以下に、実施形態に係る定着装置とそれを備えた画像形成装置を、図1〜図9に基づいて詳細に説明する。
図1は、定着装置を備えた画像形成装置の一実施形態を示すものである。図1においては、画像形成装置1として、カラー複写機の全体の概略構成を示している。図1において、符号100は、複写機本体を示している。
複写機本体100には、その中央に、無端ベルト状の中間転写体10を、図1の例では駆動ローラ14と第一の従動ローラ15と第二の従動ローラ16とに掛け回して、図中時計回りに回転搬送可能に設けている。なお、中間転写体10の片寄りを調整するローラに中間転写体10を掛け回すなど、四つ以上のローラに掛け回すようにしてもよい。中間転写体10は、図1の例ではほぼ水平に張り渡しているが、水平ではなく、斜めに傾斜して張り渡すようにしてもよい。
図1の例では、画像転写後に中間転写体10の表面上に残留する残留トナーを除去する不図示のベルトクリーニング装置を第二の従動ローラ16に近接して設ける。
また、駆動ローラ14と第二の従動ローラ16との間に張り渡した中間転写体10の表面上には、その搬送方向に沿って、ブラック・イエロー・マゼンタ・シアンの四つの単色作像手段18を横に並べて配置して、タンデム作像装置20を構成している。タンデム作像装置20の上には、さらに露光装置21を設けている。
一方、中間転写体10の張り渡し領域の下方には、ローラを用いた二次転写装置22を備えている。二次転写装置22は、第一の従動ローラ15に押し当てて中間転写体10の表面上の画像を記録媒体Pに転写する。二次転写装置22の横には、図1の例では、二つのローラ23の間に、無端ベルトである搬送ベルト24を掛け渡して設けている。搬送ベルト24の横には、記録媒体Pの表面上の転写画像を定着する定着装置25を設けている。
二次転写装置22は、画像転写後の記録媒体Pを搬送する媒体搬送機能も備えている。なお、二次転写装置22として、非接触のチャージャを配置してもよく、その場合は、この媒体搬送機能を併せて備えることは難しくなる。これら二次転写装置22、搬送ベルト24、及び定着装置25の下方には、用紙・OHPフィルム等の記録媒体Pを収納する媒体収納カセット28を備えている。
上記したカラー複写機1を用いてコピーをとる時は、スキャナ200の原稿台30の上に原稿Gをセットし、不図示の原稿押えで押さえる。そして、不図示のスタートスイッチを押すと、スキャナ200を駆動して原稿内容を読み取ることができる。すなわち、ハロゲンランプ等の光源31で原稿Gを照射してその反射光をミラー32で反射し、レンズ33を透して集光してCCD34に入れ、画像を電気信号に変換する。
不図示の前記スタートスイッチを押すと、同時に不図示の駆動モータで駆動ローラ14を回転駆動して従動ローラ15,16を従動回転させ、中間転写体10を回転搬送する。同時に、個々の単色作像手段18でその像支持体40を回転させて、各像支持体40の表面上にそれぞれ、ブラック・イエロー・マゼンタ・シアンの単色画像を形成する。そして、中間転写体10の搬送と共に、それらの単色画像を順次重ねて一次転写して、中間転写体10の表面上に合成カラー画像を形成する。
一方、不図示の前記スタートスイッチを押すと、給紙コロ35が回転し、媒体収納カセット28から記録媒体Pを繰り出して、記録媒体Pを給紙路36に入れてレジストローラ37に突き当てて停止させる。
そして、中間転写体10の表面上の合成カラー画像にタイミングを合わせてレジストローラを回転させ、中間転写体10と二次転写装置22との間に記録媒体Pを送り込む。二次転写装置22で中間転写体10の表面上の合成カラー画像を一括して二次転写して記録媒体Pの表面上にカラー画像を形成する。
画像転写後の記録媒体Pは、搬送ベルト24で搬送して定着装置25へと送り込み、定着装置25で熱と圧力とを加えて転写画像を定着させ、画像定着後の記録媒体Pを排紙トレイ38の上にスタックする。
一方、画像転写後の中間転写体10は、不図示のベルトクリーニング装置で、画像転写後に中間転写体10の表面上に残存する残存トナーを除去し、タンデム作像装置20による再度の画像形成に備える。
タンデム作像装置20において、各単色作像手段18は、ドラム状の像支持体40の周りに、帯電装置41、現像装置42、一次転写装置43、クリーニング装置44、不図示の除電装置等を備えて構成されている。
なお、これら単色作像手段18を構成する部分の全部又は一部で不図示のプロセスカートリッジを形成し、複写機本体100に対して一括して着脱自在としてメンテナンス性を向上させてもよい。
単色作像手段18を構成する部分のうち、帯電装置41は、図1の例では帯電ローラを用い、像支持体40に接触して電圧を印加することにより、像支持体40の帯電を行う。また、現像装置42は、図1の例では、磁気キャリアと非磁性トナーとより成る二成分現像剤を使用する。
一次転写装置43は、ローラ状とし、中間転写体10を挟んで像支持体40に押し当てて設ける。なお、一次転写装置43はローラ状に限らず、ブラシや非接触のチャージャであってもよい。
クリーニング装置44は、像支持体40に接触するクリーニングブレードやクリーニングブラシ等のクリーニング部材を備え、そのクリーニング部材で像支持体40の表面上の残留トナーを除去する。また、不図示の除電装置は、例えばランプであり、光を照射して像支持体40の表面電位を初期化する。
そして、像支持体40の回転と共に、先ず帯電装置41で像支持体40の表面を一様に帯電する。次いでスキャナ200の読取り内容に応じて、上述の露光装置21において、レーザやLED等による書込み光Lをポリゴンミラー47とミラー48とで順に反射し、像支持体40に照射して、像支持体40の表面上に静電潜像を形成する。
その後、現像装置42によりトナーを付着してその静電潜像を可視像化し、その可視像を一次転写装置43で中間転写体10の表面上に転写する。画像転写後の像支持体40の表面は、クリーニング装置44で残留トナーを除去して清掃し、除電装置で除電して再度の画像形成に備える。
以下に、上記画像形成装置に用いられる定着装置について説明する。図2は、定着装置の概略構成図(正面図)、図3は、図2の定着装置における右側面図である。
図2,図3の如く、この定着装置25は、熱源(加熱手段)84による加熱されると共に回転する加熱ローラ(回転体又は加熱回転体)78と、加熱ローラ78の外周表面の一部と摺動接触する固定部材(第一固定部材)74とを備えている。さらに、加熱ローラ78と固定部材74とに架け渡される可撓性を有する定着ベルト77と、定着ベルト77を介して固定部材74と加圧接触してニップ部Nを形成する加圧ローラ(加圧回転体)72とを備えている。加熱ローラ78と固定部材74と定着ベルト77と加圧ローラ72とは、ニップ部Nを形成するための加圧方向に順に配列されている。
図中の上側に加熱ローラ78が配置され、下側に加圧ローラ72が配置され、加熱ローラ78と加圧ローラ72との間において、加熱ローラ78の下側に固定部材74が配置されている。そして、固定部材74と加圧ローラ72との間に定着ベルト77の一部が挟まれて、定着ベルト77が加熱ローラ78の外周面に沿って配置されている。加圧ローラ72はその支持用のベアリング61をバネ部材62で加熱ローラ78に向けて上向きに押されている。
ニップ部Nの圧力は、定着ベルト77と固定部材74とを介した、加熱ローラ78と加圧ローラ72との間の加圧力により付与される。なお、本明細書において、「周方向」とは、加熱ローラ78の回転方向をいい、「軸方向」とは、加熱ローラ78の回転軸方向をいう。
加熱ローラ78はフレーム26にベアリング64で回転可能に支持されている。固定部材74は図中の上下方向のみに移動可能なように固定されて、加熱ローラ78の外周面と摺動接触している。可撓性の定着ベルト77は、加熱ローラ78と固定部材74との外側に略楕円状に掛け回されている。定着ベルト77を介して固定部材74に対して加圧ローラ72を押し当てて定着ニップ部(定着ベルト77と加圧ローラ72との接触部)Nが形成されている。
定着ベルト77は、固定部材74に対して加圧ローラ72によって密着し、また、定着ベルト77には円形に戻ろうとする力(張力)が生じるため、定着ベルト77は加熱ローラ78に密着する。加圧ローラ72には、図中の上方向の加圧力が与えられ、この加圧力は、定着ベルト77、固定部材74及び加熱ローラ78に伝わる。従って、定着ニップ部Nと、固定部材74と定着ベルト77との接触部と、固定部材74と加熱ローラ78との接触部と、に圧力が生じることになる。
定着ベルト77の定着ニップ部Nの出口側には、定着ベルト77から用紙Pを分離補助する分離板83(図2)が、その先端部を定着ベルト77と接触しないように設置されている。分離板83は、用紙搬送方向の下流側に回転支点を有し、分離板83の先端近傍の位置決め部(軸方向で見て、用紙幅よりも外側に位置する)を定着ベルト77にバネ部材等(図示せず)で押している。これにより、分離板83の先端部と定着ベルト77との間に微小なギャップが形成されている。よって、定着ニップ部Nの出口側で自然分離した用紙Pは、分離板83によってガイドされ、定着ベルト77への巻き付きが防止されている。
加熱ローラ78は、内部に熱源84(図2)を備えている。熱源84は、例えば、ハロゲンヒータ、赤外線ヒータ等であり、加熱ローラ78の例えば外部に配置した誘導加熱手段、熱抵抗等を用いてもよい。
定着ベルト77の外周面の外側にサーモパイル85−1が非接触で配置されている。サーモパイル85−1は、加熱ローラ78に掛け回された定着ベルト77における掛け回し終わり後の位置での表面温度を検知する。サーモパイル85−1は軸方向において、用紙Pが通過する範囲内に配置されている。
また、定着ベルト77の外周面に接触させてサーミスタ85−2が配置されている。サーミスタ85−2は、加熱ローラ78に掛け回された定着ベルト77における掛け回されている部分の表面温度を検知する。サーミスタ85−2は軸方向において、用紙Pが通過する範囲外に配置されている。そのため、サーミスタ85−2によって発生する定着ベルト77の表面上の接触傷は、用紙上のトナーに転写されることはない。
そして、定着ベルト77の停止中はサーミスタ85−2の検知温度に基づき、定着ベルト77の走行中はサーモパイル85−1の検知温度に基づいて、不図示のコントローラにより、熱源84をオンオフ制御して、加熱ローラ78を所定温度に保持する。
定着装置25の入口側には傾斜状の入口ガイド88が設けられ、用紙Pを定着ニップ部Nへと導くようにしている。定着ベルト77の表面に接触している部材は、サーミスタ85−2、分離板83の突き当て部であるが、何れも用紙幅よりも外側に配置されている。そのため、用紙幅内の定着ベルト77に摩耗傷を生じさせることがなく、摩耗傷が用紙Pのトナー画像に転写されることによる画像劣化を生じることはない。
本実施形態では、加圧ローラ72として、鋼材等の金属パイプに厚さ4mmのシリコーンゴム層を設けた、直径30mmのものを用いている。加圧ローラ72の両端側の水平な軸部66にはベアリング61を設け、ベアリング61をバネ部材(弾性部材)62で加熱ローラ78の方向に加圧している。そして、加圧ローラ72の軸部66の一端部にギア63を設け、ギア63に駆動手段M(図3)からの駆動を入力して加圧ローラ72を反時計回りに回転させる。加圧ローラ72が回転することで、定着ニップ部Nの定着ベルト77が従動回転する。
加熱ローラ78としては、例えば、熱伝導率の良い、厚さ0.3mm〜3mmのアルミニウム製のパイプ(中空パイプ形状)であって、直径30mmのものを用いる。加熱ローラ78の表面には、定着ベルト77との接触や固定部材74との摺動接触による摩耗を防止するために、アルマイト処理やフッ素樹脂処理等を施している。また、加熱ローラ78の内面には耐熱黒塗装を施して、熱源84からの熱を吸収しやすくしている。加熱ローラが小径の場合は撓みやすくなるため、より強度の高い鉄材やステンレス材を用いてもよい。
加熱ローラ78の両端部は、フレーム26にベアリング64(図3)を介して回転可能に固定支持されている。加熱ローラ78の一端側のジャーナル78aにギア65(図3)が設けられ、ギア65が加圧ローラ72の軸部66のギア63と噛み合わされて、加熱ローラ78が定着ベルト77とほぼ同じ速度となるように時計回りに回転する。加熱ローラ78は回転しながら、加熱ローラ78に巻き付いている部分の定着ベルト77を加熱する。なお、加熱ローラ78は、加圧ローラ72からの接触圧力を受けても、殆ど撓むことのない剛性を有している。
加熱ローラ78(図3)の両端部は、ベルト巻き付け部よりも細く絞られており(以下この部分をジャーナル部78aと言う)、ベルト巻き付け部の軸方向長さは、定着ベルト77の軸方向長さよりも短くなっている。すなわち、定着ベルト77の両端部は、加熱ローラ78の外径部から軸方向に離れた状態となっている。
固定部材74の上面は加熱ローラ78の外周面に沿う曲面となっており、固定部材74の下面は平面となっている。固定部材74の上面は加熱ローラ78と摺動接触し、固定部材74の下面は定着ベルト77と摺動接触する。図2の固定部材74の左右方向の寸法は、加熱ローラ78の外径よりも小さく、且つ定着ニップ部Nよりも広い幅となっている。また、図2の固定部材74の上下方向の寸法は、定着ベルト77を加熱ローラ78と固定部材74との両方に緩く張ることのできる寸法となっている。
固定部材74の摺動面には低摩擦部材91を設けて、加熱ローラ78や定着ベルト77に対する摺動抵抗を低減させている。低摩擦部材91については後述する。
固定部材74の材質としては、耐熱性が良好で、加熱ローラ78からの熱移動が少ない耐熱樹脂を使用することが好ましい。例えばPPS(ポリフェニレンサルファイド)、PAI(ポリアミドイミド)、PI(ポリイミド)、LCP(液晶ポリマー)等を用いることができる。その他に、熱移動しにくいセラミック等を用いてもよい。
図4は、定着ベルト77に対する寄り止め部材90を、図2と同じ方向から示す右側面図である。
図3,図4の如く、固定部材74の軸方向(長手方向)の両端は寄り止め部材90に固定ネジ89で固定されている。寄り止め部材90は、加熱ローラ78の水平なジャーナル部78aの位置に垂直に設けられている。寄り止め部材90は、ジャーナル部78aの外径よりも大径で、且つ定着ベルト77の端面における径よりも小径な穴99(図4)を有している。また、寄り止め部材90の外径は定着ベルト77の外径よりも大きくなっている。
上記構成による寄り止め部材90は、加熱ローラ78には触れずに、定着ベルト77の端面と突き当たる。このように、寄り止め部材90によって、定着ベルト77の寄り止めが可能となっている。
寄り止め部材90は上下の突起部93を有し、上下の突起部93が、フレーム26側に設けられた上下のガイド部材(図4)27に嵌め合わされることで、寄り止め部材90が図4の上下方向に僅かに移動可能となっている。そのため、固定部材74が図4の上下方向に寄り止め部材90と一体に移動可能となっている。突起部93は矩形状に形成され、ガイド部材27は、図4の突起部93の左右両側の垂直な端面を沿わせる左右両側の垂直部と、突起部93の先端を突き当て可能な水平部とを有している。
このように、固定部材74が上下方向のガタを有しているので、固定部材74は加圧ローラ72の加圧によって加熱ローラ78に突き当たり、固定部材74の上下方向の位置が決定される。よって、固定部材74に、摩耗による厚さ変化や、熱による厚さ変化が生じても、固定部材74を加熱ローラ77に確実に突き当てることができる。
定着ベルト77は、例えば、耐熱性の高い、厚さが0.05〜0.2mmのポリイミド樹脂の表層と裏層に離型層をコーティングした、直径40mmのベルトである。ここで、表層の離型層は、例えば、シリコーンゴム、フッ素樹脂、シリコーンゴムとフッ素樹脂の2層構造、シリコーンゴムとフッ素樹脂の混合体等の材質で形成され、用紙上のトナーの凹凸に追従するために弾性を有している。
また、裏層の離型層には、固定部材74との摺動抵抗を低減させるために、フッ素樹脂処理が施されている。なお、定着ベルト77の基材としては、樹脂に限らず、例えば、ステンレス、ニッケル、銅等の金属を用いたり、ゴム等を用いたりすることも好ましい。
以上のように構成した定着ベルト77は、加熱ローラ78に巻き付いて加熱され、定着ニップ部Nで用紙を加熱加圧することで、用紙P上のトナー画像を定着させる。
図5は、固定部材74の外周面に設けられた低摩擦シート部材91の参考例を示すものである。
固定部材74には、加熱ローラ78(図2)との摺動接触面74aと、定着ベルト77(図2)との摺動接触面74bとが存在するので、それらの摺動抵抗を低減するために、低摩擦シート部材91が設けられている。図5の符号Aは、加熱ローラ78の摺動方向、符号Bは、定着ベルト77の摺動方向をそれぞれ示している。
低摩擦シート部材91は、固定部材74の右端面(加熱ローラ78及び定着ベルト77の回転方向の上流側の一側面)74cを頂点として、各々の摺動接触面74a,74bに巻き付けるように配置されている。
低摩擦シート部材91は、加熱ローラ78によって矢印A方向に引っ張られ、定着ベルト77によって矢印B方向に引っ張られるので、剥がれやヨレを生じることがない。それにより、ニップ部N(図2)で定着工程を行う記録媒体にシワを発生したり、出力画像上に悪影響を及ぼしたりする不具合を生じない。
前記従来の特許文献2に記載された構成では、低摩擦シート部材に所定の張力を与えるための調整が必要であるので、部品の組立に多くの時間がかかるという懸念があった。これに対し、図5の参考例においては、調整なしで簡単に低摩擦シート部材91を固定部材74に取り付けることができる。また、一枚のみの低摩擦シート部材91で2つの面74a,74bの摺動抵抗を低減することができるので、部品コストを安価にすることができるという効果も得られる。
図5では、低摩擦シート部材91の最も基本的な構成を示したが、実際には、固定部材の各面74a,74bに対応する低摩擦シート部材91の各摺動面74a,74bにおける摺動抵抗が異なる。このため、矢印A又はBの何れかの方向に低摩擦シート部材91が徐々に移動して、最終的には固定部材74から外れてしまうという懸念がある。よって、固定部材74の右端面74cと低摩擦シート部材91とが動かないような構成とするのがよい。
また、ジャム用紙(何らかの異常で定着装置25の内部に留まった用紙)を除去する際に、定着ベルト77が逆方向(図5の矢印Bとは反対の方向)に回転したりすると、B側の低摩擦シート部材91bが固定部材74から外れてしまう懸念がある。
図6,図7は、上記した懸念を解消した低摩擦シート部材91の取付構造の参考例を示すものである。
図7の如く、固定部材74の右端面74cには突起75が複数個設けられている。各突起75は固定部材74の軸方向(長手方向)に並列に配置されている。固定部材74の右端面74cは、加熱ローラ78及び定着ベルト77の回転方向の上流側における固定部材74の一側面である。また、低摩擦シート部材91には、これらの突起75に嵌り合う穴94が貫通して複数設けられている。本例において、突起75は断面円形に形成され、穴94は円形に形成されている。
本例の低摩擦シート部材91は、表面の摺動抵抗が、少なくとも固定部材74の摺動抵抗よりも低くなるように形成された一枚のシート状の部材である。
図6の如く、固定部材74の突起75と、低摩擦シート部材91の穴94とが嵌め合わされた状態で、固定部材74に低摩擦シート部材91が取り付けられる。この状態で、図5の矢印A方向の引張力と矢印B方向の引張力との大きさが異なっても、低摩擦シート部材91が固定部材74からずれていくことはない。
また、図6の如く、固定部材74の左端面74d(図6)において、低摩擦シート部材91の上下の両端部(両端面)91dはクリップ形状の部品95で挟み込まれて互いに固定されている。そのため、定着ベルト77が逆方向(図5の矢印Bとは反対の方向)に回転しても、固定部材74から低摩擦シート部材91が外れることはない。固定部材74の左端面74dは、加熱ローラ78及び定着ベルト77の回転方向の下流側における固定部材74の他側面である。本例において、クリップ状の部品95と固定部材74の左端74dとの間には略三角形状の隙間76が形成されている。
図8,図9は、固定部材74への低摩擦シート部材91の取付構造の一実施形態を示すものである。
図9の如く、固定部材74の右端面74cには、ネジ穴79が複数個設けられている。各ネジ穴79は固定部材74の軸方向(長手方向)に並列に配置されている。また、低摩擦シート部材91には、各ネジ穴79の位置に対応して穴96が設けられている。この低摩擦シート部材91は、長板状のステー(第二固定部材)92によって固定部材74の右端面との間に挟み込まれ、ネジ97によって締付固定される。すなわち、ステー92と固定部材74との間に低摩擦シート部材91を挟んだ状態で、ネジ97をステー92の穴98と低摩擦シート部材91の穴96とに貫通して、固定部材のネジ穴79に締め込む。
前記図7の例では、低摩擦シート部材91の穴94に引張による負荷がかかるため、徐々に穴94が大きくなる場合があるという懸念を生じる。これに対し、図8,図9の実施形態の構成では、ステー92で挟み込まれた部分の低摩擦シート部材91の全面に負荷が分散されるため、一層、低摩擦シート部材91のズレが防止されて、低摩擦シート部材91の長寿命化が図られる。
また、図8の如く、固定部材74の左端面74dにおいて、低摩擦シート部材91の両端部(左端部)91dが厚み方向に重なった状態で、ネジ97’によって固定部材74の左端面74dに固定される。固定部材74の左端面74dは、加熱ローラ78及び定着ベルト77の回転方向の下流側における固定部材74の他側面である。
固定部材74の左端面74dと低摩擦シート部材91の両端部(左端部)91dとには、右端面74cにおけると同様な穴をそれぞれ設けておく。なお、ネジ97,97’としてタッピングネジを用いる場合は、低摩擦シート部材91の穴96は不要であり、固定部材74のネジ穴79は、雌ねじの形成されていない下穴であればよい。
定着ベルト77を矢印B方向に摺動させる固定部材74の下面74bにおいて、低摩擦シート部材91の下側部分91bが弛まないようにする。そのために、図8の矢印C方向に低摩擦シート部材91の端部91eを引っ張りながら、ネジ97’で低摩擦シート部材91の両端部91dを固定部材74に締付固定するとよい。その後、余分なシート部分91eを矢印Dの如く例えば低摩擦シート部材91の上側部分91aに沿って切断する。
本実施形態において、低摩擦シート部材91は、メッシュ状のフッ素樹脂繊維で形成された略矩形状のシート部材である。フッ素樹脂繊維としては、PFAやPTFE等のフッ素系低摩擦繊維や、ガラスクロスの表面にフッ素樹脂をコーティングした繊維を用いることができる。このフッ素樹脂繊維を編み込んでメッシュ状の低摩擦シート部材91を形成した。
メッシュ状の低摩擦シート部材91を用いることで、繊維と繊維との間に空孔が形成されて、定着ベルト77や加熱ローラ78との摺動面積が減少して、摺動抵抗が低下する。また、繊維と繊維との間の空孔に潤滑剤を保持させることができる。これらによって、経時的においても良好な摺動性を維持させることができる。
ここで、低摩擦シート部材91は、図10に示す如く、フッ素樹脂繊維を編み込んで、直交(交差)するメッシュ92fを形成したものである。そして、フッ素樹脂繊維において、直交するメッシュ91fの方向が、定着ベルト77や加熱ローラ78の摺動接触方向A,Bと、それに直交する幅方向とに対して傾斜するようになっている。図10の例では、メッシュ91fのこの傾斜の角度θは45°に設定されている。このような傾斜角度θのメッシュ91fで成る低摩擦シート部材91が固定部材74の外面に配設されている。
すなわち、低摩擦シート部材91のメッシュ91fの方向(編み込み方向)が、ニップ部Nにおいて、定着ベルト77や加熱ローラ78の摺動接触方向A,Bに一致しないように、低摩擦シート部材91の取り付けの方向性が定められている。
例えば、低摩擦シート部材91に対する定着ベルト77や加熱ローラ78の摺動接触方向A,Bと、低摩擦シート部材91のメッシュ91fの方向とが一致した場合には、フッ素樹脂繊維(低摩擦シート部材91)が何れかの方向に寄ってしまう。それにより、フッ素樹脂繊維(低摩擦シート部材91)が破損し兼ねないという懸念を生じる。
上記のように、定着ベルト77や加熱ローラ78の摺動接触方向A,Bに一致しないように、低摩擦シート部材91の取り付けの方向性を定めることで、この懸念を解消することができる。
また、本実施形態において、低摩擦シート部材91に予め潤滑剤を含浸させておいてもよい。また、上記図5〜図9の参考例及び実施形態においては、固定部材74の上面74aと下面74bとに同じ(一枚の)低摩擦シート部材91を配置した。これに対し、例えば、固定部材74の上面74aと下面74bとにそれぞれ異なる二つ(二枚)の低摩擦シート部材を配置することも可能である。この場合も、固定部材74への低摩擦シート部材の組付方法は図7〜図9の実施形態におけると同様に行うことができる。但し、同じ低摩擦シート部材91を用いる場合よりも、固定部材74への組付作業は難しくなる。
また、以上説明した固定部材74と低摩擦シート部材91とを有する構成の定着装置25を画像形成装置1(図1)に適用することで、上述のように機能する定着装置25を備える画像形成装置1を構成することができる。
以下に、上記各実施形態の効果を、前記従来の特許文献に記載された装置と比較して記載する。
前記特許文献2に記載された定着装置にあっては、固定部材の摺動接触面に低摩擦シート部材を設置することに関して、幾つかの懸念がある。先ず、固定部材に対して低摩擦シート部材を接着剤で接着するのが難しい。特に、低摩擦シート部材の機能を高めるために、低摩擦シート部材をメッシュ状のフッ素樹脂繊維等で形成した場合に、接着が困難である。
また、低摩擦シート部材を固定部材に接触できたとしても、その接着力が十分ではなく、定着ベルトとの摩擦によって低摩擦シート部材に剥がれやヨレを生じる懸念がある。低摩擦シート部材に剥がれやヨレを生じた場合には、ニップ部で定着が行われる記録媒体にシワを生じたり、出力画像上に悪影響を及ぼしたりすることになり兼ねない。
また、低摩擦シート部材を固定部材に接着せずに、何らかの保持部材で低摩擦シート部材を固定部材に押し付けて保持させる場合には、保持部材がニップ部の近傍に設置されることになるために、保持部材の設置スペースに制約を生じるという懸念がある。また、低摩擦シート部材に所定の張力を与えるための調整が必要であるために、部品(固定部材、低摩擦シート部材、板バネ部材等)の組立に多くの時間を要するという懸念がある。
これらの懸念に対し、本実施形態においては、以下の構成によって以下の効果を発揮する。
本実施形態においては、低摩擦シート部材91を一枚で構成している。これによって、一枚の低摩擦シート部材91を固定部材74の二つの摺動接触面74a,74bに略U字状に巻き付けて、一枚の低摩擦シート部材91によって各々の摺動接触面74a,74bの摺動抵抗を低減させることができる。また、固定部材74の表層に一枚の低摩擦シート部材91を簡単な方法で組付・保持させることができる。
また、低摩擦シート部材91を、定着ベルト77と固定部材74との間から、定着ベルト77の回転方向の上流側に位置する固定部材74の一側面74cを経て、固定部材74と加熱ローラ78との間に巻き付くように配置している。且つ低摩擦シート部材91を固定部材74の一側面74cに固定している。
固定部材74の二つの摺動接触面74a,74bでは、定着ベルト77の回転方向の上流側から下流側に向かって、加熱ローラ(回転体)78、定着ベルト77が摺動しながら移動する。固定部材74に略U字状に巻き付けた一枚の低摩擦シート部材91は、定着ベルト77の回転方向の上流側における固定部材74の一側面74cに固定される。この状態で、低摩擦シート部材91には、この固定部を支点として二つの摺動面91a,91bで均一に引っ張られるような力がかかる。そのため、低摩擦シート部材91に捩れやヨレを生じることがなく、ニップ部Nで定着工程が行われる記録媒体Pにシワを生じることがなく、出力画像上に悪影響を及ぼすことがない。
また、定着ベルト77の回転方向の下流側に位置する固定部材74の他側面74d側(他側面側)において、低摩擦シート部材91の両端部91dを固定している。これにより、ジャム紙の除去動作等において定着ベルト77が逆回転する場合であっても、低摩擦シート部材91が定着ベルト77の回転方向の上流側に捩れやヨレを生じることがない。
また、低摩擦シート部材91の固定はニップ部Nから離れた位置で行われるので、シート固定用の保持部材等の設置スペースに制約を生じることがない。また、低摩擦シート部材91に所定の張力を与えるための調整が不要であり、部品(固定部材74、低摩擦シート部材91)の組立を短時間で簡単に行うことができる。
また、低摩擦シート部材91をメッシュ状のフッ素樹脂繊維で形成している。メッシュ状のフッ素樹脂繊維の表面には微細な凹凸が形成されており、且つフッ素樹脂が低摩擦材料であるため、摺動抵抗を小さくすることができる。また、フッ素樹脂繊維の交差したメッシュ91fの方向を、摺動接触の方向とそれに直交する方向とに対して傾斜した方向(傾斜角度θ)とすることで、低摩擦シート部材91をさらに低摩擦状態にすることができる。
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の例ではあるが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々に変形させて実施可能である。