以下、本発明の一実施形態に係る斜面安定化構造について図1〜図7を参酌しつつ説明する。図1は本実施形態における斜面安定化構造の要部断面図であり、図2(a)はその要部平面図、図2(b)はA−A断面図である。該斜面安定化構造は、ロックボルト工によるものであって、斜面2である地山には削孔3が形成され、該削孔3にはロックボルト等の補強材1が挿入されていて注入材4により固定され、補強材1の頭部には定着具が取り付けられる。
斜面2は、切土や盛土によって人工的に作られた人工斜面や、草木が残った自然斜面であって、斜面2の表面2aは地山の表面となる。そして、表面工(法面工)として、斜面2の表面2aにはワイヤーロープ5が張られている。但し、表面工として吹付枠工等の法枠が施工されていてもよく、その場合には法枠の表面が斜面2の表面2aとなり、法枠の上に更にワイヤーロープ5が張られることになる。本実施形態では、法枠が施工されていない地山の表面にワイヤーロープ5が張られている場合を示している。ワイヤーロープ5は互いに略直交する二方向に張られ、各方向において略一定間隔毎に張られる。本実施形態では、斜面2の勾配の方向である縦方向(上下方向)と、斜面2と略平行な方向である横方向(水平方向)の二方向に張られており、縦方向に張られたものを縦ワイヤーロープ5aと、横方向に張られたものを横ワイヤーロープ5bと称するが、特に縦横の区別をしない場合には単にワイヤーロープ5と総称することにする。
補強材1には、通常、棒状の鋼材が使用され、具体的には、ロックボルト、異形棒鋼、ネジ節棒鋼、自穿孔ボルト等が使用される。腐食しやすい環境下では、エポキシ樹脂等の各種の樹脂を塗布したものや、連続繊維補強ロッド等も使用される。地山が変形すると、それに伴って補強材1には受動的に引っ張り力が生じる。その補強材1の引っ張り力によって、斜面2の表層の土塊の滑り力に抵抗して地山の変形や滑りの発生を抑制する。従って、補強材1は、崩壊時の滑り面よりも深い地山に達するように挿入されて、注入材4によって地山に一体化される。補強材1の全長は、斜面2の崩壊規模や必要抑止力、施工性、経済性等を総合的に考慮して決定されるが、通常数メートルであって、2メートル以上とされる。補強材1の頭部は斜面2の表面2aから所定長さ上方に突出しており、斜面2から突出した突出量である補強材1の頭出し長さは、定着具によって斜面2と補強材1とが構造的に一体化されるために必要十分な長さとされる。尚、補強材1の表面には亜鉛メッキを施すことが好ましく、全長のうち少なくとも頭部に施すことが好ましい。また、補強材1は斜面2に対して垂直に挿入されることを基本としているが、実際には垂直ではない場合も多く、図1では斜面2に対して垂直ではなく斜めに傾斜した状態で挿入されている場合を示している。
注入材4は、斜面2と補強材1との間の荷重伝達の役割と、補強材1を保護する役割とを担っている。注入材4は、補強材1と削孔3との間に充填される。注入材4としては、セメントミルクやモルタルが使用される。
補強材1の頭部には、補強材1と斜面2とを定着一体化するための定着具として、支圧板6とナット7とワッシャ8が用いられている。尚、図2(a)ではナット7と補強材1の図示が省略されており、後述する図5や図7、図9(a)、図10(a)についても同様に省略されている。支圧板6、ナット7及びワッシャ8は何れも金属製とすることができる。支圧板6の中央部には補強材1の頭部が挿通する貫通孔10が形成されており、該貫通孔10を貫通した補強材1の頭部にナット7が螺着され、該ナット7によって支圧板6が斜面2の表面2aに押圧され、締め付けられている。
支圧板6とナット7との間にワッシャ8が介在しており、支圧板6はワッシャ8を介してナット7により締結される。該ワッシャ8は本実施形態においては支圧板6とは別部材とされているが、支圧板6とワッシャ8とが一つの部材となった一体構成であってもよい。上述したように補強材1は斜面2に対して垂直に挿入されることを基本としているが、実際には垂直ではない場合も多く、そのため補強材1と支圧板6との間の角度が直角にはならないケースも多い。そのような場合にもナット7を十分に締め付けることができるように、ワッシャ8を押圧するナット7の押圧面は球面(曲面)とされており、また、ナット7の押圧面によって押圧されるワッシャ8の内周面に形成された被押圧面は、上側に向けて拡径する傾斜面とされている。但し、被押圧面を凹状の球面(曲面)に形成してもよい。ナット7の形状、構成も種々のものであってよいが、本実施形態では、側面に球面状の押圧面を有する押圧部7bを下部に有し、その上部には、略六角形状とされたナット部7aを有する構成であって、ナット部7aに工具を係合させることでナット7を回転させて補強材1の頭部に螺着させる。
支圧板6は、板状のベース部11と、該ベース部11の上面に突設された板状のストッパー壁部12とを備えている。ベース部11の形状は任意であるが、本実施形態では平面視略矩形であって詳細には正方形状である。ベース部11の中央部には、補強材1の頭部が挿通する貫通孔10が形成されている。ベース部11の上面中央部にワッシャ8が載置され、ナット7の締め付け力がワッシャ8を介して支圧板6のベース部11へと伝達され、ベース部11の下面が斜面2の表面2aを押圧する。
ストッパー壁部12は、ベース部11と同様の板状であり、縦方向(前後方向)に沿って延びる縦ストッパー壁部12aと、それと略直交する方向である横方向(左右方向)に沿って延びる横ストッパー壁部12bとからなる。尚、特に縦横の区別をしない場合には単にストッパー壁部12と称することとする。各ストッパー壁部12は、正方形状の各辺を構成しているベース部11の四つの縁部(側面)と略平行である。また、ストッパー壁部12は、ベース部11の一端(対向する一方の縁部)から他端(他方の縁部)まで形成されているが、ベース部11の端まで達していなくてもよい。
縦ストッパー壁部12aは、横方向に所定間隔離間して一対形成されており、該一対の縦ストッパー壁部12aの間に貫通孔10が位置すると共にワッシャ8が位置する。また、横ストッパー壁部12bも、縦方向に所定間隔離間して一対形成されており、該一対の横ストッパー壁部12bの間に貫通孔10が位置すると共にワッシャ8が位置する。即ち、縦横合計四つのストッパー壁部12が井桁状に配置されており、このようにストッパー壁部12を井桁状に形成することで大きい強度が確保される。
四つのストッパー壁部12によって貫通孔10の周囲には平面視正方形状の角筒状の収容壁部13が形成され、その角筒状の収容壁部13の内側にワッシャ8が収容されるように配置されている。ワッシャ8は円形であってその外径は角筒状の収容壁部13の内寸と略等しい。また、一対の縦ストッパー壁部12a間の離間距離と一対の横ストッパー壁部12b間の離間距離は同じにしているが、異なる仕様であってもよい。更に、ストッパー壁部12の高さ方向の形状も任意であって、本実施形態では、中央部において高く、そこから両端に向けて徐々に低くなっているが、高さ略一定であってもよいし、種々の形状であってよい。また、ストッパー壁部12は例えば鋳造によってベース部11と一体的に形成することもできるが、別体で形成してベース部11に溶接等により取り付けることもできる。
上述したようにワイヤーロープ5は縦横二方向に張られているが、その交差部分に支圧板6が位置している。多数の交差部分の全てに支圧板6が位置するようにしてもよいが、多数の交差部分のうちの幾つかにのみ支圧板6が位置するようにしてもよい。縦ワイヤーロープ5aと縦ストッパー壁部12aは互いに略平行であり、横ワイヤーロープ5bと横ストッパー壁部12bは互いに略平行である。そして、縦ストッパー壁部12aには横ワイヤーロープ5bが挿通するロープ挿通孔14が形成され、横ストッパー壁部12bには縦ワイヤーロープ5aが挿通するロープ挿通孔14が形成されている。
ロープ挿通孔14は各ストッパー壁部12にそれぞれ二箇所ずつ形成されており、その形成位置は貫通孔10の両側である。即ち、角筒状の収容壁部13の外側であって且つ近傍にロープ挿通孔14が形成されており、貫通孔10あるいは収容壁部13を中心として前後、左右それぞれ対称関係に配置されている。貫通孔10が支圧板6の中央に位置し、また、収容壁部13も貫通孔10の周囲に位置しているため、ストッパー壁部12のロープ挿通孔14は支圧板6の中央部の近傍に形成される。一対の縦ストッパー壁部12aには、図2(a)のように横ワイヤーロープ5bが平面視において一直線状になるように、互いに対向した位置にロープ挿通孔14が形成されており、その互いに対向する二つのロープ挿通孔14を一組として、貫通孔10の前後両側にそれぞれ一組ずつ形成されると共に対称関係を有して形成されている。同様に、一対の横ストッパー壁部12bには、縦ワイヤーロープ5aが平面視において一直線状になるように、互いに対向した位置にロープ挿通孔14が形成されており、その互いに対向する二つのロープ挿通孔14を一組として、貫通孔10の左右両側にそれぞれ一組ずつ形成されると共に対称関係を有して形成されている。通常、支圧板6の上には図2(a)のように縦ワイヤーロープ5aと横ワイヤーロープ5bが一本ずつ位置しているため、二組のロープ挿通孔14のうちの一方は使用されない。ロープ挿通孔14の何れの組を使用するかは任意であるが、図2(a)では、後側の組と左側の組を使用している。
ロープ挿通孔14はベース部11の上面から所定高さ上方に位置しており、後述する鍔部材15をワイヤーロープ5に装着固定するために必要な程度、ベース部11の上面から上方に位置させておく。また、平面視において井桁状の収容壁部13を構成している縦ストッパー壁部12aと横ストッパー壁部12bからロープ挿通孔14までの離間距離も、鍔部材15をワイヤーロープ5に装着固定するために必要な程度としておくことが好ましい。尚、一対の縦ストッパー壁部12aの各ロープ挿通孔14は何れも互いに同じ高さであり、また、一対の横ストッパー壁部12bの各ロープ挿通孔14もまた何れも互いに同じ高さであり、本実施形態では、全てのロープ挿通孔14が同じ高さになっているが、縦ストッパー壁部12aのロープ挿通孔14の高さと横ストッパー壁部12bのロープ挿通孔14の高さが互いに異なっていてもよい。
縦ワイヤーロープ5aと横ワイヤーロープ5bには、それぞれ鍔部材15が装着固定されている。該鍔部材15は、図2(b)に示しているように所定長さを有する筒状であって、その内側にワイヤーロープ5が挿通され、一対の縦ストッパー壁部12a間と一対の横ストッパー壁部12b間にそれぞれ介装されている。鍔部材15の長さは、一対の縦ストッパー壁部12a間の離間距離や一対の横ストッパー壁部12b間の離間距離に対応しており、それらの離間距離と略等しいか、あるいはそれよりも若干短くなっている。従って、鍔部材15の両端面とストッパー壁部12との間には若干の隙間が形成されるか、あるいは、鍔部材15の両端面がストッパー壁部12と接触した状態となる。何れにしても、鍔部材15の端面はストッパー壁部12に近接した状態にある。また、本実施形態では、一対の縦ストッパー壁部12a間の離間距離と一対の横ストッパー壁部12b間の離間距離とが互いに等しくなっているので、一対の縦ストッパー壁部12a間に介装された鍔部材15と一対の横ストッパー壁部12b間に介装された鍔部材15は、互いに同じ長さとなっており、一種類の鍔部材15を準備しておけばよい。
かかる鍔部材15は、金属製とすることができ、例えばアルミニウム製とすることができる。そして、鍔部材15は、カシメによりワイヤーロープ5に圧着されていてワイヤーロープ5に対してロープ軸線方向に相対移動不能な状態となっている。鍔部材15は径方向に局所的に押し潰された状態となっている。鍔部材15を径方向に押し潰す箇所は任意であって全体を押し潰すようにしてもよいが、軸線方向に間隔をあけて数カ所(2〜5箇所)押し潰すようにすることが好ましい。尚、図2(b)のようにワイヤーロープ5は、ロープ挿通孔14がベース部11から所定高さ上方に形成されているため、支圧板6の中央部においてはベース部11の上面から所定高さ浮上した状態にあるが、支圧板6の周縁部においてはベース部11の上面から極力浮上させずに接近させておくことが好ましい。
尚、上述したように、二方向のワイヤーロープ5の各交差部分の全てに補強材1(支圧板6)が位置する対置態様としてもよいが、例えば、図3(a)のように、縦横それぞれ所定個数の交差部分毎にそれぞれ補強材1が位置する正方配置の態様とすることができ、また、図3(b)のように縦横それぞれ所定個数の交差部分毎に補強材1が千鳥状に位置する千鳥配置の態様とすることもできる。図3(a)及び図3(b)では、何れもワイヤーロープ5を縦横0.5m間隔で張っており、従って、図3(a)では補強材1が縦横2m×2mの正方形に配置されることになり、図3(b)では、縦横2m×2mの千鳥状に配置されることになる。また、図4のように縦横2m×1mの千鳥配置としてもよく、間隔や配列態様も種々であってよい。
図5(a)は図4における縦ワイヤーロープ5aの接続箇所の拡大図であり、図5(b)は図4における横ワイヤーロープ5bの接続箇所の拡大図である。図5(a)では、一対の横ストッパー壁部12bにおける一方のロープ挿通孔14の組に一方の縦ワイヤーロープ5aの端部が挿通されて鍔部材15によって支圧板6に相対移動不能に固定され、また、一対の横ストッパー壁部12bにおける他方のロープ挿通孔14の組に他方の縦ワイヤーロープ5aの端部が挿通されて鍔部材15によって支圧板6に相対移動不能に固定されている。従って、二本の縦ワイヤーロープ5aの端部同士が支圧板6を介して接続されることになる。同様に、図5(b)では、一対の縦ストッパー壁部12aにおける一方のロープ挿通孔14の組に一方の横ワイヤーロープ5bの端部が挿通されて鍔部材15によって支圧板6に相対移動不能に固定され、また、一対の縦ストッパー壁部12aにおける他方のロープ挿通孔14の組に他方の横ワイヤーロープ5bの端部が挿通されて鍔部材15によって支圧板6に相対移動不能に固定されている。従って、二本の横ワイヤーロープ5bの端部同士が支圧板6を介して接続されることになる。尚、二本の縦ワイヤーロープ5aの端部同士と二本の横ワイヤーロープ5bの端部同士が何れも一つの支圧板6で接続されるようにしてもよい。このように、ワイヤーロープ5の端部同士を別途の接続部材を用いて接続しなくても、支圧板6を利用して接続することができ、ワイヤーロープ5の端部処理が容易になる。
次に斜面安定化構造の施工手順の一例について説明する。まず、図6(a)のように斜面2に削孔3を形成し、該削孔3に補強材1を挿入打設して、斜面2の表面2aから補強材1の頭部が所定長さ突出した状態とし、注入材4を削孔3に注入充填する。尚、図6においては斜面2に対して補強材1が直角に挿入されている状態を示している。そして、図6(b)のように支圧板6とワッシャ8を補強材1の位置に設置し、図6(c)のように補強材1の頭部にナット7を螺着して、ナット7で支圧板6を押圧して締結する。尚、ナット7を補強材1に螺着する際に、補強材1の頭部にグリース等の防錆剤を塗布しておいたり、あるいは、ナット7の内周面に防錆剤を塗布しておいてもよい。
続いて表面工としてワイヤーロープ5を張っていく。縦ワイヤーロープ5aと横ワイヤーロープ5bの先後の順番は何れでもよいが、例えば図7(a)のように横ワイヤーロープ5bを一対の縦ストッパー壁部12aのロープ挿通孔14に挿通する。その際、鍔部材15を一対の縦ストッパー壁部12aの間に入れておき、ロープ挿通孔14に横ワイヤーロープ5bを挿通すると共に鍔部材15にも通すようにする。そして、図7(b)のように横ワイヤーロープ5bに鍔部材15をカシメにより圧着する。続いて、図7(c)のように縦ワイヤーロープ5aを一対の横ストッパー壁部12bのロープ挿通孔14に挿通すると共に鍔部材15にも挿通させ、同様にカシメによって鍔部材15を縦ワイヤーロープ5aにも圧着する。
以上のようにして施工された斜面安定化構造にあっては、ワイヤーロープ5に鍔部材15が装着固定されていてワイヤーロープ5と鍔部材15とがロープ軸線方向に相対移動不能の状態となっており、その鍔部材15がロープ挿通孔14の近傍に位置しているので、ワイヤーロープ5が支圧板6に対してロープ軸線方向に移動しようとすると、鍔部材15がストッパー壁部12と干渉してその相対的な位置ずれを規制する。このようにワイヤーロープ5に装着固定された鍔部材15がストッパー壁部12と干渉することによって、ワイヤーロープ5と支圧板6との間のロープ軸線方向の相対的な位置ずれが確実に規制される。従って、補強材1に発生する引っ張り力が支圧板6を介してワイヤーロープ5に確実に伝達されることになり、補強材1、支圧板6及びワイヤーロープ5が一体となって斜面2の崩壊を抑制する。
また、鍔部材15が筒状であってその端面がストッパー壁部12と干渉するので、ワイヤーロープ5の支圧板6に対するロープ軸線方向の相対移動が確実に規制され、鍔部材15の構成も簡単なもので済む。しかも、一対のストッパー壁部12の間に鍔部材15を配置しているので、ワイヤーロープ5のロープ軸線方向の両方向への移動を一対のストッパー壁部12によって確実に規制することができる。尚、本実施形態では一対のストッパー壁部12の間に鍔部材15を一個配置したが、複数個直列に配置してもよく、鍔部材15の個数は任意である。また、一対のストッパー壁部12の間に複数の鍔部材15を直列に配置する場合には、複数の鍔部材15を互いに離して配置してもよく、短い鍔部材15を二個使用して互いに離間させた状態で各ストッパー壁部12の近傍に配置するようにしてもよい。
一方、ワイヤーロープ5に鍔部材15を装着固定する構成であるため、ワイヤーロープ5と支圧板6との間の相対移動を規制するための構造も簡単であって、施工も容易である。特に、筒状の鍔部材15をカシメによってワイヤーロープ5に固定するので、現場で容易に施工できる。更に、ベース部11の上面に立設されたストッパー壁部12にロープ挿通孔14が形成されているので、ロープ挿通孔14へのワイヤーロープ5の挿通作業が簡単であって施工性に優れる。ロープ挿通孔14にワイヤーロープ5を挿通する作業も支圧板6の上方から目視確認しつつ行うことができ、鍔部材15をワイヤーロープ5に装着固定する作業も支圧板6の上方から目視確認しつつ行うことができるので、支圧板6を補強材1に締結した後にそれらの作業を容易に行うことができる。また、補強材1の挿入作業や支圧板6の締結作業といったロックボルト工と、ワイヤーロープ5を張っていく表面工とを、別個独立して行うことができるため、施工性に優れている。尚、仮に、ワイヤーロープ5を張らない場合にはロックボルト工のみとなる。従って、支圧板6やワッシャ8は、ワイヤーロープ5が不要な場所ではロックボルト工としても使用できる。
尚、上記実施形態では、縦ストッパー壁部12aと横ストッパー壁部12bをそれぞれ一対ずつ形成してそれらの間に鍔部材15を配置したが、縦ストッパー壁部12aを一つのみ形成したり、横ストッパー壁部12bを一つのみ形成したりしてもよい。そのように縦ストッパー壁部12aや横ストッパー壁部12bを一つのみ形成する場合には、例えば、図8及び図9のようにそれぞれ支圧板6の中央に形成することが好ましい。図8及び図9に示す実施形態では、支圧板6の中央部に円形のワッシャ8を収容配置するために円筒状の収容壁部13を立設している。従って、縦ストッパー壁部12aと横ストッパー壁部12bは、円筒状の収容壁部13の外周面から支圧板6の周縁部に向けて径方向に延びるように形成されることが好ましく、また、収容壁部13の外周面と連結一体化されていることが高い強度が確保されて好ましい。縦ストッパー壁部12aと横ストッパー壁部12bは、収容壁部13を中心としてそこから放射状に延びるように形成されることが好ましく、平面視十字状に互いに略直交関係を有して形成されていることが好ましい。
そして、このように縦ストッパー壁部12aや横ストッパー壁部12bを一つのみ形成する場合には、特に、縦ストッパー壁部12aや横ストッパー壁部12bの両側にそれぞれ鍔部材15を設けることが好ましい。縦ストッパー壁部12aの左右両側にそれぞれ鍔部材15を配置することにより、横ワイヤーロープ5bの左右両側への相対移動を一対の鍔部材15によって阻止することができ、また、横ストッパー壁部12bの前後両側にそれぞれ鍔部材15を配置することにより、縦ワイヤーロープ5aの前後両側への相対移動を一対の鍔部材15によって阻止することができる。尚、このように縦ストッパー壁部12aや横ストッパー壁部12bを井桁状ではなく十字状に形成する場合には、ストッパー壁部12の強度確保の観点から、ストッパー壁部12の所定箇所に補強板20を形成することが好ましい。該補強板20は、ストッパー壁部12に対して直交する方向に延設することが好ましく、ストッパー壁部12の両側に一直線状に形成することが好ましい。また、補強板20をロープ挿通孔14よりも支圧板6の周縁側に形成して、中央の収容壁部13と補強板20との間にロープ挿通孔14が位置するようにすることが好ましい。補強板20の高さ方向の形状は任意であるが、図9(b)のようにストッパー壁部12から離れる程高さが低くなるように形成することができ、例えば半円状とすることができる。
尚、支圧板6の周縁部に、ワイヤーロープ5を保持するためのロープガイド21を備えることも好ましい。ロープガイド21の構成や個数、位置は任意であるが、例えば、図8及び図9のように、ロープガイド21には、ワイヤーロープ5が挿通するロープ挿通孔14を有する構成とすることができる。該ロープガイド21は、支圧板6と一体的に形成してもよいし、支圧板6とは別部材の構成として溶接等により支圧板6に固定した構成としてもよい。ロープガイド21を別部材の構成とする場合、ロープガイド21を支圧板6の上面に取り付けてもよいが、ロープ挿通孔14の高さを低くするために、支圧板6の側面に外側から取り付けることが好ましい。何れにしても、ロープ挿通孔14がベース部11の上面よりも高くなるように、ベース部11の上面からロープガイド21が上方に突出する構成とする。また、ロープガイド21のロープ挿通孔14は、図9(b)のようにストッパー壁部12のロープ挿通孔14よりも低い位置、即ち、ベース部11の上面に近い位置に形成しておくことが好ましい。そして、ロープガイド21のロープ挿通孔14にワイヤーロープ5を挿通することにより、支圧板6の周縁部においてワイヤーロープ5を低い高さに保持することができる。このようにワイヤーロープ5を支圧板6の周縁部において低い高さに保持すると、ワイヤーロープ5の支圧板6からの浮き上がりを支圧板6の周縁部において抑制することができて、斜面2の表面2aにワイヤーロープ5を接近させることができ、斜面2の滑りや崩壊をより一層効果的に抑制することができる。従って、支圧板6の周縁部の対向する二箇所にロープガイド21をそれぞれ設けて、支圧板6の周縁部の対向する二箇所においてワイヤーロープ5の浮上を抑制することが好ましい。尚、図9(a)のように、平面視においてストッパー壁部12のロープ挿通孔14とロープガイド21のロープ挿通孔14とは一直線状に配置されることが好ましい。
尚、ナット7の構成も種々のものであってよく、上述したようなナット部7aと押圧部7bとからなる構成の他、図8のように、押圧部7bの下側に筒状のシース部7cが一体的に形成された構成であってもよい。このようにシース部7cを押圧部7bの下側に延設することにより、シース部7cを削孔3の注入材4まで到達させることができ、斜面2の表面2a付近の補強材1の部分がシース部7cで保護されて補強材1の腐食をシース部7cでより一層確実に防ぐことができる。尚、シース部7cの内周面には補強材1と螺合する雌ネジ部を形成しないようにしておくことが好ましい。
また、ロープガイド21の構成は種々のものであってよく、例えば、図10のようなU字ボルト22を使用する構成としてもよい。図10(a)のように支圧板6のベース部11の周縁部に、U字ボルト22の両端部を挿通するための孔23を二個ワンセットで形成しておく。そして、図10(b)のようにその孔にU字ボルト22の両端部を上方から差し込み、ベース部11の下側においてU字ボルト22の両端部にナット24を螺着してU字ボルト22をベース部11に締結固定する。このようにベース部11にU字ボルト22を固定することにより、U字ボルト22とベース部11の上面との間の空間がロープ挿通孔14となり、そこにワイヤーロープ5を挿通させることができる。ワイヤーロープ5はU字ボルト22によって低い高さに保持されてベース部11からの浮上が抑制される。その他、ロープガイド21を例えばフック状とする等、種々の構成であってよい。
また、図10(a)のように支圧板6を円形としてもよく、その形状も任意である。
また更に、支圧板6の中央部近傍におけるロープ挿通孔14の近傍に鍔部材15を位置させるのではなく支圧板6の周縁部におけるロープ挿通孔14の近傍に鍔部材15を位置させる構成としてもよい。例えば、図11及び図12に示しているように、支圧板6のベース部11の中央部に円錐台形状の山部30が膨出形成され、該山部30の中央に貫通孔10が形成された構成とする。また、貫通孔10の開口縁部には、上述したワッシャ8の傾斜面に相当する傾斜面が一体的に形成されている。即ち、この実施形態ではワッシャ8が支圧板6と別部材の構成ではなく一体となった構成であるとも言える。
そして、山部30を縦横二方向に貫通するようにロープ挿通孔14が縦横二本ずつ形成されている。尚、ロープ挿通孔14は貫通孔10と干渉しないように形成される。また、それらの山部30のロープ挿通孔14に対して一直線状の位置であってベース部11の周縁部の位置に、ロープ挿通孔14が形成されたロープガイド21が設けられている。ベース部11の縦横二方向の両端部にそれぞれ互いに間隔をあけてロープガイド21が一対ずつ設けられている。即ち、ロープガイド21は、縦横二組ずつ合計四組、八個設けられている。ワイヤーロープ5が平面視において一直線状になるように、両端部のロープガイド21のロープ挿通孔14と山部30のロープ挿通孔14にそれぞれ挿通されている。尚、縦ワイヤーロープ5aと横ワイヤーロープ5bが山部30において交差することになるため、縦ワイヤーロープ5aが挿通するロープ挿通孔14と横ワイヤーロープ5bが挿通するロープ挿通孔14との高さを互いに異なるようにしている。但し、ロープガイド21の高さ及びそのロープ挿通孔14の高さについては縦横共に同じ高さとすることが好ましい。
この実施形態において中央部近傍のロープ挿通孔14は山部30のロープ挿通孔14であり、上述のものと同様に山部30のロープ挿通孔14の近傍に鍔部材15を配置してもよいが、この実施形態ではロープガイド21のロープ挿通孔14の近傍に配置している。具体的には、ロープガイド21よりも外側に鍔部材15を位置させている。ベース部11の側面は支圧板6の外縁であるが、ロープガイド21の外側の端面がベース部11の側面と略面一となっており、ロープガイド21の外側の端面が干渉面となって鍔部材15がそこに当接してワイヤーロープ5の移動を阻止する。このように支圧板6の周縁部に設けられたロープガイド21のロープ挿通孔14の近傍に鍔部材15を配置することにより、鍔部材15のワイヤーロープ5への装着作業が容易になり、特に、ロープガイド21の外側に鍔部材15を配置することにより、装着作業において支圧板6が作業の邪魔になりにくく作業効率が向上する。また、支圧板6の周縁部においてワイヤーロープ5の高さを低く抑えることもできる。更に、ロープガイド21がベース部11の周縁部に位置していて山部30とは離間しているので、山部30とロープガイド21の間においてワイヤーロープ5が露出した状態となって上方からワイヤーロープ5を容易に視認でき、ワイヤーロープ5をロープ挿通孔14に挿通させる作業の作業性に優れている。尚、ベース部11の上面に補強板20を立設するようにすると、ベース部11の厚さが薄くても十分な強度が確保される。補強板20を設ける場合、特に、ワイヤーロープ5と略平行に設けることが好ましく、縦横二方向に設けることが好ましい。尚、山部30の形状は円錐台には限られず矩形、多角形の角錐台であってもよいし、錐台形状ではなく円柱状や角柱状等(貫通孔10が形成されているので円筒状や角筒状)であってもよい。