<本発明に係る制動制御装置を備える車両の全体構成>
図1に示すように、本発明に係る制動制御装置を備える車両には、制動操作部材BP、操作量取得手段BPA、電子制御ユニットECU、液圧発生手段EH2(又はEH1)、マスタシリンダMCL、ストロークシミュレータSSM、及び、切替手段KRKが備えられている。さらに、車両の前方車輪WH[f*]には前輪ホイールシリンダWC[f*]が備えられ、後方車輪WH[r*]には後輪ホイールシリンダWC[r*]が備えられる。液圧発生手段EH2(又はEH1)、マスタシリンダMCL、切替手段KRK、及び、前後輪ホイールシリンダWC[f*],WC[r*]は、制動配管HM[f*],HCF,HWF,HCR,HWRを介して接続されている。ここで、液圧発生手段EH2は、2つの流体室にて構成され、液圧発生手段EH1は、1つの流体室にて構成される。
各種記号の末尾に付される角括弧内の添字(例えば、[**])は、各種記号が4輪のうちで、何れのものに対応するかを表示している(以下、同様)。添字は、[fl]が「左前輪」、[fr]が「右前輪」、[rl]が「左後輪」、[rr]が「右後輪」に関するものであることを、夫々、表している。また、角括弧内の添字は、[**]が「4輪」、[f*]が「前輪」、[r*]が「後輪」についての総称を表現している。例えば、WC[**]は4輪のホイールシリンダ、WC[f*]は2つの前輪ホイールシリンダ、WC[r*]は2つの後輪ホイールシリンダ、を夫々示す。さらに、「前輪系統」は前輪に対応するもの、「後輪系統」は後輪に対応するものを表している。
制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPは、運転者が車両を減速するために操作する部材である。BPが操作されることによって、車輪WH[**](即ち、WH[f*]、及び、WH[r*])の制動トルクが調整され、車輪WH[**]に制動力が発生される。
車両の4つの各車輪WH[**]には、回転部材(例えば、ブレーキディスク、ブレーキドラム)KT[**]が固定される。また、車輪WH[**]には、ホイールシリンダWC[**]が設けられる。ホイールシリンダWC[**]内の液圧が増加されることによって、摩擦部材(例えば、ブレーキパッド、ブレーキシュー)が、回転部材KT[**]に押し付けられる。このときに生じる摩擦力によって、車輪WH[**]には、制動トルクが発生される。
制動操作部材BPには、操作量取得手段BPAが設けられる。操作量取得手段BPAによって、運転者による制動操作部材BPの操作量(制動操作量)Bpaが取得(検出)される。操作量取得手段BPAとして、マスタシリンダMCLの圧力を検出するセンサ(圧力センサ)、制動操作部材BPの操作力、及び/又は、変位量を検出するセンサ(ブレーキペダル踏力センサ、ブレーキペダル変位センサ)が採用される。従って、制動操作量Bpaは、マスタシリンダ圧、ブレーキペダル踏力、及び、ブレーキペダル変位のうちの少なくとも何れか1つに基づいて演算される。制動操作量Bpaは、電子制御ユニットECUに入力される。
電子制御ユニットECUによって、液圧発生手段EH2(又はEH1)、及び、切替手段KRKが制御される。具体的には、ECUには、液圧発生手段EH2(又はEH1)を制御するための制御手段CTLと、切替手段KRKを制御するための判定手段HNTが設けられる。液圧発生手段EH2(又はEH1)、及び、判定手段HNTは制御アルゴリズムであって、電子制御ユニットECU内のマイクロコンピュータにプログラムされている。制御手段CTLは、操作量Bpaに基づいて、液圧発生手段EH2(又はEH1)を駆動する。また、判定手段HNTは、電気モータMTRの作動状態が適正であるか、否かを判定し、その判定結果に基づいて、切替手段KRKを制御する。
液圧発生手段EH2(又はEH1)は、車体側に設けられ、電気モータMTR、動力伝達部材DDB、及び、制御シリンダCCL(加圧機構に相当)にて構成される。液圧発生手段EH2(又はEH1)では、制御手段CTLによって駆動される電気モータMTRの動力が利用されて、制御シリンダCCLに対する制動液(ブレーキフルイドともいう)の排出、又は、吸入が行われる。具体的には、電気モータMTRの回転動力が、動力伝達部材DDBによって直線動力に変換される。そして、この直線動力によって、制御シリンダCCLの内部のピストンが移動されて、制動液の移動(排出、吸入)が行われる。ここで、液圧発生手段EH2(又はEH1)を駆動する電気モータMTRは、「車体側電気モータ」、又は、「第1電気モータ」と称呼される。なお、制御シリンダCCLに代えて、電気モータMTRによって駆動される液圧ポンプ(双方向回転ポンプ)が、加圧機構として使用されてもよい。
判定手段HNTは、「第1電気モータ(車体側電気モータ)MTRの作動状態が適正か、否か(不適か)」を判定する。具体的には、判定手段HNTは、電気モータMTRへの電力供給状態、MTRを駆動する電子制御ユニットECUの作動状態、及び、MTRの制御に利用される状態量(圧力センサの検出結果、回転角Mka等)の取得状態についての適否を判定する。
判定手段HNTが、電気モータMTRの適正状態を判定する場合に、液圧発生手段EH2(又はEH1)は作動される。即ち、電気モータMTRの適正状態(通常の作動状態)において、液圧発生手段EH2(又はEH1)の制御シリンダCCLは、前後輪ホイールシリンダWC[f*],WC[r*]に連通される(内部の液体が自由に移動される)。
マスタシリンダ(ブレーキマスタシリンダともいう)MCLは、制動操作部材BPの操作力(ブレーキペダル踏力)を液圧に変換し、前輪ホイールシリンダWC[f*]に限って制動液を圧送する。即ち、マスタシリンダMCLは、前輪ホイールシリンダWC[f*]に流体配管で接続されるが、後輪ホイールシリンダWC[r*]には接続されない。従って、マスタシリンダMCLと後輪ホイールシリンダWC[r*]との間で流体配管が省略され得る。即ち、MCLとWC[r*]との間の流体配管が存在しない。
ストロークシミュレータ(単に、シミュレータともいう)SSMは、制動操作部材BPに操作力を発生させる。例えば、シミュレータSSMの内部には、ピストン、及び、弾性体(例えば、圧縮ばね)が備えられる。マスタシリンダMCLから制動液がSSMに移動され、流入する制動液によりピストンが押される。ピストンは、弾性体によって制動液の流入を阻止する方向に力が加えられる。弾性体によって、制動操作部材BPが操作される場合の操作力(例えば、ブレーキペダル踏力)が形成される。
判定手段HNTでの判定結果に基づいて、切替手段KRKによって、マスタシリンダMCL、及び、制御シリンダCCLのうちでどちらか一方が、少なくとも前輪ホイールシリンダWC[f*]に連通(接続)される。判定結果が「適正状態」であるときには、制御シリンダCCLが、前輪及び後輪ホイールシリンダWC[f*],WC[r*]に連通される。このとき、マスタシリンダMCLは、シミュレータSSMに連通される。一方、判定結果が「不適状態」であるときには、制御シリンダCCLと前後輪ホイールシリンダWC[f*],WC[r*]との連通が遮断され、マスタシリンダMCLは前輪ホイールシリンダWC[f*]に限って連通される。換言すれば、切替手段KRKによって、前輪ホイールシリンダWC[f*]への制動液の供給元(マスタシリンダMCL、及び、制御シリンダCCLのうちのいずれか一方)が選択される。前後輪WH[f*],WH[r*]に設けられる各々のホイールシリンダWC[f*],WC[r*]、マスタ及び制御の各シリンダMCL,CCL、及び、ストロークシミュレータSSMの間の流体経路における連通状態は、切替手段KRKによって切り替えられる(選択される)。
判定手段HNTが適正状態を判定する場合には、制動操作部材BPの操作特性(ストロークと操作力との関係)は、シミュレータSSM(特に、そのばね特性)によって決定される。一方、判定手段HNTが不適状態を判定する場合には、制動操作部材BPの操作特性は、前輪ホイールシリンダWC[f*]を含む制動手段の剛性によって決定される。ここで、該制動手段としては、ブレーキキャリパ(ディスクブレーキ)、及び、ドラムブレーキのうちの少なくとも1つが採用されている。
切替手段KRKは、前輪ホイールシリンダ用の切替手段(前輪切替手段)KRF、後輪ホイールシリンダ用の切替手段(後輪切替手段)KRR、及び、ストロークシミュレータ用の切替手段(シミュレータ切替手段)CSSにて構成される。具体的には、前輪切替手段KRFは、配管HM[f*]にてマスタシリンダMCLに接続され、配管HCFにて制御シリンダCCLに接続され、配管HWFにてホイールシリンダWC[f*]に接続される。そして、前輪切替手段KRFは、配管HWFと配管HCFとが連通される状態、及び、配管HWFと配管HM[f*]とが連通される状態のうちの1つの状態を選択する。また、後輪切替手段KRRは、配管HCRにて制御シリンダCCLに接続され、配管HWRにてホイールシリンダWC[r*]に接続される。ここで、切替手段KRRは、流体配管を介して、マスタシリンダMCLには接続されていない。後輪切替手段KRRは、配管HWRと配管HCRとが連通される状態、及び、配管HWRが締め切られている状態(プラグによってフタをされている状態)のうちの1つの状態を選択する。シミュレータ切替手段CSSは、配管HMSにてマスタシリンダMCLに接続され、配管SSMにてストロークシミュレータSSMに接続される。シミュレータ切替手段CSSは、配管HMSと配管HSSとが連通される状態、及び、配管HMSが締め切られている状態(プラグによってフタをされている状態)のうちの1つの状態を選択する。
前後輪WH[f*],WH[r*]に備えられるホイールシリンダWC[f*],WC[r*]の液圧が増加される場合における、制動液の移動(圧送)についてまとめる。電子制御ユニットECU内の判定手段HNTが、第1電気モータMTRの適正状態を判定する場合には、前輪WH[f*]では、「CCL→HCF→KRK(KRF)→HWF→WC[f*]」の順で制動液が移動され、後輪WH[r*]では、「CCL→HCR→KRK(KRR)→HWR→WC[r*]」の順で制動液が移動される。一方、判定手段HNTが、第1電気モータMTRの不適状態を判定する場合(適正状態が否定される場合)には、前輪WH[f*]では、「MCL→HM[f*]→KRK(KRF)→HWF→WC[f*]」の順で制動液が移動されるが、後輪WH[r*]のホイールシリンダWC[r*]に対しては、制動液は移動されない。このため、後輪配管HWR、及び、後輪ホイールシリンダWC[r*]の剛性による消費液量がゼロとなるため、マスタシリンダMCLの制動液が、効率的に利用され得る。この結果、マスタシリンダMCLの内径が小とされ、効果的に制動トルクが発生され得る。
ここで、消費液量は、制動トルクが発生されるために、直接的、間接的に消費される制動液の量(体積)である。例えば、車輪の制動装置として、ディスクブレーキが採用される場合、制動トルクはブレーキパッドがブレーキディスクを押す力(押圧力)によって発生される。この押圧力の増加に伴ってキャリパの変形が大となり、該変形に伴って、ホイールシリンダ(キャリパシリンダ)内に必要な液量が増加する。また、制動液量は、圧力増加に伴う流体配管(特に、車体側と車輪側とを接続するフレキシブル配管)の膨張にも消費される。さらに、制動トルクの増加が開始される前に、ブレーキパッドとブレーキディスクとの隙間を詰めるためにも、液量は消費される。通常、この隙間は、シール部材の弾性変形量によって維持されるが、急旋回、凹凸が大である路面の走行、或いは、ブレーキパッドの偏摩耗(不均一な摩耗)、ブレーキディスクの振れ等によって、この隙間が増加され得る。この場合には、さらに消費液量は増加される。
車両への搭載性を考慮すると、マスタシリンダMCLの長手方向(軸方向)の寸法と、液圧発生手段EH1,EH2の長手方向の寸法とが概ね一致され、一体型として制動制御装置が構成されることが望ましい。しかし、液圧発生手段EH1,EH2では、制御シリンダCCLが第1電気モータMTRによって駆動されるため、回転・直動変換機構(例えば、ねじ部材NJB)が、CCLの端部に設けられることが必須の要件となる。従って、制動制御装置の一体化構造を達成するためには、回転・直動変換機構の長手方向の寸法が加味されて、液圧発生手段EH1,EH2の長手方向のサイズが短縮される必要がある。また、不適判定時に、制動操作部材BPの操作力を適切に維持するためには、マスタシリンダMCLからの制動液の排出量が十分に確保された上で、MCLの受圧面積に対する前輪ホイールシリンダWC[f*]の受圧面積の比率が大きく設定される必要がある。
液圧発生手段EH2(又はEH1)は、第1電気モータMTR、動力伝達部材DDB(NJB、及び、GSK)、及び、制御シリンダCCLにて構成される。各構成要素の配置において、制御シリンダCCLの中心軸Jccと、第1電気モータMTRの回転軸Jmtとは、互いに平行であって、別個の軸(2軸で形成される構成)とされ、減速機GSKに対して、制御シリンダCCLと第1電気モータMTRとが同じ側に配置され得る。この2軸配置によって、制御シリンダCCLと第1電気モータMTRとが同軸(1軸配置)にされる場合に比較して、長手方向(軸方向)のサイズが小型化され得る。長手方向の小型化の必要性は、車両への搭載性、及び、衝突安全の向上に因る。
制御シリンダCCLの内径φDcc(即ち、CCL内のピストンの受圧面積)が、マスタシリンダMCLの内径φDmc(即ち、MCL内のピストンの受圧面積)よりも大きく設定され得る。さらに、制御シリンダCCLの中心軸方向Jccの長さ(長手方向寸法)が、マスタシリンダMCLの中心軸方向Jmcの長さ(長手方向寸法)よりも短く設定され得る。
減速機GSKに対する制御シリンダCCL、第1電気モータMTRの配置(同一側への配置)、制御シリンダCCLの内径φDccとマスタシリンダMCLの内径φDmcとの大小関係(φDcc>φDmc)、及び、制御シリンダCCLの長さとマスタシリンダMCLの長さとの大小関係のうちで、少なくとも1つが採用されることによって、液圧発生手段EH1,EH2の長手方向の寸法が、マスタシリンダMCLの長手方向の寸法に比較して、より短縮され得る。この結果、マスタシリンダMCLと、液圧発生手段EH1,EH2との長手方向の寸法が概ね一致され、車両への搭載性が向上され得る。加えて、第1電気モータMTRの不適判定時において、必要最低限の操作力によって、車両の制動トルクが確保され得る。
制御シリンダCCLは、複数回の制動操作に必要な制動液量を賄い得る。これは、運転者が制動操作中に、制動操作部材BPを急に戻した後に、再度、急に踏み込む場合に対応するためである。従って、制御シリンダCCLの容積Vccが、マスタシリンダMCLの容積Vmcよりも大きく設定され得る。ここで、「シリンダの容積」は、シリンダに入り得る液体の体積であって、制動液圧が生じていない場合における、CCL、MCLの内部に含まれる制動液の体積である。
さらに、上記の構成において、後輪WH[r*]における流体経路が省略され得る。具体的には、後輪系統の流体配管HCR,HWR、切替手段KRR、及び、ホイールシリンダWC[r*]が省略され得る。この場合、後輪WH[r*]の制動トルクは、電動制動手段(後述する制動液を利用しない制動手段DS[r*])によって付与される。この場合においても、上記と同様の効果を奏する。
<第1の実施形態>
次に、図2の流体回路図を参照して、本発明の第1の実施形態について説明する。第1の実施形態では、制動液(ブレーキフルイド)が、液圧発生手段EH2から前輪ホイールシリンダWC[f*](WC[fl]、WC[fr])、及び、後輪ホイールシリンダWC[r*](WC[rl]、WC[rr])に供給される。図2の構成は、所謂、ダイアゴナル配管を示している。
図1の場合と同様に、各種記号の末尾に付される角括弧内の添字(例えば、[**])は、各種記号が4輪のうちで、何れのものに対応するかを表示し、[fl]が「左前輪」、[fr]が「右前輪」、[rl]が「左後輪」、[rr]が「右後輪」に関するものであることを、夫々、表している。また、角括弧内の添字は、[**]が「4輪」、[f*]が「前輪」、[r*]が「後輪」についての総称を表現している。例えば、WC[**]は4輪のホイールシリンダ、WC[f*]は前2輪ホイールシリンダ、WC[r*]は後2輪ホイールシリンダ、を夫々示す。さらに、「前輪系統」は前輪に対応するもの、「後輪系統」は後輪に対応するものを表している。
図1に示すものと同一の記号を付された部材(構成要素であって、例えば、MCL)は、夫々が対応しており、同一の機能を有する(以下、同様)。切替手段KRF,KRRは、電磁弁VC1,VC2,MC[fl],MC[fr]に対応している。また、流体配管において、配管HCF,HCRが配管HC1,HC2、配管HWF,HWRが配管HV1,HV2,HW[**]に対応している。
制動操作部材(ブレーキペダル)BPの操作量Bpaを取得する操作量取得手段BPAが設けられる。制動操作量Bpaは、電子制御ユニットECUに送信される。電子制御ユニットECUにて、制動操作量Bpaに基づいて、液圧発生手段EH2を駆動する第1電気モータMTR、及び、各電磁弁(VC1等)が制御される。
〔流体配管を介した各構成要素の接続状態〕
先ず、各構成要素が、流体配管によって接続される状態について説明する。ここで、流体配管の接続状態は、各機械部品(電磁弁、配管等)の接続を表すもので、電磁弁の開閉による流体的な接続(連通、又は、非連通)を表現するものではない。なお、「連通」は、複数の部材内部の流体が、互いに自由に移動できる状態を表し、「非連通」は、この流体移動が不可である状態を指す。
車両の減速、又は、停止状態を維持するために運転者によって操作される制動操作部材(ブレーキペダル)BPが、プッシュロッドPRDを介して、マスタシリンダMCL内のピストンMP1に接続される。制動液が補充され得るように、マスタシリンダMCLはリザーバRSVに接続される。マスタシリンダMCLは、配管HM[f*]を介して、電磁弁MC[f*](遮断弁とも称呼する)に接続される。電磁弁MC[f*]は、配管HV[f*]、及び、配管HW[f*]を介して、ホイールシリンダWC[f*]に接続される。即ち、マスタシリンダMCLは、HM[f*]、MC[f*]、HV[f*]、及び、HW[f*]を介して、ホイールシリンダWC[f*]に接続される。また、マスタシリンダMCLは、電磁弁CSSを介して、ストロークシミュレータSSMに接続される。
電気モータMTRによって駆動される制御シリンダCCLは、リザーバRSVに接続される。制御シリンダCCLは、配管HC1,HC2を介して、電磁弁VC1,VC2(導入弁とも称呼される)に接続される。VC1,VC2は、配管HV1,HV2を介して、電磁弁EN[**](増圧弁とも称呼される)に接続される。そして、電磁弁EN[**]は、配管HW[**]を介して、ホイールシリンダWC[**]に接続される。即ち、制御シリンダCCLは、配管HC1,HC2、導入弁VC1,VC2、配管HV1,HV2、増圧弁EN[**]、及び、配管HW[**]を介して、ホイールシリンダWC[**]に接続される。また、ホイールシリンダWC[**]は、配管HW[**]、及び、電磁弁OT[**](減圧弁とも称呼される)を介して、RSVに接続される。
マスタシリンダMCLによって発生される圧力を検出するために、液圧取得手段(圧力センサ)PM[f*]が、マスタシリンダMCLから電磁弁MC[f*]に到る流体経路内に設けられる。また、制御シリンダCCLによって発生される圧力を検出するために、液圧取得手段(圧力センサ)PC1,PC2が、制御シリンダCCLからホイールシリンダWC[**]に到る流体経路内に設けられる。さらに、ホイールシリンダWC[**]の圧力を検出する液圧取得手段(圧力センサ)PW[**]が、各車輪のWC[**]に設けられ得る。
〔各電磁弁の機能と作動〕
各電磁弁(MC[f*]等)の機能(役割)と、その作動について説明する。遮断弁(電磁弁)MC[f*]は、マスタシリンダMCLとホイールシリンダWC[f*]との連通と非連通とを切り替える。電磁弁MC[f*]としては、常時開型(NO弁ともいう)であって、非通電時に開位置、且つ、通電時に閉位置にされるものが採用される。導入弁(電磁弁)VC1,VC2は、制御シリンダCCLと、各車輪のホイールシリンダWC[**]との連通と非連通とを切り替える。VC1,VC2としては、常時閉型(NC弁ともいう)であって、非通電時に閉位置、且つ、通電時に開位置にされるものが採用される。
増圧弁(電磁弁)EN[**]、及び、減圧弁(電磁弁)OT[**]は、アンチスキッド制御、トラクション制御、又は、車両安定化制御が実行される場合に、各ホイールシリンダWC[**]の液圧を個別、且つ、独立に調整するために用いられる。具体的には、上記の各制御によってホイールシリンダWC[**]の液圧を増加するためには、電磁弁EN[**]が開位置にされるとともに、電磁弁OT[**]が閉位置にされて、制御シリンダCCLから制動液がホイールシリンダWC[**]に向けて移動される。一方、上記制御によってホイールシリンダWC[**]の液圧を減少するためには、電磁弁EN[**]が閉位置にされるとともに、電磁弁OT[**]が開位置にされて、ホイールシリンダWC[**]の制動液がリザーバRSVに移動される。ここで、増圧弁EN[**]として常時開(ノーマルオープン)型、減圧弁OT[**]として常時閉(ノーマルクローズ)型の電磁弁が採用される。また、電磁弁EN[**]、及び、電磁弁OT[**]のうちで少なくとも一方に、電磁比例弁が採用され得る。電磁比例弁の採用によって、ホイールシリンダWC[**]の液圧が、開位置、又は、閉位置に対応する値に調整されるだけでなく、それらの間で連続的に調整され得る。
〔適正判定時の連通状態〕
次に、判定手段HNTが「電気モータMTRの適正状態」を判定している場合(適正判定時とも称呼される)について説明する。この場合には、導入弁VC1,VC2、及び、増圧弁EN[**]が開位置(連通状態)にされ、遮断弁MC[f*]、及び、減圧弁OT[**]が閉位置(非連通状態)にされる。従って、ホイールシリンダWC[**]は、電磁弁VC1,VC2、及び、EN[**]を介して、液圧発生手段EH2の制御シリンダCCLに連通されている。一方、遮断弁MC[f*]によって、ホイールシリンダWC[f*]とマスタシリンダMCLと間の連通が遮断されているとともに、減圧弁OT[**]によって、ホイールシリンダWC[**]とリザーバRSVと間の連通が遮断されている。即ち、制御シリンダCCL内でピストンが移動され、CCL内の流体室の体積が減少されることによって、制動液がCCLからホイールシリンダWC[**]に向けて排出される。制動液は、「CCL→HC1,HC2→VC1,VC2→HV1,HV2→EN[**]→HW[**]→WC[**]」の順で移動される。WC[**]の液圧が増加されることによって、摩擦部材(例えば、ブレーキパッド)が回転部材(例えば、ブレーキディスク)KT[**]を押圧する力が増加し、車輪WH[**]の制動トルクが増加される。一方、車輪WH[**]の制動トルクが減少される場合には、制動液が、「WC[**]→HW[**]→EN[**]→HV1,HV2→VC1,VC2→HC1,HC2→CCL」の順(制動トルクが増加される場合とは逆方向)で、ホイールシリンダWC[**]から制御シリンダCCLに戻される。WC[**]の液圧が減少され、回転部材KT[**]に摩擦部材を押圧する力が減少される。即ち、制御シリンダCCLの容積が調整されることによって、車輪に付与される制動トルクが制御される。なお、車輪WH[**]に制動トルクが付与されない場合(例えば、運転者がBPを操作していない場合)には、制御シリンダCCLとリザーバRSVとは流体配管HRVを介して連通されている。
さらに、適正判定時には、電磁弁CSSが開位置(連通状態)にされ、マスタシリンダMCLはストロークシミュレータ(単に、シミュレータともいう)SSMに流体的に接続される(連通される)。シミュレータSSMの内部には弾性体(例えば、圧縮ばね)が備えられる。この弾性体によって、制動操作部材BPが操作される場合の操作力(例えば、ブレーキペダル踏力)が形成される。
〔不適判定時の連通状態〕
判定手段HNTが「電気モータMTRの不適状態」を判定している場合(不適判定時とも称呼される)には、導入弁VC1,VC2、及び、減圧弁OT[**]が閉位置(非連通状態)にされ、遮断弁MC[f*]が閉位置(非連通状態)にされる。このとき、増圧弁EN[**]は、閉位置にされてもよいが、開位置のままでもよい。ホイールシリンダWC[f*]は、電磁弁MC[f*]を介して、マスタシリンダMCLに連通されている。一方、導入弁VC1,VC2によって、ホイールシリンダWC[f*]と制御シリンダCCLと間の連通が遮断されているとともに、減圧弁OT[**]によって、ホイールシリンダWC[f*]とリザーバRSVと間の連通が遮断されている。即ち、マスタシリンダMCL内でピストンMP1,MP2が移動され、マスタシリンダMCL内の流体室Rm1,Rm2の体積が減少されることによって、制動液がマスタシリンダMCLから前輪ホイールシリンダWC[f*]に向けて排出される。
マスタシリンダMCLは、所謂、タンデムマスタシリンダであって、その内部で、ピストンMP1,MP2よって、2つの流体室Rm1,Rm2に区画されている。これらの流体室は、制動操作部材BPの操作が行われていない場合には、リザーバRSVに、リリーフポートを通して連通されている。制動操作部材BPに操作力が加えられると、プッシュロッドPRDを介して、マスタシリンダMCL内のマスタピストンMP1,MP2が移動される。マスタピストンMP1,MP2の外周部にはカップ(液圧を保持するためのカップ状のゴムシール)が設けられ、このカップによってリリーフポートが塞がれて、流体室Rm1,Rm2とリザーバRSVとの連通が妨げられ、制動液がRm1,Rm2から前輪ホイールシリンダWC[f*]に向けて圧送される。
制動液は、「MCL→HM[f*]→MC[f*]→HV[f*]→HW[f*]→WC[f*]」の順で移動される。そして、WC[f*]の液圧増加によって、摩擦部材の回転部材KT[f*]に対する押圧力が増加され、前輪WH[f*]の制動トルクが増加される。一方、前輪WH[f*]の制動トルクが減少される場合には、制動液が、「WC[f*]→HW[f*]→HV[f*]→MC[f*]→HM[f*]→MCL」の順(制動トルクが増加される場合とは逆方向)で、前輪ホイールシリンダWC[f*]からマスタシリンダMCLに戻される。なお、後輪ホイールシリンダWC[r*]は、マスタシリンダMCLとは流体配管が接続されていない(MCLとWC[r*]とを結ぶ流体配管が存在しない)ため、後輪WH[r*]の制動トルクは、不適判定時には付与されない。
さらに、不適判定時には、電磁弁CSSが閉位置(非連通状態)にされ、マスタシリンダMCLとシミュレータSSMとの連通は遮断される。従って、制動操作部材BPが操作される場合の操作力(ペダル踏力)は、マスタシリンダMCLから前輪ホイールシリンダWC[f*]に到る流体経路の剛性に依存して形成される。
第1の実施形態においては、適正判定時には、ホイールシリンダWC[**]の液圧は、電気モータMTRによって駆動される液圧発生手段EH2(即ち、加圧機構である制御シリンダCCL)によって調整される。一方、マスタシリンダMCLは、後輪ホイールシリンダWC[r*]とは流体配管で接続されていないため、不適判定時には、後輪ホイールシリンダWC[r*]の液圧は増加されず、前輪ホイールシリンダWC[f*]の液圧に限って調整が可能とされ得る。
マスタシリンダMCLは、運転者によって操作されるように、車両の前部に設けられる。従って、マスタシリンダMCLから車両後方に設けられる後輪ホイールシリンダWC[r*]までの配管長さは、相対的に長くなり、流体配管の膨張に起因する消費液量が大きい。また、車両の前後における車輪荷重、及び、車両減速時における車輪荷重の変化のため、車両全体に作用する制動力においては、前輪の貢献度合は、後輪の貢献度合よりも、極めて大きい。以上の点から、運転者の操作力のみによって車輪に制動トルクを付与する不適判定時において、上記の構成によって、制動トルク付与には直接寄与しない消費液量が低減され、上述した「無効変位」が小さくなり得る。さらに、消費液量が低減され得るため、マスタシリンダMCLの断面積に対する後輪ホイールシリンダWC[f*]の断面積の割合(比率)が相対的に大きく設定され、運転者の操作力が低減され得る。加えて、不適判定時には、その不適状態の種類にかかわらず、制動操作特性(制動操作部材における変位と操作力との関係)は、1つの特性に限られる。従って、運転者が違和感を覚え難くなる。
第1の実施形態では、1つの液圧発生手段EH2(即ち、1つの制御シリンダCCL)によって、4つの車輪WH[**]に設けられるホイールシリンダWC[**]に制動液が供給される。1つのマスタシリンダMCLによって、車両前方の2つの車輪WH[f*]に設けられるホイールシリンダWC[f*]に限って制動液が供給される。さらに、運転者によって制動操作部材BPの急操作(踏み込みと戻し)が繰り返される場合への対応が考慮されて、CCL及びMCLの容積(液圧がゼロの場合に、内部に収容し得る制動液量)が決定される。従って、制御シリンダCCLの容積Vccが、マスタシリンダMCLの容積Vmcよりも大きく設定される。このため、制動制御装置が小型化され得る。
第1の実施形態について、ダイナゴナル配管を例に説明したが、流体配管の構成として、前後配管が採用され得る。前後配管の構成においても、適正判定時には、制御シリンダCCLと4輪のホイールシリンダWC[**]が連通状態とされ、マスタシリンダMCLとホイールシリンダWC[**]との連通は遮断されている。一方、不適判定時には、制御シリンダCCLとホイールシリンダWC[**]との連通は遮断され、マスタシリンダMCLは前輪ホイールシリンダWC[f*]のみに連通される。従って、上記と同様の効果を奏する。
<2つの流体室Rc1,Rc2にて構成される液圧発生手段EH2>
次に、図3の部分断面図を参照して、2つの流体室にて構成される液圧発生手段EH2について説明する。液圧発生手段EH2は、制動操作量Bpaに基づいて、ホイールシリンダWC[**]の液圧を調整する。液圧発生手段EH2は、車体側に設けられ、電気モータ(第1の電気モータ)MTR、動力伝達部材DDB、制御シリンダCCL、制御ピストンCP1,CP2、及び、ばねSP1,SP2にて構成される。
電気モータMTRは、車体側に設けられるため、「車体側電気モータ(第1電気モータに相当)」とも称呼される。車体側電気モータMTRは、電子制御ユニットECUによって制御され、4輪の各ホイールシリンダWC[**]の液圧を調整するための動力を発生する。車体側電気モータMTRとして、ブラシ付モータ、又は、ブラシレスモータが採用され得る。電気モータMTRには、ステータ(固定子)に対するロータ(回転子)の位置(回転角)Mkaを取得する回転角取得手段MKAが設けられる。なお、電気モータMTRの回転方向において、正転方向が、ホイールシリンダWC[**]の液圧が増加する方向(即ち、制動トルクが増加する方向)に相当し、逆転方向が、ホイールシリンダWC[**]の液圧が減少する方向(即ち、制動トルクが減少する方向)に相当する。
動力伝達部材DDBは、電気モータMTRの出力(回転動力)を制御ピストンCP1,CP2の直線動力に変換して伝達する。動力伝達部材DDBは、減速機GSK、及び、ねじ部材NJBにて構成される。減速機GSKは、電気モータMTRの動力において、回転速度を減じて、ねじ部材NJBに出力する。即ち、電気モータMTRの回転出力(トルク)が、減速機GSKの減速比に応じて増加され、ねじ部材NJBに回転力(トルク)として伝達される。例えば、減速機GSKは、小径歯車SKH、及び、大径歯車DKHにて構成される。
減速機GSKとして、歯車伝達機構に代えて、ベルトを用いた巻き掛け伝達機構が採用され得る。この場合、大径歯車DKH、小径歯車SKHに代えて、大径プーリ、小径プーリの組が採用される。ベルト伝達機構の採用によって、2つの軸間の距離が拡大されるとともに、減速比が大きく設定され得る。この結果、MTRとして、高回転・小トルク型の電気モータが採用され、装置が小型化され得る。加えて、歯車の歯打ち音等が回避され、装置の静粛性が向上され得る。
ねじ部材NJBは、回転動力を、直線動力に変換する部材(回転・直動変換機構)である。ねじ部材NJBは、ナット部材NUT、及び、ボルト部材BLTにて構成される。ボルト部材BLTは、大径歯車DKHに同軸(軸Jcc)で固定されている。ナット部材NUTの外周部、及び、制御シリンダCCLの内周部には、キー溝が形成される。キー部材KYBが、キー溝に嵌合されることによって、ナット部材NUTは、中心軸Jccまわりの回転運動は制限されるが、中心軸Jccの方向(キー溝の長手方向)の直線運動は許容される。ナット部材NUTの直線運動によって、制御ピストンCP1,CP2が移動される。
ねじ部材NJBには、可逆性があり(逆効率をもつ)、双方向に動力伝達が可能である。即ち、ホイールシリンダWC[**]内の圧力が増加される場合(制動トルクが増加される場合)、ねじ部材NJBを通して、電気モータMTRからピストンCP1,CP2へ動力が伝達される。逆に、ホイールシリンダWC[**]内の圧力が減少される場合(制動トルクが減少される場合)、ねじ部材NJBを介して、ピストンCP1,CP2から電気モータMTRへ動力が伝達される(このとき、逆効率が「0」よりも大きい)。
ねじ部材NJBは、「滑り」によって動力伝達が行われる滑りねじ(台形ねじ等)によって構成される。この場合には、ナット部材NUTには、めねじ(内側ねじ)MNJが設けられる。ボルト部材BLTには、おねじ(外側ねじ)ONJが設けられ、NUTのMNJと螺合される。シャフト部材SFTから伝達された回転動力(トルク)は、ねじ部材NJB(ONJとMNJ)を介して、ピストンCP1,CP2の直線動力(推力)として伝達される。滑りねじに代えて、ねじ部材NJBには、「転がり」によって動力伝達が行われる転がりねじ(ボールねじ等)が採用され得る。この場合、ナット部材、及び、ボルト部材には、ボール溝が設けられる。このボール溝にはめ合わされるボール(鋼球)を介して、動力伝達が行われる。
動力伝達部材DDBの回転・直動変換機構として、ねじ部材NJBに代えて、ボールランプ部材、回転クサビ部材、ラック&ピニオン部材等の変換機構が採用され得る。
マスタシリンダ(タンデムマスタシリンダ)MCLの構造と同様に、制御シリンダCCLの内部は、制御ピストンCP1,CP2よって、2つの流体室Rc1,Rc2に区画されている。これらの流体室Rc1,Rc2は、制動トルクの発生が不要である場合(例えば、BPの非操作時)には、リリーフポートPE1,PE2、及び、流体配管HRVを通して、リザーバRSVに連通されている。
制動トルクが増加される場合には、車体側電気モータMTRが正転方向に駆動されることによって、ナット部材NUTが、ピストンCP1を押し、CP1が白抜き矢印の方向に移動される。さらに、ばねSP1を介して、ピストンCP2が押され、移動される。ピストンCP1,CP2の外周部にはカップ(制御シリンダCCLの内周部と接触して、液圧を保持するためのカップ状のゴムシール)GC1,GC2が設けられる。制御シリンダCCL内にて制御ピストンCP1,CP2が移動されるに伴って、カップGC1,GC2によってリリーフポートPE1,PE2が塞がれて、流体室Rc1,Rc2とリザーバRSVとの連通状態が妨げられる(非連通状態となる)。さらに、ピストンCP1,CP2が移動されると、流体室Rc1,Rc2の体積が減少され、制動液(ブレーキフルイド)が、流体室Rc1,Rc2から、4輪のホイールシリンダWC[**]に向けて排出され、ホイールシリンダWC[**]の液圧が増加される。即ち、流体室Rc1,Rc2の出力ポートPO1,PO2から、流体配管HC1,HC2に、制動液が圧送される。
制動トルクが減少される場合には、車体側電気モータMTRが逆転方向に駆動され、制御ピストンCP1,CP2が元の位置(Rc1、Rc2がRSVと連通される位置)に向けて戻される。ピストンCP1,CP2の移動によって、流体室Rc1,Rc2の体積が増加され、制動液がホイールシリンダWC[**]から制御シリンダCCLに戻され、ホイールシリンダWC[**]の液圧が減少される。
液圧発生手段EH2の構成において、制御シリンダCCLの中心軸(即ち、NJB、及び、DKHの回転軸)Jccと、電気モータMTRの回転軸(即ち、SKHの回転軸)Jmtとが、互いに平行であって、別々の軸とされ得る。そして、減速機GSKに対して、流体室Rc1,Rc2(即ち、制御シリンダCCL)が電気モータMTRと同じ側に配置される。軸Jccと軸Jmtとが同軸で構成される場合、液圧発生手段EH2は軸方向に長くなる。同様に、JccとJmtとが別軸とされる構成であっても、減速機GSKに対して、流体室Rc1,Rc2と電気モータMTRとが異なる側に配置される場合には、液圧発生手段EH2は軸方向に長くなる。制御シリンダの中心軸Jccと電気モータの回転軸Jmtとが平行であって、異なる軸として配置され、制御シリンダCCLと電気モータMTRとが減速機GSKに対して同一側に置かれることによって、液圧発生手段EH2の軸方向の長さ(長手方向の寸法)が短縮され得る。
<電子制御ユニットECUにおける処理>
次に、図4の機能ブロック図を参照して、電子制御ユニットECUでの処理について説明する。
車両には、制動操作部材BP、電源BAT(蓄電池),ALT(発電機)、及び、電子制御ユニットECUが備えられる。蓄電池BAT、及び、発電機ALTが、総称して「電力源(電源)」と称呼される。電子制御ユニットECUは、電力線(パワー線)PWLを介して、電力源(BAT等)から電力供給を受け、液圧発生手段EH2の電気モータMTR、及び、切替手段KRK(MC[f*]等)を制御する。電子制御ユニットECUにおける処理は、制御手段(制御処理ブロック)CTL、及び、判定手段(判定処理ブロック)HNTにて構成される。
制御処理ブロックCTL(制御手段に相当)は、アンチスキッド制御ブロックABS、トラクション制御ブロックTCS、車両安定化制御ブロックESC、指示液圧演算ブロックPWS、目標通電量演算ブロックIMT、電気モータ制御ブロックDRV、及び、電磁弁制御ブロックSOLにて構成される。制御手段CTLは、制御アルゴリズム、電気モータMTRの駆動回路、及び、電磁弁(VC1等)の駆動回路にて構成される。なお、制御アルゴリズムは、ECU内のマイクロコンピュータにプログラムされている。
アンチスキッド制御ブロックABSでは、各車輪に設けられる車輪速度取得手段VWAの取得結果(車輪速度Vwa)に基づいて、公知のアンチスキッド制御(Anti-skid Control)を実行するための目標押圧力Fabsが演算される。即ち、アンチスキッド制御用の目標押圧力Fabsは、車輪ロックを防止するための押圧力の目標値である。ここで、「押圧力」とは、摩擦部材(例えば、ブレーキパッド、ブレーキシュー)が、回転部材(例えば、ブレーキディスク、ブレーキドラム)を押圧する力である。従って、押圧力は、ホイールシリンダWC[**]の液圧に相当する(「押圧力」=「WC[**]の受圧面積」×「WC[**]の液圧」)。
同様に、トラクション制御ブロックTCSでは、車輪速度取得手段VWAの取得結果(車輪速度Vwa)に基づいて、公知のトラクション制御(Traction Control)を実行するための目標押圧力Ftcsが演算される。即ち、トラクション制御用の目標押圧力Ftcsは、車輪スピン(過回転)を抑制するための押圧力(液圧に相当)の目標値である。
さらに、車両安定化制御ブロックESCでは、車両挙動取得手段(ヨーレイトセンサYRA、横加速センサGYA)の取得結果(ヨーレイトYra、横加速度Gya)に基づいて、公知の車両安定化制御(Electronic Stability Control)を実行するための目標押圧力Fescが演算される。即ち、車両安定化制御用の目標押圧力Fescは、過度な車両のアンダステア、及び/又は、オーバステアを抑制するための押圧力(液圧に相当)の目標値である。
指示液圧演算ブロックPWSでは、制動操作量Bpa、及び、演算特性(演算マップ)CHpwに基づいて、指示液圧Pwsが演算される。ここで、指示液圧Pwsは、液圧発生手段EH2によって発生される圧力の目標値である。演算特性CHpwにおいて、操作量Bpaがゼロ(制動操作が行われていない場合に相当)以上から所定値bp0未満の範囲では指示液圧Pwsがゼロに演算され、操作量Bpaが所定値bp0以上では指示液圧Pwsがゼロから単純増加するように演算される。
目標通電量演算ブロックIMTでは、指示液圧Pws等に基づいて、電気モータMTRの目標通電量Imt(MTRを制御するための通電量の目標値)が演算される。ここで、「通電量」とは、電気モータMTRの出力トルクを制御するための状態量(変数)である。電気モータMTRは電流に概ね比例するトルクを出力するため、通電量の目標値(目標通電量)として電気モータMTRの電流目標値が用いられ得る。また、電気モータMTRへの供給電圧を増加すれば、結果として電流が増加されるため、目標通電量として供給電圧値が用いられ得る。さらに、パルス幅変調におけるデューティ比によって供給電圧値が調整され得るため、このデューティ比が通電量として用いられ得る。
目標通電量演算ブロックIMTでは、第1電気モータMTRの回転すべき方向(即ち、液圧の増減方向)に基づいて、目標通電量Imtの符号(値の正負)が決定され、電気モータMTRの出力すべき回転動力(即ち、液圧の増減量)に基づいて、目標通電量Imtの大きさが演算される。具体的には、制動液圧を増加する場合には、目標通電量Imtの符号が正符号(Imt>0)に演算され、電気モータMTRが正転方向に駆動される。一方、制動液圧を減少させる場合には、Imtの符号が負符号(Imt<0)に決定され、電気モータMTRが逆転方向に駆動される。さらに、目標通電量Imtの絶対値が大きいほど電気モータMTRの出力トルクが大きくなるように制御され、Imtの絶対値が小さいほど出力トルクが小さくなるように制御される。
目標通電量演算ブロックIMTには、液圧変換演算ブロック、及び、液圧制御演算ブロックが含まれる。液圧変換演算ブロックでは、アンチスキッド制御用目標押圧力Fabs、トラクション制御用目標押圧力Ftcs、及び、車両安定化制御用目標押圧力Fescのうちから1つが選択されて、液圧に換算される。目標押圧力の選択順位は、車両の走行状態、及び、車輪の状態に基づいて決定される。なお、該当する車輪が駆動車輪でない場合(ドライブトレインに接続されない場合)には、Ftscは選択されない。そして、液圧換算された目標値Fabs、Ftcs、及び、Fescのうちの1つ、及び、指示液圧Pwsに基づいて、最終的な液圧の目標値Pwtが決定される。具体的には、液圧換算された目標押圧力(Fabs、Ftcs、又は、Fesc)によって、指示液圧Pwsが修正されて、目標液圧(液圧目標値)Pwtが演算される。
液圧制御演算ブロックでは、液圧目標値Pwt、及び、液圧実際値Pwaに基づいて、電気モータMTRの目標通電量Imtが演算される。ここで、液圧実際値Pwaは、液圧取得手段(圧力センサ)PC1,PC2によって取得(検出)される液圧の実際値(実液圧)である。実液圧Pwaとして、各ホイールシリンダWC[**]に設けられる液圧取得手段PW[**]によって取得される実際の液圧(実際値)が採用され得る。また、実液圧Pwaは、液圧取得手段PC1,PC2の取得値、及び、各電磁弁(例えば、EN[**]、OT[**])の作動状態に基づいて推定され得る。
目標通電量演算ブロックIMTの液圧制御演算ブロックでは、先ず、目標液圧Pwt、及び、予め設定された演算マップに基づいて、目標通電量Imtにおけるフィードフォワード成分Imt1が演算される。次に、目標値Pwtと実施値Pwaとの偏差に基づいて、Imtにおけるフィードバック成分Imt2が演算される。そして、フィードフォワード成分Imt1が、フィードバック成分Imt2によって修正され、最終的な目標通電量Imtが演算される(例えば、Imt=Imt1+Imt2)。
電気モータ制御ブロックDRVでは、目標通電量Imtに基づいて、第1電気モータMTRの出力が調整される。電気モータ制御ブロックDRVは、電気モータMTRを駆動するための複数のスイッチング素子にて構成されるブリッジ回路HBR、及び、各スイッチング素子を駆動する駆動信号を演算するための演算処理(制御アルゴリズム)にて構成される。電気モータMTRとして、ブラシ付モータが採用される場合には、ブリッジ回路HBRは4つのスイッチング素子で構成される。また、ブラシレスモータが採用される場合には、6つのスイッチング素子でブリッジ回路HBRが構成される(所謂、3相ブリッジ回路)。3相ブリッジ回路では、回転角取得手段MKAの検出結果(回転角Mka)に基づいて、U相、V相、及び、W相のコイル通電量の方向(即ち、励磁方向)が順次切り替えられて、電気モータMTRが駆動される。なお、ブラシレスモータの回転方向(正転、或いは、逆転方向)は、ロータと励磁する位置との関係によって決定される。
具体的には、目標通電量Imtに基づいて、各スイッチング素子についてパルス幅変調(PWM、Pulse Width Modulation)を行うための指示値(目標値)が演算される。例えば、目標通電量Imt、及び、予め設定される特性(演算マップ)に基づいて、パルス幅のデューティ比Dut(周期に対するオン時間の割合)が決定される。併せて、目標通電量Imtの符号(正符号、或いは、負符号)に基づいて、電気モータMTRの回転方向が決定される。電気モータMTRの回転方向は、正転方向が正(プラス)の値、逆転方向が負(マイナス)の値として設定される。
さらに、電気モータ制御ブロックDRVでは、所謂、電流フィードバック制御が実行される。電気モータ制御ブロックDRVには、通電量取得手段(例えば、電流センサ)IMAが備えられ、実際の通電量(例えば、実際の電流値)Imaが取得(検出)される。実際の通電量Imaと目標通電量Imtとの偏差ΔImに基づいて、デューティ比Dutが修正(微調整)される。この電流フィードバック制御によって、高精度なモータ制御が達成され得る。
電気モータ制御ブロックDRVでは、デューティ比(目標値)Dutに基づいて、ブリッジ回路HBRを構成するスイッチング素子の駆動信号が演算される。駆動信号に基づいて、各スイッチング素子の通電、又は、非通電の状態が制御される。具体的には、Dutが大きいほど、スイッチング素子において、単位時間当りの通電時間が長くされ、より大きな電流が電気モータMTRに流され、MTRの出力(回転動力)が大とされる。
電磁弁制御ブロックSOLでは、制動操作量Bpa等に基づいて、各電磁弁(VC1等)の通電、又は、非通電の状態が制御される。操作量Bpaに基づいて、運転者による制動操作の有無が判定される。操作量Bpaが所定値bp0以上の場合に、「制動操作有り(制動操作が行われていること)」が判定され、Bpaが値bp0未満の場合に、「制動操作無し(制動操作が行われていないこと)」が判定される。
トラクション制御、車両安定化制御等は、運転者によって制動操作が行われていない場合にも制動液圧が増加される必要がある。このため、電磁弁制御ブロックSOLでは、トラクション制御(TCS)、及び、車両安定化制御(ESC)の作動状態を示す信号FLcbが、目標通電量演算ブロックIMTから受信される。例えば、信号FLcbは、制御フラグであって、FLcb=0が「非作動状態」を表し、FLcb=1が「作動状態」を表す。
電磁弁制御ブロックSOLでは、「制動操作有り(即ち、Bpa≧bp0)」、及び、「TCS又はESCの作動状態(即ち、FLcb=1)」のうちの少なくとも1つの条件が満足される場合に、電磁弁CSS、及び、切替手段KRK(即ち、電磁弁VC1,VC2,MC[f*])の駆動状態が、非通電から通電に切り替えられる。結果、電磁弁CSS,VC1,VC2が閉位置から開位置に変更され、電磁弁MC[f*]が開位置から閉位置に変更される。なお、SOLには、各電磁弁への通電量Isa(実際値)を検出する電磁弁用の通電量取得手段ISAが設けられる。
判定処理ブロック(判定手段に相当)HNTは、第1電気モータ(車体側電気モータ)MTRの作動状態の適否を含む、システム全体の作動状態の適否を判定する。第1電気モータMTRの作動状態の適否は、電気モータMTRへの電力供給状態(例えば、供給電圧)、MTRを駆動する電子制御ユニットECUの作動状態、及び、MTRの制御に利用される状態量を取得する取得手段(MKA、IMA等)の作動状態のうちの少なくとも1つに基づいて判定される。
判定処理ブロックHNTは、初期診断処理ブロックCHK、及び、作動監視処理ブロックMNTにて構成される。判定処理ブロックHNTは、制御アルゴリズムであって、ECU内のマイクロコンピュータにプログラムされている。初期診断処理ブロックCHKでは、電気モータMTRを含む、システム(制動装置)の作動が開始される前の初期診断(所謂、イニシャルチェック)が実行される。また、作動監視処理ブロックMNTでは、電気モータMTRを含む、システム全体の作動が常時、モニタされる。判定処理ブロックHNTでは、作動状態の適否を表す信号FLsdが、電磁弁制御ブロックSOLに出力される。例えば、信号FLsdは、制御フラグであって、FLsd=0が「不適状態」を表し、FLsd=1が「適正状態」を表す。初期診断処理ブロックCHK、及び、作動監視処理ブロックMNTでの判定結果のうちで何れか一方が「不適状態」である場合には、FLsd=0(不適判定)が出力される。従って、FLsd=1(適正判定)は、初期診断処理ブロックCHK、及び、作動監視処理ブロックMNTでの判定結果が、いずれも「適正状態」の場合に限って出力される。
初期診断処理ブロックCHKでは、制動装置への電力供給状態、電子制御ユニットECU自身の診断(例えば、メモリ診断)、第1電気モータMTR、ブリッジ回路HBR、電気モータ用の通電量取得手段IMA、回転角取得手段MKA、電磁弁(VC1、VC2、MC[f*]等)、電磁弁用の通電量取得手段ISA、及び、液圧取得手段(PC1、PC2等)のうちの少なくとも1つの診断(作動確認)が実行される。具体的には、ECUに供給される電圧が、所定電圧vl0未満の状態から、所定電圧vl0以上の状態に遷移した時点において、初期診断のトリガ信号FLckに基づいて、上記の各機能のうちの少なくとも1つの作動診断(イニシャルチェック)が実行される。なおECUにおける供給電圧が値vl0未満から値vl0以上に遷移する時点が、「起動時」と称呼される。例えば、トリガ信号(制御フラグ)FLckは、通信バスCANから受信される信号に基づいて決定される。
初期診断処理ブロックCHKでは、ECUの起動後であって、FLck=1の状態である場合に初期作動診断が開始される。FLck=1の状態は、運転者が車両に近接している状態、車両ドアが開かれた後に閉じられた状態、運転者が車両シートに着座した状態、イグニッションスイッチがオンされた状態、及び、車両が走行している状態のうちの少なくとも1つである。従って、これらの状態は、スマートエントリにおける電子キーの近接信号、車両ドアの開閉信号、車両シートへの着座信号、イグニッションスイッチのオン信号、及び、車両速度のうちの少なくとも1つに基づいて決定される。ここで、スマートエントリは、機械的な鍵を使用せずに車両のドア等の施錠・開錠、エンジンの始動が可能な自動車の機能のことである。スマートエントリでは、運転者の持つ鍵(携帯機)と、車両に搭載されている電子制御ユニット(コンピュータ)との間で通信が行われ、通信が成立する場合にドアの施錠・開錠が行われる。
初期診断処理(イニシャルチェック)においては、初期診断判定ブロックCHKからブリッジ回路HBR、及び、各電磁弁に向けて、診断用の駆動信号が送信される。そして、その結果として、通電量取得手段IMA,ISA、回転角取得手段MKA、及び、液圧取得手段(PC1等)の取得結果(各センサの検出結果)のうちのすくなくとも1つの変化が、CHKにて受信される。この受信結果に基づいて、ブリッジ回路HBR(即ち、スイッチング素子)、電気モータMTR、電磁弁、通電量取得手段IMA,ISA、回転角取得手段MKA、及び、液圧取得手段のうちの少なくとも1つの機能が、正常に作動し得る状態であるか、否かが診断される。万一、機能(作動)に不都合が存在する場合には、不適信号FLsd=0が出力されるとともに、予め設定される処置(例えば、運転者への報知と作動の制限又は停止)が行われる。
同様に、作動監視処理ブロックMNTでも、制動装置への電力供給状態、ブリッジ回路HBR(即ち、スイッチング素子)、電気モータMTR、電磁弁、通電量取得手段IMA,ISA、回転角取得手段MKA、及び、液圧取得手段のうちの少なくとも1つの機能が、正常に作動し得る状態であるか、否かが診断される。これらの構成要素の診断は、電気モータMTR、及び、電磁弁の目標値と、その結果(実際値)との比較に基づいて、適否の判定が行われる。具体的には、目標値と実際値との偏差が予め設定された所定値未満の場合には適正状態が判定され、該偏差が所定値以上の場合に不適状態が判定される。各構成要素(MTR等)の機能に不適状態が存在する場合には、CHKでの演算処理と同様に、不適信号FLsd=0が出力されるとともに、予め設定される処置(例えば、運転者への報知と作動の制限又は停止)が行われる。
初期診断処理ブロックCHK、及び、作動監視処理ブロックMNTでの判定結果のうちで、少なくとも1つが「不適状態」であると判定される場合には、システム不適を表す判定結果FLsd=0が、判定手段HNTから出力される。そして、初期診断処理ブロックCHK、及び、作動監視処理ブロックMNT判定結果の両方が、「適正状態」であると判定される場合に限って、システム適正を表す判定結果FLsd=1(適正判定)が、判定処理ブロック(判定手段)HNTから出力される。
電磁弁制御ブロックSOLでは、適否状態を表す制御フラグFLsdが受信され、FLsdに基づいて、各電磁弁の通電状態が制御される。MTRを含むシステム全体が適正に作動している場合(FLsd=1が受信される場合)には、上記のように、「制動操作有り(即ち、Bpa≧bp0)」、及び、「TCS又はESCの作動状態(即ち、FLcb=1)」の条件に基づいて、電磁弁CSS、及び、切替手段KRK(即ち、電磁弁VC1,VC2,MC[f*])の駆動状態(通電状態)が制御される。しかし、システム作動(例えば、MTRの作動状態)が不適である場合(FLsd=0が受信される場合)には、「制動操作有り(即ち、Bpa≧bp0)」、及び、「TCS又はESCの作動状態(即ち、FLcb=1)」の条件の関わらず、電磁弁CSS、及び、切替手段KRKへの通電が停止される。従って、電磁弁CSS,VC1,VC2は閉位置に維持又は変更され、電磁弁MC[f*]が開位置に維持又は変更される。即ち、システム作動が不調であるときには、マスタシリンダMCLによって、前輪ホイールシリンダWC[f*]に限って制動液圧が上昇される。
なお、電子制御ユニットECUも、電力源(BAT等)から電力が供給されて、その機能を発揮している。このため、電力源が不調の場合(即ち、供給電力が不足する場合)には、ECU自身が機能せず、MTR、及び、電磁弁(VC1等)への給電が行われ得ない。しかし、導入弁VC1,VC2として、常時閉型の電磁弁(NC弁)が採用され、遮断弁MC[f*]として、常時開型の電磁弁(NO弁)が採用されるため、電力源が不適状態である場合においても、制御シリンダCCLとホイールシリンダWC[**]との連通は遮断され、マスタシリンダMCLと前輪ホイールシリンダWC[f*]との連通は確保され得る。
<第2の実施態様>
次に、図5の流体回路図を参照して、本発明の第2の実施態様について説明する。第1の実施態様(図2を参照)では、液圧発生手段EH2によって、4輪のホイールシリンダWC[**]が加圧されるが、第2の実施態様では、液圧発生手段EH1によって前輪ホイールシリンダWC[f*]が加圧されて制動トルクが付与される。また、後輪WH[r*]は流体を利用しない電動制動手段DS[r*]にて制動トルクが付与される。従って、後輪WH[r*]については、ホイールシリンダWC[r*]が存在せず、マスタシリンダMCLから後輪ホイールシリンダWC[r*]への流体配管も存在しない。即ち、後輪系統の流体配管、電磁弁、及び、ホイールシリンダが存在しない。なお、液圧発生手段EH1も、液圧発生手段EH2と同様に、車体側に固定されている。
各図、及び、それを用いた説明において、上記と同様に、MCL等の如く、同一記号を付された部材(構成要素)は、同一の機能を発揮する。また、図1との関連については、KRKがVCF、MC[f*]に、HWFがHVF、HV[f*]、HW[f*]に、夫々、対応している。
加えて、上記と同様に、各構成要素の記号末尾に付される角括弧内の添字は、4輪のうちで何れの車輪に対応するかを示す。具体的には、添字は、[fl]が「左前輪」、[fr]が「右前輪」、[rl]が「左後輪」、[rr]が「右後輪」、[**]が「4輪」、[f*]が「前輪」、[r*]が「後輪」、に関連するものであることを、夫々、表現している。そして、「前輪系統」は前輪に対応するもの、「後輪系統」は後輪に対応するものを示している。
同一符号を記される構成要素は、第1の実施態様と同じであるため、相違する部分を主に説明する。各構成要素、及び、流体配管を介した各構成要素の接続状態においては、EN[r*]、OT[r*]、及び、HW[r*]が省略される。また、液圧発生手段EH1の制御シリンダCCLの流体室が2つから1つに変更されているため、導入弁(電磁弁)VC1,VC2が導入弁(電磁弁)VCFに、配管HC1,HC2が配管HCFに、配管HV1,HV2が配管HVFに、液圧取得手段(圧力センサ)PC1,PC2が液圧取得手段(圧力センサ)PCCに、夫々、変更(統合)される。ここで、VCFは、VC1,VC2と同様に、制御シリンダCCLとホイールシリンダWC[f*]との連通と非連通とを切り替える。VCFとしては、ノーマルクローズ型(NC弁であって、非通電時に閉位置、通電時に開位置)が採用され得る。
適正判定時(HNTによって、MTRの作動が適正な状態であることが判定される場合)には、導入弁VCF、及び、増圧弁EN[f*]が開位置(連通状態)にされ、遮断弁MC[f*]、及び、減圧弁OT[f*]が閉位置(非連通状態)にされる。従って、前輪のホイールシリンダWC[f*]は、液圧発生手段EH1の制御シリンダCCLに対しては連通されるが、マスタシリンダMCL、及び、リザーバRSVに対しては連通が遮断される。このため、制御シリンダCCL内でピストンが移動され、制御シリンダCCL内の流体室の体積が減少されることによって、制動液がCCLから前輪ホイールシリンダWC[f*]に向けて排出される。制動液は、「CCL→HCF→VCF→HVF→EN[f*]→HW[f*]→WC[f*]」の順で移動され、前輪WH[f*]の制動トルクが増加される。一方、前輪WH[f*]の制動トルクが減少される場合には、制動液が、「WC[f*]→HW[f*]→EN[f*]→HVF→VCF→HCF→CCL」の順(制動トルクが増加される場合とは逆方向)で、前輪ホイールシリンダWC[f*]から制御シリンダCCLに戻される。
上記と同様に、適正判定時には、電磁弁CSSが開位置(連通状態)にされ、マスタシリンダMCLはストロークシミュレータ(単に、シミュレータともいう)SSMに連通される。シミュレータSSMの内部の弾性体(圧縮ばね)によって、制動操作部材BPが操作される場合の操作力(例えば、ブレーキペダル踏力)が発生される。
不適判定時(HNTによって、MTRの作動が不適切な状態であることが判定される場合)には、導入弁VCF、及び、減圧弁OT[f*]が閉位置(非連通状態)にされ、遮断弁MC[f*]が閉位置(非連通状態)にされる。このとき、増圧弁EN[f*]は、閉位置にされてもよいが、開位置のままでもよい。前輪ホイールシリンダWC[f*]は、マスタシリンダMCLに対しては連通されるが、制御シリンダCCL、及び、リザーバRSVに対しては連通が遮断される。即ち、マスタシリンダMCL内でピストンMP1,MP2が移動され、MCL内の流体室Rm1,Rm2の体積が減少されることによって、制動液がマスタシリンダMCLからホイールシリンダWC[f*]に向けて排出される。
このとき、制動液は、「MCL→HM[f*]→MC[f*]→HV[f*]→HW[f*]→WC[f*]」の順で移動され、前輪WH[f*]の制動トルクが増加される。一方、前輪WH[f*]の制動トルクが減少される場合には、制動液が、「WC[f*]→HW[f*]→HV[f*]→MC[f*]→HM[f*]→MCL」の順(制動トルクが増加される場合とは逆方向)で、ホイールシリンダWC[f*]からマスタシリンダMCLに戻される。なお、後輪ホイールシリンダWC[r*]等は省略されているため、マスタシリンダMCLによって、後輪の制動トルクは付与されない。
さらに、不適判定時には、電磁弁CSSが閉位置(非連通状態)にされ、マスタシリンダMCLとシミュレータSSMとの連通は遮断される。従って、制動操作部材BPが操作される場合の操作力(ペダル踏力)は、マスタシリンダMCLから前輪ホイールシリンダWC[f*]に到る流体経路の剛性に応じて発生される。
第2の実施態様では、適正判定時には、車体側電気モータ(第1電気モータ)MTRによって駆動される液圧発生手段EH1(即ち、加圧機構である制御シリンダCCL)によって、前輪WH[f*]に設けられるホイールシリンダWC[f*]の液圧が調整される。また、不適判定時には、マスタシリンダMCLによって、前輪ホイールシリンダWC[f*]の液圧のみが調整され得る。第2の実施態様においては、後輪の制動トルクは、液圧を全く利用しない電動制動手段DS[r*]によって調整される。従って、後輪ホイールシリンダWC[r*]、及び、マスタシリンダMCLから後輪ホイールシリンダWC[r*]までの流体配管、及び、電磁弁は存在しない。なお、電動制動手段DS[r*]の詳細については、後述される。
第2の実施態様では、1つの液圧発生手段EH1(即ち、1つの制御シリンダCCL)によって、2つの前輪WH[f*]に設けられるホイールシリンダWC[f*]に制動液が供給され、1つのマスタシリンダMCLによって、前輪WH[f*]のホイールシリンダWC[f*]に制動液が供給される。第2の実施態様においても、同様に、制御シリンダCCLの容積Vccが、マスタシリンダMCLの容積Vmcよりも大きく設定され得る。これは、運転者が制動操作中に、制動操作部材BPを急に戻した後に、再度、急に踏み込む場合に対応することに因る。
第2の実施態様においても、第1の実施態様と同様に、後輪の制動トルク付与には直接寄与しない配管の剛性、摩擦剤との隙間等による消費液量が低減され、上述した「無効変位」が小さくなり得る。さらに、消費液量が低減され得るため、マスタシリンダMCLの断面積に対する前輪ホイールシリンダWC[f*]の断面積の比が相対的に大きく設定され、運転者の操作力が低減され得る。加えて、不適判定時には、その不適状態の種類にかかわらず、制動操作特性(制動操作部材における変位と操作力との関係)は、1つの特性に限られる。従って、運転者が違和感を覚え難くなる。
さらに、第2の実施態様においては、第1電気モータMTRが不調であっても、後輪WH[r*]に設けられる電動制動手段DS[r*]によって制動トルクが調整され得るため、車両の減速度が確実に確保され得る。
<1つの流体室にて構成される液圧発生手段EH1>
次に、図6の部分断面図を参照して、1つの流体室にて構成される液圧発生手段EH1について説明する。液圧発生手段EH1は、車体側に設けられ、電気モータ(第1の電気モータ)MTR、動力伝達部材DDB、制御シリンダCCL、制御ピストンCPN、及び、ばねSPRにて構成される。第1の実施態様では、2つの流体室Rc1,Rc2にて構成される液圧発生手段EH2が採用されるが、第2の実施態様では、液圧発生手段EH2に代えて、1つの流体室Rccにて構成される液圧発生手段EH1が採用され得る。
液圧発生手段EH1は、液圧発生手段EH2のCP2、GC2、SP2、PE2、PO2、HC2、及び、Rc2が省略されるものである。液圧発生手段EH2と同一記号が付される構成要素(部材)は、同一の機能を発揮する。また、液圧発生手段EH1のCPN、GCP、SPR、PEN、POT、HCF、及び、Rccは、液圧発生手段EH2のCP1、GC1、SP1、PE1、PO1、HC1、及び、Rc1と同じ機能(役割)をもつ。従って、液圧発生手段EH1の詳細な説明は省略する。
第1の実施態様と同様に、車体側電気モータ(第1電気モータ)MTRの回転動力が、動力伝達部材DDB(GSKとNJB)によって制御ピストンCPNに伝達され、CPNが制御シリンダCCL内で、CCLの中心軸Jcc方向に移動される。制御シリンダCCLの内部は、制御ピストンCPNよって、1つの流体室Rccに区画されている。流体室Rccは、制動トルクの発生が不要である場合には、リリーフポートPEN、及び、流体配管HRVを通して、リザーバRSVに連通されている。
制動トルクが増加される場合には、第1電気モータMTRが正転駆動され、制御ピストンCPNが白抜き矢印の方向に移動される。ピストンCPNの移動よって、カップGCPによってポートPENが塞がれた後に、流体室Rccから前輪のホイールシリンダWC[f*]に、制動液(ブレーキフルイド)が排出され、WC[f*]の液圧が増加される。
制動トルクが減少される場合には、第1電気モータMTRが逆転駆動され、ピストンCPNが元の位置(RccがRSVと連通される位置)に向けて戻される。ピストンCPNの移動によって、流体室Rccの体積が増加され、制動液が前輪ホイールシリンダWC[f*]から制御シリンダCCLに戻され、WC[f*]の液圧が減少される。
液圧発生手段EH2の構成と同様に、液圧発生手段EH1において、制御シリンダCCLの中心軸Jccと、電気モータMTRの回転軸Jmtとが、互いに平行な別々の軸とされ、減速機GSKに対して、流体室Rccと電気モータMTRとが、同じ側に配置される。この構成によって、液圧発生手段EH1の軸方向の長さ(長手方向の寸法)が短縮され得る。
第1の実施態様において、EH2に代えて、EH1が採用され得る。この構成においては、VC1、VC2がVCFに、HC1、HC2がHCFに、PC1、PC2がPCCに、HV1、HV2がHVFに、夫々、統合される。また、第2の実施態様において、EH1に代えて、EH2が採用され得る。この構成においては、VCFがVC1、VC2に、HCFがHC1、HC2に、PCCがPC1、PC2に、HVFがHV1、HV2に、夫々、分割される。
<後輪に設けられる電動制動手段DS[r*]>
図7の全体構成図を参照して、後輪WH[r*]に設けられる電動制動手段DS[r*]について説明する。電動制動手段DS[r*]は、電気モータMTWによって駆動される(即ち、後輪の制動トルクを調節する)。ここで、電気モータMTWは、車体側電気モータMTRと区別するため、「車輪側電気モータ(第2電気モータに相当)」と称呼される。上記と同様に、同一記号が付される構成要素は、同一機能を発揮するため、説明が省略される。
車両には、制動操作部材BP、電子制御ユニットECU、電源BAT(蓄電池),ALT(発電機)、駐車ブレーキ用のマニュアルスイッチMSW、及び、電動制動手段(ブレーキアクチュエータ)DS[r*]が備えられる。電子制御ユニットECUと電動制動手段DS[r*]とは、ECU側コネクタCNB、及び、DS[r*]側コネクタCNCを介して、信号線(シグナル線)SGL、及び、電力線(パワー線)PWLによって接続され、電動制動手段DS[r*]用の電気モータMTWの駆動信号、及び、電力が供給される。
〔指示演算ブロック(指示手段)CGS〕
電子制御ユニットECUには、上記の制御処理ブロック(制御手段)CTL、及び、判定処理ブロック(判定手段)HNTに加えて、指示演算ブロック(指示手段)CGSが設けられる。指示演算ブロックCGSは、制御アルゴリズムであって、電子制御ユニットECU内のマイクロコンピュータにプログラムされる。CGSによって、電動制動手段DS[r*]用の第2電気モータMTWを駆動するための目標値(駆動信号)Fbtが演算され、シリアル通信バスSGLを介して、車輪側のDS[r*]に向けて送信される。また、電子制御ユニットECUを経由して、第2電気モータMTWを駆動するための電力が、車輪側に供給される。
指示手段CGSは、指示押圧力演算ブロックFBS、目標押圧力演算ブロックFBT、及び、駐車ブレーキ要否判定ブロックFPKにて構成される。
指示押圧力演算ブロックFBSでは、制動操作量Bpa、及び、予め設定された指示押圧力演算特性(判定処理ブロックHNTにて適正状態が判定される場合の演算マップ)CHfbに基づいて、各車輪WHLの指示押圧力Fbsが演算される。Fbsは、電動制動手段DS[r*]において、摩擦部材(ブレーキパッド)MSBが回転部材(ブレーキディスク)KT[r*]を押す力である押圧力の目標値である。
指示押圧力演算ブロックFBSでは、判定処理ブロックHNTにて、第1電気モータMTRの不適状態が判定される場合(FLsd=0)には、演算特性CHfbが演算特性CHfc(破線で示す特性であって、不適状態時の演算マップ)に切り替えられる。不適判定時の特性CHfcは、適正判定時の特性CHfbに比較して、同一の操作量Bpaに対して、より大きな指示押圧力(目標値)Fbsを出力する。即ち、演算特性マップの変更によって、前輪用の第1電気モータMTRの作動状態が適切ではない場合に、後輪用の電動制動手段DS[r*]の出力(MSBがKT[r*]を押圧する力)が増大される。この結果、MTRが不調であっても、運転者の制動操作に対して、適正判定時と同等の車両減速度が確保され得る。
目標押圧力演算ブロックFBTには、制御処理ブロックCTLから、アンチスキッド制御用目標押圧力Fabs、トラクション制御用目標押圧力Ftcs、及び、安定化制御用目標押圧力Fescが送信される。目標押圧力演算ブロックFBTでは、指示押圧力Fbs、アンチスキッド制御用目標押圧力Fabs、トラクション制御用目標押圧力Ftcs、及び、安定化制御用目標押圧力Fescに基づいて、目標押圧力Fbtが演算される。具体的には、Fabs、Ftcs、及び、Fescのうちから1つが選択されて、選択されたものによって指示押圧力Fbsが修正されて最終的な目標押圧力Fbtが演算される。Fabs、Ftcs、及び、Fescの選択順位は、車両の走行状態、及び、車輪の状態に基づいて決定される。なお、後輪が駆動車輪でない場合(FF車両の場合)には、Ftscは演算されない。
駐車ブレーキ要否判定ブロックFPKでは、車両の停止状態を維持する駐車ブレーキ(パーキングブレーキともいう)が必要であるか、否かが判定される。即ち、FPKでは、運転者によって行われる、駐車スイッチMSWの操作に基づいて、駐車ブレーキの作動、又は、駐車ブレーキの解除の判定が実行され、判定結果FLpkが演算される。具体的には、車ブレーキ要否判定ブロックFPKに、MSWのスイッチ信号Mswが入力され、スイッチMSWのオフ状態によって、「駐車ブレーキの不要状態(FLpk=0)」が選択され、MSWのオン状態によって、「駐車ブレーキの必要状態(FLpk=1)」が選択される。ここで、信号FLpkは、駐車ブレーキの要否を表す制御フラグである。具体的には、制御フラグFLpkは、「0」、又は、「1」で表現される。「駐車ブレーキが不要であること(不要判定)」が判定されている場合には、指示信号として、FLpk=0が出力される。また、「駐車ブレーキが必要であること(必要判定)」が判定されている場合には、指示信号として、FLpk=1が出力される。
指示演算ブロックCGSにて演算された目標押圧力(信号)Fbt、及び、駐車ブレーキ用の制御フラグFLpkは、信号線(シリアル通信バス)SGLを通じて、電子制御ユニットECUから電動制動手段DS[r*]に送信される。
〔電動制動手段DS[r*]〕
電動制動手段DS[r*]は、ブレーキキャリパCRP、押圧部材PSN、電気モータ(第2の電気モータ)MTW、位置検出手段MKW、減速機GSW、シャフト部材SFT、ねじ部材NJW、押圧力取得手段FBA、駐車ブレーキ用ロック機構LOK、及び、駆動回路DRWにて構成されている。
ブレーキキャリパ(単に、キャリパともいう)CRPは、例えば、浮動型キャリパであり、2つの摩擦部材(ブレーキパッド)MSBを介して、回転部材(ブレーキディスク)KT[r*]を挟み込むように構成される。キャリパCRP内で、押圧部材PSNがスライドされ、回転部材KT[r*]に向けて前進又は後退される。キャリパCRPには、キー溝が、シャフト部材SFTの回転軸(シャフト軸Jsf)方向に延びるように形成される。
押圧部材(ブレーキピストン)PSNは、回転部材KT[r*]に摩擦部材MSBを押し付けて摩擦力を発生させる。キー部材が、押圧部材PSNに固定され、上記のキー溝に嵌合される。このキー構造によって、押圧部材PSNは、シャフト軸まわりの回転運動は制限されるが、シャフト軸の方向(即ち、キー溝の長手方向)の直線運動は許容される。
電動制動手段DS[r*]を駆動するための電気モータMTWが車輪側に設けられる。DS[r*]用の車輪側電気モータMTWは、回転部材KT[r*]に摩擦部材MSBを押し付けるための動力を発生する。具体的には、電気モータMTWの出力(モータ軸Jmwまわりの回転動力)は、減速機GSWを介して、シャフト部材SFTに伝達され、SFTの回転動力(シャフト軸Jsfまわりのトルク)は、運動変換部材(例えば、ねじ部材)NJWによって、直線動力(PSNの中心軸方向の推力)に変換され、押圧部材PSNに伝達される。そして、押圧部材(ブレーキピストン)PSNが、回転部材(ブレーキディスク)KT[r*]に向かって前進又は後退される。このPSNの移動により、摩擦部材(ブレーキパッド)MSBが、回転部材KT[r*]を押す力(押圧力)Fbaが調整される。回転部材KT[r*]は後輪WH[r*]に固定されているため、摩擦部材MSBと回転部材KT[r*]との間に摩擦力が発生し、後輪WH[r*]に制動力が調整され、例えば、走行中の車両が減速される。電気モータMTWとして、ブラシ付モータ、或いは、ブラシレスモータが採用される。
位置取得手段(例えば、回転角度センサ)MKWは、電気モータMTWのロータ(回転子)の位置(例えば、回転角)Mkwを取得(検出)する。位置取得手段MKWは、電気モータMTWの内部であって、回転子、及び、整流子と同軸に配置される(即ち、MTWと同軸であって、モータ軸Jmw上に設けられる)。
減速機GSWは、車輪側電気モータMTWの動力において、回転速度を減じて、シャフト部材SFTに出力する。即ち、MTWの回転出力(トルク)が、減速機GSWの減速比に応じて増加され、シャフト部材SFTの回転力(トルク)が得られる。例えば、減速機GSWは、小径歯車SKW、及び、大径歯車DKWにて構成される。
シャフト部材SFTは、回転軸部材であって、減速機GSWから伝達された回転動力をねじ部材NJWに伝達する。シャフト部材SFTの端部は、球面状に加工され、ユニバーサル継手として機能する。このユニバーサル継手によって、摩擦部材MSBと回転部材KT[r*]とが摺動する際に生じる押圧部材PSNの揺動(首振り運動)の影響が補償される。
ねじ部材NJWは、シャフト部材SFTの回転動力を、押圧部材PSNの直線動力に変換する動力変換部材(回転・直動変換機構)であり、ナット部材、及び、ボルト部材にて構成される。ねじ部材NJWには、可逆性があり(逆効率をもち)、双方向に動力伝達が可能である。即ち、制動トルクが増加される場合(押圧力Fbaが増加される場合)、ねじ部材NJWを通して、シャフト部材SFTから押圧部材PSNへ動力が伝達される。逆に、制動トルクが減少される場合(押圧力Fbaが減少される場合)、ねじ部材NJWを介して、押圧部材PSNからシャフト部材SFTへ動力が伝達される(逆効率が「0」よりも大きい)。
ねじ部材NJWとして、「滑り」によって動力伝達が行われる滑りねじ(台形ねじ等)が採用される。また、ねじ部材NJWには、滑りねじに代えて、「転がり」によって動力伝達が行われる転がりねじ(ボールねじ等)が採用され得る。さらに、ねじ部材NJWに代えて、回転・直動変換機構として、ボールランプ機構、回転クサビ機構、ラック&ピニオン機構等が採用され得る。
押圧力取得手段FBAは、押圧部材PSNが摩擦部材MSBを押す力(押圧力)Fbaの反力(反作用)を取得(検出)する。FBAには、起歪体が形成され、その歪が、歪検出素子によって検出され、Fbaが取得される。FBAは、シャフト部材SFTとキャリパCRPとの間に設けられる。押圧力取得手段FBAはキャリパCRPに固定される。
駐車ブレーキ用ロック機構(単に、ロック機構ともいう)LOKは、車両の停止状態を維持するブレーキ機能(所謂、駐車ブレーキ)のため、電気モータMTWが逆転方向(制動トルクが減少する方向)に回転しないように、その動き(回転)を拘束(ロック)する。この結果、押圧部材PSNが回転部材KT[r*]に対して離れる方向に移動することが妨げられ、摩擦部材MSBによるKT[r*]の押圧状態が維持される。ロック機構LOKは、電気モータMTWと減速機GSWとの間に設けられ得る。
ロック機構LOKは、ラチェット歯車(つめ歯車ともいう)RCH、つめ部材(掛けつめともいう)TSU、及び、駐車ブレーキ用ソレノイド(単に、ソレノイドともいう)SLWにて構成されている。ラチェット歯車RCHは、電気モータMTWと同軸に固定される。ラチェット歯車RCHは、一般的な歯車(例えば、平歯車)とは異なり、歯が方向性をもつ。ソレノイドSLWによって、つめ部材TSUが、ラチェット歯車RCHの方向に押され、つめ部材TSUがラチェット歯車RCHに向けて移動される。そして、つめ部材TSUがラチェット歯車RCHに咬み合わされることによって、押圧部材PSNの動きが拘束され、駐車ブレーキとして機能する。
駆動回路DRWは、指示演算ブロックCGSから送信される目標押圧力(信号)Fbt、及び、駐車ブレーキ用制御フラグFLpkに基づいて、車輪側電気モータMTW、及び、駐車ブレーキ用ソレノイドSLWを駆動する。具体的には、駆動回路DRWには、車輪側電気モータ(第2の電気モータ)MTWを駆動するブリッジ回路(例えば、4つのスイッチング素子で形成される)が設けられ、Fbtに基づいて演算される各スイッチング素子用の駆動信号によって、MTWの回転方向と出力トルクが制御される。また、DRWには、SLWを駆動するスイッチング素子が設けられ、FLpkに基づいて、該スイッチング素子が制御され、ソレノイドSLWが励磁される。これによって、駐車ブレーキ用のロック機構LOKが制御され、駐車ブレーキの作動、又は、解除が行われる。
以下、制動制御装置の小型化、搭載性の向上、運転者への違和感の抑制等について好適な構成について付言する。
制動制御装置の車両への搭載性を向上させるためには、装置が一体として構成される必要がある。そして、一体構造とするためには、マスタシリンダMCLと、液圧発生手段EH1,EH2との長手方向の寸法(軸方向長さ)が概ね一致されることが望ましい。しかし、液圧発生手段EH1,EH2においては、MTR(回転動力)からCCL(直線動力)に動力が伝達されるため、回転・直動変換機構(例えば、ねじ部材NJB)が必要となる。このため、CCLの長手方向の寸法が、より短縮される必要がある。加えて、不適判定時の制動操作部材BPの操作力を低減するためには、マスタシリンダMCLからの制動液の排出量が確保された上で、MCLの受圧面積に対する前輪ホイールシリンダWC[f*]の受圧面積の比率が大きく設定される必要がある。
以上の観点に基づいて、前記制御シリンダ(CCL)の内径(φDcc)が、前記マスタシリンダ(MCL)の内径(φDmc)よりも大きく設定される。また、前記制御シリンダ(CCL)の中心軸方向(Jcc)の長さが、前記マスタシリンダ(MCL)の中心軸方向(Jmc)の長さよりも短く設定される。さらに、前記第1電気モータ(MTR)の回転動力を減速し、前記制御シリンダ(CCL)に該回転動力を伝達する減速機(GSK)を備え、前記第1電気モータ(MTR)の回転軸(Jmt)と、前記制御シリンダ(CCL)の中心軸(Jcc)とが、平行、且つ、別個に配置され、前記制御シリンダ(CCL)は、前記減速機(GSK)に対して、前記第1電気モータ(MTR)と同じ側に配置される。
制御シリンダCCLの内径φDccが相対的に大きく設定され、制御シリンダCCLの中心軸方向Jccの長さが相対的に短く設定されるため、CCLの軸長が短縮され、車両への搭載性が向上され得る。また、マスタシリンダMCLの内径φDmcが相対的に小さく設定され、マスタシリンダMCLの中心軸方向Jmcの長さが相対的に長く設定されるため、第1電気モータMTRの不適判定時において、必要最低限の操作力で車両の制動トルクが付与され得るとともに、制動トルクを発生するために必要な制動液量が確保され得る。さらに、制御シリンダCCLの内径φDccがマスタシリンダMCLの内径φDmcよりも大きく設定され、制御シリンダCCLの中心軸方向Jccの長さがマスタシリンダMCLの中心軸方向Jmcの長さよりも短く設定されるため、液圧発生手段EH1,EH2の長手方向の寸法が、マスタシリンダMCLに比較して、より短縮され得る。この結果、マスタシリンダMCLと、液圧発生手段EH1,EH2との長手方向の寸法が概ね一致され得る。
液圧発生手段EH1,EH2の構成要素の配置において、第1電気モータMTRの回転軸Jmtと制御シリンダCCLの中心軸Jccとが、平行、且つ、別個に配置され、減速機GSKに対して、第1電気モータMTRと制御シリンダCCLとが同じ側に配置される。このため、EH1、EH2の長手方向の寸法が短縮され、マスタシリンダMCLの長手方向の寸法と、概略、同一とされ得る。この結果、制動制御装置が一体化され、車両への搭載性が向上され得る。
加えて、前記制御シリンダ(CCL)の容積(Vcc)が、前記マスタシリンダMCLの容積(Vmc)よりも大きく設定され得る。例えば、運転者が制動操作中に、制動操作部材BPを急に戻した直後に、再度、急に踏み込む場合に対応するため、制御シリンダCCLは、複数回の制動操作に必要な制動液量を供給できるよう、CCLの容積が設定される。ここで、「シリンダの容積」は、シリンダに入り得る液体の体積であって、制動液圧が生じていない場合における、CCL、MCLの内部に含まれる制動液の体積である。
前記ストロークシミュレータ(SSM)に依存する前記制動操作部材(BP)における剛性相当値(Gss)と、前記前輪ホイールシリンダ(WC[f*])を含む制動手段に依存する前記制動操作部材(BP)における剛性相当値(Gwc)とが同等の値に設定される。
制動操作部材において、ストロークシミュレータSSMによる剛性相当値Gssと、前輪ホイールシリンダWC[f*]を含む制動手段(例えば、ブレーキキャリパ)による剛性相当値Gwcとが一致されて設定され得る。この場合、作動状態の適否に依存することなく、概ね一定の制動操作特性が確保され得る。ここで、「ストロークシミュレータSSMによる剛性相当値Gss」は、SSMにおける制動液の体積変化に対する液圧の比率が、制動操作部材BPにおいて、変位に対する力の比率(ばね定数)に換算された値である。例えば、値Gssは、SSMの内部のピストンの受圧面積、SSMに内蔵される弾性部材(ばね)に依る。同様に、「前輪ホイールシリンダWC[f*]を含む制動手段による剛性相当値Gwc」は、WC[f*]における制動液の体積変化に対する液圧の比率が、制動操作部材BPにおいて、変位に対する力の比率(ばね定数)に換算された値である。例えば、値Gwcは、ブレーキキャリパの剛性、摩擦部材の剛性、ホイールシリンダWC[f*]の受圧面積に依る。