第1の発明は、水平または傾斜した回転軸により回転可能に支持されたドラムと、前記ドラムを回転駆動する駆動モータと、前記ドラムを収容する水槽と、転動体および粘性流体からなる移動体を収納する環状容器を有し、前記ドラムの前端部と後端部に配置されるバランサとを備え、前端部に配置される前記バランサの環状容器内面に第1の突起体を形成し、後端部に配置される前記バランサの環状容器内面に第2の突起体を形成し、前記前端部の前記バランサの環状容器に形成する前記第1の突起体の数と、前記後端部の前記バランサの環状容器に形成する第2の突起体の数とを異ならせ、ドラムの回転起動時に、前端部の環状容器内の移動体と後端部の環状容器内の移動体が異なるドラム回転数で環状容器の底部から最上部の間に留まる滑り状態から環状容器最上部を超えて移動開始するようにしたものである。
この構成により、ドラムの前端部のバランサの移動体と後端部のバランサの移動体とが異なるドラムの回転数で環状容器最上部を超えて回転移動を開始することにより、前端部と後端部の移動体が異なる位相で移動するため、ドラムの振動増長を抑制することができる。
第2の発明は、特に第1の発明において、前記第1の突起体と第2の突起体を異なる形状としたものである。
この構成により、簡単な構成で、本発明の効果を達成することができる。
第3の発明は、特に第1の発明において、前記第1の突起体間の空間の容積と、第2の突起体間の空間の容積とを異ならせたものである。
第4の発明は、特に第1の発明において、前記第1の突起体の粘性流体に対する推進力と、前記第2の突起体の粘性流体に対する推進力を異ならせたものである。
この構成により、簡単な構成で、本発明の効果を達成することができる。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本案が限定されるものではない。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるドラム式洗濯機の概略断面図である。ドラム式洗濯機1の内部には、有底円筒状の水槽2が収容されている。水槽2は、バネ24とダンパ19によって弾性的に支持されている。水槽2の内部には、有底円筒状のドラム3が収容されている。ドラム式洗濯機1の正面側には、水槽2の開口部2aを通してドラム3内に通じる開口部3bが設けられている。ドラム3は、ドラム3を回転支持する回転軸3aが略水平方向となるように配設されている。洗濯物18の取り出し易さや、洗浄時の節水性を考慮する場合には、ドラム3が傾斜するように、回転軸3aを正面側から底面側に向けて下向きに傾斜して配置してもよい。
ドラム3の内部には、ドラム3の回転に伴って洗濯物18を持ち上げて落とすことができるバッフル7が設けられている。ドラム3が回転駆動することにより、バッフル7によって持ち上げられた洗濯物は、ドラム3の上部から水面に叩きつけられ、叩き洗い(機械力)によって洗浄がなされる。さらに、ドラム3には、全周に複数の透孔20が設けられている。透孔20を介して水槽2からドラム3内に通水および通気ができる。
また、洗濯機1の前面には、水槽2の開口部2aを開閉自在に閉塞する扉21が設けられている。水槽2の開口部2aは、その口縁に環状のシール材(図示せず)が装着されている。シール材の前面側は、扉21の背面側に当接して密閉し、上下左右、前後に揺動する水槽2の開口部2aが動いた場合でも、シール材が変形して扉21の背面側へ押圧するので、密閉性が維持されている。
ドラム3を駆動する駆動モータ12がベルト6を介して回転軸3aに回転動力を加えることで、ドラム3は、水槽2内で回転する。ドラム3の回転時における水槽2の振動値を計測する振動検知部40が、水槽2の上部前方に設けられている。
ドラム3の開口部3b側を前端部、開口部3bの反対側を後端部として、前端部にバランサ8Aが設けられ、後端部にバランサ8Bが設けられている。バランサ8Aおよび8Bは、環状の容器状に形成されており、環状容器内に、粘性流体10Aおよび10B(本実施の形態では、4cSt以下の低粘性の塩化カルシウム水溶液)と、転動体9Aおよび9B(本実施の形態では、鋼球表面にゴムのコーティングをしたボール)を収容して構成している。転動体9Aおよび9Bと、粘性流体10Aおよび10Bとにより移動体を構成している。
図2(a)は、本発明の実施の形態1におけるドラム式洗濯機1のドラム3の前端部に設けるバランサ8Aの断面図である。図2(c)は、バランサ8Aの突起体29Aの要部拡大断面図である。図2(b)は、ドラム3の後端部に設けるバランサ8Bの断面図である。図2(d)は、バランサ8Bの突起体29Bの要部拡大断面図である。図2(e)は、図2(c)の垂直方向断面図である。
図2(a)〜(e)に示すように、バランサ8Aおよび8Bの環状容器内には、内周面25と外周面26との間に、転動体9Aおよび9Bと、粘性流体10Aおよび10Bとが移動するように構成されている。バランサ8Aおよび8Bの環状容器の内周面25側には
、ドラム軸上の片側に突起体29Aおよび29Bが複数設けられている。内周面25の突起体29Aおよび29Bが形成されていない平坦面は、転動体9Aおよび9Bの半径よりも高く形成されている。また、突起体29Aおよび29Bは、内周面25の突起体29Aおよび29Bが形成されていない平坦面から突出しないように、平坦面に対して少許奥まらせて形成されている。これにより、転動体9Aおよび9Bが突起体29Aおよび29Bに接触しないように構成している。
突起体29AおよびBは、鋸歯状に形成し、回転方向側の面が、法線に対して略直角になるように形成し、突起体29AおよびB間に粘性流体10Aおよび10Bが収納される空間を有している。突起体29Bは、突起体29Aより低く形成されている。従って、ドラム3の回転に伴って突起体29Aが粘性流体10Aを押すように作用する力は、突起体29Bが粘性流体10Bを押すように作用する力よりも強くなる。突起体29Aおよび29Bは、突起体29Aおよび29B間の間隔が同じ間隔になるように形成している。突起体29Aおよび29Bは、バランサ8Aおよび8Bの環状容器に同じ個数形成している。突起体29Aおよび29Bは、突起体29Aおよび29Bの高さが異なるのみとなるように形成している。
バランサ8Aおよび8Bは、ドラム3が脱水工程時のドラム3の回転方向C1に回転すると、粘性流体10Aおよび8Bが集まっているドラム3の下方位置で突起体29Aおよび29Bにより粘性流体10Aおよび10Bを掬い上げながら回転し、突起体29Aおよび29Bの回転方向側の面で粘性流体10Aおよび10Bを押して推進力を与えるように作用する。
突起体29Aは、突起体29Bより高く形成しているので、突起体29Aが粘性流体10Aに作用する推進力は、突起体29Bが粘性流体10Bに対して作用する推進力よりも強くなる。よって、バランサ8Bの粘性流体10Bは、バランサ8Aの粘性流体10Aに比較して少許遅い流速となる。
本実施の形態では、突起体29Aと突起体29Bの高さを変えることにより粘性流体10Aおよび10Bを押すように作用する力を変えているが、突起体29Aと突起体29Bの高さを同じとし、突起体29Bの回転方向側の面を法線に対して鈍角に形成してもよい。突起体29Bが粘性流体10Bを押すように作用する力は、突起体29Bの回転側の面の法線に対する角度によって調整することができる。
図4は、バランサ8AおよびBにおける転動体9Aおよび9B、粘性流体10Aおよび10Bの動作を説明する概略断面図である。
本実施の形態において、転動体9Aおよび9Bの回転移動を開始する回転数(回転移動開始回転数)とは、バランサ8Aおよび8Bの内部に収納された転動体9Aおよび9Bがドラム3の回転数の上昇に伴って、バランサ8Aおよび8Bの環状容器の上方側に移動し、環状容器の最上部を越えて回転移動を開始する回転数をいう。
図4は、脱水工程におけるドラム3を示し、図4中、左側の状態は、ドラム3が停止している状態を示している。図4中、左下の100Aは、ドラム3の前端部に配設したバランサ8Aの状態を示し、左上の100Bは、ドラム3の後端部に配設したバランサ8Bの状態を示している。図に示すように、ドラム3が停止している状態では、転動体9Aおよび9Bと、粘性流体10Aおよび10Bは、ドラム3の底部に偏っている。洗濯物18のアンバランスも底部に偏った状態となっている。
図4中、中央は、ドラム3が正回転(C1)の方向に120rpmで回転している状態
を示している。この時、洗濯物18のアンバランスがドラム3の内面に張り付いている状態とする。図4中、中央下の101Aは、バランサ8Aの状態を示し、中央上の101Bは、バランサ8Bの状態を示している。
ドラム3が回転を開始すると、ドラム3の回転数の上昇に伴って、バランサ8Aおよび8B内の粘性流体10Aおよび10Bが、遠心力によりバランサ8Aおよび8Bの環状容器の外周側に移動する。また、粘性流体10Aおよび10Bは、バランサ8Aおよび8Bの環状容器内面と粘性流体10Aおよび10Bとの摩擦抵抗と突起体29Aおよび29Bの作用により、ドラム3の回転方向側に移動する。
バランサ8Aの突起体29Aは、突起体29Aは、突起体29Bより高く形成されているため、突起体29Aが粘性流体10Aに作用する力は、突起体29Bが粘性流体10Bに作用する力より大きい。これにより、バランサ8A内の粘性流体10Aは、バランサ8B内の粘性流体10Bよりも早い流速となり、バランサ8A内の粘性流体10Aは、バランサ8B内の粘性流体10Bよりもドラム3の回転方向側に移動した状態となる。
ドラム3の回転数がさらに増大すると、やがて、バランサ8A内の粘性流体10Aは、遠心力によりバランサ8Aおよび8Bの環状容器の最上部を越えて環状容器外周に張り付いた状態となる。
転動体9Aおよび9Bは、バランサ8Aおよび8Bの環状容器内面との摩擦抵抗と、粘性流体10Aおよび10Bの流速によってドラム3の回転方向側に移動する。バランサ8Aの転動体9Aは、突起体29Aに推進力を与えられる粘性流体10Aの作用によってバランサ8Bの転動体9Bよりもドラム3の回転方向側に移動する。
これにより、バランサ8Aおよび8Bにおいて、転動体9Aおよび9B、粘性流体10Aおよび10Bは、同期のずれた、非同期の状態で移動する。ドラム3の120rpmの回転数による遠心力では、転動体9Aおよび9Bは、ドラム3の回転に共回りする状態にはなっていない。
図4中、右側の状態は、ドラム3の回転数が上昇し、ドラム3が正回転(C1)の方向に140rpmで回転している状態を示している。図4中、右下の102Aは、バランサ8Aの状態を示し、左上の102Bはバランサ8Bの状態の状態を示している。
ドラムの回転数の上昇に伴って、バランサ8Aおよび8B内の粘性流体10Aおよび10Bは、遠心力と、突起体29Aおよび29Bの作用によって移動速度が増大し、バランサ8Aおよび8Bの環状容器外周により広がった状態となる。バランサ8Aにおいては、粘性流体10Aに対する突起体29Aの作用が強いため、粘性流体10Aは、環状容器の外周部のほぼ全周にわたって張り付いた状態となる。
バランサ8Aにおいては、転動体9Aは、バランサ8Aの環状容器内面との摩擦抵抗と粘性流体10Aの圧力によって、バランサ8Aの環状容器の最上部に向かって押し上げられ、転動体9Aが環状容器の最上部を越えて回転移動を開始する。
140rpmの回転数以上では、転動体9Aがバランサ8Aの環状容器の最上部を連続的に越えて回転移動し、転動体9Aがバランサ8Aの環状容器と共回りの状態(転動体9Aと環状容器が同じ回転数もしくは転動体9Aが環状容器からやや遅れた回転数で共に回転をする状態)となる。
バランサ8Bにおいては、ドラム3が140rpmで回転している状態では、転動体9
Bは、120rpmで回転している状態のときよりも上端部側に移動して、偏った状態で環状容器の底部から最上部までの間に留まった状態となる。バランサ8Bは、ドラム3の回転数が160rpmを超過すると、転動体9Bが回転移動を開始する。
本実施の形態では、バランサ8Aの転動体9Aは、ドラム3の回転数が140rpm以上の状態で回転移動を開始し、バランサ8Bの転動体9Bは、ドラム3の回転数が160rpm以上の状態で回転移動を開始するように設定している。
本実施の形態では、ドラム3の前端部に配設するバランサ8Aの転動体9Aが、ドラム3の後端部に配設するバランサ8Bの転動体9Bよりも先に回転移動を開始するようにしているが、ドラム3の後端部に配設するバランサの転動体が先に回転移動を開始するように、バランサ8Aおよび8Bを前後逆にドラム3に取り付けるように構成してもよい。
次に、図5は、本実施の形態と対比するための比較装置である。比較装置は、同一構成のバランサ8Aおよび8Bを用い、バランサ8Aおよび8BのA面27が同一方向を向くように、ドラム3の前端部および後端部に配設した構成である。バランサ8Aおよび8Bの突起体29は、本実施の形態の突起体29Aの形状としている。これにより、ドラム3が正回転方向(C1)に140rpm以上の回転数で回転した状態で、転動体9Aおよび9Bが回転移動を開始する構成である。
図5に示す比較装置は、ドラム3が正回転方向に140rpm以上の回転数で回転した状態で、転動体9Aおよび9Bがバランサ8Aおよび8Bの環状容器の最上部を越えて回転移動を開始する。両方のバランサ8Aおよび8Bの転動体9Aおよび9Bがほぼ同時に回転移動を開始するため、転動体9Aおよび9Bがアンバランスとして作用する。即ち、転動体9Aおよび9Bが、ドラム3の前端部と後端部で同位相(円周状の同位相位置)に回転移動を行う。従って、ドラム3には、アンバランスを補正するべきバランサ8Aおよび8Bの両方の補正量がアンバランス量として作用することになる。
ドラム3に対する洗濯物18のアンバランス位置が、ドラム3の前端部と後端部の転動体9Aおよび9Bの回転移動と同位相となった場合は、さらにアンバランス状態が増加することになり、振動を増長する状態となる。
図6は、本実施の形態と、図5に示す比較装置における、ドラム3の回転数と左右振動値を示している。左右振動値は、水槽2の上部前端部に設けた振動検知部40により検出している。
また、L1は、起動時における振動値限度であり、ドラム式洗濯機1の水槽2が振動することによりドラム式洗濯機1の外枠と衝突することを防止するために設定された値である。また、時間T1は、起動時に120rpmでドラム3を回転させ、振動検知部40の振動値を計測し、洗濯物18のアンバランス状態を判定するための時間である。この回転数では、バランサ8Aおよび8Bの転動体9Aおよび9Bは、回転移動しない。
さらに、振動波形S2は、本実施の形態の振動波形を示し、振動波形S21は、ドラム3が回転数140rpmで回転している状態(R1点:時間t11)である。ドラム3の前端部に配設したバランサ8Aの転動体9Aのみが回転移動を開始した状態の振動検知部40の振動値変化を示している。また、振動波形S22は、160rpmでドラム3が回転している状態(R2点:時間t12)である。振動波形S22は、ドラム3後端部のバランサ8Bの転動体9Bが回転移動を開始した際の振動検知部40の振動値変化を示している。
図6に示すように、時間T1経過後、ドラム3の回転数が140rpmとなると、バランサ8Aの転動体9Aがバランサ8Aの環状容器の最上部を越えて回転移動を開始するため、水槽2の振動は、振動波形S21に示すように増長することはない。ドラム3の回転数が160rpmまで上昇すると、バランサ8Bの転動体9Bが環状容器の最上部を越えて回転移動を開始する。転動体9Bの回転移動の開始時には、すでに転動体9Aが回転移動している。従って、転動体9Aと転動体9Bの回転移動は、ドラム3の円周方向に対する位相が異なる(重なり合わない)ため、振動波形S22に示すように、ドラム3の振動は増長しない。その結果、水槽2の振動は、増長が抑制される。
また、例えば、洗濯物18のアンバランス位置と転動体9Bの回転移動が同位相(重なり合った)位置に移動した場合には、転動体9Aが転動体9Bに対して異なった位相(重なり合わない)に回転移動する。これにより、転動体9Aが、洗濯物18と転動体9Bによる合成されたアンバランス状態を補正するように作用し、ドラム3の振動の増長を抑制することができる。
以上の通り、前端部に位置するバランサ8Aの転動体9Aと、後端部に位置するバランサ8Bの転動体9Bとの間で、回転移動を開始する回転数に差を設ける構成としている。この構成により、ドラム3の振動の増長を防止することができる。これは、バランサ8Aおよび8Bのそれぞれの環状容器内面に形成した突起体29Aと29Bの形状を異ならせることで容易に実現することができる。
次に、図6の振動波形S1は、比較装置の振動波形を示すものである。比較装置は、ドラム3の前端部と後端部に配設したバランサ8Aおよび8Bの転動体9Aおよび9Bがドラム3の回転数140rpm(時間t11)の状態で同時に回転移動を開始する。比較装置では、転動体9Aおよび9Bが同位相で移動するために、バランサ8Aおよび8Bの補正量を越えたアンバランス状態として動作し、振動検知部40の振動値が増長していることがわかる。
図6に示す試験結果は、本実施の形態と比較装置のドラム3を一定回転加速度で、回転数を上昇させる場合を示している。本実施の形態は、回転加速度の条件を変えた場合であってもドラム3の回転数140rpmの状態でドラム3前端部のバランサ8Aの転動体9Aが回転移動を開始し、ドラム3の回転数160rpmの状態でドラム3後端部のバランサ8Bの転動体9Bが回転移動を開始する。なお、転動体9Aが回転移動を開始する時間t11と転動体9Bが回転移動を開始する時間t12は回転加速度により変化する。
本実施の形態では、回転加速度を変化させた場合であっても、転動体9Aが回転移動を開始する時間t11と転動体9Bが回転移動を開始する時間t12には、差が生じる。これにより、転動体9Aと転動体9Bが回転移動する位置は、ドラム3の円周方向の位置(位相)に差が生じるため、ドラム3の振動の増長を抑制できる。従って、転動体9Aが回転移動を開始する時間t11と転動体9Bが回転移動を開始する時間t12を最適化することで振動の最小化を図ることができる。
次に、図7は、本実施の形態において、バランサ8Aの転動体9Aが環状容器の最上部を越えて回転移動を開始する条件を設定するためのドラム3の回転数と、バランサ8A内に収容する粘性流体10Aの液量との関係を示すものである。なお、バランサ8Aと8Bは、同一条件となるように粘性流体10Aおよび10Bの液量を調整している。
バランサ8Aおよび8Bは、環状容器に突起体29Aおよび29Bを48個形成している。粘性流体10Aおよび10Bは、塩化カルシウム水溶液であり、粘度4cStとし、450g用いている。転動体9Aおよび9Bは、同一構成であり、20個用いている。転
動体9Aおよび9Bは、外径がφ21、質量が30g/個である。転動体9Aおよび9Bは、内部を鋼球とし、表面にEPDMのゴムを均一にコーティングしており、ゴムの硬度を70としている。
図7は、上記の条件で、粘性流体10Aおよび10Bである塩化カルシウム水溶液の液量を変化させた場合の転動体9Aおよび9Bが回転移動を開始する回転数特性を示したものである。CS1がバランサ8Aの転動体9Aが回転移動を開始する回転数特性を示し、CS2がバランサ8Bの転動体9Bが回転移動を開始する回転数特性を示している。転動体9Aおよび9Bが回転移動を開始する回転数は、CS1とCS2に示すように、粘性流体10Aおよび10Bの液量を調整しても、一定回転数の差が生じる。粘性流体10Aおよび10Bである塩化カルシウム水溶液の液量の増加と共に転動体9Aおよび9Bの回転移動を開始する回転数は低下する。
洗濯物18に懸かる重力とドラム3の回転による遠心力とが均衡し、洗濯物18がドラム3の内面に張り付き状態となる回転数が約90〜110rpmである。水槽2の一次共振回転数が約190〜210rpmである。従って、100rpm以上、200rpm以下の範囲で転動体9Aおよび9Bが回転移動を開始し、転動体9Aと転動体9Bが回転移動を開始する回転数に約10〜20rpmの差を維持できることを条件に設定する。
洗濯物18のアンバランス状態を検知するために、振動検知部40で振動値が測定でき、かつ転動体9Aおよび9Bが回転移動を開始しないドラム3の回転数は120rpmである。ドラム3の回転数120rpm以上で、転動体9Aと転動体9Bが回転移動を開始する回転数に20rpm程度の差を維持できることを条件とすると、図7に基づいて、塩化カルシウム水溶液は450gとなる。
本実施の形態では、粘性流体10Aおよび10Bの粘度を4cStとしているが、粘性流体10Aおよび10Bの粘度を上げる場合には、図7に示すCS1およびCS2は、全体的に回転数が下がる方向に移行する。よって、回転数を140rpmおよび160rpmに設定する場合は、粘性流体10Aおよび10Bの液量を減少させることで調整が可能である。
バランサ8Aおよび8Bの環状容器の内面と外面との間の間隔の寸法誤差、転動体9Aおよび9Bの外径の寸法誤差により、環状容器と転動体9Aおよび9Bとの間の隙間のばらつきが生じる。
図8は、本実施の形態のドラム3を回転させた状態で、バランサ8Aにおける環状容器と転動体9Aとの隙間のばらつきによる回転特性を計測したものである。環状容器と転動体9Aおよび9Bとの間の隙間のばらつきは、バランサ8Aとバランサ8Bが同一条件となるように調整して計測している。
隙間のばらつきが最大(MAX)の場合をCS4とし、ばらつきが最小(MIN)の場合をCS5とし、ばらつきが中間(CENTER)の場合をCS1として示している。この結果によれば、転動体9Aとバランサ8Aの環状容器の隙間が大きくなるに従って転動体9Aの回転移動を開始する回転数が、高回転数側に移行することがわかる。本実施の形態では、このばらつき回転数を約10rpmとなるように隙間を設定する。
本実施の形態では、バランサ8Aおよび8Bの環状容器と転動体9Aおよび9Bとの隙間を1mmとしている。この隙間を調整することにより、転動体9Aおよび9Bの回転移動開始回転数を調整することができる。隙間を減少すると、粘性流体10Aおよび10Bを回転方向に推進する推進力が強くなる傾向がある。従って、転動体9Aおよび9Bに対
する推進力も強くなるため、図7に示すCS1およびCS2は、全体的に回転数が下がる方向に移行する。
また、隙間を大きくすると、転動体9Aおよび9Bの移動開始回転数と粘性流体10Aおよび10Bの液量との関係は、図8に示すCS1側からCS4側へ移行する。逆に、隙間を小さくすると、CS1側からCS5側へ移行する。
よって、バランサ8Aおよび8Bの環状容器と転動体9Aおよび9Bとの隙間のばらつきは、粘性流体10Aおよび10Bの液量を増減減少させることで調整が可能である。
なお、バランサ8Aおよび8Bの環状容器と転動体9Aおよび9Bとの隙間は、環状容器の内外径の調整、或いは、転動体9Aおよび9Bの直径の調整により調整可能である。このような調整を行う場合でも、粘性流体10Aおよび10Bの液量を調整することで、転動体9Aおよび9Bが回転移動するドラム3の回転数を調整することが可能である。
また、図9は、本実施の形態のバランサ8Aの転動体9Aの表面にコーティングしているEPDMゴムの硬度のばらつきによる転動体9Aの転々移動開始回転数の変化を示している。なお、バランサ8Aの転動体9Aとバランサ8Bの転動体9Bの硬度のばらつきは同一条件となるように調整して計測している。
図9は、バランサ8Aの転動体9Aの表面の硬度のばらつきによる最大硬度(MAX)をCS6とし、最小硬度(MIN)をCS7とし、中間硬度(CENTER)をCS1として示している。図9に示すように、転動体9Aの硬度が上がるに従って転動体9Aの回転移動を開始する回転数が、高回転数側に移行する。
上記試験の結果、転動体9Aおよび9Bと、粘性流体10Aおよび10Bとからなる移動体を収納したバランサ8Aおよび8Bを、ドラム3の前端部と後端部に配置している。そして、バランサ8Aおよび8Bの環状容器内面の突起体29Aと突起体29Bは、異なる形状に形成し、突起体29Aが粘性流体10Aに作用する推進力と、突起体29Bが粘性流体10Bに作用する推進力を異ならせている。
この構成により、転動体9Aおよび9Bが回転移動を開始する回転数を、水槽2の一次共振回転数(190〜210rpm)以下で、かつ洗濯物18のドラム3の内周面への張り付き状態を維持できる回転数(90〜110rpm)以上に設定することができる。さらに、ドラム3の前端部および後端部に配置したバランサ8Aおよび8B内の転動体9Aおよび9Bの回転移動を開始する回転数の差を約10〜20rpmに設定することができる。
本実施の形態では、バランサ8Aおよび8B内の粘性流体10Aおよび10Bとして塩化カルシウム水溶液を用い、その粘度を4cSt、液量を450gとしている。また、転動体9Aおよび9Bを鋼球として、その表面にEPDMゴムのコーティングを施して、硬度70度としている。さらに、突起体29Aおよび29Bの形状を一例として図示しているが、これらの条件に限定するものではない。
例えば、粘性流体10Aおよび10Bとして、水、シリコンオイルを用いてもよい。粘性流体10Aおよび10Bとして用いる液体は1cSt以上の粘度とし、粘性流体10Aおよび10Bの液量、転動体9Aおよび9Bの摩擦係数を調整することにより、転動体9Aおよび9Bが回転移動を開始する回転数を、水槽2の一次共振回転数(190〜210rpm)以下で、かつ洗濯物18のドラム3の内周面への張り付き状態を維持できる回転数(90〜110rpm)以上に設定することができる。
また、転動体9Aおよび9Bの中心となる球体として、鋼球に相当する比重を有する金属製球、ガラス球、ゴム球を用いてもよい。さらに、転動体9Aおよび9B表面のコーティングとして、EPDM、シリコンゴム、ナイロン、ウレタン、ポリエチレンなど、バランサ8Aおよび8Bの環状容器内面と転動体9Aおよび9B表面との間で摩擦を発生させる材料であれば、他の材料を用いてもよい。転動体9Aおよび9B表面の硬度は、転動体9Aおよび9Bが回転移動を開始する回転数が、水槽2の一次共振回転数(190〜210rpm)以下で、かつ洗濯物18のドラム3の内周面への張り付き状態を維持できる回転数(90〜110rpm)以上に設定することができるように粘性流体10Aおよび10Bの粘度、液量等の調整によって可能な範囲であればよい。
また、本実施形態では、突起体29Aおよび29Bを48個形成しているが、48個に限定するものではない。突起体29Aおよび29Bの個数を減少すると、粘性流体10Aおよび10Bを回転方向に推進する推進力が弱くなるため、転動体9Aおよび9Bに対する抗力も弱くなる。従って、図7に示すCS1およびCS2は、全体的に回転移動開始回転数が上昇する方向に移行する。
よって、転動体9Aおよび9Bが回転移動するドラム3の回転数を140rpmおよび160rpmに設定する場合は、粘性流体10Aおよび10Bの液量を増加させることで調整が可能である。逆に、突起体29Aおよび29Bの形成数量を増加する場合は、粘性流体10Aおよび10Bの液量を減少させることにより調整することが可能である。
また、突起体29Aおよび29Bの高さ、突起体29Aおよび29Bの回転方向側の面の法線に対する角度によっても粘性流体10Aおよび10Bを回転方向に推進する推進力が変化する。このような場合であっても、粘性流体10Aおよび10Bの液量を増減することにより調整することが可能である。
本実施の形態では、転動体9Aおよび9Bの表面硬度を70度としている。硬度が変化すると、バランサ8Aおよび8Bの環状容器内面と転動体9Aおよび9Bとの摩擦係数が変わる。これにより、転動体9Aおよび9Bの回転移動開始回転数が変化する。
転動体9Aおよび9Bの硬度が高くなると、図8に示すCENTER(CS1)からMAX(CS6)側へ転動体9Aおよび9Bの回転移動開始回転数が上昇する方向へ移行する。逆に、転動体9Aおよび9Bの硬度が低くなると、CENTER(CS1)からMIN(CS7)側へ回転移動開始回転数が下降する方向へ移行する。
即ち、転動体9Aおよび9Bの硬度が高くなると、転動体9Aおよび9Bが移動しやすく(摩擦が小さい)なる。また、転動体9Aおよび9Bの硬度が低くなると、転動体9Aおよび9Bが移動し難く(摩擦が大きい)なる。
従って、転動体9Aおよび9Bの硬度が高くなる場合は、粘性流体10Aおよび10Bの液量を増量することで調整ができる。逆に、転動体9Aおよび9Bの硬度が低くなる場合は、粘性流体10Aおよび10Bの液量を減量することで調整が可能である。
また、バランサ8Aおよび8Bの環状容器と転動体9Aおよび9Bの隙間についても、粘性流体10Aおよび10Bの粘度、転動体9Aおよび9B表面の摩擦抵抗、突起体29Aおよび29Bの形状、突起体29Aおよび29Bの数量などを調整することにより上述した転動体9Aおよび9Bの回転移動開始回転数の条件に設定することが可能であって、本実施の形態に限定するものではない。
ドラム3の前端部と後端部に配設したバランサ8Aの転動体9Aの回転移動開始回転数と、バランサ8Bの転動体9Bの回転移動開始回転数との間で一定回転数の差を有する構成であれば、上述した条件に限定するものではない。バランサ8Aの転動体9Aとバランサ8Bの転動体9Bの回転移動開始回転数が相違する構成であれば、脱水起動時にバランサ8Aおよび8Bの転動体9Aおよび9Bが同時に移動を開始する構成(比較装置)におけるアンバランスの発生を防止することができるものである。
ドラム3の回転方向に対して非対称形状の突起体29Aおよび29Bは、粘性流体10Aおよび10Aに対して回転方向に掻き揚げながら回転方向に推進力を発生させるものであり、その推進力によって転動体9Aを回転方向へ移動させるものである。
従って、突起体29Aおよび29Bは、粘性流体10Aおよび10Bに対する推進力が異なる形状とすることによって、バランサ8Aの転動体9Aとバランサ8Bの9Bの移動回転数が異なるようにすることができる形状であれば、どのような形状であってもよい。よって、実施の形態の形状や個数に限定するものではない。ドラム3の前端部および後端部に配設するバランサ8Aおよび8Bの転動体9Aおよび9Bの回転移動を開始する回転数に所望の差を得られるように設定することであれば、本発明を達成することができる。
本実施の形態では、バランサ8Aおよび8B内に、転動体9Aおよび9B、粘性流体10Aおよび10Bを収納しているが、転動体のみ、或いは、粘性流体のみであってもよい。転動体9Aおよび9Bは、球体にて説明しているが、バランサ8Aおよび8Bの環状容器内を自在に移動可能な形状であれば、他の形状であってもよい。
また、本実施の形態は、バランサ8Aの転動体9Aがドラム3の回転数140rpmで回転移動を開始し、バランサ8Bの転動体9Bがドラム3の回転数160rpmで回転移動を開始するよう設定しているが、転動体9Aおよび9Bが回転移動を開始する回転数は、ドラムの形状や重量等の条件により適宜選択されるものであり、回転数を限定するものではない。
なお、本実施の形態では、ドラム式洗濯機として説明したが、ドラム式洗濯乾燥機などでも脱水動作をおこなう機器では、同じ効果が得られる。