以下、本発明を詳細に説明する。
(1)環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン
本発明における環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンとは、パラフェニレンケトン、およびパラフェニレンエーテルを繰り返し構造単位に持つ、下記一般式(I)で表される環式化合物である。
上記式(I)における繰り返し数nは整数を表し、nの範囲は2〜40であり、2〜20がより好ましく、2〜15がさらに好ましく、2〜10が特に好ましい範囲として例示できる。繰り返し数nが大きくなると環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの融点が高くなる傾向にあるため、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンを低温で融解させるとの観点から、繰り返し数nを前記範囲にすることが好ましい。
また、式(I)で表される環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンは異なる繰り返し数nからなる混合物であることが好ましく、少なくとも異なる3つ以上の繰り返し数nからなる環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン混合物であることがさらに好ましく、4つ以上の繰り返し数nからなる混合物であることがより好ましく、5つ以上の繰り返し数nからなる混合物であることが特に好ましい。さらに、これら繰り返し数nが連続するものであることが特に好ましい。単一の繰り返し数nを有する単独化合物と比較して異なる繰り返し数nからなる混合物の融点は低くなる傾向にあり、さらに2種類の異なる繰り返し数nからなる環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン混合物と比較して、3種類以上の繰り返し数nからなる混合物の融点はさらに低くなる傾向にあり、さらに不連続の繰り返し数nからなる混合物よりも連続する繰り返し数nからなる混合物の方がさらに溶融解温度が低くなる傾向にある。なおここで、各繰り返し数nを有する環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンは高速液体クロマトグラフィーによる成分分割により分析が可能であり、さらに環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの組成、即ち環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンに含まれる各繰り返し数nを有する環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの重量分率は、高速液体クロマトグラフフィーにおける各環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンのピーク面積比率より算出することが可能である。
さらに、本発明の環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物は融点が340℃以下であり、対応する線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンと比較して融点が低いという特徴を有する。その融点としては340℃以下であることが好ましく、270℃以下であることがより好ましく、さらに好ましくは230℃以下であることが例示できる。環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物の融点が低いほど加工温度を下げることが可能であり、さらには環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンをポリフェニレンエーテルエーテルケトンプレポリマーとして用いて高重合度体を得る際のプロセス温度を低く設定可能となるため加工に要するエネルギーを低減し得るとの観点で有利となる。なおここで、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物の融点は示差走査型熱量測定装置を用いて吸熱ピーク温度を観測することにより測定することが可能である。 また、本発明における環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物は、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンを60重量%以上含む環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物であり、65重量%以上含む組成物であることがより好ましく、70重量%以上含むことがさらに好ましく、75重量%以上含む組成物であることがよりいっそう好ましい。環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物における不純物成分、即ち環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン以外の成分としては線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンを主に挙げることができる。この線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンは融点が高いため、線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの重量分率が高くなると環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物の融点が高くなる傾向にある。従って、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物における環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの重量分率が上記範囲にあることで、融点の低い環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物となる傾向にあり、さらに環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物をポリフェニレンエーテルエーテルケトンプレポリマーとして用いた際に、十分に高重合度化が進行したポリフェニレンエーテルエーテルケトンが得られるという観点からも環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物における環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの重量分率が上記範囲にあることが好ましい。
上記のような特徴を有する本発明の環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物の還元粘度(η)としては、0.1dL/g以下であることが好ましく例示でき、0.09dL/g以下であることがより好ましく、0.08dL/g以下であることがさらに好ましく例示できる。なお、本発明における還元粘度とは特に断りのない限り、濃度0.1g/dL(環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物、または線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの重量/98重量%濃硫酸の容量)の濃硫酸溶液について、スルホン化の影響を最小にするために溶解完了直後に、25℃においてオストワルド型粘度計を用いて測定した値である。また、還元粘度の計算は下記式により行った。
η={(t/t0)−1}/C
(ここでのtはサンプル溶液の通過秒数、t0は溶媒(98重量%濃硫酸)の通過秒数、Cは溶液の濃度を表す)。
本発明の環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの製造方法としては、上記した特徴を有する環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンを製造できれば如何なる方法でも問題ないが、好ましい方法として少なくともジハロゲン化芳香族ケトン化合物、塩基、ジヒドロキシ芳香族化合物、及び有機極性溶媒を含む混合物を加熱して反応させることによる製造方法を用いることが可能である。
ここで、ジハロゲン化芳香族ケトン化合物の具体例としては、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ジブロモベンゾフェノン、4,4’−ジヨードベンゾフェノン、4−フルオロ−4’−クロロベンゾフェノン、4−フルオロ−4’−ブロモベンゾフェノン、4−フルオロ−4’−ヨードベンゾフェノン、4−クロロ−4’−ブロモベンゾフェノン、4−クロロ−4’−ヨードベンゾフェノン、4−ブロモ−4’−ヨードベンゾフェノン、1,4−ビス(4−(4−フルオロベンゾイル)フェノキシ)ベンゼンなどが挙げられ、これらの中でも4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノンが好ましく4,4’−ジフルオロベンゾフェノンがより好ましい具体例として挙げることができる。
塩基としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウムなどのアルカリ金属の炭酸塩、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウムなどのアルカリ土類金属の炭酸塩、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ルビジウム、炭酸水素セシウムなどのアルカリ金属の重炭酸塩、炭酸水素カルシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸水素バリウムなどのアルカリ土類金属の重炭酸塩、または水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムなどのアルカリ金属の水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物を挙げることができ、なかでも経済性・反応性の観点から炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの炭酸塩、および炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどの重炭酸塩が好ましく、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムがさらに好ましく用いられる。これらは単独で用いても良いし、2種類以上を混合して用いても問題ない。また、アルカリは無水物の形で用いることが好ましいが、水和物または水性混合物として用いることも可能である。なお、ここでの水性混合物とは水溶液、もしくは水溶液と固体成分の混合物、もしくは水と固体成分の混合物のことを指す。
本発明で用いられるジヒドロキシ芳香族化合物としては、ヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゾフェノンを好ましい具体例として挙げることができ、特にヒドロキノンが好ましい。これらジヒドロキシ芳香族化合物は単独で用いても良いし、2種類以上の混合物として用いても良い。
これらジヒドロキシ芳香族化合物の使用量は、ジハロゲン化芳香族ケトン化合物1.0モルに対し、0.8〜1.2モルの範囲であることが好ましく、0.9〜1.1モルの範囲がより好ましく、0.95〜1.05モルの範囲がさらに好ましく、0.98〜1.03モルの範囲が特に好ましい。ジヒドロキシ芳香族化合物の使用量を上記好ましい範囲にすることで、生成した環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの分解反応が抑制可能であり、かつ環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンとの分離が困難な線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの生成も抑制できる傾向にあるため好ましい。
また、本発明の環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物の製造において用いる有機極性溶媒としては、反応の阻害や生成した環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの分解などの好ましくない副反応を実質的に引き起こさないものであれば特に制限はない。このような有機極性溶媒の具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチル尿素などの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ジフェニルスルホン、スルホランなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、ベンゾニトリルなどのニトリル系溶媒、ジフェニルエーテルなどのジアリールエーテル類、ベンゾフェノン、アセトフェノンなどのケトン類、およびこれらの混合物などが挙げられる。これらはいずれも反応の安定性が高いため好ましく使用されるが、なかでもN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシドが好ましく、N−メチル−2−ピロリドンが特に好ましく用いられる。これら有機極性溶媒は高温領域での安定性に優れ、さらに入手性の観点からも好ましい有機極性溶媒であると言える。
上記製造方法により環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物を製造する際の混合物中の有機極性溶媒の量は、好ましくは混合物中のベンゼン環成分1.0モルに対して1.15リットル以上、より好ましくは1.30リットル以上、さらに好ましくは1.50リットル以上、特に好ましくは2.00リットル以上である。また、混合物中の有機極性溶媒量の上限に特に制限はないが、混合物中のベンゼン環成分1.0モルに対して100リットル以下であることが好ましく、50リットル以下がより好ましく、20リットル以下がさらに好ましく、10リットル以下が特に好ましい。有機極性溶媒の使用量を多くすると、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン生成の選択率が向上する傾向となるが、多すぎる場合、反応容器の単位体積当たりの環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの生成量が低下する傾向にあり、さらに反応に要する時間が長時間化する傾向にある。従って、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの生成選択率と生産性を両立するとの観点から、前記した有機極性溶媒の使用範囲とすることが好ましい。なお、ここでの有機極性溶媒の量は、常温常圧下での溶媒の体積を基準とし、反応混合物における有機極性溶媒の使用量とは、反応系内に導入した有機極性溶媒量から脱水操作中などに反応系外に除外された有機極性溶媒量を差し引いた量である。また、ここでの混合物中のベンゼン環成分とは、反応により環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン構成成分となり得る原料に含まれるベンゼン環成分であり、これら原料におけるベンゼン環成分の「モル数」とは「化合物を構成するベンゼン環の数」を表す。例えば、4,4’−ジフルオロベンゾフェノンはベンゼン環成分2モル、ヒドロキノン1モルはベンゼン環成分1モル、さらに4,4’−ジフルオロベンゾフェノン1モルとヒドロキノン1モルを含む混合物はベンゼン環成分3モルを含む混合物と計算する。なお、トルエンなど反応により環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン構成成分と成り得ない成分はベンゼン環成分として考慮しない。
少なくともジハロゲン化芳香族ケトン化合物、塩基、ジヒドロキシ芳香族化合物、及び有機極性溶媒を含む混合物を加熱して反応させることによる環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物の製造方法における塩基の使用量は、例えば炭酸ナトリウムや炭酸カリウムのような2価の塩基の使用量をAモル、炭酸水素ナトリウムや炭酸水素カリウムのような1価の塩基の使用量をBモルとした場合、ジヒドロキシ芳香族化合物に対して化学量論的比率より大きい比率であればよく、塩基の具体的な使用量はジヒドロキシ芳香族化合物に対して(A+2B)が1.00から1.10モルの範囲にあることが好ましく、1.00モルから1.05モルの範囲にあることがより好ましく、1.00から1.03モルの範囲にあることがさらに好ましく例示できる。環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物を製造する際に、別途調製したジヒドロキシ芳香族化合物の金属塩を用いる場合には、塩基を追加して、過剰量の塩基を供給することができる。この供給する塩基の過剰量は、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物を製造するために用いたジヒドロキシ芳香族化合物1.0モルに対して(A+2B)が0〜0.10モルの範囲にあることが好ましく、0〜0.05モルの範囲にあることが好ましく、0〜0.03モルの範囲にあることがさらに好ましく例示できる。環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物を製造する際の塩基の使用量がこれら好適な範囲にあることにより、ジヒドロキシ芳香族化合物の金属塩を十分に生成させることが可能であり、さらに大過剰の塩基による生成した環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの分解反応といった好ましくない反応の進行を抑制することもできるため好ましい。
少なくともジハロゲン化芳香族ケトン化合物、塩基、ジヒドロキシ芳香族化合物、および有機極性溶媒を含む混合物を加熱して反応させる反応温度は、反応に用いるジハロゲン化芳香族ケトン化合物、塩基、及び有機極性溶媒さらにはジヒドロキシ芳香族化合物の種類、量によって多様化するため一意的に決めることはできないが、通常120〜350℃、好ましくは130〜320℃、より好ましくは140〜300℃の範囲が例示できる。この好ましい温度範囲ではより高い反応速度が得られる傾向にある。また、反応は一定の温度で行う1段階反応、段階的に温度を上げていく多段反応、あるいは連続的に温度を変化させていく形式の反応のいずれでも構わない。
反応時間は、使用した原料の種類や量あるいは反応温度に依存するので一概に規定することはできないが、0.1時間以上が好ましく、0.5時間以上がより好ましく、1時間以上がさらに好ましい。この好ましい時間以上とすることで、未反応の原料成分を十分に減少できる傾向にある。一方、反応時間に特に上限はないが、40時間以内でも十分に反応が進行し、好ましくは10時間以内、より好ましくは6時間以内も採用できる。
少なくともジハロゲン化芳香族ケトン化合物、塩基、ジヒドロキシ芳香族化合物、及び有機極性溶媒を含む混合物を加熱して反応させる際、混合物には前記必須成分以外に反応を著しく阻害しない成分や、反応を加速する効果を有する成分を加えることも可能である。また、反応を行う方法に特に制限はないが、撹拌条件下に行うことが好ましい。さらに、本発明の環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物を製造する方法においては、バッチ式および連続式などの公知の各種重合方式、反応方式を採用することができる。また、製造における雰囲気は非酸化性雰囲気下が望ましく、窒素、ヘリウム、およびアルゴンなどの不活性雰囲気下で行うことが好ましく、経済性および取り扱いの容易さから窒素雰囲気下で行うことが好ましい。
また、上記反応は反応系内に水が多量に存在すると、反応速度の低下や環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物との分離が困難な副反応生成物が生成するといった悪影響が顕在化する傾向にある。従って、塩基として水和物や水性混合物を用いた場合の水や、反応により副生する水を反応系外に除外することが重要である。反応中に系内に存在する水分量としては2.0重量%以下であることが好ましく、1.0重量%以下であることがさらに好ましく、0.5重量%以下であることがより好ましく、0.1重量%以下であることが特に好ましく、この好ましい範囲以下となるように必要に応じて脱水操作を行うことが重要となる。なお、ここでの系内に存在する水分量は反応混合物総重量に対する重量分率であり、水分量はカールフィッシャー法により測定することができる。脱水操作を行う時期に特に制限はないが、(ア)必須成分を混合した後、または(イ)ジハロゲン化芳香族ケトン化合物以外の必須成分を混合した後であることが好ましい。ここで、(イ)による方法で脱水操作を行った場合、脱水操作後にジハロゲン化芳香族ケトン化合物、もしくはジハロゲン化芳香族ケトン化合物および有機極性溶媒を加えることにより環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物の製造を行う。水の除去方法としては、反応系外に水を取り除くことができれば如何なる方法でも良く、例えば高温加熱による脱水や共沸溶媒を用いた共沸蒸留による方法が挙げられ、なかでも脱水効率の観点から共沸蒸留による方法が好ましい方法として挙げられる。ここで、共沸蒸留に用いられる共沸溶媒としては、水との共沸混合物を形成し得る有機化合物であり、且つ共沸混合物の沸点が反応に用いる有機極性溶媒の沸点よりも低いものであれば問題なく、具体的にはヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの不活性塩素化芳香族化合物などが挙げられ、なかでもトルエン、キシレンを好ましい共沸溶媒として挙げることができる。また、共沸溶媒の量は系内に存在する水の量や溶媒の種類により水との共沸混合物を形成するための必要量が異なるため一概に規定することはできないが、反応系内の水を共沸混合物として除去するのに必要な量よりも過剰量の溶媒を用いるのが好ましく、具体的には混合物中のジハロゲン化芳香族ケトン化合物1.0モルに対して0.2リットル以上が好ましく、0.5リットル以上がより好ましく、1.0リットル以上がさらに好ましい。さらに共沸溶媒量の上限に特に制限はないが、混合物中のジハロゲン化芳香族ケトン化合物1.0モルに対して20.0リットル以下であることが好ましく、10.0リットル以下であることがさらに好ましく、5.0リットル以下であることがより好ましい。共沸溶媒の使用量が多すぎる場合、混合物の極性が低下するため、塩基とジハロゲン化芳香族ケトン化合物の反応、もしくは塩基とジヒドロキシ芳香族化合物の反応の効率が低下する傾向にある。なお、ここでの共沸溶媒の量は、常温常圧下での溶媒の体積を基準とする。また、ディーン・スターク装置の原理を用いて水の共沸蒸留を行う場合、反応系内の共沸溶媒量を常に一定に保つことができるため、用いる共沸溶媒量をさらに少なくすることも可能である。反応系外に水を取り除く際の温度は、共沸溶媒の種類により水との共沸混合物の沸点が異なるため一意的に決めることはできないが、水との共沸混合物の沸点以上であり反応に用いる有機極性溶媒の沸点以下であることが好ましく、具体的には60〜170℃の範囲が例示でき、好ましくは80〜170℃、より好ましくは100〜170℃、さらに好ましくは120〜170℃の範囲が例示できる。なお、水の除去は好ましい温度範囲内における一定温度で行う方法、段階的に温度を上げていく方法、もしくは連続的に温度を変化させていく形式の方法のいずれでも構わない。さらに、上記共沸蒸留を減圧下で行うことも好ましい方法であり、減圧下で行うことにより、より効率よく水の除去を行える傾向にある。
上記の共沸溶媒は、共沸蒸留後に系内から除外することが好ましい。共沸溶媒を系内から除外する時期は水の共沸蒸留の終了後であることが好ましく、さらに上記(イ)による方法で脱水操作を行った場合、共沸溶媒の除去はジハロゲン化芳香族ケトン化合物、もしくはジハロゲン化芳香族ケトン化合物および有機極性溶媒を加える前の段階で行うことが好ましい。共沸溶媒が系内に多量に残存すると、反応系の極性が下がり、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン生成反応速度が低下する傾向にあるため、共沸溶媒の除去操作は必要となる。環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン生成反応中に系内に存在する共沸溶媒量としては、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン生成反応に用いている有機極性溶媒に対して20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、8%以下であることがさらに好ましく、6%以下であることが特に好ましい。この好ましい範囲以下となるように共沸溶媒の除去を行うことが重要である。共沸溶媒の除去方法としては蒸留による方法が好ましく、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスをキャリアーガスとして用いても良い。また、減圧下で蒸留を行うことも好ましい方法であり、より効率よく共沸溶媒の除去が可能となる傾向にある。また、共沸溶媒の除去を行う温度は、共沸溶媒を反応系から除外できれば如何なる温度でも良いが、具体的には60〜170℃の範囲が例示でき、好ましくは100〜170℃、より好ましくは120〜170℃、さらに好ましくは140〜170℃の範囲が例示できる。なお、共沸溶媒の除去は好ましい温度範囲における一定温度で行う方法、段階的に温度を上げていく方法、あるいは連続的に温度を変化させていく形式のいずれでも構わない。
本発明の環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物は、前述した製造方法により得られた反応混合物から分離回収することにより得ることが可能である。上記製造方法により得られた反応混合物には少なくとも環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン、線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトン及び有機極性溶媒が含まれ、その他成分として未反応原料や副生塩、水、共沸溶媒などが含まれる場合もある。この様な反応混合物から環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物を回収する方法に特に制限はなく、例えば必要に応じて有機極性溶媒の一部もしくは大部分を蒸留などの操作により除去した後に、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン成分に対する溶解性が低く且つ有機極性溶媒と混和し、副生塩に対して溶解性を有する溶剤と必要に応じて加熱下で接触させて、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンを線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンとの混合固体として回収する方法が例示できる。このような特性を有する溶剤は一般に比較的極性の高い溶剤であり、用いた有機極性溶媒や副生塩の種類により好ましい溶剤は異なるので限定はできないが、例えば水やメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノールに代表されるアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンに代表されるケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどに代表される酢酸エステル類が例示でき、入手性、経済性の観点から水、メタノール及びアセトンが好ましく、水が特に好ましい。
このような溶剤による処理を行うことにより、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンと線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンとの混合固体に含有される有機極性溶媒や副生塩の量を低減することが可能である。この処理により環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン及び線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンは共に固体成分として析出するので、公知の固液分離法により環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン及び線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの混合物を回収することが可能である。固液分離方法としては、例えば濾過による分離、遠心分離、デカンテーションなどを例示できる。なお、これら一連の処理は必要に応じて数回繰り返すことも可能であり、これにより環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンと線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンとの混合固体に含有される有機極性溶媒や副生塩の量がさらに低減される傾向にある。
また、上記の溶剤による処理方法としては、溶剤と反応混合物を混合する方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。溶剤による処理を行う際の温度に特に制限はないが、20〜220℃の範囲が好ましく、50〜200℃の範囲がさらに好ましい。このような範囲では例えば副生塩の除去が容易となり、また比較的低圧の状態で処理を行うことが可能であるため好ましい。ここで、溶剤として水を用いる場合、水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましいが、必要に応じてギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、アクリル酸、クロトン酸、安息香酸、サリチル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸などの有機酸性化合物及びそのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩、また、硫酸やリン酸、塩酸、炭酸、珪酸などの無機酸性化合物およびアンモニウムイオンなどを含む水溶液を用いることも可能である。この処理後に得られた環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンと線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンとの混合固体が、処理に用いた溶剤を含有する場合には必要に応じて乾燥などを行い、溶剤を除去することも可能である。
上記した回収方法では、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンは線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンとの混合物として回収され、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物が得られる。この組成物の環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの含有量をさらに上げるために、この混合物から環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンを分離回収する方法としては、例えば環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンと線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの溶解性の差を利用した分離方法、より具体的には、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンに対する溶解性が高く、且つ線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンに対する溶解性に乏しい溶剤を、必要に応じて加熱下で上記環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンと線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンとの混合物と接触させて、溶剤可溶成分として環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンを得る方法が例示できる。一般に線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンは結晶性が高く、溶剤への溶解性が非常に低いという特徴を有することが知られており、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンと線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの溶剤への溶解性の違いが大きいため、上記の溶解性の差を利用した分離方法により効率よく環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンを得ることが可能である。
ここで用いる溶剤としては環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンを溶解可能な溶剤であれば特に制限はないが、溶解を行う環境において環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンは溶解するが、線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンは溶解しにくい溶剤が好ましく、線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンは溶解しない溶剤がより好ましい。環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンと線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンとの混合物を前記溶剤と接触させる際の反応系圧力は常圧もしくは微加圧が好ましく、特に常圧が好ましく、このような圧力の反応系はそれを構築する反応器の部材が安価であるという利点がある。このような観点から反応系圧力は、高価な耐圧容器を必要とする加圧条件は避けることが望ましい。用いる溶剤としてはポリフェニレンエーテルエーテルケトン成分の分解や架橋など好ましくない副反応を実質的に引き起こさないものが好ましく、上記混合物を溶剤と接触させる操作を、例えば常圧還流条件下で行う場合に好ましい溶剤としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素系溶媒、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエンなどのハロゲン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテルなどのエーテル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、トリメチルリン酸、N,N−ジメチルイミダゾリジノンなどの極性溶媒を例示できるが、なかでもベンゼン、トルエン、キシレン、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、トリメチルリン酸、N,N−ジメチルイミダゾリジノンが好ましく、トルエン、キシレン、クロロホルム、塩化メチレン、テトラヒドロフランがより好ましく例示できる。
環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンと線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンからなる混合物を溶剤と接触させる際の雰囲気に特に制限はないが、非酸化性雰囲気下で行うことが好ましく、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、この中でも特に経済性および取り扱いの容易さの観点から窒素雰囲気下で行うことが好ましい。
上記、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンと線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンからなる混合物を溶剤と接触させる温度に特に制限はないが、一般に温度が高いほど環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの溶剤への溶解は促進される傾向にある。前記した通り、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン及び線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンからなる混合物の溶剤との接触は常圧下で行うことが好適であるため、上限温度は使用する溶剤の大気圧下での還流温度にすることが好ましく、前記した好ましい溶剤を用いる場合には例えば20〜150℃を具体的な温度範囲として例示できる。
環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンと線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンからなる混合物を溶剤と接触させる時間は、用いる溶剤の種類や温度などによって異なるため一意的には限定できないが、例えば1分〜50時間が例示でき、このような範囲では環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの溶剤への溶解が十分になる傾向にある。
上記混合物を溶剤と接触させる方法は、公知の一般的な手法を用いれば良く、特に限定はないが、例えば環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン及び線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンからなる混合物と溶剤を混合し、必要に応じて撹拌した後に溶液部分を回収する方法、各種フィルター上の上記混合物に溶剤をシャワーすると同時に環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンを溶剤に溶解させる方法、ソックスレー抽出法原理による方法などいかなる方法も用いることができる。環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン及び線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンからなる混合物と溶剤を接触させる際の溶剤の使用量に特に制限はないが、例えば混合物重量に対する浴比で0.5〜100の範囲が例示できる。浴比がこの様な範囲の場合、上記混合物と溶剤を均一に混合し易く、また環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンが溶剤に十分に溶解し易くなる傾向にある。一般に浴比が大きい方が環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの溶剤への溶解には有利であるが、大きすぎてもそれ以上の効果は望めず、逆に溶剤使用量増大による経済的不益が生じることがある。なお、混合物と溶剤の接触を繰り返し行う場合は、小さい浴比でも十分な効果が得られる場合が多く、ソックスレー抽出法は、その原理上、類似の効果が得られるのでこの場合も小さい浴比で十分な効果が得られる場合が多い。
環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンと線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの混合物を溶剤と接触させた後に、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンを溶解した溶液が固形状の線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンを含む固液スラリー状で得られた場合、公知の固液分離法を用いて溶液部を回収することが好ましい。固液分離方法としては、例えば濾過による分離、遠心分離、デカンテーションなどを例示できる。このようにして分離した溶液から溶剤の除去を行うことにより環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの回収が可能となる。一方、固体成分については環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンがまだ残存している場合、再度溶剤との接触及び溶液の回収を繰り返し行うことでより収率よく環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンを得ることも可能である。
前述のようにして得られた環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンを含む溶液から溶剤の除去を行い、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンを固形成分として得ることが可能である。ここで溶剤の除去は、例えば加熱し、常圧下で処理する方法や、膜を利用した溶剤除去を例示できるが、より収率良く、また効率よく環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンを得るとの観点では常圧以下で加熱して溶剤を除去する方法が好ましい。なお、前述のようにして得られた環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンを含む溶液は温度によっては固形物を含む場合もあるが、この場合の固形物も環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物に属する物であるので、溶剤の除去時に溶剤に可溶の成分とともに回収することが好ましく、これにより収率よく環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物を得られるようになる。ここで溶剤の除去は、少なくとも50重量%以上、好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上、よりいっそう好ましくは95重量%以上の溶剤を除去することが好ましい。加熱による溶剤の除去を行う際の温度は用いる溶剤の種類に依存するため一意的には限定できないが、通常、20〜150℃、好ましくは40〜120℃の範囲が選択できる。また、溶剤の除去を行う圧力は常圧以下が好ましく、これにより溶剤の除去をより低温で行うことが可能となる。
(2)ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの製造方法
次に本発明の環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物を用いたポリフェニレンエーテルエーテルケトンの製造方法について説明する。
本発明は、前記環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物を金属アルコキシドおよび/または金属フェノキシド存在下で加熱開環重合し、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの残存率を5%以下まで反応をさせることにより、高融点かつ高結晶性ポリフェニレンエーテルエーテルケトンを製造することを特徴としている。
ここで、本発明におけるポリフェニレンエーテルエーテルケトンとは、パラフェニレンケトン、およびパラフェニレンエーテルを繰り返し構造単位に持つ、下記一般式(II)で表される線状化合物である。
式(II)における繰り返し数mに特に制限はないが、10〜10000の範囲が例示でき、20〜5000の範囲が好ましく、30〜1000の範囲がより好ましく例示できる。
本発明の環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物を加熱開環重合させることによりポリフェニレンエーテルエーテルケトンへと転化する際の加熱温度は、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物が融解する温度以上であり、340℃未満であることが好ましい。加熱温度が環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物の融点未満の温度では加熱開環重合によりポリフェニレンエーテルエーテルケトンを得るのに長時間が必要になる、もしくは加熱開環重合が進行せずにポリフェニレンエーテルエーテルケトンが得られなくなる傾向にある。なお、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物が融解する温度は、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物の組成や分子量、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物に含まれる環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物の重量分率、さらには加熱時の環境により変化するため、一意的に示すことはできないが、例えば環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物を示差走査型熱量測定装置で分析することにより融点を把握することが可能である。加熱温度の下限としては、150℃以上が例示でき、好ましくは180℃以上、より好ましくは200℃以上、さらに好ましくは220℃以上である。この温度範囲では、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物が融解し、短時間でポリフェニレンエーテルエーテルケトンを得ることができる傾向にある。一方、加熱開環重合の温度が高すぎると環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン間、生成したポリフェニレンエーテルエーテルケトン間、およびポリフェニレンエーテルエーテルケトンと環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン間などでの架橋反応や分解反応に代表される好ましくない副反応が生じやすくなる傾向にあり、得られるポリフェニレンエーテルエーテルケトンの特性(結晶化度や融点)が低下する場合があるため、このような好ましくない副反応が顕著に生じる温度は避けることが望ましい。加熱温度の上限としては、340℃未満が例示でき、好ましくは320℃以下、より好ましくは300℃以下である。
本発明の環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物を加熱開環重合させることによりポリフェニレンエーテルエーテルケトンへと転化する際の加熱開環重合時間は、使用する環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物における環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの重量分率や組成比、加熱温度や加熱開環重合方法などの条件によって異なるため一様には規定できないが、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物の残存率が5%以下になるまで反応させるように設定する必要があり、0.5時間〜6時間の範囲が例示でき、0.5時間〜4時間が好ましく、1時間〜4時間がより好ましい。これら好ましい加熱開環重合時間とすることにより、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物のポリフェニレンエーテルエーテルケトンへの転化が十分に進行し易く、更に架橋反応などの好ましくない副反応の進行に起因する、得られるポリフェニレンエーテルエーテルケトンの特性への悪影響を抑制できる傾向にある。
環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物を加熱開環重合させることにより、 本発明のポリフェニレンエーテルエーテルケトンを得るためには、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物の残存率が5%以下になるまで反応させることが好ましい。なお、本発明における環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物の残存率とは特に断りがない限り、高速液体クロマトグラフィーを用いて、算出した値である。ここで、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物の残存率は、加熱開環重合して得られたポリフェニレンエーテルエーテルケトンを約30mgとり、高速液体クロマトグラフィーにより環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンを定量することで求められる値である。
環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物を加熱開環重合させることにより、本発明のポリフェニレンエーテルエーテルケトンを得るためには、転化する際に用いる金属アルコキシドおよび/または金属フェノキシドは、開環重合のアニオン重合開始剤として用いられる。金属アルコキシドとして具体的には、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、リチウムメトキシド、セシウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、リチウムエトキシド、セシウムエトキシド、ナトリウムn−ブトキシド、カリウムn−ブトキシド、リチウムn−ブトキシド、セシウムn−ブトキシド、ナトリウムs−ブトキシド、カリウムs−ブトキシド、リチウムs−ブトキシド、セシウムs−ブトキシド、ナトリウムt−ブトキシド、カリウムt−ブトキシド、リチウムt−ブトキシド、セシウムt−ブトキシド、ナトリウムn−プロポキシド、カリウムn−プロポキシド、リチウムn−プロポキシド、セシウムn−プロポキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムイソプロポキシド、リチウムイソプロポキシド、セシウムイソプロポキシド、ナトリウムシクロヘキサノレート、カリウムシクノヘキサノレート、リチウムシクロヘキサノレート、セシウムシクロヘキサノレート等の炭素数1〜20の脂肪族アルコールのアルカリ金属塩を例示することができる。また、金属フェノキシドとして具体的にはナトリウムフェノキシド、カリウムフェノキシド、リチウムフェノキシド、セシウムフェノキシド、ナトリウム4−フェニルフェノキシド、カリウム4−フェニルフェノキシド、リチウム4−フェニルフェノキシド、セシウム4−フェニルフェノキシド、ナトリウム4−フェノキシフェノキシド、カリウム4−フェノキシフェノキシド、リチウム4−フェノキシフェノキシド、セシウム4−フェノキシフェノキシド、ナトリウム4−ベンゾイルフェノキシド、カリウム4−ベンゾイルフェノキシド、リチウム4−ベンゾイルフェノキシド、セシウム4−ベンゾイルフェノキシド、ナトリウム2−ベンジルフェノキシド、カリウム2−ベンジルフェノキシド、リチウム2−ベンジルフェノキシド、ナトリウム4−ベンジルフェノキシド、カリウム4−ベンジルフェノキシド、リチウム4−ベンジルフェノキシド等のフェノール類のアルカリ金属塩、4,4−ジヒドロキシビフェニルのナトリウム塩、4,4−ジヒドロキシビフェニルのカリウム塩、4,4−ジヒドロキシビフェニルのリチウム塩、4,4−ジヒドロキシビフェニルのセシウム塩、ビスフェノールAのナトリウム塩、ビスフェノールAのカリウム塩、ビスフェノールAのリチウム塩、ビスフェノールAのセシウム塩などのビフェノール類のアルカリ金属塩を例示することができ、上記フェノキシド中の芳香環にはアルキル基、フェニル基、ハロゲン原子、その他ヘテロ原子を含む官能基などの置換基があってもよい。
これら金属アルコキシドおよび/または金属フェノキシドは単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物の加熱開環重合をこれら金属アルコキシドおよび/または金属フェノキシドの存在下に行うことにより、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンが短時間で得られる傾向にあり、かつ得られるポリフェニレンエーテルエーテルケトン中に前記架橋反応や分解反応に由来する異物がほとんど存在することがない。ここで異物とは、得られるポリフェニレンエーテルエーテルケトンと98重量%濃硫酸を室温、10mg/mLの濃度で混合した際に、98重量%濃硫酸中に溶解しない物のことを言う。
使用する金属アルコキシドおよび/または金属フェノキシドの量は、目的とするポリフェニレンエーテルエーテルケトンの分子量ならびに金属アルコキシドおよび/または金属フェノキシドの種類により異なるが、通常、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの主要構成単位である式−(O−Ph−O−Ph−CO−Ph)−の繰り返し単位1モルに対して、0.001〜50モル%、好ましくは0.005〜20モル%、さらに好ましくは0.01〜15モル%、より好ましくは0.05〜10モル%である。この好ましい範囲の量の金属アルコキシドおよび/または金属フェノキシドを添加することにより、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物の加熱開環重合が短時間で進行し、かつ十分に高分子量化させ易い傾向にある。 これら金属アルコキシドおよび/または金属フェノキシドの添加に関しては、そのまま添加しても構わないが、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物に金属アルコキシドおよび/または金属フェノキシドを添加した後、均一に分散させることが好ましい。均一に分散させる方法として、例えば機械的に分散させる方法、溶媒を用いて分散させる方法などが挙げられる。機械的に分散させる方法として、具体的には粉砕機、撹拌機、混合機、振とう機、乳鉢を用いる方法などが例示できる。溶媒を用いて分散させる方法として、具体的には環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物を適当な溶媒に溶解または分散させ、これに金属アルコキシドおよび/または金属フェノキシドを加え、溶解または分散させた後、溶媒を除去する方法などが例示できる。また、金属アルコキシドおよび/または金属フェノキシドの分散に際して、金属アルコキシドおよび/または金属フェノキシドが固体である場合、より均一な分散が可能となるため金属アルコキシドおよび/または金属フェノキシドの平均粒径は1mm以下であることが好ましい。
環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物の加熱開環重合は、溶媒中または実質的に溶媒を含まない条件下のいずれでも行うことが可能であるが、短時間での昇温が可能であり、反応速度が速く、短時間でポリフェニレンエーテルエーテルケトンが得やすい傾向にあるため、実質的に溶媒を含まない条件下で行うことが好ましい。ここでの実質的に溶媒を含まない条件とは、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物中の溶媒が20重量%以下であることを指し、10重量%以下が好ましく、5重量%以下がより好ましい。
環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物の加熱開環重合の際の雰囲気は特に制限されないが、非酸化性雰囲気で行うことが好ましく、減圧条件下で行うことも好ましい。また、減圧条件下で行う場合、反応系内の雰囲気を一度非酸化性雰囲気としてから減圧条件にすることが好ましい。これにより環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン間、生成したポリフェニレンエーテルエーテルケトン間、およびポリフェニレンエーテルエーテルケトンと環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン間などでの架橋反応や分解反応などの好ましくない副反応の発生を抑制できる傾向にある。なお、非酸化性雰囲気とは環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンが接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性および取り扱いの容易さの観点からは窒素雰囲気が好ましい。また、減圧条件下とは反応を行う系内が大気圧よりも低いことを指し、上限として50kPa以下が好ましく、20kPa以下がより好ましく、10kPa以下がさらに好ましい。下限としては0.1kPa以上が例示でき、0.2kPa以上がより好ましい。減圧条件が好ましい下限以上では、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物に含まれる分子量の低い環式化合物が揮散しにくく、一方好ましい上限以下では、架橋反応など好ましくない副反応が起こりにくい傾向にある。
また、加熱方法としては、通常の重合反応装置を用いる方法で行うのはもちろんのこと、成形品を製造する型内で行っても良いし、押出機や溶融混練機を用いて行うなど、加熱機構を具備した装置であれば特に制限なく行うことが可能であり、バッチ式、連続式など公知の方法が採用できる。
本発明の環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの加熱開環重合は繊維状物質の共存下で行うことも可能である。ここで繊維状物質とは細い糸状の物質のことであって、天然繊維のごとく細長く引き延ばされた構造である任意の物質が好ましい。繊維状物質の存在下で環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物のポリフェニレンエーテルエーテルケトンへの転化を行うことで、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンと繊維状物質からなる複合材料構造体を容易に作成することができる。このような構造体は、繊維状物質によって補強されるため、ポリフェニレンエーテルエーテルケトン単独の場合に比べて、例えば機械物性に優れる傾向にある。
ここで、各種繊維状物質の中でも長繊維からなる強化繊維を用いることが好ましく、これによりポリフェニレンエーテルエーテルケトンを高度に強化することが可能になる。一般に樹脂と繊維状物質からなる複合材料構造体を作成する際には、樹脂が溶融した際の粘度が高いことに起因して、樹脂と繊維状物質の濡れが悪くなる傾向にあり、均一な複合材料ができないことや、期待通りの機械物性が発現しないことが多い。ここで濡れとは、溶融樹脂のごとき流体物質と、繊維状化合物のごとき固体基質との間に実質的に空気または他のガスが捕捉されないように、この流体物質と固体基質との物理的状態の良好かつ維持された接触があることを意味する。ここで流体物質の粘度が低い方が繊維状物質との濡れは良好になる傾向にある。本発明の環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物は融解した際の粘度が、一般的な熱可塑性樹脂、例えばポリフェニレンエーテルエーテルケトンと比べて著しく低いため、繊維状物質との濡れが良好になりやすい傾向にある。環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物と繊維状物質が良好な濡れを形成した後、本発明のポリフェニレンエーテルエーテルケトンの製造方法によれば環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物がポリフェニレンエーテルエーテルケトンに転化するので、繊維状物質とポリフェニレンエーテルエーテルケトンが良好な濡れを形成した複合材料構造体を容易に得ることができる。
繊維状物質としては長繊維からなる強化繊維が好ましいことは前述した通りであり、本発明に用いられる強化繊維に特に制限はないが、好適に用いられる強化繊維としては、一般に、高性能強化繊維として用いられる耐熱性および引張強度の良好な繊維が挙げられる。例えば、その強化繊維には、ガラス繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維が挙げられる。このうち、比強度、比弾性率が良好で、軽量化に大きな寄与が認められる炭素繊維や黒鉛繊維が最も良好なものとして例示できる。炭素繊維や黒鉛繊維は用途に応じて、あらゆる種類の炭素繊維や黒鉛繊維を用いることが可能であるが、引張強度450Kgf/mm2、引張進度1.6%以上の高強度高伸度炭素繊維が最も適している。長繊維状の強化繊維を用いる場合、その長さは5cm以上であることが好ましい。この長さの範囲では、強化繊維の強度を複合材料として十分に発現させることが容易となる。また、炭素繊維や黒鉛繊維は、他の強化繊維を混合して用いても構わない。また、強化繊維は、その形状や配列を限定されず、例えば、単一方向、ランダム方向、シート状、マット状、織物状、組み紐状であても使用可能である。また、特に比強度、比弾性率が高いことを要求される用途には、強化繊維が単一方向に引き揃えられた配列が最も適しているが、取り扱いの容易なクロス(織物)状の配列も本発明には適している。
また、前記した環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物のポリフェニレンエーテルエーテルケトンへの転化は充填剤の存在下で行うことも可能である。充填剤としては、例えば非繊維状ガラス、非繊維状炭素や、無機充填剤、例えば炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミナなどを例示できる。
かくして得られたポリフェニレンエーテルエーテルケトンは、射出成形、射出圧縮成形、ブロー成形、押出成形、プレス成形など通常の成形方法により、自動車部品、電気・電子部品、建築部材、各種容器など各種用途や繊維、シート、フィルムおよびパイプなどに成形し利用することができる。
(3)ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの特性
本発明により得られるポリフェニレンエーテルエーテルケトンの融点は、350〜390℃の範囲が好ましく、350℃〜380℃がより好ましい。得られるポリフェニレンエーテルエーテルケトンの融点が上記好ましい範囲にあるとき、高い耐熱性や、成形加工品の機械特性や耐薬品性が得られ易い。なお、本発明における融点とは特に断りがない限り、セイコー電子工業製ロボットDSC RDC220を用い、窒素雰囲気下、得られたポリマーの熱的特性を測定した値である。
本発明により得られるポリフェニレンエーテルエーテルケトンの結晶化度は、50〜100%の範囲が好ましく、50%〜80%の範囲がより好ましい。得られるポリフェニレンエーテルエーテルケトンの結晶化度が上記好ましい範囲にあるとき、高い耐熱性や、成形加工品の機械特性や耐薬品性が得られ易い。なお、本発明における結晶化度とは特に断りがない限り、セイコー電子工業製ロボットDSC RDC220を用い、窒素雰囲気下、得られたポリマーの熱的特性を測定した融解熱の値と、理論的に100%ポリフェニレンエーテルエーテルケトンが結晶化したとした融解熱130J/gに対する割合である。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。
<1>環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物の評価
環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの各種物性は高速液体クロマトグラフィー、示差走査型熱量測定装置(DSC)、赤外分光分析装置(IR)、オストワルド型粘度計を用いて測定、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの定量分析は高速液体クロマトグラフィーにて行った。詳細な分析条件は以下の通りである。
<環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン含有量および組成>
環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物中の環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン混合物含有量および含有環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成は高速液体クロマトグラフィーにより下記条件にて測定した。
装置 :島津株式会社製 LC−10Avpシリーズ
カラム :Mightysil RP−18GP150−4.6
検出器 :フォトダイオードアレイ検出器(UV=270nmを使用)
カラム温度 :40℃
サンプル濃度:0.02重量%テトラヒドロフラン(THF)溶液
移動相 :THF/0.1重量%トリフルオロ酢酸水溶液
<環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの熱特性>
セイコー電子工業製ロボットDSC RDC220を用い、窒素雰囲気下、得られたポリマーの熱的特性を測定した。下記測定条件を用い、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの融点はSecond Runの吸熱ピークの値を用いた。
(First Run)
・50℃×1分 ホールド
・50℃から380℃へ昇温,昇温速度20℃/分
・昇温後×1分 ホールド
50℃へ降温,降温速度20℃/分
(Second Run)
・50℃×1分 ホールド
・50℃から380℃へ昇温,昇温速度20℃/分
<環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの粘度(還元粘度)測定>
粘度計 :オストワルド型粘度計
溶媒 :98重量%硫酸
サンプル濃度 :0.1g/dL(サンプル重量/溶媒容量)
測定温度 :25℃
還元粘度計算式:η={(t/t0)−1)/C
t :サンプル溶液の通過秒数
t0 :溶媒の通過秒数
C :溶液の濃度。
<赤外分光分析装置>
装置 :Perkin Elmer System 2000 FT−IR
サンプル調製:KBr法。
<2>ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの評価
ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの各種物性は示差走査型熱量測定装置(DSC)、を用いて測定した。加熱開環重合物の環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの残存量は高速液体クロマトグラフィーにて行った。詳細な分析条件は以下の通りである。
<ポリフェニレンエーテルエーテルケトン中の環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン残存量>
加熱開環重合により得られたポリフェニレンエーテルエーテルケトン中の環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン残存量は、生成物を約30mgとり、o−ジクロロベンゼンとp−クロロフェノールを体積比4対6割合で混合したものを1.5ml加えて、200℃で60分攪拌し溶解させた後、その溶液をTHFで希釈し、高速液体クロマトグラフィーにより下記条件にて測定した。
装置 :島津株式会社製 LC−10Avpシリーズ
カラム :Mightysil RP−18GP150−4.6
検出器 :フォトダイオードアレイ検出器(UV=270nmを使用)
カラム温度 :40℃
サンプル濃度:0.02重量%テトラヒドロフラン(THF)溶液
移動相 :THF/0.1重量%トリフルオロ酢酸水溶液
<ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの熱特性>
セイコー電子工業製ロボットDSC RDC220を用い、窒素雰囲気下、得られたポリマーの熱的特性を測定した。下記測定条件を用い、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの融点はFirst Runの吸熱ピークの値を用いた。また、結晶化度は理論計算値で100%結晶化ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの融解熱130J/g(Polymer、24巻、953頁(1983年))および、重合物のFirst Runの吸熱ピークの面積から算出した融解熱の割合を用いて、式(I)により、計算した。
式(I):結晶化度(%)={生成物の融解熱 (J/g)}/{130 (J/g)}× 100
(First Run)
・50℃×1分 ホールド
・50℃から400℃へ昇温,昇温速度20℃/分
・昇温後×1分 ホールド
50℃へ降温,降温速度20℃/分。
[参考例1]環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物の製造
攪拌機を具備した1リットルのオートクレーブに4,4’−ジフルオロベンゾフェノン10.91g(50mmol)、ヒドロキノン5.51g(50mmol)、無水炭酸カリウム6.91g(50mmol)、N−メチル−2−ピロリドン500mLを仕込んだ。混合物中のベンゼン環成分1.0モルに対するN−メチル−2−ピロリドンの量は3.33リットルである。
反応容器を室温・常圧下にて窒素ガス下に密閉した後、400rpmで撹拌しながら、室温から140℃まで昇温し140℃で1時間保持、その後180℃にまで昇温し180℃で3時間保持、その後230℃にまで昇温し230℃で5時間保持し反応を行った。反応終了後、室温にまで冷却して反応混合物を調製した。
得られた反応混合物を約0.2g秤取り、THF約4.5gで希釈、濾過によりTHF不溶成分を分離除去することにより高速液体クロマトグラフィー分析サンプルを調製、反応混合物の分析を行った。結果、繰り返し数n=2〜8の連続する7種類の環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの生成を確認、ヒドロキノンに対する環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン混合物の収率は11.5%であった。
このようにして得られた反応混合物50gを分取し、1重量%酢酸水溶液150gを加えた。撹拌してスラリー状にした後、70℃に加熱して30分間撹拌を継続した。スラリーをガラスフィルター(平均孔径10〜16μm)で濾過して固形分を得た。得られた固形分を脱イオン水50gに分散させ70℃で30分間保持して濾過して固形分を得る操作を3回繰り返した。得られた固形分を70℃で一晩真空乾燥に処し、乾燥固体約1.24gを得た。
さらに、上記で得られた乾燥固体1.0gに対してクロロホルム100gを用いて、浴温80℃で5時間ソックスレー抽出を行った。得られた抽出液からエバポレーターを用いてクロロホルムを除去して固形分を得た。この固形分にクロロホルム2gを加えた後、超音波洗浄器を用いて分散液として、メタノール30gに滴下した。これにより生じた析出成分を平均ポアサイズ1μmの濾紙を用いて濾別後、70℃で3時間真空乾燥に処し、白色固体を得た。得られた白色固体は0.11g、反応に用いたヒドロキノンに対する収率は11.3%であった。
この白色粉末は赤外分光分析における吸収スペクトルよりフェニレンエーテルケトン単位からなる化合物であることを確認、また、高速液体クロマトグラフィーによる分析から、繰り返し数n=2〜8の連続する7種類の環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物中における環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン混合物の重量分率は85%であることが分かった。なお、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物における環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン以外の成分は線状ポリフェニレンエーテルエーテルケトンオリゴマーであった。
このような環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物の融点を測定した結果、159℃の融点を有することが分かった。また、還元粘度を測定した結果、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物は0.02dL/g未満の還元粘度を有していることが分かった。
[参考例2]環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物の製造
ここでは、Macromoleculues、29巻、5502頁(1996年)に記載の環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの製造方法に準じた合成について記す。
冷却管、ディーン・スターク装置、窒素吹き込み管を具備した2リットルの4つ口フラスコにヒドロキノン66.07g(600mmol)、炭酸カリウム91.22g(660mmol)、ジメチルアセトアミド500mL、トルエン260mLを入れ、撹拌しながら窒素気流下で120℃に加熱して4時間還流を行いながら溶媒、原料中の水分を除いた。反応溶液を室温まで冷却し、さらに、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン6.55g(30mmol)を加えた後に135℃で24時間加熱し、トルエンを除いた。さらに、5時間加熱を続けた後に室温まで冷却し、反応溶液を2.5Lの水中に滴下し、生じた固形分を平均ポアサイズ1μmの濾紙を用いて濾別後、80℃で12時間真空乾燥を行った。乾燥して得られた乾燥固体を、アセトンにより6時間かけてソックスレー抽出し、さらに、アセトン溶液をシリカゲルカラム(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=1.5/1)により精製した。これにより、4,4’−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゾフェノン10.54gを得た。
冷却管、窒素吹き込み管、ディーン・スターク装置を具備した1リットルの4つ口フラスコにジメチルアセトアミド150mL、トルエン78mLを入れ、120℃で4時間加熱、溶媒中に含まれる水を除いた後に、135℃で24時間加熱し、トルエンを留去させた。次に、炭酸カリウム0.654g(3.6mmol)を加え、さらに上記4,4’−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゾフェノン1.195g(3.0mmol)と1,4−ビス(4−(4−フルオロベンゾイル)フェノキシ)ベンゼン1.520g(3.0mmol)を36時間かけて4回に分けて加え、全量加えた後に、さらに65時間反応を続けた。反応溶液をエバポレーターにより濃縮し、濃縮液を水中に滴下し沈殿物を濾過により除去、濾液を回収、これを乾燥させ、乾燥固体0.844gを得た。この乾燥固体をさらにクロロホルムにより6時間かけてソックスレー抽出し、白色固体0.809gを得た。
得られた白色固体を約2mg秤取り、THF10gで希釈、濾過によりTHF不溶成分を分離除去することにより高速液体クロマトグラフィー分析サンプルを調製、反応混合物の分析を行った。結果、繰り返し数n=3、6の2種類の環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの生成を確認、また、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物中における環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン混合物の重量分率は94%であることが分かった。
この白色粉末は赤外分光分析における吸収スペクトルよりフェニレンエーテルケトン単位からなる化合物であることが分かった。
このような環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物の融点を測定した結果、275℃の融点を有することが分かった。また、還元粘度を測定した結果、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物は0.02dL/g未満の還元粘度を有していることが分かった。
[実施例1]ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの製造
参考例1で得られた環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物に、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの主要構成単位である式−(O−Ph−O−Ph−CO−Ph)−の繰り返し単位に対してカリウム4−フェニルフェノキシドを5モル%混合した粉末200mgを、ガラス製アンプルに仕込み、アンプル内を窒素で置換した。320℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し60分間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、黒色固体を得た。
示差走査型熱量分析装置を用いて、黒色固体の分析を行った結果、融点が363℃で、結晶化度が53%であることが分かった。また、黒色固体を約30mgとり、o−ジクロロベンゼンとp−クロロフェノールを体積比4対6割合で混合したものを1.5ml加えて、200℃で60分攪拌した。得られた溶液を約0.2g秤取り、THF約4.5gで希釈、濾過によりTHF不溶成分を分離除去することにより高速液体クロマトグラフィー分析サンプルを調製、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン残存量の分析を行った。結果、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン混合物の残存率は0.4%であることが分かった。
[実施例2]ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの製造
用いた環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物を参考例2で得られたものに変更したこと以外は、実施例1と同様に行い、同様に黒色固体を得た。得られた黒色固体の評価結果を表1にまとめて示す。
[実施例3]ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの製造
カリウム4−フェニルフェノキシドを1モル%混合し、反応時間を240分に変更したこと以外は、実施例1と同様に行い、同様に黒色固体を得た。得られた黒色固体の評価結果を表1にまとめて示す。
[実施例4]ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの製造
反応温度を300℃、反応時間を240分に変更したこと以外は、実施例1と同様に行い、同様に黒色固体を得た。得られた黒色固体の評価結果を表2にまとめて示す。
[比較例1]ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの製造
カリウム4−フェニルフェノキシドを1モル%混合し、反応時間を30分に変更したこと以外は、実施例1と同様に行い、同様に黒色固体を得た。得られた黒色固体の評価結果を表4にまとめて示す。
[比較例2]ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの製造
フッ化セシウムを5モル%混合し、反応温度を350℃、反応時間を30分に変更したこと以外は、実施例1と同様に行い、同様に黒色固体を得た。得られた黒色固体の評価結果を表1にまとめて示す。
[比較例3]ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの製造
反応温度を360℃に変更したこと以外は、実施例1と同様に行い、同様に黒色固体を得た。得られた黒色固体の評価結果を表1にまとめて示す。
[比較例4]ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの製造
用いた環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトン組成物を参考例2で得られたものにし、反応時間を10分間に変更した以外は、実施例1と同様に行い、同様に黒色固体を得た。得られた黒色固体の評価結果を表7にまとめて示す。
[比較例5]ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの製造
ここでは、特開昭59−93724号公報の実施例に記載の一般的な方法によるポリフェニレンエーテルエーテルケトンの製造法について記す。
攪拌機、窒素導入管およびエアコンデサーを備えた三つ首ガラスフラスコに4,4−ジフオロベンゾフェノン(21.82g、0.10mol)、ハイドロキノン(11.01g、0.10mol)およびジフェニルスルホン(60g)を加えた。これらの原料を攪拌しながら、180℃に加熱してほとんど無色の溶液とし、そして窒素ブランケットを維持しながら、無水炭酸カリウム(14.0g、0.101mol)を加えた。その後、温度を200℃に上げその温度を1時間保ち、次いで温度を250℃に上げその温度を1時間保ち、最後に温度を320℃に上げその温度に1時間保った。この反応混合物を冷却し、そして得られた固体の反応生成物を摩砕して目開き500μmの篩を通るものを回収した。アセトンで2回、水で3回そしてアセトン/メタノールで2回次々に洗浄することによりジフェニルスルホンおよび無機塩を除去した。得られた固体を140℃で真空乾燥し、重合体を得た。重合体の融点は334℃であった。
以上、実施例1〜4と比較例1〜5の結果より、残存する環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンが5%以下になるまで、環式ポリフェニレンエーテルエーテルケトンの加熱開環重合を行うことより、融点350℃以上であり、かつ結晶化度が50%以上であることを特徴とする、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンが得られることが分かる。
また、一般的なポリフェニレンエーテルエーテルケトンの製造方法では、融点350℃以上であり、かつ結晶化度が50%以上であることを特徴とする、ポリフェニレンエーテルエーテルケトンが得られないことが分かる。