<第1実施形態>
図1を参照しながら、本発明に係る制動制御装置の第1実施形態を備えた車両の全体構成について説明する。以下、各図の説明において、同一記号をもつ部材・機構は、同一のものであるため、重複の説明が省略される場合がある。
車両には、制動操作部材BP、操作量取得手段BPA、緊急状態取得手段JQA、ホイールシリンダWC、マスタシリンダMCL、シミュレータSSM、加圧機構KAK、調圧手段MJR、電子制御ユニットECU、流体経路H1,H2(配管HKJ等)、開閉手段(電磁弁)VPR、及び、電磁弁VMC,VSS,VKCが備えられる。
制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPは、運転者が車両を減速するために操作する部材である。制動操作部材BPが操作されることによって、車輪WHの制動トルクが調整され、各車輪に制動力が発生される。車輪WHには、回転部材(例えば、ブレーキディスク)KTBが固定される。また、車輪WHには、ホイールシリンダWCが設けられる。ホイールシリンダWC内の制動液圧が増加されることによって、摩擦部材(例えば、ブレーキパッド)MSBが、回転部材KTBに押し付けられる。このときに生じる摩擦力によって、車輪WHに制動トルクが発生される。
制動操作部材BPには、操作量取得手段BPAが設けられる。操作量取得手段BPAによって、運転者による制動操作部材BPの操作量(制動操作量)Bpaが取得(検出)される。操作量取得手段BPAとして、マスタシリンダMCLの圧力を検出するセンサ(圧力センサ)PMC、制動操作部材BPの操作力、及び/又は、変位量を検出するセンサ(ブレーキペダル踏力センサ、ブレーキペダル変位センサ)が採用される。従って、制動操作量Bpaは、マスタシリンダ圧Pmc、ブレーキペダル踏力、及び、ブレーキペダル変位のうちの少なくとも何れか1つに基づいて演算される。制動操作量Bpaは、電子制御ユニットECUに入力される。
加圧機構KAKは、加圧ピストンKPS、加圧シリンダKCL、動力伝達機構DDB、及び、電気モータMTRにて構成される。加圧機構KAKは、電気モータMTRの動力によって駆動され、ホイールシリンダWCの圧力を増加する。
加圧ピストンKPSと加圧シリンダKCLとが組み合わされて、1つのピストン/シリンダが形成される。具体的には、加圧ピストンKPS、及び、加圧シリンダKCLによって、流体室Rkc(後述する図3を参照)が形成(区画)される。電気モータMTRの回転動力から変換された直線動力によって、加圧ピストンKPSは移動される(KCLの中心軸方向に往復運動される)。流体室Rkc内には制動液BFLが充填されており、この往復運動によって、加圧シリンダKCLとホイールシリンダWCとの間で制動液BFLの移動が行なわれる。この結果、ホイールシリンダWC内の制動液BFLの圧力が調整(増減)される。
加圧機構KAKは、電磁弁VKCを介して、ホイールシリンダWCに接続される。加圧機構KAKによって発生される圧力Pcaを検出するために、液圧取得手段(圧力センサ)PCAが、加圧機構KAKからホイールシリンダWCに到る流体経路内に設けられる。
加圧機構KAKでは、電気モータMTRの回転動力(出力トルク)が、動力伝達機構DDBを介して、加圧ピストンKPSに伝達される。具体的には、動力伝達機構DDBは、減速機GSK、及び、回転・直動変換機構(ねじ部材)NJBにて構成される。電気モータMTRの回転動力は、減速機GSKに入力され、この回転動力が減速されて、減速機GSKから出力される。そして、ねじ部材NJBにて、減速機GSKからの回転動力が直線動力に変換され、加圧ピストンKPSに伝達される。
電気モータMTRには、回転角取得手段MKAが設けられ、MTRの回転角Mka(例えば、ロータ位置)が取得(検出)される。モータ回転角Mka、及び、動力伝達機構DDBの諸元に基づいて、加圧ピストンKPSの位置(変位)が取得(演算)され得る。
電子制御ユニットECUによって、加圧機構KAK(具体的には、電気モータMTR)、電磁弁VMC,VSS,VKC、開閉手段VPR(選択手段SNT)、及び、調圧手段MJRが制御される。電子制御ユニットECUには、加圧機構KAK等を制御するための制御手段CTLが設けられる。制御手段CTLは制御アルゴリズムであって、電子制御ユニットECU内のマイクロコンピュータにプログラムされている。
マスタシリンダ(ブレーキマスタシリンダともいう)MCLは、プッシュロッドPRDを介して伝達される、制動操作部材BPの操作力(ブレーキペダル踏力)を液圧に変換し、車輪ホイールシリンダWCに制動液BFLを圧送する。制動液BFLは、リザーバ(マスタリザーバともいう)RSVから、配管HRKを介して、マスタシリンダMCLに補充される。即ち、制動操作部材BPの非操作時には、マスタシリンダMCLは、流体配管HRKを介して、マスタリザーバRSVに連通されている。マスタシリンダMCLは、ホイールシリンダWCに流体配管HMWにて接続される。換言すれば、配管HMWは、マスタシリンダMCLと、ホイールシリンダWCとを接続する流体配管である。
制動操作部材BPに操作力を発生させるため、シミュレータ(ストロークシミュレータともいう)SSMが設けられる。例えば、シミュレータSSMの内部には、ピストン、及び、弾性体(例えば、圧縮ばね)が備えられる。マスタシリンダMCLから制動液BFLがシミュレータSSM内に移動され、流入する制動液BFLによりピストンが押される。ピストンには、弾性体によって制動液の流入を阻止する方向に、力が加えられる。弾性体によって、制動操作部材BPが操作される場合の操作力(例えば、ブレーキペダル踏力)が形成される。
第1流体経路H1は、加圧機構KAK(特に、加圧シリンダKCL)と、ホイールシリンダWCとを、調圧手段(液圧モジュレータ)MJRを介して、接続する流体経路である。第1流体経路H1は、配管HKJ,HJW、及び、調圧手段MJRにて構成される。配管HKJは、加圧機構KAK(特に、加圧シリンダKCL)と、調圧手段MJRとを接続する流体配管である。配管HJWは調圧手段MJRと、ホイールシリンダWCとを接続する流体配管である。
第2流体経路H2は、加圧機構KAK(特に、加圧シリンダKCL)と、ホイールシリンダWCとを、調圧手段(液圧モジュレータ)MJRを介さずに、接続する流体経路である。第2流体経路H2は、配管HKJ、及び、HPRにて構成される。配管HPRは、配管HKJの途中から分岐され(分岐点Bnk)、配管HJWの途中に接続される流体配管である。従って、配管HPRは、調圧手段MJRとは並列となり、MJRを経由しない。配管HPRは、「並列配管(バイパス経路)」と称呼される。
電磁弁VKCは、配管HKJの途中に設けられ、HKJの連通/悲連通の状態を切り替える。電磁弁VKCは、2ポート2位置の電磁弁であり、「加圧機構遮断弁」とも称呼される。加圧機構遮断弁VKCは、制御手段CTLにて形成される信号Skcによって駆動される。具体的には、VKCは、制御手段CTL内の診断処理ブロックSNDによって、装置の適正状態が肯定される場合(適正診断時)に、連通状態(開位置)にされ、装置の適正状態が否定される場合(不適診断時)に、非連通状態(閉位置)にされる。
開閉手段(電磁弁)VPRは、配管HPRの途中に設けられ、HPRの連通/悲連通の状態を切り替える。開閉手段VPRは、2ポート2位置の電磁弁であり、「並列配管遮断弁」とも称呼される。並列配管遮断弁VPRは、制御手段CTLにて形成される信号(開閉信号)Sprによって駆動される。
開閉手段VPRが連通状態(開位置)にある場合には、加圧機構KAKは、第1流体経路H1、及び、第2流体経路H2を介して、ホイールシリンダWCに接続される。この状態では、配管抵抗が小さく、液圧応答性が向上される。一方、開閉手段VPRが非連通状態(閉位置)にある場合には、加圧機構KAKは、第1流体経路H1を介してのみ、ホイールシリンダWCに接続される。アンチスキッド制御等の実行に好適な構成が形成され得る。
電磁弁VMCは、配管HMWの途中に設けられ、HMWの連通/悲連通の状態を切り替える。電磁弁VMCは、2ポート2位置の電磁弁であり、「マスタシリンダ遮断弁」とも称呼される。マスタシリンダ遮断弁VMCは、制御手段CTLにて形成される信号Smcによって駆動される。具体的には、VMCは、CTL内の診断処理ブロックSNDによって、装置の適正状態が肯定される場合(適正診断時)に、非連通状態(閉位置)にされ、装置の適正状態が否定される場合(不適診断時)に、連通状態(開位置)にされる。従って、ホイールシリンダWCは、適正時には加圧機構KAK(加圧シリンダKCL)に限って接続され、不適時にはマスタシリンダMCLに限って接続される。
電磁弁VSSは、マスタシリンダMCLとシミュレータSSMとを接続する経路内に設けられる。電磁弁VSSは、2ポート2位置の電磁弁であり、「シミュレータ遮断弁」とも称呼される。シミュレータ遮断弁VSSは、制御手段CTLにて形成される信号Sssによって駆動される。具体的にはVSSは、CTL内の診断処理ブロックSNDによって、装置の適正状態が肯定される場合(適正診断時)に、連通状態(開位置)にされ、装置の適正状態が否定される場合(不適診断時)に、非連通状態(閉位置)にされる。従って、適正時には、シミュレータSSMは、制動操作部材BPの反力発生機構として機能する。しかし、不適診断時には、シミュレータSSMは制動液BFLを消費せず、マスタシリンダMCLからの制動液量は、全てホイールシリンダWCに移動される。
調圧手段(液圧モジュレータ)MJRは、各車輪のホイールシリンダWC内の圧力を、運転者による制動操作部材BPの操作とは独立して、調整する。MJRは、アンチスキッド制御等の、所謂、ブレーキ制御を実行するためのアクチュエータである。調圧手段MJRは、電磁弁(ソレノイド)SOL、流体ポンプHPJ、電気モータMTJ、及び、低圧リザーバTARによって構成される。
電磁弁SOLは、増圧弁、及び、減圧弁の組み合わせで構成される。ホイールシリンダWCの圧力が減少される場合には、増圧弁が閉位置にされ、減圧弁が開位置にされる。これにより、加圧機構KAKから調圧手段MJR内への制動液BFLの流入が阻止され、ホイールシリンダWC内の制動液BFLが低圧リザーバTARに移動される。ホイールシリンダWCの圧力が増加される場合には、増圧弁が開位置にされ、減圧弁が閉位置にされる。そして、制動液BFLが、加圧機構KAKから、MJRを介して、ホイールシリンダWC内に移動される。流体ポンプHPJは、HPJ用の電気モータMTJによって回転駆動され、減圧時に低圧リザーバTAR内に溜まった制動液BFLを、増圧弁に対して上流側(増圧弁と加圧機構KAKとの間)に戻す。そして、戻された制動液BFLの圧力によって、アンチスキッド制御における再増圧が行われる。
緊急状態量取得手段JQAにて、緊急状態量Jqaが取得される。緊急状態量取得手段JQAには、衝突回避ブロックVXS、及び、逸脱回避ブロックVXRが含まれる。緊急状態量Jqaは、車両の緊急状態を表す状態量である。緊急状態量Jqaは、その値の大きさ(絶対値)が大きい程、車両の緊急状態が高い状態にある。例えば、緊急状態量Jqaは、通信バスCANを介して、取得され得る。
車両の緊急状態が、車両前方の障害物との衝突の可能性である場合には、衝突回避ブロックVXSにおいて、緊急状態量Jqaとして、衝突回避車速(目標値)Vxsと、自車両の速度(実際値)Vxaとの偏差ΔVxsが演算される。ここで、目標値Vxsは、障害物との衝突を回避するための目標車速である。衝突回避車速Vxsは、障害物と自車両との距離、及び、相対速度に基づいて演算される。なお、障害物と自車両との距離、及び、相対速度は、公知の方法(レーザセンサ、カメラ映像、等)によって取得される。前方障害物との衝突の可能性が高い場合には、緊急状態量Jqa(偏差ΔVxs)が、相対的に大きい値とされる。
車両の緊急状態が車両前方の走行路(例えば、カーブ)を逸脱する可能性である場合には、逸脱回避ブロックVXRにおいて、緊急状態量Jqaとして、適正車速(目標値)Vxrと、実際の車両速度Vxaとの偏差ΔVxrが演算される。例えば、目標値Vxrは、カーブを逸脱せずに安定して通過するための目標車速である。適正車速Vxrは、カーブ半径Rに基づいて演算される。なお、カーブ半径Rは、公知の方法(ナビゲーション装置、カメラ映像、等)によって取得される。車両が前方カーブを逸脱する可能性が高い場合には、緊急状態量Jqa(偏差ΔVxr)が、相対的に大きい値とされる。
<制御手段の処理>
次に、図2に示す機能ブロック図を参照して、制御手段CTLでの処理について説明する。制御手段CTLは、診断処理ブロックSND、指示圧力演算ブロックPCT、目標通電量演算ブロックIMT、判定演算ブロックHNE、及び、開閉駆動ブロックSPRにて構成される。制御手段CTLは、制御アルゴリズムであって、電子制御ユニットECU内のマイクロコンピュータにプログラムされている。
診断処理ブロックSNDは、装置全体の作動状態の適否を診断する。例えば、電気モータMTRの作動状態の適否は、電気モータMTRへの電力供給状態(例えば、供給電圧)、電気モータMTRを駆動する電子制御ユニットECUの作動状態、及び、電気モータMTRの制御に利用される状態量を取得する取得手段(MKA等)の作動状態のうちの少なくとも1つに基づいて診断される。
診断処理ブロックSNDは、初期診断ブロックSHK、及び、作動監視ブロックKNCにて構成される。診断処理ブロックSNDは、制御アルゴリズムであって、電子制御ユニットECU内のマイクロコンピュータにプログラムされている。初期診断ブロックSHKでは、制動装置の作動が開始される前の初期診断(所謂、イニシャルチェック)が実行される。また、作動監視ブロックKNCでは、システム全体の作動が常時、監視され、診断される。
初期診断ブロックSHKでは、制動制御装置への電力供給状態、電子制御ユニットECU自身の診断(例えば、メモリ診断)、電気モータMTR、ブリッジ回路、通電量取得手段IMA、回転角取得手段MKA、電磁弁(VMC等)、及び、液圧取得手段(PMC等)のうちの少なくとも1つの診断(作動確認)が実行される。ここで、ブリッジ回路は、電気モータMTRを駆動するための電気回路である。ブリッジ回路には、電気モータMTRへの通電量(実際値)Imaを取得するための通電量取得手段IMA(例えば、電流センサ)が設けられる。
初期診断ブロックSHKでは、具体的には、電子制御ユニットECUに供給される電圧が、所定電圧vl0未満の状態から、所定電圧vl0以上の状態に遷移した時点(制御装置の起動時)において、初期診断のトリガ信号に基づいて、上記の各機能のうちの少なくとも1つのイニシャルチェックが実行される。例えば、トリガ信号は、通信バスCANから受信される信号に基づいて決定される。
初期診断(イニシャルチェック)においては、初期診断ブロックSHKからブリッジ回路、及び、各電磁弁に向けて、診断用の駆動信号が送信される。そして、その結果として、通電量取得手段IMA、回転角取得手段MKA、及び、液圧取得手段(PMC等)の取得結果(各センサの検出結果)のうちの少なくとも1つの変化が、初期診断ブロックSHKにて受信される。この受信結果に基づいて、ブリッジ回路(即ち、スイッチング素子)、電気モータMTR、電磁弁、通電量取得手段IMA、回転角取得手段MKA、及び、液圧取得手段のうちの少なくとも1つの機能が、正常に作動し得る状態であるか、否かが診断される。万一、機能(作動)に不都合が存在する場合には、不適状態を表す信号が出力されるとともに、予め設定される処置(例えば、運転者への報知と作動の制限又は停止)が行われる。
同様に、作動監視ブロックKNCでも、制動制御装置への電力供給状態、ブリッジ回路(即ち、スイッチング素子)、電気モータMTR、電磁弁、通電量取得手段IMA、回転角取得手段MKA、及び、液圧取得手段のうちの少なくとも1つの機能が、正常に作動し得る状態であるか、否かが診断される。これらの構成要素の診断は、電気モータMTR、及び、電磁弁の目標値と、その結果(実際値)との比較に基づいて、適否の決定が行われる。具体的には、目標値と実際値との偏差が予め設定された所定値未満の場合には適正状態が判定され、該偏差が所定値以上の場合に不適状態が判定される。各構成要素(MTR等)の機能に不適状態が存在する場合には、SHKでの演算処理と同様に、不適状態を表す信号が出力されるとともに、予め設定される処置(例えば、運転者への報知と作動の制限又は停止)が行われる。
初期診断ブロックSHK、及び、作動監視ブロックKNCの全てが、「適正」を判定している場合に、診断処理ブロックSNDは、「適正状態」を決定する。適正状態が決定されている場合が、「適正診断時」と称呼される。一方、初期診断ブロックSHK、及び、作動監視ブロックKNCのうちの少なくとも1つが、「不適(適正状態を否定)」を判定している場合に、診断処理ブロックSNDは、「不適状態」を決定する。不適状態が決定されている場合が、「不適診断時」と称呼される。
診断処理ブロックSNDからは、電磁弁VMC,VSS,VKCを駆動するための信号(駆動信号)が、駆動手段DRVに送信される。具体的には、電磁弁VMCの駆動信号Smcとして、適正判断時には、VMCが非連通状態(閉位置)にされ、不適状態時には、VMCが連通状態(開位置)にされるものが、診断処理ブロックSNDから駆動手段DRVに向けて送信される。
また、電磁弁VSSの駆動信号Sssとして、適正判断時には、連通状態(開位置)にされ、不適判断時には、非連通状態(閉位置)にされるものが、診断処理ブロックSNDから駆動手段DRVに向けて送信される。同様に、電磁弁VKCの駆動信号Skcとして、適正判断時には、連通状態(開位置)にされ、不適判断時には、非連通状態(閉位置)にされるものが、診断処理ブロックSNDから駆動手段DRVに向けて送信される。
指示液圧演算ブロックPCTでは、制動操作量Bpa、及び、演算特性(演算マップ)CHpcに基づいて、指示液圧Pctが演算される。ここで、指示液圧Pctは、加圧機構KAKによって発生される制動液圧の目標値である。具体的には、演算特性CHpcにおいて、操作量Bpaがゼロ(制動操作が行われていない場合に相当)以上から所定値bp0未満の範囲では指示液圧Pctが「0(ゼロ)」に演算され、操作量Bpaが所定値bp0以上では指示液圧Pctが「0」から単純増加するように演算される。
また、指示液圧Pctは、緊急状態量Jqaに基づいて演算され得る。この場合においても、制動操作量Bpaの場合と同様に、緊急状態量Jqaが「0(ゼロ)」以上から所定値bp0未満の範囲では指示液圧Pctが「0」に演算され、Jqaが所定値bp0以上では指示液圧Pctが「0」から単純増加するように演算される。
目標通電量演算ブロックIMTでは、指示液圧Pct等に基づいて、加圧機構KAKを駆動する電気モータMTRの目標通電量Imt(MTRを制御するための通電量の目標値)が演算される。ここで、「通電量」とは、電気モータMTRの出力トルクを制御するための状態量(変数)である。電気モータMTRは電流に概ね比例するトルクを出力するため、通電量の目標値(目標通電量)として電気モータMTRの電流目標値が用いられ得る。また、電気モータMTRへの供給電圧を増加すれば、結果として電流が増加されるため、目標通電量として供給電圧値が用いられ得る。さらに、パルス幅変調におけるデューティ比によって供給電圧値が調整され得るため、このデューティ比(一周期における通電時間の割合)が通電量として用いられ得る。
目標通電量演算ブロックIMTでは、電気モータMTRの回転すべき方向(即ち、液圧の増減方向)に基づいて、目標通電量Imtの符号(値の正負)が決定され、電気モータMTRの出力すべき回転動力(即ち、液圧の増減量)に基づいて、目標通電量Imtの大きさが演算される。具体的には、制動液圧を増加する場合には、目標通電量Imtの符号が正符号(Imt>0)に演算され、電気モータMTRが正転方向Fwdに駆動される。一方、制動液圧を減少させる場合には、目標通電量Imtの符号が負符号(Imt<0)に決定され、電気モータMTRが逆転方向Rvsに駆動される。さらに、目標通電量Imtの絶対値が大きいほど電気モータMTRの出力トルク(回転動力)が大きくなるように制御され、Imtの絶対値が小さいほど出力トルクが小さくなるように制御される。
目標通電量演算ブロックIMTでは、加圧機構KAKにおける、目標値Pctと実際値Pcaとの偏差ΔPcに基づいて、フィードバック制御が実行され得る。具体的には、目標通電量Imtが、偏差ΔPcに基づいて調整される。なお、実際値Pcaは、圧力取得手段PCAによって取得(検出)される。
運転状態量取得手段DJAとして、車輪速度取得手段VWA、緊急状態量取得手段JQA、及び、操作量取得手段BPAのうちの少なくとも1つが採用される。従って、運転状態量Djaは、車輪速度Vwa、緊急状態量Jqa、及び、制動操作量Bpaのうちの少なくとも1つである。後述する判定演算ブロックHNEにて、運転状態量Djaに基づいて、開閉手段(電磁弁)VPRの位置を開位置(配管HPRの連通状態)とするか、閉位置(配管HPRの遮断状態)とするか、が決定される。
判定演算ブロックHNEは、アンチスキッド制御ブロックASC、緊急状態判定演算ブロックKQJ、及び、急操作判定ブロックQSSにて構成される。判定演算ブロックHNE(ASC,KQJ,QSS)から開閉駆動ブロックSPRに向けて、判定結果(制御フラグ)FLa,FLq,FLbが送信される。
アンチスキッド制御ブロックASCでは、車輪速度Vwaに基づいて、公知のアンチスキッド制御が実行される。そして、「アンチスキッド制御が実行中であるか、否か」の判定結果が、制御フラグFLaとして、判定演算ブロックHNEから開閉駆動ブロックSPRに向けて送信される。アンチスキッド制御の実行中には(即ち、アンチスキッド制御が開始された後は)、制御実行を表現する制御フラグFLa=1が、開閉駆動ブロックSPRに送信される。アンチスキッド制御が実行されない場合には、制御フラグFLa=0が送信されている。
具体的には、アンチスキッド制御ブロックASC内の、スリップ量演算ブロックSLPにて、車輪のスリップ量Slpが演算される。スリップ量Slpは、車輪スリップ速度Vsl、及び、車輪減速度dVwのうちの少なくとも1つに基づいて演算される。ここで、車輪スリップ速度Vslは、車両速度(車体速度)Vxaと車輪速度Vwaとの偏差に基づいて演算される。また、車輪減速度dVwは、車輪速度Vwaが微分されて演算される。
車輪スリップ量Slpが所定量sp0未満の場合には、アンチスキッド制御は開始されず、スリップ量Slpが所定量sp0以上の場合に、アンチスキッド制御の実行が開始される。アンチスキッド制御の実行開始時点に、制御フラグFLaが「0」から「1」に変更される。
アンチスキッド制御用の制御フラグFLaを決定する際のしきい値(開始条件)として、値sp0よりも小さい所定量spx(<sp0)が採用され得る。即ち、「Slp<spx」の状態から「Slp≧spx」の状態に変更された時点で、制御フラグFLaが「0」から「1」に切り替えられる。このため、アンチスキッド制御が実際に開始される直前(事前)に、開閉手段VPRが連通状態から非連通状態に変更される。
急操作判定ブロックQSSでは、「運転者による制動操作部材BPの操作が急操作であるか、否か」が判定される。そして、急操作である場合(急操作が肯定される場合)には、制御フラグFLb=1が出力され、急操作ではない場合(急操作が否定される場合)には、制御フラグFLb=0が出力される。
具体的には、急操作判定ブロックQSS内の操作変化量演算ブロックDBPにて、制動操作量Bpaに基づいて、制動操作量Bpaの時間変化量(操作変化量)dBpが演算される。操作変化量dBpが所定変化量db0以上の場合には、急操作が肯定され、制御フラグFLb=1が決定される。一方、操作変化量dBpが所定変化量db0未満の場合には、急操作が否定され、制御フラグFLb=0が決定される。
緊急状態判定ブロックKQJでは、緊急状態量Jqaに基づいて、「車両が緊急状態にあるか、否か」が判定される。そして、緊急状態にある場合(緊急状態が肯定される場合)には、制御フラグFLq=1が出力され、緊急状態にはない場合(緊急状態が否定される場合)には、制御フラグFLq=0が出力される。
緊急状態量取得手段JQAにて、緊急状態量Jqaが取得される。緊急状態量Jqaは、車両の緊急状態を表す状態量である。具体的には、車両の緊急状態とは、前方障害物との衝突の可能性が高いこと、及び、前方の走行車線を逸脱する可能性が高いことのうちの少なくとも1つである。緊急状態量Jqaは、その値の大きさ(絶対値)が大きい程、車両の緊急状態が高い状態にある。例えば、緊急状態量Jqaは、通信バスCANを介して、他の装置(衝突回避システム、ナビゲーション装置、等)から取得され得る。
緊急状態量Jqaが、所定量jq0未満の場合には、車両は緊急状態にはなく、制御フラグFLq=0とされる。一方、Jqaが所定量jq0以上となる場合には、車両が緊急状態にあると判定され、制御フラグFLq=1が決定される。車両の通常走行状態においては、制御フラグFLq=0が決定されているが、前方障害物との衝突可能性が高まった場合、又は、車両前方の走行路の逸脱可能性が高まった場合に、制御フラグFLq=1に変更される。
開閉駆動ブロックSPRでは、判定演算ブロックHNEからの信号(FLa等)に基づいて、後述する開閉手段(電磁弁)VPRが連通状態にされるか、非連通状態にされるか、を指示する駆動信号(開閉信号)Sprが決定される。具体的には、アンチスキッド制御ブロックASCからの判定結果FLa、急操作判定ブロックQSSからの判定結果FLb、及び、緊急状態判定ブロックKQJからの判定結果FLqのうちの少なくとも1つに基づいて、開閉信号Sprが演算される。開閉信号Sprは、駆動手段DRVに出力される。
以下、開閉駆動ブロックSPRでの開閉信号Sprの決定処理について説明する。FLa=0の場合には、開閉信号Sprとして、開閉手段VPRの連通状態を指示する信号(連通指示)が決定される。一方、FLa=1の場合には、開閉信号Sprとして、開閉手段VPRの非連通状態を指示する信号(非連通指示)が決定される。即ち、制御フラグFLaが、「0」から「1」に切り替えられる時点で、駆動信号Sprが、連通指示から非連通指示に変更される。これにより、アンチスキッド制御が実行される場合には、第2流体経路H2が閉じられる。
FLb=0の場合には、開閉信号Sprとして、開閉手段VPRの非連通状態を指示する信号(非連通指示)が決定される。一方、FLb=1の場合には、開閉信号Sprとして、開閉手段VPRの連通状態を指示する信号(連通指示)が決定される。即ち、制御フラグFLbが、「0」から「1」に切り替えられる時点で、駆動信号Sprが、非連通指示から連通指示に変更される。これにより、制動操作部材BPの急操作が行われる場合には、第2流体経路H2が開かれる。
FLq=0の場合には、開閉信号Sprとして、開閉手段VPRの非連通状態を指示する信号(非連通指示)が決定される。一方、FLq=1の場合には、開閉信号Sprとして、開閉手段VPRの連通状態を指示する信号(連通指示)が決定される。即ち、制御フラグFLqが、「0」から「1」に切り替えられる時点で、駆動信号Sprが、非連通指示から連通指示に変更される。これにより、車両の緊急状態が高まる場合には、第2流体経路H2が開かれる。
判定演算ブロックHNEでの判定結果(即ち、制御フラグ)の優先順位において、FLb、及び、FLqよりも、FLaの方が優先される。具体的には、FLb、及び、FLqのうちの少なくとも1つによって、開閉手段VPRが連通状態にされていても、FLaによって、VPRの非連通指示が行われる場合には、VPRは非連通状態に変更される。例えば、制動操作部材BPの急操作によってアンチスキッド制御が実行された場合であっても、確実に、該制御が実行され得る。
例えば、開閉手段VPRとして、常時開型(NO型)の電磁弁が採用される場合、FLb(又は、FLq)が「1」であることに基づいて、VPRが非励磁状態にされ、H2が連通状態にされる。この状況下で、アンチスキッド制御が開始された(又は、開始される蓋然性が高まった)時点で、FLaが「0」から「1」に変更されることに基づいて、VPRが励磁され、H2が非連通状態にされる。逆に、VPRとして常時閉型(NC型)が採用される場合には、FLb=1(又は、FLq=1)に基づいて、VPRが励磁状態にされ、H2が連通状態にされている状況下で、FLaが「0」から「1」に変更されることに基づいて、VPRが非励磁とされ、H2が非連通状態にされる。
開閉手段(電磁弁)VPRは、配管HPRに設けられ、駆動信号(開閉信号)Sprに基づいて、HPRの連通/悲連通の状態を切り替える。開閉手段VPRが連通状態(開位置)にある場合には、加圧機構KAKは、第1流体経路H1、及び、第2流体経路H2を介して、ホイールシリンダWCに接続される。この状況では、配管抵抗が小さく、液圧応答性が向上される。開閉手段VPRが非連通状態(閉位置)にある場合には、加圧機構KAKは、第1流体経路H1を介してのみ、ホイールシリンダWCに接続される。アンチスキッド制御等の実行に好適な構成が形成され得る。
電磁弁VKCは、配管HKJに設けられ、駆動信号Skcに基づいて、HKJの連通/悲連通の状態を切り替える。具体的には、VKCは、CTL内の診断処理ブロックSNDによって、装置の適正状態が肯定される場合(適正時)に、連通状態(開位置)にされ、装置の適正状態が否定される場合(不適時)に、非連通状態(閉位置)にされる。
電磁弁VMCは、配管HMWに設けられ、駆動信号Smcに基づいて、HMWの連通/悲連通の状態を切り替える。具体的には、VMCは、CTL内の診断処理ブロックSNDによって、装置の適正状態が肯定される場合(適正状態時)に、非連通状態(閉位置)にされ、装置の適正状態が否定される場合(不適状態時)に、連通状態(開位置)にされる。従って、ホイールシリンダWCは、適正時には加圧機構KAK(加圧シリンダKCL)に限って接続され、不適時にはマスタシリンダMCLに限って接続される。
電磁弁VSSは、マスタシリンダMCLとシミュレータSSMとを接続する経路内に設けられ、駆動信号Sssに基づいて、MCLとSSMとの連通/悲連通の状態を切り替える。具体的には、VSSは、CTL内の診断処理ブロックSNDによって、装置の適正状態が肯定される場合(適正状態時)に、連通状態(開位置)にされ、装置の適正状態が否定される場合(不適状態時)に、非連通状態(閉位置)にされる。従って、適正時には、シミュレータSSMは機能する。しかし、不適状態時には、シミュレータSSMは制動液BFLを消費せず、マスタシリンダMCLからの制動液量は、全てホイールシリンダWCに移動される。
制御手段CTLからの信号(Imt、Spr等)に基づいて、駆動手段(駆動回路)DRVによって、電気モータMTR、及び、電磁弁(VPR等)が駆動される。駆動手段DRVは、電子制御ユニットECU内に構成される。また、駆動手段DRVは、各要素(MTR、VPR、等)に内蔵され得る。
電気モータMTRは、目標通電量演算ブロックIMTからの目標通電量Imtに基づいて、駆動手段DRVによって駆動される。具体的には、DRV内には、MTRを駆動するため、複数のスイッチング素子(例えば、MOS−FET)によって、ブリッジ回路(モータドライバ回路)が形成されている。目標通電量Imtに基づいて、これらのスイッチング素子の通電/非通電が切り替えられて、電気モータMTRが回転駆動される。駆動手段DRVのブリッジ回路には、MTRへの通電量Imaを検出する通電量取得手段IMAが設けられる。
電磁弁(開閉手段)VPRは、開閉駆動ブロックSPRからの駆動信号Sprに基づいて、駆動手段DRVによって駆動される。また、電磁弁VKC,VMC,VSSは、診断処理ブロックSNDからの信号Skc,Smc,Sssに基づいて、駆動手段DRVによって駆動される。具体的には、DRV内には、電磁弁を駆動するためのソレノイドドライバが設けられ、この通電/非通電が切り替えられて、電磁弁が駆動される。
上記と同様に、調圧手段MJR内の電磁弁(増圧弁、及び、減圧弁)SOL、及び、電気モータMTJは、アンチスキッド制御ブロックASCからの駆動信号Sasに基づいて、駆動手段DRVによって駆動される。
<加圧機構KAK>
次に、図3の部分断面図を参照して、加圧機構KAKについて説明する。加圧機構KAKは、制動操作量Bpaに基づいて、ホイールシリンダWCの液圧を調整する。加圧機構KAKは、電気モータMTR、動力伝達機構DDB、加圧シリンダKCL、加圧ピストンKPS、及び、戻しばねDSBにて構成される。
電気モータMTRは、電子制御ユニットECUによって制御され、4輪の各ホイールシリンダWCの液圧を調整するための動力を発生する。電気モータMTRとして、ブラシ付モータ、又は、ブラシレスモータが採用され得る。電気モータMTRには、ステータ(固定子)に対するロータ(回転子)の位置(回転角)Mkaを取得する回転角取得手段MKAが設けられる。なお、電気モータMTRの回転方向において、正転方向Fwdが、ホイールシリンダWCの液圧が増加する方向(即ち、制動トルクが増加する方向)に相当し、逆転方向Rvsが、ホイールシリンダWCの液圧が減少する方向(即ち、制動トルクが減少する方向)に相当する。
動力伝達機構DDBは、電気モータMTRの出力(回転動力)を加圧ピストンKPSの直線動力に変換して伝達する。動力伝達機構DDBは、減速機GSK、及び、ねじ部材NJBにて構成される。
減速機GSKは、電気モータMTRの動力において、回転速度を減じて、ねじ部材NJBに出力する。即ち、電気モータMTRの回転出力(トルク)が、減速機GSKの減速比に応じて増加され、ねじ部材NJBに回転力(トルク)として伝達される。例えば、減速機GSKは、小径歯車SKH、及び、大径歯車DKHにて構成される。
減速機GSKとして、歯車伝達機構に代えて、ベルトを用いた巻き掛け伝達機構が採用され得る。この場合、大径歯車DKH、小径歯車SKHに代えて、大径プーリ、小径プーリの組が採用される。ベルト伝達機構の採用によって、2つの軸間の距離が拡大されるとともに、減速比が大きく設定され得る。この結果、電気モータMTRとして、高回転・小トルク型の電気モータが採用され、装置が小型化され得る。加えて、歯車の歯打ち音等が回避され、装置の静粛性が向上され得る。
動力伝達機構DDBのねじ部材NJBは、回転動力を、直線動力に変換する部材(回転・直動変換機構)である。ねじ部材NJBは、ナット部材NUT、及び、ボルト部材BLTにて構成される。ボルト部材BLTは、大径歯車DKHに同軸(軸Jkc)で固定されている。ナット部材NUTの外周部、及び、加圧シリンダKCLの内周部には、キー溝が形成される。キー部材KYBが、キー溝に嵌合されることによって、ナット部材NUTは、中心軸Jkcまわりの回転運動は制限されるが、中心軸Jkcの方向(キー溝の長手方向)の直線運動は許容される。ナット部材NUTの直線運動によって、加圧ピストンKPSが、加圧シリンダKCLに対して移動される。
ねじ部材NJBには、可逆性があり(逆効率をもつ)、双方向に動力伝達が可能である。即ち、ホイールシリンダWC内の圧力が増加される場合(制動トルクが増加される場合)、ねじ部材NJBを通して、電気モータMTRから加圧ピストンKPSへ動力が伝達される。逆に、ホイールシリンダWC内の圧力が減少される場合(制動トルクが減少される場合)、ねじ部材NJBを介して、加圧ピストンKPSから電気モータMTRへ動力が伝達される(このとき、逆効率が「0」よりも大きい)。
ねじ部材NJBは、「滑り」によって動力伝達が行われる滑りねじ(台形ねじ等)によって構成される。この場合には、ナット部材NUTには、めねじ(内側ねじ)MNJが設けられる。ボルト部材BLTには、おねじ(外側ねじ)ONJが設けられ、NUTのMNJと螺合される。減速機GSKから出力される回転動力(トルク)は、ねじ部材NJB(ONJとMNJ)を介して、加圧ピストンKPSの直線動力(推力)として伝達される。
滑りねじに代えて、ねじ部材NJBには、「転がり」によって動力伝達が行われる転がりねじ(ボールねじ等)が採用され得る。この場合、ナット部材、及び、ボルト部材には、ボール溝が設けられる。このボール溝にはめ合わされるボール(鋼球)を介して、動力伝達が行われる。動力伝達機構DDBの回転・直動変換機構として、ねじ部材NJBに代えて、ボールランプ部材、回転クサビ部材、ラック&ピニオン部材等の変換機構が採用され得る。
マスタシリンダMCLの構造と同様に、加圧シリンダKCLの内部は、加圧ピストンKPSよって、流体室Rkcに区画されている。流体室Rkcは、制動トルクの発生が不要である場合(例えば、制動操作部材BPの非操作時)には、リリーフポートPRK、及び、流体配管HRKを通して、マスタリザーバRSVに連通されている。
車輪の制動トルクが増加される場合には、電気モータMTRが正転方向Fwdに駆動されることによって、ナット部材NUTが、加圧ピストンKPSを押し、KPSが移動される。加圧ピストンKPSの外周部にはプライマリシール(加圧シリンダKCLの内周部と接触して、液圧を保持するためのカップ状のゴムシール)GCPが設けられる。加圧シリンダKCL内にて加圧ピストンKPSが前進方向(図3で左方向)に移動されるに伴って、プライマリシール(カップシール)GCPによってリリーフポートPRKが塞がれて、流体室RkcとリザーバRSVとの連通状態が妨げられる(非連通状態となる)。
さらに、加圧ピストンKPSが前進方向に移動されると、流体室Rkcの体積が減少され、制動液(ブレーキフルイド)BFLが、流体室Rkcから、4輪のホイールシリンダWCに向けて排出され、ホイールシリンダWCの液圧が増加される。即ち、流体室Rkcの出力ポートPKJから、流体配管HKJに、制動液BFLが圧送される。ここで、加圧ピストンKPSの前進方向は、流体室Rkcの体積を減少させる方向であり、電気モータMTRの正転方向Fwdに対応する。
車輪の制動トルクが減少される場合には、電気モータMTRが逆転方向Rvsに駆動され、加圧ピストンKPSが、後退方向(前進方向とは逆方向であり、図3で右方向)に移動され、元の位置(流体室RkcがリザーバRSVと連通される初期位置)に向けて戻される。加圧ピストンKPSの移動によって、流体室Rkcの体積が増加され、制動液BFLがホイールシリンダWCから加圧シリンダKCL内に戻され、ホイールシリンダWCの液圧が減少される。ここで、加圧ピストンKPSの後退方向は、流体室Rkcの体積を増加させる方向であり、電気モータMTRの逆転方向Rvsに対応する。
加圧機構KAKには、加圧ピストンKPSを初期位置(流体室RkcとリザーバRSVとが連通する位置)に戻すよう、戻しばねDSBが設けられる。戻しばねDSBによって、電気モータMTRへの通電が停止される場合であっても、加圧ピストンKPSは初期位置まで戻され得る。
また、加圧シリンダKCLの内部には、加圧ピストンKPS、プライマリシールGCP、及び、セカンダリシールGCSによって区画された、リザーバ接続室Rrsが形成される。ここで、プライマリシールGCP、及び、セカンダリシールGCSは、カップ形状をもつシール部材である。リザーバ接続室Rrsは、リザーバポートPRR、及び、配管HRKを介して、リザーバRSVに接続されている。従って、リザーバ接続室Rrsの内部は、常に大気圧となっている。
プライマリシールGCPのシール性は、加圧ピストンKPSの移動方向に依存する。加圧ピストンKPSが前進方向(図3の左方向)に移動される場合には、カップシールGCPはシール機能(液体が漏れないようにする機能)をもち、ホイールシリンダWCの液圧を上昇させる。一方、加圧ピストンKPSが後退方向(図3の右方向、KPSの中心軸方向において前進方向とは反対の方向)に移動される場合には、リザーバ接続室Rrs(即ち、リザーバRSV)から流体室Rkcの内部にプライマリシールGCPのリップ部を介して、制動液BFLの移動が許容され得る。
一方、セカンダリシールGCSのシール機能は、加圧ピストンKPSの移動方向に依存することなく発揮される。従って、流体室Rkc、及び、リザーバ接続室Rrsから、制動液BFLがねじ部材NJBの側に漏れることはない。
<本発明に係る制動制御装置の第2実施形態>
次に、図4を参照して、本発明に係る制動制御装置の第2実施形態について説明する。第1実施形態と同じ記号をもつ部材(MCL等)は、第2実施形態においても同一の機能を有する。第1実施形態とは異なる部分を主として説明する。
上述した第1実施形態においては、開閉手段(例えば、2ポート2位置電磁弁)VPRによって、流体経路として、「H1のみ」の状態、及び、「H1+H2」の状態のうちの何れか一方の状態が形成されている。一方、第2実施形態では、流体経路として、「H1のみ」の状態、及び、「H2のみ」の状態のうちの何れか一方の状態が形成される。具体的には、開閉手段VPRに代えて、電磁弁(加圧機構遮断弁)VKCと調圧手段(液圧モジュレータ)MJRとの間の流体経路HABに、選択手段SNT(開閉手段に相当)が設けられる。選択手段SNTは、3ポート2位置の電磁弁(切替弁)であり、駆動信号Ssnによって制御される。
次に、図2の機能ブロック図を参照して、選択駆動ブロックSSNからの駆動信号Ssnについて説明する。図2において、駆動信号Ssnに係る処理は、破線にて示される部分である。即ち、第2実施形態では、電子制御ユニットECUにおいて、開閉駆動ブロックSPRが省略されて、代わりに、選択駆動ブロックSSNが設けられる。第1実施形態と同様に、判定演算ブロックHNEからは、HNEでの判定結果を表す制御フラグ(FLa、FLb、及び、FLqのうちの少なくとも1つ)が、選択駆動ブロックSSNに送信される。
アンチスキッド制御ブロックASCから、アンチスキッド制御の実行の有無を表す制御フラグFLaが、選択駆動ブロックSSNに出力される。具体的には、アンチスキッド制御の実行が肯定される場合に制御フラグFLaが「1」に決定され、制御実行が否定される場合に制御フラクFLaが「0」に決定される。従って、制御フラグFLa(判定結果)が「0(非実行)」から「1(実行)」に変更された時点が、アンチスキッド制御の実行開始時点に相当する。
緊急状態判定ブロックKQJから、「車両が緊急状態にあるか、否か」を表す制御フラグFLqが、選択駆動ブロックSSNに出力される。具体的には、緊急状態が肯定される場合に制御フラグFLqが「1」に決定され、緊急状態が否定される場合にFLqが「0」に決定される。従って、制御フラグFLqが「0(通常状態)」から「1(緊急状態)」に変更された時点が、車両が緊急状態になった時点に相当する。
急操作判定ブロックQSSから、「運転者による制動操作部材BPの操作が急操作であるか、否か」を表す制御フラグFLbが、選択駆動ブロックSSNに出力される。急操作が肯定される場合に制御フラグFLbが「1」に決定され、急操作が否定される場合にFLbが「0」に決定される。従って、制御フラグFLbが「0(通常操舵)」から「1(急操舵)」に変更された時点が、制動操作部材BPの急操作が開始された時点に相当する。
開閉駆動ブロックSPRと同様に、選択駆動ブロックSSNでは、制御フラグFLa、FLb、及び、FLqのうちの少なくとも1つに基づいて、選択手段SNT(開閉手段に相当)に対する駆動信号(選択信号)Ssnが決定され、駆動手段DRVに出力される。選択信号Ssnには、選択手段SNTに第1流体経路H1を選択させる第1位置信号sn1、及び、選択手段SNTに第2流体経路H2を選択させる第2位置信号sn2がある。即ち、第1位置信号sn1が決定される場合には、調圧手段MJRを経由する第1流体経路H1が選択され、第2位置信号sn2が決定される場合には、調圧手段MJRを経由しない第2流体経路H2が選択される。
次に、選択駆動ブロックSSNでの選択信号Ssnの決定処理について説明する。FLa=0の場合には、選択信号Ssnとして、選択手段(例えば、3ポート2位置の電磁弁)SNTの第2位置を指示する駆動信号(第2位置信号sn2)が決定される。一方、FLa=1の場合には、選択信号Ssnとして、SNTの第1位置を指示する駆動信号(第1位置信号sn1)が決定される。即ち、制御フラグFLaが、「0」から「1」に切り替えられる時点で、駆動信号Ssnが、第2位置信号sn2から第1位置信号sn1に変更される。これにより、アンチスキッド制御が実行される場合には、選択手段SNTによって、第1流体経路H1が選択される。
FLb=0の場合には、選択信号Ssnとして、選択手段SNTの第1位置を指示する駆動信号(第1位置信号sn1)が決定される。一方、FLb=1の場合には、選択信号Ssnとして、SNTの第2位置を指示する駆動信号(第2位置信号sn2)が決定される。即ち、制御フラグFLbが、「0」から「1」に切り替えられる時点で、選択信号Ssnが、第1位置信号sn1から第2位置信号sn2に変更される。これにより、制動操作部材BPの急操作が行われる場合には、選択手段SNTによって、第2流体経路H2が選択される。
FLq=0の場合には、選択信号Ssnとして、選択手段SNTの第1位置を指示する駆動信号(第1位置信号sn1)が決定される。一方、FLq=1の場合には、選択信号Ssnとして、SNTの第2位置を指示する駆動信号(第2位置信号sn2)が決定される。即ち、制御フラグFLqが、「0」から「1」に切り替えられる時点で、選択信号Ssnが、第1位置信号sn1から第2位置信号sn2に変更される。これにより、車両の緊急状態が高まる場合には、選択手段SNTによって、第2流体経路H2が選択される。
判定演算ブロックHNEに判定結果(即ち、制御フラグ)の優先順位において、FLb、及び、FLqよりも、FLaの方が優先される。具体的には、FLb、及び、FLqのうちの少なくとも1つによって、選択手段SNTが第2位置(流路H2の採用)にされていても、FLaによって、SNTの第1位置(流路H1の採用)が行われる場合には、SNTは第1位置に変更される。例えば、制動操作部材BPの急操作によってアンチスキッド制御が実行された場合であっても、確実に、該制御が実行され得る。
例えば、選択手段SNTとして、非励磁状態で第1位置(流路H1に対応)となる2位置弁が採用される場合、制御フラグFLb(又は、FLq)が「1」であることに基づいて、SNTが励磁状態にされ、加圧機構KAKからホイールシリンダWCへの流体経路として流路H2が採用される。この状況下で、アンチスキッド制御が開始された(又は、開始される蓋然性が高まった)時点で、FLaが「0」から「1」に変更されることに基づいて、選択手段SNTが非励磁にされ、加圧機構KAKからホイールシリンダWCへの流体経路が、流路H2から流路H1に変更される。逆に、非励磁状態で第2位置(流路H2に対応)となるSNTが採用される場合には、FLb=1(又は、FLq=1)に基づいて、SNTが非励磁状態とされ、H2が選択されている状況下で、FLa=1に基づいて、SNTが励磁され、H1が採用される。
<効果>
車輪ロックを防止するアンチスキッド制御等を実行するための調圧手段(液圧モジュレータ)MJRは、複数の絞り要素(オリフィス、電磁弁等)を含んで構成される。電気モータを介して、ホイールシリンダの液圧を増加するオンディマンド型の加圧機構(運転者等の要求に応じて加圧するもの)が、制動制御装置に採用される場合、これらの絞り要素の流体抵抗によって、電気モータの動力が消費されるため、その抵抗を補償する分の出力増加が、電気モータには必要となる。本発明は、係る知見に基づく。
本発明では、調圧手段MJRを経由する第1流体経路H1と、MJRを経由しない第2流体経路H2(H1と並行した並列流路)とが設けられる。さらに、流路H2には、H2の連通状態を切り替える開閉手段VPRが設けられる。換言すれば、VPRによって、H2が連通されている状態と、遮断されている状態とが切り替えられる。H2が連通状態にある場合には、加圧機構KAKからホイールシリンダWCへは、H1及びH2を介して、制動液BFLが供給される。一方、H2は遮断状態(非連通状態)にある場合には、加圧機構KAKからホイールシリンダWCへの制動液BFLの供給は、H1のみを介して行われる。
電磁弁VPRの開閉は、アンチスキッド制御の実行状態、車両の緊急状態、及び、制動操作部材の操作状態のうちの少なくとも1つに基づいて決定される。
〔アンチスキッド制御の実行状態〕
アンチスキッド制御では、車輪速度Vwaに基づいて車輪スリップ量Slp(車輪のスリップ状態を表す状態変数)が演算される。車輪スリップ量Slpが所定スリップ量(しきい値)slp0未満の場合にはアンチスキッド制御は実行されず、制御フラグFLaは「0(非実行)」とされる。車輪スリップ量Slpがしきい値(所定値)slp0以上の条件を満足する時点で、アンチスキッド制御が開始され、制御フラグFLaが「1(実行)」に変更される。アンチスキッド制御が実行される場合には、開閉手段VPRが閉位置にされ、加圧機構KAKからホイールシリンダWCへの流路は、第1流体経路H1のみとされる。このため、調圧手段MJRにて、確実なアンチスキッド制御が実行される。一方、アンチスキッド制御が実行されない場合には、開閉手段VPRは開位置にされ、加圧機構KAKからホイールシリンダWCへの流路は、第1、第2流体経路H1,H2の2つの流路で形成される。このため、制動操作部材BPの急操作等があった場合に、高い応答性を持ってホイールシリンダWCの圧力が上昇され得る。
また、アンチスキッド制御のしきい値(制御開始条件)sp0よりも小さい値spxが採用されて、制御フラグFLaが決定され得る(spx<sp0)。具体的には、車輪スリップ量Slpが所定スリップ量(所定値)spxを超過した時点で、FLaが「0」から「1」に変更される。アンチスキッド制御は未だ開始されていないが、その開始の蓋然性が高まった場合に、開閉手段VPRが閉位置とされ、より確実なアンチスキッド制御が実行され得る。
表1に、駆動手段DRVによって実行される、開閉手段VPR、及び、選択手段SNT(開閉手段に相当)のタイプ(型式)に応じた駆動状態(電磁弁の励磁/非励磁)についてまとめる。例えば、開閉手段VPRとして、常時開型の電磁弁(所謂、NO弁)が採用される場合、アンチスキッド制御の実行が肯定されるときにはVPRは励磁状態にされ、閉位置(非連通状態)に駆動される。一方、アンチスキッド制御の実行が否定されるときにはVPRは非励磁状態にされ、開位置(連通状態)にされる。また、選択手段SNTにおいて、「常時に第1位置(流路H1を接続)」のものが採用される場合には、アンチスキッド制御の実行が肯定されるときにはSNTは非励磁状態にされ、アンチスキッド制御の実行が否定されるときにはSNTは励磁状態にされ、流路H2に接続される。