JP6212360B2 - マグネシウム合金部材の製造方法 - Google Patents

マグネシウム合金部材の製造方法 Download PDF

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Description

本発明はマグネシウム合金部材の製造方法に関し、特に作業を簡素化しつつシール面に対する液状ガスケットの接着性にばらつきを生じ難くできるマグネシウム合金部材の製造方法に関するものである。
アルミニウムを含有するマグネシウム合金部材は、マグネシウム合金の比重が小さく比強度および比耐力が大きいので、アルミニウム合金部材に代えて、オイルパン、トランスミッションケース、シリンダブロック等の自動車部品に使用される。このようなマグネシウム合金部材は、油密性や水密性、気密性が要求される部材間のシール面に、液状ガスケットにより弾性皮膜または粘着性の薄層が形成される。
液状ガスケットは、未硬化の液状状態でシール面に塗布され、所定の条件下で硬化し、シール面を封止するシール剤である。既存の液状ガスケットの多くは、主としてアルミニウム合金部材に対応するので、アルミニウム合金部材に対して優れた接着力(親和力)を有するものの、マグネシウム合金部材に対しては、通常、接着力が乏しい。
そこで、接着力を向上させるため、液状ガスケットをシール面に塗布する前処理として、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム等の無機塩化物を含む塩化物水溶液にマグネシウム合金部材を浸漬する技術がある(特許文献1)。特許文献1に開示される技術では、塩化物水溶液にマグネシウム合金部材を浸漬することによって、マグネシウムが溶解し、表面のアルミニウムの含有率が相対的に増加する。その結果、マグネシウム合金部材のシール面に対して液状ガスケットの親和性を向上させ、接着性を向上させることができる。
特開2011−12318号公報
しかしながら上記従来の技術では、マグネシウム合金部材に機械加工を行うときに用いられる加工液によって、マグネシウム合金部材のシール面に疎水性(撥水性)膜が形成されると、その疎水性膜によってシール面に対する親水性が低下し、塩化物水溶液へのマグネシウムの溶解が阻害される。そのため、加工液によってシール面に形成される膜の親水性の高低によって、シール面に対する液状ガスケットの親和性(接着性)にばらつきが生じるという問題がある。
また、水溶液に含まれる塩化物がマグネシウム合金部材に残留すると、マグネシウム合金部材の耐食性に問題が生じる。それを防ぐため、塩化物水溶液に浸漬した後のマグネシウム合金部材の洗浄を十分に行う必要があるので、作業が煩雑化するという問題がある。
本発明は上述した問題を解決するためになされたものであり、作業を簡素化しつつシール面に対する液状ガスケットの接着性にばらつきを生じ難くできるマグネシウム合金部材の製造方法を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段および発明の効果
この目的を達成するために請求項1記載のマグネシウム合金部材の製造方法によれば、アルミニウムを含有しα相およびβ相が含まれるマグネシウム合金部材のシール面は、加工工程により加工液を用いて機械加工が行われる。加工工程により加工されたマグネシウム合金部材のシール面が、洗浄工程により、水または温水をかけながら又は水または温水中で洗浄される。
加工液によってマグネシウム合金部材のシール面に疎水性膜が形成された場合も、洗浄工程によって疎水性膜を除去できるので、温水との親和性を向上させることができる。洗浄されたシール面を改質工程により60〜100℃の温水に1分間以上接触させると、マグネシウムを主体とするα相がシール面から温水中に溶け出し、アルミニウム濃度が高いβ相がシール面に残る。α相が温水中に溶け出すことでシール面に微細な凹凸も形成されるので、β相による化学的相互作用や凹凸によるアンカー効果によって、液状ガスケットの接着性にばらつきを生じ難くできる効果がある。また、温度が60℃〜100℃の温水を用いるので、それより温度の低い温水を用いる場合と比較して、短時間でα相を温水に溶解させることができる。
また、洗浄工程や改質工程では水や温水を用いるので、耐食性に問題が生じる物質がマグネシウム合金部材に残留することがなく、耐食性に問題を生じる物質の除去洗浄が不要となるためマグネシウム合金部材の洗浄等の処理を簡素化できる効果がある。
請求項2記載のマグネシウム合金部材の製造方法によれば、アルミニウムを含有しα相およびβ相が含まれるマグネシウム合金部材のシール面は、加工工程により加工液を用いて機械加工が行われる。加工工程により加工されたマグネシウム合金部材のシール面が、温水洗浄工程により、60〜100℃の温水をかけながら又は60〜100℃の温水中で1分間以上洗浄される。
加工液によってマグネシウム合金部材のシール面に疎水性膜が形成された場合も、温水洗浄工程によって疎水性膜を除去できるので、温水との親和性を向上させることができる。シール面を温水に接触させながら洗浄することにより、改質工程を別途設ける必要がなく、疎水性膜を除去しながらマグネシウムを主体とするα相をシール面から温水中に溶け出させることができる。アルミニウム濃度が高いβ相がシール面に残るので、請求項1と同一の効果がある。
請求項3記載のマグネシウム合金部材の製造方法によれば、洗浄工程または温水洗浄工程によりシール面に機械的な力を加えて洗浄される。これにより、請求項1又は2の効果に加え、シール面に強固に疎水性膜が形成された場合も、シール面に機械的な力を加えることによって疎水性膜を除去し、シール面を確実に洗浄できる効果がある。
請求項4記載のマグネシウム合金部材の製造方法によれば、アルミニウムを含有しα相およびβ相が含まれるマグネシウム合金部材のシール面は、水系加工液を用いた水系加工工程により加工される。次いで、水系加工工程により加工されたマグネシウム合金部材のシール面を、温水改質工程により60〜100℃の温水に1分間以上接触させる。
水系加工液によってマグネシウム合金部材のシール面に疎水性(撥水性)膜は形成されないので、温水改質工程によりシール面を温水に接触させる工程だけで、マグネシウムを主体とするα相および親水性膜がシール面から温水中に溶け出し、アルミニウム濃度が高いβ相がシール面に残る。これにより請求項1と同一の効果がある。
請求項記載のマグネシウム合金部材の製造方法によれば、温水は、25℃における電気伝導率が7mS/m以上の水が熱せられたものであるので、請求項1から5のいずれかの効果に加え、電気伝率が低いイオン交換水や蒸留水を用いる場合と比較して短時間でα相を温水にて溶解させることができる。そのため、液状ガスケットをシール面に塗布する前処理としての洗浄工程、改質工程、温水洗浄工程または温水改質工程の時間が著しく長くなることを防止できる。その結果、請求項1からのいずれかの効果に加え、マグネシウム合金部材の生産性が低下することを防止できる効果がある。
水の電気伝導率と凝集破壊率との関係を示す図である。
以下、本発明の好ましい実施の形態について説明する。本発明で製造されるマグネシウム合金部材は、例えばSAE(米国自動車技術協会規格)J465に規定されるAZ31,AZ31B,AZ61,AZ91,AZ91D,AM50,AM60,AM60B等のアルミニウムを含有するマグネシウム合金部材や、MRI153M、AE44等のアルミニウムを含有する耐熱マグネシウム合金部材である。マグネシウム合金は、2wt%以上のアルミニウムを含有するものが好適に用いられる。液状ガスケットに対するシール面の親和性を確実に向上できるからである。なお、マグネシウム合金は、亜鉛、ジルコニウム、リチウム、マンガン、ケイ素、スズ、カルシウムやストロンチウム等のアルカリ土類金属、希土類元素等を必要に応じて含有する。
マグネシウム合金部材は、金型や砂型による鋳造(ダイカストを含む)、押出、鍛造、プレス等の種々の方法によって成形される。マグネシウム合金部材としては、例えば、シリンダヘッド、シリンダブロック、シリンダヘッドカバー、オイルパン、マニホールド、クランクケース等が挙げられる。
成形されたマグネシウム合金部材に、研磨、穴あけ、ドリル加工、切削などの機械加工が行われる(加工工程)。機械加工のときには、冷却性や潤滑性を確保したり腐食を防止したりするために加工液が用いられる。加工液としては、水系加工液、鉱油や脂肪油を主成分とする油系加工液のいずれも用いることができる。水系加工液とは、成分そのものが水に溶ける材料を使用した加工液、例えばソリュブル、ソリューションとよばれる加工液や、ポリアルキレングリコール等の水溶性の合成潤滑剤を含有するシンセティックとよばれる加工液などで、加工面に疎水性膜を形成しないものである。油系加工液とは、油脂を主成分とするもので、油脂を乳化して水溶性にしたエマルジョン系加工油を含むものであり、加工面に疎水性膜を形成するものである。
機械加工を終えたマグネシウム合金部材は、部材間の油密性や水密性、気密性を確保するため、封止固定面(シール面)に液状ガスケットが塗布される。部材間に介設される液状ガスケットとしては、湿気硬化型や嫌気性硬化型のシール剤が好適に用いられる。取扱性および耐熱性に優れるからである。このような液状ガスケットとしては、例えば、1液性のシリコーン系樹脂、シランカップリング剤によって硬化する2液性のシリコーン系樹脂、シアノアクリレートやアクリレート等を主成分とする合成樹脂などが挙げられる。本実施の形態では、アルミニウム合金部材間の油密性を確保するのに適した公知の液状ガスケットを用いることができる。
機械加工のときに油系加工液を用いると、加工液に含まれる油分によって、マグネシウム合金部材のシール面に疎水性(撥水性)膜が形成される。シール面に疎水性膜が形成されると、液状ガスケットとシール面との親和性が低下するので、液状ガスケットの接着性が低下する。そこで、機械加工後、液状ガスケットを塗布する前に、シール面に形成された疎水性膜を除去するために、シール面の洗浄を行う(洗浄工程または温水洗浄工程)。
なお、水系加工液を用いることによって、シール面に疎水性膜が形成されないように機械加工をする場合には(水系加工工程)、シール面の洗浄は不要である。シール面に疎水性膜が形成されなければ、後述するようにマグネシウム合金部材を温水に接触させることで(温水改質工程)、シール面の親水性膜およびα相(マグネシウムを主体とする母相)は温水に溶解されるからである。
シール面の洗浄は、マグネシウム合金部材に水または温水をかけながら、又は、マグネシウム合金部材を水または温水に漬けた状態で行われる。水や温水は、常温から100℃までの温度のものを適宜用いることができる。60℃〜100℃に設定された温水を用いてシール面を洗浄する場合には、洗浄中に温水とシール面とを接触させる時間にもよるが、マグネシウムを主体とするα相をシール面から温水中に溶け出させることができる。アルミニウム濃度が高いMg17Al12のβ相はα相より溶け出し難いので、シール面に残る。また、α相が温水に溶け出しβ相が残ることによって、シール面に微細な凹凸が形成される。
シール面に残留したβ相は相対的にアルミニウム濃度が高いので、アルミニウム合金部材用の液状ガスケットでも接着可能となる。さらに、凹凸によるアンカー効果との相乗効果によって、シール面に対する液状ガスケットの接着性にばらつきが生じ難くでき、良好な接着性を確保できる。
シール面の洗浄工程および温水洗浄工程では、シール面に機械的な力を加える機械的洗浄によることが好ましい。例えば、ブラシやバフ(研磨布)等の洗浄部材を回転させ又は往復動させることや、研磨剤や砥粒、超音波洗浄、水圧等の利用が挙げられる。ジェット水流の噴射や超音波洗浄、ブラスト処理等でシール面の疎水性膜を除去することも可能であるが、洗浄部材を用いるものが好適である。洗浄部材を用いる場合は、液体を用いてシール面を洗浄する洗浄装置と比較して、洗浄装置を簡素化できるからである。
ブラシは、ブラシ毛が可撓性を有しているので、シール面に起伏があっても、ブラシ毛の可撓性によってシール面を確実に洗浄できる。ブラシ(ブラシ毛)の材質は、ステンレス鋼、真鍮等の金属製、ナイロン製等の合成樹脂製を適宜選択できる。
シール面を洗浄した後、マグネシウム合金部材のシール面に温水を接触させる改質工程は、シール面のα相(マグネシウムを主体とする母相)を溶解させる目的である。シール面に温水を接触させる手段としては、温水にマグネシウム合金部材を浸漬する手段、マグネシウム合金部材にシャワーのように温水(流水)をかける手段等が挙げられる。シール面に温水を接触させることにより、α相をシール面から温水中に溶け出させてシール面を改質することができる。アルミニウム濃度が高いMg17Al12のβ相はα相より溶け出し難いので、シール面に残る。α相が温水に溶け出しβ相が残ることによって、シール面に微細な凹凸が形成される。
温水に接触したシール面を乾燥させた後、シール面に液状ガスケットが塗布される。シール面に残留したβ相は相対的にアルミニウム濃度が高いので、アルミニウム合金部材用の液状ガスケットでも接着可能となる。さらに、凹凸によるアンカー効果との相乗効果によって、シール面に対する液状ガスケットの接着性にばらつきが生じ難くでき、良好な接着性を確保できる。
アルミニウム合金部材用の液状ガスケットは、マグネシウム合金部材用の液状ガスケットに比べて種類が多く低コストなので、シール面に液状ガスケットが塗布されるマグネシウム合金部材の製造コストを低減できる。
また、洗浄工程や温水洗浄工程、温水改質工程では水や温水を用いてマグネシウム合金部材を処理するので、耐食性に問題が生じる物質がマグネシウム合金部材に残留することがない。そのため、耐食性に問題を生じる物質の除去洗浄が不要となり、処理を簡素化できる。
ここで、シール面に接触させる温水の温度は、60℃〜100℃が好適である。温水の温度は高い方がα相の溶解速度を大きくできるので好ましい。温水の温度が60℃より低くなると、α相の溶解速度が小さくなり工程のサイクルタイムが長くなる。
シール面を温水に接触させる時間(接触時間)は、温水の温度との関係で10秒〜10分の間で適宜選択される。温水の温度を高くすると接触時間を短くすることができ、接触時間を長くすれば温水の温度を低くすることができる。
α相を溶解させる温水は、工業用水、河川水、井戸水、水道水等の淡水が熱せられたものが用いられる。なかでも工業用水が好適である。安定供給が可能であり、土砂等の沈殿物が取り除かれていると共に塩素処理が行われていないからである。また、蒸留水と異なり適度の電気伝導率を有しているので、α相の溶解に適しているからである。
次に実験例によって本発明をより具体的に説明する。なお、実験例1〜11は温水によるアルミニウム合金部材およびマグネシウム合金部材(いずれも板材)の改質効果を調べる実験なので、加工液を用いた機械加工は板材に行っていない。
(実験例1)
アルミニウム合金(ADC12)製の2枚の板材の端部に、市販の液状ガスケット(主にアルミニウム合金に対応した1液性のシリコーン系樹脂、株式会社スリーボンド製1217)を塗布し、JIS K6850に準拠して、端部を重ねて接着部分(接着面)を作成した。これにより、実験例1における試験片を得た。なお、実験例1では、液状ガスケットを塗布する前に板材を温水に浸漬する処理(温水浸漬処理)は行っていない。
(実験例2)
マグネシウム合金(AZ91)製の2枚の板材(実験例1と同一寸法)の端部に、実験例1で使用したものと同一の液状ガスケットを塗布し、JIS K6850に準拠して、端部を重ねて接着部分(実験例1と同一寸法)を作成した。これにより、実験例2における試験片を得た。なお、実験例2では、液状ガスケットを塗布する前に板材を温水に浸漬する処理は行っていない。
(実験例3)
2枚の板材を23℃の水(工業用水)に10分間浸漬し、乾燥させた後に液状ガスケットを塗布して接着部分を形成した以外は実験例2と同様にして、実験例3における試験片を得た。
(実験例4)
2枚の板材を40℃の温水(工業用水を熱したもの)に10分間浸漬し、乾燥させた後に液状ガスケットを塗布して接着部分を形成した以外は実験例2と同様にして、実験例4における試験片を得た。
(実験例5)
2枚の板材を60℃の温水(工業用水を熱したもの)に10分間浸漬し、乾燥させた後に液状ガスケットを塗布して接着部分を形成した以外は実験例2と同様にして、実験例5における試験片を得た。
(実験例6)
2枚の板材を80℃の温水(工業用水を熱したもの)に10分間浸漬し、乾燥させた後に液状ガスケットを塗布して接着部分を形成した以外は実験例2と同様にして、実験例6における試験片を得た。
(実験例7)
2枚の板材を100℃の温水(工業用水を熱したもの)に10分間浸漬し、乾燥させた後に液状ガスケットを塗布して接着部分を形成した以外は実験例2と同様にして、実験例7における試験片を得た。
(引張りせん断試験)
各試験片を、接着面に平行に引張力を加えて破断させた後、破断面(接着面)を観察し、凝集破壊率(%)を求めた。凝集破壊は、接着接合物が破壊するときに接着剤層内部で破壊が起こる状態であり、凝集破壊率(最大値は100%)が大きいほど接着力が大きいことを示す。
(エンジンオイル浸漬後の引張りせん断試験)
各試験片を、エンジンオイル(0W−20)に浸漬した状態で165℃の環境下240時間保管した後、接着面に平行に引張力を加えて破断させた後、破断面(接着面)を観察し、凝集破壊率(%)を求めた。
Figure 0006212360
各試験片の凝集破壊率を表1に示す。なお、表1では、エンジンオイルに浸漬する前の凝集破壊率を「初期」の欄に示し、エンジンオイル浸漬後の凝集破壊率を「試験後」の欄に示した。表1の実験例1及び2に示すように、板材を温水に浸漬する処理をしない場合には、アルミニウム合金では初期の凝集破壊率が90%(試験後の凝集破壊率は100%)であるのに対し、マグネシウム合金では初期も試験後も板材の界面で剥離した(凝集破壊率は0%)。また、実験例3及び4に示すように、温度が40℃より低い温水に板材を浸漬した場合も、凝集破壊率は0%であった。
しかし、板材を浸漬する温水の温度が60℃以上になると凝集破壊を示すものが現れ、温水の温度が高くなるほど凝集破壊率が大きくなることが確認された。なお、フーリエ変換型赤外分光分析(FT−IR)による板材の表面分析の結果、実験例5〜7(温水に浸漬後)は、実験例2(温水に未浸漬)と比較してMgOが減少する一方、Mg及びAlを含む複水酸化物が形成されていることが確認された。これはα相が溶解したことを示しており、これにより液状ガスケットの接着力が向上したものと推察される。表1に示す実験結果から、液状ガスケットの接着力を高めるためには、液状ガスケットを塗布する前にマグネシウム合金部材を温水に浸漬することが効果的であること、温水の温度は60℃以上が好ましいことが確認された。
次に表2を参照して、マグネシウム合金部材を浸漬した温水の温度と浸漬時間との関係を説明する。表2は、実験例2から7で用いた板材と同一種類かつ同一寸法の板材を種々の条件で温水に浸漬した後、実験例2から7と同じ方法で試験片を作成し、引張りせん断試験を行った評価結果である。評価項目は破断面(接着面)の凝集破壊率であり、○は凝集破壊率80%以上、△は50%以上80%未満、×は50%未満であることを示す。また、かっこ内の数値は凝集破壊率を示す。
Figure 0006212360
表2に示すように、温水の温度が60℃以上かつ浸漬時間が60秒(1分)以上の場合に凝集破壊率が50%以上となることがわかった。特に、温度が70℃以上かつ浸漬時間が120秒(2分)以上の場合、温度が60℃以上かつ浸漬時間が300秒(5分)以上の場合に凝集破壊率は80%以上であり、安定した接着力が得られることが確認された。
次に表3を参照して、酸化皮膜が形成されたマグネシウム合金部材の温水への浸漬効果について説明する。
Figure 0006212360
(実験例8)
マグネシウム合金(AZ91)製の2枚の板材(実験例1と同一寸法)を、大気中150℃の環境下に168時間保管した(乾熱処理)。測定の結果、保管後の板材は表面に約30nm厚さの酸化皮膜(親水性膜)が形成されていた。その板材の端部に、実験例1で使用したものと同一の液状ガスケットを塗布し、JIS K6850に準拠して、端部を重ねて接着部分(実験例1と同一寸法)を作成した。これにより、実験例8における試験片を得た。なお、実験例8では、液状ガスケットを塗布する前に板材を温水に浸漬する処理は行っていない。
(実験例9)
大気中150℃の環境下に168時間保管した2枚の板材を60℃の温水(工業用水を熱したもの)に5分間浸漬し、乾燥させた後に液状ガスケットを塗布して接着部分を形成した以外は実験例8と同様にして、実験例9における試験片を得た。
(実験例10)
大気中150℃の環境下に168時間保管した2枚の板材を70℃の温水(工業用水を熱したもの)に5分間浸漬し、乾燥させた後に液状ガスケットを塗布して接着部分を形成した以外は実験例8と同様にして、実験例10における試験片を得た。
(実験例11)
2枚の板材を、150℃の環境下に保管しない以外は実験例9と同様にして、実験例11における試験片を得た。なお、測定の結果、板材は表面に約10nm厚さの酸化皮膜(親水性膜)が形成されていた。
表3は、接着面に平行に引張力を加えて破断させた各試験片の凝集破壊率を示したものである。表3に示すように、板材を60℃以上の温水に浸漬することにより、表面に形成された酸化皮膜(親水性膜)の厚さに関係なく、凝集破壊率を80〜85%以上にできることが確認された。即ち、マグネシウム合金部材の酸化皮膜の厚さに関わらず、マグネシウム合金部材を60℃以上の温水に浸漬することにより、液状ガスケットの接着性を向上できることが確認された。
次に表4を参照して洗浄効果について説明する。
Figure 0006212360
(実験例12)
マグネシウム合金(AM50)製の板材を、鉱油を含有する油系加工液を用いて実験例1と同一寸法に切削し、2枚の板材を得た。その板材に十分量の工業用水(水温23℃)をかけながらステンレス鋼製のブラシを用いてブラッシングを行い、表面を十分に洗浄した。洗浄した板材を、70℃の温水(工業用水を熱したもの)に5分間浸漬した。板材を乾燥させた後、板材の端部に実験例1で使用したものと同一の液状ガスケットを塗布し、JIS K6850に準拠して、端部を重ねて接着部分(実験例1と同一寸法)を作成した。これにより、実験例16における試験片を得た。接着面と平行に引張力を加えて試験片を破断させたところ、破断面の凝集破壊率は85%であった。
(実験例13)
マグネシウム合金(AM50)製の板材を、鉱油を含有する油系加工液を用いて実験例1と同一寸法に切削し、2枚の板材を得た。その板材に十分量の70℃の温水(工業用水を熱したもの)をかけながら、ステンレス鋼製のブラシを用いて5分間ブラッシングを行い、表面を十分に洗浄した。板材を乾燥させた後、板材の端部に実験例1で使用したものと同一の液状ガスケットを塗布し、JIS K6850に準拠して、端部を重ねて接着部分(実験例1と同一寸法)を作成した。これにより、実験例17における試験片を得た。接着面と平行に引張力を加えて試験片を破断させたところ、破断面の凝集破壊率は85%であった。
(実験例14)
油系加工液を用いて切削された板材のブラッシングを省略した以外は実験例12と同様にして、実験例14の試験片を得た。接着面と平行に引張力を加えて試験片を破断させたところ、破断面の凝集破壊率は30%であった。
実験例12及び14によれば、機械加工された板材(マグネシウム合金部材)を水中で洗浄(ブラッシング)し温水に浸漬することにより、凝集破壊率を大きくできることが確認された。また、実験例13及び14によれば、機械加工された板材(マグネシウム合金部材)を温水中で洗浄(ブラッシング)することにより、凝集破壊率を大きくできることが確認された。この実験例から、ブラッシングによってマグネシウム合金部材の表面に形成された疎水性膜を除去できること、マグネシウム合金部材を温水と接触させることによって液状ブラケットの接着性を向上できることが確認された。
(実験例15)
マグネシウム合金(AM50)製の板材を、水系加工液を用いて実験例1と同一寸法に切削し、2枚の板材を得た。その板材を、70℃の温水(工業用水を熱したもの)に5分間浸漬した。板材を乾燥させた後、板材の端部に実験例1で使用したものと同一の液状ガスケットを塗布し、JIS K6850に準拠して、端部を重ねて接着部分(実験例1と同一寸法)を作成した。これにより、実験例15における試験片を得た。接着面と平行に引張力を加えて試験片を破断させたところ、破断面の凝集破壊率は85%であった。
(実験例16)
水系加工液を用いて切削された板材の温水への浸漬を省略した以外は実験例15と同様にして、実験例16の試験片を得た。接着面と平行に引張力を加えて試験片を破断させたところ、破断面の凝集破壊率は0%であった。
実験例15及び16によれば、水系加工液を用いて機械加工された板材(マグネシウム合金部材)を温水に浸漬することにより、凝集破壊率を大きくできることが確認された。この実験例から、疎水性膜が形成されない水系加工液を機械加工のときに用いる場合には、機械加工後にブラッシングを行わなくても、マグネシウム合金部材を温水と接触させることによって液状ブラケットの接着性を向上できることが確認された。
(水の電気伝導率と凝集破壊率との関係)
次に図1を参照して、水の電気伝導率と凝集破壊率との関係を調べた実験結果について説明する。実験は、マグネシウム合金(MRI153M)製の板材(加工液を用いた機械加工を行っていない実験例1と同一寸法の板材)を用いて行った。種々の電気伝導率に調製した水を40,60,80℃の各温度に加熱して各種温水を作成し、その温水に板材を2分間浸漬した。温水から取り出した板材を乾燥させた後、液状ガスケット(実験例1で使用したものと同じ)を塗布して接着部分(実験例1と同一寸法)を作成し、試験片を得た。接着面と平行な引張力を試験片に加えて破断させた後、破断面(接着面)を観察して凝集破壊率を求めた。
図1は水の電気伝導率と凝集破壊率との関係を示す図である。水の電気伝導率は水温25℃のもとで測定し、その後加熱して温水にした。図1において、実線は80℃の温水に浸漬した結果であり、破線は60℃の温水に浸漬した結果であり、一点鎖線は40℃の温水に浸漬した結果である。図1に示すように、凝集破壊率は、水の電気伝導率または温水の温度が高くなるにつれて大きくなる傾向がある。
また、板材を80℃の温水に2分間浸漬した場合、水の電気伝導率が7mS/m以上であれば凝集破壊率をほぼ100%にできることがわかった。なお、図示してないが、電気伝導率7mS/mの水を加熱して60℃にした温水に板材を浸漬する場合、浸漬時間を2分間より長くするにつれて凝集破壊率を大きくできることを確認した。従って、マグネシウム合金部材に接触させる温水は電気伝導率が7mS/m以上の水を加熱して用いること、温水の温度は60℃以上(60〜100℃)にすることが好ましい。
以上、実施の形態および実施例に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
上記実施例では、液状ガスケットとして1液性のシリコーン系樹脂を用いた場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の液状ガスケット(シアノアクリレートやアクリレートを主成分とするもの等)を用いた場合についても同様の結果が得られることを確認した。
上記実施例(実験例12及び13)では、マグネシウム合金部材の表面をステンレス製のブラシを用いて洗浄する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の材質のブラシを用いること、バフを用いて洗浄すること、ジェット水流を噴射して洗浄すること等、他の手段によりシール面に機械的な力を加えて洗浄することは当然可能である。

Claims (5)

  1. アルミニウムを含有しα相およびβ相が含まれシール面を有するマグネシウム合金部材の製造方法において、
    加工液を用いてマグネシウム合金部材に機械加工を行う加工工程と、
    その加工工程により加工されたマグネシウム合金部材のシール面を、常温から100℃までの水または温水をかけながら又は常温から100℃までの水または温水中で洗浄する洗浄工程と、
    その洗浄工程で洗浄された前記シール面を60〜100℃の温水に1分間以上接触させる改質工程とを備えていることを特徴とするマグネシウム合金部材の製造方法。
  2. アルミニウムを含有しα相およびβ相が含まれシール面を有するマグネシウム合金部材の製造方法において、
    加工液を用いてマグネシウム合金部材に機械加工を行う加工工程と、
    その加工工程により加工されたマグネシウム合金部材のシール面を、60〜100℃の温水をかけながら又は60〜100℃の温水中で1分間以上洗浄する温水洗浄工程とを備えていることを特徴とするマグネシウム合金部材の製造方法。
  3. 前記洗浄工程または前記温水洗浄工程は、前記シール面に機械的な力を加えて洗浄することを特徴とする請求項1又は2に記載のマグネシウム合金部材の製造方法。
  4. アルミニウムを含有しα相およびβ相が含まれシール面を有するマグネシウム合金部材の製造方法において、
    被加工物の表面に疎水性膜は形成されない水系加工液を用いてマグネシウム合金部材に機械加工を行う水系加工工程と、
    その水系加工工程により加工されたマグネシウム合金部材のシール面を60〜100℃の温水に1分間以上接触させる温水改質工程とを備えていることを特徴とするマグネシウム合金部材の製造方法。
  5. 前記温水は、25℃における電気伝導率が7mS/m以上の水が熱せられたものであることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載のマグネシウム合金部材の製造方法。
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