JP2016207287A - 二次電池の劣化推定方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】電解液中の塩濃度の偏りを精度よく推定し、これによって二次電池の劣化を精度よく推定する。【解決手段】充放電を行う発電要素および電解液が電池ケースに収容されたリチウムイオン電池と発電要素に含浸された電解液中の塩濃度の偏りを算出するコントローラと、を有し、コントローラが電池SOCに対する電極体積の変化特性に基づいて電解液の流速を計算し、計算した電解液の流速に基づいて電解液中の塩濃度の分布を推定して二次電池の劣化を推定する二次電池の劣化推定方法であって、電解液の流速は、負極SOCと電池SOCとの対応関係のずれに基づいて修正した電池SOCに対する負極体積の変化特性を用いて計算される。【選択図】図12

Description

本発明は、電極と電解液とを含む二次電池の劣化を推定する方法に関する。
近年、モータを駆動源とする電気自動車やエンジンとモータとを駆動源とするハイブリッド車両等の電動車両が多く用いられている。このような電動車両には、放電によりモータに電力を供給すると共にモータで発生した回生電力を充電する充放電可能な二次電池が搭載されている。
二次電池は、繰り返し充放電を行うことにより劣化し、次第に電池容量が低下したり、内部抵抗が上昇して来たりすることが知られている。特に、大きな充放電電流(ハイレート)での使用が繰り返し行われることにより劣化が進むことが知られており、「ハイレート劣化」と呼ばれることがある。ハイレート劣化は、大きな放電電流或いは大きな充電電流が流れる際に、二次電池内の電解液中の塩濃度が偏ることによって内部抵抗が上昇する現象であると捉え、正負極の塩濃度差から抵抗上昇率を推定し、抵抗上昇率が所定の値よりも大きい場合には、充放電電流等を制限し、抵抗の上昇或いは電池の劣化を抑制することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
特開2010−060406号公報
ところで、本発明者の研究により、ハイレート劣化の原因となる二次電池内の電解液中の塩濃度の偏りは、電解液や電極が膨張することにより発生する液流れにより生じることがわかってきた。また、電極の膨張率は電極の劣化によって変化することもわかってきた。そこで、本発明は、新たに得られた上記知見に基づいて電解液中の塩濃度の偏りを精度よく推定し、これによって二次電池の劣化を精度よく推定することを目的とする。
本発明の二次電池の劣化推定方法は、充放電を行う発電要素および電解液が電池ケースに収容された二次電池と、前記発電要素に含浸された前記電解液中の塩濃度の偏りを算出するコントローラと、を有し、前記コントローラが、電池SOCに対する電極体積の変化特性に基づいて電解液の流速を計算し、計算した電解液の流速に基づいて電解液中の塩濃度の分布を推定して二次電池の劣化を推定する二次電池の劣化推定方法であって、電解液の流速は、負極SOCと電池SOCとの対応関係のずれに基づいて修正した電池SOCに対する負極体積の変化特性を用いて計算されることを特徴とする。
負極SOCと電池SOCとの対応関係のずれは二次電池が劣化することにより発生する。本発明では、負極SOCと電池SOCとの対応関係のずれに基づいて修正した電池SOCに対する負極体積の変化特性を用い電解液の流速を計算し、それらに基づいて塩濃度分布、二次電池の劣化の推定を行うので、二次電池の劣化を精度よく推定することができる。
本発明の二次電池の劣化推定方法において、前記コントローラは、電極劣化による正極または負極の容量低下或いは正極SOCと負極SOCとの対応関係のずれに基づいて、負極SOCと電池SOCとの対応関係のずれを算出することとしても好適であるこれにより、電極劣化を考慮して二次電池の劣化を精度よく推定することができる。
本発明の二次電池の劣化推定方法において、前記コントローラは、正極の開回路電位と負極の開回路電位との電位差が所定の第1電圧となる第1負極SOCと、正極の開回路電位と負極の開回路電位との電位差が所定の第1電圧よりも高い所定の第2電圧となる第2負極SOCを算出し、第1負極SOCと第2負極SOCに対応する各負極体積を、電池SOCが下限値の場合の負極体積と電池SOCが上限値の場合の負極体積として電池SOCに対する負極体積の変化特性を修正することとしても好適である。この場合、下限値は0%で、上限値は100%としても好適である。これにより、負極体積の変化を考慮して二次電池の劣化を推定することができる。
本発明の二次電池の劣化推定方法において、第1負極SOCと第2負極SOCは、電極劣化による正極または負極の容量低下或いは正極SOCと負極SOCとの対応関係のずれに基づいて算出された負極SOCに対する正極の開回路電位特性と、負極SOCに対する負極の開回路電位特性とから算出されることとしても好適である。これにより、電極劣化による正極または負極の容量低下或いは正極SOCと負極SOCとの対応関係のずれを考慮して二次電池の劣化を精度よく推定することができる。
本発明の二次電池の劣化推定方法において、第1負極SOCと第2負極SOCは、電極劣化による正極または負極の容量低下或いは正極SOCと負極SOCとの対応関係のずれによる正極の開回路電位と負極の開回路電位との電位差の変化と、第1負極SOCと第2負極SOCとの関係を規定したマップに基づいて算出されることとしても好適である。これにより、簡便な方法で電極劣化による正極または負極の容量低下或いは正極SOCと負極SOCとの対応関係のずれを考慮して二次電池の劣化を精度よく推定することができる。
本発明は、電解液中の塩濃度の偏りを精度よく推定でき、これによって二次電池の劣化を精度よく推定することができるという効果を奏する。
二次電池システムの構成を示す図である。 リチウムイオン電池の構成を示す説明図である。 リチウムイオン電池における帯状の発電要素の展開斜視図である。 リチウムイオン電池における帯状の発電要素の断面図である。 図3A、図3Bに示す帯状の発電要素を巻き付けた状態を示す斜視図である。 リチウムイオン電池の化学反応を示す説明図である。 リチウムイオン電池における負極板及び正極板が対向する方向(Y方向)における塩濃度の偏りを示す説明図である。 リチウムイオン電池における負極板及び正極板の表面に沿った方向(X方向)における塩濃度の偏りを示す説明図である。 電解液の膨張、収縮によって電解液が流れる方向を示す説明図である。 塩濃度差に対する抵抗上昇量の変化を示す図である。 新品の場合の負極SOC(θn)に対する負極、正極の開回路電位(OCP)の変化を示すグラフである。 負極SOC(θn)に対する負極体積Vnの変化を示すカーブである。 新品の場合の電池SOCに対する負極体積Vnの変化を示すカーブである。 正極SOC(θp)に対する正極体積Vpの変化を示すカーブである。 新品の場合の電池SOCに対する正極体積Vpの変化を示すカーブである。 本発明の実施形態の方法による二次電池の結果推定のフローチャートである。 本発明の実施形態の方法において、体積膨張率(βj)から体積分率(εe,j)の変化量(Δεe,j)を算出する処理を示すフローチャートである。 正極が劣化した場合のリチウムイオン電池の負極SOC(θn)に対する負極、正極の開回路電位(OCP)の変化を示すグラフである。 負極SOC(θn)に対する負極体積Vnの変化を示すカーブである。 正極が劣化した場合の電池SOCに対する負極体積Vnの変化を示すカーブである。 負極が劣化した場合のリチウムイオン電池の負極SOC(θn)に対する負極、正極の開回路電位(OCP)の変化を示すグラフである。 負極SOC(θn)に対する負極体積Vnの変化を示すカーブである。 負極が劣化した場合の電池SOCに対する負極体積Vnの変化を示すカーブである。 劣化により負極と正極との対応関係がずれた場合のリチウムイオン電池の負極SOC(θn)に対する負極、正極の開回路電位(OCP)の変化を示すグラフである。 負極SOC(θn)に対する負極体積Vnの変化を示すカーブである。 劣化により負極と正極との対応関係がずれた場合の電池SOCに対する負極体積Vnの変化を示すカーブである。
<二次電池システムの構成>
最初に本実施形態の二次電池の劣化推定方法を実行するコントローラ40を含む二次電池システムについて、図1を用いて説明する。二次電池10は、正極ラインPLおよび負極ラインNLを介して、負荷20と接続されている。負荷20は、二次電池10から出力された電力を受けて動作する。また、負荷20は、発電を行うこともでき、負荷20によって生成された電力は、二次電池10に供給される。これにより、二次電池10が充電される。
図1に示す電池システムは、例えば、車両に搭載できる。この場合には、複数の二次電池10を直列に接続した組電池を車両に搭載できる。また、負荷20としては、モータジェネレータを用いることができる。モータジェネレータは、二次電池10から出力された電力を受けて、車両を走行させるための動力を生成する。モータジェネレータが生成した動力は、車輪に伝達される。モータジェネレータは、車両の制動時に発生する運動エネルギを電力に変換し、この電力を二次電池10に供給できる。
電圧センサ31は、二次電池10の電圧値Vbを検出し、検出結果をコントローラ40に出力する。電流センサ32は、二次電池10の電流値Ibを検出し、検出結果をコントローラ40に出力する。本実施例において、二次電池10を放電しているときの電流値Ibを正の値とし、二次電池10を充電しているときの電流値Ibを負の値としている。
コントローラ40は、電圧値Vbおよび電流値Ibに基づいて、二次電池10の充放電を制御できる。ここで、コントローラ40は、電圧値Vbや電流値Ibに基づいて、二次電池10のSOC(state of charge)を算出できる。SOCとは、満充電容量に対する現在の充電容量の割合である。SOCの算出方法としては、公知の方法を適宜採用できるため、SOCの算出方法に関する詳細な説明は省略する。
温度センサ33は、二次電池10の温度(電池温度)Tbを検出し、検出結果をコントローラ40に出力する。コントローラ40は、メモリ41を有する。メモリ41は、コントローラ40が所定の処理(特に、本実施形態で説明する処理)を行うときに用いられる情報を記憶する。なお、メモリ41は、コントローラ40の外部に設けることもできる。
<リチウムイオン電池の構成>
次に、本実施形態の二次電池の劣化推定方法が適用される二次電池10であるリチウムイオン電池の構造について図2を参照しながら説明する。図2において、X軸及びZ軸は、互いに直交する軸である。本実施形態では、鉛直方向に相当する軸をZ軸としている。なお、X軸およびZ軸と直交する軸をY軸とする。
リチウムイオン電池10は、電池ケース110および充放電を行う要素である発電要素120を有する。電池ケース110は、発電要素120を収容している。電池ケース110は密閉状態となっており、電池ケース110の内部には電解液が注入されている。電池ケース110には負極端子111および正極端子112が固定されている。負極端子111および正極端子112は、発電要素120と電気的に接続されている。
図3Aに示すように、発電要素120は、負極板121と、正極板122と、セパレータ123とを有する。図3Aは、発電要素120の一部を展開した図である。図3Aにおいて、Yは負極板121と正極板122とセパレータ123との積層方向を示す。負極板121は、集電箔121aと、集電箔121aの表面に形成された負極活物質層121bとを有する。負極活物質層121bは、図3A中では、集電箔121aの下側の表面に形成されるので、破線のハッチングで示す。負極活物質層121bは、負極活物質、導電剤、バインダーなどを含んでいる。負極活物質層121bは、集電箔121aの一部の領域に形成されており、集電箔121aの残りの領域には、負極活物質層121bが形成されていない。
また、同様に、正極板122は、集電箔122aと、集電箔122aの表面に形成された正極活物質層122bとを有し、正極活物質、導電剤、バインダーなどを含んでいる。正極活物質層122bは、図3A中では、集電箔122aの上側の表面に形成されるので、実線のハッチングで示す。正極活物質層122bは、集電箔122aの一部の領域に形成されており、集電箔122aの残りの領域には、正極活物質層122bが形成されていない。
図3Bに示すように、発電要素120は、負極板121の負極活物質層121bと正極板122の正極活物質層122bとの間にセパレータ123を挟んで積層し、図3Bに示すDの方向に長く延びる帯状の薄板である。従って、負極板121の集電箔121aと正極板122の集電箔122aとは発電要素120の積層方向であるY方向の外面となる。
図2に示す電池ケース110の中に、この帯状の発電要素120を格納するために、図3A、図3Bに示す帯状の発電要素120を図4に示すようにX軸の周りで図3A、図3Bに示す発電要素120が延びる方向Dが周方向となるように巻いて、立体状の発電要素120とする。先に説明したように、各集電箔121a、122aが帯状の発電要素120の積層方向の外面となっているので、巻きつけた際に各集電箔121a、122aの外面同士が接触しないよう、巻きつけの際には、各集電箔121a、122aの間に図3Bに示すセパレータ124を挟んで巻きつける。そして、立体状に巻き付けられた発電要素120は電池ケース110の中に収容される。なお、図4では楕円の筒状に巻き付けられた発電要素120を示しているが、発電要素の形状はこれに限らず、例えば、四角状に巻き付けられたものとしてもよい。
立体状の発電要素120では、X軸が延びる方向(X方向という)における発電要素120の一端では、負極板121の集電箔121aだけが巻かれている。集電箔121aだけが巻かれた部分は、図2に示す負極端子111と電気的に接続される。また、X方向における発電要素120の他端では、正極板122の集電箔122aだけが巻かれている。集電箔122aだけが巻かれた部分は、図2に示す正極端子112と電気的に接続される。
電池ケース110に立体状の発電要素120を格納した後、電池ケース110の中に電解液を入れ、負極活物質層121b、正極活物質層122bおよびセパレータ123に電解液を含浸させる。また、発電要素120の外部、つまり、発電要素120および電池ケース110の間に形成されたスペースには、余剰液としての電解液が存在している。
図4に示す領域Aは、負極活物質層121bおよび正極活物質層122bがセパレータ123を挟んで互いに向かい合う領域である。領域Aにおいて、リチウムイオン電池10(発電要素120)の充放電に応じた化学反応が行われる。
<リチウムイオン電池の化学反応>
図5を参照しながら充放電の際の化学反応と塩(リチウムイオンLi+)の移動について説明する。図5に示すように、負極活物質層121bおよび正極活物質層122bにはそれぞれ、負極活物質121c、正極活物質122cの集合体が含まれている。放電時には、負極活物質121cの界面上では、リチウムイオンLi+および電子e-を放出する化学反応が行なわれる。一方、正極活物質122cの界面上では、リチウムイオンLi+および電子e-を吸収する化学反応が行なわれる。負極の集電箔121aは、電子e-を吸収し、正極の集電箔122aは電子e-を放出する。図5に示す様に、負極の集電箔121aは負極端子111に接続され、正極の集電箔122aは正極端子112に接続されている。そして、セパレータ123を介したリチウムイオンLi+の授受によって、リチウムイオン電池10では放電電流Ib(>0)が生じる。
充電時は、放電時と逆に、正極活物質122cの界面上では、リチウムイオンLi+および電子e-を放出する化学反応が行なわれる。一方、負極活物質121cの界面上では、リチウムイオンLi+および電子e-を吸収する化学反応が行なわれる。正極の集電箔122aは、電子e-を吸収し、負極の集電箔121aは電子e-を放出する。そして、セパレータ123を介したリチウムイオンLi+の授受によって、リチウムイオン電池10では充電電流Ib(<0)が生じる。
<リチウムイオン電池内の塩濃度の偏りの発生>
次に、図6から図8を参照してリチウムイオン電池10の中の塩濃度(リチウムイオンLi+濃度)の偏りの発生について簡単に説明する。
先に述べたように、放電時には負極活物質121cから放出されたリチウムイオンLi+は、拡散および泳動によって正極活物質122cへ移動し、正極活物質122cに吸収される。このとき、電解液内におけるリチウムイオンLi+の拡散に遅れが生じると、図6の一点鎖線に示すように、負極活物質層121b内の電解液中ではリチウムイオンLi+濃度(すなわち電解液の塩濃度)が増加する一方、正極活物質層122bの電解液中ではリチウムイオンLi+濃度が減少する。逆に、充電時には、図6の実線に示すように、正極活物質層122b内の電解液中ではリチウムイオンLi+濃度(すなわち電解液の塩濃度)が増加する一方、負極活物質層121bの電解液中ではリチウムイオンLi+濃度が低下する。
なお、塩濃度分布を示す図6において、縦軸は塩濃度(リチウムイオンLi+濃度)であり、横軸はY方向(積層方向)における位置である。図6(上側の図)では、負極板121および正極板122がセパレータ123から離れているが、実際には、負極板121および正極板122がセパレータ123に接触している。
図6では、Y方向における塩濃度の偏りを示しているが、これに限るものではない。上述したように、本実施例の発電要素120では、負極板121および正極板122がX軸の周りで巻かれているため、負極板121(負極活物質層121b)および正極板122(正極活物質層122b)が対向する方向において、図6と同様の塩濃度の偏りが発生する。
また、図7に示すように、発電要素120の内部ではX方向における塩濃度(リチウムイオンLi+濃度)の偏りも発生する。先に説明したように、放電時には、負極活物質層121b内の電解液中ではリチウムイオンLi+濃度(すなわち電解液の塩濃度)が増加する一方、正極活物質層122bの電解液中ではリチウムイオンLi+濃度が減少する。また、放電時の発熱によって電解液が膨張することによって負極板121と正極板122の間の圧力が上昇する。この圧力上昇によって負極活物質層121b内の電解液は、図8の矢印X1に示すように、発電要素120のX方向における領域Aの中心Cから発電要素120の両端の方向に流れる。一方、正極活物質層122bは正極活物質122cの密度が高く、電解液の流動抵抗が大きいので、図7に示すX方向にはあまり移動しない。このため、放電時には、リチウムイオンLi+濃度が高くなっている負極活物質層121b内の電解液が中央からX方向の両端に向かって移動することにより、図7の一点鎖線に示すように、X方向両端の負極活物質層121b内のリチウムイオンLi+濃度(すなわち電解液の塩濃度)が高くなる。これにより、X方向の塩濃度の偏りが発生する。
逆に、充電時には、負極活物質層121b内の電解液中ではリチウムイオンLi+濃度(すなわち電解液の塩濃度)が減少する一方、正極活物質層122bの電解液中ではリチウムイオンLi+濃度が増加するので、リチウムイオンLi+濃度が低くなっている負極活物質層121b内の電解液が、図8の矢印X1に示すように、発電要素120のX方向における領域Aの中心Cから発電要素120の両端の方向に流れる。これにより、図7の実線に示すように、X方向両端の負極活物質層121b内のリチウムイオンLi+濃度(すなわち電解液の塩濃度)が低くなり、X方向の塩濃度の偏りが発生する。
以上の説明では、充放電によって温度が上昇し、負極板121と正極板との間の圧力が上昇する場合に起こる塩濃度の偏りについて説明したが、逆に、リチウムイオン電池10の温度が低下することにより、電解液が収縮し、負極板121と正極板との間の圧力が低下する場合には、先の説明とは逆に、負極活物質層121b内の電解液がX方向の両端から中央に向かって移動することにより、塩濃度の偏りが発生する。つまり、図8の矢印X2に示すように、発電要素120の外部から領域Aの中心Cに向かう方向の流れにより塩濃度の偏りが発生する。このように、電解液の膨張、収縮によって発生する電解液の流れによって図7に示すX方向の塩濃度の偏りが発生する。
そこで、本実施形態では、電解液の膨張および収縮によって発生する電解液の流れの流速を算出することにより、図7に示す塩濃度の偏り(塩濃度分布)を把握するようにしている。図7に示す塩濃度の偏りを把握すれば、例えば、この塩濃度の偏りによって発生する抵抗上昇量Rhを把握できる。
また、リチウムイオン電池10では、電解液中の塩濃度に偏りが発生することにより内部抵抗値が上昇する。このような内部抵抗値の上昇量を抵抗上昇量Rhとする。抵抗上昇量Rhは、塩濃度の偏りに依存するため、塩濃度が偏るほど、抵抗上昇量Rhが増加し、塩濃度の偏りが緩和されるほど、抵抗上昇量Rhが減少する。一方、リチウムイオン電池10が劣化してくると、抵抗上昇量Rhが大きくなってくることが知られている。特に、ハイレート劣化の場合には、劣化によって抵抗上昇量Rhが急速に大きくなってくることが知られている。
このため、電解液の流速を算出し、塩濃度の偏り(塩濃度分布)を推定し、この塩濃度の偏りによって発生する抵抗上昇量Rhを計算することによってハイレート劣化におけるリチウムイオン電池10の劣化推定を行うことができる。
<電解液の流速と塩濃度の偏りを推定する基礎式>
先に、リチウムイオン電池10の内部の電解液の塩濃度の偏り(塩濃度分布)は、電解液の膨張および収縮によって発生する電解液の流速によって発生することを説明したが、以下、電解液の流速を算出し、塩濃度の偏り(塩濃度分布)を推定する基礎式について簡単に説明する。
<電解液の流れの計算の基礎式>
下記式(1)は電解液の流れを規定する方程式であり、Brinkman-Navier-stokes方程式として知られている。下記式(2)は電解液の流れに関する連続式であり、質量保存則から導かれる式である。下記式(1)、(2)は、電解液の流速を計算する基礎式である。
Figure 2016207287
上記の式(1)、(2)において、ujは電解液の流速、ρは電解液の密度、εe,jは電解液の体積分率(発電要素120の体積(領域Aの面積×(正極厚さ+負極厚さ+セパレータ厚さ))中の電解液の体積の割合)、tは時刻、また、上記式(1)において、μは電解液の粘度、Kjは透過係数、pは電解液の圧力である。ここで、添字jは、負極板121、正極板122およびセパレータ123を区別するために用いられ、添字jには「n」、「p」および「s」が含まれる。添字jが「n」であるときには、負極板121に関する値を示し、添字jが「p」であるときには、正極板122に関する値を示し、添字jが「s」であるときには、セパレータ123に関する値を示す。
上述したように、電解液は、負極板121(負極活物質層121b)、正極板122(正極活物質層122b)およびセパレータ123のそれぞれに含浸している。このため、電解液に関するパラメータ(流速uj、体積分率εe,j、透過係数Kj)としては、負極板121、正極板122およびセパレータ123のそれぞれにおいて規定される。
粘度μとしては予め定めた固定値を用いたり、電池温度Tbに応じて変更したりすることができる。粘度μおよび電池温度Tbの対応関係を示すマップ又は演算式を実験などによって予め用意しておき、電池温度Tbを検出することにより粘度μを特定してもよい。
密度ρは、電池温度Tbに依存するので、密度ρと電池温度Tbの対応関係を示すマップ又は演算式を実験などによって予め用意しておき、電池温度Tbを検出することにより密度ρを特定することができる。
体積分率εe,j(領域Aの面積×(正極厚さ+負極厚さ+セパレータ厚さ))中の電解液の体積の割合)は、予め定めた固定値を用いてもよい。また、体積分率εe,jは、電池温度Tbまたは電池SOCに依存するので、電池温度Tbまたは電池SOCと体積分率εe,jとの関係を示すマップまたは演算式を実験などによって予め用意しておき、電池温度Tbまたは電池SOCに基づいて体積分率εe,jを特定してもよい。さらに、電池SOCに対する電極の体積膨張率βjの関係を示すマップから体積膨張率βjを求め、この体積膨張率βjから体積分率εe,jの変化量Δεe,jを算出し、体積分率εe,jを修正するようにして特定してもよい。ここで、電池SOCとは、リチウムイオン電池10の満充電容量に対する現在の充電容量の割合であり、例えば、リチウムイオン電池10の電圧Vb或いは電流Ibに基づいて算出できる量である。なお、体積分率εe,jの特定については、後で詳述する。
透過係数Kjは、電解液の流れやすさを規定する係数で、予め定めた固定値を用いてもよい。また、電池SOCに対する電極の体積膨張率βjの関係を示すマップから体積膨張率βjを求め、体積膨張率βjに対する透過係数Kjの関係を示すマップから透過係数Kjを特定してもよい。
上記のように、粘度μ、密度ρ、体積分率εe,j、透過係数Kjが特定されるので、上記式(1)では、流速ujおよび圧力pが未知数となるため、上記式(2)に示す連続式との連立方程式を解くことにより、流速ujおよび圧力pを算出できる。しかし、上記の式(1)、(2)を直接解くには複雑な計算が必要で計算時間が掛かることから、本実施形態においては、以下の(仮定1)〜(仮定4)を置いて式(1)、式(2)を簡略化した液流れ方程式(以下に示す式(5)〜(7))を用いて、負極の電解液の流速un、正極の電解液の流速up、セパレータの電解液の流速usを電解液中の流速ujを計算する。
(仮定1)電解液の密度ρが流速ujを算出する位置(X方向の位置を含む)に関わらず一定であり、次の式(3)が成立する。
Figure 2016207287
(仮定2)式(1)において、次の式(4)が成立する。
Figure 2016207287
(仮定3)x方向における電解液の圧力分布に関して、負極板、正極板およびセパレータにおける圧力分布が互いに等しい。
(仮定4)xが0であるときの負極の電解液の流速un、正極の電解液の流速up、セパレータの電解液の流速usをいずれも0と仮定する。ここで、x=0の位置は、X方向における領域Aの一端であり、X方向における領域Aの長さをLとすると、X方向における領域Aの他端は、x=Lとなる。
上記の(仮定1)から(仮定4)を用いて式(1)、(2)を流速ujについて解くと、負極の電解液の流速un、正極の電解液の流速up、セパレータの電解液の流速usを計算する簡易式(液流れ方程式)である式(5)〜(7)が得られる。
Figure 2016207287
上記式(5)〜(7)における、粘度μ、密度ρ、体積分率εe,j、透過係数Kjは、先に述べたと同様の方法によって特定される。
負極板121、正極板122、セパレータ123では、それぞれ負極活物質層121bの内部、正極活物質層122bの内部、セパレータ123の内部において電解液が移動する。このため、各流速un、up、usは、各極の活物質層121b、122bの内部及びセパレータ123における位置毎に算出される。図7に示す塩濃度の偏りを把握するときには、x方向で互いに異なる位置において、各流速un、up、usを算出する。
<濃度の偏りを推定する基礎式>
上記式(5)〜(7)を用いて流速ujを計算したら、下記の式(8)を用いて塩濃度ce,jを計算できる。
Figure 2016207287
上記式(8)において、De,j effは、電解液の実効拡散係数であり、t+ 0は電解液中の塩の輸率である。Fはファラデー定数であり、jjは、単位体積および単位時間において、電解液中の塩の生成量である。
上記式(8)の左辺第1項は、所定時間Δtにおける塩濃度の変化を規定している。上記式(8)の左辺第2項は、電解液の流速ujに依存する塩濃度の変化を規定している。上記式(8)の右辺第1項は、電解液中の塩の拡散状態を規定している。上記式(8)の右辺第2項は、塩の生成量を規定している。ここで、リチウムイオン電池10の放電時では、負極板121の表面(負極活物質層121b)において塩が生成され、リチウムイオン電池10の充電時では、正極板122の表面(正極活物質層122b)において塩が生成される。
上記式(8)を解くことにより塩濃度ce,jを算出でき、図6および図7を参照して説明した塩濃度の偏りを把握することができる。ここで、流速ujとしては、X方向の位置に応じた流速ujが用いられるため、上記式(8)を解くことにより、X方向の位置に応じた塩濃度ce,jを算出できる。これにより、X方向における塩濃度ce,jの分布(図7参照)を算出できる。
上述したように塩濃度ce,jの分布を算出すれば、塩濃度ce,jの最大差(塩濃度差)Δce_maxを算出できる。塩濃度差Δce_maxは、塩濃度(最大値)ceおよび塩濃度(最小値)ceの差である。
図9に示すように、抵抗上昇量Rhおよび塩濃度差Δce_maxの対応関係を実験などによって予め求めておけば、塩濃度差Δce_maxを算出することにより、この塩濃度差Δce_maxに対応した抵抗上昇量Rhを算出できる。図9に示すように、塩濃度差Δce_maxが大きくなるほど、抵抗上昇量Rhが大きくなる。言い換えれば、塩濃度差Δce_maxが小さくなるほど、抵抗上昇量Rhが小さくなる。上記式(8)によれば、塩濃度ceは、負極板121および正極板122のそれぞれで算出される。ここで、図9に示す塩濃度差Δce_maxを算出するときには、まず、負極板121および正極板122における塩濃度ceの分布を合算する。具体的には、負極板121および正極板122において、互いに対向する位置における塩濃度ceを合算する。そして、合算した塩濃度ceの分布において、塩濃度(最大値)ceおよび塩濃度(最小値)ceの差を塩濃度差Δce_maxとして算出する。
抵抗上昇量Rhおよび塩濃度差Δce_maxの対応関係は、マップ又は演算式として表すことができる。そして、この対応関係を特定する情報はメモリ41に記憶しておくことができる。後で図11に示すフローチャートを参照して詳説するように、所定の演算周期ごとに式(8)により塩濃度ce,jを算出することで抵抗上昇量Rhの変化を把握できる。
<体積分率εe,jの特定>
次に、電池SOCと体積分率εe,jとの関係を示すマップから体積分率εe,jの初期値を求め、電池SOCに対する電極の体積膨張率βjの関係を示すマップから体積膨張率βjを求め、この体積膨張率βjから体積分率εe,jの変化量Δεe,jを算出し、体積分率εe,jの初期値に加算することによって体積分率εe,jを特定する方法について説明する。
先に説明したように、あらかじめ用意した電池SOCと体積分率εe,jとの関係を示すマップから体積分率εe,jの初期値を求める。次に、電池SOCに対する負極体積、正極体積との関係から各電極の体積膨張率βjを求め、体積膨張率βjから体積分率εe,jの変化量Δεe,jを算出する。
リチウムイオン電池10が新品の場合、電池SOCに対する負極体積、正極体積との関係は、以下の手順で予め作成した既知のカーブである。以下、図10Aから図10Cを参照して電池SOCに対する負極体積の関係を示すカーブの作成について説明する。なお、以下の説明で用いる負極SOC(θn)、正極SOC(θp)は、負極、正極の各活物質121c,122cの中での限界リチウムイオン濃度(Csn,max、Csp,max)に対する負極、正極の各活物質121c、122cの界面における局所的なリチウムイオン濃度(Csen,Csep)の割合であり、以下の式で定義される。

負極SOC(θn)=Csen/Csn,max ――――――――― (9)
正極SOC(θp)=Csep/Csp,max ――――――――― (10)

負極SOC(θn)は、リチウムイオン電池10が充電されると増加し、放電されると減少する。逆に、正極SOC(θp)は、リチウムイオン電池10が放電されると増加し、充電されると減少する。従って、図10Aに示す様に横軸を負極SOC(θn)とする場合、負極SOC(θn)が0から1に増加する右方向が充電方向で、逆に負極SOC(θn)が1から0に減少する左方向が放電方向となる。
まず、図10Aに示すようにリチウムイオン電池10の設計スペック或いは新品の場合の実験データ等に基づいて、図10Aの線aに示すように、負極SOC(θn)に対する負極の開回路電位(OCP)のカーブ、及び、図10Aの線bに示すように、負極SOC(θn)に対する正極の開回路電位(OCP)のカーブを描く。図10Aに示すように、リチウムイオン電池10が新品の場合、Csn,max=Csp,maxであり、リチウムイオンLi+が全て負極側にある充電状態では、負極SOC(θn)=1(100%)(Csen=Csn,max=Csp,max)で、正極にはリチウムイオンLi+が存在しないので、正極SOC(θp)=0(0%)(Csep=0)であり、リチウムイオンLi+が全て正極側にある放電状態では、正極SOC(θp)=1(100%)(Csep=Csn,max=Csp,max)で、負極にはリチウムイオンLi+が存在しないので、負極SOC(θn)=0(0%)(Csen=0)である。
負極開回路電位(OCP)を示す線aと正極開回路電位(OCP)を示す線bとの差は、リチウムイオン電池10の開回路電圧(OCV)となる。図10Aに示すように、線aと線bとの差は、負極SOC(θn)が0から1に向かって大きくなるに従って大きくなる。一方、リチウムイオン電池10では、電池SOCが0%の場合の開回路電圧(OCV)を3V、電池SOCが100%の場合の開回路電圧(OCV)を4.1Vとしているので、図10Aにおいて、線aと線bとの差が3Vとなる負極SOC(θn)=θ1が電池SOCの0%に対応し、線aと線bとの差が4.1Vとなる負極SOC(θn)=θ2が電池SOCの100%に対応する。従って、電池SOCの0%と100%の範囲は、図10A、図10Bに示すθ1とθ2との間の範囲Qn0となる。また、正極SOC(θp)=θ3が電池SOCの0%に対応し、正極SOC(θp)=θ4が電池SOCの100%に対応する。従って、電池SOCの0%と100%の範囲は、図11Aに示すθ3とθ4との間の範囲Qp0となる。なお、図11Aについては後で説明する。
一方、図10Bの線cに示すように、実験等によって予め、負極SOC(θn)に対する負極体積Vnの変化特性カーブが用意されている。このカーブによると、負極SOC(θn)がθ1の場合の負極体積VnはV1、負極SOC(θn)がθ2の場合の負極体積VnはV2となる。先に説明したように、θ1は電池SOCの0%に対応し、θ2は電池SOCの100%に対応するから、電池SOCが0%の場合の負極体積VnはV1、電池SOC100%の場合の負極体積VnはV2となる。これを用いて、図10Cの線dに示すような電池SOCに対する負極体積Vnのカーブを作成することができる。負極の体積膨張率βnは、図10Cの線dの傾きになる。図10Cには、例として、電池SOCがSOC1の場合の負極の体積膨張率βn1を示してある。
正極についても同様に、図11Aの線eに示すように、実験等によって予め、正極SOC(θp)に対する正極体積Vpの変化特性カーブが取得されている。新品の場合、負極SOC(θn)=1のとき正極SOC(θp)=0であり、正極SOC(θp)=1のとき負極SOC(θn)=0であるから、図11Aの横軸の(1−正極SOC(θp))は、負極SOC(θn)と同様である。従って、図11Aでも右方向が充電方向で左方向が放電方向である。また、先に述べたように、正極SOC(θp)=θ3が電池SOCの0%に対応し、正極SOC(θp)=θ4が電池SOCの100%に対応する。従って、電池SOCの0%と100%の範囲は、図11Aに示すθ3とθ4との間の範囲Qp0となる。
このカーブによると、正極SOC(θp)がθ3の場合の正極体積VpはV3、正極SOC(θp)がθ4の場合の正極体積はV4となる。先に説明したように、θ3は電池SOCの0%に対応し、θ4は電池SOCの100%に対応するから、電池SOCが0%の場合の正極体積VpはV3、電池SOC100%の場合の正極体積VpはV4となる。これを用いて、図11Bの線fに示すような電池SOCに対する正極体積Vpのカーブを作成することができる。正極の体積膨張率βpは、図11Bの線fの傾きになる。図11Bには、例として、電池SOCがSOC1の場合の正極の体積膨張率βp1を示してある。
次に、下記の式(11)に基づいて、体積膨張率βjから体積分率εe,jの変化量Δεe,jを算出する。式(11)は、体積Vall,jが予め定めた一定の体積Vall_modelであるとの仮定の下に体積膨張率βjから体積分率εe,jの変化量Δεe,jを算出する式である。また、式(11)において、yは発電要素の厚さであり、Δyは発電要素120の厚さの変化率であるから、式(11)により、発電要素120の厚みの変化を考慮した場合の体積膨張率βjから体積分率εe,jの変化量Δεe,jを算出することができる。なお、式(11)で、εe,jは、先に述べたように、電池SOCと体積分率εe,jとの関係を示すマップから求めた体積分率εe,jの初期値である。
Figure 2016207287
また、発電要素120の厚みの変化を考慮しない場合には、下記の式(12)を用いて体積膨張率βjから体積分率εe,jの変化量Δεe,jを算出してもよい。
Figure 2016207287
式(11)または式(12)により求めた変化量Δεe,jをマップから求めた初期の体積分率εe,jに加算して式(5)〜(7)の流速計算に用いる体積分率εe,jを特定する。
<フローチャートと計算手順>
以上、リチウムイオン電池10の構造と、電解液の流速と塩濃度の偏りを計算する基礎式について説明したが、以下、図12、図13のフローチャートと図14A〜図16Cを参照しながら、図1に示すコントローラ40が行う本発明の方法を用いた電解液の流速、塩濃度の偏り、抵抗上昇量の計算並びに、リチウムイオン電池10の劣化推定について説明する。
<ステップS101からステップS106について>
コントローラ40は、図12のステップS101に示すように、繰り返し演算のカウンタを1にセットする。次に、コントローラ40は、図12のステップS102に示すように、電池温度Tbを検出する。次に、図12のステップS103に示すように、コントローラ40は、電池SOCを算出する。電池SOCの算出は、いろいろな方法が有るが、例えば、電池の出力電流Ibと電池電圧Vbとを測定し、電池のIV特性カーブに基づいて電池SOCを計算してもよい。次に、図12のステップS104に示すように、コントローラ40は、測定した電池温度Tbと密度ρと電池温度Tbとのマップから電解液の密度ρを求める。
図12のステップS105において、コントローラ40は、繰り返し計算のカウンタNが1かどうかを判断し、Nが1の場合、初回の演算であると判断し、図12のステップS106に示すように、図12のステップS103で算出した電池SOCと、電池SOCと体積分率εe,jとの関係を示すマップとから体積分率εe,jの初期値を求める。
<電極劣化による負極体積変化特性修正処理(ステップS107)>
次に、コントローラ40は、図12のステップS107に示すように、電極劣化による負極体積変化特性修正処理を実行する。この処理は、電極の劣化を考慮して負極SOC(θn)に対する負極体積の変化特性カーブを図10Cに示す新品の状態のカーブから修正する処理であり、図13に示すステップS201からS210の処理を行うものである。
この処理は、「電極劣化後の負極SOC(θn)に対する正極の開回路電位(OCP)の特性の計算」、「劣化後の電池SOCと負極SOCの対応関係の算出」、「電池SOCに対する負極体積の変化特性の修正」を行うものである。ここで、「電極劣化」には、(1)正極が劣化した場合、(2)負極が劣化した場合、(3)劣化により負極と正極との対応関係がずれた場合、の3つの場合があり、それぞれ計算処理の方法が異なる。図13のステップS201に示すように、コントローラ40は、電極劣化のパターンが上記の(1)〜(3)のいずれの場合であるかを判定する。正極の劣化は正極容量が低下しているかどうかで判定し、負極の劣化は負極容量が低下しているかどうかで判定し、劣化による負極と正極との対応関係のずれは、正負極の開回路電位(OCP)の対応ずれ算出により判定する。コントローラ40は、正極が劣化していると判定した場合には、図13に示すステップS202〜S204を実行し、負極が劣化していると判定した場合には、図13のステップS205〜S207を実行し、劣化により負極と正極との対応関係がずれていると判定した場合には、図13のステップS208〜S210を実行する。また、コントローラ40は電極の劣化が無いと判定した場合には、劣化を考慮した負極体積変化特性修正処理を行わずに図12のステップ108に進む。以下、(1)正極が劣化した場合の処理(ステップS202〜204)、(2)負極が劣化した場合の処理(ステップS205〜207)、(3)劣化により負極と正極との対応関係がずれた場合の処理(ステップS208〜210)、の順に説明する。
<正極が劣化した場合の処理(ステップS202〜S204)>
最初に図13のステップS202に示す「正極劣化後の負極SOC(θn)に対する正極の開回路電位(OCP)の特性の計算」について説明する。先に説明したように、負極SOC(θn)、正極SOC(θp)は、負極、正極の各活物質121c,122cの中での限界リチウムイオン濃度(Csn,max、Csp,max)に対する負極、正極の各活物質121c、122cの界面における局所的なリチウムイオン濃度(Csen,Csep)の割合であり、以下の式で定義される。

負極SOC(θn)=Csen/Csn,max ――――――――― (9)
正極SOC(θp)=Csep/Csp,max ――――――――― (10)

負極SOC(θn)は、リチウムイオン電池10が充電されると増加し、放電されると減少する。逆に、正極SOC(θp)は、リチウムイオン電池10が放電されると増加し、充電されると減少する。リチウムイオン電池10が新品の場合、Csn,max=Csp,maxであり、リチウムイオンLi+が全て負極側にある充電状態では、負極SOC(θn)=1(100%)(Csen=Csn,max=Csp,max)で、正極にはリチウムイオンLi+が存在しないので、正極SOC(θp)=0(0%)(Csep=0)であり、リチウムイオンLi+が全て正極側にある放電状態では、正極SOC(θp)=1(100%)(Csep=Csn,max=Csp,max)で、負極にはリチウムイオンLi+が存在しないので、負極SOC(θn)=0(0%)(Csen=0)である。
劣化によって正極の容量が低下すると、正極の活物質122cの中での限界リチウムイオン濃度(Csp,max)が減少する。すると、正極の活物質122cの中での限界リチウムイオン濃度(Csp,max)が負極の活物質121cの中での限界リチウムイオン濃度(Csn,max)よりも小さくなる(Csn,max>Csp,max)。この状態では、負極側に存在していたリチウムイオンLi+は放電によって全て正極側に移動することができないので、正極SOC(θp)=1(100%)になっても、負極には正極に移動できないリチウムイオンLi+が存在する。このため、正極SOC(θp)が1の場合に負極SOC(θn)は0よりも大きな数字となる。例えば、正極の活物質122cの中での限界リチウムイオン濃度(Csp,max)が90%となった場合では、正極SOC(θp)=1(100%)の状態で正極に移動できない10%のリチウムイオンLi+が負極に残るので、負極SOC(θn)は、10%となる。つまり、図14Aに示すように、負極SOC(θn)を基準にした場合、正極SOC(θp)が1となる位置は、負極SOC(θn)が0となる位置よりも右(負極SOC(θn)が増加する方向)にずれることになる。
正極SOC(θp)が1の位置は、正極の開回路電位(OCP)が急速に低下する位置であるから、図14Aの実線b1に示すように、正極の開回路電位(OCP)の左端の位置は、正極SOC(θp)と同様、負極SOC(θn)が0となる位置よりも右(負極SOC(θn)が増加する方向)にずれる。このように、正極が劣化すると、負極SOC(θn)に対する正極の開回路電位(OCP)の特性を示すカーブ(図14Aの実線b1)は、図14Aに破線bで示す新品の場合のカーブを右方向に圧縮したカーブとなる。圧縮される割合は、正極の活物質122cの中での限界リチウムイオン濃度(Csp,max)の低下割合或いは、劣化率と同様であり、先に説明したように、正極の活物質122cの中での限界リチウムイオン濃度(Csp,max)が90%まで10%低減した場合には、実線b1で示される特性カーブは破線bで示される新品の場合のカーブを横軸方向に10%圧縮したカーブとなる。
以上説明したように、図14Aの実線b1で示す、正極が劣化した際の負極SOC(θn)に対する正極の開回路電位(OCP)の特性を示すカーブは、正極の活物質122cの中での限界リチウムイオン濃度(Csp,max)の低下割合或いは、正極の劣化率によって決まってくるので、これらの数値を特定しておくことにより、以上説明した方法によってステップS202において図14Aの実線b1で示すカーブを算出することができる。
次に、図13のステップS203に示す「劣化後の電池SOCと負極SOCの対応関係の算出」について説明する。
図14Aに示す負極開回路電位(OCP)を示す線aとステップS202の計算によって求めた正極開回路電位(OCP)を示す実線b1との差は、正極が劣化した場合のリチウムイオン電池10の開回路電圧(OCV)となる。また、図14Aに示す負極開回路電位(OCP)を示す線aと新品の場合の正極開回路電位(OCP)を示す破線bとの差は、新品の場合のリチウムイオン電池10の開回路電圧(OCV)となる。先に、図10Aから図10C参照して説明したように、リチウムイオン電池10では、電池SOCが0%の場合の開回路電圧(OCV)を3V、電池SOCが100%の場合の開回路電圧(OCV)を4.1Vとしているので、図14Aにおいて、線aと実線b1との差が3Vとなる負極SOC(θn)=θ11は正極が劣化した場合の電池SOCの0%に対応し、線aと実線b1との差が4.1Vとなる負極SOC(θn)=θ21は正極が劣化した場合の電池SOCの100%に対応する。従って、正極が劣化した場合の電池SOCの0%と100%の範囲は、図14A,図14Bに示すθ11とθ21との間の範囲Qn1となる。
先に図10Aから図10Cを参照して説明したと同様、図14Aにおいて、線aと破線bとの差が3Vとなる負極SOC(θn)=θ1は新品の場合の電池SOCの0%に対応し、線aと破線bとの差が4.1Vとなる負極SOC(θn)=θ2は新品の場合の電池SOCの100%に対応する。従って、新品の場合の電池SOCの0%と100%の範囲は、図14A,図14Bに示すθ1とθ2との間の範囲Qn0となる。
このように、正極が劣化すると、電池SOCの0%〜100%に対応する負極SOC(θn)の範囲が新品の場合の範囲Qn0(θ1とθ2との間)から範囲Qn1(θ11とθ21との間)にずれてくる。上記のように、電池SOCと負極SOC(θn)との対応関係を算出したらステップS203を終了する。
次に、ステップS204の処理について説明する。先に説明した図10Bと同様、図14Bの線cに示すように、負極SOC(θn)に対する負極体積Vnの変化特性カーブが予め用意されている。正極が劣化した場合、図14Bに示す線cを用いると、電池SOCの0%に対応する負極SOC(θn)がθ11の場合の負極体積VnはV11、電池SOCの100%に対応する負極SOC(θn)がθ21の場合の負極体積VnはV21となるから、これを用いて、図14Cの実線d1に示すような正極が劣化した場合の電池SOCに対する負極体積Vnのカーブを作成することができる。負極の体積膨張率βn11は、図14Cの実線d1の傾きになる。図14Cには、例として、正極が劣化した場合の電池SOCがSOC1における負極の体積膨張率βn11を示してある。
図10B、図10Cを参照して説明したように、リチウムイオン電池10が新品の場合、図14Bに示す線cにおいて、電池SOCの0%に対応する負極SOC(θn)がθ1の場合の負極体積VnはV1、電池SOCの100%に対応する負極SOC(θn)がθ2の場合の負極体積VnはV2となるから、新品の場合の電池SOCに対する負極体積Vnのカーブは図14Cの破線dとなる。
図14Cに示すように、実線d1で示す正極が劣化した場合の電池SOCに対する負極体積Vnのカーブは、破線dで示す新品の場合のカーブよりも傾きが小さくなっている。このため、正極が劣化した場合における負極の体積膨張率βnは、新品の場合の負極の体積膨張率βnよりも小さくなっている。(図14Cに示すβn11<図10Cに示すβn1)。
以上述べたように、新品の場合の電池SOCに対する負極体積の変化を示すカーブ(図14Cに破線dで示すカーブ)を正極の劣化を考慮したカーブ(図14Cに実線d1で示すカーブ)に修正したら、ステップS204を終了する。ステップS204を終了したら、図12のフローチャートのステップS108に進む。
<負極が劣化した場合の処理(ステップS205〜S207)>
次に、図13のステップS205に示す、「負極劣化後の負極SOC(θn)に対する正極の開回路電位(OCP)の特性の計算」について説明する。
劣化によって負極の容量が低下すると、負極の活物質121cの中での限界リチウムイオン濃度(Csn,max)が減少する。すると、負極の活物質121cの中での限界リチウムイオン濃度(Csn,max)が正極の活物質122cの中での限界リチウムイオン濃度(Csp,max)よりも小さくなる(Csn,max<Csp,max)。先に説明した正極が劣化した場合とは逆に、この状態では、正極側に存在していたリチウムイオンLi+は充電によって全て負極側に移動することができないので、負極SOC(θpn)=1(100%)になっても、負極には正極に移動できないリチウムイオンLi+が存在する。このため、負極SOC(θn)が1の場合に正極SOC(θp)は0よりも大きな数字となる。このため、図15Aに示すように、負極SOC(θn)を基準にした場合、正極SOC(θp)が0となる位置は、負極SOC(θn)が1となる位置よりも右(負極SOC(θn)が増加する方向)にずれることになる。
正極SOC(θp)が0の位置は、正極の開回路電位(OCP)が最大となる位置であるから、図15Aの実線b2に示すように、正極の開回路電位(OCP)の右端の位置は、正極SOC(θp)と同様、負極SOC(θn)が1となる位置よりも右(負極SOC(θn)が増加する方向)にずれる。このように、負極が劣化すると、負極SOC(θn)に対する正極の開回路電位(OCP)の特性を示すカーブ(図15Aの実線b2)は、図15Aに破線bで示す新品の場合のカーブを右方向に引き伸ばしたカーブとなる。引き伸ばされる割合は、負極の活物質121cの中での限界リチウムイオン濃度(Csn,max)の低下割合或いは、劣化率と同様であり、負極の活物質121cの中での限界リチウムイオン濃度(Csp,max)が90%まで10%低減した場合には、実線b2で示される特性カーブは破線bで示される新品の場合のカーブを横軸方向に10%引き伸ばしたカーブとなる。
以上説明したように、図15Aの実線b2で示す、負極が劣化した際の負極SOC(θn)に対する正極の開回路電位(OCP)の特性を示すカーブは、負極の活物質121cの中での限界リチウムイオン濃度(Csn,max)の低下割合或いは、負極の劣化率によって決まってくるので、これらの数値を特定しておくことにより、以上説明した方法によってステップS205において図15Aの実線b2で示すカーブを算出することができる。
次に、図13のステップS206に示す「劣化後の電池SOCと負極SOCの対応関係の算出」について説明する。
図15Aに示す負極開回路電位(OCP)を示す線aとステップS205の計算によって求めた正極開回路電位(OCP)を示す実線b2との差は、負極が劣化した場合のリチウムイオン電池10の開回路電圧(OCV)となり、先に説明したと同様、図15Aに示す負極開回路電位(OCP)を示す線aと新品の場合の正極開回路電位(OCP)を示す破線bとの差は、新品の場合のリチウムイオン電池10の開回路電圧(OCV)となる。そして、図15Aにおいて、線aと実線b2との差が3Vとなる負極SOC(θn)=θ12は負極が劣化した場合の電池SOCの0%に対応し、線aと実線b2との差が4.1Vとなる負極SOC(θn)=θ22は負極が劣化した場合の電池SOCの100%に対応する。従って、負極が劣化した場合の電池SOCの0%と100%の範囲は、図15A,図15Bに示すθ12とθ22との間の範囲Qn2となる。また、先に図10Aから図10Cを参照して説明したと同様、新品の場合の電池SOCの0%と100%の範囲は、図15A,図15Bに示すθ1とθ2との間の範囲Qn0となる。
このように、負極が劣化すると、電池SOCの0%〜100%に対応する負極SOC(θn)の範囲が新品の場合の範囲Qn0(θ1とθ2との間)から範囲Qn2(θ12とθ22との間)にずれてくる。上記のように、電池SOCと負極SOC(θn)との対応関係を算出したらステップS206を終了する。
正極が劣化した場合のステップS204の説明で述べたように、ステップS207において、予め用意された図15Bの線cに示す負極SOC(θn)に対する負極体積Vnの変化特性カーブを用いると、電池SOCの0%に対応する負極SOC(θn)がθ12の場合の負極体積VnはV12、電池SOCの100%に対応する負極SOC(θn)がθ22の場合の負極体積VnはV22となる。これを用いて、図15Cの実線d2に示すような負極が劣化した場合の電池SOCに対する負極体積Vnのカーブを作成することができる。負極の体積膨張率βn12は、図15Cの実線d2の傾きになる。図15Cには、例として、負極が劣化した場合の電池SOCがSOC1における負極の体積膨張率βn12を示してある。また、先に説明したように、新品の場合の電池SOCに対する負極体積Vnのカーブは図15Cの破線dとなる。
図15Cに示すように、実線d2で示す正極が劣化した場合の電池SOCに対する負極体積Vnのカーブは、破線dで示す新品の場合のカーブよりも傾きが小さくなっている。このため、正極が劣化した場合と同様、負極が劣化した場合における負極の体積膨張率βnは、新品の場合の負極の体積膨張率βnも小さくなっている。(図15Cに示すβn12<図10Cに示すβn1)。
以上述べたように、新品の場合の電池SOCに対する負極体積の変化を示すカーブ(図15Cに破線dで示すカーブ)を負極の劣化を考慮したカーブ(図15Cに実線d2に示すカーブ)に修正したらステップS207を終了する。ステップS207を終了したら、図12のフローチャートのステップS108に進む。
<劣化により負極と正極との対応関係がずれた場合の処理(ステップS208〜S210)>
次に、図13のステップS208に示す、「劣化による正負極ずれ後の負極SOC(θn)に対する正極の開回路電位(OCP)の特性の計算」について説明する。
先に、図10Aから図10Cを参照して説明したように、新品の場合には、負極SOC(θn)が0の場合には、正極SOC(θp)は1であり、逆に負極SOC(θn)が1の場合には、正極SOC(θp)は0である。リチウムイオン電池10が劣化してくると、負極、正極の活物質121c、122cの中での限界リチウムイオン濃度(Csn,max,Csp,max)が減少するのではなく、図16Aに示すように、負極SOC(θn)と正極SOC(θp)の対応関係がずれる場合がある。図16Aは、負極の開回路電位(OCP)カーブを示す線aに対して正極の開回路電位(OCP)特性が右側にずれた実線b3となった場合を示す。実線b3は、新品の場合の正極の開回路電位(OCP)特性を示す破線bを右側の平行移動したカーブである。
以上説明したように、図16Aの実線b3で示す、負極SOC(θn)と正極SOC(θp)の対応関係がずれた場合の負極SOC(θn)に対する正極の開回路電位(OCP)の特性を示すカーブは、負極SOC(θn)と正極SOC(θp)の対応関係のずれ量によって決まるので、劣化によるずれ量を特定しておくことにより、以上説明した方法によってステップS208において図16Aの実線b3で示すカーブを算出することができる。
次に、図13のステップS209に示す「劣化後の電池SOCと負極SOCの対応関係の算出」について説明する。
図16Aに示す負極開回路電位(OCP)を示す線aとステップS208の計算によって求めた正極開回路電位(OCP)を示す実線b3との差は、劣化により負極と正極との対応関係がずれた場合のリチウムイオン電池10の開回路電圧(OCV)となり、先に説明したと同様、図16Aに示す負極開回路電位(OCP)を示す線aと新品の場合の正極開回路電位(OCP)を示す破線bとの差は、新品の場合のリチウムイオン電池10の開回路電圧(OCV)となる。そして、図16Aにおいて、線aと実線b3との差が3Vとなる負極SOC(θn)=θ13は負極が劣化した場合の電池SOCの0%に対応し、線aと実線b3との差が4.1Vとなる負極SOC(θn)=θ23は負極が劣化した場合の電池SOCの100%に対応する。従って、負極が劣化した場合の電池SOCの0%と100%の範囲は、図16A,図16Bに示すθ13とθ23との間の範囲Qn3となる。また、先に図10Aから図10Cを参照して説明したと同様、新品の場合の電池SOCの0%と100%の範囲は、図16A,図16Bに示すθ1とθ2との間の範囲Qn0となる。
このように、劣化により負極と正極との対応関係がずれると、電池SOCの0%〜100%に対応する負極SOC(θn)の範囲が新品の場合の範囲Qn0(θ1とθ2との間)から範囲Qn3(θ13とθ23との間)にずれてくる。上記のように、電池SOCと負極SOC(θn)との対応関係を算出したらステップS209を終了する。
負極が劣化した場合のステップS207の説明で述べたように、ステップS210において、予め用意された図16Bの線cに示す負極SOC(θn)に対する負極体積Vnの変化特性カーブを用いると、電池SOCの0%に対応する負極SOC(θn)がθ13の場合の負極体積VnはV13、電池SOCの100%に対応する負極SOC(θn)がθ23の場合の負極体積VnはV23となる。これを用いて、図16Cの実線d3に示すような劣化により負極と正極との対応関係がずれた場合の電池SOCに対する負極体積Vnのカーブを作成することができる。負極の体積膨張率βnは、図16Cの実線d3の傾きになる。図16Cには、例として、劣化により負極と正極との対応関係がずれた場合の電池SOCがSOC1における負極の体積膨張率βn13を示してある。また、先に説明したように、新品の場合の電池SOCに対する負極体積Vnのカーブは図16Cの破線dとなる。
図16Cに示すように、実線d3で示す正極が劣化した場合の電池SOCに対する負極体積Vnのカーブは、破線dで示す新品の場合のカーブよりも少し傾きが小さくなっている。このため、正極、負極が劣化した場合と同様、劣化により負極と正極との対応関係がずれた場合における負極の体積膨張率βnは、新品の場合の負極の体積膨張率βnも小さくなっている。(図16Cに示すβn13<図10Cに示すβn1)。
以上述べたように、新品の場合の電池SOCに対する負極体積の変化を示すカーブ(図16Cに破線dで示すカーブ)を劣化により負極と正極との対応関係のずれを考慮したカーブ(図16Cに実線d3に示すカーブ)に修正したらステップS210を終了する。ステップS210を終了したら、図12のフローチャートのステップS108に進む。
<ステップS108からS116>
以上説明したように、図12のステップS107に示す負極体積変化特性修正処理を終了したら、コントローラ40は、ステップS107の処理で修正した負極SOC(θn)に対する負極体積の変化特性カーブに基づいて体積膨張率βjを算出し、先に説明した式(11)によって図12のステップS108に示す様に、体積膨張率βjから体積分率εe,jの変化量Δεe,jを算出する。なお、発電要素120の厚みの変化を考慮せずに体積分率εe,jの変化量Δεe,jを算出する場合には、先に説明した式(12)を用いて体積分率εe,jの変化量Δεe,jを算出してもよい。
図12のステップS109に示すように、コントローラ40は、ステップS108の処理により求めた変化量Δεe,jを初期の体積分率εe,jに加算して式(5)〜(7)の流速計算に用いる体積分率εe,jとする。初回の演算の場合には、ステップS106において、電池SOCと、電池SOCと体積分率εe,jとの関係を示すマップとから持求めた体積分率εe,jの初期値に変化量Δεe,jを加算し、式(5)〜(7)の流速計算に用いる体積分率εe,jとする。また、初回の演算ではない場合には、前回の演算における体積分率εe,jに変化量Δεe,jを加算し、今回の演算における流速計算に用いる体積分率εe,jとする。
図12のステップS110に示すように、コントローラ40は、ステップS107の処理で求めた体積膨張率βjと、体積膨張率βjに対する透過係数Kjの関係を示すマップから透過係数Kjを特定する。
図12のステップS111に示すように、コントローラ40は、式(5)〜(7)によって、負極の電解液の流速un、正極の電解液の流速up、セパレータの電解液の流速usを計算する。次に、図12のステップS112に示すように、コントローラ40は、式(8)から電解液中の塩濃度ce,jを計算する。
塩濃度ce,jを計算したら、図12のステップS113に示すように、コントローラ40は、塩濃度差Δce_maxを計算する。この計算は、負極板121および正極板122において、互いに対向する位置における塩濃度ceを合算し、合算した塩濃度ceの分布において、塩濃度(最大値)ceおよび塩濃度(最小値)ceの差を塩濃度差Δce_maxとして算出する。
次に、図12のステップS114に示すように、コントローラ40は、抵抗上昇量Rhおよび塩濃度差Δce_maxの対応関係を示すマップ(図9参照)により、抵抗上昇量Rhを算出し、メモリ41に格納する(S113)。
図12のステップS115に示すように、コントローラ40は、繰り返し演算のカウンタNが所定の繰り返し数Nendとなっているかどうかを判断し、所定の繰り返し数になっていない場合には、ステップS102に戻ってステップS102からステップS105、ステップS107〜ステップS114の演算を繰り返す。そして、繰り返し演算のカウンタNが所定の繰り返し数Nendとなったら、図12に示すステップS115にジャンプし、メモリ41に格納した抵抗上昇量Rhを読み出して、抵抗上昇量Rhの時間変化を把握する。そして、抵抗上昇量Rhの時間変化と電池劣化度合いとの関係を示すマップから電池の劣化を推定する(S116)。
以上説明した演算方法によると、電池温度上昇による電解液の膨張、負極劣化による体積膨張率βjの変化、電極厚みの変化による体積分率εの変化、負極劣化による透過係数Kjの変化、を考慮して電解液の流速ujから塩濃度差を計算して電池の劣化推定を行うので、精度よく電池の劣化を推定することができる。
以上説明した実施形態では、コントローラ40は、正極の開回路電位(OCP)と負極の開回路電位(OCP)との電位差が所定の第1電圧となる第1負極SOC(θn)と、正極の開回路電位(OCP)と負極の開回路電位(OCP)との電位差が所定の第1電圧(3V)よりも高い所定の第2電圧(4.1V)となる第2負極SOC(θn)を算出し、第1負極SOC(θn)と第2負極SOC(θn)に対応する各負極体積を、電池SOCが下限値の場合の負極体積Vnと電池SOCが上限値の場合の負極体積Vnとして電池SOCに対する負極体積Vnの変化特性を修正する際に、第1負極SOC(θn)と第2負極SOC(θn)は、電極劣化による正極または負極の容量低下或いは正極SOC(θp)と負極SOC(θn)との対応関係のずれに基づいて算出された負極SOC(θn)に対する正極の開回路電位特性と、負極SOC(θn)に対する負極の開回路電位特性とから算出することとして説明したが、これ限らず、第1負極SOC(θn)と第2負極SOC(θn)は、電極劣化による正極または負極の容量低下或いは正極SOC(θp)と負極SOC(θn)との対応関係のずれによる正極の開回路電位(OCP)と負極の開回路電位(OCP)との電位差の変化と、第1負極SOC(θn)と第2負極SOC(θn)との関係を規定したマップに基づいて算出するようにしてもよい。
10 リチウムイオン電池、110 電池ケース、111 負極端子、112 正極端子、120 発電要素、121 負極板、121a,122a 集電箔、121b 負極活物質層、121c 負極活物質、122 正極板、122b 正極活物質層、122c 正極活物質、123,124 セパレータ。

Claims (6)

  1. 充放電を行う発電要素および電解液が電池ケースに収容された二次電池と、
    前記発電要素に含浸された前記電解液中の塩濃度の偏りを算出するコントローラと、を
    有し、
    前記コントローラが、電池SOCに対する電極体積の変化特性に基づいて電解液の流速を計算し、
    計算した電解液の流速に基づいて電解液中の塩濃度の分布を推定して二次電池の劣化を推定する二次電池の劣化推定方法であって、
    電解液の流速は、負極SOCと電池SOCとの対応関係のずれに基づいて修正した電池SOCに対する負極体積の変化特性を用いて計算される二次電池の劣化推定方法。
  2. 請求項1に記載の二次電池の劣化推定方法であって、
    前記コントローラは、電極劣化による正極または負極の容量低下或いは正極SOCと負極SOCとの対応関係のずれに基づいて、負極SOCと電池SOCとの対応関係のずれを算出する二次電池の劣化推定方法。
  3. 請求項1または2に記載の二次電池の劣化推定方法であって、
    前記コントローラは、正極の開回路電位と負極の開回路電位との電位差が所定の第1電圧となる第1負極SOCと、正極の開回路電位と負極の開回路電位との電位差が所定の第1電圧よりも高い所定の第2電圧となる第2負極SOCを算出し、
    第1負極SOCと第2負極SOCに対応する各負極体積を、電池SOCが下限値の場合の負極体積と電池SOCが上限値の場合の負極体積として電池SOCに対する負極体積の変化特性を修正する二次電池の劣化推定方法。
  4. 請求項3に記載の二次電池の劣化推定方法であって、
    第1負極SOCと第2負極SOCは、電極劣化による正極または負極の容量低下或いは正極SOCと負極SOCとの対応関係のずれに基づいて算出された負極SOCに対する正極の開回路電位特性と、負極SOCに対する負極の開回路電位特性とから算出される二次電池の劣化推定方法。
  5. 請求項3に記載の二次電池の劣化推定方法であって、
    第1負極SOCと第2負極SOCは、電極劣化による正極または負極の容量低下或いは正極SOCと負極SOCとの対応関係のずれによる正極の開回路電位と負極の開回路電位との電位差の変化と、第1負極SOCと第2負極SOCとの関係を規定したマップに基づいて算出される二次電池の劣化推定方法。
  6. 請求項3から5のいずれか1項に記載の二次電池の劣化推定方法であって、下限値は0%で、上限値は100%である二次電池の劣化推定方法。
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