次に、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明によるオイルレシーバを含む動力伝達装置20を示す概略構成図である。同図に示す動力伝達装置20は、前輪駆動車両に搭載される図示しないエンジンのクランクシャフトに接続されると共にエンジンからの動力を図示しない左右の駆動輪(前輪)に伝達可能なものである。図示するように、動力伝達装置20は、トランスミッションケース22や、当該トランスミッションケース22の内部に収容される発進装置(流体伝動装置)23、オイルポンプ24、自動変速機25、ギヤ機構(ギヤ列)28、デファレンシャルギヤ(差動機構)29等を含む。
動力伝達装置20に含まれる発進装置23は、エンジンのクランクシャフトに接続される入力側のポンプインペラ23pや、自動変速機25の入力軸(入力部材)26に接続される出力側のタービンランナ23t、ポンプインペラ23pおよびタービンランナ23tの内側に配置されてタービンランナ23tからポンプインペラ23pへの作動油(ATFすなわちオイル)の流れを整流するステータ23s、ステータ23sの回転方向を一方向に制限するワンウェイクラッチ23o、ロックアップクラッチ23c、ダンパ機構23d等を有するトルクコンバータとして構成される。ただし、発進装置23は、ステータ23sを有さない流体継手として構成されてもよい。
オイルポンプ24は、ポンプボディとポンプカバーとを含むポンプアッセンブリ、ハブを介して発進装置23のポンプインペラ23pに接続された外歯ギヤ、当該外歯ギヤに噛合する内歯ギヤ等を有するギヤポンプとして構成されている。オイルポンプ24は、エンジンからの動力により駆動され、図示しないオイルパンに貯留されている作動油を吸引して発進装置23や自動変速機25により要求される油圧を生成する図示しない油圧制御装置へと圧送する。
自動変速機25は、8段変速式の変速機として構成されており、図1に示すように、入力軸26に加えて、ダブルピニオン式の第1遊星歯車機構30、ラビニヨ式の第2遊星歯車機構35、入力側から出力側までの動力伝達経路を変更するための4つのクラッチC1,C2,C3およびC4、2つのブレーキB1およびB2、並びにワンウェイクラッチF1を含む。
自動変速機25の第1遊星歯車機構30は、外歯歯車であるサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置される内歯歯車であるリングギヤ32と、互いに噛合すると共に一方がサンギヤ31に、他方がリングギヤ32に噛合する2つのピニオンギヤ33a,33bの組を自転自在(回転自在)かつ公転自在に複数保持するプラネタリキャリヤ34とを有する。図示するように、第1遊星歯車機構30のサンギヤ31は、トランスミッションケース22に固定されており、第1遊星歯車機構30のプラネタリキャリヤ34は、入力軸26に一体回転可能に連結されている。第1遊星歯車機構30は、いわゆる減速ギヤとして構成されており、入力要素であるプラネタリキャリヤ34に伝達された動力を減速して出力要素であるリングギヤ32から出力する。
自動変速機25の第2遊星歯車機構35は、外歯歯車である第1サンギヤ36aおよび第2サンギヤ36bと、第1および第2サンギヤ36a,36bと同心円上に配置される内歯歯車であるリングギヤ37と、第1サンギヤ36aに噛合する複数のショートピニオンギヤ38aと、第2サンギヤ36bおよび複数のショートピニオンギヤ38aに噛合すると共にリングギヤ37に噛合する複数のロングピニオンギヤ38bと、複数のショートピニオンギヤ38aおよび複数のロングピニオンギヤ38bを自転自在(回転自在)かつ公転自在に保持するプラネタリキャリヤ40とを有する。第2遊星歯車機構35のリングギヤ37は、自動変速機25の出力部材として機能し、入力軸26からリングギヤ37に伝達された動力は、ギヤ機構28、デファレンシャルギヤ29およびドライブシャフトを介して左右の駆動輪に伝達される。また、プラネタリキャリヤ40は、ワンウェイクラッチF1を介してトランスミッションケース22により支持され、当該プラネタリキャリヤ40の回転方向は、ワンウェイクラッチF1により一方向に制限される。
クラッチC1は、ピストン、複数の摩擦プレートやセパレータプレート、作動油が供給される油室等により構成される油圧サーボを有し、第1遊星歯車機構30のリングギヤ32と第2遊星歯車機構35の第1サンギヤ36aとを互いに接続すると共に両者の接続を解除することができる多板摩擦式油圧クラッチ(摩擦係合要素)である。クラッチC2は、ピストン、複数の摩擦プレートやセパレータプレート、作動油が供給される油室等により構成される油圧サーボを有し、入力軸26と第2遊星歯車機構35のプラネタリキャリヤ40とを互いに接続すると共に両者の接続を解除することができる多板摩擦式油圧クラッチである。クラッチC3は、ピストン、複数の摩擦プレートやセパレータプレート、作動油が供給される油室等により構成される油圧サーボを有し、第1遊星歯車機構30のリングギヤ32と第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bとを互いに接続すると共に両者の接続を解除することができる多板摩擦式油圧クラッチである。クラッチC4は、ピストン、複数の摩擦プレートやセパレータプレート、作動油が供給される油室等により構成される油圧サーボを有し、第1遊星歯車機構30のプラネタリキャリヤ34と第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bとを互いに接続すると共に両者の接続を解除することができる多板摩擦式油圧クラッチである。
ブレーキB1は、複数の摩擦プレートやセパレータプレート、作動油が供給される油室等により構成される油圧サーボを有し、第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bをトランスミッションケース22に回転不能に固定すると共に第2サンギヤ36bのトランスミッションケース22に対する固定を解除することができる多板摩擦式油圧ブレーキである。ブレーキB2は、複数の摩擦プレートやセパレータプレート、作動油が供給される油室等により構成される油圧サーボを有し、第2遊星歯車機構35のプラネタリキャリヤ40をトランスミッションケース22に回転不能に固定すると共にプラネタリキャリヤ40のトランスミッションケース22に対する固定を解除することができる多板摩擦式油圧ブレーキである。
また、ワンウェイクラッチF1は、第2遊星歯車機構35のプラネタリキャリヤ40に連結(固定)されるインナーレースや、アウターレース、複数のスプラグ、複数のスプリング(板バネ)、保持器等を含み、インナーレースに対してアウターレースが一方向に回転した際に各スプラグを介してトルクを伝達すると共に、インナーレースに対してアウターレースが他方向に回転した際に両者を相対回転させるものである。ただし、ワンウェイクラッチF1は、ローラ式といったようなスプラグ式以外の構成を有するものであってもよい。
これらのクラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2は、上述の油圧制御装置による作動油の給排を受けて動作する。図2に自動変速機25の各変速段とクラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2、並びにワンウェイクラッチF1の作動状態との関係を表した作動表を示す。自動変速機25は、クラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2を図2の作動表に示す状態とすることで前進1〜8速の変速段と後進1速および2速の変速段とを提供する。なお、ブレーキB1を除くクラッチC1〜C4、およびブレーキB2の少なくとも何れかは、ドグクラッチといった噛み合い係合要素とされてもよい。
図3は、動力伝達装置20に含まれる自動変速機25の要部を示す部分断面図である。同図は、自動変速機25のクラッチC2やラビニヨ式の第2遊星歯車機構35周辺の構成を示すものである。
図3に示すように、プラネタリキャリヤ40の近傍に配置されて当該プラネタリキャリヤ40と入力軸26とを互いに接続すると共に両者の接続を解除するクラッチC2は、クラッチドラム200と、複数のセパレータプレート(摩擦係合プレート)201やバッキングプレートと、複数のセパレータプレート201等と交互に配置される摩擦プレート(摩擦係合プレート)202と、ピストン203と、キャンセルプレート(キャンセル油室画成部材)204とを含む。クラッチドラム200は、動力入力部材としての入力軸26に固定されて当該入力軸26と一体に回転する。また、セパレータプレート201は、両面が平滑に形成された環状部材であり、クラッチドラム200の内周面に形成されたスプラインにバッキングプレートと共に嵌合される。摩擦プレート202は、両面に摩擦材が貼着された環状部材である。
ピストン203は、クラッチドラム200の図示しない内筒部により移動自在に支持されると共に、クラッチドラム200と共に図示しない係合油室を画成する。当該係合油室には、図示しない油圧制御装置から入力軸26に形成された油路等を介してクラッチC2を係合させるための係合油圧(作動油)が供給される。係合油室内の油圧がピストン203に作用することで当該ピストン203が入力軸26の軸方向に移動してセパレータプレート201および摩擦プレート202を押圧し、それによりクラッチC2が係合することになる。キャンセルプレート204は、ピストン203と共に係合油室内で発生する遠心油圧をキャンセルするためのキャンセル油室を画成し、ピストン203とキャンセルプレート204との間には、複数のリターンスプリングが周方向に間隔をおいて配設される。
また、第2遊星歯車機構35のプラネタリキャリヤ40は、図3および図4に示すように、略円筒状のキャリヤ本体41と、当該キャリヤ本体41に固定される円環状のキャリヤカバー42とから構成される。キャリヤ本体41は、例えば金属を熱間鍛造することにより形成され、それぞれショートピニオンギヤ38aに挿通される複数(本実施形態では、4本)の第1ピニオンシャフト381の一端と、それぞれロングピニオンギヤ38bに挿通される複数(本実施形態では、4本)の第2ピニオンシャフト382の一端とを支持する環状のシャフト支持部410と、当該シャフト支持部410から第1および第2ピニオンシャフト381,382やプラネタリキャリヤ40の軸方向に延出されると共に空隙Gを隔てて周方向に並ぶ複数(本実施形態では、4個)のブリッジ部415とを含む。
図4に示すように、シャフト支持部410は、その中心に形成されると共に自動変速機25の入力軸26や第1サンギヤ36a、第2サンギヤ36bが挿通される中心孔(円孔)411と、中心孔411の周囲に周方向に沿って交互(本実施形態では、90°間隔)に配設されたそれぞれ複数(本実施形態では、それぞれ4個)の厚肉部(第1シャフト支持部)412および板状の薄肉部(第2シャフト支持部)413とを有する。複数の厚肉部412は、空隙Gを隔てて周方向に並ぶように複数の薄肉部413と一体成形される。各厚肉部412には、ニードルベアリング383を介してショートピニオンギヤ38aのシャフト孔に挿通された第1ピニオンシャフト381の一端が挿入されるシャフト孔412hが形成される。また、各薄肉部413には、ニードルベアリング384を介してショートピニオンギヤ38aのシャフト孔に挿通された第2ピニオンシャフト382の一端が挿入されるシャフト孔413hが形成される。
更に、本実施形態では、各厚肉部412の先端(図4における上端)の外周部からブリッジ部415が一体に延出される。すなわち、厚肉部412および薄肉部413を有するシャフト支持部410と複数のブリッジ部415とは一体に成形される。これにより、キャリヤ本体41ひいてはプラネタリキャリヤ40の捩り剛性を良好に確保することが可能となる。図3および図4に示すように、各ブリッジ部415は、シャフト支持部410(厚肉部412)よりも径方向外側に張り出すように形成され、プラネタリキャリヤ40と入力軸26とを互いに接続すると共に両者の接続を解除するクラッチC2のクラッチハブとしても機能する。すなわち、各ブリッジ部415の外周面には、スプライン415sが例えば切削加工により形成されており、スプライン415sには、クラッチC2を構成する複数の摩擦プレート202が嵌合される。
また、各ブリッジ部415の内周面には、それぞれ当該ブリッジ部415の両側の側縁部に沿って第1および第2ピニオンシャフト381,382やプラネタリキャリヤ40の軸方向に延びる一対(2つ)の壁部415wが形成されている。各壁部415wは、図4に示すように、ブリッジ部415の側縁部から径方向内側に所定長さだけ突出する。なお、各壁部415wは、熱間鍛造によりブリッジ部415と同時に成形され、各壁部415wの突出長さは、その内側に配置されるショートピニオンギヤ38aやロングピニオンギヤ38bと干渉しないように定められる。このような一対の壁部415wが形成されることにより、各ブリッジ部415には、それぞれの内周面と一対の壁部415wとにより凹部415rが画成される。更に、各ブリッジ部415には、内周面とスプライン415sの底部とで開口して、当該ブリッジ部415の内部と外部とを連通させる複数の油孔415hが間隔をおいて形成されている。
キャリヤカバー42は、本実施形態において例えば金属板をプレス加工することにより形成され、入力軸26等が挿通される中心孔(円孔)と、第1ピニオンシャフト381の他端が挿入されるシャフト孔と、第2ピニオンシャフト382の他端が挿入されるシャフト孔とを有する。キャリヤカバー42は、キャリヤ本体41の各ブリッジ部415の先端部(図3における左端部)に溶接により固定され、各ブリッジ部415に形成された凹部415rの厚肉部412とは反対側で壁部を形成する。そして、キャリヤカバー42は、それぞれニードルベアリング383を介してショートピニオンギヤ38aのシャフト孔に挿通された複数の第1ピニオンシャフト381の他端と、それぞれニードルベアリング384を介してロングピニオンギヤ38bのシャフト孔に挿通された複数の第2ピニオンシャフト382の他端とを支持する。
これにより、各ショートピニオンギヤ38aは、図3に示すように、キャリヤカバー42とキャリヤ本体41(シャフト支持部410)の厚肉部412との間かつブリッジ部415の内側(内径側)に配置される。また、各ロングピニオンギヤ38bは、図3に示すように、キャリヤカバー42とキャリヤ本体41(シャフト支持部410)の薄肉部413との間に配置される。更に、各ロングピニオンギヤ38bは、図5に示すように、対応するショートピニオンギヤ38aに噛合すると共に、プラネタリキャリヤ40(キャリヤ本体41)の空隙Gを介して外部に露出して各厚肉部412を取り囲むように配置されるリングギヤ37に噛合する。このように、キャリヤ本体41の空隙Gを介して長尺の各ロングピニオンギヤ38bを外部に露出させることにより、各ブリッジ部415周辺におけるプラネタリキャリヤ40の外径(占有スペース)を小さくすることが可能となる。なお、本実施形態において、各ロングピニオンギヤ38bは、各ブリッジ部415に外接する円(スプライン415sの歯先円)よりも径方向内側に位置し、プラネタリキャリヤ40の各ブリッジ部415のシャフト支持部410側の端部には、リングギヤ37を取り囲むようにワンウェイクラッチF1のインナーレース100が圧入されると共に溶接により固定される(図3参照)。
上述のように構成される第2遊星歯車機構35のプラネタリキャリヤ40に対しては、図3に示すように、プラネタリキャリヤ40内で入力軸26側(内側)から飛散する作動油を捕集するオイルレシーバ50が取り付けられる。本実施形態において、オイルレシーバ50は、プラネタリキャリヤ40のキャリヤカバー42とクラッチC2のキャンセルプレート204との間に位置するように、キャリヤカバー42に固定される。図6に示すように、オイルレシーバ50は、キャリヤカバー42側に配置される環状の第1プレート部材51と、当該第1プレート部材51に例えば接着により一体化されると共にキャンセルプレート204側に配置される環状の第2プレート部材52とを含む。
第1プレート部材51は、内周縁から周方向に間隔をおいてキャリヤカバー42(図6における右側)に向けて突出するように軸心(図6における一点鎖線参照)の延在方向(軸方向)に延出された複数の集油壁53を有する。本実施形態では、オイルレシーバ50がプラネタリキャリヤ40に取り付けられた際にロングピニオンギヤ38bと干渉しないように、複数の集油壁53が周方向に間隔をおいて第1プレート部材51に形成される。ただし、ロングピニオンギヤ38bとの干渉が避けられる場合、集油壁53は、第1プレート部材51の内周縁に沿って環状に形成されてもよい。
また、第1プレート部材51には、それぞれ複数(本実施形態では、それぞれ4個)の第1筒状部(挿入部)55および第2筒状部(挿入部)57がキャリヤカバー42(図6における右側)に向けて軸心の延在方向に突出するように形成されている。複数の第1筒状部(挿入部)55は、それぞれ内部に油路55aを有しており、対応する第1ピニオンシャフト381に形成されたシャフト内軸方向油路(シャフト内油路)381a(図3参照)に挿入可能となるように周方向に間隔をおいて配設される。同様に、複数の第2筒状部(挿入部)57も、内部に油路57aを有しており、対応する第2ピニオンシャフト382に形成されたシャフト内軸方向油路(シャフト内油路)382a(図3参照)に挿入可能となるように周方向に間隔をおいて配設される。更に、第1プレート部材51からは、それぞれプラネタリキャリヤ40のキャリヤカバー42の中心孔に嵌合(スナップ留め)される複数の係止部59がキャリヤカバー42(図6における右側)に向けて延出されている。
第2プレート部材52は、その内周縁に沿って環状に形成された傾斜壁部54を有する。傾斜壁部54は、キャンセルプレート204に向けて突出すると共にキャンセルプレート204に近接するにつれて軸心に近接するように傾斜する。そして、第1および第2プレート部材51,52が一体化されると、第1プレート部材51の内周縁部や集油壁53と第2プレート部材52の傾斜壁部54とにより、内側から飛散する作動油を受容する環状の作動油捕集部(オイル捕集部)500が画成される。更に、第1および第2プレート部材51,52は、作動油捕集部500を囲むと共に径方向に延在する環状の油路510を画成し、当該油路510を介して作動油捕集部500と各第1筒状部55の油路55aおよび各第2筒状部57の油路57aとが連通される。
ここで、本実施形態では、図3に示すように、オイルレシーバ50がプラネタリキャリヤ40のキャリヤカバー42とクラッチC2のキャンセルプレート204との間に配置される。このため、自動変速機25の作動中に回転するプラネタリキャリヤ40が入力軸の軸方向に移動すると、オイルレシーバ50を構成する第2プレート部材52の外周部が隣接するキャンセルプレート204の一部と摺接することがある。このため、第2プレート部材52には、傾斜壁部54を囲むように平滑な環状の摺接面56が形成されている。更に、摺接面56には、複数(本実施形態では、8本)の油溝58が周方向に間隔をおいて形成されており、傾斜壁部54には、作動油捕集部500と摺接面56側の領域とを連通させる切欠部54aが周方向に間隔をおいて複数(本実施形態では、8個)形成されている。
図7は、オイルレシーバ50を摺接面56側から視た正面図である。同図に示すように、各油溝58は、内周側端部58iが切欠部54aと連通すると共に摺接面56の外周で開放され、かつ外周側端部58oが内周側端部58iよりもプラネタリキャリヤ40の主回転方向すなわち車両が前進する際の回転方向(図8における矢印方向参照)における下流側に位置するように摺接面56に形成される。本実施形態において、各油溝58は、プラネタリキャリヤ40の主回転方向に沿って、すなわち内周側端部58iと外周側端部58oとの間の中央部が摺接面56の内周よりも外周に近接するように、螺旋状(略円弧状)に延びる。そして、各油溝58は、図8から図10に示すように、プラネタリキャリヤ40の主回転方向((図中矢印方向参照)における上流側に位置する第1底面581と、当該主回転方向における下流側に位置する第2底面582とを有する。
図9に示すように、内周側端部58iにおいて、油溝58の断面形状は直角三角形状を呈しており、摺接面56に対する第1底面581の傾斜角度θ1(摺接面56から図中反時計方向に測った角度)は90°とされている。また、図10からわかるように、外周側端部58oにおいて、油溝58の断面形状は二等辺三角形状を呈しており、摺接面56に対する第1底面581の傾斜角度θ1と、摺接面56に対する第2底面582の傾斜角度θ2(摺接面56から図中時計方向に測った角度)とは、比較的小さい同一の値とされている。そして、各油溝58は、図8から図10に示すように、内周側端部58iから外周側端部58oに向かうにつれて、摺接面56に対する第1底面581の傾斜角度θ1が図中破線で示すように漸減し、かつ第2底面582の周方向における幅が狭まるように形成されている。これにより、各油溝58の深さは、内周側端部58iから外周側端部58oに向かうにつれて漸減することになる。
次に、上述の自動変速機25のクラッチC2やラビニヨ式の第2遊星歯車機構35周辺における潤滑媒体としての作動油の流通状態について説明する。
自動変速機25の作動中、第2遊星歯車機構35の第1および第2サンギヤ36a,36bやそれらの周辺に配置された軸受には、入力軸26に形成された油路等を介して潤滑媒体としての作動油が供給される。第1サンギヤ36aや軸受等に供給された作動油は、第1サンギヤ36aとショートピニオンギヤ38aとの噛合部や軸受を潤滑・冷却した後、ギヤ歯の噛合部や軸受、第1サンギヤ36aとロングピニオンギヤ38bとの隙間等から流出する。そして、当該作動油の一部は、第2遊星歯車機構35のプラネタリキャリヤ40に取り付けられたオイルレシーバ50の作動油捕集部500に流れ込む(捕集される)。
オイルレシーバ50の作動油捕集部500で捕集された作動油の一部は、遠心力の作用により油路510を介して第1筒状部55の油路55aや第2筒状部57の油路57aに流入する。更に、作動油捕集部500からの作動油は、第1ピニオンシャフト381のシャフト内軸方向油路381aやそれに連通するシャフト内径方向油路(シャフト内油路)381bを介してショートピニオンギヤ38aのニードルベアリング383に流入すると共に、第2ピニオンシャフト382のシャフト内軸方向油路382aやそれに連通するシャフト内径方向油路(シャフト内油路)382bを介してロングピニオンギヤ38bのニードルベアリング384に流入する。これにより、ニードルベアリング383、384やショートピニオンギヤ38aとロングピニオンギヤ38bとの噛合部等を潤滑・冷却することが可能となる。
ニードルベアリング383、384やギヤ歯の噛合部を流通した作動油の一部は、キャリヤ本体41の空隙Gを介してプラネタリキャリヤ40の外部に流出する。空隙Gから流出した作動油の一部は、プラネタリキャリヤ40を囲むように配置されるクラッチC2のセパレータプレート201および摩擦プレート202の周辺に流れ込み、セパレータプレート201および摩擦プレート202を潤滑・冷却する。また、第2遊星歯車機構35のプラネタリキャリヤ40では、上述のように、キャリヤカバー42と、ブリッジ部415の内周面および一対の壁部415wにより凹部415rが画成され、各ブリッジ部415の凹部415rが内側(軸心側)から飛散する作動油を溜める油溜めとして機能する。従って、内側すなわちショートピニオンギヤ38aやロングピニオンギヤ38b側から飛散する作動油を空隙Gから必要以上に外部に排出されないように各ブリッジ部415の内側に留めることができる。
これにより、各ブリッジ部415の凹部415rに溜められた作動油を複数の油孔415hを介してスプライン415sに嵌合された摩擦プレート202や、それに隣接して配置されるセパレータプレート201に潤滑媒体として充分に供給し、クラッチC2を良好に作動させることができる。また、第2遊星歯車機構35のプラネタリキャリヤ40では、キャリヤ本体41のシャフト支持部410から空隙Gを隔てて周方向に並ぶように複数のブリッジ部415を延出すると共に、空隙Gを介して長尺のロングピニオンギヤ38bを外部に露出させることにより、ブリッジ部415周辺における外径(占有スペース)を小さくすることが可能となる。この結果、互いに異なる軸長を有するショートピニオンギヤ38aおよびロングピニオンギヤ38bを含む第2遊星歯車機構35のプラネタリキャリヤ40のコンパクト化を図りつつ、複数のブリッジ部415により支持される摩擦プレート202に潤滑媒体としての作動油を充分に供給することができる。
一方、オイルレシーバ50の作動油捕集部500で捕集された作動油の一部は、当該オイルレシーバ50の傾斜壁部54に形成された複数の切欠部54aに達し、各切欠部54aに達した作動油は、ダイレクトかつスムースに対応する油溝58へと流入する。ここで、上述のように、各油溝58は、外周側端部58oが内周側端部58iよりもプラネタリキャリヤ40の主回転方向における下流側に位置するように形成されており、それぞれ当該主回転方向に沿って螺旋状に延びる。従って、各油溝58の内周側端部58iから外周側端部58oまでの長さは、径方向に真っ直ぐに延びる油溝に比べて、より長くなる。これにより、オイルレシーバ50によれば、切欠部54aから油溝58に流れ込んだ作動油がプラネタリキャリヤ40の回転に伴って発生する遠心力の作用により摺接面56の外周に達するのを遅らせることができる。そして、各油溝58内の作動油を遠心力により当該油溝58よりも回転方向上流側の摺接面56上、すなわち摺接面56とクラッチC2のキャンセルプレート204との間によりスムースに送り込むことが可能となる。
また、オイルレシーバ50では、各油溝58が内周側端部58iから外周側端部58oに向かうにつれて深さが漸減するように形成されている。このように各油溝58の内周側端部58i側を深くしておくことで、油溝58内の作動油が遠心力により摺接面56の内周側の領域に送り込まれても、なお油溝58内に作動油を残すことが可能となる。そして、内周側端部58i側の油溝58内に残された作動油を遠心力により外周側端部58oに向けて送り出すと共に摺接面56の外周側の領域に送り込むことができる。更に、各油溝58は、プラネタリキャリヤ40の主回転方向における上流側に位置する第1底面581と、当該主回転方向における下流側に位置する第2底面582とを有し、内周側端部58iから外周側端部58oに向かうにつれて、摺接面56に対する第1底面581の傾斜角度θ1が小さくなると共に、第2底面582の周方向における幅が狭まるように形成されている。これにより、各油溝58の外周側端部58o側で当該油溝58内の作動油を摺接面56の外周側の領域にスムースに送り込み、摺接面56の外周で各油溝58から外方へと排出されるオイルの量を減らすことが可能となる。
この結果、回転するプラネタリキャリヤ40の軸方向の移動に伴ってオイルレシーバ50の摺接面56と、クラッチC2のキャンセルプレート204とが摺接しても、摺接面56とキャンセルプレート204との間に潤滑媒体としての作動油をより極めて良好に(満遍なく)行き渡らせることができる。従って、キャンセルプレート204との摺接に伴う摺接面56の摩耗等を良好に抑制してオイルレシーバ50の耐久性を向上させることが可能となる。
なお、上記実施形態では、複数の油溝58のすべてが摺接面56の外周で開放されているが、これに限られるものではない。すなわち、図11および図12に示すオイルレシーバ50Bのように、複数の油溝58,58Bの少なくとも一部、すなわち複数の油溝58(上述のオイルレシーバ50の油溝58と同様のもの)と交互に配置される複数の油溝58Bを摺接面56の外周よりも内周側で閉塞するように形成してもよい。各油溝58Bは、内周側端部58iが切欠部54aと連通すると共に摺接面56の外周で開放され、かつ外周側端部58oが内周側端部58iよりもプラネタリキャリヤ40の主回転方向(図11における矢印方向参照)における下流側に位置するように摺接面56に形成され、プラネタリキャリヤ40の主回転方向に沿って螺旋状(略円弧状)に延びる。
また、図12からわかるように、油溝58Bも内周側端部58iから外周側端部58oに向かうにつれて深さが漸減するように形成されている。すなわち、内周側端部58iにおいて、油溝58Bの断面形状も直角三角形状を呈しており、摺接面56に対する第1底面581の傾斜角度θ1は90°とされている。また、各油溝58Bは、内周側端部58iから外周側端部58oに向かうにつれて、摺接面56に対する第1底面581の傾斜角度θ1が図12において破線で示すように漸減し、かつ第2底面582の周方向における幅が狭まるように形成されている。そして、各油溝58Bは、外周側端部58oで閉塞することから、図12からわかるように、各油溝58Bの外周側端部58o(閉塞端)において、摺接面56に対する第1底面581の傾斜角度θ1と、摺接面56に対する第2底面582の傾斜角度θ2は、何れも0°となる。
このように、複数の油溝58,58Bの少なくとも一部を摺接面56の外周よりも内周側で閉塞するように形成すれば、摺接面56の外周で複数の油溝58,58Bから外方へと排出されるオイルの量を減らして、オイルレシーバ50Bの摺接面56と、プラネタリキャリヤ40に隣接して配置されるキャンセルプレート204との間に潤滑媒体としての作動油をより良好に行き渡らせることが可能となる。
以上説明したように、本発明によるオイルレシーバは、変速機を構成する遊星歯車のプラネタリキャリヤに取り付けられると共に、飛散するオイルを捕集して前記プラネタリキャリヤにより支持されるピニオンシャフトのシャフト内油路に供給するオイルレシーバにおいて、内側から飛散するオイルを受容する環状のオイル捕集部と、それぞれ前記オイル捕集部と連通する油路を有すると共に前記ピニオンシャフトの前記シャフト内油路に挿入される挿入部と、前記プラネタリキャリヤに隣接して配置される他の部材と摺接する環状の摺接面と、前記オイル捕集部を画成するように前記摺接面の内周に沿って延びる壁部と、前記壁部に周方向に間隔をおいて形成されると共に前記オイル捕集部と前記摺接面側の領域とを連通させる複数の切欠部と、内周側端部が前記切欠部と連通すると共に、外周側端部が前記内周側端部よりも前記プラネタリキャリヤの主回転方向における下流側に位置するように前記摺接面に形成された複数の油溝とを備えることを特徴とする。
すなわち、本発明によるオイルレシーバは、変速機を構成する遊星歯車のプラネタリキャリヤに取り付けられ、オイル捕集部で内側から飛散するオイルを捕集して当該オイルを挿入部の油路を介してプラネタリキャリヤにより支持されるピニオンシャフトのシャフト内油路に供給するものである。また、当該オイルレシーバは、プラネタリキャリヤに隣接して配置される他の部材と摺接する環状の摺接面と、オイル捕集部を画成するように摺接面の内周に沿って延びる壁部とを含み、壁部には、オイル捕集部と摺接面側の領域とを連通させる複数の切欠部が周方向に間隔をおいて形成される。更に、摺接面には、それぞれの内周側端部が切欠部と連通するように複数の油溝が形成され、各油溝の外周側端部は、内周側端部よりもプラネタリキャリヤすなわちオイルレシーバの主回転方向における下流側に位置する。
このような本発明によるオイルレシーバでは、オイル捕集部で捕集されたオイルの一部を壁部に形成された複数の切欠部から複数の油溝のそれぞれにダイレクトかつスムースに供給することができる。また、各油溝を外周側端部が内周側端部よりもプラネタリキャリヤの主回転方向における下流側に位置するように形成することで、径方向に真っ直ぐに延びる油溝に比べて、内周側端部から外周側端部までの油溝の長さを長くすることができる。これにより、切欠穴から油溝に流れ込んだオイルがプラネタリキャリヤの回転に伴って発生する遠心力により摺接面の外周に達するのを遅らせると共に、各油溝内のオイルを遠心力により当該油溝よりも回転方向上流側の摺接面上(摺接面と他の部材との間)に送り込むことが可能となる。この結果、オイルレシーバの摺接面と、プラネタリキャリヤに隣接して配置されてオイルレシーバの摺接面と摺接する他の部材との間に潤滑媒体としてのオイルをより良好に行き渡らせることができる。従って、このオイルレシーバによれば、他の部材との摺接に伴う摺接面の摩耗等を良好に抑制して耐久性を向上させることが可能となる。
また、前記複数の油溝は、それぞれ前記主回転方向に沿って螺旋状に延びるものであってもよい。これにより、内周側端部から外周側端部までの油溝の長さをより長くすると共に、油溝内のオイルを遠心力によって当該油溝よりも回転方向上流側の摺接面上(摺接面と他の部材との間)によりスムースに送り込むことが可能となる。ただし、オイルレシーバの油溝は、必ずしも主回転方向に沿って螺旋状に延びるものである必要はなく、外周側端部が内周側端部よりもプラネタリキャリヤの主回転方向における下流側に位置するものであれば、真っ直ぐに延びるものであってもよい。
更に、前記油溝は、前記内周側端部から前記外周側端部に向かうにつれて深さが漸減するように形成されてもよい。このように、油溝の内周側端部側を深くしておくことで、油溝内のオイルが遠心力により摺接面の内周側の領域に送り込まれても、なお油溝内にオイルを残すことが可能となる。そして、内周側端部側の油溝内に残されたオイルを遠心力により外周側端部に向けて送り出すと共に外周側の領域に送り込むことができる。従って、かかる構成によれば、オイルレシーバの摺接面と、プラネタリキャリヤに隣接して配置される他の部材との間に潤滑媒体としてのオイルを極めて良好に行き渡らせることが可能となる。
また、前記油溝は、前記プラネタリキャリヤの主回転方向における上流側に位置する第1底面と、前記プラネタリキャリヤの主回転方向における下流側に位置する第2底面とを有し、前記内周側端部から前記外周側端部に向かうにつれて、前記摺接面に対する前記第1底面の傾斜角度が小さくなると共に、前記第2底面の周方向における幅が狭まるように形成されてもよい。これにより、油溝の深さを内周側端部から外周側端部に向かうにつれて漸減させると共に、油溝の外周側端部側で当該油溝内のオイルを摺接面の外周側の領域にスムースに送り込み、摺接面の外周で各油溝から外方へと排出されるオイルの量を減らすことが可能となる。ただし、第1底面と第2底面とは、滑らかに連続するように形成されてもよく、少なくとも何れ一方が曲面とされてもよい。
更に、前記複数の油溝の少なくとも一部は、前記摺接面の外周よりも内周側で閉塞するように形成されてもよい。これにより、摺接面の外周で複数の油溝から外方へと排出されるオイルの量を減らして、オイルレシーバの摺接面と、プラネタリキャリヤに隣接して配置される他の部材との間に潤滑媒体としてのオイルをより良好に行き渡らせることが可能となる。
なお、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。また、上記発明を実施するための形態は、あくまで課題を解決するための手段の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、課題を解決するための手段の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。