JP6188004B2 - セラミック溶射被膜の形成方法および機能性セラミック溶射被膜 - Google Patents

セラミック溶射被膜の形成方法および機能性セラミック溶射被膜 Download PDF

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Description

本発明は、セラミック溶射被膜に、導電性や誘電性、熱伝導性等の機能性を付与する技術に関するものである。
近年、半導体製造技術の進歩に伴い、配線パターンの微細化技術は、酸アルカリ溶剤などを用いるウェットエッチング方式から、精度の高いドライエッチング方式へと移行している。中でも、反応性イオンエッチング技術は、FやCl等のハロゲン系プラズマを用いて微細パターンを形成できるため、LSIなどの製造に大幅に取り入れられている。
しかし、反応性ガスプラズマは活性であるため、真空容器構成部材に著しくダメージを与える。それ故、これらの腐食性雰囲気で使用される材料には、シリコンウエハへのパーティクル脱落や金属汚染を防止するため、また、コスト面から部材交換頻度を抑えるため、耐プラズマ性が強く求められる。そこで、従来、これらハロゲンプラズマに曝される半導体製造装置の構成部材には、高純度アルミナ(Al)、窒化アルミニウム(AlN)、イットリア(Y)、YAG(Al12)等のセラミックスが用いられており、中でも、耐プラズマ性に優れるイットリアやYAGが好適に用いられている。しかし、イットリアやYAGは、加工性や強度の面でアルミナより劣ることから、アルマイト処理を施したアルミニウムや、アルミニウムとイットリア焼成体との複合材、アルミニウム上に耐プラズマ性に優れたイットリア溶射膜を形成したもの等も多く用いられている(例えば、特許文献1参照)。
さらに、配線パターンの微細化によって、キズの発生を防止する観点から、Siウエハを載せる試料台には、非接触で固定することができる静電チャックが使用されるようになってきている。静電チャックには、誘電層部に体積抵抗率が1×1015Ω・cm以上のセラミックスを用いるクーロン力型と、誘電層部に体積抵抗率が10〜1012Ω・cm程度の導電性セラミックスを用いるジョンソン・ラベック力型(J−R力型)がある。前者のクーロン力型は、吸着・離脱に要する時間が短い反面、必要な吸着力を得るための印加電圧が高く、一方、後者のJ−R力型は、吸着に必要な印加電圧を低くできるという利点があり、今後の使用拡大が期待されている。
また、最近では、静電気対策として、チャンバ内の部材や搬送アームに対して導電性が要求される場合も多くなってきている。
上記導電性セラミックスとしては、セラミックス素材中に金属粉末や金属酸化物を分散させたものが知られている。例えば、特許文献2には、アルミナを主成分とし、これに酸化錫や酸化チタン等を添加することで10〜1011Ω・cmの導電性を付与したアルミナセラミックス焼結体が、特許文献3には、酸化イットリウムに、導電性物質としてイットリウム、ケイ素およびアルミニウムから選ばれる1種または2種以上を含有させた体積抵抗率が10〜1010Ω・cm程度の導電性を付与した溶射被膜が、また、特許文献4には、イットリア粉末にタングステンおよび/またはモリブデンの粉末を、イットリアに対して50wt%以上300wt%以下添加することで10−6〜10−1Ω・cmの導電性を有するセラミックス焼結体が開示されている。
特開2004−002101号公報 特開2003−095732号公報 特開2010−261069号公報 特開2008−174800号公報
ところで、耐プラズマ性と導電性とは相反する関係にあり、導電性付与物質として金属粉末や金属酸化物を使用する場合、特に特許文献4に記載の導電性セラミックスのように、導電性付与物質を多量に含む場合には、導電性が良くなる反面、耐プラズマ性が劣化するという問題がある。したがって、添加する導電性付与物質の量は、必要な導電性を確保できる範囲で、できる限り少ないことが好ましい。
上記要求に応える方策の一つとして、添加する導電性付与物質を微細化し、セラミックスのマトリックス中に均一に混合・分散してやることが有効であると考えられる。
しかしながら、金属粉末は、消防法に規定された危険物に該当し、非常に活性で、微粉化すると容易に酸化し、場合によっては、発火や爆発を引き起こすおそれがあるため、工業的には取り扱いが難しいという問題がある。そのため、金属粉末を微細化するには限度があり、セラミックス中に均一に分布させることが難しく、導電性のバラつきも大きくなる。さらに、上記バラつきに起因して、必要な導電性を確保するために、金属粉末の添加量も増やさざるを得ない。
また、半導体製品の金属汚染を防止する観点からは、製造設備に使用される部材を構成する元素数は少ないほど望ましい。しかし、上記特許文献2〜4に記載された導電性セラミックスの多くは、セラミックス中に添加される金属種がセラミックスを構成する金属成分ではない。そのため、プラズマによって腐食を受けた場合には、Siウエハ等がセラミックス構成成分以外の金属によって汚染されるという問題がある。
本発明は、従来技術が抱える上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、工業的に取り扱いが容易かつ安全で、しかも、金属成分の添加量が少量でも導電性等の機能性を効果的に付与することができるセラミック溶射材料を用いたセラミック溶射被膜の形成方法およびその溶射材料を溶射した機能性セラミック溶射被膜を提供することにある。
発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を重ねた。その結果、従来技術において、セラミックス中に添加していた金属粉末に代えて、金属水素化物の粉末を混合した溶射材料は、取り扱いが容易かつ安全であり、また、この溶射材料を溶射した溶射被膜は、金属水素化物の添加量が少量でも、導電性が良好でバラつきも小さいことを見出し、本発明を開発するに至った。
すなわち、本発明は、セラミックスの粉末と、最大粒径が250μm以下であり平均粒径が100μm以下の金属の水素化物の粉末とを高周波熱プラズマ溶射法により溶射し、セラミック溶射被膜を形成する方法において、前記水素化物の金属成分を蒸発させることを特徴とする方法を提案する。
本発明のセラミック溶射被膜を形成する上記方法は、上記蒸発された水素化物の金属成分により、前記セラミック溶射被膜のセラミックスのマトリックス中に、前記金属の導電ネットワークが形成されることを特徴とする。
また、本発明のセラミック溶射被膜を形成する上記方法に用いる上記水素化物は、水素化イットリウムであることを特徴とする。
た、本発明のセラミック溶射被膜を形成する上記方法は、上記水素化物の含有量が20mass%以下であることを特徴とする。
また、本発明のセラミック溶射被膜を形成する上記方法における上記セラミックスは、イットリア、アルミナ、窒化アルミニウムまたはYAGであることを特徴とする。
また、本発明のセラミック溶射被膜を形成する上記方法における上記溶射は還元雰囲気下で行われることを特徴とする
また、本発明は、セラミックスを構成するセラミックス粒子の表面に付着偏析または膜状に形成された金属蒸着物が、セラミックスのマトリックス中に導電ネットワークを構成していることを特徴とするセラミック溶射被膜である。
本発明の上記セラミック溶射被膜の上記金属は、イットリウムであることを特徴とする。
た、本発明の上記セラミック溶射被膜における上記セラミックスは、イットリア、アルミナ、窒化アルミニウムまたはYAGであることを特徴とする
本発明によれば、セラミックス中に混合する導電性付与物質として、従来技術の金属粉末に代えて金属水素化物の粉末を用いることにより、取り扱いが容易でかつ安全なセラミック溶射材料を得ることができる。また、上記溶射材料を用いて溶射被膜を形成した場合には、金属水素化物の粉末が溶射時に熱分解して金属成分を生成し、セラミック粒子の表面に残留して緻密な導電経路を形成するので、金属水素化物の添加量が少量でも、導電性等が良好でバラつきの小さい機能性セラミック溶射被膜を得ることができる。
溶射被膜形成に用いた溶射装置の概要を説明する図である。 溶射被膜表面の光学顕微鏡写真である。 Al溶射被膜表面の光学顕微鏡写真である。
従来、セラミックスの溶射被膜に導電性等の機能性を付与する場合には、セラミックスの粉末中に機能性付与物質として金属粉末を添加した溶射材料を用いてセラミック溶射被膜を形成していた。しかし、セラミック溶射被膜に、バラつきが小さく優れた導電性を付与するには、添加する金属粉末を、セラミックスの粉末中に均一かつ緻密に分散させる必要があり、そのためには金属粉末を微細化する必要がある。しかし、金属粉末は、粒径が小さくなると、表面積が増大し、着火や爆発を起こすおそれがあるため、金属粉末を、微細化するには限界があった。
例えば、イットリア(Y)の粉末中に導電性付与物質として金属イットリウムを添加した溶射材料を工業的に使用しようとした場合、数十μm程度の粒径でも着火するため、安全に使用できる金属イットリウムの粉末は、平均粒径250μm程度が限界であった。そのため、従来の溶射材料を用いて溶射被膜を形成しても、得られる導電率のバラつきが大きく、必然的に金属粉末の添加量も増やさざるを得なかった。
そこで、発明者らは、導電性付与物質として、従来技術の金属粉末に代えて、金属水素化物の粉末を用いることを検討した。その理由は、金属水素化物の粉末は、金属粉末よりも安定で、酸化や発火、爆発を起こす危険性が小さいため、取り扱いが容易かつ安全で、金属粉末よりも微細化することが可能であること、また、金属水素化物は、還元雰囲気下で高温に加熱された場合には熱分解を起こして金属成分と水素を生成し、金属成分は、セラミックス基材中に残留して導電性付与物質として機能し、一方、水素はセラミックス中に含まれる酸化物の還元剤として作用することが期待されるからである。
発明者らは、上記検討結果を検証するため、以下の実験を行った。
市販の平均粒径が50μmのイットリア(Y)粉末(日本イットリウム(株)製)中に、導電性付与物質として、レーザー回折・散乱法で測定したときの最大粒径が250μmで、平均粒径が60μmの水素化イットリウムYH(日本重化学工業(株)製)を4.0mass%添加し、ボールミルで均一に混合した溶射材料と、平均粒径が250μmのイットリウム金属粉末(日本イットリウム(株)製)を6.0mass%添加し、ボールミルで均一に混合した溶射材料の2種類の溶射材料を用意した。さらに、参考として、平均粒径が50μmのイットリア(Y)粉末のみの溶射材料も用意した。
次いで、図1に示した高周波熱プラズマ溶射装置を用いて、(Ar+H)還元雰囲気の170Torrの減圧下において、上記3種類の溶射材料をカーボン基板上に溶射し、イットリウム含有イットリア溶射被膜を形成した。
ここで、図1において、1はチャンバ、2はチャンバ1内に配置されカーボン基板4を支持するホルダ、3はチャンバ1上部に設けられ基板4上に熱プラズマ5を形成するプラズマトーチである。プラズマトーチ3は、熱プラズマ5を形成するトーチ6と、このトーチ6内に粉末原料、アルゴンガス等を導入するためのプローブ7と、このプローブ7にチューブ8を介して粉末原料を供給する粉末供給器9と、このプローブ7を固定する導入フランジ10と、このトーチ6に導入フランジ10を介してプラズマガスを供給するプラズマガス源11と、このプローブ7及びトーチ6を介してチャンバ1内にアルゴンガスを供給するアルゴンガス源12と、トーチ6の外側に設けられたワークコイル13と、このワークコイル13に高周波電流を流す高周波電源14を備えている。
また、この溶射装置を用いた溶射被膜の形成方法は、まず、粉末供給器9に溶射材料を所定量投入する。次いで真空ポンプ(図示略)によりチャンバ1内を排気し、チャンバ1内を所定の圧力、例えば、1kPa以下にした後、プラズマガス源11からアルゴンガスをトーチ6内に導入した。そして、高周波電源14からワークコイル13に高周波電流を通電してトーチ6内にプラズマを点火させ、トーチ6およびチャンバ1内に熱プラズマ5を発生させた。次いで、プラズマガス源11から、80L/分、水素ガス10L/分をトーチ6およびチャンバ1内に供給し、このトーチ6およびチャンバ1内の圧力を徐々に上げ、30kPaのアルゴンおよび水素を含む混合ガス雰囲気とした。次いで、プレート電力を段階的に42kW(kVA)まで上げて、キャリアガスとしてアルゴンガスを3L/分で流し、プローブ7からトーチ6内に溶射材料を熱プラズマ5中に6.0g/分で供給し、4.5分間溶射(ただし、Y単味の場合は、溶射材料を10.0g/分で供給し、3分間溶射)して溶射被膜を形成した。なお、トーチ6と基材4間の距離は300mmとした。
斯くして得られた溶射材から20mm×20mm×2mmtの大きさの試験片を切り出した後、溶射被膜の表面を研磨して、研磨面を光学顕微鏡で観察し、その結果を図2に示した。この結果から、水素化イットリウムの粉末を添加した溶射材料を溶射して得た溶射被膜のイットリアマトリックス中には、白色の混入物が点在すると共に、上記混入物よりもさらに微細な斑点状の白色混入物が認められている。これに対して、イットリウムの金属粉末を添加した溶射材料を溶射して得た溶射被膜は、イットリアマトリックス中に、金属光沢を有する粗大な混入物の点在は認められるが、微細な斑点状の白色混入物はほとんど認められない。
また、上記試験片について、体積抵抗率と相対密度を測定した結果を、表1に示した。なお、体積抵抗率の測定は、四端子四探針法(ロレスタAX:(株)三菱化学アナリティック製)を用いて測定した。また、測定は1条件あたり5回測定し、相乗平均値μと標準偏差σおよびそれらの比である変動係数(σ/μ)を求めた。また、相対密度は、アルキメデス法を用いて、(Y+Y)の理論密度に対する相対密度を求めた。
Figure 0006188004
表1に示したように、イットリア中に水素化イットリウムを混合した溶射被膜は、Y単味の溶射被膜と比較して体積抵抗率が2桁小さくなっていること、また、金属イットリウムを混合した溶射被膜と比較しても、添加量が少ないにも拘わらず、体積抵抗率が1桁小さく、バラつきの大きさ(変動係数)も小さいことがわかる。このように良好な導電性を示す原因について、発明者らは以下のように考えている。
一般に、セラミックス中に導電性付与物質を添加した溶射材料を溶射して得た溶射被膜では、導電性付与物質がセラミックス粒子の表面(粒界)に偏析して網目状構造の導電経路を形成し、導電性が発現するとされている(特許文献3参照)。ここで、比較的大きな粒径の金属粉末を混合した溶射材料を用いた場合には、溶射時の熱で金属粒子が溶融し、同じく溶融したセラミックスと混合して堆積し、図2に示したように、セラミックスのマトリックス中に粗大な混入物として存在するため、上記導電経路は途中で途切れる確率が高くなる。その結果、体積抵抗率の低減効果が十分に得られないと共に、バラつきも大きくなる。
これに対して、微細な粒子の金属水素化物をセラミック粒子中に混合した溶射材料では、金属水素化物は、溶射熱で熱分解して金属成分と水素ガスを発生し、そのうちの金属成分の一部は、凝集して小さな溶融した金属粒子となり、溶融したセラミックスと混合堆積して、セラミックスのマトリックス中に小さな混入物として存在するが、大部分の金属成分は、蒸気となって溶融したセラミック粒子の表面に付着して偏析したり、薄い金属膜を形成したりする。その結果、セラミックスのマトリックス中の金属成分は互いに連結して緻密な導電ネットワークを形成し、金属成分の添加量が少なくても、体積抵抗率もバラつきも小さくなるものと考えられる。
上記のように、金属水素化物の粉末を導電性付与物質として用いた場合には、少ない添加量で、バラつきが小さくかつ良好な導電性を付与することができる。このことは、金属水素化物の添加量を変えることによって、セラミック溶射被膜の導電性を自由に変化させることができることを意味している。また、導電性は、その他の物理的特性、例えば、誘電率や熱伝導率とも密接な関係があるため、導電性を制御できることは、それらの特性をも制御できることを意味している。したがって、本発明の適用分野は、広い範囲に及ぶことが期待される。
本発明は、斯かる知見に基いて開発したものである。
次に、本発明の溶射材料について説明する。
まず、本発明を適用するセラミック溶射材料としては、特に制限されるものではなく、半導体製造装置に多用されているイットリア(Y)、アルミナ(Al)、窒化アルミニウム(AlN)およびYAG(Al12)等であれば好ましく適用することができる。
また、本発明において、セラミック溶射材料中に添加する金属水素化物としては、特に制限されるものではないが、工業的に入手が容易であることから、水素化イットリウム(YHx)を挙げることができる。この水素化イットリウムは、上記セラミック溶射材料を構成する金属と同じ金属の水素化物であることから、プラズマガスによる金属汚染の元素数を増やさないという点からも好ましい。なお、上記YHx中の水素原子数を表すxは、一般に0.1〜3の範囲内の値である。
また、本発明において用いる上記金属水素化物の粒径は、少量の添加量でも、バラつきのない良好な導電性等の機能性を付与するため、小さいほど望ましく、最大粒径は250μm以下が好ましい。最大粒径が250μmを超えると、本発明の特徴的効果、すなわち、少量の添加量でもバラつきが小さく良好な機能性を付与することができるという効果が得られなくなるだけでなく、金属粉末としても入手が可能であり、本発明を適用する利点が失われるからである。なお、金属水素化物の平均粒径としては、100μm以下が好ましく、より好ましくは30μm以下である。金属水素化物は、粒径が小さくなっても、金属粉末と比べて、酸化したり、発火や爆発を起こしたりする危険性が小さいので、上記のような微細粒でも、工業的に安全に取り扱うことができる。なお、本発明では、金属水素化物の粒径には、レーザー回折・散乱法で測定した値を用いる。
なお、溶射材料に添加する金属水素化物の量は、導電性や誘電率、熱伝導性等の特性の目標レベルによって異なるが、20mass%以下の範囲で添加するのが好ましい。20mass%を超えると、金属成分が多くなるため耐プラズマ性が低下するからである。
次に、本発明の溶射被膜の形成方法について説明する。
本発明の溶射被膜の形成方法は、上述した溶射材料を用いて、還元雰囲気中で溶射を行うことが必要である。酸化性雰囲気では、金属水素化物が熱分解して生成した金属成分の酸化を起こすおそれがあるからである。なお、具体的な還元雰囲気としては、アルゴンと水素の混合ガスが挙げられる。
なお、溶射方法については、還元性雰囲気中でセラミックスを溶射でき、かつ、金属水素化物の分解に必要な熱量を加えることができる方法であれば特に制限はなく、粉末式フレーム溶射法や高速フレーム溶射法(HVOF)、プラズマ溶射法等を用いることができる(ただし、いずれの手法においても金属成分の酸化を抑制するために燃焼ガスやプラズマガスにアセチレンや水素などの還元性ガスを使用することが望まれる)。中でも、高周波熱プラズマ溶射法は、無電極プラズマ源を使用しており、不純物混入を抑制する観点から好ましく用いることができる。
次に、本発明の溶射被膜について説明する。
前述したように、本発明の溶射被膜は、金属水素化物を添加した溶射材料を用いることにより、少ない添加量で、バラつきが小さくかつ良好な導電性や誘電率、熱伝導性等を付与することができるので、添加量を変えることによって、上記特性を広範囲に変えることが可能である。具体的には、金属水素化物の添加量を0mass%超え20mass%の範囲で変化させることで、体積抵抗率は10−5〜1011Ω・cm、誘電率は9〜12、熱伝導率は20〜30W/m・Kの範囲で変化させることができる。したがって、本発明の溶射被膜は、半導体製造技術分野に限定されるものではなく、他の技術分野においても、多機能材料として用いることができる。
次に、市販の平均粒径が20μmのアルミナ(Al)粉末(住友化学工業(株)製)中に、導電性付与物質として、レーザー回折・散乱法(日機装(株)製;マイクロトラック粒度分布測定計)で測定したときの最大粒径が250μmで、平均粒径が60μmの水素化イットリウムYH(日本重化学工業(株)製)を4.0mass%添加し、混合した溶射材料と、平均粒径が250μmのイットリウム金属粉末(日本イットリウム(株)製)を4.0mass%添加し、混合した溶射材料の2種類を用意した。なお、参考として、平均粒径が20μmのアルミナ(Al)粉末のみの溶射材料も用意した。
次いで、図1に示した高周波熱プラズマ溶射装置を用いて、(Ar+H)還元雰囲気下で、上記3種類の溶射材料をカーボン基板上に溶射し、溶射被膜を形成した。なお、この際のプラズマガス源からのアルゴンガスおよび水素ガスの導入量はそれぞれ80L/分、10L/分、トーチ内およびチャンバ内の雰囲気は30kPa、プレート電力の出力は31kW、キャリアガスとしてのアルゴンガスの流量は4L/分とし、溶射材料を熱プラズマ中に7.5g/分(金属イットリウムを混合した溶射材料は6.7g/分)で供給した。なお、トーチ−基材間距離は350mmとした。
斯くして得られた溶射材から約10mmφ×5mmtの大きさの試験片を切り出した後、溶射被膜の表面を研磨して、研磨面を光学顕微鏡で観察し、その結果を図3に示した。 図3から、水素化イットリウムの粉末を添加した溶射材料を溶射して得た溶射被膜のアルミナマトリックス中には、白色の混入物が微細に点在していることがわかる。これに対して、イットリウムの金属粉末を添加した溶射材料を溶射して得た溶射被膜は、アルミナマトリックス中に、金属光沢を有する粗大な混入物および研磨時に金属が欠落したと思われる窪みが認められ、非常に不均一かつ表面粗さが粗い状態であることがわかる。
また、上記試験片について、2重リングプローブ法(ハイレスタUP:(株)三菱化学アナリティック製)を用いて体積抵抗率を1条件当り5回測定し、相乗平均値μと標準偏差σおよびそれらの比である変動係数(σ/μ)を求めた。また、相対密度も前述した実験と同様にして測定し、これらの結果を表2に示した。この結果から、水素化イットリウムをアルミナ溶射材料に添加した場合でも、Al単味の溶射被膜と比較して体積抵抗率低下が5桁小さくなっていること、また金属イットリウムを混合した溶射被膜と比較して、バラつきの大きさ(変動係数)が小さいことがわかる。
Figure 0006188004
本発明のセラミック溶射材料は、機能性付与物質に金属水素化物を利用することで、工業的に安全に取り扱うことができるので、従来、使用が制限されていた技術分野にも適用することが可能となる。また、本発明のセラミック溶射材料は、少ない量の金属水素化物の添加で、良好でバラつきの小さい導電性等の機能性を溶射被膜に付与することができ、さらに、添加量を変えることで導電性等を自由に制御することができるので、その適用分野は半導体製造分野に限定されるものではなく、切削工具や金型、ヒートシンク(放熱器)等の技術分野にも適用されることが期待される。

Claims (9)

  1. セラミックスの粉末と、最大粒径が250μm以下であり平均粒径が100μm以下の金属の水素化物の粉末とを高周波熱プラズマ溶射法により溶射し、セラミック溶射被膜を形成する方法において、前記水素化物の金属成分を蒸発させることを特徴とする方法。
  2. 前記蒸発された水素化物の金属成分により、前記セラミック溶射被膜のセラミックスのマトリックス中に、前記金属の導電ネットワークが形成されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  3. 前記水素化物は、水素化イットリウムであることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
  4. 前記水素化物の含有量が20mass%以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
  5. 前記セラミックスは、イットリア、アルミナ、窒化アルミニウムまたはYAGであることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
  6. 前記溶射は還元雰囲気下で行われることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
  7. セラミックスを構成するセラミックス粒子の表面に付着偏析または膜状に形成された金属蒸着物が、セラミックスのマトリックス中に導電ネットワークを構成していることを特徴とするセラミック溶射被膜。
  8. 前記金属は、イットリウムであることを特徴とする請求項に記載のセラミック溶射被膜。
  9. 前記セラミックスは、イットリア、アルミナ、窒化アルミニウムまたはYAGであることを特徴とする請求項7または8に記載のセラミック溶射被膜。
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