第1の発明のドラム式洗濯機は、水平または傾斜したドラム軸まわりに回転可能に支持された洗濯物を収容するドラムと、前記ドラムを収容する水槽と、前記ドラムに配置された環状容器、前記環状容器内を移動可能な転動体、前記環状容器内に封入される液体を有して前記ドラムの回転時に洗濯物のアンバランスによる振動を軽減するボールバランサと、前記ドラムを回転駆動する駆動モータとを備え、前記ボールバランサは、前記環状容器内部に、回転方向に面する面積と回転逆方向に面する面積が異なるように構成した突起体を備えるものである。
この構成により、環状容器内に収容される液体が温度変化の小さい低粘性であった場合に、突起体が低粘性液体に抗力を発生させ、その抗力により押された液体が転動体を移動させるように働き、低粘性の液体時に転動体を容易に移動させることができる。さらに低粘性の液体は温度変化範囲が小さく、高粘性液体に比べ広い温度範囲で使用できる。しかし、低粘性であるために転動体を移動させる抗力が小さく液体のみが移動しやすい。そこで、環状容器の内部に回転方向に面する面積と回転逆方向に面する面積が異なるように構成した突起体を設けることで、進行方向に対してさらに大きな抗力を発生させてより大きな抗力を転動体に加えることができ、転動体の移動を容易にすることができることで、脱水起動時に最適な回転数で転動体を移動させることができるとともに、アンバランス状態を検知する際の転動体を移動させない回転数をも容易に設定することができる。
さらに、転動体の移動する円周方向に対して突起体が垂直方向に位置することから、低粘性の液体であっても転動体に作用する抗力を最大限に発生させることで効率よく転動体を移動できる。
その結果、低粘性の液体を収容した安定したバランサとして機能させることができ、本来の脱水起動時から高速回転までの広い範囲で安定した動作をおこない、洗濯物によるアンバランスを解消する動作を効率よくおこなうことができる。
第2の発明のドラム式洗濯機は、水平または傾斜したドラム軸まわりに回転可能に支持された洗濯物を収容するドラムと、前記ドラムを収容する水槽と、前記ドラムに配置された環状容器、前記環状容器内を移動可能な転動体、前記環状容器内に封入される液体を有し、前記ドラムの回転時に洗濯物のアンバランスによる振動を軽減するボールバランサと、前記ドラムを回転駆動する駆動モータとを備え、前記ボールバランサは、前記環状容器内部に、ドラム軸正面側の高さとドラム軸背面側の高さが異なるように構成した突起体を備えるようにしたものである。
この構成により、回転方向において、より推進力を向上させて、転動体を移動させることができ、粘性液体に転動体の移動する円周上方向に対して垂直に抗力を与えることが容易で、かつ転動体と突起体を接触させずに効率よく回転数に応じた転動体の移動をさせることができる。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1におけるドラム式洗濯機の側面断面図である。ドラム式洗濯機本体1の内側には、有底円筒状の水槽2が収容されている。水槽2はバネ24とダンパ19によって弾性的に支持されている。水槽2の内部には有底円筒状のドラム3が収容されている。ドラム3は、ドラム式洗濯機正面側には、水槽2の開口部2aを通してドラム3内に通じる開口部3bが設けられている。ドラム3は、ドラム軸3aまわりに回転可能に回転軸14により支持され、ドラム軸3aは水平に構成されている。なお、ドラム軸3aは正面側から底面側に向けて下向きに傾斜して配置されていてもよい。水槽2は開口部2aを正面側とし、ドラム軸3aに合わせて水平もしくは傾斜して配置される。
また、図1に示すように、ドラム式洗濯機本体1の内部で水槽2の下方には、ドラム3を回転駆動するための駆動モータ12が取り付けられている。駆動モータ12の回転駆動は、モータプーリ5からベルト6を介してドラム3の回転軸14に設けられたドラムプーリ4に伝達される。これにより、駆動モータ12がドラム3を回転駆動する。
ドラム3の内部には洗濯物18を持ち上げて落とすことができるバッフル7が設けられている。ドラム3が回転駆動されることにより、バッフル7によって持ち上げられた洗濯物18は、ドラム3の上部から水面等に叩きつけられ、叩き洗いの機械力によって洗浄がなされる。さらに、ドラム3には複数の透孔20が設けられている。透孔20を介して水槽2からドラム3内に通水および通気ができる。また、ドラム式洗濯機本体1の正面側には、開口部3bに対応させて扉21が開閉自在に設けられている。水槽2の開口部2aは、その口縁に環状のシール材(図示せず)が装着されている。シール材の前面側は扉21の背面側に当接して密閉し、上下左右、前後に揺動する水槽2の開口部2aが動いても、シール材が変形し扉21の背面側へ押圧するので密閉性が維持されている。
ドラム3の正面側には、ボールバランサ8が設けられている。図2(a)は、本発明の実施の形態1におけるドラム式洗濯機のボールバランサ8の正面図、図2(b)はボールバランサ8の内周面を示す図、図3はボールバランサ8の突起体11の実施例1の正面視した断面図、図4はボールバランサ8の突起体11の実施例2の正面視した断面図、図5はボールバランサ8の突起体11の実施例3の断面図である。ボールバランサ8は、ドラム3の正面側に配置された環状容器81と、環状容器81内を移動可能な金属からなる複数のボール9(転動体)と、環状容器81内に貯留される粘性液体23とを有している。リング状となる環状容器81はドラム軸3aと軸線を一致するように設置されている。
さらに図2(b)に示すように、環状容器81の内周面8aと外周面8bの間をボール9が移動するように構成され、さらに環状容器81の内周面8a側のドラム軸3a方向の片側一方にのみ突起体11を設け、粘性液体23は、その突起体11および環状容器81の内周面8aおよび外周面8bの空間に収容されて自由に移動することができる。図2(b)では突起体11を内周面8a上でかつドラム軸正面側Aに配置した図を示しているが、ドラム軸背面側Bに設けることでも得られる効果は同じである。また、突起体11をここでは、ドラム軸3a方向の片側一方のみに設けた構成を示しているがそれに限定するも
のではない。
また、図2(b)の右側の図に示すように、環状容器81はコの字部81aと蓋部81bとから形成され、樹脂成型品であるため、突起体11をドラム軸3a方向の片側一方にのみ設けることは可能な構造である。ここでは、ドラム軸正面側Aに蓋部81bを設けているがドラム軸背面側Bに蓋部81bを設けても同じである。
本実施の形態における突起体11の実施例1は、図3の環状容器81内部の突起体11をドラム軸正面側Aから見た断面図に示すように、ドラム3の回転方向の進行方向に面する突起A面11Aの面積は進行方向の逆方向に面する突起B面11Bの面積よりも大きくした場合を示している。
また、本実施の形態における突起体11の実施例2は、図4の環状容器81内部の突起体11をドラム軸正面側Aから見た断面図に示すように、ドラム3の回転方向の進行方向に面する突起D面11Dは、進行方向に凹状の形状を設けるとともに、その面積を進行方向の逆方向に面する突起C面11Cの面積よりも大きくした場合を示している。進行方向側に凹状の形状を設けることで粘性液体23による抵抗を大きくすることで、さらに進行方向へ抗力を加えることができる形状としている。
また、本実施の形態における突起体11の実施例3は、図5の環状容器81内部の進行方向の断面図に示すように、ドラム軸3a方向の一方に設けた突起体11の断面形状を、ドラム軸3aの一方側にある突起体A点111Aの高さともう一方の突起体B点111Bの高さが異なる形状にしている。本実施例では、ドラム軸背面側Bの突起体B点111Bの高さをドラム軸正面側Aの突起体A点111Aの高さより高い形状にしているが、逆であってもよい。このように、突起体11の高さを進行方向に対してドラム軸3a方向で高さを異なるようにすることで、粘性液体23に加える推進力を調整することができる。
ボール9の動きを制御するために、環状容器81の内部には粘性液体23が貯留されている。本実施の形態1では低粘性で温度変化による粘性変化が小さく、引火性の無い塩化カルシウム水溶液が用いられている。なお、他の粘性のある液体で低粘性で温度変化が小さく、引火性の無いものであれば同様の効果が得られることから、塩化カルシウム水溶液の他に、水、塩水、シリコンオイル等の油類が使用可能であるが、これらに限定するものではない。
次に、駆動モータ12等を制御し、洗い、すすぎ、脱水等の工程を制御する制御部13の詳細を図6により説明する。図6は本発明の実施の形態1におけるドラム式洗濯機の制御ブロック図である。制御部13は、駆動モータ12の駆動の指示はもちろん、振動検知部10など各種センサ出力を含め、すべての入出力制御をタイマーで管理できるシステムを具備している。
ドラム3やボールバランサ8のアンバランスに起因して生じる振動を検知する振動検知部10は、水槽2の正面側の上部に設けられている。なお、振動検知部10の取り付け位置は、水槽2の背面側の上部でも同様な効果が得られることから、これに限定するものではない。また、その他、ドラム3や駆動モータ12等の振動系の振動を検知することができれば、どこに取り付けられていてもよい。
振動検知部10は、洗い、すすぎ、脱水などの一連の工程における水槽2の振動を検知するものである。各工程での振動値を制御部13が分析した後、駆動モータ12に対して指令を出すことで、最適なモータ制御を行っている。振動検知部10は、少なくとも一つの加速度センサを有し、水槽2の上下方向、左右方向、前後方向のうちの少なくとも一つ
の方向の振動を検知している。なお、加速度センサとしては、半導体加速度センサ、圧電型加速度センサなどのいずれでも良く、さらに多軸(2軸もしくは3軸)方向の加速度センサでも良い。
電流検知部101は、駆動モータ12に印加する電流の値を検知する。制御部13は、電流検知部101で検知した電流に基づき、環状容器81内のボール9の移動状態を検知して判断する。制御部13はハードウェア構成として、CPU、メモリ、ドライバ回路などを具備した電気回路であり、制御部13内のメモリに記憶させたプログラムに従って、駆動モータ12などの周辺機器を動かしている。
アンバランス状態に応じた脱水起動方法を判定する判定部131は、駆動モータ12の回転数および電流検知部101の電流値変動からドラム3の回転位置を検出する回転位置検知部103と、衣類量を電流検知部101の値から判断する衣類量判定部102と、ドラム3の回転が一定回転数以下の時(例えば、ここでは120rpm時にボールバランサ8内のボール9がドラム3と共回りしない場合)に、ドラム3内の洗濯物18によるアンバランス状態を電流検知部101がドラム3の回転方向のどの位置に位置し、振動検知部10の振動値からドラム3の奥行き方向の位置を判定するアンバランス位置算出手段30と、振動検知部10の振動値から洗濯物18によるアンバランス量を検知するアンバランス量算出手段31とから構成される。
次に、図7は本発明の実施の形態1におけるドラム式洗濯機の環状容器81とその環状容器81内のボール9と粘性液体23とを近似的に短い区間の距離を直線として表したものを示している。突起体11により粘性液体23は進行方向に掻きあげられながら推進力110を発生させ、その推進力110が抗力111となってボール9を進行方向へ移動させる。
環状容器81とボール9と粘性液体23とその流速とによって決定される抗力111は下記の近似式(1)によって表現される。
Dp=Cd・S・(ρ・V^2)/2・・・・・(1)
Dpは抗力111の値、Cdは粘性液体23の粘性係数、Sはボール9の投影面積、ρは摩擦抵抗、Vは流速であり、抗力111の値Dpが流速Vの二乗に比例していることから粘性液体23の流速により決まり、流速はボール9と環状容器81の隙間および粘性液体23の粘性により決まる。
以上のように構成されたドラム式洗濯機のボールバランサ8について、以下、その動作について図1〜図5を用いて説明する。まず、図1〜図6において、ドラム式洗濯機が排水後に脱水を行う場合、制御部13の指令により駆動モータ12に駆動電圧を印加させる。制御部13は、駆動モータ12を低速回転から高速回転に動作させ、ドラム3の回転速度を徐々に上昇させる。このとき、駆動モータ12が永久磁石同期モータであるため、駆動モータ12のロータ位置を検知する。これにより、駆動モータ12の脱調を防止することで安全、かつ高速に回転速度を上昇させることができる。
次に、環状容器81内の粘性液体23は、例えば、ドラム式洗濯機の使用温度範囲が5℃から40℃である場合、また、給水に温水を使用する場合にはドラム3内の温度は、60℃まで上昇する。さらにドラム式洗濯機の内部でヒータにより温水を作る場合には、最大90℃までの温度が想定される。従って、寒冷地の0℃(水が凍らない限界)から最高温度90℃までの温度範囲で変化することが想定される場合に、粘性液体23の粘性が大幅に変化する場合、環状容器81内のボール9の移動速度に粘性液体23の粘性が影響する。
図8は本発明の実施の形態1におけるドラム式洗濯機のボールバランサ8の動作模式図であり、図8(a)は、アンバランス状態検知工程前の停止状態におけるボールバランサ8の状態を示すもので、底部にボール9が偏っている状態を示す。図8(b)は、アンバランス状態検知工程における低速回転数でボール9がドラム3と共回りしない状態で左側部にボール9が偏って位置し、維持されている状態を示している。なお、ドラム3の回転方向は、ドラム3やボールバランサ8を正面視して時計回りに回転している。
まず、脱水工程開始前に、制御部13は洗濯物18によるアンバランス状態を把握し、脱水起動時にアンバランス状態に応じた起動方法を選定する。アンバランス状態を把握するために、ドラム3を低速の一定回転数(洗濯物18がドラム3の内壁に張付き状態でかつ水槽2の共振回転数以下の回転数、例えば120rpm)で回転させる。その際、図8(b)に示すようにボール9が環状容器81の底部または左側部に位置する(図はドラム3が右回転時の場合を示し、左回転であればボール9は右側部に位置して固定し、ドラム3と共回りしない)。
次にこのボール9の影響がない状態で、振動検知部10が検知する振動値からアンバランス位置算出手段30およびアンバランス量算出手段31によって洗濯物18のアンバランス状態を検知する。その算出結果から、アンバランス状態に応じた脱水起動方法を判定部131が判定し、同一回転数時にボール9が図8(b)の左側部に位置している際に洗濯物18のアンバランス状態のドラム3の回転円周上方向における回転位置を電流検知部101が駆動モータ12の電流変動値から判定することで、ボール9と洗濯物18のアンバランス状態位置を把握することで、ボール9の環状容器81内の位置を制御し、水槽2およびドラム3の振動を最小化するように脱水起動をおこなう。
低速回転数(ここでは120rpmとしているが80〜150rpmや水槽2の共振回転数以下であればよい)でのアンバランス状態を検知するためには、この低速回転数ではボール9が移動せず、さらにその回転数を超えた時点(例えば、ここでは135rpm)でボール9が移動し、水槽2の共振回転数(ここでは200〜260rpmとしているが、機体において異なる場合はその機体の共振回転数以下に合わせればよい)より低い回転数でボール9を移動する必要がある。そのため、低速回転数(例えば、ここでは120rpm)の回転数でボール9が移動せず、それ以上の回転数(例えば、ここでは135rpm)で移動する条件を設ける必要がある。
しかし、粘性液体23の粘性が高粘性では、温度変化時(0℃〜90℃)では粘性変化が大きく、低速の回転数では、ボール9が移動する場合と移動しない場合とが発生し、同一の低速回転数(例えば、120rpm)を固定することができない。従って、ボール9が移動し、ドラム3と共回りする場合は、アンバランス状態の検知が正しくできない。さらに共回りをしていることでボール9が環状容器81の底部に維持されていないために回転円周方向のアンバランス位置を検知する回転位置検知部103の回転位置を検知することができない。その結果、脱水起動時に起動するタイミングが検知できないため、起動時にアンバランス状態の位置に対向した状態でボール9を位置させ、起動することができない。
上記の粘性液体23の高粘性による問題点は、低粘性の粘性液体にすることで温度変化時の粘性変化を小さくすることができるため、同一の低速回転数でボール9を移動させないことは可能である。しかし、環状容器81の内周面8aに突起体11を設けない(内周面8aを平面に構成した)場合では、ボール9と環状容器81内の隙間を小さくする必要があるが製造上の限界もあり、実現可能な隙間であった場合、ボール9がドラム3と共回りする回転数が水槽2の共振回転数(例えば200〜260rpm)を超えるなど、振動をさらに大きくすることとなり、環状容器81内周面8aの形状を平面とすることでは低
粘性の粘性液体は使用できない。
また、粘性液体23の量を増量した場合、低粘性であるため、ボール9が簡単には移動しないことにより100〜150rpmの回転数ではボール9が移動せず、水槽2の共振回転数(例えば200〜260rpm)以上で移動するなどの課題があり、また、粘性液体23の満水状態を維持することも、温度変化による膨張、収縮があるため実現困難であった。
しかしながら、本発明のドラム式洗濯機によれば、突起体11を設けることにより、粘性液体23が低粘性液体(例えば塩化カルシウム水溶液で4cSt程度で、マイナス30℃でも凍らない状態)であっても、突起体11が発生させる流速の加速によりボール9への抗力111を発生させることで、低粘性の粘性液体23であって、温度変化が(例えば0〜90℃)大きく変わった場合でも、粘性変化も小さく抗力によるボール9の移動速度もほぼ一定となり、安定して低速の回転数でボール9を環状容器81の左側部に維持し、それ以上の回転数でかつ水槽2の共振回転数以下でボール9を移動させることができる。
さらに、実施例1もしくは実施例2のように、環状容器81の内部に回転方向に面する面積と回転逆方向に面する面積が異なるようにした突起体11を備えることにより、突起体11により回転時に発生する推進力110としてボール9に対して推進方向に、より大きな推進力を加えることができ、ボール9に抗力111が働くことで、より早い速度でボール9が移動する。従って、ドラム3に対してボール9の共回り回転数も低下し、所望の回転数である120rpm近傍よりやや高い回転数で維持することができる。その結果、低粘性の粘性液体23を使用し、上記の特徴ある形状の突起体11を設けることで、温度変化が大きい場合でも、下限の共回り回転数を維持し、安定した共回り回転数を実現できる。
また、実施例3のように、環状容器81の内部にドラム軸正面側Aとドラム軸背面側Bとで高さが異なるようにした突起体11を備えることによっても、上記と同様の効果を得ることができる。
従って、ドラム3の回転数を一定回転数(ここでは120rpmとし、ドラム3内の洗濯物18がドラム3内壁に張付き状態でボール9は環状容器81内の底部近傍に固定され、共回りしない回転数)とした際に、安定した振動検知部10の振動値を測定することができ、アンバランス位置算出手段30およびアンバランス量算出手段31が正確にアンバランス量および位置を検知することができる。さらに回転位置検知部103が洗濯物18の円周上方向のアンバランス位置をボール9の影響なく検知することができ、安定したドラム3の円周上のアンバランス位置についても把握することができる。
次に、図2(a)と(b)および図3〜図7を用いて突起体11の構造とその動作、作用について説明する。図2(a)は、ボールバランサ8の正面視したもので、環状容器81内の底部にボール9および粘性液体23を収納し、環状容器81の内周面8aに突起体11を設けている。ここでは、突起体11がボール9と接触しない配置としている。環状容器81の外周面8bには突起体11を設けていない。突起体11を環状容器81の内周面8a側に設けることで、ボール9を環状容器81の外周面8b側に配置することができ、ボールバランサ8の補正力をより大きくすることができる。ボール9を内周面8a側に配置した場合では、円周方向の半径から突起体11の配置距離分の半径を短くすることとなり補正力が小さくなる。従って、突起体11を内周面8aに配置することが最も大きな補正力を発生させ、さらにボール9への粘性液体23による抗力を効率よく加えることができる。
図2(b)は、環状容器81の下部の内周面8aを示した図である。左側の図は上面図、右側の図は断面図である。環状容器81の内周面8aは、ドラム3のドラム軸3a方向において、例えば、ドラム3の奥側をドラム軸背面側B、手前をドラム軸正面側Aとした場合、突起体11は、この場合、ドラム軸正面側Aにのみ設けている。さらにボール9が直接突起体11に接触しないように内周面8aの幅と突起体11の幅は、常に突起体11の幅が小さくなるように配置している。この突起体11は突起体11の進行方向に対面する面の面積と進行逆方向に対面する面の面積が異なるような形状としている。
ここでは、突起体11の形状を三角形の山状の形状を進行方向と逆方向で異なる形状としたものを等間隔で配置しているが、その形状はこれに限定するものではなく、ボール9への抗力が発生するものであれば同等の作用を発生することが可能である。また、その抗力によるボール9の移動がドラム3の回転数を所望の回転数となるように調整するものであればこの形状に限定するものではない。
図3は、環状容器81の実施例1の突起体11の形状をドラム軸方向から見た断面図である。図3に示すように、実施例1では突起体11の進行方向の突起A面11Aの面積が大きく、進行方向の逆方向にある突起B面11Bの面積が小さくなるようにした形状である。このようにすることで、進行方向に面する面積を大きくすることで粘性液体23への推進力を高めることができ、その粘性液体23の推進力によりボール9への抗力111をより大きくすることにより、より早く移動させることができる。
すなわち、進行方向に対してさらに大きな抗力を発生させてより大きな抗力をボール9に加えることができ、ボール9の移動を容易にすることができることで、脱水起動時に最適な回転数でボール9を移動させることができるとともに、アンバランス状態を検知する際のボール9を移動させない回転数をも容易に設定することができ、洗濯物18によるアンバランスを解消する動作を効率よくおこなうことができる。
次に、図4は、環状容器81の実施例2の突起体11の形状をドラム軸方向から見た断面図である。図4に示すように、実施例2では突起体11の進行方向の突起D面11Dの形状を凹状に構成することで進行方向に面した突起体11の突起D面11Dの面積を大きくすることができる。従って、進行方向の逆方向にある突起C面11Cの面積よりもさらに大きくすることができるので、突起D面11Dを進行方向に面することで粘性液体23をより多く捉えることができ、推進力を増加できる。その結果、推進力(流速)を増加した粘性液体23により抗力111をより大きくすることで、ボール9をより早く移動することができる。
次に、図5は、環状容器81の実施例3の突起体11の進行方向から見た断面図である。その環状容器81の内部にある突起体11の形状は、ドラム軸3aの一方方向の突起体11の高さ(突起体A点111Aの高さ)ともう一方の突起体11の高さ(突起体B点111Bの高さ)を異なる高さとしている。そのようにすることで、ボール9に加える抗力111の大きさは粘性液体23の流速で決まるため、その流速を突起体11の高さを調整することで最適化することができる。高さを異なるようにしてボール9と突起体11の隙間を調整することで粘性液体23の流速を調整することが可能となるため、突起体A点111Aと突起体B点111Bの高さを異なる高さとすることで、この調整が容易にできる。
また、ここでは図5に示すように、ドラム軸正面側Aの突起体A点111Aの高さをドラム軸背面側Bの突起体B点111Bの高さより低くしているが、逆の場合でもよい。また、突起体B点111Bの高さを突起体A点111Aよりも高くし、その突起体B点111Bの高さを内周面8aよりも高くし、ボール9に突起体11が接触しない高さにするこ
とであっても同じ作用効果を得ることができる。
次に、図7に示すように、隣同士の突起体11に挟まれた粘性液体23を突起体11が進行方向に押し上げることで、粘性液体23の流速Vを加速することができる。その結果、加速された流速Vにより、抗力111が近似式(1)に示したDp値となって発生し、ボール9は、その抗力111に押されることで進行方向への推進力が増すこととなる。
従って、突起体11がない場合にはボール9を移動できず、さらに高速の回転数(例えば200rpm以上)でボール9を移動させる必要が生じることとなり、水槽2の共振回転数(200〜260rpm)と重なる回転数であるため、振動検知部10が検知する値が共振による振動が含まれるために正しいアンバランスの状態(位置と量)を検知することができない。
しかしながら突起体11を設けることで、低粘性の粘性液体23を使用する場合であっても、また低速回転数(例えば、120rpmを超える135rpm)であってもボール9を移動することができるため、低速回転の120rpmで振動検知部10が、正しくアンバランス状態(位置と量)を算出し、その後水槽2の共振回転数以下の低速回転数(例えば135rpm)で、最適なボール9の配置をおこなう起動方法で脱水起動することで、アンバランス状態に応じた最適な脱水起動を実現することができる。
なお、上記で説明した複数の実施例については、これらを組み合わせてもよい。
以上のように、本発明にかかるドラム式洗濯機は、ボールバランサ8の環状容器81内部に設けた突起体11の面積を進行方向と逆方向で大きさ(面積)を異なるようにすることや突起体11の高さを異なるようにすることで、温度変化時の粘性変化が小さく発火性のない低粘性の粘性液体23とボール9(転動体)を収容したボールバランサ8を使用した際に、所望のアンバランス状態検知に必要な、洗濯物18がドラム3内壁に張付き状態で、水槽2の共振回転数以下の回転数に調整が容易におこなえ、脱水起動時に水槽2の共振回転数以下の回転数で起動が可能な条件に実現することができる。
すなわち、以上の構成により、環状容器内に収容される液体が温度変化の小さい低粘性であった場合に、突起体が低粘性液体に抗力を発生させ、その抗力により押された液体が転動体を移動させるように働き、低粘性の液体時に転動体を容易に移動させることができる。
さらに低粘性の液体は温度変化範囲が小さく、高粘性液体に比べ広い温度範囲で使用できる。しかし、低粘性であるために転動体を移動させる抗力が小さく液体のみが移動しやすい。そこで、環状容器の内部に回転方向に面する面積と回転逆方向に面する面積が異なるように構成した突起体を設けることで、進行方向に対してさらに大きな抗力を発生させてより大きな抗力を転動体に加えることができ、転動体の移動を容易にすることができることで、脱水起動時に最適な回転数で転動体を移動させることができるとともに、アンバランス状態を検知する際の転動体を移動させない回転数をも容易に設定することができる。
さらに、転動体の移動する円周方向に対して突起体が垂直方向に位置することから、低粘性の液体であっても転動体に作用する抗力を最大限に発生させることで効率よく転動体を移動できる。
その結果、低粘性の液体を収容した安定したバランサとして機能させることができ、本来の脱水起動時から高速回転までの広い範囲で安定した動作をおこない、洗濯物によるア
ンバランスを解消する動作を効率よくおこなうことができる。