以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る制御装置100(図2参照)により制御されるエンジン1の概略構成を示す。このエンジン1は、車両に搭載された過給機付きガソリンエンジンであって、複数の気筒2(図1では、1つのみ示す)が直列に設けられたシリンダブロック3と、このシリンダブロック3上に配設されたシリンダヘッド4とを有している。このエンジン1の各気筒2内には、シリンダヘッド4との間に燃焼室6を区画するピストン5が往復動可能にそれぞれ嵌挿されている。このピストン5は、コンロッド7を介して不図示のクランク軸と連結されている。このクランク軸には、該クランク軸の回転角度位置を検出するための検出板8が一体回転するように固定され、この検出板8の回転角度位置を検出することでエンジン1の回転数を検出するエンジン回転数センサ9が設けられている。
上記シリンダヘッド4には、各気筒2毎に吸気ポート12及び排気ポート13が形成されているとともに、これら吸気ポート12及び排気ポート13の燃焼室6側の開口を開閉する吸気弁14及び排気弁15がそれぞれ配設されている。吸気弁14は吸気弁駆動機構16により、排気弁15は排気弁駆動機構17により、それぞれ駆動される。吸気弁14及び排気弁15は、それぞれ吸気弁駆動機構16及び排気弁駆動機構17により所定のタイミングで往復動して、それぞれ吸気ポート12及び排気ポート13を開閉し、気筒2内のガス交換を行う。吸気弁駆動機構16及び排気弁駆動機構17は、それぞれ、上記クランク軸に駆動連結された吸気カムシャフト16a及び排気カムシャフト17aを有し、これらのカムシャフト16a,17aはクランク軸の回転と同期して回転する。また、吸気弁駆動機構16は、吸気カムシャフト16aの位相を所定の角度範囲内で連続的に変更可能な、液圧式又は機械式の位相可変機構(Variable Valve Timing:VVT)を含んで構成されている。
上記シリンダブロック3の上側(シリンダヘッド4側)端部には、各気筒2毎に、燃料(本実施形態では、ガソリン)を噴射するインジェクタ18が設けられている。このインジェクタ18は、その燃料噴射口が燃焼室6に臨むように配設されていて、圧縮行程上死点付近で燃焼室6内に燃料を直接噴射供給するようになっている。尚、インジェクタ18は、シリンダヘッド4に設けてもよい。
インジェクタ18は、燃料供給管21を介して燃料タンク22に接続されている。この燃料タンク22内には、燃料ポンプ23が燃料に浸るように配置されており、この燃料ポンプ23は、先端にストレーナ24が接続されかつ燃料を吸い込む吸込管23aと、その吸い込んだ燃料を吐出する吐出管23bとを有し、この吐出管23bはレギュレータ25を介して上記インジェクタ18に接続されている。そして、燃料ポンプ23は、吸込管23aより燃料を吸い上げて、その燃料を吐出管23bより吐出して、レギュレータ25により調圧した状態でインジェクタ18へ送出する。尚、詳細には、燃料供給管21は、気筒列方向に延びる燃料分配管(図示せず)に接続され、この燃料分配管が、各気筒2のインジェクタ18に接続され、該燃料分配管により、燃料ポンプ23からの燃料が各気筒2のインジェクタ18に分配されるようになっている。
シリンダヘッド4には、各気筒2毎に、点火プラグ19が配設されている。この点火プラグ19の先端部(電極)は、燃焼室6の天井部近傍に位置している。そして、点火プラグ19は、所望の点火タイミングで火花を発生するようになされており、この火花により、燃料と空気との混合ガスが爆発燃焼することになる。
上記エンジン1の一側の面には、各気筒2の吸気ポート12に連通するように吸気通路30が接続されている。この吸気通路30の上流端部には、吸入空気を濾過するエアクリーナ31が配設されており、このエアクリーナ31で濾過した吸入空気が吸気通路30及び吸気ポート12を介して各気筒2の燃焼室6に供給される。
上記吸気通路30におけるエアクリーナ31の下流側近傍には、吸気通路30に吸入された吸入空気の流量を検出するエアフローセンサ32が配設されている。また、吸気通路30における下流端近傍には、サージタンク34が配設されている。このサージタンク34よりも下流側の吸気通路30は、各気筒2毎に分岐する独立通路とされ、これら各独立通路の下流端が各気筒2の吸気ポート12にそれぞれ接続されている。サージタンク34には、該サージタンク34内の圧力を検出する圧力センサ35が配設されている。
さらに、吸気通路30におけるエアフローセンサ32とサージタンク34との間には、ターボ過給機50のコンプレッサ50aが配設されている。このコンプレッサ50aの作動により吸入空気の過給を行う。
さらにまた、上記吸気通路30におけるターボ過給機50のコンプレッサ50aとサージタンク34との間には、上流側から順に、コンプレッサ50aにより圧縮された空気を冷却するインタークーラ36と、スロットルバルブ37とが配設されている。このスロットルバルブ37は、駆動モータ37aにより駆動されて、該スロットルバルブ37の配設部分における吸気通路30の断面積を変更することによって、上記各気筒2の燃焼室6への吸入空気量を調節する。スロットルバルブ37の開度は、スロットル開度センサ37bにより検出される。
また、本実施形態では、吸気通路30には、コンプレッサ50aをバイパスする吸気バイパス通路38が設けられ、この吸気バイパス通路38には、エアバイパスバルブ39が設けられている。このエアバイパスバルブ39は、通常、全閉状態にあるが、例えばスロットルバルブ37が急激に閉じられたときに、吸気通路30におけるスロットルバルブ37よりも上流側で圧力の急上昇及びサージングが生じてコンプレッサ50aの回転が乱れることにより大きな音が発生するので、それを防止するためにエアバイパスバルブ39が開けられる。
上記エンジン1の他側の面には、各気筒2の燃焼室6からの排気ガスを排出する排気通路40が接続されている。この排気通路40の上流側の部分は、各気筒2毎に分岐して各気筒2の排気ポート13の外側端にそれぞれ接続された独立通路と、該各独立通路が集合する集合部とを有する排気マニホールドによって構成されている。この排気マニホールドよりも下流側の排気通路40に、上記ターボ過給機50のタービン50bが配設されている。このタービン50bが排気ガス流により回転し、このタービン50bの回転により、該タービン50bと連結された上記コンプレッサ50aが作動する。
上記排気マニホールドよりも下流側でかつタービン50bよりも上流側の排気通路40は、第1通路41と第2通路42とに分岐している。第1通路41には、タービン50bに向かう排気ガスの流速を変更するための流速変更バルブ43が設けられている。第2通路42は、流速変更バルブ43の下流側でかつタービン50bの上流側で第1通路41と合流する。
上記排気通路40には、エンジン1の排気ガスを、タービン50bをバイパスして流すための排気バイパス通路46が設けられている。この排気バイパス通路46の排気ガス流入側の端部(上流側の端部)は、排気通路40における第1通路41と第2通路42との合流部と、タービン50bとの間の部分に接続され、排気ガス流出側の端部(下流側の端部)は、排気通路40におけるタービン50bの下流側であって後述の上流側排気浄化装置52の上流側に接続される。
排気バイパス通路46の排気ガス流入側の端部には、駆動モータ47aにより駆動されるウエストゲートバルブ47が設けられている。このウエストゲートバルブ47は、制御装置100によって、エンジン1の運転状態に応じて制御される。ウエストゲートバルブ47が全閉であるときには、排気ガスの全量がタービン50bへと流れ、それ以外の開度であるときには、その開度に応じて、排気バイパス通路46に流れる流量(つまりタービン50bへ流れる流量)が変化する。すなわち、ウエストゲートバルブ47の開度が大きいほど、排気バイパス通路46に流れる流量が多くなり、タービン50bへ流れる流量が少なくなる。ウエストゲートバルブ47の全開時においては、ターボ過給機50は実質的に作動しないことになる。
排気通路40におけるタービン50bよりも下流側(排気バイパス通路46の下流側の端部が接続される部分よりも下流側)には、酸化触媒等で構成されて排気ガス中の有害成分(及び、後述の減速燃料カット時の未燃の蒸発燃料)を浄化する排気浄化触媒52,53が配設されている。本実施形態では、上流側排気浄化触媒52と下流側排気浄化触媒53との2つの排気浄化触媒が設けられているが、上流側排気浄化触媒52のみであってもよい。
排気通路40における上流側排気浄化触媒52の上流側近傍には、排気ガス中の酸素濃度に対しリニアな出力特性を示すリニアO2センサ55が配設されている。このリニアO2センサ55は、燃焼室6内の空燃比をフィードバック制御するために排気ガス中の酸素濃度を検出する空燃比センサである。また、排気通路40における上流側及び下流側排気浄化触媒52,53間には、上流側排気浄化触媒52を通過した後の排気ガスの空燃比がストイキないしリッチであるか、又はリーンであるかを検出するO2センサ56が配設されている。O2センサ56の出力値(出力電圧)は、本実施形態では、排気ガスの空燃比がストイキないしリッチであるときには、第1電圧(例えば1V)となり、リーンであるときには、第1電圧よりも低い第2電圧(例えば0V)となる。
上記エンジン1は、その排気ガスの一部が排気通路40から吸気通路30に還流されるように、EGR通路60を備えている。このEGR通路60は、排気通路40における第1通路41と第2通路42との分岐部の上流側部分と、吸気通路30におけるサージタンク34よりも下流側の各独立通路とを接続する。EGR通路60には、内部を通過する排気ガスを冷却するためのEGRクーラ61と、EGR通路60による排気ガスの還流量を調節するためのEGRバルブ62とが配設されている。
また、エンジン1は、燃焼室6から漏れ出たブローバイガスを吸気通路30に戻すための第1及び第2ベンチレーションホース65,66を備えている。第1ベンチレーションホース65は、シリンダブロック2の下部(クランクケース)とサージタンク34とを接続し、第2ベンチレーションホース66は、シリンダヘッド4の上部と吸気通路30におけるエアクリーナ31とコンプレッサ50aとの間の部分とを接続している。
上記燃料タンク22は、接続管71を介して、内部に活性炭等の吸着剤を収容したキャニスタ70と接続されており、燃料タンク23内で蒸発した蒸発燃料が、接続管71を介してキャニスタ70へと流れて、該キャニスタ70(吸着剤)にトラップされる。キャニスタ70の内部は、外気連通管72を介して外気と連通されている。
上記キャニスタ70は、パージ管73(パージライン)を介して、吸気通路30と接続されている。本実施形態では、パージ管73の吸気通路30側の端部は、吸気通路30におけるコンプレッサ50aの下流側部分であるサージタンク34に接続されている。
パージ管73には、パージバルブ75が設けられている。このパージバルブ75が開状態にありかつサージタンク34内の圧力が負圧である(つまり、ターボ過給機50のコンプレッサ50aにより吸入空気が過給されていない)ときに、外気連通管52内に外気(空気)が導入され、この空気の流れによって、上記キャニスタ70にトラップされている蒸発燃料が該キャニスタ70から脱離して、該脱離した蒸発燃料が上記空気と共にパージガスとしてサージタンク34に供給される(パージが実行される)。サージタンク34(吸気通路30)へのパージガスの供給量(又は供給流量)は、パージバルブ75の開度と、サージタンク34内の圧力(圧力センサ35による検出圧力)と大気圧(後述の大気圧センサ91による検出圧力)との差圧Pdと、で決まる。
図2に示すように、スロットルバルブ37(詳しくは、駆動モータ37a)、インジェクタ18、点火プラグ19,パージバルブ75、流速変更バルブ43、ウエストゲートバルブ47(詳しくは、駆動モータ47a)、EGRバルブ62及びエアバイパスバルブ39は、制御装置100によって、その作動が制御される。制御装置100は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラであって、プログラムを実行する中央演算処理装置(CPU)と、例えばRAMやROMにより構成されてプログラム及びデータを格納する記憶部90と、電気信号の入出力をする入出力(I/O)バスと、を備えている(記憶部90のみ、図2に示す)。
制御装置100には、エアフローセンサ32、スロットル開度センサ37b、エンジン1が搭載された車両の乗員によるアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ92、リニアO2センサ55、O2センサ56、圧力センサ35、エンジン回転数センサ9等の各種センサの出力値の信号が入力される。本実施形態では、制御装置100には、大気圧を検出する大気圧センサ91が内蔵されている。制御装置100は、各種センサの出力値に基づいて、上記バルブ等の作動を制御する。特に、インジェクタ18の作動制御(燃料噴射制御)は、制御装置100内の燃料噴射制御部100aにより行われ、点火プラグ19の作動制御は、制御装置100内の点火制御部100bにより行われ、パージバルブ75の作動制御(開度制御、つまりサージタンク34へのパージガスの供給量の制御)は、制御装置100内の通常運転時パージバルブ制御部100c又は減速燃料カット時パージバルブ制御部100dにより行われる。尚、通常運転時パージバルブ制御部100c又は減速燃料カット時パージバルブ制御部100dによるパージバルブ75の作動制御は、パージバルブ75への制御信号のデューティ比の制御(パージバルブ75のデューティ制御)によって行われる。
また、制御装置100内には、後に詳細に説明する、減速燃料カット制御部100e(減速燃料カット手段)、蒸発燃料濃度推定部100f(蒸発燃料濃度推定手段)、異常判定部100g(異常判定手段)、閾値変更部100h(閾値変更手段)、及び、空燃比推定部100i(空燃比推定手段)が更に設けられている。
上記減速燃料カット制御部100eは、エンジン1の減速運転状態で所定の減速燃料カット条件が成立したときに、インジェクタ18によるエンジン1への燃料供給を停止する減速燃料カットを行う。上記所定の減速燃料カット条件としては、例えば、スロットル開度センサ37bによるスロットルバルブ37が全閉でありかつエンジン回転数センサ9によるエンジン1の回転数が所定回転数(アイドル回転数よりも若干高い回転数)よりも高いという条件である。上記減速燃料カット時には、インジェクタ18及び点火プラグ19は作動しない。
上記減速燃料カット時パージバルブ制御部100dは、上記減速燃料カット時において、パージバルブ75の作動(サージタンク34へのパージガスの供給量)を制御する。すなわち、エンジン1の通常運転時(インジェクタ18より燃料を噴射しかつ該燃料を点火プラグ19により燃焼させる運転)に加えて、上記減速燃料カット時にも、上記パージガスをサージタンク34に供給するパージが実行される。この減速燃料カット時におけるパージバルブ75の作動制御については、後に詳述する。本実施形態では、パージ管73(パージライン)、パージバルブ75、及び、減速燃料カット時パージバルブ制御部100d(パージバルブ制御手段)が、上記減速燃料カット時に、上記パージガスをエンジン1の吸気通路30に供給するパージを実行するパージ実行手段を構成することになる。
一方、通常運転時パージバルブ制御部100cは、上記減速燃料カット時以外のエンジン1の通常運転時において、エンジン1の運転状態に応じてパージバルブ75の作動を制御する。本実施形態では、エンジン1の運転状態が、ターボ過給機50を作動して吸入空気を過給する運転状態にあるときには、サージタンク34内の圧力が負圧にならないので、通常運転時パージバルブ制御部100cは、パージバルブ75を全閉とし、エンジン1の運転状態が、ターボ過給機50を作動させない運転状態にあるときに、上記パージを実行する。
エンジン1の上記通常運転時におけるパージの実行時に、蒸発燃料濃度推定部100fが、リニアO2センサ55の出力値による空燃比のフィードバック補正量に基づいて、上記パージガス中の蒸発燃料の濃度を推定学習して、その蒸発燃料の濃度の学習値を記憶部90に記憶(更新)する。燃料噴射制御部100aは、上記フィードバック補正量及び上記学習値に応じて燃料噴射量を補正する。
すなわち、吸気通路30のサージタンク34にパージガス(蒸発燃料)が供給されることによる燃焼室6内の空燃比のずれが、リニアO2センサ55により検出される。そして、燃料噴射制御部100aは、その検出値(出力値)に基づいて空燃比(つまり燃料噴射量)をフィードバック補正するとともに、蒸発燃料の濃度の学習値に応じた燃料噴射量の補正によって、そのフィードバック補正の応答遅れを補う。
本実施形態では、上記蒸発燃料濃度推定部100fは、減速燃料カット時におけるパージの実行時の、パージガス中の蒸発燃料の濃度を、減速燃料カット直前の上記学習値(記憶部90に記憶されている最新の学習値)であると推定する。このようにしても、減速燃料カットが継続して行われる時間は比較的短く、その間に蒸発燃料の濃度が大きく変化する可能性は低いので、問題は生じない。
減速燃料カット時パージバルブ制御部100dは、先ず、上記減速燃料カット時における上記パージの実行時の目標空燃比(目標A/F)を算出する。ここで、図3は、蒸発燃料の濃度(学習値)が、高濃度、中濃度及び低濃度である場合のそれぞれについて、燃焼室6内の空燃比と、下流側排気浄化触媒53通過後の積算HC重量との関係を調べた結果を示す。各濃度において、空燃比が高くなるほど上記積算HC重量が減少し、空燃比が或る値以上になれば、上記積算HC重量が0になることが分かる。したがって、上記目標A/Fとしては、各濃度において、積算HC重量が0になるような最小の空燃比又は該空燃比よりも大きい空燃比とすればよい(パージの実行時にサージタンク34へのパージガスの供給量を出来る限り多くする観点からは、上記最小の空燃比又は該空燃比に近い空燃比であることが好ましい)。上記学習値と上記目標A/Fとの関係を図4のような第1マップにして予め記憶部90に記憶しておき、この第1マップを用いて、上記学習値より、減速燃料カット直前の上記学習値から目標A/Fを算出する。但し、上記第1マップにおいては、上記学習値が、予め設定された設定濃度Cよりも高いとき(図4のハッチング領域)、つまり、蒸発燃料を排気浄化触媒52,53で浄化できないほどの高濃度であるときには、目標A/Fが設定されておらず、このときには、減速燃料カット時パージバルブ制御部100dは、減速燃料カット時にパージを実行しない(パージバルブ75を全閉にする)。
また、上記学習値より、パージガス全体に対する蒸発燃料の質量比raを算出する。さらに、上記減速燃料カット時における上記パージの実行時に、燃焼室6内に吸入されかつ排気通路40に排出される全空気質量qaを、エアフローセンサ32の出力値と、上記質量比raと、リニアO2センサ55の出力値とに基づいて算出する。
燃焼室6内の蒸発燃料の質量(パージガス中の蒸発燃料の質量と同じ)をggasとすると、
目標A/F=qa/ggas
という関係より、
ggas=qa/(目標A/F)
となり、この式に、上記算出した目標A/F及び全空気質量qaを代入して、燃焼室6内の蒸発燃料の質量ggasを算出する。
また、パージガス中の空気の質量をgairとすると、
(1−ra):ra=gair:ggasより、
gair=ggas・(1−ra)/ra
となり、この式より、パージガス中の空気の質量gairを算出する。
パージガスにおける蒸発燃料と空気とのトータル質量をgprgとすると、
gprg=ggas+gair
となり、これを体積に置き換えたパージガス体積qprgは、パージガスの密度をcpとして、
qprg=gprg×cp
となる。尚、パージガスの密度cpは、パージガス全体に対する蒸発燃料の質量比raに対応した値が、予め記憶部90に記憶されている。
減速燃料カット時パージバルブ制御部100dは、上記パージガス体積qprg及び上記差圧Pdに基づいて、減速燃料カット時におけるパージの実行時の、サージタンク34へのパージガスの供給量(パージバルブ75の開度)を制御する。
上記異常判定部100gは、上記減速燃料カット制御部100gによる減速燃料カットから、エンジン1の通常運転に移行したときにエンジン1をリッチ運転し、かつ該移行時から、該エンジン1のリッチ運転によるO2センサ56の出力値の所定以上の変化時までのストイキに対する過剰分の燃料の総量(後述の最終過剰燃料積算値)を算出して、該過剰分の燃料の総量に基づいて、上流側排気浄化触媒52が異常であるか否かの判定である異常判定を行う。
ここで、図5に、エンジン1の通常運転から減速燃料カットを行いかつ該減速燃料カットが終了して再び通常運転に移行したときの、通常運転時の燃焼室6内の目標空燃比、O2センサ56の出力値(出力電圧)、上流側排気浄化触媒52の吸蔵酸素量、及び、後述の過剰燃料積算値の変化を示す。
エンジン1の通常運転から減速燃料カットを行うと、燃焼室6内の空燃比(実空燃比)はストイキ(空気過剰率λ=1)から低下し、やがてO2センサ56の出力値が第1電圧から第2電圧にまで低下する。この減速燃料カット時には、上流側排気浄化触媒52に酸素が吸蔵され、上流側排気浄化触媒52の吸蔵酸素量は、次第に増加していく(図5では、吸蔵酸素量が0から増加していく様子を示す)。そして、上流側排気浄化触媒52の吸蔵酸素量が、これ以上吸蔵することができない飽和酸素量(上流側排気浄化触媒52の容量によって決まる)に達すると、吸蔵酸素量は増加せず、飽和酸素量が維持される。通常、図5に示すように、減速燃料カット中に吸蔵酸素量が飽和酸素量に達する。
尚、上流側排気浄化触媒52が正常であるという前提で、減速燃料カット中に上流側排気浄化触媒52の吸蔵酸素量が上記飽和酸素量に達したか否かを、減速燃料カット中の上記全空気質量qaの積算値に基づいて判定することができ、異常判定部100gは、減速燃料カット中に上流側排気浄化触媒52の吸蔵酸素量が上記飽和酸素量に達したと判定したときには、上記異常判定を実行するが、減速燃料カットがかなり早期に終了する等して、減速燃料カット中に上流側排気浄化触媒52の吸蔵酸素量が上記飽和酸素量に達しなかったと判定したときには、上記異常判定を実行しない。
異常判定部100gは、上記減速燃料カットからエンジン1の通常運転に移行したときに、上記異常判定を開始する。具体的には、上記通常運転に移行したときに、エンジン1をリッチ運転する。つまり、図5に示すように、目標空燃比をストイキよりも小さく設定する(目標空気過剰率λを1よりも小さくする)。これにより、燃料噴射制御部100aは、インジェクタ18に、燃焼室内の空燃比がストイキに対してリッチになるように燃料を噴射させる。その噴射した燃料のうちストイキに対する過剰分の燃料は、上流側排気浄化触媒52に吸蔵されている酸素によって酸化されて浄化される。このため、リッチ運転を続けると、図5に示すように、上流側排気浄化触媒52の吸蔵酸素量が飽和酸素量から次第に減少し、やがて0になる。このように上流側排気浄化触媒52の吸蔵酸素量が0になると、上流側排気浄化触媒52によって上記過剰分の燃料を浄化できなくなって、O2センサ56の出力値が上記第2電圧から上記第1電圧に変化することになる。
異常判定部100gは、上記減速燃料カットから通常運転への移行時から、O2センサ56の出力値が所定以上変化するまでの間に、上記過剰分の燃料の積算値である過剰燃料積算値を算出する。本実施形態では、O2センサ56の出力値の所定以上の変化とは、上記第2電圧の変動による変化よりも大きい変化であって、出来る限り変化の初期を捉えることが可能な変化であり、O2センサ56の出力値が、上記第2電圧から、例えば0.2V上昇した所定電圧V1(上記第1電圧よりもかなり小さく上記第2電圧に近い電圧)に達したときに、O2センサ56の出力値が所定以上変化したとする。
上記過剰燃料積算値は、図5に示すように、リッチ運転の開始(減速燃料カットから通常運転への移行時)から次第に上昇していく。O2センサ56の出力値が所定電圧V1に達したときに最終的に算出される最終過剰燃料積算値(上記移行時からO2センサ56の出力値の所定以上の変化時までのストイキに対する過剰分の燃料の総量)は、減速燃料カットから通常運転に移行したときの上流側排気浄化触媒52の吸蔵酸素量に対応する量である。上流側排気浄化触媒52が正常であるならば、減速燃料カットから通常運転に移行したときの上流側排気浄化触媒52の吸蔵酸素量は、上記飽和酸素量となっており、図5に示すように、上記最終過剰燃料積算値は所定量以上の値となる。
一方、上流側排気浄化触媒52に、劣化等による異常が生じると、上流側排気浄化触媒52の吸蔵可能な最大酸素量が上記飽和酸素量よりも減少し、これにより、減速燃料カットから通常運転に移行したときの上流側排気浄化触媒52の吸蔵酸素量は、上記飽和酸素量よりも少なくなる(図5の吸蔵酸素量の破線のラインを参照)。この結果、上記最終過剰燃料積算値が上記所定量よりも少なくなる。したがって、異常判定部100gは、上記最終過剰燃料積算値の上記所定量に対する大小に応じて、上流側排気浄化触媒52の異常判定を行う。
尚、O2センサ56の出力値が所定以上変化したとき(O2センサ56の出力値が所定電圧V1に達したとき)、図5に示すように、異常判定部100gによるリッチ運転は停止されて、目標空燃比がストイキに設定される(目標空気過剰率λが1に設定される)。
上記所定量は、異常判定部100gによる上記異常判定の直前に行われる減速燃料カット時である直前減速燃料カット時にパージを実行しない場合には、予め設定された一定値とされる。しかし、上記直前減速燃料カット時にパージを実行した場合には、パージガス中の蒸発燃料によって、上流側排気浄化触媒52に吸蔵された酸素が、直前減速燃料カット中に消費されて減少する。このため、直前減速燃料カット時にパージを実行した場合、その直前減速燃料カットから通常運転に移行したときの上流側排気浄化触媒52の吸蔵酸素量は、直前減速燃料カット時にパージを実行しない場合に比べて少なくなる。この結果、上記所定量を上記一定値としたのでは、上記最終過剰燃料積算値が上記所定量よりも少なくなって、上流側排気浄化触媒52が正常であっても、異常であると誤判定する可能性がある。
そこで、上記直前減速燃料カット時にパージを実行していた場合には、閾値変更部100hが、上記異常判定時において、上記誤判定を抑制するべく、空燃比推定部100iにより後述の如く推定された空燃比に基づいて、上記最終過剰燃料積算値に関する、上流側排気浄化触媒52の異常判定のための閾値である上記所定量を変更する。
ここで、図6は、蒸発燃料の濃度(学習値)が、高濃度、中濃度及び低濃度である場合のそれぞれについて、直前減速燃料カット時にパージを実行した場合の該直前減速燃料カット時におけるエンジン1の燃焼室6内の空燃比と上記最終過剰燃料積算値との関係を調べた結果を示す。
図6より、各濃度において、空燃比が小さいほど、上記最終過剰燃料積算値が小さくなることが分かる。そこで、空燃比推定部100iが、直前減速燃料カット時にパージを実行した場合の該直前減速燃料カット時におけるエンジン1の燃焼室6内の空燃比を推定し、閾値変更部100hが、上記異常判定時において、その空燃比推定部100iにより推定された空燃比が小さいほど、上記所定量を小さくする(少なくする)。図6に、上記空燃比に応じて変更した所定量の値(ラインA1,A2,A3)を示す。また、図6に示すラインBは、直前減速燃料カット時にパージが実行しない場合に設定される所定量の値(上記一定値)である。直前減速燃料カット時にパージを実行しないときの上記最終過剰燃料積算値は、図6の「パージ無」ラインで示す値となる。
また、図6より、蒸発燃料の濃度が高いほど、上記最終過剰燃料積算値が小さくなることが分かる。そこで、本実施形態では、蒸発燃料濃度推定部100fが、上記直前減速燃料カット時に上記パージを実行した場合の上記パージガス中の蒸発燃料の濃度を推定し、閾値変更部100hが、上記空燃比に加えて、蒸発燃料濃度推定部100fにより推定された蒸発燃料の濃度に基づいて、上記所定量を変更する。
図6のラインA1,A2,A3は、それぞれ、高濃度、中濃度及び低濃度についての、上記空燃比に対応する上記変更後の所定量の値である。このように、蒸発燃料濃度推定部100fにより推定された上記蒸発燃料の濃度が高いほど、上記所定量を小さくする。
上記直前減速燃料カット時にパージを実行していた場合の、上記空燃比及び上記蒸発燃料の濃度とこれらに対応する上記所定量の値との関係は、例えば、図6のような第2マップ(図6の縦軸を所定量とする)にして予め記憶部90に記憶しておき、閾値変更部100hが、この第2マップを用いて、空燃比推定部100iにより推定された上記空燃比、及び、蒸発燃料濃度推定部100fにより推定された上記蒸発燃料の濃度から、上記所定量の値を算出する。尚、上記のような第2マップを用いないで、予め設定した計算式を用いて、上記空燃比及び上記蒸発燃料の濃度から上記所定量の値を算出することも可能である。
蒸発燃料濃度推定部100fは、上記のように、減速燃料カット時におけるパージの実行時の、パージガス中の蒸発燃料の濃度を、減速燃料カット直前の上記学習値(記憶部90に記憶されている最新の学習値)であると推定するので、上記直前減速燃料カット時に上記パージを実行した場合の上記パージガス中の蒸発燃料の濃度も、該直前減速燃料カット直前の上記学習値と推定する。尚、図6で、空燃比が小さい領域では、上記最終過剰燃料積算値が所定量よりも小さくなっているが、上記領域は、上記学習値が上記設定濃度Cよりも高い領域(図4のハッチング領域)に相当し、この領域では、減速燃料カット時にパージが実行されないので、問題はない。
空燃比推定部100iは、上記直前減速燃料カット時に上記パージを実行した場合の該直前減速燃料カット時におけるエンジン1の燃焼室6内の空燃比を、減速燃料カット時パージバルブ制御部100dが用いる上記第1マップより算出された目標A/Fと推定する。但し、本実施形態では、パージバルブ75のデューティ制御により燃焼室6内の空燃比が変化するため、上記燃焼室6内の空燃比を、上記第1マップより算出された目標A/Fに対して、上記デューティ制御による空燃比の平均値と最小値との差だけ小さくした空燃比と推定することが好ましい。
本実施形態では、閾値変更部100hが、上記空燃比に加えて、蒸発燃料濃度推定部100fにより推定された蒸発燃料の濃度に基づいて、上記所定量を変更するようにしたが、上記空燃比のみに基づいて、上記所定量を変更するようにしてもよい。特に、本実施形態では、上記空燃比の推定に関して蒸発燃料の濃度が考慮されているので、この空燃比のみに基づいて、上記所定量を変更しても、上記所定量を適切に変更することができる。
次に、制御装置100によるパージに関する処理動作について、図7のフローチャートにより説明する。
最初のステップS1で、エンジン1の運転状態を読み込み、次のステップS2で、減速燃料カット条件が成立しているか否かを判定する。
上記ステップS2の判定がYESであるときには、ステップS3に進んで、減速燃料カット時パージバルブ制御部100dによるパージバルブ75の制御である減速燃料カット時パージバルブ制御を実行し、しかる後にリターンする。
一方、上記ステップS2の判定がNOであるときには、ステップS4に進んで、通常運転時パージバルブ制御部100cによるパージバルブ75の制御である通常運転時パージバルブ制御を実行し、しかる後にリターンする。
上記ステップS3の減速燃料カット時パージバルブ制御の処理動作について、図8のフローチャートにより詳細に説明する。
最初のステップS11で、記憶部90に記憶されている蒸発燃料の濃度の学習値を読み取り、その学習値より、パージガス全体に対する蒸発燃料の質量比raを算出し、エアフローセンサ32の出力値、上記質量比ra、及びリニアO2センサ55の出力値より、燃焼室6内に吸入された全空気質量qaを算出し、記憶部90に記憶されている、上記質量比raに対応した密度cpを読み取り、圧力センサ35による検出圧力と大気圧センサ91による検出圧力との差圧Pdを算出する。
次のステップS12では、パージ停止条件が成立したか否かを判定する。このパージ停止条件は、例えば、パージの実行時に、排気浄化触媒52,53の温度が所定温度よりも低くなるという条件である。上記所定温度は、これを下回ると排気浄化触媒52,53の浄化能力が急激に低下するような温度(例えば、排気浄化触媒52,53の活性化温度又はその近傍の温度)に設定される。排気浄化触媒52,53の温度は、温度センサにより検出してもよく、パージの実行時に推定するようにしてもよい。
上記ステップS12の判定がYESであるときには、ステップS13に進んで、パージバルブ75を全閉にし、しかる後にリターンする。
一方、ステップS12の判定がNOであるときには、ステップS14に進んで、上記第1マップを用いて、上記学習値から目標A/Fを算出する。このとき、上記学習値が上記所定濃度Cよりも高いとき(図4のハッチング領域)には、パージを実行しない(パージバルブ75を全閉にする)。
次のステップS15では、上記目標A/F、上記質量比ra、上記全空気質量qa及び上記密度cpより、パージガス体積qprgを算出し、このパージガス体積qprgと上記差圧Pdとから、パージバルブ75の開度(上記デューティ比)を算出して、その開度になるようにパージバルブ75を制御し、しかる後にリターンする。
次に、制御装置100(異常判定部100g)による、上流側排気浄化触媒52の異常判定の処理動作について、図9のフローチャートにより説明する。
最初のステップS31で、直前減速燃料カット時に上記異常判定を実行するための異常判定実行条件が成立しているか否かを判定する。この異常判定実行条件は、直前減速燃料カット時のO2センサ56の出力値が上記所定電圧V1よりも低い電圧でありかつ該直前減速燃料カット中に上流側排気浄化触媒52の吸蔵酸素量が上記飽和酸素量に達したという条件である。
上記ステップS31の判定がNOであるときには、当該ステップS31の判定を繰り返す一方、ステップS31の判定がYESであるときには、ステップS32に進んで、通常運転へ移行したか否かを判定する。
上記ステップS32の判定がNOであるときには、上記ステップS31に戻る一方、ステップS32の判定がYESであるときには、ステップS33に進んで、エンジン1をリッチ運転する(目標空燃比をストイキから小さくする)。
次のステップS34では、過剰燃料積算値を算出し、次のステップS35で、O2センサ56の出力値が上記所定電圧V1に到達したか否か、つまりO2センサ56の出力値が所定以上変化したか否かを判定する。このステップS35の判定がNOであるときには、上記ステップS33に戻る一方、ステップS35の判定がYESであるときには、ステップS36に進む。
上記ステップS36では、上記第2マップ(図6)から上記所定量を算出する。但し、直前減速燃料カット時にパージが実行されていない場合には、上記所定量の値を、予め設定された上記一定値とする。
次のステップS37では、O2センサ56の出力値が上記所定電圧V1に到達したときに最終的に算出された最終過剰燃料積算が上記所定量よりも少ないか否かを判定する。このステップS37の判定がNOであるときには、ステップS38に進んで、上流側排気浄化触媒52が正常であると判定し、しかる後に当該異常判定の処理動作を終了する。一方、ステップS37の判定がYESであるときには、ステップS39に進んで、上流側排気浄化触媒52が異常であると判定し、しかる後に当該異常判定の処理動作を終了する。
したがって、本実施形態では、異常判定部100gによる上流側排気浄化触媒52の異常判定の直前に行われる直前減速燃料カット時にパージを実行した場合の該直前減速燃料カット時におけるエンジン1の燃焼室6内の空燃比を推定し、上記直前減速燃料カット時に上記パージを実行していた場合には、上記異常判定時において、上記推定された空燃比に基づいて、上記過剰分の燃料の総量に関する、上流側排気浄化触媒52の異常判定のための閾値である上記所定量を変更するようにしたので、エンジン1の減速燃料カット時におけるパージを実行しつつ、該パージの実行による上流側排気浄化触媒52の異常判定の精度の低下を抑制することができる。
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。