以下、図面に基づいて、本発明の実施形態につき詳細に説明する。
[車体の全体的な説明]
図1は、本発明が適用される車両の車体1の一部を示す斜視図である。図中には、車両の前方を示す「前」の矢印と、後方を示す「後」の矢印を付記している。以下の図に付している「前」「後」などの矢印は、図1に示す車両の前後に相当する。
車体1は、車両の左右側面を構成するサイドフレーム10を含む。図1では、一方の側面のサイドフレーム10だけを図示している。サイドフレーム10は、車両の側面部分の外装となるサイドフレームアウタ100と、このサイドフレームアウタ100の車内側に配置されたルーフレール11、フロントピラー12、センターピラー13、リアピラー14、及びサイドシル15とを備える。
サイドフレームアウタ100は、プレス成型にて、一枚の鋼鈑を所定形状に成型すると共に前後のドア開口を打ち抜くことによって形成された板材である。サイドフレームアウタ100の外表面は、車両の外装塗装面となる。ルーフレール11は車両の上部において、サイドシル15は車両の下部において、それぞれ車両の前後方向に延びている。ルーフレール11とサイドシル15との間は、前側においてはフロントピラー12で、後側においてはリアピラー14で、そして前後方向の中央付近においてはセンターピラー13で、各々上下方向に連結されている。
前後方向に延びるサイドシル15と、上下方向に延びるセンターピラー13とは、センターピラー13の下端部がサイドシル15の前後方向中間部分に連結される態様の、略T字状に交差する連結部Jを形成している。本実施形態では、この連結部Jに本発明に係る車体構造が適用される例を示す。
一方のサイドフレーム10のルーフレール11と他方のサイドフレームのルーフレール(図略)との間には、車幅方向に延びる複数のレインフォースメント(以下、本明細書では単に「レイン」と言う)及びヘッダが架設される。本実施形態では、センターピラー13の配設位置に、ルーフレイン16が架設され、その前後に3つのルーフレイン173、174、175が架設されている。さらに、車両の前側にはフロントヘッダ171が、後側にはリアヘッダ172が各々架設されている。これらルーフレイン173〜175及びヘッダ171、172の上を覆うように、図略のルーフパネルが、一対のサイドフレーム10間に取り付けられる。また、一方のサイドシル15と他方のサイドシル(図略)との間には、複数のクロスメンバが架設される。図1では、連結部Jに架設されるクロスメンバ18だけを示している。
[連結部Jの構造]
図2は、図1のII−II線の概略的な断面図、図3は、サイドシル15とセンターピラー13との連結部Jの、車幅方向の断面図である。連結部Jの車外側はサイドフレームアウタ100で覆われている。連結部Jの車内側、つまり車室の底部は、フロアパネル102で覆われている。フロアパネル102の上には、上述のクロスメンバ18及びその構成部材であるシートブラケット103が配置されている。また、連結部Jにおけるサイドシル15の閉断面部内には、第1バルクヘッド2(補強体)及び第2バルクヘッド3が配設されている。以下、各部材を説明する。
サイドシル15は、前後方向に延びる閉断面部を有する車体剛性部材であり、断面形状が略コ字型のサイドシルアウタレイン151と、同じく断面形状が略コ字型のサイドシルインナ152(フレームの一部)とからなる。サイドシルアウタレイン151は、前記コ字型形状の開口部分と略平行な第1側板1511と、この第1側板1511の上縁及び下縁から各々車内方向に延びる第1上板1512及び第1下板1513とを含む。他の部材との接合を行うため、第1上板1512の開口側端縁には第1上フランジ部1514が、第1下板1512の開口側端縁には第1下フランジ部1515が、各々設けられている。
サイドシルインナ152は、前記コ字型形状の開口部分と略平行な第2側板1521と、この第2側板1521の上縁及び下縁から各々車外方向に延びる第2上板1522及び第2下板1523とを含む。他の部材との接合を行うため、第2上板1522の開口側端縁には第2上フランジ部1524が、第2下板1522の開口側端縁には第2下フランジ部1525が、各々設けられている。
センターピラー13は、上下方向に延びる閉断面を有する車体剛性部材であり、車外側のセンターピラーアウタレイン131と、車内側のセンターピラーインナ132(フレームの一部)とからなる。センターピラーアウタレイン131及びセンターピラーインナ132は、共に前後方向の端部に突合せ接合用のフランジ部を有し、スポット溶接にて前記フランジ部同士を接合することによって、両者は一体化されている。
図4は、車両の車外側から連結部Jを見た側面図であって、サイドフレームアウタ100が取り除かれた状態を示す図である。図6は、図4と同じ状態の、連結部Jの拡大斜視図である。センターピラーアウタレイン131は、ルーフレール11に接合される上端部133と、サイドシル15(サイドシルアウタレイン151)に接合される下端部134とを備える。下端部134は、センターピラーアウタレイン131の本体部分よりも前後方向の幅が幅広とされた部分であり、その幅広部分の前端及び後端に、前端縁134F及び後端縁134Bを備える。また、下端部134は、車外方向に膨らみを持つよう、図2に示す通り車幅方向の断面においてL字型に折り曲げられている。下端部134の内面はサイドシルアウタレイン151の外面に当接しており、第1側板1511にスポット溶接にて固着されている。
図5は、図4の状態から、センターピラーアウタレイン131が取り除かれた状態を示す側面図である。センターピラーインナ132は、上下方向に延びる、概ね平板状の部材であり、その下端に、サイドシル15の閉断面部に配設される仕切板部135を備えている。図2に示す通り、仕切板部135によってサイドシル15の閉断面部は、第1閉断面部C1と第2閉断面部C2とに仕切られている。第1閉断面部C1(閉断面部)は、仕切板部135とサイドシルインナ152(閉断面部を形成するフレーム)とによって区画された空間、第2閉断面部C2は、仕切板部135とサイドシルアウタレイン151とによって区画された空間である。
サイドシルアウタレイン151とサイドシルインナ152とは、その突合せ面部分に仕切板部135を介在させて、互いに接合されている。詳しくは、第1上フランジ部1514と第2上フランジ部1524とは、仕切板部135の上端部分を挟んで互いに突き合わされ、スポット溶接にて固着されている。また、第1下フランジ部1515と第2下フランジ部1525とは、仕切板部135の下端部分を挟んで互いに突き合わされ、サイドフレームアウタ100の下端部分101と共にスポット溶接にて固着されている。
仕切板部135は、図8に示されているように、センターピラーインナ132の本体部分よりも前後方向の幅が幅広とされた部分であり、その幅広部分の前端及び後端に、前端縁135F及び後端縁135Bを備える。この前端縁135Fから後端縁135Bまでの範囲において、サイドシル15の閉断面部は前後方向に延びる2つの閉断面部C1、C2に分割されている。
第1バルクヘッド2及び第2バルクヘッド3は、連結部Jの近傍においてサイドシル15の剛性を補強する補強体である。図7は、図6のVII−VII線断面図、図8は、図5の状態から、サイドシルアウタレイン151が取り除かれた状態を示す斜視図、図9は、図8の状態から、センターピラーインナ132が取り除かれた状態を示す斜視図である。第1バルクヘッド2は第1閉断面部C1に、第2バルクヘッド3は第2閉断面部C2に各々前後1個ずつ、合計2個ずつ配設されている。
前側の第1、第2バルクヘッド2、3は、仕切板部135の前端縁135F付近に各々配置され、後側の第1、第2バルクヘッド2、3は、後端縁135B付近に各々配置されている。すなわち、第1バルクヘッド2は、前端縁135F及び後端縁135B付近において、サイドシルインナ152と仕切板部135との間に配置され、両者に対する接合部を有している。第2バルクヘッド3は、前端縁135F及び後端縁135B付近において、サイドシルアウタレイン151と仕切板部135との間に配置され、両者に対する接合部を有している。
第1バルクヘッド2は、サイドシルインナ152と接合される第1接合部21と、仕切板部135と接合される第1フランジ部22とを備えている。第2バルクヘッド3は、サイドシルアウタレイン151と接合される第2接合部31と、仕切板部135と接合される第2フランジ部32とを備えている。
第1バルクヘッド2によって形成される接合部は、サイドシルインナ152と第1接合部21とが互いに当接した状態で結合された剛結合部2Aと、仕切板部135と第1フランジ部22との間に減衰部材4が介在された状態で結合された柔結合部2Bとを含む。一方、第2バルクヘッド3によって形成される接合部はいずれも剛結合部であり、サイドシルアウタレイン151と第2接合部31とが互いに当接した状態で結合された剛結合部3Aと、仕切板部135と第2フランジ部32とが互いに当接した状態で結合された剛結合部3Aとを含む。
[第1バルクヘッドの詳細説明]
続いて、第1バルクヘッド2について詳述する。図10は、第1バルクヘッド2の斜視図、図11(A)は第1バルクヘッド2の側面図、図11(B)はその上面図である。バルクヘッドは、節部材とも呼ばれ、鋼材等の優れた剛性を有する板材に、打ち抜き及び折り曲げ加工等を施して形成された部材である。
第1バルクヘッド2は、概ね台形の平板状部分からなる第1本体部20と、第1本体部20から突設された上述の第1接合部21及び第1フランジ部22とを備える。第1本体部20は、第1接合部21と第1フランジ部22との間に延在している。ここでは、第1接合部21として4つの接合片、すなわち第1接合片211、第2接合片212、第3接合片213及び第4接合片214が備えられている。第1本体部20の外周縁には、折り曲げ加工によって形成された第1稜線部201及び第2稜線部202が存在する。第2稜線部202は、台形形状の第1本体部20の下底辺に沿う直線状の稜線であり、第1稜線部201は前記下底辺を除く辺に沿うコ字型の稜線である。
第1〜第4接合片211〜214は、第1稜線部201に連設された前方への曲げ起こし部分であり、各々が独立した舌片状の形状有している。これらの、第1本体部20に対する曲げ起こし角は略90°である。第1〜第4接合片211〜214は、サイドシルインナ152と剛結合部2Aを形成する部分であり、スポット溶接を行い得るサイズを有している。第1フランジ部22は、第2稜線部202に連設された後方への曲げ起こし部分(本体部の端縁部分の折り曲げ部分)であり、同様に第1本体部20に対する曲げ起こし角は略90°である。第1フランジ部22は、仕切板部135と柔結合部2Bを形成する部分であり、十分なサイズの減衰部材4を担持し得るサイズを有している。なお、第1フランジ部22には、当該第1フランジ部22の剛性を向上させるため、前後方向に延びる段差部221が形成されている。
第1本体部20は、仕切板部135とサイドシルインナ152とによって作られる第1閉断面部C1を、前後方向に仕切る仕切面部として機能する部分である。すなわち、第1本体部20は、第1閉断面部C1が延びる方向に対して概ね直交する方向に延びる面を、当該第1閉断面部C1内において形成する。従って、第1バルクヘッド2の組込によって、第1閉断面部C1を圧潰させる変形力、すなわちサイドシルインナ152と仕切板部135とが接近するように潰れる変形力に対する耐性を高めることができる。
第1本体部20は、概ね第1本体部20の外形形状と相似の形状を備えた絞り加工部23からなる中央部と、該中央部の周辺の周辺部203とを含む。絞り加工部23は、第1本体部20において、周辺部203よりも後方(第1本体部20の肉厚方向)に突出した平板状の部分である。絞り加工部23には、前後方向に貫通する2つの孔である円形孔24と長孔25(孔部)とが、上下方向に並んで穿孔されている。
円形孔24及び長孔25は、種々の機能を持つ孔である。これらは、第1に、第1バルクヘッド2の配置位置を通して前後方向に流体を良好に流通させるための孔として機能し、第2に、第1バルクヘッド2を金属板の折り曲げ加工により形成する際の加工基準孔として機能し、第3に、第1バルクヘッド2を第1閉断面部C1内に組み付けるに際しての位置決め基準孔として機能する。前記第1の機能において、円形孔24及び長孔25は、専ら車体1に防錆剤を電着塗装する際に、サイドシル15内に電着液を行き渡らせるための通過孔として利用される。前記第2、第3の機能においては、例えば円形孔24は加工又は位置決めの際の固定孔として、長孔25は逃がし孔として利用される。
前記第1の機能について説明を加える。第1本体部20は、既述の通り第1閉断面部C1を仕切る仕切面部として機能する。このため、前後方向に延びるサイドシル15の閉断面部C1を、第1本体部20は塞ぐことになる。車体1の製造工程の一つに、車体1の組み立て後に該車体1に防錆剤を電着塗装する工程があり、該工程においては車体1が電着液に浸漬される。ここで、第1本体部20が第1閉断面部C1を塞いでいると、電着液がサイドシル15の内面(サイドシルインナ152の内面及び仕切板部135の片面)に良好に行き渡らない場合がある。円形孔24及び長孔25の形成により、前記電着液は円形孔24及び長孔25を通して流通できるようになり、良好な電着塗装が行うことができる。
第1本体部20の周辺部203と絞り加工部23との境界には、絞り加工により形成される絞り稜線部26(稜線部)が形成されている。絞り稜線部26は、円形孔24及び長孔25を取り囲むように形成され、周辺部203と絞り加工部23との段差に基づく稜線である。絞り稜線部26は、第1フランジ部22と円形孔24及び長孔25との間において、第1フランジ部22が延在する方向に沿う直線部分27(高剛性部)を含む。絞り稜線部26は、円形孔24及び長孔25の穿孔によって脆弱となりがちな第1本体部20の剛性を補強する、高剛性部として機能する。とりわけ、直線部分27は、第1フランジ部22の剛性を高めることに貢献する。
剛結合部2Aを形成する第1接合部21の、サイドシルインナ152への接合態様について、図2も参照して説明する。第1接合部21の第1接合片211及び第2接合片212は、サイドシルインナ152の第2上板1522の内面に当接され、それぞれスポット溶接によって当該第2上板1522に固着される。第3接合片213は第2側板1521に、また第4接合片214は第2下板1523にそれぞれ当接され、スポット溶接にて固着される。
第1フランジ部22は、センターピラーインナ132の仕切板部135の、車内側の面と対向する部分である。本実施形態の第1フランジ部22は、図11(A)に示すように側面視で上下方向に長い長方形であり、上面視の図11(B)から判る通り、やや車内側に湾曲した形状を有している。段差部221は、第1フランジ部22の上下方向の中央付近において、前後方向へ直線状に延びている。
第1フランジ部22は、仕切板部135に対向する第1面22Xと、その反対側の第2面22Yとを有する。第1面22Xは、柔結合部2Bにおいて減衰部材4に接する接合領域となる。つまり、第1面22Xは、仕切板部135の車内側の面に対して所定距離の隙間を置いて対向し、前記隙間に減衰部材4が介在される。換言すると、第1フランジ部22と仕切板部135とは、減衰部材4を挟んで接合される。
本実施形態では、上記の通り剛結合部2Aとして、第1接合部21としての4つの接合片211〜214をサイドシルインナ152にスポット溶接する態様を例示している。接合片の個数、すなわちスポット溶接箇所の数は一例であり、サイドシルインナ152の形状等に応じて適宜設定することができる。また、剛結合部用の接合片を形成することなく、第1稜線部201をサイドシルインナ152に溶接しても良い。
剛結合部2Aは、スポット溶接に以外でも形成可能であり、例えばボルト、ナット等を用いた機械的な結合部であってもよい。この場合、第1〜第4接合片211〜214及びサイドシルインナ152には、ボルト挿通用の孔が穿孔される。あるいは、剛結合部2Aは、接着剤による接着部であってもよい。この場合、前記接着剤としては、一般的に車体の接着用に使用されている接着剤を用いることができる。例えば、温度が20℃、かつ加振力の周波数が30Hzである条件下において、貯蔵弾性率が2000MPa以上で、かつ、損失係数が0.05以下である接着剤を好適に用いることができる。
柔結合部2Bを構成する減衰部材4は、振動を減衰させる能力を有する部材である。減衰部材4は、所定の粘弾性を有する部材であれば特に限定はなく、例えば、シリコーン系材料またはアクリル系材料からなる粘弾性部材を使用することができる。粘弾性部材の物性としては、温度が20℃、かつ加振力の周波数が30Hzである条件下において、貯蔵弾性率が500MPa以下で、かつ、損失係数が0.2以上のものが、振動の伝達を効果的に抑制できる点で好ましい。このような粘弾性部材からなる減衰部材4は、振動エネルギーをひずみエネルギーとして吸収し、これを熱エネルギーに変換して散逸することにより、振動を減衰する。
第1フランジ部22の第1面22Xへ減衰部材4を配設する方法は、特に限定はない。例えば、ペースト状の粘弾性部材を第1フランジ部22に所定厚さだけ塗布することにより、減衰部材4となる層を形成することができる。あるいは、減衰部材4となるバルク片を準備し、これを第1フランジ部22に貼り付けるようにしても良い。なお、第1フランジ部22は、第1接合部21のように複数に分割されたものであっても良く、この場合、分割された第1フランジ部22の各々に減衰部材4となる層が形成される。
上述の通り、車体1には防錆剤が電着塗装される。電着塗装工程の後、防錆剤層を乾燥させるために、車体1が加熱炉内に導入され、車体1が所定の温度で一定期間だけ加熱する乾燥工程が実行される。この乾燥工程の熱を、減衰部材4の固着に用いることが望ましい。すなわち、電着塗装工程の前に、上述の通りペースト状の粘弾性部材を第1フランジ部22に塗布することによって、減衰部材4となる塗布層を予め担持させた第1バルクヘッド2を、サイドシルインナ152に剛結合(スポット溶接)しておく。そして、前記乾燥工程において車体1に与えられる熱を利用して、前記塗布層を仕切板部135に固着させることが望ましい。
以上の通り、第1バルクヘッド2は、第1本体部20が第1閉断面部C1の仕切り面となるように配設され、その第1接合部21においてサイドシルインナ152と剛結合部2Aを形成し、また、第1フランジ部22においてセンターピラーインナ132の仕切板部135と、減衰部材4を介して柔結合部2Bを形成する。これにより、第1閉断面部C1の変形耐性は高められ、サイドシル15の剛性は向上する。また、車両の振動により発生した応力は、変形可能な柔結合部2Bに集中するようになり、減衰部材4によって振動が減衰される。
また、第1バルクヘッド2は、自身の剛性を高めるために、第1本体部20に絞り稜線部26を、第1フランジ部22に段差部221を、それぞれ有している。絞り稜線部26は、種々の理由で穿孔せねばならない円形孔24及び長孔25を有する第1本体部20の剛性を高める。段差部221は、上下方向に長い帯状の第1フランジ部22の剛性を高める。従って、第1バルクヘッド2の剛性は高いものとなり、第1閉断面部C1の補強能力を向上することができる。
さらに、第1バルクヘッド2の高剛性化を図ることによって、第1バルクヘッド2と減衰部材4との剛性差がより大きくなり、車体1に振動が発生したときに、減衰部材4に対する応力集中度合いが一層高められる。第1バルクヘッド2の剛性が低い場合、例えば円形孔24及び長孔25の穿孔によって脆弱化した第1本体部20が比較的容易に曲げ変形してしまうような場合、第1バルクヘッド2に振動が加わった時に減衰部材4へ全ての振動応力が伝達されず、一部の振動応力が前記曲げ変形に消費されてしまう。このため、減衰部材4による振動減衰効果が低下する。これに対し本実施形態では、絞り稜線部26、とりわけ直線部分27と、段差部221とによって、減衰部材4の周辺において第1バルクヘッド2の高剛性化が図られているので、振動応力をロスなく減衰部材4へ伝達することが可能となる。従って、減衰部材4による振動減衰効果をより高めることができる。
特に直線部分27は、上下方向に直線状に延びる第1フランジ部22(第2稜線部202)に沿うように、上下方向に直線的に延びている。これにより、実質的に減衰部材4が配設される領域の全長に亘って、高剛性部としての直線部分27が設けられるので、円形孔24及び長孔25が第1本体部20に存在する本実施形態の第1バルクヘッド2においても、第1フランジ部22の剛性を高めることができる。従って、振動に伴う歪み応力を減衰部材4に集中させる効果を、一層高めることができる。また、直線部分27は、円形孔24及び長孔25が形成される絞り加工部23を取り囲む絞り稜線部26の一部である。絞り加工部23の形成によって、円形孔24及び長孔25の全周辺領域において第1本体部20を適切に補強することができるが、これにより結果的に高剛性部としての直線部分27も形成でき、製造効率が良い。
[第2バルクヘッドの詳細説明]
続いて、第2バルクヘッド3について説明する。図12は、第2バルクヘッド3の斜視図、図13(A)は第2バルクヘッド3の側面図、図13(B)はその上面図である。第2バルクヘッド3も、上述の第1バルクヘッド2と類似した構造を有するが、形成する結合部は剛結合部3Aのみである。なお、第1バルクヘッド2と同様な部分については説明を簡略化又は省略する。
第2バルクヘッド3は、概ね長方形の平板状部分からなる第2本体部30と、第2接合部31及び第2フランジ部32とを備える。第2本体部30は、第2接合部31と第2フランジ部32との間に延在している。ここでは、第2接合部31として3つの接合片、すなわち第5接合片311、第6接合片312及び第7接合片313が備えられている。第2本体部30の外周縁には、折り曲げ加工によって形成された第3稜線部301及び第4稜線部302が存在する。第4稜線部302は、長方形の第2本体部30の上下方向の一側辺に沿う直線状の稜線であり、第3稜線部301は前記一側辺を除く辺に沿うコ字型の稜線である。
第5〜第7接合片311〜313は、第3稜線部301に連設された後方への曲げ起こし部分であり、各々が独立した舌片状の形状有している。これらの、第2本体部30に対する曲げ起こし角は略90°である。第5〜第7接合片311〜313は、サイドシルアウタレイン151と剛結合部3Aを形成する部分である。第2フランジ部32は、第4稜線部302に連設された前方への曲げ起こし部分であり、同様に第2本体部30に対する曲げ起こし角は略90°である。第2フランジ部32は、仕切板部135と他の剛結合部3Aを形成する部分である。
第2本体部30は、仕切板部135とサイドシルアウタレイン151とによって作られる第2閉断面部C2を、前後方向に仕切る仕切面部として機能する部分である。第2バルクヘッド3の組込によって、第2閉断面部C2を圧潰させる変形力に対する耐性を高めることができる。第2本体部30には、上下方向に並んで、長孔33及び円形孔34が穿孔されている。これらの孔は、第1バルクヘッド2の円形孔24及び長孔25と同様な機能を果たす孔である。
図2も参照して、第2接合部31の第5接合片311は、サイドシルアウタレイン151の第1上板1512の内面に当接され、スポット溶接によって当該第1上板1512に固着される。第6接合片312は、第1側板1511における車内方向に膨出したバルジ部に、また第7接合片313は第1下板1513にそれぞれ当接され、スポット溶接にて固着される。
一方、第2フランジ部32は、センターピラーインナ132の仕切板部135の、車外側の面に当接され、スポット溶接によって当該仕切板部135に固着される。第2フランジ部32は、仕切板部135に対向する第1面32Xと、その反対側の第2面32Yとを有し、第1面32Xが仕切板部135の車外側の面に接合される。図3に示すように、第2フランジ部32は、第1バルクヘッド2の第1フランジ部22と、仕切板部135を介して車幅方向(仕切板部135の肉厚方向)においてほぼ全体が重なり合うように、仕切板部135に接合されている。
以上の通り、第2バルクヘッド3は、第2本体部30が第2閉断面部C2の仕切り面となるように配設され、その第2接合部31においてサイドシルアウタレイン151と剛結合部3Aを形成し、また、第2フランジ部32においてセンターピラーインナ132の仕切板部135と別の剛結合部3Aを形成する。これにより、第2閉断面部C2の変形耐性が高められる。従って、この第2バルクヘッド3による第2閉断面部C2の補強と、第1バルクヘッド2による第1閉断面部C1の補強とが相俟って、前後方向に延びる仕切板部135による仕切付き閉断面構造を有するサイドシル15の剛性は高められる。
また、第1バルクヘッド2が形成する柔結合部2Bの近傍において、第2バルクヘッド3は剛結合部3Aを形成している。とりわけ、仕切板部135を挟んで柔結合部2Bと重なり合うように、第2フランジ部32は剛結合部3Aを形成している。このため、車両の振動により発生した応力は、変形可能な柔結合部2Bに集中するようになり、減衰部材4によって前記振動が効果的に減衰される。
なお、第2バルクヘッド3も、第2本体部30に長孔33及び円形孔34を有するが、ここでは第2フランジ部32と長孔33及び円形孔34との間に高剛性部が設けられていない例を示している。もちろん、両者間に絞り加工やビード加工による高剛性部を有する第2バルクヘッド3としても良い。
[バルクヘッドの配置に関する説明]
続いて、第1バルクヘッド2と第2バルクヘッド3との配置関係に関して説明する。図14は、図3の前側の第1、第2バルクヘッド2、3の接合状態を拡大して示す図である。両バルクヘッドの配置において特徴的な点は、第1バルクヘッド2の平板状の第1本体部20と、第2バルクヘッド3の平板状の第2本体部30とが、概ね車幅方向に直線状に並んでいる点である。この配置の達成のため、第1フランジ部22と第2フランジ部32とは、仕切板部135を及び減衰部材4を挟んで、車幅方向に重なり合うように配置されている。
第1、第2本体部20、30が直線状に並ぶように第1、第2バルクヘッド2、3が配設されることによって、サイドシル15の機械的な強度を高めることができる。サイドシル15は、連結部Jにおいて、仕切板部135にて仕切られた、車幅方向に並ぶ第1、第2閉断面部C1、C2を備えた仕切付き閉断面構造を有する。この閉断面構造において、第1、第2本体部20、30が直線状に並んでいるので、一方の本体部に対して車幅方向の押圧力が作用した場合、この押圧力をダイレクトに他の本体部へ伝達することができる。従って、サイドシルアウタレイン151とサイドシルインナ152とが互いに接近する方向に対する機械的な強度、すなわち車体1の側面衝突に対する変形耐性を、一層高めることができる。
さらに、本実施形態では、第1本体部20及び第2本体部30は、それぞれ仕切板部135に対して直交するように延在している。つまり、矢印L1で示す如き第1、第2本体部20、30の直線体が、交差角=約90°で仕切板部135と交差している。これにより、サイドシルアウタレイン151とサイドシルインナ152とが互いに接近する方向に対する機械的な強度を、より一層高めることができる。例えば、図2に示すサイドシル15の断面は、概ね長方形が車幅方向に2つ並ぶ形状(仕切付き閉断面構造)である。この断面が、車幅方向の力がサイドシル15に作用したときに、菱形形状に変形してしまうことを抑止する効果を、第1、第2本体部20、30は一層高める。
さらに、図3、図8に示されている通り、第1、第2バルクヘッド2、3は、センターピラーインナ132の仕切板部135における前端縁135F及び後端縁135B付近に各々配置されている。図14に示す前端縁135Fについて詳述すると、前端縁135Fから所定長だけ後方の位置から、第1本体部20はサイドシルインナ152側へ、第2本体部30はサイドシルアウタレイン151側へ、それぞれ延び出している。後端縁135Bについても同様である。
第1、第2フランジ部22、32は、第1、第2本体部20、30が延び出す位置よりも前方側に位置する仕切板部135の端部付近を挟み込んでいる。つまり、直線状に並ぶ第1、第2本体部20、30は、前記端部付近を前方側に突出させる状態で、仕切板部135と直交して交差している。柔結合部2Bは、このように突出した前記端部付近において、第1フランジ部22と仕切板部135との間に減衰部材4を挟んで形成されている。
仕切板部135は、サイドシル15の閉断面部内において端部(前端縁135F及び後端縁135B)を持っているので、当該端部は振動に基づく変形が発生し易い部分となる。本実施形態によれば、第1、第2本体部20、30が交差する位置よりも前方に突出する仕切板部135の前記端部付近は、拘束する部材が存在しない自由端となる。このため、車両に振動が発生した場合、前記振動による変形を許容するする部分となる。従って、前記振動により発生する歪み応力を、柔結合部2Bに集中させることができ、減衰部材4による振動減衰効果を高めることができる。
加えて、第1バルクヘッド2において、第1本体部20に上述の絞り加工部23が形成される結果として、減衰部材4とその周辺との剛性差が高められている。すなわち、第1バルクヘッド2の第1フランジ部22は、第1本体部20の端縁部分の折り曲げにより形成されている。また、第1本体部20において円形孔24及び長孔25の周囲の剛性を補強する絞り稜線部26(直線部分27)は、第1本体部20の周辺部203に対して直交する方向に、絞り加工部23を突出させることで形成された段差部である。フランジ部22の折り曲げ方向は、後方(後側のバルクヘッド2では前方)である。直線部分27の突出方向も、後方(後側のバルクヘッド2では前方)である。つまり、両者は同じ方向である。
これにより、第1フランジ部22及び直線部分27と、これらの間の周辺部203とによって、図14において符号Lで示す点線図形の通り、断面がコ字型の領域が形成されることになる。このため、減衰部材4が隣接する領域の剛性がより一層高められ、減衰部材4と第1バルクヘッド2との剛性差が顕著となる。従って、車両の振動により発生する歪み応力を減衰部材4に集中させることができ、当該減衰部材4による振動減衰効果をより高めることができる。
[バルクヘッドの配置の変形実施形態]
図15は、変形実施形態に係るサイドシル15とセンターピラー13との連結部の、車幅方向の断面図である。この変形実施形態が上述の実施形態と相違する点は、第1バルクヘッド200の第1本体部20と、第2バルクヘッド3の第2本体部30とが、車幅方向にオフセットして連なるように並んでいる点である。第1バルクヘッド200は、図14に示した第1バルクヘッド2を前後方向に180°反転させて第1閉断面部C1に配設されたもので、基本構造は上述の実施形態と同じである。
第1バルクヘッド200の第1本体部20は、仕切板部135の前端縁135Fの位置から、仕切板部135と直交する方向においてサイドシルインナ152に向けて延び出している。第1フランジ部22は、第1本体部20の端縁から後方に延び出している。一方、第2バルクヘッド3の第2本体部30は、前端縁135Fから所定長だけ後方の位置から、仕切板部135と直交する方向においてサイドシルアウタレイン151に向けて延び出している。第2フランジ部32は、第2本体部30が延び出す位置よりも前方側に延び出している。柔結合部2Bは、このような第1、第2フランジ部22、32の間に、仕切板部135及び減衰部材4が挟まれることによって形成されている。後端縁135Bについても同様である。
第1、第2バルクヘッド200、3が上記の通り配設されているので、この変形実施形態では第1本体部20と第2本体部30とがオフセットして連なっている。このようなオフセットの構造を具備させることで、上記実施形態のように第1、第2本体部20、30が直線状である場合に比べて、仕切板部135が前後方向乃至は車幅方向に変形し易くなる。このことは、柔結合部2Bの減衰部材4により大きな歪み応力を与え得るということに繋がる。また、高剛性部として機能する絞り稜線部26(直線部分27)の存在によって、減衰部材4に前記歪み応力を集中させることができる。従って、減衰部材4による振動減衰効果を高めることができる。
図16は、他の変形実施形態に係るサイドシル15とセンターピラー13との連結部の、車幅方向の断面図である。この変形実施形態では、第2バルクヘッド3の機能を、仕切板部135に連設された延長部5が果たす例を示している。第1バルクヘッド200の配置は、図15の例と同じである。延長部5は、前端縁135Fから延び出した余長部分を車外側へ折り曲げて形成された部分である。
延長部5は、仕切板部135と一体の部分であり、前端縁135F(後側の延長部については後端縁135B)から車外側(サイドシルアウタレイン151)に延び出している延長本体部51と、延長本体部51の端縁に形成され、サイドシルアウタレイン151と剛結合部を形成する延長接合部52とを備えている。延長本体部51は、第2閉断面部C2を前後方向に仕切る仕切面部として機能する部分である。この変形実施形態では、柔結合部2Bは、仕切板部135の前端縁135F付近の部分と第1フランジ部22との間に減衰部材4を介在させることによって形成される。延長本体部51と第1本体部20とが略直線状に並ぶよう、第1バルクヘッド200と延長部5とが配設されている。
[高剛性部の変形実施形態]
上記実施形態では、本発明に係る高剛性部の例として、円形孔24及び長孔25を取り囲む段差部からなる、直線部分27を含む絞り稜線部26を、第1バルクヘッド2の第1本体部20に形成する例を示した。これは一例であり、高剛性部の形態としては、種々の態様を採用することができる。
図17は、変形例に係る第1バルクヘッド2Xを示す正面図である。第1バルクヘッド2Xは、図10に示した第1バルクヘッド2と同様な外形形状を有するが、ここでは簡略的に描いている。第1バルクヘッド2Xは、円形孔24及び長孔25が穿孔されている第1本体部20と、剛結合部2Aを形成する第1接合部21としての第1〜第4接合片211〜214と、柔結合部2Bを形成する第1フランジ部22とを備える。そして、第1バルクヘッド2Xは、第1フランジ部22と円形孔24及び長孔25との間において、第1本体部20の上下方向の全長に亘り第1フランジ部22の延在方向に延びる、直線状の高剛性部28を有している。
剛性を補強する高剛性部28の具体的態様は、種々例示することができる。図18(A)〜(C)は、変形例に係る第1バルクヘッド2Xの、高剛性部28の各種態様を示す断面図である。図18(A)は、高剛性部28の配設箇所において、第1本体部20の肉厚を厚くする肉盛り部281からなる高剛性部を示している。図18(B)は、高剛性部28の配設箇所において、第1本体部20を断面U字型に曲げ変形させた曲げ加工部282からなる高剛性部を示している。曲げ加工部282は、断面V字型に曲げ変形させたものであっても良い。図18(C)は、先に例示した絞り稜線部26と同様な段差加工部283からなる高剛性部である。なお、円形孔24及び長孔25と第3接合片213との間に、同様な高剛性部と追加的に設けても良い。このような高剛性部であっても、円形孔24及び長孔25が穿孔された第1本体部20の剛性を補強し、減衰部材4に歪み応力を集中させることができる。
図19は、さらなる変形例に係る第1バルクヘッド2Yを示す正面図である。第1バルクヘッド2Yは、第1フランジ部22と円形孔24及び長孔25との間において、高剛性部として第1本体部20に2つの絞り凹部291、292が設けられている。絞り凹部291、292は、正面視で上下方向に長い矩形の絞り加工部である。このように高剛性部は、互いに分離して複数設けられるものであっても良い。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の変形実施形態を取ることができる。例えば、上記実施形態では、第1バルクヘッド2だけが柔結合部2Bを形成する例を示した。これに代えて、第1、第2バルクヘッド2、3の双方が柔結合部を形成する態様としても良い。
また、上記実施形態では、サイドシル15とセンターピラー13との連結部Jに、本発明に係る車体構造が適用される例を示した。これは一例であり、例えば、サイドシル15とフロントピラー12との連結部に本発明を適用しても良い。また、連結部Jのように、仕切板部135で閉断面が仕切られる仕切付き閉断面構造の車体部分に限らず、所定方向に延びる閉断面を形成するフレームに適用されるバルクヘッド全般に、本発明を広く適用することができる。