本発明の電池システムについて、図1を用いて説明する。二次電池10は、正極ラインPLおよび負極ラインNLを介して、負荷20と接続されている。負荷20は、二次電池10から出力された電力を受けて動作する。また、負荷20は、発電を行うこともでき、負荷20によって生成された電力は、二次電池10に供給される。これにより、二次電池10が充電される。
図1に示す電池システムは、例えば、車両に搭載できる。この場合には、複数の二次電池10を直列に接続した組電池を車両に搭載できる。また、負荷20としては、モータ・ジェネレータを用いることができる。モータ・ジェネレータは、二次電池10から出力された電力を受けて、車両を走行させるための動力を生成する。モータ・ジェネレータが生成した動力は、車輪に伝達される。モータ・ジェネレータは、車両の制動時に発生する運動エネルギを電力に変換し、この電力を二次電池10に供給できる。
電圧センサ31は、二次電池10の電圧値Vbを検出し、検出結果をコントローラ40に出力する。電流センサ32は、二次電池10の電流値Ibを検出し、検出結果をコントローラ40に出力する。本実施例において、二次電池10を放電しているときの電流値Ibを正の値とし、二次電池10を充電しているときの電流値Ibを負の値としている。
コントローラ40は、電圧値Vbおよび電流値Ibに基づいて、二次電池10の充放電を制御できる。ここで、コントローラ40は、電圧値Vbや電流値Ibに基づいて、二次電池10のSOC(State of Charge)を算出できる。SOCとは、満充電容量に対する現在の充電容量の割合である。SOCの算出方法としては、公知の方法を適宜採用できるため、SOCの算出方法に関する詳細な説明は省略する。
温度センサ33は、二次電池10の温度(電池温度)Tbを検出し、検出結果をコントローラ40に出力する。コントローラ40は、メモリ41を有する。メモリ41は、コントローラ40が所定の処理(特に、本実施例で説明する処理)を行うときに用いられる情報を記憶する。なお、メモリ41は、コントローラ40の外部に設けることもできる。
次に、二次電池10の構造について、図2を用いて説明する。図2において、X軸およびZ軸は、互いに直交する軸である。本実施例では、鉛直方向に相当する軸をZ軸としている。なお、X軸およびZ軸と直交する軸をY軸とする。
二次電池10は、電池ケース110および発電要素120を有する。電池ケース110は、発電要素120を収容している。電池ケース110は密閉状態となっており、電池ケース110の内部には電解液が注入されている。電池ケース110には負極端子111および正極端子112が固定されている。負極端子111および正極端子112は、発電要素120と電気的に接続されている。
発電要素120は、充放電を行う要素であり、図3に示すように、負極板121と、正極板122と、セパレータ123とを有する。図3は、発電要素120の一部を展開した図である。負極板121は、集電箔121aと、集電箔121aの表面に形成された負極活物質層121bとを有する。負極活物質層121bは、負極活物質、導電剤、バインダーなどを含んでいる。負極活物質層121bは、集電箔121aの一部の領域に形成されており、集電箔121aの残りの領域には、負極活物質層121bが形成されていない。
正極板122は、集電箔122aと、集電箔122aの表面に形成された正極活物質層122bとを有する。正極活物質層122bは、正極活物質、導電剤、バインダーなどを含んでいる。正極活物質層122bは、集電箔122aの一部の領域に形成されており、集電箔122aの残りの領域には、正極活物質層122bが形成されていない。
負極活物質層121b、正極活物質層122bおよびセパレータ123には、電解液が含浸している。この電解液は、発電要素120の内部に存在する。一方、発電要素120の外部、言い換えれば、発電要素120および電池ケース110の間に形成されたスペースにも、余剰液としての電解液が存在している。
図3に示す順番で、負極板121、正極板122およびセパレータ123を積層し、この積層体をX軸の周りで図4に示す矢印Dの方向に巻くことにより、発電要素120が構成される。ここで、負極板121および正極板122の間には、セパレータ123が配置される。
X軸が延びる方向(X方向という)における発電要素120の一端では、負極板121の集電箔121aだけが巻かれている。集電箔121aだけが巻かれた部分は、図2に示す負極端子111と電気的に接続される。また、X方向における発電要素120の他端では、正極板122の集電箔122aだけが巻かれている。集電箔122aだけが巻かれた部分は、図2に示す正極端子112と電気的に接続される。
本実施例では、上述したように、積層体を巻くことにより、発電要素120を構成しているが、これに限るものではない。具体的には、積層体を巻かずに、負極板121、正極板122およびセパレータ123を積層しただけで、発電要素120を構成することもできる。
図4に示す領域(反応領域という)Aは、負極活物質層121bおよび正極活物質層122bがセパレータ123を挟んで互いに向かい合う領域である。反応領域Aにおいて、二次電池10(発電要素120)の充放電に応じた化学反応が行われる。
二次電池10では、電解液中の塩濃度に偏りが発生することにより、二次電池10の内部抵抗値が上昇してしまう。このような内部抵抗値の上昇量を抵抗上昇量Rhとする。抵抗上昇量Rhは、二次電池10の劣化に伴う内部抵抗値の上昇量とは異なる。劣化に伴う内部抵抗値の上昇量は増加するだけであり、減少することはない。一方、抵抗上昇量Rhは、塩濃度の偏りに依存するため、塩濃度が偏るほど、抵抗上昇量Rhが増加し、塩濃度の偏りが緩和されるほど、抵抗上昇量Rhが減少する。
塩濃度の偏りの状態としては、図5および図6に示す状態がある。図5は、負極板121および正極板122が対向する方向(Y方向)において、塩濃度の偏りが発生する状態を示す。図5では、負極板121、正極板122およびセパレータ123の位置関係を示す概略図(図5の上側の図)と、塩濃度の分布(一例)を示す図(図5の下側の図)とを表している。
塩濃度分布を示す図において、縦軸は塩濃度であり、横軸はY方向における位置である。図5(上側の図)では、負極板121および正極板122がセパレータ123から離れているが、実際には、負極板121および正極板122がセパレータ123に接触している。図5(下側の図)に示すように、二次電池10の充電時では、塩濃度の偏りとして、実線で示す塩濃度分布が発生することがある。また、二次電池10の放電時では、塩濃度の偏りとして、一点鎖線で示す塩濃度分布が発生することがある。
なお、図5では、Y方向における塩濃度の偏りを示しているが、これに限るものではない。上述したように、本実施例の発電要素120では、負極板121および正極板122がX軸の周りで巻かれているため、負極板121(負極活物質層121b)および正極板122(正極活物質層122b)が対向する方向において、図5と同様の塩濃度の偏りが発生する。
二次電池10の充放電を行うときには、負極板121および正極板122の間において、負極板121および正極板122が対向する方向(例えば、図5に示すY方向)に塩が移動する。二次電池10がリチウムイオン二次電池であるとき、この塩はリチウム塩となる。負極板121および正極板122が対向する方向に塩が移動することによって、負極板121および正極板122が対向する方向において、塩濃度の偏りが発生する。
図6は、負極板121および正極板122のそれぞれの表面上(反応領域A内)において、塩濃度の偏りが発生する状態を示す。図5に示す塩濃度の偏りが発生することに応じて、図6に示す塩濃度の偏りが発生する。図6では、反応領域Aを含む負極板121の一部と、反応領域Aを含む正極板122の一部とを上下に分けて示している。ここで、負極板121の一部と、正極板122の一部とは、セパレータ123を挟んで対向している。
図6の矢印で示すように、塩濃度の偏りは、反応領域A内において、X方向に発生しやすい。図6では、負極板121および正極板122のそれぞれにおいて、反応領域A内における塩濃度の分布(一例)も示している。塩濃度分布を示す図において、縦軸は塩濃度であり、横軸はX方向における位置である。ここで、二次電池10の充電時では、塩濃度の偏りとして、実線で示す塩濃度分布が発生することがある。また、二次電池10の放電時では、塩濃度の偏りとして、一点鎖線で示す塩濃度分布が発生することがある。
上述したように、X方向における発電要素120の両端部では、負極板121(集電箔121a)や正極板122(集電箔122a)がX軸の周りで巻かれているだけである。このため、X方向における発電要素120の両端部では、電解液が通過しやすい。言い換えれば、発電要素120の内部から発電要素120の外部に向かって電解液が移動したり、発電要素120の外部から発電要素120の内部に向かって電解液が移動したりしやすい。
これにより、図6に示すように、反応領域A内のX方向において、塩濃度の偏りが発生しやすくなる。上述したように、負極板121、正極板122およびセパレータ123を積層しただけの構成であっても、発電要素120の内部から発電要素120の外部に向かって電解液が移動したり、発電要素120の外部から発電要素120の内部に向かって電解液が移動したりしやすい。
図6に示す塩濃度の偏りは、電解液の流れによって発生することが分かった。また、この電解液の流れは、電解液の体積変化(膨張および収縮)によって発生することが分かった。具体的には、電解液が膨張すると、X方向において、発電要素120の内部から発電要素120の外部に向かう電解液の流れが発生する。すなわち、図7において、X方向における反応領域Aの中心Cを基準として、矢印X1で示す方向に電解液が流れる。一方、電解液が収縮すると、X方向において、発電要素120の外部から発電要素120の内部に向かう電解液の流れが発生する。すなわち、図7において、反応領域Aの中心Cに向かう方向(矢印X2で示す方向)に電解液が流れる。矢印X1,X2で示す方向に電解液が流れることにより、図6に示す塩濃度の偏りが発生する。
そこで、本実施例では、電解液の膨張および収縮によって発生する電解液の流れ(流速)を算出することにより、図6に示す塩濃度の偏り(塩濃度分布)を把握するようにしている。図6に示す塩濃度の偏りを把握すれば、例えば、この塩濃度の偏りによって発生する抵抗上昇量Rhを把握できる。本発明における塩濃度の分布とは、図6に示す塩濃度分布である。
以下、電解液の流れ(流速)を算出する方法について説明する。
下記式(1)は電解液の流れを規定する方程式であり、Brinkman-Navier-Stokes方程式として知られている。下記式(2)は電解液の流れに関する連続式であり、質量保存則から導かれる式である。下記式(1),(2)は、本発明の液流れ方程式に相当する。
上記式(1),(2)において、ujは電解液の流速、ρは電解液の密度、εe,jは電解液の体積分率、tは時刻である。また、上記式(1)において、μは電解液の粘度、Kjは透過係数、pは電解液の圧力である。
ここで、添字jは、負極板121、正極板122およびセパレータ123を区別するために用いられ、添字jには「n」、「p」および「s」が含まれる。添字jが「n」であるときには、負極板121に関する値を示し、添字jが「p」であるときには、正極板122に関する値を示し、添字jが「s」であるときには、セパレータ123に関する値を示す。
上述したように、電解液は、負極板121(負極活物質層121b)、正極板122(正極活物質層122b)およびセパレータ123のそれぞれに含浸している。このため、電解液に関するパラメータ(流速uj、体積分率εe,j、透過係数Kj)としては、負極板121、正極板122およびセパレータ123のそれぞれにおいて規定される。なお、本明細書では、上記式(1),(2)に示すパラメータ以外にも添字jを用いることがある。
粘度μとしては予め定めた固定値を用いたり、電解液の温度に応じて粘度μを変更したりすることができる。電解液の温度としては、温度センサ33によって検出される電池温度Tbが用いられる。粘度μおよび電池温度Tbの対応関係を示す情報(マップ又は演算式)を実験などによって予め用意しておけば、電池温度Tbを検出することにより粘度μを特定できる。粘度μおよび電池温度Tbの対応関係を示す情報はメモリ41に記憶される。
密度ρは、電解液の膨張および収縮を規定するパラメータであり、電解液の膨張および収縮に応じた値を示す。電解液の膨張および収縮は電解液の温度(すなわち、電池温度Tb)に依存し、密度ρも電解液の温度(電池温度Tb)に依存する。したがって、密度ρおよび電池温度Tbの対応関係を示す情報(マップ又は演算式)を実験などによって予め用意しておけば、電池温度Tbを検出することにより密度ρを特定できる。密度ρを特定することにより、電解液の膨張および収縮を把握できる。密度ρおよび電池温度Tbの対応関係を示す情報はメモリ41に記憶される。体積分率εe,jや透過係数Kjは予め定めた固定値を用いることができる。
上記式(1)では、流速ujおよび圧力pが未知数となるため、上記式(2)に示す連続式を規定して上記式(1),(2)の連立方程式を解くことにより、流速ujおよび圧力pを算出できる。上記式(1),(2)には、電解液の膨張および収縮を規定する密度ρが含まれているため、上記式(1),(2)の連立方程式を解くことにより、電解液の膨張および収縮に応じた流速ujを算出できる。この流速ujには、図7の矢印X1で示す方向の流速と、図7の矢印X2で示す方向の流速とが含まれる。流速ujを算出するときには、例えば、上記式(1),(2)を用いて収束計算を行うことができる。また、上記式(1),(2)を用いた演算は所定の周期で行われるが、前回の演算周期で算出された値を今回の演算周期で用いることにより、流速ujを算出できる。
負極板121では、負極活物質層121bの内部において電解液が移動する。このため、流速uj(すなわち、流速un)は、負極活物質層121bの内部における位置毎に算出される。図6に示す塩濃度の偏りを把握するときには、X方向で互いに異なる位置において、流速unが算出される。
正極板122では、正極活物質層122bの内部において電解液が移動する。このため、流速uj(すなわち、流速up)は、正極活物質層122bの内部における位置毎に算出される。図6に示す塩濃度の偏りを把握するときには、X方向で互いに異なる位置において、流速upが算出される。セパレータ123では、この内部において電解液が移動する。このため、流速uj(すなわち、流速us)は、セパレータ123の内部における位置毎に算出される。図6に示す塩濃度の偏りを把握するときには、X方向で互いに異なる位置において、流速usが算出される。
一方、上記式(1),(2)において、様々な条件を仮定した上で、上記式(1)を簡易化することもできる。以下、上記式(1)を簡易化するときの手法(一例)について説明する。
電解液の密度ρが流速ujを算出する位置(X方向の位置を含む)に関わらず一定であると仮定すると、上記式(2)は下記式(3)で表される。
上記式(3)から下記式(4)が導き出せる。下記式(4)に示すvp,vn,vsは、正極板122、負極板121およびセパレータ123のそれぞれにおける電解液の動粘性係数(v=μ/ρ)である。下記式(4)に示すx,yは、X方向およびY方向における位置をそれぞれ示す。ここで、Y方向とは、負極板121および正極板122がセパレータ123を挟んで対向する方向(図7の上下方向)である。
電解液の連続性を考慮すると、上記式(4)は下記式(5)で表される。
一方、上記式(1)において、下記式(6)に示す仮定を行うと、下記式(7)が得られる。
X方向における電解液の圧力分布に関して、負極板121、正極板122およびセパレータ123における圧力分布が互いに等しいと仮定すると、下記式(8)が得られる。
上記式(5),(8)によれば、下記式(9)が導き出せる。下記式(9)は、負極板121において、X方向の位置に応じた流速unを示している。下記式(9)に示すxはX方向の位置を示している。
上記式(9)をxで積分し、xが0であるときの流速unを0と仮定すると、下記式(10)が得られる。ここで、xが0であるときの位置は、X方向における反応領域Aの一端を示している。また、X方向における反応領域Aの長さをLとすると、X方向における反応領域Aの他端については、xがLになる。
流速unと同様に、流速up,usは下記式(11),(12)で表される。
上記式(10)〜(12)は上記式(1)を簡易化した式となり、負極板121、正極板122およびセパレータ123のそれぞれにおいて、X方向の位置に応じた流速un,up,usを算出できる。上記式(10)〜(12)は、本発明における液流れ方程式に相当する。なお、電解液の流速ujを算出するための方程式は、上記(1),(2),(10)〜(12)に限るものではない。電解液の流れは電解液の体積変化によって発生するため、電解液の体積変化を規定する電解液の密度をパラメータ(変数)として含み、電解液の流れを規定できる方程式であれば、本発明を適用できる。
流速ujを算出すれば、下記式(13)に基づいて、電解液中の塩濃度ce,jを算出できる。ここで、塩濃度ce,jを算出するときには、流速un,up,usのすべてを考慮してもよいし、流速un,up,usの一部(例えば、流速un)だけを考慮してもよい。
上記式(13)において、De,j effは、電解液の実効拡散係数であり、t+ 0は電解液中の塩の輸率である。Fはファラデー定数であり、jjは、単位体積および単位時間において、電解液中の塩の生成量である。
上記式(13)の左辺第1項は、所定時間Δtにおける塩濃度の変化を規定している。上記式(13)の左辺第2項は、電解液の流れ(流速uj)に依存する塩濃度の変化を規定している。上記式(13)の右辺第1項は、電解液中の塩の拡散状態を規定している。上記式(13)の右辺第2項は、塩の生成量を規定している。ここで、二次電池10の放電時では、負極板121の表面(負極活物質層121b)において塩が生成され、二次電池10の充電時では、正極板122の表面(正極活物質層122b)において塩が生成される。
上記式(13)によれば、図5および図6に示す塩濃度の偏りを把握することができる。上記式(13)を解くことにより塩濃度ce,jを算出できる。ここで、流速ujとしては、X方向の位置に応じた流速ujが用いられるため、上記式(13)を解くことにより、X方向の位置に応じた塩濃度ce,jを算出できる。これにより、X方向における塩濃度ce,jの分布(図6参照)を算出できる。
なお、塩濃度ce,jの算出方法は、上記式(13)を用いた方法に限るものではない。X方向において塩濃度ce,jのバラツキが発生している状態であれば、流速ujに基づいて、X方向における塩濃度ce,jの分布を算出できる。上記式(13)では、塩濃度ce,jのバラツキを把握するために、塩の拡散状態および塩の生成量を規定している。例えば、塩濃度ce,jのバラツキを予め設定すれば、塩の拡散状態や生成量を考慮せずに、流速ujに基づいて塩濃度ce,jの分布を算出できる。
また、上記式(13)によれば、電解液中の塩の拡散状態を規定しているが、塩の拡散状態を考慮しなくてもよい。塩の拡散に関する時定数は、塩の生成に関する時定数よりも大きいため、塩の拡散が発生していないこともある。そこで、塩濃度ce,jの分布を算出するときに、塩の拡散状態を考慮しないようにしてもよい。
上述したように塩濃度ce,jの分布を算出すれば、塩濃度ce,jの最大差(塩濃度差)Δce,j_maxを算出できる。塩濃度差Δce,j_maxは、塩濃度(最大値)ceおよび塩濃度(最小値)ceの差である。
図8に示すように、抵抗上昇量Rhおよび塩濃度差Δce_maxの対応関係を実験などによって予め求めておけば、塩濃度差Δce_maxを算出することにより、この塩濃度差Δce_maxに対応した抵抗上昇量Rhを算出できる。図8に示すように、塩濃度差Δce_maxが大きくなるほど、抵抗上昇量Rhが大きくなる。言い換えれば、塩濃度差Δce_maxが小さくなるほど、抵抗上昇量Rhが小さくなる。上記式(13)によれば、塩濃度ceは、負極板121および正極板122のそれぞれで算出される。ここで、図8に示す塩濃度差Δce_maxを算出するときには、まず、負極板121および正極板122における塩濃度ceの分布を合算する。具体的には、負極板121および正極板122において、互いに対向する位置における塩濃度ceを合算する。そして、合算した塩濃度ceの分布において、塩濃度(最大値)ceおよび塩濃度(最小値)ceの差を塩濃度差Δce_maxとして算出する。
抵抗上昇量Rhおよび塩濃度差Δce_maxの対応関係は、マップ又は演算式として表すことができる。そして、この対応関係を特定する情報はメモリ41に記憶しておくことができる。上記式(13)によれば、所定時間(演算周期)Δtが経過するたびに塩濃度ce,jが算出されて塩濃度ce,jの分布を把握できるため、所定時間Δtが経過するたびに抵抗上昇量Rhが算出される。これに伴い、抵抗上昇量Rhの変化を把握できる。
一方、抵抗上昇量Rhは、平均塩濃度ce_aveに依存することがある。そこで、平均塩濃度ce_aveに基づいて、抵抗上昇量Rhを算出することもできる。平均塩濃度ce_aveとは、負極板121および正極板122における塩濃度(上述した合算値)ceの分布を平均化した塩濃度(平均値)である。塩濃度差Δce_maxと同様に、抵抗上昇量Rhおよび平均塩濃度ce_aveの対応関係(マップ又は演算式)を実験などによって予め求めておけば、平均塩濃度ce_aveを算出することにより、この平均塩濃度ce_aveに対応した抵抗上昇量Rhを算出できる。
また、塩濃度差Δce_maxおよび平均塩濃度ce_aveに基づいて、抵抗上昇量Rhを算出することもできる。この場合には、塩濃度差Δce_max、平均塩濃度ce_aveおよび抵抗上昇量Rhの対応関係(マップ又は演算式)を予め求めておけばよい。塩濃度差Δce_maxおよび平均塩濃度ce_aveを算出すれば、算出した塩濃度差Δce_maxおよび平均塩濃度ce_aveに対応する抵抗上昇量Rhを算出できる。
図9は、図6に示す塩濃度分布を算出する処理を示すフローチャートである。図9に示す処理は、コントローラ40によって実行され、所定の演算周期で行われる。
ステップS101において、コントローラ40は、前回算出した塩濃度分布に基づいて、二次電池10の抵抗値(内部抵抗値)の分布(抵抗分布という)を算出する。図9に示す処理は、所定の演算周期で繰り返されるため、図9に示す処理を今回行うときには、図9に示す処理を前回行ったときに算出された塩濃度分布が存在する。そこで、ステップS101の処理では、前回算出した塩濃度分布に基づいて、抵抗分布を算出している。ここで、塩濃度分布が算出されていないときには、塩濃度が均一であると仮定して、抵抗分布を算出することができる。
ここでいう塩濃度分布とは、図6に示す塩濃度分布、すなわち、図6に示すX方向の位置に応じた塩濃度ce,jを示す分布である。また、抵抗分布とは、図6に示すX方向の位置に応じた抵抗値を示す分布である。抵抗値は塩濃度ce,jに依存するため、図10に示すように、塩濃度ce,jおよび抵抗値の対応関係を予め求めておくことができる。この対応関係は、マップ又は演算式として表すことができる。
図10において、縦軸は抵抗値であり、横軸は塩濃度ce,jである。図10に示す例では、抵抗値の極小点が存在し、抵抗値の極小点に対応した塩濃度ce,jよりも高い範囲では、塩濃度ce,jが高いほど、抵抗値が高くなる。また、抵抗値の極小点に対応した塩濃度ce,jよりも低い範囲では、塩濃度ce,jが低いほど、抵抗値が高くなる。図10に示す対応関係を用いれば、前回算出した塩濃度分布において、図6に示すX方向の位置毎の塩濃度ce,jに相当する抵抗値を算出することができる。これにより、抵抗分布を算出することができる。
上記式(13)によれば、負極板121、正極板122およびセパレータ123のそれぞれにおける塩濃度分布を算出することができる。ここで、上述したように抵抗値を算出するとき、X方向の位置毎の塩濃度ce,jとしては、負極板121、正極板122およびセパレータ123における塩濃度ce,j(X方向の位置毎の塩濃度ce,j)のうち、最低の塩濃度ce,jを用いたり、負極板121、正極板122およびセパレータ123における塩濃度ce,j(X方向の位置毎の塩濃度ce,j)の平均値を用いたりすることができる。
ステップS102において、コントローラ40は、ステップS101の処理で算出した抵抗分布に基づいて、電流分布を算出する。電流分布とは、図6に示すX方向の位置に応じた電流値を示す分布である。電流値は抵抗値に応じて変化するため、X方向の位置に応じて抵抗値が異なっているときには、X方向の位置に応じて電流値が異なることになる。このため、抵抗分布に応じた電流分布を算出することができる。
以下、電流分布を算出する方法について、具体的に説明する。
図11に示すように、反応領域Aを、X方向において3つの分割領域A1〜A3に分ける。ここで、分割領域の数は、3つに限るものではなく、適宜設定することができる。分割領域A1の電流値を電流値Ib_A1、分割領域A2の電流値を電流値Ib_A2、分割領域A3の電流値を電流値Ib_A3とすると、電流値Ib_A1〜Ib_A3は、下記式(14)に示す関係を有する。
上記式(14)において、R1は分割領域A1の抵抗値を示し、R2は分割領域A2の抵抗値を示し、R3は分割領域A3の抵抗値を示す。上記式(14)に示すように、電流値Ib_A1〜Ib_A3の比は、各抵抗値R1〜R3の逆数の比として表すことができる。各抵抗値R1〜R3は、上述したように、各分割領域A1〜A3における塩濃度ce,jから算出される。すなわち、ステップS101の処理において、塩濃度分布から抵抗分布を算出することにより、この抵抗分布から、各分割領域A1〜A3における抵抗値R1〜R3を特定することができる。
分割領域A1において、X方向の位置に関わらず抵抗値が一定であるとき、このときの抵抗値が抵抗値R1となる。同様に、各分割領域A2,A3において、X方向の位置に関わらず抵抗値が一定であるとき、このときの抵抗値が抵抗値R2,R3となる。
一方、分割領域A1において、X方向の位置に応じて抵抗値が異なっていることもある。このときには、分割領域A1内における抵抗値の平均値又は、分割領域A1内における最大の抵抗値を、抵抗値R1とすることができる。同様に、各分割領域A2,A3において、X方向の位置に応じて抵抗値が異なっているときには、各分割領域A2,A3内における抵抗値の平均値又は、各分割領域A2,A3内における最大の抵抗値を、抵抗値R2,R3とすることができる。
発電要素120に電流が流れるとき、この電流は、分割領域A1〜A3に分配され、この分配の割合は、上記式(14)によって表される。このため、電流センサ32を用いて二次電池10の電流値Ibを検出すれば、上記式(14)に示す関係に基づいて、各分割領域A1〜A3の電流値Ib_A1〜Ib_A3を算出することができる。すなわち、分割領域A1〜A3における電流分布を算出することができる。
図9に示すステップS103において、コントローラ40は、温度センサ33を用いて電池温度Tbを検出する。ステップS104において、コントローラ40は、電解液の流速ujを算出する。具体的には、上述したように、コントローラ40は、X方向の位置に応じた流速ujを算出する。流速ujを算出するときには、ステップS103の処理で検出された電池温度Tbが用いられる。
ステップS105において、コントローラ40は、ステップS104の処理で算出された流速ujに基づいて塩濃度ce,jの分布を算出する。塩濃度ce,jの分布を算出する方法は上述した通りである。塩濃度ce,jの分布を算出するときには、ステップS102の処理で算出された電流分布が用いられる。
上述したように、塩濃度ce,jの分布を算出するときには、上記式(13)が用いられる。ここで、上記式(13)に示す輸率t+ 0は、電流値Ibに依存するため、輸率t+ 0および電流値Ibの対応関係(マップ又は演算式)を予め求めておくことができる。この対応関係を用いれば、各電流値Ib_A1〜Ib_A3に対応する輸率t+ 0を算出できる。
このように算出した輸率t+ 0を、上記式(13)に代入することにより、各分割領域A1〜A3における塩濃度ce,jを算出することができる。ここで、分割領域A1の塩濃度ce,jを算出するときには、電流値Ib_A1に対応した輸率t+ 0が用いられる。分割領域A2の塩濃度ce,jを算出するときには、電流値Ib_A2に対応した輸率t+ 0が用いられる。分割領域A3の塩濃度ce,jを算出するときには、電流値Ib_A3に対応した輸率t+ 0が用いられる。
これにより、分割領域A1〜A3を含む反応領域Aにおける塩濃度ce,jの分布を算出することができる。ステップS105の処理で算出された塩濃度分布は、図9に示す処理を次回行うときにおいて、ステップS101の処理で用いられる。
なお、塩濃度ce,jの分布を算出するときには、輸率t+ 0だけではなく、上記式(13)に示す塩の生成量jjを考慮することもできる。すなわち、塩の生成量jjは、電流値Ibに依存するため、輸率t+ 0、生成量jjおよび電流値Ibの対応関係(マップ又は演算式)を予め求めておくことができる。この対応関係を用いれば、各電流値Ib_A1〜Ib_A3に対応する輸率t+ 0および生成量jjを算出できる。
そして、算出した輸率t+ 0および生成量jjを上記式(13)に代入することにより、各分割領域A1〜A3における塩濃度ce,jを算出することができる。ここで、分割領域A1の塩濃度ce,jを算出するときには、電流値Ib_A1に対応した輸率t+ 0および生成量jjが用いられる。分割領域A2の塩濃度ce,jを算出するときには、電流値Ib_A2に対応した輸率t+ 0および生成量jjが用いられる。分割領域A3の塩濃度ce,jを算出するときには、電流値Ib_A3に対応した輸率t+ 0および生成量jjが用いられる。
図9に示す処理によれば、前回の塩濃度分布から抵抗分布を算出し、この抵抗分布から電流分布を算出しているが、これに限るものではない。例えば、特許文献1に記載の電池モデル式を用いることにより、塩濃度分布から電流分布を算出することができる。以下、具体的に説明する。
特許文献1に記載の電池モデル式、具体的には、特許文献1に記載の式(M1a),(M1b),(M1c),(M1d),(M3a),(M3b)のいずれかを用いれば、電圧値Vb(電池電圧V(t)に相当する)を検出することにより、電流密度I(t)を算出することができる。ここで、電流密度I(t)を算出する式には、実効イオン導電率kj effが含まれ、実効イオン導電率kj effは、塩濃度ce,jに依存する。このため、実効イオン導電率kj effおよび塩濃度ce,jの対応関係(マップ又は演算式)を予め求めておけば、塩濃度ce,jに対応する実効イオン導電率kj effを算出することができる。
前回算出したX方向の塩濃度分布によれば、X方向の位置毎の塩濃度ce,jが特定される。ここで、実効イオン導電率kj effおよび塩濃度ce,jの対応関係を用いれば、X方向の位置毎の塩濃度ce,jに対応する実効イオン導電率kj effを算出することができる。電流密度I(t)を算出するときの実効イオン導電率kj effとして、X方向の位置毎の実効イオン導電率kj effを用いることにより、X方向の位置毎の電流密度I(t)を算出することができる。これにより、電流分布を算出することができる。
電流分布を算出した後は、図9に示すステップS105の処理で説明したように、電流分布に基づいて、塩濃度ce,jの分布を算出することができる。ここで、上記式(13)に示す輸率t+ 0と、電流密度I(t)との対応関係(マップ又は演算式)を予め求めておけば、X方向の位置毎の電流密度I(t)に対応する輸率t+ 0を算出することができる。この輸率t+ 0を上記式(13)に代入することにより、X方向の位置毎の塩濃度ce,jを算出することができる。すなわち、塩濃度ce,jの分布を算出することができる。
なお、塩濃度ce,jの分布を算出するとき、輸率t+ 0だけでなく、上記式(13)に示す塩の生成量jjを考慮することもできる。具体的には、輸率t+ 0、生成量jjおよび電流密度I(t)との対応関係(マップ又は演算式)を予め求めておけば、X方向の位置毎の電流密度I(t)に対応する輸率t+ 0および生成量jjを算出することができる。この輸率t+ 0および生成量jjを上記式(13)に代入することにより、X方向の位置毎の塩濃度ce,jを算出することができる。
一方、上述した電池モデル式であって、電流密度I(t)を算出する式には、交換電流密度i0jが含まれ、交換電流密度i0jは、塩濃度ce,jに依存する。このため、交換電流密度i0jおよび塩濃度ce,jの対応関係(マップ又は演算式)を予め求めておけば、塩濃度ce,jに対応する交換電流密度i0jを算出することができる。
交換電流密度i0jおよび塩濃度ce,jの対応関係を用いれば、X方向の位置毎の塩濃度ce,jに対応する交換電流密度i0jを算出することができる。電流密度I(t)を算出するときの交換電流密度i0jとして、X方向の位置毎の交換電流密度i0jを用いることにより、X方向の位置毎の電流密度I(t)を算出することができる。これにより、電流分布を算出することができる。
上述したように、塩濃度ce,jに応じた電流密度I(t)を算出するときには、実効イオン導電率kj effおよび交換電流密度i0jのうちの少なくとも一方における塩濃度ce,jの依存性を考慮して、電流密度I(t)を算出することができる。
上記式(13)によれば、負極板121、正極板122およびセパレータ123のそれぞれにおける塩濃度分布を算出することができる。ここで、実効イオン導電率kj effおよび交換電流密度i0jを算出するときの塩濃度ce,jとしては、負極板121、正極板122およびセパレータ123における塩濃度ce,j(X方向の位置毎の塩濃度ce,j)のうち、最低の塩濃度ce,jを用いたり、負極板121、正極板122およびセパレータ123における塩濃度ce,j(X方向の位置毎の塩濃度ce,j)の平均値を用いたりすることができる。
また、特許文献1に記載の電池モデル式では、電解液塩濃度cejを不変(固定値)と仮定している(特許文献1の段落[0066]参照)。ここで、本実施例では、塩濃度分布を算出しているため、特許文献1に記載の電池モデル式で用いられる電解液塩濃度cejとして、X方向の位置に応じた塩濃度ce,jを用いることができる。すなわち、X方向の位置に応じた塩濃度を設定した上で、特許文献1に記載の電池モデル式を用いて、電流密度I(t)を算出することができる。
上記式(13)によれば、負極板121、正極板122およびセパレータ123のそれぞれにおける塩濃度分布を算出することができる。ここで、特許文献1に記載の電池モデル式で用いられる電解液塩濃度cejとしては、負極板121、正極板122およびセパレータ123における塩濃度ce,j(X方向の位置毎の塩濃度ce,j)のうち、最低の塩濃度ce,jを用いたり、負極板121、正極板122およびセパレータ123における塩濃度ce,j(X方向の位置毎の塩濃度ce,j)の平均値を用いたりすることができる。
X方向の位置に応じて塩濃度ce,jのバラツキが発生すると、X方向の位置に応じて、電流が流れにくかったり、電流が流れやすくなったりする。具体的には、塩濃度ce,jが低いほど、電流が流れにくくなり、塩濃度ce,jが高いほど、電流が流れやすくなるため、X方向の位置に応じた電流値のバラツキ(電流分布)が発生する。この電流分布に応じて、塩濃度分布が変化するため、今回の塩濃度分布を算出するときには、前回の塩濃度分布に応じた電流分布を考慮する必要がある。
本実施例によれば、図9を用いて説明したように、前回の塩濃度分布を考慮して電流分布を算出し、この電流分布に基づいて今回の塩濃度分布を算出している。これにより、電流分布を考慮した塩濃度分布を算出(推定)することができ、電流分布を考慮しないで塩濃度分布を算出(推定)する場合に比べて、塩濃度分布の推定精度を向上させることができる。
本実施例では、図9に示すステップS103の処理において、温度センサ33を用いて電池温度Tbを検出しているが、これに限るものではない。具体的には、ステップS103の処理において、二次電池10を充放電したときの発熱量(電池温度Tbの上昇量)と、二次電池10の放熱量(電池温度Tbの低下量)とを考慮することにより、電池温度Tbを推定できる。
二次電池10の発熱量は、二次電池10の電流値Ibおよび内部抵抗値から算出できる。二次電池10の内部抵抗値は、電流値Ibおよび電圧値Vbから算出できる。二次電池10の放熱量は、電池温度Tbと、二次電池10の周囲に存在する大気中の温度(環境温度)とに基づいて算出できる。ここで、電池温度Tbが環境温度よりも高いときにおいて、電池温度Tbおよび環境温度の差が広がるほど、放熱量が大きくなりやすい。
二次電池10を充放電していなければ、電池温度Tbは環境温度と等しくなる。そこで、温度センサ33とは異なる温度センサを用いて環境温度を検出しておき、二次電池10を充放電するたびに算出される発熱量と、二次電池10の放熱量とに基づいて、現在の電池温度Tbを算出(推定)できる。発熱量および放熱量に基づいて電池温度Tbを推定する方法は、公知の方法を適宜採用できる。二次電池10を車両に搭載したとき、車両には、車両の外部における温度を検出する温度センサが設けられている。この温度センサを用いて、環境温度を検出できる。
図9に示す処理によって塩濃度分布を算出したときには、この塩濃度分布に基づいて抵抗上昇量Rhを算出し、この抵抗上昇量Rhに基づいて二次電池10の充放電を制御できる。ここで、二次電池10の充放電を制御するときの処理(一例)について、図12に示すフローチャートを用いて説明する。図12に示す処理は、コントローラ40によって実行される。
ステップS201において、コントローラ40は、図9に示す処理で算出した塩濃度ce,jの分布に基づいて抵抗上昇量Rhを算出する。抵抗上昇量Rhを算出する方法は上述した通りである。ステップS202において、コントローラ40は、抵抗上昇量Rhが閾値Rh_th以上であるか否かを判別する。閾値Rh_thは、抵抗上昇量Rhの上限値であり、二次電池10の劣化を抑制する観点に基づいて適宜設定できる。閾値Rh_thを特定する情報は、メモリ41に記憶しておくことができる。
抵抗上昇量Rhが閾値Rh_th以上であるとき、コントローラ40は、ステップS203において、充電電力許容値Winや放電電力許容値Woutを低下させる。充電電力許容値Winは、二次電池10の充電を許容する上限の電力値であり、放電電力許容値Woutは、二次電池10の放電を許容する上限の電力値である。
上述したように、二次電池10を充電したときの電流値Ibは負の値となるため、充電電力値も負の値となる。一方、二次電池10を放電したときの電流値Ibは正の値となるため、放電電力値は正の値となる。二次電池10を充電するときには、充電電力値(絶対値)が充電電力許容値(絶対値)Winよりも高くならないように充電が制御される。また、二次電池10を放電するときには、放電電力値が放電電力許容値Woutよりも高くならないように放電が制御される。
電池温度Tbや二次電池10のSOCに基づいて、基準値としての充電電力許容値Win_refや放電電力許容値Wout_refが設定される。ステップS202の処理では、充電電力許容値(絶対値)Winを充電電力許容値(絶対値)Win_refよりも低下させたり、放電電力許容値Woutを放電電力許容値Wout_refよりも低下させたりする。充電電力許容値Winや放電電力許容値Woutを低下させることにより、抵抗上昇量Rhの増加を抑制できる。
抵抗上昇量Rhが閾値Rh_thよりも小さいとき、コントローラ40は、図12に示す処理を終了する。このとき、充電電力許容値Winとしては、上述した充電電力許容値Win_refが設定され、放電電力許容値Woutとしては、上述した放電電力許容値Wout_refが設定される。
図12に示す処理では、抵抗上昇量Rhが閾値Rh_th以上であるとき、充電電力許容値(絶対値)Winおよび放電電力許容値Woutを低下させているが、これに限るものではない。具体的には、充電電力許容値(絶対値)Winおよび放電電力許容値Woutの一方だけを低下させることができる。
抵抗上昇量Rhとしては、二次電池10の充電に起因した抵抗上昇量Rhと、二次電池10の放電に起因した抵抗上昇量Rhとがある。図6に示すように、充電時および放電時において、塩濃度ce,jの分布が異なる。したがって、塩濃度ce,jの分布を把握すれば、二次電池10の充電に起因した抵抗上昇量Rhと、二次電池10の放電に起因した抵抗上昇量Rhとを区別できる。
ここで、二次電池10の充電によって塩濃度差Δce_maxが発生し、この塩濃度差Δce_maxから算出された抵抗上昇量Rhが閾値Rh_th以上であるときには、充電電力許容値(絶対値)Winだけを低下させることができる。これにより、充電に起因した抵抗上昇量Rhに関して、抵抗上昇量Rhの増加を抑制したり、抵抗上昇量Rhを減少させたりすることができる。
一方、二次電池10の放電によって塩濃度差Δce_maxが発生し、この塩濃度差Δce_maxから算出された抵抗上昇量Rhが閾値Rh_th以上であるときには、放電電力許容値Woutだけを低下させることができる。これにより、放電に起因した抵抗上昇量Rhに関して、抵抗上昇量Rhの増加を抑制したり、抵抗上昇量Rhを減少させたりすることができる。
本発明の実施例3について説明する。本実施例において、実施例1,2で説明した構成要素と同じ構成要素については同一の符号を用い、詳細な説明は省略する。以下、実施例1,2と異なる点について、主に説明する。
実施例2では、負極活物質層121bや正極活物質層122bの体積が変化しないと仮定した上で、体積分率εe,jが変化するものとしている。一方、活物質の膨張や収縮によって各活物質層121b,122bの体積が変化することがある。この場合には、各活物質層121b,122bの体積変化を考慮する必要がある。
そこで、本実施例では、各活物質層121b,122bの体積変化を考慮して流速ujを算出している。各活物質層121b,122bの体積が変化すると、各活物質層121b,122bにおいて、電解液が存在する空間の体積が変化することに応じて体積分率εe,jが変化する。この点を考慮して、体積分率εe,jを算出できる。以下、体積分率εe,jの算出方法について、具体的に説明する。
本実施例では、各活物質層121b,122bの体積変化を各活物質層121b,122bの厚さの変化とみなしている。各活物質層121b,122bの厚さとは、負極板121および正極板122が対向する方向(図7の上下方向)における各活物質層121b,122bの長さである。
各活物質層121b,122bの厚さが変化した分だけ、発電要素120の厚さが変化するときには、発電要素120の厚さの変化量が下記式(16)によって表される。発電要素120の厚さとは、図4において、Y方向における発電要素120の長さである。
上記式(16)において、Δy0は発電要素120の厚さの変化量である。変化量Δy0は、正極活物質層122bの厚さの変化量Δypと、負極活物質層121bの厚さの変化量Δynと、セパレータ123の厚さの変化量Δysとの総和になる。上記式(16)では、セパレータ123の厚さの変化量Δysも考慮している。セパレータ123の厚さとは、負極板121および正極板122が対向する方向(図7の上下方向)におけるセパレータ123の長さである。なお、変化量Δysを無視することもできる。
変化量Δypは、正極活物質層122bの厚さ(変化前の厚さ)ypに正極活物質の体積膨張率βpを乗算することによって求められる。変化量Δynは、負極活物質層121bの厚さ(変化前の厚さ)ynに負極活物質の体積膨張率βnを乗算することによって求められる。変化量Δysは、セパレータ123の厚さ(変化前の厚さ)ysにセパレータ123を構成する材料(すなわち、セパレータ123自体)の体積膨張率βsを乗算することによって求められる。
二次電池10には拘束力が与えられることがある。この拘束力は、Y方向において二次電池10を挟む力である。二次電池10を固定したり、発電要素120の入出力性能を確保したりするために、二次電池10に拘束力を与えることがある。二次電池10(発電要素120)に拘束力が与えられており、発電要素120の厚さの変化が制限されるとき、発電要素120の厚さの変化量Δyは変化量Δy0よりも小さくなる。すなわち、変化量Δyは、発電要素120の厚さが変化するときの力と、発電要素120に与えられた拘束力とが釣り合っているときの変化量となる。
ここで、二次電池10の厚さの変化について、図13に示すバネモデルを用いて説明する。二次電池10は、電解液が含浸されていない部分(非含浸部分という)と、電解液が含浸された部分(含浸部分という)とで構成されている。非含浸部分は、電池ケース110および集電箔121a,122aである。含浸部分は、負極活物質層121b、正極活物質層122bおよびセパレータ123である。図13において、バネ定数k1は、非含浸部分のバネ定数(固定値)であり、バネ定数k2は、含浸部分のバネ定数(固定値)である。
図13に示す初期状態とは、各活物質層121b,122bおよびセパレータ123が膨張する前の状態である。ここで、非含浸部分の厚さは初期値を示す。二次電池10に拘束力が与えられていない状態(非拘束状態、すなわち自然状態)では、各活物質層121b,122bおよびセパレータ123の膨張によって、発電要素120の厚さが初期状態の厚さよりも変化量Δy0だけ増加する。ここで、非含浸部分の厚さは初期値のままである。
一方、二次電池10に拘束力が与えられている状態(拘束状態)では、変化量Δy0に相当する力と拘束力とが釣り合う。拘束力によって発電要素120が縮められ、拘束状態での発電要素120の厚さは、非拘束状態での発電要素120の厚さよりも小さくなる。拘束状態において、含浸部分の厚さは、初期状態の厚さよりも変化量Δyの分だけ大きくなる。ここで、変化量Δyは変化量Δy0よりも小さい。
図13に示す拘束状態では、下記式(17)に示す関係(力の釣り合い関係)が成り立つ。
上記式(17)において、Hは発電要素120の高さ(固定値)であり、pは拘束状態における電解液の圧力であり、xはX方向における発電要素120の位置である。バネ定数k1,k2は実験などによって予め求めておくことができる。高さHとは、図2や図4において、Z方向における発電要素120の長さであり、予め求めておくことができる。
変化量Δy0は、電池温度Tbや二次電池10のSOCに依存する。このため、電池温度TbおよびSOCの少なくとも一方と、変化量Δy0との対応関係を示す情報(マップ又は演算式)を実験などによって予め用意しておけば、電池温度TbやSOCを特定することにより変化量Δy0を特定できる。変化量Δy0を特定すれば、変化量Δyは、圧力pを変数として含む関数で表すことができる。
変化量Δyは、発電要素120の全体における厚さの変化量である。ここで、各活物質層121b,122bおよびセパレータ123のそれぞれにおける厚さの変化量Δyp,Δyn,Δysは、各活物質層121b,122bおよびセパレータ123におけるバネ定数の比と、変化量Δyとから算出できる。具体的には、変化量Δyp,Δyn,Δysは、下記式(18)によって表される。
上記式(18)において、knは負極活物質層121bのバネ定数(固定値)、kpは正極活物質層122bのバネ定数(固定値)、ksはセパレータ123のバネ定数(固定値)である。各バネ定数kn,kp,ksは実験などによって予め求めておくことができる。
変化量Δyp,Δyn,Δysを用いれば、各活物質層121b,122bおよびセパレータ123のそれぞれにおける厚さyp,yn,ysを把握できる。すなわち、前回の演算周期で算出された厚さyjに対して、上記式(18)で算出された変化量Δyj(Δyp、Δyn、Δys)を加算することにより、今回の厚さyjを算出できる。
また、変化量Δyp,Δyn,Δysを用いれば、正極活物質層122b、負極活物質層121bおよびセパレータ123のそれぞれにおいて、電解液が存在する空間の体積の変化量ΔVe,jを算出できる。ここで、Ve,jは、各活物質層121b,122bおよびセパレータ123のそれぞれにおいて、電解液が存在する空間の体積である。変化量ΔVe,jは下記式(19)によって表される。
上記式(19)において、Vs,jは、各活物質層121b,122bでは、各活物質層121b,122bに含まれる活物質の体積(Vs,n、Vs,p)を示し、セパレータ123では、セパレータ123自体の体積(Vs,s)を示す。そして、体積Vs,jの変化量がΔVs,jとなる。Vall,jは体積Vs,jおよび体積Ve,jの総和である。そして、体積Vall,jの変化量がΔVall,jとなる。
変化量ΔVall,jおよび変化量ΔVs,jは、下記式(20),(21)によって表される。
上記式(20)に基づいて変化量ΔVall,jを算出するとき、体積Vall,jおよび厚さyjとしては、前回の演算周期で算出された値が用いられる。また、変化量Δyjとしては、上記式(18)が用いられる。上記式(21)に示す体積膨張率βjは、実施例2で説明したように、電池温度Tbや二次電池10のSOCから算出できる。また、上記式(21)に示す体積分率εe,jおよび体積Vall,jとしては、前回の演算周期で算出された値が用いられる。
上記式(20),(21)に基づいて変化量ΔVall,j,ΔVs,jを算出すれば、上記式(19)に基づいて変化量ΔVe,jを算出できる。ここで、上記式(21)には体積膨張率βjが含まれているため、体積膨張率βjに基づいて変化量ΔVe,jを算出できる。
電解液の流速ujを算出する式(上記式(1),(10)〜(12))では、変化量ΔVe,jがパラメータとして含まれていない。ただし、電解液が存在する空間の体積が変化するときには、電解液の体積分率εe,jが変化するため、変化量ΔVe,jを変化量Δεe,jに変換することができる。具体的には、体積Vall,jが予め定めた一定の体積Vall_model,jであると仮定したとき、下記式(22)に示すように、体積Vall_model,jおよび変化量ΔVe,jから変化量Δεe,jを算出できる。
変化量Δεe,jを算出すれば、前回の演算周期で算出された体積分率εe,jに変化量Δεe,jを加算することにより、今回の体積分率εe,jを算出できる。今回算出した体積分率εe,jを用いれば、上記式(1),(2)に基づいて、又は、上記式(10)〜(12)に基づいて、流速ujを算出できる。また、上記式(13)に基づいて塩濃度ce,jを算出するときにも、今回算出した体積分率εe,jを用いることができる。
本実施例によれば、各活物質層121b,122bおよびセパレータ123のそれぞれにおける体積(具体的には厚さ)が変化したときを考慮して、体積分率εe,jを算出している。これにより、上述した体積が変化するときにおいて、流速ujの算出精度を向上させることができる。これに伴い、塩濃度分布の算出精度を向上させたり、抵抗上昇量Rhの算出精度を向上させたりすることができる。
透過係数Kjは、各活物質層121b,122bおよびセパレータ123のそれぞれにおける厚さyj(すなわち、厚さyp,yn,ys)に依存する。例えば、正極活物質層122bにおいて、正極活物質の体積が一定であるとき、正極活物質層122bの厚さypが大きくなるほど、正極活物質層122b中で電解液が移動しやすくなるため、透過係数Kpが大きくなる。
また、正極活物質の体積が一定であるとき、正極活物質層122bの厚さypが小さくなるほど、正極活物質層122b中で電解液が移動しにくくなるため、透過係数Kpが小さくなる。同様に、セパレータ123自体の体積が一定であるとき、セパレータ123の厚さysが大きくなるほど、セパレータ123中で電解液が移動しやすくなるため、セパレータ123の透過係数Ksが大きくなる。また、セパレータ123自体の体積が一定であるとき、セパレータ123の厚さysが小さくなるほど、セパレータ123中で電解液が移動しにくくなるため、透過係数Ksが小さくなる。
したがって、透過係数Kjおよび厚さyjの対応関係を示す情報(マップ又は演算式)を実験などによって予め用意しておけば、厚さyjに応じた透過係数Kjを特定できる。このように特定した透過係数Kjは、上記式(1)又は上記式(10)〜(12)において用いることができる。
一方、透過係数Kjは体積膨張率βjに依存する。例えば、正極活物質層122bにおいて、厚さypが一定であるとき、正極活物質が膨張するほど、正極活物質層122b中で電解液が移動しにくくなるため、透過係数Kpが小さくなる。また、厚さypが一定であるとき、正極活物質が収縮するほど、正極活物質層122b中で電解液が移動しやすくなるため、透過係数Kpが大きくなる。同様に、セパレータ123の厚さysが一定であるとき、セパレータ123自体が膨張するほど、セパレータ123中で電解液が移動しにくくなるため、透過係数Ksが小さくなる。また、厚さysが一定であるとき、セパレータ123自体が収縮するほど、セパレータ123中で電解液が移動しやすくなるため、透過係数Ksが大きくなる。
したがって、透過係数Kjおよび体積膨張率βjの対応関係を示す情報(マップ又は演算式)を実験などによって予め用意しておけば、体積膨張率βjに応じた透過係数Kjを特定できる。このように特定した透過係数Kjは、上記式(1)又は上記式(10)〜(12)において用いることができる。なお、体積膨張率βjは、実施例2で説明したように、電池温度Tbや二次電池10のSOCに基づいて算出できる。
透過係数Kjを特定するときには、厚さyjおよび体積膨張率βjの少なくとも一方を考慮できる。厚さyjおよび体積膨張率βjの両方を考慮するときには、厚さyjおよび体積膨張率βjと、透過係数Kjとの対応関係を示す情報(マップ又は演算式)を実験などによって予め用意しておけばよい。
一方、上述した説明では、上記式(17)に示すバネ定数k1,k2を固定値としているが、バネ定数k1,k2を変更することもできる。バネ定数k1,k2を規定する部分(含浸部分および非含浸部分)が図13に示す非拘束状態から縮められると、バネ定数k1,k2が大きくなる。含浸部分が膨張するほど、非含浸部分が縮められるため、変化量Δyに基づいて、非含浸部分のバネ定数k1を算出できる。具体的には、変化量Δyおよびバネ定数k1の対応関係を示す情報(マップ又は演算式)を実験などによって予め用意しておけば、変化量Δyを算出することにより、バネ定数k1を算出できる。バネ定数k1を算出するときには、前回の演算周期で算出された変化量Δyを用いることができる。
図13を用いて説明したように、含浸部分は、変化量Δy0および変化量Δyの差(Δy0−Δy)に相当する分だけ、縮められることになる。したがって、この差(Δy0−Δy)に基づいてバネ定数k2を算出できる。具体的には、差(Δy0−Δy)およびバネ定数k2の対応関係を示す情報(マップ又は演算式)を実験などによって予め用意しておけば、差(Δy0−Δy)を算出することにより、バネ定数k2を算出できる。バネ定数k2を算出するときには、前回の演算周期で算出された差(Δy0−Δy)を用いることができる。
含浸部分は、負極活物質層121b、正極活物質層122bおよびセパレータ123となるため、バネ定数k2にはバネ定数kn,kp,ksが含まれる。各バネ定数kn,kp,ksは、バネ定数k2を算出する場合と同様に、差(Δy0,j−Δyj)に基づいて算出できる。ここで、変化量Δy0,jは、変化量Δy0のうち、各活物質層121b,122bおよびセパレータ123のそれぞれが占める変化量である。各バネ定数kn,kp,ksを算出するときには、前回の演算周期で算出された差(Δy0,j−Δyj)を用いることができる。このように算出された各バネ定数kn,kp,ksは上記式(18)で用いられる。