以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施例に係るコンバインの全体を示す左側面図である。図2は、本発明の実施例に係るコンバインの全体を示す右側面図である。図1,2に示すように、本発明の実施例に係るコンバインは、機体フレーム1の下部に左右一対のクローラ式の走行装置2,2が装備され、左右一対の走行装置2,2によって自走する走行機体を備えている。走行機体は、右端側の前端部に設けられた搭乗型の運転部3を備え、この運転部3に搭乗して操縦するように構成してある。運転部3には、運転キャビン3aを備えてある。機体フレーム1の前端側の部位であって、運転部3の左横側方に位置する部位に刈取部4を連結してある。機体フレーム1の後部の左領域に脱穀装置5を設け、機体フレーム1の後部の右領域に穀粒タンク6を設けてある。
このコンバインは、6条刈りが可能な稲、麦などの収穫作業を行うものであり、次の如く構成してある。
刈取部4は、機体フレーム1の前端部から前方に上下揺動自在に延出された刈取部フレーム10を備え、刈取部フレーム10が昇降シリンダ11によって揺動操作されることにより、刈取部フレーム10の前端側が地面近くに下降した下降作業状態と、刈取部フレーム10が地面から高く上昇した上昇非作業状態とに昇降する。刈取部4は、下降作業状態で駆動されることにより、植立穀稈の刈取り、及び刈取穀稈の脱穀装置5への供給を行なう。
すなわち、刈取部フレーム10の前端部に走行機体横方向に並べて支持してある複数のデバイダ12が植立穀稈のうちの刈取り対象の植立穀稈を後方に位置する引起装置13に案内する。6つの引起装置13それぞれが、植立穀稈を引起爪による梳き上げによって引起し処理する。引起装置13の後方で刈取部フレーム10に支持してあるバリカン型の刈取装置14が引起し状態の植立穀稈の株元を切断して、植立穀稈の刈取りを行なう。刈取装置14の上方から脱穀装置5の前方にわたって位置する搬送装置15が刈取り穀稈を走行機体左横側に移動させながら走行機体後方側に搬送して脱穀フィードチェーン5aの搬送始端部に供給する。
脱穀装置5は、脱穀フィードチェーン5aによって刈取り穀稈の株元側を挟持して走行機体後方側に搬送しながら刈取り穀稈の穂先側を扱室に供給し、走行機体前後向きの扱胴軸芯まわりに回動する扱胴16によって刈取穀稈を脱穀処理し、脱穀処理によって得た穀粒を選別部17に供給する。選別部17は、穀粒を塵埃と別ける選別処理を行ない、選別処理後の穀粒を脱穀機体外に搬出して穀粒タンク6に供給する。穀粒タンク6は、脱穀装置5から供給された穀粒を貯留していく。穀粒タンク6は、後側に走行機体上下向きに配備された縦スクリューコンベヤ18aを有したアンローダ18を備え、貯留した穀粒のアンローダ18による取出しを可能にしている。アンローダ18は、縦スクリューコンベヤ18aを備える他、縦スクリューコンベヤ18aの上端部から上下揺動操作自在に延出された横スクリューコンベヤ18bを備えている。
刈取部4、脱穀装置5及び走行装置2を駆動する伝動装置について説明する。
図3,4,5に示すように、運転部3の下方に、エンジン7を設けてある。詳述すると、エンジン7は、運転部3のうちの運転座席3bが位置する部位の下方に設けてある。エンジン7は、運転座席3bを天板部で支持する座席支持台3cの下方に設けてある。エンジン7は、機体フレーム1のうちのエンジン支持フレーム部1aにクッションゴム9を介して支持されている。
図6は、伝動装置を示す概略図である。図3〜図6に示すように、エンジン7に走行機体横内向きの出力軸7aを備えてある。出力軸7aの駆動力を、伝動ベルトが備えられたエンジン側伝動手段20によって刈取変速装置21の入力軸21aに伝達するように構成してある。刈取変速装置21の出力軸21bの駆動力を、伝動ギヤを有した刈取部側伝動手段22によって刈取部4の入力軸4aに伝達するように構成してある。刈取変速装置21は、静油圧式無段変速装置によって構成してある。エンジン側伝動手段20には、ベルトテンション式のクラッチ20aが備えられ、クラッチ20aの操作によって刈取変速装置21への動力伝達を入り切りできる。
エンジン7の出力軸7aの駆動力を、伝動ベルトが備えられた脱穀伝動手段24によって脱穀入力ケース23に入力するように構成してある。脱穀入力ケース23に入力した駆動力を、第1出力軸23aから扱胴16に伝達するように構成してある。脱穀入力ケース23に入力した駆動力を、第2出力軸23bから選別部17及び脱穀フィードチェーン5aに伝達するように構成してある。脱穀伝動手段24には、ベルトテンション式のクラッチ24aが備えられ、クラッチ24aの操作によって扱胴16、選別部17及び脱穀フィードチェーン5aへの動力伝達を入り切りできる。
エンジン7の出力軸7aの駆動力を、伝動ベルト25が備えられた走行伝動手段26によって変速伝動装置30に入力するように構成してある。走行伝動手段26は、伝動ベルト25に伝動用緊張力を付与するテンション輪27を備えている。テンション輪27はクラッチ機能を備え、テンション輪27の切換え操作により、変速伝動装置30への動力伝達を入り切りできる。変速伝動装置30の出力を、走行伝動装置31に伝達して、走行伝動装置31の下部に備えてある左右一対の出力軸31a,31aから左右の走行装置2,2のクローラ駆動輪2aに伝達するように構成してある。左右の出力軸31aは、走行伝動装置31が備える走行伝動ケース32から延出した円筒形の出力軸ケース33に収容されている。
走行伝動装置31は、左右の走行装置2の前端部の間に配置してある。走行伝動装置31は、機体フレーム1の前端部に連結部材34を介して支持されている。走行伝動装置31は、機体フレーム1に支持された走行伝動ケース32を備える他、変速伝動装置30の出力を入力し、入力した駆動力を左右用に分岐させて左右一対の出力軸31a,31aに伝達するように構成して走行伝動ケース32に収容された走行ミッションを備えている。
走行ミッションには、左右一対の操向クラッチ、旋回ブレーキ、緩旋回クラッチ及び逆転クラッチを備えてある。左右一対の操向クラッチは、左右の走行装置2,2を各別に停止状態に切換え操作して、走行機体を左向きや右向きに操向操作するものである。旋回ブレーキは、左右の走行装置2,2のうちの旋回内側の走行装置2にブレーキを掛けて、走行機体を信地旋回させるものである。緩旋回クラッチは、左右の走行装置2,2のうちの旋回内側の走行装置2の駆動速度を旋回外側の走行装置2の駆動速度よりも低速にして、走行機体を信地旋回よりも大旋回半径で旋回するように緩旋回させるものである。逆転クラッチは、左右の走行装置2,2のうちの旋回内側の走行装置2の駆動方向と旋回外側の走行装置2の駆動方向とを逆方向にして、走行機体を信地旋回よりも小旋回半径で旋回するように超信地旋回させるものである。
変速伝動装置30について説明する。
図3,4,5に示すように、変速伝動装置30は、運転部3の下方であって、エンジン7の走行機体前方に配置してある。詳述すると、変速伝動装置30は、運転部3のうちの床部3dの下方に配置してある。変速伝動装置30に備えてある伝動ケース35が走行伝動ケース32に支持されており、変速伝動装置30は、走行伝動装置31を介して機体フレーム1に支持されている。
図7は、縦断面状態の変速伝動装置30の展開図である。図3,4,5,7に示すように、変速伝動装置30は、走行伝動ケース32の上端部のうちの走行機体右横側の側部に横側部が連結された伝動ケース35を備えている。変速伝動装置30は、伝動ケース35の内部に回転自在に支持された走行機体横向きの入力軸37と、入力軸37よりも下方で伝動ケース35及び走行伝動ケース32に回転自在に支持された走行機体横向きの減速出力軸38と、伝動ケース35に収容された無段変速部40及び遊星伝動部50と、入力軸37と遊星伝動部50とにわたって設けられた伝動機構60と、を備えている。
入力軸37は、伝動ケース35の横外側に入力軸37と同芯状に配備されたプーリ軸28に一体回転するように連結されている。プーリ軸28は、走行伝動手段26を構成している。プーリ軸28は、伝動ケース35の横側部から走行機体横内向きに延出された筒形の軸ケース29の内部にベアリングを介して回転自在に支持されている。軸ケース29の延出端側は、連結杆29aを介して走行伝動ケース32に支持されている。
図7に示すように、無段変速部40は、入力軸37と同芯状に配置されたポンプ軸41aを有した油圧ポンプ41と、油圧ポンプ41の下方に配置され、走行機体横向きのモータ軸42aを有した油圧モータ42と、を備えている。ポンプ軸41a及びモータ軸42aは、無段変速部40に対して遊星伝動部50が位置する側と反対側に配置されたポートブロック43、及び伝動ケース35に回転自在に支持されている。ポンプ軸41aは、隔壁97の一対の凹入部45,46に各別に収容支持された一対のベアリング45a,46aによって支持されている。モータ軸42aは、隔壁97の一対の凹入部47,48に各別に収容支持された一対のベアリング47a,48aによって支持されている。ポートブロック43は、無段変速部40が位置する側の伝動ケース35の端部に装着されている。
ポンプ軸41aと入力軸37とは、入力側連結部材37a(図8参照)によって一体回転するように連結されている。入力側連結部材37aは、ポンプ軸41a及び入力軸37に外側から嵌り合い、ポンプ軸41a及び入力軸37に対してスプライン構造によって一体回転するように連結しており、ベアリング46aによって支持されている。油圧ポンプ41は、アキシャルプランジャ型で、かつ可変容量型の油圧ポンプによって構成してある。
油圧モータ42は、アキシャルプランジャ型で、かつ可変容量型の油圧モータによって構成してある。油圧ポンプ41と油圧モータ42とは、ポートブロック43に形成された駆動回路44(図15参照)によって接続されている。油圧ポンプ41がいわゆる主変速装置として機能し、油圧モータ42がいわゆる副変速装置として機能する。
無段変速部40は、エンジン7から入力軸37に伝達された駆動力をポンプ軸41aに入力し、入力した駆動力を前進回転方向の駆動力と後進回転方向の駆動力とに変換して、かつ前進回転方向及び後進回転方向の駆動力の回転速度を無段階段に変更して、モータ軸42aから出力するように、静油圧式の無段変速部を構成している。モータ軸42aが無段変速部40の無段出力軸を構成している。以下、モータ軸42aを無段出力軸42aと呼称して説明する。
すなわち、無段変速部40は、油圧ポンプ41の斜板角変更操作が行われることにより、中立状態、前進駆動状態及び後進駆動状態に切り換わる。無段変速部40は、中立状態に切り換わると、無段出力軸42aを停止させる。無段変速部40は、前進駆動状態に切り換わると、無段出力軸42aを前進回転方向に駆動し、斜板角変更操作が行われることにより、無段出力軸42aの前進回転速度を無段階に変更する。無段変速部40は、後進転駆動状態に切り換わることにより、無段出力軸42aを後進回転方向に駆動し、斜板角変更操作が行われることにより、無段出力軸42aの後進回転速度を無段階に変更する。
図8,9に示すように、遊星伝動部50は、無段出力軸42aと同芯状に配置されると共に伝動ケース35に回転自在に支持された回転支軸51と、回転支軸51に一体回転するように支持された太陽ギヤ52と、太陽ギヤ52に噛み合った複数の遊星ギヤ53と、各遊星ギヤ53を回転自在に支持する状態で回転支軸51に相対回転自在に支持されたキャリヤ54と、各遊星ギヤ53に内歯で噛み合ったリングギヤ55と、太陽ギヤ52に対してキャリヤ54が位置する側と反対側で回転支軸51に相対回転自在に支持されたギヤ形の遊星出力軸56と、を備えている。
回転支軸51は、無段出力軸42aに出力側連結部材51aによって一体回転するように連結されている。出力側連結部材51aは、回転支軸51及び無段出力軸42aに外側から嵌り合い、回転支軸51及び無段出力軸42aに対してスプライン構造によって一体回転するように連結しており、ベアリング48aによって支持されている。
遊星出力軸56とリングギヤ55とは、環状の連動部材57によって一体回転するように連結されている。連動部材57の外周部に設けた歯部がリングギヤ55の内歯に噛み合い、連動部材57と遊星出力軸56とを一体成形してあることにより、連動部材57は、リングギヤ55と遊星出力軸56とを一体回転するように連結している。
遊星出力軸56と太陽ギヤ52とにわたり、クラッチ体71を備えた切換クラッチ70を設けてある。クラッチ体71は、回転支軸51にスライド操作自在に支持されている。
クラッチ体71が連動部材57の方にスライド操作されると、クラッチ体71と連動部材57とにわたって設けてあるクラッチ本体72が入り操作されて、切換クラッチ70が入り状態に切換え操作される。クラッチ体71が太陽ギヤ52の方にスライド操作されると、クラッチ本体72が切り操作されて、切換クラッチ70が切り状態に切換え操作される。クラッチ本体72は、連動部材57に設けた出力軸側の噛み合い歯と、出力軸側の噛み合い歯に係脱するように構成してクラッチ体71に設けた噛み合い歯とを備え、噛み合いクラッチに構成してある。
クラッチ体71に、太陽ギヤ52の側部に設けた連結歯に対して摺動自在に噛み合う連結歯を備えてある。クラッチ体71は、クラッチ体71の連結歯を太陽ギヤ52の連結歯に対してスライドさせながらスライド操作されるように構成してある。クラッチ体71が切換クラッチ70を入り状態及び切り状態のいずれに切換えた場合においても、クラッチ体71の連結歯と太陽ギヤ52の連結歯との噛み合い状態が維持され、クラッチ体71は、太陽ギヤ52に一体回転するように連結された状態に維持されるように構成してある。
従って、切換クラッチ70は、入り状態に切り換え操作されると、回転支軸51、太陽ギヤ52、遊星ギヤ53及びリングギヤ55を一体回転する状態に操作し、遊星伝動部50の変速作用を不能にし、無段変速部40の無段出力軸42aによる出力が遊星出力軸56に変速されずに伝達されることを可能にする。
切換クラッチ70は、切り状態に切換え操作されると、回転支軸51、太陽ギヤ52、遊星ギヤ53及びリングギヤ55の一体回転を解除し、遊星伝動部50の変速作用を可能にする。
図7,8に示すように、伝動機構60は、伝動ケース35の内部に回転自在に支持された走行機体横向きの中継軸61と、入力軸37と中継軸61とを連動させる伝動部62と、キャリヤ54に設けた歯部に噛み合い連動する状態で入力軸37に相対回転自在に支持された前進伝動ギヤ63と、キャリヤ54の歯部に噛み合い連動する状態で中継軸61に相対回転自在に支持された後進伝動ギヤ64とを備えている。
伝動部62は、入力軸37に一体回転するように支持された入力軸ギヤ62aと、入力軸ギヤ62aに噛み合う状態で中継軸61に一体回転するように支持された中継軸ギヤ62bと、を備えている。
前進伝動ギヤ63と入力軸37とにわたり、前進クラッチ体65を備えた前進クラッチ66を設けてある。前進クラッチ体65は、入力軸37に設けたスプライン部に一体回転するように、かつスライド操作自在に支持されている。前進クラッチ体65は、前進伝動ギヤ63の方にスライド操作されると、前進クラッチ体65と前進伝動ギヤ63とにわたって設けられたクラッチ本体66aを入り操作することにより、前進クラッチ66を入り状態に切換え操作する。前進クラッチ体65は、前進伝動ギヤ63から離れる方向にスライド操作されると、クラッチ本体66aを切り操作することにより、前進クラッチ66を切り状態に切換え操作する。クラッチ本体66aは、前進伝動ギヤ63の側部に設けた噛み合い歯と、この噛み合い歯に係脱自在に構成して前進クラッチ体65に設けた噛み合い歯とを備え、噛み合いクラッチに構成してある。
前進クラッチ66は、入り状態に切換え操作されると、入力軸37の駆動力を、前進クラッチ体65及びクラッチ本体66aを介して前進伝動ギヤ63に伝達して、前進伝動ギヤ63からキャリヤ54に伝達する。前進クラッチ66は、切り状態に切換え操作されると、前進伝動ギヤ63と入力軸37との相対回転を可能にし、入力軸37からキャリヤ54への伝動を絶つ。
後進伝動ギヤ64と中継軸61とにわたり、後進クラッチ体67を備えた後進クラッチ68を設けてある。後進クラッチ体67は、中継軸61に設けたスプライン部に一体回転するように、かつスライド操作自在に支持されている。後進クラッチ体67は、後進伝動ギヤ64の方にスライド操作されると、後進クラッチ体67と後進伝動ギヤ64とにわたって設けられたクラッチ本体68aを入り操作することにより、後進クラッチ68を入り状態に切換え操作する。後進クラッチ体67は、後進伝動ギヤ64から離れる方向にスライド操作されると、クラッチ本体68aを切り操作することにより、後進クラッチ68を切り状態に切換え操作する。クラッチ本体68aは、後進伝動ギヤ64の側部に設けた噛み合い歯と、この噛み合い歯に係脱自在に構成して後進クラッチ体67に設けた噛み合い歯とを備え、噛み合いクラッチに構成してある。
後進クラッチ68は、入り状態に切換え操作されると、入力軸37の駆動力を、伝動部62、後進クラッチ体67及びクラッチ本体68aを介して後進伝動ギヤ64に伝達して、後進伝動ギヤ64からキャリヤ54に伝達する。後進クラッチ68は、切り状態に切換え操作されると、後進伝動ギヤ64と中継軸61との相対回転を可能にし、入力軸37からキャリヤ54への伝動を絶つ。
従って、伝動機構60は、前進クラッチ66が入り状態に切換え操作され、後進クラッチ68が切り状態に切換え操作されることにより、入力軸37の駆動力を、中継軸61を介さないでキャリヤ54に正回転動力として伝達する。
伝動機構60は、前進クラッチ66が切り状態に切換え操作され、後進クラッチ68が入り状態に切換え操作されることにより、入力軸37の駆動力を、中継軸61を介してキャリヤ54に逆回転動力として伝達する。
伝動機構60は、前進クラッチ66及び後進クラッチ68が切り状態に切換え操作されることにより、入力軸37からキャリヤ54への伝動を絶つ。
図7に示すように、減速出力軸38は、伝動ケース35の内部において、遊星出力軸56に減速伝動機構75を介して連動されている。減速出力軸38は、走行伝動ケース32の内部において、走行伝動装置31が備える一対の入力ギヤ31b,31cに連動されている。減速伝動機構75は、遊星出力軸56に一体回転するように設けられた小径ギヤ76と、小径ギヤ76に噛み合う状態で減速出力軸38に一体回転するように設けられた大径ギヤ77と、を備えている。
減速出力軸38は、無段変速部40と遊星伝動部50とのうちの無段変速部40だけが変速作用して、無段出力軸40aの駆動力が遊星出力軸56から出力される場合においても、無段変速部40及び遊星伝動部50の両方が変速作用して遊星出力軸56から合成駆動力が出力される場合においても、遊星出力軸56の駆動力を減速伝動機構75の作用によって減速してから走行伝動装置31の入力ギヤ31b,31cに伝達する。
従って、変速伝動装置30は、エンジン7からの駆動力を入力軸37に入力し、入力軸37に入力したエンジン7からの駆動力を、無段変速部40と遊星伝動部50とのうちの無段変速部40だけで変速し、この変速後の駆動力を、無段出力軸42aから遊星出力軸56を介して減速伝動機構75に伝達して減速した後に、減速出力軸38から走行伝動装置31に出力するか、あるいは、入力軸37に入力したエンジン7からの駆動力を無段変速部40によって変速し、この変速後の駆動力と、入力軸37に入力したエンジン7からの駆動力とを遊星伝動部50によって合成し、合成駆動力を、遊星出力軸56から減速伝動機構75に伝達して減速した後に、減速出力軸38から走行伝動装置31に出力する。
すなわち、図17は、前進クラッチ66、後進クラッチ68及び切換クラッチ70の操作状態と、変速伝動装置30の駆動モードと、無段変速部40の変速状態と、減速出力軸38の回転方向と、減速出力軸38の回転速度との関係を示す説明図である。
図17に示す「F」は、無段変速部40の前進伝動状態を示し、「R」は、無段変速部40の後進伝動状態を示す。図17に示す「切」は、前進クラッチ66、後進クラッチ68及び切換クラッチ70の切り状態を示し、「入」は、前進クラッチ66、後進クラッチ68及び切換クラッチ70の入り状態を示す。図17に示す「前進回転」は、減速出力軸38の前進回転方向を示し、「後進回転」は、減速出力軸38の後進回転方向を示す。図17に示す「FL」は、減速出力軸38が前進回転における低速回転域で駆動されることを示し、「FM」は、減速出力軸38が前進回転における中速回転域で駆動されることを示し、「FH」は、減速出力軸38が前進回転における高速回転域で駆動されることを示す。図17に示す「RL」は、減速出力軸38が後進回転における低速回転域で駆動されることを示し、「RM」は、減速出力軸38が後進回転における中速回転域で駆動されることを示し、「RH」は、減速出力軸38が後進回転における高速回転域で駆動されることを示す。
図17に示すように、変速伝動装置30は、前進クラッチ66及び後進クラッチ68が切り状態に切換えられ、切換クラッチ70が入り状態に切換えられると、第1モード(以下、HSTモードと呼称する。)になる。変速伝動装置30は、HSTモードになると、無段変速部40を変速作用させて遊星伝動部50を変速作用させず、入力軸37の駆動力を無段変速部40に入力して変速した駆動力を、無段出力軸42aから遊星出力軸56、を介して減速伝動機構75に伝達して減速し、減速した駆動力によって減速出力軸38を駆動する。
図17に示すように、変速伝動装置30は、前進クラッチ66と後進クラッチ68との一方が入り状態に切換えられ、切換クラッチ70が切り状態に切換えられると、第2モード(以下、HMTモードと呼称する。)になる。変速伝動装置30は、HMTモードになると、無段変速部40及び遊星伝動部50を変速作用させ、入力軸37の駆動力を無段変速部40に入力して変速した駆動力と、入力軸37の駆動力とを、遊星伝動部50によって合成し、合成駆動力を遊星出力軸56から減速伝動機構75に伝達して減速し、減速した合成駆動力によって減速出力軸38を駆動する。
図15に示すように、油圧ポンプ41の斜板角をサーボシリンダ80によって変更操作するように構成してある。図9,15に示すように、切換クラッチ70の切換え操作は、クラッチ体71をクラッチ本体72の入り側に付勢するスプリング71aと、クラッチ体71をクラッチ本体72の切り側に移動操作する油圧ピストン71bとによって行なうように構成してある。図8,15に示すように、前進クラッチ66の切換え操作は、前進クラッチ体65をクラッチ本体66aの切り側に付勢するスプリング65aと、前進クラッチ体65をクラッチ本体66aの入り側に移動操作する油圧ピストン65bとによって行なうように構成してある。図8,15に示すように、後進クラッチ68の切換え操作は、後進クラッチ体67をクラッチ本体68aの切り側に付勢するスプリング67aと、後進クラッチ体67をクラッチ本体68aの入り側に移動操作する油圧ピストン67bとによって行なうように構成してある。
図16に示すように、サーボシリンダ80を制御することによって油圧ポンプ41の変速操作を行なう変速制御バルブ機構81と、前進クラッチ66、後進クラッチ68及び切換クラッチ70の油圧ピストン65b,67b,71bを操作することによって、変速伝動装置30の駆動モードをHSTモードとHMTモードとに切換え、かつ変速伝動装置30の出力回転方向を前進回転方向と後進回転方向とに切り換えるバルブ機構82とを制御装置83に連係してある。
主変速レバー85の操作位置を検出する操作位置センサ86、エンジン7の出力速度を検出するエンジン回転センサ87、無段変速部40の出力速度を検出する無段出力回転センサ88、変速伝動装置30の出力速度を検出する変速出力回転センサ89を、制御装置83に連係してある。制御装置83をマイクロコンピュータによって構成し、変速制御手段90を制御装置83に備えてある。変速制御手段90は、変速伝動装置30の駆動モード、減速出力軸38の回転方向、及び減速出力軸38の回転速度が主変速レバー85の操作位置に対応した駆動モード、回転方向及び回転速度になるように、操作位置センサ86、エンジン回転センサ87、無段出力回転センサ88及び変速出力回転センサ89からの検出情報を基に、変速制御バルブ機構81及びバルブ機構82を制御するように構成してある。
従って、主変速レバー85を操作することにより、油圧ポンプ41の変速操作、前進クラッチ66、後進クラッチ68、切換クラッチ70の切換え操作が変速制御手段90によって図17に示す如く行われ、図18に示す如く減速出力軸38を変速駆動できる。
図18は、無段変速部40の変速状態と、減速出力軸38の回転方向と、減速出力軸38の回転速度との関係を示す説明図である。図18の横軸は、無段変速部40の変速状態を示し、縦軸は、減速出力軸38の回転方向及び回転速度を示す。横軸の「n」は、無段変速部40の中立状態を示し、横軸の「−max」は、無段変速部40の後進駆動状態での最高速位置を示し、横軸の「+max」は、無段変速部40の前進駆動状態での最高速位置を示す。図18に示す実線RLは、HSTモードで、かつ後進回転で駆動される減速出力軸38の出力を示し、実線RM,RHは、HMTモードで、かつ後進回転で駆動される減速出力軸38の出力を示す。図18に示す実線FLは、HSTモードで、かつ前進回転で駆動される減速出力軸38の出力を示し、実線FM,FHは、HMTモードで、かつ前進回転で駆動される減速出力軸38の出力を示す。
主変速レバー85を中立位置「N」(図16参照)に操作すると、無段変速部40が中状態「n」に変速操作され、前進クラッチ66及び後進クラッチ68が切り状態に操作され、減速出力軸38が停止される。
主変速レバー85を中立位置「N」から前進域「F」(図16参照)に操作すると、前進クラッチ66及び後進クラッチ68が切り状態に操作され、切換クラッチ70が入り状態に操作され、変速伝動装置30がHSTモード(第1モード)になる。主変速レバー85を前進域「F」において、中立位置「N」から前進最高速位置に向けて操作していくと、主変速レバー85の操作位置が前進域「F」の第1中間位置になるまでは、前進クラッチ66及び後進クラッチ68が切り状態に維持され、かつ切換クラッチ70が入り状態に維持されて、減速出力軸38がHSTモードで前進回転方向に駆動される。そして、実線FLで示すように、無段変速部40が前進駆動状態において、最高速位置「+max」に向けて増速操作されていき、減速出力軸38の前進回転速度が無段階に増速していく。主変速レバー85の操作位置が前進域「F」の第1中間位置になると、無段変速部40が前進駆動状態の最高速位置「+max」に変速操作され、減速出力軸38の前進回転速度が「FV1」になる。
主変速レバー85の操作位置が前進域「F」の第1中間位置になると、前進クラッチ66が入り状態に切換え操作され、切換クラッチ70が切り状態に切換え操作されて、変速伝動装置30がHSTモードからHMTモード(第2モード)に切り換わる。前進クラッチ66の入り状態への切換えは、切換ショックが発生しないように、前進クラッチ体65と前進伝動ギヤ63との回転速度が一致したタイミングで行われる。
主変速レバー85を前進域「F」の第1中間位置から前進最高速位置に向けて操作していくと、前進クラッチ66が入り状態に維持され、後進クラッチ68が切り状態に維持され、切換クラッチ70が切り状態に維持されて、減速出力軸38がHMTモードで前進回転方向に駆動される。そして、実線FMで示すように、無段変速部40が前進駆動状態において、中立状態「n」に向けて減速操作されていき、減速出力軸38の前進回転速度が無段階に増速していく。主変速レバー85の操作位置が前進域「F」の第2中間位置になると、無段変速部40が前進駆動状態から後進駆動状態に変速操作される。
主変速レバー85を前進域「F」の第2中間位置から前進最高速位置に向けて操作していくと、前進クラッチ66が入り状態に維持され、後進クラッチ68が切り状態に維持され、切換クラッチ70が切り状態に維持されて、減速出力軸38がHMTモードで駆動される。そして、実線FHで示すように、無段変速部40が後進駆動状態の最高速位置「−max」に向けて減速操作されていき、減速出力軸38の前進回転速度がさらに無段階に増速していく。主変速レバー85の操作位置が前進最高速位置になると、無段変速部40が後進駆動状態の最高速位置「−max」に変速操作され、減速出力軸38の前進回転速度が最高速度「FV2」になる。
主変速レバー85を中立位置「N」から後進域「R」(図16参照)に操作すると、前進クラッチ66及び後進クラッチ68が切り状態に操作され、切換クラッチ70が入り状態に操作され、変速伝動装置30がHSTモードになる。主変速レバー85を後進域「R」において、中立位置「N」から後進最高速位置に向けて操作していくと、主変速レバー85の操作位置が後進域「R」の第1中間位置になるまでは、前進クラッチ66及び後進クラッチ68が切り状態に維持され、かつ切換クラッチ70が入り状態に維持されて、減速出力軸38がHSTモードで後進回転方向に駆動される。そして、実線RLで示すように、無段変速部40が後進駆動状態において、最高速位置「-max」に向けて減速操作されていき、減速出力軸38の後進回転速度が無段階に増速していく。主変速レバー85の操作位置が後進域「R」の第1中間位置になると、無段変速部40が後進駆動状態の最高速位置「-max」に変速操作され、減速出力軸38の後進回転速度が「RV1」になる。
主変速レバー85の操作位置が後進域「R」の第1中間位置になると、後進クラッチ68が入り状態に切換え操作され、切換クラッチ70が切り状態に切換え操作されて、変速伝動装置30がHSTモードからHMTモードに切り換わる。後進クラッチ68の入り状態への切換えは、切換ショックが発生しないように、後進クラッチ体67と後進伝動ギヤ64との回転速度が一致したタイミングで行われる。
主変速レバー85を後進域「R」の第1中間位置から後進最高速位置に向けて操作していくと、後進クラッチ68が入り状態に維持され、前進クラッチ66が切り状態に維持され、切換クラッチ70が切り状態に維持されて、減速出力軸38がHMTモードで後進回転方向に駆動される。そして、実線RMで示すように、無段変速部40が後進駆動状態において、中立状態「n」に向けて減速操作されていき、減速出力軸38の後進回転速度が無段階に増速していく。主変速レバー85の操作位置が後進域「R」の第2中間位置になると、無段変速部40が後進駆動状態から前進駆動状態に変速操作される。
主変速レバー85を後進域「R」の第2中間位置から後進最高速位置に向けて操作していくと、後進クラッチ68が入り状態に維持され、前進クラッチ66が切り状態に維持され、切換クラッチ70が切り状態に維持されて、減速出力軸38がHMTモードで駆動される。そして、実線RHで示すように、無段変速部40が前進駆動状態の最高速位置「+max」に向けて増速操作されていき、減速出力軸38の後進回転速度がさらに無段階に増速していく。主変速レバー85の操作位置が後進最高速位置になると、無段変速部40が前進駆動状態の最高速位置「+max」に変速操作され、減速出力軸38の後進回転速度が最高速度「RV2」になる。
図11は、変速伝動装置30を示す左側面図である。図12は、変速伝動装置30を示す右側面図である。図13は、変速伝動装置30を示す平面図である。図11,12,13に示すように、入力軸37、中継軸61、無段出力軸42aを減速出力軸38の上方に配置してある。中継軸61を走行機体上下方向で入力軸37と無段出力軸42aとの間に位置させ、かつ、中継軸61を走行機体前後方向で入力軸37及び無段出力軸42aよりも後方に位置させてある。入力軸37と無段出力軸42aとを走行機体上下方向に並べてある。中継軸61を減速出力軸38よりもやや前方に配置してある。
すなわち、油圧ポンプ41と油圧モータ42との並びを走行機体上下方向の並びにして、ポートブロック43に駆動回路44などを形成する作業が容易になるように構成してある。入力軸37とエンジン7の出力軸7aとの間隔を適切な間隔にして、走行伝動手段26の前後方向長さをあまり長くせずに、走行伝動手段26による伝動を適確にできるように構成してある。中継軸61を前方へ突出させずに、伝動ケース35の前後方向長さを短くできるように構成してある。
図7.11,12,13に示すように、伝動ケース35は、無段変速部40を収容する無段変速ケース部95と、遊星伝動部50及び伝動機構60を収容する遊星伝動ケース部96とが走行機体横方向に並ぶ形状に形成してある。すなわち、無段変速部40及び遊星伝動部50は、走行機体横方向に並べて伝動ケース35に収容してある。詳述すると、無段変速部40及び遊星伝動部50は、無段変速部40が遊星伝動部50に対して走行伝動装置31が位置する側と反対側に位置する横並びで伝動ケース35に収容してある。
無段変速ケース部95を遊星伝動ケース部96に一体形成してある。無段変速ケース部95の無段変速部40を収容する無段変速室95Aには、駆動油を満杯又はほぼ満杯状態で貯留し、遊星伝動ケース部96の遊星伝動部50及び伝動機構60を収容する遊星伝動室96Aには、油面が無段変速室95Aの油面よりも低い状態で潤滑油を貯留する。従って、無段変速室95Aと遊星伝動室96Aとを伝動ケース35の内部に備えた隔壁97によって仕切り、無段変速室95Aの駆動油が遊星伝動室96Aに流出することを防止してある。無段変速ケース部95及び遊星伝動ケース部96は、アルミ合金材を成型することによって作製してある。隔壁97は、伝動ケース35に一体成形し、アルミ合金材によって作製してある。
遊星伝動ケース部96は、無段変速ケース部95が一体形成され、かつ隔壁97が備えられた第1分割遊星伝動ケース部98と、第1分割遊星伝動ケース部98に対して無段変速ケース部95が位置する側とは反対側に位置して第1分割遊星伝動ケース部98と接合面100で接合された第2分割遊星伝動ケース部99とを備えてある。遊星伝動部50及び伝動機構60の点検や組み付けを行なうには、遊星伝動ケース部96を接合面100を分割面として第1分割遊星伝動ケース部98と第2分割遊星伝動ケース部99とに分割して、遊星伝動ケース部96の内部を大きく開口させて行うように構成してある。
無段変速部40の点検や組み付けを行なうには、ポートブロック43を取り外して無段変速ケース部95の内部を開放して行なうように構成してある。ポートブロック43は、油圧ポンプ41と油圧モータ42とを接続する駆動回路44に掛かる駆動油の高圧に耐える強度を備えるように、鉄材等によって作製してある。
入力軸37は、遊星伝動ケース部96の横外側で走行伝動手段26を構成しているプーリ軸28に連結されていることにより、変速伝動装置30のエンジン7からの駆動力の入力は、遊星伝動ケース部96の走行伝動装置31が連結している側の横外側から行われる。詳述すると、走行伝動ケース32は、上端32tが遊星伝動ケース部96の上端96tよりも下方に位置するように配備され、プーリ軸28が走行伝動ケース32よりも上方に位置している。つまり、変速伝動装置30のエンジン7からの駆動力の入力は、遊星伝動ケース部96の横外側の部位であって、走行伝動ケース32よりも上方に位置する部位から行われる。
図12,13に示すように、変速制御バルブ機構81は、伝動ケース35の後端側の横端部に形成した走行機体上面視で切欠き状の空間Sに配備してある。空間Sは、伝動ケース35の走行機体上面視での形状を、無段変速ケース部95の走行機体後方側端95rが遊星伝動ケース部96の走行機体後方側端96rよりも走行機体前方に位置する形状にすることによって形成してある。空間Sは、変速伝動装置30の後方に位置するエンジン7が変速制御バルブ機構81の配備に対する障害にならないように、変速伝動装置30とエンジン7との間のスペースを広く形成する。
図11,12,13に示すように、バルブ機構82は、伝動ケース35の上部に配備してある。詳述すると、バルブ機構82は、伝動ケース35の上部のうち、走行機体後方側ほど低い傾斜形状に形成した傾斜部位93に配備してある。傾斜部位93は、伝動ケース35のうちの遊星伝動ケース部96の上部に備えてある。
つまり、入力軸37を中継軸61よりも上方に配備し、中継軸61を遊星伝動ケース部96の内部における上部側に配備することにより、遊星伝動ケース部96の上部に傾斜部位93を備える。遊星伝動ケース部96の上部に傾斜部位93を備えることによって、遊星伝動ケース部96の上方に空きスペースを形成し、空きスペースをバルブ機構82の収容スペースに活用してバルブ機構82を伝動ケース35にコンパクトに支持してある。
バルブ機構82は、傾斜部位93のうちの隔壁97寄りの部位に配備してある。従って、バルブ機構82と前進クラッチ66及び後進クラッチ68の油圧ピストン65b,67bとを接続するように隔壁97の内部に形成された操作油路に対してバルブ機構82を近付けて、操作油路とバルブ機構82とを接続する接続油路の長さを短くできる。
図7に示すように、変速伝動装置30にチャージポンプ102を駆動自在に備えてある。具体的には、チャージポンプ102は、遊星伝動ケース部96のうちの軸ケース29が連結する部位に収容してある。チャージポンプ102は、入力軸37に連動させ、入力軸37に伝達されるエンジン7からの駆動力によって駆動するように構成してある。チャージポンプ102は、トロコイドポンプによって構成してある。
図15に示すように、チャージポンプ102の吸引側から延出した吸引油路103を走行伝動ケース32に接続してある。チャージポンプ102の吐出側と、無段変速部40の補給油路104とを、オイルフィルター105が備えられた給油路106を介して接続してある。チャージポンプ102は、走行伝動ケース32に貯留された潤滑油を吸引し、吸引した潤滑油を、オイルフィルター105によって鉄粉などの異物を除去した後に無段変速部40に作動油として供給する。
上述したように無段変速部40の油圧モータ42を可変容量型の油圧モータによって構成してある。図7,10に示すように、油圧モータ42の斜板42bを、図示しない副変速レバーの操作に基づいて、無段変速ケース部95の内部に収容した一対の油圧シリンダ107,108によって傾動操作するように構成し、一対の油圧シリンダ107,108によって油圧モータ42の変速操作を行なうように構成してある。
詳述すると、一対の油圧シリンダ107,108は、斜板42bの走行機体左右側に振り分けて配備してある。一対の油圧シリンダ107,108の一方の油圧シリンダ107は、斜板42bの操作部42cに対してピストン107aを走行機体横方向での一方から押圧作用させて斜板42bを増速側に傾動操作するように構成してある。従って、一方の油圧シリンダ107は、油圧モータ42を増速側に変速操作する増速油圧シリンダを構成している。
一対の油圧シリンダ107,108の他方の油圧シリンダ108は、斜板42bの操作部42cに対してピストン108aを走行機体横方向での他方から押圧作用させて斜板42bを減速側に傾動操作するように配備してある。従って、他方の油圧シリンダ108は、油圧モータ42を減速側に操作する減速油圧シリンダを構成している。
一対の油圧シリンダ107,108(増速油圧シリンダ及び減速油圧シリンダ)を操作する油圧回路を、図15に示す如く構成してある。
一対の油圧シリンダ107,108に一対の操作油路110,110を介してモータ制御バルブ機構111を接続してある。モータ制御バルブ機構111と、給油路106のうちのオイルフィルター105よりも下流側の部位とを、パイロット油路112によって接続してある。モータ制御バルブ機構111は、一対の油圧シリンダ107,108に各別に接続された一対の方向制御弁111a,11bを備えている。
モータ制御バルブ機構111は、チャージポンプ102によって給油路106に供給され、オイルフィルター105によって異物が除去された潤滑油をパイロット油路112によって取り入れる。モータ制御バルブ機構111は、増速側に切り換え操作されると、給油路106から取り入れた潤滑油を、一方の方向制御弁111aから一方の油圧シリンダ107(増速油圧シリンダ)に操作油として供給する。モータ制御バルブ機構111は、減速側に切換え操作されると、給油路106から取り入れた潤滑油を、他方の方向制御弁111bから他方の油圧シリンダ108(増速油圧シリンダ)に操作油として供給する。
一対の方向制御弁111a,111bは、電磁制御弁によって構成し、運転部3に備えられた副変速操作具からの電気式の操作指令によって切換え操作されるように構成してある。
図3〜5、図11〜13に示すように、オイルフィルター105及びモータ制御バルブ機構111は、メンテナンスを走行機体の前方から行い易いように、変速伝動装置30の前面部30fに上下方向に並べて配備してある。図14(a)に示すように、オイルフィルター105及びモータ制御バルブ機構111は、搬送装置15によって搬送される刈取穀稈が触れ難いように、搬送装置15の搬送経路から外れた部位に配備してある。オイルフィルター105及びモータ制御バルブ機構111は、変速伝動装置30の前面部30fのうちの走行機体横外側寄りの部位に配備してある。これにより、オイルフィルター105及びモータ制御バルブ機構111と、搬送される刈取穀稈との接触をより回避し易い。
オイルフィルター105をモータ制御バルブ機構111の上方に配備してある。これにより、モータ制御バルブ機構111と、搬送される刈取穀稈との接触をより回避し易い。オイルフィルター105及びモータ制御バルブ機構111は、前面部30fのうちの隔壁97と重なる箇所に配備してある。
図14(a)は、閉じ状態の刈取部4を示す平面図である。図14(b)は、開き状態の刈取部4を示す平面図である。図14に示すように、刈取部4は、刈取部フレーム10の基部に配備された走行機体上下向きの開閉軸芯Pまわりに揺動操作することにより、前方向きに支持された作業用の閉じ状態と、斜め横外向きに支持された管理用の開き状態とに切換え自在に構成してある。従って、オイルフィルター105及びモータ制御バルブ機構111を交換や点検する作業を行なう際、刈取部4を開き状態に切り換えることにより、変速伝動装置30の前方に作業用スペースを広く形成して作業を容易に行える。
図19に示すように、オイルフィルター105は、基端側に設けられた取付ネジ部105Cを備え、伝動ケース35の前面部30fに設けられたフィルター支持部140に取付ネジ部105Cによって脱着自在に支持するようにカセット構造に構成してある。フィルター支持部140に、オイルフィルター105の濾過前域105Aに連通する給油路141と、オイルフィルター105の濾過後域105Bに連通する取出油路142と、給油路141及び取出油路142に連通した排油路143と、ドレン筒部144とを形成してある。ドレン筒部144にドレンプラグ150を装着してある。
図20は、ドレンプラグ150を示す断面図である。図20に示すように、ドレンプラグ150は、プラグ本体151と、プラグ本体151の基端側に連結した操作部152とを備えている。プラグ本体151の内部にドレン流路153を形成してある。ドレン流路153は、プラグ本体151の先端側に開口している。プラグ本体151の先端側における外周部の2箇所にシールリング154を装着してある。プラグ本体151の基端側にドレン孔155を設けてある。ドレン孔155は、ドレン流路153に連通している。
図19(a)は、オイルフィルター105を作用させる通常時のフィルター支持部140を示す断面図である。図19(a)に示すように、オイルフィルター105を作用させる通常時は、ドレンプラグ150を、プラグ本体151が排油路143の奥まで入り込んだ閉じ状態にし、操作部152に設けてあるネジ部152aのドレン筒部144におけるネジ部への嵌り合いによって閉じ状態に固定する。ドレンプラグ150は、閉じ状態になると、プラグ本体151のうちの2つのシールリング154,154の間に位置する部位で、排油路143に臨む給油路141の開口を閉じることによって、給油路141と取出油路142との排油路143による連通を絶つことにより、かつ、ドレン孔155がドレン筒部144の内部に入り込んでドレン筒部144によって閉じられることにより、オイルフィルター105に所定の濾過作用を行なわせる。
図19(b)は、ドレン操作時のフィルター支持部140を示す断面図である。図19(b)に示すように、操作部152を回転操作してネジ部152aとドレン筒部144との嵌り合いを解除し、ネジ部15aとドレン筒部144との嵌り合いが外れると、プラグ本体151をドレン筒部144の外側に向けてスライド操作してドレンプラグ150を開き状態にする。ドレンプラグ150は、開き状態になると、プラグ本体151が給油路141から外れて給油路141を開くことによって、給油路141と取出油路142とを排油路143によって連通された状態にすることにより、かつ、ドレン孔155がドレン筒部144の外側に出ることにより、オイルフィルター105の内部に位置する作動油を、給油路141及び取出油路142から排油路143に流出させ、排油路143からドレン流路153に流動させてドレン孔155から流出させる。従って、オイルフィルター105をフィルター支持部140から取り外すのに先立って、ドレンプラグ150を開き状態に操作すれば、オイルフィルター105から作動油を取出しておくことができ、オイルフィルター105をフィルター支持部140から取り外すと同時にオイルフィルター105から作動油がこぼれ出ることを回避できる。
このドレン構造によると、給油路141及び取出油路142を、排油路143及びドレン流路153を介してドレン孔155に連通させて、オイルフィルター105の内部に位置する作動油を給油路141と取出油路142の両油路から排出できることにより、オイルフィルター105の作動油排出を迅速にできる。プラグ本体151がドレン筒部144から外側に突出する長さを調節することにより、ドレン孔155のドレン筒部144に対する取出位置を調節することができて便利である。また、ドレンプラグ150を回転調節することにより、ドレン孔155の開口向きを前後方向に調節することができて便利である。
図10に示すように、モータ制御バルブ機構111と一対の油圧シリンダ107,108とを接続する一対の操作油路110,110のうちの一方の操作油路110は、モータ制御バルブ機構111から伝動ケース35のうちの前壁部に入り、前壁部から隔壁97を通って右側の油圧シリンダ107に至るように形成してある。一対の操作油路110,110のうちの他方の操作油路110は、モータ制御バルブ機構111から伝動ケース35のうちの前壁部に入り、この箇所から前壁部の内部を横方向に通ってポートブロック43に入り、ポートブロック43の内部から左側の油圧シリンダ108に至るように形成してある。
図15に示すように、変速制御バルブ機構81は、サーボシリンダ80に一対の操作油路114,114を介して接続された一対の電磁比例弁115,115を備えている。一対の電磁比例弁115,115は、オイルフィルター116を備えたパイロット油路117を介して給油路106に接続されている。
図15に示すように、給油路106に回路圧調整機構120を備えてある。回路圧調整機構120は、給油路106にリリーフ回路121を介して接続された一対のリリーフ弁122,123と、リリーフ回路121に備えられた開閉弁124と、を備えている。開閉弁124は、電磁方向制御弁125によって切換え操作されるように構成してある。
回路圧調整機構120は、開閉弁124が切換え操作されることにより、給油路106の回路圧を高低2段階に切換え調整するように構成してある。
すなわち、開閉弁124は、閉じ操作されることにより、リリーフ回路121のうちの一対のリリーフ弁122,123の間に位置する部位を閉じ、一対のリリーフ弁122,123のうちの低圧側のリリーフ弁123と給油路106との接続を絶つ。この結果、リリーフ回路121のリリーフ圧が高圧側のリリーフ弁122によって高リリーフ圧に設定され、給油路106の回路圧が高圧に調整される。
開閉弁124は、開き操作されることにより、リリーフ回路121のうちの一対のリリーフ弁122,123の間に位置する部位を開き、低圧側のリリーフ弁123と給油路106とを接続する。この結果、リリーフ回路121のリリーフ圧が低圧側のリリーフ弁123によって低リリーフ圧に設定され、給油路106の回路圧が低圧に調整される。
図15に示すように、変速伝動装置30の駆動モードをHSTモード(第1モード)とHMTモード(第2モード)とに切換え、かつ変速伝動装置30の出力回転方向を前進回転方向と後進回転方向とに切り換えるバルブ機構82は、4つの電磁方向制御弁126〜129を備えている。4つの電磁方向制御弁126〜129のうちの電磁方向制御弁126は、切換クラッチ70の油圧ピストン71bに対する操作油の給排を行なって、切換クラッチ70を切り状態と入り状態とに切換え操作する。4つの電磁方向制御弁126〜129のうちの電磁方向制御弁127は、前進クラッチ66の油圧ピストン65bに給油して前進クラッチ66を入り状態に切換え操作する。4つの電磁方向制御弁126〜129のうちの電磁方向制御弁128は、後進クラッチ68の油圧ピストン67bに給油して後進クラッチ68を入り状態に切換え操作する。4つの電磁方向制御弁126〜129のうちの電磁方向制御弁129は、前進クラッチ66及び後進クラッチ68の油圧ピストン65b,67bに給油して前進クラッチ66及び後進クラッチ68を切り状態に切換え操作する。
4つの電磁方向制御弁126〜129には、給油路130を介して油圧ポンプ131から操作油を供給するように構成してある。図7に示すように、油圧ポンプ131は、入力軸37によって駆動されるように構成して変速伝動装置30に装備してある。
給油路130に、バルブ機構82のシステム圧を設定する圧力制御弁132を介してミッション制御バルブ機構133を接続してある。ミッション制御バルブ機構133は、走行伝動装置31が備える操向クラッチ、旋回ブレーキ、緩旋回クラッチ及び逆転クラッチを切換え操作するものである。給油路130に潤滑用の切換バルブを接続し、前進クラッチ66及び後進クラッチ68が切り状態に切換えられ、切換クラッチ70が入り状態に切換えられた際、すなわち変速伝動装置30がHSTモードに切換えられた際、切換バルブによって給油路130から圧油を抜き出し、抜き出した操作油を遊星伝動ケース部96の内部における上部側に潤滑油として供給するように構成して実施してもよい。
〔別実施例〕(1)上記した実施例では、隔壁97を伝動ケース35に一体成形した例を示したが、伝動ケース35とは別部材に作製してから伝動ケース35に装着するよう構成して実施してもよい。
(2)上記した実施例では、後進走行においても、走行装置2を第1モード(HSTモード)及び第2モード(HMTモード)で変速駆動できるように構成した例を示したが、後進クラッチ68を備えず、後進走行においては、走行装置2を第1モード(HSTモード)だけで変速駆動するように構成して実施してもよい。
(3)上記した実施例では、無段変速部40と遊星伝動部50とを走行機体横方向に並べた例を示したが、走行機体前後方向に並べて実施してもよい。
(4)上記した実施例では、無段変速部40を遊星伝動部50の走行機体右横側に配置した例を示したが、無段変速部40を遊星伝動部50の走行機体左横側に配置して実施してもよい。
(5)上記した実施例では、遊星伝動ケース部96を第1分割遊星伝動ケース部98と第2分割遊星伝動ケース部99との2つに分割自在に構成した例を示したが、3つに分割自在に構成して実施してもよい。すなわち、第2分割遊星伝動ケース部99を、第1分割遊星伝動ケース部98の上端側部分に対応する上端側第2分割遊星伝動ケース部と、第1分割遊星伝動ケース部98の下端側部分に対応する下端側第2分割遊星伝動ケース部とに分割自在に構成して実施してもよい。
(6)上記した実施例では、伝動ケース35の走行機体上面視での形状を、無段変速ケース部95の走行機体後方側端95rが遊星伝動ケース部96の走行機体後方側端96rよりも走行機体前方側に位置する形状に形成した例を示したが、無段変速ケース部95の走行機体後方側端95rが遊星伝動ケース部96の走行機体後方側端96rよりも走行機体後方側に位置する形状、あるいは無段変速ケース部95の走行機体後方側端95rと、遊星伝動ケース部96の走行機体後方側端96rとが走行機体横方向に直線状に並ぶ形状に形成して実施してもよい。
(7)上記した実施例では、変速制御バルブ機構81及びバルブ機構82を伝動ケース35に装着した例を示したが、伝動ケース35とは別の支持部材に支持して実施してもよい。
(8)上記した実施例では、走行伝動ケース32の上端32tが遊星伝動ケース部96の上端96tよりも下方に位置するよう構成した例を示したが、走行伝動ケース32の上端32tが遊星伝動ケース部96の上端96tよりも上方に位置するよう構成して、あるいは、走行伝動ケース32の上端32tと遊星伝動ケース部96の上端96tとが同一高さに位置するように構成して実施してもよい。
(9)上記した実施例では、エンジン7が変速伝動装置30の後方に位置するよう構成した例を示したが、エンジン7が変速伝動装置30の上方や前方に位置するよう構成して実施してもよい。
(10)上記した実施例では、クローラ式の走行装置2を設けた実施例を示したが、車輪式の走行装置を設けて実施してもよい。
(11)上記した実施例では、運転キャビン3aを備えた例を示したが、運転キャビン3aを備えないで実施してもよい。