、少なくともセパレータ6と対向する負極板5の一側面全面を覆うように配置されることが好ましい。図2に示したように、負極板5の両側側面(セパレータ6と対向する面と、この面の反対にある面)及び底面を覆うように配置されることがさらに好ましい。なお、負極板5と多孔質膜8とは、接触していることが好ましい。
多孔質膜8は、図1Cに示したセパレータ6のように袋状で負極板5を収納してもよい。また、親水被膜9は、多孔質膜8のほかに、セパレータ6の表面にも形成されていてもよい。
[実施例1]
上述した本発明に係る鉛蓄電池を作製し、試験評価を行った。表1は、本発明の実施例及び比較例の鉛蓄電池の構成を示す表であり、表2は電解液の成層化の抑制効果の評価と、高率放電性能の評価とを示す表である。鉛蓄電池の構成として、基材(有機織布)の材質と基材の表面官能基の組成、親水被膜の親水材料(X)とバインダ(保持体材料)(Y)とこれらの固形成分の質量比(X:Y)とを示した。有機不織布の材質はポリプロピレンを「PP」で表し、ポリエチレンを「PE」で表した。
また、表1には、比較例として作製した鉛蓄電池についても記載した。以下の実施例と比較例では、負極板5の周囲に有機不織布を設けた。実施例では有機不織布の厚さは0.1mmに、親水被膜の厚さは100nmに統一した。有機不織布の表面官能基、親水材料の組成比率、バインダの種類を変えて以下の実施例と比較例を検討した。
実施例1による鉛蓄電池には、図2に示すように親水被膜9が形成されたPP製有機不織布が負極板5の周囲に設けられている。有機不織布の表面には、以下のようにして親水被膜9を形成した。
有機不織布として、無処理のポリプロピレン(PP)製を用いた。親水材料10としてシリカゾル(SiO)のみを用い、バインダ11としてビニル基を有するシランカップリング剤を用いた。すなわち、親水材料10には100wt%のシリカゾル(SiO)が含まれる。具体的には、シリカゾルとして日産化学工業(株)製のシリカゾル(製品名:IPA‐ST‐UP)を、シランカップリング剤として信越化学工業(株)製のビニルトリエトキシシラン(製品名:KBE‐1003)を用いた。
親水材料10(X)とバインダ11(Y)の固形成分の質量比(X:Y)が80:20になるように、親水材料10とバインダ11とを混合した。この混合液を、固形成分の濃度が5wt%になるようにエタノールで希釈することで、親水塗料を調製した。
この親水塗料に有機不織布を浸漬させた後、速度156mm/分にて有機不織布を引き上げた。親水塗料を塗布した有機不織布をキムタオル(登録商標)に挟んで上からローラーを転がすことで有機不織布に付着した余分な親水塗料を除去した後、この有機不織布を60℃に加温した恒温槽内に1時間置いて溶媒を除去した。このようにして、有機不織布の表面に親水被膜を形成した。親水被膜は厚さが100nmであった。親水被膜9が形成された有機不織布を負極板5の周囲に設置(負極板の両側の側面及び底面を覆うように配置)し、電解液として希硫酸を用い、図1に示すような鉛蓄電池を作製した。
この鉛蓄電池に、まず電解液の成層化を抑制する効果を評価した。
サイクル試験では、鉛蓄電池を25℃の雰囲気に置き、下記(i)(ii)(iii)を1サイクルとして、このサイクルを3600回繰り返した(電池工業会規格SBAS0102に準拠)。
(i)放電電流45Aで59秒間放電
(ii)放電電流300Aで1秒間放電
(iii)充電電圧14V(制限電流100A)で定電流定電圧充電を60秒間
3600回目において、電槽内の上部と下部での電解液の比重差を成層化の指標とした。すなわち、3600回目のサイクルでの、電槽内の下部における電解液の比重と上部における電解液の比重とを測定し、これらの比重を求め、この比重差の値により、成層化の抑制効果を評価した。なお、比重は20℃換算とした。電槽内の上部とは極板群4の上端から1cm上の位置であり、電槽内の下部とは、極板群4の下端から1cm下の位置である。極板群4の高さは、極板群4の下部からセパレータ6の上端までの長さ116mmを指す。具体的な評価基準は、比重差が0.02以下の場合を「A」、ひ0.02より大きく0.04以下の場合を「B」、0.04より大きく0.07以下の場合を「C」、0.07より大きい場合を「D」とした。この評価基準では、A、B、C、Dの順に成層化が抑制されていることになる。
本実施例による鉛電池は電解液の比重差が0.03と小さく、評価Bとなり、成層化が抑制されていることが分かった。
次に、鉛蓄電池の高率放電性能を評価した。高率放電性能は、−15℃の温度条件下で鉛蓄電池を16時間放置した後に、放電電流150A、終止電圧6VのJIS規格(JIS 5301:2006)に従って測定した。一般に、鉛蓄電池の内部に多孔質膜8を設置すると、高率放電性能が低下することが知られている。そこで、多孔質膜8を負極板5の周囲に設置しない場合の高率放電性能を100として、高率放電性能の低下が小さい場合(高率放電性能が100に近い場合)を、高率放電性能の低下を抑制できるとして評価した。
具体的な評価基準は、高率放電性能が100以下95以上を「A」、95未満91以上を「B」、91未満87以上を「C」、87未満を「D」とした。この評価基準では、A、B、C、Dの順に高率放電性能の低下を抑制していることになる。
本実施例による鉛蓄電池は、高率放電性能が95で評価Aとなり、高率放電性能の低下が極めて小さいことが分かった。すなわち、本実施例による鉛蓄電池は、高率放電性能の低下を抑制できることが分かった。
[実施例2]
実施例2の鉛蓄電池は、実施例1の鉛蓄電池と同様の構成を備えるが、次の点が相違する。以下では、主に相違点を説明する。
本実施例の鉛蓄電池では、PP製の有機不織布に親水化処理をして有機不織布表面に‐OH基、‐COOH基を生成させたものを用いた。親水材料10としてシリカゾル(SiO)のみを用い、バインダ11としてエポキシ基を有するシランカップリング剤を用いた。すなわち、親水材料には100wt%のシリカゾル(SiO)が含まれる。具体的には、シリカゾルとして日産化学(株)製のシリカゾル(製品名:IPA‐ST‐UP)を、シランカップリング剤として信越化学工業(株)製の3‐グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(製品名:KBM‐403)を用いた。
親水材料10(X)とバインダ11(Y)の固形成分の質量比(X:Y)が80:20になるように、親水材料10と保持体材料11とを混合した。この混合液を、固形成分の濃度が5wt%になるようにエタノールで希釈することで、親水塗料を調製した。
本実施例による鉛蓄電池は、電解液の比重差が0.04と小さく、評価Bとなり、成層化が抑制されていることが分かった。また、本実施例による鉛蓄電池は、高率放電性能が95で評価Aとなり、高率放電性能の低下を抑制できることが分かった。
[実施例3]
実施例3による鉛蓄電池は、実施例1による鉛蓄電池と同様の構成を備えるが、次の点が相違する。以下では、主に相違点を説明する。
本実施例の鉛蓄電池では、有機不織布として、無処理のポリプロピレン(PP)製を用いた。親水材料10としてアルミナゾル(Al)のみを用い、バインダ11としてメタクリル基を有するシランカップリング剤を用いた。すなわち、親水材料には100wt%のアルミナゾル(Al)が含まれる。具体的には、アルミナゾルとして日産化学工業(株)製のアルミナゾル(製品名:AS‐200)を、シランカップリング剤として信越化学工業(株)製の3‐メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(製品名:KBE‐503)を用いた。
親水材料10(X)とバインダ11(Y)の固形成分の質量比(X:Y)が90:10になるように、親水材料10とバインダ11とを混合した。この混合液を、固形成分の濃度が5wt%になるようにエタノールで希釈することで、親水塗料を調製した。
本実施例の鉛蓄電池は、電解液の比重差が0.04と小さく、評価Bとなり、成層化が抑制されていることが分かった。また、本実施例の鉛蓄電池は、高率放電性能が93で評価Bとなり、高率放電性能の低下を抑制できることが分かった。
[実施例4]
実施例4による鉛蓄電池は、実施例1による鉛蓄電池と同様の構成を備えるが、次の点が相違する。以下では、主に相違点を説明する。
本実施例の鉛蓄電池では、有機不織布として、無処理のポリエチレン(PE)製を用いた。親水材料10としてシリカゾル(SiO)とアルミナゾル(Al)を用い、バインダ11としてビニル基を有するシランカップリング剤を用いた。親水材料において、アルミナゾルとシリカゾルの質量比は80:20とした。すなわち、親水材料10には、80wt%のアルミナゾル(Al)が含まれる。具体的には、シリカゾルとして日産化学工業(株)製のシリカゾル(製品名:IPA‐ST‐UP)を、アルミナゾルとして日産化学工業(株)製のアルミナゾル(製品名:AS‐200)を、シランカップリング剤として信越化学工業(株)製のビニルトリエトキシシラン(製品名:KBE‐1003)を用いた。
親水材料10(X)とバインダ11(Y)の固形成分の質量比(X:Y)が80:20になるように、親水材料10とバインダ11とを混合した。この混合液を、固形成分の濃度が5wt%になるようにエタノールで希釈することで、親水塗料を調製した。
本実施例の鉛蓄電池は、電解液の比重差が0.04と小さく、評価Bとなり、成層化が抑制されていることが分かった。また、本実施例の鉛蓄電池は、高率放電性能が93で評価Bとなり、高率放電性能の低下を抑制できることが分かった。
[実施例5]
実施例5の鉛蓄電池は、実施例1の鉛蓄電池と同様の構成を備えるが、次の点が相違する。以下では、主に相違点を説明する。
本実施例の鉛蓄電池では、PE製の有機不織布に親水化処理をして有機不織布表面に‐OH基、‐COOH基を生成させたものを用いた。親水材料10としてシリカゾル(SiO)とアルミナゾル(Al)を用い、バインダ11としてビニル基を有するシランカップリング剤を用いた。具体的には、シリカゾルとして日産化学工業(株)製のシリカゾル(製品名:IPA‐ST‐UP)を、アルミナゾルとして日産化学工業(株)製のアルミナゾル(製品名:AS‐200)を、シランカップリング剤として信越化学工業(株)製の3‐グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(製品名:KBM‐403)を用いた。親水材料において、アルミナゾルとシリカゾルの質量比は70:30とした。すなわち、親水材料10には、70wt%のアルミナゾル(Al)が含まれる。
親水材料10(X)とバインダ11(Y)の固形成分の質量比(X:Y)が70:30になるように、親水材料10とバインダ11とを混合した。この混合液を、固形成分の濃度が5wt%になるようにエタノールで希釈することで、親水塗料を調製した。
本実施例の鉛蓄電池は、電解液の比重差が0.04と小さく、評価Bとなり、成層化が抑制されていることが分かった。また、本実施例の鉛蓄電池は、高率放電性能が94で評価Bとなり、高率放電性能の低下を抑制できることが分かった。
[比較例1]
比較例1による鉛蓄電池は、実施例1による鉛蓄電池と同様の構成を備えるが、次の点が相違する。以下では、主に相違点を説明する。
本比較例の鉛蓄電池では、負極板5の周囲に多孔質膜8を設けなかった。
本比較例による鉛蓄電池は、電解液の比重差が0.08と極めて大きく、評価Dとなり、成層化が抑制できないことが分かった。また、本比較例による鉛蓄電池は、負極板5の周囲に多孔質膜8を設けていないため、高率放電性能が評価基準の100である。
本比較例と実施例1〜5により、負極板5の周囲に多孔質膜8を設けることにより、電解液の比重差を小さくすることができ、電解液の成層化を抑制できることが確認できた。
[比較例2]
比較例2による鉛蓄電池は、実施例1による鉛蓄電池と同様の構成を備えるが、次の点が相違する。以下では、主に相違点を説明する。
本比較例による鉛蓄電池では、負極板5の周囲に、PP製の有機不織布を設けたが、有機不織布に親水被膜9を形成していない。
本比較例による鉛蓄電池は、電解液の比重差が0.05で評価Cとなり、高率放電性能が91で評価Bとなった。有機不織布の表面に親水被膜を有していないので、電解液の成層化抑制及び高率放電特性の低下抑制の両方とも実施例1よりも劣る結果となった。
[比較例3]
比較例3による鉛蓄電池は、実施例1による鉛蓄電池と同様の構成を備えるが、次の点が相違する。以下では、主に相違点を説明する。
本比較例の鉛蓄電池では、負極板5の周囲に設けられている有機不織布8の表面に、以下のようにして親水被膜9を形成した。有機不織布として、無処理のポリプロピレン(PP)製を用いた。親水被膜の組成は実施例1と同様であるが、固形成分の濃度が0.3wt%になるようにエタノールで希釈することで、親水塗料を調製した。
この塗料を用いた場合、親水被膜9の膜厚は不均一となり、有機不織布8を被覆できていない部分も見られた。本実施例による鉛蓄電池は、電解液の比重差が0.05で評価Cとなり、高率放電性能が91で評価Bとなった。親水塗料の規定範囲(10nm〜100nm)外の場合は、成層化抑制、高率放電性能ともに実施例1よりも劣る結果となった。
[比較例4]
比較例4による鉛蓄電池は、実施例1による鉛蓄電池と同様の構成を備えるが、次の点が相違する。以下では、主に相違点を説明する。
本比較例による鉛蓄電池では、負極板5の周囲に設けられている有機不織布8の表面には、以下のようにして親水被膜9を形成した。有機不織布として、膜厚0.3mmの無処理のポリプロピレン(PP)製を用いた。親水被膜の作製方法と組成は実施例1と同様とした。
本実施例による鉛蓄電池は、電解液の比重差が0.05で評価Cとなり、高率放電性能が86で評価Dとなった。有機不織布8の膜厚が規定範囲(0.03mm〜0.1mm)外の場合は、内部抵抗が上昇して、実施例1と比較して高率放電性能が特に劣る結果となった。
[比較例5]
比較例5の鉛蓄電池は、実施例1の鉛蓄電池と同様の構成を備えるが、次の点が相違する。以下では、主に相違点を説明する。
本比較例による鉛蓄電池では、セパレータ6に実施例1と同様の組成の親水被膜9を形成し、負極の周囲に多孔質膜8を設けなかった。本実施例の鉛蓄電池は、電解液の比重差が0.08で評価Dとなり、高率放電性能が98で評価Aとなった。本比較例で示すとおり、セパレータに親水膜を形成しても有機不織布に親水被膜を形成した場合と同様の成層化抑制効果は得られないことが分かった。
電解液の比重差及び高率放電性能について、両方を高いレベルで両立したもの(電解液の比重差:0.04以下かつ高率放電性能:93以上)について「○」と評価し、どちらか一方又は両方を満足しないものについて「△」と評価した(表2)。実施例1〜5は全て「○」となったが、比較例1〜5は全て「△」となった。
Figure 0006237922
Figure 0006237922
以上の結果から、本実施例に係る鉛蓄電池は、成層化の抑制と高率放電性能の低下の抑制を高いレベルで両立できることが示された。
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例を含む。例えば、上記の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備える態様に限定されるものではない。
1…電槽、2…端子、3…極柱、4…極板群、5…負極板、6…セパレータ、7…正極板、8…多孔質膜、9…親水被膜、10…親水材料、11…バインダ、12…基材、100…鉛蓄電池。

Claims (12)

  1. 二酸化鉛を含む正極板と、
    金属鉛を含む負極板と、
    前記正極板と前記負極板との間に配置されたセパレータと、
    希硫酸を含み、前記正極板と前記負極板と前記セパレータとを有する極板群が浸される電解液と、
    前記極板群と前記電解液とを収納する電槽と、を備え、
    前記負極板の周囲には、前記電解液が透過可能な多孔質膜が設けられ、
    前記多孔質膜は、疎水性官能基を有する基材と、前記基材の表面に形成された親水被膜とを含み、
    前記親水被膜は、親水材料とバインダとを含み、
    前記バインダは、疎水性官能基と親水性官能基とを有し、
    前記バインダの疎水性官能基と前記基材の疎水性官能基とが結合する構成を有し、
    前記バインダは、前記親水被膜の表面側の端部に前記親水性官能基を有することを特徴とする鉛蓄電池。
  2. 二酸化鉛を含む正極板と、
    金属鉛を含む負極板と、
    前記正極板と前記負極板との間に配置されたセパレータと、
    希硫酸を含み、前記正極板と前記負極板と前記セパレータとを有する極板群が浸される電解液と、
    前記極板群と前記電解液とを収納する電槽と、を備え、
    前記負極板の周囲には、前記電解液が透過可能な多孔質膜が設けられ、
    前記多孔質膜は、親水性官能基を有する基材と、前記基材の表面に形成された親水被膜とを含み、
    前記親水被膜は、親水材料とバインダとを含み、
    前記バインダは、第1の親水性官能基と第2の親水性官能基とを有し、
    前記バインダの第1の親水性官能基と前記基材の親水性官能基とが結合する構成を有し、
    前記バインダは、前記親水被膜の表面側の端部に前記第2の親水性官能基を有することを特徴とする鉛蓄電池。
  3. 前記バインダの疎水性官能基が、ビニル基、メタクリル基、アクリル基又はスチリル基であることを特徴とする請求項1記載の鉛蓄電池。
  4. 前記バインダの第1の親水性官能基が、アミノ基、イソシアネート基又はエポキシ基であることを特徴とする請求項2記載の鉛蓄電池。
  5. 前記多孔質膜が、有機織布又は有機不織布であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
  6. 前記親水材料が、SiO、Al、BaSO及びTiOからなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
  7. 添加された前記親水材料及び前記バインダの固形成分は、質量比で90:10〜70:30であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
  8. 前記親水被膜の厚さは、10nm〜100nmであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
  9. 前記基材の厚さは、0.03mm〜0.1mmであることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
  10. 前記多孔質膜の空孔は、孔径100nm〜100μmであることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
  11. 前記多孔質膜は、前記負極板の両側の側面及び底面を覆うように配置されていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
  12. さらに、前記セパレータの表面に、前記親水被膜が形成されていることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
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