JP6216184B2 - 蓄冷体 - Google Patents

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Description

本発明は、蓄冷剤の過冷却を解消することが可能な蓄冷体に関する。
蓄冷剤容器に蓄冷剤が収容された蓄冷体は、予め蓄冷体を冷凍庫などに収容して蓄冷剤を冷凍させて使用され、使用時の融解潜熱によって長時間保冷作用を発揮することができる。このような蓄冷剤の凝固には過冷却現象が伴うため、蓄冷剤の潜熱を確実に利用するためには、一般的には、蓄冷剤の凝固点よりも10K程低い温度まで冷却可能な冷凍機が必要と言われている。そのため、冷凍機にかかる負荷が増加するという問題が発生する。
過冷却現象の抑制方法としては、超音波を付与することにより蓄冷剤の凝固を早める方法がある(例えば、非特許文献1及び2を参照)。しかし、コストがかかる上、大量の蓄冷剤を一気に冷凍させる場合には不向きである。また、蓄冷剤容器中に蓄冷剤とともに異物質を混入させる方法もある(例えば、特許文献1及び2を参照)。しかし、特許文献1及び2のいずれの場合も、作業が面倒であり、容器が破れやすいという問題がある。
また、本発明者らにより、過冷度を小さくできる保冷装置として、第一の液体が充填されて密封された第一の容器と、第一の容器内に配置された第二の容器とを具備し、第二の容器には第一の液体よりも凝固温度の高い第二の液体が充填されて密封され、第二の容器の少なくとも一部分は、第二の液体が少なくとも部分的に通過可能であると共に第一の液体が通過不能である膜からなる保冷装置が提案されている(例えば、特許文献3を参照)。しかし、この保冷装置は、第二の容器に氷核が通過する膜と弾性膜があり、第二容器の構造が複雑であり、しかも保冷装置を繰り返し使用すると、第一の液体に第二の液体が進入し、第二の容器で氷核を生成する能力が低下し、過冷度が大きくなるおそれがある。このように、安全で氷核能力が高く且つ安定した性能を有する蓄冷体はなかなか見当たらない。
このような事情に鑑み、本発明者らにより、膜を用いた過冷却解消方法により過冷却現象を能動的に制御して凝固を促進させる蓄冷体が提案されている(例えば、特許文献4を参照)。この蓄冷体は、蓄冷剤容器に蓄冷剤とともに収容されたカプセル状の過冷度低減装置内に水を充填し、さらに、該装置の外殻の少なくとも一部に伸長可能な膜を用い、その膜に切れ込みを形成したものである。この蓄冷体では、蓄冷剤が凝固点に達する前に過冷度低減装置内の水が凝固し、凝固に伴う体積膨張を利用して切れ込みが開き、氷面が蓄冷剤側に露出することで蓄冷剤側の氷核となり、凝固が伝播する仕組みになっている。このような仕組みにより、特許文献4の蓄冷体によれば、蓄冷剤の過冷度を低減することができる。
実開昭63−60854号公報 特開平2−73582号公報 特開2006−343066号公報 特開2013−50228号公報
稲田孝明,矢部 彰,小澤由行,神生直敏,田中 誠:第34回日本伝熱シンポ講論,703 (1997) 宝積 勉,松井龍之,齋藤彬夫,大河誠司:冷空論, 16 (2), 141 (1999)
しかしながら、上記特許文献4に記載された蓄冷体では、過冷度低減装置の膜に形成された切れ込みが開く際、切れ込みの口径が大き過ぎると、蓄冷剤側の溶質が過冷度低減装置内の水に混入し、過冷度低減装置内外の凝固点の差による凝固の伝播効果がなくなってしまう。その結果、過冷却の解消効果がなくなってしまう。一方、切れ込みの口径が小さ過ぎると、過冷度低減装置内の水の凝固による体積膨張によっても切れ込みが閉じたままになり(開かず)、凝固が伝播しないことから過冷却を解消することができない。このように、特許文献4の蓄冷体では、切れ込みの口径が大き過ぎても小さ過ぎても、長期間安定して過冷却の解消効果を有することができないという問題があった。
そこで、本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、切れ込みの口径に関わらず、蓄冷剤中の溶質の過冷度低減装置内への混入を抑制し、且つ、凝固の伝播効果を長期に亘って安定して維持することで、長期間安定して過冷却の解消効果を有する蓄冷体を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、蓄冷剤よりも高い凝固温度を有する液体の凝固伝播剤(例えば、水)を収容する過冷却解消装置(特許文献4の過冷度低減装置に相当する装置)の外殻の一部をなす伸縮可能な熱可塑性樹脂からなる膜に、該膜を貫通する開口部(切れ込み)と、該開口部を開閉可能な少なくとも1つの開閉機構とを形成することにより、開口部の口径に関わらず、蓄冷剤中の溶質の過冷度低減装置内への混入を抑制し、且つ、凝固の伝播効果を長期に亘って安定して維持できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、蓄冷剤容器内に、蓄冷剤と、該蓄冷剤の過冷却を解消する過冷却解消装置とが収容された蓄冷体であって、前記過冷却解消装置は、外殻内に、前記蓄冷剤よりも高い凝固温度を有する液体の凝固伝播剤を収容するとともに、前記外殻の少なくとも一部として伸縮可能な熱可塑性樹脂からなる膜を有し、前記膜は、該膜を貫通する開口部と、該開口部を開閉可能な少なくとも1つの開閉機構とを有し、前記開閉機構は、前記凝固伝播剤が凝固する際の体積増加による前記膜の伸長により略閉止されている前記開口部を開放し、前記凝固伝播剤が融解する際の体積減少による前記膜の収縮により開放されている前記開口部を略閉止することを特徴とする、蓄冷体である。
前記開閉機構が、前記開口部の両端に設けられていてもよい。
前記開閉機構が、前記開口部を開閉可能な弁であってもよい。
前記伸縮可能な熱可塑性樹脂が、スチレンエラストマーであってもよい。
JIS K6251に準拠して測定した前記スチレンエラストマーの伸長率が、10%以上2000%以下であることが好ましい。
前記伸長可能な熱可塑性樹脂が、粘着性を有さないことが好ましい。
前記凝固伝播剤が、水であってもよい。
前記開口部が、貫通孔又は開口したスリット状の溝であってもよい。
前記開口部の口径が、0.1mm以上であることが好ましい。
本発明によれば、蓄冷剤よりも高い凝固温度を有する液体の凝固伝播剤(例えば、水)を収容する過冷却解消装置の外殻の一部をなす伸縮可能な熱可塑性樹脂からなる膜に、該膜を貫通する開口部(切れ込み)と、該開口部を開閉可能な少なくとも1つの開閉機構とを形成することにより、開口部の口径に関わらず、蓄冷剤中の溶質の過冷度低減装置内への混入を抑制し、且つ、凝固の伝播効果を長期に亘って安定して維持でき、これにより、長期間安定して過冷却の解消効果を有することが可能となる。
本発明の好適な実施形態に係る蓄冷体の外観構成を示す斜視図である。 図1の蓄冷体を2−2線で切断した断面図である。 同実施形態に係る過冷却解消装置の構成を示す断面図である。 同実施形態に係る開口部及び弁の具体的な構造例を示す模式図である。 同実施形態に係る開口部及び弁の形成に用いられる線材の形状例を示す模式図である。 実験例1で作成した平坦な端面を有する銅線を用いて作成した開口部及び弁の例を示す写真である。 実験例1で作成した平坦な端面を有する銅線を用いて作成した開口部及び弁の例を示す写真である。 図7(a)に対応した開口部の断面図の一例である。 実験例1で作成した尖った端面を有する銅線を用いて作成した開口部及び弁の例を示す写真である。 実験例1で作成した尖った端面を有する銅線を用いて作成した開口部及び弁の例を示す写真である。 実験例1で用いた過冷却解消装置の概略図である。 高さHmaxと高さHminを説明するための模式図である。 実験例1で行った膜の反対側から空気を挿入する実験の結果を示すグラフである。 実験例1で使用した蓄冷体を模した実験装置を示す模式図である。 図14の実験装置を用いて行った実験の結果を示すグラフである。 凝固融解を10回繰り返した後の過冷却解消装置内の水中の塩濃度とHmaxとの関係を示すグラフである。 図16(a)の○印の例に対応した開口部の断面図である。 図16(b)の尖った端面を有する銅線を用いた場合の結果から得られた過冷却解消装置内の水中の塩の平均濃度と凝固伝播確率との関係を示すグラフである。 実験例2における実験装置の概略図である。 実験例2で、加熱温度が過冷却解消効果に与える影響を調べた実験の結果を示すグラフである。 実験例2で、加工保持時間が0秒、加熱温度は100℃の条件で作成した膜の開口部の断面画像である。 実験例2で、加工保持時間が0秒、加熱温度は110℃の条件で作成した膜の開口部の断面画像である。 実験例2で、加工保持時間が0秒、加熱温度は120℃の条件で作成した膜の開口部の断面画像である。 図22の開口部を表側から観察した画像である。 図22の開口部を裏側から観察した画像である。 実験例2で、加熱温度100℃、加工保持時間1秒で作成した開口部の断面画像である。 実験例2で、加熱温度100℃、加工保持時間3秒で作成した開口部の断面画像である。 比較例1における過冷却の状態を示すグラフである。 比較例2における過冷却の状態を示すグラフである。 比較例3の膜に形成された開口部の状態を示す写真である。
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面においては、同一の符号が付された構成要素は、実質的に同一の構造または機能を有するものとする。
なお、本発明に係る蓄冷体については、以下の順序で説明する。
1 蓄冷体の構成
1−1 蓄冷剤容器
1−2 蓄冷剤
1−3 過冷却解消装置
2 蓄冷体の作用
2−1 蓄冷体の凝固伝播の原理
2−2 開口部の開閉動作及び開閉機構の作用
3 蓄冷体の製造方法
≪蓄冷体の構成≫
まず、図1及び図2を参照しながら、本発明の好適な実施形態に係る蓄冷体10の構成について説明する。図1は、本発明の好適な実施形態に係る蓄冷体10の外観構成を示す斜視図である。図2は、図1の蓄冷体10を2−2線で切断した断面図である。
図1及び図2に示すように、蓄冷体10は、蓄冷剤容器11と、蓄冷剤容器11内に収容された蓄冷剤21及び過冷却解消装置31と、を備える。
<蓄冷剤容器11>
蓄冷剤容器11は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン若しくはポリアミド、ポリエステル等のプラスチック容器、アルミニウム等の金属性容器、又は、アルミプレート等がインサートされた樹脂製複合容器、ラミネートフィルムを熱シールした柔軟な袋状容器等である。特に、パリソンを用いてインジェクションブロー成形した中空平板状に製造されたものが多く使用される。蓄冷剤容器11の平面視形状は、矩形その他の多角形等、任意の形状とされるが、この例では略長方形とされている。なお、本実施形態における蓄冷剤容器11の大きさも特に限定はされず、用途に応じて適宜外形寸法を定めればよい。また、蓄冷剤容器11には、側面に蓄冷剤充填口13が形成されている。この蓄冷剤充填口13は、蓄冷剤21及び過冷却解消装置31の収容後、キャップが嵌められ、接着剤、熱融着あるいは高周波融着等により封止される。
<蓄冷剤21>
蓄冷剤21としては、冷凍食品等の保冷に用いられる公知の蓄冷剤を使用することができ、特に限定されるものではないが、例えば、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化マグネシウム等の無機塩の水溶液、メタノールやエタノール等のアルコール水溶液、あるいは水溶性高分子にゲル化剤(天然高分子、硫酸カリウムアルミニウム、アンモニウムミョウバン、カルボキシメチルセルロースナトリウム等)を添加したもの、これらの混合物等が挙げられる。ここで、例えば、冷凍食品は、通常−18℃以下程度の低温に保持する必要があることから、蓄冷体10を冷凍食品の輸送時の保冷等の用途として用いる場合には、蓄冷剤21として、上記低温の凝固点を有する蓄冷剤を使用することが好ましい。また、無機塩の水溶液の濃度を変えることで蓄冷剤21の凝固点を調整することができ、ゲル化剤の種類と濃度を変えることで蓄冷剤21の粘度を調整することができる。
<過冷却解消装置31>
過冷却解消装置31は、上述した蓄冷剤21の過冷却を解消するために、蓄冷剤容器11中に収容されるものである。ここで、図3を参照しながら、過冷却解消装置31の構成を説明する。図3は、本実施形態に係る過冷却解消装置31の構成を示す断面図であり、(a)は開口部35が閉止されている状態を示しており、(b)は開口部35が開放されている状態を示している。
図3に示すように、過冷却解消装置31は、外殻32と、外殻32内に収容された凝固伝播剤42とを有する。
(凝固伝播剤42)
凝固伝播剤42は、蓄冷剤21よりも高い凝固温度を有する液体である。これにより、蓄冷体10を冷凍させる際に、凝固伝播剤42は、蓄冷剤21よりも先に凝固し、蓄冷剤21がその凝固温度に到達したときに既に凝固している凝固伝播剤42が蓄冷剤21の氷核となるような結晶構造を有している。このような凝固伝播剤42としては、蓄冷剤21よりも凝固温度の高い液体であれば特に制限されるものではないが、凝固温度が低いことから水が好適である。また、凝固伝播剤42として用いられる水は、純水でなくてもよく、例えば、水道水を用いることもできる。さらには、凝固伝播剤42としては、水ではなく、蓄冷剤21よりも濃度の低い無機塩の水溶液等であってもよい。
(外殻32)
外殻32は、上述した凝固伝播剤42を収容可能な容器(カプセル)であり、その形状や大きさは、蓄冷剤容器11内に収容可能なものであれば特に制限されるものではなく、適宜定めることができる。また、外殻32の少なくとも一部が伸縮可能な熱可塑性樹脂からなる膜33となっており、残りの部分が外殻本体34となっている。本発明に係る外殻の一例として図3に示した外殻32は、一端が略半球(ドーム)状の形状を有し他端が開口した略円筒状の外殻本体34と、外殻本体34の開口34aを覆うように設けられたシート状の膜33とからなる。なお、外殻32は、蓄冷剤容器11とは物理的に別体の部材として設けられているが、このような形態には限られず、例えば、蓄冷剤容器11の内部を複数の領域に仕切る隔壁(図示せず。)であり、この隔壁で囲まれた領域内に凝固伝播剤42が収容されていてもよい。また、本実施形態では、膜33が外殻32の一部として設けられているが、外殻32全体としての機械的強度を担保でき、後述する開口部35の開閉が可能であれば、外殻本体34を設けずに外殻32全体が膜33で構成されていてもよい。
外殻本体34の材質は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン又はポリアミド、ポリエステル等のプラスチックからなる。本実施形態の外殻本体34は、ポリプロピレンからなり、一端に略半球状の部分を有し、他端に開口34aを有する略円筒形に形成されている。
膜33は、外殻本体34の開口34aを覆うように設けられている。この膜33は、弾性を有する膜であり、張力により伸長し、張力解放により収縮する(元に戻る)伸縮可能な熱可塑性樹脂からなる。このように、膜33を構成する樹脂が熱可塑性を有することにより、後述する加熱した線材を膜33に貫通させることで膜33に開口部35を形成する際に、樹脂が熱で融解して開口部35が形成され、線材を膜33から引き抜いた後に融解した樹脂が再度凝固する際に、開口部35の形状が定まるとともに弁36が形成される。また、膜33を構成する伸縮可能な熱可塑性樹脂は、蓄冷体10の使用温度範囲、例えば0℃〜−60℃の範囲で伸縮性(弾性)を有するものであればよい。このような熱可塑性樹脂としては、伸長率(JIS K6251に準拠して測定されるもの)が10%以上2000%以下であるスチレンエラストマーが好ましい。なお、JIS K6251では、測定温度条件を適宜選択して測定できることが記載されているが、本実施形態に係るスチレンエラストマーの伸長率は、蓄冷体10の使用温度域内(特に、凝固伝播剤42の凝固温度付近)の所定温度で測定した値を用いる。後述するように、膜33は、凝固伝播剤42の凝固による体積膨張に伴い伸長することから、その伸長率は、少なくとも水等の凝固伝播剤42の体積膨張に追従する必要がある。なお、膜33に使用可能なスチレンエラストマーとしては、水添スチレンブロック共重合体を含む。
水添スチレンブロック共重合体は、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(SEPS)、及びスチレンエチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(SEEPS)からなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物である。スチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(SEPS)は、通常、イソプレンが1、4結合で90%以上反応することで得られる。
水添スチレンブロック共重合体の含有量は、スチレンエラストマーを十分な機械強度にしたり、スチレンエラストマーのアスキーC硬度を容易に1以上に調整できたりする点で、組成物の全重量当たり、12重量%以上であることが好ましく、16重量%以上であることがより好ましい。また、スチレンエラストマーのアスキーC硬度を容易に30以下に調整できたり、二軸押出機にて十分ゲル状にできたりする点で、組成物の全重量当たり、35重量%以下であることが好ましく、30重量%以下であることがより好ましい。
水添スチレンブロック共重合体の数平均分子量は、特に制限されないが、得られる組成物の機械強度が高まる点から、10万以上であることが好ましい。40万程度のものも使用することができるが、上限は特に制限されない。
また、伸縮可能な熱可塑性樹脂としてスチレンエラストマーを使用する場合、このスチレンエラストマーには、粘着性付与物質を含むことができる。粘着性付与物質は、膜33と外殻本体34との密着性を高め、これにより、蓄冷剤容器11内の蓄冷剤21が凝固と融解(解凍)を繰り返しても、膜33が外殻本体34から剥離しにくくすることができる。このような粘着性付与物質の具体例としては、ロジン樹脂、テルペン樹脂、石油樹脂、石炭樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂等を挙げることができ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。より詳細には、ロジン樹脂として、ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン、水素添加ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、及び変性ロジン等を例示することができる。テルペン樹脂として、α−ピネン系テルペン樹脂、β−ピネン系テルペン樹脂、ジペンテン系テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、及び水添テルペン樹脂等を例示することができる。石油樹脂として、脂肪族系(C5系)石油樹脂、芳香族系(C9系)石油樹脂、共重合系(C5/C9系)石油樹脂、脂環族系(水素添加系、ジシクロペンタジエン(DCPD)系)石油樹脂、及びスチレン系(スチレン系、置換スチレン系)石油樹脂等を例示することができる。石炭樹脂として、クマロン・インデン樹脂等を例示することができる。以上のうち、低温にあっても脆化せず、エラストマーの各成分の相溶性が得られ、tanδ>1とするためには、テルペン樹脂が好ましく、さらに蓄冷剤の凝固・融解の繰り返しといったヒートサイクルに耐える組成物として、水添テルペン樹脂が特に好ましい。
スチレンエラストマー(水添スチレンブロック共重合体を用いた場合)における粘着性付与物質の含有量は、得られる組成物が所望のtanδや粘着性を有するように適宜調整すればよい。ただし、本実施形態に係る過冷却解消装置31においては、後述するように、スチレンエラストマーの粘着性が低い(さらには粘着性を有さない)方が、高い凝固伝播効果を奏するために必要な開口部35及び弁36を安定して得ることができることから、粘着性ができるだけ低い(粘着性付与物質の含有量が少ない)方が好ましく、粘着性を有さないことが特に好ましい。
伸縮性を有する熱可塑性樹脂のアスキーC硬度は、高い機械強度を得るために、1以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましい。また、粘着面と容易に整合できて実質的な粘着性が増加する点から、アスキーC硬度が30以下であることが好ましく、25以下であることがより好ましい。
また、伸縮性を有する熱可塑性樹脂のtanδは、周波数が1Hzでのピーク値である。tanδは、粘弾性試験において、貯蔵剪断弾性率(G’)と損失剪断弾性率(G”)の比であるG”/G’であり、損失正接(損失係数)と呼ばれ、材料が変形する際に材料がどのくらいエネルギーを吸収するか(熱に変える)を示している。したがって、低温環境にあっても柔軟性を示す素材を選択する点から、伸縮性を有する熱可塑性樹脂のtanδは、1を超えることが好ましく、2を超えることがより好ましい。このtanδは温度依存性があるため、そのピーク温度が実際の組成物の使用温度近くにあることにより、上記の効果をより有効に発現することが可能となる。したがって、ピーク温度は、実際の用途に応じて適宜選択すれば足りるが、冷凍冷蔵品を保管輸送する物流資材として使用するための実用性から0〜40℃にあることが好ましい。
伸縮性を有する熱可塑性樹脂として用いるスチレンエラストマーには、さらに粘着性を高めるため、軟化剤を含有してもよく、例えば、水添スチレンブロック共重合体100重量部に対して、0〜200重量部含有することができる。この場合の軟化剤としては、例えば、鉱物油系、植物油系、合成系等の各種ゴム用又は樹脂用の軟化剤の中から適宜選択することができる。ここで、鉱物油系として、ナフテン系、パラフィン系、アロマチック系などのプロセス油が例示され、植物油系として、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、梛子油、落花生油、木ろう、パインオイル、オリーブ油等が例示される。なかでも、純度や耐熱安定性等の点から、非芳香族系オイル、特に鉱物油系のパラフィン系オイル、ナフテン系オイル又は合成系のポリイソブチレン系オイルから選択される一種又は二種以上が好ましい。軟化剤の数平均分子量は、ブリードアウトが抑えられる点から、300以上であることが好ましく、350以上がより好ましい。また、べたつき感が抑えられる点から、数平均分子量が1000以下であることが好ましく、800以下であることがより好ましい。
また、本実施形態に係る膜33は、この膜33を貫通する開口部35と、開口部35を開閉可能な少なくとも1つの開閉機構を有する。この開閉機構は、凝固伝播剤42が凝固する際の体積増加による膜33の伸長により略閉止状態の開口部35を開放し、凝固伝播剤42が融解する際の体積減少による膜33の収縮により開放状態の開口部35を略閉止する。このような開閉機構の一例として、本実施形態では、開口部35の両端に、膜33の伸縮により開口部35を開閉可能な2つの弁36A、36B(2つまとめて「弁36」と記載する場合もある。)が形成されている。この弁36(36A、36B)は、本実施形態では、開口部35の両端に2つ設けられているが、必ずしも両端に弁が設けられていなくてもよく、例えば、開口部35の一端のみに1つ設けられていてもよいし、弁が設けられている箇所は、開口部35の端部でなく、例えば中央付近であってもよい。また、弁が開口部35の経路上に3つ以上設けられていてもよい。ただし、弁が複数設けられている場合には、蓄冷体10の冷凍時に、凝固伝播剤42の凝固による膜33の伸長により、全ての弁が開放され、凝固伝播剤42の融解による膜33の収縮により、全ての弁が略閉止される必要がある。また、弁36の形状やサイズは、上記機能を有するものであれば特に制限されるものではない。
ここで、図4を参照しながら、開口部35及び弁36の具体的な構造の例について説明する。図4は、本実施形態に係る開口部35及び弁36の具体的な構造例を示す模式図である。図4(a)には、開口部35の口径が大きい(内部空間が広い)第1の例を示しており、図4(b)には、開口部35の口径が小さい(内部空間が狭い)第2の例を示している。
図4(a)及び(b)に示すように、本実施形態では、開口部35の両端に弁36が形成されている。開口部35の形状や大きさは特に制限されるものではなく、(a)のように、口径が大きく開口部35の内部の空洞部分(内部空間)が広いものや、(b)のように、口径が小さく開口部35の内部の空洞部分(内部空間)が狭いもの等、様々である。また、本実施形態に係る弁36は、開口部35の両端に形成された開口部35の壁から内側に突出した形状(以下、この部分を「突出部36a」と呼ぶ。)となっているが、このような形状に制限されるものではない。
弁36は、蓄冷体10の使用時には、外殻32内の凝固伝播剤42が凝固する際の体積膨張により膜33が伸長することで開口部35を開放する。図4に示した形状の弁36の場合、膜33の伸長により、突出部36aの先端間の距離が広がり、開口部35の先端の開口部分の面積が広くなることで、開口部35が開放される。このように開口部35が開放された結果、凝固した凝固伝播剤42(凝固伝播剤42として水を用いた場合には氷)が、開放された開口部35から外殻32(すなわち、過冷却解消装置31)の外部に存在する蓄冷剤21と接触することができる。これにより、凝固した凝固伝播剤42が氷核となり、この氷核を介して蓄冷剤21に凝固が伝播していく。このような凝固メカニズムにより、本実施形態では、過冷却を解消することができる。一方、弁36は、常温等の通常時(蓄冷剤21及び凝固伝播剤42が凝固していない状態)では、開口部35を略閉止している。ここで、「略閉止」とあるのは、弁36が開口部35を完全に閉止している場合のみならず、開口部35を通して蓄冷剤21が外殻32の内部に混入しない程度の非常に小さな口径で開口部35が開放されている場合を含むことを意味している。図4に示した形状の弁36の場合、膜33が収縮する(伸長していない状態に戻る)ことにより、突出部36aの先端間の距離が接近し(理想的には突出部36aの先端が接触し)、開口部35の先端の開口部分の面積が0又は0に近くなることで、開口部35が略閉止される。このように、開口部35が略閉止状態にある場合には、外殻32内の凝固伝播剤42と液体の蓄冷剤21とが、過冷却解消装置31の内外を行き来することはできない。そのため、蓄冷剤21の溶質が外殻32内に混入し、該溶質が混入した外殻32内の凝固伝播剤42と、蓄冷剤21との凝固温度の差が小さくなり、その結果、凝固伝播剤42による凝固伝播効果が低減されるということもない。
開口部35としては、具体的には、貫通孔又は開口したスリット状の溝等が考えられるが、膜33を貫通しているものであれば、特に形状は制限されない。また、開口部35の口径(例えば、膜33の伸び率がゼロの場合の貫通孔の径やスリット状の溝の幅)は、弁36が膜33の伸縮に応じて開口部35を開閉可能となる程度であれば、特に制限はされない。ただし、凝固の伝播効果を高めるという観点からは、開口部35の口径は大きい方が好ましく、蓄冷剤21の過冷却を解消するのに十分な凝固の伝播効果(伝播確率)を得るためには、開口部35の口径は、0.1mm以上であることが好ましく、0.2mm以上であることがより好ましい。開口部35の口径は、大き過ぎると、その部分の体積膨張で弁が過度に開いてしまい、蓄冷剤21が過冷却解消装置31内に混入してしまう可能性があるため、例えば、1.0mm以下とすることが好適である。
なお、上述した開口部35や弁36の形成方法については、後述する。
≪蓄冷体の作用≫
以上、本実施形態に係る蓄冷体10の構成を詳細に説明したが、続いて、再び図3を参照しながら、上述した蓄冷体10の作用について説明する。
<蓄冷体10の凝固伝播の原理>
本実施形態に係る蓄冷体10における過冷却解消の原理は以下の通りである。凝固伝播剤42が充填された過冷却解消装置31を、凝固伝播剤42より凝固温度の低い蓄冷剤21とともに蓄冷剤容器11内に入れ、蓄冷体10全体を冷却することにより、蓄冷剤21と凝固伝播剤42との凝固温度の差によって、過冷却解消装置31内の凝固伝播剤42が、蓄冷剤21よりも先に凝固する。この際に、凝固に伴う体積膨張が発生し、これにより膜33が伸長することにより、弁36により開口部35が開放される。その後、過冷却解消装置31内の凝固体(凝固伝播剤42として水を用いた場合には氷)が、開口部35を通して蓄冷剤21側に露出し、この部分が核となり蓄冷剤21の凝固が始まる。このような現象により、蓄冷剤21のみを冷却した場合は過冷却状態が継続する温度でも、過冷却を解消させることが可能となる。
<開口部35の開閉動作及び開閉機構の作用>
ここで、本実施形態に係る蓄冷体10は、膜33に形成された開口部35の開閉機構として、膜33の伸縮に応じて開口部35を開閉可能な弁36を有する。蓄冷体10は、使用前の常温下では、図3(a)に示すように、過冷却解消装置31の膜33に形成されている開口部35が弁36により略閉止された状態となっており、また、蓄冷剤容器11内の蓄冷剤21及び過冷却解消装置31内の凝固伝播剤42(例えば、水)が液体となっている。蓄冷剤21及び凝固伝播剤42は、開口部35を通ることができず、互いに混ざることなく膜33で分離されている。
蓄冷体10は、使用に際して予め冷凍庫等で蓄冷剤21の凝固温度以下の低温に冷却される。その際、蓄冷体10が凝固伝播剤42として使用している液体(例えば、水)の凍結温度以下になると、過冷却解消装置31内の凝固伝播剤42が凝固して固体(例えば、氷)となる。そして、凝固伝播剤42が液体から固体となる(例えば、水が氷となる)際の体積増加により、図3(b)に示すように、過冷却解消装置31の外殻32が外方に押され、膜33が伸長して弁36により開口部35が開放され、開放された開口部35を介して過冷却解消装置31内の固体の凝固伝播剤(例えば、氷)に過冷却解消装置31外の蓄冷剤21が接触する。その際、開放された開口部35aが、過冷却解消装置31内の固体の凝固伝播剤42で塞がれているため、過冷却解消装置31外の蓄冷剤21は、開放された開口部35を通って過冷却解消装置31内に混入することが防止される。
さらに、蓄冷体10が冷却されて蓄冷剤21の凝固温度以下になると、開放されている開口部35の部分で蓄冷剤21と接触する固体の凝固伝播剤42が核となって蓄冷剤21の凝固が始まる。そのため、過冷却を抑えて蓄冷剤21を凝固させることができる。
また、冷却した蓄冷体10は、使用時の温度上昇によって、まず蓄冷剤21が融解して液体となり、さらなる温度上昇によって過冷却解消装置31内の固体の凝固伝播剤42(例えば、氷)が、液体(例えば、水)に戻る。過冷却解消装置31内の凝固伝播剤42が固体の間は、開放された開口部35が過冷却解消装置31内の固体の凝固伝播剤42で塞がれているため、過冷却装置31外の液体状の蓄冷剤21が、開放された開口部35を通って過冷却解消装置31内に混入するのが防止される。また、過冷却解消装置31内の固体の凝固伝播剤42(例えば、氷)が液体(例えば、水)となる場合には、固体から液体へ相変化することによる体積減少で、それまで伸長していた膜33が収縮し、弁36が開口部35を略閉止された状態とし、蓄冷剤21及び凝固伝播剤42が開口部35を通ることができず、その後においても互いに混ざることなく膜33で分離される。
また、その後の繰り返し使用により、開口部35の開閉を繰り返した場合でも、弁36が、凝固伝播剤42が固体状態のときには開口部35を開放して凝固を伝播させ、凝固伝播剤42が液体状態のときには開口部35を略閉止して蓄冷剤21と凝固伝播剤42とが混ざり合わないようにするため、蓄冷剤21と過冷却解消装置31内の凝固伝播剤42との混合が防止または抑制される。従って、本実施形態に係る蓄冷体10によれば、長期間に亘って、過冷却を解消する効果を維持することができる。
特に、本実施形態に係る蓄冷体10は、膜33の伸縮に応じて開口部35を開閉可能な弁36を有することから、凝固伝播効果をより効果的に得るために開口部35の口径を大きくしたとしても、蓄冷剤21の融解時に、上述した特許文献4に記載された蓄冷体のように、蓄冷剤21の溶質が開口部35を通して過冷却解消装置31(の外殻32)内に混入し、凝固伝播剤42(蓄冷剤21の溶質が混入したもの)と蓄冷剤21との凝固温度の差が縮まることにより、凝固伝播効果が得られなくなるといったことはない。このように、本実施形態に係る蓄冷体10によれば、蓄冷体10を繰り返し使用することで、蓄冷剤21の凝固と融解を繰り返しても、蓄冷剤21の過冷却解消装置31内への混入による凝固伝播効果の喪失といったことが起こらないため、長期間安定して高い凝固伝播効果を奏することが可能となる。
≪蓄冷体の製造方法≫
次に、上述した構成及び作用を有する本実施形態に係る蓄冷体10の製造方法について説明する。
本実施形態に係る蓄冷体10は、後述する方法により製造した過冷却解消装置31と、蓄冷剤21とを蓄冷剤容器11に収容することにより製造される。以下、過冷却解消装置31の製造方法について詳細に説明する。
<過冷却解消装置31の製造方法>
本実施形態に係る過冷却解消装置31は、開口部35及び弁36を形成した膜33と外殻本体34とを接着することで得られる外殻32内に、凝固伝播剤42を充填することにより製造される。外殻本体34と膜33との接着には、一般に樹脂等の接着に用いられる公知の接着剤(例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等)を用いればよい。なお、外殻32を膜33のみで構成する場合には、上述した伸縮性を有する熱可塑性樹脂を、凝固伝播剤42を収容可能なカプセル状、袋状、箱状等の形状に成形後、この表面の少なくとも一箇所に、開口部35及び弁36を形成すればよい。また、伸縮性を有する熱可塑性樹脂を膜状に成形し、この膜表面の少なくとも一か所に開口部35及び弁36を形成後、この膜を、凝固伝播剤42を収容可能なカプセル状、袋状、箱状等の形状に成形してもよい。
また、外殻32内への凝固伝播剤42の充填は、注射器により凝固伝播剤42を外殻32内へ注入すること、あるいは、水中で外殻本体34に膜33を接着させること等により行うことができる。また、凝固伝播剤42は、外殻32内に空気が殆ど残留していない状態で充填されることが好ましい。以下、膜33に開口部35及び弁36を形成する方法を中心に説明する。
(膜33の成形)
膜33は、上述した伸縮性を有する熱可塑性樹脂を、押し出し成形等により所望の形状(例えば、シート状、カプセル状、袋状等)に成形することで得られる。
(膜33への開口部35及び弁36の形成)
次に、上述したようにして成形された膜33に開口部35及び弁36を形成する。この開口部35及び弁36は、加熱した線材を膜33に貫通させることにより形成することができる。より具体的には、例えば、ボール盤等に上記線材を取り付け、ヒーター等の加熱手段により線材を目的の温度まで加熱し、目的の温度に達した線材を略垂直に膜33に向かって降下させ、貫通させた後に決められた時間(以下、「加熱保持時間」と記載する。)保持してから引き抜くことにより、膜33に開口部35及び弁36が形成される。
ここで、上述した機能を有する開口部35及び弁36を膜33の形成は、(1)線材の径、(2)線材の先端形状、(3)加熱温度、(4)加熱保持時間(線材を膜33に貫通させた状態で保持する時間)等の加工条件や、(5)膜33を構成する伸縮性を有する熱可塑性樹脂の粘着性、(6)膜33を構成する伸縮性を有する熱可塑性樹脂の融解温度(溶ける温度)、(7)膜33の開口部35及び弁36を形成する際の膜33の伸び率等の物性条件等に影響を受ける。したがって、上記(1)から(7)等の条件を適宜組み合わせることで、膜33に好適な(すなわち、凝固伝播効果に優れるとともに、蓄冷剤21の溶質が過冷却解消装置31内に混入しないようにできる)開口部35及び弁36を形成することができる。なお、上記条件の好適な例については、後述する実験例に示している。
線材の材質としては、加熱した状態で膜33を貫通することができる程度の機械的強度を有し、かつ、所望の温度(伸縮性を有する熱可塑性樹脂の融解温度程度以上)まで加熱することが可能な程度の熱伝導性を有する材料であれば特に制限されるものではない。本実施形態に係る線材としては、例えば、銅線、金線、銀線、アルミ線、黄銅線等を使用することができる。これらの線材としては、所望の大きさや形状の開口部35及び弁36を形成するために適した熱伝導率、熱容量、硬さを有する材質のものを適宜選択して用いればよい。
線材の径は、膜33に形成する開口部35の口径に応じて適宜決めればよい。ただし、線材の先端形状、加熱温度、加熱保持時間、伸縮性を有する熱可塑性樹脂の粘着性や融解温度、開口部35及び弁36の形成時の膜33の伸び率等によっても、開口部35の口径に影響が出るため、これらの要素を総合的に勘案して、線材の径を決めることが好ましい。
線材の先端形状としては、例えば、図5(a)に示すような平坦な端面を有するものや、(b)に示すようなマイナスドライバーのような尖った端面を有するもの、換言すれば、端面が1又は2以上の傾斜面(線材の長手方向に垂直な断面に対して傾斜した面)を有するもの(傾斜面は平面のみならず曲面であってもよい。)等が挙げられる。後述する実験例に示すように、(a)に示す平坦な端面を有する線材を用いて開口部35及び弁36を形成する場合よりも、(b)に示す尖った端面を有する線材を用いて開口部35及び弁36を形成する場合の方が、より安定して凝固伝播効果の高い開口部35及び弁36を得ることができる。
線材の加熱温度は、高いほど開口部35の口径が大きくなる。ただし、線材の加熱温度は、伸縮性を有する熱可塑性樹脂が溶ける程度であればよく、加熱温度があまりに高すぎると、開口部35の口径が大き過ぎたり、弁36がうまく形成されなかったりする。また、線材の加熱保持時間が長ければ、開口部35の口径が大きくなるため、加熱温度と加熱保持時間の両方を考慮すべきである。以上のように、所望の開口部35の口径となるように、伸縮性を有する熱可塑性樹脂の融解温度に基づき、線材の加熱温度及び加熱保持時間を決めればよい。なお、加熱温度が十分に高ければ、加熱保持時間は0でも構わない。
伸縮性を有する熱可塑性樹脂の粘着性も、開口部35の口径及び形状等や弁36の形成に影響する。本発明者らが確認したところによれば、粘着性を有しない(あるいは粘着性が低い)熱可塑性樹脂を用いた場合の方が、粘着性を有する(あるいは粘着性が高い)熱可塑性樹脂を用いた場合よりも、開口部35の口径及び形状等や弁36の形成が適切に行われ、その結果として、凝固伝播効果が高くなる。
なお、上述した特許文献4においては、膜を伸長させた状態で切れ込み(貫通孔やスリット等)を入れる必要があったが、本実施形態に係る蓄冷体10の製造方法によれば、開口部35を膜33に形成する際、膜33を伸長させた状態とする必要が無い。そのため、開口部35及び弁36の形成の際に、開口部35及び弁36の最終的な形状や大きさを予測し易い(所望の形状や大きさの開口部35及び弁36を得ることが容易となる)という効果がある。ただし、伸縮性を有する熱可塑性樹脂として、粘着性を有する(あるいは粘着性が高い)樹脂を用いた場合には、好適な形状や大きさを有する開口部35及び弁36を形成するために、必要に応じて、膜33を伸長させ所定の伸び率を有する状態で、開口部35及び弁36を形成してもよい。
次に、本発明を実施例及び比較例により、更に具体的に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
≪実験例1≫
まず、実験例1について説明する。
<実験装置及び実験方法>
(蓄冷剤)
蓄冷剤として、凝固点が−10.89℃の塩化ナトリウム水溶液(濃度15重量%)を使用した。
(膜の種類)
本実験例の膜としてはスチレンエラストマー膜を用いた。このスチレンエラストマーは、伸縮性に優れており、元のサイズの1600%まで伸長させることができる。低温域においても伸縮の能力は維持される一方、熱で融解する性質も有している。膜の厚みは1mm程度とした。スチレンエラストマーは、添加剤(粘着付与樹脂)を付与することにより粘着性を変化させることができる。本実験例では、必要に応じてこの粘着付与樹脂をスチレンエラストマー中に均一に分散させた。粘着付与樹脂を添加すると、そのガラス転移点との関係で、スチレンエラストマーの見掛け上の融点が高温側へとずれる。粘着付与樹脂の添加量により、スチレンエラストマーの見掛け上の融点と粘着性が変化するが、本実験では、膜の粘着性と膜膨張の際の開口部の開き方を調べるため、粘着付与樹脂の添加量は固定し、粘着性を有する膜(粘着性あり)と粘着性を有さない膜(粘着性なし)の2種類の膜を用意した。
(膜への開口部及び弁の形成方法)
膜への開口部及び弁の形成には、垂直に銅線を移動させる目的で、ボール盤の上下運動を利用した。ボール盤の先端に銅の棒を取り付け、その先端にφ0.4mmの銅線が5mm程度突き出るようにした。銅の棒を加熱することで温度調整を行い、銅の棒先端、すなわち銅線の根元で温度測定を行った。有限長さで端面も側面と同じ熱伝達率hで放熱していると仮定すると、下記式(1)により、膜に接する銅線先端の温度を概算することができる。
Θ:銅線先端の温度差[K]
Θ:銅線の根元の温度差[K]
λ:熱伝導率[W・m−1・K−1
m:定数(m=4h/λd、d:銅線の直径[m])
h:熱伝達率[W・m−2・K−1
L:銅線の長さ[m]
その結果、例えば、室内温度Tと銅線根元測定温度TがそれぞれT=15℃、T=110℃の場合、銅線の先端温度Tは、概ねT=109.7℃となる。従って、銅線の先端温度を測定点(銅線根元温度)とほぼ同じ温度と評価しても構わないことが分かった。銅線の先端の形状は、2種類用意した。先端の形状の概略は上述した図5に示したものと同じである。図5(a)は平坦な端面を持ったもの、図5(b)はマイナスのドライバーのように尖った端面を持ったものを例示している。銅線による膜への開口部及び弁の形成時の膜の縦方向の変形をできるだけ減らすため、直径1.2mmの孔のあいたアクリル板を膜の上下方向から挟みながら、銅線を膜に貫通させた。
図5(a)に示すような平坦な端面を有する銅線を用いて作成した開口部及び弁の例を図6及び図7に示す。これらは、凝固伝播実験及び過冷却解消装置内の塩(塩化ナトリウム)濃度の測定終了後に、過冷却解消装置の表面から切り取ったサンプルである。図中、開口部を形成した跡は全体的に凹んでおり、特に、円形の中央部の黒く見える部分は撮影の際に光が届かなかった箇所である。このとき、開口部は閉止されていた。図6及び図7の(a)と(b)とはどちらも同一条件で形成した開口部及び弁である。条件が同じであっても開口部及び弁の形状には多少のばらつきの生じていることが観察できた。図6(a)、(b)は粘着性ありの膜を用いた例、図7(a)、(b)は粘着性なしの膜を用いた例である。粘着性ありの膜を用いた場合と粘着性なしの膜を用いた場合のどちらも、膜は、所定温度に保たれた銅線により加熱されたために一度融解し、銅線を引き抜いた後に再び凝固した。この凝固したもののうち開口部の端部付近で凝固したものが弁である。本発明者らは、弁は、開口部の端部の膜面方向に働く力による影響と、一旦融解した膜の樹脂の塊が銅線を引き抜く際に開口部の端部に留まることにより形成されたものと推測している。粘着性ありの場合、粘着性を持たせるために添加した物質(粘着付与樹脂)により、膜の表面状態が変化している様子(開口部の表面がざらざらした様子になっていること)がうかがえた。本発明者らは、このような表面状態の変化が起こった原因は、スチレンエラストマー自身の融点が100℃弱であることから、融点よりも40℃ほど高い温度でスチレンエラストマー膜を融解させたことであると考えている(粘着性ありの場合、粘着性付与樹脂を添加していることから、これにより、スチレンエラストマーの見掛け上の融点が上昇している)。なお、スチレンエラストマー膜の融点は、温度を測定しながら銅線をスチレンエラストマー膜の表面に接触させることで確認しているが、添加物(粘着付与樹脂)を含んだスチレンエラストマー膜に100℃に加熱した銅線を用いて一応開口部を形成することはできる。しかし、このようにして開口部を形成した膜では、水等の凝固伝播剤の凝固による体積増加が起こり、膜が伸長しても開口部は開放されず、凝固の伝播も起こらなかった。
一方、粘着性なしの膜を用いた場合は、融解した樹脂が中央で固まり山の形になっている様子がうかがえた。この山の形になっているものが弁である。図7(a)、(b)のどちらも銅線の直径である0.4mmの円形状に変形跡が残っていた。図7(a)に対応した開口部の断面図を一例として図8に示す。図8は、開口部を中心にカッターでスチレンエラストマー膜を約1mm幅にスライスして撮影を行い、焦点距離を移動させた20枚程度の写真の合成を縦に3枚並べたものである。縦方向が膜の厚み方向で、縦に細長い形状のものが映っているのが開口部である。この開口部は、直径0.1〜0.2mm程度の複雑な形状を有していた。図8中に矢印で示すように、一旦融解したスチレンエラストマーが再び凝固することで開口部の途切れかかっている部分(この部分が弁である。)のあることが観察できた。図8で開口部が膜を貫通していないように見えるのは、開口部の端部が弁により閉止されているために光が透過してしまうからである。
次に、尖った端面を有する銅線を用いて形成した開口部及び弁の例を図9及び図10に示す。どちらも開口部及び弁を形成する際の条件は同一とした。これらは、凝固伝播実験及び過冷却解消装置内の塩(塩化ナトリウム)濃度の測定終了後に、過冷却解消装置の表面から切り取ったサンプルである。図9(a)、(b)は、それぞれ開口部の表側から見た様子と裏側から見た様子である。表側と裏側とで表面状態に違いのあることが分かった。図9(a)の写真の中央部に0.2mm程度の黒い横線が見えるが、これは、開口部が閉止された様子を示している。その周囲に同心円状に広がっているものは、加熱した銅線の接触により一旦融解したスチレンエラストマーが、銅線を抜いた後に再び凝固した際にできた固体である。平坦な端面を有する銅線の場合とは異なり、融解した後に再び凝固することでできた固体(塊)が量的に少なく且つ一か所に存在していないことがわかった。図10は、図9のものと同じ条件で加工したものの、結果的に、後述する通り、過冷却解消装置内の塩の濃度変化が他のものと比べて一桁大きな値になってしまった例である。図9と図10に示す結果の違いは、図10の場合、銅線の加熱温度がスチレンエラストマーの融点の近傍であったため、直径0.4mmの銅線が降下して膜に接触した際に、スチレンエラストマーが十分に融解しなかった結果、銅線が歪み、膜に応力がかかったことにより若干の撓みが生じ、これにより開口部の形状が非対称となり、また、弁が開口部を開閉可能なように形成されなかったためであると本発明者らは考えている。図10の例では、開口部の径も若干大き目となっていた。なお、銅線の降下は手動で行った場合には、その降下速度にばらつきが生じるため、このばらつきが開口部の径の違いにも現れており、ひいては、開口部の開放されやすさ(弁の開きやすさ)のばらつきの原因ともなっていることがわかった。
(過冷却解消装置の作成方法)
本実験で用いた過冷却解消装置の概略図を図11に示す。ポリプロピレン製の試験管を底から15mmのところで切断し、中央に開口部及び弁が形成されたスチレンエラストマー膜を試験管の口に接着させることで、過冷却解消装置を作成した。試験管とスチレンエラストマー膜を接着する際には、ポリプライマーH(登録商標、東亜合成株式会社製)で前処理を行い、アロンアルファ(登録商標、東亜合成株式会社製)で接着した。試験管の膜と反対側には、熱電対を通すための穴と空気と水を出し入れする穴を開けた。この穴は、通常はバスボンド(登録商標、コニシ株式会社製)にて閉止されている。
どの程度過冷却解消装置内の体積が膨張すると、膜中央の開口部が弁により開放されるのかを確認するため、膜の反対側から空気を挿入する実験を行った。開口部が開放されるまで空気をゆっくり入れ続け、開放された瞬間に空気の挿入を止め、図12に示すように、開いた瞬間の高さHmaxと、その後膜が収縮して開口部が閉止された際の高さHminを測定した。以上の実験の結果を図13に示す。図13(a)が平坦な端面を有する銅線を使用して開口部及び弁を形成した場合の結果であり、図13(b)が尖った端面を有する銅線を使用して開口部及び弁を形成した場合の結果である。各図においては、膜が粘着性のあるものとないもの、さらに加工時の銅線の加熱温度の条件毎に分けて結果を示している。加工時の技術面の向上が原因で加熱温度条件による違いが区別できなくならないよう、加熱温度条件はランダムに変えながら加工を行った。図13に示すように、膜の種類(粘着性の有無)と開口部及び弁の形成時の銅線の加熱温度により、開口部が弁により開放されるまでの高さにばらつきが生じることが分かった。しかし、開口部が開放されたときの高さHmaxと閉止されたときの高さHminにはある程度の比例関係が見られることが分かった。なお、図13中にある×印は、後述するところの凝固実験をした際に凝固伝播が起こらず別なところから過冷却が自然解消した場合の例を示している。
(実験方法)
蓄冷体を模した実験装置を図14に示す。過冷却解消装置(カプセル)内は空気を排除し水道水で満たした。蓄冷剤容器を模したビーカーは、透明で中の凝固の様子が観察できるようになっており、ビーカー内には、前述したように、蓄冷剤を見立てた濃度15重量%の塩化ナトリウム水溶液を100ml入れた。本実験においては、過冷却解消装置内の水、過冷却解消装置近傍の水溶液、そして蓄冷剤を周りから冷やすためのブラインの3点の温度を測定した。
過冷却解消装置内の水が凝固しない温度として、全体の温度を0℃に保ち、定常を確認し初期条件とした。その後、ブラインを0.47K/minの一定速度で冷却し、水溶液の周囲を循環させた。その結果の一例を図15に示す。図中△印で示す水溶液と○印で示す過冷却解消装置内の水の温度が低下していき、あるところで過冷却解消装置内の水の温度がジャンプしている様子が観察できた。これは、水にとっての過冷度(凝固点と実際に凝固し始める温度との温度差)5.1Kで過冷却解消装置内の過冷却が解消したためである。確率的な要素が加わるため、この過冷却が解消する温度にはばらつきが生じるが、水道水の場合概ね図15に例示した程度の温度を示す。その後、時間とともに過冷却解消装置内の水の凝固が進み温度が低下していき、水溶液側の融点である−10.89℃を超えたときに、水溶液側にも小さなジャンプが見られた。これが、過冷却解消装置内で凝固した氷から水溶液へ凝固が伝播した瞬間を示している。なお、膜中央の開口部から凝固が伝播する様子は目視でも確認した。この時の水溶液側の温度と融点との差を凝固伝播時の過冷度と呼ぶことにする。
水溶液側への凝固伝播を確認した後、図14に示す水溶液の入ったビーカーをブラインの恒温槽から取り出し、20℃程度の常温下に2時間放置することにより、過冷却解消装置内の水及びビーカー内の水溶液を完全に融解させた。その後、過冷却解消装置内の水の濃度を測定した。具体的には、粘着性ありの膜と粘着性なしの膜について、凝固伝播が確認され且つ濃度変化の最も少ない結果を出した開口部及び弁の加工条件を用いて、6つの過冷却解消装置を作成し、10回の連続凝固融解繰り返し実験を行った後、10回後の過冷却解消装置内の水の濃度測定を行った。なお、10回の連続凝固実験後、6つの試験体についてHmaxの測定を行ったが、どの試験体についても実験前と全く変化は見られなかった。従って、図13に示した膜個々の開口部及び弁にばらつきはあっても、凝固実験前後での再現性には問題はないと考えられる。
<実験結果及び考察>
凝固融解を10回繰り返した後の過冷却解消装置内の水中の塩濃度を図16に示す。図16(a)は平坦な端面を有する銅線を用いて開口部及び弁を形成した場合、図16(b)は尖った端面を有する銅線を用いて開口部及び弁を形成した場合の結果である。どちらの場合も横軸は予備実験で空気を入れることにより得られた開口部の開放の瞬間の最大高さHmaxである。また、図中の×は、凝固が過冷却解消装置内から伝播せずに別なところから過冷却が自然解消したものを指す。図16に示す結果から、最大高さHmaxが高いと凝固が伝播しにくくなることが分かった。これは、開口部がなかなか開放しないためであると考えられる。一方、最大高さHmaxが低いと、凝固融解後の過冷却解消装置内の水中の塩濃度が高くなっていた。これは、開口部の径が大きすぎるからである。300回の凝固融解の繰り返し実験でも過冷度5K以内で伝播させることのできる過冷却解消装置が理想的である。本実験の系によれば、過冷却解消装置内の水道水の凝固時の過冷度が5K程度、蓄冷剤(水溶液)側の凝固点が−10.87℃なので、過冷却解消装置内の水の凝固点が6K程度降下しても許容範囲内であると考えられる。単純計算で10回で0.2K、濃度変化0.32重量%に相当する。Hmaxの大きな範囲においては×印が多い中、Hmaxが大きな範囲でも凝固の伝播が確認でき、しかも凝固融解後の過冷却解消装置内水中の塩濃度が小さな最適なサンプルがいくつか得られた。従って、最大高さHmaxは、平坦な端面を有する銅線を用いた場合はHmaxが2〜3mm、尖った端面を有する銅線を用いた場合はHmaxが2mm程度が最適と思われる。これらは、見かけの条件は同一でも×印のものとは別物と考えられる。なお、図16(a)の○印、Hmax=3mm、濃度変化が0.01wt%の例の開口部の断面形状の写真を図17に示す。図17は、開口部を中心にカッターでスチレンエラストマー膜を約1mm幅にスライスして撮影を行い、焦点距離を移動させた20枚程度の写真の合成を縦に3枚並べたものである。縦方向が膜の厚み方向で、縦に細長い形状のものが映っているのが開口部である。この例では、図17に示すように、開口部の両端に弁(開口部両端の樹脂の塊部分)が形成されていることが観察できた。
次に、図16(b)の尖った端面を有する銅線を用いた場合の結果から得られた過冷却解消装置内の水中の塩の平均濃度と凝固伝播確率との関係を図18に示す。この結果から、粘着性ありの膜では銅線の先端温度が140℃、粘着性なしの膜では銅線の先端温度が110℃という条件が、凝固伝播確率が高く、過冷却解消装置内の水の塩濃度が上がらない最適な条件であると言える。さらに、粘着性なしの膜を用いた方が、凝固伝播確率をより高くでき、過冷却解消装置内の水の塩濃度をより低く抑えることができることが分かった。
これら2種類の膜(粘着性ありと粘着性なし)と銅線の加熱温度の最適な関係を用い、平坦な端面を有する銅線を用いた場合と尖った端面を有する銅線を用いた場合とで、再度6枚の膜に開口部及び弁を形成し、それぞれの膜を用いて同一のサンプルで凝固融解実験を10回連続で繰り返した。そして10回後に、過冷却解消装置内の水中の塩濃度の測定を行った。その結果を表1に示す。Hmaxおよび凝固伝播確率Pも併せて示す。平坦な端面を有する銅線を用いた場合では、凝固伝播が起こりにくかったり、過冷却解消装置内の水中の塩濃度が上昇したりする傾向が見られた。一方、尖った端面を有する銅線を用いた場合、粘着性ありと粘着性なしのどちらの膜も、過冷却解消装置内の水中の塩濃度が0.5重量%程度と低い濃度を保っていた。この結果から、尖った端面を有する銅線を用いて開口部及び弁を形成した方がよいことが分かった。
なお、本発明者らは、融解させたスチレンエラストマーの開口部内での最終的な落ち着き先(融解して再び凝固したスチレンエラストマーが存在する場所)が凝固伝播の有無、過冷却解消装置内の水の濃度変化の大小に大きく関っていると考えている。平坦な端面を有する銅線を用いた場合、ごく少量の融解したスチレンエラストマーが銅線の端面に付着したまま押し出され、銅線が戻る(銅線を引き抜く)際に、膜の背面近傍で再度凝固し開口部の径を部分的に小さくしていることが膜の断面図から観察できた。一方、マイナスのドライバーのような尖った端面を有する銅線を用いた場合、融解したスチレンエラストマーを左右に押しのけて開口部を形成していくため、比較的安定した開口部の形状が得られることがわかった。但し、図10に示したように,銅線の加熱温度が低いと非対称な開口部形状を生み出してしまう。これは、銅線を膜に貫通させる際に銅線が撓んだためと考えられる。
なお、このほか、粘着性ありの膜と粘着性なしの膜の両者とも、45度斜めに角度を持たせてカットした端面を有する銅線を用いた場合(加熱温度は、粘着性ありの場合140℃、粘着性なしの場合110℃)でも同様に試みている。しかし、その際は、空気を入れて膜を伸長させた際の最大高さHmaxが、どの場合も1〜1.5mm程度と低くなってしまった。すなわち、開口部が開放され難い構造であった。これは、銅線の端面が非対称なため、開口部の閉じている部分がほとんど形成されなかったためと考えられる。従って、銅線の端面の形状は、非対称な形状よりも対称な形状の方が好適である。
<実験例1のまとめ>
以上のように、本実験例1では、開口部及び弁を形成した厚さ1mmのスチレンエラストマー膜を部分的に有する過冷却解消装置を作成し、直径0.4mmの銅線の先端の形状と銅線の加熱温度を変化させて膜に開口部及び弁を形成することにより、蓄冷剤の過冷却を抑制する効果を実験的に検討した。その結果、以下に示す結論を得た。
(1)銅線の加熱温度としては、粘着性のあるスチレンエラストマー膜の場合は140℃程度、粘着性のないスチレンエラストマー膜の場合は110℃程度が、開口部及び弁を形成する際の最適な温度であることが分かった。
(2)銅線の先端の形状は、平坦なものより尖ったものの方が安定した効果が得られることが分かった。
(3)膜内の開口部及びの形状は、スチレンエラストマーが一度融解した後に凝固することで形成されるものであり、その構造は複雑であることが分かった。
(4)凝固融解実験を繰り返し行い、その後の過冷却解消装置内の水中の塩濃度測定を行うことにより、本発明に係る蓄冷体が過冷却解消に有効であることが明らかとなった。
≪実験例2≫
次に、実験例2について説明する。
<実験装置及び実験方法>
(過冷却解消装置)
まず、本実験例における過冷却解消装置について説明する。
〔装置概要〕
本実験例2において用いる過冷却解消装置(以降、「装置」と呼ぶ。)は、上述した実験例1と同様の装置を用いた。また、膜は伸びのない状態で試験管に接着してあり、内部の水が凝固した際に膜は2mm程膨らみ、半球形状をしていた。これは伸縮率にして115%程度である。膜に形成した開口部及び弁が開閉するかどうかは、上記実験例1で確かめたように、装置に空気を挿入することにより確認することができる。
〔膜への開口部及び弁の作成方法〕
スチレンエラストマー膜の開口部及び弁は、膜に対して加熱した銅線を貫通させることにより作成した。使用した銅線は径が0.4mmで、先端をニッパーにより切断し、加熱温度を測定するために熱電対とともにボール盤に取り付けた。ヒーターにより目的の温度に達した銅線を垂直に膜に向かって降下させ、貫通させた後に所定時間保持してから引き抜いた。以降、この貫通状態で保持する時間を加工保持時間と記載する。
(実験方法)
次に、本実験例における実験方法を説明する。
〔蓄冷剤〕
水より凝固点の低い溶液である蓄冷剤としては、通常の保冷材の主成分として使用されている塩化ナトリウム水溶液を用いた。本実験では、蓄冷剤容器に見立てたビーカー内に15重量%の塩化ナトリウム水溶液100mlを入れ蓄冷体サンプルとした。なお、この濃度の塩化ナトリウム水溶液の融点は−10.89℃である。
〔凝固伝播実験〕
まず、膜の加工条件の検討のための実験を行った。膜への開口部及び弁の加工条件は、銅線の径0.4mm、先端をニッパーで切断、加工保持時間0秒を共通条件とし、加熱温度を100℃、110℃、120℃の3通りで行った。実験工程は、始めにビーカー内の塩化ナトリウム水溶液と過冷却解消装置の水を0℃の定常状態で1時間維持し、その後ビーカー全体を平均−0.47K/minの冷却速度で1時間冷却し、装置内の水と装置の先端付近の塩化ナトリウム水溶液の温度を測定した。水溶液の凝固伝播確認後、室温で水溶液と装置をともに2時間放置し融解させ、融解後装置内の水の濃度変化を測定した。図19に本実験例における実験装置の概略図を示す。
本実験例では、塩化ナトリウム水溶液の融点−10.89℃と実際に凝固が開始した温度との差を過冷度と定義し、過冷度が5℃以内で凝固伝播が起きた場合を、凝固伝播有りとして評価した。また、膜に形成された開口部の断面は光学顕微鏡により観察した。この実験結果からは、加工保持時間が0秒の場合は、加熱温度が110℃の膜が高い過冷却解消効果を持つことが明らかになった。この結果を基に、以降の実験に用いる膜の加工条件を決定した。
続いて、過冷却解消装置の連続使用が可能かを検証するために、凝固伝播の連続実験を行った。同時に加工保持時間を変えることにより、110℃よりも低い加熱温度でも高い過冷却解消効果を持つ膜の開口部及び弁の作成が可能か検証した。実験は加熱温度110℃、加工保持時間0秒で開口部及び弁を作成した膜を用いた装置と、加熱温度100℃、加工保持時間1秒で開口部及び弁を作成した膜を用いた装置の2種類を使用して行った。
さらに、膜の加工は銅線を貫通させて行うため、装置に取り付ける際の膜の向きが、過冷却解消効果に影響するかを検証する実験も行った。本実験例で使用した装置は、全て銅線を刺す面がビーカー内の塩化ナトリウム水溶液に触れるように接着されており、以降ではこの状態を膜の向きが表であると定義し、向きを逆にして接着した状態を膜の向きが裏であると定義する。この凝固伝播の連続実験では、加熱温度100℃で加工保持時間が1秒と3秒で開口部及び弁を形成した膜を、それぞれ膜の向きを表と裏で分けて装置に取り付けたため、合計4種類の装置を使用した。
また、この実験では塩化ナトリウム水溶液の初期温度は0℃ではなく室温で定常待ちを行い、冷却方法も冷却速度一定ではなく、−17℃の冷却水により冷却する冷却温度一定の方法をとった。これは、実際の蓄冷体を凍らせる場合の冷却過程に近い状態でも、装置による過冷却解消が起こるかを検証するためである。
<実験結果と考察>
続いて、上記実験の結果として、加熱温度、加熱保持時間及び膜の接着向きがそれぞれ過冷却解消効果に与える影響について述べる。
(加熱温度が過冷却解消効果に与える影響)
加工保持時間0秒で、加熱温度が100℃、110℃、120℃の各条件で開口部及び弁を形成した膜を用いた凝固伝播実験の結果を図20に示す。横軸は実験前に装置に空気を注入したときの膜の膨らみの測定値、縦軸は実験後の装置内の水の濃度変化である。加熱温度100℃で開口部及び弁を作成した装置は、装置内の水の濃度変化は小さかったが、凝固伝播確率が非常に小さく過冷却解消装置としての機能性が低かった。これは、装置内の水が凝固により膨張して膜が伸びても、開口部の大きさ又は弁の形成状態が不十分なために水溶液側に露出する氷がない、または少ないことが原因と考えられる。加熱温度120℃で開口部及び弁を作成した装置では、凝固伝播確率は高いが濃度変化が大きかった。この装置を連続で使用することを考慮すると過冷却解消の機能性は低いといえる。これは、開口部の径が必要以上に大きく、また、弁が有効に機能していないため、装置外部の塩化ナトリウム水溶液が内部に容易に混入(浸入)するためと考えられる。加熱温度110℃で開口部及び弁を作成した装置は、凝固伝播確率が高く、加熱温度120℃の結果と比較して濃度変化も小さかった。以上の結果から、この3種類の加工条件の中では加熱温度110℃で開口部及び弁を作成した膜を有する装置が最適であることが分かった。
図21〜23は、加工保持時間が0秒、加熱温度はそれぞれ100℃、110℃、120℃の条件で作成した膜の開口部の断面画像である。加熱温度が上がると開口部の径も大きくなる様子が分かり、一度融解した膜が内部で再び固まっている(この固まったものが弁の役割を果たしている。)様子も見られた。また、図24及び図25はそれぞれ、図22の開口部を表側及び裏側から観察した画像である。なお、膜の開口部の断面画像は、加工条件に関係なく全て上が表側、下が裏側となっている。
(加工保持時間が過冷却解消効果に与える影響)
次に、表2に、加熱温度110℃、加工保持時間0秒で加工した膜を用いた装置と、加熱温度100℃、加工保持時間1秒で加工した膜を用いた装置の実験結果を示す。5回の連続実験全てにおいて、どちらの装置も過冷度が5℃以内であるため、凝固伝播確率はそれぞれ100%と同じ結果であった。また、実験後の装置内の水の濃度変化も、二つの装置は非常に近い値となった。これは、開口部及び弁の加工条件である加熱温度を低く設定した場合でも、加工保持時間を長くすることで、過冷却解消効果を持つ装置が作成可能であることを示している。
図26は、加熱温度100℃、加工保持時間1秒で作成した開口部の断面画像であり、加工保持時間0秒の図21と比較して、開口部の径が大きくなっていることが分かった。また、図26の開口部の形状は、図22の開口部の形状と似ていた。これは、凝固伝播確率が高く、装置内の水の濃度変化も同程度に小さいという共通点があることに関連していると考えられる。
(膜の接着向きが過冷却解消効果に与える影響)
次に、表3及び表4に、加熱温度が100℃で、加工保持時間はそれぞれ1秒、3秒の2種類、さらに膜の接着向きを表と裏に分けて凝固伝播実験を行い得られた結果を示す。
まず、加工保持時間を増加させた場合の結果を比較する。加工保持時間を3秒と設定して加工した膜を用いた装置では、加工保持時間1秒の条件の装置と同じく凝固伝播確率は非常に高いが、装置内の水の濃度変化が大きく、繰り返し使用することを考えた場合、過冷却解消装置としての機能性は低いことが分かった。これは、図27に示すように、加工保持時間の増加により、開口部の径が図23に示す加熱温度120℃、加工保持時間0秒の開口部の径に近くなったため、外部の塩化ナトリウム水溶液が装置内に混入(浸入)し易くなったことが原因であると考えられる。
次に、膜の接着向きを逆にした場合の結果について述べる。図26及び図27を見ると、開口部の形状は上下で対称ではない可能性が考えられるが、表3では、膜の接着向きが表と裏の場合による結果の違いは見られなかった。このことから、本実験例で扱った膜の加工条件においては、膜の向きが逆になっても、過冷却解消効果には影響がないことが分かった。
<実験例2のまとめ>
本実験例2では、開口部及び弁を形成したスチレンエラストマー膜を用いて、その特徴を生かしたカプセル型の過冷却解消装置を作成し、塩化ナトリウム水溶液の過冷却を能動的に解消し、かつ連続でその効果を得ることが可能であることが明らかになった。また、開口部及び弁の作成条件において、異なる加熱温度でも加工保持時間を調整することにより、過冷却解消効果のある装置の作成が可能であることが明らかになった。さらに、膜に開口部及び弁を加工する際に定義される膜の表と裏に関しては、本実験例で実験を行った開口部及び弁の加工条件において、装置に膜を取り付ける向きは過冷却解消効果には影響しないことが明らかになった。
≪比較実験例≫
次に、比較実験例について説明する。本実験例では、凝固が伝播しない条件を確認すべく、以下の比較例1〜比較例3の比較実験を行った。
<比較例1>
比較例1では、過冷却解消装置を用いなかったこと以外は、上述した実験例1及び2で用いた蓄冷体を模した実験装置と同様の装置を用いて、過冷度ΔTを確認する実験を行った。蓄冷剤として用いる水溶液としては、実験例1及び2と同様の15重量%の塩化ナトリウム水溶液を使用した。実験工程は、始めにビーカー内の塩化ナトリウム水溶液と過冷却解消装置の水を0℃の定常状態で1時間維持し、その後ブラインを0.47K/minの冷却速度で1時間冷却し、塩化ナトリウム水溶液の温度を測定した。その結果を図28に示す。
図28に示すように、塩化ナトリウム水溶液は、その凝固点である−10.89℃よりも10K以上低い温度まで冷却された時点で凝固を開始した。図中、8000秒付近で塩化ナトリウム水溶液の温度が上昇している時点が凝固開始時点である。比較例1のように、本発明の過冷却解消装置を用いない場合には、過冷度が大きく、その分、蓄冷体を凍らせるための冷凍庫への負荷も大きくなる。
<比較例2>
比較例2では、上記実験例2で加熱温度100℃、加熱保持時間0秒の条件で膜に開口部及び弁を形成した装置を用いて、凝固伝播実験を行った。実験工程は以下の通りである。全体の温度を0℃に保ち、定常を確認し初期条件とした。その後、ブラインを0.47K/minの一定速度で冷却し、水溶液の周囲を循環させた。その結果の一例を図29に示す。
図29に示すように、比較例2では、以下の様子が観察された。図中△印で示す水溶液と○印で示す過冷却解消装置内の水の温度が低下していき、あるところで過冷却解消装置内の水の温度がジャンプしている様子が観察できた。これは、水にとっての過冷度(凝固点と実際に凝固し始める温度との温度差)5.1Kで過冷却解消装置内の過冷却が解消したためである。その後、時間とともに過冷却解消装置内の水の凝固が進み温度が低下していき、水溶液側の凝固点である−10.89℃を超えても、水溶液側にはジャンプが見られず、水溶液側の凝固点よりも10K程度低い温度になったときに、初めて水溶液側にジャンプが見られた。すなわち、本比較例では、水溶液の過冷却解消温度は、過冷却解消装置を用いない比較例1の場合とほとんど変わらなかった。このことは、過冷却解消装置内で凝固した氷から水溶液へ凝固が伝播せず、他の場所で過冷却が自然解消したということを示している。
<比較例3>
比較例3では、膜を200%に伸長させ(膜の伸び率は2倍)、穴の開いた2枚のアクリル板で膜を挟持した状態で、ボール盤に取り付けた直径0.15mmの先端が平坦な銅線を用いて膜に開口部を形成した。このとき、銅線は徐々に加熱し、開口部が形成された時点で銅線の加熱を中止した。このようにして開口部を形成した膜を有する過冷却解消装置を用いて、凝固伝播実験を行った。膜としては、粘着性ありの膜と粘着性なしの膜の双方を用いた。実験工程は以下の通りである。全体の温度を0℃に保ち、定常を確認し初期条件とした。その後、ブラインを0.47K/minの一定速度で冷却し、水溶液の周囲を循環させた。
その結果、粘着性ありの膜と粘着性なしの膜の双方とも、開口部の大きさが小さくなり、過冷却解消装置内の凝固伝播剤が凝固して体積が膨張しても開口部が開放されることはなく、凝固伝播は起きなかった。なお、参考までに、直径0.15mmの銅線を用いて伸び率2倍の状態で開口部を形成した粘着性ありの膜の表面の写真を図30に示す。図30(a)は、開口部形成後に膜を100%に伸長させた(伸び率ゼロ)状態を示しており、図30(b)は、膜を300%に伸長させた(伸び率3倍)状態を示している。図30に示すように、本比較例3では、過冷却解消装置内の凝固伝播剤が凝固して体積が膨張しても開口部が開かないことがわかった。
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述した形態に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で当業者が想到し得る他の形態または各種の変更例についても本発明の技術的範囲に属するものと理解される。
例えば、上述した形態においては、本発明に係る開閉機構が弁36のような弁構造である場合について説明したが、本発明に係る開閉機構としては、このような弁36には制限されず、膜の伸縮により開口部を開閉可能な構造を有するものであれば、いかなる形態のものを用いてもよい。例えば、本発明に係る開閉機構として、円形の断面を有する中実の棒の外周に、所定の間隔を置いて円周状の複数の溝が形成されたメカニカルシール等を用いることができる。
より具体的には、例えば、スチレンエラストマー等の膜の開口部に開口部より大きな径を有する上記棒を挿入すると、棒の挿入時に伸長した膜が膜の挿入後に収縮する力により各溝の間の棒の外周面が膜と密着するため、開口部が閉止された状態となる。ここで、開口部への棒の挿入を水等の凝固伝播剤中で行うことで、複数の溝部分は、凝固伝播剤で満たされた状態となる。また、各溝の間の棒の外周面が膜と密着しているため、各溝は隣り合う溝とは物理的に独立した状態となる。
この状態で過冷却解消装置内の凝固伝播剤を凝固させると、最も過冷却装置側(内側)に位置する溝内に満たされた凝固伝播剤が凝固に伴って体積膨張することにより、溝の周囲の膜が伸長し、隣の溝との間の棒の外周面と膜との間に隙間ができる。これにより、開口部(の一部)が開放された状態となり、隣の溝内に満たされた凝固伝播剤に凝固が伝播する。このような凝固伝播が過冷却解消装置の内側から外側に向かって繰り返される。その結果、最も外側に位置する溝内に満たされた凝固伝播剤が凝固に伴って体積膨張することで、開口部の外側の端部に位置する棒の外周と膜との間に隙間ができ、過冷却解消装置の外部、すなわち、蓄冷剤に凝固が伝播する。
なお、上記棒として、金属等の熱伝導性を有する材料からなる棒を用いることで、棒からも熱が伝わることから、隣の溝への凝固の伝播速度を速めることはもちろんのこと、融解時にも素早く反応するため、開口部を素早く閉止して濃度変化を抑える効果もあると考えられる。
以上のようなメカニカルシールを用いると、上述した実施形態と異なり、浸透圧を抑えることができる。
10 蓄冷体
11 蓄冷剤容器
21 蓄冷剤
31 過冷却解消装置
32 外殻
33 膜
34 外殻本体
35 開口部
36 弁
42 凝固伝播剤

Claims (8)

  1. 蓄冷剤容器内に、蓄冷剤と、該蓄冷剤の過冷却を解消する過冷却解消装置とが収容された蓄冷体であって、
    前記過冷却解消装置は、外殻内に、前記蓄冷剤よりも高い凝固温度を有する液体の凝固伝播剤を収容するとともに、前記外殻の少なくとも一部として伸縮可能な熱可塑性樹脂からなる膜を有し、
    前記膜は、該膜を貫通する開口部と、該開口部を開閉可能な少なくとも1つの開閉機構とを有し、
    前記開閉機構が、前記開口部の、前記膜の厚み方向における両端に設けられており、
    前記開閉機構は、前記凝固伝播剤が凝固する際の体積増加による前記膜の伸長により略閉止されている前記開口部を開放し、前記凝固伝播剤が融解する際の体積減少による前記膜の収縮により開放されている前記開口部を略閉止することを特徴とする、蓄冷体。
  2. 前記開閉機構が、前記開口部を開閉可能な弁である、請求項1に記載の蓄冷体。
  3. 前記伸縮可能な熱可塑性樹脂が、スチレンエラストマーである、請求項1又は2に記載の蓄冷体。
  4. JIS K6251に準拠して測定した前記スチレンエラストマーの伸長率が、10%以上2000%以下である、請求項に記載の蓄冷体。
  5. 前記伸長可能な熱可塑性樹脂が、粘着性を有さない、請求項1〜のいずれか一項に記載の蓄冷体。
  6. 前記凝固伝播剤が、水である、請求項1〜のいずれか一項に記載の蓄冷体。
  7. 前記開口部が、貫通孔又は開口したスリット状の溝である、請求項1〜のいずれか一項に記載の蓄冷体。
  8. 前記開口部の口径が、0.1mm以上である、請求項1〜のいずれか一項に記載の蓄冷体。
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