以下では、本実施形態の赤外線式ガスセンサ100について、図1〜11に基づいて説明する。
赤外線式ガスセンサ100は、赤外線放射素子10と、赤外線検出素子20aと、光学系3と、駆動回路5と、制御部51と、信号処理部4と、を備える。赤外線放射素子10は、熱放射により赤外線を放射するように構成されている。赤外線検出素子20aは、赤外線放射素子10からの赤外線を受光して電気信号に変換するように構成されている。光学系3は、赤外線放射素子10と赤外線検出素子20aとの間に配置されている。光学系3は、検知対象のガスによる赤外線の吸収波長λg(図2参照)を含む第1透過波長域λa〜λb(図2参照)と、第1透過波長域λa〜λbよりも長波長側に設定された第2透過波長域λc〜λd(図2参照)と、のそれぞれで赤外線の透過率が設定されている。光学系3は、第2透過波長域λc〜λdの平均透過率が第1透過波長域λa〜λbの透過率よりも小さい。駆動回路5は、赤外線放射素子10をパルス駆動するように構成されている。制御部51は、赤外線放射素子10の放射エネルギ分布のピーク波長を互いに異ならせる第1駆動条件と第2駆動条件とのそれぞれで駆動回路5が赤外線放射素子10をパルス駆動するように駆動回路5を時系列で制御する。信号処理部4は、第1駆動条件のときの赤外線検出素子20aの第1出力信号と第2駆動条件のときの赤外線検出素子20aの第2出力信号との比を利用して検知対象のガスの濃度を推定するように構成されている。よって、赤外線式ガスセンサ100は、赤外線放射素子10の特性の経時変化等があっても、第1出力信号と第2出力信号とが同じ比率で変化するので、測定精度の長期安定性を向上させることが可能となる。また、赤外線式ガスセンサ100は、光軸の異なる複数の光学系を備えている場合に比べて、部品点数の削減による低コスト化を図ることも可能となる。制御部51は、プランクの放射則に基づいて赤外線放射素子10の温度を、第1駆動条件と第2駆動条件のときとで異ならせることで、赤外線放射素子10の放射エネルギ分布のピーク波長を互いに異ならせる。
また、赤外線式ガスセンサ100は、赤外線放射素子10をパッケージ19(以下、「第1パッケージ19」ともいう。)に収納した赤外光源1と、赤外線検出素子20aをパッケージ29(以下、「第2パッケージ29」ともいう。)に収納した赤外線検出器2と、を備える。赤外線検出器2は、赤外線検出素子20aにおける赤外光源1側に配置され第1透過波長域λa〜λb及び第2透過波長域λc〜λdそれぞれの赤外線の透過率を調整する光学フィルタ30を備える。第1パッケージ19は、赤外線放射素子10から放射された赤外線を透過する窓材19w(以下、「第1窓材19w」ともいう。)を備える。第2パッケージ29は、赤外線放射素子10から放射された赤外線を透過する窓材29w(以下、「第2窓材29w」ともいう。)を備える。光学系3は、第1窓材19wと、第2窓材29wと、光学フィルタ30と、を含むのが好ましい。これにより、赤外線式ガスセンサ100は、赤外線放射素子10の経時劣化を抑制することが可能となり、また、赤外光源1の第1窓材19wの汚れや、赤外線検出器2の第2窓材29wの汚れ等があっても、第1出力信号と第2出力信号とが同じ比率で変化するので、測定精度の長期安定性を向上させることが可能となる。なお、赤外線放射素子10をパルス駆動することは、赤外光源1をパルス駆動することと同じ意味である。
赤外線式ガスセンサ100は、赤外光源1と赤外線検出器2との間に配置され検知対象ガスの出入りが可能な試料セル6を備えているのが好ましい。試料セル6は、筒状の形状である。赤外線式ガスセンサ100は、試料セル6の内面が、赤外線放射素子10から放射された赤外線を反射する反射面66を構成するのが好ましい。光学系3は、反射面66を更に含む。この場合、赤外線式ガスセンサ100は、試料セル6の変形による光軸の経時変化等があっても、第1出力信号と第2出力信号とが同じ比率で変化するので、測定精度の長期安定性を向上させることが可能となる。なお、図1中の矢印付きの線は、赤外線放射素子10から放射された赤外線の進行経路を模式的に示したものである。
試料セル6は、検知対象のガスを含む気体もしくは検知対象のガスが導入されるセルである。赤外線式ガスセンサ100は、ガスの種類によって赤外線の吸収波長λgが異なることを利用してガスを検知する。吸収波長λgは、例えば、CH4(メタン)が3.3μm、CO2(二酸化炭素)が4.3μm、CO(一酸化炭素)が4.7μm、NO(一酸化窒素)が5.3μmそれぞれの付近に存在する。
赤外線式ガスセンサ100(以下、「ガスセンサ100」ともいう。)の各構成要素については、以下に、より詳細に説明する。
赤外線放射素子10は、熱放射により赤外線を放射するように構成されているから、赤外発光ダイオードに比べて広い波長域の赤外線を放射することができる。赤外線放射素子10は、第1透過波長域λa〜λbと第2透過波長域λc〜λdとを含む広帯域の赤外線を放射することができる。
赤外光源1としては、例えば、熱放射により赤外線を放射する赤外線放射素子10と、赤外線放射素子10を収納したパッケージ19と、を備えたものを用いることができる。
赤外線放射素子10は、例えば、図7(a)及び図7(b)に示す構成を採用することができる。赤外線放射素子10は、半導体基板11と、半導体基板11の一面111側に形成された薄膜部12と、半導体基板11に形成され薄膜部12における半導体基板11側の第1面12cの一部を露出させる開口部11aと、を備える。また、赤外線放射素子10は、薄膜部12の第2面12dに形成され、通電されることによる熱放射により赤外線を放射する赤外線放射層13を備える。赤外線放射層13は、駆動回路5から通電されることによって、熱放射により赤外線を放射する。
赤外線放射素子10は、保護層14と、赤外線放射層13に電気的に接続された複数の端子部16と、を備えている。保護層14は、薄膜部12の第2面12d側で赤外線放射層13を覆うように形成されている。保護層14は、赤外線放射層13から放射される赤外線を透過可能な材料により形成されている。赤外線放射層13と各端子部16とは、配線15を介して電気的に接続されている。
赤外線放射素子10は、MEMS(micro electro mechanical systems)の製造技術等を利用して製造することができる。
赤外線放射素子10は、赤外線放射層13への通電により赤外線放射層13が発熱し、赤外線放射層13から熱放射により赤外線が放射される。赤外線放射素子10の赤外線放射層13は、赤外光源1における発熱体を構成している。
半導体基板11としては、単結晶のシリコン基板を採用している。半導体基板11は、単結晶のシリコン基板に限らず、例えば、多結晶のシリコン基板等を採用することができる。
薄膜部12は、例えば、半導体基板11側のシリコン酸化膜12aと、シリコン酸化膜12aにおける半導体基板11側とは反対側に積層されたシリコン窒化膜12bとの積層膜により構成することができる。薄膜部12は、例えば、シリコン酸化膜やシリコン窒化膜の単層構造でもよい。薄膜部12は、誘電体層を構成する。
赤外線放射層13の材料は、窒化タンタルを採用している。つまり、赤外線放射層13は、窒化タンタル層により構成されている。赤外線放射層13の材料は、窒化タンタルに限らず、例えば、窒化チタン、ニッケルクロム、タングステン、チタン、トリウム、白金、ジルコニウム、クロム、バナジウム、ロジウム、ハフニウム、ルテニウム、ボロン、イリジウム、ニオブ、モリブデン、タンタル、オスミウム、レニウム、ニッケル、ホルミウム、コバルト、エルビウム、イットリウム、鉄、スカンジウム、ツリウム、パラジウム、ルテチウムを採用してもよい。また、赤外線放射層13の材料は、導電性ポリシリコンを採用してもよい。つまり、赤外線放射層13は、導電性ポリシリコン層により構成してもよい。赤外線放射層13について、高温で化学的に安定であり、且つ、シート抵抗の設計容易性という観点からは、窒化タンタル層、窒化チタン層、導電性ポリシリコン層等を採用することが好ましい。窒化タンタル層及び窒化チタン層の各々は、その組成を変えることにより、シート抵抗を変えることが可能である。導電性ポリシリコン層は、不純物濃度を変えることにより、シート抵抗を変えることが可能である。
開口部11aは、半導体基板11の厚み方向に貫通した孔により形成されているが、これに限らず、半導体基板11の一面111に形成された穴により形成されていてもよい。
保護層14は、シリコン窒化膜により構成してある。保護層14は、シリコン窒化膜に限らず、例えば、シリコン酸化膜により構成してもよいし、シリコン酸化膜とシリコン窒化膜との積層構造を有していてもよい。保護層14は、耐湿性等の信頼性を確保するためのパッシベーション膜である。保護層14は、赤外線放射層13への通電時に赤外線放射層13から放射される所望の波長域の赤外線に対する透過率が高いほうが好ましいが、透過率が100%であることを必須とするものではない。
赤外線放射層13の厚さは、赤外線放射層13の低熱容量化を図るという観点から0.2μm以下とするのが好ましい。
薄膜部12の厚さと赤外線放射層13の厚さと保護層14の厚さとの合計厚さは、薄膜部12と赤外線放射層13と保護層14との積層構造の低熱容量化を図るという観点から、設定するのが好ましい。このため、薄膜部12の厚さと赤外線放射層13の厚さと保護層14の厚さとの合計厚さは、例えば、0.1μm〜1μm程度の範囲で設定することが好ましく、0.7μm以下とするのがより好ましい。
配線15の材料としては、アルミニウム合金(Al−Si)を採用している。配線15の材料は、特に限定するものではなく、例えば、金、銅等を採用してもよい。また、配線15は、赤外線放射層13と接する部分が赤外線放射層13とオーミック接触が可能な材料であればよく、単層構造に限らず、多層構造でもよい。例えば、配線15は、その厚さ方向において、赤外線放射層13側から順に、第1層、第2層、第3層が積層された3層構造として、赤外線放射層13に接する第1層の材料を高融点金属とし、第2層の材料をニッケルとし、第3層の材料を金としてもよい。高融点金属としては、例えば、クロム等を採用することができる。
端子部16は、パッド電極を構成している。端子部16の材料としては、アルミニウム合金(Al−Si)を採用している。端子部16の材料は、配線15と同じ材料を採用しているが、端子部16の材料と異なる材料でもよい。
パッケージ19は、赤外線放射素子10が実装される台座19aと、赤外線放射素子10を覆うように台座19aに固着されるキャップ19bと、を備える。パッケージ19は、キャップ19bにおける赤外線放射素子10の前方に形成された窓孔19rと、窓孔19rを塞ぐように配置され、赤外線を透過可能な窓材19wと、を備える。
台座19aは、金属製である。台座19aは、円板状に形成されている。キャップ19bは、金属製である。キャップ19bは、円筒状の筒部19bbの一端側に、円板状の天板部19baが形成されており、天板部19baの中央部に窓孔19rが形成されている。
台座19aは、平面視形状が円形状であるが、これに限らず、例えば、多角形状でもよい。また、キャップ19bの形状は、台座19aの形状に応じて適宜変更すればよい。例えば、台座19aの平面視形状が矩形状の場合、キャップ19bの平面視形状は、円形状でもよいし、矩形状でもよい。
パッケージ19は、赤外線放射素子10への給電用の端子として、2本のリードピン19dを備えている。赤外線放射素子10の端子部16とリードピン19dとは、金属細線(図示せず)を介して電気的に接続されている。
2本のリードピン19dは、台座19aに保持されている。2本のリードピン19dは、台座19aに対して、台座19aの厚み方向に貫通して設けられている。2本のリードピン19dは、台座19aに対して電気絶縁性の封止材(ガラス)で固定されており、台座19aと電気的に絶縁されている。
窓材19wは、赤外線を透過する機能を有する。窓材19wは、平板状のシリコン基板により構成してある。窓材19wは、シリコン基板に限らず、例えば、ゲルマニウム基板や硫化亜鉛基板等でもよいが、シリコン基板を用いたほうが低コスト化の点で有利である。また、窓材19wとしては、レンズを採用することもできる。
ガスセンサ100は、赤外光源1が赤外線放射素子10を採用している場合、ハロゲンランプを用いる場合に比べて、発熱体の熱容量を小さくすることが可能となり、低消費電力化や、赤外光源1への同程度の入力電力でS/N比の向上を図ることが可能となる。
試料セル6は、筒状に形成されている。試料セル6は、その内部空間と外部とを連通させる複数の通気孔69が、試料セル6の軸方向に直交する方向に貫通して形成されているのが好ましい。試料セル6が、円筒状に形成されている場合、通気孔69は、試料セル6の径方向に貫通して形成されているのが好ましい。試料セル6は、通気孔69を通して外部からの気体が導入されたり、内部空間の空気が導出されたりする。
ガスセンサ100は、試料セル6の軸方向の一端部側に赤外光源1が配置され、試料セル6の軸方向の他端部側に赤外線検出器2が配置されている。ガスセンサ100は、通気孔69を通って試料セル6の内部空間に、例えば、外部からの検知対象のガス、あるいは検知対象のガスを含む気体が導入される。ガスセンサ100は、試料セル6の内部空間にある検知対象のガスの濃度が増加すると、赤外線検出器2へ入射する赤外線の光量が低下し、試料セル6の内部空間にある検知対象のガスの濃度が低下すると、赤外線検出器2へ入射する赤外線の光量が増加する。
試料セル6は、この試料セル6の中心軸を含む平面で分割された対になる半割体64、65(図4〜6参照)を結合することにより形成されている。半割体64と半割体65とは、例えば、嵌め合い、超音波溶着、接着等から選択される技術により結合することができる。
試料セル6は、赤外光源1から放射された赤外線を赤外線検出器2側へ反射する光学要素を兼ねているのが好ましい。試料セル6は、例えば、合成樹脂により形成されている場合、内面側に、赤外線を反射する反射層を備えた構成とするのが好ましい。試料セル6の材料は、合成樹脂に限らず、例えば、金属を採用してもよい。
試料セル6は、筒状であり、その内面が、赤外光源1から放射された赤外線を反射する反射面66(図4、6参照)を構成するのが好ましい。上述の反射層を備えている場合には、この反射層の表面が反射面66を構成することができる。
ガスセンサ100は、赤外光源1を保持する保持部材70(図4〜6参照)を備え、この保持部材70が試料セル6に取り付けられている。また、ガスセンサ100は、赤外線検出器2を保持する保持部材80を備え、この保持部材80が試料セル6に取り付けられている。
保持部材70は、キャップ部71と、押さえ板72と、を備えている。キャップ部71は、円盤状であって、試料セル6側の端面に、試料セル6の一端部が挿入される凹部71a(図6参照)が設けられ、凹部71aの底部の中央に、赤外光源1が挿入される貫通孔71bが形成されている。押さえ板72は、キャップ部71に対して赤外光源1を押さえるためのものである。
保持部材70は、押さえ板72の孔72b及びキャップ部71の孔71dに通された複数のねじ(図示せず)が、試料セル6の一端部のめねじ部64d、65dにねじ込まれることによって、試料セル6に取り付けられている。
保持部材80は、キャップ部81と、押さえ板82と、を備えている。キャップ部81は、円盤状であって、試料セル6側の端面に、試料セル6の他端部が挿入される凹部81aが設けられ、凹部81aの底部の中央に、赤外線検出器2が挿入される貫通孔81bが形成されている。押さえ板82は、キャップ部81に対して赤外線検出器2を押さえるためのものである。
保持部材80は、押さえ板82の孔82b及びキャップ部81の孔81cに通されたねじ(図示せず)が、試料セル6の他端部のめねじ部(図示せず)にねじ込まれることによって、試料セル6に取り付けられている。
なお、2つの保持部材70、80それぞれの構造は、特に限定するものではない。また、試料セル6への2つの保持部材70、80それぞれの取付構造も特に限定するものではない。
ところで、試料セル6の反射面66は、試料セル6の中心軸上に規定した長軸を回転軸とする回転楕円体の長軸方向の両端部それぞれを長軸に直交する2つの平面によりカットした形状としてある。よって、試料セル6は、回転楕円体(長楕円体)の一部に対応する内部空間が形成されている。
ガスセンサ100は、赤外光源1を、試料セル6の中心軸上において、上記回転楕円体の一方の焦点に配置し、赤外線検出器を、試料セル6の中心軸上において、上記回転楕円体の他方の焦点よりも赤外光源1に近い側に配置するのが好ましい。
なお、ガスセンサ100は、赤外光源1と赤外線検出器2との間に配置される部材(試料セル6等)の形状や数、配置等を特に限定するものではない。
光学系3は、赤外線放射素子10から放射された赤外線が赤外線検出素子20aに入射するまでの伝搬経路に関与するものである。
光学系3としては、例えば、図8に示すような光学フィルタ30を備えるのが好ましい。ガスセンサ100における光学系3は、光学フィルタ30の他に、赤外光源1の窓孔19rと、赤外光源1の窓材19wと、試料セル6の反射面66と、赤外線検出器2の窓孔29cと、赤外線検出器2の窓材29wと、を含む。
光学フィルタ30は、例えば、基板31sと、第1フィルタ部31aと、第2フィルタ部31bと、を備えた構成とすることができる。基板31sは、赤外線を透過可能なものである。基板31sとしては、例えば、シリコン基板、ゲルマニウム基板、サファイア基板、酸化マグネシウム基板等を採用することができる。
第1フィルタ部31aは、光学系3の第1透過波長域λa〜λbを規定するようにフィルタ特性を設計してある。第2フィルタ部31bは、光学フィルタ30の第2透過波長域λc〜λdにおける赤外線の透過率を、第1フィルタ部31aだけの場合よりも小さくするように設計してある。第2フィルタ部31bは、第2透過波長域λc〜λdの赤外線を吸収する機能と反射する機能とを組み合わせることで赤外線の遮断率を調整しているフィルタである。
第1フィルタ部31aは、例えば、λ/4多層膜34と、波長選択層35と、λ/4多層膜36と、で構成されるバンドパスフィルタとすることができる。
λ/4多層膜34は、屈折率が異なり且つ光学膜厚が等しい2種類の薄膜31aa、31abが交互に積層された多層膜である。λ/4多層膜34における2種類の薄膜31aa、31abの光学膜厚は、λ/4多層膜34の設定波長λの1/4に設定されている。
λ/4多層膜36は、屈折率が異なり且つ光学膜厚が等しい2種類の薄膜31aa、31abが交互に積層された多層膜である。λ/4多層膜36における2種類の薄膜31aa、31abの光学膜厚は、λ/4多層膜36の設定波長λの1/4に設定されている。
波長選択層35は、λ/4多層膜34とλ/4多層膜36との間に介在する。波長選択層35の光学膜厚は、波長選択層35の選択波長に応じて決めてあり、各薄膜31aa、31abの光学膜厚とは異ならせてある。波長選択層35の選択波長は、吸収波長λgである。第1フィルタ部31aは、吸収波長λgの赤外線に対する透過率が50%以上であるのが、好ましく、70%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのが更に好ましい。
λ/4多層膜34及びλ/4多層膜36は、屈折率周期構造を有していればよく、3種類以上の薄膜を積層したものでもよい。薄膜の材料としては、例えば、Ge、Si、MgF2、Al2O3、SiOx、Ta2O5、SiNx等を採用することができる。SiOxは、SiOやSiO2である。SiNx等は、SiN、Si3N4等である。
第1フィルタ部31aは、λ/4多層膜34とλ/4多層膜36との間に波長選択層35を備えることにより、反射帯域の中に、この反射帯域の幅に比べて透過スペクトル幅の狭い第1透過波長域λa〜λbを局在させることができる。
屈折率が異なり且つ光学膜厚が等しい2種類の薄膜を積層することにより形成される光学多層膜の反射帯域の幅は、下記の(3)式で近似的に求められる(参考文献:小檜山光信著,「光学薄膜フィルター」,株式会社オプトロニクス社,p.102−106)。
ここで、λは、各薄膜に共通する光学膜厚の4倍に相当する設定波長である。Δλは、反射帯域の幅である。n
Hは、2種類の薄膜のうち相対的に屈折率の高い材料の屈折率である。n
Lは、2種類の薄膜のうち相対的に屈折率の低い材料の屈折率である。
第2フィルタ部31bは、屈折率が異なり且つ光学膜厚が等しい2種類の薄膜31ba、31bbが交互に積層された多層膜である。第2フィルタ部31bは、相対的に屈折率の高い薄膜の材料として、例えば、Ge、Si等を採用することができ、相対的に屈折率の低い薄膜の材料として、例えば、MgF2、Al2O3、SiOx、Ta2O5、SiNx等を採用することができる。SiOxは、SiOやSiO2である。SiNx等は、SiN、Si3N4等である。
光学フィルタ30は、第1フィルタ部31aの中心波長を、検知対象のガスの吸収波長λgに設定するのが好ましい。ガスセンサ100は、検知対象のガスが例えば二酸化炭素の場合、吸収波長λgを4.3μmに設定するのが好ましい。
第2透過波長域λc〜λdは、赤外線放射素子10の放射スペクトルと、光学系3の光学フィルタ30の設計上の分光透過特性等に起因して赤外線の漏れを生じさせる波長領域と、に基づいて適宜設定するのが好ましい。所定波長域λc〜λdは、例えば、10μm〜25μmの範囲とすることができる。
光学系3は、第2透過波長域λc〜λdにおける平均透過率が、第1透過波長域λa〜λbにおける透過率よりも小さい。
平均透過率とは、光学系3の第2透過波長域λc〜λdにおける透過率の平均値である。平均透過率は、S2/S1の計算式により求めた値である。S1は、赤外線波長域のうち第2透過波長域λc〜λdの最短波長λcから最長波長λdの間における、透過率が100%となる仮想透過スペクトルを積分した面積である。要するに、S1は、仮想透過スペクトルと当該仮想透過スペクトルの横軸(波長軸)とで囲まれた領域の面積である。例えば、最短波長λcを10μm、最長波長λdを25μmとした場合には、S1=100×(25−10)となる。S2は、分光器等により実測した、光学系3の透過スペクトルを積分した面積である。要するに、S2は、実測した透過スペクトルと当該透過スペクトルの横軸(波長軸)とで囲まれた領域の面積である。
平均透過率は、例えば、光学フィルタ30の第2フィルタ部31bにおける2種類の薄膜31ba、31bbの積層数、光学膜厚、材料の組み合わせ等を変更することにより変えることが可能である。
赤外線検出素子20aは、光学フィルタ30における赤外光源1側とは反対側に配置されている。
赤外線検出素子20aは、例えば、図9(a)、9(b)及び9(c)に示す構成とすることができる。
赤外線検出素子20aは、1つの焦電体基板21に第1焦電素子22と第2焦電素子23とが並んで形成されている。
第1焦電素子22は、焦電体基板21の表面21aに形成された第1表面電極22aと、焦電体基板21の裏面21bに形成された第1裏面電極22bと、焦電体基板21において第1表面電極22aと第1裏面電極22bとで挟まれた第1部分22cと、を備える。第1裏面電極22bは、第1表面電極22aに対向している。
第2焦電素子23は、焦電体基板21の表面21aに形成された第2表面電極23aと、焦電体基板21の裏面21bに形成された第2裏面電極23bと、焦電体基板21において第2表面電極23aと第2裏面電極23bとで挟まれた第2部分23cと、を備える。第2裏面電極23bは、第2表面電極23aに対向している。
焦電体基板21の表面21aには、第1表面電極22aに電気的に接続された第1表面配線24aが形成されている。また、焦電体基板21の表面21aには、第2表面電極23aに電気的に接続された第2表面配線25aが形成されている。
焦電体基板21の裏面21bには、第1裏面電極22bに電気的に接続された第1裏面配線24bが形成されている。また、焦電体基板21の裏面21bには、第2裏面電極23bに電気的に接続された第2裏面配線25bが形成されている。
焦電体基板21は、第1焦電素子22を囲む周辺部に、第1焦電素子22の外周に沿った形状のスリット26が、第1表面配線24a及び第1裏面配線24bを避けて形成され、第2焦電素子23を囲む周辺部が、第2部分23cの全周に亘って連続している。よって、赤外線検出素子20aは、第1焦電素子22と第2焦電素子23を逆並列もしくは逆直列に接続し、第1焦電素子22を受光用の焦電素子とし、第2焦電素子23を温度補償用の焦電素子として利用することが可能となる。これにより、赤外線検出素子20aは、赤外線のクロストークによる影響を軽減することが可能となり、高感度化を図ることが可能となる。
焦電体基板21は、焦電性を有する基板である。焦電体基板21は、単結晶のLiTaO3基板により構成されている。焦電体基板21の材料である焦電材料としては、LiTaO3を採用しているが、これに限らず、例えば、LiNbO3、PbTiO3、PZT(:Pb(Zr,Ti)O3)、PZT−PMN(:Pb(Zr,Ti)O3−Pb(Mn,Nb)O3)等を採用してもよい。
焦電体基板21の自発分極の方向は、この焦電体基板21の厚み方向に沿った一方向である。図9(b)で見れば、焦電体基板21の自発分極の方向は、上方向である。
焦電体基板21は、平面視形状を矩形状としてある。焦電体基板21の平面視形状は、特に限定するものではない。
焦電体基板21の厚さは、50μmに設定してあるが、この値に限定するものではない。焦電体基板21の厚さは、例えば、薄いほうが赤外線検出素子20aの感度を向上させる観点から好ましい。このため、焦電体基板21の厚さは、30μm〜150μm程度の範囲で設定するのが好ましい。赤外線検出素子20aは、焦電体基板21の厚さが30μmよりも薄いと脆弱性による焦電体基板21の破損の懸念があり、150μmよりも厚いと赤外線検出素子20aの感度が低下してしまう懸念がある。
第1表面電極22a、第1裏面電極22b、第2表面電極23a及び第2裏面電極23bは、検知対象の赤外線を吸収可能で且つ導電性を有する導電膜により構成されている。導電膜は、Ni膜により構成されている。導電膜は、Ni膜に限らず、例えば、NiCr膜や金黒膜等でもよい。導電膜は、厚さが厚いほうが、電気抵抗が小さくなる一方、厚さが薄いほうが、赤外線の吸収量を高めることが可能となる。このため、第1焦電素子22は、第1表面電極22aの厚さを、第1裏面電極22bの厚さよりも薄くしてもよい。同様に、第2焦電素子23は、第2表面電極23aの厚さを、第2裏面電極23bの厚さよりも薄くしてもよい。また、第1焦電素子22は、第1表面電極22aの厚さと、第1裏面電極22bの厚さと、を同じとしてもよい。また、第2焦電素子23は、第2表面電極23aの厚さと、第2裏面電極23bの厚さと、を同じとしてもよい。
赤外線検出素子20aは、第1表面電極22aの厚さと、第2表面電極23aの厚さと、を同じに設定してある。また、赤外線検出素子20aは、第1裏面電極22bの厚さと、第2裏面電極23bの厚さと、を同じに設定してある。
第1表面電極22a及び第2表面電極23aの厚さは、30nmに設定してあるが、この値に限定するものではない。第1表面電極22a及び第2表面電極23aの厚さは、例えば、100nm以下が好ましく、40nm以下がより好ましい。第1表面電極22a及び第2表面電極23aは、例えば、蒸着法やスパッタ法等により形成することができる。
第1裏面電極22b及び第2裏面電極23bの厚さは、100nmに設定してあるが、この値に限定するものではない。第1裏面電極22b及び第2裏面電極23bの厚さは、40nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましい。第1裏面電極22b及び第2裏面電極23bは、例えば、蒸着法やスパッタ法等により形成することができる。
赤外線検出素子20aは、第1表面電極22a及び第2表面電極23aの厚さと、第1裏面電極22b及び第2裏面電極23bの厚さと、を同じとする場合、これらの厚さを、例えば、40nm〜100nm程度の範囲で設定すればよい。
第1表面電極22a及び第2表面電極23aは、シート抵抗の値によって赤外線吸収率が変化する。第1表面電極22a及び第2表面電極23aの赤外線吸収率は、例えば、20%〜50%の範囲で設定するのが好ましい。第1表面電極22a及び第2表面電極23aの赤外線吸収率の理論的な最大値は、50%である。第1表面電極22a及び第2表面電極23aの赤外線吸収率が50%となる第1表面電極22a及び第2表面電極23aのシート抵抗は、189Ω/□(189Ω/sq.)である。つまり、赤外線検出素子20aは、第1表面電極22a及び第2表面電極23aのシート抵抗を189Ω/□とすれば、第1表面電極22a及び第2表面電極23aの赤外線吸収率を最大とすることが可能となる。赤外線検出素子20aは、第1表面電極22a及び第2表面電極23aにおいて例えば40%以上の赤外線吸収率を確保することが好ましい。このため、赤外線検出素子20aは、第1表面電極22a及び第2表面電極23aのシート抵抗を73〜493Ω/□の範囲で設定するのが好ましい。
第1焦電素子22及び第2焦電素子23の平面視形状は、長方形状としてある。赤外線検出素子20aは、第1焦電素子22の平面サイズと第2焦電素子23の平面サイズと、を同じに設定してあるのが好ましい。要するに、赤外線検出素子20aは、第1焦電素子22と第2焦電素子23と、を同じ構成としてあるのが好ましい。第1焦電素子22及び第2焦電素子23の平面視形状は、長方形状に限らず、例えば、正方形状や、円形状、半円形状、楕円形状、半楕円形状、矩形以外の多角形状等でもよい。また、赤外線検出素子20aは、第1焦電素子22の平面視形状と第2焦電素子23の平面視形状とが異なる場合、平面視における面積が同じであるのが好ましい。
第1焦電素子22は、第1表面電極22aと、第1裏面電極22bと、が同じ形状であり、第1裏面電極22bが、第1表面電極22aの垂直投影領域に一致するように配置されているのが好ましい。第1表面電極22aの垂直投影領域とは、第1表面電極22aの厚さ方向への投影領域を意味する。このため、第1焦電素子22の平面視形状は、第1表面電極22aの平面視形状により決まる。要するに、第1焦電素子22の平面視形状は、第1表面電極22aの平面視形状と同じである。第1焦電素子22は、第1表面電極22aと第1裏面電極22bと、で大きさが異なってもよい。
第2焦電素子23は、第2表面電極23aと、第2裏面電極23bと、が同じ形状であり、第2裏面電極23bが、第2表面電極23aの垂直投影領域に一致するように配置されているのが好ましい。第2表面電極23aの垂直投影領域とは、第2表面電極23aの厚さ方向への投影領域を意味する。このため、第2焦電素子23の平面視形状は、第2表面電極23aの平面視形状により決まる。要するに、第2焦電素子23の平面視形状は、第2表面電極23aの平面視形状と同じである。第2焦電素子23は、第2表面電極23aと第2裏面電極23bと、で大きさが異なってもよい。
第1表面配線24a及び第2表面配線25aは、材料、厚さそれぞれを第1表面電極22a及び第2表面電極23aと同じとしてあるのが好ましい。これにより、赤外線検出素子20aの形成にあたっては、第1表面配線24a及び第2表面配線25aを、第1表面電極22a及び第2表面電極23aと同時に形成することが可能となる。また、赤外線検出素子20aは、第1表面配線24aと第1表面電極22aとを連続膜として形成でき、且つ、第2表面配線25aと第2表面電極23aとを連続膜として形成できる。
第1裏面配線24b及び第2裏面配線25bは、材料、厚さそれぞれを第1裏面電極22b及び第2裏面電極23bと同じとしてあるのが好ましい。これにより、赤外線検出素子20aの形成にあたっては、第1裏面配線24b及び第2裏面配線25bを、第1裏面電極22b及び第2裏面電極23bと同時に形成することが可能となる。また、赤外線検出素子20aは、第1裏面配線24bと第1裏面電極22bとを連続膜として形成でき、且つ、第2裏面配線25bと第2裏面電極23bとを連続膜として形成できる。
赤外線検出素子20aは、第1表面配線24aにおける第1表面電極22a側とは反対側の端部が、出力用の端子部24aaを構成している。また、赤外線検出素子20aは、第1裏面配線24bにおける第1裏面電極22b側とは反対側の端部が、出力用の端子部24bbを構成している。また、赤外線検出素子20aは、第2表面配線25aにおける第2表面電極23a側とは反対側の端部が、出力用の端子部25aaを構成している。また、赤外線検出素子20aは、第2裏面配線25bにおける第2裏面電極23b側とは反対側の端部が、出力用の端子部25bbを構成している。
第1焦電素子22及び第2焦電素子23は、それぞれ、赤外線を受光して電気信号である出力信号を発生することができる。
赤外線検出素子20aは、第1焦電素子22の第1表面電極22aに電気的に接続された端子部24aaと、第2焦電素子23の第2裏面電極23bに電気的に接続された端子部25bbと、が焦電体基板21の厚さ方向において重なるように配置されている。また、赤外線検出素子20aは、第1焦電素子22の第1裏面電極22bに電気的に接続された端子部24bbと、第2焦電素子23の第2表面電極23aに電気的に接続された端子部25aaと、が焦電体基板21の厚さ方向において重なるように配置されている。本明細書では、第1焦電素子22と第2焦電素子23との並ぶ方向を第1方向と称し、焦電体基板21の厚さ方向を第2方向と称し、第1方向と第2方向とに直交する方向を第3方向と称する。赤外線検出素子20aは、第3方向の一端部に、端子部24aa、25bbが形成され、第3方向の他端部に、端子部24bb、25aaが形成されている。
赤外線検出素子20aは、端子部24aaと端子部25bbとを電気的に接続し、且つ、端子部24bbと端子部25aaとを電気的に接続することにより、第1焦電素子22と第2焦電素子23とを逆並列接続した構成とすることができる。図10は、赤外線検出素子20aにおいて、第1焦電素子22と第2焦電素子23とを逆並列接続した場合の等価回路図である。図10では、上述の焦電体基板21の自発分極の方向を矢印で示してある。図10の等価回路図では、赤外線検出素子20aが、一対の出力端子28c、28dを備えている。この場合、赤外線検出素子20aは、端子部24bbと端子部25aaとを電気的に接続する接続部(図示せず)が一方の出力端子28cを構成し、端子部24aaと端子部25bbとを電気的に接続する接続部(図示せず)が他方の出力端子28dを構成している。本明細書では、出力端子28cを第1出力端子28cともいう。また、本明細書では、出力端子28dを第2出力端子28dともいう。
端子部24aaと端子部25bbとを電気的に接続する接続部は、例えば、導電ペーストにより形成することができる。端子部24bbと端子部25aaとを電気的に接続する接続部は、例えば、導電ペーストにより形成することができる。導電ペーストとしては、例えば、銀ペースト、金ペースト、銅ペースト等を採用することができる。
スリット26は、焦電体基板21の厚さ方向に貫通して形成された孔を意味する。スリット26は、第1焦電素子22の周辺部において第1表面配線24a及び第1裏面配線24bを避けた位置に形成されている。スリット26は、第1焦電素子22の外周に沿った形状に形成されている。赤外線検出素子20aは、スリット26を、第1焦電素子22を囲む周辺部のみに形成し、第2焦電素子23の周辺部には形成していない。よって、赤外線検出素子20aは、第1焦電素子22を囲む周辺部に、第1焦電素子22の外周に沿った形状のスリット26が形成されている一方で、第2焦電素子23を囲む周辺部が、第2部分23cの全周に亘って連続している。
赤外線検出素子20aは、第1焦電素子22を赤外線の受光用の焦電素子とし、第2焦電素子23を温度補償用の焦電素子として利用することを想定している。受光用の焦電素子とは、赤外線検出素子20aの検出対象の赤外線を検出するための焦電素子を意味し、赤外線検出素子20aの検出対象の赤外線が入射される焦電素子である。温度補償用の焦電素子とは、赤外線検出素子20aの周囲温度の変化による出力信号の変動を少なくするための焦電素子を意味し、理想的には、赤外線検出素子20aの検出対象の赤外線が入射されない焦電素子である。言い換えれば、温度補償用の焦電素子とは、第1焦電素子22の出力信号から周囲温度に起因した成分を取り除くための焦電素子を意味する。このため、赤外線検出素子20aは、検出対象の赤外線が、第1焦電素子22に入射する一方で、第2焦電素子23に入射しないようにして使用する。赤外線検出器2では、パッケージ29のうち検出対象の赤外線を透過する窓材29wの垂直投影領域外に第2焦電素子23が位置するように、窓材29wの配置を規定してある。これにより、赤外線検出器2は、パッケージ29のうち窓材29wを保持している遮光性のキャップ29bの一部を、検出対象の赤外線が第2焦電素子23に入射しないようにするための遮光部として兼用することができる。遮光部は、これに限らず、例えば、赤外線カットフィルタにより構成してもよいし、金属製の遮光板等により構成してもよい。
赤外線検出素子20aは、赤外線が入射する入射面側に空間が存在した状態で使用されるので、赤外線のクロストーク(crosstalk)により、第2焦電素子23から信号が出力されることがある。赤外線検出素子20aにおいて赤外線が入射する入射面とは、第1表面電極22aの表面及び第2表面電極23aの表面を意味する。赤外線のクロストークとは、第1焦電素子22へ赤外線を入射させるための窓材29wや光学フィルタ30を透過した赤外線が第2焦電素子23における第2表面電極23aの表面へ斜め方向から入射することを意味する。言い換えれば、赤外線のクロストークとは、第1焦電素子22での検出対象の赤外線が、赤外線の入射が阻止されることを意図した第2焦電素子23における第2表面電極23aへ斜め方向から入射することを意味する。
赤外線検出素子20aは、検出対象の赤外線が入射することによる第1焦電素子22の温度変化や、赤外線のクロストークによる第2焦電素子23の温度変化に比べて、環境温度の変化に伴う第1焦電素子22や第2焦電素子23の温度変化が非常に緩やかである。環境温度は、赤外線検出素子20aの周囲の温度を意味し、パッケージ29の周囲の温度を意味する。パッケージ29の周囲の温度は、外気の温度である。
赤外線検出素子20aは、第1焦電素子22への検出対象の赤外線の入射に対して、基本的に第1焦電素子22のみが暖められるので、熱容量が小さく、熱時定数が小さい。また、赤外線検出素子20aは、環境温度の上昇により、赤外線検出素子20a全体が暖められるので、熱容量が大きく、熱時定数が大きい。特に、赤外線検出素子20aは、環境温度の上昇により、パッケージ29及び赤外線検出素子20aが暖められるので、更に熱容量が大きくなり、熱時定数が大きくなる。
熱容量に関しては、環境温度の変化に対する第1焦電素子22の熱容量をH1、検出対象の赤外線の入射に対する第1焦電素子22の熱容量をH2とすると、H1>H2となる。これは、熱容量H1が、緩やかな温度変化で第1焦電素子22の周辺部も含めて暖めるのに必要な熱容量であることによる。
また、熱コンダクタンスに関しては、環境温度の変化に対する第1焦電素子22の熱コンダクタンスをG1、検出対象の赤外線の入射に対する第1焦電素子22の熱コンダクタンスをG2とすると、G2>G1となる。これは、熱コンダクタンスG2が、パッケージ29の表面に対する第1焦電素子22の熱コンダクタンスとなり、非常に小さな値となるからである。
また、熱時定数に関しては、熱時定数=〔熱容量〕/〔熱コンダクタンス〕であるため、環境温度の変化に対する第1焦電素子22の熱時定数をτ1、検出対象の赤外線の入射に対する第1焦電素子22の熱時定数をτ2とすると、τ1>τ2となる。
赤外線検出素子20aは、第1焦電素子22の周辺部のみにスリット26が形成されていることにより、検出対象の赤外線の入射による第1焦電素子22と第2焦電素子23との熱時定数の差に基づく感度差を生じさせることが可能となる。よって、赤外線検出素子20aは、第1焦電素子22と第2焦電素子23とを逆並列に接続し、第1焦電素子22、第2焦電素子23をそれぞれ、受光用、温度補償用の焦電素子として使用することで、赤外線のクロストークによる影響を軽減することが可能となる。これにより、赤外線検出素子20aは、高感度化を図ることが可能となる。
焦電体基板21は、スリット26が、少なくとも、第1焦電素子22の第2焦電素子23側に形成されているのが好ましい。これにより、赤外線検出素子20aは、第2焦電素子23に比べて第1焦電素子22の感度を、低周波域で高めることが可能となるだけでなく、熱のクロストークを抑制することが可能となり、第1焦電素子22の感度の更なる向上を図ることが可能となる。熱のクロストークとは、第1焦電素子22と第2焦電素子23との間で焦電体基板21を介して熱が伝達することを意味する。
赤外線検出素子20aは、スリット26が、第1焦電素子22の外周に沿って形成されていればよく、スリット26の数を特に限定するものではない。赤外線検出素子20aは、第1焦電素子22の周辺部において、複数のスリット26を、第1焦電素子22の外周に沿った方向において離して形成することにより、機械的強度を向上させることが可能となる。複数のスリット26は、第1焦電素子22の外周に沿った方向において等間隔で形成されているのが好ましい。
赤外線検出素子20aでは、第1表面電極22aの外周縁がスリット26の第1表面電極22a側の開孔縁から離れた構成としてもよい。これにより、赤外線検出素子20aは、高感度化を図りながらも、第1表面電極22aと第1裏面電極22bとの短絡をより確実に抑制することが可能となる。
また、赤外線検出素子20aは、第1裏面電極22bの外周縁がスリット26の第1裏面電極22b側の開孔縁から離れているのが好ましい。これにより、赤外線検出素子20aは、第1表面電極22aと第1裏面電極22bとの短絡をより確実に抑制することが可能となり、電気的安定性の低下を抑制することが可能となる。
赤外線検出素子20aは、第1焦電素子22と第2焦電素子23とを備えたもの以外でもよい。例えば、赤外線検出素子20aは、第2焦電素子23を備えずに、第1焦電素子22のみを備えたものでもよい。また、赤外線検出素子20aは、赤外線を吸収して電気信号に変換する受光素子であればよく、例えば、サーモパイル、抵抗ボロメータ等を採用してもよい。
赤外線検出器2のパッケージ29は、台座29aと、台座29aに固着されるキャップ29bと、を備える。パッケージ29は、キャップ29bにおける赤外線検出素子20aの前方に窓孔29cが形成されている。赤外線検出器2は、パッケージ29が、キャップ29bにおける天板部29baに形成された窓孔29cと、窓孔29cを塞ぐように配置され、赤外線を透過可能な窓材29wと、を備える。窓材29wは、平板状のシリコン基板により構成してある。窓材29wは、窓孔29cの開口サイズよりもやや大きな矩形板状に形成されている。窓材29wは、導電性材料(例えば、半田、導電性接着剤等)によりキャップ29bに固着されているのが好ましい。これにより、赤外線検出器2は、窓材29wをキャップ29bと略同電位とすることが可能となり、外来の電磁ノイズの影響を受けにくくなるという利点がある。窓材29wは、シリコン基板に限らず、例えば、ゲルマニウム基板や硫化亜鉛基板等でもよいが、シリコン基板を用いたほうが低コスト化の点で有利である。
赤外線検出器2は、光学フィルタ30がパッケージ29内に収納され、パッケージ29の外側の外気に曝されないようになっている。これにより、赤外線検出器2は、光学フィルタ30が外気に曝されるのを抑制することが可能となる。よって、赤外線検出器2は、光学フィルタ30のフィルタ特性の経時変化を抑制することが可能となる。
信号処理部4は、赤外線検出素子20aの出力信号を信号処理するIC素子40を備えている。IC素子40は、赤外線検出器2のパッケージ29内に収納されているのが好ましい。この場合、赤外線検出器2は、例えば、赤外線検出素子20aとIC素子40とが実装された基板43が、パッケージ29内に収納されているのが好ましい。
基板43は、例えば、MID(Molded Interconnect Devices)基板により構成することができる。基板43は、MID基板に限らず、例えば、部品内蔵基板、セラミック基板、プリント基板等により構成することができる。
赤外線検出器2は、基板43の第1面143側に赤外線検出素子20aが配置され、基板43の第2面144側にIC素子40が配置されているのが好ましい。
IC素子40は、ベアチップであり、基板43の第2面144に設けた凹部43yの内底面に、ダイボンド材により固定されている。ダイボンド材としては、例えば、エポキシ樹脂を用いることができる。
台座29aには、3本のリードピン29dが、この台座29aの厚さ方向に貫通して設けられる。3本のリードピン29dは、1本のリードピン29dが、IC素子40のグラウンド端子として利用され、他の1本のリードピン29dが、IC素子40へ動作電圧を与えるための電源端子として利用され、残りの1本のリードピン29dが、IC素子40の出力信号を取り出すための端子に利用される。
IC素子40は、例えば、電流電圧変換回路と、増幅回路と、を備えた構成とすることができる。電流電圧変換回路は、赤外線検出素子20aの出力信号である電流信号を電流−電圧変換して出力する回路である。増幅回路は、電流電圧変換回路で電流−電圧変換された出力信号を増幅して出力する回路である。
信号処理部4は、IC素子40にて増幅された出力信号に基づく出力を発生する信号処理回路45を備えている。信号処理回路45は、第1駆動条件のときの赤外線検出素子20aの第1出力信号と第2駆動条件のときの赤外線検出素子20aの第2出力信号との比を利用して検知対象のガスの濃度を推定し、この濃度に相当する出力を発生する。
信号処理回路45は、A/D変換回路45aと、濃度推定部45bと、を備えた構成とすることができる。A/D変換回路45aは、IC素子40の出力信号をアナログ−ディジタル変換して出力する。
なお、信号処理部4は、この信号処理部4の全部を赤外線検出器2のパッケージ29内に設けてもよい。また、信号処理部4は、電流電圧変換回路と増幅回路と信号処理回路45とを集積化して1チップのIC素子とし、パッケージ29内に設けてもよい。また、信号処理部4は、複数のディスクリート部品を適宜接続して構成してもよい。また、信号処理部4は、この信号処理部4の全部を赤外線検出器2とは別に設けてもよい。
ガスセンサ100は、濃度推定部45bで推定した濃度を表示させる表示部8を備えていてもよい。表示部8は、例えば、液晶表示装置や、有機EL表示装置や、発光ダイオードを用いた表示装置等により構成することができる。
ところで、ガスセンサ100は、駆動回路5から赤外線放射素子10の赤外線放射層13へ与える入力電力を調整することにより、赤外線放射層13に発生するジュール熱を変化させることができ、赤外線放射層13の温度を変化させることができる。よって、ガスセンサ100では、赤外線放射層13の温度を変化させることで赤外線放射層13の放射エネルギ分布のピーク波長を変化させることができる。
駆動回路5は、赤外線放射素子10に所定パルス幅の電圧(以下、「パルス電圧」ともいう。)を印加することにより、赤外線放射素子10をパルス駆動する。駆動回路5は、制御部51からの制御信号を昇圧してパルス電圧を生成するように構成されている。駆動回路5は、制御信号として与えられる入力電圧を昇圧する昇圧機能を有している。制御信号は、所定パルス幅を指示する信号である。赤外線放射素子10は、パルス電圧が印加されている期間が通電期間となり、パルス電圧が印加されていない期間が非通電期間となる。
駆動回路5は、例えば、パルス電圧を駆動電圧として赤外線放射素子10をパルス駆動する場合、赤外線放射素子10に対して、駆動電圧を間欠的に印加する。
駆動回路5は、赤外線放射素子10を第1駆動条件、第2駆動条件それぞれで駆動するように構成されている。第1駆動条件は、例えば、赤外線放射素子10が第1温度で発熱して赤外線を放射するように設定することができる。第2駆動条件は、例えば、赤外線放射素子10が第2温度で発熱して赤外線を放射するように設定することができる。第1温度と第2温度とは、互いに異なる温度である。ガスセンサ100では、第2温度を、第1温度よりも低い温度に設定してある。ガスセンサ100では、第1温度を700Kに設定し、第2温度を500Kに設定してあるが、これらの数値は一例であり、特に限定するものではい。
駆動回路5は、第1駆動条件における駆動電圧を、第1パルス電圧PV1(図3参照)とし、第2駆動条件における駆動電圧を、第2パルス電圧PV2(図3参照)としてある。第1パルス電圧PV1は、最大値がV1で、所定パルス幅がW1のパルス電圧である。第2パルス電圧PV2は、最大値がV2で、所定パルス幅がW2のパルス電圧としてある。
図2では、駆動回路5が第1駆動条件で赤外線放射素子10をパルス駆動したときの赤外線放射素子10の放射スペクトルSL1を破線で示してある。また、図2では、駆動回路5が第2駆動条件で赤外線放射素子10をパルス駆動したときの赤外線放射素子10の放射スペクトルSL2を破線で示してある。また、図2には、光学系3の透過スペクトル(透過率の波長依存性)を実線で示してある。図2から、赤外線放射素子10の放射エネルギ分布が変化した場合、第1透過波長域λa〜λbの赤外線に基づく赤外線検出素子20aの出力信号が変化することが分かる。
IC素子40の出力信号としては、駆動回路5が第1駆動条件で赤外線放射素子10をパルス駆動したときのIC素子40の出力信号(以下、「第1出力信号」ともいう。)と、駆動回路5が第2駆動条件で赤外線放射素子10をパルス駆動したときのIC素子40の出力信号(以下、「第2出力信号」ともいう。)と、がある。IC素子40の出力信号は、赤外線検出素子20aの出力信号を電流−電圧変換して増幅した信号である。
図3は、赤外線放射素子10に印加する駆動電圧の波形と、IC素子40の出力信号との関係を模式的に示している。図3では、赤外線放射素子10が第1パルス電圧PV1でパルス駆動されたときの第1パルス電圧PV1とIC素子40の第1出力信号と、の関係を模式的に示してある。また、図3では、赤外線放射素子10が第2パルス電圧PV2で駆動されたときの第2パルス電圧PV2とIC素子40の第2出力信号と、の関係を模式的に示してある。
ガスセンサ100は、IC素子40の増幅回路が可変増幅回路であり、ガスの濃度が0ppmの状態での第1出力信号と第2出力信号との差を小さくするように、駆動回路5の第1駆動条件のときと第2駆動条件のときとで可変増幅回路の増幅率を変化させる。制御部51は、駆動回路5に赤外線放射素子10を第1駆動条件で駆動させるときの可変増幅回路の増幅率を第1増幅率とし、駆動回路5に赤外線放射素子10を第2駆動条件で駆動させるときの可変増幅回路の増幅率を第2増幅率とする。第2増幅率は、第1増幅率よりも大きな値である。第2増幅率は、第1増幅率の4倍の値に設定してあるが、これに限らない。
ガスセンサ100は、赤外線放射素子10が第1駆動条件でパルス駆動されたときの第1増幅率と、赤外線放射素子10が第2駆動条件でパルス駆動されたときの第2増幅率と、が制御部51によって制御される。これにより、ガスセンサ100は、A/D変換回路45aの入力値の分解能が低下するのを抑制することが可能となる。
濃度推定部45bは、A/D変換回路45aにてそれぞれディジタル化された第1出力信号と第2出力信号との比に基づいて検知対象のガスの濃度を推定するように構成されている。信号処理回路45のA/D変換回路45a及び濃度推定部45bそれぞれの動作タイミングは、制御部51によって制御されるのが好ましい。この場合、ガスセンサ100は、例えば、制御部51と信号処理回路45とが、1つのマイクロコンピュータに適宜のプログラムを搭載することにより構成されているのが好ましい。
ガスセンサ100は、第1パルス電圧PV1のパルス幅W1、第2パルス電圧PV2のパルス幅W2それぞれを、赤外線検出素子20aが受光した赤外線量の時間変化に応じて赤外線検出素子20aが電流を出力する応答時間に比べて短い時間に設定してある。赤外線放射素子10は、駆動電圧が印加されている期間のみ通電され、駆動電圧が印加されていない期間には通電が停止されている。
赤外線放射素子10及び赤外光源1は、赤外線放射素子10の開口部11a内に存在する気体が気体層を構成している。気体層を構成する気体としては、不活性ガスが好ましい。不活性ガスとしては、例えば、N2ガス、Arガス等を採用することができる。赤外線放射素子10及び赤外光源1は、気体層を備えていることにより、通電期間に赤外線放射層13を効率的に昇温させることが可能であり、所定パルス幅の短縮化を図りながらも所望の赤外線量を確保することが可能となる。また、赤外線放射素子10及び赤外光源1は、気体層を備えていることにより、非通電期間においても、通電期間よりも長い期間にわたって赤外線を放射させることが可能となる。ガスセンサ100は、所定パルス幅の短縮化により、低消費電力化を図ることが可能となる。
赤外線放射層13は、通電が開始されると時間が経過するにつれて、温度が上昇する。赤外線放射層13は、温度が上昇するにつれて、赤外線量が曲線的に増加する。赤外線放射層13は、通電がオフされると、温度が下降する。赤外線放射層13は、温度が下降するにつれて、赤外線量が緩やかに減少する。赤外線放射素子10の非通電期間において赤外線放射層13が放射する赤外線量の時間変化の周波数成分は、気体層を有する赤外光源1の構造的な熱時定数によって決定される。赤外線放射素子10の非通電期間は、赤外線放射素子10の通電期間に比べて十分に長い時間に時間に設定してある。例えば、ガスセンサ100は、例えば、通電期間を5ms〜30ms程度の範囲内で設定し、非通電期間を5s〜30s程度の範囲内で設定することができる。なお、赤外線放射素子10の非通電期間における赤外線量の時間変化の周波数成分は、通電期間における赤外線量の時間変化の周波数成分に比べて、低周波数となる。ガスセンサ100は、非通電期間においても、通電期間よりも長い期間にわたって赤外線を放射させることが可能なので、非通電期間に低周波数で減少する赤外線を利用した低周波応答が可能となる。
ガスセンサ100において、第1駆動条件は、第2駆動条件よりもピーク波長が短波長となる駆動条件である。信号処理部4の濃度推定部45bは、下記の(1)式の濃度換算式により検知対象のガスの濃度を推定するのが好ましい。
(1)式において、Con1は、検知対象のガスの濃度〔ppm〕である。R1は、第1出力信号を第2出力信号で除した値Rについて、検知対象のガスの濃度が0ppmのときの値を1として正規化した値である。A1、B1及びC1は、それぞれ係数である。係数A1、B1及びC1の一例を下記表1に示す。表1は、検知対象のガスをCO
2、第1温度を700K、第2温度を500Kとした場合の係数A1、B1及びC1の一例を示す。
ガスセンサ100は、(1)式の濃度換算式により検知対象のガスの濃度を推定する濃度推定部45bを備えていることにより、測定精度の長期安定性を向上させることが可能となる。
ガスセンサ100は、IC素子40の第1出力信号をSg1、第2出力信号をSg2について、ランベルト・ベールの法則により、検知対象のガスの吸光係数をα、ガスの濃度をC、赤外線の光路長をLとすると、下記の(4)式、(5)式で表すことができる。
(4)式では、赤外線放射素子10が第1温度となる第1駆動条件でパルス駆動されたときの赤外線検出素子20aの受光パワーのうち、第1透過波長域λa〜λbの赤外線の受光パワーをP11とし、第2透過波長域λc〜λdの赤外線の受光パワーをP12としてある。
(5)式では、赤外線放射素子10が第2温度となる第2駆動条件でパルス駆動されたときの赤外線検出素子20aの受光パワーのうち、第1透過波長域λa〜λbの赤外線の受光パワーをP21とし、第2透過波長域の赤外線の受光パワーをP22としてある。
第1出力信号を第2出力信号で除した値Rは、下記の(6)式で表すことができる。
(6)式において、Sg1=Sg2の場合には、第1出力信号を第2出力信号で除した値Rを下記の(7)式で表すことができる。
したがって、ガスセンサ100では、(P11−P21)の変化分によって、検知対象のガスの濃度を推定することが可能となる。
ところで、ガスセンサ100は、IC素子40の増幅回路として増幅率が一定のものを採用することもできる。この場合、ガスセンサ100は、例えば、図12に示すように、第1パルス電圧PV1のパルス幅W1に比べて、第2パルス電圧PV2のパルス幅W2を長くすることにより、A/D変換回路45aの入力値の分解能が低下するのを抑制することが可能となる。
図12は、駆動回路5から赤外線放射素子10に印加する駆動電圧の波形と、IC素子40の出力信号との関係を模式的に示している。図12では、赤外線放射素子10が第1パルス電圧PV1でパルス駆動されたときの第1パルス電圧PV1とIC素子40の第1出力信号と、の関係を模式的に示してある。また、図12では、赤外線放射素子10が第2パルス電圧PV2で駆動されたときの第2パルス電圧PV2とIC素子40の第2出力信号と、の関係を模式的に示してある。
ガスセンサ100は、濃度推定部45bが下記の(2)式の濃度換算式により検知対象のガスの濃度を推定するように構成されていてもよい。
(2)式において、Con2は、検知対象のガスの濃度である。Xは、第1出力信号を基準値で除した値である。A2、B2及びC2は、それぞれ係数である。基準値は、第1出力信号を第2出力信号で除した値と、Con1と、から推定した、検知対象のガスの濃度が0ppmで且つ赤外線放射素子10が第1駆動条件でパルス駆動されたと仮定したときの赤外線検出素子20aの出力信号の推定値である。係数A2、B2及びC2の一例を下記表2に示す。表2は、検知対象のガスをCO
2、第1温度を700K、第2温度を500Kとした場合の係数A2、B2及びC2の一例を示す。
ガスセンサ100は、検知対象のガスの濃度によりP11の減衰する比率が大きいので、(2)式の濃度換算式により検知対象のガスの濃度を推定する濃度推定部45bを備えていることにより、測定精度のばらつきを小さくすることが可能となる。
ガスセンサ100は、第1駆動条件での赤外線放射素子10のパルス駆動と、第2駆動条件での赤外線放射素子10のパルス駆動とを交互に行うものに限らない。例えば、ガスセンサ100は、赤外線放射素子10を第1駆動条件でパルス駆動する回数に比べて第2駆動条件でパルス駆動する回数を少なくしてもよい。これにより、ガスセンサ100は、消費電力を、より抑制することが可能となる。この場合、ガスセンサ100は、基準値を推定するために、第2駆動条件でパルス駆動を行った際の第2出力信号と、この第2駆動条件でのパルス駆動の直近の、第1駆動条件でパルス駆動を行った際の第1出力信号と、Con1と、を利用するようにすればよい。
ガスセンサ100は、複数の第1出力信号の平均化処理を行って得た値を、第1出力信号として利用することにより、測定精度の長期安定性をより向上させることが可能となる。
なお、ガスセンサ100は、赤外光源1の窓材19wを、例えば、第2透過波長域λc〜λdの赤外線の遮断率を調整する光学フィルタ(以下、「第2光学フィルタ」という。)により構成してもよい。第2光学フィルタは、第1透過波長域λa〜λbの赤外線の反射率を低減する反射防止膜を第3基板にコーティングした無反射コートフィルタとすることもできる。第2光学フィルタは、例えば、吸収波長λgの赤外線の反射率を略0%にすることが可能となり、第2透過波長域λc〜λdの赤外線の反射率を40〜80%とすることが可能となる。第3基板としては、例えば、シリコン基板、ゲルマニウム基板、サファイア基板などを採用することができる。ガスセンサ100は、赤外光源1の窓材19wが第2光学フィルタにより構成されている場合、第2光学フィルタが、光学系3の一部を構成するため、第1透過波長域λa〜λb及び第2透過波長域λc〜λdの透過率の調整が容易になる。
なお、ガスセンサ100において、駆動回路5は、赤外光源1を、パルス電圧で駆動する構成に限らず、パルス電流でパルス駆動するように構成してもよい。
また、赤外光源1は、赤外線放射素子10とパッケージ19とを備えた構成に限らず、例えば、ハロゲンランプ等を採用することもできる。この場合は、ハロゲンランプのフィラメントが、赤外線放射素子を構成する。
上述の実施形態等において説明した各図は、模式的なものであり、各構成要素の大きさや厚さそれぞれの比が、必ずしも実際のものの寸法比を反映しているとは限らない。また、実施形態等に記載した材料、数値等は、好ましいものを例示しているだけであり、それに限定するものではない。更に、本願発明は、その技術的思想の範囲を逸脱しない範囲で、構成に適宜変更を加えることが可能である。