上記特許文献1に記載された車両用ドアビームのブラケット構造は、フロントとリアとにサイドドアを有する乗用車におけるものであるが、近年、軽トラックのオフセット前面衝突の法規制化に伴って、軽トラックのオフセット前面衝突に対するサイドドアの強度を高める必要が生じている。
特にキャブタイプのトラックのオフセット前面衝突の際には、車両の乗員スペースを確保しつつ、衝突荷重を吸収しなければならず、車両の前後方向に沿って配置された下部構造のサイドメンバだけでなく、サイドドアの前後方向に沿って配置されたドアビーム構造によっても、衝突荷重を車両後方(荷台側)に分配する必要がある。車両後方部分(荷台側)は衝突時の慣性力で前方に向かうので、車両の前方部分と後方部分との間(ドアインナパネルの前部と後部との間)でドアビームを前後方向に挟むようにして突っ張らせる必要がある。
従来のドアビームは、ドア剛性を確保することに重点を置いており、ドアビームに前後方向の強い衝突荷重が作用すると、例えば、ドアビームが弓状に変形しつつ、ドアビームの後側の取付ブラケットがドアビームの後端と共に車両外側に回動して、車両後方に衝突荷重が伝わらなくなったり、ドアビームが弓状に変形した反力でドアビームの後側の取付ブラケットが破損したり、ドアインナパネルが大きく変形して、後方に衝突荷重が伝わらなくなって、ドアビームの後側の取付ブラケットが破損する、といった問題を生じる懸念があった。
本発明は、上記した点に鑑み、自動車の前面衝突に際して、ドアビームの後端やドアビームの後側のブラケットの車両外側への移動を抑え、ドアインナパネルに対してドアビームを前後方向にしっかりと突っ張らせて、衝突荷重を車両後方に確実に伝えることで、サイドドアの前後方向の潰れ変形を極力防ぐことができ、しかもそれを軽量、低コスト、簡単な構造で達成することのできる車両用ドアビームのブラケット構造を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る車両用ドアビームのブラケット構造は、車両のサイドドア内に前後方向に沿うパイプ状のドアビームが設けられ、該ドアビームの後端側をブラケットでドアインナパネルに固定する車両用ドアビームのブラケット構造において、前記ドアビームの後端に固定された平面視略クランク板状の前記ブラケットが、前記ドアインナパネルの後部の段差形状を成す車両外側且つ後側の側壁と車両内側且つ前側の側壁と両側壁を結ぶ後壁とに沿って配置され、該ブラケットは、該両側壁に接合固定される車両外側及び車両内側の両接合部と、該後壁に沿って該両接合部を連結し、該ドアビームの後端を接合した中央部とを備え、前記ブラケットの車両外側の接合部に凸形状部が形成され、前記ドアビームの後端が該ブラケットの前記中央部と該凸形状部との前面に当接した状態で接合固定されたことを特徴とする。
上記構成により、サイドドアのドアインナパネルの後部の段差形状に沿って略クランク状(略Z字状)の後側のブラケットが配置され、ドアインナパネルと協調してブラケットの剛性が確保されることで、車両の前面衝突時にパイプ状のドアビームの後端の車両外側への移動がしっかりと抑えられる。また、ドアビームの後端がブラケットの中央部に突き当てて接合されたことで、ドアビームの後端の車両外側への移動が確実に抑えられ、また、ドアビームがドアインナパネルを突き破って衝突荷重を吸収できなくなるという不具合が抑止される。また、ブラケットがドアインナパネルの車両内側の側壁に接合しているので、ブラケットの剛性でドアビームの後端の車両外側への移動が確実に抑えられる。
また、上記構成により、ブラケットの車両外側の凸形状部によって、パイプ状のドアビームの後端に対する当て面が作られると共に、ブラケットの前後方向の剛性が増し、車両の前面衝突時にドアビームが確実に突っ張って衝撃を受け止める。また、凸形状部の高い剛性によって、車両の前面衝突時にドアビームの後端に作用する車両外側への力(ドアビームの弓状変形の反力や前方荷重の分力等)に対する取付剛性が向上する。
請求項2に係る車両用ドアビームのブラケット構造は、請求項1記載の車両用ドアビームのブラケット構造において、前記サイドドアの後部においてドアサッシュにサッシュブラケットが固定され、前記ブラケットの車両内側の接合部が該サッシュブラケットと共に前記ドアインナパネルの車両内側の側壁にボルト締めで固定されたことを特徴とする。
上記構成により、略クランク状(略Z字状)のブラケットの剛性で、車両の前面衝突時のドアビームの後端の車両外側への移動を抑える際には、ブラケットの車両内側の接合部に剥離方向に荷重がかかり、スポット溶接等の剥がれが懸念されるが、車両内側の接合部がドアサッシュのブラケットでドアインナパネルにボルト止めされたことで、スポット溶接等が剥離せずに、ドアビームの変形が確実に抑えられる。また、ブラケットの車両内側の接合部が、ドアサッシュを懸架するサッシュブラケットと共締めされたことで、締結点数の削減と共に、ブラケットとサッシュブラケットとで協調して取付剛性が確保され、ドアサッシュの下端が確実に懸架されて、ドアガラスのガイド機能が正確に発揮される。
請求項3に係る車両用ドアビームのブラケット構造は、請求項1又は2記載の車両用ドアビームのブラケット構造において、前記ブラケットの中央部の上縁及び/又は下縁に補強用のフランジ部が形成されたことを特徴とする。
上記構成により、ブラケットのフランジ部で中央部の剛性が高められ、車両の前面衝突時におけるブラケットの車両幅方向の延び変形や車両幅方向の軸を中心としたブラケットの捩り変形が抑えられる。これにより、車両の前面衝突時にドアビームの後端の位置ずれが抑止され、衝突荷重に対してドアビームが確実に突っ張って衝撃を受け止める。また、ブラケットの中央部の上縁又は下縁のフランジ部を請求項2記載のサッシュブラケットの共締め部分に隣接させることで、共締め部分の剛性が高まり、ブラケットの変形が抑えられると共に、ドアビームの後端の位置ずれが確実に抑えられる。
請求項4に係る車両用ドアビームのブラケット構造は、請求項1〜3のうち何れか一項に記載の車両用ドアビームのブラケット構造において、前記凸形状部の車両外側の面が前記ドアビームの車両外側の面よりも車両外側に配置され、前記ドアインナパネルの車両外側の側壁と前記後壁との交差した角部が前方視で該ドアビームに重なって配置されたことを特徴とする。
上記構成により、ドアビームの後端に対応するブラケットの車両外側の接合部において凸形状部がパイプの車両外側の面よりも外側に配置され、剛性の高い凸形状部に衝突荷重がかかるので、車両の前面衝突時の荷重がブラケットの凸形状部で確実に受け止められる。また、ブラケットの車両外側(凸形状部よりも外側)に衝突荷重がかからないので、衝突荷重によるブラケットの回転モーメントが小さく規制される。また、ドアインナパネルの車両外側の側壁と後壁との交差した剛性の高い角部が、前方視でパイプと重合したことで、車両の前面衝突時に、ドアビームが少し後退してドアビームの後端がドアインナパネルの車両外側の側壁と後壁との交差した角部に当接し、ドアインナパネルとブラケットとの両方に衝突荷重が確実に分散され、且つドアビームの後端の位置ずれが確実に抑止される。
請求項1記載の発明によれば、ドアインナパネルの後部の段差形状に沿って平面視略クランク状(略Z字状)のブラケットを接合して、ブラケットの中央部でドアビームの後端を受けるようにしたので、車両の前面衝突時におけるドアビームの後端やドアビームの後側のブラケットの車両外側への移動を抑え、ドアインナパネルに対してドアビームを前後方向にしっかりと突っ張らせて、衝突荷重を車両後方に確実に伝えて、サイドドアの前後方向の潰れ変形を極力防ぐことができる。しかも、平面視略クランク状のブラケットは既存のプレス設備で容易に且つ安価に且つ軽量に形成することができるので、パイプ状のドアビームの使用と相俟って上記効果を軽量、低コスト、簡単な構造で達成することができる。
また、請求項1記載の発明によれば、ブラケットの剛性の高い凸形状部にドアビームの後端を突き当てたことで、車両の前面衝突時に、ドアビームを前後方向に一層確実に突っ張らせることができると共に、剛性の高い凸形状部でドアビームの後端の車両外側への移動を一層確実に抑止することができる。また、凸形状部は既存のプレス設備でブラケットに容易に低コストで且つ軽量化を維持しつつ形成することができる。
請求項2記載の発明によれば、ブラケットの車両内側の接合部を例えば溶接に加えてドアサッシュブラケットとの共締めでドアインナパネルに固定したので、ドアインナパネルへのブラケットの接合強度を高め、ブラケットの車両外側への移動を確実に抑えて、ドアインナパネルに対してドアビームを前後方向に一層確実に突っ張らせて、サイドドアの前後方向の潰れ変形を一層確実に防ぐことができる。また、ドアインナパネルに対するドアサッシュの固定とドアビームのブラケットの固定とを共通のボルト締めで行わせたことで、構造を一層簡素化、軽量化、低コスト化することができる。
請求項3記載の発明によれば、車両の前面衝突時に、ブラケットの中央部のフランジ部で中央部の延び変形や捩り変形を抑えて、ブラケットやドアビームの後端の車両外側への移動を一層確実に抑えて、ドアビームを前後方向に一層確実に突っ張らせることができる。また、請求項2に記載されたドアサッシュブラケットとブラケットとの共締め部をフランジ部に隣接させることで、請求項2記載の効果を促進させることができる。
請求項4記載の発明によれば、ブラケットの凸形状部の車両外側の面をドアビームの車両外側の面よりも車両外側に配置したことで、車両の前面衝突時にドアビームの後端の衝撃荷重でブラケットに作用する回転モーメントを小さく抑えて、ブラケットやドアビームの後端の車両外側への移動を一層確実に抑えることができる。また、ドアインナパネルの車両外側の側壁と後壁との交差した角部を前方視でドアビームに重ねて配置したことで、車両の前面衝突時にドアビームの後端を車両外側の側壁と後壁との交差した角部でしっかりと受け止めて、ドアインナパネルとブラケットとの両方に衝突荷重を分散し、ドアビームの後端の車両外側への移動を一層確実に抑えて、ドアビームを前後方向に一層確実に突っ張らせることができる。
図1〜図5は、本発明に係る車両用ドアビームのブラケット構造の一実施形態を示すものである。
図1に示す如く、シングルキャブタイプの軽トラック(自動車ないし車両)1の左側の金属製のサイドドア2におけるドアベルトライン3とドア下端との略中間の高さ位置に、金属製の断面円形のパイプ状のドアビーム4が水平に配設され、ドアビーム4の前端部が金属製の前側のブラケット5で図2の金属製のドアインナパネル6の前端部に固定され、ドアビーム4の後端部が金属製の後側のブラケット7で同じくドアインナパネル6の後端部に固定されている。ドアインナパネル6の車両外側にはドアアウタパネル8(図1)がヘミング加締めや溶接等で固定されている。
図1,図2において、サイドドア2のドアベルトライン3すなわち窓枠9の下端縁の下側近傍にも別の上側のドアビーム(図示せず)が下側のドアビーム4とほぼ平行に配設されるが、本発明は下側のドアビーム4とその後側のブラケット7の構造に関するものであるので、上側のドアビームの説明は省略する。車両の不図示の右側のサイドドアには、左側のサイドドア2とは左右対称にドアビーム4や前後のブラケット5,7等が配置されている。
図1,図2に示す如く、前側のブラケット5は、上下の前面部5aと、前面部5aに直交した上下の垂直な側面部5bと、上下の側面部5bを連結して、ドアビーム4の前端部の車両外側の面を覆う中間の側面部5cとを有し、前面部5aを図2のドアインナパネル6のヒンジ取付側の垂直な前端壁10の内面に当接固定させ、上下の側面部5bをドアインナパネル6の車両外側の側壁面11に当接させ、ドアビーム4の前端部を中間の側面部5cないしその近傍に固定させ、ドアビーム4の前端をドアインナパネル6の前端壁10の内面に近接対向させている。前側のブラケット5は本発明の要部ではないので詳細な説明を省略する。
後側のブラケット7とその周辺部分を含むブラケット構造が本発明の要部である。ドアビーム4と前後の各ブラケット5,7とでドアビーム組立体37が構成され、ドアビーム組立体37の状態でドアインナパネル6に組み付けられる。図1の如く、後側のブラケット7の後方には荷台(車両の後方部分)12が配置されている。車両の前面衝突時に、ドアビーム4は軸方向にサイドドア2と共に車両の前端部(衝突部)13と、慣性力で前方に向かう後側の荷台12との間に挟まれる。
図3に示す如く、後側のブラケット7は、ドアインナパネル6の後部における車両外側且つ後側の略垂直な側壁15の外面(車両幅方向の外側面)に沿って配置固定された車両外側の接合部18と、ドアインナパネル6の後部における車両内側且つ前側の略垂直な側壁16の外面(車両幅方向の内側面)に沿って配置固定された車両内側の接合部19と、ドアインナパネル6の後部における車両外側の側壁15と車両内側の側壁16とを連結する後壁17の前面に沿って隙間を存して配置され、内外の両接合部18,19を一体に連結した中央部20とで、略Z字状(略クランク状)の板形状に構成されている。
ドアインナパネル6の車両外側の側壁15と車両内側の側壁16とは略平行に配置され、両側壁15,16を連結する後壁17は両側壁15,16に対して段差部を構成している。後壁17は垂直よりも前下がりに少し傾斜しており、図2のドアインナパネル6のタイヤハウス部分に沿う下壁20に続いている。
後側のブラケット18の車両外側の接合部7は、車両側方を向いた略垂直な矩形状の板部21と、板部21の高さ方向中央部分において板部21の前端から板部21の後端部分の手前までの範囲で車両外側に向けて膨出(突出)形成された凸形状部22とを備えている。凹形状部22は、垂直な前端壁22aと、上下の傾斜状ないし湾曲状の壁部22bと、後側の傾斜壁22cと、車両外側の側壁22dとで構成され、内部は中空である。
前端壁22aは、車両外側の接合部18から中央部20との交差部分にかけて形成され、前端壁22aの前面は中央部20の前面と同一垂直面上に配置されている。板部21の後端部分は例えば上中下のスポット溶接23でドアインナパネル6の車両外側の側壁15に接合固定されている。この接合部分23を第一の接合部分と言う。板部21の前側の上下部分にはスポット溶接時の位置決め孔24が設けられている。
パイプ状のドアビーム4の後端(環状の後端面)4aは、後側のブラケット7の中央部20の前面20aから車両外側の接合部15の凸形状部22の前面22aにかけて当接し(両前面20a,22aは同一平面上に位置する)、凸形状部22の前面22aに、又は凸形状部22の前面22aから中央部20の前面20aにかけて、CO2アーク溶接による円弧状の線溶接25で接合固定されている。凸形状部22の車両外側の面22dはドアビーム4の車両外側の面4bよりも車両外側に突出している。凸形状部22によって、ドアビーム4の後端4aに対する受け面積が増大すると共に、車両外側の接合部18の前後方向等の剛性が高められている。
後側のブラケット7の中央部20は、サイドドアの厚み方向(車両幅方向)に車両外側の接合部よりも略二倍程度の長さで延長形成された略垂直な板部(符号20aで代用)と、板部20aの上縁(上辺)において前向きから上向きに屈曲形成された上側のフランジ部26と、板部20aの下縁(下辺)において前向きから下向きに屈曲形成された下側のフランジ部27とで構成されている。ドアビーム4の後端4aは、板部20aの高さ方向略中央の前面(20a)に当接した状態で、車両外側の接合部18の凸形状部22の前面22aに溶接固定されている(溶接部を符号25で示す)。
後側のブラケット7の車両内側の接合部19は、車両側方を向いた略垂直な板部で成り、板部の上半部分28は車両内側に向けて膨出(突出)した凹形状部を構成し、下半側の板部29との間に上向きの小さな段差28aをなし、中央部20との交差部分との間に前向きの小さな段差28bをなしている。上半の板部28がドアインナパネル6の車両内側の側壁16の小さな段差部に係合した状態で、上半の板部28がドアインナパネル6の車両内側の側壁16に例えば上下のスポット溶接30で接合固定されている。この接合部分30を第二の接合部分と言う。
さらに、後側のブラケット7の車両内側の接合部19の下半の板部29は、金属製のドアサッシュ31の下端側のサッシュブラケット32と共にドアインナパネル6の車両内側の側壁16にボルト33の締結で接合固定されている。この接合部分33を第三の接合部分と言う。
図4(図3のA−A断面図)に示す如く、ドアサッシュ31はサイドドア2(図1)の後部においてドアインナパネル6の後壁17の前方に配置されたものであり、左右の対向する壁部31aと後側の壁部31bとで横断面略コの字状に形成されている。ドアサッシュ31の内面に沿って合成ゴム製の不図示のガラスランが装着され、ガラスランに沿って不図示の窓ガラスが昇降自在に設けられる。サッシュブラケット32は、車両幅方向に沿う一方の壁部32aと車両前後方向に沿う他方の壁部32bとで平面視で略L字状に屈曲形成されている。図3の如く、サッシュブラケット32は上下に補強用のフランジ32cを有すると共に、中間の屈曲部32dの上下方向中央に補強用の膨出部32eを有している。
図3のドアサッシュ31の下端部における図4の後壁31bの後面にサッシュブラケット32の一方の壁部32aの端部がスポット溶接等で固定され、サッシュブラケット32の他方の壁部32bの端部が、図3の後側のブラケット7の車両内側の接合部19の下半部分29と共に、ドアインナパネル6の車両内側の側壁16にボルト締め33で接合されている。これにより、ドアインナパネル6への後側のブラケット7の固定強度が高まる。
車両内側の接合部19と車両内側の側壁16とにはボルト33を挿通させるための不図示の孔部が設けられている。ドアサッシュブラケットには、ボルト33を挿通又は螺挿させるための孔部32f(図5)が設けられている。ボルト33は、車両外側から車両内側の側壁16の内面の不図示のウェルドナットに螺合させてもよく、車両内側から車両内側の側壁16と車両内側の接合部19との各孔部を経てドアサッシュブラケット32の孔部32f(図5)にタップねじのように螺合させてもよい。
また、図3の後側のブラケット7の中央部20の下側のフランジ部27によって車両内側の接合部19の下半部29の剛性も高められており(フランジ部27を車両内側の接合部19の下半部29に沿って延長形成してもよい)、この剛性の高い下半部29にサッシュブラケット32が接合したことで、第三の接合部分33の強度が高められている。中央部20の上側のフランジ部26は省略することも可能である。また、ドアサッシュ31を後側のブラケット7と共にドアインナパネル6に強固に固定したことで、ドアガラスの昇降操作時にドアサッシュ31が動くことがなくなって、ドアガラスの昇降がスムーズに行われる。
図4の如く、ドアインナパネル6の後壁17の前面と後側のブラケット7の中央部20の後面との間には隙間34が形成され、後壁17と中央部20とは隙間34を存して対向している。車両外側の接合部18の第一の接合部分23は後側に位置し、車両内側の接合部19の第二の接合部分30は前側に位置している。両接合部18,19はドアインナパネル6の前後方向に沿う内外の側壁15,16に沿って配置固定されている。内外の側壁15,16は後壁17を介して平面視で段差形状部35をなしている。
ドアインナパネル6の車両外側の側壁15は、車両外側の後半部15bと車両内側の前半部15aと、前半部15aと後半部15bとを連結する中間の段差部15cとを備えている。車両外側の側壁15の前半部15aと後壁17との交差した角部15a’は前方視でパイプ状のドアビーム4と重合している(前方視でドアビーム4の径方向の範囲内に車両外側の側壁15の前半部15aと後壁17との交差した角部15a’が重なって配置されている)。また、後側のブラケット7の車両外側の接合部18の凸形状部22の車両外側の面は、ドアビーム4の車両外側の面4bよりも寸法Lの如く車両外側に少し突出している。本例においてドアビーム4の円形の前端4aは車両外側において略半円ないしそれ以下の円弧形状で後側のブラケット7にアーク溶接(25)されている。車両の前面衝突時に生じる衝突エネルギは矢印Fの如くドアビーム4に沿って後方に伝わる。
図5(図3のB−B断面図)に示す如く、後側のブラケット7の上下方向中央にドアビーム4が水平に位置し、ドアビーム4よりも下側にドアサッシュ31の下端部とサッシュブラケット32とが位置する。後側のブラケット7は車両内側の接合部19の円弧状の切欠孔36と図3の車両外側の接合部18の孔部24とでドアインナパネル6に位置決めされた状態で溶接固定される。
ドアビーム4と前側のブラケット5(図1)と後側のブラケット7とで成るドアビーム組立体37(図1)の全長は、例えば後側のブラケット7をドアビーム4の後端に溶接した後、前側のブラケット5(図1)をドアビーム4に溶接する際に規定される。また、ドアビーム組立体37をドアインナパネル6に取り付ける際に、前側のブラケット5をドアインナパネル6の前壁10(図2)に当接させて固定し、次いで後側のブラケット7をドアインナパネル6の車両内外の側壁15,16に溶接する位置を前後方向に適宜調節することで、ドアインナパネル6の寸法ばらつきが吸収される。
以下に、上記した車両用ドアビームのブラケット構造の作用効果を説明する。
(1)サイドドア2のドアインナパネル6の車幅方向に沿う段差部分35(図4)に沿って略Z字状の後側のブラケット7を配置し、ドアインナパネル6と協調して後側のブラケット7の剛性を確保したことで、車両の前面衝突時にパイプ状のドアビーム4の後端4aの車両外側への移動をしっかりと抑えることができる。
また、ドアビーム4の後端4aを後側のブラケット7の中央部20に突き当てて接合しているので、ドアビーム4の後端4aの車両外側への移動を確実に抑えることができると共に、ドアビーム4がドアインナパネル6を突き破って衝突荷重を吸収できなくなるという不具合を抑止することができる。また、後側のブラケット7をドアインナパネル6の車両内側且つ前側の側壁16の外面に第二の接合部分30で接合しているので、後側のブラケット7の剛性と相俟って、ドアビーム4の後端4aの車両外側への移動を確実に抑えることができる。
(2)車両の前面衝突時に略Z字状の後側のブラケット7の剛性でパイプ状のドアビーム4の後端4aの車両外側への移動を抑える際には、スポット溶接による第二の接合部分30に剥離方向に荷重がかかり、スポット溶接の剥がれが懸念されるが、第三の接合部分33がボルト止めで固定されたことで、スポット溶接30の剥離を生じることなく、後側のブラケット7でドアビーム4の変形を確実に抑えることができる。
また、第三の接合部分33は、ドアサッシュ31を懸架するサッシュブラケット32と共締めしたことで、締結点数を削減すると共に、後側のブラケット7とサッシュブラケット32とで協調して取付剛性を確保することができ、さらにドアサッシュ31の下端部を確実に懸架したことで、ドアガラスのガイド機能を正確に発揮させることができる。
(3)後側のブラケット7の車両外側且つ後側の接合部18の凸形状部22によって、パイプ状のドアビーム4の後端4aに対する当て面を作りながら、後側のブラケット7の前後方向の剛性を増したことで、車両の前面衝突時にドアビーム4を前後方向に確実に突っ張らせることができる。また、凸形状部22の高い剛性によって、車両の前面衝突時にドアビーム4の後端4aに作用する車両外側への力(ドアビーム4の弓状変形時の反力や前方荷重の分力等)に対する取付剛性を向上させることができる。
(4)略Z字状の後側のブラケット7の中央部20の上下の辺部(縁部)にフランジ部26,27を形成して中央部20の剛性を高めたことで、車両の前面衝突時における後側のブラケット7の車両幅方向の延び変形や車両幅方向の仮想軸線を中心とした後側のブラケット7の捩り変形を抑えることができる。これにより、車両の前面衝突時にパイプ状のドアビーム4の後端4aの位置ずれを抑止し、衝突荷重に対してドアビーム4を確実に前後方向に突っ張らせることができる。
また、上記実施形態においては後側のブラケット7の中央部20の下縁のフランジ部27を第三の接合部分33に隣接させているので、第三の接合部分33の剛性(接合強度)を高め、下縁のフランジ部27で後側のブラケット7の変形を抑えると共に、ドアビーム4の後端4aの位置ずれを確実に抑えることができる。なお、中央部20の上縁のフランジ部26を第三の接合部分33に隣接させた場合は、同様に上縁のフランジ部26で後側のブラケット7の変形を抑えると共に、ドアビーム4の後端4aの位置ずれを確実に抑えることができる。
(5)パイプ状のドアビーム4の後端4aに対応する後側のブラケット7の車両外側の接合部18に凸形状部22を、ドアビーム4の車両外側の面4bよりも外側に配置して、剛性の高い凸形状部22に衝突荷重をかけるようにしたことで、車両の前面衝突時の荷重を凸形状部22で確実に受けることができる。また、後側のブラケット7よりも車両外側(凸形状部22よりも外側)には衝突荷重がかからないので、衝突荷重による後側のブラケット7の回転モーメントを小さくすることができる。
また、ドアインナパネル6の車両外側の側壁15の前半部15a(図4)と後半部15bとを中間の段差15cを介して形成し、比較的剛性の高い前半部15aと後壁17との交差した角部15a’を前方視でパイプ状のドアビーム4と重合させたことで、車両の前面衝突時に、ドアビーム4が少し後退してドアビーム4の後端4aがドアインナパネル6の車両外側の側壁15の前半部15aの前端面すなわち後壁17の前端面及び角部15a’に当接し、ドアインナパネル6と後側のブラケット7との両方に衝突荷重が確実に分散されるので、ドアビーム4の後端4aの位置ずれを確実に抑止することができる。
なお、本発明の車両用ドアビームのブラケット構造は、上記実施形態の構成に限られるものではない。例えば、上記実施形態においては、後側のブラケット7に凸形状部22を設けたが、例えば凸形状部22を省略した場合には、ドアビーム4の後端4aを後側のブラケット7の中央部20にビーム溶接等で固定する。
また、上記実施形態においては、後側のブラケット7の車両内側の接合部19の上半部分28をドアインナパネル6に溶接30で固定し、車両内側の接合部19の下半部分29をドアインナパネル6にドアサッシュブラケット32で共締め固定(33)したが、これとは逆に、車両内側の接合部19の上半部分28をドアサッシュブラケット32で共締め固定し、車両内側の接合部19の下半部分29を溶接で固定することも可能であり、この場合は後側のブラケット7の中央部20の少なくとも上側の縁部にフランジ部26を設けることが好ましい。